特許第5902041号(P5902041)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5902041
(24)【登録日】2016年3月18日
(45)【発行日】2016年4月13日
(54)【発明の名称】電気自動車の速度制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60L 15/20 20060101AFI20160331BHJP
【FI】
   B60L15/20 J
【請求項の数】10
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-124308(P2012-124308)
(22)【出願日】2012年5月31日
(65)【公開番号】特開2013-251973(P2013-251973A)
(43)【公開日】2013年12月12日
【審査請求日】2015年3月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086793
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 雅士
(74)【代理人】
【識別番号】100087941
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 修司
(72)【発明者】
【氏名】中島 明生
【審査官】 久保田 創
(56)【参考文献】
【文献】 特開平06−062509(JP,A)
【文献】 特開平05−176418(JP,A)
【文献】 特開昭62−089403(JP,A)
【文献】 特開2006−044536(JP,A)
【文献】 特開2009−143355(JP,A)
【文献】 特開2006−238650(JP,A)
【文献】 特開2008−141875(JP,A)
【文献】 特開2011−193702(JP,A)
【文献】 特開2006−115639(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0238265(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0204292(US,A1)
【文献】 特開平09−247806(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60L 1/00− 3/12
7/00−13/00
15/00−15/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
左右の駆動輪を個別に駆動するモータを搭載し、前記各モータを個別に制御する制御部を有するインバータ装置と、運転者に操作されるアクセルの指示速度を前記インバータ装置の前記各制御部に与えるECUとを有する電気自動車において、
前記左の駆動輪の速度と右の駆動輪の速度とを平均した平均速度が、前記アクセルの指示速度となるように制御する平均速度制御手段を有し前記左右の駆動輪の速度差をアクセルの指示速度で除した値が設定値を超えないように制御する平均速度対応・速度差制限手段を有することを特徴とする電気自動車の速度制御装置。
【請求項2】
請求項1において、前記左右の駆動輪の速度差が設定値を超えないように制御する速度差制限手段を有する電気自動車の速度制御装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2において、前記左右の駆動輪のトルク差が設定値を超えないように制御するトルク差制限手段を有する電気自動車の速度制御装置。
【請求項4】
請求項1ないし請求項のいずれか1項において、前記左右の駆動輪のトルクが設定値を超えないように制御するトルク制御手段を有する電気自動車の速度制御装置。
【請求項5】
請求項1ないし請求項のいずれか1項において、前記左右の駆動輪に速度差が生じないように一時的に制限する一時的速度差制限手段を有する電気自動車の速度制御装置。
【請求項6】
