特許第5901881号(P5901881)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5901881太陽電池向け増感剤、およびこれを用いた太陽電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5901881
(24)【登録日】2016年3月18日
(45)【発行日】2016年4月13日
(54)【発明の名称】太陽電池向け増感剤、およびこれを用いた太陽電池
(51)【国際特許分類】
   H01L 31/0216 20140101AFI20160331BHJP
   H01L 31/0224 20060101ALI20160331BHJP
   H01L 31/18 20060101ALI20160331BHJP
   H01L 31/042 20140101ALI20160331BHJP
   H01L 31/044 20140101ALI20160331BHJP
【FI】
   H01L31/04 240
   H01L31/04 266
   H01L31/04 422
   H01L31/04 500
   H01L31/04 520
【請求項の数】3
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2011-27954(P2011-27954)
(22)【出願日】2011年2月11日
(65)【公開番号】特開2012-169380(P2012-169380A)
(43)【公開日】2012年9月6日
【審査請求日】2013年9月27日
【審判番号】不服2015-9490(P2015-9490/J1)
【審判請求日】2015年5月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100148219
【弁理士】
【氏名又は名称】渡會 祐介
(72)【発明者】
【氏名】山崎 和彦
(72)【発明者】
【氏名】米澤 岳洋
(72)【発明者】
【氏名】日向野 怜子
(72)【発明者】
【氏名】泉 礼子
【合議体】
【審判長】 恩田 春香
【審判官】 近藤 幸浩
【審判官】 山口 裕之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−123675(JP,A)
【文献】 特開2009−38352(JP,A)
【文献】 特開2008−185580(JP,A)
【文献】 国際公開第2006/006349(WO,A1)
【文献】 特開2008−166697(JP,A)
【文献】 特開2011−23526(JP,A)
【文献】 特開2010−278048(JP,A)
【文献】 特開2001−35551(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L31/04 - 31/078
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
発電層、透明導電膜および電極を有し、発電層と透明導電膜との間、または透明導電膜と電極との間に、太陽電池向け増感剤を含む太陽電池向け増感層を備える、シリコンへテロ接合型またはスーパーストレート型太陽電池であって、
太陽電池向け増感剤は、表面に透明層が形成された、表面プラズモン共鳴を生じる金属ナノ粒子であり、
太陽電池向け増感剤の金属ナノ粒子の金属が、パラジウムであるか、または金、銀および銅からなる群より選ばれる少なくとも1種とパラジウムとの混合金属もしくは合金であり、かつ金属ナノ粒子の平均粒径が、20〜300nmであり、
太陽電池向け増感剤の透明層が、SiOアクリル樹脂ポリエステルまたはポリウレタンであり、かつ透明層の厚さが、〜20nmである、
太陽電池。
【請求項2】
太陽電池の発電層上、透明導電膜上または電極上に、太陽電池向け増感層用組成物を、湿式塗工法により塗布する、シリコンへテロ接合型またはスーパーストレート型太陽電池向け増感層の製造方法であって、
太陽電池向け増感層用組成物は、太陽電池向け増感剤と、分散媒とを含み、
太陽電池向け増感剤は、表面に透明層が形成された、表面プラズモン共鳴を生じる金属ナノ粒子であり、
