特許第5901525号(P5901525)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5901525産業用車両および産業用車両における警報システム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5901525
(24)【登録日】2016年3月18日
(45)【発行日】2016年4月13日
(54)【発明の名称】産業用車両および産業用車両における警報システム
(51)【国際特許分類】
   B66F 9/24 20060101AFI20160331BHJP
【FI】
   B66F9/24 L
【請求項の数】5
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2012-530653(P2012-530653)
(86)(22)【出願日】2011年8月22日
(86)【国際出願番号】JP2011068826
(87)【国際公開番号】WO2012026411
(87)【国際公開日】20120301
【審査請求日】2014年6月10日
(31)【優先権主張番号】特願2010-224453(P2010-224453)
(32)【優先日】2010年10月4日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2010-185702(P2010-185702)
(32)【優先日】2010年8月23日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】313004724
【氏名又は名称】ユニキャリア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001298
【氏名又は名称】特許業務法人森本国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大地 茂男
(72)【発明者】
【氏名】内田 好春
(72)【発明者】
【氏名】直 広明
(72)【発明者】
【氏名】小林 充
(72)【発明者】
【氏名】河上 修司
【審査官】 葛原 怜士郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−001388(JP,A)
【文献】 特開2003−067682(JP,A)
【文献】 特開昭61−090071(JP,A)
【文献】 特開昭63−157085(JP,A)
【文献】 特開平08−315276(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 21/00
B66F 9/24
G08G 1/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両本体に警報発信装置を搭載した産業用車両であって、
上記警報発信装置が、警報用信号としての磁束を電磁誘導により発生させる発振コイルと、上記産業用車両の走行速度および発進時操作に応じて発振コイルからの磁束の密度を変化させ上記警報用信号が無線タグで検出され得る範囲を制御する制御部とを有し、
上記警報用信号が無線タグで検出され得る範囲が、発振コイルを中心に平面から見て円形であり、
上記制御部が、警報用信号が無線タグで検出され得る範囲を、発進時よりも最低走行速度時で狭くするものであることを特徴とする産業用車両。
【請求項2】
産業用車両がフォークリフトであって、
発振コイルが、車両本体に設けられたダッシュボード内に配置されたものであることを特徴とする請求項1に記載の産業用車両。
【請求項3】
産業用車両を構成する車両本体に搭載された警報発信装置と、この警報発信装置からの警報用信号を検出して上記産業用車両の接近を知り得る警報器とから構成される産業用車両における警報システムであって、
上記警報発信装置が、警報用信号としての磁束を電磁誘導により発生させる発振コイルと、上記産業用車両の走行速度および発進時操作に応じて発振コイルからの磁束の密度を変化させ上記警報用信号が上記警報器で検出され得る範囲を制御する制御部とを有し、
上記警報用信号が無線タグで検出され得る範囲が、発振コイルを中心に平面から見て円形であり、
上記制御部が、警報用信号が警報器で検出され得る範囲を、発進時よりも最低走行速度時で狭くするものであり、
上記警報器が、上記発振コイルで発生させた磁束から誘導電流を発生させる検出コイルと、この誘導電流が所定値以上であるかを判断する検出部と、この検出部で誘導電流が所定値以上と判断されると作動する警報通知部とを有することを特徴とする産業用車両における警報システム。
【請求項4】
産業用車両がフォークリフトであって、
発振コイルが、車両本体に設けられたダッシュボード内に配置されたものであることを特徴とする請求項3に記載の産業用車両における警報システム。
【請求項5】
警報通知部が、産業用車両の周辺で作業する作業者に所持され得るものであり、
車両本体に、検出部で誘導電流が所定値以上と判断されると作動する車両側警報部が取り付けられたことを特徴とする請求項4に記載の産業用車両における警報システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、産業用車両および産業用車両における警報システムに関する。
【背景技術】
【0002】
産業用車両であるフォークリフトの運転は有資格者のみが行い得るが、毎年一定件数の事故が発生している。特に、後方確認を怠ったことより発生する接触事故の多くは、接触してから運転手が事故に気付いてブレーキを踏むので、重大事故となりやすく、後進時など死角が生ずる状況での安全性確保も求められている。
【0003】
従来、フォークリフト等と作業者との接触事故を防止するものとして、超音波を発信する無線送信機を車両本体に設け、この超音波を受信してブザーを鳴らす無線受信機が作業者のヘルメットに取り付けられた接近警報装置が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−317163号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記従来の接近警報装置では、車両速度の高低(すなわち危険性の高低)に関係なく、無線受信機が超音波を感知する範囲は一定である。したがって、上記の接近警報装置は、安全のため高速走行時を想定した感知範囲の超音波に設定する必要があり、危険性の低い車両停止時においても、作業者が近づけば不必要にブザーが鳴るので、作業者に煩わしさを感じさせるものであった。
【0006】
そこで、本発明は、産業用車両の危険性に応じて適切に警報を鳴らすことで、作業者に煩わしさを感じさせることなく接触事故を防止できる産業用車両およびフォークリフト並びに産業用車両およびフォークリフトにおける警報システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明の請求項1に係る産業用車両は、車両本体に警報発信装置を搭載した産業用車両であって、
上記警報発信装置が、警報用信号としての磁束を電磁誘導により発生させる発振コイルと、上記産業用車両の走行速度および発進時操作に応じて発振コイルからの磁束の密度を変化させ上記警報用信号が無線タグで検出され得る範囲を制御する制御部とを有し、
上記警報用信号が無線タグで検出され得る範囲が、発振コイルを中心に平面から見て円形であり、
上記制御部が、警報用信号が無線タグで検出され得る範囲を、発進時よりも最低走行速度時で狭くするものである
【0008】
また、本発明の請求項2に係る産業用車両は、請求項1に記載の産業用車両において、産業用車両がフォークリフトであって、発振コイルが、車両本体に設けられたダッシュボード内に配置されたものである。
【0010】
また、本発明の請求項3に係る産業用車両における警報システムは、産業用車両を構成する車両本体に搭載された警報発信装置と、この警報発信装置からの警報用信号を検出して上記産業用車両の接近を知り得る警報器とから構成される産業用車両における警報システムであって、
上記警報発信装置が、警報用信号としての磁束を電磁誘導により発生させる発振コイルと、上記産業用車両の走行速度および発進時操作に応じて発振コイルからの磁束の密度を変化させ上記警報用信号が上記警報器で検出され得る範囲を制御する制御部とを有し、
上記警報用信号が無線タグで検出され得る範囲が、発振コイルを中心に平面から見て円形であり、
上記制御部が、警報用信号が警報器で検出され得る範囲を、発進時よりも最低走行速度時で狭くするものであり、
