特許第5901990号(P5901990)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日油株式会社の特許一覧 ▶ セーレン株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5901990
(24)【登録日】2016年3月18日
(45)【発行日】2016年4月13日
(54)【発明の名称】オストミーパウチ用潤滑剤組成物
(51)【国際特許分類】
   A61L 28/00 20060101AFI20160331BHJP
   C10M 169/04 20060101ALI20160331BHJP
   C10M 105/22 20060101ALI20160331BHJP
   C10M 129/54 20060101ALI20160331BHJP
   C10M 145/40 20060101ALI20160331BHJP
   C10M 125/10 20060101ALI20160331BHJP
   C10M 173/02 20060101ALI20160331BHJP
   C10N 30/00 20060101ALN20160331BHJP
   C10N 40/00 20060101ALN20160331BHJP
【FI】
   A61L25/00 S
   C10M169/04
   C10M105/22
   C10M129/54
   C10M145/40
   C10M125/10
   C10M173/02
   C10N30:00 G
   C10N30:00 Z
   C10N40:00 Z
【請求項の数】1
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-31156(P2012-31156)
(22)【出願日】2012年2月15日
(65)【公開番号】特開2013-165849(P2013-165849A)
(43)【公開日】2013年8月29日
【審査請求日】2015年1月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004341
【氏名又は名称】日油株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000107907
【氏名又は名称】セーレン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【弁理士】
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100125070
【弁理士】
【氏名又は名称】土井 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100121212
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 弥栄子
(74)【代理人】
【識別番号】100122688
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 健二
(74)【代理人】
【識別番号】100117743
【弁理士】
【氏名又は名称】村田 美由紀
(74)【代理人】
【識別番号】100163658
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 順造
(74)【代理人】
【識別番号】100174296
【弁理士】
【氏名又は名称】當麻 博文
(72)【発明者】
【氏名】神谷 政博
(72)【発明者】
【氏名】杉野 正明
(72)【発明者】
【氏名】笈田 多加史
【審査官】 澤田 浩平
(56)【参考文献】
【文献】 特表2007−525251(JP,A)
【文献】 特開2007−215831(JP,A)
【文献】 特表2009−517193(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L9/00−9/22,15/00−33/00,
A61F5/00−6/24,
