特許第5901421号(P5901421)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5901421含フッ素エラストマーおよびその加硫性組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5901421
(24)【登録日】2016年3月18日
(45)【発行日】2016年4月13日
(54)【発明の名称】含フッ素エラストマーおよびその加硫性組成物
(51)【国際特許分類】
   C08F 214/26 20060101AFI20160331BHJP
   C08F 214/22 20060101ALI20160331BHJP
   C08F 216/14 20060101ALI20160331BHJP
   C08F 220/42 20060101ALI20160331BHJP
   C08L 27/18 20060101ALI20160331BHJP
   C08K 5/33 20060101ALI20160331BHJP
   C09K 3/10 20060101ALI20160331BHJP
【FI】
   C08F214/26
   C08F214/22
   C08F216/14
   C08F220/42
   C08L27/18
   C08K5/33
   C09K3/10 M
【請求項の数】9
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-111211(P2012-111211)
(22)【出願日】2012年5月15日
(65)【公開番号】特開2013-237768(P2013-237768A)
(43)【公開日】2013年11月28日
【審査請求日】2015年1月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】502145313
【氏名又は名称】ユニマテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100066005
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 俊夫
(74)【代理人】
【識別番号】100114351
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 和子
(73)【特許権者】
【識別番号】000101879
【氏名又は名称】イーグル工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100066005
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 俊夫
(72)【発明者】
【氏名】池田 昭彦
(72)【発明者】
【氏名】前田 満
(72)【発明者】
【氏名】工藤 正嗣
(72)【発明者】
【氏名】行木 英人
(72)【発明者】
【氏名】森 邦彦
【審査官】 山村 周平
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−161662(JP,A)
【文献】 特許第3082626(JP,B2)
【文献】 特許第2770769(JP,B2)
【文献】 特表2011−530616(JP,A)
【文献】 特開2006−009012(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 214/00−214/28
216/00−216/38
220/00−220/70
C08L 27/00−27/24
C08K 3/00−13/08
C09K 3/00−3/32
