特許第5901914号(P5901914)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5901914
(24)【登録日】2016年3月18日
(45)【発行日】2016年4月13日
(54)【発明の名称】液体充填用ノズル
(51)【国際特許分類】
   B65B 39/00 20060101AFI20160331BHJP
【FI】
   B65B39/00 B
【請求項の数】5
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2011-196448(P2011-196448)
(22)【出願日】2011年9月8日
(65)【公開番号】特開2013-56696(P2013-56696A)
(43)【公開日】2013年3月28日
【審査請求日】2014年6月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100081385
【弁理士】
【氏名又は名称】塩川 修治
(72)【発明者】
【氏名】田中 康裕
(72)【発明者】
【氏名】秦野 耕一
【審査官】 西堀 宏之
(56)【参考文献】
【文献】 特開平09−012006(JP,A)
【文献】 特開平05−185223(JP,A)
【文献】 特開昭58−006783(JP,A)
【文献】 登録実用新案第3121903(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65B 1/00− 3/36
B65B 37/00−39/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の筒部を接合してなる液体充填用ノズルであって、相接合している本体筒部と付加筒部の端面間にメッシュの外縁部まれ、付加筒部と付加筒部の端面間に他のメッシュの外縁部まれ、それらの筒部が外周面の側で各メッシュの外縁部とともに相接合している多段メッシュ構造の液体充填用ノズル。
【請求項2】
前記相接合している筒部と筒部の端面間の外周面に突起がない、請求項1記載の液体充填用ノズル。
【請求項3】
前記相接合している筒部の内周面の側では、メッシュの外縁部を挟んでいる筒部と筒部の端面間に空隙がある請求項1又は2に記載の液体充填用ノズル。
【請求項4】
前記筒部と筒部の接合している部分が溶接部である請求項1〜3のいずれかに記載の液体充填用ノズル。
【請求項5】
前記筒部と筒部の接合がろうを介したろう付部である請求項1〜3のいずれかに記載の液体充填用ノズル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は液体を容器等に充填するための液体充填用ノズルに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、液体を容器に充填するときに、容器内における液体の泡立ちを抑制することが求められている。そのためには、ノズルから吐出される液体の流れ(液柱)が乱れのない層流であることが望ましい。液柱の速度分布が液柱断面の中央部でも液柱の表面でも同一になる層流状態とすることで、液柱の表面付近における流れの乱れを抑制する。これによって、容器内の底部に衝突した液柱が容器内の側壁に向けて流れの向きを変える際の流れがスムーズになり、泡の発生を抑制することができる。
【0003】
一方、泡立ちを抑制する方法として、充填時に容器内に挿入されたノズルの先端と液面の間の距離を最小にするようにノズルの先端レベルを液面のレベル変化に追従して上昇させる、ノズルの液面追従充填操作も行なわれている。この場合、ノズル外径を容器の液充填口内径よりも小さくする必要がある。
【0004】
また、ノズル内径を可能な限り大きくすることにより、ノズル内の液流通部の流路面積を大きくして、流量を低下させることなく液流速の低減を図り、液柱が容器内の底部に衝突する際の打撃力低減によって泡立ちを抑制することも有効である。
【0005】
しかるに、泡立ちを抑制するために液柱を乱れのない層流にする従来例として、特許文献1〜4に記載される如く、ノズル内の出口付近にメッシュを設け、液柱におけるノズル中心部の流速とノズル内壁面付近の流速とを同等化することが試みられている。
【0006】
特許文献1に記載のノズルは、ノズルの筒部の先端内縁部を内方へ直角に折り返した取付部とし、筒部内に挿入したメッシュの外縁部を取付部の上に保持するものである。
