【発明が解決しようとする課題】
【0007】
高度なクリーンルームの中で取り扱われる半導体デバイス或いは水晶デバイス、とりわけ封止樹脂で保護されていない素子(電子回路)はイオンコンタミやパーティクルコンタミなどの環境汚染が問題となる。またトレーに収納された状態で製造現場の検査ならびに保管、或いは工場間の搬送が行われる際にも、トレー表面との摩擦磨耗によりトレー材料の発塵(脱塵)が問題となることがある。そして近年では、半導体や水晶などデバイス技術の高度化によりこれら汚染物質の汚染濃度はppmさらにはppbオーダーへと議論が進展することもある。
【0008】
そこで本発明は、イオンコンタミやパーティクルコンタミなどの環境汚染や、トレー表面との摩擦磨耗によりトレー材料の発塵(脱塵)の問題を解消した面実装電子部品の搬送用トレーを提供することを第一の課題とする。
【0009】
また、半導体デバイスは通常、エポキシ樹脂等(封止樹脂)による封止(パッケージ)が行われており、このパッケージの水分除去等を目的として半導体製造工程では多くの場合、ベーキング工程を経る。ベーキング工程には、トレーに収納された状態で搬送されることから、トレーにも耐熱性が要求され、その為にトレー自体が耐熱性を有するPC樹脂(ポリカーボネート)や変性PPE樹脂(ポリフェニレンエーテル)等のエンジニアリングプラスチック、或いはさらに高耐熱性を有するポリエーテルサルホン樹脂(PES)等のスーパーエンジニアリングプラスチックを用いて形成されていた。しかしながら、高耐熱樹脂はその材料自体が一般的に高価であり、これを用いて製造したトレーも自ずと高価になってしまう。
そこで本発明は、優れた耐熱性を備えながらも、比較的安価に製造することのできる面実装電子部品の搬送用トレーを提供することを第二の課題とする。
【0010】
また半導体搬送用のトレーの多くは射出成形で成形されており、デザイン或いは樹脂の流動特性等にもよるが少なからず残留応力(歪)が発生することから、高精度のそり変形の発生を抑える事は至難の業である。特にベーキング工程等の高温環境下ではアニーリング(応力緩和)されることで、トレーのそり変形が発生する問題もある。トレーは全自動で検査工程で使用される為、単なるトレーとは言え寸法精度上、トレー全長で1/100mm、又、そり変形においては定盤上で0.1〜0.2mm程度の是非を問う精密な金属部品並みの精度が要求される。
そこで本発明はソリ変形の発生の問題をなくし、特にベーキング工程等で高温環境下に置かれた場合でも、そり変形が生じない面実装電子部品の搬送用トレーを提供することを第3の課題とする。
【0011】
更に半導体の電子回路に起こる静電破壊は静電気の帯電に起因することから、半導体や水晶ならびに磁気記録素子などを収納するトレーについては、静電破壊の原因となる静電気を帯電しないことが要求される。そしてこれまで当該分野における多くの知見や経験的データから、物質の電気抵抗とその静電気(帯電圧)には一定の比例関係があることが知られている。
そこで本発明は電気抵抗が小さく、静電気を帯電しないようにした面実装電子部品の搬送用トレーを提供することを第4の課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題の少なくとも何れかを解決するため、本発明では半導体デバイスを含む面実装電子部品を収納するトレーを、電子部品を面実装するプレート部と、このプレート部の少なくとも何れかの面にリブ状に設けられる仕切り部とで構成し、両者を一体化することにより、半導体や水晶ならびに磁気記録素子などを収納するのに適した面実装電子部品の搬送用トレーを提供するものである。
【0013】
即ち、本発明にかかる面実装電子部品の搬送用トレーは、半導体デバイスを含む面実装電子部品をその製造工程または検査工程に搬送するために使用される面実装電子部品の搬送用トレーであって、導電性および100℃以上、望ましくは120℃以上の耐熱性の少なくとも何れかの特性を具備する材料からなるプレート部と、当該プレート部の少なくとも一方の面上にリブ状に設けられ、各面実装電子部品を収容する複数の空間を区画する樹脂製の仕切り部とからなり、当該プレート部と仕切り部とが一体化されている面実装電子部品の搬送用トレーである。
導電性は、表面抵抗が10
7Ω/□以下の導電性(静電気散逸性)であることが望ましいが、本発明においては表面抵抗が10
8〜12Ω/□の帯電防止レベルの電気抵抗であっても良い。また耐熱性は100℃以上、望ましくは120℃以上でも外観の変化(ふくれ、ひび割れ、変形、変色など)がなく、連続使用が可能であるものを使用する。
【0014】
