(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5901138
(24)【登録日】2016年3月18日
(45)【発行日】2016年4月6日
(54)【発明の名称】吸着部材
(51)【国際特許分類】
B65C 9/36 20060101AFI20160324BHJP
【FI】
B65C9/36
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2011-95591(P2011-95591)
(22)【出願日】2011年4月22日
(65)【公開番号】特開2012-224387(P2012-224387A)
(43)【公開日】2012年11月15日
【審査請求日】2014年3月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000130581
【氏名又は名称】サトーホールディングス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】京極 修
【審査官】
高橋 裕一
(56)【参考文献】
【文献】
特開2010−222008(JP,A)
【文献】
特開昭63−317439(JP,A)
【文献】
特開2008−094468(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65C1/00−11/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
印字面と接着剤が塗布された接着面とを有するラベルの印字面を吸着する吸着部材に
おいて、
複数の孔が形成されている基材と、
上記基材表面に被覆し、上記孔と導通する導通孔を有するパッド部と、を備え、
上記パッド部は、上記基材表面に設けた表面が凹凸形状を呈する焼結体層と、該焼結体層表
面に接触するシリコーン系樹脂層とからなることを特徴とする吸着部材。
【請求項2】
上記基材表面に凹部を形成したことを特徴とする請求項1記載の吸着部材。
【請求項3】
上記導通孔は、吸気用の第1導通孔と、排気用の第2導通孔とを備えることを特徴とす
る請求項1または2記載の吸着部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラベルを吸着する吸着部材に関し、詳しくは、吸着面に接着剤が付着することを防止できる吸着部材に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、ラベル貼付は、台紙からラベルを剥離すると共に、吸着部材にてラベル印字面を吸着し、被着体へ押圧することにより行われる。
ここで、特定の被着体に貼付するラベルの接着面には、接着性を高めるため接着力の強い接着剤を塗布しているものがある(タイヤに貼付するラベル等)。
ラベルの吸着部材への吸着は、例えば、剥離したラベルの端部を吸着面に摺接させながら行なわれる。
ラベルの接着面の端部に接着剤が存在すると、接着剤が端部から印字面側に食み出てしまう。この食み出た接着剤が、上記摺接時に吸着面に付着することは避け難い。このような接着剤の付着を防止するため、吸着部材の吸着表面には、付着防止作用のある部材を用いたものがある。
一般に、ラベルの接着剤の付着を防止するためには、吸着部材としてフッ素系樹脂を用いている。
このフッ素系樹脂としては、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリビニリデンフルオライド等が挙げられる。
これらフッ素系樹脂は表面張力が低く非接着性に優れているため、フッ素系樹脂からなるパッドにはラベルから食み出た糊が付着し難い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
特開2008−94468号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、フッ素系樹脂からなる吸着部材であっても、ラベルの吸着貼付動作を繰り返すと、吸着面への接着剤付着を避けることができない。特に、接着剤が吸引孔に付着してしまうと、吸引動作不良を来たしてしまい、吸着動作を止めざるおえなくなる。
本発明は、従来のフッ素系樹脂からなる吸着部材に比して、長期間ラベルの吸着貼付動作を維持することができる吸着部材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、印字面と接着剤が塗布された接着面とを有するラベルの印字面を吸着す
る吸着部材において、複数の孔が形成されている基材と、上記基材表面に被覆し、
上記孔と導通する導通孔を有するパッド部とを備え、上記パッド部は、上記基材表面
