特許第5901466号(P5901466)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5901466
(24)【登録日】2016年3月18日
(45)【発行日】2016年4月13日
(54)【発明の名称】磁石用コーティング液
(51)【国際特許分類】
   C09D 183/16 20060101AFI20160331BHJP
   C09D 7/12 20060101ALI20160331BHJP
   C09D 5/08 20060101ALI20160331BHJP
   H01F 1/08 20060101ALI20160331BHJP
   H01F 41/02 20060101ALI20160331BHJP
【FI】
   C09D183/16
   C09D7/12
   C09D5/08
   H01F1/08 A
   H01F41/02 G
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2012-175495(P2012-175495)
(22)【出願日】2012年8月8日
(65)【公開番号】特開2014-34604(P2014-34604A)
(43)【公開日】2014年2月24日
【審査請求日】2015年2月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】595181210
【氏名又は名称】株式会社ダイドー電子
(73)【特許権者】
【識別番号】505048507
【氏名又は名称】アートブリード株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107700
【弁理士】
【氏名又は名称】守田 賢一
(72)【発明者】
【氏名】近藤 信広
(72)【発明者】
【氏名】山田 人巳
(72)【発明者】
【氏名】二宮 直樹
【審査官】 牟田 博一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−017349(JP,A)
【文献】 特開平07−223867(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00−201/10
H01F 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シラザン化合物溶液と、水素化パラジウム粉末と、希釈剤とを含む磁石用コーティング液。
【請求項2】
前記シラザン化合物は、ポリアルキル化シラザン化合物とペルヒドロポリシラザンの混合物である請求項に記載の磁石用コーティング液。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の磁石用コーティング液が塗布されて磁石体の表面にポリシラザン被膜からなるコーティング膜が形成されている磁石体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は熱間加工磁石等の防錆用に使用する磁石用コーティング液に関し、特に、磁気特性を向上させることが可能な磁石用コーティング液に関する。
【背景技術】
【0002】
熱間加工磁石はボンド磁石に較べて磁気特性に優れているが、磁粉が表面に露出しているために酸化し錆び易い。このため通常は磁石表面に防錆用のコーティングを施している。ここで、特許文献1には、磁石本体をポリシラザン溶液に浸漬して磁石表面にポリシラザン被膜を形成した後、これを熱処理してガラス状保護被膜を形成することによって防錆を図ったものが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−017349
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記従来のコーティングでは、成形後に磁石表面に形成される酸化膜をそのままにしてその上にコーティング膜を形成するものであり、特性の劣化した酸化膜が介在することによって充分な磁気特性を発揮させることができないという問題があった。
【0005】
そこで、本発明はこのような課題を解決するもので、熱間加工磁石等の表面を覆って実用に耐えうる防錆を図りかつ充分な磁気特性を発揮させることができる磁石用コーティング液を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明の磁石用コーティング液は、シラザン化合物溶液と、水素化パラジウム粉末と、希釈剤とを含むものである。
