(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5901072
(24)【登録日】2016年3月18日
(45)【発行日】2016年4月6日
(54)【発明の名称】シリコン単結晶引き上げ用石英ガラスるつぼの製造方法
(51)【国際特許分類】
C30B 29/06 20060101AFI20160324BHJP
C03B 20/00 20060101ALI20160324BHJP
【FI】
C30B29/06 502B
C03B20/00 H
【請求項の数】1
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-520388(P2012-520388)
(86)(22)【出願日】2011年6月8日
(86)【国際出願番号】JP2011063121
(87)【国際公開番号】WO2011158712
(87)【国際公開日】20111222
【審査請求日】2014年3月28日
(31)【優先権主張番号】特願2010-137623(P2010-137623)
(32)【優先日】2010年6月16日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000190138
【氏名又は名称】信越石英株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147935
【弁理士】
【氏名又は名称】石原 進介
(74)【代理人】
【識別番号】100080230
【弁理士】
【氏名又は名称】石原 詔二
(72)【発明者】
【氏名】沢▲崎▼ 二郎
(72)【発明者】
【氏名】松井 宏
(72)【発明者】
【氏名】大濱 康生
(72)【発明者】
【氏名】友国 和樹
(72)【発明者】
【氏名】松本 克
(72)【発明者】
【氏名】園川 将
【審査官】
塩谷 領大
(56)【参考文献】
【文献】
特開2000−327478(JP,A)
【文献】
特開2004−107163(JP,A)
【文献】
特開平11−292694(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 1/00−35/00
C03B 20/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
種結晶をシリコン融液に接触させて引上げることでシリコン単結晶を育成するシリコン単結晶引き上げ用石英ガラスるつぼの製造方法であり、
半透明石英ガラス層のるつぼ基体と、前記るつぼ基体の内壁面に形成された透明合成石英ガラス層とを含み、上端部が開口されてなる直胴部と該直胴部に円弧状に形成された底部とを有する石英ガラスるつぼを作製し、
前記透明合成石英ガラス層表面の直胴部表面の一部に帯状粗面領域を設け、前記帯状粗面領域よりも下方の前記透明合成石英ガラス層表面の下部領域を滑面とし、
前記帯状粗面領域は前記シリコン融液の初期状態における液面を中心に少なくとも±10mmでありかつ前記液面から下方への最大幅が50mmであり、
前記帯状粗面領域を石英粉を用いた乾式又は湿式のブラスト処理で形成し、
前記帯状粗面領域の算術平均粗さ(Ra)が2〜9μmであり、
前記下部領域の算術平均粗さ(Ra)が0.09μm以下であり、
前記シリコン融液の初期状態における液面が前記帯状粗面領域に接するように前記帯状粗面領域を設けることを特徴とするシリコン単結晶引き上げ用石英ガラスるつぼの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコン単結晶の引き上げに使用される石英ガラスるつぼ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、単結晶半導体材料のような単結晶物質の製造には、いわゆるチョクラルスキー法と呼ばれる方法が広く採用されている。この方法は多結晶シリコンを容器内で溶融させ、この溶融浴内に種結晶の端部を浸けて回転させながら引き上げるもので、種結晶上に同一の結晶方位を持つ単結晶が成長する。この単結晶引き上げ容器には石英ガラスるつぼが一般的に使用されている。