C10M101/00−C10N80/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)柿渋タンニン0.05質量%〜2質量%、b)非イオン性セルロース系水溶性ポリマーおよび陰イオン性セルロース系水溶性ポリマーからなる群より選択される1種または2種以上0.1質量%〜3質量%、ならびにc)炭酸塩および炭酸水素塩からなる群より選択される1種または2種以上0.05質量%〜0.5質量%を、d)水94.5質量%〜99.8質量%に含有させてなる、オストミーパウチ用潤滑剤組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オストミーパウチ用の潤滑剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、消化器、泌尿器等の疾患が原因で、便、尿等の排泄に支障をきたした際、これらの排泄のために人工器官(ストーマ)を造設する場合がある。このようなストーマの代表的なものとして、人工肛門、人工膀胱が挙げられる。ストーマでは排泄を自己制御することができないため、排泄物を収納する袋(オストミーパウチ)を、患者の体表面のストーマ開口部(瘻孔部)に装着することが一般的である。
【0003】
オストミーパウチは、患者が通常の生活を行う上で有用なものであるが、一方で、排泄物からの臭気が周囲の人々に不快感を与えることを不安に感じ、心理的負担を抱えている使用者が多い。このような不安感は、使用者が外出や他者との交際などを忌避する一因ともなることから、悪臭を効果的に抑える技術が強く要望されてきた。
【0004】
オストミーパウチを使用する際の問題点として、糞便がパウチ底部までスムーズに落下せず上部に滞留し、場合によっては瘻孔部付近で固着してしまうことが挙げられる。すなわち、パウチの内面が互いに張り付いていることにより、パウチに放出された糞便の流入や下方への移動が妨害され、主に瘻孔部付近に排泄物がたまるという問題があった。また、糞便がパウチ内面に付着し、糞便の下方への移動を妨げることによっても、同様の問題を生じる場合もある。
【0005】
このような状態は、排泄を阻害し健康上の問題を引き起こすばかりでなく、パウチ着脱時の作業性を低下させ、使用者や周囲の人々が長時間悪臭にさらされることにつながり、大きな課題とされてきた。
【0006】
このような課題に対して、オストミーパウチ用の固着防止剤や潤滑剤が提案されている。
【0007】
特許文献1には、鉱油、植物油、動物油および合成油からなる群から選ばれた1種以上を含有し、水分が90質量%以下であり、かつ25℃における粘度が30mPa・s以下である潤滑剤組成物が提示されている。しかし、これは水、鉱油、植物油、動物油および合成油等を含有するものであり、分散液状または乳化液状等の形態であるため、噴霧した際にムラが生じ、十分な潤滑性が得られない場合があった。さらには、経時的に分離し、潤滑性が著しく低下したり、油分の酸化等により臭気を生じるほか、パウチの樹脂を劣化させる場合もあった。
【0008】
特許文献2には、植物油、鉱油、動物油および合成油からなる群から選ばれる油、親水性高分子化合物、および消臭性化合物を含有する排泄物処理用品用消臭剤組成物が提示されている。しかし、この消臭剤組成物は粒状であり、排泄物とりわけ大便に対して潤滑性を付与するものではなく、油分の酸化等により臭気を生じるほか、パウチの樹脂を劣化させる場合もあった。
【0009】
特許文献3には、水溶性潤滑剤、および糞便の発臭分子と錯体形成してそれを中和することが可能な相溶性水溶性錯化剤の両方を含有し、水溶性錯化剤がn−エチル−n−ソヤ−モルフォリニウムエトサルフェート、クエン酸銅、および植物性タンパク質抽出物からなる群から選択されるオストミーパウチ用潤滑消臭剤が提示されている。しかし、消臭性能においても満足できるものではなく、硫黄系悪臭成分、特にメルカプタン類に対する消臭性能が不十分であった。また、保存安定性が不十分であり、水溶性錯化剤が酸化されることで不溶化して沈殿を生じ、使用性、潤滑性も低下する場合があった。
【0010】
また、消臭成分として、柿抽出物を用いた繊維製品用消臭剤組成物が特許文献4に提示されているが、これらの組成物は消臭効果はあるものの、対象に潤滑性を付与するものではなく、硫黄系悪臭成分に対する消臭性能も不十分であった。また、使用対象によっては、噴霧直後に組成物の大部分が流下し、結果として消臭性能が不十分であるという問題があった。
【0011】
従って、排泄物の流入や、下方への移動を円滑にし、パウチ内部へのこびりつきを防ぎ、消臭機能および使用性に優れ、さらには保存安定性が良好なオストミーパウチ用潤滑剤組成物は、これまで見出されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2004−81299号公報
【特許文献2】特開2007−508号公報
【特許文献3】特表2007−525251号公報
