【実施例】
【0027】
以下に、本発明をその実施形態(本発明例)と比較例及び参考例により具体的に説明する。
本実施形態(発明例)は、アルミニウム合金とステンレス鋼の接合体として、
図4に示すように、アルミニウム合金製熱交換器本体(冷却器及び蓋)を構成するものと同じアルミニウム合金板11と、ステンレス鋼製配管を構成するステンレス鋼と同じステンレス鋼板12とを接合し、pH9〜11で温度80〜100℃のロングライフクーラントを封入した実験用容器内で実施した。
なお、
図1に示す熱交換器を、本発明例のアルミニウム合金で熱交換器本体1を、ステンレス鋼で配管3を製造し、pH9〜11で温度80〜100℃のロングライフクーラントを封入した熱交換器を組み立て、実験した結果、同じ効果を得ることができた。
【0028】
本発明例1〜24、
連続鋳造により、表1に示す組成を有するアルミニウム合金の鋳塊を製作し、該鋳塊を面削後、540℃×3時間の均質化処理し、次いで熱間圧延して厚さ5mmの熱延板を得た。これを冷間圧延、中間焼鈍および最終冷間圧延により厚さ0.25mmの板を作成し試料とした。
【0029】
比較例25〜48及び参考例49〜52
表2に示す組成のアルミニウム合金を本発明例と同様の方法で圧延し、厚さ0.25mmの板を作成し試料とした。
【0030】
ステンレス鋼は市販のSUS316あるいはSUS304(いずれも厚さ0.10mm)を試料として使用した。
【0031】
【表1】
【0032】
【表2】
【0033】
(1)分極曲線の測定
上記のようにして作製したアルミニウム合金およびステンレス鋼について、カソード分極曲線をそれぞれ測定した。測定は本発明例のアルミニウム合金板、及びステンレス鋼板を15×40mm
2に切り出し、測定面10×10mm
2を残して裏面と端部をマスキングして測定に供した。
腐食性溶液として、0.226gのNaClと0.089gのNa
2SO
4を蒸留水1Lに溶解して、Cl
−=195ppm、SO
42−=60ppmとした水溶液にNaOH水溶液を加えてpHを8、9、11及び12に調整し、アルカリ腐食液とした。
測定温度は70、80、90及び100℃とした。
得られたカソード分極曲線より、Al合金の自然電位におけるステンレス鋼のカソード電流密度を求めた。一例として本発明例8における測定結果を
図3に示す。
図3ではアルミニウム合金の自然電位においてSUS316のカソード電流密度が約13μA/cm
2となった。
【0034】
(2)アルカリ腐食試験
上記各本発明例のアルミニウム合金板を幅30mm、長さ50mmに切り出した2枚と、同様にステンレス鋼を幅30mm、長さ52mmに切り出した1枚を用意し、
図4に示すようにアルミニウム合金板11とステンレス鋼板12とを長さ方向に重ね、腐食試験を行った。
【0035】
腐食試験は、上記カソード分極曲線を測定したのと同じアルカリ腐食液(Cl
−=195ppm、SO
42−=60ppm)に、露出面に対して比液量が6mL/cm
2となるように浸漬した。1回の浸漬時間を8時間とし、次いで大気中で16時間放置するサイクル試験を3ヶ月間実施した。試験後、試験片のステンレス鋼近傍のアルミニウム合金板の断面を観察し、腐食部13における最大腐食深さを測定した。なお、最大腐食深さについては、10μm未満は合格、それ以上は不合格である。
【0036】
(3)圧延加工性
仕上げた圧延板の割れの有無を目視で観察し、割れの発生が見られたものを、圧延加工性不良と判断した。
【0037】
(4)ろう付け性
アルミニウム合金製熱交換器本体1は冷却器3と蓋4とをろう付けで接合する。そのため、各アルミニウム合金板に窒素雰囲気下でろう付け相当の加熱処理(600℃で3分間)を施し、材料の溶融状態を目視で観察し、溶融が発生が見られたものを、ろう付け性不良と判断した。
なお、自己腐食性が不良な比較例についてもろう付け性を判断した。
【0038】
各実施例、比較例、参考例で作成した試料の90℃における分極曲線測定結果をカソード電流密度(μA/cm
2)として表3、4に示す。
各実施例、比較例、参考例につき実施したアルカリ腐食性試験の結果を腐食深さとして表3、4に示す。
各実施例、比較例、参考例に示す合金の圧延加工性については、各実施例、参考例は満足するものであった。比較例についてはその判断結果を表4の備考2欄に示す。
各実施例、比較例、参考例に示すろう付け性については、各実施例、参考例は満足するものであった。比較例についてはその判断結果を表4の備考2欄に示す。
【0039】
【表3】
【0040】
【表4】
【0041】
本発明例1〜18のアルミニウム合金は、Ni、Fe及びSiを規定量含有しているので、pHが11、温度が90℃のアルカリ腐食液中で、アルミニウム合金の自然電位におけるSUS316の電流密度が20μA/cm
2以下の範囲内となっている。その結果、腐食深さが最大でも8μmであり、基準とする9μm以下であり良好な高温のアルカリ耐食性を示し、圧延加工性、ろう付け性も良好であった。
【0042】
本発明例19〜21は、Ni、Fe及びSiを規定量含有したアルミニウム合金であり、本発明の規定する範囲内でアルカリ腐食液のpHと温度とを変化させ実施例である。いずれも、アルミニウム合金の自然電位におけるSUS316の電流密度が20μA/cm
2以下の範囲内にあった。その結果、腐食深さが温度100℃と過酷な条件でも5μmであり良好な高温アルカリ耐食性を示し、圧延加工性、ろう付け性も良好であった。
【0043】
