(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
【0016】
図1は、リバースTN型液晶素子の動作を概略的に示す模式図である。リバースTN型液晶素子は、対向配置された上側基板1および下側基板2と、それらの間に設けられた液晶層3を基本的な構成として備える。上側基板1と下側基板2のそれぞれの表面にはラビング処理などの配向処理が施される。これらの配向処理の方向(図中に矢印で示す)が90°またはそれ以上の角度で互いに交差するようにして上側基板1と下側基板2とが相対的に配置される。液晶層3は、ネマチック液晶材料を上側基板1と下側基板2の間の注入することによって形成される。この液晶層3には、液晶分子をその方位角方向において特定の方向(
図1の例では右旋回方向)にねじれさせる作用を生じるカイラル材が添加された液晶材料が用いられる。このようなリバースTN型液晶素子は、カイラル材の作用により、初期状態においては液晶層3がスプレイ配向しながら捻れるスプレイツイスト状態となる。このスプレイツイスト状態の液晶層3に飽和電圧を超える電圧を印加すると、液晶分子が左旋回方向に捻れるリバースツイスト状態(ユニフォームツイスト状態)に遷移する。このようなリバースツイスト状態の液晶層3にあってはバルク中の液晶分子が傾いているため、液晶素子の駆動電圧を低減する効果が現れる。
【0017】
図2は、リバースツイスト配向状態からスプレイツイスト配向状態へ遷移させる際の液晶層の配向状態と電界方向の関係について説明するための概念図である。
図2(A)に示すように、基板面に対して水平な方向の電界(Electric field)に対して、リバースツイスト配向状態における液晶層の層厚方向の略中央の液晶分子(図中、模様を付した液晶分子)の長軸方向がなるべく平行ではなく、直交またはそれに近い状態となるように電界の印加方向を設定する。これにより、液晶層の層厚方向の略中央の液晶分子が電界方向に沿って再配向するため、
図2(B)に示すように液晶層の配向状態はリバースツイスト配向状態からスプレイツイスト配向状態へ遷移する。なお、リバースツイスト配向状態の液晶層に対して、その層厚方向の略中央の液晶分子の長軸方向と平行かそれに近い状態となるようにして電界を印加した場合には、リバースツイスト配向状態からスプレイツイスト配向状態への遷移は生じにくい。これは、液晶層の層厚方向の略中央において電界による液晶分子の再配向がほとんど生じないからである。以上のことから、リバースTN型液晶素子において2つの配向状態間を自在に遷移させるためには、液晶層の層厚方向に対する電界(縦電界)とこれに直交する方向の電界(横電界)を発生させる必要があり、かつ横電界についてはリバースツイスト配向状態の液晶層の層厚方向の略中央の液晶分子の長軸方向と略直交するかそれに近い方向となるようにする必要がある。これらの縦電界と横電界を自在に与えるための素子構造について、以下に具体例を挙げて説明する。
【0018】
図3は、リバースTN型液晶素子の構成例を示す断面図である。
図3に示す液晶素子は、第1基板(上側基板)51と第2基板(下側基板)54の間に液晶層60を介在させた基本構成を有する。以下、さらに詳細に液晶素子の構造を説明する。なお、液晶層60の周囲を封止するシール材等の部材については図示および説明を省略する。
【0019】
第1基板51および第2基板54は、それぞれ、例えばガラス基板、プラスチック基板等の透明基板である。図示のように、第1基板51と第2基板54とは、互いの一面が対向するようにして、所定の間隙(例えば数μm)を設けて貼り合わされている。なお、特段の図示を省略するが、いずれかの基板上に薄膜トランジスタ等のスイッチング素子が形成されていてもよい。
【0020】
第1電極52は、第1基板51の一面側に設けられている。また、第2電極55は、第2基板54の一面側に設けられている。第1電極52および第2電極55は、それぞれ、例えばインジウム錫酸化物(ITO)などの透明導電膜を適宜パターニングすることによって構成されている。
【0021】
絶縁膜(絶縁層)56は、第2基板54上に第2電極55を覆うようにして設けられている。この絶縁膜56は、例えば酸化珪素膜、窒化珪素膜、酸化窒化珪素膜あるいはこれらの積層膜などの無機絶縁膜、または有機絶縁膜(例えばアクリル系有機絶縁膜)である。
