特許第5901406号(P5901406)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5901406
(24)【登録日】2016年3月18日
(45)【発行日】2016年4月6日
(54)【発明の名称】テンショナ
(51)【国際特許分類】
   F16H 7/12 20060101AFI20160324BHJP
【FI】
   F16H7/12 A
【請求項の数】5
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2012-97063(P2012-97063)
(22)【出願日】2012年4月20日
(65)【公開番号】特開2013-224698(P2013-224698A)
(43)【公開日】2013年10月31日
【審査請求日】2014年12月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003355
【氏名又は名称】株式会社椿本チエイン
(74)【代理人】
【識別番号】100111372
【弁理士】
【氏名又は名称】津野 孝
(74)【代理人】
【識別番号】100112298
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 光春
(74)【代理人】
【識別番号】100168538
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 来
(74)【代理人】
【識別番号】100169960
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 貴光
(72)【発明者】
【氏名】中野 義和
(72)【発明者】
【氏名】國松 幸平
【審査官】 稲葉 大紀
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−068983(JP,A)
【文献】 特表2008−512610(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 7/00− 7/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の回転ホイールに掛け渡されて走行している巻掛け伝動体が巻き掛けられて回転するようにベースに移動可能に支持されたテンションホイールと、テンションホイールを回転可能に支持する支持部材と、前進および後退する進退運動を行う前記テンションホイールを前進させる付勢力を前記テンションホイールに作用させる付勢手段とを備え、前記テンションホイールが、前記巻掛け伝動体に張力を付与するために前記付勢力により前進可能であり、前記巻掛け伝動体からの反力により後退可能であるテンショナにおいて、
前記ベースに回転可能に支持した回転質量体と、前記テンションホイールの進退運動を前記回転質量体の回転運動に変換する運動変換機構とを備え、
前記回転質量体が、その慣性モーメントにより前記テンションホイールの前記進退運動に対する慣性抵抗体を構成し、
前記運動変換機構が、前記テンションホイールの進退運動により回転する回転部品を備え、
前記支持部材が、前記運動変換機構において、前記回転部品または該回転部品と一体に回転する部材であることを特徴とするテンショナ。
【請求項2】
前記運動変換機構が、前記回転部品である転動体と、前記テンションホイールの進退運動により前記転動体を転動させる案内体とを備え、
前記案内体が、前記転動体が前記テンションホイールと共に前記進退運動を行うように、前記転動体を介して前記テンションホイールを案内することを特徴とする請求項に記載のテンショナ。
【請求項3】
前記付勢手段が、前記転動体を前記案内体に押し付ける運動変換用付勢手段を兼ねることを特徴とする請求項に記載のテンショナ。
【請求項4】
前記回転部品が、前記進退運動での前記テンションホイールの移動量に対する前記回転部品の回転量を規定すると共に前記回転部品の回転軸線を中心とする有効半径を有し、
前記有効半径が前記回転質量体の最大半径よりも小さいことを特徴とする請求項から請求項のいずれか1つに記載のテンショナ。
【請求項5】
前記支持部材が、前記回転質量体であり、
前記テンションホイールが、前記回転質量体の外周に支持されることを特徴とする請求項1から請求項のいずれか1つに記載のテンショナ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、巻掛け伝動体に張力を付与する機械式のテンショナに関する。
巻掛け伝動体は、例えばチェーンであり、エンジンにおいて、カム軸などを駆動するタイミングチェーンとして使用される。
【背景技術】
【0002】
従来、機械式テンショナは、複数の回転ホイール(例えば、スプロケット)に掛け渡されて走行している巻掛け伝動体(例えば、チェーン)を案内する可動ガイドを巻掛け伝動体に押し付ける押圧部材と、巻掛け伝動体に対して進退運動を行う押付部材を前進させる付勢力を該押付部材に作用させる付勢手段とを備える(例えば、特許文献1参照)。
なお、機械式テンショナは、周知の油圧式テンショナとは異なり、押圧部材に油圧を作用させる圧油を収容する油圧室が形成されていないテンショナ、すなわち非油圧式テンショナである。
また、巻掛け伝動体に張力を付与する機構が、巻掛け伝動体が巻き掛けられて回転するテンションホイールと、前進および後退する進退運動を行うテンションホイールを前進させる付勢力を該テンションホイールに作用させる付勢手段とを備えるものも知られている(例えば、特許文献2,3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−257455号公報(段落0025〜0028、図1〜4)
【特許文献2】特開平10−311392号公報(段落0002,0006〜0012、図1〜3)
【特許文献3】実公昭64−1469号公報(第4欄第29行〜第5欄第14行、図2
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
巻掛け伝動体であるチェーンが、例えばエンジンに使用され、該エンジンが発生するトルクで回転駆動されるクランク軸により駆動されて回転する複数のスプロケットに掛け渡されている場合に、前記トルクの変動や出力軸としてのクランク軸に作用する負荷の変動に起因するクランク軸の回転変動により、チェーンには張力の変動が発生する。一方、チェーンの張力は、チェーンからの反力として、テンショナの押圧部材またはテンションホイールに作用する。