【0003】
ポリシリコンを石英ガラスるつぼ中で溶かし、シリコン単結晶を引き上げる際、シリコンメルト表面に振動波面が発生し、シリコン種結晶がシリコンメルトに接合できなかったり、シリコン単結晶の結晶性が乱れる問題は、通常よく発生する現象である。
【0004】
この原因の一つとして、石英ガラスるつぼの内表面が合成石英ガラス層とされていることが挙げられる。石英ガラスるつぼの内表面が合成石英ガラス層とされている場合、合成石英ガラス層は実質無気泡であるため、シリコン単結晶を引き上げる際に液面振動が起こりやすくなる。
【0005】
特に、近年、シリコン単結晶が8”以上になり、石英ガラスるつぼも大口径になるに従って、液面振動の問題は、益々重要になってきた。
【0006】
上記のような液面振動の問題を解決するべく、例えば、特許文献1〜4には、るつぼ内表面を粗面化することで液面振動を抑制する技術が開示されている。
【0007】
しかしながら、本発明者らが鋭意研究を重ねた結果、粗面化させた場合であっても、液面振動の抑制効果に差が生じる場合があることを見出し、本発明を完成させた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2000-72594
【特許文献2】特開2000-327478
【特許文献3】特開2005-272178
【特許文献4】特開2005-320241
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記した事情に鑑みなされたもので、シリコン単結晶の引き上げ時の液面振動の発生を効率的に抑制することができるようにしたシリコン単結晶引き上げ用石英ガラスるつぼ及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明のシリコン単結晶引き上げ用石英ガラスるつぼは、種結晶をシリコン融液に接触させて引上げることでシリコン単結晶を育成するシリコン単結晶引き上げ用石英ガラスるつぼであり、
半透明石英ガラス層のるつぼ基体と、前記るつぼ基体の内壁面に形成された透明合成石英ガラス層とを含み、上端部が開口されてなる直胴部と該直胴部に円弧状に形成された底部とを有し、
前記透明合成石英ガラス層の直胴部表面の一部に帯状粗面領域を設け、前記帯状粗面領域よりも下方の前記透明合成石英ガラス層表面の下部領域は滑面とし、
前記帯状粗面領域
は前記シリコン融液の初期状態における液面を中心に少なくとも±10mmでありかつ前記液面から下方への最大幅が50mmであり、
前記帯状粗面領域が石英粉を用いた乾式又は湿式のブラスト処理により形成されてなり、
前記帯状粗面領域の算術平均粗さ(Ra)が2〜9μmであり、
前記下部領域の算術平均粗さ(Ra)が0.09μm以下であり、
前記シリコン融液の初期状態における液面が前記帯状粗面領域に接するように前記帯状粗面領域が設けられてなることを特徴とする。
【0011】
本明細書において、算術平均粗さ(Ra)とは、JISB0601に記載の算術平均粗さを指す。
【0012】
前記帯状粗面領域とは、前記透明合成石英ガラス層表面の一部に帯状するように形成された帯状の粗面領域を指す。
【0013】
前記シリコン融液の初期状態における液面とは、シリコン単結晶を引き上げる前のシリコン融液が前記石英ガラスるつぼ内に入っている状態での液面のことを指す。
【0014】
なお、本発明におけるシリコン単結晶の引き上げ時の液面振動とは、種結晶をシリコン融液に接合させ、種絞り(ネッキング)を経て、シリコン単結晶のショルダー部形成が始まるまでの間に見られる液面振動を指す。
【0015】
