(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
内輪および外輪の各軌道輪にそれぞれ軌道溝が形成され、これら内外輪の軌道溝間に複数の転動体が設けられると共に、内外輪の軸方向端に、内外輪間で凹凸となる段差が設けられ、この段差のある内外輪の軸方向端を封止する弾性体製のシール部材を備えた旋回軸受において、
前記シール部材は、前記段差の凸側となる凸側軌道輪の凹側軌道輪よりも突出した部分に固定される基部と、前記段差の凹側となる凹側軌道輪に接する1つまたは複数のリップ部とを有し、このリップ部の一つとして、先端に向かうに従って軸受空間の軸方向内側に位置するように傾斜して延びる主リップを含み、
前記凹側軌道輪の軸受空間側の周面に、シール部材の主リップを摺接させるシール摺接面部が設けられ、
前記凸側軌道輪の周面に環状溝が設けられると共にこの環状溝の底部における軸方向外側の面に固定溝が設けられ、前記シール部材の前記基部は、前記凸側軌道輪における前記周面と前記固定溝の内面との間の部位である環状壁部が嵌まり込む嵌め込み用溝を有し、前記固定溝の内面における軸受空間側の溝側面に、溝底側部分に向かうに従って軸受空間から遠ざかる側に位置するように傾斜するシール固定側傾斜部が設けられ、
前記シール部材の基部のうち、前記凸側軌道輪の前記環状溝の底部に臨む基部内側面の断面形状は、一つの凸状の曲線または変曲点を持たない連続した凸状の曲線で繋がった形状であり、前記主リップにおける径方向の内側面と、前記基部の前記基部内側面とを繋ぐ部分は、前記軸受空間における内部圧力が作用して前記主リップを弾性変形させることを特徴とする旋回軸受。
請求項1において、前記シール部材の基部のうち、前記凸側軌道輪の前記環状溝の底部に臨む基部内側面の断面形状は、90度以上180度以下の交点角度を有する複数の線で繋がった形状である旋回軸受。
請求項1または請求項2において、前記主リップは、基部に繋がるリップ胴体部と、このリップ胴体部から突出するリップ突出部とを有し、このリップ突出部は、前記リップ胴体部よりも厚みが薄くなっている旋回軸受。
請求項1ないし請求項4のいずれか1項において、前記凸側軌道輪の前記環状溝の底部における軸方向内側の内側面は、溝底側部分に向かうに従って軸受空間から遠ざかる側に位置するように傾斜する断面形状に形成されている旋回軸受。
請求項1ないし請求項7のいずれか1項において、前記シール部材は、リップ部の一つとして、基部から主リップとは別に分岐して凹側軌道輪の端面に接する副リップを含む旋回軸受。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特に、風力発電装置のヨー、ブレード用の旋回軸受に使用されるゴムシールは、周辺環境保護の観点からグリース漏れ防止が重要な機能となる。旋回軸受は一般に低速運転のため、発熱の問題は少ないが、
図8に示すように、給脂管50からグリースを追加給脂する等の場合には、軸受内部の圧力が上昇する。前記給脂管50は、同図に示すように、外輪外径面もしくは内輪内径面から軸受内部に向かって半径方向に貫通する管である。前記のように軸受内部の圧力が上昇するため、ゴムシール部51には内部圧力が作用する。
【0005】
ゴムシール部51に発生する内部圧力が大きい場合、シールリップ52が反転またはシール固定部より脱落するおそれがある。シールリップ52の向きは、先端に向かうに従って軸受空間の軸方向内側に傾斜して延びる内向きリップ52a、先端に向かうに従って軸受空間の軸方向外側に傾斜して延びる外向きリップ52bの2パターンがある。
前記内部圧力に耐えるには、内向きリップ52aが必要となるが、この内向きリップ52aに想定以上の圧力が掛かると、リップが反転するといった不具合が生じる。その不具合を防止するための手段としては、リップの厚みを厚くし、リップ剛性を高めることが考えられる。しかし、リップの厚みを厚くすると、シールトルクが高くなり、駆動装置の仕様にも影響を及ぼすおそれがある、つまり旋回トルクの容量アップが必要となるおそれがあるため、得策とは言えない。