請求項1ないし請求項のいずれか1項において、前記電気自動車が前記左右の駆動輪のモータをそれぞれ個別に制御する2台のインバータ装置を有し、両インバータ装置の間で互いに通信するインバータ間通信手段を有し、いずれか一方または両方のインバータ装置に、
前記左の駆動輪の速度と右の駆動輪の速度とを平均した平均速度が、前記アクセルの指示速度となるようにする制御、
前記左右の駆動輪の速度差が設定値を超えないようにする制御、
前記左右の駆動輪の速度差を左右輪の平均速度で除した値が設定値を超えないようにする制御、
前記左右の駆動輪のトルク差が設定値を超えないようにする制御、
前記左右の駆動輪のトルクが設定値を超えないようにする制御、および
前記左右の駆動輪の速度をいずれも一時的に設定速度とする制御、
のうちの少なくとも一つの制御を行う手段を有する
電気自動車の速度制御装置。
【請求項7】
請求項1ないし請求項のいずれか1項において、前記ECUに、
前記左の駆動輪の速度と右の駆動輪の速度とを平均した平均速度が、前記アクセルの指示速度となるようにする制御、
前記左右の駆動輪の速度差が設定値を超えないようにする制御、
前記左右の駆動輪の速度差を左右輪の平均速度で除した値が設定値を超えないようにする制御、
前記左右の駆動輪のトルク差が設定値を超えないようにする制御、
前記左右の駆動輪のトルクが設定値を超えないようにする制御、および
前記左右の駆動輪の速度をいずれも一時的に設定速度とする制御、
のうちの少なくとも一つの制御を行う手段を有する電気自動車の速度制御装置。
【請求項8】
請求項1ないし請求項のいずれか1項において、2輪駆動である電気自動車の速度制御装置。
【請求項9】
請求項1ないし請求項のいずれか1項において、前記電気自動車が前輪2輪と後輪2輪との4輪駆動であり、前記いずれの制御を行う手段においても、前輪同士、および後輪同士で前記制御を行う電気自動車の速度制御装置。
【請求項10】
請求項1ないし請求項のいずれか1項において、前記モータは、インホイールモータ駆動装置を構成する電気自動車の速度制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、インホイールモータ車等の左右の駆動輪を個別に駆動するモータを搭載した電気自動車に関する。
【背景技術】
【0002】
インホイールモータ車等の左右の駆動輪を個別に駆動するモータを搭載した電気自動車がある。このような車両を速度制御する場合、左右の駆動輪のモータに同じ指令を与えると、本来、回転数差が必要な曲線路や路面状態によりスリップが発生し、タイヤやエネルギー利用効率に悪影響を与える場合がある。このような課題を解消する技術として、車両の速度や、操舵量、車両の各寸法(トレッド,ホイルベース)等に基づき、左右の駆動輪の速度を個々に演算して制御するものがある(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011−139561号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の車両の速度、操舵角、各寸法に基づく制御は、適切な制御を行える点では優れているが、制御が複雑となる。
【0005】
この発明の目的は、左右の駆動輪を個別に駆動するモータを搭載した自動車において、簡単な制御で、運転者のアクセルの指示通りの速度に制御して適切な走行を行わせることができる電気自動車の速度制御装置を提供することである。
この発明の他の目的は、簡単な制御で、曲線路や路面状態によるスリップの発生を軽減でき、タイヤやエネルギー利用効率への悪影響が回避できるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明の電気自動車の速度制御装置は、左右の駆動輪を個別に駆動するモータ5を搭載し、前記各モータ5を個別に制御する制御部14を有するインバータ装置12と、運転者に操作されるアクセルの指示速度を前記インバータ装置12の前記各制御部に与えるECU11(電気制御ユニット)とを有する電気自動車において、
前記左の駆動輪の速度VLと右の駆動輪の速度VRとを平均した平均速度(VL+VR)/2が、前記アクセルの指示速度Voとなるように制御する平均速度制御手段22を有する
