【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明の電気自動車の速度制御装置は、左右の駆動輪を個別に駆動するモータ5を搭載し、前記各モータ5を個別に制御する制御部14を有するインバータ装置12と、運転者に操作されるアクセルの指示速度を前記インバータ装置12の前記各制御部に与えるECU11(電気制御ユニット)とを有する電気自動車において、
前記左の駆動輪の速度VLと右の駆動輪の速度VRとを平均した平均速度(VL+VR)/2が、前記アクセルの指示速度Voとなるように制御する平均速度制御手段22を
有する。
なお、この制御は、ディファレンシャルジョイントを介して1モータで左右輪を駆動する場合に相当する制御となる。
【0007】
この構成によると、平均速度制御手段22は、アクセルの指示速度Voに対して、左右のモータ5の速度を個別に制御するのではなく、左右の平均速度 (VL+VR)/2が、ECU11からの指示速度Voと一致するように、モータ5制御する。左右の平均速度 (VL+VR)/2が指示速度Voよりも遅い場合は、指示トルク(電流)を大きくし、指示速度Voよりも早い場合は、指示トルク(電流)を小さくし、左右のモータ5の速度差は無視する。
左右の駆動輪を個別のモータ5で駆動する自動車において、特に速度フィードバックを掛けていなければ、左右の駆動輪は、同じ速度指令が与えられている場合に、曲線路を走行するときであっても、各輪が旋回半径に従って適切な回転速度となる。このため、左右の駆動輪の速度を平均した平均速度(VL+VR)/2が、アクセルの指示速度Voとなるように平均速度制御手段22で制御することで、運転者のアクセルの指示通りの速度に制御することができる。左右の駆動輪の平均速度を制御する構成であるため、左右の駆動輪に個別に指令速度を演算する構成に比べて制御が簡単で済む。
なお、上記の左右の平均速度(VL+VR)/2を指示速度Voとする制御は、定められた条件を充足する場合のみ行い、以下に示すような左右輪の速度差等が設定値を超えるような場合は、左右の平均速度(VL+VR)/2が、上記指示速度Voよりも定められ割合等で低くなる制御を行っても良い。
【0008】
この発明において、前記左右の駆動輪の速度差が設定値Vmaxを超えないように制御する速度差制限手段23を設けても良い。
基本的には、上記のように、指示速度Voに対して、左右のモータ5のそれぞれの速度を制御するのではなく、左右の平均速度(VL+VR)/2が指示速度Voに一致するようにモータ5制御する。しかし、左右のモータ5の速度差|VL−VR|が設定値(最大速度差)Vmaxよりも大きくなった場合は、速度差に制限を加える。左右の片方の駆動輪が低摩擦係数路に入った場合等は、その低摩擦係数路に入った駆動輪の回転速度がスリップにより速くなる。このような場合、速度差に制限を加える制御を行う。これにより、簡単な制御で、曲線路や路面状態によるスリップの発生を軽減でき、タイヤやエネルギー利用効率への悪影響が回避できる。
速度差に制限を加える方法としては、例えば、左右のモータ5に与える指示トルク(電流)に、定められた値の差を生じさせる。この場合、左右のモータ5に互いに異なる指令を与えることになるが、設定値(最大速度差)Vmaxを超えないように制御するだけであるため、簡単な制御で済む。制限を加える方法として、この他に、左右の平均速度(VL+VR)/2を指示速度Voよりも低下させるようにしても良い。
【0009】
この発明
は、前記左右の駆動輪の速度差|VL−VR|をアクセルの指示速度Voで除した値が設定値Vrmaxを超えないように制御する平均速度対応・速度差制限手段24を
有する。
このように、左右の駆動輪の速度差|VL−VR|をアクセルの指示速度Voで除した比に応じて制御する場合も、左右の片方の駆動輪が低摩擦係数路に入った場合のスリップに対応した適切な走行が行えるように制御することができる。また、このように速度の比を監視して制御を行うと、スリップに対応した制御がより適切に行える。
この場合も、制限を加える方法としては、例えば、左右のモータ5に与える指示トルク(電流)に、定められた値の差を生じさせる。この場合、左右のモータ5に互いに異なる指令を与えることになるが、設定値(最大速度差)Vmaxを超えないように制御するだけであるため、簡単な制御で済む。制限を加える方法として、この他に、左右の平均速度(VL+VR)/2を指示速度Voよりも低下させるようにしても良い。