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)フッ化ビニリデン2.0〜8.0モル%、(B)テトラフルオロエチレン60.0〜70.0モル%、(C)炭素数1〜3のアルキル基を有するパーフルオロ(低級アルキルビニルエーテル)または炭素数1〜5のアルコキシ基および炭素数1〜3のアルキレン基を有するパーフルオロ(低級アルコキシ低級アルキルビニルエーテル)35.0〜25.0モル%および(D)パーフルオロ不飽和ニトリル化合物0.2〜3.0モル%よりなる共重合組成を有し、ムーニー粘度ML1+10(121℃)が65〜110である4元共重合体含フッ素エラストマー。
【請求項2】
請求項1記載の含フッ素エラストマー 100重量部当り、0.2〜5重量部のビスアミドオキシム化合物を配合してなる加硫性含フッ素エラストマー組成物。
【請求項3】
一般式
HON=C(NH2)-(CF2)n-C(NH2)=NOH
(ここで、nは1〜10の整数である)で表わされるビスアミドキシム化合物が用いられた請求項2記載の加硫性含フッ素エラストマー組成物。
【請求項4】
請求項2または3記載の加硫性含フッ素エラストマー組成物を加硫成形して得られたシール材。
【請求項5】
プラズマ照射用途に用いられる請求項4記載のシール材。
【請求項6】
O2-CF4混合ガスを用いたプラズマ照射用途に用いられる請求項5記載のシール材。
【請求項7】
半導体製造装置用として用いられる請求項5記載のシール材。
【請求項8】
シリコンウェハーの表面処理加工室用として用いられる請求項7記載のシール材。
【請求項9】
ゲートバルブ用途に用いられる請求項5記載のシール材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、含フッ素エラストマーおよびその加硫性組成物に関する。さらに詳しくは、プラズマ照射用途などに用いられるシール材の加硫成形材料として用いられる含フッ素エラストマーおよびその加硫性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製造装置用シールは、半導体の基板であるシリコンウェハー等の表面にエッチング加工あるいは薄膜を形成させるなどの処理をするための加工室等にシールとして用いられるものであり、耐熱性、低ガス透過性、低発塵性(シールからの塵の発生が少ないこと)などが要求される。シリコンウェハーエッチング処理時などには、酸素あるいはCF4雰囲気下などでプラズマ照射されるため、酸素あるいはハロゲンなどのガスが励起された状態となり、その結果半導体製造装置用シールは劣化し易く、またその表面が脆くなり、劣化物や脆化物が飛散して、シリコンウェハー上に付着するなどの不具合がみられる。
【0003】
また、従来シール材として用いられている含フッ素エラストマーについては、機械的強度等の常態物性や圧縮永久歪を改善するために、カーボンブラック、シリカ、酸化チタン等の補強剤を充填材として配合する必要があり、それらを配合した含フッ素エラストマー組成物を加硫するポリオール加硫やアミン加硫においては、加硫剤の他にMg、Pb、Ca、Al、Zn等の金属の化合物である受酸剤を充填材として配合する必要がある。これらの無機充填材は、パーティクル発生の原因となるため、その発生量を低減するために、無機充填材を使用しない配合が考えられる。
【0004】
しかるに、無機充填材を配合しない含フッ素エラストマーは、シール材として必要な常態物性値や圧縮永久歪値を得ることが困難となるばかりではなく、配合時の混練性をも悪化させる。また、無機充填材を使用しない場合であっても、劣化したシール材自身もパーティクル発生の原因となりかねないことから、シール材を形成させる含フッ素エラストマー自身においても、パーティクル発生量の低減、換言すれば耐プラズマ性の向上が求められている。
【0005】
また、ゲートバルブ用途に使用される場合には、金属との粘着性が強いとバルブが開かなくなったり、バルブ開放時にシール材が脱落するなど、それ自身による不具合が発生することがあるので、低粘着性であることも求められている。
【0006】
ところで、半導体製造装置においては、300℃といった高温での使用要求に対して耐熱性にすぐれたシアノ基含有パーフルオロエラストマーなどが使用されている。かかる半導体製造装置の高温使用環境において、すぐれた耐熱性を示すシアノ基含有パーフルオロエラストマー(含フッ素エラストマー)およびその加硫剤としては、以下に記載されるようなものが従来提案されている。
