(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、スパッタリング法で要求される真空度と、真空蒸着法で要求される真空度との間には、差があるため、特許文献1の発明では、スパッタリング法による成膜と真空蒸着法による成膜とを切り替えるときに、真空装置内の圧力をそれぞれの成膜法に合わせて変える必要があり、成膜処理全体にかかる時間が長期化していた。
また、プラスチック基板のうちでも、アクリル基板は、真空蒸着法では、密着性の高い膜を成膜することが難しい一方、スパッタリング法では、プラズマによるダメージを受けて熱変形や黄変を生じ易い。アクリル基板に、熱変形及び黄変を抑制して密着性良く成膜できる技術は知られていなかった。
【0006】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、単一の真空容器内で、効率よくスパッタリング法による成膜と蒸着による成膜を行うことができる成膜方法を提供することにある。
本発明の他の目的は、アクリル基板上に、熱変形や黄変を生じることなく、密着性の高い膜を成膜可能な成膜方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
スパッタリング法は、1〜10
−1Pa程度の圧力で行われる。スパッタリング法は、成膜粒子のエネルギーが高いため、形成された膜の基板に対する密着性が高いという特長を持っている。
その反面、スパッタリング法には、次のような短所がある。
つまり、形成された膜は、応力が高く、薄い基板には用いることができない。
また、プラズマによって叩き出された成膜粒子は、エネルギーが高いため、プラスチックなどの基板は、プラズマのエネルギーによりダメージを受けやすく、黄変やエッチングを生じやすい。
更に、プラズマによって基板の温度が上昇するため、プラスチック等、耐熱性の低い基板は、熱によるダメージを受けやすい。
また、成膜速度が遅い、真空度が低いことに起因してコンタミネーションが発生しやすい、構造上、ターゲットサイズと基板サイズがほぼ同一となり、ターゲット及び基板のサイズ選定の自由度が、相互のサイズに制限される、等の短所もある。
【0008】
一方、真空蒸着法は、10
−1〜10
−6Pa程度の圧力で行われる。真空蒸着法は、真空度が高い領域で行われるため、コンタミネーションの少ない膜が、高い成膜速度で成膜できる。また、基板温度の上昇が少なく、比較的応力の小さい膜が成膜可能で、膜厚の制御性もよい。更に、少ない成膜材料で基板の大面積に成膜できるという利点もある。
その反面、真空蒸着法には、次のような短所がある。
つまり、成膜粒子のエネルギーが低いため、膜の密着性が低い傾向がある。また、基板温度を高くしないと密着性のよい膜が得にくい。更に、るつぼにおける膜材料組成と、基板上に成膜された膜の組成との間に、組成ずれが生じやすい。
【0009】
このように、スパッタリング法と真空蒸着法は、それぞれの長所,短所が相補的な関係にある。従って、本発明者らは、両成膜手法を同時に行うことができれば、双方の短所を補いあうことができるとの発想に到達した。
しかし、それぞれの成膜方法に要求される真空度は、スパッタリング法が1〜10
−1Pa程度の圧力、真空蒸着法が10
−1〜10
−6Pa程度の圧力であって、大きく異なるため、同時成膜や、単一真空容器内での成膜が困難である。そこで、本発明者は、この課題を解決すべく鋭意研究した結果、請求項1に係る発明に到達した。
すなわち、前記課題は、請求項1によれば、単一の真空容器内で、アクリル基板上に薄膜を形成する成膜方法であって、前記真空容器内を減圧して、第一の圧力に調整する工程と、前記基板を保持する基板ホルダを回転させながら、前記真空容器内の他の領域と、僅かな隙間を通じて連通した状態で物理的に隔離され、前記基板ホルダの基板保持面の一部に対向するように設けられた差圧領域に、スパッタガスを導入して、
スパッタガスの流量と、前記隙間の間隔を調整することにより、前記差圧領域内の圧力を、第一の圧力よりも高い第二の圧力に調整すると共に、
ガスが、前記隙間を通じて、前記スパッタガスの流量と前記隙間の間隔により調整された流量で漏出している状態で、前記差圧領域内にプラズマを発生させ、前記基板保持面の前記一部に、スパッタリングにより前記基板上へ成膜するスパッタ工程と、前記基板ホルダを回転させながら、前記基板保持面のうち、前記差圧領域が対向する前記一部以外の部分に、真空蒸着法により前記基板上へ成膜する蒸着工程と、を備え、前記スパッタ工程を、前記蒸着工程の開始と同時に、又は、前記蒸着工程の開始前に、開始すること、により解決される。
【0010】
このように、
スパッタ工程において、差圧領域に、スパッタガスを導入して、スパッタガスの流量と、隙間の間隔を調整するため、隙間を微小な幅に設定すれば、差圧領域から大量のガスが真空容器内の高真空の領域に流れ込まないように調整することができるので、差圧領域外の蒸着工程を行う蒸発源付近では、真空蒸着可能な真空度を得ることができる。この仕組みにより、同一真空容器内でスパッタリング成膜と真空蒸着成膜を行うことが可能となる。このとき、従来技術とは異なり、スパッタリング成膜と真空蒸着成膜を切り替える間に、真空容器内の圧力を、それぞれの成膜方法に適した圧力に調整する工程が不要となる。