太陽電池向け増感剤の金属ナノ粒子の金属が、パラジウムであるか、または金、銀および銅からなる群より選ばれる少なくとも1種とパラジウムとの混合金属もしくは合金であり、かつ金属ナノ粒子の平均粒径が、20〜300nmであり、
太陽電池向け増感剤の透明層が、SiOアクリル樹脂ポリエステルまたはポリウレタンであり、かつ透明層の厚さが、〜20nmである、
太陽電池向け増感層の製造方法。
【請求項3】
湿式塗工法がスプレーコーティング法、ディスペンサーコーティング法、スピンコーティング法、ナイフコーティング法、スリットコーティング法、インクジェットコーティング法、スクリーン印刷法、オフセット印刷法またはダイコーティング法のいずれかである、請求項2記載の太陽電池向け増感層の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽電池の発電層内部または発電層の界面に成膜されることで、金属ナノ粒子の表面プラズモン効果による高い変換効率の実現が期待できる太陽電池向け増感剤に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、環境保護の立場から、クリーンなエネルギーの研究開発が進められている。中でも太陽電池は、その資源である太陽光が無限であること、無公害であることなどから注目を集めている。従来、太陽電池による太陽光発電には、単結晶または多結晶シリコンが多く用いられてきた。
【0003】
一方、アモルファスシリコンなどの半導体を用いた、いわゆる薄膜半導体太陽電池(以下薄膜太陽電池という)は、ガラスまたはステンレススチール等の安価な基板上に、光電変換層である半導体層を必要なだけ形成すればよい。したがって、この薄膜太陽電池は、薄型で軽量、製造コストの安さ、大面積化が容易であることなどから、今後の太陽電池の主流になる、と考えられている。
【0004】
これらの太陽電池の発電効率、すなわち光電変換効率を高めるためには、入射した光を損失なく発電層内に導き利用することが重要である。そのための革新的な手法として、金属ナノ粒子に誘起される表面プラズモンによる近接場光を利用する試みが行われており、n−ドープされた電荷輸送層とp−ドープされた電荷輸送層の各電化輸送層間に形成される、表面プラズモンまたはポーラロン機構を通じて近赤外線等を吸収するナノ粒子を含む感光層(特許文献1)や、表面プラズモン共鳴を生じる金属ナノ粒子による金属電極が形成された、P型薄膜半導体層とN型薄膜半導体層の接合体を備える太陽電池(特許文献2)が、報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2009−533857号公報
【特許文献2】特開2009−246025号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、n−ドープされた電荷輸送層とp−ドープされた電荷輸送層の各層間に形成される感光層は、金属ナノ粒子が直接発電層に接すると、各電荷輸送層中に金属が拡散し、長期信頼性が得られない、という問題がある。
【0007】
金属ナノ粒子によって形成される金属電極を備える太陽電池においては、薄膜半導体層と金属電極が接しているので、薄膜半導体層中に金属が拡散し、長期信頼性が得られない、という問題がある。
【0008】
一方、基板表面に、発電層と金属ナノ粒子が接しないように、金属ナノ粒子を含む膜を形成する方法では、金属ナノ粒子の表面プラズモン共鳴から生じる近接場光と、発電層との距離が遠く、十分な増強効果は得られない。
【0009】
本発明は、発電層への金属の拡散を抑制し、かつ金属ナノ粒子の表面プラズモン共鳴から生じる近接場光(以下、表面プラズモン効果という)による高い発電効率の実現が期待できる太陽電池向け増感剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、以下に示す構成によって上記課題を解決した太陽電池向け増感剤、増感層用組成物、増感層、およびこれを用いた太陽電池に関する。
(1)表面に透明層が形成された、表面プラズモン共鳴を生じる金属ナノ粒子であることを特徴とする、太陽電池向け増感剤。
