【実施例】
【0050】
単量体のヒトV
Hの同定及び配列分析
完全なヒトV
Hライブラリ及びラマ化したヒトV
Hライブラリの構築の間に、単量体のラマ化したV
Hを表示するファージが、凝集傾向のある完全なヒトV
Hを表示するファージよりも細菌層上でより大きいプラークを形成したことを確認した。このように、ヒトV
Hレパートリから珍しく自然発生的な単量体のV
Hを同定する手段として、プラークサイズを使用した(
図1)。この目的で、サイズが6×10
8であるヒトV
Hを示すファージライブラリを構築し、寒天プレート上でプラークとして増殖させた。タイタープレート上で、ライブラリは本質的に、幾つかの大きいプラークが散在する小さいプラークから成る。20個のクローンにおけるPCRによって、小さいプラークがV
H表示ファージに対応し、一方で大きいプラークは野性型のファージ(すなわち、V
H配列挿入を欠くファージ)を表すことが示された。V
H表示ファージは、大きいプラーク形態では見出されなかった。このことは、ヒトのレパートリ及び大きいサイズのライブラリにおける単量体のV
Hの不足により予想外のことではなかった。単量体のV
Hの同定を容易にするために、V
H3ファミリー由来のヒトV
Hのサブセットと結合するプロテインAに対してライブラリをパンニングすることにより、ライブラリを取り扱いが可能な大きさまで縮小し、プラークサイズ形態が大きくなるのを阻害する野性型のファージを取り除くことを決めた。
【0051】
数回のパンニングの後、ライブラリはファージを生成する大きいプラークに関して富化され、110個を超えるこのようなプラークのPCR及びシークエンシングにより、全てがV
Hオープンリーディングフレームを完成させたことを示した。分析のために選択された大きいプラークのサイズは
図1で示す。シークエンシングによって、V
H3ファミリーに属する15個の異なるV
Hが示され、DP−38、DP−47、V3−49、V3−53、YAC−5又は8−1Bの生殖細胞系Vセグメントを利用した(第1表、
図2)。DP−38及びDP−47の生殖細胞系配列は、これまではプロテインA結合に関係していた。さらに、それらのプロテインA結合活性と一致して、全てのV
Hは、57位でThr残基を有していた(
図2)。最も頻繁に利用された生殖細胞系Vセグメントは、V
Hの50%を越えて発生するDP−47であったが、最も高頻度なクローン(すなわち、HVHP428、相対頻度46%)はV3−49生殖細胞系Vセグメントを利用した。DP−47生殖細胞系配列を有するHVHP429は相対頻度が21%である2番目に豊富なV
Hであった(
図2)。V
H CDR3の長さは、HVHB82における4個のアミノ酸からHVHP430における16個のアミノ酸の範囲であり、HVHP430はCDR3において一対のCys残基を有していた。親の生殖細胞系Vセグメント(残基1〜94)及び
FR4(残基103〜113)配列に対するアミノ酸突然変異は全てのV
Hで見られ、HVHP44(L5V及びQ105R)及びHVHB82(E1Q及びL5Q)に対する2個の突然変異からHVHP426に対する16個の突然変異までの範囲であった(第1表)。突然変異はVセグメントに集中し、105位及び108位の2個の突然変異のみが15個のFR4全てで検出された。HVHP44及びHVHB82は、その両方がGlnの代わりに105位で正に荷電したアミノ酸を有するという点で他のV
Hとは異なっていた(第1表、
図2)。しかし、HVHP44において正に荷電したアミノ酸が突然変異によって得られたが、HVHB82における正に荷電したアミノ酸は生殖細胞系でコードされていた。HVHP423及びHVHP44Bを除いて、残りのV
Hは鍵となる可溶性位置で生殖細胞系残基を有していた:37V/44G/45L/47W又は37F/44G/45L/47W(HVHP428)、HVHP423及びHVHP44BはV37F突然変異を有していた。V
H可溶性に重要であることが示されるか、又は仮定される他の位置での突然変異には、7個のE6Q、3個のS35T/H、1個のR83G及び1個のK83R、1個のA84P及び1個のT84A及び1個のM108Lが包含されていた。11個のE1Q、8個のL5V/Q及び1個のV5Q突然変異を包含した高頻度の突然変異も1位及び5位で観察された。
ヒトV
Hの生物物理学的特徴
HVHP44B(HVHP423と本質的に同じであった)を除いて、全てのV