【0007】
含フッ素エラストマーとしては、(A)テトラフルオロエチレンを53〜79.8モル%、好ましくは64.4〜72.6モル%、さらに好ましくは69.3モル%、(B)パーフルオロ(メチルビニルエーテル)20〜45モル%、好ましくは27〜35モル%、さらに好ましくは30モル%および(C)一般式
CF2=CF〔OCF2CF(CF3)〕xO(CF2)nCN
n:1〜4
x:1〜2
で表わされるパーフルオロ不飽和ニトリル化合物0.2〜2モル%、好ましくは0.4〜1.0モル%、さらに好ましくは0.7モル%の共重合組成を有するものが知られており、この含フッ素エラストマーはビスアミノフェノールまたは芳香族テトラミンによって硬化されるとされている(特許文献1)。
【0008】
この種の含フッ素エラストマーはまた、一般式
HON=C(NH2)-(CF2)n-C(NH2)=NOH 〔I〕
n:1〜10
で表わされるビスアミドキシム化合物を加硫剤として加硫されることが、本出願人によって提案されている。この場合に用いられる含フッ素エラストマーとしては、(A)テトラフルオロエチレン45〜75モル%、(B)パーフルオロ(低級アルキルビニルエーテル)またはパーフルオロ(低級アルコキシ低級アルキルビニルエーテル)54.8〜20モル%および(C)パーフルオロ不飽和ニトリル化合物0.2〜5モル%よりなる共重合組成を有するものが用いられるとされており、各実施例では(A):(B):(C)モル比がそれぞれ63.5:34.9:1.6または68.8:30.0:1.2の共重合組成を有するものが含フッ素エラストマーとして用いられている(特許文献2)。
【0009】
さらに、この種の含フッ素エラストマーを用い、ビスアミドラゾン化合物を加硫剤として用いて加硫することも、本出願人によって提案されている。ここで用いられる含フッ素エラストマーとしては、(A)テトラフルオロエチレン45〜75モル%、(B)パーフルオロ(低級アルキルビニルエーテル)またはパーフルオロ(低級アルコキシ低級アルキルビニルエーテル)50〜25モル%および(C)パーフルオロ不飽和ニトリル化合物0.1〜5モル%よりなる共重合組成を有するものが用いられており、実施例では(A):(B):(C)モル比が57.3:39.6:2.8の共重合組成を有するものが用いられている(特許文献3)。
【0010】
前記特許文献2に記載されている含フッ素エラストマーは、加硫剤としてのビスアミドキシム化合物と架橋反応するシアノ基を有しており、加硫剤をそこに配合した含フッ素エラストマー組成物は、ロール混練性などの加工性においても問題がなく、また耐熱性および耐溶剤性の点においても満足される加硫成形品を与え得るとされ、275℃または300℃、70時間という条件下での圧縮永久歪値が測定されているが、300℃での圧縮永久歪値からみて、半導体製造装置で用いられる300℃といった高温での使用に十分耐え得る耐熱性を有しているとはいえない。
【0011】
本出願人はまた、シアノ基を架橋性基とする含フッ素エラストマーにおいて、この加硫物がプラズマ照射条件下で使用され、また300℃といった高温条件下で使用された場合にあっても、プラズマ照射による重量減少を抑制し、また300℃以上といった高温条件下においてもすぐれた耐熱性を示すといった含フッ素エラストマー組成物として、(A)テトラフルオロエチレン72.8〜74.0モル%、(B)パーフルオロ(低級アルキルビニルエーテル)またはパーフルオロ(低級アルコキシ低級アルキルビニルエーテル)26.8〜24.0モル%および(C)パーフルオロ不飽和ニトリル化合物0.2〜3.0モル%よりなる共重合組成を有する含フッ素エラストマー100重量部当り、0.2〜5重量部のビスアミドキシム化合物を加硫剤として配合し、無機充填剤を含有していない含フッ素エラストマー組成物を提案している(特許文献4)。
【0012】
