特許第5902059号(P5902059)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5902059
(24)【登録日】2016年3月18日
(45)【発行日】2016年4月13日
(54)【発明の名称】ディーゼルエンジン
(51)【国際特許分類】
   F02B 67/04 20060101AFI20160331BHJP
   F02F 7/00 20060101ALI20160331BHJP
【FI】
   F02B67/04 G
   F02B67/04 A
   F02B67/04 C
   F02B67/04 H
   F02F7/00 K
【請求項の数】2
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-164218(P2012-164218)
(22)【出願日】2012年7月24日
(65)【公開番号】特開2014-25358(P2014-25358A)
(43)【公開日】2014年2月6日
【審査請求日】2014年8月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000198330
【氏名又は名称】株式会社IHIシバウラ
(74)【代理人】
【識別番号】100080621
【弁理士】
【氏名又は名称】矢野 寿一郎
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 直広
(72)【発明者】
【氏名】金井 直嗣
(72)【発明者】
【氏名】谷本 正剛
(72)【発明者】
【氏名】河合 祐一
(72)【発明者】
【氏名】真島 豊
【審査官】 瀬戸 康平
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭62−248865(JP,A)
【文献】 実開昭58−032165(JP,U)
【文献】 実開昭58−178549(JP,U)
【文献】 実開平02−014431(JP,U)
【文献】 特開2003−278619(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02B 67/04
F02F 7/00
F02M 39/02
DWPI(Thomson Innovation)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダブロックの正面側に接当して固定されるギヤケースフランジと、前記ギヤケースフランジの正面側に接当して固定されるギヤケースとを具備し、
前記ギヤケースフランジとギヤケースとを、両方に設けたボルト穴を通り、前記シリンダブロックのネジ穴にボルトにより固定し、
前記ギヤケースには、サプライポンプのポンプギヤを収納可能とすべく、前記ギヤケースフランジがシリンダブロックの側面から突出した部分に、前記サプライポンプのポンプギヤが通過可能な通路穴を設け、
前記ギヤケースフランジのギヤケースとは逆の側の面に固定されるスペーサを設け、前記スペーサにサプライポンプを固定し、前記サプライポンプの駆動軸に前記ポンプギヤを固定し、
前記スペーサとギヤケースは、前記ギヤケースフランジを挟み込んだ状態でボルトにより固定され、
前記スペーサを固定するボルトは、前記ギヤケースフランジとギヤケースをシリンダブロックに固定するボルトと同じ方向から挿入して、前記スペーサに設けられたネジ穴に螺装され、
前記ギヤケースの正面側には、前記ポンプギヤと他のギヤの噛み合わせ位置を確認できる観察穴と、前記観察穴を正面側から閉鎖する蓋とを具備させ、
前記スペーサに固定された状態のサプライポンプは、前記ギヤケースフランジの通路穴に前記ポンプギヤを通すことで、前記ポンプギヤが駆動軸に固定された状態のまま脱着できるにように構成した
ことを特徴とするディーゼルエンジン。
【請求項2】