【0006】
この発明の目的は、内部圧力の上昇時にシール部材のリップ部の反転およびシール部材の脱落を防止でき、シールトルクの低減を図ることができる旋回軸
受を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明の旋回軸
受は、内輪および外輪の各軌道輪にそれぞれ軌道溝が形成され、これら内外輪の軌道溝間に複数の転動体が設けられると共に、内外輪の軸方向端に、内外輪間で凹凸となる段差が設けられ、この段差のある内外輪の軸方向端を封止する弾性体製のシール部材を備えた旋回軸
受において、前記シール部材は、前記段差の凸側となる凸側軌道輪の凹側軌道輪よりも突出した部分に固定される基部と、前記段差の凹側となる凹側軌道輪に接する1つまたは複数のリップ部とを有し、このリップ部の一つとして、先端に向かうに従って軸受空間の軸方向内側に位置するように傾斜して延びる主リップを含み、前記凹側軌道輪の軸受空間側の周面に、シール部材の主リップを摺接させるシール摺接面部が設けられ、前記凸側軌道輪の周面に環状溝が設けられると共にこの環状溝の底部における軸方向外側の面に固定溝が設けられ、前記シール部材の前記基部は、前記凸側軌道輪における前記周面と前記固定溝の内面との間の部位である環状壁部が嵌まり込む嵌め込み用溝を有し、前記固定溝の内面における軸受空間側の溝側面に、溝底側部分に向かうに従って軸受空間から遠ざかる側に位置するように傾斜するシール固定側傾斜部が設けられ、前記シール部材の基部のうち、前記凸側軌道輪の前記環状溝の底部に臨む基部内側面の断面形状は、一つの凸状の曲線または変曲点を持たない連続した凸状の曲線で繋がった形状であり、前記主リップにおける径方向の内側面と、前記基部の前記基部内側面とを繋ぐ部分は、前記軸受空間における内部圧力が作用して前記主リップを弾性変形させることを特徴とする。
【0008】
この構成によると、シール部材に内部圧力が作用したとき、主リップが凹側軌道輪のシール摺接面部に押し付けられ、基部がシール固定側傾斜部に押し付けられる。このとき、シール部材の基部のうち、凸側軌道輪の前記環状溝の底部に臨む基部内側面の断面形状を、一つの凸状の曲線または変曲点を持たない連続した凸状の曲線で繋がった形状としたため、シール部材全体の剛性を高め、リップ部の反転を抑えることができ、且つ、シール部材が軌道輪から脱落することを防止することができる。リップ部の反転を抑えることができるため、リップ部の厚みを厚くしてリップ剛性を高める必要がなくなる。したがって、リップ部の厚みを従来のものより薄肉化して、軸受運転時のシールトルクの低減を図ることができる。しかもシール部材の密封性が保たれる。
【0009】
また凸側軌道輪の周面に設けた固定溝に、シール部材の基部の一部を差し込むことで、
凸側軌道輪の周面と固定溝の内面との間の環状壁部が、基部の嵌め込み用溝に嵌まり込む
ため、シール部材を凸側軌道輪を容易に固定することができる。したがって、組立工数の
低減を図れる。この場合、シール部材を固定するための接着剤等が不要であり、シール
抑
用の蓋等の他の部品も不要となるため、部品点数の低減を図り、製造コストの低減を図
れる。消耗したシール部材を交換するときの作業性も従来技術よりも大幅に向上す
る。
このように、リップ部の反転を抑えることができ、且つ、シール部材が軌道輪から脱落す
ることを防止することができるため、シール部材の密閉性が保たれ、グリース漏れ防止を図ることができ、そのため、周辺環境を保護することができるうえ、軸受寿命を延ばすことができる。さらに、シールトルクの低減を図ることができるため、旋回トルクの容量を増やす必要がなくなる。したがって駆動源の小形化を図れ、製造コストの低減を図れる。
【0010】
前記シール部材の基部のうち、前記凸側軌道輪の前記環状溝の底部に臨む基部内側面の断面形状
は、90度以上180度以下の交点角度を有する複数の線で繋がった形
状であっても良い。前記「交点角度」は、シール部材の内部から見た角度を言う。
この場合、シール部材の基部の剛性を従来技術のものより高め、局部的な変形を防止することができる。