この含フッ素エラストマー組成物は、ビスアミドキシム化合物を加硫剤として加硫成形することにより、有効な半導体製造装置用シール材を形成させることができる。得られたシール材は、カーボンブラック、シリカ等の無機充填剤を含有していなくともすぐれた耐熱性を示し、300℃以上、具体的には300℃および315℃での圧縮永久歪値によって示されるような良好な高温耐熱性を示している。このため、Oリング等のシール材は、300℃以上での高温条件下においても、良好なシール性を保持し得る。
【0013】
また、この含フッ素エラストマー組成物は、無機充填剤を含有していないため、プラズマ照射条件下で使用されても、金属元素を含む微粒子の発生がなく、またそれによる重量減少も抑制されるので、半導体製造装置用途に好適に用いられる。さらに、この含フッ素エラストマー組成物は、ステンレス鋼板、アルミニウム板等の金属板、シリカガラス板、シリコン板等に対する非粘着性にすぐれているので、半導体形成用基板を真空系内で予備室から加工室に出し入れするゲート部分のバルブであって、プラズマ照射される領域へ付設されるゲートバルブ用途に使用された場合などには、このシール材が接する80℃という温度条件下で金属に対して低粘着性であるという効果も奏せられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特公平2−59177号公報
【特許文献2】特許第3,082,626号公報
【特許文献3】特許第2,850,943号公報
【特許文献4】特開2009−161662号公報
【特許文献5】特許第2,770,769号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
上記特許文献4記載の含フッ素エラストマー組成物は、耐圧縮永久歪特性にすぐれ、またO2プラズマに対する耐プラズマ性にすぐれているが、より高温でのシール材が接する金属に対する非接着性の点やO2-CF4混合ガスに対する耐プラズマ性の点での改善が求められている。
【0016】
本発明の目的は、耐圧縮永久歪特性、耐プラズマ性などにすぐれているばかりではなく、より高温、具体的には150℃という温度条件下で金属に対して低粘着性を示す含フッ素エラストマーおよびその加硫性組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
かかる本発明の目的は、(A)フッ化ビニリデン2.0〜8.0モル%、(B)テトラフルオロエチレン60.0〜70.0モル%、(C)炭素数1〜3のアルキル基を有するパーフルオロ(低級アルキルビニルエーテル)または炭素数1〜5のアルコキシ基および炭素数1〜3のアルキレン基を有するパーフルオロ(低級アルコキシ低級アルキルビニルエーテル)35.0〜25.0モル%および(D)パーフルオロ不飽和ニトリル化合物0.2〜3.0モル%よりなる共重合組成を有し、ムーニー粘度ML1+10(121℃)が65〜110である4元共重合体含フッ素エラストマーおよび該含フッ素エラストマー100重量部当り0.2〜5重量部のビスアミドキシム化合物を配合した加硫性含フッ素エラストマー組成物によって達成される。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る含フッ素エラストマー組成物を加硫成形して得られたシール材は、150℃といったより高温条件下でそれが接する金属に対して低粘着性を示すので、半導体製造装置用、例えばシリコーンウエハーの表面処理加工室用のゲートバルブといった用途に有効に用いられる。また、O2プラズマだけではなく、O2-CF4混合ガスに対する耐プラズマ性にもすぐれている。
【0019】
前記特許文献4には、(A)テトラフルオロエチレン72.8〜74.0モル%、(B)パーフルオロ(低級アルキルビニルエーテル)またはパーフルオロ(低級アルコキシ低級アルキルビニルエーテル)26.8〜24.0モル%および(C)パーフルオロ不飽和ニトリル化合物0.2〜3.0モル%よりなる共重合組成を有する含フッ素エラストマー中には、共重合反応を阻害せずかつ加硫物性を損なわせない程度(約20モル%以下)のフッ素化オレフィンや各種ビニル化合物などを共重合させることもできると記載されており、フッ素化オレフィンの例としてフッ化ビニリデンが挙げられている。