【0005】
このため、押圧部材またはテンションホイールは、付勢手段の付勢力とチェーンの反力とを含む力(以下、「荷重」という。)に応じて、前進および後退する進退運動を行う。そして、張力の変動、すなわち反力の変動は、押圧部材またはテンションホイールに作用する前記荷重を変動させて、押圧部材またはテンションホイールに前進および後退を繰り返す振動を発生させ、この振動がテンショナの構成部材同士の当接による騒音を発生させるという問題があった。
一方で、押圧部材またはテンションホイールの振動を抑制するために油圧室の圧油が利用される油圧式テンショナでは、テンショナ用の圧油の供給通路が必要になること、圧油の使用量が増大すること、さらに圧油供給源(例えば、オイルポンプ)の容量増加が必要になる場合もあることから、テンショナの設置に伴うコストが増加するという問題があった。
【0006】
本発明は、このような課題を解決するものであり、その目的は、巻掛け伝動体からの反力の変動に基づく変動荷重が作用することにより発生するテンションホイールの振動を、回転質量体の慣性モーメントを利用した機械的な構造により抑制することで、テンションホイールの振動に起因する騒音が低減すると共に小型化され、かつ設置コストが削減されるテンショナを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に係る発明は、複数の回転ホイールに掛け渡されて走行している巻掛け伝動体が巻き掛けられて回転するようにベースに移動可能に支持されたテンションホイールと、テンションホイールを回転可能に支持する支持部材と、前進および後退する進退運動を行う前記テンションホイールを前進させる付勢力を前記テンションホイールに作用させる付勢手段とを備え、前記テンションホイールが、前記巻掛け伝動体に張力を付与するために前記付勢力により前進可能であり、前記巻掛け伝動体からの反力により後退可能であるテンショナにおいて、前記ベースに回転可能に支持した回転質量体と、前記テンションホイールの進退運動を前記回転質量体の回転運動に変換する運動変換機構とを備え、前記回転質量体が、その慣性モーメントにより前記テンションホイールの前記進退運動に対する慣性抵抗体を構成し、前記運動変換機構が、前記テンションホイールの進退運動により回転する回転部品を備え、前記支持部材が、前記運動変換機構において、前記回転部品または該回転部品と一体に回転する部材であることにより、前述した課題を解決したものである。
【0009】
請求項に係る発明は、請求項に係る発明の構成に加えて、前記運動変換機構が、前記回転部品である転動体と、前記テンションホイールの進退運動により前記転動体を転動させる案内体とを備え、前記案内体が、前記転動体が前記テンションホイールと共に前記進退運動を行うように、前記転動体を介して前記テンションホイールを案内することにより、前述した課題を解決したものである。
【0010】
請求項に係る発明は、請求項に係る発明の構成に加えて、前記付勢手段が、前記転動体を前記案内体に押し付ける運動変換用付勢手段を兼ねることにより、前述した課題を解決したものである。
【0011】
請求項に係る発明は、請求項から請求項のいずれか1つに係る発明の構成に加えて、前記回転部品が、前記進退運動での前記テンションホイールの移動量に対する前記回転部品の回転量を規定すると共に前記回転部品の回転軸線を中心とする有効半径を有し、前記有効半径が前記回転質量体の最大半径よりも小さいことにより、前述した課題を解決したものである。
【0013】
請求項に係る発明は、請求項1から請求項のいずれか1つに係る発明の構成に加えて、前記支持部材が、前記回転質量体であり、前記テンションホイールが、前記回転質量体の外周に支持されることにより、前述した課題を解決したものである。
【発明の効果】
【0014】
そこで、本発明のテンショナは、複数の回転ホイールに掛け渡されて走行している巻掛け伝動体が巻き掛けられて回転するようにベースに移動可能に支持されたテンションホイールと、このテンションホイールを回転可能に支持する支持部材と、前進および後退する進退運動を行うテンションホイールを前進させる付勢力をテンションホイールに作用させる付勢手段とを備え、テンションホイールが、巻掛け伝動体に張力を付与するために付勢力により前進可能であり、巻掛け伝動体からの反力により後退可能であることにより、巻掛け伝動体が巻き掛けられているテンションホイールは、付勢手段の付勢力と巻掛け伝動体からの反力とを含む力、すなわち荷重に応じて進退運動を行い、巻掛け伝動体の張力の減少時に前進して張力を付与し、張力の増大時に後退して張力を減少させるので、テンショナにより、巻掛け伝動体の張力を適度な大きさ設定することができるばかりか、以下のような本発明に特有の効果を奏する。
【0015】
すなわち、請求項1に係る本発明のテンショナによれば、ベースに回転可能に支持した回転質量体と、テンションホイールの進退運動を回転質量体の回転運動に変換する運動変換機構とを備え、回転質量体が、その慣性モーメントによりテンションホイールの進退運動に対する慣性抵抗体を構成し、運動変換機構が、テンションホイールの進退運動により回転する回転部品を備え、支持部材が、運動変換機構において、回転部品またはこの回転部品と一体に回転する部材であることにより、巻掛け伝動体の張力変動により変動する荷重(以下、「変動荷重」という。)がテンションホイールに作用する場合に、テンションホイールは、その進退運動が回転質量体の回転運動に変換されるように運動変換機構により回転質量体と連動連結されているので、回転質量体の慣性モーメントが、変動荷重による回転質量体の回転運動に対する抵抗となり、テンションホイールが変動荷重により進退運動を行うことが抑制されるため、変動荷重により発生するテンションホイールの振動が抑制されて、該振動に起因するテンショナの構成部材同士の当接により発生する騒音が低減する。そして、変動荷重の変動の周波数が高くなるほど、回転質量体によるテンションホイールの振動抑制効果が高められるので、テンショナにおける騒音低減効果も高められる。一方、荷重の変動が緩慢で、変動荷重の変動の周波数が低いときには、テンションホイールが緩慢に進退運動を行うことで、回転質量体の回転運動に対する慣性モーメントによる抵抗が小さくなるので、テンションホイールが徐々に前進または後退して、テンショナにより、巻掛け伝動体の張力を適度な大きさ設定することができる。