【0007】
特許文献2に記載のノズルは、ノズルの本体筒部と先端筒部とをそれらの外周フランジ部により接続し、メッシュを収めた環状ケースの外周部を先端筒部内に保持するものである。
【0008】
特許文献3に記載のノズルは、複数のメッシュの中央に設けたピン貫通孔に通したピンとシールリングでメッシュユニットを形成し、このメッシュユニットをノズルの筒部の先端に形成した段部に収容し、メッシュユニットを形成しているピンをノズルの筒部中心部に設けてある雌ねじ部に螺合させることにより、メッシュユニットを保持するものである。
【0009】
特許文献4に記載のノズルは、ノズルの筒部内にメッシュ体を挿入し、メッシュ体の周縁部に切欠部を設け、その周縁部を折り曲げ、メッシュ体の折り曲げによる反発力で筒部内にメッシュ体を保持するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2002-321707
【特許文献2】特開2011-57268
【特許文献3】特開2001-225808
【特許文献4】特開2003-112708
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献1に記載のノズルにあっては、ノズルの筒部の先端内縁部を折り返したメッシュ取付部が、ノズル内における液流通部の内壁の段差となる。この段差により、ノズルから吐出される液体の流れ(液柱)の表面が乱れ、この液柱を乱れのない層流とすることが困難になる。また、メッシュ取付部の折り返しによって液流通部の流路面積が小さく、液柱の流速が増加してしまい、液柱が容器底部に衝突する際の打撃力を低減できない。
【0012】
特許文献2に記載のノズルにあっては、ノズルの筒部内にメッシュの環状ケースを保持しており、ノズル内における液流通部の流路面積が小さく、ノズルから吐出される液柱の流速が増加してしまい、液柱が容器底部に衝突する際の打撃力を低減できない。また、ノズルの本体筒部と先端筒部とを接続する外周フランジ部がノズルの外径を大きくし、ノズルを容器内に挿入する液面追従充填を困難にする。
【0013】
特許文献3に記載のノズルにあっては、ノズルの筒部に収容されるメッシュユニットを形成するため、メッシュの中央孔に通したピンがノズル内における液流通部の流路面積を小さくし、ノズルから吐出される液柱の流速を増加してしまい、液柱が容器底部に衝突する際の打撃力を低減できない。また、メッシュユニットの外径が上記ピンの存在により大きく、ひいてはノズルの外径が大きくなり、ノズルを容器内に挿入する液面追従充填を困難にする。
【0014】
特許文献4に記載のノズルにあっては、ノズルの筒部内壁面付近で、メッシュ体が折り曲げによって斜め上向きになっている。メッシュ体を液流通方向から見るとき、メッシュ体の折り曲げ部における目開き(開口面積)が小さく、液柱の流速が阻害される。これにより、ノズルの筒部内壁面付近における液柱の流速が低下し、この液柱を乱れのない層流とすることが困難になる。
【0015】
即ち、特許文献1〜4に記載のノズルにあっては、ノズルの筒部内へのメッシュの保持構造によってノズル内における液流通部の内壁面に段差を発生し、内壁面付近の液柱の流速を低下して液柱表面の流れを乱し、この液柱を乱れのない層流とすることを困難にする。また、ノズル内における上述の段差等によって液流通部の流路面積を小さくし、ノズルから吐出される液柱の流速を増加してしまい、液柱が容器底部に衝突する際の打撃力を低減できない。逆に、ノズル内における段差等をなくすために、ノズルの外壁面を用いてメッシュを取付ける場合には、ノズルの外径が大きくなり、ノズルを容器内に挿入する液面追従充填を困難にする。
【0016】
本発明は、ノズルの外径が大きくなることなく、またノズル内に段差の突出を生じたり、内径を小さくすることなく、ノズル内にメッシュを設けることができ、ノズルから吐出される液柱を乱れのない層流にすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
請求項1に係る発明は、複数の筒部を接合してなる液体充填用ノズルであって、相接合している本体筒部と付加筒部の端面間にメッシュの外縁部まれ、付加筒部と付加筒部の端面間に他のメッシュの外縁部まれ、それらの筒部が外周面の側で各メッシュの外縁部とともに相接合しているようにしたものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、ノズルの外径が大きくなることなく、また、ノズル内に段差の突出を生じたり、内径を小さくすることなく、ノズル内にメッシュを設けることができ、ノズルから吐出される液柱を乱れのない層流にすることができる。これにより、容器に液体を充填する際に、容器内の泡立ち発生を抑制することができる。
