特許第5901229号(P5901229)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5901229アルミニウム合金、アルミニウム合金とステンレス鋼との接合体及び熱交換器
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5901229
(24)【登録日】2016年3月18日
(45)【発行日】2016年4月6日
(54)【発明の名称】アルミニウム合金、アルミニウム合金とステンレス鋼との接合体及び熱交換器
(51)【国際特許分類】
   C22C 21/00 20060101AFI20160324BHJP
   F28F 21/08 20060101ALI20160324BHJP
【FI】
   C22C21/00 J
   F28F21/08 A
【請求項の数】3
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2011-238484(P2011-238484)
(22)【出願日】2011年10月31日
(65)【公開番号】特開2013-95953(P2013-95953A)
(43)【公開日】2013年5月20日
【審査請求日】2014年10月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】000107538
【氏名又は名称】株式会社UACJ
(74)【代理人】
【識別番号】100155572
【弁理士】
【氏名又は名称】湯本 恵視
(72)【発明者】
【氏名】本川 幸翁
(72)【発明者】
【氏名】兒島 洋一
【審査官】 相澤 啓祐
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−212670(JP,A)
【文献】 特開平09−176768(JP,A)
【文献】 特開平11−080871(JP,A)
【文献】 特開2011−099620(JP,A)
【文献】 特開2011−241448(JP,A)
【文献】 特開2012−040608(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 21/00−21/18
C22F 1/04− 1/057
F28F 21/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
pH9〜11、温度80〜100℃の腐食雰囲気中でステンレス鋼との接合部を構成するアルミニウム合金であって、必須元素として(a)Fe:0.85〜1.5mass%、(b)Ni:0.85〜1.5mass%及び(c)Si:0.85〜2.0mass%から成る群から選択されるいずれか1種、(a)及び(b)、或いは、(a)及び(c)を含有し、選択元素として(a)〜(c)の1種又は2種の元素を前記各含有量の下限値未満において更に含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金。
【請求項2】
pH9〜11、温度80〜100℃の腐食雰囲気中で使用可能なアルミニウム合金とステンレス鋼との接合体であって、前記アルミニウム合金が、必須元素として(a)Fe:0.85〜1.5mass%、(b)Ni:0.85〜1.5mass%及び(c)Si:0.85〜2.0mass%から成る群から選択されるいずれか1種、(a)及び(b)、或いは、(a)及び(c)を含有し、選択元素として(a)〜(c)の1種又は2種の元素を前記各含有量の下限値未満において更に含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金であり、該アルミニウム合金の自然電位におけるステンレス鋼のカソード電流密度が20μA/cm以下であるアルミニウム合金とステンレス鋼との接合体。
【請求項3】