しかも、変動荷重が作用するテンションホイールの振動が慣性抵抗により抑制される構造において、回転質量体の質量よりも大きな値とすることができる慣性モーメントを利用するので、慣性抵抗によるテンションホイールの振動抑制効果を向上させながら、テンショナを小型化することができる。
また、荷重変動によるテンションホイールの振動が圧油を利用することなく抑制されるので、テンショナ用の圧油の供給通路、圧油の使用量増大、さらに圧油供給源の容量増加が不要になるので、テテンショナを設置するためのコストを削減することができる。
さらに、テンションホイールは、運動変換機構または回転質量体を利用して、該運動変換機構または回転質量体に回転可能に支持されるので、テンションホイールを回転可能に支持する専用の支持部材が設けられる場合に比べて、部品点数が削減されるため、テンショナを小型化することができ、またそのコストを削減すことができる。
【0016】
また、運動変換機構が、テンションホイールの進退運動により回転する回転部品を備えることにより、回転質量体の慣性モーメントに加えて、回転部品の慣性モーメントが、変動荷重に応じたテンションホイールの進退運動を抑制するので、回転部品の慣性モーメントの分、変動荷重により発生するテンションホイールの振動を一層抑制することができるか、または、回転部品の慣性モーメントの増加分を考慮して、回転質量体の慣性モーメントを減少させることにより、回転質量体を小型化すること、ひいてはテンショナを小型化することがきる。
さらに、支持部材が、運動変換機構において、回転部品または該回転部品と一体に回転する部材であることにより、テンションホイールを運動変換機構の構成部材である回転部品および回転部品と一体に回転する部材を利用して、テンションホイールが回転可能に支持されるので、テンショナの部品点数が削減されて、テンショナを小型化することができ、またそのコストを削減すことができる。
【0017】
請求項に係る本発明のテンショナによれば、請求項に係る発明が奏する効果に加えて、運動変換機構が、回転部品である転動体と、テンションホイールの進退運動により転動体を転動させる案内体とを備え、案内体が、転動体がテンションホイールと共に進退運動を行うように、転動体を介してテンションホイールを案内することにより、回転質量体を回転駆動する転動体を回転させるために該転動体を転動させる案内体は、転動体を介して、テンションホイールが進退運動するように案内するので、テンションホイールの進退運動が転動体に確実に伝達され、さらには運動変換機構による進退運動から回転運動への変換の確実性が向上して、回転質量体によるテンションホイールの振動抑制効果の安定性を向上させることができる。
また、テンションホイールの進退運動は、案内体に転がり接触する転動体を介して行われるので、案内体に対してテンションホイールが進退運動を行うときの摩擦は転がり摩擦となるため、スプロケットが案内体に対して摺動する場合に比べて、案内体とテンションホイールとの間の摩擦力の減少が可能になって、テンションホイールの進退運動の円滑性を向上させることができる。
【0018】
請求項に係る本発明のテンショナによれば、請求項に係る発明が奏する効果に加えて、付勢手段が、転動体を案内体に押し付ける運動変換用付勢手段を兼ねることにより、付勢手段が、テンションホイールを付勢すると同時に転動体を案内体に押し付けるように付勢するので、テンショナの部品点数を削減して、そのコストを削減しながら、運動変換機構による進退運動から回転運動への変換の確実性が向上することで、回転質量体によるテンションホイールの振動抑制効果の安定性を向上させることができる。
【0019】
請求項に係る本発明のテンショナによれば、請求項から請求項のいずれか1つに係る発明が奏する効果に加えて、回転部品が、進退運動でのテンションホイールの移動量に対する回転部品の回転量を規定すると共に回転部品の回転軸線を中心とする有効半径を有し、有効半径が回転質量体の最大半径よりも小さいことにより、有効半径は、テンションホイールの、進退運動による単位移動量当たりの回転部品の回転量(回転角度)、したがって回転質量体の回転量(回転角度)の大きさを規定するので、有効半径を変更することにより、変動荷重の変動周波数に対する回転質量体の回転抵抗の特性を調整することができる。そして、有効半径が回転質量体の最大半径よりも小さいことにより、回転質量体の慣性モーメントを増加させた場合と同様の効果が、回転質量体を大型化することなく得られるので、回転質量体によるテンションホイールの振動抑制効果を高めながら、テンショナを小型化することができる。
【0021】
請求項に係る本発明のテンショナによれば、請求項1から請求項のいずれか1つに係る発明が奏する効果に加えて、支持部材が、回転質量体であり、テンションホイールが、回転質量体の外周に支持されることにより、回転軸線に平行な軸線方向で、テンションホイールおよび回転質量体が同じ位置に配置されるので、軸線方向でテンショナを小型化することができ、また回転質量体がテンションホイールを回転可能に支持する支持部材を兼ねることにより軽量化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の実施例を示し、テンショナを備えるタイミングチェーン伝動装置の正面図。
図2図1の、テンショナを中心とした要部拡大図。
図3図1のIII−III線での要部断面図。
図4】本発明の第2実施例を示し、図3に相当する図。
図5】本発明の第3実施例を示し、図2に相当する図であり、一部が図6のV−V線断面図。