また、スパッタ工程では、前記真空容器内の他の領域と僅かな隙間を通じて連通した状態で物理的に隔離され、前記基板ホルダの基板保持面の一部に対向するように設けられた差圧領域に、スパッタガスを導入して、
スパッタガスの流量と、前記隙間の間隔を調整することにより、前記差圧領域内の圧力を、第一の圧力よりも高い第二の圧力に調整するため、差動排気装置などの複雑な構造を必要としないで、差圧容器のような一種の仕切りにより、同一真空容器内に、蒸着工程に適した第一の圧力とスパッタ工程に適した第二の圧力という、真空度の異なる領域を実現できる。
その結果、スパッタリング成膜と真空蒸着成膜という、真空度が10〜1000倍異なる成膜手法を同一真空容器内で、実現可能となる。
また、同一真空容器内でスパッタ及び蒸着という異なる成膜手法を実現できるため、これらの異なる成膜手法を実現するために、基板を別の真空容器間で移動する必要がなくなり、基板へのコンタミネーションを防ぐことができ、高品質な膜を得ることができる。
更に、同一真空容器内で、異なる成膜手法を実現することにより、膜質の異なる膜を連続的に成膜することができる。
【0011】
また、アクリル基板上に、スパッタ工程を、前記蒸着工程の開始と同時に、又は、前記蒸着工程の開始前に開始して、成膜するため、真空蒸着法による膜の密着性の弱さを改善すると同時に、スパッタリングのプラズマによるアクリル基板へのダメージを抑制することが可能となり、スパッタリングによる黄変や熱変形などのダメージがなく、かつ密着性の高い膜を、アクリル基板上に形成することが可能となる。
【0012】
このとき、前記スパッタ工程を、前記蒸着工程の終了と同時に、又は、前記蒸着工程の終了前に、終了すると好適である。
このように構成しているため、スパッタリング法よりも成膜速度の速い真空蒸着法によって、高い成膜速度が維持され、全体として、スパッタリング成膜の時間を短縮できる。その結果、アクリル製の基板Sが、スパッタリング法のためのプラズマによりダメージを受けて黄変,エッチング等を生じることも抑制される。従って、アクリル製の基板Sに、黄変やエッチング等のダメージのない膜を、密着性良く成膜することができる。
【0013】
このとき、前記スパッタ工程を、前記蒸着工程よりも前に行うと好適である。
このように構成しているため、真空蒸着法により形成される膜とアクリル基板との間に、スパッタリング法による薄膜が存在することとなり、アクリル基板への膜の密着性が向上される。その結果、アクリル基板に、密着性良く成膜することができる。
【0014】
このとき、前記スパッタ工程を開始する工程と、前記基板上の膜厚をモニタし、前記膜厚が、予め定めた所定の膜厚に達したときに、前記スパッタ工程を終了する工程と、前記蒸着工程を開始する工程と、を順次行うと好適である。
このように、蒸着工程を開始する前に、スパッタ工程を終了するため、スパッタ工程によって成膜される膜厚を、厳密にモニタして管理することが可能となる。
【0015】
また、前記スパッタ工程を開始する工程と、前記蒸着工程を開始する工程と、前記スパッタ工程を終了する工程と、前記基板上の膜厚をモニタし、前記膜厚が、予め定めた所定の膜厚に達したときに、前記蒸着工程を終了する工程と、を順次行ってもよい。
このように、真空蒸着成膜を開始する前に、スパッタリング成膜を先に開始するため、アクリル基板の直上には、スパッタ膜が先に成膜されることとなり、アクリル基板への膜の密着性が向上される。
また、真空蒸着成膜よりもスパッタリング成膜を先に終了するので、スパッタリング成膜の時間がわずかな時間に限定され、アクリル基板がダメージを受けて黄変,エッチング等を生じることも同時に抑制される。従って、アクリル基板に、黄変やエッチング等のダメージのない膜を、密着性良く成膜することができる。
【0016】
また、前記スパッタ工程及び前記蒸着工程を開始する工程と、前記基板上の膜厚をモニタし、前記膜厚が、予め定めた所定の膜厚に達したときに、前記スパッタ工程及び前記蒸着工程を終了する工程と、を順次行ってもよい。
このように、真空蒸着成膜とスパッタリング成膜を同時に開始するため、アクリル基板の直上には、真空蒸着膜だけでなくスパッタ膜が混合されることとなり、アクリル基板への膜の密着性が向上される。
また、基板上に、スパッタリング成膜と真空蒸着成膜を同時に行うので、スパッタリング法よりも成膜速度の速い真空蒸着法によって、高い成膜速度が維持され、全体として、スパッタリング成膜の時間を短縮できる。その結果、アクリル基板が、スパッタリング法のためのプラズマによりダメージを受けて黄変,エッチング等を生じることも、抑制される。従って、アクリル基板に、黄変やエッチング等のダメージのない膜を、密着性良く成膜することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、