【0019】
また、ノズルの外径が大きくなることがないから、ノズルを容器内に挿入する液面追従充填も容易になる。
【0020】
尚、本明細書において、層流とは、「各瞬間的の速度は時間的に変化しない(機械工学便覧 改訂第6版〔分冊8〕)」状態であり、一般には流体の流線(流れの速度の方向)が管の軸方向や全体の流れ方向と同一に平行であるものをいう。本発明では、ノズル(管)から排出された液(液柱)についてもこの文言を用いる。
【0021】
図12、13において、(A)はノズル内を流れる液柱の中心軸を通る縦断面の流速分布を示し、(B)は液柱表面(液柱外周面)の流れの様子を示す。図12は液柱の中央部も表面でも速度が同一な層流を示し、図13は液柱の中央部よりも表面の速度が小さい層流を示す。図12では流れは安定で、液柱の表面に乱れはない。図13では、液柱の表面では流速に差があるため、表面付近の流れが不安定で、表面に微小に波打ちする現象が認められる。本発明では、図12のような状態を「乱れのない層流」と表現する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1図1は液体充填装置を示す模式図である。
図2図2は液面追従充填状態を示す模式図である。
図3図3はノズルを示し、(A)は正面図、(B)は下面図である。
図4図4はノズルを示す断面図である。
図5図5はノズルの溶接構造を示し、(A)は図4のA部の拡大断面図、(B)は図4のB部の拡大断面図である。
図6図6はノズルの溶接工程を示す断面図である。
図7図7はノズルの他の例を示し、(A)は正面図、(B)は下面図である。
図8図8はノズルを示す断面図である。
図9図9はノズルのろう付構造を示し、(A)は図8のA部の拡大断面図、(B)は図8のB部の拡大断面図である。
図10図10はノズルのろう付工程を示す断面図である。
図11図11は本発明例と比較例における液柱の流れ状態を示す模式図である。
図12図12は液柱の表面に乱れのない層流を示す模式図である。
図13図13は液柱の表面に微小な波打ちを生じた層流を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
図1に示す液体充填装置10は、充填液タンクに貯留されている液体を加圧装置11により送液管12を経てノズル20に液送する。充填液タンクは、加圧装置11の上流に配置されたり、加圧装置11そのものにより構成されたりする。加圧装置11として、ピストン式の加圧装置、重力による加圧装置、空気圧による加圧装置等が採用できる。
【0024】
液体充填装置10において、ノズル20は昇降装置13により降下、上昇される。昇降装置13はカム等の機械的制御や、サーボモータ等による電気的制御により動作する。ノズル20の内部又は送液管12には、液体充填の開始や停止を制御する開閉バルブ14を有している。
【0025】
液体充填装置10は、図2に示す如くの液面追従充填動作を行なう。
液体充填装置10による充填開始前、図2(A)に示す如く、ノズル20の先端が容器1の口部(液充填口)1Aから挿入され、ノズル20の先端は容器1内の底部1B近くまで降下させられる。ノズル20の先端から容器1の底部1Bまでの距離を短くすることで、液体が容器1の底部1Bに衝突する際の打撃力を低減でき、充填開始時の泡立ちを抑制できる。ノズル20の先端が所定の位置に降下すると、液体充填装置10によって充填が開始される。
【0026】
液体充填装置10による充填開始と同時、又は僅かに遅れて、図2(B)に示す如く、ノズル20の先端と容器1内の液面との距離が概ね一定となるようにノズル20は上昇する(液面追従充填)。この距離を短く、かつ一定に保つことで、充填途中の液面の泡立ちを抑制できる。一例として、この距離は約10mmに保たれる。距離を一定に保つために、液面部の容器断面積の変化も鑑みながら、充填液の流量やノズル20の上昇速度が制御される。
【0027】
液体充填装置10による充填終了後、図2(C)に示す如く、ノズル20の先端が容器1の外に達するまで、ノズル20は上昇させられる。