【0020】
本発明の含フッ素エラストマー組成物においては、フッ化ビニリデンを2.0〜8.0モル%、好ましくは3.0〜7.0モル%共重合させることにより、150℃というより高温条件下でシール材が接する金属に対して低粘着性が示されており、後記比較例2に示される如く、フッ化ビニリデン共重合量を10.0モル%、またテトラフルオロエチレン共重合量を58.6モル%とした4元共重合体の場合には、上記の如き低粘着性はより確保されるものの、耐圧縮永久歪特性および耐プラズマ性に劣るようになるので、約20モル%以下のフッ化ビニリデンを共重合させ得るとの特許文献4の記載は、本発明を教示乃至示唆しているとはいえない。
【発明を実施するための形態】
【0021】
(A)成分のフッ化ビニリデンの共重合割合は、上記した如く2.0〜8.0モル%、好ましくは3.0〜7.0モル%とされる。(A)成分の共重合割合がこれよりも少なく、特に(A)成分が用いられない場合には、後記比較例1の結果に示されるように、耐圧縮永久歪特性および耐プラズマ性は極めて良好であるが、150℃での金属に対する非固着性に全く欠けるようになり、一方(A)成分がこれよりも多い共重合割合で用いられると、全く逆の傾向が示され、すなわち150℃での金属に対する非固着性には著しくすぐれているが、耐圧縮永久歪特性および耐プラズマ性に劣るようになる。
【0022】
(B)成分のテトラフルオロエチレンの共重合割合は、60.0〜70.0モル%と前記特許文献4の下限値よりもさらに低く設定されており、この共重合割合がこれよりも低いと、耐熱性の面で劣り、一方これよりも高い共重合割合では、エラストマーというよりは樹脂的挙動を示すため、シール性能が悪化し、また加工性に劣るようになる。
【0023】
また、(C)成分のパーフルオロ(低級アルキルビニルエーテル)またはパーフルオロ(低級アルコキシ低級アルキルビニルエーテル)の共重合割合は、35.0〜25.0モル%に設定されている。この共重合割合がこれよりも低いと、相対的にテトラフルオロエチレンの共重合割合が増加することもあって、250℃の圧縮永久歪値によって示されるように、共重合体が樹脂に近い状態となり、シール性能の低下が著しくなる。一方、これよりも共重合割合が高いと、機械的強度や耐熱性の低下がみられるようになる。
【0024】
(C)成分共単量体のパーフルオロ(低級アルキルビニルエーテル)としては、一般にはパーフルオロ(メチルビニルエーテル)、パーフルオロ(エチルビニルエーテル)、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)等が用いられる。また、パーフルオロ(低級アルコキシ低級アルキルビニルエーテル)としては、例えば次のようなものが用いられ、
CF=CFOCFCF(CF)OCF2n+1 (n:1〜5)
CF=CFO(CF)OCF2n+1 (n:1〜5)
CF=CFOCFCF(CF)O(CFO)CF2n+1 (n:1〜5、m:1〜3)
CF=CFO(CF)OCF2n+1 (n:1〜5)
これらの中で、特にCF2n+1基がCF基であるものが好んで用いられる。
【0025】
また、架橋サイト単量体としての(D)成分共単量体のパーフルオロ不飽和ニトリル化合物としては、次のようなものが用いられる。
CF=CFO(CF2)OCF(CF3)CN (n:2〜5)
CF=CF[OCF2CF(CF3)]nO(CF)mCN (n:1〜2、m:1〜6)
CF=CFO(CF2)nCN (n:1〜8)
CF=CF[OCF2CF(CF3)]nOCF2CF(CF3)CN (n:1〜2)
CF=CFO(CF2)n(p-C6H4)CN (n:1〜6)
【0026】
なお、(D)成分のパーフルオロ不飽和ニトリル化合物の共重合量は、架橋性基として必要な0.2〜3.0モル%、好ましくは0.5〜2.0モル%とされる。
【0027】
