(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記内周スプライン部は、前記複数の内周スプライン突起が、前記外側クラッチプレート及び前記アーマチャに係合する第1の内周スプライン突起と、前記外側クラッチプレートに係合し、前記アーマチャには係合しない第2の内周スプライン突起とからなり、
前記第2の内周スプライン突起の前記第2領域側の端面が前記対向面として形成されている、
請求項2に記載の駆動力伝達装置。
前記内周スプライン部は、前記複数の内周スプライン突起のうち少なくとも一部の内周スプライン突起の径方向の高さが前記第2領域において前記第1領域よりも低く形成され、この高さの違いによる段差面が前記対向面として形成されている、
請求項1又は2に記載の駆動力伝達装置。
前記内周スプライン部は、前記複数の内周スプライン突起のうち少なくとも一部の内周スプライン突起の周方向の幅が前記第2領域において前記第1領域よりも狭く形成され、
この幅の違いによる段差面が前記対向面として形成されている、
請求項1又は2に記載の駆動力伝達装置。
【背景技術】
【0002】
従来の駆動力伝達装置として、例えば四輪駆動車に搭載され、一対の回転部材をクラッチによってトルク伝達可能に連結するようにしたものがある(例えば特許文献1参照)。
【0003】
この種の駆動力伝達装置は、外側回転部材と、この外側回転部材と同軸上で相対回転可能に支持された内側回転部材と、外側回転部材と内側回転部材とをトルク伝達可能に連結するメインクラッチと、このメインクラッチに回転軸線に沿って並列する電磁クラッチ機構と、この電磁クラッチ機構の作動によって外側回転部材からの回転力をメインクラッチ側への押圧力に変換するカム機構とを有して構成されている。
【0004】
カム機構は、一対のカム部材を備え、一方のカム部材が電磁クラッチ機構から回転力を受けて他方のカム部材に対して回転し、この回転に伴って他方のカム部材がメインクラッチを押圧するように構成されている。
【0005】
電磁クラッチ機構は、電磁コイルと、この電磁コイルの電磁力を受けるアーマチャと、アーマチャによって押圧されるアウタクラッチプレート及びインナクラッチプレートとを有して構成されている。アウタクラッチプレートは外側回転部材にスプライン係合し、インナクラッチプレートはカム機構の一方のカム部材にスプライン係合している。
【0006】
そして、電磁コイルに通電されると、アーマチャがアウタクラッチプレート及びインナクラッチプレートを押圧し、これにより外側回転部材の回転力が一方のカム部材に伝達され、この回転力が軸方向の押圧力に変換されて他方のカム部材がメインクラッチを押圧する。これにより、外側回転部材と内側回転部材とがトルク伝達可能に連結される。
【0007】
ところで、カム機構のカム部材は、その強度を確保するため、磁性体である鉄から形成される。このため、電磁コイルに通電した際にアーマチャがカム部材に接近していると、カム部材が磁路となってアーマチャがカム部材側に引き寄せられてしまうことがある。この場合には、電磁クラッチ機構のアウタクラッチプレート及びインナクラッチプレートが押圧されないので、カム機構が作動せず、外側回転部材と内側回転部材とがトルク伝達可能に連結されないこととなる。
【0008】
特許文献1に記載の駆動力伝達装置では、この問題の解決を図るため、アーマチャとカム部材との間の隙間を確保するための非磁性体からなる隙間規制部材を設けている。この隙間規制部材は、具体的には、例えばカム部材に形成された嵌合孔に嵌着された非磁性体からなるボールや、カム部材とアーマチャとの間に配置された皿バネである。この隙間規制部材によって、アーマチャのカム部材側への移動が規制され、電磁コイルへの通電時に確実にアーマチャが電磁コイル側に引き寄せられるように構成されている。
【発明を実施するための形態】
【0021】
[第1の実施の形態]
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る駆動力伝達装置が搭載された四輪駆動車の構成例を示す概略構成図である。
【0022】
この四輪駆動車1は、駆動源であるエンジン102と、トランスミッション及びフロントデファレンシャルを有するトランスアクスル103と、一対の前輪104と、一対の後輪105と、リヤディファレンシャルキャリア106と、プロペラシャフト107と、駆動力伝達装置2とを備えている。
【0023】