アルミニウム合金製熱交換器本体と、該熱交換器本体に設けられたステンレス鋼製配管とからなり、前記熱交換器本体と配管との接合部がpH9〜11、温度80〜100℃の腐食雰囲気に曝されている熱交換器であって、前記アルミニウム合金が、必須元素として(a)Fe:0.85〜1.5mass%、(b)Ni:0.85〜1.5mass%及び(c)Si:0.85〜2.0mass%から成る群から選択されるいずれか1種、(a)及び(b)、或いは、(a)及び(c)を含有し、選択元素として(a)〜(c)の1種又は2種の元素を前記各含有量の下限値未満において更に含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金であり、該アルミニウム合金の自然電位における前記ステンレス鋼のカソード電流密度が20μA/cm以下である熱交換器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に輸送車両の熱交換器等の高温、アルカリ性環境において優れた耐食性を示すアルミニウム合金、アルミニウム合金とステンレス鋼との接合体、並びに熱交換器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
プレート型水冷式熱交換器の概略図を図1に示す。図1の熱交換器は、アルミニウム合金製の冷却器3と蓋4からなる熱交換器本体1に、ステンレス製の配管2を接合した構成である。
【0003】
熱交換器本体1の材料としては、JIS3003等の規定に基づく3000系アルミニウム合金、あるいはJIS1100等の規定に基づく1000系アルミニウム合金が利用されている。配管2の材料としては、SUS316等のステンレス鋼が利用されている。通常、配管2と熱交換器本体1との接触部には被覆処理を施して電気的接続を断つか、配管をアルミニウム合金で被覆して、異種金属接触腐食を防止する。ただし以下に説明するように、冷却水の水質が適性に管理されていれば、上記の対策を施さなくても問題なく使用できる。
【0004】
熱交換器の冷却水としては、不凍液と防錆剤とを含有する弱アルカリ性の水溶液、所謂ロングライフクーラント(LLC)等が広く利用されている。冷却水の希釈にClを含まない純水を使用すれば、アルミニウム合金製の熱交換器本体1に、ステンレス鋼製の配管2を直接接合しても、熱交換器に腐食の問題を生じさせることなく使用することができる。
【0005】
ところが、上記の不凍液を使用していても、しばしば早期に深い腐食が発生してしまう場合があった。
【0006】
そこで、このような弱アルカリ性の水溶液環境におけるアルミニウム合金の防食方法が提案されている。例えば特許文献1、2には、Alと結合して貴な化合物を形成する元素を含有する犠牲陽極材を芯材にクラッドしたアルミニウム合金クラッド材などが開示されている。
【0007】
前記アルミニウム合金クラッド材は、犠牲陽極材表面に前記貴な化合物が存在するため、皮膜成分である水酸化アルミニウムの沈着が妨げられて皮膜の生成が抑制され、小さな皮膜欠陥が多くなり孔食発生が分散されるとしている。そのため、皮膜欠陥が少ない場合のように局在化した孔食の深さ方向への進行が抑制され、アルカリ腐食環境においても貫通孔食の発生が防止できるとしている。 しかし、これらの技術は後述するステンレス鋼とアルミニウム合金のカソード特性の差に起因する腐食を想定していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平10−072634号公報
【特許文献2】特開平11−140571号公報
【0009】
本発明者等は、アルミニウム合金製の熱交換器本体とステンレス鋼製の配管との接合部で発生する腐食の原因を明らかにすべく、アルミニウム合金とステンレス鋼について、常温(25℃)及び高温(90℃)のアルカリ腐食液を用いて分極曲線を測定した。その結果、この腐食環境ではアルミニウム合金の自然電位においてステンレス鋼のカソード電流が著しく大きくなっていることを見出した。
図2に25℃における測定結果を、図3に90℃における測定結果を例示する。測定はアルミニウム合金としてJIS3003、ステンレス鋼としてSUS316を用い、アルカリ腐食液として、NaCl:0.226g/L、NaSO:0.089g/Lを含有し、水酸化ナトリウム水溶液でpHを11に調整した水溶液を用いて、それぞれ分極曲線を測定した。
【0010】
