(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、上記熱電対は例えば熔解槽内において高温にさらされるため、比較的に短時間に劣化し、正確な温度を測定できないことがある。また、ガラス原料を熔解させる装置の構造上、熱電対の設置が可能な箇所が制限されるため、熱電対により温度を測定することができる箇所は限られる。
また、上述したように、FPD用ガラス基板では、高温粘性を低下させるアルカリ金属成分を全く含有しないか、含有しても微量であるガラスが用いられるため、熔融ガラスの粘性を従来と同程度に維持するためには、必然的に熔融ガラスの温度を高くすることが必要となっている。このように、熔解槽における熔融ガラスの熔解温度を従来に比べて高くするので、熱電対が劣化しやすく、正確な温度を取得できないという問題がある。
また、熔解槽における熔融ガラスの熔解温度を従来に比べて高くするので、熔融ガラスを通電加熱して効率よく高温にすることが望まれる。
【0009】
また、FPD用ガラス基板には、TFT(Thin Film Transistor)等の半導体素子が、ガラス板上に形成される。近年、ディスプレイ表示のさらなる高精細化を実現するために、従来から用いられてきたα-Si・TFTに代わって、p-Si(低温ポリシリコン)・TFTや酸化物半導体をガラス基板に形成することが求められている。p-Si(低温ポリシリコン)・TFTは、例えば、液晶表示装置や有機EL表示装置に使用されている。
p-Si・TFTや酸化物半導体の形成工程では、α−Si・TFTの形成工程よりも高温な熱処理工程が存在する。そのため、p−Si(低温ポリシリコン)TFTや酸化物半導体が形成されるガラス基板には、熱収縮率が小さいことが求められている。熱収縮率を小さくするためには、ガラスの歪点を高くすることが好ましいが、歪点が高いガラスは、一般的に、溶融性が低下するため、熔解槽における熔融ガラスの温度は従来に比べてより一層高くすることが必要となっている。
このように、熔解槽における熔融ガラスの熔解温度を従来に比べて高くするので、熱電対が劣化しやすく、正確な温度を取得できないという問題がある。
熔解槽における熔融ガラスの熔解温度を従来に比べて高くするので、熔融ガラスを通電加熱して効率よく高温にするためには、電極に供給する電力も効率良く用いられることが望まれる。
【0010】
さらに、ガラス原料が、熔解槽を覆うハウジングの一方の縁に設けられた原料投入口からスクリューフィーダを用いて投入される場合、ガラス原料は、原料投入口側の熔融ガラスの液面上に浮遊して留まり、液面を原料投入側と反対の側に向かって流れ難い。ガラス原料を脈理が生じないように確実に熔解するためには、熔解槽において液面に浮遊するガラス原料を完全に熔解し、熔融ガラスの成分を均質化することが望ましい。このため、原料投入口側の位置、原料投入側と反対側の位置等の熔解槽の位置によって電極に供給する電力を変えることが好ましい。すなわち、熔融ガラスの温度が、均質な熔融ガラスを生成するための目標温度に近づくように、現在の熔融ガラスの状態を調べて電極の対毎に与えるべき電力の量を精度良く定めることが望ましい。
【0011】
そこで、本発明は、ガラス原料を熔解するとき、熔融ガラスを均質化し、かつ、熔融ガラスを効率よく通電加熱することができるガラス基板の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一態様は、ガラス基板の製造方法である。当該製造方法は、ガラスの原料を熔解して熔融ガラスを生成する熔解工程を含む。
前記熔解工程は、
熔融ガラスの流れ方向の異なる位置に、前記熔融ガラスの流れに対して横切る方向に複数対の電極を互いに対向して配置し、前記複数対の電極のそれぞれの間に位置する熔融ガラスに対して、前記電極間毎に電圧を印加することにより、電流を流してジュール熱を発生させる工程と、
前記複数対の電極毎に、熔融ガラスに流れる電流の値を測定するとともに、前記複数対の電極毎に、測定された前記電流が流れる熔融ガラスの領域の断面積を前記電圧の値に応じて設定して、前記電流の値と、前記電圧の値と、設定した熔融ガラスの前記断面積とを用いて、前記領域毎に前記熔融ガラスの比抵抗を算出する工程と、
前記複数対の電極毎に、前記算出した比抵抗に基づいて、前記電圧を制御することにより前記ジュール熱を制御する工程と、を含み、
前記断面積は、
前記電極間毎に印加する前記電圧の値によって変化するものであって、前記電極間毎に印加する前記電圧の値の、複数対の電極間に印加される全電圧の合計値に対する比率
に比例した値に設定される。
さらに、以下のガラス基板の製造方法であってもよい。
すなわち、ガラス基板の製造方法は、ガラスの原料を熔解して熔融ガラスを生成する熔解工程を含み、
前記熔解工程は、
熔融ガラスの流れ方向の異なる位置に、前記熔融ガラスの流れに対して横切る方向に複数対の電極を互いに対向して配置し、前記複数対の電極のそれぞれの間に位置する熔融ガラスに対して、前記電極間毎に電圧を印加することにより、電流を流してジュール熱を発生させる工程と、
前記複数対の電極毎に、熔融ガラスに流れる電流の値を測定するとともに、前記複数対の電極毎に、測定された前記電流が流れる熔融ガラスの領域の断面積を前記電圧の値に応じて設定して、前記電流の値と、前記電圧の値と、設定した熔融ガラスの前記断面積とを用いて、前記領域毎に前記熔融ガラスの比抵抗を算出する工程と、
前記複数対の電極毎に、前記算出した比抵抗に基づいて、前記ジュール熱を制御する工程と、を含
み、
前記断面積は、前記電極間毎に印加する前記電圧の値によって変化するものであって、前記電極間毎に印加する前記電圧の値の、複数対の電極間に印加される全電圧の合計値に対する比率に比例した値に設定される。
【0013】
さらに、各電極に印加される電圧を用いて、簡単な計算により、前記断面積、さらには、前記比抵抗を算出することができる。
【0014】
また、前記熔解工程は、前記熔融ガラスの温度と前記熔融ガラスの比抵抗との相関関係を得る予備工程を有し、
前記ジュール熱を制御する工程は、
前記相関関係と、前記算出した比抵抗とに基づいて前記熔融ガラスの温度を算出する工程と、