請求項1記載のディーゼルエンジンにおいて、前記ギヤケースには、前記ポンプギヤ及びポンプギヤを回転させる他のギヤを収納し、前記他のギヤは、吸気バルブ及び排気バルブを可動させるカムギヤとし、前記ギヤケースの正面側のポンプギヤとカムギヤの噛み合わせ位置を確認できる位置に、観察穴を穿設し、前記ギヤケースを取り付けた状態において、前記サプライポンプの取り付け作業を行なうことを可能としたことを特徴とするディーゼルエンジン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディーゼルエンジンの技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ピストンの上面に設けられた燃焼室へ燃料を噴射し、該燃焼室内で燃料を燃焼させるディーゼルエンジンが知られている。このようなディーゼルエンジンは、自由に噴射パターンを設定できる蓄圧式燃料噴射装置(以降「コモンレールシステム」という)を備えている。コモンレールシステムは、燃料を圧送するサプライポンプと、高圧の燃料を貯えるレールと、燃料を噴射するインジェクタとで構成される(例えば特許文献1参照)。
【0003】
ところで、このようなディーゼルエンジンは、整備性を考慮した設計がなされる。ディーゼルエンジンは、定期的にメンテナンスを行なうことで性能を維持できるからである。しかし、サプライポンプは、その駆動軸にポンプギヤが固定されていることから、該ポンプギヤを取り外さなければ脱着することができない。従って、ポンプギヤを取り外すことなくサプライポンプを脱着できる構造が求められていた。
【0004】
また、整備性を向上させるには、作業者が行なう工程を単純化、簡素化することが重要となる。従って、メンテナンスを行なう際に、作業者が移動することなく一定の方向から作業できる構造が求められていた。更に、サプライポンプを取り付ける際には、ギヤの噛み合い位置を確認する工程が不可欠となる。従って、かかる工程を容易に行なえる構造が求められていた。
【0005】
また、ディーゼルエンジンは、小型化を考慮した設計がなされる。ディーゼルエンジンを搭載する車両は、該ディーゼルエンジンの小型化によって設計自由度が向上するからである。更に、トラクターでは、前輪の視認性を確保するためにエンジンルームの全幅が狭いという特徴を有する。従って、上述した問題を解決しつつ、全幅を小さくできる構造が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2011−12573号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、整備性を向上させるとともに全幅を小さくしたディーゼルエンジンを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0009】
請求項1においては、シリンダブロックの正面側に接当して固定されるギヤケースフランジと、前記ギヤケースフランジの正面側に接当して固定されるギヤケースとを具備し、前記ギヤケースフランジとギヤケースとを、両方に設けたボルト穴を通り、前記シリンダブロックのネジ穴にボルトにより固定し、前記ギヤケースには、サプライポンプのポンプギヤを収納可能とすべく、前記ギヤケースフランジがシリンダブロックの側面から突出した部分に、前記サプライポンプのポンプギヤが通過可能な通路穴を設け、前記ギヤケースフランジのギヤケースとは逆の側の面に固定されるスペーサを設け、前記スペーサにサプライポンプを固定し、前記サプライポンプの駆動軸に前記ポンプギヤを固定し、前記スペーサとギヤケースは、前記ギヤケースフランジを挟み込んだ状態でボルトにより固定され、前記スペーサを固定するボルトは、前記ギヤケースフランジとギヤケースをシリンダブロックに固定するボルトと同じ方向から挿入して、前記スペーサに設けられたネジ穴に螺装され、前記ギヤケースの正面側には、前記ポンプギヤと他のギヤの噛み合わせ位置を確認できる観察穴と、前記観察穴を正面側から閉鎖する蓋とを具備させ、前記スペーサに固定された状態のサプライポンプは、前記ギヤケースフランジの通路穴に前記ポンプギヤを通すことで、前記ポンプギヤが駆動軸に固定された状態のまま脱着できるにように構成したものである。
【0010】
請求項2においては、請求項1記載のディーゼルエンジンにおいて、前記ギヤケースには、前記ポンプギヤ及びポンプギヤを回転させる他のギヤを収納し、前記他のギヤは、吸気バルブ及び排気バルブを可動させるカムギヤとし、前記ギヤケースの正面側のポンプギヤとカムギヤの噛み合わせ位置を確認できる位置に、観察穴を穿設し、前記ギヤケースを取り付けた状態において、前記サプライポンプの取り付け作業を行なうことを可能としたものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