図6図5の第3実施例において、図3に相当する図であり、一部が図5のVI−VI矢視図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明のテンショナは、複数の回転ホイールに掛け渡されて走行している巻掛け伝動体が巻き掛けられて回転するようにベースに移動可能に支持されたテンションホイールと、このテンションホイールを回転可能に支持する支持部材と、前進および後退する進退運動を行うテンションホイールをさせる付勢力をテンションホイールに作用させる付勢手段とを備え、テンションホイールが、巻掛け伝動体に張力を付与するために付勢力により前進可能であり、巻掛け伝動体からの反力により後退可能であるテンショナにおいて、ベースに回転可能に支持した回転質量体と、テンションホイールの進退運動を回転質量体の回転運動に変換する運動変換機構とを備え、回転質量体が、その慣性モーメントによりテンションホイールの進退運動に対する慣性抵抗体を構成し、運動変換機構が、テンションホイールの進退運動により回転する回転部品を備え、支持部材が、運動変換機構において、前記回転部品または該回転部品と一体に回転する部材であることにより、巻掛け伝動体からの反力の変動に基づく変動荷重が作用することにより発生するテンションホイールの振動を、回転質量体の慣性モーメントを利用した機械的な構造により抑制することで、テンションホイールの振動に起因する騒音が低減すると共に小型化され、かつ設置コストが削減されるものであれば、その具体的な態様はいかなるものであっても構わない。
【0024】
例えば、本発明のテンショナにより張力が付与される巻掛け伝動体は、回転ホイールとしてのスプロケットに巻き掛けられるチェーン、または、チェーン以外のもの(例えば、回転ホイールとしてのプーリに巻き掛けられるベルト)である。そして、本発明のテンショナのテンションホイールは、チェーンではテンションスプロケット、ベルトではテンションプーリである。
本発明のテンショナは、タイミング用またはタイミング用以外の巻掛け伝動装置に備えられる。前記巻掛け伝動装置を備える機械は、自動車用または自動車用以外のエンジンであるか、またはエンジン以外の機械(例えば、産業機械)である。
【実施例】
【0025】
以下、本発明の実施例を、図1図6を参照して説明する。
図1図3は、本発明の第1実施例を説明する図である。
図1を参照すると、本発明の第1実施例において、巻掛け伝動体としてのタイミングチェーン16に張力(以下、「張力」という。)を付与するテンショナ100は、機械式テンショナであり、エンジン1に使用される巻掛け伝動装置としてのタイミングチェーン伝動装置10に備えられる。
エンジン1は、自動車に搭載される往復動式の4ストローク内燃機関である。タイミングチェーン伝動装置10は、エンジン1のクランク軸3の回転に同期して該エンジン1の吸排気弁を開閉する動弁装置が備えるカム軸4,5を回転駆動する。
【0026】
タイミングチェーン伝動装置10は、テンショナ100のほかに、エンジン1により回転駆動される複数の回転ホイールとしてのスプロケット13〜15と、無端のチェーンであるタイミングチェーン16(以下、「チェーン16」という。)と、前記複数のスプロケット13〜15に掛け渡されて走行しているチェーン16を該チェーン16と接触しつつ案内するガイド装置とを備える。
前記複数のスプロケット13〜15は、本実施例では、エンジン1が備える駆動回転軸としてのクランク軸3に結合されて該クランク軸3により回転駆動される駆動回転ホイールとしての駆動スプロケット13と、エンジン1の1対の被動回転軸としての動弁用カム軸4,5にそれぞれ結合されてチェーン16により伝達される動力で回転駆動される1対の被動回転ホイールとしての被動スプロケット14,15とから構成される。
【0027】
ここで、クランク軸3と、各カム軸4,5と、クランク軸3および各カム軸4,5を回転可能に支持するエンジンブロック2とは、エンジン1の本体を構成する。該本体は、エンジン1において、タイミングチェーン伝動装置10が設置される設置部である。
各スプロケット13〜15の回転軸線L3〜L5は、互いに平行であると共に、クランク軸3および各カム軸4,5の回転軸線にそれぞれ一致し、スプロケット13〜15同士の回転軸線間距離を規定する。
【0028】
前記ガイド装置は、チェーン16をその弛み側で案内する可動ガイドを兼ねるテンショナ100と、チェーン16がその張り側で摺接する固定ガイドとしての固定レバー18とを備える。
エンジン1は、クランク軸3を回転駆動するためのトルクを発生する。そして、チェーン16の張力は、前記トルクの周期的な変動やクランク軸3に作用する負荷変動に起因するクランク軸3の回転変動により変動する。それゆえ、駆動スプロケット13を駆動してチェーン16を走行させるエンジン1は、チェーン16に張力変動を生じさせる駆動源でもある。
そして、この張力の変動により、チェーン16からテンショナ100に作用する反力Fr(反力Frの一例が示されている図2参照)も変動し、テンショナ100のテンションスプロケット101には、この変動する反力Frが作用する。反力Frは、チェーン16とテンションスプロケット101との複数の接触部で作用する反力の合力である。
【0029】
図2図3を主に参照し、図1を適宜参照すると、テンショナ100は、走行しているチェーン16が巻き掛けられて回転するテンションホイールとしてのテンションスプロケット101(以下、「スプロケット101」という。)と、スプロケット101がチェーン16に対して前進および後退する進退運動を行うようにスプロケット101を移動可能に支持するベース102と、スプロケット101を前進させる付勢力としてのバネ力Fsをスプロケット101に作用させる付勢手段としてのバネ103と、回転軸線Liを中心に回転可能にベース102に支持される回転質量体104と、スプロケット101の進退運動を回転質量体104の回転運動に変換する運動変換機構としてのラック・ピニオン機構110とを備える。
【0030】
ベース102は、その取付部102aにおいて、固定手段としてのボルト(図示されず)によりエンジンブロック2に着脱可能に取り付けられる。ベース102は、スプロケット101、回転質量体104およびラック・ピニオン機構110を支持する一体化された部材であるが、別の例として、例えば、スプロケット101および回転質量体104を別々に支持する互いに分離した部材から構成されるなど、互いに分離している複数の部材から構成されてもよい。
【0031】
スプロケット101および回転質量体104は、ラック・ピニオン機構110を介して、進退運動可能に、かつそれぞれ回転軸線Lt,Liを中心に回転可能にベース102に支持される円盤状の回転部材である。したがって、ラック・ピニオン機構110は、スプロケット101を回転可能に支持する支持部材を兼ねる。
