(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
微生物により排水中の有機物を分解除去する生物処理部と、前記生物処理部の下流側に設けられ、前記排水中から塩を生成するイオン分を除去する脱塩部とを含む排水処理装置であって、
前記生物処理部の上流側に、前記排水中からフッ素イオンを除去して前記排水中のフッ素イオンの濃度を低減させるフッ素濃度低減部を備える排水処理装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
排水中には、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム(石膏)、フッ化カルシウムなどのカルシウムを含む塩が溶解している。イオン交換膜や逆浸透膜を用いた脱塩処理では、排水中の上記塩が濃縮される。濃縮により飽和溶解度を超える条件となると、上記の塩がスケールとしてイオン交換膜や逆浸透膜の表面に析出する。このため、スケールにより膜が目詰まりして閉塞し、脱塩処理能力が低下してしまう。特にフッ化カルシウムは飽和溶解度が低く、析出しやすいスケール成分である。
【0005】
イオン交換樹脂法では、イオン交換樹脂のイオン交換容量の制約から、排水中の溶解塩類濃度が500mg/l以上の場合は多量のイオン交換樹脂が必要となり、処理コストが増大するとされている。一般に、工業排水では1000mg/lを超えるので、イオン交換樹脂法は工業排水の処理には適さない。
【0006】
スケールの発生を防止するため、一般に排水中にホスホン酸系スケール防止剤(Ondeo Nalco Company製、商品名:PC191、Kimic Chemitech(s) PTE LTD製、商品名:Kimic SI)等のスケール防止剤が添加される。スケール防止剤を添加することにより、フッ化カルシウムの場合は、水に対する飽和溶解度の約20倍程度まで濃縮されてもスケールの析出を防止することができる。
【0007】
しかし、スケール防止剤を添加しても、原水中のフッ素イオン濃度が高い場合には、濃縮倍率が低くてもフッ化カルシウムの飽和溶解度の到達してしまう。このため、浄化水の回収率は低く抑えられていた。
【0008】
本発明は、工業排水中のフッ素イオン濃度を低減して、浄化水の回収率を向上させることができる排水処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明は、微生物により排水中の有機物を分解除去する生物処理部と、前記生物処理部の下流側に設けられ、前記排水中から塩を生成するイオン分を除去する脱塩部とを含む排水処理装置であって、前記生物処理部の上流側に、前記排水中からフッ素イオンを除去して前記排水中のフッ素イオンの濃度を低減させるフッ素濃度低減部を備える排水処理装置を提供する。
【0010】
上述のように、排水中のフッ素を含む塩、特にフッ化カルシウムは水に対する溶解度が極めて小さい。フッ化カルシウムの水に対する溶解度積は式(1)で表される。
溶解度積 K
sp=[Ca
2+濃度]×[F
−濃度]
2 (単位はモル濃度)…(1)
溶解度積K
spは一定温度で定数である。溶解度積K
spは排水中のフッ素イオン濃度の二乗に比例するので、脱塩部の上流で排水中のF
−濃度を低減すれば、スケール析出の防止に効果を発揮する。この結果、脱塩部での水の回収率を高めることが可能となる。
本発明では、排水中のフッ素イオンの濃度を低減させるフッ素濃度低減部を設けている。排水中のフッ素イオンの濃度を低減させるには、フッ素を含む塩として析出させる手段、あるいは、他の塩と共沈させる手段を採用することが工業上有利である。しかし、この過程で排水中に浮遊粒子が発生することになる。この浮遊粒子が脱塩部に流入すると、脱塩部での膜の閉塞に繋がる恐れがある。
生物処理部では汚泥等の浮遊物質と排水とが分離され、排水のみが脱塩部に搬送される。従って、生物処理部の上流にフッ素濃度低減部を設置すれば、フッ素濃度低減手段により発生した浮遊粒子は、最終的に生物処理部で排水と分離され、浮遊粒子を含まない排水を脱塩部に送給することができる。生物処理部と脱塩部との間に固液分離する装置を設置しなくて済むため、装置が簡略化されるので有利である。
