特許第5901751号(P5901751)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許5901751-排気ガス処理用触媒構造体 図000004
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5901751
(24)【登録日】2016年3月18日
(45)【発行日】2016年4月13日
(54)【発明の名称】排気ガス処理用触媒構造体
(51)【国際特許分類】
   B01J 35/10 20060101AFI20160331BHJP
   B01J 23/63 20060101ALI20160331BHJP
   B01J 32/00 20060101ALI20160331BHJP
   B01D 53/94 20060101ALI20160331BHJP
   F01N 3/28 20060101ALI20160331BHJP
   F01N 3/10 20060101ALI20160331BHJP
【FI】
   B01J35/10 301F
   B01J23/63 AZAB
   B01J32/00
   B01D53/94 222
   B01D53/94 245
   B01D53/94 280
   F01N3/28 301P
   F01N3/10 Z
【請求項の数】6
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2014-512978(P2014-512978)
(86)(22)【出願日】2014年3月13日
(86)【国際出願番号】JP2014056637
(87)【国際公開番号】WO2014156676
(87)【国際公開日】20141002
【審査請求日】2015年5月14日
(31)【優先権主張番号】特願2013-72486(P2013-72486)
(32)【優先日】2013年3月29日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006183
【氏名又は名称】三井金属鉱業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000707
【氏名又は名称】特許業務法人竹内・市澤国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】今田 安紀
(72)【発明者】
【氏名】中原 祐之輔
【審査官】 山口 俊樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭61−164647(JP,A)
【文献】 実開昭59−171744(JP,U)
【文献】 特開2007−144412(JP,A)
【文献】 特開2011−016124(JP,A)
【文献】 特開2011−161421(JP,A)
【文献】 特開平10−099684(JP,A)
【文献】 特開2008−178766(JP,A)
【文献】 特表2013−525255(JP,A)
【文献】 特開2013−158729(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J21/00−38/74
B01D53/73,86−90,94−96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と上側触媒層と下側触媒層とを備えた排気ガス処理用触媒構造体であって、
上側触媒層及び下側触媒層はいずれも無機多孔質体を含有し、
上側触媒層を構成する無機多孔質体の、水銀圧入ポロシメータにより測定される対数微分空隙容積分布における空隙容積径が51nm〜99nmの範囲に第1ピークを有することを特徴とし、
下側触媒層を構成する無機多孔質体の、水銀圧入ポロシメータにより測定される対数微分空隙容積分布における空隙容積径が10nm〜51nmの範囲に第1ピークを有することを特徴とし
前記上側触媒層と前記下側触媒層の層厚さの割合が、60:180〜100:120であることを特徴とする排気ガス処理用触媒構造体。
【請求項2】
上側触媒層は、結晶構造がアパタイト型に属する酸化物からなる無機多孔質体を含有する多孔質な層であることを特徴とする請求項に記載の排気ガス処理用触媒構造体。
【請求項3】
下側触媒層は、酸素吸蔵放出機能(OSC機能)を有する無機多孔質体を含有する多孔質な層であることを特徴とする請求項1又は2に記載の排気ガス処理用触媒構造体。
【請求項4】
上側触媒層は、結晶構造がアパタイト型に属する酸化物からなる無機多孔質体を含有する多孔質な層であり、且つ、下側触媒層は、酸素吸蔵放出機能(OSC機能)を有する無機多孔質体を含有する多孔質な層であることを特徴とする請求項1に記載の排気ガス処理用触媒構造体。
【請求項5】
上側触媒層は、酸素吸蔵放出機能(OSC機能)を有する無機多孔質体を含有する多孔質な層であり、且つ、下側触媒層は、結晶構造がアパタイト型に属する酸化物からなる無機多孔質体を含有する多孔質な層であることを特徴とする請求項1に記載の排気ガス処理用触媒構造体。
【請求項6】
上側触媒層は、無機多孔質体のうちの50質量%以上を、結晶構造がアパタイト型に属する酸化物からなる無機多孔質体が占める多孔質な層であり、
下側触媒層は、無機多孔質体のうちの50質量%以上を、酸素吸蔵放出機能すなわちOSC機能を有する無機多孔質体が占める多孔質な層であることを特徴とする請求項1に記載の排気ガス処理用触媒構造体
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車などの内燃機関から排出される排気ガスを浄化するために用いることができる触媒構造体、すなわち排気ガス処理用触媒構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
ガソリンを燃料とする自動車等の内燃機関の排気ガス中には、炭化水素(HC)、一酸化炭素(CO)、窒素酸化物(NOx)等の有害成分が含まれているため、それぞれの有害成分を、酸化還元反応を用いて同時に浄化して排気する必要がある。例えば炭化水素(HC)は酸化して水と二酸化炭素に転化させ、一酸化炭素(CO)は酸化して二酸化炭素に転化させ、窒素酸化物(NOx)は還元して窒素に転化させて浄化する必要がある。
【0003】
このような内燃機関からの排気ガスを処理するための触媒(以下「排気ガス浄化触媒」と称する)として、CO、HC及びNOxを酸化還元することができる3元触媒(Three Way Catalysts:TWC)が用いられている。