上記警報器が、上記発振コイルで発生させた磁束から誘導電流を発生させる検出コイルと、この誘導電流が所定値以上であるかを判断する検出部と、この検出部で誘導電流が所定値以上と判断されると作動する警報通知部とを有するものである。
【0011】
また、本発明の請求項4に係る産業用車両における警報システムは、請求項3に記載の産業用車両における警報システムにおいて、産業用車両がフォークリフトであって、発振コイルが、車両本体に設けられたダッシュボード内に配置されたものである。
【0013】
また、本発明の請求項5に係る産業用車両における警報システムは、請求項4に記載の産業用車両における警報システムにおいて、
警報通知部が、産業用車両の周辺で作業する作業者に所持され得るものであり、
車両本体に、検出部で誘導電流が所定値以上と判断されると作動する車両側警報部が取り付けられたものである。
【発明の効果】
【0014】
上記産業用車両等および産業用車両等における警報システムによると、警報器は、産業用車両の走行速度、すなわち危険性に応じて適切に警報通知部を作動させるため、警報通知部が不必要に作動して警報器の所持者に煩わしさを感じさせることなく産業用車両との接触事故を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施例1に係るフォークリフトにおける警報システムの概略構成を示すブロック図である。
図2A】同警報システムにおけるフォークリフトの走行速度と検出範囲との関係を説明する平面図であり、低速走行時における検出範囲を示す図である。
図2B】同警報システムにおけるフォークリフトの走行速度と検出範囲との関係を説明する平面図であり、高速走行時における検出範囲を示す図である。
図3】本発明の実施例2に係るフォークリフトにおける警報システムの概略構成を示すブロック図である。
図4A】同警報システムにおけるフォークリフトの状態と検出範囲との関係を説明する平面図であり、発進前の停止時における検出範囲を示す図である。
図4B】同警報システムにおけるフォークリフトの状態と検出範囲との関係を説明する平面図であり、発進時における検出範囲を示す図である。
図4C】同警報システムにおけるフォークリフトの状態と検出範囲との関係を説明する平面図であり、低速走行時における検出範囲を示す図である。
図4D】同警報システムにおけるフォークリフトの状態と検出範囲との関係を説明する平面図であり、高速走行時における検出範囲を示す図である。
図5】本発明の実施例3に係るフォークリフトにおける警報システムの概略構成を示すブロック図である。
図6】同警報システムにおけるフォークリフトの本体部を運転席から示す斜視図である。
図7】同警報システムにおける発振コイルの配置を示す概略断面図である。
図8A】同警報システムにおけるフォークリフトの状態と検出範囲との関係を説明する平面図であり、発進前の停止時における検出範囲を示す図である。
図8B】同警報システムにおけるフォークリフトの状態と検出範囲との関係を説明する平面図であり、発進時における検出範囲を示す図である。
図8C】同警報システムにおけるフォークリフトの状態と検出範囲との関係を説明する平面図であり、低速走行時における検出範囲を示す図である。
図8D】同警報システムにおけるフォークリフトの状態と検出範囲との関係を説明する平面図であり、高速走行時における検出範囲を示す図である。
図9】本発明の実施例4に係るフォークリフトにおける警報システムの概略構成を示すブロック図である。
図10】同警報システムの制御部を示すブロック図である。
図11A】同警報システムにおけるフォークリフトの状態と検出範囲との関係を説明する平面図であり、発進前の停止時における検出範囲を示す図である。
図11B】同警報システムにおけるフォークリフトの状態と検出範囲との関係を説明する平面図であり、発進時における検出範囲を示す図である。
図11C】同警報システムにおけるフォークリフトの状態と検出範囲との関係を説明する平面図であり、低速走行時における検出範囲を示す図である。
図11D】同警報システムにおけるフォークリフトの状態と検出範囲との関係を説明する平面図であり、高速走行時における検出範囲を示す図である。
図12】本発明の実施例5に係るフォークリフトにおける警報システムの概略構成を示すブロック図である。
図13】同警報システムにおけるフォークリフトの本体部を運転席から示す斜視図である。
図14】同警報システムの制御部を示すブロック図である。
図15A】同警報システムにおけるフォークリフトの状態と検出範囲との関係を説明する平面図であり、発進前の停止時における検出範囲を示す図である。
図15B】同警報システムにおけるフォークリフトの状態と検出範囲との関係を説明する平面図であり、発進時における検出範囲を示す図である。
図15C】同警報システムにおけるフォークリフトの状態と検出範囲との関係を説明する平面図であり、低速走行時における検出範囲を示す図である。
図15D】同警報システムにおけるフォークリフトの状態と検出範囲との関係を説明する平面図であり、高速走行時における検出範囲を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0016】
以下に、本発明の実施例1に係る産業用車両における警報システムについて説明する。
【0017】
この警報システムは、産業用車両を構成する車両本体に搭載された警報発信装置と、この警報発信装置からの警報用信号を検出して上記産業用車両の接近を知り得る警報器とから構成されるが、まずは上記警報装置が車両本体に搭載された産業用車両について図1および図2に基づき説明する。なお、本実施例においては、一例として産業用車両が小型のカウンターバランス式フォークリフト(以下、単にフォークリフトという)である場合について説明する。
【0018】
図1に示すように、このフォークリフト2は、概略的には、下部に走行用車輪21が設けられるとともに上部に運転席22が設けられた車両本体20と、この車両本体20の前部に鉛直面内で傾動自在に支持されたチルト用マスト部材23Tと、このチルト用マスト部材23Tに昇降可能に保持されたリフト用マスト部材23Lと、このリフト用マスト部材23Lに昇降可能に配置されて荷物を保持し得るフォーク部材25と、このフォーク部材25とチルト用マスト部材23Tとに亘って設けられるとともに上記リフト用マスト部材23Lの上部に設けられたシーブ26に巻き付けられて当該フォーク部材25を吊持するチェーン27と、上記チルト用マスト部材23Tに固定支持されてリフト用マスト部材23Lをチルト用マスト部材23Tに対して昇降させるリフト用シリンダ装置28Lと、上記チルト用マスト部材23Tと車両本体20とに亘って設けられて当該チルト用マスト部材23Tを傾動させるチルト用シリンダ装置28Tとから構成されている。そして、上記リフト用シリンダ装置28Lによりリフト用マスト部材23Lが昇降されると、シーブ26の昇降により、チェーン27を介してフォーク部材25が昇降されることになる。なお、リフト用シリンダ装置28Lはチルト用マスト部材23Tの左右に配置されるとともに、チェーン27についても左右に配置されている。また、リフト用シリンダ装置28Lのシリンダ本体がチルト用マスト部材23T側に固定されている。
【0019】
一方、フォークリフト2の走行速度をメータ(図示しないが運転席22前部に設けられている)に表示するため、車両本体20には、フォークリフト2の走行速度に応じた信号を出力する車速センサ29が設けられている。
【0020】
次に、上記車両本体20に搭載された警報発信装置10について説明する。
【0021】