スパッタ工程において、差圧領域に、スパッタガスを導入して、スパッタガスの流量と、隙間の間隔を調整するため、隙間を微小な幅に設定すれば、差圧領域から大量のガスが真空容器内の高真空の領域に流れ込まないように調整することができるので、差圧領域外の蒸着工程を行う蒸発源付近では、真空蒸着可能な真空度を得ることができる。この仕組みにより、同一真空容器内でスパッタリング成膜と真空蒸着成膜を行うことが可能となる。このとき、従来技術とは異なり、スパッタリング成膜と真空蒸着成膜を切り替える間に、真空容器内の圧力を、それぞれの成膜方法に適した圧力に調整する工程が不要となる。
また、スパッタ工程では、前記真空容器内の他の領域と僅かな隙間を通じて連通した状態で物理的に隔離され、前記基板ホルダの基板保持面の一部に対向するように設けられた差圧領域に、スパッタガスを導入して、
スパッタガスの流量と、前記隙間の間隔を調整することにより、前記差圧領域内の圧力を、第一の圧力よりも高い第二の圧力に調整するため、差動排気装置などの複雑な構造を必要としないで、差圧容器のような一種の仕切りにより、同一真空容器内に、蒸着工程に適した第一の圧力とスパッタ工程に適した第二の圧力という、真空度の異なる領域を実現できる。
その結果、スパッタリング成膜と真空蒸着成膜という、真空度が10〜1000倍異なる成膜手法を同一真空容器内で実現可能となる。
また、同一真空容器内でスパッタ及び蒸着という異なる成膜手法を実現できるため、これらの異なる成膜手法を実現するために、基板を別の真空容器間で移動する必要がなくなり、基板へのコンタミネーションを防ぐことができ、高品質な膜を得ることができる。
更に、同一真空容器内で、異なる成膜手法を実現することにより、膜質の異なる膜を連続的に成膜することができる。
【0018】
また、アクリル基板上に、スパッタ工程を、前記蒸着工程の開始と同時に、又は、前記蒸着工程の開始前に開始して、成膜するため、真空蒸着法による膜の密着性の弱さを改善すると同時に、スパッタリングのプラズマによるアクリル基板へのダメージを抑制することが可能となり、スパッタリングによる黄変や熱変形などのダメージがなく、かつ密着性の高い膜を、アクリル基板上に形成することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の一実施形態に係る成膜方法について、
図1〜
図9を参照しながら説明する。
<<成膜方法に使用される成膜装置>>
図1は、本実施形態の成膜方法に使用できる成膜装置1を示す概略説明図である。
成膜装置1は、真空容器2と、真空容器2内を減圧するための排気装置3と、回転軸4を中心に回転可能で、基板保持面5aに基板Sを保持可能な円板状の基板ホルダ5と、基板ホルダ5の基板保持面5aの一部のスパッタ部5bに対向するように設けられた差圧容器6と、差圧容器6内に設けられたスパッタ手段7と、差圧容器6内にスパッタガスを導入するガス導入手段8と、真空容器2内に基板保持面5aに対向するように設けられた真空蒸着用の真空蒸着手段9と、を主要構成要素としている。
【0021】
本実施形態の基板ホルダ5は、
図1,
図2に示すように、円板状からなり、円板の中心に、回転軸4が固定されている。基板ホルダ5の下面は、基板Sを固定して保持する基板保持面5aとなっている。
本実施形態では、基板ホルダ5の基板保持面5aと差圧容器6の上方の端部6aとの間に、差圧容器6内の差圧領域Bと差圧容器6外の高真空領域Aとを、僅かにガスが連通可能な隙間gを設けるため、基板ホルダ5は、適当な隙間gの間隔を調整しやすい円板状に形成されているが、隙間gを適切に調整可能であれば、円板状に限定されず、ドーム状や、カルーセル式の回転式成膜装置に用いられる円筒状に構成してもよい。
本実施形態では、基板Sとして、耐熱性が低く、かつ、スパッタ時にプラズマによる黄変やエッチング等のダメージを受けやすいプラスチック基板,特に、アクリル基板が好適に用いられる。
【0022】
差圧容器6は、円筒状で、軸方向の一方の端部が閉じられ、他方の端部6aが開放された容器体からなり、真空容器2内を、差圧容器6外側の高真空領域Aと、内部の差圧領域Bとに分離している。
差圧容器6の開放された端部6aは、円形を構成し、基板ホルダ5の基板保持面5aから所定の隙間gを置いた位置に配置されている。
この隙間gは、差圧領域Bにガス導入手段8からスパッタガスを導入したときに、スパッタガスが隙間gを通じて高真空領域Aに漏れることにより、差圧領域B内部を、高真空領域Aよりも低い所定の圧力に調整可能な間隔とされている。好適な隙間gの大きさは、差圧容器6の容積,スパッタガスの流量,調整される高真空領域A及び差圧領域Bの圧力に依存して決められる。
なお、差圧容器6は、基板ホルダ5の一部に対向し、真空容器2内の他の高真空領域Aとの間に、気体が僅かに連通可能な孔,隙間等の連通部を備えて、物理的に隔離可能な形状であればよく、円筒体に限定されない。例えば、真空容器2の内壁に遮蔽壁等を設けることにより、差圧領域Bを形成してもよい。
また、端部6aと基板保持面5aの間に隙間gを設ける代わりに、端部6aと基板保持面5aを近接して配置し、差圧容器6にガスの連通孔を設けてもよい。