【0004】
この種の3元触媒としては、例えば高い表面積を有するアルミナ多孔質体などの耐火性酸化物多孔質体に貴金属を担持し、これを基材、例えば耐火性セラミック又は金属製ハニカム構造で出来ているモノリス型基材に担持したり、或いは、耐火性粒子に担持したりしたものが知られている。
【0005】
触媒活性成分としての貴金属と基材との結合力はそれ程強くないため、基材に貴金属を直接担持させようとしても十分な担持量を確保することは難しい。そこで、十分な量の触媒活性成分を基材の表面に担持させるために、高い比表面積を有する担体に貴金属を担持させることが行われている。
【0006】
この種の担体としては、従来から、シリカやアルミナ、チタニア化合物などの耐火性無機酸化物からなる多孔質体が知られている。また近年、耐熱性に優れており、しかも、担持している金属触媒粒子のシンタリングを防止できる担体として、アパタイト型複合酸化物が注目されている。
【0007】
アパタイト型複合酸化物からなる担体に関しては、例えば特許文献1(特開平7−24323号公報)において、一般式M10・(ZO46・X2(Mの一部または全部が周期表の1B族及び/又は8族から選ばれた1種または2種以上の遷移金属、好ましくは銅,コバルト,ニッケル及び/又は鉄から選ばれた1種または2種以上の遷移金属であり、かつこれら遷移金属を0.5から10wt%含有したもの。Zは3〜7価の陽イオン、Xは1〜3価の陰イオンを表す。)で表わされるアパタイト化合物からなる担体が開示されている。
【0008】
特許文献2(特開2007−144412号公報)には、比較的低温状態でも排ガスの浄化効果が達成され、高温域でも三元触媒としての浄化性能が達成される触媒として、(Laa−x)(Si6−y)O27−zで示される複合酸化物と、該複合酸化物に固溶体化しているか又は担持されている貴金属成分とからなり、低温活性が高く、且つ耐熱性に優れ、安定した排ガス浄化性能を得ることができる排ガス浄化用触媒が開示されている。
【0009】
特許文献3(特開2011−16124号公報)には、一般式(Aa−w−xM')(Si6−y)O27−z(式中、AはLa及びPrの少なくとも1種の元素の陽イオン、MはBa、Ca及びSrの少なくとも1種の元素の陽イオン、M'はNd、Y、Al、Pr、Ce、Sr、Li及びCaの少なくとも1種の元素の陽イオン、NはFe、Cu及びAlの少なくとも1種の元素の陽イオン、6≦a≦10、0<w<5、0≦x<5、0<w+x≦5、0≦y≦3、0≦z≦3、A≠M'、AがLaの陽イオンである場合にはx≠0である)で示される複合酸化物と、該複合酸化物に固溶体化しているか又は担持されている貴金属成分とからなる排ガス浄化用触媒が開示されている。
【0010】
ところで、従来から、二層或いはそれ以上の層からなる触媒層を備えた3元触媒が提案されている。それぞれの触媒層に別の機能を持たせたり、同一層に混在させると活性が落ちるような成分を各層に分けたりする等の目的で用いられている。
【0011】
例えば特許文献4(特開平2−56247号公報)には、ハニカム担体上に上下2層の触媒層を有し、下層をゼオライトを主成分とするHC吸着層とし、上層を触媒金属を担持した浄化触媒層とした構成の低温HCトラップ触媒が開示されている。これによれば、担体セル通路内に流入した排気ガスは、上層の浄化触媒層をセル通路側の面から下層のHC吸着層側の面まで通過してHC吸着層へ拡散していき、その結果、低温下で排気ガス中のHCがHC吸着層を構成するゼオライトに吸着される。そして、触媒の温度、より詳しくはHC吸着層の温度が排気ガス温度の上昇に伴ってある程度の高温、例えば120℃〜200℃にまで上昇すれば、吸着されていたHCが脱離し始め、下層のHC吸着層から上層の浄化触媒層をセル通路側に通過して担体セル通路外に流出する。そして、その際、HCは浄化触媒層を通過するときに触媒金属の触媒作用によって水(HO)や二酸化炭素(CO)に酸化浄化されることとなる。
【0012】
特許文献5(特開2004−298813号公報)には、セラミックス又は金属材料からなる担体と、該担体上に形成される第一の触媒層と、該第一の触媒層上に形成される第二の触媒層とを有する層状触媒において、前記第一の触媒層は、多孔質アルミナに白金成分を担持してなる白金担持アルミナと、酸素貯蔵性セリア−ジルコニア複合酸化物とを含有する複合セラミックスからなり、前記第二の触媒層は、低熱劣化性セリア−ジルコニア複合酸化物又は多孔質アルミナにロジウム成分を担持してなるロジウム担持セリア−ジルコニア複合酸化物及びロジウム担持アルミナの少なくとも一方と、多孔質アルミナ及び低熱劣化性セリア−ジルコニア複合酸化物の少なくとも一方とを含有する複合セラミックスからなることを特徴とする層状触媒が開示されている。
【0013】
二層或いはそれ以上の層から触媒層を形成した場合、基材側の触媒層内部へ排気ガスが拡散しにくいという課題を抱えていた。かかる課題を解決するため、次のような提案がなされている。
【0014】
例えば特許文献6(特開2006−110485号公報)には、触媒層における排気ガスのガス拡散性を高めて、触媒効率を向上させる排気ガス触媒として、担体と、該担体上に形成された複数層とを少なくとも備えてなる排気ガス触媒であって、前記複数層の少なくとも一つの層が触媒成分を含んでなり、かつ前記複数層の少なくとも一つの層が触媒成分を含んでなり、かつ、該層中に空隙を有してなり、前記空隙の平均径が0.2μm以上であり、500μm以下である、排気ガス浄化触媒が開示されている。
【0015】
特許文献7(特開2010−201362号公報)には、十分なガス拡散性を確保でき、かつ触媒金属の粒成長を抑制することができる触媒担体として、炭化ケイ素系セラミックスからなるスポンジ状の立体骨格部と立体骨格部の間に形成された連続気孔部とを有する炭化ケイ素系多孔質構造体と、立体骨格部の表面に形成された金属シリコン層と、金属シリコン層の少なくとも一部が酸化されて形成されたSiO層とからなる触媒担体が提案されている。
【0016】
特許文献8(特開2009−165929号公報)には、ハニカム担体上に設けられたHC吸着層と、このHC吸着層上に積層された浄化触媒層とを有する排気ガス浄化用触媒において、上層の浄化触媒層を通過して下層のHC吸着層にまで拡散していく排気ガスの割合を増大させ、下層のHC吸着層に吸着されるHC量を増大させ、冷間時のHC浄化率を向上させるために、前記浄化触媒層に、担体セル通路を流れる排気ガス中のHCが浄化触媒層のセル通路側の面からHC吸着層側の面まで通過可能な通路が生成するように、浄化触媒層を構成する粒子の平均径よりも大きな平均径を有する複数の微細路が分散して形成してなる排気ガス浄化用触媒が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】特開平7−24323号公報
