特許第5901974号(P5901974)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5901974
(24)【登録日】2016年3月18日
(45)【発行日】2016年4月13日
(54)【発明の名称】紙器用水性グラビア印刷インキ組成物
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/107 20140101AFI20160331BHJP
   C09D 11/03 20140101ALI20160331BHJP
【FI】
   C09D11/107
   C09D11/03
【請求項の数】3
【全頁数】28
(21)【出願番号】特願2012-4363(P2012-4363)
(22)【出願日】2012年1月12日
(65)【公開番号】特開2013-142150(P2013-142150A)
(43)【公開日】2013年7月22日
【審査請求日】2014年12月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000105947
【氏名又は名称】サカタインクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】井上 隆彦
(72)【発明者】
【氏名】藤田 篤史
(72)【発明者】
【氏名】原田 慎一
【審査官】 牟田 博一
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−158565(JP,A)
【文献】 特開平07−018212(JP,A)
【文献】 特開2004−331894(JP,A)
【文献】 特開2007−106896(JP,A)
【文献】 特開2012−097235(JP,A)
【文献】 特開2008−044982(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00−201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
着色剤、アルカリ可溶型水溶性樹脂、エマルジョン型の水性樹脂、印刷改質剤、及び、水性媒体を含有する紙器用水性グラビア印刷インキ組成物であって、
前記アルカリ可溶型水溶性樹脂は、分子内に酸基とエチレン性不飽和二重結合とを有する単量体を必須成分とする単量体混合物を重合させて得られる樹脂であり、
前記アルカリ可溶型水溶性樹脂は、酸価の下限が30mgKOH/g、上限が300mgKOH/gであり、
前記エマルジョン型の水性樹脂は、スチレン系単量体とエチレン性不飽和単量体とを含有する単量体混合物を、高分子乳化剤の存在下で、乳化重合して得られる樹脂であり、
前記エマルジョン型の水性樹脂は、酸価の下限が10mgKOH/g、上限が100mgKOH/gであり、
前記水性媒体は、水と炭素数1〜4の低級アルコールとを含有し、
前記炭素数1〜4の低級アルコールは、バイオマス由来のアルコールを含有し、
前記印刷改質剤は、下記式(1)で表わされる化合物、下記式(2)で表わされる化合物、2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール、2,4−ジエチル−1,5−ペンタンジオール、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールイソブチレート、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、1,6−ヘキサンジオールジアセテート、及び、イソアミルアセテートからなる群より選択される少なくとも1種である
ことを特徴とする紙器用水性グラビア印刷インキ組成物。
【化1】
式(1)中、R、Rは、それぞれ独立して水素又はアルキル基であって、Rの炭素数とRの炭素数の和が4以上であり、mは2又は3、nは1、2又は3である。
【化2】
式(2)中、Rは炭素数が1〜4のアルキル基であり、mは2又は3である。
【請求項2】
バイオマス由来のアルコールは、エタノールであることを特徴とする請求項1記載の紙器用水性グラビア印刷インキ組成物。
【請求項3】
印刷改質剤は、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノ−2−エチルへキシルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、トリエチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールメチル−n−プロピルエーテル、プロピレングリコールメチル−n−ブチルエーテル、ジプロピレングリコールメチル−n−プロピルエーテル、ジプロピレングリコールメチル−n−ブチルエーテル、ジプロピレングリコールジブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール、2,4−ジエチル−1,5−ペンタンジオール、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールイソブチレート、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、1,6−ヘキサンジオールジアセテート、及び、イソアミルアセテートからなる群より選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項1又は2に記載の紙器用水性グラビア印刷インキ組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紙器用水性グラビア印刷インキ組成物に関し、より詳しくは、印刷により発生する揮発性有機化合物や二酸化炭素の排出量を低減でき、良好な乾燥性と印刷適性とを有する紙器用水性グラビア印刷インキ組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
菓子等の食品や、ティッシュ、洗剤等の家庭用品等の外装箱、酒等の飲料のマルチパック用パッケージ等には、通常、美粧化のために水性インキがグラビア方式で印刷され表面保護や光沢付与のために水性オーバープリントニスが塗工されている。
例えば、最近、缶ビールは、6缶パックとして陳列・販売される機会が非常に多くなっている。そして、特に目につくのがそれらのパーケージの印刷のきれいさである。ビール業界の市場シェア争いは熾烈を極め、最近では0.1%程度の差で売り上げランキングが入れ替わる可能性すらある。ビール業界に限ったことではないが、売り上げランキングのトップ企業には高いステイタスがあり、それが世間の信用や認知度にも結びつく。そこで、ビール業界では広告・宣伝への注力はもとより、お客様が製品を手に取ったときの印象が少しでも良くなるように、印刷業界を巻き込んで、缶やパッケージの印刷品質にまでこだわった販売戦略がとられている。このような外装箱や飲料のマルチパック用パッケージ等の印刷用基材には、表面に炭酸カルシウム等の無機粒子と樹脂等とからなる塗工層を緻密に設けたコート紙が利用されている。コート紙は、表面が平滑で光沢があり、また、水性インキ等の被覆剤組成物の浸透を抑制して歩留まり性を高めるという特徴を有するために、精緻で高濃度な印刷と光沢の付与とを可能にする。しかし、コート紙は、水性媒体を有する被覆剤組成物を印刷・塗工した際に、被覆剤組成物の乾燥を阻害するという欠点がある。内部への浸透による被覆剤組成物の乾燥が期待できる印刷用基材を用いた場合は、通常、被覆剤組成物の水性媒体が水のみでも良好な乾燥性が得られる。ところが、コート紙を用いた場合、浸透の抑制により乾燥が阻害されるため、被覆剤組成物の乾燥性が低下する。被覆剤組成物の乾燥性は印刷物の生産効率に直結するファクターであり、特に大量に消費される缶ビール等のパッケージの印刷では極めて重要な性能となる。そこで、コート紙を利用して、いかに乾燥性の低下をなくすかが大きな検討課題になっていた。
【0003】
また、コート紙における、被覆剤組成物の浸透を抑制する性能は、同時に被覆剤組成物の紙面での広がりも抑制することから、コート紙を用いた場合、印刷時に、シャドウ部(網点面積率の高い部分)では印刷抜けが生じたり、ハイライト部(網点面積率の低い部分)ではざらついた感じに見えたりするといった問題があった。そして、グラビア印刷方式では、この様な印刷抜けやざらつき感が顕著になりやすい。
【0004】
グラビア印刷とは、円筒状の版材の表面に、画像部として“セル”と呼ばれる円筒状、格子状、ピラミッド状等の独立した微細な凹部を設け、その中に水性インキを充填し、ドクターブレードと呼ばれる板状の部材で凹部以外の部分に付着した水性インキを掻き取った後、版面に印刷基材を押圧し、セル内に残った水性インキのみを印刷基材に転移させる印刷方式である。ここで、水性インキがセルから印刷基材に転移した後に広がらないと、インキは印刷基材上で点在することになり、印刷抜けやざらつき感が生じる。したがって、インキの広がり性(レベリング性)は、印刷抜けやざらつき感をなくすために必要な性能と言える。なお、インキが広がりすぎると、今度はぼやけた感じになるため、レベリング性には適度な範囲が求められる。
【0005】
グラビア印刷における水性インキの乾燥性やレベリング性を向上させるためには、水性インキに水性媒体として低級アルコールを含有させることが効果的である。そこで、通常、コート紙に印刷・塗工される際の水性インキには、低級アルコールが40質量%程度と多量に含まれている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
しかし、近年、自然環境の保護や労働環境の改善が強く求められるようになり、印刷業界においても、揮発性有機化合物(VOC)や二酸化炭素の排出量削減することが求められている。そして、グラビア印刷で規制対象となるのは、「グラビア印刷の用に供する乾燥施設の送風能力が27000m/時間以上」の場合であり、VOC排出濃度を、これまでの1300ppmC(ppmC=溶剤排出量×炭素数)から700ppmCまで削減する必要がある。