(2)金属ナノ粒子の金属が、金、銀、銅もしくはパラジウムであるか、または金、銀、銅およびパラジウムからなる群より選ばれる少なくとも2種の混合金属もしくは合金である、上記(1)記載の太陽電池向け増感剤。
(3)金属ナノ粒子の平均粒径が、5〜300nmである、上記(1)または(2)記載の太陽電池向け増感剤。
(4)透明層が、SiO、TiOもしくはZrOであるか、またはSiO、TiOおよびZrOからなる群より選択される少なくとも2種の混合物である、上記(1)〜(3)のいずれか記載の太陽電池向け増感剤。
(5)透明層が、アクリル樹脂、ポリカーボネート、ポリエステル、アルキッド樹脂、ポリウレタン、アクリルウレタン、ポリスチレン、ポリアセタール、ポリアミド、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、セルロースおよびシロキサンポリマからなる群より選ばれる少なくとも1種である、上記(1)〜(3)のいずれか記載の太陽電池向け増感剤。
(6)透明層の厚さが、1〜20nmである、上記(1)〜(5)のいずれか記載の太陽電池向け増感剤。
(7)上記(1)〜(6)のいずれか記載の太陽電池向け増感剤と、分散媒とを含む、太陽電池向け増感層用組成物。
(8)上記(1)〜(6)のいずれか記載の太陽電池向け増感剤を含む、太陽電池向け増感層。
(9)上記(8)記載の太陽電池向け増感層を備える、太陽電池。
【0011】
また、本発明は、太陽電池向け増感層の製造方法に関する。
(10)太陽電池の発電層上、透明導電膜上または電極表面に、上記(7)記載の太陽電池向け増感層用組成物を、湿式塗工法により塗布することを特徴とする、太陽電池向け増感層の製造方法。
(11)湿式塗工法がスプレーコーティング法、ディスペンサーコーティング法、スピンコーティング法、ナイフコーティング法、スリットコーティング法、インクジェットコーティング法、スクリーン印刷法、オフセット印刷法またはダイコーティング法のいずれかである、上記(10)記載の太陽電池向け増感層の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明(1)によれば、金属ナノ粒子の表面プラズモン効果により発電効率が高くなり、透明層により長期安定性の良い太陽電池を提供することができる。また、この太陽電池向け増感剤は、発電層内、発電層と電極との間のいずれにも含有させることができる。
【0013】
本発明(7)によれば、太陽電池の光電変換効率を高くし、長期安定性を良くする太陽電池向け増感層を製造することができる。また、本発明(9)によれば、太陽電池の発電効率を高くし、長期安定性を良くすることができる。したがって、本発明(11)の太陽電池は、発電効率が高く、長期安定性が良い。
【0014】
本発明(12)によれば、太陽電池の発電効率を高くし、長期安定性を良くする太陽電池向け増感層を容易に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】増感剤を使用したシリコンへテロ接合型太陽電池の断面図の一例である。
図2】スーパーストレート型太陽電池の断面図の一例である。
図3】スーパーストレート型太陽電池の断面図の一例である。
図4】シリコンへテロ接合型太陽電池の断面図の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施形態に基づいて具体的に説明する。なお、%は特に示さない限り、また数値固有の場合を除いて質量%である。
【0017】
本発明の太陽電池向け増感剤(以下、増感剤という)を用いた太陽電池について説明する。図1に、増感剤を使用したシリコンへテロ接合型太陽電池の断面図の一例を示す。図1では、単結晶Si(n型)31上に、a−Si(i型)32とa−Si(p型)33が形成され、発電層30を形成し、発電層30上に、透明導電膜60とAg配線70が形成され、一方、単結晶Si(n型)の裏面にはAl層20が形成される。本発明の増感剤10は、発電層30と透明導電膜60の間に形成され、増感剤10中の金属ナノ粒子のプラズモン効果により、太陽光を増強して、太陽電池1の発電効率を高くする。ここで、表面プラズモン共鳴を生じる金属ナノ粒子は、入射した太陽光のうちの金属ナノ粒子の表面プラズモン共鳴周波数に相当する光について、表面プラズモン共鳴を生じ、金属ナノ粒子層付近の電界が局所的に著しく増強され、近接場光の強度を増して、発電層内で光電流を生じさせることができる、と考えられる。