【特許文献2】特開2007−144412号公報
【特許文献3】特開2011−16124号公報
【特許文献4】特開平2−56247号公報
【特許文献5】特開2004−298813号公報
【特許文献6】特開2006−110485号公報
【特許文献7】特開2010−201362号公報
【特許文献8】特開2009−165929号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明は、上側触媒層と下側触媒層とを備えた排気ガス処理用触媒構造体において、ガス拡散性を維持して、3元触媒としての機能を十分に発揮することができる、新たな排気ガス処理用触媒構造体を提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明は、基材と上側触媒層と下側触媒層とを備えた触媒構造体であって、水銀圧入ポロシメータにより測定される対数微分空隙容積分布において、空隙容積径10nm〜50nm及び50nm〜100nmのそれぞれに、第1ピーク若しくは第2ピークを有することを特徴とする触媒構造体を提案する。
【発明の効果】
【0020】
本発明が提案する触媒構造体は、空隙容積径10nm〜50nm及び50nm〜100nmのそれぞれに、第1ピーク若しくは第2ピークを有するように触媒構造体を作製することにより、触媒層の深層部へのガス拡散性を高めることができ、3元触媒としての機能を十分に発揮させることができるようになった。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】実施例7で得られた触媒構造体の細孔分布チャートである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
次に、実施の形態例に基づいて本発明を説明する。但し、本発明が次に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0023】
<本触媒構造体>
本発明の実施形態の一例としての触媒構造体(以下「本触媒構造体」と称する)は、基材と、上側触媒層と、下側触媒層とを備え、水銀圧入ポロシメータにより空隙分布を測定した際、得られた対数微分空隙容積分布の空隙容積径5nm〜200nmの範囲において、空隙容積径10nm〜50nm及び50nm〜100nmのそれぞれに、第1ピーク若しくは第2ピークを有することを特徴とする。中でも、第1ピークが空隙容積径10nm〜50nmに存在し、且つ、第2ピークが空隙容積径50nm〜100nmに存在するのが好ましい。
このように、空隙容積径10nm〜50nm及び50nm〜100nmのそれぞれに、第1ピーク若しくは第2ピークを有する空隙分布を備えるように触媒構造体を作製することにより、触媒層のガス拡散性を維持しつつ、触媒反応性も維持して3元触媒としての機能を十分に発揮させることができる。
【0024】
但し、本触媒構造体は、基材と上側触媒層と下側触媒層とを備えていればよいから、例えば基材の表面に下側触媒層が形成されていてもよいし、基材の表面に他の層を介して下側触媒層が形成されていてもよい。また、上側触媒層と下側触媒層との間、或いは上側触媒層の上層側に他の層が存在してもよい。また、上側触媒層及び下側触媒層はいずれも無機多孔質体を含有し、上側触媒層に含有される無機多孔質体は、下側触媒層に含有される無機多孔質体とは異なる組成又は異なる空隙分布を有するものであるのが好ましい。
【0025】
ここで、上記「第1ピーク」とは、水銀圧入ポロシメータにより測定される対数微分空隙容積分布において、最もピーク高さの高いピークを称し、及び「第2ピーク」とは2番目にピーク高さが高いピークを称する。
また、「空隙容積径10nm〜50nm及び50nm〜100nmのそれぞれに、第1ピーク若しくは第2ピークを有する」とは、第1ピーク若しくは第2ピークが空隙容積径10nm〜50nm及び50nm〜100nmのそれぞれに存在することを意味する。すなわち、第1ピークが空隙容積径10nm〜50nmに存在し、且つ、第2ピークが空隙容積径50nm〜100nmに存在するか、又は、第1ピークが空隙容積径50nm〜100nmに存在し、且つ、第2ピークが空隙容積径10nm〜50nmに存在する場合である。
なお、そのピークが存在しないと仮定した場合のライン、すなわちバックグラウンドからの垂直高さが0.002ml/g未満のピークは、測定装置などのノイズであると考えられるため、本発明が規定する「ピーク」に該当するものではない。
【0026】
本触媒構造体の好ましい一例として、下側触媒層が空隙容積径10nm〜50nmに第1ピーク若しくは第2ピークを有し、上側触媒層が空隙容積径50nm〜100nmに第2ピーク若しくは第1ピークを有する触媒構造体を挙げることができる。
上側触媒層が空隙容積径50nm〜100nmに第2ピーク若しくは第1ピークを有すれば、上側触媒層のガス拡散性を良好にして下側触媒層に排気ガスを好適に流通させることができると共に、表面積を確保することでき分散度を確保することができる。よって、例えば担持する貴金属のシンタリングを抑制することができる。
また、下側触媒層が空隙容積径10nm〜50nmに第1ピーク若しくは第2ピークを有すれば、下側触媒層全体に排気ガスを流通させることができると共に、排気ガスを好適に受けとめて効率良く触媒反応をなすことができる。
【0027】
第1ピークの空隙容積径と第2ピークの空隙容積径との差は、20nm〜60nmであるのが好ましく、中でも40nm以上或いは50nm以下であるのが好ましい。
全ての空隙の容積径を均等に大きくすると、ガス拡散が良好になる反面、表面積が低下したり、貴金属の分散性が低下したりするなどの傾向が出現する可能性がある。そこで、例えば、下側触媒層が空隙容積径10nm〜50nmに第1ピーク若しくは第2ピークを有し、上側触媒層が空隙容積径50nm〜100nmに第2ピーク若しくは第1ピークを有する場合において、第1ピークの空隙容積径と第2ピークの空隙容積径との差を、20nm〜60nmとすれば、上層はガス拡散性を確保することができ、下層は表面積や貴金属分散性を確実に確保することができる。
【0028】
また、上記第1ピーク及び第2ピークは、その微分細孔容積が0.01ml/g以上であるのが好ましく、中でも0.05ml/g以上或いは5ml/g以下、その中でも好ましく0.10ml/g以上或いは2ml/g以下であるのが好ましい。