図2に示すように、測定温度が25℃においては、JIS3003アルミニウム合金の自然電位−770mV(vs.Ag/AgCl(飽和KCl))におけるSUS316のカソード電流密度が7μA/cmであった。
一方、図3に示すように90℃においては、JIS3003アルミニウム合金の自然電位−970mV(vs.Ag/AgCl(飽和KCl))におけるSUS316のカソード電流密度は100μA/cmと、非常に大きなカソード電流密度となった。
【0011】
このカソード電流は水の還元反応(2HO+2e→H+2OH)に基づくもので、水酸化物イオンを発生させる。すなわち、高温でかつアルカリ性腐食環境において、アルミニウム合金の溶解により発生した電子は、よりカソード反応が進行しやすいステンレス鋼に集中し、ステンレス鋼周囲の高pH化(強アルカリ化)を招くことになる。その結果、アルミニウムは両性金属であるから、アルカリにより溶解し、図4(b)に模式図として示すように極端な腐食部13が生成されるものと考察できる。
この考察を基に、図4(a)に示すようにアルミニウム合金板11、11との間にステンレス鋼板12を挟み、高温でかつアルカリ性腐食環境においてアルミニウム合金板11の腐食試験を実施した結果、図4(b)に示すような腐食部13を観察することができた。
この観察結果から、アルミニウム合金の自然電位におけるステンレス鋼のカソード電流密度を小さくして、上記水の還元反応をステンレス鋼とアルミニウム合金とに分散することで、高温のアルカリ性腐食環境下におけるステンレス鋼周囲の極端な腐食を抑制できる、との知見を得た。
【0012】
本発明者は上記知見に基づき、高温のアルカリ腐食環境中でアルミニウム合金とステンレス鋼の接合体が良好な耐食性を示す要件を明確にすべく検討を進めた。その結果、アルミニウム合金に特定の元素を所定量添加することにより、アルミニウム合金とステンレス鋼のカソード分極曲線において、アルミニウム合金の自然電位におけるステンレス鋼のカソード電流密度を小さくすること、すなわち同じ電極電位におけるアルミニウム合金とステンレス鋼とのカソード電流密度の差を小さくすることで、アルミニウム合金の腐食環境の強アルカリ化を防ぎ、これにより、高温のアルカリ腐食液中で発生する極端な腐食、所謂カソード腐食を抑制できることを見出した。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は以上の知見に基づき、ロングライフクーラントのような弱アルカリ性腐食溶液で高温下の環境であっても、アルミニウム合金とステンレス鋼との接合部で腐食が発生せず、十分な防食効果が得られるアルミニウム合金を提供し、該アルミニウム合金製熱交換器本体とステンレス鋼配管とからなる熱交換器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明のアルミニウム合金は、pH9〜11、温度80〜100℃の腐食雰囲気中でステンレス鋼との接合部を構成するアルミニウム合金であって、必須元素として(a)Fe:0.85〜1.5mass%、(b)Ni:0.85〜1.5mass%及び(c)Si:0.85〜2.0mass%から成る群から選択されるいずれか1種、(a)及び(b)、或いは、(a)及び(c)を含有し、選択元素として(a)〜(c)の1種又は2種の元素を前記各含有量の下限値未満において更に含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなる。
【0015】
本発明のアルミニウム合金とステンレス鋼との接合体は、pH9〜11、温度80〜100℃の腐食雰囲気中で使用可能なアルミニウム合金とステンレス鋼との接合体であって、前記アルミニウム合金が必須元素として(a)Fe:0.85〜1.5mass%、(b)Ni:0.85〜1.5mass%及び(c)Si:0.85〜2.0mass%から成る群から選択されるいずれか1種、(a)及び(b)、或いは、(a)及び(c)を含有し、選択元素として(a)〜(c)の1種又は2種の元素を前記各含有量の下限値未満において更に含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金であり、該アルミニウム合金の自然電位におけるステンレス鋼のカソード電流密度が20μA/cm以下であるアルミニウム合金とステンレス鋼との接合体である。