【0018】
図2に、増感剤を使用したスーパーストレート型太陽電池の断面図の一例を示す。図2では、ガラス基板71に、透明導電膜61、a−Si(p型)43とa−Si(i型)42とa−Si(n型)41とからなる発電層40、および裏面電極層21が形成され、本発明の増感剤11は、透明導電膜61と発電層40の間に形成され、増感剤11中の金属ナノ粒子の表面プラズモン効果により、太陽電池2の発電効率を高くすることができる。
【0019】
図3に、増感剤を使用したスーパーストレート型太陽電池の断面図の別の一例を示す。この例は、太陽光側から見て、発電層の裏面に増感剤を形成する例である。図3では、ガラス基板72に、透明導電膜63、a−Si(p型)53とa−Si(i型)52とa−Si(n型)51とからなる発電層50、透明導電膜62、および裏面電極層22が形成され、本発明の増感剤12は、発電層50と透明導電膜62の間に形成され、増感剤12中の金属ナノ粒子の表面プラズモン効果により、太陽電池3の発電効率を高くすることができる。
【0020】
このように、増感剤は、太陽光側から見て、発電層の入射側に形成されても、裏面側に形成されても表面プラズモン効果により、太陽電池の発電効率を高くすることができ、発電層の入射側および裏面側に形成することも好ましい。
【0021】
〔太陽電池向け増感剤〕
本発明の増感剤は、表面に透明層が形成された、表面プラズモン共鳴を生じる金属ナノ粒子であることを特徴とする。
【0022】
金属ナノ粒子の金属としては、金、銀、銅、パラジウム、白金、ルテニウム、ニッケル、錫、インジウム、亜鉛、鉄、クロムおよびマンガンからなる群より選ばれる1種、または2種以上の混合金属又は合金が挙げられ、金、銀、銅もしくはパラジウムであるか、または金、銀、銅およびパラジウムからなる群より選ばれる少なくとも2種の混合金属もしくは合金であると、表面プラズモン波長を可視光に有するので、好ましい。
【0023】
金属ナノ粒子の平均粒径は、5〜300nmであると好ましく、平均粒径と金属の種類により、表面プラズモン効果が強い波長を選択することができる。ここで、平均粒径は、QUANTACHROME AUTOSORB−1による比表面測定によるBET法で測定する。特に記載がない場合にはQUANTACHROME AUTOSORB−1による比表面測定によるBET法を用いて測定する。金属ナノ粒子の形状は、球状、針状であると、分散性、導電性の観点から好ましい。
【0024】
透明層は、金属ナノ粒子の発電層への拡散を防止する。また、透明層は、可視光域で、発電層や電極の中間の屈折率であると、発電層と透明層界面での入射光の反射を抑制し、入射光を近接場へと効果的に変換することができるため、好ましい。無機物の透明層は、SiO、TiOもしくはZrOであるか、またはSiO、TiOおよびZrOからなる群より選択される少なくとも2種の混合物であると好ましい。また、有機物の透明層は、アクリル樹脂、ポリカーボネート、ポリエステル、アルキッド樹脂、ポリウレタン、アクリルウレタン、ポリスチレン、ポリアセタール、ポリアミド、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、セルロースおよびシロキサンポリマからなる群より選ばれる少なくとも1種であると好ましい。
【0025】
透明層の厚さは、1〜20nmであると好ましい。1nm未満であると、金属ナノ粒子が発電層に拡散するおそれがあり、20nmを超えると、透明層が過剰になり、効果がなくなる。ここで、透明層の厚さは、透過型電子顕微鏡で測定する。
【0026】
〔太陽電池向け増感層用組成物〕
本発明の太陽電池向け増感層用組成物(以下、増感層用組成物という)は、上記太陽電池向け増感剤と、分散媒とを含む。
【0027】