この警報発信装置10は、運転席22の後方に立設されたリヤパイプ24から後方へ取り付けられて電力が供給されることで警報用信号としての磁束を電磁誘導により発生させ得る発振コイル11と、この発振コイル11に供給する電力を調整できる電力調整器12と、この電力調整器12に高周波信号(例えば矩形波)を出力する高周波発生回路13と、上記車速センサ29に接続されるとともに当該車速センサ29からのフォークリフト2の走行速度に応じた信号により発振コイル11に供給する電力を制御する制御部14とから構成される。また、上記発振コイル11は、図示しないが前後方向から見て矩形の枠型であり、この枠型の内側に電磁誘導で警報用信号としての磁束が発生し得る。なお、この磁束の密度は、電磁誘導により、発振コイル11に供給される電力の電圧に応じて変化する。さらに、上記電力調整器12は、高周波発生回路13からの高周波信号に対応した交流電圧を、制御部14からの制御信号に応じて最大電圧値(振幅値)を変化させて、発振コイル11に印加するものである。また、上記制御部14は、車両センサ29からの信号に応じて電力調整器12から発振コイル11に印加する交流電圧の最大電圧値(振幅値)を変化させるものである。具体的に説明すると、制御部14は、図示しないが電力制御テーブルを具備し、この電力制御テーブルは、フォークリフト2の走行速度に対応する車速軸と、発振コイル11に印加する交流電圧の最大電圧値に対応する電圧軸とからなる。そして、この電力制御テーブルでは、車速軸を「停止」〜「最高車速」の間で複数に等分するとともに、電圧軸を「最低電圧」〜「最高電圧」の間で複数に等分している。したがって、この電力制御テーブルは、フォークリフト2の走行速度が低いほど、最大電圧値の低い交流電圧を発振コイル11に印加し、走行速度が高いほど、最大電圧値の高い交流電圧を発振コイル11に印加するものである。ここで、電力調整部12、高周波発生回路13および制御部14は、いずれも車両本体20の内部に配置される。
【0022】
次に、上述した警報発信装置10からの警報用信号としての磁束を検出して上記フォークリフト2の接近を知り得る警報器3について説明する。なお、この警報器3は、上記フォークリフト2の接近を知り得るものであるから、例えば上記フォークリフト2の周辺で作業する者に所持させるものであり、作業服のポケットに収まる程度のサイズである。
【0023】
また、この警報器3は、上記発振コイル11で発生させた磁束から誘導電流を発生させる検出コイル31と、この誘導電流が所定値以上であるか否かを判断する検出部32と、この検出部32で上記誘導電流が所定値以上と判断されると作動(鳴動)するブザー(警報通知部の一例である)33とから構成される。なお、この検出コイル31および検出部32でRFタグ(無線タグの一例である)を構成する。
【0024】
一方、検出部32で誘導電流が所定値以上と判断される範囲(場所)は、図2に示すように、発振コイル11を中心に平面から見て円形に広がっている。以下、この範囲を検出範囲といい、警報器3がこの検出範囲内にあればブザー33が作動する。また、検出コイル31に到達する磁束が不十分であれば、検出部32で誘導電流が所定値以上と判断されないので、この検出範囲の径は、発振コイル11で発生させた磁束の密度に対応しており、言い換えれば、フォークリフト2の走行速度に応じて段階的に変化する。
【0025】
以下に、このような構成における警報システム1の作用について説明する。
【0026】
まず、一例として、上記フォークリフト2の周辺で作業する作業者に、上述した警報器3を所持させた場合について説明する。
【0027】
一方、フォークリフト2では、車速センサ29から走行速度に応じた信号がメータおよび制御部14に出力される。制御部14では、この信号に基づいて高周波発生回路13から発振コイル11に供給する電力を制御する。具体的に説明すると、図2に示すように、フォークリフト2が低速時には、発振コイル11に印加する交流電圧の最大電圧値を低くすることで低い密度の磁束を発生させ、狭い検出範囲を発生させる(図2A参照)。一方、フォークリフト2が高速時には、発振コイル11に印加する交流電圧の最大電圧値を高くすることで高い密度の磁束を発生させ、広い検出範囲を発生させる(図2B参照)。すなわち、フォークリフト2周辺の危険範囲は走行速度によって変化するが、本警報システム1では、この危険範囲に対応させて検出範囲を変化させる。
【0028】
ここで、上記警報器3を所持した作業者と上記フォークリフト2が接近した場合、作業者が検出範囲内に入ると警報器3のブザー33は作動し、検出範囲外にいるのなら警報器3のブザー33は作動しない。したがって、狭い検出範囲が発生するフォークリフト2の低速時には、警報器3を所持した作業者が、ある程度フォークリフト2から離れていれば検出範囲外(危険範囲外)にいるので、ブザー33は不必要に作動しない。一方、広い検出範囲が発生するフォークリフト2の高速時には、警報器3を所持した作業者が、ある程度フォークリフト2から離れていても検出範囲内(危険範囲内)にいるので、ブザー33が作動して危険を作業者に知らせる。
【0029】
このように、フォークリフト2周辺で作業する作業者に所持させる警報器3は、フォークリフト2の走行速度、すなわちフォークリフト2の危険性に応じて適切にブザー33を作動させて危険を知らせるため、不必要に作動して作業者に煩わしさを感じさせることなくフォークリフト2との接触事故を防止することができる。また、警報器3は作業者が着用する作業服のポケットに収まる程度のサイズであるから、作業者にとって負担にならず、煩わしさを感じさせることもない。さらに、警報用信号として電磁誘導で発生させる磁束を用いているので、雨天による影響を受けず、屋外でも天候の影響なく使用することができる。また、検出範囲を円形(無指向性)にすることにより、フォークリフト2の進行方向である前後方向にいる作業者だけでなく、左右方向にいる作業者にもブザー33で危険を知らせるため、フォークリフト2の切り返しや急旋回による左右方向の作業者の巻き込み事故も防止することができる。
【実施例2】
【0030】
以下に、本発明の実施例2に係る産業用車両における警報システムについて説明する。
【0031】
この警報システムは、産業用車両を構成する車両本体に搭載された警報発信装置と、この警報発信装置からの警報用信号を検出して上記産業用車両の接近を知り得る警報器とから構成されるが、まずは上記警報装置が車両本体に搭載された産業用車両について図3および図4に基づき説明する。なお、本実施例2においては、一例として産業用車両が小型のカウンターバランス式フォークリフト(以下、単にフォークリフトという)である場合について説明する。
【0032】
図3に示すように、このフォークリフト2は、概略的には、下部に走行用車輪21が設けられるとともに上部に運転席22が設けられた車両本体20と、この車両本体20の前部に鉛直面内で傾動自在に支持されたチルト用マスト部材23Tと、このチルト用マスト部材23Tに昇降可能に保持されたリフト用マスト部材23Lと、このリフト用マスト部材23Lに昇降可能に配置されて荷物を保持し得るフォーク部材25と、このフォーク部材25とチルト用マスト部材23Tとに亘って設けられるとともに上記リフト用マスト部材23Lの上部に設けられたシーブ26に巻き付けられて当該フォーク部材25を吊持するチェーン27と、上記チルト用マスト部材23Tに固定支持されてリフト用マスト部材23Lをチルト用マスト部材23Tに対して昇降させるリフト用シリンダ装置28Lと、上記チルト用マスト部材23Tと車両本体20とに亘って設けられて当該チルト用マスト部材23Tを傾動させるチルト用シリンダ装置28Tとから構成されている。そして、上記リフト用シリンダ装置28Lによりリフト用マスト部材23Lが昇降されると、シーブ26の昇降により、チェーン27を介してフォーク部材25が昇降されることになる。なお、リフト用シリンダ装置28Lはチルト用マスト部材23Tの左右に配置されるとともに、チェーン27についても左右に配置されている。また、リフト用シリンダ装置28Lのシリンダ本体がチルト用マスト部材23T側に固定されている。
【0033】
一方、フォークリフト2の走行速度をメータ(図示しないが運転席22前部に設けられている)に表示するため、車両本体20には、フォークリフト2の走行速度に応じた信号を出力する車速センサ29が設けられている。また、フォークリフト2の前後進を切り換えることができる方向変換レバー41が、図3において運転席22に設けられている。さらに、この方向変換レバー41は、図示しないが、「前進」、「ニュートラル」または「後進」に切り換えることができ、「前進」または「後進」の状態では操作信号を発信するが、「ニュートラル」の状態では操作信号を発信しないものである。なお、停止しているフォークリフト2を発進させるには、発進時操作として、まず方向変換レバー41を、「ニュートラル」から「前進」または「後進」に切り換える必要がある。
【0034】
次に、上記車両本体20に搭載された警報発信装置10について説明する。
【0035】