駆動力伝達装置2は、四輪駆動車1における前輪側から後輪側に至る駆動力伝達経路に配置され、かつ車体101にリヤディファレンシャルキャリア106を介して支持されている。そして、駆動力伝達装置2は、プロペラシャフト(入力軸)107とドライブピニオンシャフト(出力軸)108とをトルク伝達可能に連結し、この連結状態においてエンジン102の駆動力を一対の後輪105に伝達し得るように構成されている。
【0024】
また、駆動力伝達装置2は、制御装置10から電流の供給を受け、この電流に応じた駆動力をプロペラシャフト107からドライブピニオンシャフト108に伝達する。制御装置10は、例えば一対の前輪104と一対の後輪105との回転速差や、運転者による加速操作量(アクセルペダルの踏込量)等に基づいて、駆動力伝達装置2に供給する電流を増減制御する。
【0025】
上記構成により、エンジン102は、その駆動力をフロントアクスルシャフト109にトランスアクスル103を介して出力することにより、一対の前輪104を駆動する。また、エンジン102は、その駆動力をリヤアクスルシャフト111に、トランスアクスル103,プロペラシャフト107,駆動力伝達装置2,ドライブピニオンシャフト108,及びリヤディファレンシャル110を介して出力することにより、一対の後輪105を駆動する。
【0026】
(駆動力伝達装置2の構成)
図2は、駆動力伝達装置2の構成例を示す断面図である。
図2において、回転軸線Oよりも上側は駆動力伝達装置2の作動状態(トルク伝達状態)を、下側は駆動力伝達装置2の非作動状態(トルク非伝達状態)を、それぞれ示す。
【0027】
駆動力伝達装置2は、フロントハウジング21及びリヤハウジング22からなる外側回転部材としてのハウジング20と、ハウジング20と同軸上で相対回転可能に支持された内側回転部材としての筒状のインナシャフト23と、ハウジング20とインナシャフト23とをトルク伝達可能に連結するメインクラッチ3と、メインクラッチ3を押圧する押圧力を発生させるカム機構4と、メインクラッチ3との間にカム機構4を挟むように配置された電磁クラッチ機構5とを有して構成されている。
【0028】
ハウジング20は、有底円筒状のフロントハウジング21と、フロントハウジング21の開口側の一部を覆蓋する環状のリヤハウジング22とを結合して構成されている。ハウジング20の内部空間には、図略の潤滑油が封入されている。
【0029】
フロントハウジング21は、筒部21aと底部21bとを一体に有し、筒部21aの開口端部における内面には、雌ねじ部21cが形成されている。また、フロントハウジング21は、鉄等の磁性材料からなり、底部21bには、プロペラシャフト107(
図1参照)が例えば十字継手を介して相対回転不能に連結される。なお、フロントハウジング21をアルミニウム等の非磁性材料から構成してもよい。
【0030】
筒部21aの内周面には、回転軸方向に延びる複数の第1の内周スプライン突起211と、同じく回転軸方向に延びる複数の第2の内周スプライン突起212とからなる内周スプライン部210が形成されている。内周スプライン部210は、後述する第1アウタクラッチプレート31がスプライン係合する第1領域210aと、後述するアーマチャ50及び第2アウタクラッチプレート51がスプライン係合する第2領域210bとを有している。内周スプライン部210の詳細については後述する。
【0031】
リヤハウジング22は、鉄等の磁性材料からなる第1部材221、第1部材221の内周側に溶接等により一体に結合されたオーステナイト系ステンレス等の非磁性材料からなる第2部材222、及び第2部材222の内周側に溶接等により一体に結合された鉄等の磁性材料からなる第3部材223からなる。第1部材221と第3部材223との間には、後述する電磁コイル53を収容する環状の収容空間22aが形成されている。また、第1部材221の外周面には、フロントハウジング21の雌ねじ部21cに螺合する雄ねじ部221aが形成されている。
【0032】
インナシャフト23は、玉軸受61及び針状ころ軸受62によってハウジング20の内周側に支持されている。インナシャフト23の外周面には、回転軸方向に延びる複数の外周スプライン突起231からなる外周スプライン部230が形成されている。また、インナシャフト23の一端部における内面には、ドライブピニオンシャフト108(
図1参照)の一端部が相対回転不能に嵌合されるスプライン嵌合部232が形成されている。
【0033】