【0023】
差圧容器6には、スパッタ手段7が設けられている。
スパッタ手段7は、差圧容器6内に配置されたターゲット7aと、ターゲット7aを保持するスパッタ電極7bと、スパッタ電極7bに電力を供給するスパッタ電源7cと、を備えている。本実施形態のスパッタ手段7は、DC(直流)又はRF(高周波)スパッタリング法によるものである。
ターゲット7aは、膜原料物質を平板状に形成したものであり、差圧容器6内に、基板ホルダ5の基板保持面5aに対向するように配置される。
ターゲット7aとしては、Si,Zr,Al,Ti,Ta等の公知の材料からなる金属ターゲットを用いると好適である。但し、SiO
2のような化合物ターゲット等を用いることもできる。
【0024】
また、差圧容器6内には、差圧容器6内の差圧領域Bにスパッタガスを導入するガス導入手段8が設けられている。ガス導入手段8は、スパッタガスを貯蔵するガスボンベ8a,8dと、ガスボンベ8a,8dに対応して設けられたバルブ8b,8eと、スパッタガスの流量を調整するマスフローコントローラ8c,8fと、スパッタガス供給路としての配管8gと、を備えている。
ガスボンベ8a,バルブ8b,マスフローコントローラ8cは、酸素ガスの供給に用いられ、ガスボンベ8d,バルブ8e,マスフローコントローラ8fは、アルゴンガスの供給に用いられる。
本実施形態では、スパッタガスとして、アルゴンやヘリウム等の不活性ガスと、酸素や窒素等の反応性ガスが導入される。
【0025】
スパッタリング成膜において成膜速度を高めるには、金属ターゲットを用いたDC(直流)スパッタリングが有効である。誘電体膜や酸化膜を得る場合、酸素や窒素などと反応させる必要があるが、必ずしも反応が進まないことがあり、不完全な状態になることがある。
本実施形態では、金属ターゲットを用いて、酸素等の反応性ガス量を、アルゴンガス等の不活性ガス量に対して例えば80:1(反応性ガス:不活性ガス)の微量として、成膜する。これにより、真空蒸着成膜を行う高真空領域Aで完全酸化物を供給することにより、全体として完全酸化物に近い膜を得ることが可能である。その結果、成膜速度が速く、密着性が高く、低応力で、光学的にも吸収のない膜を得ることができる。
なお、差圧領域Bに導入する反応性ガスの不活性ガスに対する比率は、0.5%〜15%、好ましくは0.5%〜5%であるとよい。
【0026】
真空蒸着手段9は、電子ビーム蒸着源からなり、蒸着材料を充填するるつぼ9aと、るつぼ9aに充填された蒸着材料に電子ビームを照射する電子銃9bとを備えている。また、るつぼ9aの上方には、シャッタ9cが移動可能に配置されている。
【0027】
以上のように、本実施形態で使用される成膜装置1は、単一の真空容器内に、スパッタ手段7と真空蒸着手段9とを設置している。この成膜装置1で、要求される真空度が大きく異なるスパッタリング法と真空蒸着法という二つの成膜方法を両立するための仕組みは、スパッタ手段7のターゲット7aが格納される差圧容器6にある。
差圧容器6内には、スパッタガスを導入することにより、差圧容器6内の差圧領域Bの圧力を、真空容器2内の差圧容器6外の高真空領域Aより高くして、スパッタリングが可能な真空度である1〜10
−1Paを得る。このとき、スパッタガスの流量と、隙間gの間隔を調整することにより、差圧容器6内の差圧領域Bの圧力をコントロールする。
隙間gを微小な幅に設定することにより、差圧容器6から大量のガスが真空容器2内の高真空領域Aに流れ込まないように調整するので、真空蒸着手段9の蒸発源付近では、真空蒸着可能な真空度である10
−1〜10
−6Paを得ることができる。この仕組みにより、同一真空容器内でスパッタリング成膜と真空蒸着成膜を行うことが可能となる。このとき、従来技術とは異なり、スパッタリング成膜と真空蒸着成膜を切り替える間に、真空容器内の圧力を、それぞれの成膜方法に適した圧力に調整する工程が不要である。
【0028】
また、本実施形態で使用される成膜装置1は、基板Sを保持して回転する回転式の基板ホルダ5を備えているため、成膜中に基板Sが回転することにより、スパッタリング成膜の差圧領域Bと、真空蒸着成膜の高真空領域Aとの間を、各領域に滞在する時間を任意の時間に調整しながら、基板Sを移動させることができる。このことは、スパッタリング法により成膜される膜と、真空蒸着法により成膜される膜とが、同一真空容器内で成膜可能であることを示している。
更にこの手法によれば、基板ホルダ5の回転により、基板Sを、スパッタリング法に適した圧力よりも高真空の高真空領域Aも通過させながら、スパッタリング成膜を行うため、成膜粒子以外の基板Sへの付着を抑制することができ、良質な膜を作製することにつながる。
そして、スパッタリング成膜と真空蒸着成膜を同時に行う場合には、スパッタリング成膜の差圧領域Bと真空蒸着成膜の高真空領域Aにおける基板Sの滞在時間をコントロールすることにより、スパッタリングによる膜と真空蒸着による膜の成膜量(膜厚)を任意で得ることができる。
【0029】