またプレート部は、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、ポリイミド樹脂、エポキシ樹脂、又は不飽和ポリエステル樹脂等の熱硬化性樹脂を用いて形成することができ、この場合、本発明にかかる面実装電子部品の搬送用トレーは、半導体デバイスを含む面実装電子部品をその製造工程または検査工程に搬送するために使用される面実装電子部品の搬送用トレーであって、熱硬化性樹脂からなるプレート部と、当該プレート部の少なくとも一方の面上にリブ状に設けられ、各面実装電子部品を収容する複数の空間を区画する樹脂製の仕切り部とからなり、当該プレート部と仕切り部とが一体化されている面実装電子部品の搬送用トレーとすることができる。
【0015】
かかるプレート部を形成する材質は、要求される特性(導電性、強度特性、耐熱性など)に応じて適宜選択されるべきであるが、少なくとも板状のものが使用される。例えば、アルミニウム、ニッケル、ジュラルミン、亜鉛、銅などの金属材料や、アルミナ、ジルコニア、ハイドロキシアパタイト、炭化ケイ素、窒化ケイ素、チタン酸バリウム、窒化ホウ素、チタン酸ジルコン酸鉛、ステアタイト、ガラスなどのセラミック材料、あるいはフェノール樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、ポリイミド樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂など、強度特性、耐熱特性、表面平滑性などに優れた樹脂材料を使用することができる。
【0016】
また仕切り部を形成する樹脂材料も、トレーの使用目的や収納する素子の品質に応じて適宜選択することができ、例えばポリプロピレン樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリエーテルサルホン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリイミド樹脂などを選択することができる。
【0017】
上記本発明にかかる面実装電子部品の搬送用トレーは、プレート部に樹脂製の仕切り部を形成することから、プレート部の製造には、切削加工などの機械加工が困難な材料でも使用可能となる。即ち機械加工の手間を減じながらも、面実装電子部品の搬送用トレーに要求される特性を具備し、更に安価に製造することのできる面実装電子部品の搬送用トレーを提供することができる。
【0018】
これまでの技術においても樹脂製のトレーでは発塵が不安視されていた事から、例えばカーナビゲーション等に搭載される半導体や水晶デバイスの場合には、世界中に出荷される自動車は一つのエラーも出せないと言う観点から、デバイストレーにはステンレスなどの金属トレーが使われる事もあったが、このステンレス製のトレーの製造に際しては、ステンレスの切削加工が必要になり、自ずと製造が困難であり、製造コストが嵩むものとなっていた。この点、本発明にかかる面実装電子部品の搬送用トレーでは、このような切削加工を要せずに、電子部品を面実装する面、即ちプレート部を金属で形成することが可能になる。
【0019】
そして上記の構成により、トレーの骨格となるプレート部をアルミなどの金属板(フラットパネル)で製作することが可能になり、前述のこれら熱的要因による諸課題(耐熱やそり変形等)をすべて回避することができる。
【0020】
即ち、半導体デバイスにおけるエポキシ樹脂等による封止(パッケージ)の水分を除去する等の目的でトレーも高温環境に晒されることから、トレー自体にも耐熱性が要求される。このべーキング温度としては、これまでの主流は125℃〜130℃程度であるが、一部には工程短縮(米国仕様など)の為、200℃レベルでの高温ベーキングが行われる事もある。よって、耐熱性が要求される用途で使用される樹脂トレーは、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル、ポリエーテルサルホンなど成型が困難か或いは高価な樹脂材料で製造されていた。またトレーを射出成型により製造した場合には、必然的に残留応力(歪)が発生することから、樹脂材料で形成されたトレーではソリ変形の問題を解消するのが困難であった。
【0021】
この点、本発明にかかる面実装電子部品の搬送用トレーでは、トレーの骨格となるプレート部をアルミなどの金属板で製造可能である。したがって、全自動で検査工程に搬送され、素子の検査工程などではトレーに収納された状態で装置へ入り、一つ一つの素子が精密加工された機器部品や治具(アタッチメント)で自動制御により動作が行われ、その為に寸法精度上、トレー全長で1/100mm、又、そり変形においては定盤上で0.1〜0.2mm程度の是非が問われる、精密な電子部品である半導体や水晶ならびに磁気記録素子などの製造・検査工程で使用されるトレーにおいて、固有の課題を解決することができる。
【0022】