に溶射形成する焼結体層と、該焼結体層表面にコーティングして形成するシリコ
ーン
系樹脂層とから構成する吸着部材を構成する。
ラベルを吸着するパッドの吸着面は、シリコ
ーン系樹脂にて形成されている。シリ
コ
ーン系樹脂は、フッ素系樹脂に比して表面張力が小さい。表面張力が小さければ粘
着トルクが低くなり、非粘着性が向上する。
また、焼結体表面には多数の凹凸が形成されるため、コート時にシリコ
ーン系樹脂
は凸部に埋め込まれる。故に、焼結体表面とシリコ
ーン系樹脂との接触面積が大きく
なり結合性が強くなる。
【0006】
上記基材表面に凹部を形成する。
パッド部表面に凹部形状が反映される。パッド部に凹部があると、ラベル吸着時にラベルとの接触面積が小さくなりラベル吸引が容易になると共に、ラベル貼付時にパッド部表面からのラベルの離反性が向上する。
【0007】
上記焼結体層は、溶射により形成する。
焼結体を用いたので、表面加工が容易になる。従って、所望の表面粗さの表面が形成される。
焼結体表面の凹凸加工を容易に行うことができる。
【0008】
上記シリコ
ーン系樹脂層は、プラズマコーティングにより形成する。
密度の高いコーティングが可能になる。密度を高くする程、表面張力を減少するこ
とができ、離反性が向上する。
【0009】
上記導通孔は、吸気用の第1導通孔と、排気用の第2導通孔とを備える構成にする。
ラベル吸着に関与する導通孔は吸気用とし、吸着に関与しない導通孔は排気用とする。
ラベル吸着時に、第1導通孔は吸気を行い、第2導通孔は排気を行う。第2導通孔は排気を行っているので、第2導通孔内への接着剤付着が防止される。故に、第2導通孔が接着剤で塞がれることは無い。
また、吸着動作に応じて、導通孔を第1導通孔から第2導通孔に、又はその逆に変更する。接着剤が食み出たラベル端部が吸着面に接触しないように、ラベル端部が吸着面上を移動する際、ラベル端部が在る位置の導通孔を第2導通孔にする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の吸着部材は、ラベルを直接吸着する部材にシリコ
ーン系樹脂を用いるので、
従来のフッ素系樹脂を用いた場合と比較して、接着剤に対する非粘着作用が強く、
より長期間の貼付動作を可能にする。シリコ
ーン系樹脂が焼結体を介して基材にコー
ティングしているので、吸着部材からシリコ
ーン系樹脂が剥離する虞が非常に低い。
また、焼結体を用いたので、膜形成を容易に行うことができる。
また、プラズマコーティングにより密度の高いシリコ
ーン系樹脂のコーティングを
行うので、ラベル吸着面の粘着トルクを減少させ、非粘着性を高めることができる。
更に、基材表面に形成した凹部は吸着面に反映され、ラベルと吸着面との接触面積
が減少する。このことは、ラベルの吸引容易性及び離反性を向上させる。
また、吸気用及び排気用の作用の異なる2種類の導通孔を設けたので、ラベル吸着
に関与しない第2導通孔に排気作用を持たせることができる。この第2導通孔におい
ては、意識的に接着材の付着が防止される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施形態に係る吸着部材の説明図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る吸着部材がラベルを吸着した状態の説明図である。
【
図3】本発明の実施形態に係る吸着部材がラベルを吸着する過程の説明図である
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態に係る吸着部材を説明する。
図1(A)は、吸着部材の接着面を示す。
図1(B)は、(A)におけるA―A′線における断面図である。
図1(C)は、吸着面部Mの拡大断面図である。
【0013】
本発明の吸着部材100は、ラベルLを被着体に貼付する際、一旦ラベルLを吸着保持するために用いる部材であり、ラベル貼付装置やラベル貼付ラインにて内部アッセンブリとして用いられる。
吸着部材100は、基材10と基材表面に被覆するパッド部20とを備える。
【0014】
基材10としては、各種金属や各種樹脂が挙げられるが、ここでは形状安定性と
加工容易性に優れる材質軽金属である板状のアルミニウムを用いる。
基材10は、複数の線状凹部11が形成される基材表面12と基材裏面13とから
なる板形状であり、表裏を貫通する多数の孔14が形成されている。
パッド部20は、基材表面12に溶射形成する焼結体層21と、焼結体層21表面
にコーティングして形成するシリコ
ーン系樹脂層22とを備えて形成する。
【0015】
