特許第5901770号(P5901770)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5901770CYP4A阻害剤を有効成分として含有する糖尿病又は脂肪肝の予防又は治療用薬学的組成物。
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5901770
(24)【登録日】2016年3月18日
(45)【発行日】2016年4月13日
(54)【発明の名称】CYP4A阻害剤を有効成分として含有する糖尿病又は脂肪肝の予防又は治療用薬学的組成物。
(51)【国際特許分類】
   A61K 45/00 20060101AFI20160331BHJP
   A61K 31/155 20060101ALI20160331BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20160331BHJP
   A61P 1/16 20060101ALI20160331BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20160331BHJP
【FI】
   A61K45/00
   A61K31/155
   A61P3/10
   A61P1/16
   A61P43/00 111
【請求項の数】7
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2014-525926(P2014-525926)
(86)(22)【出願日】2012年8月10日
(65)【公表番号】特表2014-521740(P2014-521740A)
(43)【公表日】2014年8月28日
(86)【国際出願番号】KR2012006395
(87)【国際公開番号】WO2013022312
(87)【国際公開日】20130214
【審査請求日】2014年6月30日
(31)【優先権主張番号】10-2011-0080208
(32)【優先日】2011年8月11日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】514036645
【氏名又は名称】コリア ベーシック サイエンス インスティテュート
(74)【代理人】
【識別番号】100086759
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 喜平
(74)【代理人】
【識別番号】100109128
【弁理士】
【氏名又は名称】岡野 功
(74)【代理人】
【識別番号】100112977
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 有子
(74)【代理人】
【識別番号】100100608
【弁理士】
【氏名又は名称】森島 なるみ
(74)【代理人】
【識別番号】100142099
【弁理士】
【氏名又は名称】中山 真一
(74)【代理人】
【識別番号】100152803
【弁理士】
【氏名又は名称】今井 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100154184
【弁理士】
【氏名又は名称】生富 成一
(74)【代理人】
【識別番号】100123548
【弁理士】
【氏名又は名称】平山 晃二
(74)【代理人】
【識別番号】100169535
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 信一郎
(72)【発明者】
【氏名】キム グン−ファ
(72)【発明者】
【氏名】キム スヒョン
(72)【発明者】
【氏名】チェ ジョン−ソン
(72)【発明者】
【氏名】キム スンイル
(72)【発明者】
【氏名】パク エドモンド チャンギュン
【審査官】 山村 祥子
(56)【参考文献】
【文献】 特表2007−511522(JP,A)
【文献】 特表2004−512361(JP,A)
【文献】 BIOCHEMICAL PHARMACOLOGY,2008年,Vol.75,p.2263-2275
【文献】 THE JOURNAL OF BIOLOGICAL CHEMISTRY,1998年,Vol.273,No.47,p.31581-31589
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 45/00
A61K 31/155
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
CYP4A(cytochrome P450 4A)阻害剤を有効成分として含む第2型糖尿病又は第2型糖尿病関連の脂肪肝の治療又は予防用薬学的組成物。
【請求項2】
前記CYP4A阻害剤は、N-ヒドロキシ-N'-(4-ブチル-2-メチルフェニール)-ホルムアミジン、ジブロモドデセニール メチルスルホニミド(dibromododecenyl methylsulfonimide)、1-アミノベンゾトリアゾール(1-aminobenzotriazole),17-オクタデセノイク酸(17-octadecynoic acid)、ミコナゾール(miconzzole)及びこれらの誘導体からなる群より選ばれたいずれか一つであることを特徴とする第1項記載の薬学的組成物。
【請求項3】
前記糖尿病は肥満から由来したことを特徴とする第1項記載の薬学的組成物。
【請求項4】
前記CYP4A阻害剤は小胞体ストレスを抑制することを特徴とする第1項記載の薬学的組成物。
【請求項5】
前記CYP4A阻害剤は血中インシュリン濃度を減少させることを特徴とする第1項記載の薬学的組成物。
【請求項6】
前記CYP4A阻害剤は肝細胞の細胞死滅(apoptosis)を抑制することを特徴とする第1項記載の薬学的組成物。
【請求項7】
第2型糖尿病又は第2型糖尿病関連の脂肪肝の治療剤の製造のためのCYP4A阻害剤の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は2011年08月11日に出願された大韓民国特許出願第10-2011-0080208号にもとづく優先権を主張するものであり、前記明細書全体は本発明の参考文献である。
【0002】
本発明は、糖尿病又は脂肪肝の予防又は治療用薬学的組成物に関するものであり、より詳細にはCYP4A(cytochrome P450 4A)阻害剤を有効成分として含む糖尿病又は脂肪肝の予防又は治療用薬学的組成物に関するものである。