メインクラッチ3は、ハウジング20の回転軸線Oに沿って交互に配置された複数の第1アウタクラッチプレート31及び複数の第1インナクラッチプレート32を有する湿式の多板クラッチからなる。第1アウタクラッチプレート31の外周部には、内周スプライン部210にスプライン係合する複数の突起311が設けられている。また、第1インナクラッチプレート32の内周部には、インナシャフト23の外周スプライン部230にスプライン係合する複数の突起321が設けられている。
【0034】
第1アウタクラッチプレート31は、フロントハウジング21に対して相対回転不能かつ軸方向移動可能である。第1インナクラッチプレート32は、インナシャフト23に対して相対回転不能かつ軸方向移動可能である。また、第1インナクラッチプレート32には、潤滑油を流通させるための複数の油孔322が形成されている。第1アウタクラッチプレート31は本発明の「外側クラッチプレート」の一態様であり、第1インナクラッチプレート32は本発明の「内側クラッチプレート」の一態様である。
【0035】
カム機構4は、第1カム部材としてのパイロットカム41と、メインクラッチ3を軸方向に押圧する第2カム部材としてのメインカム42と、パイロットカム41とメインカム42との間に配置された複数の球状のカムボール43とを有して構成されている。
【0036】
メインカム42は、メインクラッチ3の一端における第1インナクラッチプレート32に接触し、メインクラッチ3を押圧する環板状の押圧部421と、押圧部421よりもメインカム42の内周側に設けられたカム部422とを一体に有している。押圧部421の外周面421aは、内周スプライン部210(第1の内周スプライン突起211及び第2の内周スプライン突起212)に対向している。
【0037】
また、メインカム42には、押圧部421の内側に、インナシャフト23の外周スプライン部230とスプライン係合するスプライン歯421bが形成されている。これにより、メインカム42は、インナシャフト23に対して相対回転不能かつ軸方向移動可能である。メインカム42とインナシャフト23に形成された段差面23aとの間には、メインカム42をパイロットカム41側に付勢する皿バネ44が配置されている。
【0038】
パイロットカム41の外周部には、スプライン係合部411が形成されている。また、パイロットカム41とリヤハウジング22の第3部材223との間には、スラスト針状ころ軸受45が配置され、パイロットカム41のリヤハウジング22側への移動が規制されている。
【0039】
パイロットカム41とメインカム42のカム部422との対向面には、周方向に沿って軸方向の深さが変化する複数のカム溝41a,422aが形成されている。パイロットカム41のカム溝41aとメインカム42のカム溝422aとの間には、球状のカムボール43が配置されている。そして、カム機構4は、パイロットカム41をメインカム42に対して相対回転させることにより、メインカム42にメインクラッチ3に押し付ける軸方向の押圧力を発生させる。
【0040】
電磁クラッチ機構5は、アーマチャ50と、複数の第1アウタクラッチプレート51と、複数の第2インナクラッチプレート52と、電磁コイル53とを有して構成されている。
【0041】
アーマチャ50は、鉄等の磁性材料からなる環状の部材であり、その外周部にはフロントハウジング21の内周スプライン部210にスプライン係合する複数の第1及び第2の突起501,502が設けられている。アーマチャ50は、フロントハウジング21に対して相対回転不能かつ軸方向移動可能である。アーマチャ50の詳細については後述する。
【0042】
複数の第1アウタクラッチプレート51及び複数の第2インナクラッチプレート52は、アーマチャ50とリヤハウジング22との間に、回転軸線Oに沿って交互に配置されている。第1アウタクラッチプレート51の外周部には、フロントハウジング21の内周スプライン部210にスプライン係合する複数の突起511が設けられている。第2インナクラッチプレート52の内周部には、パイロットカム41のスプライン係合部411にスプライン係合する複数の突起521が設けられている。
【0043】
第2アウタクラッチプレート51は、フロントハウジング21に対して相対回転不能かつ軸方向移動可能である。第2インナクラッチプレート52は、パイロットカム41に対して相対回転不能かつ軸方向移動可能である。
【0044】