前記算出した温度と前記熔融ガラスに予め設定された目標温度とを比較した結果に基づいて、前記熔融ガラスに発生させるジュール熱を制御する工程と、を含むこともできる。
前記相関関係と、前記算出した比抵抗とに基づいて前記熔融ガラスの温度を算出し、算出した温度と目標温度との比較結果に応じて前記熔融ガラスに発生させるジュール熱を制御することができるので、熔融ガラスの通電加熱により熔融ガラスの温度を目標温度に近づくようにあるいは目標温度近傍に維持するように容易に制御することができる。
【0015】
さらに、前記ジュール熱を制御する工程は、
前記算出した温度を前記目標温度に維持するように前記熔融ガラスにジュール熱を発生させるべき目標電流値を設定する工程と、
前記電流を前記目標電流値に維持するように、前記電圧を制御する工程と、を含むこともできる。
前記算出した温度を前記目標温度に維持するように前記熔融ガラスにジュール熱を発生させる電流を求め、この電流を目標電流値に設定する他、前記電流を前記目標電流値に維持するように、前記電圧を制御するので、熔融ガラスの通電加熱により熔融ガラスの温度を目標温度に維持することが容易にできる。
【0016】
前記予備工程において、
前記温度をTとし、前記比抵抗をρとし、前記相関関係を表す式:
T(℃)=a/(log(ρ)+b)−273.15
における定数a及びbを求め、
前記温度を算出する工程において、
前記式に前記比抵抗ρを代入して前記温度Tを算出することが好ましい。
前記式を用いて、前記温度を容易に算出することができる。
【0017】
また、前記比抵抗を算出する工程において、
前記電流値をIとし、前記電圧をEとし、前記電流が流れる前記熔融ガラスの前記領域の断面積をSとし、前記一対の電極の間の距離Lとし、前記比抵抗をρとして、これらの関係を表す式: ρ=E/I×S/L …(2)
に基づいて、前記比抵抗ρを算出することが好ましい。
【0018】
前記ガラス基板は、例えばフラットパネルディスプレイ用のガラス基板である。フラットパネルには、高温粘性の高いガラスが用いられるので熔融ガラスの温度は高く設定される。この場合においても、比抵抗は精度高く算出することができるので、熔解槽内の熔融ガラスを均質化するように通電加熱することができ、さらに、熔融ガラスを効率よく通電加熱することができる。
【0019】
前記ガラス基板は、例えば、無アルカリガラスまたは、アルカリ微量含有ガラスである。無アルカリガラスまたは、アルカリ微量含有ガラスは、高温粘性を低下させるため、熔融ガラスの粘性を従来と同程度に維持するためには、必然的に熔融ガラスの温度は高く設定される。この場合においても、熔解槽中の熔融ガラスの比抵抗は精度高く算出することができるので、熔解槽内の熔融ガラスを均質化するように通電加熱することができ、さらに、熔融ガラスを効率よく通電加熱することができる。
【0020】
前記熔融ガラスの歪点は例えば655℃以上である。歪点が655℃以上の熔融ガラスの場合、溶融性が低い。このため、熔解槽における熔融ガラスの温度は従来に比べてより一層高く設定される。この場合においても、熔解槽中の熔融ガラスの比抵抗は精度高く算出することができるので、熔解槽内の熔融ガラスを均質化するように通電加熱することができ、さらに、熔融ガラスを効率よく通電加熱することができる。
【0021】
また、本発明の一態様は、熔融ガラスを生成する熔解槽を有するガラス基板の製造装置である。当該製造装置は、投入されたガラス原料を熔解して熔融ガラスをつくる熔解装置を含む。
前記熔解装置は、
前記熔解槽の熔融ガラスと接する壁面に設けられ、熔融ガラスの流れ方向の異なる位置に、前記熔融ガラスの流れに対して横切る方向に互いに対向して配置した、熔融ガラスと接する複数対の電極と、
前記複数対の電極間毎の間に電圧を印加し、前記熔融ガラスに電流を流してジュール熱を発生させる電力を制御する制御ユニットと、
前記複数対の電極毎に熔融ガラスに流れる電流の値と前記電圧の値の情報を取得するとともに、前記電流が流れる熔融ガラスの領域の断面積を、前記複数対の電極毎に、前記電圧の値に応じて設定して、前記電流の値と、前記電圧の値と、設定した熔融ガラスの前記断面積とを用いて前記熔融ガラスの比抵抗を算出し、前記算出した比抵抗に基づいて、前記ジュール熱の制御量を決定する演算ユニットと、を有する。
前記ジュール熱の制御は、前記複数対の電極間それぞれに印加する電圧の制御によって行な
い、
前記断面積は、前記電極間毎に印加する前記電圧の値によって変化するものであって、
前記演算ユニットは、前記断面積の値を、前記電極間毎に印加する前記電圧の値の、複数対の電極間に印加される全電圧の合計値に対する比率に比例した値に設定する。
当該製造装置の前記演算ユニットでは、前記電流が流れる熔融ガラスの領域の断面積を前記電圧に応じて設定して、前記電流の値と、前記電圧の値と、設定した熔融ガラスの前記断面積とを用いて前記熔融ガラスの比抵抗を算出するので、精度の高い比抵抗を算出することができる。この結果、熔解槽内の熔融ガラスを均質化するように通電加熱することができ、さらに、熔融ガラスを効率よく通電加熱することができる。
【発明の効果】
【0022】
上述の態様のガラス基板の製造方法板によれば、熔融ガラスを均質化し、かつ、熔融ガラスを効率よく通電加熱することができる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本実施形態のガラス基板の製造方法及び製造装置について説明する。
図1は、本発明のガラス基板の製造方法の工程の一例を示す図である。
【0025】
ガラス基板の製造方法は、熔解工程(ST1)と、清澄工程(ST2)と、均質化工程(ST3)と、供給工程(ST4)と、成形工程(ST5)と、徐冷工程(ST6)と、切断工程(ST7)と、を主に有する。この他に、研削工程、研磨工程、洗浄工程、検査工程、梱包工程等を有し、梱包工程で積層された複数のガラス基板は、納入先の業者に搬送される。
【0026】
熔解工程(ST1)は熔解槽で行われる。熔解工程では、熔解槽に蓄えられた熔融ガラスの液面にガラス原料を投入することにより熔融ガラスを作る。さらに、熔解槽の内壁のうち、平面視で長方形の熔解槽の長手方向に向いて互いに対向する内壁の一方の底部(熔解槽の底面に近い領域)に設けられた流出口から後工程に向けて熔融ガラスを流す。