【0011】
上記発明において、前記フッ素濃度低減部が、前記排水中に種結晶が投入可能とされた種結晶投入部を含む。
【0012】
上記発明では、フッ素濃度低減部において排水中に種結晶が直接投入される。こうすることで、排水中に含まれるフッ素イオンや塩を形成するイオン(例えばカルシウムイオン)と種結晶とが効率良く接触することになる。このため、種結晶の表面にフッ素を含む塩が析出しやすくなり、排水からのフッ素除去率を向上させることができる。
【0013】
この場合、前記フッ素を含む塩を析出させた後に前記種結晶を沈殿させ、前記沈殿した種結晶を前記排水中に再投入する循環部を含むことが好ましい。
【0014】
表面にフッ素を含む塩が析出することにより種結晶が粗大化するが、ある程度の大きさになると種結晶は自然に分割する。分割し小さくなった種結晶の表面にも、フッ素を含む塩が析出する。このように、種結晶は排水処理装置系内で再利用可能である。
フッ素を含む塩が析出した種結晶を沈殿させ回収し、フッ素イオン濃度が高い排水中に再投入すれば、種結晶の利用効率を高めることができるので有利である。
【0015】
あるいは、上記発明において、前記フッ素濃度低減部が、容器と、該容器内に収納され、内部に種結晶を収納する流動床とを含み、前記容器の下方から前記排水が供給され、前記排水が前記流動床を通過するときに前記種結晶の表面に前記フッ素を含む塩を析出させて、前記排水中の前記フッ素イオンの濃度を低減させる。
このように、流動床を適用したフッ素濃度低減部としても、種結晶の表面にフッ素を含む塩を析出させて、排水中のフッ素イオン濃度を低減することができる。
【0016】
あるいは、上記発明において、前記フッ素濃度低減部が、前記排水中にアルミニウム系凝集剤を投入する凝集剤投入部を含む。
このように、アルミニウム系凝集剤を適用したフッ素濃度低減部とし、水酸化アルミニウムとともにフッ素を沈殿させることによっても、排水中のフッ素イオン濃度を低減させることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、排水中のフッ素イオン濃度が低減されるので、脱塩部でのスケール発生を抑制することができる。この結果、脱塩部での水の回収率を高めることが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1に、排水処理装置のブロック図を示す。排水処理装置1は、上流側から前処理部2、生物処理部3、及び、脱塩部4を備える。
排水処理装置1で処理されるプラントからの排水(原水)中には、スケール成分として、少なくともフッ素イオン及びカルシウムイオンを含む。
【0020】
前処理部2は、プラントからの原水を受け入れ、原水中の油分、重金属類、浮遊粒子などを除去する。
【0021】
生物処理部3は、前処理部2で処理された排水中の有機物を微生物により分解処理する。生物処理部3は、膜分離活性汚泥法を用いた処理装置(MBR:Membrane Bio−Reactor)、生物膜法を用いた処理装置(BFR:Bio−Film Reactor)、曝気槽と沈殿槽とを組み合わせた構成などとされる。生物処理部3は、MBRとBFRとを組み合わせた構成とされても良い。曝気槽と沈殿槽とを組み合わせた構成の場合は、脱塩部4の脱塩装置での閉塞を防止するために、沈殿槽の後にフィルタ等のろ過装置が設けられる。
【0022】
MBRは、0.1μm程度の孔を有する膜が生物反応槽中の排水に浸漬される。生物反応槽中の排水に微生物が存在し、微生物が排水中の有機物を分解する。生物反応槽中の汚泥処理に役立つ微生物は、最小で0.25μm程度である。従って、生物反応槽中の排水は、上記膜により排水と微生物とに固液分離され、排水のみがMBRから排出される。
【0023】
BFRでは、表面に微生物の膜が形成された支持体が内部に設置される。支持体表面の微生物が排水と接触した時に、微生物が排水中の有機物を分解処理する。
【0024】
MBRとBFRとを組み合わせた構成の場合には、排水中の有機物量(COD)に応じて、MBR及びBFRの運転が制御される。例えば、排水中のCODが低い場合にはMBRのみを運転する。CODの変動が大きくなった場合には、MBRと並行してBFRを稼働させる。
【0025】