【0022】
第3電極58、第4電極59は、それぞれ、第2基板54上の前述した絶縁膜56上に設けられている。本実施形態における第3電極58および第4電極59は、それぞれ複数の電極枝を有する櫛歯状電極であり、互いの電極枝が交互に並ぶようにして配置されている(後述の
図5参照)。第3電極58および第4電極59は、それぞれ、例えばインジウム錫酸化物(ITO)などの透明導電膜を適宜パターニングすることによって構成されている。第3電極58、第4電極59のそれぞれの電極枝は、例えば20μm幅であり、電極間隔を20μmに設定して配置される。
【0023】
配向膜53は、第1基板51の一面側に、第1電極52を覆うようにして設けられている。また、配向膜57は、第2基板54の一面側に、第3電極58および第4電極59を覆うようにして設けられている。各配向膜53、57には所定の配向処理(例えばラビング処理)が施されている。
図4は、配向処理の方向のなす角度について説明するための図である。本実施形態では、配向膜53への配向処理の方向R
Uと配向膜57への配向処理の方向R
Lとのなす角度のうち、右ねじれのスプレイツイスト状態(
図1参照)に対応する角度φ
Sが90°以上に設定される。このとき、左ねじれのリバースツイスト状態(
図1参照)に対応する角度φ
Rは(180°−φ
S)と表せる。これにより、スプレイツイスト状態におけるツイスト角(方位角)は90°以上(例えば120°〜150°程度)となる。
【0024】
液晶層60は、第1基板51と第2基板54の相互間に設けられている。液晶層60を構成する液晶材料の誘電率異方性Δεは正(Δε>0)である。この液晶層60は、二色性色素を添加された液晶材料を用いて構成されている。二色性色素とは、分子長軸に対する光の偏光方向により吸収に異方性を有するものをいい、分子長軸方向に偏光した光を吸収しやすく、分子短軸方向に偏光した光を吸収しにくい性質を有している。図中において液晶層60に図示された白抜きの楕円が液晶分子を模式的に表し、黒塗りの楕円が二色性色素を模式的に表している。
【0025】
図5は、液晶層に対して各電極を用いて与えられる電界について説明する模式的な断面図である。
図5(A)は、第1〜第4電極の配置を平面視において示した模式図である。
図5(B)〜
図5(D)は、第1〜第4電極の配置を断面で示した模式図である。第1電極52と第2電極55は互いに対向配置されており、両者の重畳する領域内に、第3電極58と第4電極59が配置されている。また、第3電極58の複数の電極枝と第4電極59の複数の電極枝とは、1つずつ交互に繰り返すように配置されている。
【0026】
図5(B)に示すように、第1電極52と第2電極55の間に電圧を印加することにより、両電極間に電界を発生させることができる。この場合の電界は、図示のように第1基板51および第2基板54の厚さ方向(セル厚方向)に沿った電界、すなわち「縦電界」である。
【0027】
また、
図5(C)に示すように、第3電極58と第4電極59の間に電圧を印加することにより、両電極間に電界を発生させることができる。この場合の電界は、図示のように第1基板51および第2基板54の各一面にほぼ平行な方向の電界、すなわち「横電界」である。以後、このような電界を用いるモードを「IPSモード」と称する場合もある。
【0028】
また、
図5(D)に示すように、絶縁膜56を挟んで対向配置された第2電極55と第3電極58および第4電極59との間に電圧を印加することにより、両電極間に電界を発生させることができる。この場合の電界は、図示のように第1基板51および第2基板54の各一面にほぼ平行な方向に沿った電界、すなわち「横電界」である。以後、このような電界を用いるモードを「FFSモード」と称する場合もある。
【0029】
本実施形態の液晶素子は、初期状態において液晶層60の液晶分子がスプレイツイスト状態に配向する。これに対して、上記したように第1電極52と第2電極55を用いて縦電界を発生させると、液晶層60の液晶分子の配向状態がリバースツイスト状態へ遷移する。その後、第3電極58と第4電極59を用いて横電界を発生させると(IPSモード)、液晶層60の配向状態がスプレイツイスト状態へ遷移する。また、第2電極55、第3電極58、第4電極59を用いて横電界を発生させた場合(FFSモード)でも同様に液晶層60の配向状態がリバースツイスト状態からスプレイツイスト状態へ遷移する。IPSモードとの比較では、FFSモードのほうが液晶層60の配向状態をより均一に遷移させることができる。これは、第3電極58、第4電極59の各電極上にも横電界が印加されるためである。したがって、開口率(透過率、コントラスト比)の面からはFFSモードがより適しているといえる。
