(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0019】
まず、ディーゼルエンジン100について簡単に説明する。
【0020】
図1は、ディーゼルエンジン100の構成を示す正面図であり、
図2は、その右側面図である。
図3は、ディーゼルエンジン100の作動態様を示す模式図である。なお、図中の矢印Faは、吸入された空気の流れ方向を示し、図中の矢印Feは、排気の流れ方向を示している。また、図中の矢印Sは、ピストン13の摺動方向を示し、図中の矢印Rは、クランクシャフト14の回転方向を示している。
【0021】
ディーゼルエンジン100は、主にエンジン主体部1と、吸気経路2と、排気経路3と、コモンレールシステム4と、で構成される。
【0022】
エンジン主体部1は、燃料の燃焼による膨張エネルギーを利用して回転動力を発生させる。エンジン主体部1は、主にシリンダブロック11と、シリンダヘッド12と、ピストン13と、クランクシャフト14と、で構成される。
【0023】
エンジン主体部1には、シリンダブロック11に設けられたシリンダ11cと、該シリンダ11cに摺動可能に内設されたピストン13と、該ピストン13に対向するように配置されたシリンダヘッド12と、で作動室Wが構成されている。即ち、作動室Wとは、ピストン13の摺動運動によって容積が変化するシリンダ11cの内部空間を意味する。ピストン13は、コネクティングロッド15によってクランクシャフト14のピン部と連結されており、該ピストン13の摺動によってクランクシャフト14を回転させる。なお、エンジン主体部1の具体的な作動態様については後述する。
【0024】
吸気経路2は、外部から吸入された空気をシリンダ11c内に導く。即ち、吸気経路2は、外部から吸入された空気を作動室Wに導く。吸気経路2は、空気が流れる方向に沿って、主にエアクリーナ(図示せず)と、吸気マニホールド22と、で構成される。
【0025】
エアクリーナは、濾紙又はスポンジ等によって吸入された空気を濾過する。エアクリーナは、空気を濾過することで埃等の異物が作動室Wに混入するのを防止している。
【0026】
吸気マニホールド22は、エアクリーナによって濾過された空気を各作動室Wに分配する。本ディーゼルエンジン100は、複数の作動室Wが設けられた多気筒エンジンであることから、吸気マニホールド22は、各作動室W毎に設けられた吸気ポート12Ipの入口穴を覆うように形成されている。なお、本ディーゼルエンジン100では、吸気ポート12Ipの入口穴がシリンダヘッド12の上面に設けられているため、吸気マニホールド22もシリンダヘッド12の上面に取り付けられている。
【0027】
排気経路3は、シリンダ11c内から排出された排気を排気口まで導く。即ち、排気経路3は、各作動室Wから排出された排気を排気口まで導く。排気経路3は、排気の流れる方向に沿って、主に排気マニホールド31と、排気浄化装置32と、で構成される。
【0028】
排気マニホールド31は、各作動室Wから排出された排気を集合させる。本ディーゼルエンジン100は、複数の作動室Wが設けられた多気筒エンジンであることから、排気マニホールド31は、各作動室W毎に設けられた排気ポート12Epの出口穴と連通するように形成されている。なお、本ディーゼルエンジン100では、排気ポート12Epの出口穴がシリンダヘッド12の側面に設けられているため、排気マニホールド31もシリンダヘッド12の側面に取り付けられている。
【0029】
排気浄化装置32は、排気に含まれる環境負荷物質を取り除く。排気浄化装置32には、酸化触媒担体(Diesel Oxidation Catalyst:以降「DOC」という)が内蔵されている。DOCは、排気に含まれるCO(一酸化炭素)やHC(炭化水素)を酸化して無害化するとともに、粒子状物質であるSOF(有機可溶成分)を酸化して除去する。
【0030】
コモンレールシステム4は、自由に噴射パターンを設定できる燃料噴射装置である。コモンレールシステム4は、主にサプライポンプ41と、レール42と、インジェクタ43と、で構成される。
【0031】
サプライポンプ41は、燃料タンクから供給された燃料をレール42へ圧送する。サプライポンプ41は、複数のギヤを介して伝達されたクランクシャフト14の回転動力によって駆動される。サプライポンプ41は、駆動軸41Sの回転によって摺動するプランジャを備え、該プランジャが加圧した燃料をレール42へ送り出す。
【0032】