【0011】
前記主リップは、基部に繋がるリップ胴体部と、このリップ胴体部から突出するリップ突出部とを有し、このリップ突出部は、前記リップ胴体部よりも厚み
が薄
くなっていても良い。この場合、例えば、リップ突出部とリップ胴体部の厚みが同一のものより、リップ部のシールトルクを低減することができ、且つ、シール部材に内部圧力が作用したとき、主リップを積極的に弾性変形させることができる。これにより、主リップがシール摺接面部に押圧されるため、環状壁部に対し基部の引掛かり代が少ない場合であっても、シール部材の基部側での抜け出しを防止し得る。
【0012】
前記主リップ
の径方向の内側面と、基部の基部内側面とを繋ぐ交線の角度
は180度以上270度以
下であっても良い。前記「角度」は、シール部材の内部から見た角度を言う。この場合、主リップ
の径方向の内側面と、基部の基部内側面とを繋ぐ部分に、内部圧力を作用させて主リップを積極的に弾性変形させることができる。これにより、環状壁部に対し基部の引掛かり代が少ない場合であっても、シール部材の基部側での抜け出しを防止し得る。
【0013】
前記凸側軌道輪の前記環状溝の底部における軸方向内側の内側面
は、溝底側部分に向かうに従って軸受空間から遠ざかる側に位置するように傾斜する断面形状に形
成されていても良い。この場合、シール部材における基部の基部内側面と、環状溝の底部における軸方向内側の内側面との間に、隙間を設けることができる。これにより、シール部材に内部圧力が作用したとき、シール部材における基部の基部内側面に内部圧力を確実に作用させることができる。したがって、主リップが凹側軌道輪のシール摺接面部に押し付けられ、基部がシール固定側傾斜部に押し付けられ、シール部材の基部側での抜け出しを防止し得る。
【0014】
前記凸側軌道輪における前記環状溝の底部と、シール部材の基部とを接触させたものとしても良い。この場合、環状溝の底部とシール部材の基部との摩擦係数が大きくなり、シール部材の基部の固定を安定させることができる。これと共に、前記環状溝からのグリース漏れの抑制を強化することもできる。さらにリップ部の緊迫力を保持できるため、シール性を安定することもできる。
【0015】
前記シール部材はニトリルまたはクロロプレンから成るものであっても良い。
前記シール部材は、リップ部の一つとして、基部から主リップとは別に分岐して凹側軌道輪の端面に接する副リップを含むものであっても良い。この副リップにより、さらにシール部材の密封性が保たれ、軸受空間からのグリース漏れ防止を図ることができる。
【発明の効果】
【0017】
この発明の旋回軸
受は、内輪および外輪の各軌道輪にそれぞれ軌道溝が形成され、これら内外輪の軌道溝間に複数の転動体が設けられると共に、内外輪の軸方向端に、内外輪間で凹凸となる段差が設けられ、この段差のある内外輪の軸方向端を封止する弾性体製のシール部材を備えた旋回軸
受において、前記シール部材は、前記段差の凸側となる凸側軌道輪の凹側軌道輪よりも突出した部分に固定される基部と、前記段差の凹側となる凹側軌道輪に接する1つまたは複数のリップ部とを有する。このリップ部の一つとして、先端に向かうに従って軸受空間の軸方向内側に位置するように傾斜して延びる主リップを含み、前記凹側軌道輪の軸受空間側の周面に、シール部材の主リップを摺接させるシール摺接面部が設けられ、前記凸側軌道輪の周面に環状溝が設けられると共にこの環状溝の底部における軸方向外側の面に固定溝が設けられ、前記シール部材の前記基部は、前記凸側軌道輪における前記周面と前記固定溝の内面との間の部位である環状壁部が嵌まり込む嵌め込み用溝を有し、前記固定溝の内面における軸受空間側の溝側面に、溝底側部分に向かうに従って軸受空間から遠ざかる側に位置するように傾斜するシール固定側傾斜部が設けられ、前記シール部材の基部のうち、前記凸側軌道輪の前記環状溝の底部に臨む基部内側面の断面形状は、一つの凸状の曲線または変曲点を持たない連続した凸状の曲線で繋がった形状である。さらに前記主リップにおける径方向の内側面と、前記基部の前記基部内側面とを繋ぐ部分は、前記軸受空間における内部圧力が作用して前記主リップを弾性変形させる。このため、内部圧力の上昇時にシール部材のリップ部の反転およびシール部材の脱落を防止でき、シールトルクの低減を図ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
