(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
示差走査熱量計で測定された、ポリアミド組成物の補外結晶化開始温度Ticと、ポリアミド組成物の補外結晶化終了温度Tfcとの差(Tic−Tfc)が10℃以下である、請求項1に記載のポリアミド組成物。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、本発明者らの検討によれば、特許文献1及び2に記載の組成物では、組成物の結晶性は上昇するものの添加された核剤により物性低下が引き起こされることが分かっている。また、組成物の物性低下を軽減するために核剤の添加量を低くする提案もなされているが、核剤の組成物への均一な分散が困難となることがある。さらには核剤をマスターバッチとすることで核剤の組成物への均一な分散を確保する提案もなされているが、組成物の生産にかかる工程が増えるという難点がある。
【0006】
また、特許文献3に記載の組成物は、結晶性と機械特性とのバランスが優れているとはいえず、不十分である。
【0007】
そこで、本発明は、成形性と機械特性とに優れたポリアミド組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記本発明課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、ポリアミドに対して特定量の液晶性ポリエステルを含む組成物によって上記課題が解決されることを見出した。
【0009】
すなわち、本発明は、以下に関する。
【0010】
[1]
ポリアミド(A)100重量部に対して液晶性ポリエステル(B)0.1質量部以上2質量部以下を含むポリアミド組成物であって、
示差走査熱量計で測定された、ポリアミド組成物の補外結晶化開始温度Ticと、ポリアミド組成物の結晶化ピーク温度Tpとの差(Tic−Tp)が5℃以下であり、
示差走査熱量計で測定された、ポリアミド(A)の補外結晶化開始温度Tipaと、ポリアミド(A)の結晶化ピーク温度Tppaとの差ΔTpa(Tipa−Tppa)が以下の関係式を満たすポリアミド組成物。
0.1≦(Tic−Tp)/ΔTpa≦0.4
[2]
示差走査熱量計で測定された、ポリアミド組成物の補外結晶化開始温度Ticと、ポリアミド組成物の補外結晶化終了温度Tfcとの差(Tic−Tfc)が10℃以下である、[1]に記載のポリアミド組成物。
[3]
ポリアミド組成物の冷結晶化熱ΔHcompと、ポリアミド(A)の冷結晶化熱ΔHpaとが、以下の関係式を満たす、[1]又は[2]に記載のポリアミド組成物。
0.95≦ΔHcomp/ΔHpa≦1.05
[4]
液晶性ポリエステル(B)の融点Tmbが、210℃以上350℃以下である、[1]から[3]のいずれかに記載のポリアミド組成物。
[5]
ポリアミド(A)が、ポリアミド610、ポリアミド612及びポリアミド66/6Iからなる群より選択される少なくとも1種である、[1]から[4]のいずれかに記載のポリアミド組成物。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、成形性と機械特性とに優れたポリアミド組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」という)について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に制限されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0013】
本実施形態のポリアミド組成物は、ポリアミド(A)100重量部に対して液晶性ポリエステル(B)0.1質量部以上2質量部以下を含むポリアミド組成物であって、
示差走査熱量計で測定された、ポリアミド組成物の補外結晶化開始温度Ticと、ポリアミド組成物の結晶化ピーク温度Tpとの差(Tic−Tp)が5℃以下であり、
示差走査熱量計で測定された、ポリアミド(A)の補外結晶化開始温度Tipaと、ポリアミド(A)の結晶化ピーク温度Tppaとの差ΔTpa(Tipa−Tppa)が以下の関係式を満たす。
【0014】
0.1≦(Tic−Tp)/ΔTpa≦0.4
【0015】
〔ポリアミド(A)〕