【0012】
請求項1に記載の発明によれば、スペーサに固定された状態のサプライポンプは、ギヤケースフランジの通路穴にポンプギヤを通すことで、該ポンプギヤが駆動軸に固定された状態のまま脱着できる。
【0013】
これにより、サプライポンプの脱着が容易となり、整備性を向上させることが可能となる。更に、従来のディーゼルエンジンと異なり、ギヤケースにポンプギヤを取り外すための作業穴が不要となることから、該作業穴を塞ぐための蓋も不要となってギヤケースを小型化できる。これにより、ディーゼルエンジンの全幅を小さくすることが可能となる。
【0014】
また、スペーサを固定するためのボルトは、ギヤケースフランジを介して同じ方向から取り付けられる。これにより、作業者が移動することなく一定の方向から作業でき、整備性を向上させることが可能となる。
【0015】
また、ギヤケースは、ポンプギヤと他のギヤの噛み合わせ位置を確認できる観察穴を有する。該観察穴の蓋は、ギヤケースの正面側に向けて開口可能としたので、ギヤケースを取り付けた状態でサプライポンプの取り付け作業を行なうことができ、他の部品に邪魔をされることなく、整備性を向上させることが可能となる。
【0016】
請求項2に記載の発明によれば、ポンプギヤは、カムシャフトに固定されたカムギヤによって回転される。従って、吸気バルブや排気バルブ及びカムシャフトの近傍にサプライポンプが配置される。これにより、作業者が移動することなく一定の方向から作業でき、整備性を向上させることが可能となる。更に、ディーゼルエンジンの上下方向に各ギヤが配置されたギヤトレーンを構成できる。これにより、ディーゼルエンジンの全幅を小さくすることが可能となる。
【0017】
また、ギヤケースは、ポンプギヤと他のギヤの噛み合わせ位置を確認できる観察穴を有する。これにより、ギヤケースを取り付けた状態でサプライポンプの取り付け作業を行なうことができ、整備性を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】ディーゼルエンジンの構成を示す正面図。
図2】ディーゼルエンジンの構成を示す右側面図。
図3】ディーゼルエンジンの作動態様を示す模式図。
図4】クランクシャフトの回転動力を伝達するギヤトレーンを示す図。
図5】(5A)図4に示す領域Rを拡大した図。(5B)図4に示す矢印Tの方向から見た図。
図6】サプライポンプの取り外し作業を示す図。
図7】サプライポンプの取り付け作業を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
まず、ディーゼルエンジン100について簡単に説明する。
【0020】
図1は、ディーゼルエンジン100の構成を示す正面図であり、図2は、その右側面図である。図3は、ディーゼルエンジン100の作動態様を示す模式図である。なお、図中の矢印Faは、吸入された空気の流れ方向を示し、図中の矢印Feは、排気の流れ方向を示している。また、図中の矢印Sは、ピストン13の摺動方向を示し、図中の矢印Rは、クランクシャフト14の回転方向を示している。
【0021】
ディーゼルエンジン100は、主にエンジン主体部1と、吸気経路2と、排気経路3と、コモンレールシステム4と、で構成される。
【0022】
エンジン主体部1は、燃料の燃焼による膨張エネルギーを利用して回転動力を発生させる。エンジン主体部1は、主にシリンダブロック11と、シリンダヘッド12と、ピストン13と、クランクシャフト14と、で構成される。
【0023】
エンジン主体部1には、シリンダブロック11に設けられたシリンダ11cと、該シリンダ11cに摺動可能に内設されたピストン13と、該ピストン13に対向するように配置されたシリンダヘッド12と、で作動室Wが構成されている。即ち、作動室Wとは、ピストン13の摺動運動によって容積が変化するシリンダ11cの内部空間を意味する。ピストン13は、コネクティングロッド15によってクランクシャフト14のピン部と連結されており、該ピストン13の摺動によってクランクシャフト14を回転させる。なお、エンジン主体部1の具体的な作動態様については後述する。