焼結体層21の皮膜材料としては、無機焼結体(セラミックス)、金属焼結体(シンタリングメタルス)、有機焼結体(焼結プラスチックス)が挙げられるが、ここでは加工容易性に優れるセラミックスを用いる。具体的には、ホワイトアルミナ、グレーアルミナ、アルミナジルコニア、アルミナチタニア、酸化クロム、ジルコニア−イットリア等が好ましく用いられる。
基材10と皮膜材料は、溶射成形法により物理的に結合している。
溶射成形法は、溶かした(半溶融)状態の皮膜材料であるセラミックスを、基材表面12にガス(空気、搬送ガス)によって吹き付け皮膜を形成する技術である。溶射成形法により、基材表面12には緻密な焼結体層21が形成される。
形成された焼結体層21には、孔14に導通する焼結孔23を形成する。
【0016】
シリコ
ーン系樹脂層22に用いるシリコ
ーン系樹脂としては、一般的な樹脂性質を
有する有機ポリシロキサンであればよく、塗装性を良好にするため、アルキド樹脂や
アクリル樹脂をブレンドしたものが好ましい。
焼結体層21とシリコ
ーン系樹脂は、プラズマコーティングにより物理的に結合し
ている。
プラズマコーティングは、コート材であるシリコ
ーン系樹脂をプラズマイオン化し、
焼結体層21に打ち付けることで被膜を形成する技術である。通常の吹付けコートな
どに比べて、均一性に優れ、物理的強度に優れた皮膜を形成することができる。
好ましい皮膜特性は、皮膜厚さ:200μm、表面粗度Ra1μm〜Ra3μm:、
表面硬度:HRC45である。
形成されたシリコ
ーン系樹脂層22には、焼結孔23に連通する樹脂孔24を形成
する。連通する焼結孔23と樹脂孔24とは、連通した導通孔25を形成する。
孔14は、個々に、部分に纏まって、または全体として吸気または排気作用を奏す
るように図示しない吸気または排気装置に連絡する。
【0017】
図2(A)は、吸着部材100の吸着面にラベルが吸着した状態の説明図である。
図1(B)は、(A)のB−B′線における断面図である。
図2(B)に示す吸着部材100は、吸気装置のみに連絡した孔14に導通する
第1導通孔26備えたものである。
吸着部材100は、ラベルLを、第1導通孔26による吸引作用でパッド部20に
吸着する。
吸着動作時にラベルLの接着剤は、吸着面が非粘着性に優れたシリコ
ーン系樹脂で
形成している故、吸着面に付着する虞がない。
また、吸着表面は凹部11が反映された形状になるので、ラベルLとの接触面積が
小さくなり、ラベル吸着に要する吸引力を抑えることができる。
【0018】
図3に示す吸着部材100は、吸気装置に連絡した第1導通孔26と、排気装置に連絡した第2導通孔27とを備えたものである。
導通孔25は、吸着動作に応じて第1導通孔26または第2導通孔27に変化する。この導通孔25の変化は、連絡する装置の変更により行われる。
【0019】
以下、吸着動作をラベルの搬送方向断面図(時系列)で説明する。
図3(a)は、剥離されたラベルLが吸着部材100に搬送される過程を示す。この時点では、導通孔25に吸気または排気作用は無い。
図3(b)は、ラベルLが吸着面へ摺接し始めた状態を示す。ラベルLの端部が吸着面に接触しないように、ラベルLの端部に近い導通孔25は第2導通孔27として作用する。接着剤が食み出ている虞のあるラベルLの端部が接着面に接触しないので、接着剤が吸着面へ付着しない。
図3(c)は、ラベルLが吸着面上を移動する状態を示す。ラベルLの端部が位置する導通孔25は第2導通孔27として作用し、ラベルLに覆われた導通孔25は第1導通孔26として作用する。ラベルLの移動に伴って第2導通孔27も移動する。
図3(d)は、ラベルLが吸着位置に位置決めされた状態を示す。このとき、ラベルLに覆われた導通孔25は第1導通孔26として作用する。
なお、上記説明は、ラベルLの移動先端のみから接着剤が食み出ていることを想定したがこれに限定されない。例えば、ラベルLの移動後端や側端から接着剤が食み出る虞がある箇所に対応した導通孔25を第2導通孔27として作用させることができる。
【0020】
このように、本発明の吸着部材は、吸着面は非粘着性に優れたシリコ
ーン系樹脂で
形成している故、接着剤が吸着面に付着する虞がない。
また、吸着表面は基材の凹部が反映された形状になるので、ラベルとの接触面積が
少なくなり、ラベルの吸着に要する吸引力及び貼付に要する離反力を抑えることがで
きる。
更に、吸着動作時、接着剤が食み出る虞のある箇所に対応する導通孔に排気を行な
わせ、接着剤が吸着面に接触することが防止される。つまり、意識的に、ラベルから
食み出た接着剤が吸着面に付着しないようにすることができる。
【符号の説明】
【0021】
100 吸着部材
10 基材
11 凹部
12 基材表面
13 基材裏面
14 孔
20 パッド部
21 焼結体層
22 シリコ
ーン系樹脂層
23 焼結孔
24 樹脂孔
25 導通孔
26 第1導通孔
27 第2導通孔
L ラベル
M 吸着面部