【特許文献4】特開2002−146673号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上記課題に鑑み、本発明の目的は、オストミーパウチ内面に塗布またはスプレー等により均一に塗布し使用することで、排泄物の流入、下方への移動を円滑にし、パウチ内部への排泄物のこびりつきを防ぎ、消臭機能および使用性に優れ、さらには保存安定性が良好なオストミーパウチ用潤滑剤組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記課題を解決するべく鋭意検討した結果、a)柿渋タンニン、b)非イオン性セルロース系水溶性ポリマーおよび陰イオン性セルロース系水溶性ポリマーからなる群より選択される1種または2種以上、ならびにc)炭酸塩および炭酸水素塩からなる群より選択される1種または2種以上をd)水に含有させてなり、組成物全量に対するa)の含有量が0.05質量%〜2質量%、b)の含有量が0.1質量%〜3質量%、c)の含有量が0.05質量%〜0.5質量%、d)の含有量が94.5質量%〜99.8質量%であるオストミーパウチ用潤滑剤組成物とすることにより、上記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0015】
すなわち、本発明は、a)柿渋タンニン0.05質量%〜2質量%、b)非イオン性セルロース系水溶性ポリマーおよび陰イオン性セルロース系水溶性ポリマーからなる群より選択される1種または2種以上0.1質量%〜3質量%、ならびにc)炭酸塩および炭酸水素塩からなる群より選択される1種または2種以上0.05質量%〜0.5質量%を、d)水94.5質量%〜99.8質量%に含有させてなるオストミーパウチ用潤滑剤組成物に関する。
【発明の効果】
【0016】
本発明のオストミーパウチ用潤滑剤組成物は、潤滑性に優れ、排泄物の流入、下方への移動を円滑にすることができ、排泄物のパウチ内部へのこびりつきを防ぎ、消臭機能および使用性に優れ、さらには保存安定性が良好な潤滑剤組成物である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明のオストミーパウチ用潤滑剤組成物は、a)柿渋タンニン、b)非イオン性セルロース系水溶性ポリマーおよび陰イオン性セルロース系水溶性ポリマーからなる群より選択される1種または2種以上、ならびにc)炭酸塩および炭酸水素塩からなる群より選択される1種または2種以上をd)水に含有させてなり、組成物全量に対するa)の含有量が0.05質量%〜2質量%、b)の含有量が0.1質量%〜3質量%、c)の含有量が0.05質量%〜0.5質量%、d)の含有量が94.5質量%〜99.8質量%であることを特徴とする。
【0018】
なお、本発明において「オストミーパウチ」とは、ストーマから体外に排出される排泄物を一時的に収納する袋をいう。オストミーパウチは、一般的に、袋の任意の箇所にストーマに装着するための開口部を有している。また、袋の任意の箇所に、パウチに収納された排泄物を排出するための排出口を有していてもよい。袋の形状は特に限定されず、略円形、略四角形等が挙げられる。袋の大きさについても特に限定されないが、成人用として、約300mm×150mmのものが多く流通している。袋の材質も特に限定されず、たとえばプラスチックフィルム製が挙げられる。本発明のオストミーパウチ用潤滑剤組成物は、市販のオストミーパウチに対して使用することができる。
【0019】
本発明のオストミーパウチ用潤滑剤組成物において、a)成分として含有される柿渋タンニンは、カキノキ目(Ebenales)カキノキ科(Ebenaceae)カキノキ属(Diospyros)カキノキ(D. kaki Thunb.)の果実より得られる。本発明においては、未熟果実(まだ青い未熟果)より得られる柿渋タンニンを用いることが、消臭機能とこびりつき防止の点で特に好ましい。原料となる果実は、カキノキ目カキノキ科カキノキ属カキノキの果実であれば、品種は特に限定されず、たとえば天王柿、鶴の子柿、法連坊柿、愛宕柿、アオソ柿、西条柿、祇園坊柿、田村柿、富有柿、次郎柿、平核無柿等が挙げられる。
【0020】
上記a)柿渋タンニンは、原料となる柿を粉砕し、圧搾することにより、その搾汁から得られる。本発明においては、柿渋タンニンの製造方法は特に限定されないが、たとえば、原料となる柿の果実を粉砕し、圧搾して得た圧搾汁より分画、精製等を行って得られるタンニンを用いることもできるが、「柿渋タンニン」として上市されている市販品を利用することもできる。好ましくは、医療用、化粧料用、衛生材料用として提供されている製品が用いられる。かかる市販品としては、リリース科学工業株式会社製「パンシル」シリーズ(「パンシルFG−22」、「パンシルCOS−17」等)が挙げられる。
【0021】