これら各単量体を用いての共重合反応は、一般にステンレス鋼製オートクレーブ中に水、パーフルオロオクタン酸アンモニウム等の含フッ素系乳化剤およびリン酸二水素カリウム等の緩衝剤を仕込んだ後、テトラフルオロエチレン、パーフルオロ(低級アルキルビニルエーテル)またはパーフルオロ(低級アルコキシ低級アルキルビニルエーテル)およびパーフルオロ不飽和ニトリル化合物を順次仕込み、約50〜80℃に昇温させた後、過硫酸アンモニウム等のラジカル発生剤および亜硫酸ナトリウム等の還元剤よりなるレドックス系触媒を添加することにより行われる。反応圧力は、約0.75〜0.85MPa程度に保たれることが好ましく、このため反応の進行と共に低下する反応容器内圧力を上げるため、これら3種の単量体混合物を追加分添しながら反応を行うことが好ましい。得られる4元共重合体含フッ素エラストマーは、ムーニー粘度ML1+10(121℃)が65〜110の値を有する。
【0028】
以上の成分を必須成分とする4元共重合体中には、共重合反応を阻害せずかつ加硫物性を損なわない程度(約20モル%以下)の他のフッ素化オレフィンや各種ビニル化合物などを共重合させることもできる。フッ素化オレフィンとしては、例えばモノフルオロエチレン、トリフルオロエチレン、トリフルオロプロピレン、ペンタフルオロプロピレン、ヘキサフルオロプロピレン、ヘキサフルオロイソブチレン、クロロトリフルオロエチレン、ジクロロジフルオロエチレン等が用いられ、またビニル化合物としては、例えばエチレン、プロピレン、1-ブテン、イソブチレン、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、塩化ビニル、塩化ビニリデン、トリフルオロスチレン等が用いられる。
【0029】
かかる4元共重合体よりなる含フッ素エラストマーには、前記特許文献2に記載される如き、一般式
HON=C(NH2)-(CF2)n-C(NH2)=NOH 〔I〕
n:1〜10
で表わされるビスアミドキシム化合物や特許文献5に記載される如き、一般式
R:C1〜C6のアルキリデン基
C1〜C10のパーフルオロアルキリデン基
で表わされるビスアミドキシム化合物、好ましくはビスアミドキシム化合物〔I〕が加硫剤として、含フッ素エラストマー100重量部当り0.2〜5重量部、好ましくは0.5〜2重量部の割合で添加して用いられる。
【0030】
ビスアミドキシム化合物を加硫剤として配合した含フッ素エラストマー組成物の調製は、2本ロール等を用いて約30〜60℃で混練することにより行われ、それの架橋は、約100〜250℃で約1〜120分間加熱することによって行われる。二次加硫を行う場合には、窒素ガス雰囲気などの不活性ガス雰囲気中約150〜280℃で行われ、下記実施例に記載される如く、段階的な昇温でオーブン加硫が行われることが好ましい。
【実施例】
【0031】
次に、実施例について本発明を説明する。
【0032】
実施例1
内容積100Lのステンレス鋼製オートクレーブ中に、蒸留水60kg、パーフルオロオクタン酸アンモニウム2000gおよびリン酸二水素カリウム800gを仕込んだ後、オートクレーブ内を窒素で置換し、次いで減圧した。そこに、
フッ化ビニリデン〔VdF〕 0.1kg
テトラフルオロエチレン〔TFE〕 1.1kg
パーフルオロ(メチルビニルエーテル)〔FMVE〕 1.3kg
パーフルオロ(3-オキサ-8-シアノ-1-オクテン)〔CPeVE〕 100g
を順次仕込み、60℃に昇温させた後、そこに過硫酸アンモニウム70gおよび亜硫酸ナトリウム15gを溶解させた5Lの水溶液として添加し、重合反応を開始させた。
【0033】
重合反応中、VdFを0.06kg/hr、TFEを1.2kg/hr、FMVEを1.2kg/hr、CPeVEを85g/hrの分添速度でそれぞれ添加し、その間のオートクレーブの圧力を0.75〜0.85MPaに保った。重合反応開始時から7時間後に分添を停止した後、オートクレーブを冷却し、残ガスをパージして、固形分濃度27重量%の水性ラテックスを76kg得た。得られた水性ラテックスを5重量%塩化マグネシウム水溶液76L中に加えて凝析させた後水洗し、80℃で70時間の乾燥を行って、白色のゴム状4元共重合体Aを17.0kg(収率83%)得た。
【0034】