【0027】
ここで、熔融ガラスは、ガラス原料が熔解槽の原料投入口近傍の熔解槽に投入されて作られる。熔解槽中の熔融ガラスは熔解槽において電極を用いて通電加熱されることにより加熱制御される。具体的には、熔解槽の底部に位置する熔融ガラスの温度が原料投入側から流出口の側に向かう程上昇するように、さらに、熔解槽の熔融ガラスの底部における最高温度が、ガラス原料の投入される位置における熔融ガラスの表層の温度に対して高くなるように、熔融ガラスは熔解槽において加熱制御される。これにより、流出口の側において、流出口から下流工程に熔融ガラスを流すとともに、下記に述べる熔融ガラスの循環する対流を作る。すなわち、上記流出口から流れなかった熔融ガラスの一部が熔解槽の側壁に沿って液面に向かって上昇し、液面に上昇した熔融ガラスの一部がさらに液面に沿って原料投入側の熔解槽の側壁に向かって流れ、原料投入側の熔解槽の側壁に沿って液面から下降し、さらに底面に沿って原料投入側から排出口の側に向かって流れる。
【0028】
ここで、ガラス原料の投入方法は、ガラス原料を収めたバケットを反転して熔融ガラスにガラス原料を投入する方式、ベルトコンベアを用いてガラス原料を搬送して投入する方式、あるいはスクリューフィーダによりガラス原料を投入する方式でもよい。また、熔融ガラスの表層とは、液面から熔解槽の底部に向かった深さの10%以下の範囲内の液面を含む領域をいい、熔融ガラスの下層とは、表層以外の領域をいう。また、流出口が設けられる底部とは、上記下層の一部であって、底面に近い領域をいう。好ましくは、熔解槽の深さ方向において底面からの深さが、液面と熔解槽の底面との間の深さの1/2以下である領域をいう。
【0029】
熔解槽の熔融ガラスは、熔融ガラス自身に電気が流れて自ら発熱することで昇温する。この通電による熔融ガラスの加熱のほかに、バーナーによる火焔を補助的に与えてガラス原料を熔解することもできる。なお、ガラス原料には清澄剤が添加される。清澄剤については、環境負荷低減の点から、SnO
2(酸化錫)が好適に用いられる。
【0030】
清澄工程(ST2)は、少なくとも清澄槽の内部で行われる。清澄槽は、例えば、白金又は白金合金から構成される。清澄工程では、清澄槽内の熔融ガラスが昇温される。この過程で、清澄剤は、還元反応により酸素を放出し、後に還元剤として作用する物質となる。熔融ガラス中に含まれるO
2、CO
2あるいはSO
2を含んだ泡は、清澄剤の還元反応により生じたO
2を吸収して成長し、熔融ガラスの液面に浮上して破泡して消滅する。泡に含まれたガスは、清澄槽に設けられた気相空間を通して外気に放出される。
【0031】
その後、清澄工程では、熔融ガラスの温度を低下させる。この過程で、清澄剤の還元反応により得られた還元剤が酸化反応をする。これにより、熔融ガラスに残存する泡中のO
2等のガス成分が熔融ガラス中に再吸収されて、泡が消滅する。
【0032】
清澄剤による酸化反応及び還元反応は、熔融ガラスの温度を制御することにより行われる。なお、清澄剤として酸化錫などが用いられる。また、清澄工程は、減圧雰囲気を清澄槽につくり、熔融ガラスに存在する泡を減圧雰囲気で成長させて脱泡させる減圧脱泡方式を用いることもできる。
【0033】
均質化工程(ST3)では、清澄槽から延びる配管を通って供給された攪拌槽内の熔融ガラスを、スターラを用いて攪拌することにより、ガラス成分の均質化を行う。これにより、脈理等の原因であるガラスの組成ムラを低減することができる。なお、攪拌槽は1つ設けても、2つ設けてもよい。
供給工程(ST4)では、攪拌槽から延びる配管を通して熔融ガラスが成形装置に供給される。
【0034】
成形装置では、成形工程(ST5)及び徐冷工程(ST6)が行われる。
成形工程(ST5)では、熔融ガラスをシートガラスに成形し、シートガラスの流れを作る。成形は、オーバーフローダウンドロー法あるいはフロート法を用いることができる。後述する本実施形態では、オーバダウンロード法が用いられる。
徐冷工程(ST6)では、成形されて流れるシートガラスが所望の厚さになり、内部歪が生じないように、さらに、反りが生じないように冷却される。
【0035】
切断工程(ST7)では、切断装置において、成形装置から供給されたシートガラスを所定の長さに切断することで、板状のガラス板を得る。切断されたガラス板はさらに、所定のサイズに切断され、目標サイズのガラス基板が作られる。この後、ガラス基板の端面の研削、研磨が行われ、ガラス基板の洗浄が行われ、さらに、気泡やキズ等の異常欠陥の有無が検査された後、検査合格品のガラス板が最終製品として梱包される。
【0036】
図2は、本実施形態における熔解工程(ST1)〜切断工程(ST7)を行う装置の一例を模式的に示す図である。当該装置は、
図2に示すように、主に熔解装置100と、成形装置200と、切断装置300と、を有する。熔解装置100は、熔解槽101と、清澄槽102と、攪拌槽103と、ガラス供給管104,105,106と、を有する。
【0037】
図2に示す例の熔解装置101では、ガラス原料の投入がスクリューフィーダ101dを用いて行われる。清澄槽102では、熔融ガラスMGの温度を調整して、清澄剤の酸化還元反応を利用して熔融ガラスMGの清澄が行われる。さらに、攪拌槽103では、スターラ103aによって熔融ガラスMGが攪拌されて均質化される。成形装置200では、成形体210を用いたオーバーフローダウンドロー法により、熔融ガラスMGからシートガラスSGが成形される。
【0038】
図3は、本実施形態の熔解槽101の概略構成を説明する斜視図である。
本実施形態において、熔解槽101は後述する
図7に示すような熔融ガラスの対流を形成するように設計されている。ガラス原料は、熔解槽101に蓄えられた熔融ガラスMGの液面のうち原料投入側の部分に投入される。平面視で長方形の熔解槽101の長手方向において対向する一対の内壁のうちの一方の内壁の底部に、流出口104aが設けられている。熔解槽101は、流出口104aから後工程に向けて熔融ガラスMGを流す。
【0039】
熔解槽101は、耐火レンガ等の耐火物により構成された内壁110を有する。熔解槽101は、内壁110で囲まれた内部空間を有する。熔解槽101の内部空間は、液槽101aと、上部空間101bとに分けられる。液槽101aは、内部空間に投入されたガラス原料が熔解してできた熔融ガラスMGを加熱しながら収容する。上部空間101bは、熔融ガラスMGの上に形成され、ガラス原料が投入される気相である。