この警報発信装置10は、運転席22の後方に立設されたリヤパイプ24から後方へ取り付けられて電力が供給されることで警報用信号としての磁束を電磁誘導により発生させ得る発振コイル11と、この発振コイル11に供給する電力を調整できる電力調整器12と、この電力調整器12に高周波信号(例えば矩形波)を出力する高周波発生回路13と、上記車速センサ29および方向変換レバー41に接続されるとともに当該車速センサ29からのフォークリフト2の走行速度に応じた信号および方向変換レバー41の操作信号により発振コイル11に供給する電力を制御する制御部14とから構成される。また、上記発振コイル11は、図示しないが前後方向から見て矩形の枠型であり、この枠型の内側に電磁誘導で警報用信号としての磁束を発生させ得る。なお、この磁束の密度は、電磁誘導により、発振コイル11に供給される電力の電圧に応じて変化する。さらに、上記電力調整器12は、高周波発生回路13からの高周波信号に対応した交流電圧を、制御部14からの制御信号に応じて最大電圧値(振幅値)を変化させて、発振コイル11に印加するものである。また、上記制御部14は、車両センサ29からの信号に応じて電力調整器12から発振コイル11に印加する交流電圧の最大電圧値(振幅値)を変化させるものである。具体的に説明すると、制御部14は、図示しないが電力制御テーブルを具備し、この電力制御テーブルは、フォークリフト2の走行速度に対応する車速軸と、発振コイル11に印加する交流電圧の最大電圧値に対応する電圧軸とからなる。そして、この電力制御テーブルでは、車速軸を「停止」〜「最高車速」の間で複数に等分するとともに、電圧軸を「最低電圧」〜「最高電圧」の間で複数に等分している。したがって、この電力制御テーブルは、フォークリフト2の走行速度が低いほど、最大電圧値の低い交流電圧を発振コイル11に印加し、走行速度が高いほど、最大電圧値の高い交流電圧を発振コイル11に印加するものである。さらに、制御部14は、図示しないが発進時判断部を具備している。この発進時判断部は、走行速度が0である信号が車速センサ29から入力された状態(すなわちフォークリフト2が停止した状態)において、方向変換レバー41から操作信号が入力されると、フォークリフト2が発進時にあると判断し、電力制御テーブルを用いないで、最大電圧値の高い交流電圧を発振コイル11に印加するものである。ここで、電力調整部12、高周波発生回路13および制御部14は、いずれも車両本体20の内部に配置される。
【0036】
次に、上述した警報発信装置10からの警報用信号としての磁束を検出して上記フォークリフト2の接近を知り得る警報器3について説明する。なお、この警報器3は、上記フォークリフト2の接近を知り得るものであるから、例えば上記フォークリフト2の周辺で作業する者に所持させるものであり、作業服のポケットに収まる程度のサイズである。
【0037】
また、この警報器3は、上記発振コイル11で発生させた磁束から誘導電流を発生させる検出コイル31と、この誘導電流が所定値以上であるか否かを判断する検出部32と、この検出部32で上記誘導電流が所定値以上と判断されると作動(鳴動)するブザー(警報通知部の一例である)33とから構成される。なお、この検出コイル31および検出部32でRFタグ(無線タグの一例である)を構成する。
【0038】
一方、検出部32で誘導電流が所定値以上と判断される範囲(場所)は、図4に示すように、発振コイル11を中心に平面から見て円形に広がっている。以下、この範囲を検出範囲といい、警報器3がこの検出範囲内にあればブザー33が作動する。また、検出コイル31に到達する磁束が不十分であれば、検出部32で誘導電流が所定値以上と判断されないので、この検出範囲の径は、発振コイル11で発生させた磁束の密度に対応しており、言い換えれば、フォークリフト2の走行速度に応じて段階的に変化するとともに、フォークリフト2の発進時に一時的に拡大される。
【0039】
以下に、このような構成における警報システム1の作用について説明する。
【0040】
まず、一例として、上記フォークリフト2の周辺で作業する作業者に、上述した警報器3を所持させた場合について説明する。
【0041】
一方、フォークリフト2では、車速センサ29からの走行速度に応じた信号と、方向変換レバー41からの操作信号とが、制御部14に出力される。制御部14では、これらの信号に基づいて高周波発生回路13から発振コイル11に供給する電力を制御する。具体的に説明すると、図4に示すように、フォークリフト2が低速時には、発振コイル11に印加する交流電圧の最大電圧値を低くすることで低い密度の磁束を発生させ、フォークリフト2の全長(以下ではフォーク部材25の前端から車両本体20の後端までの水平距離をいう)の1.5倍程度を半径とする狭い検出範囲を発生させる(図4C参照)。また、フォークリフト2が停止時には、フォークリフト2の全長の半分程度を半径とする最も狭い検出範囲を発生させる(図4A参照)。一方、フォークリフト2が高速時には、発振コイル11に印加する交流電圧の最大電圧値を高くすることで高い密度の磁束を発生させ、フォークリフト2の全長の3倍程度を半径(例えば5〜10m程度)とする広い検出範囲を発生させる(図4D参照)。また、フォークリフト2の停止時において、方向変換レバー41を「前進」または「後進」の状態にすると、つまり発進時操作が行われると、一時的に検出範囲が、フォークリフト2の全長の1.5倍程度を半径とする範囲まで拡大される(図4B参照)。すなわち、フォークリフト2周辺の危険範囲は走行速度の状態および発進時であるか否かによって変化するが、本警報システム1では、この危険範囲に対応させて検出範囲を変化させる。
【0042】
ここで、上記警報器3を所持した作業者と上記フォークリフト2が接近した場合、作業者が検出範囲内に入ると警報器3のブザー33は作動し、検出範囲外にいるのなら警報器3のブザー33は作動しない。したがって、狭い検出範囲が発生するフォークリフト2の低速時には、警報器3を所持した作業者が、ある程度フォークリフト2から離れていれば検出範囲外(危険範囲外)にいるので、ブザー33は不必要に作動しない。一方、広い検出範囲が発生するフォークリフト2の高速時には、警報器3を所持した作業者が、ある程度フォークリフト2から離れていても検出範囲内(危険範囲内)にいるので、ブザー33が作動して危険を作業者に知らせる。
【0043】
また、フォークリフト2が停止していれば、通常は危険範囲が小さく検出範囲も最小となる。しかし、危険範囲が大きくなる発進時では、検出範囲も拡大させて、警報器3を所持した作業者がある程度フォークリフト2から離れていても検出範囲内にいれば、ブザーで危険を作業者に知らせる。
【0044】
このように、フォークリフト2に配置された警報発信装置10は、フォークリフト2の走行速度および発進時操作に応じて、すなわちフォークリフト2の危険性に応じて検出範囲を変化させるので、フォークリフト2周辺で作業する作業者に所持させる警報器3は、フォークリフト2の危険性に応じて適切にブザー33を作動させて危険を知らせることになり、不必要に作動して作業者に煩わしさを感じさせることなくフォークリフト2との接触事故を防止することができる。また、フォークリフト2が停止していても、危険範囲が大きくなる発進時には検出範囲を拡大させるので、一層安全性に優れ、接触事故を防止することができる。さらに、警報器3は作業者が着用する作業服のポケットに収まる程度のサイズであるから、作業者にとって負担にならず、煩わしさを感じさせることもない。加えて、警報用信号として電磁誘導で発生させる磁束を用いているので、雨天による影響を受けず、屋外でも天候の影響なく使用することができる。また、検出範囲を円形(無指向性)にすることにより、フォークリフト2の進行方向である前後方向にいる作業者だけでなく、左右方向にいる作業者にもブザー33で危険を知らせるため、フォークリフト2の切り返しや急旋回による左右方向の作業者の巻き込み事故も防止することができる。
【実施例3】
【0045】
以下に、本発明の実施例3に係るフォークリフトにおける警報システムについて説明する。
【0046】
この警報システムは、フォークリフトを構成する車両本体に搭載された警報発信装置と、この警報発信装置からの警報用信号を検出して上記フォークリフトの接近を知り得る警報器とから構成されるが、まずは上記警報装置が車両本体に搭載されたフォークリフトについて図5図8に基づき説明する。なお、本実施例3においては、一例としてフォークリフトがリーチ式フォークリフト(以下、単にフォークリフトという)である場合について説明する。
【0047】
図5および図6に示すように、このフォークリフト52は、概略的には、運転席62が設けられた後方の本体部61およびこの本体部61から前方に突出された左右一対のアウトリガー部65を有する車両本体60と、この車両本体60のアウトリガー部65に設けられて断面が溝型状にされたガイド部材の溝部に前後方向で移動可能(出退可能)に案内される荷役装置67とから構成されている。なお、本体部61に駆動用車輪63およびガイド輪64が、また左右のアウトリガー部65に案内用車輪66がそれぞれ設けられている。