Hはc−Myc−His
5タグとの融合における培養液量1Lの大腸菌株TG1で発現し、固定化金属親和性クロマトグラフィ(IMAC)によって、ペリプラズム抽出物から均一に精製した。発現収率は、振盪フラスコ内で細菌培養液1L当たりで精製タンパク質1.8〜62.1mgの範囲であり、V
Hのほとんどは数mgの収率があった(第2表)。HVHP423及びHVHP430の例において、「明らかに」同じ発現条件下での別の試験によって、62.1及び23.7mgに対してそれぞれ、2.4及び6.4mgの収率が得られた。このことは、本明細書中に記載の多くのV
Hに対して、大した努力をせずに最適な発現条件を達成でき、それにより第2表で報告された値より有意に高い発現収率がもたらされることを意味している。予想通り、全てのV
Hは表面プラズモン共鳴(SPR)分析(K
Dは0.2〜3μMである)においてプロテインAと結合していて、範囲及び規模はプロテインA結合活性を有するラマV
HH変異型についてこれまでに報告されていた範囲及び規模に匹敵していた。V
HはFab基準面と結合しなかった。
【0052】
ゲルろ過クロマトグラフィ及びNMRによるオリゴマー化状態に関して、ヒトV
Hの凝集傾向を評価した(第2表)。全てのV
HをSuperdex75ゲルろ過クロマトグラフィにかけた。ラマV
HH(すなわち、H11C7)と同様に、全てのV
Hにおいて、単量体で期待される溶離量で対称な単一のピークが与えられ、凝集体は実質的に全く存在しなかった(
図3AのHVHP428における例を参照のこと)。これに対して、一般的なヒトV
H(すなわち、BT32/A6)はかなりの量の凝集体を形成した。3個のV
Hに関しては、V
H二量体で期待される移動度を有する微小ピークも観察された。微小ピークのSPR分析によって、二量体のV
Hと一致して、単量体V
Hに対する値よりも有意に緩やかな解離速度値(off-rate value)が与えられた。二量体のピークは、ラマV
HH(H11C7)の場合にも観察された。高濃度のV
Hのフォールディング状態及びオリゴマー化状態をさらにNMR分析で研究した。表IIに示すように、全てのV
Hタンパク質の研究によって、比較的可溶性であると考えられ、十分にフォールディングされた三次元構造が推測された。V
Hフラグメントの一次元NMRスペクトル(
図3B)によって、V
Hドメインの構造フォールディング特徴が示された。HVHP414フラグメント及びHVHP414の2個のイソ型(c−Myc配列を有する及び有さないVH14及びVH14−cMyc−)に対するPFG−NMR拡散実験の使用によっても、タンパク質の凝集状態を評価した。VH14は、c−Myc N132E突然変異を有し、且つさらにN末端にメチオニン残基を有するHVHP414の改変バージョンである。簡単に述べると、PFG−NMRデータ(示されず)によって、全てのタンパク質サンプルが、NMR実験に使用
した比較的高いタンパク質濃度であっても予想される単量体の分子量を有することが示された。
【0053】
一貫して37℃でのトリプシンに対する耐性に関して、V
Hの安定性をさらに研究し、その後37℃で長期的にインキュベートを行った。トリプシンは、C末端のArg又はLys残基でポリペプチドのアミド骨格を切断する。ヒトV
Hにおいて9〜13個のArg及びLys残基が存在する(
図2)。トリプシンによる消化の影響を受けやすいC末端のc−MycタグにおいてさらなるLys残基も存在する。
図4aは、トリプシン消化の間のHVHP414のSDS−PAGE分析である。1時間以内に、元のバンドは、c−Myc−His
5タグを有しないV
Hで期待される移動度があった単一の生成物に完全に変換された。トリプシンによる1時間のインキュベート後に12個の他のV
Hにおいて、同じ結果が得られた。トリプシン処理したV
Hのランダムに選択されたサンプル(すなわち、HVHP414、HVHP419、HVHP420、HVHP423、HVHP429、HVHP430及びHVHM81)における質量分析によって、それぞれの場合に、消化した生成物の分子質量がC末端残基としてのc−Myc Lysを有するV
Hに対応していたことが確認された。HVHM41において、消化時の残りよりも有意に短いフラグメントが与えられ、この場合質量分析実験によって、CDR3におけるArg99に対する切断部位がマッピングされた(データ図示せず)。
【0054】