【0016】
本発明の熱交換器は、アルミニウム合金製熱交換器本体、該熱交換器本体に設けられたステンレス鋼製配管とからなり、前記熱交換器本体と配管との接合部がpH9〜11、温度80〜100℃の腐食雰囲気に曝されている熱交換器であって、前記アルミニウム合金が必須元素として(a)Fe:0.85〜1.5mass%、(b)Ni:0.85〜1.5mass%及び(c)Si:0.85〜2.0mass%から成る群から選択されるいずれか1種、(a)及び(b)、或いは、(a)及び(c)を含有し、選択元素として(a)〜(c)の1種又は2種の元素を前記各含有量の下限値未満において更に含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金であり、該アルミニウム合金の自然電位における前記ステンレス鋼のカソード電流密度が20μA/cm以下である熱交換器である。
【発明の効果】
【0017】
本発明のアルミニウム合金は、Ni、Fe及びSiの1種または2種以上を規定量含有しているので、pH9〜11、温度80〜100℃のアルカリ腐食液中でステンレス鋼と接合しても、腐食深さが基準となる9μm以下であり、高温でのアルカリ耐食性に優れ、圧延加工性、ろう付け性も良好である。
【0018】
本発明は、例えば輸送機用アルミニウム合金製熱交換器として、熱交換器本体とステンレス鋼製配管との接合部近傍における優れたアルカリ耐食性を有し、熱交換器の耐久性を著しく向上させることができ、工業上顕著な効果を奏するものである。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】プレート型水冷式熱交換器を示すもので(a)は全体の説明図、(b)は部分説明図ある。
図2】25℃のアルカリ腐食液中における、アルミニウム合金(JIS3003)、ステンレス鋼(SUS316)および後述する本発明例8のアルミニウム合金のカソード分極曲線を示すグラフである。
図3】90℃のアルカリ腐食液中における、アルミニウム合金(JIS3003)、ステンレス鋼(SUS316)および本発明例8のアルミニウム合金のカソード分極曲線を示すグラフである。
図4】(a)は腐食試験(アルカリ試験)におけるアルミニウム試験片とステンレス鋼試験片との接合部断面を示す模式図、(b)は腐食部の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明は、pH9〜11で温度80〜100℃で使用する熱交換器におけるアルミニウム合金とステンレス鋼の接合部分で発生する腐食を防止したアルミニウム合金、該アルミニウム合金で作成した熱交換器である。
【0021】
以下、本発明を構成するアルミニウムに添加する金属成分の限定理由につき説明する。
A.アルミニウム合金
Fe:Feはアルミニウム合金中において固溶又はAl−Fe系の化合物を形成する。アルカリ腐食環境においては、この化合物の表面上でカソード反応(2HO+2e→H+2OH)の進行が促進され、合金のカソード電流を増大させる。0.85%未満ではカソード電流が十分でなく、1.5%を超えると製造時の圧延加工で材料が割れてしまう。従ってFeの添加量は0.85〜1.5%が好ましく、更に好ましくは、1.0〜1.3%である。
【0022】
Ni:Niはアルミニウム合金中において固溶又はAl−Ni系の化合物を形成する。アルカリ腐食環境においては、Feの場合と同様に、この化合物の表面上でカソード反応の進行が促進され、合金のカソード電流を増大させる。0.85%未満ではカソード電流が十分でなく、1.5%を超えると製造時の圧延加工で材料が割れてしまう。従ってNiの添加量は0.85〜1.5%が好ましく、更に好ましくは、1.0〜1.3%である。
【0023】
Si:SiはAl合金中において固溶又はAl−Si−Fe系の化合物を形成する。アルカリ腐食環境においては、FeやNiと同様に、この化合物の表面上でカソード反応の進行が促進され、合金のカソード電流を増大させる。0.85%未満ではカソード電流が不十分である。一方、冷却器本体と蓋との接合にろう付けを使用する可能性を考慮すると、2.0%を超えるとろう付け加熱時に材料が溶融しやすくなり不都合である。従ってSiの添加量は0.85〜2.0%が好ましく、更に好ましくは、1.0〜1.5%である。