【0024】
吸気経路2は、外部から吸入された空気をシリンダ11c内に導く。即ち、吸気経路2は、外部から吸入された空気を作動室Wに導く。吸気経路2は、空気が流れる方向に沿って、主にエアクリーナ(図示せず)と、吸気マニホールド22と、で構成される。
【0025】
エアクリーナは、濾紙又はスポンジ等によって吸入された空気を濾過する。エアクリーナは、空気を濾過することで埃等の異物が作動室Wに混入するのを防止している。
【0026】
吸気マニホールド22は、エアクリーナによって濾過された空気を各作動室Wに分配する。本ディーゼルエンジン100は、複数の作動室Wが設けられた多気筒エンジンであることから、吸気マニホールド22は、各作動室W毎に設けられた吸気ポート12Ipの入口穴を覆うように形成されている。なお、本ディーゼルエンジン100では、吸気ポート12Ipの入口穴がシリンダヘッド12の上面に設けられているため、吸気マニホールド22もシリンダヘッド12の上面に取り付けられている。
【0027】
排気経路3は、シリンダ11c内から排出された排気を排気口まで導く。即ち、排気経路3は、各作動室Wから排出された排気を排気口まで導く。排気経路3は、排気の流れる方向に沿って、主に排気マニホールド31と、排気浄化装置32と、で構成される。
【0028】
排気マニホールド31は、各作動室Wから排出された排気を集合させる。本ディーゼルエンジン100は、複数の作動室Wが設けられた多気筒エンジンであることから、排気マニホールド31は、各作動室W毎に設けられた排気ポート12Epの出口穴と連通するように形成されている。なお、本ディーゼルエンジン100では、排気ポート12Epの出口穴がシリンダヘッド12の側面に設けられているため、排気マニホールド31もシリンダヘッド12の側面に取り付けられている。
【0029】
排気浄化装置32は、排気に含まれる環境負荷物質を取り除く。排気浄化装置32には、酸化触媒担体(Diesel Oxidation Catalyst:以降「DOC」という)が内蔵されている。DOCは、排気に含まれるCO(一酸化炭素)やHC(炭化水素)を酸化して無害化するとともに、粒子状物質であるSOF(有機可溶成分)を酸化して除去する。
【0030】
コモンレールシステム4は、自由に噴射パターンを設定できる燃料噴射装置である。コモンレールシステム4は、主にサプライポンプ41と、レール42と、インジェクタ43と、で構成される。
【0031】
サプライポンプ41は、燃料タンクから供給された燃料をレール42へ圧送する。サプライポンプ41は、複数のギヤを介して伝達されたクランクシャフト14の回転動力によって駆動される。サプライポンプ41は、駆動軸41Sの回転によって摺動するプランジャを備え、該プランジャが加圧した燃料をレール42へ送り出す。
【0032】
レール42は、サプライポンプ41から圧送された燃料を高圧のまま貯える。レール42は、略円筒形状に形成された金属管である。レール42は、リミッタバルブを備え、燃料の圧力が所定の値を超えないように設計されている。また、レール42には、複数の配管が取り付けられ、各インジェクタ43へ燃料を導くことができる。
【0033】
インジェクタ43は、レール42から供給された燃料を適宜に噴射する。インジェクタ43は、噴射口を有する先端部が作動室W内に突出するようにシリンダヘッド12に取り付けられている。インジェクタ43は、例えばピエゾ素子やソレノイドで駆動するアーマチャを備え、駆動する時期や期間を調節することによって様々な噴射パターンを実現できる。
【0034】
なお、本ディーゼルエンジン100においては、レール42における燃料の圧力変動を低減するため、サプライポンプ41の燃料圧送時期とインジェクタ43の燃料噴射時期を同期させている。従って、後述するポンプギヤ41Gとカムギヤ18Gの噛み合わせ位置が重要となる。ポンプギヤ41Gとカムギヤ18Gの噛み合わせ位置を確認できる構造については後述する。
【0035】
次に、図3を用いてディーゼルエンジン100の作動態様について簡単に説明する。なお、本ディーゼルエンジン100は、吸気行程、圧縮行程、膨張行程、排気行程の各工程をクランクシャフト14が二回転する間に完結する4サイクルエンジンである。