0.32mg/ml(HVHP428)〜3.2mg/ml(HVHP420)の濃度に及ぶ11個のV
Hを37℃で17日間インキュベートした。その後、オリゴマー化状態及びプロテインA結合に関して、これらの安定性を決定した。ゲルろ過クロマトグラフィによって示されるように、37℃でのV
Hの処理は凝集体形成を全く誘導しなかった:全てのV
Hは、未処理のV
Hのものと実質的に同一であったクロマトグラムプロファイルを与え、本質的に単量体として存在していた(HVHP420についての例、
図4cを参照のこと)。V
Hが37℃での処理後の自然のフォールディングを維持したことを確実するために、2個のV
H(すなわち、HVHP414(1.2mg/ml)及びHVHP420(3.2mg/ml))をランダムに選択し、SPRによってプロテインAと結合するこれらのK
Dを求め(HVHP420に関して示されるデータ、
図4cの挿入図)、未処理のV
Hに対して得られたK
Dと比較した(第2表)。熱処理したV
Hに関して算出したK
Dは1.4μMであり、HVHP414及びHVHP420に関して算出したK
Dはそれぞれ1.0μMであった。これらの値は未処理のV
Hの対応する値と本質的に同一であり(第2表)、このことはV
Hの37℃での処理がこれらの天然フォールディング(native fold)に影響を与えなかったことを示している。V
Hが37℃のインキュベート期間で
余り小さくなく、且つ非天然であり、ゲルろ過実験及びSPR実験の間室温まで戻した時にこれらの天然のフォールディングを再開する可能性は、十分にフォールディングした天然のタンパク質に一般的に関連する特性であるV
Hが37℃でトリプシンに対して耐性があった(上記を参照のこと)という事実を鑑みて疑わしい。
【0055】
天然のV
H(K
Dn)及び熱処理して、リフォールディングしたV
H(K
Dref)のプロテインAとの結合のK
Dを比較することによって、ヒトV
Hのリフォールディング効率(RE)を研究した(Tanha, J. et al., 2002)。V
H分画が熱処理によって不活性化される場合、このパラメータはフォールディングした、すなわち活性のある抗体フラグメントの濃度に基づいているので、測定K
Dは高くなる。このように、K
DnとK
Drefとの比によって、V
HREの測定値が与えられる。
図5は、幾つかの選択されたV
H濃度での天然状態(太線)及びリフォールディング状態(細線)における固定化されたプロテインAとのHVHP423の結合に対するセンサーグラムを比較している。示され得るように、リフォールディングしたV
HのプロテインAとの結合は全ての例でより小さく、これにより非フォールディングは完全に可逆ではないことが示される。14個のV
Hそれぞれにおいて、天然状態及びリフォールディング状態におけるプロテインAの結合を幾つかの
濃度で測定し、K
D及びその後のREを求めた(第2表、K
Dref値は示されていない)。2個の抗イディオタイプのラマV
HH(H11F9及びH11B2)のK
D及びREも求め、これらは参照として使用された。4個のV
Hは、H11F9及びH11B2のそれぞれの、95%及び100%のREと同程度の92%〜95%の範囲のREであった。別の5個のV
Hは、84%〜88%の範囲のREであり、3個は70%を超えていた。2個のV
Hだけが有意に低いREであった:HVHP413(52%)及びHVHP421(14%)。これまでに調べられた幾つかの公開されたV
HHは約50%のREであった(van der Linden, R. H. et al., 1999)。
ヒトV
Hファージディスプレイライブラリ構築及びパンニング
ランダムヘキサヌクレオチドプライマー及びFirst Strand cDNA(商標)キット(GE Healthcare, Baie d'Urfe, QC, Canada)を使用して、ヒト脾臓mRNAからcDNAを合成した。鋳型としてcDNAを使用して、V
Hフレームワーク領域1(FR1)に特異的なプライマー及びイムノグロブリンM特異的なプライマー(de Haard, H. J. et al., 1999)を使用した9個の別々の反応におけるポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって、C
H配列をフランキングしたV