【0024】
Fe、Ni、及びSiは、1種又は2種以上を添加する。
1種のみを添加する場合には、その成分について規定された前記範囲内で添加する。
2種以上を添加する場合には、複数の成分について規定された前記範囲内であってもよく、結果としてAl合金の自然電位におけるステンレス鋼のカソード電流密度が20μA/cm以下となれば、その配合量でよい。
【0025】
また、冷却器を構成するアルミニウム合金には、不可避的不純物として、Mn、Mg、Cr等が個々の成分含有量として0.05%以下含まれていてもよい。
【0026】
B.配管の素材(ステンレス鋼)
本発明において配管を構成するステンレス鋼は、熱交換器本体を構成するアルミニウム合金の自然電位におけるステンレス鋼のカソード電流密度が20μA/cm以下であるステンレス鋼であれば特に限定されるものではなく、熱交換器の形状等の条件によって種々のステンレス鋼を選択可能である。例えば、SUS304、SUS316等のステンレス鋼を好適に用いることができる。
【実施例】
【0027】
以下に、本発明をその実施形態(本発明例)と比較例及び参考例により具体的に説明する。
本実施形態(発明例)は、アルミニウム合金とステンレス鋼の接合体として、図4に示すように、アルミニウム合金製熱交換器本体(冷却器及び蓋)を構成するものと同じアルミニウム合金板11と、ステンレス鋼製配管を構成するステンレス鋼と同じステンレス鋼板12とを接合し、pH9〜11で温度80〜100℃のロングライフクーラントを封入した実験用容器内で実施した。
なお、図1に示す熱交換器を、本発明例のアルミニウム合金で熱交換器本体1を、ステンレス鋼で配管3を製造し、pH9〜11で温度80〜100℃のロングライフクーラントを封入した熱交換器を組み立て、実験した結果、同じ効果を得ることができた。
【0028】
本発明例1〜24、
連続鋳造により、表1に示す組成を有するアルミニウム合金の鋳塊を製作し、該鋳塊を面削後、540℃×3時間の均質化処理し、次いで熱間圧延して厚さ5mmの熱延板を得た。これを冷間圧延、中間焼鈍および最終冷間圧延により厚さ0.25mmの板を作成し試料とした。
【0029】
比較例25〜48及び参考例49〜52
表2に示す組成のアルミニウム合金を本発明例と同様の方法で圧延し、厚さ0.25mmの板を作成し試料とした。
【0030】
ステンレス鋼は市販のSUS316あるいはSUS304(いずれも厚さ0.10mm)を試料として使用した。
【0031】
【表1】
【0032】
【表2】
【0033】
(1)分極曲線の測定
上記のようにして作製したアルミニウム合金およびステンレス鋼について、カソード分極曲線をそれぞれ測定した。測定は本発明例のアルミニウム合金板、及びステンレス鋼板を15×40mmに切り出し、測定面10×10mmを残して裏面と端部をマスキングして測定に供した。
腐食性溶液として、0.226gのNaClと0.089gのNaSOを蒸留水1Lに溶解して、Cl=195ppm、SO2−=60ppmとした水溶液にNaOH水溶液を加えてpHを8、9、11及び12に調整し、アルカリ腐食液とした。
測定温度は70、80、90及び100℃とした。
得られたカソード分極曲線より、Al合金の自然電位におけるステンレス鋼のカソード電流密度を求めた。一例として本発明例8における測定結果を図3に示す。図3ではアルミニウム合金の自然電位においてSUS316のカソード電流密度が約13μA/cmとなった。
【0034】
(2)アルカリ腐食試験
上記各本発明例のアルミニウム合金板を幅30mm、長さ50mmに切り出した2枚と、同様にステンレス鋼を幅30mm、長さ52mmに切り出した1枚を用意し、図4に示すようにアルミニウム合金板11とステンレス鋼板12とを長さ方向に重ね、腐食試験を行った。
【0035】
腐食試験は、上記カソード分極曲線を測定したのと同じアルカリ腐食液(Cl=195ppm、SO2−=60ppm)に、露出面に対して比液量が6mL/cmとなるように浸漬した。1回の浸漬時間を8時間とし、次いで大気中で16時間放置するサイクル試験を3ヶ月間実施した。試験後、試験片のステンレス鋼近傍のアルミニウム合金板の断面を観察し、腐食部13における最大腐食深さを測定した。なお、最大腐食深さについては、10μm未満は合格、それ以上は不合格である。
【0036】
(3)圧延加工性
仕上げた圧延板の割れの有無を目視で観察し、割れの発生が見られたものを、圧延加工性不良と判断した。
【0037】
(4)ろう付け性
アルミニウム合金製熱交換器本体1は冷却器3と蓋4とをろう付けで接合する。そのため、各アルミニウム合金板に窒素雰囲気下でろう付け相当の加熱処理(600℃で3分間)を施し、材料の溶融状態を目視で観察し、溶融が発生が見られたものを、ろう付け性不良と判断した。
なお、自己腐食性が不良な比較例についてもろう付け性を判断した。
【0038】
各実施例、比較例、参考例で作成した試料の90℃における分極曲線測定結果をカソード電流密度(μA/cm)として表3、4に示す。
各実施例、比較例、参考例につき実施したアルカリ腐食性試験の結果を腐食深さとして表3、4に示す。
各実施例、比較例、参考例に示す合金の圧延加工性については、各実施例、参考例は満足するものであった。比較例についてはその判断結果を表4の備考2欄に示す。
各実施例、比較例、参考例に示すろう付け性については、各実施例、参考例は満足するものであった。比較例についてはその判断結果を表4の備考2欄に示す。
【0039】
【表3】
【0040】
【表4】
【0041】
本発明例1〜18のアルミニウム合金は、Ni、Fe及びSiを規定量含有しているので、pHが11、温度が90℃のアルカリ腐食液中で、アルミニウム合金の自然電位におけるSUS316の電流密度が20μA/cm以下の範囲内となっている。その結果、腐食深さが最大でも8μmであり、基準とする9μm以下であり良好な高温のアルカリ耐食性を示し、圧延加工性、ろう付け性も良好であった。
【0042】
本発明例19〜21は、Ni、Fe及びSiを規定量含有したアルミニウム合金であり、本発明の規定する範囲内でアルカリ腐食液のpHと温度とを変化させ実施例である。いずれも、アルミニウム合金の自然電位におけるSUS316の電流密度が20μA/cm以下の範囲内にあった。その結果、腐食深さが温度100℃と過酷な条件でも5μmであり良好な高温アルカリ耐食性を示し、圧延加工性、ろう付け性も良好であった。
【0043】
本発明例22〜24は、アルミニウム合金がNi、Fe及びSiを規定量含有しているので、pHが11、温度が90℃のアルカリ腐食液中で、アルミニウム合金の自然電位におけるSUS304の電流密度が20μA/cm以下の範囲内にあった。その結果、腐食深さが0μmであり良好な高温のアルカリ耐食性を示し、圧延加工性、ろう付け性も良好であった。
【0044】
比較例25および26では、アルミニウム合金がNiを含有せず、またFeとSiの含有量が少な過ぎたため、SUS316の電流密度が20μA/cm以上になって最大腐食深さが不合格であった。
【0045】
比較例27では、アルミニウム合金がNiを含有せず、FeとSiとを含有するが、Feの含有量が多過ぎたため、最大腐食深さは合格であったが、圧延加工性が劣った。
【0046】
比較例28、29では、アルミニウム合金がFe、Ni、Siを含有するもののいずれも含有量が少な過ぎたため、ステンレス鋼の電流密度が20μA/cm以上になって最大腐食深さが不合格であった。
【0047】
比較例30では、アルミニウム合金がFe、Ni、Siを含有するが、Fe含有量とNi含有量が多過ぎたため、最大腐食深さは合格であったが圧延加工性が劣った。
【0048】
比較例31および32では、アルミニウム合金がFe、Ni、Siを含有するが、いずれも含有量が少な過ぎたため、SUS316の電流密度が20μA/cm以上になって最大腐食深さが不合格であった。
【0049】
比較例33では、アルミニウム合金がFe、Ni、Siを含有するが、Niの含有量が多過ぎたため、最大腐食深さは合格であったが圧延加工性が劣った。
【0050】
比較例34、35では、アルミニウム合金はNiを含有せず、Fe、Siを含有するが、いずれも含有量が少な過ぎたため、SUS316の電流密度が20μA/cm以上になって最大腐食深さが不合格であった。