この発明の第1の実施形態にかかる旋回軸
受を図1および
図2と共に説明する。以下の説明はシール構造の設計方法についての説明をも含む。この旋回軸受は、例えば、風力発電用風車のブレードを主軸に対して、主軸軸心に略垂直な軸心回りに旋回自在に支持する軸受、または風車のナセルを支持台に対して旋回自在に支持する軸受として使用される。
【0020】
図1に示すように、旋回軸受は、内輪1と、外輪2と、これら内外輪1,2の軌道溝1a,2a間に転動自在に介在する複数の転動体であるボール3と、周方向に隣接するボール3,3間に介在する図示外の間座と、後述するシール部材5とを備える。内外輪1,2の軌道溝1a,2aは、いずれも2つの曲面で構成されている。各軌道溝1a,2aを構成する2つの曲面は、それぞれ転動体としてのボール3よりも曲率半径が大きく、曲率中心が互いに異なるゴシックアーチ状の断面円弧状である。各ボール3は、内輪軌道溝1aおよび外輪軌道溝2aの前記各曲面に接点で接して4点接触する。この旋回軸受は4点接触玉軸受として構成されている。前記間座は例えば樹脂材料からなり、この間座は両側のボール接触面が、中心部に至るに従って深く凹む球面を成す凹面形状とされている。
【0021】
外輪2には、複数の貫通孔2bが円周方向一定間隔おきに設けられる。これら貫通孔2bは、例えば、外輪2を後述の支持台等に連結固定するために用いられる。内輪1にも複数の貫通孔1bが円周方向一定間隔おきに設けられ、これら貫通孔1bは、例えば内輪1を後述のナセルのケーシング等に連結固定するために用いられる。各貫通孔1b,2bは、軸受軸方向に平行に形成されている。
また外輪外径面または内輪内径面から軸受内部に向かって半径方向に貫通する給脂管(図示せず)が設けられ、この給脂管から軸受内部にグリースを追加給脂可能に構成されている。
【0022】
シール構造について説明する。
図1に示すように、内外輪1,2の軸方向端、この例では軸方向両端に、内外輪1,2間で凹凸となる段差δがそれぞれ設けられている。内外輪1,2の軸受空間4にはグリースが充填され、シール部材5,5は、前記段差δのある内外輪1,2の軸方向両端を封止する。軸方向一端(
図1の上部)のシール部材5について説明する。
図1の上部のシール部材5では、段差δの凸側となる凸側軌道輪が内輪1であり、段差δの凹側となる凹側軌道輪が外輪2となる。
【0023】
シール部材5は、ニトリルまたはクロロプレン等の弾性体から成り、
図2(A)に示すように、基部6と、主リップ7および副リップ8を含むリップ部9とを有する。これら基部6とリップ部9とは一体に設けられる。基部6は、凸側軌道輪である内輪1に固定されるシール固定部10と、このシール固定部10に繋がるシール胴体部11とを有する。基部6のシール固定部10の内周面側に、嵌め込み用溝10aを設けている。この嵌め込み用溝10aは、軸方向外側に環状に開口するように形成されている。
【0024】
基部6のシール固定部10は、内輪1のうち、外輪2よりも軸方向に突出した部分に固定される。内輪1の外周面に環状溝12を設けると共に、この環状溝12の底部における軸方向外側の面に固定溝13を設けている。内輪1の外周面と固定溝13の内面との間の部位である環状壁部14が、基部6の嵌め込み用溝10aに嵌まり込むようになっている。また固定溝13の内面における軸受空間側の溝側面に、溝底側部分に向かうに従って軸方向外側に位置するように傾斜するシール固定側傾斜部13aを設けている。シール固定部10が内輪1に固定されたとき、前記シール固定側傾斜部13aにシール固定部10の一部である先端部10bが当接して固定されるうえ、内輪1の外周面に形成された段部1cに、シール固定部10の他の一部である係合部10cが係合して固定される。またシール部材5に内部圧力が作用したとき、シール固定部10の先端部10bがシール固定側傾斜部13aに押し付けられるようになっている。