【背景技術】
【0003】
血糖水準の上昇により特定される第2型真性糖尿病(T2DM)は、最も蔓延している深刻な代謝疾患であって、全世界人口の6.4%に影響を及ぼしており、糖尿患者の90%以上を占めている。
【0004】
一方、肥満は、T2DM、非アルコール性脂肪肝炎(NASH)及び心血管疾患の発生に対して根幹となる主要病理である。インシュリン耐性は、細胞がインシュリンを適切に利用できない状態であり、T2DMにおいて、肥満は筋肉、脂肪組織及び肝で、インシュリン耐性に対する中心危険因子である。
【0005】
インシュリン耐性の根幹メカニズムは不明確ではあるが、小胞体(ER)ストレスが、肥満である個人のインシュリン耐性の発生に対する新たなメカニズムとして提案されてきた。ERストレスは、Ca2+恒常性の破壊、蛋白質/脂質生合成の過負荷、及び酸化的ストレスによって起こり、これは変性された(unfolded)蛋白質の反応経路で言及されるIRE1,ATF6及びPERKのような進化的に保存されてきたメカニズムを触発させる。最近、ERストレス及びUPR経路が、糖尿病の病因論で一役割をすることが判明した。しかしながら、UPR経路を直接調節する正確なメカニズムは良く理解されていない。
【0006】
哺乳動物の肝臓のシトクロムP450酵素群(CYP450s)は、広範囲な種類の外来化合物質及び耐性の化合物の酸化代謝を触媒する、主にER膜に偏在化されたNADPHモノオキシダーゼとして作用する。肥満及び糖尿病の状態下で、CYP450sの発現様相(profiles)は肝組織で動的なものとして報告される。CYP2E1は特にERシャペロン蛋白質の発現を減少させ、これの酸化促進剤の触媒活性化を通じたER蛋白質損傷及びストレスを誘導するものとして現れる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
CYP450sがUPRシグナリング及び肝インシュリン耐性を調節する新規成分として、ERストレス及びT2DMの発生に関連する可能性がある。
【0008】
本発明で解決しようとする課題は、小胞体ストレスと関連するCYP450sの酵素群の内、CYP4Aの発現調節が糖尿病又は脂肪肝の予防又は治療に有効であることを確認し、前記疾患の予防又は治療用薬学的組成物としてのCYP4Aの阻害剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記のような課題を解決するために、本発明はCYP4A(cytochrome P450 4A)阻害剤を有効成分として含む糖尿病又は脂肪肝の予防又は治療用薬学的組成物を提供する。
【0010】
前記CYP4A阻害剤は、N-ヒドロキシ-N’-(4-ブチル-2-メチルフェニル)-ホルムアミジン又はこれの誘導体である。
【0011】
前記糖尿病は第2型糖尿病である。
【0012】
前記糖尿病は肥満から由来することがある。
【0013】
前記CYP4A阻害剤は小胞体ストレスを抑制する。
【0014】
前記CYP4A阻害剤は血中インシュリン濃度を減少させる。
【0015】
前記CYP4A阻害剤は肝細胞の細胞死滅を抑制する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、CYP4A阻害剤が小胞体ストレスを抑制し、血中インシュリン濃度を減少させ、肝細胞の細胞死滅を抑制することにより、糖尿病又は脂肪肝の予防又は治療に効果を示す。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、10週齢のC57BL/6J又はdb/dbマウスの肝組織から膜蛋白質を分離し、フーリエ(Fourier)変換イオンサイクロトロン共鳴(FT-ICR)質量分析法を利用して蛋白質を確認する過程を模式的に示したものである。
図2図2は、C57BL/6J及びdb/db間のCYP450蛋白質の相対的発現プロファイル(db/db/C57BL6J)を示したもので、C57BL/6J又はdb/dbの内、いずれかで排他的に発現された蛋白質をマウス系統名で示した。
図3図3は、C57BL/6J及びdb/dbマウスからの肝組織のウェスタンブロッティングによりERストレスマーカー及び分子シャペロンの発現を決定した。ER-極小化された蛋白質は、例えば、ATF6,IRE1,PERK,PRP72及びBiPを肝組織のミクロソーム性分画から分析した。
図4図4は、XBP1のスプライシング及びCHOPの転写を、C57BL/6J及びdb/dbマウスの肝組織からのRT-PCRにより決定した。
図5図5は、HET0016の化学構造である。
図6図6は、C57BL/6J及びdb/dbマウスのマウスCYP4AmRNAsの実時間RT-PCRの結果である。
図7図7は、 C57BL/6J及びdb/dbマウスにおいてCYP4A、Cyp2e1及びPORのウェスタンブロット分析の結果である。
図8図8は、CYP4Aの酵素活性分析の結果である。
図9図9は、1g/kgグルコースを2週間5mg/kg/日のHET0016又はDMSOで処理されたC57BL/6J及びdb/dbマウスに腹腔内投与し、表示された時点で血糖計で血糖水準を測定してIPGTTを行った結果を示したものである。データは平均±SEMで示した。
図10図10は、HET0016又はDMSOで処理されたC57BL/6J及びdb/dbマウスから肝切除物を準備してヘマトキシリン-エオシン染色を行った結果である。
図11図11は、脂質過酸化の尺度であるMDA形成をHET0016又はDMSOで処理されたC57BL/6J及びdb/dbマウスの肝組織からTBARS分析測定により評価した。データは平均±SEMで示した。P値をスチューデントt-試験で決定した。*P<0.05、対DMSOで処理されたdb/db対照区マウスを示す。
図12図12は、HET0016又はDMSOで処理され、絶食させたdb/dbマウスからの肝組織のウェスタンブロットによりERストレスマーカー、例えば、PERK、ホスホ -eIF2α、CHOP、ホスホ-JNKの発現を測定したものである。ER-極小化された蛋白質、例えば、CYP4A-及びPERKを肝組織のミクロソーム断片から分析した。HET0016(5mg/kg/日)を2週間8週齢のdb/dbマウスらに腹腔内注射で投与した。