前記帯状粗面領域の前記石英ガラスるつぼの端部からの位置は、前記石英ガラスるつぼの径や製造条件などによって適宜設定すればよいものであるが、前記シリコン融液の初期状態における液面位置が前記帯状粗面領域の範囲内となるように前記帯状粗面領域を設ける必要がある。前記帯状粗面領域としては、前記シリコン融液の初期状態における液面を中心に少なくとも±10mmであり、液面から下方への最大幅が50mm以内となるようにするのが好ましい。
【0016】
また、前記帯状粗面領域が石英粉を用いたブラスト処理により形成されてなるのが好適である。前記石英粉としては、合成石英粉又は高純度天然石英粉が用いられる。
【0017】
さらに、前記滑面とした下部領域の算術平均粗さ(Ra)がRa:0.09μm以下であるのが好ましく、Ra:0.03μm以下であるのがより好ましい。
【0018】
前記ブラスト処理が乾式又は湿式であるのが好適である。
【0019】
前記ブラスト処理は、石英粉を圧縮空気や遠心力で吹き付けることにより、前記石英ガラスるつぼ内表面を粗面化するものである。前記ブラスト処理としては、石英粉を吹き付ける乾式ブラストでもよいし、水などの流体とともに石英粉を吹き付ける湿式ブラストでもよい。石英粉としては、粒径106μm〜355μmの範囲の石英粉の重量積算が80%以上であるのが好適である。粒径の測定及び選別にあたっては例えば篩いを用いればよい。
【0020】
本発明のシリコン単結晶引き上げ用石英ガラスるつぼの製造方法は、種結晶をシリコン融液に接触させて引上げることでシリコン単結晶を育成するシリコン単結晶引き上げ用石英ガラスるつぼの製造方法であり、
半透明石英ガラス層のるつぼ基体と、前記るつぼ基体の内壁面に形成された透明合成石英ガラス層とを含み、上端部が開口されてなる直胴部と該直胴部に円弧状に形成された底部とを有する石英ガラスるつぼを作製し、
前記透明合成石英ガラス層表面の直胴部表面の一部に帯状粗面領域を設け、前記帯状粗面領域よりも下方の前記透明合成石英ガラス層表面の下部領域を滑面とし、
前記帯状粗面領域
は前記シリコン融液の初期状態における液面を中心に少なくとも±10mmでありかつ前記液面から下方への最大幅が50mmであり、
前記帯状粗面領域を石英粉を用いた乾式又は湿式のブラスト処理で形成し、
前記帯状粗面領域の算術平均粗さ(Ra)が2〜9μmであり、
前記下部領域の算術平均粗さ(Ra)が0.09μm以下であり、
前記シリコン融液の初期状態における液面が前記帯状粗面領域に接するように前記帯状粗面領域を設けることを特徴とする。
【0021】
また、前記帯状粗面領域を石英粉を用いたブラスト処理で形成するのが好ましい。
【0022】
前記滑面領域の算術平均粗さ(Ra)がRa:0.09μm以下であるのが好ましく、Ra:0.03μm以下であるのがより好ましい。
【0023】
さらに、前記ブラスト処理が乾式又は湿式であるのが好適である。
【0024】
なお、本発明の適用にあって、るつぼの口径に特別の限定はなく、様々な口径のるつぼに適用可能である。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、シリコン単結晶の引き上げ時の液面振動の発生を効率的に抑制することができるようにしたシリコン単結晶引き上げ用石英ガラスるつぼ及びその製造方法を提供することができるという著大な効果を有する。
【0026】
また、本発明によれば、操業時間の短縮及び歩留まりの向上にもつながるという著大な効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本発明に係るシリコン単結晶引上げ用石英ガラスるつぼの一部断面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明の一つの実施の形態を添付図面に基づいて説明するが、これらの説明は例示的に示されるもので限定的に解釈すべきものでないことはいうまでもない。
【0029】