なお、この制御は、ディファレンシャルジョイントを介して1モータで左右輪を駆動する場合に相当する制御となる。
【0007】
この構成によると、平均速度制御手段22は、アクセルの指示速度Voに対して、左右のモータ5の速度を個別に制御するのではなく、左右の平均速度 (VL+VR)/2が、ECU11からの指示速度Voと一致するように、モータ5制御する。左右の平均速度 (VL+VR)/2が指示速度Voよりも遅い場合は、指示トルク(電流)を大きくし、指示速度Voよりも早い場合は、指示トルク(電流)を小さくし、左右のモータ5の速度差は無視する。
左右の駆動輪を個別のモータ5で駆動する自動車において、特に速度フィードバックを掛けていなければ、左右の駆動輪は、同じ速度指令が与えられている場合に、曲線路を走行するときであっても、各輪が旋回半径に従って適切な回転速度となる。このため、左右の駆動輪の速度を平均した平均速度(VL+VR)/2が、アクセルの指示速度Voとなるように平均速度制御手段22で制御することで、運転者のアクセルの指示通りの速度に制御することができる。左右の駆動輪の平均速度を制御する構成であるため、左右の駆動輪に個別に指令速度を演算する構成に比べて制御が簡単で済む。
なお、上記の左右の平均速度(VL+VR)/2を指示速度Voとする制御は、定められた条件を充足する場合のみ行い、以下に示すような左右輪の速度差等が設定値を超えるような場合は、左右の平均速度(VL+VR)/2が、上記指示速度Voよりも定められ割合等で低くなる制御を行っても良い。
【0008】
この発明において、前記左右の駆動輪の速度差が設定値Vmaxを超えないように制御する速度差制限手段23を設けても良い。
基本的には、上記のように、指示速度Voに対して、左右のモータ5のそれぞれの速度を制御するのではなく、左右の平均速度(VL+VR)/2が指示速度Voに一致するようにモータ5制御する。しかし、左右のモータ5の速度差|VL−VR|が設定値(最大速度差)Vmaxよりも大きくなった場合は、速度差に制限を加える。左右の片方の駆動輪が低摩擦係数路に入った場合等は、その低摩擦係数路に入った駆動輪の回転速度がスリップにより速くなる。このような場合、速度差に制限を加える制御を行う。これにより、簡単な制御で、曲線路や路面状態によるスリップの発生を軽減でき、タイヤやエネルギー利用効率への悪影響が回避できる。
速度差に制限を加える方法としては、例えば、左右のモータ5に与える指示トルク(電流)に、定められた値の差を生じさせる。この場合、左右のモータ5に互いに異なる指令を与えることになるが、設定値(最大速度差)Vmaxを超えないように制御するだけであるため、簡単な制御で済む。制限を加える方法として、この他に、左右の平均速度(VL+VR)/2を指示速度Voよりも低下させるようにしても良い。
【0009】
この発明、前記左右の駆動輪の速度差|VL−VR|をアクセルの指示速度Voで除した値が設定値Vrmaxを超えないように制御する平均速度対応・速度差制限手段24を有する
このように、左右の駆動輪の速度差|VL−VR|をアクセルの指示速度Voで除した比に応じて制御する場合も、左右の片方の駆動輪が低摩擦係数路に入った場合のスリップに対応した適切な走行が行えるように制御することができる。また、このように速度の比を監視して制御を行うと、スリップに対応した制御がより適切に行える。
この場合も、制限を加える方法としては、例えば、左右のモータ5に与える指示トルク(電流)に、定められた値の差を生じさせる。この場合、左右のモータ5に互いに異なる指令を与えることになるが、設定値(最大速度差)Vmaxを超えないように制御するだけであるため、簡単な制御で済む。制限を加える方法として、この他に、左右の平均速度(VL+VR)/2を指示速度Voよりも低下させるようにしても良い。
【0010】
この発明において、前記左右の駆動輪のトルク差|TL−TR|が設定値Tdmaxを超えないように制御するトルク差制限手段25を有していても良い。
左右の駆動輪のトルク差|TL−TR|を制限することによっても、スリップに対応した制御を行うこができる。