電磁コイル53は、磁性材料からなる環状のヨーク530に保持され、リヤハウジング22の収容空間22aに収容されている。ヨーク530は、玉軸受63によってリヤハウジング22の第3部材223に支持され、その外周面が第1部材221の内周面に対向している。また、ヨーク530の内周面は、第3部材223の外周面に対向している。電磁コイル53には、電線531を介して制御装置10から励磁電流が供給される。
【0045】
上記のように構成された駆動力伝達装置2は、制御装置10から電磁コイル25に励磁電流が供給されると、ヨーク530、リヤハウジング22の第1部材221及び第3部材223、複数の第2アウタクラッチプレート51、複数の第2インナクラッチプレート52、及びアーマチャ50を通過する磁路Gに磁束が発生する。そして、この磁束の電磁力によってアーマチャ50がリヤハウジング22側に吸引されて軸方向移動し、第2アウタクラッチプレート51と第2インナクラッチプレート52とを押圧する。
【0046】
これにより第2アウタクラッチプレート51と第2インナクラッチプレート52とが摩擦摺動し、ハウジング20の回転力がカム機構4のパイロットカム41に伝達され、パイロットカム41がメインカム42に対して相対回転する。つまり、電磁クラッチ機構5は、電磁コイル53の通電時に、カム機構4にパイロットカム41とメインカム42とを相対回転させる回転力を付与する。
【0047】
パイロットカム41とメインカム42との相対回転によって、カムボール43がカム溝41a,422aを転動し、パイロットカム41とメインカム42とが離間する方向の軸方向の推力が発生する。そして、この推力によってメインカム42がメインクラッチ3を押圧し、ハウジング20とインナシャフト23とがトルク伝達可能に連結される。
【0048】
一方、電磁コイル25への励磁電流が遮断されると、皿バネ44の付勢力によりメインカム42がパイロットカム41側に押し戻され、カムボール43がカム溝41a,422aの最も深い位置に移動する。これによりメインクラッチ3の第1アウタクラッチプレート31と第1インナクラッチプレート32の間に隙間が形成され、この隙間に潤滑油が流れ込み、ハウジング20とインナシャフト23との連結状態が解除される。すなわち、駆動力伝達装置2が非作動状態となる。
【0049】
(フロントハウジング21の構成)
図3は、フロントハウジング21の内面を示し、(a)は全体斜視図、(b)は(a)の一部拡大図である。
【0050】
本実施の形態に係る内周スプライン部210は、第1アウタクラッチプレート31及びアーマチャ50に係合する第1の内周スプライン突起211と、第1アウタクラッチプレート31に係合し、アーマチャ50には係合しない第2の内周スプライン突起212とからなる。第1の内周スプライン突起211及び第2の内周スプライン突起212は、フロントハウジング21の内周面21dから回転軸線O(
図1に示す)に向かって径方向に突出して形成されている。隣り合う一対の第1の内周スプライン突起211の間、及び第1の内周スプライン突起211と第2の内周スプライン突起212の間には、スプライン隙間213が形成されている。
【0051】
第1の内周スプライン突起211は、内周スプライン部210の第1領域210a及び第2領域210bを含む範囲に、回転軸線Oと平行に延びるように形成されている。第2の内周スプライン突起212は、内周スプライン部210の第1領域210aを含む範囲に回転軸線Oと平行に延びるように形成され、第2領域210bには形成されていない。つまり、第2の内周スプライン突起212は、第1の内周スプライン突起211よりも回転軸方向の長さが短く形成され、この長さの違いによってアーマチャ50に係合しないように形成されている。
【0052】
本実施の形態では、内周スプライン部210が、28本の第1の内周スプライン突起211及び4本の第2の内周スプライン突起212によって構成されている。4本の第2の内周スプライン突起212は、回転軸線Oに対する周方向に等間隔をもって4か所に形成されている。第1の内周スプライン突起211と第2の内周スプライン突起212との間、及び隣り合う第1の内周スプライン突起211の間の周方向間隔は同じである。
【0053】
また、フロントハウジング21の内周面21dには、周方向の4か所に、第1の内周スプライン突起211が形成されていない欠歯部21eが設けられている。この欠歯部21eは、フロントハウジング21内における潤滑油の流動を円滑にする。
【0054】