【0030】
液晶層60の配向状態がスプレイツイスト状態とリバースツイスト状態の間でスイッチング可能となった理由は以下のように考察される。スプレイツイスト状態では液晶層60の層厚方向の略中央における液晶分子がほぼ水平に配向しているが、縦電界によってリバースツイスト状態になった後には層厚方向の略中央における液晶分子が垂直方向に傾く。この後、IPSモードあるいはFFSモードの横電界によって、リバースツイスト状態における液晶層60の層厚方向の略中央における液晶分子に横電界がかかり、スプレイツイスト状態における液晶層60の当該略中央における液晶分子があるべきダイレクタ方向に向いたため、再び初期状態であるスプレイツイスト状態へ遷移する。以上により、縦電界と横電界を活用してスプレイツイスト状態とリバースツイスト状態を切り替えられるようになったものと考えられる。
【0031】
次に、液晶素子の製造方法の一例について詳細に説明する。
【0032】
ITO膜付きガラス基板のITO膜をパターニングすることにより、第1電極52を有する第1基板51を作製する。ここでは一般的なフォトリソグラフィ技術によってITO膜のパターニングを行うことができる。ITOエッチング方法としてはウェットエッチング(第二塩化鉄)を用いる。ここでの第1電極52の形状パターンは、取り出し電極部分と表示の画素にあたる部分にITO膜が残るようにする。同様にして、ITO膜付きガラス基板のITO膜をパターニングすることにより、第2電極55を有する第2基板54を作製する。
【0033】
次いで、第2基板54の第2電極55上に絶縁膜56を形成する。その際、取り出し電極部分には絶縁膜56が形成されないよう工夫する必要がある。その方法としては、あらかじめ取り出し電極部分にレジストを形成しておいて絶縁膜56の形成後にリフトオフする方法や、メタルマスクなどにより取り出し電極部分を隠した状態でスパッタ法などにより絶縁膜56を形成する方法などが挙げられる。また、絶縁膜56としては、有機絶縁膜、あるいは酸化珪素膜や窒化珪素膜等の無機絶縁膜及びそれらの組み合わせ等が挙げられる。ここでは、アクリル系有機絶縁膜と酸化珪素膜(SiO
2膜)の積層膜を絶縁膜56として用いる。
【0034】
取り出し電極部分(端子部分)には耐熱性のフィルム(ポリイミドテープ)を貼り、その状態で有機絶縁膜の材料液をスピンコートする。例えば、2000rpmにて30秒間スピンさせる条件で、膜厚1μmを得る。これをクリーンオーブンにて焼成する(例えば、220℃、1時間)。耐熱性のフィルムを貼ったままでSiO
2膜をスパッタ法(交流放電)により成膜する。例えば、80℃に基板加熱し、1000Å形成する。ここで耐熱性のフィルムを剥がすと、有機絶縁膜、SiO
2膜ともきれいに剥がすことができる。その後、クリーンオーブンにて焼成する(例えば、220℃、1時間)。これは、SiO
2膜の絶縁性と透明性を上げるためである。SiO
2膜を形成する必要性は必ずしも無いが形成によりその上に形成するITO膜の密着性及びパターニング性が向上するため、形成することが望ましい。また、絶縁性も向上する。一方、有機絶縁膜を形成せずにSiO
2膜のみで絶縁性をとる方法が考えられるが、その場合にはSiO
2膜は多孔質になりやすいため膜厚を4000Å〜8000Å程度確保することが望ましい。また、SiNxとの積層膜にしてもよい。なお、無機絶縁膜の形成方法としてスパッタ法を述べたが、真空蒸着法、イオンビーム法、CVD法(化学気相堆積法)などの形成方法を用いてもよい。
【0035】
次いで、絶縁膜56上に第3電極58および第4電極59を形成する。具体的には、まず絶縁膜56上にITO膜をスパッタ法(交流放電)にて形成する。これを、例えば100℃に基板加熱し、約1200Å程度のITO膜を全面に形成する。このITO膜を一般的なフォトリソグラフィ技術によってパターニングする。このときのフォトマスクとしては、上記した