また、従来、真空度の異なる領域を実現するためには、差動排気装置が必要であった。差動排気装置を用いた場合、排気系が2系統必要になり、その配管システムも複雑になっていた。それに対し、本実施形態では、真空度の異なる領域A,Bを、差圧容器6という簡単な構造で実現しており、装置全体の単純化及び小型化が可能となっている。
【0030】
<<成膜方法>>
次いで、本実施形態の成膜方法について、
図3のフローチャートに基づき説明する。本実施形態は、アクリル製の基板Sに、スパッタ手段7を用いたスパッタリング法でSiO
2膜を形成し、その後、真空蒸着手段9を用いた真空蒸着法でSiO
2膜を成膜する場合である。
まず、基板ホルダ5に基板Sをセットしたものを、真空容器2に取り付ける。また、ターゲット7aにSiターゲットをセットし、るつぼ9aに、蒸着材料としてSiO
2を充填した後、
図3のフローの処理をスタートする。
まず、処理1で、真空容器2を密閉し、排気装置3を用いて真空容器2内を減圧する。
処理2で、不図示の圧力計を用いて、真空容器2内が、所定の圧力,つまり、7×10
−4Paに達したかを判定する。
【0031】
真空容器2内が、所定の圧力,つまり、7×10
−4Paに達していない場合(処理2;No)、処理2で、真空容器2内が、所定の圧力,つまり、7×10
−4Paに達したかを判定する。つまり、真空容器2内が、所定の圧力,つまり、7×10
−4Paに達するまで、処理2を繰り返す。
真空容器2内が、所定の圧力,つまり、7×10
−4Paに達した場合(処理2;Yes)、真空蒸着手段9による真空蒸着に適した真空度まで減圧されたものとして、処理3に進み、基板ホルダ5の回転を開始する。
なお、本実施形態では、処理3の基板ホルダ5の回転を、処理6のガスの導入より先に開始しているが、ガスの導入の途中又はガスの導入後に基板Sの回転を開始してもよい。
但し、基板ホルダ5の回転により、基板ホルダ5と差圧容器6との間の隙間gから差圧容器6外に漏出するガスの流量が影響を受けるため、基板ホルダ5の回転は、ガスの導入より前か、ガスの導入中に開始するのが好ましい。
【0032】
その後、処理4で、バルブ8b,8eを開けてガスボンベ8a,8dからそれぞれ、酸素ガスとアルゴンガスを、差圧容器6内の差圧領域Bに導入する。
【0033】
差圧領域Bに酸素ガスとアルゴンガスが導入されると、それまで、排気装置3により、7×10
−4Pa程度まで減圧されていた差圧領域B内は、局所的に酸素ガスとアルゴンガスが導入され、かつ、これらのガスが隙間gを通じて微量だけ差圧容器6外に一定の流量で漏れている状態となる。
差圧領域Bへのガスの導入量と、隙間gを通じた差圧領域Bからのガスの漏出量が、所定のバランスとなったときに、差圧領域B内の圧力は、所望の圧力,本実施形態では、スパッタリング成膜に適した1〜10
−1Paとなる。
差圧領域B内の圧力は、差圧容器6内に圧力計を配置してモニタしてもよいが、圧力が1〜10
−1Paになったときにプラズマが発生することが、実験により確認されているため、本実施形態では、差圧容器6内にプラズマが発生したときに、所定の圧力である1〜10
−1Paに達したと判断する。
このように構成することにより、別途差圧容器6内に圧力計を配置する必要がないため、成膜装置1をより簡易な構成とすることができる。
【0034】
処理4で酸素ガス,アルゴンガスが導入され、しばらく時間が経過すると、差圧容器6内の差圧領域Bが、スパッタリング成膜に適した1〜10
−1Paに達して、差圧容器6内にプラズマが発生するため、処理5で、ターゲット7aと基板ホルダ5との間に配置され、ターゲット7aを被覆していた不図示のシャッタを開放し、スパッタリング成膜を行う。
なお、処理4で、しばらく待ってもプラズマが発生しない場合には、隙間gからのガスの漏出速度に対して、酸素ガス及びアルゴンガスの導入速度が遅いために、差圧容器6内の圧力が十分上がっていないことが予想されるため、マスフローコントローラ8c,8fを調整することにより、酸素ガス及びアルゴンガスの流量を上昇させる。
【0035】
次いで、処理6で、不図示の膜厚モニタにより、基板S上に形成された薄膜の膜厚が、予め定められた要求膜厚に達しているかを判定する。この要求膜厚は、スパッタリング成膜時間が、基板Sにプラズマによるダメージが発生しないわずかな時間となるような値に、あらかじめ設定される。
基板S上に形成された薄膜の膜厚が、予め定められた要求膜厚に達していない場合(処理6;No)、処理6で、基板S上に形成された薄膜の膜厚が、予め定められた要求膜厚に達しているかを判定する。
つまり、要求膜厚に達するまで、処理6を繰り返す。
基板S上に形成された薄膜の膜厚が、予め定められた要求膜厚に達した場合(処理6;Yes)、処理7で、不図示のシャッタでターゲット7aを被覆し、バルブ8b,8eを閉めて、スパッタリング成膜を終了する。
【0036】
次いで、処理8で、シャッタ9cを開け、電子銃9bより電子ビームをるつぼ9aに照射して、真空蒸着成膜を行う。
次いで、処理9で、不図示の膜厚モニタにより、基板S上に形成された薄膜の膜厚が、予め定められた要求膜厚に達しているかを判定する。