本実施形態に用いるポリアミド(A)は、主鎖中にアミド結合(−NHCO−)を有する重合体である。好適なポリアミド(A)としては、特に限定されないが、例えば、ポリカプロラクタム(ポリアミド6)、ポリテトラメチレンアジパミド(ポリアミド46)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ポリアミド66)、ポリヘキサメチレンシクロヘキシルアミド(ポリアミド6C)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ポリアミド610)、ポリヘキサメチレンドデカミド(ポリアミド612)、ポリウンデカラクタム(ポリアミド11)、ポリドデカラクタム(ポリアミド12)、ポリヘキサメチレンイソフタルアミド(ポリアミド6I)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド(ポリアミド6T)、ポリノナンメチレンテレフタルアミド(ポリアミド9T)、ポリドデカメチレンテレフタルアミド(ポリアミド12T)、又はこれら重合体の単量体成分を2種以上含むポリアミド共重合体、並びにこれら重合体及び/又はポリアミド共重合体の混合物などが挙げられる。中でもポリアミド組成物の成形性及び機械特性の向上の観点から、より好ましいポリアミド(A)は、ポリアミド66、ポリアミド610、ポリアミド612などの重合体、あるいはポリアミド6、ポリアミド612、ポリアミド6C及びポリアミド6Iからなる群より選択される重合体の単量体成分1種類以上と、ポリアミド66の単量体成分とからなるポリアミド共重合体、あるいはこれら重合体及び/又はポリアミド共重合体の混合物などであり、さらに好ましいポリアミド(A)は、ポリアミド610、ポリアミド612及びポリアミド66/6Iからなる群より選択される少なくとも1種である。
【0016】
ポリアミド(A)として上述したような特定のポリアミドを用いることにより、後述の熱的特性を満たすポリアミド組成物を得ることができる。
【0017】
本実施形態に用いるポリアミド(A)の相対粘度ηrは、特に限定されないが、1.5以上6.0以下であることが、ポリアミド組成物の引張伸度の観点から好ましく、より好ましくは2.0以上4.5以下であり、更に好ましくは2.0以上4.0以下である。なお、本実施形態において、相対粘度ηrは、JIS K6920に従って23℃、98%硫酸を用いて測定した相対粘度である。また、相対粘度ηrは分子量の指標となり、相対粘度ηrが大きいほど分子量が大きいことを示す。
【0018】
〔液晶性ポリエステル(B)〕
本実施形態に用いる液晶性ポリエステル(B)は、サーモトロピック液晶ポリマーと呼ばれるポリエステル(以下「サーモトロピック液晶ポリエステル」とも記す。)である。液晶性ポリエステル(B)としては、特に限定されず、例えば、公知のサーモトロピック液晶ポリエステルを使用でき、具体的には、p−ヒドロキシ安息香酸、1,2−エタンジオール及びテレフタル酸を主構成単位とするサーモトロピック液晶ポリエステル、p−ヒドロキシ安息香酸及び2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸を主構成単位とするサーモトロピック液晶ポリエステル、p−ヒドロキシ安息香酸及び4,4’−ジヒドロキシビフェニルならびにテレフタル酸を主構成単位とするサーモトロピック液晶ポリエステル、並びにそれらの混合物などが挙げられる。ここで、「主構成単位」とは、全構成単位に対して51%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは85%以上の構成単位をいう。
【0019】
液晶性ポリエステル(B)の融点Tmbは、ポリアミド組成物の耐熱性と加工性との観点から、210℃以上350℃以下であることが好ましい。また、液晶性ポリエステル(B)の融点Tmbは、ポリアミド組成物の耐熱性の観点から、より好ましくは250℃以上300℃以下である。ここで、融点Tmbは示差走査熱量(DSC)測定で求めることができる。具体的には、以下のとおり融点Tmbを求めることができる。まず、示差熱量測定装置を用いて試料を50℃から10℃/分の昇温条件下で測定し、融解ピーク温度(Tm1)を観測した後、Tm1より20〜50℃高い温度で3分間保持する。次いで10℃/分の降温条件で50℃まで試料を冷却した後、再度10℃/分の昇温条件で測定した際の融解ピークを観測する。該融解ピークのピークトップが示す温度を融点(Tmb)とする。
【0020】
更に好ましい液晶性ポリエステル(B)としては、下記構造単位(イ)及び(ロ)を含む液晶性ポリエステルが挙げられる。
【0022】
【化2】
ここで、上記構造単位(イ)及び(ロ)は、それぞれ順にp−ヒドロキシ安息香酸由来の構造単位及び2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸由来の構造単位である。