H遺伝子を増幅した。生成物をゲル精製し、2回目のPCRにおける鋳型として使用することにより、クローニング目的のためにフランキングしたApal I及びNot I制限部位も導入したFR1特異的なプライマー及びFR4特異的なプライマー(de Haard, H. J. et al., 1999)を使用して、V
H遺伝子を構築した。得られたV
HレパートリDNAをfd−tetGIIIDファージベクターにクローニングし、V
Hファージディスプレイライブラリを構築した(Tanha, J. et al., 2001)。プロテインAに対するパンニング(Amersham Biosciences Inc.)を記載のように行
った(Tanha, J. et al., 2001)。DNAPLOTソフトウェアバージョン2.0.1及びV BASEバージョン1.0(http://vbase.dnaplot.de/cgi-bin/vbase/vsearch.pl)を使用して、選択されたV
Hの生殖細胞系配列帰属を行った。記載のようにH11 scFvに対してパンニングすることによって、ラマV
HHファージディスプレイライブラリからラマV
HH H11C7、H11F9及びH11B2を単離した(Tanha, J. et al., 2002)。
V
Hの発現及び精製
標準的なクローニング技法により、V
HをpSJF2発現ベクターにクローニングした(Sambrook, J. Fritsch E. F. and Maniatis T, 1989)。sdAbのペリプラズム発現及
びその後の固定化金属親和性クロマトグラフィ(IMAC)による精製を記載のように行った(Muruganandam, A. et al., 2002)。それぞれのタンパク質において算出したモル吸
収係数を使用したA
280測定によって、タンパク質濃度を測定した(Pace, C. N. et al., 1995)。記載のように、Superdex75カラム(GE Healthcare)において、精製
したV
Hのゲルろ過クロマトグラフィを行った(Deng, S. J. et al., 1995)。
結合及びリフォールディング効率の実験
V
H/V
HHの平衡解離定数(K
D)及びリフォールディング効率(RE)は、BIACORE3000バイオセンサーシステム(Biacore Inc., Piscataway, NJ)で回収した表面プラズモン共鳴(SPR)データから得られた。プロテインAとのV
Hの結合を測定するために、プロテインAの2000個の共鳴単位(RU)又は基準となる抗原結合フラグメント(Fab)を研究等級のCM5センサーチップ(Biacore Inc.)上で固定化した。製造業者によって提供されるアミンカップリングキットを使用して、10mMの酢酸ナトリウム緩衝液(pH4.5)中の25μg/ml(プロテインA)又は50μg/ml(Fab)の濃度で固定化を行った。抗イディオタイプのラマV
HHのH11scFvとの結合を測定するために、上記のように、50μg/mlのH11 scFv 4100RU又は10μg/mlのSe155−4 IgG基準 3000RUを固定化した。全ての例において、流量40μl/分で、150mMのNaCl、3mMのEDTA及び0.005%のP20を含む10mMのHEPES(pH7.4)中、25℃で分析を行い、表面を洗浄緩衝液で洗浄することにより再生させた。リフォールディングタンパク質の結合活性を測定するために、10μg/mlの濃度、85℃で20分間インキュベートするこ
とによって、V
H又はV
HHを変性させた。それから、リフォールディングするためにタンパク質サンプルを30分間室温まで冷却し、その後室温で5分間14000rpmでマイクロフュージで遠心分離して、任意のタンパク質沈殿物を除去した。上清を回収し、上記のようにSPRによって結合活性について分析した。BIAevaluation4.1ソフトウェア(Biacore Inc.)を同時に使用して、フォールディングしたタンパク質及びリフォールディングタンパク質両方に関するデータを1:1の相互作用モデルに適合させ、その後K
Dを求めた。REは、
【0056】
【化1】
【0057】
(式中、K
Dnは天然タンパク質のK
Dであり、K
Drefはリフォールディングタンパク質のK
Dである)から求めた。
トリプシン消化実験
1mMのHCl中の新たに調製した0.1μg/μlのシークエンシング等級のトリプシン(Hoffmann-La Roche Ltd., Mississauga, ON, Canada)3μlを100mMのTri
