(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5901958
(24)【登録日】2016年3月18日
(45)【発行日】2016年4月13日
(54)【発明の名称】容器詰飲料
(51)【国際特許分類】
A23F 3/14 20060101AFI20160331BHJP
【FI】
A23F3/14
【請求項の数】3
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2011-277244(P2011-277244)
(22)【出願日】2011年12月19日
(65)【公開番号】特開2013-126398(P2013-126398A)
(43)【公開日】2013年6月27日
【審査請求日】2014年10月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】特許業務法人アルガ特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100077562
【弁理士】
【氏名又は名称】高野 登志雄
(74)【代理人】
【識別番号】100096736
【弁理士】
【氏名又は名称】中嶋 俊夫
(74)【代理人】
【識別番号】100117156
【弁理士】
【氏名又は名称】村田 正樹
(74)【代理人】
【識別番号】100111028
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 博人
(72)【発明者】
【氏名】小田 遼介
【審査官】
吉門 沙央里
(56)【参考文献】
【文献】
特開2011−072242(JP,A)
【文献】
特開2007−321017(JP,A)
【文献】
特開2004−018431(JP,A)
【文献】
国際公開第2010/055864(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23F 3/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の成分(A)及び(B):
(A)非重合体カテキン類 0.03〜0.23質量%
(B)エチルシンナメート 0.05〜400質量ppm
を含有し、
成分(A)と成分(B)との質量比[(B)/(A)]が8.3×10-3〜50×10-3である容器詰飲料。
【請求項2】
非重合体カテキン類のガレート体率が30〜100質量%である請求項1記載の容器詰飲料。
【請求項3】
pHが3〜5である請求項1又は2記載の容器詰飲料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、容器詰飲料に関する。
【背景技術】
【0002】
高濃度のカテキン類を含有する容器詰飲料は、カテキン類由来の苦味や渋味が強過ぎて不快感ないし嫌悪感を伴うことがある。このような不快な苦味を抑制する手段として、例えば、サイクロデキストリンやペプチドを配合する方法が知られている(特許文献1及び2)。また、グレープフルーツの果皮から得られるグレープフルーツコールドプレスオイルを配合する方法(特許文献3)も提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平03−168046号公報
【特許文献2】特開平10−4919号公報
【特許文献3】特開2011−72242号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、サイクロデキストリンやペプチドは、配合量が少なすぎると苦味抑制効果が不十分となり、また配合量を増量すると、不快な苦味を抑制できるものの、飲料本来の風味が損なわれやすいという課題がある。一方、グレープフルーツコールドプレスオイルは、天然由来成分であって安全性が高く、不快な苦味を有効に抑制できることから、近年の消費者の健康志向の高揚と相俟って飲食品の分野において注目されている。