図5に示したような櫛歯状電極に対応する遮光部分を有するものを用いる。櫛歯状の電極として、例えば、電極枝の幅を20μmまたは30μmの2種類、電極間隔20μm、30μm、50μm、100μm、200μmの5種類を用いる。なお、上記の取り出し電極部分にもパターンが無いとエッチングにより下側のITO膜も除去されるので、取り出し電極部分にもパターンが形成されているフォトマスクを用いる。
【0036】
上記のようにして作製した第1基板51および第2基板54を洗浄する。具体的には、まず水洗(ブラシ洗浄もしくはスプレー洗浄、純水洗浄)をし、水切り後にUV洗浄をし、最後にIR乾燥を行う。
【0037】
次いで、第1基板51、第2基板54のそれぞれに配向膜53、57を形成する。配向膜53、57として、例えば、通常は垂直配向膜として用いられる材料の側鎖密度を低くしたポリイミド膜を用いる。配向膜の材料液(配向材)を第1基板51、第2基板54のそれぞれの一面に塗布し、これらをクリーンオーブンにて焼成する(例えば160℃、1時間)。配向膜の材料液の塗布方法としてはフレキソ印刷、インクジェット印刷、もしくはスピンコートが用いられる。ここではスピンコートを用いるが、他の方式を用いても結果は同様である。配向膜53、57の膜厚は、例えば500Å〜800Åとなるようにする。次いで、各配向膜53、57に対し、配向処理としてのラビング処理を行う。ラビング時の押し込み量は、例えば0.8mmに設定する。これにより、各配向膜53、57が液晶分子に対して20°〜60°程度のプレティルト角を発現し得る。ラビング方向については、上記したようにスプレイツイスト状態におけるツイスト角が90°以上となるように設定する(
図4参照)。ここでは例えば、ツイスト角が120°、135°、150°となるようにする(通常のTN液晶素子でいえば60°、45°、30°のツイスト角の条件に相当)。
【0038】
次いで、第1基板51と第2基板54を貼り合わせる。第1基板51上にはあらかじめスペーサー材を散布し、さらにシール材を印刷する。ここでは、セル厚が4μmとなるように、スペーサー材として粒径4μmのものを用いる。次いで、第1基板51と第2基板54の間に液晶材料を注入することによって液晶層60を形成する。液晶材料にはカイラル材として、例えばCB15が添加される。また、液晶材料には二色性色素が適量添加される。
【0039】
以上により、本実施形態の液晶素子が完成する。このような本実施形態の液晶素子は、完成時点では液晶層60がスプレイツイスト状態に配向している。このときは、比較的に透過率(あるいは反射率)が低く、暗い状態の外観となる。そして、液晶層60に縦電界を与えると、液晶層60の配向がリバースツイスト状態に遷移し、電界をオフとした後もその状態が維持される。このときは、比較的に透過率(あるいは反射率)が高く、明るい状態の外観となる。さらに、液晶層60に横電界を与えると、液晶層60の配向が再びスプレイツイスト状態へ遷移し、電界をオフとした後もその状態が維持される。
【0040】
次に、上記の液晶素子の有するメモリ性を利用した低消費電力駆動が可能な液晶表示装置の構成例について説明する。
【0041】
図6は、液晶表示装置の構成例を模式的に示す図である。
図6に示す液晶表示装置は、複数の画素部74をマトリクス状に配列して構成される単純マトリクス型の液晶表示装置であり、各画素部74として上記した液晶素子が用いられている。具体的には、液晶表示装置は、X方向に延びるm本の制御線B1〜Bmと、これらの制御線B1〜Bmに対して制御信号を与えるドライバー71と、各々が制御線B1〜Bmと交差してY方向に延びるn本の制御線A1〜Anと、これらの制御線A1〜Anに対して制御信号を与えるドライバー72と、各々が制御線B1〜Bmと交差してY方向に延びるn本の制御線C1〜CnおよびD1〜Dnと、これらの制御線C1〜CnおよびD1〜Dnに対して制御信号を与えるドライバー73と、制御線B1〜Bmと制御線A1〜Anとの各交点に設けられた画素部74と、を含んで構成されている。
【0042】
各制御線B1〜Bm、A1〜An、C1〜CnおよびD1〜Dnは、例えば、ストライプ状に形成されたITO等の透明導電膜からなる。制御線B1〜BmとA1〜Anとが交差する部分が上記した第1電極52および第2電極55として機能する(