クラビア印刷を行う場合において、VOCや二酸化炭素の排出量を削減する方法として、(1)インキに含まれる低級アルコール量を低減する方法、(2)グラビア印刷版深度(セルの深さ)を浅くして(浅版化)印刷することによって、印刷時のインキ使用量を低減する方法(例えば、特許文献2参照)が考えられる。
しかしながら、(1)のこれまで利用されてきた水性被覆剤組成物から、単に低級アルコール量を低減しただけの場合、紙器用水性グラビア印刷インキ組成物では、印刷適性や乾燥性が低下するという問題があった。
また、(2)の方法では、グラビア印刷版の浅版化に伴ってセル容積が減少して印刷時のインキ組成物の転移量が少なくなるため、有機溶剤の蒸発量は抑えられ、VOCや二酸化炭素の排出量を削減することはできるが、インキ皮膜が薄膜となるため、相対的に顔料分が少なくなり、色濃度が低下する等の問題があった。
【0007】
以上の様に、印刷中に蒸発する低級アルコールの絶対量を減量しながら、グラビア印刷特有の美粧印刷物を得ることについては相当な困難が伴うことになる。そこで、低級アルコールの絶対量を減少させる代わりに、利用する低級アルコールをバイオマス由来のものとする方法も提唱されている(例えば、特許文献3、4参照)。大気中にそのまま有機溶剤が排出されると大気汚染の原因となるため、最近では、印刷中に蒸発する有機溶剤を回収して燃焼処理するようになっている。アルコールが燃焼処理される際には水と二酸化炭素が発生する。このとき、バイオマス由来のアルコールであれば、発生する二酸化炭素は、植物が成長する過程で大気中から吸収した二酸化炭素と同量(カーボンニュートラル)と考えられ、差し引きするとバイオマス由来のアルコールを用いることにより新たに発生する二酸化炭素の量はゼロとみなされる。ただし、現在のところ、バイオマス由来のアルコールとして実用的なのは、ほぼエタノールのみという状況であり、インキ用溶剤としてもエタノールに限定される。
【0008】
従来、水性タイプのインキでは、乾燥性や印刷改質性の制御が容易な(イソ)プロパノールが好んで利用されてきたが、エタノールに置き換えても得られる利点は多い。たとえば、(イソ)プロパノールよりエタノールの方が、有害性が低いため大気汚染や作業環境などに悪影響を及ぼす可能性が低くなる。また、(イソ)プロパノールとエタノールが同質量のときに、燃焼処理によって発生する二酸化炭素の量はエタノールの方が13%程度少なくなる。従って、環境負荷を軽減するには、バイオマス由来のエタノールの利用は好ましいと言える。しかし、水性タイプのインキではアルコール成分をエタノール主体とした時に、印刷改質性が充分でなく、印刷抜けやざらつき感が出やすいという問題がある。
【0009】
新しいインキの開発において環境問題の解決は、確かに社会的な命題であり、(イソ)プロパノールからバイオマス由来のエタノールへの置き換えは望ましい。しかし、如何に環境対応といえども、印刷物の良し悪しが商品の売れ行きを左右する可能性がある中で、高品質印刷物を得るというグラビア印刷本来の目的からすると、ざらつき感が目立つと実用性を損なう大きな要因になる。したがって、上記で提唱されているような、単にバイオマス由来のアルコールを利用するというだけでは、環境問題を解決するという効果は期待できるものの、印刷物としての実用性能に乏しいために、市場としては受け入れ難いというのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2008−31276号公報
【特許文献2】国際公開第07/088733号パンフレット
【特許文献3】特開2008−044982号公報
【特許文献4】特開2008−081422号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、印刷により発生する揮発性有機化合物や二酸化炭素の排出量を低減でき、良好な乾燥性と印刷適性とを有する紙器用水性グラビア印刷インキ組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、着色剤、アルカリ可溶型水溶性樹脂、エマルジョン型の水性樹脂、印刷改質剤、及び、水性媒体を含有する紙器用水性グラビア印刷インキ組成物であって、上記アルカリ可溶型水溶性樹脂は、分子内に酸基とエチレン性不飽和二重結合とを有する単量体を必須成分とする単量体混合物を重合させて得られる樹脂であり、上記アルカリ可溶型水溶性樹脂は、酸価の下限が30mgKOH/g、上限が300mgKOH/gであり、上記エマルジョン型の水性樹脂は、スチレン系単量体とエチレン性不飽和単量体とを含有する単量体混合物を、高分子乳化剤の存在下で、乳化重合して得られる樹脂であり、上記エマルジョン型の水性樹脂は、酸価の下限が10mgKOH/g、上限が100mgKOH/gであり、上記水性媒体は、水と炭素数1〜4の低級アルコールとを含有し、上記低級アルコールは、バイオマス由来のアルコールを含有し、上記印刷改質剤は、下記式(1)で表わされる化合物、下記式(2)で表わされる化合物、2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール、2,4−ジエチル−1,5−ペンタンジオール、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールイソブチレート、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、1,6−ヘキサンジオールジアセテート、及び、イソアミルアセテートからなる群より選択される少なくとも1種である紙器用水性グラビア印刷インキ組成物である。