基板S上に形成された薄膜の膜厚が、予め定められた要求膜厚に達していない場合(処理9;No)、再び処理9で、基板S上に形成された薄膜の膜厚が、予め定められた要求膜厚に達しているかを判定する。
つまり、要求膜厚に達するまで、処理9を繰り返す。
処理9における要求膜厚は、応力や密着性を考慮し処理6における要求膜厚との膜厚比が最適となるように設定される。
【0037】
基板S上に形成された薄膜の膜厚が、予め定められた要求膜厚に達した場合(処理9;Yes)、処理10で、電子銃9bをオフにし、シャッタ9cを閉めて、真空蒸着成膜を終了する。
以上で、
図3の処理を終了する。
その後、真空容器2内の圧力を大気圧に戻し、真空容器2から基板ホルダ5を取り出す。
【0038】
図3の成膜方法によれば、真空蒸着成膜を行う前に、スパッタリング成膜を行っているため、アクリル製の基板Sへの膜の密着性が向上される。また、処理9における真空蒸着成膜での要求膜厚よりも処理6におけるスパッタリング成膜での要求膜厚を小さく設定しているので、スパッタリング成膜の時間がわずかな時間に限定され、アクリル製の基板Sがダメージを受けて黄変,エッチング等を生じることも同時に抑制される。従って、アクリル製の基板Sに、黄変やエッチング等のダメージのない膜を、密着性良く成膜することができる。
【0039】
図4は、本発明の成膜方法の他の例を示すフローチャートである。
図4の例は、アクリル製の基板Sに、先に、スパッタ手段7を用いたスパッタリング法によるSiO
2膜の成膜を開始し、その後、真空蒸着手段9を用いた真空蒸着法によるSiO
2膜の成膜を開始して、その後は、スパッタリング成膜と真空蒸着成膜を同時に行う場合である。
まず、処理11〜処理14で、
図3の処理1〜処理4と同様の処理を行う。
次いで、処理15で、ターゲット7aと基板ホルダ5との間に配置され、ターゲット7aを被覆していた不図示のシャッタを開放し、スパッタリング成膜を行う。
【0040】
次いで、処理16で、不図示のタイマにより、処理15のスパッタリング成膜開始後、予め定められた所定の時間が経過したか判定する。
所定の時間が経過していない場合(処理16;No)、再び処理16で、処理15のスパッタリング成膜開始後、予め定められた所定の時間が経過したか判定する。つまり、所定の時間が経過するまで、処理16を繰り返す。
所定の時間が経過した場合(処理16;Yes)、処理17で、シャッタ9cを開け、電子銃9bより電子ビームをるつぼ9aに照射して、真空蒸着成膜を行う。
次いで、処理18で、不図示のタイマにより、処理15のスパッタリング成膜開始後、予め定められた所定の時間が経過したか判定する。
所定の時間が経過していない場合(処理18;No)、再び処理18で、処理15のスパッタリング成膜開始後、予め定められた所定の時間が経過したか判定する。つまり、所定の時間が経過するまで、処理18を繰り返す。
【0041】
所定の時間が経過した場合(処理18;Yes)、処理19で、不図示のシャッタでターゲット7aを被覆し、バルブ8b,8eを閉めて、スパッタリング成膜を終了する。
次いで、処理20で、不図示の膜厚モニタにより、基板S上に形成された薄膜の膜厚が、予め定められた要求膜厚に達しているかを判定する。
基板S上に形成された薄膜の膜厚が、予め定められた要求膜厚に達していない場合(処理20;No)、再び処理20で、基板S上に形成された薄膜の膜厚が、予め定められた要求膜厚に達しているかを判定する。
つまり、要求膜厚に達するまで、処理20を繰り返す。
【0042】
基板S上に形成された薄膜の膜厚が、予め定められた要求膜厚に達した場合(処理20;Yes)、処理21で、電子銃9bをオフにし、シャッタ9cを閉めて、真空蒸着成膜を終了する。
以上で、
図4の処理を終了する。
その後、真空容器2内の圧力を大気圧に戻し、真空容器2から基板ホルダ5を取り出す。
【0043】
図4の成膜方法によれば、真空蒸着成膜を開始する前に、スパッタリング成膜を先に開始しているため、アクリル製の基板Sの直上には、スパッタ膜が先に成膜されることとなり、アクリル製の基板Sへの膜の密着性が向上される。
また、真空蒸着成膜よりもスパッタリング成膜を先に終了するので、スパッタリング成膜の時間がわずかな時間に限定され、アクリル製の基板Sがダメージを受けて黄変,エッチング等を生じることも同時に抑制される。従って、アクリル製の基板Sに、黄変やエッチング等のダメージのない膜を、密着性良く成膜することができる。
【0044】
図5は、本発明の成膜方法の更に他の例を示すフローチャートである。
図5の例は、アクリル製の基板Sに、先に、スパッタ手段7を用いたスパッタリング法によるSiO
2膜の成膜と真空蒸着手段9を用いた真空蒸着法によるSiO
2膜の成膜とを同時に開始,終了して、スパッタリング成膜と真空蒸着成膜を同時に行う場合である。
まず、処理41〜処理44で、
図3の処理1〜処理4と同様の処理を行う。
次いで、処理45で、ターゲット7aと基板ホルダ5との間に配置され、ターゲット7aを被覆していた不図示のシャッタを開放し、スパッタリング成膜を行うと共に、シャッタ9cを開け、電子銃9bより電子ビームをるつぼ9aに照射して、真空蒸着成膜を行う。
