特許第5901621号(P5901621)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5901621
(24)【登録日】2016年3月18日
(45)【発行日】2016年4月13日
(54)【発明の名称】過分極装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/055 20060101AFI20160331BHJP
   G01R 33/28 20060101ALI20160331BHJP
【FI】
   A61B5/05 383
   G01N24/02 B
   G01N24/02 Y
【請求項の数】21
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2013-515775(P2013-515775)
(86)(22)【出願日】2011年6月24日
(65)【公表番号】特表2013-529485(P2013-529485A)
(43)【公表日】2013年7月22日
(86)【国際出願番号】EP2011003125
(87)【国際公開番号】WO2011160853
(87)【国際公開日】20111229
【審査請求日】2014年5月9日
(31)【優先権主張番号】102010017568.4
(32)【優先日】2010年6月24日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】507038825
【氏名又は名称】ヨハン ウォルフガング ゲーテ−ウニベルジテート フランクフルト アム マイン
(74)【代理人】
【識別番号】100117787
【弁理士】
【氏名又は名称】勝沼 宏仁
(74)【代理人】
【識別番号】100091982
【弁理士】
【氏名又は名称】永井 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100107537
【弁理士】
【氏名又は名称】磯貝 克臣
(74)【代理人】
【識別番号】100106655
【弁理士】
【氏名又は名称】森 秀行
(74)【代理人】
【識別番号】100127465
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 幸裕
(74)【代理人】
【識別番号】100150717
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 和也
(72)【発明者】
【氏名】ヤン、クルメナッカー
(72)【発明者】
【氏名】トマス、プリスナー
(72)【発明者】
【氏名】ファシル、デニセンコフ
(72)【発明者】
【氏名】ローラ、シュライバー
(72)【発明者】
【氏名】カースティン、ミュネマン
【審査官】 田中 洋介
(56)【参考文献】
【文献】 特表2002−501006(JP,A)
【文献】 特開平09−173317(JP,A)
【文献】 VAHALA E.,A STUDY OF THE USE OF OVERHAUSER ENHANCEMENT TO ASSIST WITH NEEDLE AND CATHETER PLACEMENT DURING INTERVENTIONAL MRI,JOURNAL OF MAGNETIC RESONANCE,米国,ACADEMIC PRESS,2002年 8月 1日,Vol.157 No.2,pp.298-303
【文献】 DENYSENKOV V.,LIQUID STATE DNP USING A 260 GHZ HIGH POWER GYROTRON,PHYSICAL CHEMISTRY CHEMICAL PHYSICS,英国,ROYAL SOCIETY OF CHEMISTRY,2010年 6月14日,Vol.12 No.22,pp.5786-5790
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/055
G01N 24/00−24/14
G01R 33/20−33/64
JMEDPlus(JDreamIII)
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体NMR造影剤の過分極装置であって、
MW共振器(16)が長手軸を有するマイクロ波共振構造体と、
前記MW共振器(16)の前記長手軸に沿って延びる前記液体NMR造影剤の導管(34)と、
少なくとも41GHzの周波数を有するマイクロ波を発生するマイクロ波発生源(20)と、
前記マイクロ波発生源(20)で発生したマイクロ波を前記MW共振器(16)に結合する手段と、
前記MW共振器(16)内の前記導管(34)を通って前記造影剤を継続的に輸送し、前記造影剤を生体に投与するのに適したポンプ(28)と、を備え、
前記MW共振器(16)の幾何学的形状、前記マイクロ波を前記MW共振器(16)に結合する前記手段、前記導管(34)の断面、前記MW発生源(20)の出力および周波数が、
‐前記MW共振器(16)において、前記MW共振器の前記長手軸の少なくとも主要部分に沿って、磁場強度に腹を有し、電場強度に節を有するMWモードが形成され得て、
‐前記導管(34)の少なくとも一部分の領域において、少なくとも1・10−5TのMW磁場が発生され得るように、
選択される装置。
【請求項2】
前記MW共振器(16)が、MRT機器の開口(12)に配設されるとき、前記MRT機器の前記開口(12)の外側にあるリザーバ(26)から前記MW共振器(16)に前記造影剤を輸送するのに適した第1の導管(30)と、および/または、