第2の内周スプライン突起212のフロントハウジング21の開口側(第2領域210b側)の端面212aは、第1領域210aと第2領域210bとの間に形成されている。より詳細には、端面212aは、駆動力伝達装置2の非作動状態におけるメインカム42の押圧部421の外周面421aの第2領域210b側の端部よりもフロントハウジング21の開口側(リヤハウジング22側)に設けられている。
【0055】
これにより、内周スプライン部210は、回転軸線Oに直交する断面における断面積が、第1領域210aでは複数(28本)の第1の内周スプライン突起211の断面積及び複数(4本)の第1の内周スプライン突起212の断面積の総和となり、第2領域210bでは複数(28本)の第1の内周スプライン突起211の断面積の総和となる。すなわち、内周スプライン部210は、その回転軸線Oに直交する断面における断面積が、端面212aを境として第1領域210aよりも第2領域210bで小さくなるように形成されている。つまり、端面212aは、内周スプライン部210の断面積の違いによって形成される段差面の一態様である。
【0056】
第1の内周スプライン突起211のフロントハウジング21の開口側の端面211aは、第2の内周スプライン突起212の開口側の端面212aよりもフロントハウジング21の開口側に位置している。
【0057】
第2の内周スプライン突起212の端面212aは、アーマチャ50に軸方向に対向する対向面として形成されている。アーマチャ50は、この端面212aに当接することにより、第1領域210a側への移動が規制されている。
【0058】
(アーマチャ50の構成)
図4は、アーマチャ50を示し、(a)は平面図、(b)は(a)の一部拡大図である。
【0059】
アーマチャ50は、環状の基部500の外周側に、複数の第1の突起501、及び複数の第2の突起502が設けられている。第1の突起501は、隣り合う第1の内周スプライン突起211の間、又は第1の内周スプライン突起211と第2の内周スプライン突起212の間に係合する。第2の突起502は、第2の内周スプライン突起212を挟んで隣り合う一対の第1の内周スプライン突起211の間に係合する。
【0060】
第2の突起502は、第1の突起501よりも周方向の幅が長く形成されている。より具体的には、第2の突起502は、周方向に隣り合う一対の第1の突起501を結合した幅に形成されている。第2の突起502は、4本の第2の内周スプライン突起212の端面212aに対向するように、アーマチャ50の4か所に形成されている。
【0061】
図4(b)では、第2の突起502の端面212aに軸方向に対向する領域502aを破線で示している。領域502aの周方向両側には、端面212aに対向しない領域501bが形成されている。領域501bは、第1の内周スプライン突起211及び第2の内周スプライン突起212の間のスプライン隙間213を介してフロントハウジング21の底部21bに対向する。
【0062】
電磁コイル53への非通電時において、アーマチャ50が、例えば四輪駆動車1の振動や加減速等によって第1領域210a側(底部21b側)に移動すると、第2の突起502の領域502aが端面212aに当接し、それ以上の第1領域210a側への移動が規制される。これにより、駆動力伝達装置2は、アーマチャ50がメインカム42に接触しないように構成されている。
【0063】
なお、フロントハウジング21は、例えば鋳造によって製造することができる。この場合、内周スプライン部210は、鋳型に第1の内周スプライン突起211及び第2の内周スプライン突起212に対応する凹部を設けることにより形成することができる。また、第2の内周スプライン突起212における端面212aの位置の精度及び面精度を高めるためには、鋳造時における第2の内周スプライン突起212の延伸方向の長さを長めに形成し、その後、機械加工によって第2の内周スプライン突起212の端部を切削して端面212aを形成するとよい。
【0064】
(第1の実施の形態の作用及び効果)
以上説明した本実施の形態によれば、アーマチャ50の第2の突起502が第2の内周スプライン突起212の端面212aに当接することで、アーマチャ50の第1領域210a側への移動が規制されるので、アーマチャ50がメインカム42に接触することがなく、アーマチャ50とメインカム42の押圧部421との間に軸方向の空隙が保たれる。これにより、電磁コイル53に通電した際に、アーマチャ50がメインカム42側に引き寄せられてしまうことが抑制される。また、アーマチャ50の第1領域210a側への移動を規制するための部材を設ける必要がないので、部品点数や組み付け工数の増大を抑制することが可能となる。