【0029】
本触媒構造体において、対数微分空隙容積分布におけるピークの空隙容積径並びにその微分細孔容積は、アパタイトやOSC材の空隙容積径並びに微分細孔容積、さらに該アパタイトやOSC材の量、焼成条件、各層の厚さなどを変えることによって調整することができる。特にアパタイトやOSC材の量、さらには各層の厚さは微分細孔容積への影響が大きく、焼成条件は空隙容積径への影響が大きい。すなわち、焼成温度を高めれば空隙容積径は大きくなり、焼成温度を低くすれば空隙容積径は小さくなる傾向がある。
なお、空隙容積径10nm〜50nm及び50nm〜100nmのピークはいずれも上側及び下側触媒層の空隙に由来するピークである。基材の空隙によるピークは、このような空隙容積径の数値範囲に現れることはない。
【0030】
上記水銀圧入ポロシメータは、水銀の表面張力が大きいことを利用して、測定対象に圧力を加えて水銀を侵入させ、その時の圧力と圧入された水銀量から空隙容積径及び対数微分空隙容積分布を測定する装置である。したがって、対象とする空隙は、オープンポア(外と連通している空隙)だけで、クローズドポア(独立した空隙)は対象に含まれない。
また、上記「空隙容積径」は、空隙を円柱近似した際の底面の直径を意味し、次の式により算出される。
dr=−4σcosθ/p(σ:表面張力、θ:接触角、p:圧力)
この式において、水銀の表面張力は既知であり、接触角は装置毎で固有の値を示すため、圧入した水銀の圧力から空隙容積径を算出することができる。
【0031】
<上側触媒層>
上側触媒層の無機多孔質体としては、例えば、結晶構造がアパタイト型に属する酸化物(「アパタイト型複合酸化物」或いは「アパタイト」とも称する)のほか、シリカ、アルミナおよびチタニア化合物から成る群から選択される化合物の無機多孔質体や、OSC材(OSC材については後述する)などを挙げることができ、これらのうちの一種又は二種類以上を含んでいればよい。上側触媒層は、これらの無機多孔質体を含有する多孔質な層であるのが好ましい。
【0032】
中でもアパタイト型複合酸化物は、所定の大きさの空隙を形成しやすく、上側触媒層の無機多孔質体として用いると、下側触媒層へのガス拡散性をより一層高めやすい点で好ましい。また、アパタイト型複合酸化物は、貴金属を担持する担体として機能するばかりか、炭化水素(HC)及び一酸化炭素(CO)を酸化させる触媒活性、並びに、窒素酸化物(NOx)を還元する触媒活性も有しているため、アパタイト型複合酸化物を担体として用いることにより、貴金属の含有量を減らすことができるというメリットも有している。
よって、下側触媒層へのガス拡散性を高める観点から、上側触媒層が含有する無機多孔質体のうちの50質量%以上をアパタイト型複合酸化物が占めるのが好ましく、中でも70質量%以上、その中でも80質量%以上、その中でも90質量%以上(100質量%を含む)占めるのが特に好ましい。
但し、上側触媒層は、アパタイト型複合酸化物のほかの多孔質体として、例えばアルミナやOSC材、その他の無機多孔質体を含んでいてもよい(詳しくは後述する)。
【0033】
(アパタイト)
上側触媒層が含有するアパタイトは、結晶構造がアパタイト型に属する酸化物であればよく、例えば一般式(Laa-xx)(Si6-yy)O27-z(式中、Mは1〜3価の陽イオンを表し、Nは3〜7価の陽イオンを表し、8≦a≦10であり、0≦x≦5であり、0≦y≦3であり、0≦z≦2である)で示されるLa系アパタイトを挙げることができる。
この際、化学量論組成を持つ場合にはa=10であり、非化学量論組成を持つ場合にはa<10である。非化学量論組成を持つ上記一般式の複合酸化物については現実的に容易に入手できる複合酸化物のaの範囲は8≦a<10である。
【0034】
上記一般式において、Mは、Laサイトの一部を置換する陽イオンであり、例えばCa、Al、Ce、Ba、Sr、Li、Nd及びPrからなる群から選択される少なくとも1種の元素の陽イオンを挙げることができる。
また、上記一般式において、Nは、Siサイトの一部を置換する陽イオンであり、例えばNがFe、Cu及びAlからなる群から選択される少なくとも1種の元素の陽イオンを挙げることができる。
この種のLa系アパタイトの具体例としては、La9.33Si626、La8.33BaSi626、La8.33CaSi626、La8.33SrSi626、La8.33BaSi4.5Fe1.526、La6.83Pr3Si4.5Fe1.527、La7.33BaYSi625.50などを挙げることができる。
【0035】
中でも、Laサイトのモル比が9.33の場合よりも大きな欠損を備えたLa系アパタイト(「Aサイト欠損アパタイト」とも称する)が好ましい。
Laサイトのモル比が9.33の組成(「9.33組成」と称する)のLa系アパタイト型複合酸化物よりも、Laサイトの欠損をさらに大きくすることにより、アパタイト結晶構造の格子酸素を活性化させることができ、9.33組成のLa系アパタイト型複合酸化物よりも、触媒反応を促進させることができ、より低温で触媒反応を生じさせることができることが分かった。
【0036】
具体的には、例えば組成式(1)・・(LaA)9.33-δ627.00-γ(式中、0.3≦δ≦3.0、0.0<γ≦6.0)で表されるアパタイトを挙げることができる。
【0037】
上記組成式(1)中の「A」は、Laサイトの一部を置換する陽イオンであり、Ba、Pr、Y、Sr、Mg及びCeの中から選ばれる一種又は二種以上を含む元素である。その他、「A」としてCa、Al、Li、Ndなどを含む可能性もある。
他方、上記組成式(1)中の「B」は、Si、P及びFeの中から選ばれる一種又は二種以上を含む元素である。Siを含む場合には、Siサイトの一部を置換する陽イオンということもできる。その他、「B」として、Cu、Alなどを含むか可能性もある。
【0038】
上記組成式(1)では、Laサイトに含有される元素のモル比を「9.33-δ」と規定している。すなわち、本複合酸化物は、La系アパタイト型複合酸化物において、一般的には基準組成とされるLaサイトのモル比9.33の組成(「9.33組成」と称する)よりも「δ」だけ欠損が大きいことを示している。
そして、該「δ」は、0.3〜3.0であるのが好ましく、中でも0.3〜2.3であるのがさらに好ましく、その中でも0.8以上或いは1.3以下であるのがより好ましい。
また、Laのモル比は、2.50〜6.00であるのが好ましく、中でも3.00以上或いは5.00以下であるのが好ましい。
さらにまた、Prを含有する場合、Prのモル比は、0.5〜3.0であるのが好ましく、中でも1.0以上或いは2.0以下であるのがさらに好ましい。