【0040】
熔解槽101の長手方向に平行な上部空間101bの内壁110には、燃料と酸素等を混合した燃焼ガスが燃焼して火炎を発するバーナー112が設けられる。ガラス原料は、バーナー112の火炎からの輻射熱および(バーナー112の火炎からの輻射熱によって高温になった)上部空間101bの内壁(耐火物レンガ)からの輻射熱により、加熱される。
【0041】
熔解槽101の流出口104aが設けられた内壁110と反対側の内壁110には、上部空間101bに通じる原料投入窓101fが設けられている。この原料投入窓101fを通して、原料投入窓101fには、スクリューフィーダ101dの先端が接続され、スクリューフィーダ101dに充填されたガラス原料によって熔解槽101の上部空間101bが閉じられている。
スクリューフィーダ101dは、コンピュータ118からの指示に従ってガラス原料を投入する。すなわち、コンピュータ118は、制御ユニット116を通してスクリューフィーダ101dを作動させる。したがって、熔解槽101内部では、熔融ガラスMGの液面のうち原料投入窓101f近傍の部分にガラス原料が浮遊している。
【0042】
本実施形態では、ガラス原料がスクリューフィーダ101fを用いて原料投入窓101f近傍の熔融ガラスMGの液面上に投入されるが、バケット式のガラス原料投入機構を用いて、ガラス原料を、原料投入窓101f近傍の熔融ガラスMGの液面上に投入してもよい。
【0043】
熔解槽101の長手方向に延び、互いに対向する液槽101aの内壁110a,110bに、耐熱性を有する酸化錫、モリブデンあるいは白金等の導電性材料で構成され、互いに対向する一対の電極114が、三対設けられている。特に、酸化錫は、熔融ガラスMGと接触して溶出しても、多量でない場合、ガラスの品質欠陥とならないため、電極114として好適に用いることができる。また、清澄剤として機能するという点でも、電極114として好適に用いることができる。
本実施形態において、熔解槽101は三対の電極114を備えているが、熔解槽の大きさによっては二対の電極114を用いてもよい。また、四対以上の電極114を用いてもよい。
【0044】
三対の電極114は、内壁110a,110bのうち、熔融ガラスMGの下層に対応する領域に設けられている。三対の電極114はいずれも内壁110a,110bの外側から内側まで、内壁110a,110bを貫通して延びている。
図3において、各対の電極114は、手前側の電極114が図示され、奥側の電極114は図示されていない。各対の電極114は、各対の電極114間に位置する熔融ガラスMGを挟んでお互いに対向するように、内側壁110a,110bに設けられている。
【0045】
各対の電極114は、各対の電極114間に電圧を印加することにより、各対の電極114間に位置する熔融ガラスMGに電流を流す。熔融ガラスMGに電流を流すことで、熔融ガラスMGにジュール熱を発生させ、熔融ガラスMGを通電加熱する。熔解槽101では、熔融ガラスMGは例えば1500℃以上に加熱される。加熱された熔融ガラスMGは、ガラス供給管104を通して清澄槽102へ送られる。
【0046】
図3に示す熔解槽101では、バーナー112が上部空間101bに設けられているが、バーナー112は必須ではない。例えば、1500℃における比抵抗が180Ω・cm以上の、比抵抗が比較的大きい熔融ガラスにおいて、バーナー112を補助的に用いることで、ガラス原料を効率よく熔解させることができる。ガラス原料を連続的に熔解させて熔融ガラスMGを作るときには、バーナー112を用いることなくガラス原料を熔解させることも可能である。
【0047】
各対の電極114は、それぞれ制御ユニット116に接続されている。下層における熔融ガラスMGの温度分布を所定の分布にするために、制御ユニット116は、電極114のそれぞれに供給する電力を、対向する一対の電極114毎に制御できるように構成されている。各対の電極114には、制御ユニット116によって交流電圧が加えられる。
【0048】
制御ユニット116は、さらにコンピュータ118と接続されている。制御ユニット116は、各対の電極114間の熔融ガラスMGにかかる電圧の大きさと、各対の電極114間の熔融ガラスMGに流れる電流の値とを測定する。熔融ガラスMGに流れる電流の値は、電極114のシステムにおける力率や熔解槽101の壁(耐火レンガ)に流れる電流を考慮して定められる。つまり、溶融ガラスMGに流れる電流の測定とは、電流計等により直接計測される、電極114に流れる計測電流から、力率による無効電流および熔解槽101の壁に流れる電流を差し引いた値を求めることをいう。力率による無効電流は、あらかじめ測定しておく。熔解槽101の壁に流れる電流は、例えば、シミュレーション等により定められる。制御ユニット116は、測定した電圧と電流の値の情報を出力する。コンピュータ118は、制御ユニット116から出力されたこれらの情報を受け取る。コンピュータ118は、この電圧と電流の値の情報から、各対の電極114間の熔融ガラスMGの比抵抗を算出する。
本実施形態では、精度の高い比抵抗の算出を行うために、計測電流から、力率による無効電流および熔解槽101の壁に流れる電流を差し引いた値を求めるが、求める比抵抗の精度に応じて、力率による無効電流および/あるいは熔解槽101の壁に流れる電流を0としてもよい。すなわち、熔融ガラスMGに流れる電流の測定は、求める比抵抗の精度に応じて、計測電流から力率による無効電流を差し引くことにより、あるいは計測電流から熔解槽101の壁に流れる電流を差し引くことにより求められる。あるいは、さらに、計測電流そのものを、熔融ガラスMGに流れる電流として用いることもできる。
【0049】
コンピュータ118は、例えば、以下の式(1)に基づいて、各対の電極114間の熔融ガラスMGの比抵抗ρ(Ω・m)を算出する。
【0051】
式(1)において、Eは各対の電極114間の熔融ガラスMGにかかる電圧(V)、Iは、各対の電極114間の熔融ガラスMGに流れる電流(A)、Sは各対の電極114間において電流が流れる熔融ガラスMGの断面積(m