レール42は、サプライポンプ41から圧送された燃料を高圧のまま貯える。レール42は、略円筒形状に形成された金属管である。レール42は、リミッタバルブを備え、燃料の圧力が所定の値を超えないように設計されている。また、レール42には、複数の配管が取り付けられ、各インジェクタ43へ燃料を導くことができる。
【0033】
インジェクタ43は、レール42から供給された燃料を適宜に噴射する。インジェクタ43は、噴射口を有する先端部が作動室W内に突出するようにシリンダヘッド12に取り付けられている。インジェクタ43は、例えばピエゾ素子やソレノイドで駆動するアーマチャを備え、駆動する時期や期間を調節することによって様々な噴射パターンを実現できる。
【0034】
なお、本ディーゼルエンジン100においては、レール42における燃料の圧力変動を低減するため、サプライポンプ41の燃料圧送時期とインジェクタ43の燃料噴射時期を同期させている。従って、後述するポンプギヤ41Gとカムギヤ18Gの噛み合わせ位置が重要となる。ポンプギヤ41Gとカムギヤ18Gの噛み合わせ位置を確認できる構造については後述する。
【0035】
次に、
図3を用いてディーゼルエンジン100の作動態様について簡単に説明する。なお、本ディーゼルエンジン100は、吸気行程、圧縮行程、膨張行程、排気行程の各工程をクランクシャフト14が二回転する間に完結する4サイクルエンジンである。
【0036】
吸気工程は、吸気バルブ12Ivを開弁するとともにピストン13を下方へ摺動させて、作動室W内に空気を吸い込む行程である。吸気バルブ12Ivは、カムシャフト18がプッシュロッドを押し上げ、該プッシュロッドがバルブアームを押すことで開弁される(
図4参照)。カムシャフト18は、複数のギヤを介して伝達されたクランクシャフト14の回転動力によって駆動される。
【0037】
圧縮工程は、吸気バルブ12Ivを閉弁するとともにピストン13を上方へ摺動させて、作動室W内の空気を圧縮する行程である。吸気バルブ12Ivは、スプリングの付勢力によって閉弁される。バルブアームは、吸気バルブ12Ivによって押され、プッシュロッドは、バルブアームによって押し下げられる。
【0038】
その後、圧縮されて高温高圧となった空気中にインジェクタ43から燃料が噴射される。すると、燃料は、ピストン13の上面に設けられた燃焼室C内で分散して蒸発し、空気と混合して燃焼を開始する。こうして、ディーゼルエンジン100は、ピストン13を再び下方へ摺動させる膨張行程に移行する。
【0039】
膨張行程は、燃料が燃焼したことによる膨張エネルギーによってピストン13を押し下げる行程である。燃焼室C及び作動室W内に形成された火炎は、空気を膨張させてピストン13を押し下げる。なお、膨張行程では、ピストン13からコネクティングロッド15を介してクランクシャフト14に回転トルクが付与される。このとき、クランクシャフト14に取り付けられたフライホイル16によって運動エネルギーが保存されるため、クランクシャフト14は回転を持続する(
図2参照)。こうして、ディーゼルエンジン100は、ピストン13を再び上方へ摺動させて排気行程に移行するのである。
【0040】
排気工程は、排気バルブ12Evを開弁するとともにピストン13を上方へ摺動させて、作動室W内の既燃ガスを排気として押し出す行程である。排気バルブ12Evは、カムシャフト18がプッシュロッドを押し上げ、該プッシュロッドがバルブアームを押すことで開弁される(
図4参照)。カムシャフト18は、複数のギヤを介して伝達されたクランクシャフト14の回転動力によって駆動される。
【0041】
こうして、ディーゼルエンジン100は、吸気行程、圧縮行程、膨張行程、排気行程の各工程をクランクシャフト14が二回転する間に完結する。ディーゼルエンジン100は、全ての作動室Wで上記の各行程を繰り返すことにより、連続して運転できるのである。
【0042】
次に、クランクシャフト14の回転動力をカムシャフト18やサプライポンプ41に伝達する構造について説明する。
【0043】
図4は、クランクシャフト14の回転動力を伝達するギヤトレーンを示す図である。図中に示す矢印は、各ギヤの回転方向を示している。
【0044】
上述したように、燃料が燃焼したことによる膨張エネルギーによってクランクシャフト14に回転トルクが付与される。クランクギヤ14Gは、クランクシャフト14に固定されているため、該クランクシャフト14とともに回転する。
【0045】