【0039】
酸素(O)のモル比を示す「27.00−γ」、すなわち酸素のモル比は、Laサイトの元素が仮にA1、A2、・・・Anである場合に、そのモル比をx1、x2、・・・xnとし、その価数をa1、a2、・・・anとした場合、以下の計算式で算出される値となる。
「27.00−γ」=(x1×a1+x2×a2+・・・+xn×an)/2
【0040】
Aサイト欠損アパタイトの具体例としては、例えばLa9.33-δSi627.00-γ、(LaBa)9.33-δSi627.00-γ、(LaBaY)9.33-δSi627.00-γ、(LaBaSr)9.33-δSi627.00-γ、(LaBaMg)9.33-δSi627.00-γ、(LaBaCe)9.33-δSi627.00-γ、(LaPr)9.33-δSi627.00-γ、(LaPrBa)9.33-δSi627.00-γ、(LaPrY)9.33-δSi627.00-γ、(LaPrSr)9.33-δSi627.00-γ、(LaPrMg)9.33-δSi627.00-γ、(LaPrCe)9.33-δSi627.00-γ、(LaPrBaY)9.33-δSi627.00-γ、(LaPrBaSr)9.33-δSi627.00-γ、(LaPrBaCe)9.33-δSi627.00-γ、(LaPrBaMg)9.33-δSi627.00-γなどを挙げることができる。
【0041】
本触媒担体が、上記組成式で表されるアパタイトを含有することは、X線回折(XRD)の回折ピークによってアパタイトを含有することを確認し、ICPによって元素質量を測定することで確かめることができる。
【0042】
原料としての無機多孔質体、例えば原料としてのアパタイトの空隙分布は、上側触媒層及び本触媒構造体の空隙分布に影響する。かかる観点から、無機多孔質体の空隙分布は、水銀圧入ポロシメータにより測定される対数微分空隙容積分布において、空隙容積径が40nm〜110nm、中でも好ましくは50nm以上或いは80nm以下の範囲に第1ピークを持ち、その微分細孔容積が0.05ml/g〜10ml/g、中でも好ましく0.1ml/g以上或いは5ml/g以下、その中でも好ましく0.1ml/g以上或いは2ml/g以下の範囲であるのが好ましい。
【0043】
なお、無機多孔質体としてアパタイトを使用する場合、原料としてのアパタイトは、例えばLaPr、Ba、Si、Oを含む複合酸化物を製造する場合には、硝酸ランタン、硝酸バリウム、硝酸Pr、コロイダルシリカ及び必要に応じてその他の原料成分を純水に加え、攪拌して透明溶液を得、この透明溶液を、アンモニア水と炭酸アンモニウムとの混合溶液中に滴下して、加水分解により沈殿物を析出させ、得られた沈殿物を所定温度で熟成させた後、水洗し、ろ過し、乾燥させて前駆体得、そして、この前駆体を大気雰囲気下、800〜1000℃で焼成することで得ることができる。但し、このような製法に限定するものではない。
アパタイトの比表面積は5〜100m/gの範囲であるのが好ましい。
【0044】
(他の多孔質体)
上側触媒層の多孔質体としては、上述したように、上記アパタイト型複合酸化物のほかに、例えばシリカ、アルミナおよびチタニア化合物から成る群から選択される化合物の多孔質体、より具体的には、例えばアルミナ、シリカ、シリカ−アルミナ、アルミノ−シリケート類、アルミナ−ジルコニア、アルミナ−クロミアおよびアルミナ−セリアから選択される化合物からなる多孔質体や、OSC材(OSC材については後述する)などを挙げることができる。
例えば、OSC材や、シリカ、アルミナおよびチタニア化合物などの無機多孔質体を、主な多孔質体として上側触媒層を形成することも可能である。
【0045】
このうちアルミナとしては、比表面積が50m/gより大きなアルミナ、例えばγ,δ,θ,αアルミナを使用することができる。中でも、γアルミナを用いるのが好ましい。なお、アルミナについては、耐熱性を上げるため、微量のLaを含むこともできる。
【0046】
(OSC材)
上側触媒層が含有するOSC材としては、酸素ストレージ能(OSC:Oxygen Storage Capacity)を有する無機多孔質体であればよい。例えばセリウム化合物、ジルコニウム化合物、セリア・ジルコニア複合酸化物などからなる無機多孔質体を挙げることができる。
【0047】
(触媒活性成分)
上側触媒層は、触媒活性成分すなわち触媒活性を有する金属として、例えばパラジウム、白金、ロジウム、金、銀、ルテニウム、イリジウム、ニッケル、セリウム、コバルト、銅、オスミウム、ストロンチウム等の金属を含有することができる。中でも、白金、パラジウム、ロジウム又はイリジウムを含むのが好ましい。
上側触媒層は、触媒活性成分としてパラジウム(Pd)を含有することにより、特に炭化水素(THC)の転化率を高めることができる。
【0048】
上側触媒層に含まれる触媒活性成分の含有量は、触媒構造体に含まれる無機多孔質体の含有量100質量部に対し0.01〜1.5質量部であるのが好ましい。かかる割合となるように触媒活性成分とアパタイトとの割合を調整することで、触媒活性成分のシンタリングを防止して分散性を高めることができる。
かかる観点から、上側触媒層に含まれる触媒活性成分の含有量は、触媒構造体に含まれる無機多孔質体の含有量100質量部に対して0.05質量部以上或いは1.5質量部以下であるのがより一層好ましく、中でも0.1質量部以上或いは1.0質量部以下であるのがさらに好ましい。
【0049】
なお、上記触媒活性成分は、例えばアルミナなどの触媒担持体に固溶体化して存在していてもよいし、アルミナなどの触媒担持体に担持されて存在していてもよい。
【0050】
(安定剤及びその他の成分)
上側触媒層は、安定剤及びその他の成分を含むことができる。
【0051】
上側触媒層の安定剤としては、例えばアルカリ土類金属やアルカリ金属を挙げることができる。中でも、マグネシウム、バリウム、ホウ素、トリウム、ハフニウム、ケイ素、カルシウムおよびストロンチウムから成る群から選択される金属のうちの一種又は二種以上を選択可能である。その中でも、PdOxが還元される温度が一番高い、つまり還元されにくいという観点から、バリウムが好ましい。
【0052】
また、上側触媒層は、バインダ成分など、公知の添加成分を含んでいてもよい。
バインダ成分としては、無機系バインダ、例えばアルミナゾル等の水溶性溶液を使用することができる。
【0053】
<下側触媒層>