トルク差|TL−TR|が設定値Tdmaxを超えないように行う制御は、例えば、左右の駆動輪のモータ5に指令するトルクにつき、実際に発生しているトルクの小さい方の駆動輪のモータ5のトルクを大きく、実際に発生しているトルクの大きい方の駆動輪のモータ5のトルクを小さくする等の制御を行う。この場合も、単に、トルク差|TL−TR|が設定値Tdmaxを超えないように行う制御であるため、簡単な制御で済む。
【0011】
この発明において、前記左右の駆動輪のトルクが設定値を超えないように制御するトルク制御手段26を有していても良い。
【0012】
この発明において、前記左右の駆動輪に速度差が生じないように一時的に制限する一時的速度差制限手段27を有していても良い。この一時的に速度差を制限する指令およびその制限の解除の指令は、例えば運転者による所定の操作部の操作により行う。
なお、この制御は、ディファレンシャルジョイントを介して1モータで左右輪を駆動する場合のデフロックに相当する。
自動車がオフロードや沼地等に入った場合は、スリップが生じ易くて左右の駆動輪に速度差が生じ易いため、速度差を制限することが、安定した走行の上で好ましい。
左右の駆動輪に速度差が生じないように制限する形態としては、例えば、速度フィードバックを掛ける制御等で行う。この場合も、両輪の速度を同じとする制御であるため、簡単な制御で済む。
【0013】
この発明において、各モータ5を制御するインバータ装置12を独立して有し、インバータ間通信手段29を有する場合、この電気自動車の速度制御装置を構成する各手段22〜29をインバータ装置12に有していても良い。インバータ装置12にこの速度制御装置を設けることにより、ECU11の構成が簡素化される。
具体的には、前記電気自動車が前記左右の駆動輪のモータ5をそれぞれ個別に制御する2台のインバータ装置12を有し、両インバータ装置12の間で、そのインバータ装置12で制御するモータ5の駆動輪の速度等を互いに通信するインバータ間通信手段29を有する場合に、
各インバータ装置12に、
前記左の駆動輪の速度と右の駆動輪の速度とを平均した平均速度が、前記アクセルの指示速度となるようにする制御、
前記左右の駆動輪の速度差が設定値を超えないようにする制御、
前記左右の駆動輪の速度差を左右輪の平均速度で除した値が設定値を超えないようにする制御、
前記左右の駆動輪のトルク差が設定値を超えないようにする制御、
前記左右の駆動輪のトルクが設定値を超えないようにする制御、および
前記左右の駆動輪の速度をいずれも一時的に設定速度とする制御、
のうちの少なくとも一つの制御を行う手段22〜27を有していても良い。
【0014】
この発明において、この速度制御装置を構成する各手段をECU11に有していても良い。この場合、インバータ装置12の構成を簡素化できる。
具体的には、前記左の駆動輪の速度と右の駆動輪の速度とを平均した平均速度が、前記アクセルの指示速度となるようにする制御、
前記左右の駆動輪の速度差が設定値を超えないようにする制御、
前記左右の駆動輪の速度差を左右輪の平均速度で除した値が設定値を超えないようにする制御、
前記左右の駆動輪のトルク差が設定値を超えないようにする制御、
前記左右の駆動輪のトルクが設定値を超えないようにする制御、および
前記左右の駆動輪の速度をいずれも一時的に設定速度とする制御、
のうちの少なくとも一つの制御を行う手段22〜27を前記ECU11に有していても良い。
【0015】
この発明において、前記電気自動車が前輪2輪と後輪2輪との4輪駆動であり、前記いずれの制御を行う手段22〜27においても、前輪同士、および後輪同士の間で前記の制御を行う。この場合も、前記と同様の速度制御による各効果が得られる。
【0016】
この発明において、前記モータは、インホイールモータ駆動装置を構成するものであっても良い。インホイールモータ車の場合、この発明の前記各効果が効果的に発揮される。なお、この発明は、インホイールモータ車に限らず、左右の駆動輪を個別に駆動するモータを搭載した電気自動車一般に適用できる。
【発明の効果】
【0017】
この発明の電気自動車の速度制御装置は、左右の駆動輪を個別に駆動するモータを搭載し、前記各モータを個別に制御する制御部を有するインバータ装置と、運転者に操作されるアクセルの指示速度を前記インバータ装置の前記各制御部に与えるECUとを有する電気自動車において、前記左の駆動輪の速度と右の駆動輪の速度とを平均した平均速度が、前記アクセルの指示速度となるように制御する平均速度制御手段を有するため、簡単な制御で、運転者のアクセルの指示通りの速度に制御して適切な走行を行わせることができる。