分散媒は、太陽電池向け増感剤を分散し、かつ太陽電池向け増感層用組成物の成膜性を向上させる。分散媒としては、水、アルコール類が好ましい。アルコール類としては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、グリセロール、イソボニルヘキサノール及びエリトリトールからなる群より選ばれた1種又は2種以上が、より好ましい。分散媒は、太陽電池向け増感層用組成物:100質量部に対して、50〜99質量部が好ましい。
【0028】
増感層用組成物は、本発明の本発明の目的を損なわない範囲で、さらに必要に応じ、酸化防止剤、レベリング剤、揺変剤、フィラー、応力緩和剤、その他の添加剤等を配合することができる。
【0029】
〔太陽電池向け増感層〕
本発明の太陽電池向け増感層(以下、増感層という)は、上記増感剤を含む。例えば、図1に示すように、増感層100には、増感剤10間の隙間に、透明導電膜60が浸透しうる。
【0030】
〔太陽電池向け増感層の製造方法〕
本発明の増感層の製造方法は、太陽電池の発電層上または電極上に、上記増感層用組成物を、湿式塗工法により塗布することを特徴とする。
【0031】
増感剤は、金属ナノ粒子に透明層を被覆して製造する。製造工程の一例としては、
工程1:金属ナノ粒子分散液を調製する、
工程2:金属ナノ粒子分散液に、透明層形成用の表面コーティング剤を添加し、混合する、
工程3:沈殿物(増感剤)を遠心分離し、溶剤を除く、
工程4:再度溶剤を添加し、撹拌し、ナノ粒子を分散させる、
工程5:沈殿物を遠心分離し、溶剤を除く、
工程6:工程4と5を繰り返し、洗浄する、
が挙げられる。
【0032】
増感層用組成物は、所望の成分を、常法により、ペイントシェーカー、ボールミル、サンドミル、セントリミル、三本ロール等によって混合し、透光性バインダー、場合により透明導電性粒子等を分散させ、作製することができる。無論、通常の攪拌操作によって製造こともできる。
【0033】
増感層用組成物を、太陽電池の発電層上、透明導電膜上、電極上のいずれに湿式塗工するかは、太陽電池の構造により適宜決定すれば良く、例えば、図1のようなシリコンへテロ接合型太陽電池には、単結晶Si(n型)31に予め形成されたa−Si(p型)33上に、増感層用組成物を湿式塗工すると好ましい。
【0034】
湿式塗工法は、スプレーコーティング法、ディスペンサーコーティング法、スピンコーティング法、ナイフコーティング法、スリットコーティング法、インクジェットコーティング法、スクリーン印刷法、オフセット印刷法またはダイコーティング法のいずれかであることが好ましいが、これに限られるものではなく、あらゆる方法を利用できる。
【0035】
湿式塗工により形成された増感層用組成物塗膜を乾燥することにより、増感層が得られる。増感層の厚さは、光の自己吸収を極力抑制するため、0.01〜0.3μmが好ましい。このようにして、本発明の増感層を製造することができる。
【0036】
増感層上に、透明導電膜を形成する場合には、透明導電膜揺組成物を湿式塗工法により塗布した後、硬化または焼成させる方法であると、高価な設備を用いずに、簡便に低コストで製造することができ、好ましい。このとき、増感層に、透明導電膜揺組成物が浸透する場合には、増感増と発電層の密着強度を高くすることができる。
【0037】
透明導電膜揺組成物は、透光性バインダーを含む太陽電池用途向けに公知のものでよく、透明導電性粒子を含むと、透明導電膜の導電性を向上し、導電性反射膜の熱と光による劣化を抑制し得るので、好ましい。透光性バインダーとしては、アクリル樹脂、ポリカーボネート、ポリエステル等のポリマー型バインダーや、金属石鹸、金属錯体、金属アルコキシド、金属アルコキシドの加水分解物等のノンポリマー型バインダーが挙げられる。透明導電性粒子としては、ITO(Indium Tin Oxide:インジウム錫酸化物)、ATO(Antimony Tin Oxide:アンチモンドープ酸化錫)、AZO(Aluminum Zinc Oxide:アルミドープ酸化亜鉛)、IZO(Indium Zinc Oxide:インジウムドープ酸化亜鉛)、TZO(Tin Zinc Oxide:スズドープ酸化亜鉛)等が挙げられる。
【0038】