したがって、本発明の課題は、高濃度の非重合体カテキン類を含有するにも拘わらず、不快な苦味が抑制された容器詰飲料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、柑橘類を始めとする天然物に含まれる香気成分を用いて苦味抑制効果について検討を行った。その結果、ブラッドオレンジ中に含まれるある特定の香気成分を極微量配合するだけで、非重合体カテキン類由来の不快な苦味を抑制できることを見出した。
【0006】
すなわち、本発明は、次の成分(A)及び(B):
(A)非重合体カテキン類 0.03〜0.23質量%
(B)エチルシンナメート及びデカナールから選ばれる少なくとも1種 0.05〜400質量ppm
を含有し、成分(A)と成分(B)との質量比[(B)/(A)]が0.05×10
-3〜200×10
-3である容器詰飲料を提供するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、高濃度の非重合体カテキン類を含有するにも拘わらず、不快な苦味が抑制された容器詰飲料を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の容器詰飲料は、(A)非重合体カテキン類を0.03〜0.23質量%含有する。「非重合体カテキン類」とは、カテキン、ガロカテキン、カテキンガレート及びガロカテキンガレート等の非エピ体カテキン類と、エピカテキン、エピガロカテキン、エピカテキンガレート及びエピガロカテキンガレート等のエピ体カテキン類を合わせての総称である。非重合体カテキン類の含有量は、上記8種の合計量に基づいて定義され、後掲の実施例に記載の方法により測定することが可能である。
【0009】
本発明の容器詰飲料中の成分(A)の含有量は、上限値が好ましくは0.2質量%、更に0.19質量%、更に0.18質量%、更に0.17質量%、更に0.16質量%、殊更0.15質量%であることが好ましい。また、下限値が好ましくは0.05質量%、更に0.06質量%、更に0.07質量%、更に0.08質量%、殊更0.1質量%であることが好ましい。成分(A)の含有量の範囲としては、好ましくは0.05〜0.2質量%、より好ましくは0.06〜0.19質量%、更に好ましくは0.07〜0.18質量%、更に好ましくは0.08〜0.17質量%、更に好ましくは0.1〜0.16質量%、殊更に好ましくは0.1〜0.15質量%である。本発明の容器詰飲料中の非重合体カテキン類の含有量がこの範囲にあると、非重合体カテキン類由来の苦味を有効に抑制するため、多量の非重合カテキン類を摂取し易く、また色調並びに非重合体カテキン類の安定性も良好である点から好ましい。
【0010】
本発明において非重合体カテキンガレート体とは、カテキンガレート、ガロカテキンガレート、エピカテキンガレート、エピガロカテキンガレートの4種を合わせての総称である。非重合体カテキン類中のガレート体率とは、非重合体カテキン類全体の質量に対する非重合体カテキンガレート体4種の合計質量の比率を100分率で示した値である。本発明の容器詰飲料中における非重合体カテキン類中の非重合体カテキンガレート体の割合(ガレート体率)は30〜100質量%、好ましくは35〜95質量%、更に40〜90質量%、更に好ましくは、42〜80質量%、殊更好ましくは42〜60質量%であることが苦味抑制、生産性の観点から好ましい。
【0011】
非重合体カテキン類中のガレート体率を調整するには、例えば、特開2007−282568号公報、特開2006−160656号公報、特開2008−079609号公報、特開2004−321105号公報等に記載のように、非重合体カテキン類を含有する溶液をタンナーゼ活性を有する酵素で処理する方法が挙げられる。
【0012】
本発明の容器詰飲料は、非重合体カテキン類の不快な苦味を抑制するために、(B)エチルシンナメート及びデカナールから選ばれる少なくも1種を0.05〜400質量ppm含有する。
エチルシンナメート及びデカナールは、ブラッドオレンジ中に含まれる香気成分であり、通常香料として用いられているが、これまでにエチルシンナメート及びデカナールの苦味抑制作用について報告はなく、非重合体カテキン類の不快な苦味を抑制することは全く予期し得ないところであった。
エチルシンナメート又はデカナールとしては、エチルシンナメート又はデカナールを含有する天然精油から単離されたエチルシンナメート又はデカナールを使用しても、合成品を使用してもよい。エチルシンナメート又はデカナールを含有する天然精油としては、例えば、ブラッドオレンジ等の柑橘類より得られる精油を挙げることができる。