前記共振器(16)および前記生体(14)が、MRT機器の開口(12)に配置されるとき、前記共振器(16)から前記生体(14)に前記過分極された造影剤を輸送するのに適した第2の導管(36)とを備える、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記第2の導管(36)の断面が、前記MW共振器(16)内の前記導管(34)の断面より小さい、請求項2に記載の装置。
【請求項4】
前記MW共振器(16)が、共振周波数を設定するために互いに対して調節可能である2つの部分(48)を有し、2つの前記共振器部分(48)を互いに対して調節する手段(50、52)を含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の装置。
【請求項5】
前記共振器の前記長手軸に対して高調波を表す前記共振器(16)のMWモードにMW周波数が対応するように、前記MW共振器(16)の寸法が、前記MW発生源(20)によって発生可能な周波数に調整される、請求項1から4のいずれか一項に記載の装置。
【請求項6】
前記MW共振器(16)が、MW場に対向する表面において導電性である、請求項1から5のいずれか一項に記載の装置。
【請求項7】
前記MW共振器(16)が、少なくとも部分的に、キャリア材料(42、48)からなり、前記キャリア材料が、前記MW場に対向する表面において、導電層が被覆される、請求項6に記載の装置。
【請求項8】
前記導電層の厚さが、少なくとも0.5μmである、請求項7に記載の装置。
【請求項9】
前記キャリア材料が、青銅、真鍮または丹銅合金、アルミニウム、銅またはニッケルシルバー、または水素を含まないプラスチックの任意のものによって形成される、請求項7または8に記載の装置。
【請求項10】
造影剤が並行に流れる複数の共振器(16)を備える、請求項1から9のいずれか一項に記載の装置。
【請求項11】
前記造影剤の流れ方向に見たとき、前記MW共振器(16)の上流に配置された、前記造影剤の温度調節用の装置(32)、および/または、前記造影剤の流れ方向に見たとき、前記MW共振器(16)の下流に配設された、前記造影剤の温度調節用の装置を備える、請求項1から10のいずれか一項に記載の装置。
【請求項12】
前記共振器(16)が円筒型共振器である、請求項1から11のいずれか一項に記載の装置。
【請求項13】
前記モードが、TE011、TE012またはTE01nモード(2<n<100)である、請求項12に記載の装置。
【請求項14】
前記MW共振器(16)が、円筒型共振器部分を有し、前記共振器部分が、少なくとも1つの長手方向の端部において、前記共振器の前記長手軸に沿って調節可能なピストン(48)によって終端される、請求項13に記載の装置。
【請求項15】
前記少なくとも1つの調節可能ピストン(48)が、前記円筒型共振器(16)の前記長手軸に平行な方向に、前記長手軸を中心に回転することによって調節可能であるように、前記MW共振器(16)に設けられた雌ねじと係合する雄ねじを有する、請求項14に記載の装置。
【請求項16】
前記円筒型共振器(16)の内径が、8.4〜15mmである、請求項12から15のいずれか一項に記載の装置。
【請求項17】
前記円筒型共振器(16)が、11〜12mm、22〜24mm、または11・nmm〜12・nmm(nは整数、2<n<100)の長さに調節可能である、請求項12から16のいずれか一項に記載の装置。
【請求項18】
前記マイクロ波を前記MW共振器(16)に結合する絞り(58)が設けられる、請求項12から17のいずれか一項に記載の装置。
【請求項19】
前記絞りが、スリット絞り(58)である、請求項18に記載の装置。
【請求項20】
前記絞り(58)のサイズが調節可能である、請求項18に記載の装置。
【請求項21】
前記マイクロ波の磁気成分を前記共振器に結合する手段が設けられる、請求項12から17のいずれか一項に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気共鳴断層撮影(MRT)の分野に関する。特に、本発明は、液体NMR造影剤の過分極装置および過分極された液体造影剤の投与方法に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気共鳴断層撮影(MRT)は、特に、体内の組織および臓器の構造および機能を表すための医療診断で使用される撮影法である。MRTは、核磁気共鳴NMR分光法の原理に基づいたものである。この方法では、検査対象の組織は強い静磁場にあり、被検組織の原子核スピンが揃うことで磁化が生じる。無線周波数範囲の交番電磁場と共鳴励起することによって、磁化は静磁場の方向から偏向され得る。この励起により、スピンは静磁場の方向に歳差運動し始め、磁化全体の歳差運動はコイルを使用して電圧信号として測定され得る。
【0003】
高周波交番電磁場がオフにされると、スピンは初期状態に戻って緩和される。この緩和には、種々の元素および種々の化合物に特有で検出可能な特徴的な減衰時間(decay time)が要求される。次に、この減衰情報から断層イメージが構築され得る。
【0004】
外部磁場における原子核スピンの磁化は、ボルツマン分布に従う統計的プロセスである。原子核スピンと静磁場との相互作用のエネルギーが、室温の熱エネルギーと比較して比較的小さいため、静磁場による磁化全体は、NMR信号を犠牲にして、同様に比較的小さい。
【0005】
NMRの感度を高める1つの方法は、静磁場の強度を高めることで、核スピン状態の占有率の均一性を低くすることである。しかしながら、静磁場の強度には技術的な限界があり、例えば、典型的には、最新のMRT機器の静磁場強度は1.5Tである。磁場強度が3.0Tを超えると、誘導渦電流、例えば、患者の脳内に誘導される渦電流を最小限に抑えるために、非常に低速にしか磁石内に患者を動かせない。