スプロケット101は、チェーン16に張力を付与するために、バネ力Fsによりベース102に対して前進可能であり、反力Frによりベース102に対して後退可能である。したがって、スプロケット101は、バネ力Fsおよび反力Frを含む力、すなわち荷重Fにより、進退運動を行う。本実施例では、この進退運動は直線運動である。
【0032】
ラック・ピニオン機構110は、スプロケット101および質量回転体104と一体に進退運動および回転運動を行う転動体としてのピニオン111と、ベース102に支持されると共にピニオン111と噛合して該ピニオン111をその回転軸線Lpを中心に回転させるピニオン回転用歯車であるラック112と、ピニオン111と回転質量体104とを連結する連結部である連結軸113とを、その構成部材として備える。
連結軸113は、ピニオン111および回転質量体104と一体に回転する部材であり、しかも、スプロケット101を回転可能に支持し、かつベース102に対してスプロケット101と共に進退運動可能な支持部材である。
なお、スプロケット101は、連結軸113の外周に、摺動可能に支持されているが、軸受を介して支持されてもよい。
【0033】
ピニオン111、回転質量体104および連結軸113は、別個の部材から構成されて、ピニオン111の回転軸線Lpを中心に一体に回転するように互いに固定されて一体化されている。したがって、ピニオン111、回転質量体104および連結軸113は、回転軸線Lpを共有して一体に回転する。別の例として、ピニオン111、回転質量体104および連結軸113が一体成形により一体化された単一の部材から構成されてもよい。
このため、スプロケット101が進退運動を行うときに、スプロケット101は、その回転軸線Ltと一致する各回転軸線Li,Lpを中心に回転可能であり、また各回転軸線Li,Lp,Ltは進退運動をする。
【0034】
ピニオン111は、進退運動をしているスプロケット101により駆動されて回転することで回転質量体104を回転駆動する回転部品である。ピニオン111は、その回転軸線Lpに平行な軸線方向で、スプロケット101を挟んで配置される1対の第1,第2ピニオン111a,111bから構成される。
各ピニオン111a,111bは、スプロケット101が進退運動をするときに、ラック112に案内されて、ラック112上を転動しながら揺動軸線L7に平行な回転軸線Lpを中心に回転する。
【0035】
ラック112は、スプロケット101の進退運動により被案内体としてのピニオン111を転動させて、該ピニオン111が回転しながら進退運動を行うように案内する案内体であり、またピニオン111の回転を生起させる回転生起部材である。
ベース102に支持されるラック112は、本実施例では、ベース102との一体成形によりベース102に固定状態で設けられるが、別の例として、ベース102とは別個の部材から構成されて、ベース102に固定手段により固定されてもよい。
【0036】
ラック112は、軸線方向で回転質量体104およびスプロケット101を挟んで配置された状態で、第1,第2ピニオン111a,111bとそれぞれ噛合する1対の第1,第2ラック112a,112bから構成される。
スプロケット101は、第1,第2ピニオン111a,111bおよび第1,第2ラック112a,112bの間に配置されることで、スプロケット101の進退運動の安定性が向上すると共に、該進退運動から回転運動への変換の確実性および安定性を向上させることができる。
【0037】
図2を参照すると、ラック112は、スプロケット101の、進退運動での移動方向A1、本実施例では直線状の移動方向A1を規定する。特定方向A2とスプロケット101の移動方向A1とが形成する鋭角の傾斜角度αを変更することで、荷重Fに応じたチェーン16の巻掛け部16aの中央部16cの単位進退量に対して、スプロケット101および回転質量体104の回転量の調整が可能である。
ここで、巻掛け部16aは、チェーン16において、スプロケット101に巻き掛けられている部分であり、中央部16cは、回転軸線Ltを中心とする周方向での巻掛け部16aの中央である。また、特定方向A2は、中央部16cが特定位置(例えば、スプロケット101が移動方向A1で特定位置を占めるときの中央部16cの位置である。)にあるときに、回転軸線Lpに平行な軸線方向から見て、中央部16cと回転軸線Lpとを通る直線に平行な方向であり、図2にはその一例が示されている。そして、中央部16cの進退量は、スプロケット101の進退運動に基づく特定方向A2での中央部16cの移動距離である。
なお、テンショナ100の配置によっては、特定方向A2を水平方向とすることも可能である。
【0038】
ラック112は、スプロケット101が前進するときに下方に移動するように傾斜して配置されている。これにより、スプロケット101、回転質量体104、ピニオン111および連結軸113の重量を、チェーン16に張力を付与するための付勢力として利用することができるので、バネ103のバネ力Fsを小さくすることが可能になって、バネ103の小型・軽量化に寄与する。
【0039】
ピニオン111、連結軸103および回転質量体104は、スプロケット101の進退運動により回転する。このため、スプロケット101が進退運動を行うときのテンショナ100の慣性モーメントは、回転質量体104の慣性モーメントに、ピニオン111および連結軸113の各慣性モーメントを加えたものとなる。
したがって、テンショナ100の慣性モーメントとして、予め設定された所定慣性モーメントを得るためには、回転質量体104の慣性モーメントを小さくできるので、その分だけ、回転質量体104が小型・軽量化される。
【0040】
バネ103は、バネ力Fsで、スプロケット101をチェーン16に向けて前進させるように付勢すると共に、ピニオン111を、ラック112に押し付けるように付勢する。このため、バネ103は、ピニオン111とラック112との噛合または接触による、スプロケット101の進退運動からピニオン111および回転質量体104の回転運動への変換の確実性を向上させるための運動変換用付勢手段を兼ねる。
バネ103は、引張りコイルバネである第1,第2バネ103a,103bから構成される。各バネ103a,103bは、ベース102に設けられた1対の取付部102bおよび連結軸113の両端部である1対の取付部113bに取り付けられて、ベース102とピニオン111とに亘って取り付けられている。