図13図13は、生体内インシュリンシグナリングをインシュリン受容体(IR)及びAktのリン酸化の調査及びHET0016又はDMSO処理され、絶食させたdb/dbマウスの肝組織において伝達されたカスファーぜ-9、Bax及びBcl-2の発現によるアポトーシスを調査した結果である。
図14図14は、図12及び図13に記載された実験条件下でERストレス、インシュリンシグナリング及びアポトーシスマーカーの定量化の結果である。データは平均±SEMで示した。*P<0.05、**P<0.001、対DMSOで処理したdb/db対照区マウス。
図15図15は、6時間絶食した血糖水準を対照群db/db及びHET0016処理されたdb/dbマウスで測定した。
図16図16は、HET0016又はDMSO処理されたC57BL/6J及びdb/dbマウスから血清を収得して酵素-結合免疫吸着分析によりインシュリン水準を測定した結果である。
図17図17は、HepG2肝癌細胞を4μM HET0016無しで又はこれと共に 4μg/mlツニカマイシンで処理した結果を示した。ERストレスがマーカーであるPERK発現は細胞溶解物及び、示した一次抗体を使用してウェスタンブロットにより決定した。
図18図18、HepG2肝癌細胞を4μM HET0016無しで又はこれと共に4μg/mlツニカマイシンで処理した結果を示した。ERストレスマーカーであるp-JNKの発現は細胞溶解物及び一次抗体を使用してウェスタンブロットにより決定した。
図19図19は、2週間5mg/kg/日 HET0016又はDMSOで処理されたC57BL/6Jマウスに1g/kgグルコースを腹腔内注射して、血糖計で血糖水準を測定した結果を示した。データは平均±SEMとして示した。
図20図20は、HET0016又はDMSOで処理されたC57BL/6Jマウスから血清を収得して、酵素-結合免疫吸着分析によりインシュリン水準を測定した結果である。
図21図21は、HET0016又はDMSOで処理されたC57BL/6Jマウスから肝の切除物を準備して、ヘマトキシリン-エオシン染色を行った結果である。
図22図22は、HET0016又はDMSOで処理されたC57BL/6Jマウスから肝の切除物を準備して、中性脂肪を測定した結果である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0019】
本発明は、CYP4A(cytochrome P450 4A)の阻害剤が、小胞体ストレスが誘導された肝インシュリン耐性及びアポトーシス(apoptosis)に対する有力な治療ターゲットであることを確認し、これに前記酵素の阻害剤を肥満から由来した糖尿病と脂肪肝の予防又は治療用薬学的組成物に使用できることを提案する。
【0020】
具体的に、ERストレスは糖尿病の発生にかかわり、ERストレスを調節するメカニズムの基礎を理解することが本発明で極めて重要である。従って、本発明でCYP4Aの特異的阻害剤であるN-ヒドロキシ-N’-(4-ブチル-2-メチルフェニル)-ホルムアミジン(HET0016)又はその誘導体を利用したCYP4Aの生化学及び生理学的特性化を検討することにより、糖尿病での効果及びERストレスが誘導された肝インシュリン耐性及びアポトーシスにおいて、CYP4Aの重要性の究明を試みた。本発明者らの発見は、CYP4A活性の減少が糖尿病と脂肪肝に対する有力な治療ターゲットであることを暗示する。
【0021】
従って、本発明はCYP4A阻害剤を有効成分として含む糖尿病又は脂肪肝の治療又は予防用薬学的組成物を提供する。
【0022】
CYP(cytochrome P450)蛋白質は、NADPH依存性電子伝達(NADPH-dependent electron transport)を媒介してステロイド、脂肪酸、生体異物のような多様な物質を酸化する酵素である。特にCYP4Aは肝と腎臓に発現して、小胞体膜に位置しながら多様な脂肪酸の代謝過程に重要な役割をする。CYPには同一の機能を有するさまざまなスプライシング変異体が存在する。本発明でCYP4Aは、Human Cyp4a11(GI:158937241、NP_000769)、Human Cyp4a22(GI:62952505、NP_001010969)、Mouse Cyp4a10(GI:227116293、NP_034141)、Mouse Cyp4a12a(GI:86198311、NP_803125)、Mouse Cyp4a12b(GI:86198313、NP_758510)又はMouse Cyp4a14(GI:164518936、NP_031848)に記載された配列でもあって、好ましくは、Human Cyp4a11(GI:158937241、NP_000769、配列番号1)又はHuman Cyp4a22(GI:62952505、NP_0010969、配列番号2)でもある。
【0023】
配列番号1
MSVSVLSPSRLLGDVSGILQAASLLILLLLLIKAVQLYLHRQWLLKALQQFPCPPSHWLFGHIQELQQDQELQRIQKWVETFPSACPHWLWGGKVRVQLYDPDYMKVILGRSDPKSHGSYRFLAPWIGYGLLLLNGQTWFQHRRMLTPAFHYDILKPYVGLMADSVRVMLDKWEELLGQDSPLEVFQHVSLMTLDTIMKCAFSHQGSIQVDRNSQSYIQAISDLNNLVFSRVRNAFHQNDTIYSLTSAGRWTHRACQLAHQHTDQVIQLRKAQLQKEGELEKIKRKRHLDFLDILLLAKMENGSILSDKDLRAEVDTFMFEGHDTTASGISWILYALATHPKHQERCREEIHSLLGDGASITWNHLDQMPYTTMCIKEALRLYPPVPGIGRELSTPVTFPDGRSLPKGIMVLLSIYGLHHNPKVWPNPEVFDPFRFAPGSAQHSHAFLPFSGGSRNCIGKQFAMNELKVATALTLLRFELLPDPTRIPIPIARLVLKSKNGIHLRLRRLPNPCEDKDQL
【0024】
配列番号2