脱塩部4は、排水中に含まれるイオンを除去する。脱塩部4は、逆浸透膜式純水装置、あるいは、静電脱塩装置を有する。
【0026】
逆浸透膜式純水装置は、逆浸透膜(RO膜)は水のみを透過させる。逆浸透膜を透過した水(処理水)は、工業用水として再利用される。逆浸透膜の上流側はイオンが濃縮された排水(濃縮水)となっている。濃縮水は、逆浸透膜式純水装置から排出されることにより、排水処理装置1の系外に排出される。
【0027】
静電脱塩装置は、一対の対向する多孔質電極を有し、正極側には陰イオン交換膜が設置され、負極側には陽イオン交換膜が設置される。電極の間を排水が流通可能になっている。
【0028】
正極がプラス、負極がマイナスになるように電流を流すと、排水中の陰イオンは正極側に移動し、陰イオン交換膜を透過して多孔質の正極に吸着される。一方、排水中の陽イオンは負極側に移動し、陽イオン交換膜を透過して多孔質の負極に吸着される。従って、電極間を流通する際に排水中のイオンが除去され、処理水が回収される。回収された処理水は、工業用水として再利用される。静電脱塩装置を用いると、逆浸透膜式純水装置よりも水の回収率を向上させることができるので有利である。
【0029】
所定時間経過した時点で通水を遮断し、各電極に流す電流を反転させて、正極をマイナス、負極をプラスにする。こうすると、多孔質電極中に吸着されていたイオンが放出され、イオン交換膜を透過して排水中に移動する。この後、イオンを含む排水が静電脱塩装置から排出され、ドレインとして排水処理装置1の系外に排出される。
【0030】
脱塩部4で処理される排水中のフッ素イオン濃度が高い場合、スケール防止剤を添加してもスケールが発生する。逆浸透膜式純水装置の場合、逆浸透膜の上流側はイオン濃度が高い排水に常時晒されているため、一度スケールが発生し逆浸透膜に付着するとスケールが成長しやすくなる。静電脱塩装置の場合、排水が定期的に装置外に排出されるので逆浸透膜の場合よりもスケールは発生しにくいが、同様にイオン交換膜にスケールが付着するとスケールが成長して膜が閉塞する可能性がある。従って、排水処理装置1は、脱塩部4の上流側にフッ素濃度低減部を備える。
【0031】
排水処理装置1において、フッ素濃度低減部は生物処理部3の上流側に設置される。すなわち、フッ素濃度低減部は、前処理部2内に設置されても良いし、前処理部2と生物処理部3との間に設置されても良い。
【0032】
(第1実施形態)
図2は、第1実施形態に係る排水処理装置の前処理部の概略図である。
第1実施形態の排水処理装置の前処理部2の油分離装置10は、プラントからの排水(原水)を受け入れる。油分離装置10は、槽内に傾斜部が設けられ、傾斜部にオイルセパレータ12が設置される。オイルセパレータ12は複数の波板状の板が配列された構成となっている。油分離装置10に流入した原水がオイルセパレータ12を通過する際に、原水中に含まれる油分が水面に浮上する。水面に浮上した油分は回収され排出される。油分が除去された排水は、ポンプ11により油分離装置10から排出される。
図2では、油分離装置10の槽内(排水中)に水中ポンプが設置されているが、槽外にポンプが設置される構成でも良い。
【0033】
油分離装置10から排出された排水は、反応槽20に搬送される。反応槽20に、キレートタンク21、凝集剤タンク22、及びアルカリタンク23が接続される。
【0034】
キレートタンク21は、液体キレート化剤を収容する。液体キレート化剤は、ミヨシ油脂(株)製、商品名:エポフロックL−1、東ソー(株)製、商品名:TX−10、Kimic Chemitech(s) PTE LTD製、商品名:Kimic CL、エボニックデグサジャパン(株)製、商品名:TMT 15等とされる。所定量の液体キレート化剤が、キレートタンク21から反応槽20中の排水に供給される。反応槽20において、液体キレート化剤が排水中に含まれる重金属類(Cr、Hg、Ag、Cu、Pb、Cd、Zn、Ni、Co、Fe、Mn等)をキレート化して不溶化させる。
【0035】
凝集剤タンク22は、凝集剤を収容する。凝集剤は、鉄系凝集剤水溶液とされる。鉄系凝集剤は、塩化第二鉄(FeCl