2)、Lは各対の電極114の間の距離(m)である。長さLは、熔解槽101によって定まる固有の値である。
【0052】
図4(a),(b)は、各対の電極114間において電流が流れる熔融ガラスMGの断面積Sを求める方法を説明する平面図である。
図4(a),(b)に示すように、各対の電極114は、熔融ガラスMGの両側に配置された内壁110a,110bに、熔融ガラスMGの流れ方向Fを横切るように、互いに対向して配置されている。また、対向する三対の電極114は、熔融ガラスMGの流れ方向Fに互いに一定の間隔をあけて配置されている。流れ方向Fは、熔解槽101における熔融ガラスMGの全体としての、熔解槽101の底部において上流から下流へ向かう流れの方向を便宜的に示すものであり、内壁110a、110bと平行で原料投入口側(
図4(a),(b)中の左側)から流出口104aの側(
図4(a),(b)中の右側)に向かう方向である。また、流れ方向Fは熔解槽101の長手方向に沿う方向でもある。
【0053】
コンピュータ118は、対向する一対の電極114ごとに電流が流れる熔融ガラスMGの領域EAを設定する。通電領域EAの境界mは、電極114に印加する電圧によって変化する。すなわち、ある電極114に印加する電圧を大きくするが、他の電極114に印加する電圧を一定に維持した場合、印加する電圧を大きくした電極114から熔融ガラスMGに流れる電流の領域EAは大きくなる。逆に、印加する電圧が小さくした場合領域EAは小さくなるように設定する。言い換えると、コンピュータ118は、領域EAの断面積Sを印加する電圧に応じて設定する。このように、領域EAの断面積を印加する電圧に応じて定めるのは、電極114に印加する電圧によって熔融ガラスMGを流れる電流の領域EAの断面積Sが変化し、この断面積Sが、上記式(1)に示すように算出しようとする熔融ガラスMGの比抵抗ρに影響を与えるからである。
【0054】
したがって、本実施形態のように、3対の電極114にそれぞれ
図4(a)中の原料投入口の側から順番に電圧V
1,V
2,V
3を印加するとしたとき、各電極114から熔融ガラスMGに流れる電流の領域EAの断面積Sはそれぞれ、下記式(2)のように定めることができる。領域EA
i(i=1〜3の自然数)の断面積S
iは、電圧V
iを印加した電極から熔融ガラスMGに流れる電流の断面積である。
領域EA
iの断面積S
i
=F(V
i)/{F(V
1)+F(V
2)+F(V
3)}×(W×D) ・・・(2)
ここで、Wは、
図4(a)に示すように、熔解槽101の熔融ガラスMGが貯留される槽の流れ方向Fに平行な長さであり、Dは、
図4(b)に示すように、熔解槽101の熔融ガラスMGの深さである。また、F(V)は、電圧Vの関数であり、電圧が大きくなるほどF(V)の値が大きくなる関数である。例えば、F(V)は、電圧Vの1次関数、あるいは2次関数等である。
図4(a),(b)では、断面積S
1,断面積S
2,断面積S
3がいずれも同じ程度に記されているが、電圧V
1,V
2,V
3によって変化する。
ここで、上記式(2)において、F(V)を単純化して、例えばF(V)=Vとすることができる。この場合、断面積S
iは、一対の電極間毎に印加する電圧V
iの値の、複数対の電極間に印加される全電圧の合計値V
1+V
2+V
3に対する比率に応じて、断面積S
iが設定される。
このように、熔融ガラスMGの電流が流れる領域EA
iの断面積S
iは、電圧V
1,V
2,V
3に応じて設定される。求めた断面積S
iを用いて上記式(1)により各対の電極114間の熔融ガラスMGの比抵抗ρを求めることができる。
【0055】
コンピュータ118は、上記の方法によって求めた熔融ガラスMGの比抵抗ρに基づいて、各対の電極114に対応する各領域EA
iの熔融ガラスMGに発生させるジュール熱を制御することができる。
【0056】
(通電加熱の制御方法1)
図5は、熔融ガラスMGの比抵抗ρに基づいて、熔融ガラスMGに発生させるジュール熱をコンピュータ118が制御する工程の一例を説明する図である。
【0057】
図5に示すサンプリング(ST11)では、
図4(a),(b)に示す各対の電極114に対応する各領域EAの電極114間の熔融ガラスMGにかかる電圧Eの情報と、各電極114に流れる計測電流の情報が、制御ユニット116からコンピュータ118に送られる。コンピュータ118は、送られてきた電流から、力率による無効電流および熔解槽101の壁に流れる電流を差し引いた値を熔融ガラスMGを流れる電流Iとして求める。制御ユニット116から送られた各領域EAの電圧Eの情報と求めた電流Iの情報を保存する。コンピュータ118には、予め、各領域EAにおける、電極114間の距離L,W,Dおよび、後述する熔融ガラスMGの比抵抗の目標値を保存しておく。
【0058】
図5に示す比抵抗の算出(ST12)では、コンピュータ118は、保存した各領域EAの電圧E、電流I、断面積Sおよび距離L,W,Dの情報と、上記の式(1),(2)とに基づいて、各領域EAにおける熔融ガラスMGの比抵抗ρを算出する。具体的には、式(2)に従って各断面積S
iを算出し、この断面積S
iを用いて式(1)に従って比抵抗ρを算出する。
【0059】
なお、予め、熔解槽101の熔融ガラスMGが所望の熔解状態にあるときの各領域EA
iの比抵抗ρを算出しておき、その値を比抵抗ρの目標値としてコンピュータ118に保存しておくことができる。比抵抗ρの目標値を決定する段階では、例えば従来のように熱電対などの温度測定手段を用いて熔融ガラスMGの所望の熔解状態を作り出し、その状態で上記のようにコンピュータ118により比抵抗ρを算出しても良い。また、予め、熔融ガラスMGから製造したガラス基板を採取して坩堝などで熔解させ、目標とする粘度および温度の熔解ガラスMGに対応する比抵抗を求めて、比抵抗ρの目標値としても良い。
【0060】
図5に示す比抵抗の比較(ST13)では、コンピュータ118は、各領域EA
iの比抵抗ρの目標値と、算出した各領域EA
iの比抵抗ρとを比較する。
図5に示す制御量の決定(ST14)では、コンピュータ118は、上記の比抵抗の比較(ST13)の結果に基づいて、制御ユニット116に送る制御量を決定する。