MSVSVLSPSRRLGGVSGILQVTSLLILLLLLIKAAQLYLHRQWLLKALQQFPCPPSHWLFGHIQEFQHDQELQRIQERVKTFPSACPYWIWGGKVRVQLYDPDYMKVILGRSDPKSHGSYKFLAPRIGYGLLLLNGQTWFQHRRMLTPAFHNDILKPYVGLMADSVRVMLDKWEELLGQDSPLEVFQHVSLMTLDTIMKSAFSHQGSIQVDRNSQSYIQAISDLNSLVFCCMRNAFHENDTIYSLTSAGRWTHRACQLAHQHTDQVIQLRKAQLQKEGELEKIKRKRHLDFLDILLLAKMENGSILSDKDLRAEVDTFMFEGHDTTASGISWILYALATHPKHQERCREEIHGLLGDGASITWNHLDQMPYTTMCIKEALRLYPPVPGIGRELSTPVTFPDGRSLPKGIMVLLSIYGLHHNPKVWPNLEVFDPSRFAPGSAQHSHAFLPFSGGSRNCIGKQFAMNQLKVARALTLLRFELLPDPTRIPIPMARLVLKSKNGIHLRLRRLPNPCEDKDQL
【0025】
CYP4A阻害剤は、CYP4Aの酵素学的又は生理学的機能を阻害する物質であって、このような活性を示す化合物、CYP4Aに対する抗体又はその他のポリペプチドでもある。
【0026】
前記化合物は好ましくは、N-ヒドロキシ-N’-(4-ブチル-2-メチルフェニル)-ホルムアミジン、ジブロモドデセニルメチルスルホニミド(dibromododecenyl methylsulfonimide,DDMS,American Journal of Pathology 2005,166:615-624)、1-アミノベンゾトリアゾル(1-aminobenzotriazole,ABT,Am J Physiol Renal Physiol 2003,285:F295-F302)又は17-オクタデシノイク酸(17-octadecynoic acid,17-ODA,Am J PhysiolHeart Circ Physiol 2001,280:H1840-H1845)、ミコナゾル(miconazole,WO2002/036108)又はこれらの誘導体でもあって、前記でN-ヒドロキシ-N’-(4-ブチル-2-メチルフェニル)-ホルムアミジンの誘導体は公知のN-ヒドロキシ-N’-(4-ブチル-2-メチルフェニル)-ホルムアミジン誘導体(M.Sato et al.,Bioorg.Med.Chem.Lett.11(2001)2993-2995,表1参照)でもある。
【0027】
N-ヒドロキシ-N’-(4-ブチル-2-メチルフェニル)-ホルムアミジンの誘導体は下記化学式に記載されたものでもある。
【0028】
【化1】
【0029】
【化2】
【0030】
【化3】
【0031】
【化4】
【0032】
【化5】
【0033】
前記化学式で略語は下記の通りである。Me(メチル、methyl)、Et(エチル、ethyl)、i-Pr(イソプロピル、isopropyl)、Bu(ブチル、butyl)、s-BU(sec-butyl,secondary butyl)、t-Bu(tert-butyl,tertiary butyl)、phCH2(benzyl)、prO(propoxy)。
【0034】
一方、CYP4Aの阻害剤は、酵素そのものの阻害剤は勿論、CYP4A生成を抑制する物質でもある。CYP4Aの生成は、遺伝子発現などを通じて細胞内でCYP4Aが発現されることを意味し、CYP4A生成を抑制する物質は、CYP4A遺伝子に対するアンチセンスRNA又はsiRNA(small interference RNA)でもある。
【0035】
本発明のCYP4Aの阻害剤は、糖尿病又は脂肪肝の治療又は予防の目的で有用に利用される。
【0036】
糖尿病はインシュリン不足による代謝障害の一種であって、遺伝的原因又は肥満、感染、妊娠などの後天的原因により発生する疾患である。本発明の糖尿病は第2型糖尿病でもあって、これは肥満から由来したものでもある。
【0037】
脂肪肝は、肝に脂肪、特に中性脂肪が非正常的に蓄積された状態を現したもので、アルコール性脂肪肝、過栄養による脂肪肝又は糖尿病性脂肪肝などがある。
【0038】
本発明のCYP4A阻害剤は小胞体ストレスを抑制し、血中インシュリン濃度を減少させて、肝細胞の細胞死滅を抑制するメカニズムで作用する。
【0039】
一方、本発明は、CYP4A阻害剤をこれを必要とする個体に有効量で投与する段階を含む糖尿病又は脂肪肝の治療方法を提供する。本発明は、糖尿病又は脂肪肝の治療剤の製造のためのCYP4A阻害剤の用途を提供する。
【0040】
本発明で“有効量”とは、本発明の組成物又は製剤が、投与対象の個体内で糖尿病又は脂肪肝を治療する効果を示す量を意味し、前記“個体”とは、動物、好ましくは哺乳動物、特にヒトを含む動物でもあって、動物から由来した細胞、組織、器官などでもある。前記個体は治療が必要な患者でもある。
【0041】
本発明の組成物は薬学的組成物でもあり、本発明による薬学的組成物は前記ペプチド、薬物又は薬剤、標識物質又はこれらの組合わせの純粋な形態又は薬学的に許容される担体とともに、適合した形態で剤形化することにより提供できる。“薬学的に許容される”とは、生理学的に許容され、ヒトに投与された際、一般的に胃腸障害、眩気症などのようなアレルギー反応又はこれと類似した反応を起こさない非毒性の組成物を意味する。前記担体には全ての種類の溶媒、分散媒質、水中油又は油中水エマルジョン、水性組成物、リポソーム、マイクロビド及びマイクロソム、生分解性ノナ粒子などが含まれる。好ましくは本発明による薬学的組成物0.001〜99.999重量%及び薬学的に許容される担体99.999〜0.001重量%を含むことができる。
【0042】
一方、本発明による薬学的組成物は、投与経路によって、適合した担体とともに剤形化することができる。前記本発明による薬学的組成物の投与経路は、これに限定はされないが、経口的又は非経口的に投与できる。非経口的投与経路には例えば、経皮、鼻腔、腹腔、筋肉、皮下又は静脈などの多様な経路が含まれる。
【0043】
本発明の薬学的組成物を経口投与する場合、本発明の薬学的組成物は適合した経口投与用担体とともに当業界に公知の方法により粉末、顆粒、錠剤、丸剤、糖衣錠剤、カプセル剤、液剤、ゲル剤、シロップ剤、懸濁液、ウェハーなどの形態で剤形化することができる。適合した担体の例にはラクトース、デキストロース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、キシリトール、エリスリトール及びマルチトールを含む糖類とトウモロコシ澱粉、小麦澱粉、米澱粉及び馬鈴薯澱粉などを含む澱粉類、セルロース、メチルセルロース、ナトリウムカルボキシメチルセルロース及びヒドロキシプロピルメチル-セルロースなどを含むセルロース類、ゼラチン、ポリビニルピロリドンなどのような充填剤が含まれる。さらに、場合によっては架橋結合ポリビニルピロリドン、寒天、アルギン酸又はナトリウムアルギナートなどを崩解剤として添加することができる。前記薬学的組成物は抗凝集剤、潤滑剤、湿潤剤、香料、乳化剤及び防腐剤などを追加して含められる。