下側触媒層の無機多孔質体としては、酸素吸蔵放出機能(OSC機能)を有する無機多孔質体のほか、アパタイト型複合酸化物、さらには、シリカ、アルミナおよびチタニア化合物から成る群から選択される化合物の多孔質体などを挙げることができ、これらのうちの一種又は二種類以上を含んでいてもよい。下側触媒層は、これらの無機多孔質体を含有する多孔質な層であるのが好ましい。なお、下側触媒層に含有される無機多孔質体は、上側触媒層に含有される無機多孔質体と同じ組成であっても、異なる組成であってもよいし、また、上側触媒層に含有される無機多孔質体と同一の空隙分布を有していても、異なる空隙分布を有していてもよい。但し、下側触媒層に含有される無機多孔質体が、上側触媒層に含有される無機多孔質体とは異なる組成又は異なる空隙分布を有するものであるのが好ましい。
【0054】
中でも、下側触媒層は、酸素吸蔵放出機能(OSC機能)を有する多孔質OSC材を含有するのが好ましい。下側触媒層が該多孔質OSC材を含有することで、例えば上側触媒層のアパタイト型複合酸化物と、下側触媒層のOSC材がそれぞれの特性を十分に発揮することができ、しかも、ガス拡散性を維持して、3元触媒としての機能を十分に発揮することができる。
【0055】
この際、下側触媒層が含有する無機多孔質体のうちの50質量%以上をOSC材が占めるのが好ましく、中でも70質量%以上、その中でも80質量%以上、その中でも90質量%以上(100質量%を含む)占めるのが特に好ましい。
但し、下側触媒層は、上述したように、OSC材のほかに、例えばアパタイト型複合酸化物や、シリカ、アルミナおよびチタニア化合物から成る群から選択される化合物の多孔質体などの他の無機多孔質体を含んでいてもよい(詳しくは後述する)。
例えば、アパタイト型複合酸化物や、シリカ、アルミナおよびチタニア化合物などの多孔質体を、主な無機多孔質体として下側触媒層を形成することも可能である。
【0056】
(OSC材)
下側触媒層が含有するOSC材としては、例えばセリウム化合物、ジルコニウム化合物、セリア・ジルコニア複合酸化物などを挙げることができる。
【0057】
(他の無機多孔質体)
下側触媒層が含有する無機多孔質体としては、OSC材やアパタイト型複合酸化物以外にも、例えばシリカ、アルミナおよびチタニア化合物から成る群から選択される化合物の無機多孔質体、より具体的には、例えばアルミナ、シリカ、シリカ−アルミナ、アルミノ−シリケート類、アルミナ−ジルコニア、アルミナ−クロミアおよびアルミナ−セリアから選択される化合物からなる無機多孔質体などを挙げることができる。
【0058】
このうちアルミナとしては、比表面積が50m/gより大きなアルミナ、例えばγ,δ,θ,αアルミナを使用することができる。中でも、γアルミナを用いるのが好ましい。なお、アルミナについては、耐熱性を上げるため、微量のLaを含むこともできる。
【0059】
(触媒活性成分)
下側触媒層は、触媒活性成分として、例えばパラジウム(Pd)、白金、ロジウム、金、銀、ルテニウム、イリジウム、ニッケル、セリウム、コバルト、銅、オスミウム、ストロンチウム等の金属を含むのが好ましい。
中でも、白金(Pt)、パラジウム(Pd)を含むのが好ましく、その中でも、パラジウム(Pd)を含有するのが好ましい。下側触媒層は、触媒活性成分としてパラジウム(Pd)を含有することにより、特に炭化水素(THC)の転化率を高めることができる。
【0060】
下側触媒層に含まれる触媒活性成分の含有量は、下層全体100質量部に対し0.1〜10.0質量部であるのが好ましく、中でも1.0質量部以上或いは7.0質量部以下であるのがより一層好ましく、中で3.0質量部以上或いは5.0質量部以下であるのがさらに好ましい。
【0061】
なお、上記触媒活性成分は、例えばアルミナなどの触媒担持体に固溶体化して存在していてもよいし、アルミナなどの触媒担持体に担持されて存在していてもよい。
【0062】
(その他の成分)
下側触媒層は、必要に応じて、安定剤を含むのが好ましい。
下側触媒層の安定剤としては、例えばアルカリ土類金属やアルカリ金属を挙げることができる。中でも、マグネシウム、バリウム、ホウ素、トリウム、ハフニウム、ケイ素、カルシウムおよびストロンチウムから成る群から選択される金属のうちの一種又は二種以上を選択可能である。その中でも、OSC材及び無機多孔質体の耐熱性向上の観点から、バリウムが特に好ましい。
【0063】
下側触媒層は、必要に応じて、バインダを含むのが好ましい。
バインダ成分としては、無機系バインダ、例えばアルミナゾル等の水溶性溶液を使用することができる。
【0064】
下側触媒層は、必要に応じて他の成分を含有することができる。
【0065】
<基材>
本触媒構造体に用いる基材の材質としては、セラミックス等の耐火性材料や金属材料を挙げることができる。
【0066】
セラミック製基材の材質としては、耐火性セラミック材料、例えばコージライト、コージライト−アルファアルミナ、窒化ケイ素、ジルコンムライト、スポジュメン、アルミナ−シリカマグネシア、ケイ酸ジルコン、シリマナイト(sillimanite)、ケイ酸マグネシウム、ジルコン、ペタライト(petalite)、アルファアルミナおよびアルミノシリケート類などを挙げることができる。
金属製基材の材質としては、耐火性金属、例えばステンレス鋼または鉄を基とする他の適切な耐食性合金などを挙げることができる。
【0067】
基材の形状は、ハニカム状、ペレット状、球状を挙げることができる。
【0068】
ハニカム形状の基材を用いる場合、例えば基材内部を流体が流通するように、基材内部に平行で微細な気体流通路、すなわちチャンネルを多数有するモノリス型基材を使用することができる。この際、モノリス型基材の各チャンネル内壁表面に、触媒組成物をウォッシュコートなどによってコートして触媒層を形成することができる。
【0069】
<層厚>
上側触媒層と下側触媒層の層厚さの割合は、上側触媒層:下側触媒層=40:200〜120:60であるのが好ましく、中でも50:190〜110:100、その中でも60:180〜100:120であるのが特に好ましい。
【0070】
<触媒構造体の好ましい構成例>
本触媒構造体の好ましい構成例として、基材表面、例えば基材がハニカム形状である場合には、基材内部のチャンネル内壁表面から、下側触媒層及び上側触媒層の順に形成してなる構成例を挙げることができる。
【0071】
この際、下側触媒層は、Pd、Pt、Rhなどの触媒活性成分、アルミナなどの無機多孔質体、セリア・ジルコニア複合酸化物などのOSC材、バインダ及び必要に応じて水酸化Baなどの安定化材を含む構成であり、上側触媒層は、アパタイト、PdやPtなどの触媒活性成分、バインダ及び必要に応じて水酸化Baなどの安定化材を含む構成とするのが好ましい。