3)、ポリ鉄などが挙げられる。所定量の凝集剤が、凝集剤タンク22から反応槽20中の排水に供給される。反応槽20において、凝集剤が排水中に含まれる重金属類のキレート化合物や浮遊粒子を凝集化させる。これにより、重金属類のキレート化合物や浮遊粒子を含む粗大な凝集粒子が生成する。
【0036】
反応槽20には撹拌装置が設置されており、反応槽20内で重金属類のキレート化合物や浮遊粒子の凝集粒子が懸濁した状態となっている。
【0037】
アルカリタンク23は、NaOH水溶液などのアルカリ性水溶液を収容する。反応槽20中の排水のpHが管理され、所定のpH範囲になるように所定量のアルカリ性水溶液がアルカリタンク23から反応槽20に供給されるようになっている。フッ素除去率を考慮すると、排水はpH6〜9.5程度に管理されることが好ましい。
【0038】
反応槽20と熟成槽24とは、隔壁を介して並んで配置されている。反応槽20中の排水の水面は、熟成槽24中の排水の水面よりも高く設定されている。従って、反応槽20中の排水は、水面差により隔壁を超えて熟成槽24に流入するようになっている。排水とともに凝集粒子も熟成槽24に流入する。
【0039】
第1実施形態におけるフッ素濃度低減部は、種結晶投入部25、熟成槽24及び沈殿槽30で構成される。
【0040】
種結晶投入部25から、種結晶が排水中に投入される。
図2において、種結晶投入部25は、反応槽20に種結晶を投入可能としている。本実施形態において、種結晶は、表面にフッ素を含む塩としてフッ化カルシウム(CaF
2)、フルオロアパタイト(Ca
5(PO
4)
3F)等のフッ素化合物を析出可能なものとされる。具体的にリン鉱石、蛍石、炭酸カルシウム等とされる。種結晶は、例えば反応槽20の隔壁近傍に投入される。こうすることにより、種結晶は排水とともに反応槽20から熟成槽24にしやすくなる。あるいは、熟成槽24中の排水に種結晶投入部25から種結晶が投入可能とされても良い。
【0041】
熟成槽24には撹拌装置が設置されている。熟成槽24内で重金属類のキレート化合物や浮遊粒子の凝集粒子、及び、種結晶が懸濁した状態となっている。
熟成槽24において、種結晶の表面に上述のフッ素化合物(フッ素を含む塩)が析出する。フッ素化合物の析出により、排水中に含まれるフッ素イオンの濃度が低減される。熟成槽24での排水の滞留時間は、反応槽20での滞留時間より長くなるように設定されている。
【0042】
種結晶の表面でフッ素化合物は等方成長し、種結晶が粗大化する。しかし、結晶が粗大化すると表面に析出するフッ素化合物は異方成長するようになる。これにより結晶内にひずみが生じて、種結晶が自然に分割する。分割し小さくなった種結晶の表面にフッ素化合物が析出する。
【0043】
種結晶及び凝集粒子を含む排水は、熟成槽24から排出され、造粒槽27に搬送される。
図2において、熟成槽24と造粒槽27との間に、ポリマータンク26が連絡する。ポリマータンク26は、高分子凝集剤を収容する。高分子凝集剤は、アニオン系高分子凝集剤、カチオン系高分子凝集剤または両性高分子凝集剤とされ、具体的にアニオン系ポリマー(三菱重工メカトロシステムズ(株)製、商品名:ヒシフロック305)とされる。所定量の高分子凝集剤が、ポリマータンク26から排水中に供給される。
【0044】
本実施形態において、造粒槽27にポリマータンク26が接続され、造粒槽27に上記の高分子凝集剤が投入されても良い。造粒槽27において、種結晶表面へ凝集粒子(キレート化合物及び浮遊粒子)及び汚泥を付着させ、沈降速度の遅い粒子も早く沈降するようにする。
【0045】
造粒槽27から排出された排水は、沈殿槽30に搬送される。沈殿槽30において、重金属類のキレート化合物及び浮遊粒子の凝集粒子、及び、フッ素化合物が析出した種結晶は、沈殿槽30の底部に沈殿する。沈殿した凝集粒子及び種結晶は、沈殿槽30の底部から前処理部2(排水処理装置1)の系外に排出される。凝集粒子や種結晶が沈殿除去された排水は、沈殿槽30内の排水液面近傍から沈殿槽30外に排出される。沈殿槽30から排出された排水は、後段の生物処理部3に搬送される。
【0046】
凝集粒子や種結晶が大きいほど、沈殿槽30での沈殿速度が速くなる。高速で沈殿させる必要がある場合には、