【0048】
また、上記荷役装置67は、両側面にガイド部材の溝部内に移動可能に案内される前後一対のガイドローラがそれぞれ設けられた移動体70と、この移動体70と本体部61とに亘って配置されて当該移動体70を前後方向で移動(出退)させるリーチ用シリンダ装置と、チルト用シリンダ装置およびリフト用シリンダ装置68を介して昇降自在および前後方向で傾動自在に設けられた荷物保持用のフォーク部材74とから構成されている。
【0049】
上記移動体70は、マスト体71と、このマスト体71の両側面に固定されて側面視が略直角三角形状にされたマスト支持部材と、上記マスト体71に上下方向で案内される昇降部材72とから構成されるとともに、この昇降部材72にフォーク部材74が鉛直面内で揺動可能に保持されている。この昇降部材72とフォーク部材74とに亘ってチルト用シリンダ装置が配置されている。
【0050】
なお、マスト体71は、マスト支持部材が取り付けられる固定側マストと、この固定側マストに昇降可能に設けられる昇降側マストとから構成されている。そして、昇降部材72は固定側マストに昇降可能に案内されるとともにチェーンを介して固定側マストに連結され、このチェーンは昇降側マストに設けられたスプロケットに噛合されている。つまり、昇降側マストがリフト用シリンダ装置68により昇降されると、スプロケットおよびチェーンを介して昇降部材72は固定側マストに対して昇降することになる。
【0051】
一方、フォークリフト52の走行速度を図6に示すメータパネル89に表示するため、車両本体60には、フォークリフト52の走行速度に応じた信号を出力する車速センサ69が設けられている。また、フォークリフト52の駐車ブレーキを兼ねたブレーキペダル81が、図5および図6において運転席62に設けられている。さらに、ブレーキペダル81は、踏み込まれることで、ブレーキが開放されると同時に走行回路(図示しないが、本体部61に具備された走行用の回路である)が接続されて、操作信号が制御部に発信される。また、踏み込んだブレーキペダル81を離すことで、ブレーキが効くと同時に走行回路が自動的に遮断される。なお、停止しているフォークリフト52を発進させるには、発進時操作として、まずブレーキペダル81を踏み込む必要がある。
【0052】
次に、上記車両本体20に搭載された警報発信装置10について説明する。
【0053】
図5に示すように、この警報発信装置10は、ダッシュボード85内に配置されて電力が供給されることで警報用信号としての磁束を電磁誘導により発生させ得る発振コイル11と、発振コイル11に供給する電力を調整できる電力調整器12と、この電力調整器12に高周波信号(例えば矩形波)を出力する高周波発生回路13と、上記車速センサ69およびブレーキペダル81に接続されるとともに当該車速センサ69からのフォークリフト52の走行速度に応じた信号およびブレーキペダル81の踏み込みによる操作信号に基づいて発振コイル11に供給する電力を制御する制御部14とから構成される。また、上記発振コイル11は、図7に示すダッシュボード85の下方の計器収納スペース86内において、固定具87でダッシュボード85の下面に固定されている。また、発振コイル11は電線88を螺旋状に巻いたコイルであり、この螺旋の内側に電磁誘導で警報用信号としての磁束を発生させ得る。なお、この磁束の密度は、電磁誘導により、発振コイル11に供給される電力の電圧に応じて変化する。さらに、上記電力調整器12は、高周波発生回路13からの高周波信号に対応した交流電圧を、制御部14からの制御信号に応じて最大電圧値(振幅値)を変化させて、発振コイル11に印加するものである。また、上記制御部14は、車両センサ69からの信号に応じて電力調整器12から発振コイル11に印加する交流電圧の最大電圧値(振幅値)を変化させるものである。具体的に説明すると、制御部14は、図示しないが電力制御テーブルを具備し、この電力制御テーブルは、フォークリフト52の走行速度に対応する車速軸と、発振コイル11に印加する交流電圧の最大電圧値に対応する電圧軸とからなる。そして、この電力制御テーブルでは、車速軸を「停止」〜「最高車速」の間で複数に等分するとともに、電圧軸を「裁定電圧」〜「最高電圧」の間で複数に等分している。したがって、この電力制御テーブルは、フォークリフト52の走行速度が低いほど、最大電圧値の低い交流電圧を発振コイル11に印加し、走行速度が高いほど、最大電圧値の高い交流電圧を発振コイル11に印加するものである。さらに、制御部14は、図示しないが発進時判断部を具備している。この発進時判断部は、走行速度が0である信号が車速センサ69から入力された状態(すなわちフォークリフト52が停止した状態)において、ブレーキペダル81の踏み込みによる操作信号が入力されると、フォークリフト52が発進時にあると判断し、電力制御テーブルを用いないで、最大電圧値の高い交流電圧を発振コイル11に印加するものである。ここで、電力調整部12、高周波発生回路13および制御部14は、いずれも車両本体20の内部に配置される。
【0054】
次に、上述した警報発信装置10からの警報用信号としての磁束を検出して上記フォークリフト52の接近を知り得る警報器3について説明する。なお、この警報器3は、上記フォークリフト52の接近を知り得るものであるから、例えば上記フォークリフト52の周辺で作業する者に所持させるものであり、作業服のポケットに収まる程度のサイズである。
【0055】
また、この警報器3は、上記発振コイル11で発生させた磁束から誘導電流を発生させる検出コイル31と、この誘導電流が所定値以上であるか否かを判断する検出部32と、この検出部32で上記誘導電流が所定値以上と判断されると作動(鳴動)するブザー(警報通知部の一例である)33とから構成される。なお、この検出コイル31および検出部32でRFタグ(無線タグの一例である)を構成する。
【0056】
一方、検出部32で誘導電流が所定値以上と判断される範囲(場所)は、図8に示すように、発振コイル11を中心に平面から見て円形に広がっている。以下、この範囲を検出範囲といい、警報器3がこの検出範囲内にあればブザー33が作動する。また、検出コイル31に到達する磁束が不十分であれば、検出部32で誘導電流が所定値以上と判断されないので、この検出範囲の径は、発振コイル11で発生させた磁束の密度に対応しており、言い換えれば、フォークリフト52の走行速度に応じて段階的に変化するとともに、フォークリフト52の発進時に一時的に拡大される。
【0057】
以下に、このような構成における警報システム1の作用について説明する。
【0058】
まず、一例として、上記フォークリフト52の周辺で作業する作業者に、上述した警報器3を所持させた場合について説明する。
【0059】
一方、フォークリフト52では、車速センサ69からの走行速度に応じた信号と、ブレーキペダル81の踏み込みによる操作信号とが、制御部14に出力される。制御部14では、これらの信号に基づいて高周波発生回路13から発振コイル11に供給する電力を制御する。具体的に説明すると、図8に示すように、フォークリフト52が低速時には、発振コイル11に印加する交流電圧の最大電圧値を低くすることで低い密度の磁束を発生させ、フォークリフト52の全長の1.5倍程度を半径とする狭い検出範囲を発生させる(図8C参照)。また、フォークリフト52の停止時には、フォークリフト52の全長の半分程度を半径とする最も狭い検出範囲を発生させる(図8A参照)。一方、フォークリフト52が高速時には、発振コイル11に印加する交流電圧の最大電圧値を高くすることで高い密度の磁束を発生させ、フォークリフト52の全長の3倍程度を半径(例えば5〜10m程度)とする広い検出範囲を発生させる(図8D参照)。また、フォークリフト52の停止時において、ブレーキペダル81を踏み込んだ状態にすると、つまり発進時操作が行われると、一時的に検出範囲が、フォークリフト52の全長の1.5倍程度を半径とする範囲まで拡大される(図8B参照)。すなわち、フォークリフト52周辺の危険範囲は走行速度の状態および発進時であるか否かによって変化するが、本警報システム1では、この危険範囲に対応させて検出範囲を変化させる。
【0060】