次いで、処理46で、不図示の膜厚モニタにより、基板S上に形成された薄膜の膜厚が、予め定められた要求膜厚に達しているかを判定する。
基板S上に形成された薄膜の膜厚が、予め定められた要求膜厚に達していない場合(処理46;No)、再び処理46で、基板S上に形成された薄膜の膜厚が、予め定められた要求膜厚に達しているかを判定する。
つまり、要求膜厚に達するまで、処理46を繰り返す。
【0045】
基板S上に形成された薄膜の膜厚が、予め定められた要求膜厚に達した場合(処理46;Yes)、処理47で、不図示のシャッタでターゲット7aを被覆し、バルブ8b,8eを閉めて、スパッタリング成膜を終了すると共に、電子銃9bをオフにし、シャッタ9cを閉めて、真空蒸着成膜を終了する。
以上で、
図5の処理を終了する。
その後、真空容器2内の圧力を大気圧に戻し、真空容器2から基板ホルダ5を取り出す。
【0046】
図5の成膜方法によれば、真空蒸着成膜とスパッタリング成膜を同時に開始しているため、アクリル製の基板Sの直上には、真空蒸着膜だけでなくスパッタ膜が混合されることとなり、アクリル製の基板Sへの膜の密着性が向上される。
また、基板S上に、スパッタリング成膜と真空蒸着成膜を同時に行うので、スパッタリング法よりも成膜速度の速い真空蒸着法によって、高い成膜速度が維持され、全体として、スパッタリング成膜の時間を短縮できる。その結果、アクリル製の基板Sが、スパッタリング法のためのプラズマによりダメージを受けて黄変,エッチング等を生じることも、抑制される。従って、アクリル製の基板Sに、黄変やエッチング等のダメージのない膜を、密着性良く成膜することができる。
【0047】
以上の
図3〜
図5の成膜方法では、
図3が、スパッタリング成膜を先に開始し、先に終了した後に、真空蒸着成膜を行うもの、
図4が、スパッタリング成膜を先に開始し、その後真空蒸着成膜を開始して、スパッタリング成膜と真空蒸着成膜を一時同時に行った後、スパッタリング成膜を先に終了し、その後真空蒸着成膜を終了するもの、
図5が、スパッタリング成膜と真空蒸着成膜とを同時に開始、終了し、両成膜を同時に行うものである。そのほか、スパッタリング成膜を先に開始してその後真空蒸着成膜を開始し、両成膜を一時同時に行った後、両成膜を同時に終了してもよい。
【0048】
また、スパッタリング成膜は、密着性が高いが、応力の強い膜が成膜される欠点がある。
真空蒸着成膜が行われる高真空領域Aとスパッタリング成膜が行われる差圧領域Bそれぞれにおける基板Sの滞在時間は、基板保持面5aとスパッタ部5bとの比率と、基板ホルダ5の回転速度を調整することにより、調整可能である。
高真空領域Aと差圧領域Bそれぞれにおける基板Sの滞在時間を調整することにより、密着性は高いが応力の低い膜を得ることができる。
【0049】
なお、本実施形態では、差圧領域Bにスパッタ手段7を配置し、高真空領域Aに真空蒸着手段9を配置しているが、これに限定されるものでなく、高真空領域A,差圧領域Bには、異なる圧力で成膜を行う一対の成膜手段を配置すればよい。
例えば、高真空領域A,差圧領域Bの双方に、真空蒸着手段を配置し、差圧領域Bのみに、反応性ガスを導入することにより、差圧領域Bでは、反応性蒸着を行い、高真空領域Aでは、反応性蒸着でない真空蒸着を行って、高真空領域Aと差圧領域Bとで、膜組成の異なる膜を積層してもよい。
また、単一の真空容器2内に、複数の差圧容器6を設置し、相互に独立した複数の差圧領域Bを設けてもよい。
【0050】
また、真空蒸着法やスパッタリング法においては、成膜された膜が、所望する成膜材料の組成と異なることがある。その原因は、成膜材料の成膜時の分解にある。真空蒸着成膜においては、過度の加熱による分解が主原因であり、スパッタリングにおいては、プラズマによる分解が主要因となる。
本発明では、この成膜材料の成膜時の分解における機序を、積極的に利用可能である。
本実施形態では、高真空領域Aと差圧領域Bという二つの成膜領域を備えるため、一方の成膜領域において、膜材料を積極的に分解して基板Sに供給し、他方の成膜領域からの成膜粒子に分解され欠損した部分を補給することが可能となる。このことと、膜厚の制御(各成膜領域での基板Sの滞在時間の制御)を組み合わせることにより、膜厚方向に組成が異なる膜を成膜可能である。
また、一方の領域では、不完全な組成の成膜であるが、他方の領域では、完全に近い組成のものを供給することで、膜質を改善したり、膜厚方向に組成が異なる膜を成膜したりすることができる。
【実施例】
【0051】
以下、実施例に基づき、本発明をさらに詳細に説明する。
<<実験例1 黄変抑制の確認>>
図1,
図2の成膜装置を用いて、
図3に示す方法により、アクリル製の基板S上に、SiO
2膜を成膜し、成膜後の基板Sの黄変抑制の確認実験を行った。
このときの条件は、以下の通りであった。
スパッタリング成膜については、スパッタ電源7cに、RF電源を用いたRFスパッタリングとした。ターゲット7aとして、Siターゲットを用い、スパッタガスとして、酸素(1〜10sccm)、アルゴン(80sccm)を導入した。スパッタ電源7cのRFパワーは、300Wとした。