本発明のオストミーパウチ用潤滑剤組成物におけるa)柿渋タンニンの含有量は、0.05質量%〜2質量%であり、好ましくは0.1質量%〜1.5質量%、より好ましくは0.3質量%〜1.0質量%である。a)柿渋タンニンの含有量が0.05質量%未満の場合は、消臭機能とこびりつき防止性が低下するおそれがある。また2質量%を超える場合は、組成物の保存安定性が低下し、保存中に沈殿物や濁りを生じるおそれがある。
【0022】
本発明のオストミーパウチ用潤滑剤組成物におけるb)成分であるセルロース系水溶性ポリマーは、非イオン性セルロース系水溶性ポリマーおよび陰イオン性セルロース系水溶性ポリマーからなる群より選択される。非イオン性セルロース系水溶性ポリマーとしては、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等が挙げられ、陰イオン性セルロース系水溶性ポリマーとしては、カルボキシメチルセルロース、カルボキシエチルセルロース等が挙げられる。本発明においては、これらより1種または2種以上を選択して用いることができる。中でも、ヒドロキシエチルセルロース(好ましくは、1質量%水溶液の25℃における粘度が1,000mPa・s〜5,000mPa・s)、ヒドロキシプロピルセルロース(好ましくは、1質量%水溶液の25℃における粘度が100mPa・s〜1,500mPa・s)およびカルボキシメチルセルロース(好ましくは、1質量%水溶液の25℃における粘度が500mPa・s〜10,000mPa・s)が、潤滑性の面で特に好ましい。本発明においては、前記セルロース系水溶性ポリマーとして、市販されている製品を使用することもでき、好ましくは医療用、化粧料用、衛生材料用として市販されている製品が用いられる。かかる市販品としては、たとえば、ダウケミカル社製「セロサイズ」シリーズ(「セロサイズQP−4400H」、「セロサイズQP−52000H」、「セロサイズ−30000H」等)、日本曹達株式会社製「NISSO HPC」シリーズ(「NISSO HPC H」、「NISSO HPC M」等)、ダイセル化学工業株式会社製「CMCダイセル」シリーズ(「CMCダイセル 1180」、「CMCダイセル 2200」等)などが挙げられる。
【0023】
本発明のオストミーパウチ用潤滑剤組成物におけるb)非イオン性セルロース系水溶性ポリマーおよび陰イオン性セルロース系水溶性ポリマーからなる群より選択される1種または2種以上の含有量は、通常0.1質量%〜3質量%であり、好ましくは0.5質量%〜2.5質量%、より好ましくは1質量%〜2質量%である。前記セルロース系水溶性ポリマーの含有量が0.1質量%未満の場合は潤滑性が低下し、さらには使用性が悪化するおそれがある。一方、3質量%を超える場合は潤滑性および使用性が悪化するほか、経時的にゲル状に凝固したり、濁りを生じる等、保存安定性が悪化するおそれがある。
【0024】
本発明のオストミーパウチ用潤滑剤組成物は、さらにc)炭酸塩および炭酸水素塩からなる群より選択される1種または2種以上を含有する。炭酸および炭酸水素イオンの対イオンは、皮膚に対して刺激性の無いものであればよく、好ましくはナトリウムイオン、カリウムイオンである。炭酸塩および炭酸水素塩として具体的には、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム等のアルカリ金属塩、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸水素マグネシウム、炭酸水素カルシウム等のアルカリ土類金属塩などが例示できる。中でも、炭酸ナトリウムおよび炭酸水素ナトリウムが、潤滑性および消臭機能、ならびにこびりつき防止の点で特に好ましい。
【0025】
本発明のオストミーパウチ用潤滑剤組成物におけるc)炭酸塩および炭酸水素塩からなる群より選択される1種または2種以上の含有量は、通常0.05質量%〜0.5質量%であり、好ましくは0.05質量%〜0.3質量%、より好ましくは0.1質量%〜0.2質量%である。前記炭酸塩および炭酸水素塩からなる群より選択される1種または2種以上の含有量が0.05質量%未満である場合には、消臭機能およびこびりつき防止性が悪化するおそれがあり、0.5質量%を超える場合には、潤滑性が悪化するほか、経時的に粘度低下を起こしたり、濁りを生じるおそれがある。
【0026】
本発明のオストミーパウチ用潤滑剤組成物は、上記a)〜c)成分をd)水に添加し、混合、溶解してなる。
本発明においては、d)水として、水道水、常水、精製水等が用いられるが、精製水が好ましく用いられる。本発明のオストミーパウチ用潤滑剤組成物におけるd)水の含有量は、通常94.5質量%〜99.8質量%であり、好ましくは95.7質量%〜99.35質量%、より好ましくは96.8質量%〜98.6質量%である。