また、前記左右の駆動輪の速度差をアクセルの指示速度で除した値が設定値を超えないように制御する平均速度対応・速度差制限手段を有するため、左右の片方の駆動輪が低摩擦係数路に入った場合のスリップに対応した適切な走行が行えるように制御することができる。また、このように速度の比を監視して制御を行うと、スリップに対応した制御がより適切に行える。
【0018】
左右の駆動輪の速度差が設定値を超えないようにする制御、前記左右の駆動輪の速度差を左右輪の平均速度で除した値が設定値を超えないようにする制御、前記左右の駆動輪のトルク差が設定値を超えないようにする制御、前記左右の駆動輪のトルクが設定値を超えないようにする制御、および前記左右の駆動輪の速度をいずれも一時的に設定速度とする制御、のうちの少なくとも一つの制御を行う手段を設けた場合は、簡単な制御で、曲線路や路面状態によるスリップの発生を軽減でき、タイヤやエネルギー利用効率への悪影響が回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】(A),(B)はそれぞれこの発明の一実施形態に係る速度制御装置を適用する電気自動車および速度制御装置の概念構成を示すブロック図である。
図2】(A),(B)はそれぞれこの発明の他の実施形態に係る速度制御装置を適用する電気自動車および速度制御装置の概念構成を示すブロック図である。
図3】この発明のさらに他の実施形態に係る速度制御装置を適用する電気自動車の概念構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
この発明の第1の実施形態を図1と共に説明する。この電気自動車は、車体1の後部の左右の後輪がそれぞれモータ5により個別に駆動される駆動輪2とされ、前輪が転舵装置8によって転舵される従動輪3となる後輪2輪駆動車である。モータ5は、駆動輪2を支持する車輪用軸受6と、モータ5の回転を前記車輪用軸受6のハブ兼用の回転側輪となる内輪に減速して伝達する減速機7と共に、インホイールモータ駆動装置4を構成する。各駆動輪2および従動輪3に、ブレーキ9が設けられている。各モータ5は、同期モータ等の交流モータである。転舵装置8は、ステアリングホイール等の操舵操作手段18によって操作される。
【0021】
制御系は、車両の全体の統合制御,協調制御を行う電気制御ユニットであるECU11と、このECU11の出力する指令に従ってモータ5を制御するインバータ装置12とで構成される。ECU11は、電気自動車の場合「VCU(車両制御ユニット)」とも称される。ECU11は、マイクロコンピュータとこれに実行されるプログラム、および電子回路等により構成される。
【0022】
インバータ装置12は、パワー回路部13と制御部14とで構成される。パワー回路部13は、スイッチング素子からなる複数のパワー素子で構成されてバッテリーの直流電力を3相の交流電力に変換するインバータ15と、このインバータ15の出力をPWM制御等で制御する回路(図示せず)とで構成される。インバータ装置12の制御部14は、ECU11から与えられる速度指令に対応するトルク指令を生成する速度制御部14aと、この速度制御部14aから与えられるトルク指令に従って電流指令をパワー回路部13に出力するトルク制御部14とを有する。制御部14は、マイクロコンピュータとこれに実行されるプログラム、および電子回路等により構成される。なお、制御部14は、基本的には速度フィードバックを掛けない構成とされるが、前記一時的速度制限手段27を設けた場合は、この一時的速度制限手段27で速度制限を行うときのみ、速度フィードバックを掛ける構成とする。
【0023】
なお、インバータ装置12は、この実施形態では、1台のインバータ装置13の中に、左右の各モータ5にそれぞれ電流を印加するパワー回路部13およびこのパワー回路部13を制御する制御部14が別々に設けられている。インバータ装置12は、図2の例のように、各モータ5毎に個別に設けられていても良い。また、インバータ装置12の制御部14は、ECU11と同じ筐体や回路基板に設けられていても良い。