透明導電膜の厚さは、0.01〜0.5μmであると、密着性の観点から好ましく、0.02〜0.1μmであるとより好ましい。透明導電膜の厚さが0.03μm未満、又は0.5μmを越えると、反射防止効果が十分に得られないからである。
【実施例】
【0039】
以下に、実施例により、本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0040】
《銀ナノ粒子の作製》
硝酸銀を脱イオン水に溶解して、金属塩水溶液を調製した。また、クエン酸ナトリウムを脱イオン水に溶解して、濃度が26質量%のクエン酸ナトリウム水溶液を調製した。このクエン酸ナトリウム水溶液に、35℃に保持された窒素ガス気流中で、粒状の硫酸第1鉄を直接加えて溶解させ、クエン酸イオンと第1鉄イオンを3:2のモル比で含有する還元剤水溶液を調製した。
【0041】
次に、上記窒素ガス気流を35℃に保持しながら、還元剤水溶液中に、マグネチックスターラーの攪拌子を入れ、攪拌子の回転速度:100rpmで攪拌しながら、この還元剤水溶液に、上記金属塩水溶液を滴下して、混合した。ここで、還元剤水溶液への金属塩水溶液の添加量は、還元剤水溶液の量の1/10以下になるように、各溶液の濃度を調整して、室温の金属塩水溶液を滴下しても反応温度が40℃に保持されるようにした。また、還元剤水溶液と金属塩水溶液との混合比は、金属塩水溶液中の金属イオンの総原子価数に対する、還元剤水溶液のクエン酸イオンと第1鉄イオンとのモル比が、いずれも3倍モルとなるようにした。還元剤水溶液への金属塩水溶液の滴下が終了した後、さらに、混合液の攪拌を15分間続けることにより、混合液内部に銀ナノ粒子を生じさせ、銀ナノ粒子が分散した銀ナノ粒子分散液を得た。銀ナノ粒子分散液のpHは5.5であり、分散液中の銀ナノ粒子の化学量論的生成量は5g/リットルであった。
【0042】
得られた銀ナノ粒子分散液を、室温で放置することにより、分散液中の銀ナノ粒子を沈降させ、沈降した銀ナノ粒子の凝集物をデカンテーションにより分離した。分離した銀ナノ粒子凝集物に、脱イオン水を加えて分散体とし、限外濾過により脱塩処理した後、さらにメタノールで置換洗浄して、金属(銀)の含有量を50質量%にした。その後、遠心分離機を用い、この遠心分離機の遠心力を調整して、粒径が100nmを越える比較的大きな銀粒子を分離することにより、一次粒径10〜50nmの範囲内の銀ナノ粒子を数平均で71%含有するように調整した。即ち、数平均で全ての銀ナノ粒子100%に対する一次粒径10〜50nmの範囲内の銀ナノ粒子の占める割合が71%になるように調整し、銀ナノ粒子分散原液を得た。得られた銀ナノ粒子は、クエン酸ナトリウムの保護剤が化学修飾されていた。この銀ナノ粒子分散原液を脱イオン水で希釈して、平均粒径が20nmの銀ナノ粒子を5質量%含む銀ナノ粒子分散液:100cmを得た。
【0043】
参考
銀ナノ粒子を5質量%含有する銀ナノ粒子分散液:200cmを、40℃に保持し、激しく撹拌をしながら、透明膜の原料であるテトラエトキシシランを5質量%含有するエチルアルコール溶液:100cmを添加した後、触媒として10質量%のアンモニア水:5cmを添加し、1時間保持し、参考の増感剤を含有する分散液を得た。この分散液を、限外ろ過した後、洗浄して、参考の増感剤:7gを得た。参考の増感剤は、表面プラズモン共鳴を生じ、透明層の厚さは、2nmであった。
【0044】
参考
テトラエトキシシランを20質量%含有するエチルアルコール溶液:100cmを添加したこと以外は、参考と同様にして、参考の増感剤:8.5gを得た。参考の増感剤は、表面プラズモン共鳴を生じ、透明層の厚さは、20nmであった。
【0045】
参考
硝酸銀の代わりに塩化金酸を用いたこと以外は、銀ナノ粒子の作製と同様にして、平均粒径が10nmの金ナノ粒子を5質量%含む銀ナノ粒子分散液:100cmを得た。
【0046】