【0061】
具体的には、ある領域EA
iにおいて、算出した比抵抗ρが目標値よりも大きいか又は許容できる範囲よりも大きい場合には、コンピュータ118はその領域EA
iにおいて熔融ガラスMGに発生させるジュール熱を、所定の量、減少させる指示を出す。
ある領域EA
iにおいて、算出した比抵抗ρが目標値と等しいか又は許容できる範囲内である場合には、コンピュータ118はその領域EAにおいて熔融ガラスMGに発生させるジュール熱を維持する指示を出す。
ある領域EA
iにおいて、算出した比抵抗ρが目標値よりも小さいか又は許容できる範囲よりも小さい場合には、コンピュータ118はその領域EA
iにおいて熔融ガラスMGに発生させるジュール熱を、所定の量、増加させる指示を出す。
【0062】
図5に示すジュール熱の制御(ST15)では、制御ユニット116は、コンピュータ118から送られた制御量の指示に基づいて、各領域EA
iの熔融ガラスMGに発生させるジュール熱を制御する。
【0063】
具体的には、制御ユニット116は、ある領域EA
iの熔融ガラスMGに発生させるジュール熱を減少させる指示を受けた場合には、その領域EA
iに対応する一対の電極114間の熔融ガラスMGに流れる電流の値が、元の値よりも所定の値だけ小さい一定の値になるように熔融ガラスMGに流れるべき目標電流値を設定する。
制御ユニット116は、ある領域EA
iの熔融ガラスMGに発生させるジュール熱を維持する指示を受けた場合には、その領域EA
iに対応する一対の電極114間の熔融ガラスMGに流れる電流の値または元の目標値を、目標電流値に設定する。
制御ユニット116は、ある領域EA
iの熔融ガラスMGに発生させるジュール熱を増加させる指示を受けた場合には、その領域EA
iに対応する一対の電極114間の熔融ガラスMGに流れる電流の値が、元の値よりも所定の値だけ大きい一定の値になるように、目標電流値を設定する。
制御ユニット116は、さらに、熔融ガラスMGに流れる電流の値を目標電流値に維持するように、各対の電極114間の熔融ガラスMGにかかる電圧を制御する。
【0064】
上記の制御により、従来の熱電対等の温度測定手段を用いることなく、各領域EA
iの熔融ガラスMGの粘度および温度を所望の状態に維持して、熔解槽101の熔融ガラスMGの対流および熔解の状態を所望の状態に維持することができる。
このように、複数対の電極114毎に、電流が流れる熔融ガラスMGの領域EA
iの断面積S
iを電圧に応じて設定して、電流の値と、電圧の値と、設定した熔融ガラスMGの断面積S
iとを用いて領域EA
i毎に熔融ガラスの比抵抗ρを算出するので、精度の良い比抵抗ρを領域EA毎に算出することができる。この結果、熔解槽101内の熔融ガラスMGを均質化するように通電加熱することができ、さらに、熔融ガラスMGを効率よく通電加熱することができる。
【0065】
(通電加熱の制御方法2)
次に、上記の算出した比抵抗ρに基づいて各領域EAの熔融ガラスMGに発生させるジュール熱を制御する方法のひとつとして、算出した各領域EA
iの比抵抗ρからさらに各領域EA
iの熔融ガラスMGの温度を算出する方法について説明する。
図6は、算出した比抵抗ρから熔融ガラスMGの温度を求めて、各領域EA
iの熔融ガラスに発生させるジュール熱を制御する工程を説明する図である。
【0066】
この方法では、まず、予備工程(ST21)として、予め、熔解槽101でつくる熔融ガラスMGと同じ成分の熔融ガラスの温度と比抵抗との関係を求め、コンピュータ118に記録しておく。熔融ガラスMGの温度と比抵抗との関係を求める段階では、熔解槽101において、例えば従来のように熱電対などの温度測定手段を用いて熔融ガラスMGの温度を測定しても良い。その上で、上記のようにコンピュータ118により比抵抗ρを算出することで、熔融ガラスMGの温度と比抵抗との関係を求めることができる。また、予め、熔解ガラスMGから製造したガラス基板を採取して坩堝などで熔解させ、その際の熔融ガラスMGの温度と比抵抗とを測定することで、これらの相関関係を得ても良い。
【0067】
熔融ガラスMGの温度は、例えば、G(ρ)のように、比抵抗ρの関数として表すことができる。すなわち、熔融ガラスMGの比抵抗ρと熔融ガラスMGの温度T(℃)とは、下記の式(3)により表される相関関係を有している。
【0068】
T(℃)=G(ρ)= a/(log(ρ)+b)−273.15 ・・・(3)
【0069】
式(3)において、aおよびbはガラス組成に依存する定数である。
予備工程(ST21)により、上記定数aおよびbの値が特定される。上記定数aおよびbの値は、上記の式(3)と共にコンピュータ118に保存される。また、予備工程(ST21)においては、予め、各領域EA
iの熔融ガラスMGの目標温度を設定し、その値をコンピュータ118に保存しておく。例えば、予め、熔解槽101の熔融ガラスMGが所望の熔解状態にあるときの各領域EA
iの温度Tを算出しておき、その値を温度Tの目標温度としてコンピュータ118に保存しておくことができる。温度Tの目標温度を設定する段階では、例えば従来のように熱電対などの温度測定手段を用いて熔融ガラスMGに所望の熔解状態を作り出し、その状態で上記のようにコンピュータ118により温度Tを算出してもよい。
【0070】
図6に示すサンプリング(ST22)および比抵抗の算出(ST23)は、
図5に示すサンプリング(ST11)および比抵抗の算出(ST12)と同様であるので、説明は省略する。
図6に示す温度の算出(ST24)では、コンピュータ118は、算出した各領域EA
iの比抵抗ρと、予め保存しておいた定数aおよびbと、上記式(3)とに基づいて、各領域EA
iにおける熔融ガラスMGの温度Tを算出する。
【0071】
図6に示す温度の比較(ST25)では、コンピュータ118は、保存した各領域EA
iの温度Tの目標値と、算出した各領域EA
iの温度Tとを比較する。
図6に示す制御量の決定(ST26)では、上記の温度の比較(ST25)の結果に基づいて、制御ユニット116に送る制御量を決定する。
【0072】
具体的には、ある領域EA
iにおいて、算出した温度Tが目標値よりも高いか又は許容できる範囲よりも高い場合には、コンピュータ118はその領域EA