【0044】
さらに、非経口的に投与する場合、本発明の薬学的組成物は適合した非経口用担体とともに、注射剤、経皮投与剤及び鼻腔吸込み剤の形態で当業界に公知の方法によって剤形化することができる。前記注射剤の場合には必ず滅菌しなければならず、バクテリア及び真菌のような微生物の汚染から保護されるべきである。注射剤の場合、適合した担体の例ではこれに限定はされないが、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール及び液体ポリエチレングリコールなど)、これらの混合物及び/又は植物油を含む溶媒又は分散媒質でもある。より好ましくは、適合した担体にはハンクス溶液、リンゲル溶液、トリエタノールアミンが含まれたPBS(phosphate buffered saline)又は注射用滅菌水、10%エタノール、40%プロピレングリコール及び5%デキストロースのような等張溶液などを使用することができる。前記注射剤を微生物汚染から保護するためには、パラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸、チメロサールなどのような多様な抗菌剤及び抗真菌剤を追加して含むことができる。さらに、前記注射剤は大部分の場合、糖又はナトリウムクロライドのような等張化剤を追加して含むことができる。これらの剤形は製薬化学に一般的に知られた処方箋である文献(Remington's Pharmaceutical Science,15th Edition,1975,Mack Publishing Company,Easton,Pennsylvania)に記述されている。
【0045】
吸込み投与剤の場合、本発明により使用される化合物は、適合した推進剤、例えば、ジクロロフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、ジクロロテトラフルオロエタン、二酸化炭素又は他の適合した気体を使用して、加圧パック又は煙霧機からエアロゾルスプレーの形態で便利に伝達することができる。加圧エアロゾルの場合、投薬単位は計量された量を伝達する弁を提供して決めることができる。例えば、吸込み器又は吹込み器に使用されるゼラチンカプセル及びカートリッジは化合物、及びラクトース又は澱粉のような適合した粉末基剤の粉末混合物を含むように剤形化することができる。
【0046】
その他の薬学的に許容される担体には、下記の文献に記載されていることを参考にできる(Remington's Pharmaceutical Science,19th ed.,Mack Publishing Company,Easton,PA,1995)。
【0047】
本発明による薬学的組成物は一つ以上の緩衝剤(例えば、食塩水又はPBS)、カボハイトレート(例えば、グルコース、マンノス、スクロース又はデキストラン)、安定化剤(亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸ナトリウム又はアスコルビン酸)、抗酸化剤、静菌剤、キレート化剤(例えば、、EDTA又はグルタチオン)、アジュバント(例えば、アルミニウムヒドロキサイド)、懸濁剤、濃厚剤及び/又は保存剤(ベンズアルコニウムクロライド、メチル又はプロピルパラベン及びクロロブタノール)を追加して含むことができる。
【0048】
本発明の薬学的組成物は、哺乳動物に投与された後、活性成分の迅速、遅速又は遅延された放出を提供できるように、当業界に公知の方法を使用して剤形化することができる。
【0049】
前記のような方法により剤形化された薬学的組成物は、有効量で経口、経皮、皮下、静脈又は筋肉を含むさまざまな経路を通じて投与することができる。前記で“有効量”とは、患者に投与した時、診断又は治療効果の追跡を可能にする化合物又は抽出物の量を意味する。本発明による薬学的組成物の投与量は、投与経路、投与対象、代謝疾患及びこれの重症度、年齢、性別、体重、個人差及び疾病状態によって適切に選択できる。好ましくは、本発明のペプチドを含む薬学的組成物は、疾患の程度によって有効成分の含量を異にすることができるが、一般的に成人を基準にした時、1回投与の際、10μg乃至10mgの有効量で1日複数回繰返し投与することができ、対象によって1日当り0.001-100mg/kg(体重)で投与することができる。
【0050】
参考に、本発明で言及したヌクレオチド及び蛋白質作業には下記の文献を参照することができる (Maniatis et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor, N.Y.(1982); Sambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 2d Ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press(1989); Deutscher, M., Guide to Protein Purification Methods Enzymology, vol. 182. Academic Press. Inc., San Diego, CA(1990))。
【実施例】
【0051】
以下、本発明を実施例により詳細に説明する。
【0052】
ただし、下記実施例は本発明を例示するものであるのみ、本発明の内容が下記実施例に限定されるものではない。
【0053】
<実験方法>
1.動物及び組織学実験
雄C57BL/6J及びC57BL/KsJ-db/dbマウスをJapan SLCより購買した。HET0016(5mg/kg/日)及びクロフィブレート(400mg/kg/日)を8週齢マウスに2週間腹腔内注射した。HET0016に対する同腹子(littermatr)マウス対照群はDMSOで処理し、クロフィブレートに対する同腹子マウス対照群はトウモロコシ油で処理した。一夜絶食させてPBS中に溶解させた1g/kgグルコースを腹腔内に注射することにより、腹腔内耐糖性試験(IPGTT)を実施した。グルコース注射前(0分)及び注射後15、30、60、90及び120分にOne Touch Ultra血糖計を利用して血糖濃度を測定した。10週齢マウスから分離された肝を10%中性バッファー化されたホルマリン溶液中で固定させ、パラフィン切除物をヘマトキシリン-エオシンで染色した。