【0006】
また、感度を高めるさらなる方策は、所与の磁場におけるスピン状態の熱占有率に相当するものよりも試料を分極化させることである。1つ以上のスピン状態の占有率が、ボルツマン統計に従うエネルギー差より明確に他のスピン状態と比較して優勢であることが予測される試料の状態を過分極と呼ぶ。
【0007】
MRTでは、検査対象である生体、すなわち、被検患者または被検動物に、桁違いの大きさに高められたNMR信号を発生する過分極流体を投与することが知られている。X線診断法の用語を基にすれば、このような過分極流体は「造影剤」とも呼ばれている。主に、気体が造影剤として使用されている。しかしながら、被検生体に過分極液体を注入することも知られている。
【0008】
造影剤を過分極する既知の技術として、いわゆる、動的核分極(DNP)がある。DNPの場合、まず、外部磁場で電子スピンが分極される。マイクロ波領域で電子スピンが共鳴励起すると、電子スピン分極が、電子と原子核との間の弱い相互作用によって核スピンに移行し得る。この基礎をなす機構は、オーバーハウザー効果、固体効果、交差効果、いわゆる「熱混合」として知られる。
【0009】
ここで、造影剤は、凍結状態で、比較的強い静磁場、例えば、3.35Tで分極されることが一般的である。これらの条件下において、原子核スピンは、液体状態より著しく強く分極され得る。しかしながら、過分極された造影剤を投与できるようにするためには、まず、造影剤を溶解して患者に輸送しなければならない。このとき、輸送時の緩和過程により、過分極の多くの部分が失われるという問題が起こる。さらに、当業者に知られている方法は比較的複雑である。
【発明の概要】
【0010】
本発明は、上述した分極損失の問題を解決する目的に基づくものである。この目的は、請求項1に記載の液体NMR造影剤の過分極装置または請求項22に記載の方法によって解決される。好ましいさらなる発展例は、従属請求項に述べられている。
【0011】
本発明による方法では、検査対象である生体が位置する同じMRT機器の静磁場に配設されたマイクロ波共振器(MW共振器)の長手軸に沿って延びる導管を通して、液体造影剤が輸送される。少なくとも40GHzのマイクロ波がMW共振器に結合され、このマイクロ波は、DNPを使用してMW共振器の導管を通過する際に液体造影剤を分極するのに適している。厳密に言えば、液体のみが、この分極によって「造影剤」になるが、簡潔にするために、以下、用語上の区別はなされない。さらに、造影剤は、MW共振器を継続的に通過する間に少なくとも時折分極され、MRTにおいて被験対象者にすぐに投与される。ここで、MW共振器にMWモードが形成され、共振器の長手軸の少なくとも主要な部分に沿って、磁場強度に腹を有し、電場強度に節を有する。さらに、導入されたマイクロ波の出力および共振器へのマイクロ波の結合は、導管の少なくとも一部分の領域において、MW磁場強度の振幅
【数1】
が得られるように調節される。式中、T1,eはDNP活性化電子の緩和時間である。実際、磁場強度Bの振幅は、好ましくは、少なくとも1・10−5T、好ましくは、少なくとも3・10−5Tの値を有する。
【0012】
このように、本発明によれば、DNPを使用した分極に採用されたMW共振器は、被検対象者が位置するMRT機器の同じ開口に配設され、造影剤が、MRTイメージングに使用される同じ静磁場に造影剤がさらされる。造影剤は、DNPによってMW共振器の導管を通過する際に分極され、すぐに生体に投与される。これにより、分極用装置とMRT機器との間での過分極造影剤の輸送は完全に不要となる。従来技術に一般的な、輸送に関連して避けられない分極損失は、この目的で、過分極造影剤が、過分極に使用される高磁場を離れるときに特に深刻であるが、過分極造影剤が、MW共振器から放出された直後に投与可能であるため、この分極損失は、本発明の範囲内において大幅に最小化され得る。さらに、過分極に別個の磁石は不要であり、ある機器における過分極と別の機器における過分極造影剤の次の使用との間での時間調整も不要になる。
【0013】
本発明は、過分極に最適な場および温度条件を与える可能性を故意に放棄している点で、一般的な従来技術と概念上区別される。本発明は、造影剤が、同じ静磁場にある状態で共振器から放出された直後に投与されるため、過分極と投与との間の損失が最小限に保たれ得ることで、過分極にとってあまり好ましくない条件から生じる欠点が最終的に補償可能であるという前提に基づいたものである。
【0014】
しかしながら、液体のDNPに主要なメカニズムであるオーバーハウザー効果が、一般に知られているように、外部磁場強度とともに低減するため、この方法を実際に実施可能であることは当業者にとっては驚くべきことである。しかしながら、過分極では、MRT機器の磁場が使用されるため、この磁場強度は指定され、従来技術のMRTでは、少なくとも1.5Tである。専門家らは、一般に、このような強静磁場では、液体のDNPが非常に非効率的であり、特に、本発明の目的には十分でないことがあると、すでに見なしている(Hausser,K.H., Stehlik,D., Dynamic Nuclear Polarizaion in Liquids, Advances in Magnetic Resonance(1968)を参照されたい)。米国特許出願公開第2009/0121712号明細書においても、同文献において使用された0.35Tの磁場の代わりに、1.5Tの磁場で液体のDNPを使用すると、4〜5倍の効率低下が見込まれるとみなされている。
【0015】