【0028】
以下、ノズル20の構造及び製造方法について説明する。
ノズル20は、図3又は図7に示す如く、複数の筒部21、22を接合してなるものであり、具体的には送液管12又は開閉バルブ14に接続される本体筒部21と1個又は複数の付加筒部22からなり、それらの各筒部21、22を順に接合して構成される。複数の筒部21、22は互いに同一外径、同一内径をなし、同軸配置される。または、複数の筒部21、22は、それぞれの外径または内径、あるいはその両方が高さ方向に変化するテーパー筒形状で、その接合部が互いに概同一外径、概同一内径をなし、同軸配置される。尚、ノズル20の先端部でノズル出口を形成する付加筒部22は先端筒部22Aを構成する。
【0029】
ここで、図3に示したノズル20にあっては、図4図5に示す如く、各筒部21、22を溶接により接合したものであり、相接合される本体筒部21と付加筒部22の端面間、又は付加筒部22と付加筒部22の端面間にメッシュ23の外縁部を挟み、それらの筒部21、22が外周面の側でメッシュ23の外縁部とともに、溶接部(一体化部)31により相接合される。相接合される筒部21、22の内周面の側では、メッシュ23の外縁部を挟んでいる本体筒部21と付加筒部22の端面間、又は付加筒部22と付加筒部22の端面間に空隙32が形成されるものとする。
【0030】
尚、ノズル20にあっては、本体筒部21と先端筒部22Aの端面間にメッシュ23を挟んだ1段メッシュ構造のもの、又は本体筒部21と付加筒部22の端面間にメッシュ23を挟み、付加筒部22と付加筒部22の端面間に他のメッシュ23を挟んだ多段メッシュ構造のものを構成できる。
【0031】
ノズル20を上述の溶接により製造する工程は以下の通りである。
(工程1)(図6(A))
相接合される本体筒部21と付加筒部22の端面間、又は付加筒部22と付加筒部22の端面間にメッシュ23の外縁部を挟み、それらの筒部21、22の外周面の側の周方向複数箇所で、本体筒部21と付加筒部22の端面間、又は付加筒部22と付加筒部22の端面間をスポット溶接して点留めし、点留部31Aを形成する。
【0032】
(工程2)(図6(B))
工程1で点留めされた筒部21、22の外周面の側から、本体筒部21と付加筒部22の端面間、又は付加筒部22と付加筒部22の端面間を溶接する。これにより、相接合される本体筒部21と付加筒部22の端面間で、本体筒部21の端面と付加筒部22の端面とメッシュ23の外縁部を溶接して一体化し、溶接部(一体化部)31を形成するとともに、相接合される付加筒部22と付加筒部22の端面間で、付加筒部22の端面と付加筒部22の端面とメッシュ23の外縁部を溶接して一体化し、溶接部(一体化部)31を形成する。
【0033】
相接合される本体筒部21と付加筒部22の端面間の溶接部(一体化部)31、又は相接合される付加筒部22と付加筒部22の端面間の溶接部(一体化部)31を形成する溶接方法は、ガス溶接、アーク溶接、電子ビーム溶接、レーザー溶接等、特に限定されないが、溶融した一体化部が筒部21、22の内周面の側にまで達してノズル内周面に段差が突出することのないよう(換言すれば、筒部21、22の内周面の側で、それらの端面間に空隙32が形成されるように)、かつそれらの筒部21、22を外周面の側では必ず一体化させる高精度の溶接技術が必要であり、特にアーク溶接の一種である精密TIG溶接が好ましい。筒部21、22を内周面の側まで一体化させると、筒部21、22の内周面付近に位置するメッシュ23のメッシュ孔(目開き)23Aが塞がれることになり、筒部21、22の内周面付近の液流速が低下し、層流が乱れてしまう。相接合される本体筒部21と付加筒部22の端面間の溶接部(一体化部)31、又は相接合される付加筒部22と付加筒部22の端面間の溶接部(一体化部)31が筒部21、22の外周面の側で一体化していないと液が漏れる。このような高精度な溶接技術として、本体筒部21や付加筒部22の中心軸が回転中心になるように把持し、これを一定速度で回転しながら筒部21、22の外周面の側から溶接を行なえば、一定量の溶接部(一体化部)31を形成できる。逆に、本体筒部21や付加筒部22を固定し、溶接装置の側をロボット等で動かし、正確に筒部21、22の外周面の溶接箇所に沿う溶接を行なっても良い。
【0034】
(工程3)(図6(C))