金ナノ粒子を10質量%含有する金ナノ粒子分散液:10cmを、50℃に保持し、激しく撹拌をしながら、透明膜の原料であるアクリル酸:10cmを添加した後、重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル:0.5gを添加し、1時間保持し、参考の増感剤を含有する分散液を得た。この分散液を、遠心分離し、溶剤を除去し、参考の増感剤を分離した。この後、増感剤を洗浄するために、再度、エタノールを添加し、撹拌して、増感剤を分散させた後、遠心分離し、溶剤を除去した。この洗浄を3回繰り返し、参考の増感剤:1gを得た。参考の増感剤は、表面プラズモン共鳴を生じ、透明層の厚さは、5nmであった。
【0047】
〔実施例4、参考例6、参考例1〜2、比較例1〕
表1に示す組成で実施例4、参考例6、参考例1〜2、比較例1増感剤を製造した。なお、Pdの原料としては塩化パラジウム、Cuの原料としては、硝酸銅を、ポリウレタンの原料としてはヘキサメチレンジイソシアネートとポリカーボネートポリオール、ポリエステルの原料としてはテレフタル酸とエチレングリコールを使用した。なお、実施例4、参考例6では表面プラズモン共鳴を生じ、参考例1〜2および比較例1でも表面プラズモン共鳴を生じた。
【0048】
【表1】
【0049】
《増感層用組成物の製造》
得られた増感剤:10質量部を水、エタノール及びメタノールを含む混合溶液90質量部に添加し、混合することにより分散させ、増感層用組成物を作製した。
【0050】
《発電効率の評価》
表2に、評価した増感層の作製条件を示す。表2の「設置場所」は、増感剤を形成した場所が、表面電極側であるか、裏面電極側であるかを示し、「膜厚」は、増感層の膜厚(単位:μm)を、「湿式塗工法」は、増感層用組成物を塗工した方法を示す。ここで、参考実施例4、参考例1は、図4に示す構造であり、参考4と6、比較例1は、図2に示す構造であり、参考、参考例2は、図3に示す構造である。
【0051】
評価した太陽電池の作製方法を以下に示す。
【0052】
〈シリコンへテロ接合型太陽電池の場合〉
(光電変換部の作製)
まず、図4に示す光電変換部800を以下のようにして作製した。
【0053】
基板81として、比抵抗が約1Ω・cm、厚さが300μmのn型単結晶シリコン基板を用い、この基板81を通常の方法で洗浄した後、基板81の表面81A及び裏面81Bにエッチングによりテクスチャ面を形成した。
【0054】
次いで、基板81の表面81A及び裏面81B上に、それぞれ通常のプラズマCVD法を用いて、i型非晶質シリコン層82、p型非晶質シリコン層83及びi型非晶質シリコン層86、n型非晶質シリコン層87を形成した。
【0055】
次に、p型非晶質シリコン層83上に、参考実施例4、参考例1の増感層103を形成した。
【0056】
次に、n型単結晶シリコン基板81の両主面上に形成されたn型非晶質シリコン層87及び増感層103上に、厚さ100nmのITOからなる裏面透明電極層88及び表面透明電極84をスパッタ法により形成した。
【0057】
以上のようにして形成された、表面透明電極層84、増感層103、p型非晶質シリコン層83、i型非晶質シリコン層82、n型単結晶シリコン基板81、i型非晶質シリコン層86、n型非晶質シリコン層87、裏面透明電極層88の積層体からなる光電変換部800の裏面上及び表面上の所定領域に、スクリーン印刷法を用いてくし型状の裏面電極89および表面電極85を形成した。
【0058】
〈スーパーストレート型薄膜太陽電池の場合〉
本発明の各実施例に係るタンデム型太陽電池の製造方法について説明する。なお、各実施例で述べる太陽電池を構成する該構成要素の材質や膜厚は一例を示すもので、本発明はこれらに限定されない。
【0059】
〈スーパーストレート型薄膜太陽電池の場合〉
参考、比較例1の場合について、説明する。まず、一方の主面に厚さ50nmのSiO層(図示せず)が形成されたガラス基板71を準備し、このSiO層上に、透明導電膜61を形成した。この透明導電膜61にはレーザー加工法を用いてパターニングすることによりアレイ状とするとともに、それらを電気的に相互接続する配線を形成した。その後、透明導電膜61上に、それぞれ参考、比較例1の増感層101を形成した。次に、増感層101上にプラズマCVD法を用いて、発電層40を形成した。この発電層40は、基板71側から順に、p型a−Si:H(非晶質炭化シリコン)43、i型a−Si(非晶質シリコン)42及びn型μc−Si(微結晶炭化シリコン)41、からなる膜を積層して得た。上記発電層40を、レーザー加工法を用いてパターニングした後、マグネトロンインライン式スパッタリング装置を用いて、発電層40上に、厚さ200nmの裏面電極層(銀電極層)21を順次形成したものである。