さらに、DNPの過程での電子スピンの分極には、40GHz以上の周波数でマイクロ波を励起する必要がある。本願発明者らには、このような高周波用のマイクロ波共振器で、液体の通過に適したものは未知であり、空洞での液体輸送にかかわらず、十分なQ因子を有するこのような共振器が製造可能であるかは明らかではない。さらなる問題として、共振器における液体の滞留時間がある。滞留時間が長すぎると、液体造影剤が過度に加熱される危険性があり、逆に滞留時間が短すぎると、比較的強い磁場においてDNPを使用して達成可能な分極が、造影剤としての目的には不十分であることが見込まれる。
【0016】
しかしながら、本願発明者らは、このような一見して好ましくない前提条件にもかかわらず、DNPを使用して液体造影剤を通過させている間、1.5Tの静磁場であっても液体造影剤を過分極可能であることに気が付いた。本発明によれば、導管は共振器の長手軸に沿って配設される。それにより、共振器の経路長さを長くでき、ある応用に要求される所与の流量での滞留時間もそれぞれ延長される。同時に、共振器の幾何学的形状、マイクロ波をMW共振器に結合する手段、導管の断面、マイクロ波の出力および周波数は、共振器の長手軸の少なくとも主要部分に沿って、磁場強度に腹を有し、電場強度に節を有するMWモードがMW共振器に形成されるように、互いに対して調節される。これにより、液体造影剤は、電場強度が低いか、場合によっては、ゼロである領域を主に流れ、液体造影剤の過度の加熱が回避され得る。さらに、上述した成分は、導管の少なくとも一部分の領域において、MW磁場強度
【数2】
が得られるように互いに調整される。実際、磁場強度の振幅は、少なくとも1・10−5Tの値、好ましくは、少なくとも3・10−5Tの値を有するべきである。本願発明者らは、これらの条件下において、意外にも、MRTの目的で十分な程度に通過する造影剤を分極可能であることを確認した。
【0017】
米国特許出願公開第2009/0121712号明細書により、液体の過分極装置および方法が知られており、同文献において、液体は、NMRに対しても使用される同じ静磁場においてDNPを使用して過分極される。同文献に示されている実施形態は、0.35Tの静磁場と、Xバンド、すなわち、本発明よりかなり低い周波数範囲でのマイクロ波励起を有する携帯型のNMR機器である。マイクロ波共振器の構成および機能については記載されていない。この従来技術における通過中の分極の目的は、過分極と適用との間の分極損失を回避することではない。この従来技術は、流体力学を視覚化して、タンパク質、膜組織、または重合体のような水和物質の表面および内部における水の局所力学を調べることに関する。したがって、可視動的流れを得るために、1.5ml/minの過分極水の流量が使用される。同文献において、機能原理を実証するために、人工モデルに基づいた検査について記載されている。しかしながら、意図された実際の応用は、生体細胞の検査であり、特に、脂質二重層膜および他の生体軟部試料の検査である。しかしながら、MRTを使用して医療または診断の目的でのヒトや動物への投与については考慮されていない。
【0018】
DNPの場合、以下、常磁性中心とも呼ばれる常磁性体が造影剤に存在する必要がある。好ましい実施形態において、常磁性中心は造影剤に溶解される。しかしながら、加えて、またはその代わりに、常磁性中心は固定化されてもよく、例えば、アガロースやシリカゲルなどのゲルに固定して結合されてもよい。常磁性中心は、例えば、安定ラジカル、特に、TEMPOLおよびその誘導体、トリチル、ニトロソジスルホン酸カリウム、常磁性遷移金属イオン、電離放射線によって発生するラジカルおよび三重項状態の分子に役立つ。
【0019】
好ましくは、液体NMR造影剤の過分極および投与装置は、共振器がMRTの開口に配設される場合、MRTの開口の外側にあるリザーバから共振器に造影剤を輸送するのに適した第1の導管を備え、および/または、共振器が同様にMRTの開口に位置する場合、共振器から検査対象である生体に過分極造影剤を輸送するのに適した第2の導管を備える。
【0020】
ここで、第2の導管の断面は、MW共振器の導管の断面より小さいことが好ましい。この結果、第2の導管での流速、すなわち、MW共振器と患者との間の流速は、共振器での流速より速くなる。それにより、造影剤の時間当たりの所定の必要投与量に対して、共振器における滞留時間が長くなることと、共振器と生体との間の輸送が短縮化されることは両立し得る。
【0021】
MW共振器は、共振周波数の設定のために互いに対して調節可能な部分と、互いに対して共振器部分を調節する手段とを有することが好ましい。当該手段は、MRTの開口にMW共振器が配設されるとき、MRTの開口の外側からのアクセスが可能であることが好ましい。このことにより、MW共振器は、最良のDNP結果を達成するMW周波数に簡単に調整できる。スピン励起周波数は、使用される常磁性体に依存することに留意されたい。したがって、このような調製可能なMW共振器は、病院環境での商業応用にさらに適したものであり、病院環境では、MW共振器がより多様に使用可能になるため、日常的な操作で装置に修正が加えられることがない。
【0022】