【0023】
本実施形態に用いる液晶性ポリエステル(B)の溶融粘度は、特に限定されないが、0.5〜200Pa・sが好ましく、より好ましくは1〜100Pa・sである。ここで、溶融粘度はキャピラリーレオメーターを用いて測定することができる。具体的には、融点より50℃高い温度条件で、ずり速度1000(1/秒)の条件下でキャピラリーレオメーターを用いて測定したずり粘度が溶融粘度である。
【0024】
本実施形態に用いる液晶性ポリエステル(B)には、必要に応じ、本発明の特徴及び効果を損なわない程度の範囲で、他の芳香族ジカルボン酸、芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシカルボン酸由来の構造単位が含まれていてもよい。
【0025】
〔添加剤〕
本実施形態のポリアミド組成物には、必要に応じて本発明の目的を損なわない範囲で慣用的に用いられる添加剤を加えることができる。当該添加剤としては、特に限定されないが、例えば、ガラス繊維や炭素繊維などの無機繊維;水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、ホウ酸亜鉛、すず酸亜鉛、ヒドロキシすず酸亜鉛、ポリリン酸アンモニウム、シアヌル酸メラミン、サクシノグアナミン、ポリリン酸メラミン、硫酸メラミン、フタル酸メラミン、リン酸アルミニウム等の難燃剤;チタンホワイト、カーボンブラック等の顔料や着色剤;次亜リン酸ソーダ等の亜リン酸金属塩、ヒンダードフェノールやヒンダードアミンに代表される熱安定剤;高級脂肪酸金属塩、高級脂肪酸アミド、高級脂肪酸エステル等の滑剤;種々の可塑剤;帯電防止剤等が挙げられる。
【0026】
〔ポリアミド組成物の製造方法〕
本実施形態のポリアミド組成物の製造方法としては、上述したポリアミド(A)及び液晶性ポリエステル(B)を含む原料成分を溶融混練することにより製造する方法を挙げることができる。当該溶融混練を行う装置としては、一般に実用されている混練機が適用できる。例えば、一軸又は多軸混練押出機、バンバリーミキサー、ロール等が用いられる。当該溶融混練の方法は、全原料成分を同時に混練する方法、あらかじめ原料成分を予備混練したブレンド物を用いて混練する方法、更に押出し機の途中から逐次、各成分をフィードし、混練する方法のいずれでもよい。当該溶融混練の温度は、ポリアミド(A)、液晶性ポリエステル(B)のいずれかのうちで最も高い融点あるいは軟化点より1〜100℃高い温度が好ましく、10〜60℃高い温度がより好ましく、20〜50℃高い温度がさらに好ましい。すなわち、本実施形態では、製造時にすべての樹脂を溶融し混合することが好ましい。ここで、融点又は軟化点はJIS K7121に準じた示差走査熱量(DSC)測定で求めることができる。ポリアミド組成物の引張伸度及び生産性の観点から、当該溶融混練の温度は、前記温度範囲が好ましい。
【0027】
〔ポリアミド組成物の熱的特性〕
本実施形態のポリアミド組成物は、成形性の観点から、示差走査熱量計で測定された、ポリアミド組成物の補外結晶化開始温度Ticと、ポリアミド組成物の結晶化ピーク温度Tpとの差(Tic−Tp)が5℃以下である。Tic−Tpはポリアミド組成物の結晶化の速さを示す尺度であり、値が小さいほど結晶化が速く進むことを示している。好ましくはTic−Tpは3℃以下、より好ましくは2℃以下である。
【0028】
本実施形態において、補外結晶化開始温度及び結晶化ピーク温度とはJIS K7121に従って求められた温度である。具体的には、以下のとおり補外結晶化開始温度及び結晶化ピーク温度を求めることができる。まず、示差熱量測定装置を用いて試料を50℃から10℃/分の昇温条件下で測定し、融解ピーク温度(Tm1)を観測した後、Tm1より20〜50℃高い温度で10分間保持する。次いで10℃/分の降温条件で50℃まで試料を冷却してDSC曲線を得る。当該DSC曲線において、結晶化ピークの頂点の温度を結晶化ピーク温度とする。また、当該DSC曲線において、高温側のベースラインを低温側に延長した直線と、結晶化ピークの高温側の曲線に勾配が最大になる点で引いた接線との交点の温度を補外結晶化開始温度とする。
【0029】
さらに本実施形態のポリアミド組成物は、成形性の観点から、示差走査熱量計で測定された、ポリアミド(A)の補外結晶化開始温度Tipaと、ポリアミド(A)の結晶化ピーク温度Tppaの差ΔTpa(Tipa−Tppa)が以下の関係式を満たす。
【0030】