【0013】
【化1】
【0014】
式(1)中、R、Rは、それぞれ独立して水素又はアルキル基であって、Rの炭素数とRの炭素数の和が4以上であり、mは2又は3、nは1、2又は3である。
【0015】
【化2】
【0016】
式(2)中、Rは炭素数が1〜4のアルキル基であり、mは2又は3である。
以下、本発明について詳述する。
【0017】
本発明者らは、鋭意検討した結果、バイオマス由来の低級アルコールを含有する水性媒体と、特定の印刷改質剤とを組み合わせて用いることにより、印刷により発生する揮発性有機化合物や二酸化炭素の排出量を低減でき、良好な乾燥性と印刷適性とを有する紙器用水性グラビア印刷インキ組成物を得ることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0018】
本発明の紙器用水性グラビア印刷インキ組成物は、着色剤を含有する。
上記着色剤としては特に限定されず、通常、水性印刷インキに使用される従来公知の顔料が挙げられる。具体的には、無機顔料としては、例えば、酸化チタン、ベンガラ、アンチモンレッド、カドミウムイエロー、コバルトブルー、紺青、群青、カーボンブラック、黒鉛等が挙げられる。また、有機顔料としては、例えば、溶性アゾ顔料、不溶性アゾ顔料、アゾレーキ顔料、縮合アゾ顔料、銅フタロシアニン顔料、縮合多環顔料等が挙げられる。
【0019】
本発明の紙器用水性グラビア印刷インキ組成物において、上記着色剤の含有量は、印刷時において、好ましい下限が4質量%、好ましい上限が11質量%である。印刷時の着色剤の含有量が4質量%未満であると、印刷物の印刷濃度が低くなることがある。印刷時の着色剤の含有量が11質量%を超えると、得られる紙器用水性グラビア印刷インキ組成物の粘度が高くなりすぎることがある。
【0020】
本発明の紙器用水性グラビア印刷インキ組成物は、上記着色剤の分散性を向上させることを目的として分散剤を含有してもよい。
上記分散剤としては特に限定されず、従来の紙器用水性グラビア印刷インキ組成物において、顔料等の分散性向上に使用される公知の分散剤が挙げられる。
【0021】
また、本発明の紙器用水性グラビア印刷インキ組成物は、乾燥性や流動性を向上させることを目的として、体質顔料を含有してもよい。
上記体質顔料としては、例えば、炭酸カルシウム、カオリン、硫酸バリウム、水酸化アルミニウム、クレー、タルク等が挙げられる。
【0022】
本発明の紙器用水性グラビア印刷インキ組成物は、水性媒体を含有する。
上記水性媒体は、水と炭素数1〜4の低級アルコールとを含有する。
上記炭素数1〜4の低級アルコールとしては、従来から紙器用水性グラビア印刷インキ組成物に使用されているものであれば特に限定されず、石油由来のメタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール、イソブタノール等が挙げられる。なかでも、印刷時の揮発性有機化合物の排出量や、燃焼した場合の二酸化炭素の発生量を低減させることができることから、エタノールが好ましい。
【0023】
上記炭素数1〜4の低級アルコールは、バイオマス由来のアルコールを含有する。VOCや二酸化炭素の排出量を低減させることができるため、上記低級アルコールは、全部がバイオマス由来のアルコールであることが好ましい。バイオマス由来のアルコールから発生する二酸化炭素は、植物が成長する過程で大気中から吸収した二酸化炭素と同量(カーボンニュートラル)と考えられ、差し引きすると、バイオマス由来のアルコールを使用することにより新たに発生する二酸化炭素の量はゼロとみなされる。
上記バイオマス由来のアルコールとしては、例えば、さとうきび、トウモロコシ等の穀物や木材等から得られる植物由来のアルコールが挙げられる。
【0024】
本発明の紙器用水性グラビア印刷インキ組成物において、上記炭素数1〜4の低級アルコールの含有量の好ましい下限は15質量%、好ましい上限は40質量%である。上記炭素数1〜4の低級アルコールの含有量が15質量%未満であると、印刷物に印刷抜けやざらつき感が生じることがある。上記炭素数1〜4の低級アルコールの含有量が40質量%を超えると、VOCや二酸化炭素の大気中への放出が増加するので好ましくない。なお、上記炭素数1〜4の低級アルコールとしてバイオマス由来のアルコールを使用する場合は、含有量が40質量%を超える場合でも、上述したように新たに発生する二酸化炭素の量はゼロとみなされるが、VOCや二酸化炭素の大気中への放出量が増加するので好ましくない。上記炭素数1〜4の低級アルコールの含有量のより好ましい上限は30質量%である。