また樹脂製のトレーの場合には、金属製のトレーと比べると、どうしても表面硬度が劣り、封止樹脂によるパッケージされた半導体、或いは封止されていない半導体チップのいずれにおいてもトレーに収納された状態で摩擦磨耗による発塵が懸念される。この問題は現実に素子メーカーの製造現場や搬送先(ユーザー側)で日常的に問題化している。これらの問題は樹脂成形品の表面硬度が相対的に低い事が原因である事は言うまでも無い。これに対して本発明にかかる面実装電子部品の搬送用トレーでは、プレート部を金属などで形成することにより、当該発塵による問題を解消することができる。例えば、プレート部を金属の中でも比較的表面硬度が低いアルミニウムで製造した場合には、酸化アルミ(アルミナ)被覆処理をする事により、一種のセラミックコーティングを施す事になり、金属以上の硬度を有するセラミックにより表面硬度を大きく改善する事ができる。その他ステンレス等も同様に樹脂と比べ表面硬度が高く、摩擦磨耗による発塵を抑える有効な手段とすることができる。
【0023】
また、半導体の電子回路に起こる静電破壊は静電気の帯電に起因するが、その静電気(帯電圧)の強さを正確に計測するのは非接触で行う必要性などの問題から非常に困難である。これに対し、これまで当該分野における多くの知見や経験的データから物質の電気抵抗とその静電気(帯電圧)には一定の比例関係があることが知られている。そのため比較的簡単に計測する事が可能な電気抵抗で静電気(帯電圧)を予測する事が習慣的に行われており、静電気の影響については電気抵抗値で議論される事が多い。電子デバイス関連分野の研究者による論文によれば静電破壊などの静電気障害が起こる帯電圧は概ね水晶素子で300V以上、半導体素子で100V以上、磁気記録素子(ハードディスク)の場合は20〜30V以上と言われている。一方、電気抵抗値の範囲で言えば、表面抵抗10
7Ω/□以下は導電性(静電気散逸性)、表面抵抗10
8〜12Ω/□は帯電防止レベル、表面抵抗10
13Ω/□以上は絶縁性と概ね区別されている。よって、半導体や水晶ならびに磁気記録素子などを収納するトレーの場合、静電破壊などの障害から保護するためには、表面抵抗は10
7Ω/□以下の導電性(静電気散逸性)又は10
8〜12Ω/□の帯電防止レベルの電気抵抗が要求される。
【0024】
これに対して本発明にかかる面実装電子部品の搬送用トレーは、トレーの骨格となるプレート部を金属板等の導電性の高い材料で形成することができ、その結果、このような電気抵抗の問題は回避できる。更に、仕切り部等に使われる樹脂についても必要に応じて導電性樹脂を選定すれば、半導体の電子回路に起こる静電破壊の問題をより確実に解消することができる。またプレート部をアルミニウムで形成した場合、通常のアルマイト処理(10μm以上の酸化アルミ層被覆処理)を施すと、表面は絶縁性となる。しかし約5μm以下の酸化アルミ被覆層においては導電性を維持する事ができ、且つ後述する酸化アルミ層に形成した無数の孔による仕切り部の緊合も可能である。
【0025】
更に、これまで半導体トレーなどに対し熱伝導性(放熱性)が要求された事例は殆ど無かったが、本発明によりトレーの骨格となるプレート部を金属板等の熱伝導性の高い材料で形成することが可能になり、その結果、ベーキング工程を効率よく実行することが可能になるなど、新たな特性に基づいた需要が創出される事も考えられる。
【0026】
また、これまでの半導体トレー等は樹脂の強度(機械特性)や耐久性(熱的又は機械的老化性)などを考慮した製品設計が行われてきた関係で、肉厚を薄くする事は検討されていない。薄肉化設計はコストダウンもさることながら軽量化にも寄与できる。1つ1つは小さく軽量ではあっても、クリーンルーム内のハンドリングや出荷時の搬送においては数十枚或いは数百枚単位で扱われることから、半導体メーカー等で一日中作業する作業員にとっては重要な要素である。製造メーカーから具体的に軽量化を要求される場合も多々ある。そこで、本発明では骨格(基板)となるプレート部に金属板を使用し、その材料を選択することで、一定の強度を確保しながらも軽量化を図ることができるようになる。
【0027】
また、上記リブ状の仕切り部は、プレート部の少なくとも一方の面の上に形成されるものであり、プレート部の何れか一方の面に形成する他、プレート部の両面に形成することもできる。プレート部の両面に仕切り部材を形成する場合、双方の面で仕切り部材によって区画される面実装電子部品を収容する空間の大きさや形状などを異ならせることができる。
【0028】
また前記当該プレート部と仕切り部とは、プレート部における少なくとも仕切り部が設置される領域に微細な凹凸を形成すると共に、前記仕切り部をインサート成型することで一体化されていることが望ましい。
【0029】