【0007】
上記シラザン化合物は、例えばポリアルキル化シラザン化合物とペルヒドロポリシラザンの混合物であり、この場合のシラザン化合物溶液は、上記混合物を1〜40質量%の濃度で不活性有機溶剤中に溶解してなるものである。
【0008】
ポリアルキル化シラザン化合物としては、ヘキサメチルジシラザン、オクタメチルシラザン、シクロテトラシラザンおよびテトラメチルジシラザンから選ばれる少なくとも1種が使用できる。
【0009】
ペルヒドロポリシラザンは、珪素、窒素および水素のみから構成される化合物であり、炭素などの有機成分を含まない無機のポリマーで、−(SiH2NH)−ユニットから構成されている。
【0010】
上記有機溶剤としては、エーテル系有機溶剤、例えば、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジブチルエーテルおよびリモネンから選ばれる少なくとも1種が使用できる。
【0011】
有機溶剤に溶解するポリアルキル化シラザン化合物とペルヒドロポリシラザンは、両者の合計量を100質量部とした場合、A:B=30〜90:70〜10の質量比であることが好ましい。
【0012】
水素化パラジウム粉末は固体をナノ粉砕したもので、その平均粒径は15〜20nmとするのが良い。水素化パラジウム粉末はシラザン化合物溶液に0.1〜10質量%の濃度で分散させるのが良く、好ましくは2〜5質量%の濃度とするのが良い。0.1質量%より少ないと効果が無く、また10質量%より多いと水素ガスが過剰に発生して、コーティング膜の形成が不安定になる。
【0013】
希釈剤としては例えばジブチルエーテルが使用でき、これを上記懸濁液にその粘度が1〜10cpsになるように加える。
【0014】
このような磁石用コーティング液は磁石体に塗布されると、当該磁石体の表面にポリシラザン被膜からなるコーティング膜が形成される。磁石体への上記コーティング液の塗布は例えば、コーティング液中に磁石体を浸漬する等によって行う。
【0015】
コーティング液を塗布する対象となる磁石体は、磁粉が表面に露出しているために酸化し錆び易い熱間加工磁石や焼結磁石であり、例えばSmCo系、NdFeB系、SmFeN系等の希土類磁石である。
【0016】
磁石体の表面に、ポリシラザン被膜からなるコーティング膜が形成される過程を図1図4に基づいて以下に説明する。
【0017】
図1はNdFeB系磁石体の表面付近の断面図で、磁石体表面に酸化物NdOの膜(酸化膜)が生じている。ここに本発明の磁石用コーティング液を塗布すると、当該コーティング液中の水素化パラジウム二つの水素原子とNdOの酸素原子が結合して水(H2O)になり、酸化物NdOが還元されて酸化膜が解消される。パラジウムは以降の反応過程で発生する水素と結合して、水素キャリアとして機能する。また大気中の水が取り込まれて加水分解が進行する。また、アンモニアガス(NH3)が生じる。なお、図1および以下の図中の短斜線は原子間の結合が解消されることを示し、各図中のRはアルキル基を示す。
【0018】
続く反応過程では図2図4に示すように、加水分解と水素化パラジウムの再生が行われ、アンモニアガスおよび水素ガスを生じさせつつ、コーティング膜が成長する。このようにして、磁石体の表面に、ポリシラザン被膜からなるコーティング膜が形成される。
【0019】
なお、コーティング膜の厚みは4〜7μmとするのが良い。4μmより薄いと防錆効果が損なわれ、一方、7μmより厚くてしても防錆効果はさほど変わらないのに対し、膜応力が大きくなって膜が剥離し易くなる。
【発明の効果】
【0020】
以上のように、本発明の磁石用コーティング液によれば、熱間加工磁石等の磁石体表面を覆って効果的な防錆を図ることができるとともに、磁石体表面に酸化膜の介在しないコーティング膜を形成できるから充分な磁気特性を発揮させることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明のコーティング膜の成長過程の化学反応を示す図である。
図2】本発明のコーティング膜の成長過程の化学反応を示す図である。
図3】本発明のコーティング膜の成長過程の化学反応を示す図である。
図4】本発明のコーティング膜の成長過程の化学反応を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に説明する実施形態はあくまで一例であり、本発明の要旨を逸脱しない範囲で当業者が行う種々の設計的改良も本発明の範囲に含まれる。