【0025】
なお、通常の紙器用水性グラビア印刷インキ組成物に使用される、多価アルコールやその誘導体等のその他の有機溶剤については、本発明の効果を阻害しない範囲で含有してもよいが、VOCや二酸化炭素の大気中への放出を防止するという目的から、極力、その他の有機溶剤を含まないことが好ましい。
【0026】
本発明の紙器用水性グラビア印刷インキ組成物は、アルカリ可溶型水溶性樹脂を含有する。
上記アルカリ可溶型水溶性樹脂としては、例えば、分子内にカルボキシル基等の酸基とエチレン性不飽和二重結合とを有する単量体を必須成分とする単量体混合物を重合させて得られる樹脂等が挙げられる。具体的には例えば、アクリル系、スチレン−アクリル系、スチレン−マレイン酸系、及び、スチレン−アクリル−マレイン酸系等のアルカリ可溶型水溶性樹脂が挙げられる。
【0027】
上記アルカリ可溶型水溶性樹脂の酸価は、好ましい下限が30mgKOH/g、好ましい上限が300mgKOH/gである。上記アルカリ可溶型水溶性樹脂の酸価が30mgKOH/g未満であると、上述した水性媒体中での溶解性に劣ることがある。上記アルカリ可溶型水溶性樹脂の酸価が300mgKOH/gを超えると、得られる印刷物の耐水性が低下することがある。
なお、本明細書において、上記「酸価」は、共重合体1gを得るために理論上必要な各単量体の量に対して、KOHの理論上の中和量を求め、その中和量の総和のmg数を共重合体の酸価(理論酸価)とみなすことにより求めることができる。
【0028】
本発明の紙器用水性グラビア印刷インキ組成物において、上記アルカリ可溶型水溶性樹脂の含有量の好ましい下限は1質量%、好ましい上限は25質量%である。上記アルカリ可溶型水溶性樹脂の含有量が1質量%未満であると、顔料の分散性が低下することがある。上記アルカリ可溶型水溶性樹脂の含有量が25質量%を超えると、紙器用水性グラビア印刷インキ組成物の設計が困難となることがある。
【0029】
上記アルカリ可溶型水溶性樹脂は、通常、塩基性化合物の存在下で水中に溶解させて水溶性樹脂ワニスとして使用する。
上記塩基性化合物としては、例えば、有機アミン、アルカリ金属水酸化物等が挙げられる。上記有機アミンとしては、例えば、ジエチルアミン、トリエチルアミン、エチレンジアミン等のアルキルアミン、モノエタノールアミン、エチルエタノールアミン、ジエチルエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアルカノールアミン等が挙げられる。
上記アルカリ金属水酸化物としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられる。なかでも乾燥性を向上させるために、常温あるいはわずかの加温で容易に揮発するものが望ましい。
【0030】
本発明の紙器用水性グラビア印刷インキ組成物は、本発明の効果を阻害しない範囲で、更に、上記アルカリ可溶型水溶性樹脂以外の他の水性バインダー樹脂ワニス、例えば、水性シェラックワニス、水性カゼインワニス、水性ロジンマレイン酸樹脂ワニス、水性ポリエステル樹脂ワニス、水溶性セルロースワニス等を含有してもよい。
【0031】
本発明の紙器用水性グラビア印刷インキ組成物は、エマルジョン型の水性樹脂を含有する。
上記エマルジョン型の水性樹脂としては、例えば、スチレン系単量体とエチレン性不飽和単量体とを含有する単量体混合物を、高分子乳化剤の存在下で、乳化重合して得られた樹脂、スチレン−アクリル系水性樹脂、スチレン−マレイン酸系水性樹脂、スチレン−アクリル−マレイン酸系水性樹脂等が挙げられる。
【0032】
上記エマルジョン型の水性樹脂の酸価の好ましい下限は10mgKOH/g、好ましい上限は100mgKOH/gである。上記エマルジョン型の水性樹脂の酸価が10mgKOH/g未満であると、再溶解性が低下することがある。上記エマルジョン型の水性樹脂の酸価が100mgKOH/gより大きいと、得られる紙器用水性グラビア印刷インキ組成物が乾燥性に劣るものとなることがある。上記エマルジョン型の水性樹脂の酸価のより好ましい下限は30mgKOH/g、より好ましい上限は50mgKOH/gである。
なお、上記エマルジョン型の水性樹脂の酸価は、高分子乳化剤に由来するものであり、例えば、酸価100mgKOH/gの高分子乳化剤が、水性樹脂の固形分比率として10質量%含まれているときの酸価は酸価10mgKOH/gとなる。
【0033】
上記エマルジョン型の水性樹脂のガラス転移温度の好ましい下限は15℃、好ましい上限は100℃である。また、上記エマルジョン型の水性樹脂のガラス転移温度が15℃未満であると、印刷物のブロッキング性が低下することがある。上記エマルジョン型の水性樹脂のガラス転移温度が100℃を超えると、印刷物の耐摩性が低下することがある。