0.1≦(Tic−Tp)/ΔTpa≦0.4
【0031】
ΔTpaはポリアミド(A)の結晶化の速さを示す尺度であり、値が小さいほど結晶化が速く進むことを示している。したがって、上記関係式において、(Tic−Tp)/ΔTpaは、元のポリアミド(A)の結晶化速度に比べポリアミド組成物の結晶化速度がどの程度速くなっているかを示す指標である。すなわち、(Tic−Tp)/ΔTpaの値が小さいほど、元のポリアミド(A)の結晶化速度に比べポリアミド組成物の結晶化速度が速くなっていることを意味する。本実施形態のポリアミド組成物は、好ましくは0.1≦(Tic−Tp)/ΔTpa≦0.25を満たす。
【0032】
本実施形態のポリアミド組成物は、さらに成形性の観点から、示差走査熱量計で測定された、ポリアミド組成物の補外結晶化開始温度Ticと、ポリアミド組成物の補外結晶化終了温度Tfcとの差(Tic−Tfc)が10℃以下であることが好ましい。TicとTfcとの差(Tic−Tfc)は、ポリアミド組成物の結晶化の速さを示す尺度であり、値が小さいほど結晶化が速く進むことを示している。さらに好ましくは、TicとTfcとの差(Tic−Tfc)は7℃以下である。
【0033】
本実施形態において、補外結晶化終了温度はJIS K7121に従って求めることができる。具体的には、上述した補外結晶化開始温度及び結晶化ピーク温度を求める方法と同様にしてDSC曲線を得る。当該DSC曲線において、低温側のベースラインを高温側に延長した直線と、結晶化ピークの低温側の曲線に勾配が最大になる点で引いた接線との交点の温度を補外結晶化終了温度とする。
【0034】
本実施形態のポリアミド組成物は、さらに機械特性の観点から、ポリアミド組成物の冷結晶化熱ΔHcompと、ポリアミド(A)の冷結晶化熱ΔHpaとが、以下の関係式を満たすことが好ましい。
【0035】
0.95≦ΔHcomp/ΔHpa≦1.05
【0036】
ΔHcomp/ΔHpaがこの範囲にあることは、ポリアミド組成物が元のポリアミド(A)と同等の結晶化度を有していることを示す。すなわち、ΔHcomp/ΔHpaが前記範囲内であるポリアミド組成物は、元のポリアミド(A)と同等の優れた機械特性を発現する。本実施形態のポリアミド組成物は、さらに好ましくは、0.97≦ΔHcomp/ΔHpa≦1.03を満たす。
【0037】
本実施形態において、冷結晶化熱はJIS K7122に従って求めることができる。具体的には、上述した補外結晶化開始温度及び結晶化ピーク温度を求める方法と同様にしてDSC曲線を得る。当該DSC曲線において、結晶化ピーク面積Aを算出し、該結晶化ピーク面積Aと、測定に用いた組成物またはポリアミドの質量Wと、純物質の質量Ws、融解熱ΔHs及びピーク面積Asとから以下の式によって求めたΔHを冷結晶化熱とする。
【0039】
〔ポリアミド組成物におけるポリアミド(A)と液晶性ポリエステル(B)との割合〕
本実施形態のポリアミド組成物において、ポリアミド(A)と液晶性ポリエステル(B)との割合は、機械物性の観点から、ポリアミド(A)を100質量部としたときに、液晶性ポリエステル(B)が0.1質量部以上2質量部以下である。本実施形態のポリアミド組成物において、ポリアミド(A)を100質量部としたときに、好ましくは、液晶性ポリエステル(B)が0.2質量部以上1.5質量部以下、更に好ましくは0.3質量部以上1.0質量部以下である。ポリアミド(A)に対して液晶性ポリエステル(B)を前記割合で含むポリアミド組成物は、上述の熱的特性を満たし、成形性と機械特性とに優れる。
【実施例】
【0040】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例に制限されるものではない。なお、以下の実施例及び比較例において記載した物性評価は、以下のように行った。
【0041】
[評価法1]ポリアミド(A)の相対粘度
JIS K6920に従って23℃、98%硫酸を用いて測定した。
【0042】
[評価法2]液晶性ポリエステル(B)の融点
パーキンエルマー社製示差走査熱量計DiamondDSCを用いて測定した。該測定において、昇温速度は10℃/分とし、降温速度は10℃/分とした。まず、上記示差熱量測定計を用いて試料約10mgを50℃から昇温させ、吸熱ピーク温度(Tm1)を観測した後、Tm1より約30℃高い温度で3分間保持した。次いで50℃まで試料を冷却した後、再度昇温させて吸熱ピークを観測した。該吸熱ピークのピークトップが示した温度を融点(Tmb)とした。
【0043】
[評価法3]ポリアミド組成物の熱的特性