また、上側触媒層は、アルミナなどの無機多孔質体、並びに、セリア・ジルコニア複合酸化物などのOSC材を必要に応じて含有するのが好ましい。
【0072】
<製法>
本触媒構造体を製造するための一例として、例えば触媒活性成分、無機多孔質体、OSC材、安定化材、バインダ及び水を混合・撹拌してスラリーとし、得られたスラリーを例えばセラミックハニカム体などの基材にウォッシュコートし、これを焼成して、基材表面に下側触媒層を形成した後、上記同様に上側触媒層を形成すればよい。
【0073】
なお、アパタイトの場合、焼成温度が低過ぎるとマクロ孔を持たず、高温過ぎるとシンタリングにより細孔がつぶれてしまう場合があるため、焼成は800〜1200℃で行うのが好ましい。
【0074】
ただし、本触媒構造体を製造するための方法は公知のあらゆる方法を採用することが可能であり、上記例に限定するものではない。
【0075】
<語句の説明>
本明細書において「X〜Y」(X,Yは任意の数字)と表現する場合、特にことわらない限り「X以上Y以下」の意と共に、「好ましくはXより大きい」或いは「好ましくはYより小さい」の意も包含する。
また、「X以上」(Xは任意の数字)或いは「Y以下」(Yは任意の数字)と表現した場合、「Xより大きいことが好ましい」或いは「Y未満であることが好ましい」旨の意図も包含する。
【実施例】
【0076】
以下、本発明を実施例及び比較例に基づいてさらに詳述する。
【0077】
<アパタイト(A1)の作製>
La:Pr:Ba:Y:Si:O=3.53:1.80:2.00:1.00:6.00:24.10のモル比となるように、硝酸ランタン、硝酸バリウム、硝酸Pr、硝酸イットリウム及びコロイダルシリカを秤量して、これらを純水に加え、攪拌して透明溶液を得た。
この透明溶液を、アンモニア水と炭酸アンモニウムとの混合溶液中に滴下して沈殿物を得た。得られた沈殿物を40℃で24時間熟成させた後、水洗し、ろ過し、100℃で乾燥させて前駆体を得た。そして、この前駆体を、大気雰囲気下、900℃で6時間焼成して複合酸化物を得た。
得られた複合酸化物の組成をX線回折(XRD)し、その回折ピークによってアパタイトの単相であることを確認すると共に、ICPによる元素質量分析により、得られた複合酸化物がA欠損アパタイト(La3.53Pr1.80Ba2.001.00Si6.0024.10)であることを確認した。
【0078】
上記で得た複合酸化物0.02gを石英製反応管にセットし、3%水素‐N2 Balanceガスを毎分20mL流通させながら50〜800℃の温度範囲を毎分10℃で昇温し、格子の酸素と水素の反応によって生成するH20の質量数18を質量分析計で測定し、水の脱離ピークから格子酸素の反応温度を測定した。この結果から、格子酸素が活性化していることが分かった。
【0079】
<アパタイト(A2)〜(A6)の作製>
上記アパタイトA1の作製において、焼成温度を変化させることにより、空隙分布を変化させて、表1に示すアパタイトA2〜A6を作製した。なお、アパタイトA2〜A6はいずれも、A欠損アパタイト(La3.53Pr1.80Ba2.001.00Si6.0024.10)であることを確認した。
【0080】
<アパタイト(B)の作製>
最初に、La7.33BaYSi625.50の所定比となるように秤量した硝酸ランタン、硝酸バリウム、硝酸イットリウム及びコロイダルシリカを純水に加え、攪拌して透明溶液を得た。この透明溶液をアンモニア水と炭酸アンモニウムとの混合溶液中に滴下して沈殿物を得た。得られた沈殿物を40℃で24時間熟成させた後、水洗し、ろ過し、100℃で乾燥させて前駆体を得た。この前駆体を1000℃で6時間焼成してアパタイトとしてLa7.33BaYSi625.50を得た。
【0081】
<他の無機多孔質体>
なお、α-Al23、γ-Al23、CeO2、セリア-ジルコニア複合酸化物(表では「CZ複合酸化物」と示す)は、市販品を熱処理することにより空隙分布を調整した。
なお、表1及び表2において「第1ピークの空隙容積径」とは、水銀圧入ポロシメータにより測定される対数微分空隙容積分布において、最もピーク高さの高い第1ピークの空隙容積径の意味である。
【0082】
<実施例1〜8、比較例1〜4>
実施例1〜8及び比較例1〜4については、次のようにして触媒構造体(サンプル)を作製した。
【0083】
(下側触媒層)
表1に記載の無機多孔質体91質量部を、Pdメタル換算で1質量部に相当する硝酸Pd溶液に添加し、湿式粉砕処理を施した後、無機系バインダとしてのアルミナゾルを8質量部添加し、Pd含有スラリーを得た。
得られたPd含有スラリーを、Φ105.7mm×L114.3mm−400セルのコージェライト製ハニカム基材に塗布し、次いで乾燥及び500℃で1時間焼成処理を施して下側触媒層を形成した。
なお、Pd塗布量は20g/cft、ウォッシュコート量は100g/Lであった。
【0084】
(上側触媒層)
次に、表1に記載の無機多孔質体91質量部を、Pdメタル換算で1質量部に相当する硝酸Pd溶液に添加し、湿式粉砕処理を施した後、無機系バインダとしてのアルミナゾルを8質量部添加し、スラリーを得た。
得られたスラリーを、上記の如く下側触媒層を塗布形成したコージェライト製ハニカム基材に塗布し、次いで乾燥及び500℃で1時間焼成処理を施して上側触媒層を形成して触媒構造体(サンプル)を作製した。
なお、上側触媒層におけるウォッシュコート量は70g/Lであった。
厚さは、上側触媒層:下側触媒層=70:160であった。
【0085】
<対数微分空隙容積分布測定>
対数微分空隙容積分布の測定は、水銀に加える圧力を変化させ、その際の細孔中に進入した水銀の量を測定することにより、細孔(空隙)分布を測定する方法である。
細孔内に水銀が侵入し得る条件は、圧力P、細孔直径D、水銀の接触角と表面張力をそれぞれθとσとすると、力の釣り合いからPD=−4σCOSθで表すことができる。この際、接触角と表面張力を定数とすれば、圧力Pとそのとき水銀が侵入し得る細孔直径Dは反比例することになる。このため、圧力Pとそのときに侵入する液量Vを、圧力を変えて測定し、得られたP−V曲線の横軸Pを、そのままこの式から細孔直径に置き換え、空隙分布を求めることができる。
【0086】
測定装置としては、株式会社島津製作所製自動ポロシメータ「オートポアIV9520」を用いて、下記条件・手順で測定を行った。
【0087】
(測定条件)
測定環境:25℃
測定セル:試料室体積 3cm3、圧入体積 0.39cm3
測定範囲:0.0048MPa から 255.106MPa まで
測定点:131点(細孔径を対数で取ったときに等間隔になるように点を刻んだ)
圧入体積:25%以上80%以下になるように調節した。