相接合される本体筒部21と付加筒部22の端面間の溶接部(一体化部)31、又は相接合される付加筒部22と付加筒部22の端面間の溶接部(一体化部)31において、筒部21、22の外周面から盛り上がった溶接肉盛部31B(図6(B))は、切削、研磨、バフ仕上げ等により平らに加工される。
【0035】
以上のような溶接構造、溶接工程でノズル20を製造することにより、ノズル20の外径が大きくなることなく、またノズル20の出口付近や出口に近いノズル内に段差の突出(突起)を生じたり、内径を小さくすることなく、ノズル内にメッシュ23を設けることができ、ノズル20から吐出される液柱を乱れのない層流にすることができる。
【0036】
また、図7で示したノズル20にあっては、図8図9に示す如く、各筒部21、22の接合がろうを介したろう付によるものであり、相接合される本体筒部21と付加筒部22の端面間、又は付加筒部22と付加筒部22の端面間にメッシュ23の外縁部を挟み、それらの筒部21、22が外周面の側でメッシュ23の外縁部とともに、ろう付部(一体化部)41により相接合される。相接合される筒部21、22の内周面の側では、メッシュ23の外縁部を挟んでいる本体筒部21と付加筒部22の端面間、又は付加筒部22と付加筒部22の端面間に空隙42が形成されるものとする。
【0037】
尚、ノズル20にあっては、本体筒部21と先端筒部22Aの端面間にメッシュ23を挟んだ1段メッシュ構造のもの、又は本体筒部21と付加筒部22の端面間にメッシュ23を挟み、付加筒部22と付加筒部22の端面間に他のメッシュ23を挟んだ多段メッシュ構造のものを構成できる。
【0038】
ノズル20を上述のろう付により製造する工程は以下の通りである。
(工程1)(図10(A))
相接合される本体筒部21と付加筒部22の端面間、又は付加筒部22と付加筒部22の端面間にメッシュ23の外縁部を挟み、それらの端面間の周囲に配置されるアウタリング43でそれらの筒部21、22を仮固定する。アウタリング43と筒部21、22の外周面とのクリアランスは0.5〜1.0mm程度とする。アウタリング43の厚みは、薄いほどノズル20の外径を小さくでき、例えば厚み0.5〜1.5mmのものが採用される。
【0039】
ろう付の下準備として、ろう付を行なう部分にフラックスを塗布しておくことにより、ろう付を行ないたくない部分、即ち、筒部21、22の内周面の側にまでろうが流れ込むことを防止できる。フラックスを塗布する場所としては、アウタリング43の内周面、筒部21、22の外周面、筒部21、22の端面(より好ましくは筒部21、22の端面の外周側)、メッシュ23の外縁部である。
【0040】
(工程2)(図10(B))
筒部21、22、メッシュ23、アウタリング43のろうが流し込まれる部分を加熱し、アウタリング43が筒部21、22の外周面に対してなすクリアランスからろうを流し込む。
【0041】
ろうは硬ろうであり、本体筒部21や付加筒部22の材質等から最適なものが選ばれるが、例えば、銀ろうが使用される。工程1で塗布したフラックスの塗布場所が限定されているため、ろうは筒部21、22の内周面の側にまで流れ込むことがなく、筒部21、22の内周面に段差の突出を生じたり、筒部21、22の内周面付近に位置するメッシュ23のメッシュ孔23Aを塞ぐこともない。筒部21、22の外周面の側では、相接合される本体筒部21と付加筒部22の端面間で、本体筒部21の端面と付加筒部22の端面とメッシュ23の外縁部がろう付部41を介して一体化されるとともに、相接合される付加筒部22と付加筒部22の端面間で、両付加筒部22の端面とメッシュ23の外縁部がろう付部41を介して一体化される。本体筒部21、付加筒部22、アウタリング43に、はみ出したろうは、切削、研磨、バフ仕上げ等により滑らかに加工される。また、アウタリング43を外周側から削り込み、ノズル外径をより小さくすることも可能である。
【0042】
以上のようなろう付構造、ろう付工程でノズル20を製造することにより、ノズル20の外径が大きくなることなく、またノズル20の出口付近や出口に近いノズル内に段差の突出(突起)を生じたり、内径を小さくすることなく、ノズル内にメッシュ23を設けることができ、ノズル20から吐出される液柱を乱れのない層流にすることができる。
【0043】
以上の溶接やろう付により複数の筒部21、22が接合されてなるノズル20の詳細構造について説明する。
【0044】