図1において、符号10は本発明に係るシリコン単結晶引上げ用石英ガラスるつぼを示す。シリコン単結晶引上げ用石英ガラスるつぼ10は、種結晶をシリコン融液に接触させて引上げることでシリコン単結晶を育成するシリコン単結晶引き上げ用石英ガラスるつぼであり、半透明石英ガラス層のるつぼ基体12と、前記るつぼ基体12の内壁面に形成された透明合成石英ガラス層14とを含み、上端部22が開口されてなる直胴部24と該直胴部24に円弧状に形成された底部26とを有し、前記透明合成石英ガラス層14の直胴部24の一部に帯状粗面領域18を設け、前記帯状粗面領域18よりも下方の前記透明合成石英ガラス層表面の下部領域28は滑面とされている。なお、符号20は、帯状粗面領域18の凹部である。
【0030】
前記帯状粗面領域18の算術平均粗さ(Ra)は2〜9μmであり、シリコン融液の初期状態における液面16が前記帯状粗面領域18に接するように前記帯状粗面領域18が設けられている。
図1の例では、前記帯状粗面領域18の幅Wのちょうど中間部分にシリコン融液の初期状態における液面16がくるようにされている。また、上端部22から帯状粗面領域18までの距離dについては、るつぼの口径やシリコン融液の量など、種々の製造条件によって変わるものであるため、特別の限定はない。シリコン融液の初期状態における液面16が前記帯状粗面領域18に接するように、距離dを調節して前記帯状粗面領域18を設ければよい。また、前記滑面とした下部領域の算術平均粗さ(Ra)は好ましくはRa:0.09μm以下、より好ましくはRa:0.03μm以下とされている。
【0031】
また、前記帯状粗面領域18よりも上方の前記透明合成石英ガラス層表面の上部領域30については、粗面としてもよいし、滑面としてもよいが、原料である多結晶シリコンとの接触による石英片の剥離を勘案すると滑面の方がより好ましい。図示例では、上部領域30を下部領域28と同様の滑面とした例を示した。
【0032】
このように、シリコン融液の初期状態における液面16が前記帯状粗面領域18に接するように前記帯状粗面領域18が設けられているため、シリコン単結晶の引き上げ時の液面振動の発生を抑制することができる。
【実施例】
【0033】
以下に、本発明の実施例をあげてさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではなく、本発明の技術思想から逸脱しない限り様々の変形が可能であることは勿論である。
【0034】
(実施例1)
粒径50〜500μmの天然石英粉を回転する内径570mmのモールド内に供給し、厚さ25mmの粉体層からなる成型体を成型し、アーク放電により該成型体の内部から加熱熔融すると同時に、その高温雰囲気中にOH濃度が40ppmの合成石英ガラス粉を100g/minの割合で供給し、泡の無い透明ガラス層を全内面領域にわたり、1〜3mmの厚さで形成した。熔融が終了し、冷却した直径555〜560mmの石英ガラスるつぼについて、高さが370mmとなるよう上端部をカットし、石英ガラスるつぼを20個作成した。前記石英ガラスるつぼについて、直胴部内面において、上端部からの距離dが60mm、幅Wが40mm(即ち、上端部から60mm〜100mmの範囲)の帯状粗面領域にのみ、サクション式エアーブラスト処理で粗面化を行った石英ガラスるつぼを10個作成した。粗面化処理の際、粗面化処理を行わない上部領域及び下部領域については、マスキングテープを用いて予めマスキングをしておいた。粗面化処理は、上端部が下になるように石英ガラスるつぼをひっくり返した状態で内壁面に対して行った。ブラスト材として使用した高純度天然石英粉について粒度分布を測定したところφ106μm〜355μmの占める割合は87重量%であった。各るつぼの帯状粗面領域の面粗さを測定したところRa:3.72〜3.88μmであり、また上部領域、下部領域のRaはそれぞれ0.00〜0.02μm、0.00〜0.02μmであった。この石英ガラスるつぼにポリシリコンを140kg充填した操業条件Aでシリコン単結晶の引き上げを行ったところ、全てのるつぼにおいて従来発生していた、種結晶をシリコン融液に接合させ、種絞り(ネッキング)を経て、シリコン単結晶のショルダー部形成が始まるまでの間に見られるシリコン融液面の振動は見られず、自動で操業可能であり、操業時間の短縮とシリコン単結晶の歩留り向上が確認された。結果を表1に示す。なお、表1及び2において、サンドブラスト処理条件の範囲とは、サンドブラスト処理を行った帯状粗面領域の位置、即ち、上端部からの距離d〜該距離d+帯状粗面領域の幅Wを示したものである。