【0065】
[第2の実施の形態]
次に、本発明の第2の実施の形態について、
図5及び
図6を参照して説明する。本実施の形態に係る駆動力伝達装置は、フロントハウジング及びアーマチャの形状が異なる他は、第1の実施の形態と同様に構成されている。以下、第1の実施の形態について説明したものと実質的に共通する機能を有する構成要素については、同一の符号を付してその重複した説明を省略する。
【0066】
図5は、本実施の形態に係るフロントハウジング21Aの内面を示し、(a)は全体斜視図、(b)は(a)の一部拡大図である。
図6は、本実施の形態に係るアーマチャ50Aを示し、(a)は平面図、(b)は(a)の一部拡大図である。
【0067】
本実施の形態に係るフロントハウジング21Aは、第2の内周スプライン突起212の形状が異なり、この他は第1の実施の形態と同様に構成されている。本実施の形態では、第2の内周スプライン突起212が、内周スプライン部210の第1領域210a及び第2領域210bに亘って形成され、その径方向の高さが第2領域210bにおいて第1領域210aよりも低く形成されている。そして、この高さの違いによって第1領域210aと第2領域210bとの間に段差面212Aaが形成されている。
【0068】
より詳細には、本実施の形態に係る第2の内周スプライン突起212は、段差面212Aaよりも第1領域210a側の第1スプライン部212Aと、段差面212Aaよりも第2領域210b側の第2スプライン部212Bとによって構成され、第2スプライン部212Bの内面(回転軸線O側の面)212Bbは、第1スプライン部212Aの内面212Abよりも径方向の外側に位置している。これにより、スプライン隙間213におけるフロントハウジング21の内周面21dからの第2スプライン部212Bの高さは、同じく内周面21dからの第1スプライン部212Aの高さよりも低く形成されている。
【0069】
すなわち、内周スプライン部210は、回転軸線Oに直交する断面における断面積が第1領域210aよりも第2領域210bで小さくなるように形成され、この断面積の違いによって段差面212Aaが形成されている。
【0070】
フロントハウジング21Aにおける段差面212Aaの軸方向の位置は、第1の実施の形態におけるフロントハウジング21における端面212aの位置と同じである。すなわち、段差面212Aaは、非作動状態におけるメインカム42の押圧部421の外周面421aの第2領域210b側の端部よりもフロントハウジング21Aの開口側に設けられている。
【0071】
第2スプライン部212Bにおけるフロントハウジング21の開口側の端面212Baは、回転軸線Oに沿った方向における位置が、第1の内周スプライン突起211の開口側の端面211aと同じ位置に形成されている。すなわち、本実施の形態では、第1の内周スプライン突起211と第2の内周スプライン突起212とが同じ長さに形成されている。
【0072】
図6に示すように、本実施の形態に係るアーマチャ50Aは、第2の突起502の形状が第1の実施の形態に係るアーマチャ50と異なり、この他は第1の実施の形態と同様に構成されている。
【0073】
本実施の形態に係る第2の突起502は、第2の内周スプライン突起212の第2スプライン部212Bと係合するように形成されている。より具体的には、第2の突起502は、第2スプライン部212Bの内面212Bbに対向する外周面50aが、その周方向の両側における外周面50bよりも径方向の内側に位置している。外周面50bの回転軸線Oからの距離は、第1の突起501における外周面50cの回転軸線Oからの距離と同じである。
【0074】
外周面50aの内側の領域502aは、第1スプライン部212Aにおけるフロントハウジング21の開口側の端面である段差面212Aaに対向する。つまり、段差面212Aaは、アーマチャ50A(領域502a)に対向する対向面として形成されている。領域502aの周方向両側には、外周面50bの内側に、段差面212Aaに対向しない領域502bが形成されている。
【0075】
(第2の実施の形態の作用及び効果)
以上説明した本実施の形態によれば、第1の実施の形態について説明したものと同様の作用及び効果が得られる。また、第2の突起502は、第2の内周スプライン突起212の第2スプライン部212Bと係合するので、アーマチャ50Aのフロントハウジング21内における位置及び姿勢がより安定する。