s−HCl緩衝液(pH7.8)中のV
H60μgに加えた。37℃で1時間、全量60μlで消化反応を行い、0.1μg/μlのトリプシン阻害剤(Sigma, Oakville, ON, Canada)5μlを加えることにより停止させた。消化の完了後、5μlを取り除き、SDS
−PAGEで分析して、ZipTip
C4(Millipore, Nepean, ON, Canada)を使用して
残りを脱塩し、50:50のメタノール:水の1%酢酸で溶離して、MALDI質量分析によってV
Hの質量を求めた。
37℃でのタンパク質安定性研究
37℃で17日間PBS緩衝液において0.32〜3.2mg/mlの濃度での単一ドメイン抗体(sdAb)をインキュベートした。インキュベートの後、視覚的に凝集体の形成が全く見られなくても、5分間最大速度でミクロフュージにおいてタンパク質サンプルを沈降させた。それから、サンプルをSuperdex75サイズ排除カラム(GE Healthcare)に適用させ、プロテインAに対するSPR分析における単量体のピークを回収し
た。プロテインA500RU又は基準Fabを固定化したこと、及び50μg/mlの濃度で固定化を行ったことを除いて、上記のようにSPR分析を行った。
NMR実験
NMR分析におけるV
Hサンプルを10mMのリン酸ナトリウム、150mMのNaCl、0.5mMのEDTA及び0.02%のNaN
3(pH7.0)中に溶解した。タンパク質濃度は40μM〜1.0mMであった。全てのNMR実験は、Bruker Avance−800NMRスペクトロメータ又はBruker Avance−500NMRスペクトロメータにおいて298Kで行った。一次元(1D)
1H NMRスペクトルを16384個のデータ点で記録し、スペクトル幅はそれぞれ、500MHzで8992.81Hz及び800MHzで17605.63Hzであった。2048×400のデータ点の二次元
1H−
1H NOESYスペクトルがスペクトル幅11990.04Hz及び混合時間120msのBruker Avance−800NMRスペクトロメータにおいて得られた。全てのNMR実験において、3−9−19パルス列によって行われたWATERGATE法(Piotto, M. et al., 1992; Sklenar, V. et al., 1993)を使用して
水抑制を達成した。NMRデータを処理し、Bruker XWINNMRソフトウェアパッケージを使用して分析した。3軸勾配がある三重共鳴プローブを備えるBruker
Avance−500 NMRスペクトルメータで水抑制LED配列(Altieri, A. S. et al., 1995)によって、全てのPFG−NMR拡散測定を行った。一次元プロトンスペ
クトルを処理し、Bruker Xwinnmrソフトウェアパッケージを使用して分析
した。全ての所与のPFG強度で均一に全てのNMRシグナルが弱まった場合に、メチル及びメチレンプロトン領域(2.3ppm〜−0.3ppm)におけるNMRスペクトルを統合することにより、NMRシグナル強度を得た。
ヒトV
Lファージディスプレイライブラリ構築及びパンニング
ヒトV
Hに関して上記のように、cDNAをヒト脾臓mRNAから合成した。cDNAをPCRの鋳型として使用し、6個のV
κバックプライマー、11個のV
λバックプライマー(de Haard, H. J. et al., 1999)、4個のV
κフォワードプライマー及び2個のV
λフォワードプライマー(Sblattero, D. et al., 1998)を使用して、反応体積50μlでV
L遺伝子を増幅させた。バックプライマー及びフォワードプライマーを修飾して、その後のクローニング目的のためにそれぞれ、Apa LI制限部位及びNot I制限部位をフランキングさせた。これらの縮重の程度に反映された比で共にフォワードプライマーがプールされた。プールされたV
λフォワードプライマー及び11個の個々のV
λバックプライマーを使用して、11個の別々の反応でV
λ遺伝子をPCRした。同様に、プールされたV
κフォワードプライマー及び6個の個々のV
λバックプライマーを使用して、6個の別々の反応でV
λ遺伝子を増幅させた。PCR生成物をプールし、ゲル精製して、Apa LI制限エンドヌクレアーゼ及びNot I制限エンドヌクレアーゼで消化した。ヒトV