回転質量体104は、1以上の回転質量体、本実施例では、複数である第1,第2回転質量体104a,104bから構成される。第1,第2回転質量体104a,104bは、回転軸線Liに平行な軸線方向で、スプロケット101、第1,第2ピニオン111a,111bおよび第1,第2ラック112a,112bを挟んで配置されている。
【0041】
図2を主に参照し、図1を適宜参照すると、ピニオン111は、スプロケット101の進退運動により回転するときに、回転軸線Lpを中心とするピニオン111の回転量(または、回転角度)を規定すると共に該回転軸線Lpを中心とする有効半径Rpを有する。この有効半径Rpは、回転軸線Lpとラック112上を転動するピニオン111のラック112との噛合部位である接触部位Pとの間の距離である。
そして、回転質量体104の回転運動は、接触部位P回りにおいて、バネ力Fsによる前進モーメントMaと、反力Frによる後退モーメントMbとに基づいて生じる。このことは、スプロケット101が、前進モーメントMaが後退モーメントMbよりも大きいときに前進し、後退モーメントMbが前進モーメントMaよりも大きいときに後退することでもある。
【0042】
有効半径Rpは、これらモーメントMa,Mbの大きさに関与すると共に、進退運動によるスプロケット101の移動量に対する回転質量体104の回転量(または、回転角度)を規定する。この有効半径Rpは、回転質量体104の最大半径Ri(すなわち、回転質量体104の外径の1/2)よりも小さい。
なお、進退運動での回転質量体104、ピニオン111、連結軸113の質量による慣性抵抗は、回転質量体104、ピニオン111、連結軸113の慣性モーメントよる慣性抵抗に比べて極めて小さい。
【0043】
回転質量体104は、スプロケット101が進退運動を行うことにより回転運動を行うことから、変動する荷重F(以下、「変動荷重」という。)がスプロケット101に作用するときに、その慣性モーメントにより、スプロケット101の進退運動に対する慣性抵抗を生じる慣性抵抗体を構成する。
より具体的には、回転質量体104の慣性モーメントは、予め設定された設定周波数(以下、「設定周波数」という。)以上の周波数である高周波数(以下、「高周波数」という。)の変動荷重(以下、「高周波変動荷重」という。)がスプロケット101に作用するときに、該慣性モーメントが抵抗になって回転質量体104の回転が抑制されて、該回転質量体104が殆ど回転しないことにより、スプロケット101の進退運動が抑制される結果、スプロケット101が、進退運動を殆ど行うことなく、ほぼ停止状態にあるような値に設定される。このため、高周波変動荷重によりスプロケット101が振動することが抑制されて、スプロケット101が高周波数で振動することによるテンショナ100の構成部材同士の当接、例えばピニオン111とラック112との当接に起因する騒音が低減する。
高周波数は、人間の可聴周波数の最低周波数(約20Hz)を含む周波数であり、設定周波数は、例えば10Hzに設定される。そして、設定周波数が小さくなるほど、回転質量体104によりスプロケット101の振動抑制効果が得られる周波数範囲が広くなる。
【0044】
一方、設定周波数未満の周波数である低周波数(以下、「低周波数」という。)での変動荷重(以下、「低周波変動荷重」という。)がスプロケット101に作用するときには、スプロケット101の進退運動が緩慢に行われることから、回転質量体104の慣性モーメントによる回転抵抗が小さいことで、徐々に進退運動を行うスプロケット101により、チェーン16の張力が漸増または漸減しながら、適度な大きさに設定される。
なお、図1には、チェーン16の張力が低下したときに、前進したスプロケット101、ピニオン111の位置が、二点鎖線で示されている。
【0045】
この低周波変動荷重には、チェーン16が設置されている環境における環境温度の変化による熱膨張・収縮に起因する、および、使用されているチェーン16の経時変化による延びに起因する張力の変動に基づいて変動する反力Frが含まれる。
そして、環境温度の変化よる張力の変動には、エンジン温度がエンジン1の冷機始動状態と暖機完了後の状態との間で変化することによるエンジンブロック2の熱膨張・収縮によるスプロケット13〜15間の前記回転軸線間距離の変化による変動、および、エンジン温度の変化によるチェーン16自体の伸縮による変動が含まれる。
【0046】
また、高周波変動荷重がスプロケット101に作用する場合に、該高周波変動荷重の平均値が低周波数で変化するときには、該平均値に応じて徐々に進退運動を行うスプロケット101により、チェーン16の張力は漸増または漸減して適度な大きさに設定される。
このように、スプロケット101は、変動荷重に対して、該変動荷重の高周波数の高周波成分への応動が抑制された状態になって、高周波数での振動が抑制された状態になる一方、その低周波数の低周波成分に応動して進退運動を行って、チェーン16の張力を変動荷重に応じた適度な大きさに設定する。
【0047】
そして、設定周波数、そして高周波変動荷重に対する回転質量体104によるスプロケット101の振動の抑制程度は、有効半径Rpの変更、傾斜角度αの変更および当接面17cの形状の変更により、調整可能である。
具体的には、有効半径Rpを変更することで、前進モーメントMaおよび後退モーメントMbの大きさの調整、および、進退運動によるスプロケット101の単位移動量に対する回転質量体104の回転量(または、回転角度)の調整が可能である。このため、例えば、回転質量体104の最大半径Riに対する有効半径Rpの比を小さくすることにより、設定周波数を小さくし、スプロケット101の振動の抑制程度を向上させることができる。
また、例えば、傾斜角度αを大きくすることにより、チェーン16の単位進退量に対する回転質量体104の回転量が大きくなるので、設定周波数を小さくし、またスプロケット101の振動の抑制程度を向上させることができる。
【0048】
次に、前述のように構成された実施例の作用および効果について説明する。
テンショナ100は、そのスプロケット101が、バネ103のバネ力Fsとチェーン16からの反力Frとを含む力である荷重Fに応じて進退運動を行い、チェーン16の張力の減少時に前進して張力を付与し、張力の増大時に後退して張力を減少させることにより、チェーン16の張力を適度な大きさ設定することができる。
【0049】