【0027】
本発明のオストミーパウチ用潤滑剤組成物は、25℃におけるpHが7〜10.5に調整されていることが、消臭機能の面で特に好ましい。
【0028】
オストミーパウチ用潤滑剤組成物のpHは、c)炭酸塩および炭酸水素塩からなる群より選択される1種または2種以上を含有させることにより上記範囲に調整され得るが、必要に応じ、本発明の特徴を損なわない範囲で、さらに他のpH調整剤を用いることもできる。
かかるpH調整剤としては、pHを上記範囲に調整できるものであれば特に限定されないが、たとえばクエン酸、クエン酸ナトリウム、乳酸、乳酸ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、グリシン、アルギニン、塩酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられる。
【0029】
本発明のオストミーパウチ用潤滑剤組成物は、25℃における粘度が500mPa・s〜5,000mPa・sであることが潤滑性と使用性の点で好ましく、1,000mPa・s〜4,000mPa・sであることがより好ましく、1,500mPa・s〜3,500mPa・sであることがさらに好ましい。なおここに記載する粘度は、B型粘度計を用い、ローター番号:3番、ローター回転数:12rpm、測定時間:100秒間の条件での測定により得られる値である。
【0030】
本発明において、オストミーパウチ用潤滑剤組成物の粘度は、b)非イオン性セルロース系水溶性ポリマーおよび陰イオン性セルロース系水溶性ポリマーからなる群より選択される1種または2種以上により、上記範囲に調整することが可能であるが、必要に応じ、本発明の特徴を損なわない範囲で、さらに他の増粘剤を添加することができる。
かかる増粘剤としては、粘度を上記範囲に調整できるものであれば特に限定されないが、たとえばアルギン酸ナトリウム、カルボキシビニルポリマー、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリエチレングリコール等が挙げられる。
【0031】
本発明のオストミーパウチ用潤滑剤組成物には、本発明の特徴を損なわない範囲で、他の消臭成分、分散剤、湿潤剤、防腐剤、着香剤等の一般的な添加成分を添加することができる。
【0032】
本発明のオストミーパウチ用潤滑剤組成物は、液状もしくは粘性のある液状の組成物、または半流動体組成物として、ガラス製、プラスチック樹脂製等のボトル、プラスチック樹脂製またはアルミニウムラミネートフィルム製パウチ等に充填して提供され得る。また、ワンタッチ開閉式キャップ付き容器、ポンプディスペンサー付き容器等に充填して提供され得る。
【0033】
本発明のオストミーパウチ用潤滑剤組成物は、オストミーパウチの内面に塗布して使用する。なお、本発明の潤滑剤組成物の塗布は、オストミーパウチの製造過程において行ってもよく、オストミーパウチの完成品に対して行ってもよい。塗布方法は特に限定されないが、たとえば、ボトル、チューブ等から直接オストミーパウチ内に注入し、パウチの内面全体に潤滑剤組成物を行きわたらせて塗布することができる。また、ポンプディスペンサー付き容器に充填されている場合には、オストミーパウチの内面にスプレーして塗布することもできる。スプレーによる塗布は、均一塗布が可能となる点で好ましい。
オストミーパウチは、通常本発明の潤滑剤組成物を内面に塗布した後に、ストーマに装着される。
【0034】
本発明のオストミーパウチ用潤滑剤組成物は、パウチ内面に塗布することで、その壁面を濡らして使用し、たとえば300mm×150mmのオストミーパウチの場合、約5g〜15gを目安として使用される。
【0035】
本発明のオストミーパウチ用潤滑剤組成物は、常法に従って製造することができ、たとえば、d)水に、b)非イオン性セルロース系水溶性ポリマーおよび陰イオン性セルロース系水溶性ポリマーからなる群より選択される1種または2種以上を添加し、加温して溶解した後、c)炭酸塩および炭酸水素塩からなる群より選択される1種または2種以上を添加して混合、溶解し、常温まで冷却する。次いでa)柿渋タンニンを添加して混合、溶解し、さらに他の添加成分を添加する場合には、それらを添加し、均一に混合、溶解して製造される。
【実施例】
【0036】
以下、実施例および比較例によって本発明をさらに詳細に説明する。
【0037】