【0035】
本明細書において、操業時間とは、シリコン単結晶の引き上げ開始から引き上げ完了までに要する時間を指す。表1において、操業時間率とは、従来の例である比較例1の操業時間を1とした場合の比率であり、例えば実施例1の操業時間率の場合、実施例1の操業時間÷比較例1の操業時間=実施例1の操業時間率、によって算出される。操業時間率が低いほど、オペレータによる手動調整などが不要で自動操業が可能であるなど、操業時間が短縮されていることを示す。また、歩留まり率とは、従来の例である比較例1のシリコン単結晶の歩留りを1とした場合の比率である。例えば実施例1の歩留り率の場合、実施例1の歩留まり÷比較例1の歩留まり=実施例1の歩留まり率、によって算出される。歩留まり率が高いほど、歩留まりが向上していることを示す。
【0036】
(実施例2)
実施例1とブラスト処理条件を変更し、上端部から50mm〜110mmの範囲の帯状粗面領域の粗面化処理を行った。粗面化処理の際、粗面化処理を行わない上部領域及び下部領域については、マスキングテープを用いて予めマスキングをしておいた。粗面化処理は、上端部が下になるように石英ガラスるつぼをひっくり返した状態で内壁面に対して行った。結果を表1に示す。表1に示すように液面振動は生じなかった。
【0037】
(実施例3)
サクション式エアーブラストの代わりにウエットブラスト処理にて、上端部から60mm〜110mmの範囲の帯状粗面領域の粗面化処理を行った。粗面化処理の際、粗面化処理を行わない上部領域及び下部領域については、マスキングテープを用いて予めマスキングをしておいた。粗面化処理は、上端部が下になるように石英ガラスるつぼをひっくり返した状態で内壁面に対して行った。また、ブラスト材は実施例1のエアーブラストに使用したものと同じ天然石英粉を使用した。結果を表1に示す。表1に示すように、種結晶をシリコン融液に接合させ、種絞り(ネッキング)を経て、シリコン単結晶のショルダー部形成が始まるまでの間に液面振動は生じなかった。
【0038】
(実施例4)
帯状粗面領域(上端部から60mm〜100mmの範囲)よりも上方の上部領域についても粗面化処理を行った。下部領域のみマスキングテープによるマスキングを行い、上部領域はマスキングを行わなかった。結果を表1に示す。表1に示すように液面振動は生じなかった。また、粗面化処理は、石英ガラスるつぼをひっくり返さず行った。マスキングを行った下部領域の算術平均粗さ(Ra)は低い値となり、マスキングを行わなかった上部領域の算術平均粗さ(Ra)は比較的高い値となった。
【0039】
(実施例5)
サクション式エアーブラストの代わりにウエットブラスト処理にて実施し、石英ガラスるつぼをひっくり返さず、また、マスキングを行わず、上端部から60mm〜110mmの範囲の帯状粗面領域の粗面化処理を行った。また、ブラスト材は実施例1のエアーブラストに使用したものと同じ天然石英粉を使用した。結果を表1に示す。表1に示すように、種結晶をシリコン融液に接合させ、種絞り(ネッキング)を経て、シリコン単結晶のショルダー部形成が始まるまでの間に液面振動は生じなかった。マスキングをしなかったにもかかわらず、上部領域及び下部領域ともに、算術平均粗さ(Ra)は低い値となった。
【0040】
(実施例6)