【0036】
吸気工程は、吸気バルブ12Ivを開弁するとともにピストン13を下方へ摺動させて、作動室W内に空気を吸い込む行程である。吸気バルブ12Ivは、カムシャフト18がプッシュロッドを押し上げ、該プッシュロッドがバルブアームを押すことで開弁される(図4参照)。カムシャフト18は、複数のギヤを介して伝達されたクランクシャフト14の回転動力によって駆動される。
【0037】
圧縮工程は、吸気バルブ12Ivを閉弁するとともにピストン13を上方へ摺動させて、作動室W内の空気を圧縮する行程である。吸気バルブ12Ivは、スプリングの付勢力によって閉弁される。バルブアームは、吸気バルブ12Ivによって押され、プッシュロッドは、バルブアームによって押し下げられる。
【0038】
その後、圧縮されて高温高圧となった空気中にインジェクタ43から燃料が噴射される。すると、燃料は、ピストン13の上面に設けられた燃焼室C内で分散して蒸発し、空気と混合して燃焼を開始する。こうして、ディーゼルエンジン100は、ピストン13を再び下方へ摺動させる膨張行程に移行する。
【0039】
膨張行程は、燃料が燃焼したことによる膨張エネルギーによってピストン13を押し下げる行程である。燃焼室C及び作動室W内に形成された火炎は、空気を膨張させてピストン13を押し下げる。なお、膨張行程では、ピストン13からコネクティングロッド15を介してクランクシャフト14に回転トルクが付与される。このとき、クランクシャフト14に取り付けられたフライホイル16によって運動エネルギーが保存されるため、クランクシャフト14は回転を持続する(図2参照)。こうして、ディーゼルエンジン100は、ピストン13を再び上方へ摺動させて排気行程に移行するのである。
【0040】
排気工程は、排気バルブ12Evを開弁するとともにピストン13を上方へ摺動させて、作動室W内の既燃ガスを排気として押し出す行程である。排気バルブ12Evは、カムシャフト18がプッシュロッドを押し上げ、該プッシュロッドがバルブアームを押すことで開弁される(図4参照)。カムシャフト18は、複数のギヤを介して伝達されたクランクシャフト14の回転動力によって駆動される。
【0041】
こうして、ディーゼルエンジン100は、吸気行程、圧縮行程、膨張行程、排気行程の各工程をクランクシャフト14が二回転する間に完結する。ディーゼルエンジン100は、全ての作動室Wで上記の各行程を繰り返すことにより、連続して運転できるのである。
【0042】
次に、クランクシャフト14の回転動力をカムシャフト18やサプライポンプ41に伝達する構造について説明する。
【0043】
図4は、クランクシャフト14の回転動力を伝達するギヤトレーンを示す図である。図中に示す矢印は、各ギヤの回転方向を示している。
【0044】
上述したように、燃料が燃焼したことによる膨張エネルギーによってクランクシャフト14に回転トルクが付与される。クランクギヤ14Gは、クランクシャフト14に固定されているため、該クランクシャフト14とともに回転する。
【0045】
アイドルギヤ17Gは、クランクギヤ14Gに噛み合わされた状態で回転自在に支持されている。アイドルギヤ17Gは、クランクギヤ14Gの回転に伴って従動して回転する。アイドルギヤ17Gを支持しているアイドルシャフト17は、シリンダブロック11に固定されている。なお、本ディーゼルエンジン100において、アイドルギヤ17Gは、クランクギヤ14Gの右側方(図4における左側)に配置されている。
【0046】
カムギヤ18Gは、アイドルギヤ17Gに噛み合わされた状態で回転自在に支持されている。カムギヤ18Gは、アイドルギヤ17Gの回転に伴って従動して回転する。カムギヤ18Gは、カムシャフト18に固定されているため、該カムシャフト18を回転させる。つまり、クランクシャフト14の回転動力は、クランクギヤ14Gやアイドルギヤ17Gを介してカムシャフト18に伝達されるのである。なお、本ディーゼルエンジン100において、カムギヤ18Gは、アイドルギヤ17Gの上方に配置されている。従って、カムシャフト18は、クランクシャフト14に対して右斜上方(図4における左斜上)に配置される。
【0047】