【0013】
本発明の容器詰飲料中の成分(B)の合計含有量は0.05〜400質量ppmであるが、苦味抑制の観点から、下限は0.08質量ppm、更に0.5質量ppm、更に5質量ppm、殊更に8質量ppmが好ましい。他方上限は、飲料本来の風味に影響を与えない点から、300質量ppm、更に200質量ppm、更に100ppmが好ましい。かかる成分(B)の合計含有量の範囲としては、0.08〜300質量ppm、更に0.5〜300質量ppm、更に5〜200質量ppm、更に8〜200質量ppm、殊更に8〜100質量ppmとなるように配合することが好ましい。
【0014】
本発明の容器詰飲料は、成分(A)に対する成分(B)の質量比〔(B)/(A)〕が0.05×10
-3〜200×10
-3であるが、非重合体カテキン類の不快な苦味を抑制する点から、更に0.1×10
-3〜100×10
-3、更に0.8×10
-3〜90×10
-3、更に1×10
-3〜50×10
-3、殊更4×10
-3〜10×10
-3であることが好ましい。
【0015】
更に、本発明の容器詰飲料には、所望により、甘味料、酸味料、炭酸ガス、酸化防止剤、有機酸類、有機酸塩類、無機酸類、無機酸塩類、無機塩類、色素類、乳化剤、保存料、調味料、ガム、油、ビタミン、果汁、野菜エキス、花蜜エキス、pH調整剤、品質安定剤等の添加剤を単独で又は2種以上を組み合わせて含有させることができる。なお、添加剤の含有量は、本発明の目的を妨げない範囲内で適宜選択可能である。
【0016】
本発明の容器詰飲料のpH(20℃)は、風味の観点から、3〜5、更に3〜4が好ましい。
【0017】
本発明の容器詰飲料は、カテキン製剤と、成分(B)を配合し、成分(A)と成分(B)の各濃度及び質量比〔(B)/(A)〕を調整して製造することができる。カテキン製剤としては、例えば、茶から得られた茶抽出物が挙げられる。茶としては、例えば、Camellia属、例えば、C.var.sinensis(やぶきた種を含む)、C.var.assamica及びそれらの雑種から選択される茶樹が好適に使用される。茶樹は、その加工方法により、不発酵茶、半発酵茶、発酵茶に大別することができる。不発酵茶としては、例えば、煎茶、番茶、碾茶、釜入り茶、茎茶、棒茶、芽茶等の緑茶が挙げられる。また、半発酵茶としては、例えば、鉄観音、色種、黄金桂、武夷岩茶等の烏龍茶が挙げられる。更に、発酵茶としては、ダージリン、アッサム、スリランカ等の紅茶が挙げられる。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができるが、中でも、緑茶が好適である。また、抽出方法としては、攪拌抽出、カラム抽出等の公知の方法を採用することができる。
また、カテキン製剤として市販品を使用してもよい。市販品としては、三井農林社製の「ポリフェノン」、伊藤園社製の「テアフラン」、太陽化学社製の「サンフェノン」等が例示される。なお、カテキン製剤として、例えば、特開2004−147508号公報、特開2004−149416号公報、特開2007−282568号公報等に記載の方法によりカテキン製剤を精製したものを使用することも可能である。
【0018】
また、本発明の容器詰飲料に使用できる容器としては、ポリエチレンテレフタレートを主成分とする成形容器(いわゆるPETボトル)、金属缶、金属箔やプラスチックフィルムと複合された紙容器、瓶等の通常の包装容器が挙げられる。
更に、容器に充填後、例えば、金属缶のような加熱殺菌できる場合にあっては適用されるべき法規(日本にあっては食品衛生法)に定められた条件で殺菌することができる。他方、PETボトル、紙容器のようにレトルト殺菌できないものについては、あらかじめ上記と同等の殺菌条件、例えばプレート式熱交換器などで高温短時間殺菌後、一定の温度迄冷却して容器に充填する等の方法が採用できる。また無菌下で、充填された容器に別の成分を配合して充填してもよい。
【実施例】
【0019】
(非重合体カテキン類の分析法)