ここで、上記警報器3を所持した作業者と上記フォークリフト52が接近した場合、作業者が検出範囲内に入ると警報器3のブザー33は作動し、検出範囲外にいるのなら警報器3のブザー33は作動しない。したがって、狭い検出範囲が発生するフォークリフト52の低速時には、警報器3を所持した作業者が、ある程度フォークリフト52から離れていれば検出範囲外(危険範囲外)にいるので、ブザー33は不必要に作動しない。一方、広い検出範囲が発生するフォークリフト52の高速時には、警報器3を所持した作業者が、ある程度フォークリフト52から離れていても検出範囲内(危険範囲内)にいるので、ブザー33が作動して危険を作業者に知らせる。
【0061】
また、フォークリフト52が停止していれば、通常は危険範囲が小さく検出範囲も最小となる。しかし、危険範囲が大きくなる発進時では、検出範囲も拡大させて、警報器3を所持した作業者がある程度フォークリフト52から離れていても検出範囲内に入れば、ブザーで危険を作業者に知らせる。
【0062】
このように、フォークリフト52に配置された警報発信装置10は、フォークリフト52の走行速度および発進時操作に応じて、すなわちフォークリフト52の危険性に応じて検出範囲を変化させるので、フォークリフト52周辺で作業する作業者に所持させる警報器3は、フォークリフト52の危険性に応じて適切にブザー33を作動させて危険を知らせることになり、不必要に作動して作業者に煩わしさを感じさせることなくフォークリフト52との接触事故を防止することができる。また、フォークリフト52が停止していても、危険範囲が大きくなる発進時には検出範囲を拡大させるので、一層安全性に優れ、接触事故を防止することができる。さらに、発振コイル11がダッシュボード85内に配置されるので、発振コイル11が破損しにくく、また運転の妨げにならない。加えて、警報器3は作業者が着用する作業服のポケットに収まる程度のサイズであるから、作業者にとって負担にならず、煩わしさを感じさせることもない。また、警報用信号として電磁誘導で発生させる磁束を用いているので、雨天による影響を受けず、屋外でも天候の影響なく使用することができる。さらに、検出範囲を円形(無指向性)にすることにより、フォークリフト52の進行方向である前後方向にいる作業者だけでなく、左右方向にいる作業者にもブザー33で危険を知らせるため、フォークリフト52の切り返しや急旋回による左右方向の作業者の巻き込み事故も防止することができる。
【実施例4】
【0063】
以下に、本発明の実施例4に係る産業用車両における警報システムについて説明する。
【0064】
この警報システムは、上記実施例2に係る産業用車両における警報システムと、制御部14および警報器3の構成が異なる。また、上記警報システムは、上記実施例2に係る警報システムには無い受信部および車両側警報部(詳しくは後述する)を有する点でも異なる。これら以外は同一である。このため、実施例2と異なる構成である制御部14および警報器3と、実施例2には無い受信部および車両側警報部とに着目して説明するとともに、実施例2と同一の構成については、同一の符号を付してその説明を省略する。なお、本実施例4に係る産業用車両は、上記実施例2と同様にカウンターバランス式フォークリフトであり、以下では単にフォークリフトという。
【0065】
まず、本実施例4に係る警報器3について説明する。この警報器3は、上記実施例1〜3で説明したような一体型ではなく、図9に示すように、RFタグ30と警報部35との2つに分離するとともに、これらRFタグ30と警報部35とを電線で接続したものである。
【0066】
上記RFタグ30は、検出コイル31および検出部32から構成されて、作業服のポケットに収まる程度のサイズである。上記検出部32は、検出コイル31で発生させた誘導電流が所定値以上であれば、検出信号を警報部35およびフォークリフト2に発信するものである。上記検出部32からの検出信号は、警報部35に対しては上記電線を通じて伝達され、フォークリフト2に対しては電波(2.45GHz)として伝達される。一方、上記警報部35は、ブザー33からなるものであり、上記検出信号を受信して作動(鳴動)するものである。この警報部35は、例えば作業者のヘルメットに取り付けられ、またはイヤホンとして設けられるなど、作業者がブザー33の作動を確実に感知できる位置に設置される。
【0067】
次に、本実施例4に係るフォークリフト2について説明する。
【0068】
図9に示すように、このフォークリフト2は、上記実施例2に係るフォークリフトに、検出部32から伝達された電波としての検出信号を受信する受信部45と、この受信部45が検出信号を受信すると作動(鳴動)する車両側ブザー(車両側警報部の一例である)43とが取り付けられたものである。
【0069】
ここで、発振コイル11が発生させ得る警報用信号の周波数は、125kHzである。また、上記検出信号および警報用信号に固有のIDがそれぞれ割り当てられることで、本警報システム1を構成する警報器3が複数の場合、すなわち、警報器3を所持した作業者が複数いる場合にも対応するようにされている。言い換えれば、上記検出信号および警報用信号にそれぞれ割り当てられた固有のIDにより、フォークリフト2側(受信部45)では複数の警報器3をそれぞれ識別することができる。具体的に説明すると、複数の警報器3のうち検出範囲内にあってブザー33の作動を意図的に停止したものについては、引き続き検出範囲内にいて警報用信号を受信しても、ブザー33は作動しない。この時、フォークリフト2側では、当該警報器3からの検出信号を受信部45が受信しても、車両側ブザー43は作動しない。
【0070】
図10に示すように、本実施例4に係る制御部14は、方向変換レバー41から操作信号が入力される操作信号入力部91と、車速センサ29からフォークリフト2の走行速度に応じた信号(以下、走行速度信号という)が入力される走行速度信号入力部92と、操作信号入力部91の操作信号および走行速度信号入力部92の走行速度信号に基づいてフォークリフト2の発進時を判断する発進時判断部93と、この発進時判断部93でフォークリフト2が停止時または走行時にある(つまり発進時ではない)と判断されると走行速度信号に応じた交流電圧を発振コイル11に印加する電力制御テーブル94とから構成される。
【0071】
上記発進時判断部93は、走行速度が0である走行速度信号が車速センサ29から入力された状態(すなわちフォークリフト2が停止した状態)において、方向操作レバー41から操作信号が入力されると、「フォークリフト2が発進時にある」と判断し、電力制御テーブル94を用いないで、最大電圧値の高い交流電圧を発振コイル11に印加するための制御信号を、電力調整器12に出力するものである。一方、上記発進時判断部93は、フォークリフト2が発進時にあると判断されない時に、「フォークリフト2が停止時または走行時にある」と判断し、電力制御テーブル94に走行速度信号を発信するものである。このため、この発進時は、フォークリフト2の停止時に運転者が方向変換レバー41を「ニュートラル」から「前進」または「後進」に切り換えた瞬間から開始され、運転者がフォークリフト2を走行させた瞬間に終了する。
【0072】
上記電力制御テーブル94は、フォークリフト2の走行速度に対応する車速軸と、発振コイル11に印加する交流電圧の最大電圧値に対応する電圧軸とからなる。そして、この電力制御テーブル94では、車速軸を「停止」〜「最高車速」の間で複数に等分するとともに、電圧軸を「最低電圧」〜「最高電圧」の間で複数に等分している。したがって、この電力制御テーブル94は、制御信号により、フォークリフト2の走行速度が低いほど最大電圧値の低い交流電圧を発振コイル11に印加し、走行速度が高いほど最大電圧値の高い交流電圧を発振コイル11に印加するための制御信号を、電力調整器12に出力するものである。ところで、この電力制御テーブル94では、車速軸の最低車速(「停止」ではない)領域に対応する電圧軸の領域が、発進時の電圧よりも低くなるように設定されている。すなわち、制御部14は、検出範囲(警報用信号が警報器3で検出され得る範囲)を、発進時よりも最低走行速度時で狭くするものである。この最低走行速度とは、フォークリフト2が走行を始めた直後の走行速度である。
【0073】
以下、このような構成における警報システム1の作用について、実施例2と異なる構成である制御部14に着目して説明する。
【0074】