上端部から60mm〜110mmの範囲の帯状粗面領域の粗面化処理をウエットブラスト処理にて実施し、石英ガラスるつぼをひっくり返した状態で内壁面に対して行った。また、ブラスト材は実施例1のエアーブラストに使用したものと同じ天然石英粉を使用した。ただし、マスキングは行わなかった。結果を表1に示す。表1に示すように液面振動は生じなかった。粗面化処理は、実施例1と同様に、上端部が下になるように石英ガラスるつぼをひっくり返した状態で内壁面に対して行ったため、下部領域の算術平均粗さ(Ra)は低い値となり、上部領域の算術平均粗さ(Ra)は、下部領域の算術平均粗さ(Ra)よりも高い値となった。
【0041】
(比較例1)
粒径50〜500μmの天然石英粉を回転する内径570mmのモールド内に供給し、厚さ25mmの粉体層からなる成型体を成型し、アーク放電により該成型体の内部から加熱熔融すると同時に、その高温雰囲気中にOH濃度が40ppmの合成石英ガラス粉を100g/minの割合で供給し、泡の無い透明ガラス層を全内面領域にわたり、1〜3mmの厚さで形成した。熔融が終了し、冷却した直径555〜560mmの石英ガラスるつぼについて、高さが370mmとなるよう上端部をカットし、石英ガラスるつぼを20個作成した。そのうちの10個について、操業条件A(ポリシリコンを140kg充填)で、シリコン単結晶の引き上げを行ったところ、何れの場合においても、種結晶をシリコン融液に接合させ、種絞り(ネッキング)を経て、シリコン単結晶のショルダー部形成が始まるまでの間(種付け〜ショルダー部形成)にシリコン融液面に振動が発生した為、自動操業が出来ず、オペレーターによる手動調整が必要であったばかりか、初期のトラブルにより操業時間が長くなり、結果としてシリコン単結晶の歩留りも低めであった。尚、上記るつぼの使用前における内表面の表面粗さを前もって測定したところ、全領域にわたって表1に示す値であり、使用後のるつぼから操業開始時の初期液面位置を測定したところ、平均で上端部から74mm(最大78mm、最小72mm)であり、表1に示すように液面振動が生じた。
【0042】
(比較例2)
帯状粗面領域のRaを変えた以外は、実施例1と同様に行った。粗面化処理の際、粗面化処理を行わない上部領域及び下部領域については、マスキングテープを用いて予めマスキングをしておいた。粗面化処理は、上端部が下になるように石英ガラスるつぼをひっくり返した状態で内壁面に対して行った。結果を表1に示す。表1に示すように液面振動が生じた。
【0043】
(比較例3)
帯状粗面領域(上端部から60mm〜100mmの範囲)、該帯状粗面領域よりも上方の上部領域及び該帯状粗面領域よりも下方の下部領域を表1に示すように全て粗面化処理を行った。すなわち、前記透明合成石英ガラス層の内表面全てを粗面化した以外は、実施例1と同様に行った。結果を表1に示す。表1に示すように液面振動は生じなかったが、特にるつぼの直胴部から底部にかけてのR部(湾曲部)や底部の面状態が悪化し、歩留まりが大幅に低下してしまった。
【0044】
(比較例4)
帯状粗面領域のRaを変え、上端部から50mm〜110mmの範囲の帯状粗面領域の粗面化処理を行った。粗面化処理の際、粗面化処理を行わない上部領域及び下部領域については、マスキングテープを用いて予めマスキングをしておいた。粗面化処理は、上端部が下になるように石英ガラスるつぼをひっくり返した状態で内壁面に対して行った。結果を表1に示す。表1に示すように液面振動は生じなかったが、粗面処理した処理面より石英片が剥離する為、結晶が乱れ易くなってしまうという問題が生じ、操業時間が長くなってしまった。
【0045】
【表1】
【0046】
(実施例7)
上端部から110mm〜140mmの範囲の帯状粗面領域の粗面化処理を行った。帯状粗面領域のRaを変更し、液面位置を変更し、シリコン単結晶引き上げ条件操業条件B(ポリシリコンを100kg充填)でシリコン単結晶の引き上げを行った。粗面化処理の際、粗面化処理を行わない上部領域及び下部領域については、マスキングテープを用いて予めマスキングをしておいた。粗面化処理は、上端部が下になるように石英ガラスるつぼをひっくり返した状態で内壁面に対して行った。結果を表2に示す。表2に示すように液面振動は生じなかった。