可能な実施形態において、MW共振器は、照射されたMW周波数が共振器の基本振動に対応するように構成される。しかしながら、好適なさらなる発展例において、MW共振器の寸法は、MW発生源の周波数が共振器の長手軸に関して高調波を表す共振器のMWモードに対応するように、MW発生源の周波数に対して調整される。言い換えれば、所定のMW周波数に対して、長手軸に沿ったMW共振器の寸法は長さの倍数であり得て、結果的に、基本振動での動作が得られる。これにより、長手軸に沿った共振器の長さを増大させることができ、共振器内で造影剤が進む距離も増大し、所与の投与量および共振器内の導管の所定の断面に対して、MW共振器内の滞留時間をそれぞれ増大させることができる。さらに、本願発明者らは、これによりMW共振器の品質も増大し得ることに気が付いた。ここに提示された超短波マイクロ波領域において、導管の断面積が大きすぎると、MW共振器のQ因子が低減されるため、導管の断面積を無作為に選択することは容易にはできないことに留意されたい。このようにして、NMR造影剤の適用に望ましい投与量に関して、共振器の導管の断面積をそれぞれ拡大することによって、共振器における造影剤の滞留時間を無作為に長くすることはできない。この理由から、上述した方法で長手軸に沿って共振器の長さを増大させることが有益である。
【0023】
好ましくは、MW共振器は、MW場に対向する表面において導電性である。特に、MW共振器は、少なくとも部分的に、キャリア材料からなっていてもよく、MW場に対向するキャリア材料の表面には、良好な導電性の層、特に、銀層が被覆される。ここに提示された高GHz領域のマイクロ波周波数に対して、共振器の精度への要求は高く、例えば、Xバンド共振器に対するかなり低い要求とは同等のものではないことに留意されたい。被覆キャリア材料を用いる提案した構成では、選択時に特に良好な導電性材料に制約されることなく、十分に処理可能なキャリア材料を使用することができる。導電性層の厚さは、表皮厚さの数倍であるべきである。好ましくは、この厚さは、少なくとも0.5μm、特に好ましくは、1μm、特に、少なくとも2μmである。
【0024】
好ましいキャリア材料は、青銅、真鍮または丹銅合金、アルミニウム、銅またはニッケルシルバーによって形成される。上述した合金は、好ましくは、要求された幾何学的精度を保証するために焼きなまし処理される。特に好適な実施形態では、キャリア材料として水素を含まないプラスチックが使用され、NMR背景信号を発生しないという利点がある。この点で好ましいプラスチックは、PCTFE、VespelまたはPTFEである。
【0025】
上述したように、共振器のサイズ制約、導管の限界断面、共振器における造影剤の要求滞留時間により、達成可能な投与量には限界がある。したがって、好適なさらなる発展例において、上述したタイプの多数の共振器が使用され、造影剤が並行に共振器を通って流れる。この方法で、個々の共振器は、流量に関係なく機能面において最適化され得て、複数の共振器のそれぞれによって所望の流量が達成され得る。
【0026】
好ましくは、温度調節(temperating)用の装置、特に、造影剤を加熱するための装置が設けられ、造影剤の流れ方向に見たとき、MW共振器の上流に配置される。加えて、またはその代わりに、温度調節用の装置、特に、造影剤を加熱するための装置が、MW共振器のすぐ下流に配設されてもよい。これらの装置を用いることで、温度が上昇すると、緩和時間T1が増大するため、造影剤の温度が共振器の前方における分極および共振器の後方における移送のために最適に調節されることが確保され得る。これに加えて、被検対象への注入前に、温度は、被検対象、特に、生体の体温に調節された値に調整され得る。
【0027】
特に好適な実施形態において、共振器は円筒型共振器である。共振器の幾何学的形状は、周波数が共振器のTE011またはTE012モードに対応するようにMW発生源の周波数に調整されることが好ましい。
【0028】
好ましくは、MW共振器は、円筒型共振器部分を有し、少なくとも1つの長手端部は、共振器の長手軸に沿って調節可能なピストンまたはプロップ(prop)によって終端される。これにより、共振器は、所望の共振周波数に容易に調整され得る。
【0029】
しかしながら、40GHzより高い高MW周波数に対して、共振器は最も高い精度で調整されなければならない。したがって、好適なさらなる発展例において、少なくとも1つの調節可能なピストンまたはプロップは雄ねじを有し、この雄ねじは、ピストンまたはプロップがMW共振器の長手軸に平行な方向に長手軸を中心に回転させることにより調節可能なように、共振器に設けられた雌ねじと係合する。好適なさらなる発展例において、ピストンは、調節用のウォーム歯車によって回転され得る。
【0030】
好ましくは、円筒型共振器の内径は、8.4〜15mmであり、特に好ましくは、8.7〜11mmであり、さらに好ましくは、9.0〜9.4mmである。大きすぎる内径が選択されると、多くの望ましくないモードが共振器に生じ得る。
【0031】
好適なさらなる発展例において、円筒型共振器は、11.0〜12.0mm(TE011モードの場合)または22.0〜24.0mm(TE012モードの場合)の長さに調節可能である。このように調節可能なことで、異なるラジカルの整合共振周波数が設定され得る。さらなる高次モードが励起されれば、上述した長さ範囲はそれぞれ倍増され得る。
【0032】
好ましくは、マイクロ波の電場成分をMW共振器に結合するための絞りが設けられる。絞りの選択は、共振器の、いわゆる、換算係数に決定的な影響を有する。好ましくは、絞りはスリット絞りであり、0.01〜1mm、特に好ましくは、0.2〜0.4mmのスリット幅、および/または1〜10mm、好ましくは、5〜7mmの長さを有する。好適なさらなる発展例において、絞りのサイズは調節可能である。これには、操作中、共振器および導管に対して最適な調節が可能であるという利点がある。ここに提示された高マイクロ波周波数では、例えば、Xバンドのマイクロ波よりも実質的により一層影響を受けやすい。
【0033】
しかしながら、この代わりとして、マイクロ波の磁場成分を共振器に結合する手段を設けることも可能である。
【0034】