すなわち、フォークリフト2の制御部14では、車速センサ29からの走行速度信号が走行速度信号入力部92に入力されるとともに、方向変換レバー41からの操作信号が操作信号入力部91に入力される。そして、発進時判断部93は、走行速度が0である走行速度信号が入力された状態において操作信号が入力されると、「フォークリフト2が発進時にある」と判断し、最大電圧値の高い交流電圧を発振コイル11に印加するための制御信号を電力調整器12に出力する。この時以外、すなわち発進時判断部93は、走行速度が0である走行速度信号が入力された状態において操作信号が入力されない(停止時)、または走行速度が0でない走行速度信号が入力される(走行時)と、「フォークリフト2が停止時または走行時にある」と判断し、電力制御テーブル94に走行速度信号を発信する。この走行速度信号に基づいて、電力制御テーブル94は、フォークリフト2の走行速度に応じた電圧を印加するための制御信号を電力調整器12に出力する。
【0075】
具体的に説明すると、図11に示すように、フォークリフト2が低速時には、発振コイル11に印加する交流電圧の最大電圧値を低くすることで低い密度の磁束を発生させ、フォークリフト2の全長(以下ではフォーク部材25の前端から車両本体20の後端までの水平距離をいう)の1.5倍程度(つまり5m程度)を半径とする狭い検出範囲を発生させる(図11C参照)。また、フォークリフト2の停止時には、半径1m程度の最も狭い検出範囲を発生させる(図11A参照)。一方、フォークリフト2が高速時には、発振コイル11に印加する交流電圧の最大電圧値を高くすることで高い密度の磁束を発生させ、フォークリフト2の全長の3倍程度を半径(例えば5〜10m程度)とする広い検出範囲を発生させる(図11D参照)。また、フォークリフト2の停止時において、方向変換レバー41を「前進」または「後進」の状態にすると、つまり発進時操作が行われると、一時的に検出範囲が、7m程度を半径とする範囲まで拡大される(図11B参照)。なお、図11BおよびCに示すように、検出範囲は、発進時(半径7m程度)よりも低速時(半径5m程度)で狭くなる。すなわち、フォークリフト2周辺の危険範囲は走行速度の状態および発進時であるか否かによって変化するが、本警報システム1では、この危険範囲に対応させて検出範囲を変化させる。
【0076】
ここで、作業者が検出範囲内に入ると、検出部32からの検出信号が警報部35および受信部45に伝達されるので、作業者のヘルメットに取り付けられたブザー33が作動するとともに、フォークリフト2に取り付けられた車両側ブザー43が作動する。これにより、作業者だけでなく、フォークリフト2の運転者にも危険が知らされる。
【0077】
このように、フォークリフト2に配置された警報発信装置10は、フォークリフト2の走行速度および発進時操作に応じて、すなわちフォークリフト2の危険性に応じて検出範囲を変化させるので、フォークリフト2周辺で作業する作業者に所持させる警報器3は、フォークリフト2の危険性に応じて適切にブザー33を作動させて危険を知らせることになり、不必要に作動して作業者に煩わしさを感じさせることなくフォークリフト2との接触事故を防止することができる。また、フォークリフト2が停止していても、危険範囲が大きくなる発進時には検出範囲を拡大させるので、一層安全性に優れ、接触事故を防止することができる。さらに、フォークリフト2が走行を始めると、検出範囲が発進時よりも狭くすることで、検出し過ぎによる煩わしさを防ぐことができる。また、警報器3はRFタグ30と警報部35とに分離したものであり、警報部35がヘルメットなどに取り付けられたものであるから、作業者の周囲の音量が大きくても、確実に作業者にブザー33の作動を感知させ、安全性を向上させることができる。さらに、フォークリフト2に取り付けられた車両側ブザー43も作動するので、作業者だけでなくフォークリフト2の運転者にも危険を知らせて、より安全性を向上させることができる。また、RFタグ30は作業者が着用する作業服のポケットに収まる程度のサイズであるから、作業者にとって負担にならず、煩わしさを感じさせることもない。また、警報用信号として電磁誘導で発生させる磁束を用いているので、雨天による影響を受けず、屋外でも天候の影響なく使用することができる。加えて、検出範囲を円形(無指向性)にすることにより、フォークリフト2の進行方向である前後方向にいる作業者だけでなく、左右方向にいる作業者にもブザー33で危険を知らせるため、フォークリフト2の切り返しや急旋回による左右方向の作業者の巻き込み事故も防止することができる。
【実施例5】
【0078】
以下に、本発明の実施例5に係る産業用車両における警報システムについて説明する。
【0079】
この警報システムは、上記実施例3に係る産業用車両における警報システムと、制御部14および警報器3の構成が異なる。また、上記警報システムは、上記実施例3に係る警報システムには無い受信部および車両側警報部(詳しくは後述する)を有する点でも異なる。これら以外は同一である。このため、実施例3と異なる構成である制御部14および警報器3と、実施例3には無い受信部および車両側警報部とに着目して説明するとともに、実施例3と同一の構成については、同一の符号を付してその説明を省略する。なお、本実施例5に係る産業用車両は、上記実施例3と同様にリーチ式フォークリフトであり、以下では単にフォークリフトという。
【0080】
まず、本実施例5に係る警報器3について説明する。この警報器3は、図12に示す通りであり、図9に示す上記実施例4に係る警報器3と同一のものである。
【0081】
次に、本実施例5に係るフォークリフト52について説明する。
【0082】
図12に示すように、このフォークリフト52は、上記実施例3に係るフォークリフトに、検出部32から伝達された電波としての検出信号を受信する受信部45と、この受信部45が検出信号を受信すると作動(鳴動)する車両側ブザー(車両側警報部の一例である)43とが取り付けられたものである。
【0083】
ここで、計器収納スペース86内における発振コイル11の配置について正確に説明する。発振コイル11は、固定具87でダッシュボード85の下面に固定されており、図13に示すように、ダッシュボード85の外縁に沿って配置されている。また、発振コイル11が発生させ得る警報用信号の周波数は、125kHzである。さらに、上記検出信号および警報用信号に固有のIDがそれぞれ割り当てられることで、本警報システム1を構成する警報器3が複数の場合、すなわち、警報器3を所持した作業者が複数いる場合にも対応するようにされている。言い換えれば、上記検出信号および警報用信号にそれぞれ割り当てられた固有のIDにより、フォークリフト52側(受信部45)では複数の警報器3をそれぞれ識別することができる。具体的に説明すると、複数の警報器3のうち検出範囲内にあってブザー33の作動を意図的に停止したものについては、引き続き検出範囲内にいて警報用信号を受信しても、ブザー33は作動しない。この時、フォークリフト52側では、当該警報器3からの検出信号を受信部45が受信しても、車両側ブザー43は作動しない。
【0084】
図14に示すように、本実施例5に係る制御部14は、ブレーキペダル81から操作信号が入力される操作信号入力部91と、車速センサ69からフォークリフト52の走行速度に応じた信号(以下、走行速度信号という)が入力される走行速度信号入力部92と、操作信号入力部91の操作信号および走行速度信号入力部92の走行速度信号に基づいてフォークリフト2の発進時を判断する発進時判断部93と、この発進時判断部93でフォークリフト52が停止時または走行時にある(つまり発進時ではない)と判断されると走行速度信号に応じた交流電圧を発振コイル11に印加する電力制御テーブル94とから構成される。
【0085】
上記発進時判断部93は、走行速度が0である走行速度信号が車速センサ69から入力された状態(すなわちフォークリフト52が停止した状態)において、ブレーキペダル81から操作信号が入力されると、「フォークリフト52が発進時にある」と判断し、電力制御テーブル94を用いないで、最大電圧値の高い交流電圧を発振コイル11に印加するための制御信号を、電力調整器12に出力するものである。一方、上記発進時判断部93は、フォークリフト52が発進時にあると判断されない時に、「フォークリフト52が停止時または走行時にある」と判断し、電力制御テーブル94に走行速度信号を発信するものである。このため、この発進時は、フォークリフト52の停止時に運転者がブレーキペダル81を踏み込んだ瞬間から開始され、運転者がフォークリフト52を走行させた瞬間に終了する。
【0086】