iにおいて熔融ガラスMGに発生させるジュール熱を、所定の量、減少させる指示を出す。
ある領域EA
iにおいて、算出した温度Tが目標値と等しいか又は許容できる範囲内である場合には、コンピュータ118はその領域EA
iにおいて熔融ガラスMGに発生させるジュール熱を維持する指示を出す。
ある領域EA
iにおいて、算出した温度Tが目標値よりも低いか又は許容できる範囲よりも低い場合には、コンピュータ118はその領域EA
iにおいて熔融ガラスMGに発生させるジュール熱を、所定の量、増加させる指示を出す。
【0073】
図6に示すジュール熱の制御(ST27)は、
図5に示すジュール熱の制御(ST15)と同様なので、説明は省略する。
上記の制御により、従来の熱電対等の温度測定装置を用いることなく、各領域EA
iの熔融ガラスMGの粘度および温度を所望の状態にして、熔解槽101の熔融ガラスMGの熔解状態を所望の状態にすることができる。
このように、本実施形態では、
図5に示す方法でも、
図6に示す方法でも、計測し算出した比抵抗ρを用いて、熔融ガラスMGに与えるジュール熱の制御を行う。このため、比抵抗ρを精度良く算出するために、本実施形態では、電極114に印加する電圧に応じて、電流が流れる領域EA
iの断面積S
iを算出し、式(1)、式(2)に従って比抵抗ρを算出する。したがって、比抵抗ρを精度良くに算出することができるので、熔融ガラスを均質化することができ熔融ガラスMGの効率のよい通電加熱を行うことができる。
【0074】
本実施形態では、熔解槽101において、後述する
図7に示すような熔融ガラスMGの対流を引き起こしながら熔融ガラスMGを取り出すことが、脈理を発生させず、熔解槽102から異質素地を流出させない点で好ましい。このため、電極114の位置に応じて熔融ガラスMGに発生させるジュール熱を変化させることが好ましい。上述したようにコンピュータ118は、電極114に印加する電圧に応じて、電流が流れる領域EA
iの断面積S
iを算出し、比抵抗ρを精度良く算出することができるので、
図7に示すような熔融ガラスMGの対流を引き起こす熔融ガラスMGの温度分布を所望の分布に精度良く調整することができる。以下、熔解槽101内の熔融ガラスMGの対流について説明する。
【0075】
(熔解槽内の熔融ガラスの対流)
上述した、熔融ガラスMGの通電加熱1,2によって、例えば以下に示す熔融ガラスMGの対流を熔解槽101において形成するように、熔融ガラスMGの通電加熱が制御される。しかし、熔融ガラスMGの通電加熱の制御は、
図7に示すような対流を熔融ガラスMGに引き起こす形態に適用することができるだけでなく、熔融ガラスMGに
図7に示す対流以外の対流を引き起こす形態、あるいは対流を生じさせない形態にも適用することができる。
【0076】
図7は、本実施形態における熔解槽101内部の熔融ガラスの対流を説明する図である。本実施形態では、熔解槽101の内側側壁のうち、第1の方向に向く内側側壁の底部に設けられた流出口104aから清澄工程に向けて熔融ガラスMGが流出する。このとき、熔解槽101の底部に位置する熔融ガラスMGの温度が原料投入側(
図7中の左側)から流出口104aの側(
図7中の右側)に向かう程、上昇するように熔融ガラスMGを加熱制御する。これにより、流出口104aの側において、流出口104aから下流工程である清澄工程に熔融ガラスMGを流すとともに、熔融ガラスMGの対流を作る。すなわち、流出口104aから流れなかった熔融ガラスMGの一部が熔解槽101の側壁に沿って液面101cに向かって上昇し、液面101cに上昇した熔融ガラスMGの一部が液面101cに沿って原料投入側の熔解槽101の側壁に向かって流れ、原料投入側の熔解槽101の側壁に沿って液面101cから下降し、さらに底面に沿って原料投入側から排出口104aの側に向かって流れる。
【0077】
このような循環する対流を生じさせる理由は以下の通りである。すなわち、シリカ濃度の高い難熔性のガラスでは、ガラス原料の分解、熔解時に、熱分解温度の低いアルカリ土類金属成分が、周りの熔融ガラスに比べて先に溶け込み、難熔性のシリカ成分の濃度の高い異質素地120が生成し易い。生成した異質素地120が何らかの理由で、熔解槽の流出口側の側壁に漂っていき沈み込んで下流工程に流出すると、周りの熔融ガラスよりシリカ濃度が高く、粘度が高いので、脈理となる。
しかし、熔解槽101では、
図7に示すような熔融ガラスMGの対流を形成しているので、異質素地120が、流出口104a側の側壁付近に漂って来ることはない。さらに、流出口104a側の側壁では、熔融ガラスMGの流れが底面から液面に向けて流れているので、異質素地が沈み込むことも無い。
【0078】
熔解槽101において、
図7に示す矢印で示す対流を形成させるには、
図7における原料投入側から流出口104aの側に向かうにつれて、熔解槽101の底部を流れる熔融ガラスMGの温度が徐々に高くなるように、
図7に示す例では、温度T
1<温度T
2<温度T
3にするとともに、原料投入位置における熔融ガラスMGの表層の温度T
4に対して温度T
3(最高温度)が高くなるように、電極114に供給する電力を制御するとよい。温度T
1は、
図7中の原料投入側に設けられた一対の電極114の位置における熔融ガラスMGの温度であり、温度T
2は、3対の電極114の内、真ん中に位置する一対の電極114の位置における熔融ガラスMGの温度であり、温度T
3は、3対の電極114の内、流出口の側に位置する一対の電極114の位置における熔融ガラスMGの温度である。このような温度分布を形成するように、コンピュータ118を用いて上述したような熔融ガラスMGの通電加熱の制御を行う。
【0079】
(ガラス組成)
本実施形態に用いるガラスの組成については、アルミノシリケートガラスで構成され、SiO
2(シリカ)を55質量%以上含むことができる。このガラス組成を有するアルミノシリケートガラスに適用した本実施形態の製造方法は、従来に比べて効果的にガラス組成のムラを抑制することができる。さらには、SiO
2を60質量%以上含むことができ、さらに、SiO
2を65質量%以上含むこともできる。SiO