ノズル20は、ノズル内周面に段差の突出(突起)がなく、ノズル出口から吐出される液(液柱)が乱れのない層流になる。ノズル外周面にも突起はなく、ろう付の場合にアウタリング43の厚み分だけノズル外径aが大きくなるが、極僅かな外径の増加であり、ノズル20を容器1の口部1Aに挿入する液面追従充填が可能になる。メッシュ23を環状ケースに収めてノズル内に組込むことなく、メッシュ23を本体筒部21や付加筒部22と一体化しているので、メッシュ23の液流通部の直径をノズル内径bと同一の最大にし、ノズル20の液流通部の断面積が大きく確保でき、流量を低下させることなくノズル出口から吐出される液柱の流速を低減し、その流速の増加を抑制できる。
【0045】
ノズル20のノズル外径a、ノズル内径bは、容器1の充填容量、充填に必要な時間、液面追従充填の場合は容器1の口部1Aの内径等によって適宜定められる。一例として小型200mL容量の容器1にて、液面追従充填を行なう際のノズル20として、ノズル外径a:16mm、ノズル内径b:14mmとされる。ノズル厚み(a−b/2)は、筒部21、22の上述の一体化加工時に、筒部21、22をそれらの外周面の側のみで接合一体化させることができる厚みが必要であるが、厚すぎるとノズル内径bが小さくなって液流速が増大してしまう。ノズル厚みは好ましくは0.7〜2.5mm、より好ましくは0.9〜2.0mmとされる。筒部21、22は、通常は加工のし易さや、液面追従充填時の容器1の口部1Aの形状に合せて、真円とすることが一般的である。しかしながら容器1の口部1Aの真円以外の例えば楕円等の特別な充填口形状に合せた、真円とは異なる形状としても良い。
【0046】
ノズル20を構成する筒部21、22の材質は金属が好ましく、特に腐食に強いものであれば材質は限定されない。例えば、ステンレス材のSUS304、SUS316、SUS316L等が選択される。尚、レーザー溶接によれば、精密な溶接が可能で、樹脂材料も使用できる。メッシュ23の材質も金属が好ましく、特に腐食に強いものであれば材質は限定されない。例えば、ステンレス材のSUS304、SUS316、SUS316L等が選択される。ろう付の場合には、金属に限定されないが、ろう付時の温度で燃焼したり極度に強度の低下するものは避けることが好ましい。尚、レーザー溶接によれば樹脂材料と金属材料を接合することもできる。また、電子ビーム溶接によれば、更に精密な溶接が可能で、チタンなどの難溶接材料の溶接も可能である。
【0047】
ノズル20を構成するメッシュ23のサイズは、液粘度や液流速によって適宜選択されるが、一例としてASTM60メッシュ(JIS目開き0.25mm)、40メッシュ、80メッシュ等が使用される。前述した多段メッシュ構造のノズル20では、異なるメッシュサイズの複数枚のメッシュ23を組合せても良い。ノズル20を構成するメッシュ23の使用枚数は多いほど層流を形成して好ましいが、あまりに多いとノズル20の液流通部における圧力損失が大きくなり充填液を高い圧力で加圧する必要があり各部の強度アップが求められ、またノズル20の加工時間や製作費用の面からも不利である。好ましくは2〜10枚程度、より好ましくは3〜6枚程度とするのが良い。
【0048】
ノズル20が前述した多段メッシュ構造からなるとき、上下のメッシュ間距離Lは、液粘度や液流速によって適宜選択されるが、筒部21、22の溶接やろう付のし易さから、好ましくは3〜40mm、より好ましくは5〜25mmにするのが良い。ノズル20の出口から最先端メッシュ23の距離Eは小さいほど、ノズル内周面の影響によるノズル内周面付近の液流速の低下を抑制できるが、溶接やろう付のし易さから、好ましくは5mm以下、より好ましくは2mm以下にするのが良い。
【0049】
本発明例としての上述した溶接やろう付により複数の筒部21、22が接合されてなるノズル20による層流形成効果を、比較例1、2と対比して説明すれば、以下の通りである(図11)。
【0050】
(本発明例)(図11(A))
本発明例のノズル20にあっては、ノズル内の液流通部で、ノズル中心部でもノズル内周面近傍でも、メッシュ23の同一サイズのメッシュ孔23Aの各個から液が流出するため、各メッシュ孔23Aを流出する液に及ぶ抵抗が同一になる。これにより、ノズル出口付近に設けた上記メッシュ23を通過してノズル出口から吐出される液柱は、当該液柱断面の全域で流速を同等にするものになり、乱れのない層流になる。
【0051】
(比較例1)(図11(B))