【0076】
[第3の実施の形態]
次に、本発明の第3の実施の形態について、
図7及び
図8を参照して説明する。本実施の形態に係る駆動力伝達装置は、フロントハウジング及びアーマチャの形状が異なる他は、第1の実施の形態と同様に構成されている。以下、第1の実施の形態について説明したものと実質的に共通する機能を有する構成要素については、同一の符号を付してその重複した説明を省略する。
【0077】
図7は、本実施の形態に係るフロントハウジング21Bの内面を示し、(a)は全体斜視図、(b)は(a)の一部拡大図である。
図6は、本実施の形態に係るアーマチャ50Bを示し、(a)は平面図、(b)は(a)の一部拡大図である。
【0078】
本実施の形態に係るフロントハウジング21Bは、第2の内周スプライン突起212が、内周スプライン部210の第1領域210a及び第2領域210bに亘って形成され、その周方向の幅が第2領域210bにおいて第1領域210aよりも狭く形成されている。そして、この幅の違いによって第1領域210aと第2領域210bとの間に段差面212Aaが形成されている。
【0079】
より詳細には、本実施の形態に係る第2の内周スプライン突起212は、段差面212Aaよりも第1領域210a側の第1スプライン部212Aと、段差面212Aaよりも第2領域210b側の第2スプライン部212Bとによって構成され、フロントハウジング21Bの周方向における第2スプライン部212Bの幅は、第1スプライン部212Aよりも狭く形成されている。
図7に示す例では、第2スプライン部212Bの周方向の両側に、2つの段差面212Aaが形成されている。
【0080】
すなわち、内周スプライン部210は、回転軸線Oに直交する断面における断面積が第1領域210aよりも第2領域210bで小さくなるように形成され、この断面積の違いによって2つの段差面212Aaが形成されている。
【0081】
フロントハウジング21Bにおける段差面212Aaの軸方向の位置は、第1の実施の形態におけるフロントハウジング21における端面212aの位置と同じである。すなわち、段差面212Aaは、非作動状態におけるメインカム42の押圧部421の外周面421aの第2領域210b側の端部よりもフロントハウジング21Bの開口側に設けられている。
【0082】
図8に示すように、本実施の形態に係るアーマチャ50Bは、第2の突起502の形状が第1の実施の形態に係るアーマチャ50と異なり、この他は第1の実施の形態と同様に構成されている。
【0083】
本実施の形態に係る第2の突起502は、第2の内周スプライン突起212の第2スプライン部212Bと係合するように形成されている。より具体的には、第2の突起502は、その周方向の中央部に溝502cを有し、この溝502cに第2スプライン部212Bが係合する。溝502cは、アーマチャ50Bの外周面から径方向に窪んで形成され、アーマチャ50Bを厚さ方向に貫通している。
【0084】
溝502cの周方向の両側には、段差面212Aaに軸方向に対向する領域502aが形成されている。つまり、段差面212Aaは、アーマチャ50B(領域502a)に対向する対向面として形成されている。領域502aの周方向両側には、外周面50bの内側に、段差面212Aaに対向しない領域502bが形成されている。
【0085】
(第3の実施の形態の作用及び効果)
以上説明した本実施の形態によれば、第1の実施の形態について説明したものと同様の作用及び効果が得られる。また、第2の突起502は、溝502cによって第2の内周スプライン突起212の第2スプライン部212Bと係合するので、アーマチャ50Aのフロントハウジング21内における位置及び姿勢がより安定する。
【0086】
(他の実施の形態)
以上、本発明の第1乃至第3実施の形態について説明したが、本発明は、これらの実施の形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更して実施することができる。例えば、上記各実施の形態では、第2の内周スプライン突起212がフロントハウジング21,21A,21Bの内面の4か所に形成されていたが、これに限らず、第2の内周スプライン突起212は少なくとも2か所に形成されていればよい。また、第2及び第3の実施の形態では、第1の内周スプライン突起211を有さず、第2の内周スプライン突起212のみによって内周スプライン部210が構成されていてもよい。