なお、上記エマルジョン型の水性樹脂のガラス転移温度とは、乳化重合に利用される全ての単量体を、コア部、シェル部と分けずに1度に共重合した時に得られる共重合体のガラス転移温度を表す。
上記ガラス転移温度は、下記のwoodの式により求めた理論ガラス転移温度である。
1/Tg=W/Tg+W/Tg+W/Tg+・・・・・+W/Tg
上式woodの中、Tg〜Tgは共重合体を構成する単量体1、2、3、・・・、xのそれぞれの単独重合体のガラス転移温度、W〜Wは単量体1、2、3、・・・、xのそれぞれの質量分率、Tgは理論ガラス転移温度を表す。ただし、woodの式におけるガラス転移温度は絶対温度である。
【0034】
上記エマルジョン型の水性樹脂の含有量は、本発明の紙器用水性グラビア印刷インキ組成物に含まれる固形分中において、好ましい下限が10質量%、好ましい上限が60質量%である。固形分中における上記エマルジョン型の水性樹脂の含有量のより好ましい下限は30質量%である。
【0035】
本発明の紙器用水性グラビア印刷インキ組成物は、印刷改質剤を含有する。上記バイオマス由来の炭素数1〜4の低級アルコールを含有する水性媒体と、上記印刷改質剤とを組み合わせて用いることにより、本発明の紙器用水性グラビア印刷インキ組成物は、印刷により発生する揮発性有機化合物や二酸化炭素の排出量を低減でき、かつ、良好な乾燥性と印刷適性とを有するものとなる。
【0036】
上記印刷改質剤は、上記式(1)で表わされる化合物、上記式(2)で表わされる化合物、トリエチレングリコールジメチルエーテル、2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール、2,4−ジエチル−1,5−ペンタンジオール、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールイソブチレート、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、1,6−ヘキサンジオールジアセテート、及び、イソアミルアセテートからなる群より選択される少なくとも1種である。
なかでも、印刷物の印刷抜けやざらつき感を抑制する効果に特に優れることから、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノ−2−エチルへキシルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、トリエチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールメチル−n−プロピルエーテル、プロピレングリコールメチル−n−ブチルエーテル、ジプロピレングリコールメチル−n−プロピルエーテル、ジプロピレングリコールメチル−n−ブチルエーテル、ジプロピレングリコールジブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール、2,4−ジエチル−1,5−ペンタンジオール、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールイソブチレート、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、1,6−ヘキサンジオールジアセテート、イソアミルアセテートの群より選択される少なくとも1種が好適である。
【0037】
本発明の紙器用水性グラビア印刷インキ組成物において、上記印刷改質剤の含有量は、印刷時において、好ましい下限が0.5質量%、好ましい上限が5質量%である。印刷時における上記印刷改質剤の含有量が0.5質量%未満であると、印刷物に印刷抜けやざらつき感が生じることがある。印刷時における上記印刷改質剤の含有量が5質量%を超えると、得られる紙器用水性グラビア印刷インキ組成物が乾燥性に劣るものとなることがある。
【0038】
本発明の紙器用水性グラビア印刷インキ組成物は、使用用途に応じて、任意成分を適宜含有してもよい。上記任意成分としては、ワックス、湿潤剤、消泡剤、pH調整剤、粘度調整剤、乾燥調整剤、光沢剤、架橋剤等、種々の添加剤が挙げられる。
【0039】
本発明の紙器用水性グラビア印刷インキ組成物を製造する方法を説明する。
まず、着色剤、アルカリ可溶型水溶性樹脂、及び、必要に応じて添加する分散剤等を混合し、通常のインキ製造装置(例えば、ボールミル、アトライター、サンドミル等)を用いて攪拌、混練した後、アルカリ可溶型水溶性樹脂、エマルジョン型の水性樹脂、印刷改質剤、水とバイオマス由来の炭素数1〜4の低級アルコールを含有する水性媒体、必要に応じて、消泡剤等の添加剤を添加混合して製造する方法が挙げられる。
【0040】
本発明の紙器用水性グラビア印刷インキ組成物の固形分の含有量の好ましい下限は15質量%、好ましい上限は30質量%である。上記固形分の含有量が15質量%未満であると、乾燥性が低下することがある。上記固形分の含有量が30質量%を超えると、粘度が高くなりすぎることがある。