フィルター(0.8μm)でろ過し、次いで蒸留水で希釈した試料を、高速液体クロマトグラフ(型式SCL−10AVP、島津製作所製)を用い、オクタデシル基導入液体クロマトグラフ用パックドカラム(L−カラムTM ODS、4.6mmφ×250mm:財団法人 化学物質評価研究機構製)を装着し、カラム温度35℃でグラジエント法により測定した。移動相A液は0.1mol/Lの酢酸水溶液、B液は0.1mol/Lの酢酸アセトニトリル溶液とし、試料注入量は20μL、UV検出器波長は280nmの条件で行った。
【0020】
(エチルシンナメート及びデカナールの分析法)
P&T法(パージアンドトラップ法)、GC/MS法(ガスクロマトグラフ質量分析法)の複合技術であるP&T−GC/MS法を用い、以下の分析方法で分析を行った。
〔試料の調製〕
TenaxGR吸着剤2.5gを充填したP&T装置用試料管に充填し、P&T装置に取り付けた。次に飲料サンプル10mlを採取し、試料管内に全量を注入した。
〔P&T部〕
・測定装置:日本分析工業製JHA−100A
(第一段トラップ)
・試料量:10mL
・熱抽出条件:60℃×10min
・トラップ温度:25℃
・吸着剤:TenaxGR
・パージガス:He(50mL/min)
・ドライングガス:He(150mL/min)
(第二段トラップ)
・加熱条件:250℃×60min
・パージガス: He(50mL/min)
・トラップ温度:−40℃
・吸着剤:TenaxGR
・熱脱着条件:358℃、20sec
〔GC/MS部〕
・測定装置:日本電子製 HP−5890II/JMA−AMII20
・カラム :Ultra Alloy−1
・注入口温度:200℃
・キャリアガス:He(1mL/min)
【0021】
〔苦味強度の評価〕
専門パネル4名が下記表1記載の硫酸キニーネの標準溶液をイオン交換水を用いて調製し、これら標準溶液を基準として各容器詰飲料の苦味レベルを官能試験し、各パネルの評点から平均値を求めた。
【0022】
【表1】
【0023】
製造例1
精製カテキン製剤の製造
市販の緑茶抽出物(ポリフェノンHG、三井農林社製)200gを常温、250r/min攪拌条件下の95質量%エタノール水溶液800g中に分散させ、酸性白土(ミズカエース#600、水澤化学社製)100gを投入後、約10分間攪拌を続けた。その後、2号ろ紙でろ過した。その後、活性炭16gを添加し再び2号ろ紙でろ過した。次に0.2μmメンブランフィルターによって再ろ過し、濁りの除去を行った。40℃、減圧下にてエタノールを留去し、減圧濃縮を行った。このうち150gをステンレス容器に投入し、イオン交換水で全量を2,000gとし、5質量%重炭酸ナトリウム水溶液6gを添加してpH5.5に調整した。次いで、22℃、150r/minの攪拌条件下で、イオン交換水2.1g中にタンナーゼKTFH(Industrial Grade、500U/g以上、キッコーマン社製)0.5gを溶解した液を添加し、30分後にpHが4.24に低下した時点で酵素反応を終了した。次いで、95℃の温浴にステンレス容器を浸漬し、90℃、10分間保持して酵素を完全に失活させた。次いで、25℃まで冷却した後に濃縮処理を行い、精製カテキン製剤を得た。精製カテキン製剤は、非重合体カテキン類の含有量が14質量%であり、非重合体カテキン類中のガレート体率が43質量%であった。
【0024】
実施例1〜18及び比較例1〜11
表2、3に示す量の各成分を配合し、クエン酸でpHを3.4に調製して飲料を調製した。次いで98℃で30秒殺菌を行い、200mLのPETボトルに160mL充填して容器詰飲料を製造した。得られた各容器詰飲料の成分分析及び官能評価の結果を表2、3に示す。なお、比較例2〜5では、成分(B)に替えて、ビターオレンジに特徴的な香気成分であるリナリルアセテートを用いた。
また、実施例18、比較例11では市販カテキン製剤であるTEAVIGO(DSM Nutritional Products社製、非重合体カテキン類の含有量95質量%、非重合体カテキン類中のガレート体率が100質量%)を用いた。
【0025】
【表2】
【0026】
【表3】
【0027】
表2及び3から、(A)非重合体カテキン類と(B)エチルシンナメート及びデカナールから選ばれる少なくも1種との各濃度及び質量比[(B)/(A)]を一定範囲内に制御することで、非重合体カテキン類由来の不快な苦味が抑制されることが確認された。