【0088】
(低圧パラメーター)
排気圧力:50μmHg
排気時間:5.0min
水銀注入圧力:0.0034MPa
平衡時間:10secs
(高圧パラメーター)
平衡時間:10secs
(水銀パラメーター)
前進接触角:130.0degrees
後退接触角:130.0degrees
表面張力:485.0mN/m(485.0dynes/cm)
水銀密度:13.5335g/mL
【0089】
(測定手順)
(1)実施例・比較例で得た触媒構造体(サンプル)の中央部から5mm×5mm×10mmをコアリングし、測定を行った。
(2)低圧部で0.0048MPaから0.2068MPa以下の範囲で46点測定。
(3)高圧部で0.2241MPaから255.1060MPa以下の範囲で85点測定。
(4)水銀注入圧力及び水銀注入量から、細孔径分布を算出する。
なお、上記(2)、(3)、(4)は、装置付属のソフトウエアにて、自動で行った。その他の条件はJIS R 1655:2003に準じた。
また、後述の実施例でも同様に測定を行った。
【0090】
<触媒性能評価方法>
上記で得た触媒構成体(サンプル)を15ccにコアリングし、それらの排ガス浄化用触媒をそれぞれ別個に評価装置(堀場製作所製 MOTOR EXHAUST GAS ANALYZER MEXA9100)に充填し、以下に示した組成の排気モデルガスを空間速度100000/hで流通させながら、20℃/分の昇温速度で500℃まで昇温し、ライトオフ性能を求めた。得られたライトオフ性能評価の結果より、CO/HC/NOそれぞれの50%浄化率に到達する温度(T50)を求めた。その結果を表1に示した。
【0091】
モデルガス組成:A/F=14.6、CO 0.50%、H 0.17%、O 0.50%、NO(NOx) 500ppm、C36(HC)1200ppmC、CO2 14%、H2O 10%、N2 balance
【0092】
その後、コアリングし浄化性能を測定したサンプルを、さらに700℃に保持した電気炉にセットし、C36:5,000ppmC、O2:0.75%及び残余量のNから成る完全燃焼を想定した模擬排気ガス(50s)及び空気(50s)を周期させながら流通させて25時間処理し、その後、上記と同様の方法で、CO/HC/NOそれぞれの50%浄化率に到達する温度(T50)を求めた。
【0093】
【表1】
【0094】
表1の結果及びこれまで行った試験結果からすると、アパタイトからなる無機多孔質体を含有する上側触媒層層と、OSC材を含有する下側触媒層とを積層することにより、アパタイト型複合酸化物及びOSC材それぞれの特性を十分に発揮させることができることが分かった。
しかも、触媒構造体が備える空隙分布を、空隙容積径10nm〜50nm及び50nm〜100nmのそれぞれに、第1ピーク若しくは第2ピークを有するようにすることにより、触媒層の深層部へのガス拡散性を高めることができ、NOx、CO及びCHのいずれのT50も低下し、3元触媒としての機能を十分に発揮することができることが分かった。
また、上側触媒層に含まれる無機多孔質体としてアパタイト、中でもAサイト欠損アパタイトを用いると、NOxの吸着特性がさらに良くなり、NOxの浄化性能がさらに高まることも分かった。
【0095】
<実施例9〜13、比較例5>
実施例9〜13及び比較例5については、次のようにして触媒構造体(サンプル)を作製した。
【0096】
(下側触媒層)
表2に記載の無機多孔質体91質量部を、Pdメタル換算で1質量部に相当する硝酸Pd溶液に添加し、湿式粉砕処理を施した後、無機系バインダとしてアルミナゾルを8質量部添加し、Pd含有スラリーを得た。
得られたPd含有スラリーを、Φ105.7mm×L114.3mm−400セルのコージェライト製ハニカム基材に塗布し、次いで乾燥及び500℃で1時間焼成処理を施して下側触媒層を形成した。
なお、Pd塗布量は20g/cft、ウォッシュコート量は100g/Lであった。
【0097】
(上側触媒層)
次に、表2に記載の無機多孔質体91質量部を、Pdメタル換算で1質量部に相当する硝酸Pd溶液に添加し、湿式粉砕処理を施した後、無機系バインダとしてのアルミナゾルを8質量部添加し、スラリーを得た。
得られたスラリーを、上記の如く下側触媒層を塗布形成したコージェライト製ハニカム基材に塗布し、次いで乾燥及び500℃で1時間焼成処理を施して上側触媒層を形成して触媒構造体(サンプル)を作製した。
なお、上側触媒層におけるウォッシュコート量は70g/Lであった。
【0098】
<耐リン被毒評価方法>
実施例・比較例で得た触媒構造体(サンプル)をそれぞれ2個用意し、そのうちの1個について、一定の条件で走行した後にも触媒活性を維持しているか否か、特にリン被毒による影響を確認するために、実際の自動車エンジンを用いて加速劣化試験(耐久試験)を行った。
【0099】
先ず、実施例・比較例で得た触媒構造体(サンプル)を排気管に搭載し、ハニカムの中央に熱電対を差し込んだ。この排気管をエンジンにセットし、熱電対の温度が750℃±20℃になるようにエンジン回転数/トルク等を調整した。このとき、A/Fは14と15を一定時間ずつ繰り返すサイクル試験とし、リン被毒を促進するため、エンジンオイルを6mL/時間ずつ触媒の上流に添加し、耐久試験時間を150時間とした。
【0100】
他方、上記の耐久試験を行った触媒構造体と、実施例・比較例で得た別の触媒構造体(前記耐久試験を行っていないもの)とを、それぞれ15ccにコアリングし、それらの触媒構造体をそれぞれ別個に評価装置に充填し、下記の表2に示した組成の排気モデルガスを空間速度100000/hで流通させながら、20℃/分の昇温速度で500℃まで昇温し、400℃におけるモデルガスの浄化率(η400)(%)を測定し、その悪化率(100―(耐久試験後の浄化率)/(耐久試験前の浄化率)×100)を計算し、その結果を表2に示した。
【0101】
【表2】
【0102】
(考察)
上側触媒層に含まれる無機多孔質体としては、セリア・ジルコニア複合酸化物よりも、アパタイトを用いた方が耐リン被毒性の評価が高く、その中でもAサイト欠損アパタイトを用いると、さらに耐リン被毒性の評価が高くなることが分かった。
【0103】
但し、実施例9−13の結果が示すように、上側触媒層に含まれる無機多孔質体が、アパタイト以外の他の無機多孔質体、例えばセリア・ジルコニア複合酸化物などのOSC材や、アルミナなどの無機多孔質体であっても、各層における空隙容積分布を調整することで、より深層部へのガス拡散性を高めることができ、3元触媒としての機能を十分に発揮させることができることが確認された。
図1