【0010】
この発明において、前記左右の駆動輪のトルク差|TL−TR|が設定値Tdmaxを超えないように制御するトルク差制限手段25を
有していても良い。
左右の駆動輪のトルク差|TL−TR|を制限することによっても、スリップに対応した制御を行うこができる。
トルク差|TL−TR|が設定値Tdmaxを超えないように行う制御は、例えば、左右の駆動輪のモータ5に指令するトルクにつき、実際に発生しているトルクの小さい方の駆動輪のモータ5のトルクを大きく、実際に発生しているトルクの大きい方の駆動輪のモータ5のトルクを小さくする等の制御を行う。この場合も、単に、トルク差|TL−TR|が設定値Tdmaxを超えないように行う制御であるため、簡単な制御で済む。
【0011】
この発明において、前記左右の駆動輪のトルクが設定値を超えないように制御するトルク制御手段26を
有していても良い。
【0012】
この発明において、前記左右の駆動輪に速度差が生じないように一時的に制限する一時的速度差制限手段27を
有していても良い。この一時的に速度差を制限する指令およびその制限の解除の指令は、例えば運転者による所定の操作部の操作により行う。
なお、この制御は、ディファレンシャルジョイントを介して1モータで左右輪を駆動する場合のデフロックに相当する。
自動車がオフロードや沼地等に入った場合は、スリップが生じ易くて左右の駆動輪に速度差が生じ易いため、速度差を制限することが、安定した走行の上で好ましい。
左右の駆動輪に速度差が生じないように制限する形態としては、例えば、速度フィードバックを掛ける制御等で行う。この場合も、両輪の速度を同じとする制御であるため、簡単な制御で済む。
【0013】
この発明において、各モータ5を制御するインバータ装置12を独立して有し、インバータ間通信手段29を有する場合、この電気自動車の速度制御装置を構成する各手段22〜29をインバータ装置12に
有していても良い。インバータ装置12にこの速度制御装置を設けることにより、ECU11の構成が簡素化される。
具体的には、前記電気自動車が前記左右の駆動輪のモータ5をそれぞれ個別に制御する2台のインバータ装置12を有し、両インバータ装置12の間で、そのインバータ装置12で制御するモータ5の駆動輪の速度等を互いに通信するインバータ間通信手段29を有する場合に、
各インバータ装置12に、
前記左の駆動輪の速度と右の駆動輪の速度とを平均した平均速度が、前記アクセルの指示速度となるようにする制御、
前記左右の駆動輪の速度差が設定値を超えないようにする制御、
前記左右の駆動輪の速度差を左右輪の平均速度で除した値が設定値を超えないようにする制御、
前記左右の駆動輪のトルク差が設定値を超えないようにする制御、
前記左右の駆動輪のトルクが設定値を超えないようにする制御、および
前記左右の駆動輪の速度をいずれも一時的に設定速度とする制御、
のうちの少なくとも一つの制御を行う手段22〜27を
有していても良い。
【0014】
この発明において、この速度制御装置を構成する各手段をECU11に
有していても良い。この場合、インバータ装置12の構成を簡素化できる。
具体的には、前記左の駆動輪の速度と右の駆動輪の速度とを平均した平均速度が、前記アクセルの指示速度となるようにする制御、
前記左右の駆動輪の速度差が設定値を超えないようにする制御、
前記左右の駆動輪の速度差を左右輪の平均速度で除した値が設定値を超えないようにする制御、
前記左右の駆動輪のトルク差が設定値を超えないようにする制御、
前記左右の駆動輪のトルクが設定値を超えないようにする制御、および
前記左右の駆動輪の速度をいずれも一時的に設定速度とする制御、
のうちの少なくとも一つの制御を行う手段22〜27を前記ECU11に
有していても良い。
【0015】
この発明において、前記電気自動車が前輪2輪と後輪2輪との4輪駆動であり、前記いずれの制御を行う手段22〜27においても、前輪同士、および後輪同士の間で前記の制御を行う。この場合も、前記と同様の速度制御による各効果が得られる。
【0016】
この発明において、前記モータは、インホイールモータ駆動装置を構成するものであっても良い。インホイールモータ車の場合、この発明の前記各効果が効果的に発揮される。なお、この発明は、インホイールモータ車に限らず、左右の駆動輪を個別に駆動するモータを搭載した電気自動車一般に適用できる。