上記電力制御テーブル94は、フォークリフト52の走行速度に対応する車速軸と、発振コイル11に印加する交流電圧の最大電圧値に対応する電圧軸とからなる。そして、この電力制御テーブル94では、車速軸を「停止」〜「最高車速」の間で複数に等分するとともに、電圧軸を「最低電圧」〜「最高電圧」の間で複数に等分している。したがって、この電力制御テーブル94は、制御信号により、フォークリフト52の走行速度が低いほど最大電圧値の低い交流電圧を発振コイル11に印加し、走行速度が高いほど最大電圧値の高い交流電圧を発振コイル11に印加するための制御信号を、電力調整器12に出力するものである。ところで、この電力制御テーブル94では、車速軸の最低車速(「停止」ではない)領域に対応する電圧軸の領域が、発進時の電圧よりも低くなるように設定されている。すなわち、制御部14は、検出範囲(警報用信号が警報器3で検出され得る範囲)を、発進時よりも最低走行速度時で狭くするものである。この最低走行速度とは、フォークリフト52が走行を始めた直後の走行速度である。
【0087】
以下、このような構成における警報システム1の作用について、実施例3と異なる構成である制御部14に着目して説明する。
【0088】
すなわち、フォークリフト52の制御部14では、車速センサ69からの走行速度信号が走行速度信号入力部92に入力されるとともに、ブレーキペダル81からの操作信号が操作信号入力部91に入力される。そして、発進時判断部93は、走行速度が0である走行速度信号が入力された状態において操作信号が入力されると、「フォークリフト52が発進時にある」と判断し、最大電圧値の高い交流電圧を発振コイル11に印加するための制御信号を電力調整器12に出力する。この時以外、すなわち発進時判断部93は、走行速度が0である走行速度信号が入力された状態において操作信号が入力されない(停止時)、または走行速度が0でない走行速度信号が入力される(走行時)と、「フォークリフト52が停止時または走行時にある」と判断し、電力制御テーブル94に走行速度信号を発信する。この走行速度信号に基づいて、電力制御テーブル94は、フォークリフト52の走行速度に応じた電圧を印加するための制御信号を電力調整器12に出力する。
【0089】
具体的に説明すると、図15に示すように、フォークリフト52が低速時には、発振コイル11に印加する交流電圧の最大電圧値を低くすることで低い密度の磁束を発生させ、半径3m程度の狭い検出範囲を発生させる(図15C参照)。また、フォークリフト52の停止時には、半径1m程度の最も狭い検出範囲を発生させる(図15A参照)。一方、フォークリフト52が高速時には、発振コイル11に印加する交流電圧の最大電圧値を高くすることで高い密度の磁束を発生させ、半径5〜10m程度の広い検出範囲を発生させる(図15D参照)。また、フォークリフト2の停止時において、方向変換レバー41を「前進」または「後進」の状態にすると、つまり発進時操作が行われると、一時的に検出範囲が、5m程度を半径とする範囲まで拡大される(図15B参照)。なお、図15BおよびCに示すように、検出範囲は、発進時(半径5m程度)よりも低速時(半径3m程度)で狭くなる。すなわち、フォークリフト52周辺の危険範囲は走行速度の状態および発進時であるか否かによって変化するが、本警報システム1では、この危険範囲に対応させて検出範囲を変化させる。
【0090】
ここで、作業者が検出範囲内に入ると、検出部32からの検出信号が警報部35および受信部45に伝達されるので、作業者のヘルメットに取り付けられたブザー33が作動するとともに、フォークリフト52に取り付けられた車両側ブザー43が作動する。これにより、作業者だけでなく、フォークリフト52の運転者にも危険が知らされる。
【0091】
このように、フォークリフト52に配置された警報発信装置10は、フォークリフト52の走行速度および発進時操作に応じて、すなわちフォークリフト52の危険性に応じて検出範囲を変化させるので、フォークリフト52周辺で作業する作業者に所持させる警報器3は、フォークリフト52の危険性に応じて適切にブザー33を作動させて危険を知らせることになり、不必要に作動して作業者に煩わしさを感じさせることなくフォークリフト52との接触事故を防止することができる。また、フォークリフト52が停止していても、危険範囲が大きくなる発進時には検出範囲を拡大させるので、一層安全性に優れ、接触事故を防止することができる。また、発振コイル11がダッシュボード85内に配置されるので、発振コイル11が破損しにくく、また運転の妨げにならない。さらに、フォークリフト52が走行を始めると、検出範囲を発進時よりも狭くすることで、検出し過ぎによる煩わしさを防ぐことができる。また、警報器3はRFタグ30と警報部35とに分離したものであり、警報部35が作業者のヘルメットなどに取り付けられたものであるから、作業者の周囲の音量が大きくても、確実に作業者にブザー33の作動を感知させ、安全性を向上させることができる。さらに、フォークリフト52に取り付けられた車両側ブザー43も作動するので、作業者だけでなくフォークリフト52の運転者にも危険を知らせて、より安全性を向上させることができる。また、RFタグ30は作業者が着用する作業服のポケットに収まる程度のサイズであるから、作業者にとって負担にならず、煩わしさを感じさせることもない。また、警報用信号として電磁誘導で発生させる磁束を用いているので、雨天による影響を受けず、屋外でも天候の影響なく使用することができる。加えて、検出範囲を円形(無指向性)にすることにより、フォークリフト2の進行方向である前後方向にいる作業者だけでなく、左右方向にいる作業者にもブザー33で危険を知らせるため、フォークリフト2の切り返しや急旋回による左右方向の作業者の巻き込み事故も防止することができる。
【0092】
ところで、上記実施例1,2および4では、産業用車両の一例として小型のカウンターバランス式フォークリフト2について説明したが、これに限定されるものではなく、他の産業用車両であってもよい。同様に、上記実施例3および5では、フォークリフトの一例としてリーチ式フォークリフト52について説明したが、これに限定されるものではなく、他のフォークリフトであってもよい。
【0093】
また、上記実施例2〜5では、検出範囲を、フォークリフトの走行速度および発進時操作に応じて変化させるものとして説明したが、発進時操作に応じてのみ、検出範囲を変化させるものであってもよい。
【0094】
さらに、発振コイル11の配置位置を、実施例1,2および4では運転席22の後方、実施例3および5ではダッシュボード85内として説明したが、これに限定されるものではなく、他の場所に配置してもよい。
【0095】
また、上記実施例1〜5では、警報器3を構成する警報通知部としてブザー33について説明したが、警報器3の所持者に警報を通知するものであれば、音声など他のものであってもよい。
【0096】
また、上記実施例1〜5では、警報器3を、RFタグ(検出コイル31および検出部32)とブザー33とから構成し、作業者に所持させるとして説明したが、この作業者に所持させたRFタグにより作動するブザー33を、フォークリフトにも取り付けてもよい。これにより、作業者とフォークリフトが接近すれば、フォークリフト側のブザー33が作動し、フォークリフトの運転者にも危険を知らせることができる。
【0097】
さらに、上記実施例4および5では、RFタグ30と警報部35とを電線で接続したものとして説明したが、電線ではなく、無線通信で接続したものであってもよい。
【0098】
また、上記実施例1〜5では、フォークリフトにおける警報システム1、すなわち、警報発信装置10と警報器3から構成されるものについて説明したが、警報器3を具備しない構成であっても、本発明の機能を発揮し得る。この場合の構成は以下の通りである。
【0099】
すなわち、車両本体に警報発信装置を搭載した産業用車両であって、
上記警報発信装置が、警報用信号としての磁束を電磁誘導により発生させる発振コイルと、上記産業用車両の走行速度および/または発進時操作に応じて発振コイルからの磁束の密度を変化させ上記警報用信号が無線タグで検出され得る範囲を制御する制御部とを有するものである。
【0100】
または、車両本体に警報発信装置を搭載したフォークリフトであって、
上記警報発信装置が、車両本体に設けられたダッシュボード内に配置されて警報用信号としての磁束を電磁誘導により発生させる発振コイルと、上記フォークリフトの走行速度および/または発進時操作に応じて発振コイルからの磁束の密度を変化させ上記警報用信号が無線タグで検出され得る範囲を制御する制御部とを有するものである。
図1
図2A
図2B
図3
図4A
図4B
図4C
図4D
図5
図6
図7
図8A
図8B
図8C
図8D
図9
図10
図11A
図11B
図11C
図11D
図12
図13
図14
図15A
図15B
図15C
図15D