比較例1のノズル100は、本発明例のノズル20に比してノズル外径及びノズル内径を同一にし、メッシュ23を設けていない。ノズル内部では、ノズル内周面の影響によって、ノズル内周面近傍の液流速が遅くなる。ノズル出口から吐出される液柱の流速状態も同様となり、層流ではあるが液柱表面には乱れが生じ易い。
【0052】
(比較例2)(図11(C))
比較例2のノズル200は、メッシュ201を納めた環状ケース202をノズル筒部内に保持したものである。ノズル内の液流通部の断面積が環状ケース202の分だけ小さくなり、液体の流れの妨げになることから、メッシュ201の環状ケース202付近の液流速は、ノズル中心部より低下する。これにより、メッシュ201のメッシュ孔による速度均一化の効果はある程度あるものの、ノズル出口から吐出される液柱の表面の流速は低下し、層流ではあるが液柱表面には僅かながら乱れが生じ易い。また、液流通部の断面積が本来のノズル内径よりも小さくなることで、ノズル内全域で液流速が増加してしまう。液流通部の断面積を大きくしてその液流速を低下させようとすると、ノズル外径が大きくなる。
【0053】
従って、本発明のノズル20によれば以下の作用効果を奏する。
(a)複数の筒部21、22が外周面の側でメッシュ23の外縁部とともに相接合されるから、ノズル内周面にメッシュ保持のための段差を突出させない。従って、ノズル内周面付近における液流速がそのような段差に起因して低下することがなく、ノズル出口から吐出される液柱表面の流速が低下することがなく、液柱表面の乱れを生じない。また、ノズル内の液流通部の断面積がそのような段差に起因して小さくなることがないから、ノズル出口から吐出される液柱の流速の増加を流量を低下させることなく抑制し、液柱が容器1の底部1Bに衝突する際の打撃力を低減できる。
【0054】
ノズル内周面にメッシュ保持のための段差の突出を生じず、上述の通り、ノズル内の液流通部の断面積がそのような段差に起因して小さくなることがないから、ノズル出口から吐出される液柱の流速の増加を抑制するために、ノズル外径を大きくしてノズル内の液流通部の断面積を大きくする必要がない。従って、ノズル20を容器1の口部1Aに挿入する液面追従充填が容易になる。
以上により、容器1内における液体の泡立ちを抑制できる。
【0055】
(b)ノズル20が、相接合される筒部21、22の内周面の側では、メッシュ23の外縁部を挟んでいる筒部21、22の端面間に空隙32、42が形成されるものとすることにより、ノズル内周面におけるメッシュ保持のための段差の突出を確実に排除するものになる。
【0056】
(c)ノズル20が本体筒部21と複数の付加筒部22からなり、それらの各筒部21、22を順に接合してなるものとすることにより、複数枚のメッシュ23を多段配置した多段メッシュ構造とするものになり、ノズル出口から吐出される液柱を一層確実に乱れのない層流にできる。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明によれば、ノズルの外径が大きくなることなく、またノズル内に段差の突出を生じたり、内径を小さくすることなく、ノズル内にメッシュを設けることができ、ノズルから吐出される液柱を乱れのない層流にすることができる。これにより、容器に液体を充填する際に、容器内の泡立ち発生を抑制することができる。
【0058】
容器内の泡立ち発生を抑制できる効果としては、
(i)容器容積に対して多くの液を充填できるので、容器材料が節減できる
(ii)泡立ちによる液の溢れが防げるので、容器表面の洗浄が不要である
(iii)泡立ちによる液の溢れが防げるので、キャップのシール部に液が付着せず、雑菌発生の危険性が低減できる
(iv)柔軟容器への充填の場合、泡立ちによりシール面が液で濡れて、シール強度が低下することを防止できる
を挙げることができる。
【0059】
尚、本発明のノズルにより液体が充填される容器は、特に限定されるものではなく、一例として、樹脂容器、ガラス容器、金属容器、樹脂や金属によるフィルム状の柔軟な容器等が挙げられる。
【0060】
また、本発明のノズルが用いられる液体は、特に限定されるものではなく、一例として、衣料用洗剤、柔軟剤、シャンプーやリンス、家庭用洗剤、飲料、液体食品、食用油、燃料等が挙げられる。
【符号の説明】
【0061】
20 ノズル
21 本体筒部
22 付加筒部
22A 先端筒部
23 メッシュ
31 溶接部
32 空隙
41 ろう付部
42 空隙
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