【0051】
比較例36では、アルミニウム合金がNiを含有せず、Fe、Siを含有するが、Si含有量が多過ぎたため、ろう付け性が不良であった。
【0052】
比較例37では、アルミニウム合金はNiを含有せず、FeとSiを含有するがいずれも含有量が少な過ぎたため、SUS316の電流密度が20μA/cm以上になって最大腐食深さが不合格であった。
【0053】
比較例38では、アルミニウム合金はNiを含有せず、FeとSiを含有するが、Fe含有量が多過ぎたため、最大腐食深さは合格であったが圧延加工性が劣った。
【0054】
比較例39では、アルミニウム合金はFe、Ni、Siを含有するが、いずれも含有量が少な過ぎたため、SUS316の電流密度が20μA/cm以上になって最大腐食深さが不合格であった。
【0055】
比較例40は、アルミニウム合金はFe、Ni、Siを含有するが、Niの含有量が多過ぎたため、最大腐食深さは合格であったが圧延加工性が劣った。
【0056】
比較例41、42および43は、比較例25のアルミニウム合金において、本発明の規定する範囲内でアルカリ腐食液のpHと温度とを変化させた例である。いずれも、アルミニウム合金の自然電位におけるSUS316の電流密度が20μA/cm以上になって最大腐食深さが不合格であった。
【0057】
比較例44は、比較例25のアルミニウム合金において、本発明の規定する範囲外までアルカリ腐食液のpHを上げた例である。見かけ上は局所腐食が認められないほど自己腐食が過大であった。
【0058】
比較例45は、本発明例2のアルミニウム合金において、本発明の規定する範囲外までアルカリ腐食液のpHを上げた例である。見かけ上は局所腐食が認められないほど自己腐食が過大であった。
【0059】
比較例46は、アルミニウム合金はNiを含有せず、FeとSiを含有するが、いずれも含有量が少な過ぎたため、SUS304の電流密度が20μA/cm以上になって最大腐食深さが不合格であった。
【0060】
比較例47は、アルミニウム合金はFe、Ni、Siを含有するものの、いずれも含有量が少な過ぎたため、SUS304の電流密度が20μA/cm以上になって最大腐食深さが不合格であった。
【0061】
比較例48は、アルミニウム合金はNiを含有せず、Fe、Siを含有するもののいずれも含有量が少な過ぎたため、SUS304の電流密度が20μA/cm以上になって最大腐食深さが不合格であった。
【0062】
参考例49、50では、比較例25のアルミニウム合金において、本発明の規定する範囲外までアルカリ腐食液のpHあるいは温度を低下させた例である。いずれも、腐食環境がよりマイルドとなり、アルミニウム合金の自然電位におけるSUS316の電流密度が20μA/cm以下の範囲内になった。その結果、腐食深さが10μm未満であり良好な高温でのアルカリ耐食性を示した。
【0063】
参考例51、52では、本発明例2のアルミニウム合金において、本発明の規定する範囲外までアルカリ腐食液のpHあるいは温度を低下させた例である。いずれも、腐食環境がよりマイルドとなり、アルミニウム合金の自然電位におけるSUS316の電流密度が20μA/cm以下の範囲内になった。その結果、腐食深さが0μmとなり良好な高温でのアルカリ耐食性を示した。
【0064】
本発明によれば、アルミニウム合金がNi、Fe及びSiを規定量含有しているので、pH9〜11、温度80〜100℃のアルカリ腐食液中でも、腐食深さが基準となる10μm以下(本発明例では8μm以下)であり、良好な高温でのアルカリ耐食性を示し、圧延加工性、ろう付け性も良好である。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明によれば、例えば輸送機用アルミニウム合金製熱交換器として用いることができ、ステンレス鋼製配管接合部近傍における優れたアルカリ耐食性を有し、熱交換器の耐久性を著しく向上させるものであり、工業上顕著な効果を奏するものである。
【符号の説明】
【0066】
1・・・アルミニウム合金製熱交換器
2・・・配管(ステンレス鋼製継手)
3・・・冷却器
4・・・蓋
11・・・アルミニウム合金板
12・・・ステンレス鋼板
13・・・腐食部
図1
図2
図3
図4