図2のように造粒槽27を設ける。一方、高速での沈殿が必要でない場合は、造粒槽27を省略することが可能である。この場合、ポリマータンク26は熟成槽24に連絡して、熟成槽24内にスケール防止剤が供給される構成とすることが好ましい。
【0047】
本実施形態では、生物処理部3に搬送される排水中のフッ素イオン濃度は、原水に対して低減されている。また、沈殿槽30の上部から排水を排出するので、生物処理部3に搬送される排水は、反応槽20や熟成槽24中の排水に比べて浮遊粒子量が大幅に低減されている。更に、生物処理部3のMBRを通過させることにより、排水と浮遊粒子とが分離される。このため、脱塩部4に搬送される排水は、フッ素イオン濃度が低減されているとともに、浮遊粒子を含まない。このため、脱塩部4の逆浸透膜やイオン交換膜でのスケールの発生を抑制することができる。
【0048】
表1に、種結晶を添加しないで排水処理した場合における排水中のフッ素イオン濃度及びカルシウムイオン濃度と、フッ化カルシウムの過飽和倍率の計算結果を示す。フッ素処理をしない場合、脱塩部に流入する排水中のフッ素(F
−)濃度及びカルシウム(Ca
2+)濃度は、原水と同じである。水回収率は、脱塩部4に流入した排水量に対する処理水量の割合を表している。水回収率30%及び50%でのフッ素イオン及びカルシウムイオンの濃度は、脱塩部での濃縮水中の各イオンの値である。過飽和倍率は、CaF
2飽和水溶液(25℃でK
sp=0.052)を1としたときの排水中に溶解しているCaF
2濃度を表している。
【0050】
スケール防止剤としてPC191を4mg/lの濃度で添加した排水を処理した場合は、過飽和倍率20〜25倍程度まではCaF
2の析出が抑制可能であることが実験的に確認されている。原水の場合、過飽和倍率は7.6倍であり、スケール防止剤の添加によりスケール発生が抑制可能な濃度となっている。
【0051】
水回収率を30%とした場合、原水に対してフッ素イオンは6.5/0.7=9.3(mg/l)、カルシウムイオンは135/0.7=193(mg/l)に濃縮される。実際には処理水(脱塩された水)にイオンが若干漏れるため、水回収率30%の場合のフッ素イオン及びカルシウムイオンの濃度は、表1のようにそれぞれ9.2mg/l、192mg/lに低減する。表1に示すように、水回収率30%の場合、過飽和倍率は21倍に到達する。水回収率を50%とした場合は更に濃縮され、過飽和倍率は59倍に到達する。すなわち、種結晶を添加しない場合は、脱塩部でスケールを発生させないために水回収率30%が限界である。
【0052】
表2に、第1実施形態の排水処理装置により種結晶を添加して排水処理した場合における排水中のフッ素イオン濃度及びカルシウムイオン濃度と、フッ化カルシウムの過飽和倍率の計算結果を示す。表2は、第1実施形態の排水処理装置による排水処理後の前処理水は、原水に対してフッ素イオン濃度のみが低減された場合を示している。
【0054】
式(1)のように、フッ化カルシウムの水に対する溶解度積は、F
−濃度の二乗に比例する。表2に示すように、脱塩処理前に排水中のフッ素イオン濃度を低減させておくと、水回収率50%までスケールの発生が抑制される。すなわち、本実施形態のように種結晶を添加することにより、脱塩処理後の水の回収率を向上させることができる。
【0055】
(第2実施形態)
図3は、第2実施形態に係る排水処理装置の前処理部の概略図である。第2実施形態の排水処理装置における前処理部2は、沈殿槽30で沈殿した種結晶を回収し、反応槽20に再投入する循環部40を備える点で、第1実施形態の排水処理装置と異なる。
【0056】
循環部40は、ポンプ41とサイクロン42とを備える。
ポンプ41は、種結晶を含むスラリーを沈殿槽30の底部から排出し、スラリーをサイクロン42に搬送する。
サイクロン42は、スラリーから種結晶と、凝集粒子(キレート化合物及び浮遊粒子)及び汚泥とを分離する。種結晶と他の成分の分離を容易にするため種結晶は0.03mm〜1mm程度の大きさが好ましい。また、フッ素化合物が析出した種結晶の比重は1.5〜4.5g/cm
3であるのに対し、排水中の浮遊粒子等の比重は1.01g/cm
3程度である。このように、フッ素化合物が析出した種結晶は比重が大きく粗大であるために、サイクロン42によりサイクロン42底部に集積される。集積された種結晶は、サイクロン42底部から反応槽20に投入される。