パーキンエルマー社製示差走査熱量計DiamondDSCを用いてJIS K7121に従って測定した。該測定において、昇温速度は10℃/分とし、降温速度は10℃/分とした。ポリアミド又は実施例で得られたポリアミド組成物の試料約10mgを50℃から昇温させ、融解ピーク温度(Tm1)を観測した後、300℃で3分間保持した。次いで50℃まで試料を冷却させDSC曲線を得る。当該DSC曲線において、結晶化ピークを観測し、該結晶化ピークのピークトップが示した温度を結晶化ピーク温度とした。また、JIS K7121の規定に従って補外結晶化開始温度及び補外結晶化終了温度を決定した。具体的には、当該DSC曲線において、高温側のベースラインを低温側に延長した直線と、結晶化ピークの高温側の曲線に勾配が最大になる点で引いた接線との交点の温度を補外結晶化開始温度とし、低温側のベースラインを高温側に延長した直線と、結晶化ピークの低温側の曲線に勾配が最大になる点で引いた接線との交点の温度を補外結晶化終了温度とした。
【0044】
さらに、JIS K7122の規定に従って冷結晶化熱を決定した。具体的には、当該DSC曲線において、結晶化ピーク面積Aを算出し、該結晶化ピーク面積Aと、測定に用いた組成物またはポリアミドの質量Wと、純物質の質量Ws、融解熱ΔHs及びピーク面積Asとから以下の式によって求めたΔHを冷結晶化熱とした。
【0045】
ΔH=W/Ws×A/As×ΔHs
【0046】
[評価法4]引張特性
射出成型機(日精樹脂(株)製PS−40E)を用いて、シリンダー温度280℃、金型温度80℃に設定し、射出25秒、冷却10秒の射出成型条件で、ポリアミド組成物を成形して4mm厚みのISO試験片を得た。得られたISO試験片を用いてISO527−1に準じて引張強度及び引張伸度の測定を行った。
【0047】
[評価法5]耐衝撃性
上記評価法4で得られたISO試験片を用いて、ISO179−1に準じてシャルピー衝撃強度(ノッチあり)の測定を行った。
【0048】
実施例及び比較例において用いた樹脂等の原料成分を以下に示す。
【0049】
[ポリアミド(A)]
PA−1:ポリアミド612(製造例1にて製造したもの)。
PA−2:ポリアミド610(製造例2にて製造したもの)。
PA−3:ポリアミド66/6I(製造例3にて製造したもの)。
【0050】
[液晶性ポリエステル(B)]
LCP−1:液晶性ポリエステル(製造例4にて製造したもの)。
【0051】
[添加剤(C)]
タルク:日本タルク株式会社製ミクロエースL−1。
【0052】
[製造例1]ポリアミドPA−1の製造例
ドデカン二酸とヘキサメチレンジアミンとの等モル塩2.00kg、及び純水2.5kgを混合し水溶液を得た。次いで、撹拌装置を有し、かつ下部に抜出しノズルを有する5リットルのオートクレーブ中に上記水溶液を仕込み、50℃の温度下で十分に水溶液を撹拌した。次に、オートクレーブ内を5回窒素置換した後、水溶液を撹拌しながらオートクレーブ内の温度を50℃から約270℃まで昇温した。この際、オートクレーブ内の圧力は、ゲージ圧にして約1.8MPaであったが、この圧力が1.8MPa以上にならないようオートクレーブ内の水を随時系外に排出した。また、重合時間は、ポリアミドの相対粘度が目的の相対粘度(2.50)になるように調整した。オートクレーブ内での重合終了後、下部ノズルからストランド状にポリアミドを送出し、水冷及びカッティングを経て、ペレット状のポリヘキサメチレンドデカミド(ポリアミド612)を得た。このポリアミド612(PA−1)を80℃、24時間の条件で真空乾燥した。ポリアミド612(PA−1)の相対粘度(ηr)を上述のようにして測定したところ、2.50であった。
【0053】
[製造例2]ポリアミドPA−2の製造例
セバシン酸とヘキサメチレンジアミンとの等モル塩2.00kg、及び純水2.5kgを混合し水溶液を得た。次いで、撹拌装置を有し、かつ下部に抜出しノズルを有する5リットルのオートクレーブ中に上記水溶液を仕込み、50℃の温度下で十分に水溶液を撹拌した。次に、オートクレーブ内を5回窒素置換した後、水溶液を撹拌しながらオートクレーブ内の温度を50℃から約270℃まで昇温した。この際、オートクレーブ内の圧力は、ゲージ圧にして約1.8MPaであったが、この圧力が1.8MPa以上にならないようオートクレーブ内の水を随時系外に排出した。また、重合時間は、ポリアミド樹脂の相対粘度が目的の相対粘度(2.50)になるように調整した。オートクレーブ内での重合終了後、下部ノズルからストランド状にポリアミド樹脂を送出し、水冷・及びカッティングを経て、ペレット状のポリヘキサメチレンセバカミド(ポリアミド610)を得た。このポリアミド610(PA−2)樹脂を80℃、24時間の条件で真空乾燥した。ポリアミド61