テンション100は、回転質量体104と、スプロケット101の進退運動を回転質量体104の回転運動に変換するラック・ピニオン機構110とを備え、回転質量体104が、その慣性モーメントによりスプロケット101の進退運動に対する慣性抵抗体を構成する。
これにより、張力変動に起因する変動荷重がスプロケット101に作用する場合に、スプロケット101は、その進退運動が回転質量体104の回転運動に変換されるようにラック・ピニオン機構110により回転質量体104と連動連結されているので、回転質量体104の慣性モーメントが、変動荷重による回転質量体104の回転運動に対する抵抗となり、スプロケット101が変動荷重により進退運動を行うことが抑制される。このため、変動荷重により発生するスプロケット101の振動が抑制されて、該振動に起因するテンショナ100の構成部材同士の当接により発生する騒音が低減する。そして、変動荷重の変動の周波数が高くなるほど、回転質量体104によるスプロケット101の振動抑制効果が高められるので、テンショナ100における騒音低減効果も高められる。
また、高周波変動荷重によるスプロケット101の進退運動が抑制されるので、スプロケット101の進退運動により発生するチェーン16の弦振動が抑制されて、該弦振動に起因する騒音を低減することができる。
【0050】
一方、エンジン1の運転状態に依存するエンジンブロック2の温度である環境温度の変化による熱膨張・収縮やチェーン16の経時変化による伸張などに起因する荷重Fの変動であって、荷重Fの変動が緩慢で、変動荷重の周波数が低いときには、スプロケット101が緩慢に進退運動を行うことで、回転質量体104の回転運動に対する慣性モーメントによる抵抗が小さくなるので、スプロケット101が徐々に前進または後退して、テンショナ100により、チェーン16の張力を適度な大きさ設定することができる。
【0051】
しかも、変動荷重が作用するスプロケット101の振動が慣性抵抗により抑制される構造において、回転質量体104の質量よりも大きな値とすることができる慣性モーメントを利用するので、慣性抵抗によるスプロケット101の振動抑制効果を向上させながら、テンショナ100を小型化することができる。
また、荷重変動によるスプロケット101の振動が圧油を利用することなく抑制されるので、テンショナ用の圧油の供給通路、圧油の使用量増大、さらに圧油供給源の容量増加が不要になるので、テンショナ100を設置するためのコストを削減することができる。
【0052】
さらに、スプロケット101を回転可能に支持する支持部材として、ラック・ピニオン機構110の構成部材である連結軸113が利用されることにより、スプロケット101は、ラック・ピニオン機構110に回転可能に支持されるので、スプロケット101を回転可能に支持する専用の支持部材が設けられる場合に比べて、部品点数が削減されるため、テンショナ100を小型化することができ、そのコストを削減すことができる。
【0053】
スプロケット101の進退運動を回転質量体104の回転運動に変換するラック・ピニオン機構110は、スプロケット101の進退運動により回転することで回転質量体104を回転駆動するピニオン111を備える。
これにより、回転質量体104の慣性モーメントに加えて、ピニオン111の慣性モーメントが、変動荷重に応じたスプロケット101の進退運動を抑制するので、ピニオン111の慣性モーメントの分、変動荷重により発生するスプロケット101の振動を一層抑制することができるか、または、ピニオン111の慣性モーメントの増加分を考慮して、回転質量体104の慣性モーメントを減少させることにより、回転質量体104を小型化すること、ひいてはテンショナ100を小型化することがきる。
【0054】
ピニオン111および回転質量体104は、同じ回転軸線Li,Lpを中心に一体に回転することから、ラック・ピニオン機構110により回転質量体104を回転させるための構造が簡単化されるので、回転質量体104およびラック・ピニオン機構110を備えるテンショナ100の構造が簡単になって、テンショナ100を小型化することができ、またテンショナ100のコストを削減することができる。
【0055】
スプロケット101は、ピニオン111および回転質量体104の回転軸線Lp,Liを中心に回転可能であることにより、ピニオン111と、回転質量体104と、回転可能な部材であるスプロケット101とが、同心状態で配置されるので、テンショナ100を小型化することができる。
【0056】
回転質量体104を回転駆動するピニオン111を回転させるために該ピニオン111を転動させるラック112は、スプロケット101が進退運動するように該スプロケット101をピニオン111を介して案内する。この歯車同士の噛合により、スプロケット101の進退運動がピニオン111に確実に伝達され、さらにはラック・ピニオン機構110による進退運動から回転運動への変換の確実性が向上して、回転質量体104によるスプロケット101の振動抑制効果の安定性を向上させることができる。
また、スプロケット101の進退運動は、ラック112に転がり接触するピニオン111を介して行われるので、ラック112に対してスプロケット101が進退運動を行うときの摩擦は転がり摩擦となるため、スプロケット101がラック112に対して摺動する場合に比べて、ラック112とスプロケット101との間の摩擦力の減少が可能になって、スプロケット101の進退運動の円滑性を向上させることができる。
【0057】
バネ103は、ピニオン111をラック112に押し付ける運動変換用付勢手段を兼ねる。これにより、バネ103は、スプロケット101を付勢すると同時に、ピニオン111をラック112に押し付けるように付勢するので、テンショナ100の部品点数を削減して、そのコストを削減しながら、ラック・ピニオン機構110による進退運動から回転運動への変換の確実性が向上することで、回転質量体104によるスプロケット101の振動抑制効果の安定性を向上させることができる。
【0058】
ピニオン111が、進退運動でのスプロケット101の移動量に対するピニオン111の回転量を規定する有効半径Rpを有し、有効半径Rpが回転質量体104の最大半径Riよりも小さい。
これにより、有効半径Rpは、スプロケット101の、進退運動による単位移動量当たりのピニオン111の回転量、したがって回転質量体104の回転量の大きさを規定するので、有効半径Rpを変更することで、変動荷重の変動周波数に対する回転質量体104の回転抵抗の特性、すなわち、設定周波数、および回転質量体104によるスプロケット101の振動抑制効果を調整することができる。