【0025】
図2(B)に示すように、シール固定部10が内輪1に固定される前のシール部材単体では、シール固定部10の先端部10bと係合部10cとの間の最大の径方向隙間δaは、シール固定部10が内輪1に固定された状態のとき(
図2(A))よりも幅狭に形成される。
図2(A)に示すように、内輪1の環状壁部14が嵌め込み用溝10aに嵌まり込むことで、シール固定部10の先端部10bが径方向内方に弾性変形して(換言すれば、シール固定部10の前記係合部10cに対して離隔して)シール固定側傾斜部13aに当接する。これと共に、内輪1の段部1cに、シール固定部10の係合部10cが係合するようになっている。
【0026】
前記環状溝12の底部における軸方向内側の内側面15は、溝底側部分に向かうに従って軸受空間4から遠ざかる側に位置するように傾斜する断面形状に形成される。内側面15は、この例では、シール固定側傾斜部13aの傾斜面に平行に形成され、シール部材5の基部6が前記内側面15および溝底面に干渉しないように設けられる。シール部材5の基部6のうち、環状溝12の底部に臨む基部内側面6aの断面形状を、半径方向内方に凸曲面を成す一つの凸状の曲線からなる形状としている。
【0027】
リップ部9の主リップ7は、基部6に繋がるリップ胴体部7bと、このリップ胴体部7bから突出するリップ突出部7cとを有する。これらリップ胴体部7bおよびリップ突出部7cは、主リップ全体として、先端に向かうに従って軸受空間の軸方向内側に位置するように傾斜して延びる。リップ突出部7cは、リップ胴体部7bよりも厚みを薄くしている。またリップ突出部7cは、先端に向かうに従って厚みが薄くなる断面先細り形状、換言すれば、くさび形状に形成されている。シール胴体部11のうち外輪内周面に臨むシール胴体部11の外側面部から、前記主リップ7が軸方向内側に傾斜して延びる。この主リップ7の厚みt1は、基部6のシール胴体部11の径方向の厚みt2よりも薄く設けられている。
【0028】
基部6のシール胴体部11のうち、環状溝12の底部に臨む基部内側面6aと、主リップ7におけ
る径方向の内側面7aとを繋ぐ交線の角度α1を、180度以上270度以下としている。この実施形態では、基部内側面6aの断面形状を、半径方向内方に凸曲面を成す一つの凸状の曲線からなる形状としているため、基部内側面6aのうち主リップ7の軸方向内側面を通る接線Laと、主リップ7の軸方向内側面とを繋ぐ交線の角度α1を、前記のように設定している。前記「角度」は、シール部材5の内部から見た角度を言う。
【0029】
凹側軌道輪である外輪2の軸受空間側の外輪内周面に、主リップ7を摺接させるシール摺接面部2cを設けている。例えば、前記給脂管から軸受内部にグリースを追加給脂することでシール部材5に内部圧力が作用したとき、主リップ7のリップ突出部7cがシール摺接面部2cに押し付けられる。このときリップ突出部7cが前述の断面先細り形状に形成されているため、リップ突出部全体がシール摺接面部2cに沿って強固に押し付けられるようになっている。
【0030】
リップ部9の副リップ8は、基部6のシール胴体部11から主リップ7とは別に分岐して、外輪2の端面2dに接する。つまりシール胴体部11のうち外輪2の端面2dに臨む下端面部から、前記副リップ8が軸方向内側で且つ半径方向外方に傾斜して延び、外輪2の端面2dにアキシアル接触する。この副リップ8の厚みt3は、シール胴体部11の軸方向の厚みt4よりも薄く設けられている。前記副リップ8は、ダストリップとも言う。
なお
図1に示すように、内外輪1,2の軸方向他端(
図1の下部)では、段差δの凸側となる凸側軌道輪が外輪2であり、段差δの凹側となる凹側軌道輪が内輪1となる。この軸方向他端に設けられるシール構造については、軸方向一端(
図1の上部)のシール構造と同一構造であるので、同シール構造に付した符号と同一の符号を付してその説明を省略する。
【0031】
作用効果について説明する。