【0047】
表2において、操業時間率とは、従来の例である比較例5の操業時間を1とした場合の比率であり、例えば実施例7の操業時間率の場合、実施例7の操業時間÷比較例5の操業時間=実施例7の操業時間率、によって算出される。操業時間率が低いほど、オペレータによる手動調整などが不要で自動操業が可能であるなど、操業時間が短縮されていることを示す。また、歩留まり率とは、従来の例である比較例5のシリコン単結晶の歩留りを1とした場合の比率である。例えば実施例7の歩留り率の場合、実施例7の歩留まり÷比較例5の歩留まり=実施例7の歩留まり率、によって算出される。歩留まり率が高いほど、歩留まりが向上していることを示す。
【0048】
(実施例8)
帯状粗面領域の幅Wを実施例7よりも広くし(上端部から110mm〜250mmの範囲)、粗面化処理を行った。粗面化処理の際、粗面化処理を行わない上部領域及び下部領域については、マスキングテープを用いて予めマスキングをしておいた。粗面化処理は、上端部が下になるように石英ガラスるつぼをひっくり返した状態で内壁面に対して行った。結果を表2に示す。表2に示すように液面振動は生じなかった。
【0049】
(実施例9)
表2に示したように、帯状粗面領域のRaの他、該帯状粗面領域よりも上方の上部領域及び該帯状粗面領域よりも下方の下部領域をRaがそれぞれ0.03〜0.09μmである滑面となるように処理した以外は、実施例7と同様に行った。粗面化処理の際、粗面化処理を行わない上部領域及び下部領域については、マスキングテープを用いて予めマスキングをしておいた。粗面化処理は、上端部が下になるように石英ガラスるつぼをひっくり返した状態で内壁面に対して行った。結果を表2に示す。表2に示すように液面振動は生じなかった。
【0050】
(比較例5)
比較例1で作製した石英ガラスるつぼのうち残りの10個を用いて、操業条件B(同100kg充填)にてシリコン単結晶の引き上げを行ったところ、種結晶をシリコン融液に接合させ、種絞り(ネッキング)を経て、シリコン単結晶のショルダー部形成が始まるまでの間 (種付け〜ショルダー部形成)にシリコン融液面に振動が発生した為、自動操業が出来ず、オペレーターによる手動調整が必要であったばかりか、初期のトラブルにより操業時間が長くなり、結果としてシリコン単結晶の歩留りも低めであった。尚、上記るつぼの使用前における内表面の表面粗さを前もって測定したところ、全領域にわたって表2に示す値であり、使用後のるつぼから操業開始時の初期液面位置を測定したところ、平均で上端部から124mm(最大127mm、最小122mm) であり、表2に示すように液面振動が生じた。
【0051】
(比較例6)
帯状粗面領域のRaを変えた以外は、実施例7と同様に行った。結果を表2に示す。表2に示すように液面振動が生じてしまった。
【0052】
(比較例7)
上端部から60mm〜100mmの範囲の帯状粗面領域の粗面化処理を行い、実施例1と同様のるつぼを用いてシリコン融液の液面位置が帯状粗面領域から外れた状態で、シリコン単結晶の引き上げを行った。粗面化処理の際、粗面化処理を行わない上部領域及び下部領域については、マスキングテープを用いて予めマスキングをしておいた。粗面化処理は、上端部が下になるように石英ガラスるつぼをひっくり返した状態で内壁面に対して行った。結果を表2に示す。表2に示すように液面振動が生じてしまった。
【0053】
【表2】
【符号の説明】
【0054】
10:本発明に係るシリコン単結晶引上げ用石英ガラスるつぼ、12:るつぼ基体、14:透明合成石英ガラス層、16:シリコン融液の初期状態における液面位置、18:帯状粗面領域、20:凹部、22:上端部、24:直胴部、26:底部、28:下部領域、30:上部領域、d:上端部から帯状粗面領域までの距離、W:帯状粗面領域の幅。