そして、有効半径Rpが回転質量体104の最大半径Riよりも小さいことにより、回転質量体104の慣性モーメントを増加させた場合と同様の効果が、回転質量体104を大型化することなく得られるので、回転質量体104によるスプロケット101の振動抑制効果を高めながら、テンショナ100を小型化することができる。
【0059】
次に、図4図6を参照して、本発明の第2,第3実施例を説明する。第2,第3実施例は、第1実施例とは、部分的に異なるものの、その他は基本的に同一の構成を有する。そこで、同一の部分についての説明は省略または簡略にし、異なる点を中心に説明する。
なお、第1実施例の部材等と同一の部材等または対応する部材等については、基本的に第1実施例における用語または符号と同一の用語または符号が使用されている。
【0060】
図4を参照すると、第2実施例において、テンショナ200は、テンションスプロケット201と、ベース102と、バネ103と、回転質量体204と、運動変換機構としてのラック・ピニオン機構110とを備える。
回転質量体204は、第1,第2ピニオン111a,111bおよび第1,第2ラック112a,112bの間に配置される。
プロケット201は、円環状の部材であり、回転質量体204の外周に回転可能に支持される。したがって、回転質量体204は、スプロケット201を回転可能に支持すると共に進退運動可能な支持部材を兼ねる。
【0061】
第2実施例によれば、第1実施例と同様の作用・効果が奏され、さらに次の作用・効果が奏される。
プロケット201は、回転質量体204の外周に支持されることにより、回転軸線Liに平行な軸線方向で、スプロケット201および回転質量体204が同じ位置に配置されるので、軸線方向でテンショナ200を小型化することができ、また回転質量体204がスプロケット201を回転可能に支持する支持部材を兼ねることにより軽量化することができる。
【0062】
図5図6を参照すると、第3実施例において、テンショナ300は、テンションスプロケット301と、ベース102と、第1,第2回転質量体304a,304bから構成される回転質量体304と、運動変換機構としての渦巻きベルト機構310とを備える。
渦巻きベルト機構310は、渦巻きベルトとしての渦巻きバネ312と、渦巻きバネ312と回転質量体304とを一体に回転するように連結する連結部である連結軸311と、被案内体としての連結軸311を案内する案内体としての1対の案内部317とを備える。
渦巻きバネ312は、進退運動を行うスプロケット301を前進させる付勢力としてのバネ力をスプロケット301に作用させる付勢手段を兼ねるバネである。
【0063】
渦巻きバネ312は、回転軸311の回転軸線Lpに平行な軸線方向で、スプロケット301を挟んで配置される1対の第1,第2渦巻きバネ312a,312bから構成される。各渦巻きバネ312a,312bは、ベース102に固定される固定部としての固定側端部313と、回転軸311に固定される回転部としての回転側端部314とを有する。回転部品および転動体としての連結軸311は、スプロケット301を回転可能に支持する支持部材であると共に、回転質量体304と一体化されて設けられて該回転質量体304と一体に回転する。
各案内部317は、案内部317は、ベース102に、一体成形より固定されて設けられているが、別の例として、ベース102とは別個の部材から構成されて、ベース102に固定されてもよい。各案内部317は、回転軸311が、回転しつつ転動するように摺動可能に嵌合するスリット部318を有すると共に、進退運動での301の移動方向A1を規定する。
【0064】
第3実施例によれば、第1実施例と同様の作用・効果が奏され、さらに次の作用・効果が奏される。
運動変換機構の構成部材である渦巻きバネ312が、チェーン16に張力を付与すべくスプロケット301を前進させる付勢手段を兼ねるので、部品点数の削減により、テンショナ300のコストを削減することができる。
【0065】
以下、前述した実施例の一部の構成を変更した実施例について、変更した構成に関して説明する。
テンションスプロケットは、ベース102に直線状の移動経路に沿って移動可能に支持されて進退運動する柱状体に回転可能に支持され、運動変換機構であるラック・ピニオン機構は、前記柱状体に設けられたラックと、ベース102に回転可能に支持される一方で進退運動を行わないピニオンとを備えるものであってもよい。この場合に、回転質量体は、ピニオンと一体に回転する一方で、進退運動を行わない。
ピニオンとテンションスプロケットとを連動させる連動部材が設けられることにより、ピニオンの回転軸線とテンションスプロケットの回転軸線とが、進退運動による移動経路上で異なる位置を占めてもよい。
ピニオン回転用歯車は、直線状歯車であるラック112の代わりに、円弧状の歯車であってもよく、進退運動が曲線運動(例えば、円弧状の運動)であってもよい。
運動変換機構は、ラック・ピニオン機構および巻きベルト以外の機構、例えばカム機構またはリンク機構であってもよい。
第1実施例において、第2実施例における1以上の回転質量体204が、さらに設けられてもよい。
ラック・ピニオン機構110は、それぞれ1つのピニオン111およびラック112を備えるものであってもよく、さらにバネ103は1つでもよい。
第2実施例において、ラック・ピニオン機構110の代わりに第3実施例の巻きベルト機構301が備えられてもよい。
テンションスプロケットは、ピニオン111自体に回転可能に支持されてもよい。テンションホイールは、基本的形状が回転面である外周面を有するローラであってもよい。
【符号の説明】
【0066】
100,200,300・・・テンショナ
101,201,301・・・テンションスプロケット
102・・・ベース
103・・・バネ
104,204,304・・・回転質量体
110・・・ラック・ピニオン機構
111・・・ピニオン
112・・・ラック
310・・・渦巻きベルト機構
311・・・回転軸
312・・・渦巻きバネ
317・・・案内部
F ・・・荷重
Fs ・・・バネ力
Fr ・・・反力
Li,Lp,Lt・・・回転軸線
Ri ・・・最大半径
Rp ・・・有効半径
図1
図2
図3
図4
図5
図6