Hに関して上記のように、ライブラリを構築した。個々のライブラリコロニーにおいてプラークPCRを行い、増幅したV
L遺伝子を記載のようにシークエンシングした(Tanha, J. et al., 2003)。ヒトV
Hライブラリに関して上記のように、プロテインL(Biolynx Inc., Brockville, ON, Canada)に対するパンニング及び選択されたV
Lの生殖細胞系の配列帰属を行った。
V
Lの発現及び精製
「V
Hの発現及び精製」においてV
Hに関して上記のように、V
Lの発現、精製、濃度決定及びゲルろ過クロマトグラフィを行った。
V
L及びV
H五量体の発現及び精製
標準的なPCRにおいて特異的なプライマーを使用して、HVHP328 V
H及びHVLP335 V
L遺伝子を増幅させた。標準的なクローニング技法を使用して、発現ベクターにおいてVT1B五量体化ドメイン遺伝子と融合して、HVHP328及びHVLP335遺伝子をクローニングして、HVHP328PVT2及びHVLP335PTV2五量体を得た(Zhang, J. et al. 2004)。五量体を記載のように発現及び精製した(Zhang, J. et al., 2004)。上記のようにタンパク質濃度を決定した。
V
Lの表面プラズモン共鳴
BIACORE3000バイオセンサーシステム(Biacore, Inc., Piscataway, NJ)を
使用したSPRによって、V
LのプロテインLとの相互作用に対する結合反応速度を測定した。プロテインL680RU又は基準Fab 870RUを研究等級のCM5センサーチップ(Biacore)上で固定化させた。製造業者によって供給されたアミンカップリングキ
ットを使用して、10mMの酢酸緩衝液(pH4.5)において50μg/mlのタンパク質濃度で固定化を行った。50μl/分又は100μl/分の流量で150mMのNaCl、3mMのEDTA及び0.005%のP20を含む10mMのHEPES緩衝液(pH7.4)中、25℃で全ての測定を行った。洗浄緩衝液で洗浄することにより表面を再生した。BlAevaluation4.1ソフトウェア(Biacore, Inc.)を使用して
、データを評価した。
五量体V
L及びV
Hの表面プラズモン共鳴
SPRによって、HVHP328PVT2のプロテインAとの相互作用及びHVLP335PTV2のプロテインLとの相互作用に対する結合反応速度を決定した。520RUのプロテインA又は基準Fabを上記のように固定化した。V
L五量体に関して、上記のように調製した同様の表面を使用した。上記のように測定を行ったが、流量は20μl/分であった。3秒間、50mMのHClで洗浄することによって、表面を再生した。単量体に関して記載のようにデータを評価した。
細胞の微小凝集
BHIプレート由来の黄色ブドウ球菌の単一コロニーを使用して、BHI培地15mLを接種した。細菌を37℃、200rpmで一晩成長させた。翌朝、培養液を回転バケット、Sorvall RT6000B冷凍遠心器において4000rpmで10分間遠心分離し(spun down)、上清を除去して、細胞ペレットをPBS緩衝液で再懸濁させた。
細胞を再び遠心分離し、上清を除去して、細胞ペレットを再びPBS緩衝液で再懸濁させた。細胞をA
600が1.0になるまで希釈し、段階希釈した細胞を37℃のBHIプレート上に広げて、一晩成長させた。翌朝、細胞力価を測定した。A
600 1.0が1.5×10
9細胞/mlに対応する。同一の工程を行い、成長培地が2xYTであったことを除いて、その後の微小凝集アッセイのために大腸菌株TG1細胞を調製した。生菌数は同様であった、A
600 1.0=2.1×10
9細胞/ml。
【0058】
微小凝集アッセイを行うために、マイクロタイタープレートにおけるウェル1〜ウェル11でPBSにおいてHVHP328PVT2の2倍希釈を行った。ウェル12(ブランク)はPBSのみを含んでいた。それぞれのウェルの全量は50μlであった。その後、PBS50μlにおける1×10
8個の黄色ブドウ球菌細胞を全てのウェルに加えて、プレートを4℃で一晩インキュベートした。結果を永続的に記録するために、翌朝にプレートの写真を撮った。五量体の対照実験のために、HVHP328PVT2をV
L五量体、HVLP335PTV2に置き換えた。細胞の対照実験において、同じ2個の組の実験を大腸菌TG1細胞で繰り返した。
単量体のヒトV
Lの同定及び配列分析
ヒトV