【0024】
ECU11は、運転者に操作されるアクセル16のアクセル入力である指示速度を前記インバータ装置11の各制御部14に与える指示速度生成手段21を有する。この指示速度生成手段21から出力する指示速度は、左右のモータ5,5に対して同じ値であるか、または一つの指令であり、ステアリングホイール等の操舵操作手段18からの操舵入力がECU11に入力されても、操舵入力に応じた速度差を持たせる制御を行うことなく、左右の駆動輪5に対して同じ指示速度を出力する。なお、指示速度生成手段21は、アクセル16のアクセル入力と共にブレーキ17の入力が共にあった場合は、アクセル入力からブレーキ入力を差し引いた値の指示速度をインバータ装置11へ出力する。
【0025】
この実施形態の電気自動車の速度制御装置は、上記構成の制御系において、次の平均速度制御手段22、速度差制限手段23、平均速度対応・速度差制限手段24、トルク差制限手段25、トルク制限手段26、および一時的速度制限手段27を、ECU11に設けている。前記各手段22〜27は、インバータ装置12に設けても良い。なお、前記平均速度制御手段22は必ず設けるが、他の各手段23〜27は、全てを備える必要はなく、いずれか一つまたは任意の複数の組み合わせで、前記平均速度制御手段22と共に設けられる。
【0026】
平均速度制御手段22は、左の駆動輪2の速度VLと右の駆動輪2の速度VRとを平均した平均速度(VL+VR)/2が、アクセル16の指示速度Voとなるように制御する指示速度Voの指令をインバータ装置12へ与える手段である。すなわち、
(VL+VR)/2=Vo …(1)
Vo:指示速度、
VL:左駆動輪速度
VR:右駆動輪速度
となる制御を行う。
なお、この明細書で言う指示速度および各駆動輪速度は、例えば回転速度である。
【0027】
上記平均速度制御手段22を設けることより、アクセルの指示速度Voに対して、左右のモータ5のそれぞれの速度を制御するのではなく、左右の平均速度(VL+VR)/2が、ECU11からの指示速度Voと一致するように、モータ5制御する。
左右の平均速度(VL+VR)/2が指示速度Voよりも遅い場合は、指示トルク(電流)を大きくし、指示速度Voよりも早い場合は、指示トルク(電流)を小さくし、左右のモータ5の速度差は無視する。上記指示トルクを大きくまたは小さくする制御は、ECU11等における平均速度制御手段22からインバータ装置12のトルク制御部14bに指令を与えること等により行う。
【0028】
左右の駆動輪2を個別のモータ5で駆動する自動車において、特に速度フィードバックを掛けていなければ、左右の駆動輪2は、同じ速度指令が与えられている場合に、曲線路を走行するときであっても、各輪が旋回半径に従って適切な回転速度となる。このため、左右の駆動輪2の速度を平均した平均速度(VL+VR)/2が、アクセルの指示速度Voとなるように制御することで、運転者のアクセル16の操作通りの速度に制御することができる。左右の駆動輪2の平均速度を制御する構成であるため、左右の駆動輪2に対して個別に指令速度を演算する構成に比べて制御が簡単で済む。
【0029】
なお、上記の左右の平均速度(VL+VR)/2を指示速度Voとする制御は、定められた条件を充足する場合のみ行い、以下の各手段23〜27で示すような左右輪の速度差や他の値が設定値を超えるような場合は、左右の平均速度(VL+VR)/2が、上記指示速度Voよりも定められ割合等で低くなる制御を行っても良い。
【0030】
速度差制限手段23は、左右の駆動輪2の速度差が設定値Vmaxを超えないように制御する手段である。
すなわち、次の各式(1)〜(3)を充足するように制御を行う。
(VL+VR)/2=Vo …(1)
VL−VR<Vmax …(2)
VR−VL<Vmax …(3)
Vmax:設定値(最大速度差)
上記設定値Vmaxは、任意に設定すれば良い。
【0031】