ポンプギヤ41Gは、カムギヤ18Gに噛み合わされた状態で回転自在に支持されている。ポンプギヤ41Gは、カムギヤ18Gの回転に伴って従動して回転する。ポンプギヤ41Gは、サプライポンプ41の駆動軸41Sに固定されているため、該サプライポンプ41を駆動させる。つまり、クランクシャフト14の回転動力は、クランクギヤ14Gやアイドルギヤ17G、カムギヤ18Gを介してサプライポンプ41に伝達されるのである。なお、本ディーゼルエンジン100において、ポンプギヤ41Gは、カムギヤ18Gの右斜上方(図4における左斜上)に配置されている。従って、サプライポンプ41は、クランクシャフト14に対して右斜上方(図4における左斜上)に配置される。
【0048】
このように、本ディーゼルエンジン100は、クランクギヤ14Gから右斜上方(図4における左斜上)に向けて直列に各ギヤが配置されている。そして、カムギヤ18Gとポンプギヤ41Gも、このギヤトレーンの一部を構成している。こうすることで、サプライポンプ41は、必然的にカムシャフト18の他、該カムシャフト18によって可動される吸気バルブ12Ivや排気バルブ12Evの近傍に配置されることとなる。
【0049】
このような構成により、本ディーゼルエンジン100は、吸気バルブ12Ivや排気バルブ12Ev及びサプライポンプ41等のメンテナンスを行なう際に、作業者が移動することなく一定の方向から作業でき、整備性を向上させることが可能となる。具体的には、図1に示す矢印Xの方向から作業でき、整備性を向上させることが可能となる。
【0050】
また、上述したように、本ディーゼルエンジン100は、クランクギヤ14Gから右斜上方(図4における左斜上)に向けて直列に各ギヤが配置されている。即ち、ディーゼルエンジン100は、上下方向に各ギヤが配置されたギヤトレーンを有している。これにより、ディーゼルエンジン100の全幅を小さくすることが可能となる。
【0051】
次に、サプライポンプ41を取り付ける構造について説明する。
【0052】
図5Aは、図4に示す領域Rを拡大した図である。図5Bは、図4に示す矢印Tの方向から見た図である。
【0053】
ギヤケースフランジ5は、サプライポンプ41やオイルポンプ(図示せず)を支持するための部材である。ギヤケースフランジ5は、複数のボルトB1によってシリンダブロック11に固定される。
【0054】
スペーサ6は、サプライポンプ41をギヤケースフランジ5に取り付けるための部材である。スペーサ6は、複数のボルトB2及びボルトB5によってギヤケースフランジ5に固定される。なお、スペーサ6は、各ギヤが配置されたギヤケースフランジ5の前面側ではなく、裏面側に固定される。詳細に説明すると、スペーサ6は、ギヤケースフランジ5の裏面側であって、エンジン主体部1の右側方に固定される(図2参照)。
【0055】
ギヤケース7は、ポンプギヤ41Gやその他のギヤを保護するための部材である。ギヤケース7は、上述したギヤトレーンを全て覆うように形成されている。つまり、ギヤケース7は、ポンプギヤ41Gやその他のギヤを収納できる。ギヤケース7は、複数のボルトB3によってギヤケースフランジ5とともにシリンダブロック11に固定される。
【0056】
サプライポンプ41は、複数のボルトB4によってスペーサ6に固定される。スペーサ6は、ギヤケースフランジ5の裏面側であって、エンジン主体部1の右側方に固定されるので、サプライポンプ41も同じような位置に配置される。つまり、サプライポンプ41は、ギヤケースフランジ5の裏面側であって、エンジン主体部1の右側方にスペーサ6を介して固定される(図2参照)。
【0057】
以下に、本ディーゼルエンジン100が採用している構造について詳細に説明し、かかる構造による効果を述べる。
【0058】
図5A及び図5Bに示すように、ギヤケースフランジ5には、通路穴5hが設けられている。通路穴5hは、サプライポンプ41の駆動軸41Sを中心とした円形状の穴である。通路穴5hの直径Dhは、ポンプギヤ41Gの直径Dpよりも大きく設定されている。つまり、通路穴5hの直径Dhとポンプギヤ41Gの直径Dpは、以下の数式を満たす。 数式:Dh>Dp
【0059】
このような構造により、スペーサ6に固定された状態のサプライポンプ41は、ギヤケースフランジ5の通路穴5hにポンプギヤ41Gを通すことで、該ポンプギヤ41Gが駆動軸41Sに固定された状態のまま脱着できる(図6図7参照)。これにより、サプライポンプ41等のメンテナンスを行なう際に、サプライポンプ41の脱着が容易となり、整備性を向上させることが可能となる。