本発明例22〜24は、アルミニウム合金がNi、Fe及びSiを規定量含有しているので、pHが11、温度が90℃のアルカリ腐食液中で、アルミニウム合金の自然電位におけるSUS304の電流密度が20μA/cm
2以下の範囲内にあった。その結果、腐食深さが0μmであり良好な高温のアルカリ耐食性を示し、圧延加工性、ろう付け性も良好であった。
【0044】
比較例25および26では、アルミニウム合金がNiを含有せず、またFeとSiの含有量が少な過ぎたため、SUS316の電流密度が20μA/cm
2以上になって最大腐食深さが不合格であった。
【0045】
比較例27では、アルミニウム合金がNiを含有せず、FeとSiとを含有するが、Feの含有量が多過ぎたため、最大腐食深さは合格であったが、圧延加工性が劣った。
【0046】
比較例28、29では、アルミニウム合金がFe、Ni、Siを含有するもののいずれも含有量が少な過ぎたため、ステンレス鋼の電流密度が20μA/cm
2以上になって最大腐食深さが不合格であった。
【0047】
比較例30では、アルミニウム合金がFe、Ni、Siを含有するが、Fe含有量とNi含有量が多過ぎたため、最大腐食深さは合格であったが圧延加工性が劣った。
【0048】
比較例31および32では、アルミニウム合金がFe、Ni、Siを含有するが、いずれも含有量が少な過ぎたため、SUS316の電流密度が20μA/cm
2以上になって最大腐食深さが不合格であった。
【0049】
比較例33では、アルミニウム合金がFe、Ni、Siを含有するが、Niの含有量が多過ぎたため、最大腐食深さは合格であったが圧延加工性が劣った。
【0050】
比較例34、35では、アルミニウム合金はNiを含有せず、Fe、Siを含有するが、いずれも含有量が少な過ぎたため、SUS316の電流密度が20μA/cm
2以上になって最大腐食深さが不合格であった。
【0051】
比較例36では、アルミニウム合金がNiを含有せず、Fe、Siを含有するが、Si含有量が多過ぎたため、ろう付け性が不良であった。
【0052】
比較例37では、アルミニウム合金はNiを含有せず、FeとSiを含有するがいずれも含有量が少な過ぎたため、SUS316の電流密度が20μA/cm
2以上になって最大腐食深さが不合格であった。
【0053】
比較例38では、アルミニウム合金はNiを含有せず、FeとSiを含有するが、Fe含有量が多過ぎたため、最大腐食深さは合格であったが圧延加工性が劣った。
【0054】
比較例39では、アルミニウム合金はFe、Ni、Siを含有するが、いずれも含有量が少な過ぎたため、SUS316の電流密度が20μA/cm
2以上になって最大腐食深さが不合格であった。
【0055】
比較例40は、アルミニウム合金はFe、Ni、Siを含有するが、Niの含有量が多過ぎたため、最大腐食深さは合格であったが圧延加工性が劣った。
【0056】
比較例41、42および43は、比較例25のアルミニウム合金において、本発明の規定する範囲内でアルカリ腐食液のpHと温度とを変化させた例である。いずれも、アルミニウム合金の自然電位におけるSUS316の電流密度が20μA/cm
2以上になって最大腐食深さが不合格であった。
【0057】
比較例44は、比較例25のアルミニウム合金において、本発明の規定する範囲外までアルカリ腐食液のpHを上げた例である。見かけ上は局所腐食が認められないほど自己腐食が過大であった。
【0058】
比較例45は、本発明例2のアルミニウム合金において、本発明の規定する範囲外までアルカリ腐食液のpHを上げた例である。見かけ上は局所腐食が認められないほど自己腐食が過大であった。
【0059】
比較例46は、アルミニウム合金はNiを含有せず、FeとSiを含有するが、いずれも含有量が少な過ぎたため、SUS304の電流密度が20μA/cm
2以上になって最大腐食深さが不合格であった。
【0060】
比較例47は、アルミニウム合金はFe、Ni、Siを含有するものの、いずれも含有量が少な過ぎたため、SUS304の電流密度が20μA/cm
2以上になって最大腐食深さが不合格であった。
【0061】
比較例48は、アルミニウム合金はNiを含有せず、Fe、Siを含有するもののいずれも含有量が少な過ぎたため、SUS304の電流密度が20μA/cm
2以上になって最大腐食深さが不合格であった。
【0062】
参考例49、50では、比較例25のアルミニウム合金において、本発明の規定する範囲外までアルカリ腐食液のpHあるいは温度を低下させた例である。いずれも、腐食環境がよりマイルドとなり、アルミニウム合金の自然電位におけるSUS316の電流密度が20μA/cm
2以下の範囲内になった。その結果、腐食深さが10μm未満であり良好な高温でのアルカリ耐食性を示した。
【0063】
参考例51、52では、本発明例2のアルミニウム合金において、本発明の規定する範囲外までアルカリ腐食液のpHあるいは温度を低下させた例である。いずれも、腐食環境がよりマイルドとなり、アルミニウム合金の自然電位におけるSUS316の電流密度が20μA/cm
2以下の範囲内になった。その結果、腐食深さが0μmとなり良好な高温でのアルカリ耐食性を示した。
【0064】
本発明によれば、アルミニウム合金がNi、Fe及びSiを規定量含有しているので、pH9〜11、温度80〜100℃のアルカリ腐食液中でも、腐食深さが基準となる10μm以下(本発明例では8μm以下)であり、良好な高温でのアルカリ耐食性を示し、圧延加工性、ろう付け性も良好である。