【0054】
2.細胞培養及び化学処理
HepG2細胞を熱-不活性化された10%牛胎児血清(FBS)及び抗生剤で補充されたジャグルコースツルベコ変形イーグル培地(DMEM,Gibco)中で37℃、湿潤された5%CO2及び95%空気中で培養した。細胞を3×104細胞/cm2の密度でプレーティングして、処理前24時間細胞培養培地で維持した、4μg/mlのツニカマイシンを6時間HET0016無しで4μMHET0016で処理した。対照群としてHepG2細胞をDMSOで処理した。
【0055】
3.膜蛋白質の分離及び質量分光法
前述した通り、炭酸ナトリウムを使用してC57BL/6J又はdb/dbマウスの肝から膜蛋白質を分離した。マウスの肝を均質化して肝溶解を0℃で30分間pH11.5,100mM炭酸ナトリウムで希釈させた。懸濁液を50,000rpmで4℃で1時間遠心分離した。膜ペレットを蒸留水で濯いで、PAGE用SDSに溶解させた。質量分光法のため、10μgの蛋白質サンプルを12%SDS-PAGEで分離した。ゲルをクマシブリリアントブルー(Coomassie Brilliant Blue)R-250で染色して、分子量によって6部分に分画化した。各ゲル断片をその蛋白質のシステインの還元及びアルキル化後、37℃で16時間トリプシン(1.2μg)で分解させた。分解されたペプチドを抽出溶液(50mM重炭酸アンモニウム、50%アセトニトリル、及び5%トリフルオロアセト酸)で抽出した後、0.02%ホルム酸及び0.5%アセト酸を含むサンプル溶液中に溶解させた。質量分光法に適用するために、ペプチドサンプルをEasy-columnTM(L 2cm,ID 100μm,120Å,C18-A1)トラッピング(trapping)カラム(PROXEON)上で濃縮後、前記カラムから溶離させ、Easy-columnTM(L 10cm,ID 75μm,120Å,C18-A2)逆上カラム(PROXEON)で200nl/分の流速に向うようにした。ペプチドを0〜65%アセトニトリル勾配により120分間溶離させた。LTQ-VelosESTイオントラップ質量分光計(Thermo Scientific)における全てのMS及びMS/MSスペクトルはデータ依存モードで獲得された。それぞれの全体MS(300乃至2,000のm/z範囲)スキャン後、動的排除を可能にして、MSスペクトルで最も多い前駆体イオンの3回のMS/MSスキャンを行った。蛋白質確認のためMASCOT(Matrix Science)でMS/MSスペクトルを検索した。ヒトのゲノム配列を蛋白質確認用データベースとして使用した。父母イオン又は断片イオンの質量耐性は0.8Daであった。トリプシン性ペプチドの多様な変更としてMS/MS分析でシステインカバミドメチル化及びメチオニンの酸化を考慮した。
【0056】
4.マウスの肝からのミクロソームの製造
新鮮なマウスの肝から前記で説明した方法を若干変更して肝ミクロソームを製造した。分離した肝に氷冷された1.15%KCl溶液を適切に散布した。その後、肝を4倍量の均質化バッファー(0.1M Tris-HCl,pH7.4;0.1M KCl;1mM EDTA,pH7.5;25μMブチル化ヒドロキシトルエン)を利用して均質化した。破壊されていない細胞、核及びミトコンドリアを除去するため、前記均質物を低遠心分離力(1,000×g,4℃で15分間だけ)で遠心分離した。上澄液からより高い遠心分離力(100,000×g、4℃で60分間)で、ミクロソームを沈殿させた。ミクロソームの硬く固まったペレットを均質化機を利用して、3mlの氷冷されたピロリン酸塩バッファー(0.1Mカリウムピロホスフェート:1mM EDTA、pH7.5:20μMブチル化ヒドロキシトルエン)中に再懸濁させ、4℃で60分間、100,000×gで再度遠心分離させた。洗浄されたミクロソームペレットを最終的に2mlの氷冷されたミクロソームバッファー(10mM Tris-HCl,pH7.4;1mM EDTA,pH7.5;20%グリセロール)に懸濁させた。
【0057】
5.ウェスタンブロット分析
蛋白質を95%で沸騰させて、SDS-PAGEで分離し、ニトロセルロース(NS)又はポリビニリデンフルオライド(PVDF)膜上で電気ブロッティングした。5%無脂肪牛乳又は5%牛血清アルブミン(BSA)を含むTBST(Tris-バッファー化食塩水、0.1%Tween-20)中でブロッキングした後、前記膜を標識された一次抗原と共にインキュベーションさせた。以降、TBSTで洗浄して追加してワサビ過酸化剤とカップリングされた2次抗原とインキュベーションさせた。ECLキットを利用して蛋白質ブロットを検出して、発光映像分析器LAS-4000ミニシステム及びソフトウェアを利用して可視化した。下記抗体を使用した:マウス抗-β-アクチン(sc-47778)、ウサギ抗-CYP4A(sc-98988,Santa Cruz Biotechnology)、マウス抗-ATF6(IMG-273,Imgenex)、マウス抗-eI2α(ab5369)、ウサギ抗-ホスホ-eIF2α Ser51(ab32157)、ウサギ抗-IRE1(ab37073,Abcam)、ウサギ抗-PERK#3192)、ウサギ抗-ホスホ-PERKThr980(#3179)、ウサギ抗-BiP(#3177)、マウス抗-CHOP(#2895)、ウサギ抗-SAPK/JNK(#9252)、ウサギ抗-ホスホ-SAPK/JNK Thr813/Tyr185(#9251)、ウサギ抗-インシュリン受容体β(#3025)、ウサギ抗-ホスホ-インシュリン受容体βtyr1150/1151(#3024)、ウサギ抗-Akt(#4691)、ウサギ抗-ホスホ-Akt Ser473(#4060)、ウサギ抗-Bcl-2(#2876)、ウサギ抗-Bax(#2772)、ウサギ抗-分割されたカスファーゼ-3(#9664)、ウサギ抗-分割されたカスファーゼ-9(#9509)、ウサギ抗-Bax(#2772、Ceel Signaling Technology)、ウサギ抗-ERP72(Dr.O.Y.Kwon,College of Medicine,Chungnam National Universityより提供された)。
【0058】
6.逆転写及び実時間 RT-PCR