本発明のさらなる利点および特徴は、以下の記載から明らかになり、過分極された液体造影剤を投与する方法およびそれに関連する装置は、添付の図面を参照しながら好ましい実施形態に基づいて説明される。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1】被検動物と液体NMR造影剤の分極装置がMRT機器の開口に配置されたMRT機器の略図。
図2図1の装置の実質的な構成要素のブロック図。
図3図1および図2の装置において使用するための円筒型共振器の3つの断面図。
図4】マイクロ波照射を用いた場合と用いていない場合の図3の共振器に静止した造影剤で記録されたNMRスペクトルを示す図。
図5】MW照射を用いた場合と用いていない場合の流れている造影剤で記録されたNMRスペクトルを示す図。
図6】造影剤の流速に依存するNMR信号の増幅を示す図。
図7a】DNPを用いていない場合の造影剤が通って流れる毛細管のMRI画像。
図7b】DNPを用いた場合の造影剤が通って流れる毛細管のMRI画像。
図8】造影剤が通って流れるフラットセルのMRI画像。
図9】造影剤が通って流れるフラットセルのMRI画像。
【発明を実施するための形態】
【0036】
図1において、MRT機器の磁石10が略図的に示されている。磁石10は、1.49552Tの強度の静磁場が発生する開口12を有する。さらに、MRT機器において、慣例では、原子核スピンを共振励起するために高周波場を発生する手段、ならびにイメージング用の勾配磁場を発生する手段が設けられるが、これらは図面には示されていない。
【0037】
図1にさらに示すように、被検生体14、図示した例ではマウスが、磁石10の開口12に配置されている。しかしながら、本発明の装置および方法は、ヒトの医療の応用にも特に使用可能である。
【0038】
さらに、磁石10の開口12には、導波路18を介してマイクロ波発生源20に接続されたMW共振器16が配置される。図示した実施形態において、マイクロ波発生源20は、41GHz〜43GHzの範囲にある周波数を有するマイクロ波を発生するのに適している。MW共振器16は、DNPを使用して共振器を流れるNMR造影剤を分極することを意図したものである。図1には、造影剤の供給導管は示していない。
【0039】
図2は、液体NMR造影剤の過分極装置のさらなる構成要素のブロック図を示す。図2において、図1に示すように、磁石10の開口12、マイクロ波発生源20および導波路18は、略図的に示されている。さらに、共振導管を検出し、共振器の共振周波数を設定するように働くMW循環器22および受信ダイオード24が示されている。
【0040】
さらに、図2には、過分極可能な液体用のリザーバ26が示されており、簡潔にするために、ここでは、X線診断法の用語と同様に「NMR造影剤」と呼ぶ。過分極された造影剤の機能は、所与の条件下でボルツマン分布に従う分極度をはるかに上回る分極度によってNMR信号を増幅することである。厳密に言えば、液体は、過分極の後にのみ造影剤になるが、簡潔にするために、ここにおいては未分極液体および過分極液体をNMR造影剤と呼ぶことにすることを理解されたい。
【0041】
さらに、図2には、リザーバ26から第1の導管30を通って開口12にあるMW共振器16にNMR造影剤を継続的に輸送するのに適したポンプ28が示されている。第1の導管30に沿ったNMR造影剤の流路に、造影剤を温度調節するための装置32が設けられる。このような装置32を使用して、例えば、液体造影剤は、MW共振器16における回避できない加熱の後に、生体14の体温に近くなる温度まで冷却され得る。図2に示していないが、共振器16と生体14との間に、他の温度調整装置が設けられてもよい。
【0042】
MW共振器16において、以下に詳細に記載するように、造影剤が導管34を通って流れる。MW共振器16の下流には、生体14(図2に全体として図示せず)につながる第2の導管36がある。好ましい実施形態において、第2の導管36の断面は、MW共振器1内の導管34の断面より小さいため、同じ流量の場合、流速が増大する。すなわち、MW共振器34と生体14との間の流れ時間が、短縮され、分極損失を可能な限り低く保つ。
【0043】
最後に、図2には、制御機器38が設けられ、マイクロ波発生源20を制御するために、ポンプ28および温度調節装置32が、制御ライン40を介して制御機器38に接続される。
【0044】
次に、図1および図2の装置の機能について説明する。図1および図2の装置の1つの特殊性は、NMR造影剤が、MRTも実行される磁場と同じ磁場でDNPを使用して分極される点と、生体14への投与とともに継続的に、少なくとも時々、過分極が起こる点である。これにより、従来技術において一般的に採用されていたような過分極装置からMRT機器への過分極造影剤の輸送を省くことができる。これは、一方では、取り扱いや手順の無駄の無さという点で利点を有する。さらなる重要な利点は、造影剤が過分極の直後に投与されるため、過分極と投与との間で生じる分極損失が比較的少ないことである。これらの分極損失は、過分極と投与との間で造影剤を輸送する必要があり、かつ、多くの場合に溶融される必要がある従来技術においては重大な問題である。
【0045】
造影剤が導管34において共振器16を通る間、MW共振器16において過分極が起こる。造影剤は、磁場に整列され得る核スピンをもつ原子核を有する。最も単純な場合、原子核は、例えば、水の水素原子であり得るが、他の原子核、例えば、13Cも使用され得る。さらなる重要な造影剤は、例えば、代謝マーカーとして使用され得るピルビン酸塩および乳酸塩である。さらに、DNPを使用した過分極には、常磁性中心または不対電子の存在が必要である。これらは、溶液または固体内の常磁性遷移金属イオンによって、例えば、TEMPOLまたはその誘導体、フレミー塩(Fremy’s salt)などとして安定ラジカルによって形成され得る。常磁性中心のさらなる例は、三重項状態の分子またはイオン化によって発生した結晶状態のラジカルである。ラジカルは、造影剤自体に溶解され得、および/または、分子、特に、標的分子に結合され得る。あるいは、常磁性中心は、固定化され得て、例えば、ゲルに結合され得て、MW共振器16内の導管34内に配設される。また、投与前に溶液からラジカルまたはキャリアをそれぞれ分離することも可能である。