図3参照)。また、制御線C1〜Cnについては、各画素部74に相当する領域に設けられ第3電極58としての櫛歯状の電極枝(
図6においては図示省略)と接続されている。同様に、制御線D1〜Dnについては、各画素部74に相当する領域に設けられ第4電極59としての櫛歯状の電極枝(
図6においては図示省略)と接続されている。
【0043】
図6に示す構成の液晶表示装置の駆動法としては種々の方法が考えられる。例えば、制御線B1、B2、B3・・・とライン毎に表示書き換えを行う方法(線順次駆動法)について説明する。この場合には、相対的に明るい表示(リバースツイスト状態)としたい画素部74には縦電界を印加し、相対的に暗い表示(スプレイツイスト状態)としたい画素部74には横電界を印加すればよい。
【0044】
例えば、制御線B1には配向状態の遷移が生じない程度の矩形波電圧(例えば5V程度で150Hz)を印加し、制御線A1〜An、C1〜CnおよびD1〜Dnにはそれと同期し、もしくは半周期ずれた閾値電圧程度の矩形波電圧(例えば5V程度で150Hz)を印加する。
【0045】
詳細には、制御線A1〜Anのうち、明るい表示としたい画素部74に対応する制御線には、制御線B1に印加した矩形波電圧と半周期ずれた矩形波電圧を印加する。このとき制御線C1〜CnおよびD1〜Dnには電圧を印加しない。それにより、画素部74の液晶素子には実効的に10V程度の電圧(縦電界)が印加される状態となる。この電圧が飽和電圧以上であるとすれば、液晶層60に配向状態の遷移を生じさせ、当該画素部74の透過率を変化させることができる。一方、制御線A1〜Anのうち、表示を変化させる必要がない画素部74に対応する制御線には、制御線B1に印加される矩形波電圧と同期した矩形波電圧を印加する。このときも制御線C1〜CnおよびD1〜Dnには電圧を印加しない。それにより、当該画素部74では実効的に電圧が印加されていない状態となる。したがって、液晶層60には配向状態の遷移が生じず、透過率が変化しない。
【0046】
また、制御線C1〜CnおよびD1〜Dnのうち、暗い表示としたい画素部74に対応する制御線には、制御線B1に印加した矩形波電圧と半周期ずれた矩形波電圧を印加する。このとき制御線A1〜Anには電圧を印加しない。それにより、画素部74の液晶素子には実効的に10V程度の電圧(横電界)が印加される状態となる。この電圧が飽和電圧以上であるとすれば、液晶層60に配向状態の遷移を生じさせ、当該画素部74の透過率を変化させることができる。一方、制御線C1〜CnおよびD1〜Dnのうち、表示を変化させる必要がない画素部74に対応する制御線には、制御線B1に印加される矩形波電圧と同期した矩形波電圧を印加する。このときも制御線A1〜Anには電圧を印加しない。それにより、当該画素部74では実効的に電圧が印加されていない状態となる。したがって、液晶層60には配向状態の遷移が生じず、透過率が変化しない。
【0047】
以上のような駆動を制御線B2、B3・・・と順次に実行していくことによりドットマトリクス表示が可能となる。このような駆動により書き換えられた表示状態は半永久的に保持することが可能である。この表示を書き換えるには再び制御線B1から上記の制御を実行すればよい。なお、ここではいわゆる単純マトリクス型の液晶表示装置について本発明を適用した例を示したが、薄膜トランジスタ等を用いたアクティブマトリクス型の液晶表示装置について本発明を適用することも可能である。アクティブマトリクス型の液晶表示装置の場合には制御線B1等のライン毎に書き換える必要がなくなるので書き換え時間を短縮できる。また、しきい値に対して2倍以上の電圧の印加も可能になるので更に高速に書き換えが可能になる。ただし、片側の基板に横電界用と縦電界用の電極があるため、1画素あたり2つの薄膜トランジスタ等が必要になる。
【0048】
(実施例)