Hファージディスプレイライブラリから可溶性のV
Hを単離するために用いられた本質的に同じ選択方法を、可溶性で単量体のV
Lを単離するためにヒトV
Lライブラリに適用した。大きさが3×10
6であるヒトV
Lライブラリを構築した。ライブラリタイタープレートから24個のプラークを選別し、これらのV
L遺伝子をPCR及びシークエンシングした。配列は、生殖細胞系起源に関して異なるが、V
Lの75%はV
λ起源であった(データ図示せず)。プロテインLに対する3回のパンニングによって、大きいプラークにおける富化がもたらされた。39個の大きいプラークをシークエンシングして、32個の特殊な配列を同定した(
図6)。HVLP325、HVLP335及びHVLP351はそれぞれ、3、4及び2の頻度で起こった。λクラス(サブグループVλ1、生殖細胞系1b)であるHVLP389を除いて、残りの31個のV
LはVκクラスに属していた。31個のκV
Lの中で、24個はVκIIIサブグループに含まれ、7個はVκ1サブグループに含まれていた。24個のVκIII配列の16個は、残りの利用されるA27、L2及びL6生殖細胞系配列を有するL6生殖細胞系配列を利用する。Vκ1サブグループのV
LはO2/O12又はA30生殖細胞系配列に由来する。顕著な突然変異は96位で起こった。この位置での生殖細胞系アミノ酸は芳香族及び疎水性アミノ酸、κV
Lに対するTrp、Phe、Tyr、Leu又はIle、及びλV
Lに対するTyr、Val又はAlaである。しかし、κV
Lの選択プールにおける31個の中の5個だけが96位でこれらの生殖細胞系アミノ酸を有している:HVLP325、HVLP349、HVLP388、HVLP3109及びHVLP393。96位での21個のアミノ酸を帯電させ、この中の20個が正に帯電する:Arg、Lys又はHis。2個のアミノ酸はPro、1個はGln、1個はSer、及び1個はThrである。単量体化のためにゲルろ過クロマトグラフィで分析された7個のκV
Lの中で96位がArg又はLysである6個が単量体であった一方で、96位が生殖細胞系アミノ酸LeuであるHVLP325が凝集体を形成した(以下を参照のこと)。同様に、λクラスであり、且つSerに対する生殖細胞系突然変異を有していたHVLP389も単量体であった(以下を参照のこと)。これらのデータは単量体化等のV
Lの生物物理学的特性が改良された96位での生殖細胞系アミノ酸からの偏差に相関がある(32個の中の27個)。
【0059】
κクラスの18個のV
Lは、λV
Lでのみ見出されるアミノ酸Thr、Val及びLeuに置き換えられたこれらの最後の3残基(105〜107)を有していた。これらの置
換はκV
Lの生物物理学的特性を改良する役割を果たしている可能性があり、これにより105〜107位の元のκ残基を有する親クローンを超えた上記のV
Lの選択がもたらされる。
ヒトV
Lの特徴付け
異なるV生殖細胞系起源を有する選択V
Lの中の8個は、培養液1L中の大腸菌で発現し、精製された:HVLP324、HVLP325、HVLP335、HVLP342、HVLP351、HVLP364、HVLP389及びHVLP3103(第6表)。全てがHVLP324に対する6.2mgからHVLP335及びHVLP364に対する約75mgまでに及ぶ良好な収率で発現した。
【0060】
ゲルろ過クロマトグラフィによるこれらのオリゴマー化状態に関するヒトV
Lの凝集傾向を評価した。V
Lを0.6mg/mlの濃度でSuperdex75ゲルろ過クロマトグラフィにかけた。HVLP325を除いた全てが凝集体を本質的に含んでおらず、平均見掛けの分子質量が12.7kDa(範囲、6.2〜19.2kDa)である対称の単一ピークを得た(
図7A及び第3表)。これは単量体のV
Lに関する期待分子質量(13.4〜13.8kDa)と一致している。単一ドメインの抗体に関する見掛けの分子質量の変動はこれまでに報告されている(Jespers, L. et al., 2004a; Stevens, F. J. et al.,
1980)。HVLP325に関して、凝集体が全タンパク質(凝集体+単量体)の11%を構成していた。HVLP351、HVLP342、HVLP335及びHVLP3103は、これらの利用可能な最も高い濃度、すなわちそれぞれ、0.89mg/ml、1.0mg/ml、4.9mg/ml及び5.9mg/mlで試験した場合、依然として単量体であった(