例えば、前記給脂管から軸受内部にグリースを追加給脂することで、シール部材5に内部圧力が作用したとき、主リップ7が凹側軌道輪のシール摺接面部2cに押し付けられ、基部6がシール固定側傾斜部13aに押し付けられる。このとき、シール部材5の基部6のうち、凸側軌道輪の前記環状溝12の底部に臨む基部内側面6aの断面形状を、一つの凸状の曲線からなる形状としたため、シール部材全体の剛性を高め、局所的な変形を防止することができる。これにより、リップ部9の反転を抑えることができ、且つ、シール部材5が軌道輪から脱落することを防止することができる。内部圧力に耐えることができリップ部9の反転を抑えることができるため、リップ部9の厚みを厚くしてリップ剛性を高める必要がなくなる。したがって、リップ部9の厚みを従来のものより薄肉化して、軸受運転時のシールトルクの低減を図ることができる。しかもシール部材5の密封性が保たれる。
前記リップ突出部7cが断面先細り形状に形成されているため、シール部材5に内部圧力が作用したとき、リップ突出部全体がシール摺接面部2cに沿って強固に押し付けられることで、リップ部9の反転をより確実に抑えることができる。
【0032】
また凸側軌道輪の周面に設けた固定溝13に、基部6におけるシール固定部10の先端部10bを差し込むことで、凸側軌道輪の周面と固定溝13の内面との間の環状壁部14が、基部6の嵌め込み用溝10aに嵌まり込むため、シール部材5を凸側軌道輪を容易に固定することができる。したがって、組立工数の低減を図れる。この場合、シール部材5を固定するための接着剤等が不要であり、シール抑え用の蓋等の他の部品も不要となるため、部品点数の低減を図り、製造コストの低減を図れる。消耗したシール部材5を交換するときの作業性も従来技術よりも大幅に向上する。
【0033】
主リップ7
の径方向の内側面7aと、基部6の基部内側面6aとを繋ぐ交線の角度α1を180度以上270度以下としたため、主リップ7
の径方向の内側面7aと、基部6の基部内側面6aとを繋ぐ部分P1に、内部圧力を作用させて主リップ7を積極的に弾性変形させることができる。これにより、環状壁部14に対し基部6の引掛かり代が少ない場合であっても、シール部材5の基部6側での抜け出しを防止し得る。
【0034】
主リップ7の厚みt1は、基部6のシール胴体部11の径方向の厚みt2よりも薄く設けられており、さらにリップ突出部7cの厚みは、リップ胴体部7bの厚みよりも薄く設けられているため、主リップ7のシールトルクを低減することができ、且つ、シール部材5に内部圧力が作用したとき、主リップ7を積極的に弾性変形させることができる。これにより、リップ突出部全体がシール摺接面部2cに沿ってより強固に押し付けられるため、環状壁部14に対し基部6の引掛かり代が少ない場合であっても、シール部材5の基部6側での抜け出しを防止し得る。
【0035】
シール部材5は、外輪2の端面2dに接する副リップ8を含むため、この副リップ8により、さらにシール部材5の密封性が保たれ、軸受空間4からのグリース漏れ防止を図ることができる。この副リップ8はアキシアル接触するものであるため、ラジアル接触するリップ部よりもシールトルクの低減を図れる。
【0036】
シール構造の他の例として、
図3に示すように、シール部材5の基部6における、環状溝12の底部に臨む基部内側面6aの断面形状を、変曲点を持たない連続した凸状の曲線Lb,Lc,Ldで繋がった形状としても良い。これら凸状の曲線Lb,Lc,Ldは、それぞれ半径方向内方に凸曲面を成す。この場合にもシール部材全体の剛性を高め、局所的な変形を防止することができる。これにより、リップ部9の反転を抑えることができ、且つ、シール部材5が軌道輪から脱落することを防止することができる。
【0037】
図4に示すように、シール部材5の基部6のうち、前記環状溝12の底部に臨む基部内側面6aの断面形状を、90度以上180度以下の交点角度α2を有する複数の線(
図4の例では2つの線)で繋がった形状としても良い。前記「交点角度」α2は、シール部材5の内部から見た角度を言う。この場合、シール部材5の基部6の剛性を高め、局部的な変形を防止することができる。