プレート部と仕切り部との接合だけを考えれば、先ず考えられるのは接着剤による接合である。しかしながら接着剤による接合はミクロ的視点で言えば接着層部の隙間等に粗さが考えられ、パーティクルコンタミ等の要因を抱える事になる。さらに接着剤の未硬化成分、とりわけモノマーや不純物など硬化後においても揮発しやすい成分が、高度な清澄性が要求されるクリーンルームに充満し、搬送する面実装電子部品を薬物汚染してしまうことも考えられる。実際、一部にごく少量の接着剤を使用して製造されたトレーに収納された半導体チップがクリーンルームの中で薬品によって汚染された事もあり、この汚染は接着剤の揮発成分がクリーンルーム内に充満した事によるものであった。
【0030】
そこで上記のようにプレート部と仕切り部とをインサート成型により一体化することで、接着剤の使用の必要性を無くし、その揮発による汚染の問題を無くしている。更にプレート部に微細な凹凸を形成した上でインサート成型していることから、両者の緊合を確実にすると共に、プレート部と仕切り部との間の隙間を無くして、当該隙間に塵埃が入り込むことによるパーティクルコンタミ等の問題も解消している。
【0031】
なお微細な凹凸は、エッチング処理により溝を形成したり、25nm以上の直径で開口する穴を化学的処理により無数
形成したり、或いはヤスリ等で研磨加工を行うなど、化学的および機械的処理によって形成することができる。また本明細書における「インサート成型」とは、樹脂を固体物に対して射出成型し、両者を一体化することを意味しており、固体物としてはプレート部材が該当する。
【0032】
従前においては、クリーンルーム内で使用するすべての装置、部品、器具等は可能な限り接着剤を使わないことが求められていたことから、射出成型が困難な材料を用いて成型する場合には、切削加工などの機械的加工が要求されていたが、本発明のようにインサート成型を行い、しかも微細な凹凸を形成することにより隙間をなくすことで、面実装電子部品を搬送するのに適したトレーが実現している。
【0033】
なお、プレート部の両面に仕切り部を形成する場合には、プレート部を骨格(中心)としてプレート両面にリブを一体的に射出成形することもでき、この場合には、射出側からプレートを介して樹脂が裏側へも廻り込むようにするのが製造上有利である。例えば、プレート部に貫通孔を設け、この貫通孔を介して射出した樹脂がプレート部の裏側にも回り込むように形成することが望ましい。このように、プレート部材を樹脂製の仕切り部材で挟み込む構造とした場合には、本来であれば両者の一体化は確実になることから、特段、プレート部と仕切り部材を一体化させる構成を考慮する必要はない。しかしながら、本発明ではプレート部と仕切り部との隙間に塵埃入り込むことも阻止する必要があることから、プレート部に微細な凹凸を形成した上でインサート成型することで、プレート部と仕切り部との隙間の発生を阻止することが望ましい。
【0034】
特に本発明においては、前記プレート部は金属またはセラミックで形成されると共に、少なくとも仕切り部が形成される側の面は平坦に形成され、当該仕切り部が設置される領域にはエッチング処理により溝が形成されているか、又は25nm以上の直径で開口する穴が無数に形成されており、前記仕切り部は、当該溝又は孔内に食い込んで結着した状態に接合されている面実装電子部品の搬送用トレーであることが望ましい。
【0035】
そしてプレート部をアルミニウムで製造する場合には、その陽極酸化皮膜に、表面に開口する直径25nm以上の孔を無数に形成し、この孔内に食い込み結着するようにして樹脂材料を射出成型し、仕切り部を形成することが望ましい。その他の金属に対しても切削加工、エッチングなどの化学処理、或いはサンドブラストによる表面加工など金属表面に凸凹を付与した上で仕切り部を射出成型により形成することで、様々なバインダーレス接合加工を実施することができる。
【0036】
なお、プレート部として金属材料を用いた場合であって、当該金属材料が錆び易い場合には、仕切り部が設けられる接合面以外の部分については、様々な表面処理やメッキなどの保護皮膜を実施することが望ましい。面実装電子部品、特に超精密な電子部品である半導体や水晶ならびに磁気記録素子などを収納するトレーとして使用する上で、当該金属酸化物やその粒子が悪影響を及ぼさないようにするためである。
【0037】
なお、上記本発明において、プレート部と仕切り部とは、それぞれインサート成型などにより一体化して形成されることになり、プレート部と仕切り部とは異なる材料で形成する他、両者を同じ材料で形成することも可能である。例えば、プレート部をアルミニウムで形成し、これに熱可塑性樹脂のインサート成型により仕切り部を構成する他、フェノール樹脂製の板部材をプレート部とし、これにフェノール樹脂からなる仕切り部を設けることも可能である。