アイドルギヤ17Gは、クランクギヤ14Gに噛み合わされた状態で回転自在に支持されている。アイドルギヤ17Gは、クランクギヤ14Gの回転に伴って従動して回転する。アイドルギヤ17Gを支持しているアイドルシャフト17は、シリンダブロック11に固定されている。なお、本ディーゼルエンジン100において、アイドルギヤ17Gは、クランクギヤ14Gの右側方(
図4における左側)に配置されている。
【0046】
カムギヤ18Gは、アイドルギヤ17Gに噛み合わされた状態で回転自在に支持されている。カムギヤ18Gは、アイドルギヤ17Gの回転に伴って従動して回転する。カムギヤ18Gは、カムシャフト18に固定されているため、該カムシャフト18を回転させる。つまり、クランクシャフト14の回転動力は、クランクギヤ14Gやアイドルギヤ17Gを介してカムシャフト18に伝達されるのである。なお、本ディーゼルエンジン100において、カムギヤ18Gは、アイドルギヤ17Gの上方に配置されている。従って、カムシャフト18は、クランクシャフト14に対して右斜上方(
図4における左斜上)に配置される。
【0047】
ポンプギヤ41Gは、カムギヤ18Gに噛み合わされた状態で回転自在に支持されている。ポンプギヤ41Gは、カムギヤ18Gの回転に伴って従動して回転する。ポンプギヤ41Gは、サプライポンプ41の駆動軸41Sに固定されているため、該サプライポンプ41を駆動させる。つまり、クランクシャフト14の回転動力は、クランクギヤ14Gやアイドルギヤ17G、カムギヤ18Gを介してサプライポンプ41に伝達されるのである。なお、本ディーゼルエンジン100において、ポンプギヤ41Gは、カムギヤ18Gの右斜上方(
図4における左斜上)に配置されている。従って、サプライポンプ41は、クランクシャフト14に対して右斜上方(
図4における左斜上)に配置される。
【0048】
このように、本ディーゼルエンジン100は、クランクギヤ14Gから右斜上方(
図4における左斜上)に向けて直列に各ギヤが配置されている。そして、カムギヤ18Gとポンプギヤ41Gも、このギヤトレーンの一部を構成している。こうすることで、サプライポンプ41は、必然的にカムシャフト18の他、該カムシャフト18によって可動される吸気バルブ12Ivや排気バルブ12Evの近傍に配置されることとなる。
【0049】
このような構成により、本ディーゼルエンジン100は、吸気バルブ12Ivや排気バルブ12Ev及びサプライポンプ41等のメンテナンスを行なう際に、作業者が移動することなく一定の方向から作業でき、整備性を向上させることが可能となる。具体的には、
図1に示す矢印Xの方向から作業でき、整備性を向上させることが可能となる。
【0050】
また、上述したように、本ディーゼルエンジン100は、クランクギヤ14Gから右斜上方(
図4における左斜上)に向けて直列に各ギヤが配置されている。即ち、ディーゼルエンジン100は、上下方向に各ギヤが配置されたギヤトレーンを有している。これにより、ディーゼルエンジン100の全幅を小さくすることが可能となる。
【0051】
次に、サプライポンプ41を取り付ける構造について説明する。
【0052】
図5Aは、
図4に示す領域Rを拡大した図である。
図5Bは、
図4に示す矢印Tの方向から見た図である。
【0053】
ギヤケースフランジ5は、サプライポンプ41やオイルポンプ(図示せず)を支持するための部材である。ギヤケースフランジ5は、複数のボルトB1によってシリンダブロック11に固定される。
【0054】
スペーサ6は、サプライポンプ41をギヤケースフランジ5に取り付けるための部材である。スペーサ6は、複数のボルトB2及びボルトB5によってギヤケースフランジ5に固定される。なお、スペーサ6は、各ギヤが配置されたギヤケースフランジ5の前面側ではなく、裏面側に固定される。詳細に説明すると、スペーサ6は、ギヤケースフランジ5の裏面側であって、エンジン主体部1の右側方に固定される(
図2参照)。
【0055】
ギヤケース7は、ポンプギヤ41Gやその他のギヤを保護するための部材である。ギヤケース7は、上述したギヤトレーンを全て覆うように形成されている。つまり、ギヤケース7は、ポンプギヤ41Gやその他のギヤを収納できる。ギヤケース7は、複数のボルトB3によってギヤケースフランジ5とともにシリンダブロック11に固定される。
【0056】
サプライポンプ41は、複数のボルトB4によってスペーサ6に固定される。スペーサ6は、ギヤケースフランジ5の裏面側であって、エンジン主体部1の右側方に固定されるので、サプライポンプ41も同じような位置に配置される。つまり、サプライポンプ41は、ギヤケースフランジ5の裏面側であって、エンジン主体部1の右側方にスペーサ6を介して固定される(