この構成の場合、基本的には上記のように指示速度Voに対して、左右のモータ5のそれぞれの速度を制御するのではなく、左右の平均速度(VL+VR)/2が指示速度Voに一致するようにモータを制御するが、左右のモータ5の速度差|VL−VR|が設定値(最大速度差)Vmaxよりも大きくなって場合は、速度差に制限を加える。左右の片方の駆動輪2が低摩擦係数路(「低μ路」とも言う)に入った場合等は、その低摩擦係数路に入った駆動輪2の回転速度がスリップにより速くなる。このような場合、速度差に制限を加える制御を行う。これにより、簡単な制御で、曲線路や路面状態によるスリップの発生を軽減でき、タイヤやエネルギー利用効率への悪影響が回避できる。
【0032】
制限を加える方法としては、例えば、左右のモータ5に与える指示トルク(電流)に、定められた値の差を生じさせる。この場合、左右のモータ5に互いに異なる指令を与えることになるが、設定値(最大速度差)Vmaxを超えないように制御するだけであるため、簡単な制御で済む。制限を加える方法として、この他に、左右の平均速度(VL+VR)/2を指示速度Voよりも低下させるようにしても良い。
【0033】
平均速度対応・速度差制限手段24は、左右の駆動輪2の速度差|VL−VR|をアクセル16の指示速度Voで除した値が設定値Vrmaxを超えないように制御する。
すなわち、
(VL+VR)/2=Vo …(1)
(VL−VR)/Vo<Vrmax …(4)
(VR−VL)/Vo<Vrmax …(5)
とする。
【0034】
このように、左右の駆動輪の速度差|VL−VR|をアクセルの指示速度Voで除した比に応じて制御する場合も、左右の片方の駆動輪2が低摩擦係数路に入った場合のスリップに対応した適切な走行が行えるように制御することができる。また、このように速度の比を監視して制御を行うと、スリップに対応した制御がより適切に行える。
この場合も、制限を加える方法としては、例えば、左右のモータ5に与える指示トルク(電流)に、定められた値の差を生じさせる。この場合、左右のモータ5に互いに異なる指令を与えることになるが、設定値(最大速度差)Vmaxを超えないように制御するだけであるため、簡単な制御で済む。制限を加える方法として、この他に、左右の平均速度(VL+VR)/2を指示速度Voよりも低下させるようにしても良い。
【0035】
トルク差制限手段25は、左右の駆動輪2のトルク差|TL−TR|が設定値Tdmaxを超えないように制御する手段である。すなわち、
(VL+VR)/2=Vo …(1)
TL−TR<Tdmax …(6)
TR−TL<Tdmax …(7)
TL:左駆動輪のトルク、
TR:右駆動輪のトルク、
Tdmax:設定値(最大トルク差)
なお、最大トルク差Tdmaxは、任意に設定すれば良い。
【0036】
このように左右の駆動輪2のトルク差を制限することによっても、スリップに対応した制御を行うこができる。
トルク差が設定値を超えないように行う制御は、例えば、左右の駆動輪2のモータ5に指令するトルクにつき、実際に発生しているトルクの小さい方の駆動輪のモータ5のトルクを大きく、実際に発生しているトルクの大きい方の駆動輪2のモータ5のトルクを小さくする等の制御を行う。この場合も、単に、トルク差が設定値を超えないように行う制御であるため、簡単な制御で済む。
各駆動輪2に作用しているトルクの検出は、モータ5に流れている電流の電流値から検出しても良く、この他に、車輪用軸受6やハブ(図示せず)に作用する歪を測定する手段(図示せず)によって、駆動輪2の路面との接触点に発生している車両進行方向の路面作用力から検出しても良い。
【0037】
トルク制御手段26は、左右の駆動輪2のトルクTL,TRが設定値Tmaxを超えないように制御する手段である。すなわち、
(VL+VR)/2=Vo …(1)
TL<Tmax …(8)
TR<Tmax …(9)
とする。
この場合、トルク制限を行うため、(VL+VR)/2=Voの条件は必ずしも維持しなくても良い。
【0038】
一時的速度差制限手段27は、左右の駆動輪2に速度差が生じないように一時的に制限する手段である。
すなわち、VL=Vo …(10)
VR=Vo …(11)
とする。この一時的に速度差を制限する指令およびその制限の解除の指令は、例えば運転者による所定の操作部19の操作により行う。操作部19は、例えば運転席のコンソール等に設けられたオンオフスイッチである。