液晶素子の初期配向状態(スプレイツイスト状態)におけるツイスト角をそれぞれ異なる値に設定したいくつかの液晶素子を作製した。液晶素子の作製方法は基本的に上記した通りである。配向膜材料としては通常は垂直配向膜として用いられる材料の側鎖密度を低くしたポリイミド材料を用いた。配向膜形成時の焼成条件は160℃で1時間とした。配向膜の膜厚は500Å〜800Åとなるようにした。また、ラビング時の押し込み量は0.8mmとした。液晶層のツイスト角(スプレイツイスト状態におけるツイスト角)については120°、135°、150°の3つの条件とした。液晶層厚(セル厚)については4μmとした。液晶層を構成する液晶材料にはカイラル材を添加しており、その添加量はピッチが4.5μmもしくは5μmとなるようにした。液晶材料としては屈折率異方性Δnが0.08と比較的に低いものを用いた。液晶材料には複数種の二色性色素が添加された。これらの二色性色素については、黒表示を良好にするために適宜最適化された条件(添加量の割合等)で添加した。また、液晶材料の注入後に熱処理(120℃で30分間)を行った。なお、実施例の液晶素子では偏光板は設けられていない。また、実施例の液晶素子には反射板を設けていないが、反射型として用いる場合には適宜、反射板を設けるとよい。また、表面凹凸を有した散乱反射板、もしくは反射板上や液晶素子上に散乱フィルムを貼って、散乱しながら反射する構成としてもよい。
【0049】
図7は、実施例の液晶素子の光学特性とツイスト角の関係を示す図である。
図7において「ツイスト角」はスプレイツイスト状態における値を示し、「ピッチ」はカイラル材の添加によるカイラルピッチを示している。ツイスト角が120°の条件についてはピッチを5μmの1条件のみで液晶素子を作成し、それ以外のツイスト角についてはピッチを4.5μmと5.0μmの2条件で液晶素子を作成した。そして、これら5条件の液晶素子のそれぞれについて透過率を測定し、コントラストを算出した。透過率については、液晶素子の法線方向から光を入射させ、スプレイツイスト状態およびリバースツイスト状態のそれぞれにおける透過率を測定した(リファレンス:Air)。また、各条件の液晶素子についての反射率およびコントラストは透過率から推察される計算値である。
【0050】
図7に示すように、実施例の各液晶素子の透過型でのコントラストは1.57〜2.50であり、反射型でのコントラストは2.47〜6.25であった。ツイスト角に対する明確な依存性は見られなかったが、コントラストの面ではツイスト角135°でピッチ5.0μmも条件が優れ、明るさの面ではツイスト角150°でピッチ5.0μmの条件が優れていた。また、反射率(計算値)については、一般的な新聞紙の特性(概ね反射率45%、コントラスト5)と同等であった。また、いずれの条件の液晶素子についても、スプレイツイスト状態とリバースツイスト状態のどちらも電界を印加しない限り非常に安定的に状態を維持できることが分かった。具体的には、各液晶素子のいずれも室温において少なくとも1ヶ月以上、配向状態を維持できることを確認した。
【0051】
なお、理論的な面からは、ツイスト角が大きいほどリバースツイスト状態における透過率が高くなり、スプレイツイスト状態における透過率が低くなると予測される。これはリバースツイスト状態における液晶層の層厚方向の中央における液晶分子の長軸方向が垂直により近づくこととツイスト角が小さいことによる。本実施例の条件範囲ではこのような理論的予測は必ずしも妥当していないが、ツイスト角やカイラルピッチ(およびプレティルト角)の最適化によりコントラストや透過率はさらに改善されると考えられる。
【0052】
以上のように、本実施形態並びに各実施例によれば、2つの配向状態間の遷移を利用する液晶素子における透過率および反射率を向上することが可能となる。
【0053】
また、液晶素子の製造工程は、基本的には一般的な液晶素子の製造工程とほぼ同じでありコストアップの要因は少ない。すなわち、一般的な液晶素子と同様の製造技術で安価に製造が可能である。
【0054】
また、本実施形態等の液晶素子は、表示を書き換えるとき以外は電力を必要としないので、超低消費電力駆動が可能であり、透過型ディスプレイ、反射型ディスプレイのいずれの場合にも好適なディスプレイを実現できる。特に反射型ディスプレイに適用した場合にはメリットが大きい。
【0055】
また、配向状態のメモリ性を利用した駆動方法(線順次書き換え法等)の適用が可能になるので、薄膜トランジスタ等のスイッチング素子を用いることなく単純マトリクス表示により大容量のドットマトリクス表示が可能である。従って低コストで大容量表示が可能になる
【0056】
なお、本発明は上述した実施形態の内容に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内において種々に変形して実施をすることが可能である。