このゴム状4元共重合体は、ムーニー粘度ML1+10(121℃)が85で、赤外吸収スペクトルおよびNMR分析から、次のような組成であることが確認された。
VdF 4.9モル%
TFE 65.0モル%
FMVE 28.8モル%
CPeVE 1.3モル%
【0035】
実施例2
内容積100Lのステンレス鋼製オートクレーブ中に、蒸留水60kg、パーフルオロオクタン酸アンモニウム2000gおよびリン酸二水素カリウム800gを仕込んだ後、オートクレーブ内を窒素で置換し、次いで減圧した。そこに、
フッ化ビニリデン〔VdF〕 0.1kg
テトラフルオロエチレン〔TFE〕 1.1kg
パーフルオロ(メチルビニルエーテル)〔FMVE〕 1.3kg
パーフルオロ(3,7-ジオキサ-8-シアノ-1-ノネン)〔CEPVE〕 150g
を順次仕込み、60℃に昇温させた後、そこに過硫酸アンモニウム70gおよび亜硫酸ナトリウム15gを溶解させた5Lの水溶液として添加し、重合反応を開始させた。
【0036】
重合反応中、VdFを0.06kg/hr、TFEを1.2kg/hr、FMVEを1.2kg/hr、CEPVEを120g/hrの分添速度でそれぞれ添加し、その間のオートクレーブの圧力を0.75〜0.85MPaに保った。重合反応開始時から7時間後に分添を停止した後、オートクレーブを冷却し、残ガスをパージして、固形分濃度26重量%の水性ラテックスを76kg得た。得られた水性ラテックスを5重量%塩化マグネシウム水溶液76L中に加えて凝析させた後水洗し、80℃で70時間の乾燥を行って、白色のゴム状4元共重合体Bを17.6kg(収率86%)得た。
【0037】
このゴム状4元共重合体は、ムーニー粘度ML1+10(121℃)が88で、赤外吸収スペクトルおよびNMR分析から、次のような組成であることが確認された。
VdF 5.1モル%
TFE 64.6モル%
FMVE 28.7モル%
CEPVE 1.6モル%
【0038】
参考例
内容積100Lのステンレス鋼製オートクレーブ中に、蒸留水60kg、パーフルオロオクタン酸アンモニウム2000gおよびリン酸二水素カリウム800gを仕込んだ後、オートクレーブ内を窒素で置換し、次いで減圧した。そこに、
テトラフルオロエチレン〔TFE〕 1.2kg
パーフルオロ(メチルビニルエーテル)〔FMVE〕 1.3kg
パーフルオロ(3-オキサ-8-シアノ-1-オクテン)〔CPeVE〕 100g
を順次仕込み、60℃に昇温させた後、そこに過硫酸アンモニウム70gおよび亜硫酸ナトリウム15gを溶解させた5Lの水溶液として添加し、重合反応を開始させた。
【0039】
重合反応中、TFEを1.3kg/hr、FMVEを1.2kg/hr、CPeVEを85g/hrの分添速度でそれぞれ添加し、その間のオートクレーブの圧力を0.75〜0.85MPaに保った。重合反応開始時から7時間後に分添を停止した後、オートクレーブを冷却し、残ガスをパージして、固形分濃度26重量%の水性ラテックスを81kg得た。得られた水性ラテックスを5重量%塩化マグネシウム水溶液81L中に加えて凝析させた後水洗し、80℃で70時間の乾燥を行って、白色のゴム状3元共重合体Cを17.9kg(収率87%)得た。
【0040】
このゴム状3元共重合体は、ムーニー粘度ML1+10(121℃)が82で、赤外吸収スペクトルおよびNMR分析から、次のような組成であることが確認された。
TFE 68.8モル%
FMVE 29.9モル%
CPeVE 1.3モル%
【0041】
参考例
内容積100Lのステンレス鋼製オートクレーブ中に、蒸留水60kg、パーフルオロオクタン酸アンモニウム2000gおよびリン酸二水素カリウム800gを仕込んだ後、オートクレーブ内を窒素で置換し、次いで減圧した。そこに、
フッ化ビニリデン〔VdF〕 0.15kg
テトラフルオロエチレン〔TFE〕 1.0kg
パーフルオロ(メチルビニルエーテル)〔FMVE〕 1.3kg
パーフルオロ(3,7-ジオキサ-8-シアノ-1-ノネン)〔CEPVE〕 150g
を順次仕込み、60℃に昇温させた後、そこに過硫酸アンモニウム70gおよび亜硫酸ナトリウム15gを溶解させた5Lの水溶液として添加し、重合反応を開始させた。