2を55質量%含み、シリカリッチの異質素地120ができやすいガラス組成であっても、シリカリッチの異質素地120が流出口104a側の側壁に漂って行くのを、熔融ガラスMGの液面101cの対流が防ぐので、また、流出口104a側の側壁では、ガラスの流れがボトム(底面)の側から素地面(液面)の側に向けて流れているので、シリカリッチの異質素地120が、流出口104aから流出することを防ぐことができる。SiO
2のガラス組成における含有率の上限は例えば70質量%である。
【0080】
また、SiO
2とAl
2O
3とを合計で70質量%以上含むことができ、このガラス組成を有するアルミノシリケートガラスを適用した本実施形態の製造方法は、従来に比べて効果的にガラス組成のムラを抑制することができる。さらに、SiO
2とAl
2O
3とを合計で75質量%以上含むことができる。
SiO
2とAl
2O
3とを合計で70質量%以上含みシリカリッチの異質素地120ができ易いガラス組成であっても、熔融ガラスMGの液面101cの対流が、シリカリッチの異質素地120が流出口104a側の側壁に漂って行くのを防ぐ。また、流出口104a側の側壁では、熔融ガラスMGの流れがボトム(底面)側から素地面(液面)の側に向けて流れているので、シリカリッチの異質素地120が、流出口104aから流出することを防ぐことができる。SiO
2とAl
2O
3との合計の含有率の上限は、例えば85質量%である。
【0081】
ガラス基板のガラス組成は例えば以下のものを挙げることができる。
以下示す組成の含有率表示は、質量%である。
SiO
2:50〜70%、
Al
2O
3:0〜25%、
B
2O
3:1〜15%、
MgO:0〜10%、
CaO:0〜20%、
SrO:0〜20%、
BaO:0〜10%、
RO:5〜30%(ただし、RはMg、Ca、Sr及びBaから選ばれる少なくとも1種であり、ガラス基板が含有するものである)、
を含有する無アルカリガラスであることが、好ましい。
【0082】
なお、本実施形態では無アルカリガラスとしたが、ガラス基板はアルカリ金属を微量含んだアルカリ微量含有ガラスであってもよい。アルカリ金属を含有させる場合、R’
2Oの合計が0.10%以上0.5%以下、好ましくは0.20%以上0.5%以下(ただし、R’はLi、Na及びKから選ばれる少なくとも1種であり、ガラス基板が含有するものである)含むことが好ましい。勿論、R’
2Oの合計が0.10%より低くてもよい。
本実施形態のガラス基板の製造方法を適用する場合は、ガラス組成物が、上記各成分に加えて、質量%表示で、SnO
2:0.01〜1%(好ましくは0.01〜0.5%)、Fe
2O
3:0〜0.2%(好ましくは0.01〜0.08%)を清澄剤として含有することができる。環境負荷低減の点から、As
2O
3、Sb
2O
3及びPbOを実質的に含有しないようにガラス原料を調製してもよい。
【0083】
p-Si(低温ポリシリコン)・TFTや酸化物半導体をガラス基板に形成するために、歪点が高いガラスを用いる場合、例えば歪点が655℃以上の熔融ガラスを用いる場合、ガラス組成としては、例えば、ガラス基板が質量%表示で、以下の成分を含むものが例示される。
SiO
2 52〜78%、
Al
2O
3 3〜25%、
B
2O
3 3〜15%、
RO (但し、RはMg、Ca,Sr及びBaから選ばれる、ガラス板が含有する全ての成分であって、少なくとも1種である) 3〜20%、
を含み、
質量比(SiO
2+Al
2O
3)/B
2O
3は7〜20の範囲にある無アルカリガラスまたは後述するアルカリ微量含有ガラスであることが、好ましい。
さらに、歪点をより上昇するために、質量比(SiO
2+Al
2O
3)/ROは7.5以上であることが好ましい。さらに、歪点を上昇させるために、β−OH値を0.1〜0.3mm
-1とすることが好ましい。さらに、高い歪点を実現しつつ液相粘度の低下を防止するためにCaO/ROは0.65以上とすることが好ましい。
さらに、上述した成分に加え、本実施形態のガラス基板に用いるガラスは、ガラスの様々な物理的、溶融、清澄、および、成形の特性を調節するために、様々な他の酸化物を含有しても差し支えない。そのような他の酸化物の例としては、以下に限られないが、TiO
2、MnO、ZnO、Nb
2O
5、MoO
3、Ta
2O
5、WO
3、Y
2O
3、および、La
2O
3が挙げられる。
【0084】
本実施形態の製造方法は、液晶表示装置用ガラス基板に効果的に適用できる。液晶表示装置用ガラス基板は、上述したように、ガラス組成にアルカリ金属成分(Li、Na及びK)を含ませないか、含ませても微量であることが好ましい。しかし、アルカリ金属成分(Li、Na及びK)を含ませないか、含ませても微量である場合、熔融ガラスMGの高温粘性が高くなる。本実施形態では、高温粘性が高い熔融ガラスMGの粘性を高くするために温度を高温にした場合においても、熔融ガラスMGの比抵抗ρを精度良く算出することができるので、電極114に効率よく電力を供給し、熔融ガラスMGに効率よくジュール熱を発生させることができる。
【0085】
さらに、p−Si(低温ポリシリコン)TFTや酸化物半導体が形成されるガラス基板には、熱収縮率を小さくする点から、歪点が例えば655℃以上となるガラス(熔融ガラスMG)が好適に用いられる。歪点が655℃以上の熔融ガラスの場合、熔融ガラスMGの溶融性が低い。このため、熔解槽101における熔融ガラスMGの温度は従来に比べてより一層高く設定される。しかし、この場合においても、熔解槽中の熔融ガラスの比抵抗は精度高く算出することができるので、熔解槽内の熔融ガラスを均質化するように通電加熱することができ、さらに、熔融ガラスを効率よく通電加熱することができる。
【0086】
また、本実施形態では、環境負荷低減の点から清澄剤としてSnO
2を用いるが、SnO
2の清澄作用を効果的に機能させるためには、熔融ガラスMGの温度を高温に精度良く調整することが好ましい。本実施形態では、熔融ガラスMGの比抵抗ρを精度良く算出することができるので、電極114に効率よく電力を供給することができる。
【0087】
以上、本発明のガラス基板の製造方法及び製造装置について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良や変更をしてもよいのはもちろんである。