なお、この制御は、ディファレンシャルジョイントを介して1モータで左右輪を駆動する場合のデフロックに相当する。
【0039】
自動車がオフロードや沼地等に入った場合は、スリップが生じ易くて左右の駆動輪2に速度差が生じ易いため、速度差を制限することが、安定した走行の上で好ましい。
左右の駆動輪2に速度差が生じないように制限する形態としては、例えば、速度フィードバックを掛ける制御等で行う。この場合も、両輪の速度を同じとする制御であるため、簡単な制御で済む。
【0040】
図2は、この発明の他の実施形態を示す。この実施形態は、自動車が、各モータ5をそれぞれ制御する2台のインバータ装置12を独立して有し、インバータ間通信手段29を有する場合に適用した例である。ECU11の指示速度生成手段21からは、各インバータ装置12に同じ速度指令(指示速度)が与えられる。この例では、この電気自動車の速度制御装置を構成する各手段である平均速度制御手段22、速度差制限手段23、平均速度対応・速度差制限手段24、トルク差制限手段25、トルク制限手段26、および一時的速度制限手段27を、いずれか片方のインバータ装置12に設け、または両方のインバータ装置12に適宜分配して設けている。具体的には、いずれか片方または両方のインバータ装置12が、前記速度制御部14aよりも上位の制御手段となる相互制御部14cを有し、この相互制御部14cに前記各手段22〜27が設けられる。なお、平均速度制御手段22は必ず設けるが、他の各種手段23〜27は、全てを備える必要はなく、いずれか一つまたは任意の複数の組み合わせで、前記平均速度制御手段22と共に設けられる。
【0041】
インバータ装置12にこの速度制御装置を構成する各手段22〜27を設けることにより、ECU11の構成が簡素化される。なお、この実施形態において、特に説明した事項の他は、図1に示した第1の実施形態と同様である。
【0042】
図3は、この発明のさらに他の実施形態を示す。この例は、電気自動車が、前輪である左右の車輪3A,3Aと後輪である駆動輪2,2がいずれも駆動輪とされた4輪駆動である。ECU11は、1台であるが、インバータ装置12は、後輪用のものと前輪用のものとの2台が設けられている。インバータ装置12は、前輪および後輪の車輪に対して設けて合計4台としても良い。前輪である左右の車輪3A,3Bを駆動するモータ5についても、前記と同様のインホイールモータ駆動装置4を構成している。
【0043】
この実施形態では、前記いずれの制御を行う手段(平均速度制御手段22、速度差制限手段23、平均速度対応・速度差制限手段24、トルク差制限手段25、トルク制限手段26、および一時的速度制限手段27)においても、前輪同士、および後輪同士の間で、これら各手段22〜27による前記の制御を行う。この場合も、前記と同様の速度制御による各効果が得られる。なお、前記各手段22〜27は、前輪用と後輪用とに2個づつ設けても良く、また1個で前輪の制御と後輪の制御とを時分割等で行うようにしても良い。 この場合も、前記と同様の速度制御による前記各効果が得られる。なお、この実施形態において、特に説明した事項の他は、図1に示した第1の実施形態と同様である。
【0044】
なお、前記各実施形態では、インホイールモータ駆動装置4を搭載した電気自動車に適用した場合につき説明したが、この発明は、インホイールモータ車に限らず、左右の駆動輪を個別に駆動するモータを搭載した電気自動車一般に適用できる。例えば、モータ5が車台に設置されて駆動シャフトや等速ジョイント等の伝達部品を介してモータ5の回転を車輪に伝達する自動車にも適用できる。また、この発明の速度制御装置を適用する電気自動車は、モータとエンジンとを搭載したハイブリッド車においても、モータ駆動で走行する場合に適用することができる。
【符号の説明】
【0045】
1…車体
2…駆動輪
3…従動輪
4…インホイールモータ駆動装置
11…ECU
12…インバータ装置
15…インバータ
21…指示速度生成手段
22…平均速度制御手段
23…速度差制限手段
24…平均速度対応・速度差制限手段
25…トルク差制限手段
26…トルク制限手段
27…一時的速度制限手段
29…インバータ間通信手段
図1
図2
図3