図7B)。
【0061】
BIACORE分析前に、V
LをSuperdex−75クロマトグラフィにかけて、物質の凝集に何ら確証がなかったとしても精製した単量体のピークを回収した。SPR分析において、全ての選択されたV
Lは、プロテインLと結合した(
図8)。V
LがプロテインLに対するパンニングによって単離されたので、このことは予想外のことではなかった。全てに関して、プロテインLとの結合のK
Dは、0.6〜3μMであった(第3表)。HVLP324及びHVLP342はK
Dがそれぞれさらに10nM及び40nM小さかった。VκIサブグループのV
LのプロテインLとの低い親和性及び高い親和性の結合が、これまでに報告されている(参考文献)。HVLP324及びHVLP342の両方がVκIサブグループに属している(第3表)。予想通りに、速度論データ及び平衡データは、実際に単量体である単量体ピークと一致していた。
五量体の結合分析
表面プラズモン共鳴によって、HVHP328PVT2五量体のプロテインAとの結合及びHVLP335PTV2五量体のプロテインLとの結合を測定した(
図9)。会合速度をk
obs対濃度のプロットから独立して算出した。五量体の集合の間の多価結合における不均一性によって、1を超えた解離速度(k
d)を算出することができる。したがって、1を超えた平衡解離定数(K
D)を得ることができる。HVHP328PTV2及びHVLP335PTV2はそれぞれ、2nM及び200pMの最小K
Dを有していた(第4表)。k
dがより遅い場合、HVHP328PTV2及びHVLP335PTV2はそれぞれ、900pM及び90pMまで低いK
Dを有していた。
V
L及びV
Hによる病原菌検出
V
HのプロテインA結合活性及びV
LのプロテインL結合活性を使用して、これらの表面上にプロテインA及び/又はプロテインLを有する細菌を検出することができる。本明細書中のV
H及びV
L等のV
H及びV
Lが可溶性であり、且つ単量体である(凝集傾向が失われている)場合、このことは可能である。ラクダ科の重鎖抗体又はナースシャーク及びテンジクザメのIgNAR等の軽鎖が欠失した抗体由来の可変ドメインは、自然発生的に可溶性且つ単量体である。このことから、プロテインA結合活性及びプロテインL結合活性を有するものを使用して、これらの表面上にプロテインA及び/又はプロテインLを
有する細菌を検出することもできる。プロテインAは、病原菌である黄色ブドウ球菌の表面上に存在する。このように、本明細書中に記載のもの等のプロテインA結合活性のあるV
Hを使用して、黄色ブドウ球菌を検出することができる。本発明者らは微小凝集アッセイを行い、HVHP328PVT2 V
H五量体の黄色ブドウ球菌と結合する能力を検出した。マイクロタイターウェル(ウェル1〜ウェル11)において2倍希釈したHVHP328PVT2で一定数の細菌細胞をインキュベートした(
図10)。ウェル12は五量体の代わりに緩衝液を含んでいた。V
Hが細菌細胞と結合する場合、したがってその多量体の性質により、五量体は細胞を架橋し、その結果、細胞凝集をもたらすことが可能であるはずである。凝集細胞がマイクロタイターウェルにおける拡散細胞として現れる(
図10)。何の結合もなければ、凝集は起こるはずがなく、したがって凝集体は存在せず、細胞はウェルの底部に点として現れる。
図10で示されるように、細胞の凝集体が存在するので、五量体は黄色ブドウ球菌と結合する。凝集体は最大ウェル7まで観察される。ウェル7より先は、五量体の濃度が結合するには低すぎるので、凝集体は存在しない。対照のV
L五量体は、全く凝集を示さず、これによりV
H五量体の黄色ブドウ球菌に対する特異性が実証される(
図10)。予想通りV
H五量体が大腸菌(TG1株)又はサルモネラ細胞を凝集させないので、結合は細胞特異的でもある(データは示さず)。同様に、これらの細胞表面上にプロテインLを有する細菌、特にペプトストレプトコッカス属マグヌス等の病原菌の検出にプロテインL結合活性を有するV
L単量体及びV
L五量体を使用することができる。
【0062】
上記で記載の実施例は、本発明の実際の範囲を限定する役割を果たすものでは決してなく、むしろ例示目的のために表されていることが理解される。
参考文献リスト
【0063】
【表1】
【0064】
【表2】
【0065】
【表3】
【0066】
【表4】
【0067】
【表5】
【0068】
【表6】