なお、本明細書において、上記固形分とは、グラビア印刷されるときの固形分を意味する。
【0041】
本発明の紙器用水性グラビア印刷インキ組成物の印刷方法について説明する。
本発明の紙器用水性グラビア印刷インキ組成物は、コート紙等の紙基材に、グラビア印刷方式で印刷することができる。
印刷物の製造効率を考慮すると、印刷スピードは150m/分以上が好ましい。また、印刷スピードを150m/分以上とするために、印刷後に、各種加熱乾燥装置を利用した乾燥工程を行ってもよい。
なお、印刷時、本発明の紙器用水性グラビア印刷インキ組成物の粘度としては、ザーンカップNo.3の流出秒数が15〜19秒程度であることが好ましい。上記流出秒数が15秒未満であると、レベリング性が低下することがある。上記流出秒数が19秒を超えると、印刷適性が低下することがある。
【0042】
また、通常、本発明の紙器用水性グラビア印刷インキ組成物は、印刷時に希釈剤により希釈される。上記希釈剤による希釈は、印刷時の本発明の紙器用水性グラビア印刷インキ組成物中の固形分の含有量が、15〜30質量%となる範囲となるようになされることが好ましい。ただし、浅版化した刷版を使用する場合は、印刷適性及び印刷性能の観点から、印刷時の本発明の紙器用水性グラビア印刷インキ組成物中の固形分の含有量が、20〜30質量%となるようになされることが好ましく、25〜30質量%となるようになされることがより好ましい。
【0043】
更に、本発明の紙器用水性グラビア印刷インキ組成物を用いて印刷した印刷物には、紙器用水性オーバープリントニス組成物を塗工してもよい。上記紙器用水性オーバープリントニス組成物としては、従来公知の紙器用ものが使用できるが、水性媒体、エマルジョン型の水性樹脂、及び、上述した印刷改質剤を含有するものが好ましい。
上記水性オーバープリントニス組成物に用いる水性媒体は、VOCや二酸化炭素の排出量を削減するために、炭素数1〜4の低級アルコール等の有機溶媒を極力少なくすることが好ましく、有機溶剤を使用しない水がより好ましい。
【0044】
本発明の紙器用水性グラビア印刷インキ組成物を印刷する工程、及び、上記紙器用水性オーバープリントニス組成物を塗工する工程は、一連の工程で行われてもよいし、別々の機会に工程を分けて行われてもよい。
また、例えば、6缶パックのパッケージ等では、印刷物を製造後、打ち抜き加工等の後加工が行われるが、この後加工は、本発明の紙器用水性グラビア印刷インキ組成物を印刷する工程や、上記水性オーバープリントニス組成物を塗工する工程と一連の工程で行われてもよいし、別々の機会に工程を分けて行われてもよい。
グラビア印刷、塗工、後加工を一度に行える装置としては、例えば、ボブストチャンプレンレマニックグラビア輪転打抜機等が挙げられる。
具体的には、コート紙等の紙基材を給紙部に供給し、本発明の紙器用水性グラビア印刷インキ組成物をグラビア印刷方式によって印刷した後、上記紙器用水性オーバープリントニス組成物の塗工による被覆を、150〜200m/minの印刷・塗工スピードで行い、その後、打ち抜き工程を経て、目的の印刷物を得ることができる。
【0045】
更に、本発明の紙器用水性グラビア印刷インキ組成物を印刷後、及び、上記紙器用水性オーバープリントニス組成物を塗工した後、乾燥にあたっては熱風乾燥装置を利用することにより、印刷効率、塗工効率、全体の印刷物の製造効率を高くすることができる。
【0046】
本発明の紙器用水性グラビア印刷インキ組成物は、紙器カートンのグラビア印刷に特に好適に用いられる。
【発明の効果】
【0047】
本発明によれば、印刷により発生する揮発性有機化合物や二酸化炭素の排出量を低減でき、良好な乾燥性と印刷適性とを有する紙器用水性グラビア印刷インキ組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0048】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「%」は「質量%」を意味し、「部」は「質量部」を意味するものである。また、表1〜13中の各材料の分量の数字についても「質量部」である。
【0049】
<紙器用水性グラビア印刷インキ組成物>
構成材料
(有色顔料)
赤色顔料(PR48:3)
黄色顔料(PY14)
青色顔料(PB15:3)
黒色顔料(PB7)
(水性媒体)

バイオマス由来のエタノール
イソプロピルアルコール
(消泡剤)
BYK−028#C(商品名、ビックケミー社製)
(ワックス)
ケミパール400W(商品名、三井化学社製、ポリエチレンワックス)
(エマルジョン型の水性樹脂)
アクリル酸12質量部、メタクリル酸メチル71質量部、アクリル酸ブチル17質量部からなるアルカリ可溶性樹脂のジメチルエタノールアミン水溶液を、高分子乳化剤として調製した。得られた高分子乳化剤の樹脂固形分60質量部に対し、2−エチルヘキシルアクリレート8質量部、スチレン20質量部、メタクリルメチル12質量部を添加し、乳化重合し、酸価47、ガラス転移温度55℃、固形分40%のエマルジョン型の水性樹脂を得た。