総RNAを抽出するため、マウスの肝組織をTRI試薬(Molecular Research Center,Inc)と共に均質化して、4℃で10分間12,000rpmで遠心分離した。相分離のために均質化に使用されたTRI試薬1ml当りBCP(1-ブロモ-3-クロロプロパン、Molecular Research Center,Inc)0.1mlと共に上澄液を混合した。4℃で10分間12,000rpmで遠心分離した後、水相を追加のフェノールークロロホルム抽出に使用し、総RNAをRnaseが無い水中に沈殿及び溶解させた。抽出されたRNAをランダム6量体プライマーを使用してTranscriptor First Strand cDNA Sybthesis Kit(Roche)を利用することにより、逆転写した。LightCycler 480DNA SYBR Green I Master(Roche)を利用して実時間PCRを行い、Real-Time PCR System(Roche)を製造者の説明により利用してPCR産物を検出した。下記プライマーを使用した。CYP4A10,5'-AGCCACAAGGGCAGTGTTCAGG-3'(順方向)及び5'-CCAAGCGGCCATTGGAAGAAAG-3'(逆方向);CYP4A12,5'-GCCTTATACGGAAATATGGca-3'(順方向)及び5'-TGGAATCCTGGCCAACAATC-3'(逆方向);CYP4A14,5'TGAATTGCTGCCAGATCCCACCAGGATC-3'(順方向)及び5'GTTCAGTGGCTGGTCAGA-3'(逆方向);XBP1、5'-AAACAGAGTAGCAGCGCAGACTGC-3'(順方向)及び5'-GGATCTCTAAAACTAGAGGCTTGGTG-3'(逆方向);CHOP、5'-CATACACCACCACACCTGAAAG-3'(順方向)及び5'-CCGTTTCCTAGTTCTTCCTTGC-3'(逆方向)。
【0059】
7.代謝産物の測定
マウスの犠牲時に、心臓に孔をあけて血液を採取した。商業的マウスインシュリンELISAキット(Shibayagi Co.,Ltd)を利用して製造者の説明に従って血清インシュリン濃度を測定した。OxiSelectTMTBARS Assay Kit(Ceel Biolabs,Inc)を使用して肝の均質化物の中で脂質過酸化反応の天然副産物である MDA(マロンジアルデヒド)を定量化することにより、脂質過酸化を測定した。Triglyceride Quantification Kit(Abcam)を使用してマウスの肝からトリグリセリド水準を測定した。
【0060】
8.CYP4A酵素活性分析
対照群及びdb/dbマウスの肝ミクロソーム抽出物により、ロリン酸生成物を気体クロマトグラフィー/質量分光器(GC/MS)で測定した。100μMロリン酸と対照群及びdb/db マウスの0.2mg肝ミクロソーム抽出物を37℃で30分間、0.5mlの100mMリン酸カリウムバッファー(pH7.4)中にインキュベーションすることにより、代謝産物を生成させた。インキュベーション後、CH2 Cl3を利用して代謝産物を抽出し、有機溶媒を窒素流下で除去した。残留物をトリメチルクロロシラン(1%,v/v)を含むN,O-ビス(トリメチルシリル)-トリフルオロアセトアミド(BSTFA: 50μl)中に溶解させた。溶液をガラスのバイアルに移して、75℃で20分間インキュベーションし、トリメチルシリル化生成物を算出した。電子-衝撃イオン化を利用したShimadzu QP2010(カラム長:30cm、内部直径:0.25mm、フィルム厚:0.1μm)上で分析を実施した。GCオーブンを70℃で1分間、引き続き下記速度で上昇するようにプログラムした。179℃まで25℃/分、200℃まで5℃/分、及び280℃まで20℃/分、オーブンを最後に280℃で5分間維持させた。MSソース及びインタフェースは250℃及び280℃でそれぞれ維持され、4分の溶媒遅延を利用した。生成物をそれらの一般的な質量分画パターンにより確認した。生成物の分布はガスクロマトグラムの相対的ピーク面積に基づいた。
【0061】
<実験結果>
まず、本発明者らは正常の肝及び2型糖尿病肝から異なって発現された全てのCYP蛋白質を確認するために試みた。これを達成するため肥満が誘導されたT2DMが発生した10週齢C57BL/6J対照群及びdb/dbマウスから肝組織を分離した。その後、膜蛋白質を分離して、フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴質量分光法(図1)により確認した。その結果、本発明者らは正常の肝及びdb/dbマウスの肝において、動的発現パターンを示す総54個のCYP蛋白質を確認した(図2)。CYP2E1及びCYP4Aは、相補的に肝脂肪症において脂肪ファオキシダーゼのミクロソーム(microsomal)触媒として主要役割をし、POR(NADPHシトクロムP450還元剤)は全てのCYP450sに対する唯一の電子供与体であるので、本発明者らはCYP2E1、CYP4A及びPORの発現パターンを示した。対照群に比べてdb/dbマウスからCYP4Aイソフォーム(isoforms)のCYP4A10、12及び14は上向調節されたが、CYP2e1の発現は若干減少される反面、PORの発現は類似することを確認した(図2)。プロテオミックス(proteomics)結果を立証するために、実時間RT-PCR及びウェスタンブロット分析を行った。質量分光法で観察された通り、CYP4Aイソフォームは糖尿性肝で高度に発現し(図6及び図7)、ミクロソーム性CYP4Aの酵素的活性も上昇した(図8)。しかし、CYP2e1及びPORの発現は上向調節されず(図7)、CYP2E1でないCYP4Aが肝T2DM発生の主要調節剤として作用することを示した。
【0062】