【0046】
応用および使用するNMR造影剤に依存して、MW共振器16内の造影剤の異なる滞留時間が有益であり得る。好ましい滞留時間は、数秒〜100ミリ秒である。流速は、イメージング対象で、最大の分極が達成されるように選択されることが好ましい。これは、流動系の幾何学的形状および分極形成の速度に依存し、一方で、使用するラジカルまたはそれらの濃度に依存する。達成される分極は、ある程度まで、出力依存である。流速の正確な選択は、過分極された核の緩和速度にも依存する。好ましい流速は、1mm/s〜1m/sであり、実施形態において使用される導管に関して、1.8ml/h〜1800ml/hの流れに対応する。好ましい流量は、6〜12ml/hである。
【0047】
流速および滞留時間が分極結果に対して最適化でき、望ましい投与量に対して追加的な制約がないことは有益である。これは、特に、より多くの投与量が要求される場合に適用される。このような場合、マイクロ波共振器16のQ因子が、導管の直径が大きいほど低下するため、導管34の断面積を単純に大きくして達成することはできない。その代わり、小さな断面積の導管を並行にして(図示せず)、いくつかの共振器を動作させることが有益であり得る。
【0048】
図3は、円筒型共振器であるMW共振器16の一例を示す。
【0049】
円筒型共振器は、共振器内壁の導電性を増大させるために内面側に銀層が被覆された丹銅シリンダ42を備える。導電層の厚さは、マイクロ波の表皮厚さの数倍である必要がある。この実施例において、マイクロ波の表皮厚さは数百nmであり、銀層の厚さは2μmである。丹銅シリンダ42の内部には、円筒型共振器空洞44が形成される。
【0050】
共振器空洞44は、シリンダの端面において真鍮ピストン48の前面46によって制限または終端され、真鍮ピストン48も同様に前面46において銀で被覆される。左側の真鍮ピストン48は、シリンダ空洞44の長手軸に沿って調節され得る。ピストン48には、丹銅シリンダ42にある雌ねじと係合される雄ねじが、その外面に形成される。ピストン48を回転することで、円筒型共振器空洞44の軸方向の長さが高精度に設定可能である。断面図B−Bに示すように、ピストン48は、ねじ50を介して調節するために回転され得て、ねじ50は、ピストン48の外周部でねじ山(図示せず)と係合し、ウォーム歯車のようにピストン48を駆動する。ねじ50は細長いシャフト52を有し、細長いシャフト52を介して、MRT磁石の開口12の外側からねじを使用できる。これにより、開口12内にあるMW共振器16は調整可能になっている。
【0051】
MW共振器16は、水素を含まないプラスチック製、図示した実施形態では、Vespel製の多部品固定具を有する。固定具の個々の部分54はねじ56で締め付けられる。
【0052】
図3にさらに示されているように、マイクロ波は、導波路18およびスリット絞り58を介して共振器空洞44に結合される。図示した実施形態において、スリット絞り58の長さは5.5mmであり、したがって、5.6mmである導波路直径よりわずかに短い。絞りの幅は、0.01〜1mmであり、特定の実施形態において、0.29mmである。本願発明者らは、効率的な結合の点で絞りの構造には、より長い波長、例えば、Xバンドに要求されるものより実質的に高い精度が要求されることに気が付いた。要求された精度を保証するために、侵食(erosion)方法で絞り58を製造することが好適であることが分かった。
【0053】
最後に、図3には、密封ピストン60において第1の導管30または第2の導管36のそれぞれに接続される導管34が示されている。導管の部分の間の移行部を密封するために、密封ピストン60が固定具54(図3の左側)またはピストン48(図3の右側)のそれぞれに締め付けられるときに圧縮されるテフロン(登録商標)シール62が設けられる。
【0054】
図4および図5は、図3の共振器16を使用して発生した約66kHzの周波数シフトを有する水のプロトン信号のNMRスペクトルを示す。実線は、共振器16内にマイクロ波が放射されていない比較例をそれぞれ示し、点線は、2WのMW放射を用いた場合をそれぞれ示す。図4は、造影剤が共振器16内の導管34において静止した場合のNMR信号を示し、図5は、造影剤が8ml/hの流量で共振器16を通って流れる場合を示す。ここでは、TEMPOLの12mmol/lを有する水を造影剤として使用した。
【0055】
図4において、静止造影剤の場合、通常のNMR信号64が、DNPを使用した過分極の結果として、−98倍に高められ得ることが分かる(信号66と比較)。これは、非常に驚くべき結果であり、このような高磁場強度およびそれぞれ高いマイクロ波周波数の液体造影剤では予測不可能なことであった。図5から、造影剤が流れている間でも、過分極の結果として、−14倍の増大因子が得られることが分かる。これは、本発明による方法および本発明による過分極装置が、実際、NMR感度の増大に非常に適したものであり、特に、MRTでは、従来技術と比較して著しい改良が見込まれることを示す。
【0056】