【0060】
太陽電池セルの評価方法としては、レーザー加工法を用いてパターンニングを実施した加工後の基板にリード線配線を実施し、IV特性カーブを確認した際の出力特性及び短絡電流である(Jsc)の値を、実施例と同様の製造方法にて得た光電変換層を用い、透明導電膜、裏面電極層が全てスパッタ法により形成された太陽電池セルを100とした際の相対出力評価を行った。表2に、これらの結果を示す。
【0061】
ここで、全てスパッタ法により形成された太陽電池をスーパーストレート型の場合で説明すると、スーパーストレート型太陽電池セルとは、図2から増感剤11と増感層101を除去したものであり、先ず一方の主面に厚さ50nmのSiO層(図示せず)が形成されたガラス基板71を準備し、このSiO層上に表面に凹凸テクスチャを有しかつF(フッ素)ドープされた厚さ800nmの透明導電膜(SnO膜)61を形成した。この透明導電膜61にはレーザー加工法を用いてパターニングすることによりアレイ状とするとともに、それらを電気的に相互接続する配線を形成した。次に、透明導電膜61上にプラズマCVD法を用いて、発電層40を形成した。この発電層40は、基板71側から順に、p型a−Si:H(非晶質単価シリコン)43、i型a−Si(非晶質シリコン)42及びn型μc−Si(微結晶炭化シリコン)41、からなる膜を積層して得た。上記発電層40を、レーザー加工法を用いてパターニングした後、マグネトロンインライン式スパッタリング装置を用いて、発電層40上に、厚さ200nmの裏面電極層(銀電極層)21を順次形成したものである。なお、シリコンへテロ接合型太陽電池の場合は、図1から増感剤11と増感層101を除去したものであり、Al層20が形成された単結晶Si(n型)31上に、i型a−Si(非晶質シリコン)32及びp型μc−Si(微結晶炭化シリコン)33、透明導電膜60を、スーパーストレート型と同様の方法で形成した後、スパッタ法で形成した後、エッチングでパターニングしたAg配線を形成する。
【0062】
《耐久性試験》
初期発電効率を測定した太陽電池を、耐久性試験として、温度:85℃、湿度:85%で、1000時間保持した。その後、Jsc値を測定した。表2の「耐久性試験後」の欄に、結果を示す。
【0063】
【表2】
【0064】
表1から明らかなように、実施例では、初期性能のJsc値が高く、耐久試験後でもJsc値が変化せず、良好な結果であった。一方、金属ナノ粒子に透明層が形成されていない比較例1はAg拡散の抑制効果が得られず、比較例2は表面プラズモン共鳴による太陽電池の増感効果が見られなかった。また、増感剤を含まない比較例2は、実施例1より初期性能が低く、比較例3は、実施例2より初期性能が低く、比較例4は、実施例3より初期性能が低かった。なお、金属ナノ粒子の平均粒径が5nmの参考例1は、Ag拡散の抑制効果が十分とはいえなかった。透明層の厚さが30nmの参考例2は、初期性能が低かった。
【0065】
このように、本発明の増感剤により、発電効率が高く、長期安定性の良い太陽電池を提供することができることがわかった。
【符号の説明】
【0066】
1 シリコンへテロ接合型太陽電池
2、3 スーパーストレート型太陽電池
10、11、12 太陽電池向け増感剤
100、101、102、103 太陽電池向け増感層
20 Al層
21、22 裏面電極層
30、40、50 発電層
31 単結晶Si(n型)
41、51 a−Si(n型)
32、42、52 a−Si(i型)
33、43、53 a−Si(p型)
60、61、62、63 透明導電膜
70 Ag配線
71、72 ガラス基板
81 n型単結晶シリコン基板
81A 表面
81B 裏面
82、86 i型非晶質シリコン層
83 p型非晶質シリコン層
84 表面側透明電極層
85 表面側電極
87 n型非晶質シリコン層
88 裏面側透明電極層
89 裏面側透明電極
図1
図2
図3
図4