本発明のオストミーパウチ用潤滑剤組成物の例として、実施例1〜7の潤滑剤組成物の処方を表1に示した。これらの組成物は、常法により調製した。すなわち、d)成分にb)成分を添加し、加温、溶解した後、c)成分を添加して混合、溶解し、常温まで冷却し、次いでa)成分を添加し、混合、溶解して、実施例1〜7の各組成物とした。また、比較例1〜9の潤滑剤組成物の処方を、表1に併せて示した。比較例1、2および4の組成物は、前記実施例の組成物と同様に調製した。比較例3の組成物は、c)成分を配合しない他は、実施例1の組成物と同様に調製した。比較例5〜9の組成物は、a)成分、b)成分およびc)成分をそれぞれe)成分、f)成分およびg)成分に代えて、実施例1の組成物と同様に調製した。なお、表1において、各成分の含有量は質量%により表した。
【0038】
【表1】
【0039】
実施例および比較例の各潤滑剤組成物について、以下の評価を行った。
【0040】
[潤滑性:オストミーパウチへの流入・下方への移動]
オストミーパウチ(アルケア株式会社製「プロケアー2ドレナブルD」)を、底部排出口を閉じた上で、クランプによって垂直に吊り下げた。実施例および比較例の各潤滑剤組成物8gを、上部の開口部より注入し、手でパウチ全体を軽く揉むようにして潤滑剤組成物を全体に行きわたらせた後、1分間静置した。1分経過後、人工糞便としてビーンズペースト(Bruce Foods Corporation社製「カサフィエスタ リフライドビーンズ」)50gを、上部の開口部よりオストミーパウチ内部にシリンジを用いて注入した。前記ペーストの注入完了時から測時を開始し、前記ペーストの下端がオストミーパウチ底部に到達した時点で終了とした。各組成物に対して3回測定を行い、オストミーパウチ底部への移動時間の合計が90秒以下の潤滑剤組成物を、潤滑性に優れる組成物であると評価した。
【0041】
[潤滑性:オストミーパウチからの排出性]
上記と同様の方法で、オストミーパウチ内に150gのビーンズペーストを注入した。底部に前記ペーストが到達した状態でパウチの底部排出口を開き、前記ペーストをパウチから自由に落下させることによって排出時間を評価した。底部排出口を開いた時から、前記ペーストがすべて落下するまでの時間を測定し、排出時間とした。排出時間が20秒以下の潤滑剤組成物を、潤滑性に優れる組成物であると評価した。
【0042】
[こびりつき防止性]
クランプによって垂直に吊り下げたオストミーパウチに、上記ビーンズペースト150gをシリンジを用いて注入し、その状態で8時間静置した。8時間経過後、パウチの底部排出口を開き、ビーンズペーストをパウチから自由に落下させた。ビーンズペースト排出後のパウチ内面の状態について、20名のパネラーに評価させ、下記の基準により点数化させた。
<点数化基準>
2点:こびりつきがほとんどなく、2回以下のすすぎで洗い流せる場合。
1点:こびりつきが少量あるものの、3〜5回のすすぎで洗い流せる場合。
0点:こびりつきが多く、6回以上すすぐ、もしくはこすり洗いをしないと洗い流せない場合。
【0043】
20名のパネラーの評価点の合計を求めて、下記の基準に従って評価した。
<評価基準>
◎:評価点の合計が35点以上であり、かつ0点としたパネラーがいない場合;こびりつき防止性に非常に優れる潤滑剤組成物である。
○:評価点の合計が30点以上35点未満であるか、または合計点が35点以上で、0点としたパネラーが1名または2名である場合;こびりつき防止性に優れる潤滑剤組成物である。
△:評価点の合計が20点以上30点未満である場合;こびりつき防止性にやや欠ける潤滑剤組成物である。
×:評価点の合計が20点未満である場合;こびりつき防止性に欠ける潤滑剤組成物である。
【0044】
[使用性]
30mLのボトルに充填した本発明の潤滑剤組成物をオストミーパウチ(アルケア株式会社製「プロケアー2ドレナブルD」)に塗布した際の使用性について、20名のパネラーに評価させ、下記の基準により点数化させた。
<点数化基準>
2点:液だれがなく、パウチ内部にすばやく均一に広がると感じた場合。
1点:液だれがほとんどなく、パウチ内部に均一に広がりやすいと感じた場合。
0点:液だれがある、もしくはパウチ内部に均一に広がりにくいと感じた場合。
【0045】
20名のパネラーの評価点の合計を求めて、下記の基準に従って評価した。
<評価基準>
◎:評価点の合計が35点以上であり、かつ0点としたパネラーがいない場合;使用性に非常に優れる潤滑剤組成物である。
○:評価点の合計が30点以上35点未満であるか、または合計点が35点以上で、0点としたパネラーが1名または2名である場合;使用性に優れる潤滑剤組成物である。
△:評価点の合計が20点以上30点未満である場合;使用性にやや欠ける潤滑剤組成物である。
×:評価点の合計が20点未満である場合;使用性に欠ける潤滑剤組成物である。