また、真空蒸着成膜については、蒸着材料としてSiO
2を用い、電子銃9bの電流量は、120mAとした。また、高真空領域Aには、酸素等の反応性ガスは導入しなかった。
膜全体の膜厚、つまり、処理9における要求膜厚を500nmとし、スパッタリング成膜による膜厚、つまり、処理6における要求膜厚を、125nmに設定した。つまり、真空蒸着成膜による膜厚とスパッタリング成膜における膜厚を、3:1とした。
基板Sには加熱を行わなかった。
【0052】
上記条件で、酸素の導入量を、0sccm,1sccm,2sccm,5sccm,10sccmとした場合における成膜後の基板Sの外観を、
図6に示す。
図6より、本発明の一実施形態である
図3の方法で、酸素の導入量を5〜10sccmとしたときに、成膜後の基板Sには、黄変が全く見られないことが分かった。
【0053】
<<実験例2 膜の密着性の確認>>
スパッタ電源7cのRFパワーを、100W,200W,300Wに変化させたことを除いては、実験例1と同様の条件で、アクリル製の基板S上に、SiO
2膜を成膜し、成膜後の膜の密着性の確認実験を行った。
RFパワーを100W,200W,300Wに変化させ、それぞれのRFパワーについて酸素の導入量を、1sccm,2sccm,5sccm,10sccmに変化させて、成膜を行い、サンプルを得た。成膜されたサンプルについて、それぞれ、成膜された膜をクロスカットした後、粘着テープを貼り付けてから剥がすことにより、膜剥がれの有無を調べる公知のクロスハッチ試験(テープ試験)を行った。
また、実験例1と同様の手順により、各条件で成膜後の基板Sの黄変の改善度を、外観目視による官能評価で、◎,〇,△,×の4段階に分類した。
このとき、◎は、黄変が殆ど目視では認識できず、成膜前の基板Sと殆ど差がない程度、〇は、よく見ると若干の黄変があるが、商品価値は損なわない程度、△は、若干の透明感は残っているものの、一目で黄変が認識され、商品価値を備えない程度、×は、極めて顕著な黄変があり、透明感もない程度とした。
具体的には、◎は、
図6の10sccmのサンプルの程度、〇は、
図6の5sccmのサンプルの程度、△は、
図6の2sccmのサンプルの程度、×は、
図6の0sccm,1sccmのサンプルの程度とした。
実験例2の剥離試験及び黄変改善度の官能評価の結果を、表1に示す。
【0054】
【表1】
【0055】
表1は、各スパッタ出力(RFパワー),酸素導入量に対応するクロスハッチ試験の未剥離領域数、剥離領域数、黄変改善度を示す。
表1の結果より、RFパワーが100W,酸素導入量が5,10sccmの場合、RFパワーが200W,酸素導入量が2,5,10sccmの場合、RFパワーが300W,酸素導入量が5,10sccmの場合などの条件で、剥離領域が大きく減少しており、酸素導入量が5sccm以上では、どの出力においても、剥離領域が減少して、密着性が向上していることが分かった。
また、いずれのRFパワーにおいても、酸素導入量5sccm以上で、黄変改善度の評価が〇又は◎であって、黄変の度合いは、基板Sの商品価値を損なわない程度であった。
この剥離試験の結果と、表1の黄変の官能評価の結果を合わせると、酸素導入量が5sccm以上で、膜の密着性と黄変の改善が図られていた。
【0056】
<<実験例3 基板変形量の確認>>
真空蒸着成膜による膜厚とスパッタリング成膜における膜厚を、3:1及び1:3とし、酸素導入量を10sccm,アルゴン導入量を80sccmとしたことを除いては、実験例1と同様の条件で、アクリル製の基板S上に、SiO
2膜を成膜し、真空蒸着成膜とスパッタリング成膜を同一真空容器内で行ったときの応力制御について、確認実験を行った。
実験結果を、
図7に示す。
材質、厚みが同じ基板に、全体の膜厚が同じになるように成膜しているため、基板の変形量が、膜の応力と考えることができる。
図7の結果より、真空蒸着成膜の割合が増えると、応力が低下することが分かった。
【0057】
<<実験例4 アクリル製基板Sのプラズマによる黄変確認>>
アクリル製基板Sにプラズマを照射し、プラズマ照射により黄変することを確認する実験を行った。
プラズマ照射条件として、RFパワーを100Wとし、アルゴンガス及び酸素ガスを、アルゴン導入量を30sccm,酸素導入量を10sccmとして、流量比3:1で導入し、プラズマを、黄変サンプル1は1分、黄変サンプル2は3分、照射した。
得られた黄変サンプル1,2と、プラズマ未照射のアクリル基板との外観を、
図8に示す。また、
図9に、プラズマ未照射のアクリル基板と、黄変サンプル1,2の分光透過率を示す。
図9より、黄変サンプル1の400〜500nm付近の青から緑の光の透過率が低下していることにより、黄変が発生していることが分かった。また、黄変サンプル2は、プラズマ照射時間が長くなったため、黄変だけでなく、基板Sの表面がプラズマにより削られて、すりガラス状になっているために、殆どの光を透過しなくなっていることが分かった。