【0038】
図5に示すように、凸側軌道輪における環状溝12の底部と、シール部材5の基部6とを接触させても良い。同
図5の例では、前記底部における溝底面12a、および、前記底部における軸方向内側の内側面15のそれぞれに対して、基部6を接触させている。この場合、環状溝12の底部とシール部材5の基部6との摩擦係数が大きくなり、シール部材5の基部6の固定を安定させることができる。これと共に、前記環状溝12からのグリース漏れの抑制を強化することもできる。さらにリップ部9の緊迫力を保持できるため、シール性を安定することもできる。
【0039】
なお図示しないが、前記底部における軸方向内側の内側面15に基部6を接触させないで、底部における溝底面12aとシール基部6とを接触させても良いし、前記溝底面12aに基部6を接触させないで、底部における軸方向内側の内側面15とシール基部6とを接触させても良い。これらの場合、
図5の場合よりも、底部とシール部材5の基部6との摩擦係数は小さくなるものの、シール部材5の基部6の固定を安定させると共に、環状溝12からのグリース漏れの抑制を強化することができる。
【0040】
図6および
図7は風力発電用の風車の一例を示す。この風車21は、支持台22上にナセル23を水平旋回自在に設け、このナセル23のケーシング24内に主軸25を回転自在に支持し、この主軸25のケーシング24外に突出した一端に、旋回翼であるブレード26を取付けてなる。主軸25の他端は増速機27に接続され、増速機27の出力軸28が発電機29のロータ軸に結合されている。
【0041】
ナセル23は、旋回軸受BR1により旋回自在に支持される。いずれかの実施形態の旋回軸受において、例えば、外輪2の外周面にギヤ等が設けられたものが、前記ナセル23用の旋回軸受BR1に用いられる。
図6に示すように、ケーシング24に複数の駆動源30が設置され、各駆動源30に図示しない減速機を介してピニオンギヤが固着される。外輪2(
図1)の前記ギヤが前記ピニオンギヤに噛合するように配置される。例えば、外輪2が複数の貫通孔2bにより支持台22に連結固定され、内輪1がケーシング24に固定される。複数の駆動源30を同期して駆動させ、この旋回駆動力を外輪2へ伝達する。よって、支持台22に対してナセル23が相対的に旋回可能となる。
【0042】
ブレード26は、旋回軸受BR2により旋回自在に支持される。この旋回軸受BR2は、いずれかの実施形態の旋回軸受において、例えば、内輪1の内周面にギヤを設けたものが適用される。主軸25の突出した先端部25aには、ブレード26を旋回駆動する駆動源が設けられる。前記先端部25aにこの旋回軸受の外輪2が連結固定され、内輪1の内周面に付設のギヤが、前記駆動源のピニオンギヤに噛合されている。この駆動源を駆動させ、この旋回駆動力を内輪を伝達することで、ブレード26が旋回可能となる。したがって、旋回軸受BR2は、風車のブレード26を主軸25に対して、主軸軸心L1に略垂直な軸心L2回りに旋回自在に支持し得る。このように、ブレード26の角度およびナセル23の向きを風の状態に合わせて随時変え得る。
【0043】
前記いずれかのシール構造を有する旋回軸受を、風力発電用の風車に用いた場合、内部圧力の上昇時にシール部材5のリップ部9の反転およびシール部材5の脱落を防止できる。これにより、シール部材5の密封性が保たれ、グリース漏れ防止を図ることができるため、周辺環境を保護することができるうえ、軸受寿命を延ばすことができる。さらに、シールトルクの低減を図ることができるため、旋回トルクの容量を増やす必要がなくなる。したがって駆動源の小形化を図れ、製造コストの低減を図れる。
【0044】
これらの旋回軸受を、風力発電用以外の油圧ショベル、クレーン等の建設機械、工作機械の回転テーブル、砲座、パラボラアンテナ、物揚機械等、屋外または屋内に近接して使用される諸機械の旋回部等にも適用できる。
旋回軸受は、内外輪が複列の軌道溝を有するものや円筒ころタイプ(3列円筒ころ、クロスローラ)であってもよい。