0(PA−2)樹脂の相対粘度(ηr)を上述のようにして測定したところ、2.50であった。
【0054】
[製造例3]ポリアミドPA−3の製造例
アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとの等モル塩1.64kg、イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとの等モル塩0.36kg、及び純水2.5kgを混合し水溶液を得た。次いで、撹拌装置を有し、かつ下部に抜出しノズルを有する5リットルのオートクレーブ中に上記水溶液を仕込み、50℃の温度下で十分に水溶液を撹拌した。次に、オートクレーブ内を5回窒素置換した後、水溶液を撹拌しながらオートクレーブ内の温度を50℃から約270℃まで昇温した。この際、オートクレーブ内の圧力は、ゲージ圧にして約1.8MPaであったが、この圧力が1.8MPa以上にならないようオートクレーブ内の水を随時系外に排出した。また、重合時間は、ポリアミド樹脂の相対粘度が目的の相対粘度(2.20)になるように調整した。オートクレーブ内での重合終了後、下部ノズルからストランド状にポリアミド樹脂を送出し、水冷・及びカッティングを経て、ペレット状のポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンイソフタラミド共重合体(ポリアミド66/6I)を得た。このポリアミド66/6I(PA−3)樹脂を80℃、24時間の条件で真空乾燥した。ポリアミド66/6I(PA−3)樹脂の相対粘度(ηr)を上述のようにして測定したところ、2.20であった。
【0055】
[製造例4]液晶性ポリエステル(B)LCP−1の製造例
得られる液晶性ポリエステルの理論構造式が下記式になるよう、窒素雰囲気下において、p−ヒドロキシ安息香酸、2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸、無水酢酸を仕込み、加熱溶融し重縮合した。当該重縮合により融点が280℃である液晶性ポリエステル(LCP−1)を得た。なお、下記理論構造式において、組成の成分比はモル比を表す。
【0056】
【化3】
【0057】
[実施例1]
PA−1を99質量部、LCP−1を1質量部の割合でブレンドし樹脂混合物を得た。2軸押出機(東芝機械(株)製TEM35、二軸同方向回転スクリュー型、L/D=47.6(D=37mmφ))を用いて前記樹脂混合物の溶融混錬を行った。当該溶融混錬において、スクリュー回転数300rpm、シリンダー温度250℃、押出レート60kg/hr(滞留時間1分)で、減圧せずに押出しを行った。前記2軸押出機の先端ノズル付近のポリマー温度は、260℃であった。前記2軸押出機の先端ノズルからストランド状にポリマーを排出し、水冷、カッティングを行い、ペレットとした。得られたペレット(ポリアミド組成物)を上記評価例のとおり各特性を評価した。当該評価した結果を表1に示す。
【0058】
[比較例1]
PA−1の各特性を実施例1と同様に評価した。評価結果を表1に示す。
【0059】
[比較例2]
LCP−1の代わりにタルクを用いた以外は、実施例1と同様にしてペレット(ポリアミド組成物)を得て、得られたペレット(ポリアミド組成物)を評価した。評価結果を表1に示す。
【0060】
[比較例3]
PA−1を97質量部、LCP−1を3質量部の割合でブレンドした以外は、実施例1と同様にしてペレット(ポリアミド組成物)を得て、得られたペレット(ポリアミド組成物を評価した。評価結果を表1に示す。
【0061】
[実施例2]
PA−1の代わりにPA−2を使用した以外は、実施例1と同様にしてペレット(ポリアミド組成物)を得て、得られたペレット(ポリアミド組成物を評価した。評価結果を表1に示す。
【0062】
[実施例3]
PA−1の代わりにPA−3を使用した以外は、実施例1と同様にしてペレット(ポリアミド組成物)を得て、得られたペレット(ポリアミド組成物を評価した。評価結果を表1に示す。
【0063】
【表1】
【0064】
表1に示した結果から、各成分の組成が特定の範囲内である本実施形態のポリアミド組成物は、結晶化速度が高くなっており、これにより成形サイクルが短縮でき、成形性に優れることがわかった。また、本実施形態のポリアミド組成物は、引張伸びと耐衝撃性等の機械特性に優れていることがわかった。