【0046】
[消臭機能]
実施例および比較例の各潤滑剤組成物3gをそれぞれ1L三角フラスコに投入した。これにモデル悪臭(アンモニア150ppm、トリメチルアミン20ppm、アセトアルデヒド100ppm、硫化水素20ppm、メチルメルカプタン5ppm、イソ吉草酸50ppm)を投入して密封し、30分間静置した。20名をパネラーとし、30分間静置した後の臭気について、20名のパネラーにより評価させ、下記の基準により点数化させた。
<点数化基準>
2点:臭気が大幅に低減されていると感じた場合。
1点:臭気が低減されていると感じた場合。
0点:臭気が低減されていないと感じた場合。
【0047】
20名のパネラーの評価点の合計を求めて、下記の基準に従って評価した。
<評価基準>
◎:評価点の合計が35点以上であり、かつ0点としたパネラーがいない場合;消臭効果が非常に高い潤滑剤組成物である。
○:評価点の合計が30点以上35点未満であるか、または合計点が35点以上で、0点としたパネラーが1名または2名である場合;消臭効果が高い潤滑剤組成物である。
△:評価点の合計が20点以上30点未満である場合;消臭効果が低い潤滑剤組成物である。
×:評価点の合計が20点未満である場合;消臭効果が非常に低い潤滑剤組成物である。
【0048】
[保存安定性]
実施例および比較例の各潤滑剤組成物を透明ガラス容器に密封して、5℃、25℃、40℃の各温度で1ヶ月間保存し、その外観を観察して、以下に示す基準に従い4段階で評価し、◎または○の場合に、保存安定性が良好な潤滑剤組成物であると評価した。
<評価基準>
◎:安定性良好(外観の変化がなく、不均一な濁りや沈殿が全く観察されない。)
○:安定性おおむね良好(外観の変化がほとんどなく、不均一な濁りや沈殿がほとんど観察されない。)
△:安定性やや不良(若干の分離または変色、濁りもしくは沈殿が確認される。)
×:安定性不良(分離または変色、濁りもしくは沈殿が明確に確認される。)
【0049】
以上の評価結果を表2に示した。また、実施例および比較例の各潤滑剤組成物について、25℃におけるpHおよび粘度を測定し、表2に併せて示した。なお、粘度は、B型粘度計により、ローター番号:3番、ローター回転数:12rpm、測定時間:100秒間の条件で測定した。
【0050】
【表2】
【0051】
実施例1〜7の本発明の潤滑剤組成物は、いずれも潤滑性に優れ、排泄物の流入や、下方への移動を円滑にした。また、消臭機能、使用性および保存安定性が良好であり、パウチ内部へのこびりつき防止性にも優れるものであった。
【0052】
一方、a)成分の含有量が本願所定の範囲を超えている比較例1の潤滑剤組成物においては、保存安定性が悪かった。b)成分の含有量が本願所定の範囲を超えている比較例2の潤滑剤組成物においては、潤滑性が不十分であり、さらには使用性にやや欠けると評価された。c)成分を含有しない比較例3の潤滑剤組成物においては、こびりつき防止性と消臭機能についての評価が低下した。c)成分の含有量が本願所定の範囲を超えている比較例4の潤滑剤組成物においては、潤滑性の低下が認められた。a)成分を含有せず、代わりにクエン酸銅を含有する比較例5の潤滑剤組成物においては、こびりつき防止性の評価が低く、消臭機能も不十分であると評価された。また、40℃で保存した場合において、濁りと澱の発生を認めた。a)成分を含有せず、代わりにエピガロカテキンガレートを含有する比較例6の潤滑剤組成物においても、こびりつき防止性の評価が悪く、消臭機能が不十分であると評価された。b)成分を含有せず、代わりにカチオン化セルロースを含有する比較例7の潤滑剤組成物においては、潤滑性および使用性が不十分であった。また、調製直後から澱を生じて不均一となり、保存安定性にも欠けるものであった。b)成分を含有せず、代わりにキサンタンガムを含有する比較例8の潤滑剤組成物においては、潤滑性が悪く、こびりつき防止性についても不十分であると評価された。c)成分を含有せず、代わりにリン酸水素ナトリウムを含有する比較例9の潤滑剤組成物においては、こびりつき防止性が悪く、消臭機能も不十分であると評価された。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明によれば、潤滑性に優れ、糞便等の排泄物のパウチ内部への流入、パウチ下方への移動、およびパウチからの排出を円滑にすることができ、パウチ内部へのこびりつきを防ぎ、消臭機能および使用性に優れ、さらには保存安定性が良好なオストミーパウチ用潤滑剤組成物を提供することができる。本発明のオストミーパウチ用潤滑剤組成物は、塗布またはスプレー等により、オストミーパウチ内に簡便かつ均一に適用することができる。