被検対象における造影剤の過分極の強度に関して、マイクロ波共振器を通る造影剤の流速が重要である。一方で、流量が少ないと、共振器における滞留時間が長くなり、これにより、過分極が強くなる。他方で、MW共振器と被検対象との間の流れ時間が長いほど、流量が少なくなる。MW共振器と被検対象との間の移行中、過分極された核スピンの部分は熱平衡状態に緩和され、これにより、過分極は全体として低減する。したがって、実際には、MW共振器と被検対象との間の短い移行時間(すなわち、高流速)とMW共振器における十分な滞留時間(すなわち、低流速)との間で妥協を見出さなければならない。この妥協は、さまざまな実験によって決定され得る。例えば、図6は、流量に依存したNMR信号の増幅を示す。同図から分かるように、この幾何学形状に対して、流量が6〜12ml/hのとき、増幅の絶対値は最大である。上述した妥協は、MW共振器と被検対象との間に造影剤が輸送されて通る導管の断面が、MW共振器内の導管の断面より小さく、MW共振器から被検対象への移行の間に、造影剤がMW共振器内より速く流れることによって、部分的に解決され得る。
【0057】
図7は、本発明の装置のテスト応用の結果を示す。同図において、MW共振器からの放出後の造影剤は、0.15mm直径のガラス毛細管を通って輸送された。このような毛細管は、微小血管と同様のサイズのものである。図7aは、DNPを用いていない場合、すなわち、MW共振器が動作状態にない場合のMRI画像を示す。図7aの場合、毛細管の内部を可視化するには、8回のスキャンが要求された。
【0058】
図7bは、MW共振器がオンに切り換えられ、造影剤がDNPを使用して過分極される場合を示す。図7bから分かるように、毛細管は、1回のMRIスキャンで可視化され得る。両方の画像において、信号がイメージングコイルの長さスケールで低下するため(図示したケースでは約20mm)、イメージングコイルの感度分布が認められる。
【0059】
図8は、熱分極した試料が配置されたフラットセル(flat cell)を通して、過分極された造影剤が輸送された例示的な測定を示す。図8aは12ml/hの流量の場合、図8bは20ml/hの流量の場合、図8cは30ml/hの流量の場合のNMR信号を示す。すべての場合において、分散および過分極の減衰が認められる。セルの厚さが均質であるため、図8a〜8cの画像には体積効果は示されず、すなわち、二次元画像の各ピクセルは、同じ体積の造影剤を表す。この限りにおいて、図示したNMR強度は、それぞれのボクセルの正味の磁化を表す。図8bおよび図8cの比較から、流速が大きいほど過分極化された噴射が大きくなるが、同時に、図8bの流量が低いほど信号強度が増大し、すなわち、分極移行が良好になることが明らかである。これはまた、用途に応じて、流量は基礎となる形状に合わせて調節されるべきであることを示す。
【0060】
図8をさらに詳細に考察すると、フラットセルに入った直後に、造影剤がわずかに拡散され低速化するとき、過分極された造影剤の噴射のNMR強度がわずかに下流の位置ほど高くないことが分かる。この理由は、過分極された造影剤が勾配場を通って移動する速度が比較的大きいことであり、これにより位相の散逸(dephasing)が起こり、信号が弱くなる。この影響は、イメージングシーケンスが使用されるときに強くなり、この種の位相の散逸、例えば、スピンエコーシーケンスに特に感度が高い。この影響は、高速移動した造影剤の信号を能動的に抑制するために利用され得るが、低速での造影剤の信号はより顕著である。
【0061】
図9にこの1つの例が示されており、造影剤がゆっくりと移動する領域の強度は、図8に類似している。対照的に、流速が大きい領域は、過分極にもかかわらず、ほぼ消滅信号になる。
【0062】
図示した実施形態において、過分極は、TE011モードによって達成される。このモードは、シリンダ空洞44の長手軸に沿った電場強度、すなわち、導管34の領域に節を有し、この領域において、磁場強度に腹を有する。
【0063】
この例において、円筒型共振器が使用されているが、本発明は、これに制約されるものではない。特に、閉鎖型、すなわち、図示した円筒型共振器のような空洞共振器の代わりとして、ファブリーペロー共振器などの開放型共振器も適切であり、このタイプの共振器は、この種の構造により、マイクロ波場によって造影剤に発生した熱を放散させるのに有利である。
【0064】
したがって、本発明の教示は、他のタイプの共振器にも適用され得る。重要なことは、共振器の幾何学形状、マイクロ波をMW共振器に結合する手段、導管の断面、MW発生源の出力および周波数は、共振器の長手軸の少なくとも主要部分に沿って、磁場強度に腹を有し、電場強度に節を有するMWモードがMW共振器に形成可能であるように互いに対して調節または調整されることであり、導管の少なくとも一部分の領域において、好ましくは、少なくとも、
【数3】
のMW磁場が発生され、好ましくは、1・10−5T、特に好ましくは、少なくとも3・10−5TのMW磁場が発生され得る。
【符号の説明】
【0065】
10 MRT磁石
12 MRT磁石10の開口
14 生体
16 MW共振器
18 マイクロ波導体
20 マイクロ波発生源
22 循環器
24 受信ダイオード
26 NMR造影剤用のリザーバ
28 ポンプ
30 第1の導管
32 温度調節装置
34 共振器16内の導管
36 第2の導管
38 制御器具
40 制御ライン
42 丹銅シリンダ
44 シリンダ空洞
46 前面
48 ピストン
50 ねじ
52 ねじ50の延長シャフト
54 プラスチック固定具
56 ねじ
58 スリット絞り
60 密封ピストン
62 テフロンシール
64 過分極なしのNMR信号
66 過分極ありのNMR信号
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7a
図7b
図8
図9