【0060】
更に、従来のディーゼルエンジンと異なり、ギヤケース7にポンプギヤ41Gを取り外すための作業穴が不要となることから、該作業穴を塞ぐための蓋も不要となってギヤケース7を小型化できる。これにより、ディーゼルエンジン100の全幅を小さくすることが可能となる。なお、通路穴を塞ぐための蓋が不要となることから、ギヤケース7の設計自由度が向上するという効果も奏する。
【0061】
また、図5Bに示すように、スペーサ6とギヤケース7は、ギヤケースフランジ5を挟み込んだ状態で固定される。ギヤケース7を固定するためのボルトB3は、ギヤケース7とギヤケースフランジ5のボルト穴を通り、シリンダブロック11に設けられたネジ穴に締め付けられる。
【0062】
一方、スペーサ6を固定するためのボルトB2は、ギヤケースフランジ5のボルト穴を通り、スペーサ6に設けられたネジ穴に締め付けられる(本実施形態においてボルトB2は2本)。また、ボルトB5は、ギヤケース7とギヤケースフランジ5のボルト穴を通り、スペーサ6に設けられたネジ穴に締め付けられる(本実施形態においてボルトB5は5本)。ボルトB2及びボルトB5は、ディーゼルエンジン100の正面側から取り付けられる。
【0063】
このように、スペーサ6を固定するためのボルトB2及びボルトB5は、ギヤケースフランジ5を介して同じ方向から取り付けられる。これにより、サプライポンプ41の取り外し作業やサプライポンプ41の取り付け作業を行なう際に、作業者が移動することなく一定の方向から作業でき、整備性を向上させることが可能となる。具体的には、図2に示す矢印Yの方向から作業でき、整備性を向上させることが可能となる。
【0064】
更に、ギヤケース7には、ポンプギヤ41Gとカムギヤ18Gの噛み合わせ部分を確認できる観察穴7hが設けられている。従って、作業者は、蓋7tを取り外すことで、ポンプギヤ41Gとカムギヤ18Gの噛み合わせ位置を確認できる。
【0065】
このように、ギヤケース7は、ポンプギヤ41Gとカムギヤ18Gの噛み合わせ位置を確認できる観察穴7hを有する。これにより、ギヤケース7を取り付けた状態でサプライポンプ41の取り付け作業を行なうことができ、整備性を向上させることが可能となる。
【0066】
以下に、本ディーゼルエンジン100におけるサプライポンプ41の取り外し作業及びサプライポンプ41の取り付け作業について簡単に説明する。
【0067】
図6は、サプライポンプ41の取り外し作業を示す図である。サプライポンプ41の取り外し作業は、下記の工程で行なわれる。なお、サプライポンプ41は、スペーサ6に固定された状態のまま取り外し作業が行なわれる。
1:ボルトB2及びボルトB5を緩めて取り外す。
2:サプライポンプ41を矢印の方向に引き抜く。
このように、本ディーゼルエンジン100では、サプライポンプ41を容易に取り外すことができる。
【0068】
図7は、サプライポンプ41の取り付け作業を示す図である。サプライポンプ41の取り付け作業は、下記の工程で行なわれる。なお、サプライポンプ41は、スペーサ6に固定された状態のまま取り付け作業が行なわれる。
1:蓋7tを取り外す。
2:噛み合わせ位置を確認しながらサプライポンプ41を矢印の方向に挿入する。
3:ボルトB2及びボルトB5を締め付ける。
4:蓋7tを取り付ける。
このように、本ディーゼルエンジン100では、サプライポンプ41を容易に取り付けることができる。
【符号の説明】
【0069】
100 ディーゼルエンジン
1 エンジン主体部
14 クランクシャフト
14G クランクギヤ
17 アイドルシャフト
17G アイドルギヤ
18 カムシャフト
18G カムギヤ
2 吸気経路
3 排気経路
4 コモンレールシステム
41 サプライポンプ
41G ポンプギヤ
41S 駆動軸
42 レール
43 インジェクタ
5 ギヤケースフランジ
5h 通路穴
6 スペーサ
7 ギヤケース
7h 観察穴
7t 蓋
B1 ボルト
B2 ボルト
B3 ボルト
B4 ボルト
B5 ボルト
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7