【0057】
重金属のキレート化合物や浮遊粒子の凝集粒子や汚泥は、種結晶と比較して比重が小さくサイズも小さいため、スラリーとしてサイクロン42の外に排出される。サイクロン42から排出されたスラリーは、スラリータンク43に一旦貯留され、その後ポンプ44により排水処理装置の系外にドレインとして排出される。
【0058】
第1実施形態で説明したように、フッ素化合物が析出し粗大化した種結晶は適宜分割する。細かく分割した種結晶は、サイクロン42によって汚泥等とともに排水処理装置の系外に排出される。排出された分の種結晶は、種結晶投入部25から補充される。種結晶の補充量は、種結晶濃度に応じて、適宜設定される。種結晶濃度は、例えば熟成槽24で採取された排水から測定される。
【0059】
第2実施形態の排水処理装置は、第1実施形態と同様に、低いフッ素イオン濃度であるとともに浮遊粒子を含まない排水を脱塩部に搬送することができる。このため、脱塩部の逆浸透膜やイオン交換膜でのスケールの発生を抑制することができる。更に、沈殿した種結晶を回収して再利用しているため、種結晶の利用効率が向上する。
【0060】
(第3実施形態)
図4は、第3実施形態に係る排水処理装置の概略図である。
第3実施形態の排水処理装置の前処理部は、第1実施形態と同じ油分離装置50、反応槽60、熟成槽64及び沈殿槽70を備える。第3実施形態では、第1実施形態の種結晶投入部及び造粒槽は設置されていない。反応槽60に、キレートタンク61、凝集剤タンク62、アルカリタンク63、及び、ポリマータンク66が接続される。
【0061】
第3実施形態の排水処理装置では、前処理部2と生物処理部との間にフッ素濃度低減部80が設置される。フッ素濃度低減部80は、容器82内部に流動床81を収納する。流動床81は、排水が流通可能な容器内に、フッ素化合物が析出可能な種結晶が充填されている。本実施形態における種結晶は、リン鉱石などとされる。
【0062】
沈殿槽70は、フッ素濃度低減部80の底部に連絡する。フッ素濃度低減部80は、生物処理部に連絡する。
【0063】
沈殿槽70から排出された排水は、フッ素濃度低減部80の底部から容器82の内部に供給される。容器82内の排水の水面は、流動床81よりも高い位置に設定される。すなわち、流動床81は、容器82内の排水中に浸漬されている。フッ素濃度低減部80の底部から容器82内に排水が供給されると、排水は流動床を下から上に向かって通過する。この時、排水中のフッ素イオン及びカルシウムイオンがフッ素化合物として流動床81の種結晶の表面に析出する。これにより、排水中のフッ素イオン濃度が低減される。フッ素イオン濃度が低減した排水は、水面付近からフッ素濃度低減部80の外に排出され、生物処理部3に搬送される。
【0064】
第3実施形態では、流動床81から出た種結晶がフッ素濃度低減部80から排出される可能性がある。この場合、種結晶は、生物処理部3のMBRを通過させることにより排水と分離される。従って、第3実施形態においても、脱塩部4に搬送される排水は、フッ素イオン濃度が低減されているとともに、浮遊粒子を含まないものとなる。
【0065】
(第4実施形態)
図5は、第4実施形態に係る排水処理装置の前処理部の概略図である。第4実施形態の排水処理装置の前処理部は、第1実施形態と同じ油分離装置100、反応槽110、熟成槽114及び沈殿槽120を備える。油分離装置100は、ポンプ101及びオイルセパレータ102を備える。反応槽110に、キレートタンク111、鉄系凝集剤を収容する凝集剤タンク(第1の凝集剤タンク)112、アルカリタンク113及び、ポリマータンク116が接続される。凝集剤タンク(第2の凝集剤タンク)115は、反応槽110または熟成槽114に接続される。反応槽110に凝集タンク115を接続する場合は、反応槽110と熟成槽114との境界にある隔壁近傍に投入するように接続すると良い。第4実施形態では、造粒槽及び種結晶投入部は設置されていない。
【0066】
第4実施形態において、凝集剤タンク115は、アルミニウム系凝集剤を収納する。アルミニウム系凝集剤は、ポリアルミニウムクロライド(PAC)、硫酸バンド(Al
2(SO
4)
3・18H