CYP4Aはマウスから脂肪酸、特に、ラウリン酸(LA)及びアラキドン酸(AA)のω-ヒドロキシル化を触媒するものとして知られている。糖尿病でCYP4Aの役割を研究するために、本発明者らはCYP4A-特異的阻害剤であるHET0016(N-ヒドロキシ-N'-(4-ブチル-2-メチルフェニール)-ホルムアミジン(図5))を使用した。これは、これらの脂肪酸に対する酵素活性を阻害する。HET0016を2週間8週齢db/dbマウスに腹腔内注射(5mg/kg/日)で投与した。まず、本発明者らは糖尿病生理学に対するHET0016の影響を検査した。腹腔内耐糖性試験(IPGTT)は、HET0016を利用したCYP4A活性の阻害が糖尿病マウスにおけるインシュリン耐性を顕著に改善させたことを示した(図9)。糖尿病マウスからHET0016により血糖水準が減少した(図15)。C57BL/6J対照群マウスでのインシュリン水準より顕著に高かったdb/dbマウスから、血清インシュリン水準はHET0016処理によるインシュリン耐性における減少により顕著に減少した(図13)。さらに、db/db糖尿病肝での深刻な肝脂肪症がHET0016により救済された(図10)。本発明者らはERストレスと関連し、T2DM患者で上昇するCYP4Aと肝過酸化肝の関係も測定した。実際に肝脂肪過酸化は正常のC57BL/6Jマウスに比べてdb/dbマウスで増加し、このような増加はHET0016処理により顕著に減少した(図11)。本発明者らの実験データは、CYP4A活性の肝阻害がdb/dbマウスでCYP4A活性を改善させることを示した。
【0063】
本発明者らはHET0016による生体内糖尿病生理学の観察された改善が、肥満が誘導された糖尿病を起こすERストレスに対する影響によるものであるか否かを評価した。UPRの成分は、生理学的条件の下では有利な調節剤として作用し、慢性ストレス状態では細胞機能不全及びアポトーシスの触発剤として作用する二重の役割をする。細胞株系でATF6、IRE1、及びPERKシグナリングの組み合わされた初期活性化は、細胞保護信号を生成する。一方、PERK活性化の維持と連結されたATF6及びIRE1の下向調節はアポトーシス性細胞死滅を誘導する。糖尿病肝でUPRシグナリングの状態を調査するために、本発明者らはUPR成分の発現を試験した。db/dbマウス肝からATF6及びIRE1の発現は減少し(図3)、XBP1のスプライシング(splicing)は抑制された(図4)。さらに、ERP72及びBiPのような分子シャペロンの発現水準もdb/dbマウスで減少した。しかし、PERKだけが上向調節され、そのダウンストリーム(downstream)シグナリングは糖尿病肝で活性化され(図3)、糖尿病マウスの肝が、延長されたERストレスによる甚だしいアポトーシス状態であることを示した。db/dbマウスへのCYP4A阻害剤であるHET0016の接種時に、PERKの発現が減少され、eIF2αのリン酸化状態及びCHOPの発現水準のようなPERKダウンストリームシグナリング活性も阻害された(図12及び図14)。ERストレス反応の重要な成分であるJNK活性化が、HET0016により顕著に減少された。しかし、CYP4Aは、HET0016により発現されなかった(図12及び図14)。
【0064】
最近の報告では、ERストレスが媒介したJNK活性化が、インシュリン活性を妨害して肝でアポトーシスを誘導することが証明された。これらの報告を考慮して、前記発見は本発明者らがインシュリン耐性及びアポトーシスに対する研究を急がせた。db/dbマウスにおいてHET0016を利用したCYP4A活性の阻害は、インシュリン受容体(ER)及びAktのリン酸化を増加させたが、これはインシュリンシグナリングが糖尿病肝でHET0016処理により救済されたことを意味する(図及13び図14)。さらに、糖尿病肝組織のアポトーシスもHET0016により阻害された。カスファーゼ-3及びカスファーゼ-9の活性形態の濃度が減少し、死滅-選好(pro-death)蛋白質であるBaxの発現が抑制された。抗-アポトーシス調節剤Bcl-2の発現は増加した(図13及び図14)。従って、このような結果は、CYP4Aが、T2DMにおいてERストレスが誘導されたインシュリン耐性及びアポトーシスの重要な調節剤であることを強く示唆するものである。このようなアイデアの裏付けとして本発明者らはCYP4Aの特異的誘導剤であるクロフィブレート(clofibrate)によるCYP4Aの注射が、db/dbマウスでPERK、eIF2α及びJNKの活性化及びCHOP発現を上昇させる結果を招くことも見出だした。さらに、インシュリン耐性及びアポトーシスも顕著に調節された。
【0065】
以降、本発明者らはHET0016によるERストレスの観察された生体内改善が、HET0016のERストレスに対する直接的な細胞の自発的な効果によるものであるか、又は多様な経路の内、複雑な生体内相互作用の間接的な結果によるものであるか否かを決定しようとした。4μg/mlのツニカマイシンによりHepG2肝癌細胞からERストレスが誘導された場合、予測された通り、PERK、ホスホ-eIF2α及びホスホ-JNKの発現が増加した。4mM HET0016との併用処理は、HepG2細胞から3個全てのERストレスの発現を顕著に下向調節し(図17及び図18)、これはHET0016が細胞性ERストレスを直接的に改善させることを暗示する。
【0066】
残りの問題の内の一つは、正常マウスでのCYP4A阻害が、T2DMの治療のための治療オプションとして、CYP4A阻害の利用に対する障害でもある副作用を起こすか否かである。この目的のために、8週齢の雄野生型C57BL/6Jマウスにdb/dbマウスに注射したのと同一のHET0016を同一投与量で腹腔内に投与した。IPGTT結果は、インシュリン耐性が変更されず(図19)、血清インシュリン水準(図20)又は肝生理学(図21)、及び中性脂肪(図22)において、何等の差も観察されなかったことを証明した。
【0067】
このように、本発明者らは、T2DMの発生でマウスモデルを利用してCYP4Aの生理学的及び機能性の重要性を証明した。これはCYP4Aが、ERストレスが誘導された肝インシュリン耐性及びアポトーシスを調節する分子的メカニズムを示す最初の研究である。さらに、HET0016を利用した本発明者らの発見はERストレスを減少させ、耐糖性を増加させて肝脂肪症及びアポトーシスを減少できる、CYP4A活性を効果的に減少させる目的の治療剤開発のための新たな洞察を提供するものである。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明によれば、CYP4A阻害剤は小胞体ストレスを抑制して、血中インシュリン濃度を減少させ、肝細胞の細胞死滅を抑制することにより糖尿病又は脂肪肝の予防又は治療に効果を示すので産業上の利用可能性がある。
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【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]