【0023】
なお、以下の実施例、比較例における磁石体は熱間加工磁石体で、磁粉としてマグネクエンチ(Magnequench)社製のMQP−B(NdFeB系磁粉)を使用し、これを冷間プレス、熱間プレスした後、異方性を付与するために熱間塑性加工したものである。また、耐食性については、雰囲気温度85℃、雰囲気湿度95%で100時間放置した後の錆びの発生の有無を検査し、また120℃、2気圧の加圧湿潤空気を用いたプレッシャークッカーテスト(PCT)で100時間放置後の錆びの発生の有無を検査した。また、磁気特性はBHトレーサによって最大エネルギー積(BH)maxを測定した。以下、表1を参照しつつ説明する。
【0024】
(実施例1)
本実施例では、磁石形状を板状とし、両面を研削加工した。これを磁石用コーティング液(ポリアルキル化シラザン化合物(ヘキサメチルジシラザン)とペルヒドロポリシラザンの混合物(両者の合計を100質量部とした場合、前者が40質量部、後者が60質量部)を16質量%の濃度でジブチルエーテル中に溶解させ、その溶液中に、平均粒径15〜20nmの水素化パラジウム粉末を5質量%の濃度で分散させて、ジブチルエーテルで希釈したもの。以下、同様)中に浸漬した後に大気中で室温乾燥することを2回繰り返して、磁石体表面に7μm厚のコーティング膜を形成した。この場合、錆びの発生は無く、(BH)maxは14.5MGOeであった。
【0025】
(実施例2)
本実施例では、磁石形状を板状とし、両面を研削加工した。これを磁石用コーティング液中に浸漬した後に大気中で室温乾燥することを2回繰り返し、さらに300℃で30分の加熱処理を行って磁石体表面に4μm厚のコーティング膜を形成した。この場合、錆びの発生は無く、(BH)maxは14.5MGOeであった。これは加熱処理を行っても磁気特性には影響がないことを示している。
【0026】
(実施例3)
本実施例では、磁石形状を板状とし、両面をショットブラスト加工による凹凸面とした。これを磁石用コーティング液中に浸漬した後に大気中で室温乾燥することを2回繰り返して、磁石体表面に4μm厚のコーティング膜を形成した。この場合、錆びの発生は無く、(BH)maxは14.5MGOeであった。
【0027】
(実施例4)
本実施例では、磁石形状をリング状とし、インターナル加工およびセンターレス加工によって内外周面を研削した。これを磁石用コーティング液中に浸漬した後に大気中で室温乾燥することを2回繰り返して、磁石体表面に4μm厚のコーティング膜を形成した。この場合、錆びの発生は無く、(BH)maxは14.5MGOeであった。
【0028】
(実施例5)
本実施例では、磁石形状を板状とし、両面を研削加工した。これを磁石用コーティング液中に浸漬した後に大気中で室温乾燥して、磁石体表面に2μm厚のコーティング膜を形成した。この場合の磁気特性は(BH)maxが14.5MGOeと十分な性能を発揮する。また、磁石体表面にごくわずか錆びが発生したものの、実用上は問題ない程度であった。
【0029】
(比較例1)
本比較例では、磁石形状を板状とし、両面はショットブラスト加工による凹凸面とした。これを水素化パラジウム粉末を添加していない磁石用コーティング液中に浸漬した後に大気中で室温乾燥することを2回繰り返して、磁石体表面に4μm厚のコーティング膜を形成した。この場合、錆びの発生は無いが、(BH)maxは13.7MGOeと低下した。
【0030】
(比較例2)
本比較例では、磁石形状を板状とし、両面を研削加工した。これを水素化パラジウム粉末を添加していない磁石用コーティング液中に浸漬した後に大気中で室温乾燥することを2回繰り返して、磁石体表面に7μm厚のコーティング膜を形成した。この場合、錆びの発生は無いが、(BH)maxは13.1MGOeと低下した。
【0031】
(比較例3)
本比較例では、磁石形状を板状とし、両面はショットブラスト加工による凹凸面とした。これをワット浴中に浸漬して電解メッキした後に大気中で室温乾燥して、磁石体表面に15μm厚のNiコーティング膜を形成した。この場合、錆びの発生は無いが、(BH)maxは13.3MGOeと低下した。
【0032】
(比較例4)
本比較例では、磁石形状を板状とし、両面はショットブラスト加工による凹凸面とした。そして磁石体表面に真空蒸着によって15μm厚のAlコーティング膜を形成した。この場合、錆びの発生は無いが、(BH)maxは13.0MGOeと低下した。
【0033】
【表1】
図1
図2
図3
図4