【0042】
重合反応中、VdFを0.12kg/hr、TFEを1.2kg/hr、FMVEを1.2kg/hr、CEPVEを120g/hrの分添速度でそれぞれ添加し、その間のオートクレーブの圧力を0.75〜0.85MPaに保った。重合反応開始時から7時間後に分添を停止した後、オートクレーブを冷却し、残ガスをパージして、固形分濃度26重量%の水性ラテックスを81kg得た。得られた水性ラテックスを5重量%塩化マグネシウム水溶液81L中に加えて凝析させた後水洗し、80℃で70時間の乾燥を行って、白色のゴム状4元共重合体Dを18.7kg(収率89%)得た。
【0043】
このゴム状4元共重合体は、ムーニー粘度ML1+10(121℃)が95で、赤外吸収スペクトルおよびNMR分析から、次のような組成であることが確認された。
VdF 10.0モル%
TFE 58.6モル%
FMVE 29.8モル%
CEPVE 1.6モル%
【0044】
実施例
フッ化ビニリデン-テトラフルオロエチレン-パーフルオロ(メチルビニルエーテル)-パーフルオロ(3-オキサ-8-シアノ-1-オクテン)〔モル比4.9:65.0:28.8:1.3〕4元共重合体〔共重合体A〕100重量部に、前記ビスアミドキシム化合物(〔I〕;n=4)0.7重量部を加え、2本ロールミル上で30〜60℃の温度で混練した。混練物を190℃で15分間プレス加硫(一次加硫)した後、次の条件下でのオーブン加硫(二次加硫)を窒素ガス雰囲気下で行い、その後100℃で2時間保持した後室温迄降温した。
室温から90℃迄0.5時間かけて昇温
90℃で4時間
90℃から200℃迄6時間かけて昇温
200℃で22時間
200℃から250℃迄4時間かけて昇温
250℃で22時間
【0045】
実施例
実施例において、共重合体Aの代わりに、フッ化ビニリデン-テトラフルオロエチレン-パーフルオロ(メチルビニルエーテル)-パーフルオロ(3,7-ジオキサ-8-シアノ-1-ノネン) [モル比 5.1:64.6:28.7:1.6]4元共重合体(共重合体B)が用いられ、前記ビスアミドキシム化合物(〔I〕;n=4)量が1.2重量部に変更して用いられた。
【0046】
実施例3〜4で得られた4元共重合体について、次の各項目の測定を行った。
常態物性:JIS K-6253(硬度)
JIS K-6251(引張試験)
圧縮永久歪:ASTM Method B;P-24 Oリングについて、250℃、70時間の条件下で測

プラズマ照射試験(重量減少率):アルバック社製RBH3030使用
O2:CF4=容積比10:1の混合ガス
RF出力 1500W
照射時間 30時間
真空度0.15 Torr
粘着性試験:P24 Oリングを2枚の5cm角ステンレス板(SUS板)で挟み込み、25%圧縮
した状態で150℃に15時間加熱後、24時間室温条件下に冷却したもの
について、これら2枚のステンレス板を速さ100mm/分の速度で引っ張
ったときの最大荷重を測定
【0047】
比較例1
実施例において、共重合体Aの代りに、共重合単量体モル比TFE 68.8:FMVE 29.9:CPeVE 1.3の3元共重合体(共重合体C)が用いられ、同様の加硫および測定が行われた。
【0048】
比較例2
実施例において、共重合体Aの代りに、共重合単量体モル比VdF 10.0:TFE 58.6:FMVE 29.8:CEPVE 1.6の4元共重合体(共重合体D)が用いられ、同様の加硫および測定が行われた。
【0049】
以上の各実施例および比較例で得られた結果は、次の表に示される。


実施例 比較例
測定項目
硬度(Duro A) 63 60 65 57
引張試験
100%モジュラス(MPa) 2.2 1.7 2.5 1.3
破断強度 (MPa) 19.0 16.2 25.0 18.3
破断時伸び (%) 270 280 270 320
圧縮永久歪
250℃、70hrs (%) 23 23 17 48
プラズマ試験
重量減少率 (%) 1.5 1.6 0.3 4.3
粘着性試験
SUS板 (N) 170 175 520 140