図2参照)。
【0057】
以下に、本ディーゼルエンジン100が採用している構造について詳細に説明し、かかる構造による効果を述べる。
【0058】
図5A及び
図5Bに示すように、ギヤケースフランジ5には、通路穴5hが設けられている。通路穴5hは、サプライポンプ41の駆動軸41Sを中心とした円形状の穴である。通路穴5hの直径Dhは、ポンプギヤ41Gの直径Dpよりも大きく設定されている。つまり、通路穴5hの直径Dhとポンプギヤ41Gの直径Dpは、以下の数式を満たす。 数式:Dh>Dp
【0059】
このような構造により、スペーサ6に固定された状態のサプライポンプ41は、ギヤケースフランジ5の通路穴5hにポンプギヤ41Gを通すことで、該ポンプギヤ41Gが駆動軸41Sに固定された状態のまま脱着できる(
図6、
図7参照)。これにより、サプライポンプ41等のメンテナンスを行なう際に、サプライポンプ41の脱着が容易となり、整備性を向上させることが可能となる。
【0060】
更に、従来のディーゼルエンジンと異なり、ギヤケース7にポンプギヤ41Gを取り外すための作業穴が不要となることから、該作業穴を塞ぐための蓋も不要となってギヤケース7を小型化できる。これにより、ディーゼルエンジン100の全幅を小さくすることが可能となる。なお、通路穴を塞ぐための蓋が不要となることから、ギヤケース7の設計自由度が向上するという効果も奏する。
【0061】
また、
図5Bに示すように、スペーサ6とギヤケース7は、ギヤケースフランジ5を挟み込んだ状態で固定される。ギヤケース7を固定するためのボルトB3は、ギヤケース7とギヤケースフランジ5のボルト穴を通り、シリンダブロック11に設けられたネジ穴に締め付けられる。
【0062】
一方、スペーサ6を固定するためのボルトB2は、ギヤケースフランジ5のボルト穴を通り、スペーサ6に設けられたネジ穴に締め付けられる(本実施形態においてボルトB2は2本)。また、ボルトB5は、ギヤケース7とギヤケースフランジ5のボルト穴を通り、スペーサ6に設けられたネジ穴に締め付けられる(本実施形態においてボルトB5は5本)。ボルトB2及びボルトB5は、ディーゼルエンジン100の正面側から取り付けられる。
【0063】
このように、スペーサ6を固定するためのボルトB2及びボルトB5は、ギヤケースフランジ5を介して同じ方向から取り付けられる。これにより、サプライポンプ41の取り外し作業やサプライポンプ41の取り付け作業を行なう際に、作業者が移動することなく一定の方向から作業でき、整備性を向上させることが可能となる。具体的には、
図2に示す矢印Yの方向から作業でき、整備性を向上させることが可能となる。
【0064】
更に、ギヤケース7には、ポンプギヤ41Gとカムギヤ18Gの噛み合わせ部分を確認できる観察穴7hが設けられている。従って、作業者は、蓋7tを取り外すことで、ポンプギヤ41Gとカムギヤ18Gの噛み合わせ位置を確認できる。
【0065】
このように、ギヤケース7は、ポンプギヤ41Gとカムギヤ18Gの噛み合わせ位置を確認できる観察穴7hを有する。これにより、ギヤケース7を取り付けた状態でサプライポンプ41の取り付け作業を行なうことができ、整備性を向上させることが可能となる。
【0066】
以下に、本ディーゼルエンジン100におけるサプライポンプ41の取り外し作業及びサプライポンプ41の取り付け作業について簡単に説明する。
【0067】
図6は、サプライポンプ41の取り外し作業を示す図である。サプライポンプ41の取り外し作業は、下記の工程で行なわれる。なお、サプライポンプ41は、スペーサ6に固定された状態のまま取り外し作業が行なわれる。
1:ボルトB2及びボルトB5を緩めて取り外す。
2:サプライポンプ41を矢印の方向に引き抜く。
このように、本ディーゼルエンジン100では、サプライポンプ41を容易に取り外すことができる。
【0068】
図7は、サプライポンプ41の取り付け作業を示す図である。サプライポンプ41の取り付け作業は、下記の工程で行なわれる。なお、サプライポンプ41は、スペーサ6に固定された状態のまま取り付け作業が行なわれる。
1:蓋7tを取り外す。
2:噛み合わせ位置を確認しながらサプライポンプ41を矢印の方向に挿入する。
3:ボルトB2及びボルトB5を締め付ける。
4:蓋7tを取り付ける。
このように、本ディーゼルエンジン100では、サプライポンプ41を容易に取り付けることができる。