2O)などが挙げられる。すなわち、第4実施形態において、フッ素濃度低減部は、凝集剤タンク115(凝集剤投入部)、反応槽110及び沈殿槽120(沈殿部)で構成される。
【0067】
第4実施形態の排水処理装置では、反応槽110中の排水に対して第2の凝集剤タンク114からアルミニウム系凝集剤が添加される。反応槽110中のpHは6〜8程度(中性)に調整される。排水のpHが中性であると、添加されたアルミニウム系凝集剤からAl(OH)
3が析出する。この時、Al(OH)
3にフッ素が取り込まれる。このため、排水中のフッ素イオン濃度が低下する。
【0068】
フッ素を取り込んだAl(OH)
3析出物を含む排水が沈殿槽120に搬送され、沈殿槽120においてAl(OH)
3析出物が汚泥とともに沈殿槽120底部に沈殿し、沈殿槽120から排出される。
【0069】
なお、第4実施形態において、沈殿槽120から排出されたAl(OH)
3析出物及び汚泥を含むスラリーの一部を熟成槽114に循環させる循環部を設置しても良い。沈殿槽120から排出されたスラリーの残りは、スラリータンクを介して排水処理装置系外に排出される。
【0070】
第4実施形態においても、生物処理部に搬送される排水中のフッ素イオン濃度は、原水に対して低減されている。また、前処理部から析出物が排出されても、後段の生物処理部で排水と析出物とを分離することが可能である。このため、第4実施形態においても、脱塩部に搬送される排水は、フッ素イオン濃度が低減されているとともに、浮遊粒子を含まないものとなる。
【実施例】
【0071】
(実施例1)
表3に示す模擬水を用い、排水処理実験を行った。模擬水のpHは8.4であった。
【0072】
【表3】
【0073】
試験は以下の工程で行った。
(1):ケース1,2では、模擬水に対しCaCl
2:62mg/l、Na
2HPO
4:146mg/lを添加した。ケース3,4では、模擬水に対しCaCl
2:62mg/l、NaHPO
4:146mg/l、リン鉱石:1000mg/lを添加した。それぞれ、HCl水溶液を用いて模擬水のpHを7程度に調整した。
(2):工程(1)で試薬を添加した模擬水を撹拌した。撹拌時間は、ケース1,3は30分、ケース2,4は120分とした。
(3):工程(2)の撹拌後、模擬水に対しFeCl
3:100mg/lを添加し、HCl水溶液を用いて模擬水のpHを7程度に調整した。その後、5分間撹拌した。
(4):模擬水に対しアニオン系ポリマー(ヒシフロック305):1mg/lを添加した。その後、15分間撹拌した。
(5):工程(4)の撹拌後模擬水を5分間静置し、処理水中の不溶性物質を沈殿させた。上澄液を採取し、フッ素イオン濃度の分析を実施した。
【0074】
表4に、模擬水及びケース1〜4で処理後の上澄液中のフッ素イオン濃度及びフッ素(F)除去率を示す。F除去率は、{1−(上澄液のフッ素イオン濃度)/(模擬水のフッ素イオン濃度)}×100(%)として算出した。
【0075】
【表4】
リン鉱石を添加したケース3,4で、フッ素イオンの除去が確認されたはほとんど除去されなかった。
【0076】
(実施例2)
実施例1に使用したリン鉱石を乳鉢で粉砕した。ケース3の条件で0.03〜1mm程度に粉砕したリン鉱石を添加し、実施例1の工程(1)〜(5)の操作を実施した。なお、リン鉱石の添加量は、1000mg/l、2000mg/l、3000mg/lとした。
表5に、処理水中の各イオン濃度及びフッ素除去率を示す。
【0077】
【表5】
【0078】
リン鉱石を粉砕したものを添加したことで、フッ素イオンの除去率が向上した。リン鉱石添加量2000mg/lでは1000mg/lの場合に対してフッ素除去率が向上した。しかし、リン鉱石添加量を3000mg/lとしても、2000mg/lと同程度の除去効果しか得られなかった。すなわち、排水中のフッ素イオンを効率良く除去するには、最適なリン鉱石添加量があると考えられる。
【0079】
実施例2に示したように、模擬水中のフッ素イオン濃度を約半分程度にするために必要なリン鉱石の濃度は2000mg/l程度であり、模擬水のフッ素イオン濃度(6.5mg/l)に比べると非常に多い。従って、上記第2実施形態のように、種結晶(リン鉱石)を循環させる構成とするのは、工業上有利であると言える。