(アルカリ可溶型水溶性樹脂)
スチレン22質量部、α−メチルスチレン6質量部、メタクリル酸6質量部、メチルメタクリレート28質量部、無水マレイン酸のイソブタノールのハーフエステル34質量部を重合し、酸価150mgKOH/g、重量平均分子量19000の共重合体を得た。得られた共重合体をアンモニア水で中和し、固形分20.2%のアルカリ可溶型水溶性樹脂を得た。
【0050】
(紙器用水性グラビア印刷インキベースの調製)
下記の配合に従って、各顔料(赤色顔料(PR48:3)、黄色顔料(PY14)、青色顔料(PB15:3)、黒色顔料(PB7、カーボンブラック))、アルカリ可溶型水溶性樹脂、及び、水をビーズミルで混合した後、残りの材料を添加混合して、赤、黄、青、黒の各色の紙器用水性グラビア印刷インキベースを得た。
<紙器用水性グラビア印刷インキベース>
アルカリ可溶型水溶性樹脂(N.V.20.2%) 25質量部
水 17質量部
顔料 30質量部
ビーズミル練肉
アルカリ可溶型水溶性樹脂(N.V.20.2%) 20質量部
水 8質量部
合計 100質量部
【0051】
(実施例1〜20、比較例1〜8)
表1〜12の配合組成となるように、上述の赤(表1〜3)、黄(表4〜6)、青(表7〜9)、黒(表10〜12)の各色の紙器用水性グラビア印刷インキベース、エマルジョン型の水性樹脂、アルカリ可溶型水溶性樹脂、水性媒体、イソプロピルアルコール、消泡剤、ワックス、印刷改質剤を攪拌混合した。その後、バイオマス由来のエタノールと水とからなる希釈剤A(バイオマス由来のエタノール:水=70:30(質量比))又はイソプロピルアルコールと水とからなる希釈剤B(イソプロピルアルコール:水=70:30(質量比))を用いて、粘度が表1〜12に示した範囲で、組成物中の固形分、及び、バイオエタノール又はイソプロピルアルコールの含有量が表1〜12に示した値となるように希釈し、赤、黄、青、黒の各色の実施例及び比較例の紙器用水性グラビア印刷インキ組成物を得た。
【0052】
【表1】
【0053】
【表2】
【0054】
【表3】
【0055】
【表4】
【0056】
【表5】
【0057】
【表6】
【0058】
【表7】
【0059】
【表8】
【0060】
【表9】
【0061】
【表10】
【0062】
【表11】
【0063】
【表12】
【0064】
(参照例1)
参照例の各色の紙器用水性グラビア印刷インキ組成物として、市販品を用いた。
表13に、用いた市販品の赤、黄、青、黒の各色の紙器用水性グラビア印刷インキ組成物の配合組成を示す。
【0065】
【表13】
【0066】
<評価>
実施例、比較例、及び、参照例に係る各色の紙器用水性グラビア印刷インキ組成物の乾燥性、印刷改質性、網点再現性について、下記の条件で各紙器用水性グラビア印刷インキ組成物をコート紙にグラビア印刷し、その印刷物について評価した。なお、印刷時に排出される二酸化炭素の排出量は、実施例では大幅に低減できる(実施例では炭素数1〜4の低級アルコールとしてバイオマス由来のアルコールを使用しており、バイオマス由来のアルコールから発生する二酸化炭素は、植物が成長する過程で大気中から吸収した二酸化炭素と同量(カーボンニュートラル)と考えられ、差し引きするとバイオマス由来のアルコールを使用することにより新たに発生する二酸化炭素の量はゼロとみなされるため)。
【0067】
(印刷条件)
用紙:コート紙(商品名:CRC230、レンゴー社製)
印刷機械:グラビア校正機(東芝社製)
インキを印刷する刷版:ヘリオ175ine/inch(図柄:網点濃度5〜100%の諧調を有する諧調版)
印刷速度:80m/min
乾燥条件:80℃
【0068】
(乾燥性)
各色の紙器用水性グラビア印刷インキ組成物の乾燥性は、グラビア校正機にて印刷速度を変えて印刷・塗工を行い、ガイドロールに(印刷面、塗工面)が触れた時に、ガイドロールにインキが付着して汚れる度合いを、目視にて、下記基準で評価した。結果を表14に示した。
○:ガイドロールへの付着量が少ない
×:ガイドロールへの付着量が多い
【0069】
(レベリング性)
得られた各印刷物の網点濃度100%であるベタ部の濃淡ムラ、抜けを、目視にて、下記基準で評価した。結果を表14に示した。
◎:濃淡むら、抜けがない
○:濃淡むら又は抜けが少しある
△:濃淡むら及び抜けが少しある
×:濃淡むら又は抜けが多い
【0070】
(網点再現性)
得られた各印刷物の網点の状態を、目視にて、下記基準で評価した。結果を表14に示した。
○:参照例1(市販インキ)と同等以上
△:参照例1(市販インキ)より少し劣る
×:参照例1(市販インキ)より劣る
【0071】
【表14】
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明によれば、印刷により発生する揮発性有機化合物や二酸化炭素の排出量を低減でき、良好な乾燥性と印刷適性とを有する紙器用水性グラビア印刷インキ組成物を提供することができる。