特許第5902098号(P5902098)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5902098
(24)【登録日】2016年3月18日
(45)【発行日】2016年4月13日
(54)【発明の名称】ロイコ型色原体含有水溶液の保存方法
(51)【国際特許分類】
   C09B 67/00 20060101AFI20160331BHJP
   C09B 21/00 20060101ALI20160331BHJP
   C09B 67/44 20060101ALI20160331BHJP
   C07C 309/14 20060101ALI20160331BHJP
   C07D 213/76 20060101ALI20160331BHJP
【FI】
   C09B67/00 L
   C09B21/00
   C09B67/44 C
   C07C309/14
   C07D213/76
【請求項の数】7
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-548775(P2012-548775)
(86)(22)【出願日】2011年12月12日
(86)【国際出願番号】JP2011078670
(87)【国際公開番号】WO2012081540
(87)【国際公開日】20120621
【審査請求日】2014年9月29日
(31)【優先権主張番号】特願2010-276551(P2010-276551)
(32)【優先日】2010年12月13日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000162478
【氏名又は名称】協和メデックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107984
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 雅紀
(72)【発明者】
【氏名】征矢 陽代
【審査官】 土橋 敬介
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−189662(JP,A)
【文献】 特開2005−110507(JP,A)
【文献】 国際公開第2005/088305(WO,A1)
【文献】 特表2005−524071(JP,A)
【文献】 特開2008−210968(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09B 67/00
C07C 309/14
C07D 213/76
C09B 21/00
C09B 67/44
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロイコ型色原体含有水溶液に、以下の一般式(I)
【化1】
(式中、RとRは同一又は異なって、それぞれ、水素原子、又は、置換若しくは非置換のアルキル基を表し、Rは、酸素原子、又は、R−Nで表わされる基を表し、Rは、置換若しくは非置換の2−ピリジルを表し、Xは、水酸基又はアミノ基を表す。)で表わされる化合物又はその塩を添加することを特徴とする、ロイコ型色原体含有水溶液の保存方法。
【請求項2】
ロイコ型色原体を、以下の一般式(I)
【化2】
(式中、RとRは同一又は異なって、それぞれ、水素原子、又は、置換若しくは非置換のアルキル基を表し、Rは、酸素原子、又は、R−Nで表わされる基を表し、Rは、置換若しくは非置換の2−ピリジルを表し、Xは、水酸基又はアミノ基を表す。)で表わされる化合物又はその塩を含む水溶液中で共存させることを特徴とする、ロイコ型色原体の安定化方法。
【請求項3】
ロイコ型色原体が、フェノチアジン系色原体である請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
フェノチアジン系色原体が、10−(カルボキシメチルアミノカルボニル)−3,7−ビス(ジメチルアミノ)フェノチアジンである請求項記載の方法。
【請求項5】
ロイコ型色原体と、以下の一般式(I)
【化3】
(式中、RとRは同一又は異なって、それぞれ、水素原子、又は、置換若しくは非置換のアルキル基を表し、Rは、酸素原子、又は、R−Nで表わされる基を表し、Rは、置換若しくは非置換の2−ピリジルを表し、Xは、水酸基又はアミノ基を表す。)で表わされる化合物又はその塩とを含有する液状試薬。
【請求項6】
ロイコ型色原体が、フェノチアジン系色原体である請求項記載の試薬。
【請求項7】
フェノチアジン系色原体が、10−(カルボキシメチルアミノカルボニル)−3,7−ビス(ジメチルアミノ)フェノチアジンである請求項記載の試薬。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロイコ型色原体含有水溶液の保存方法、ロイコ型色原体の安定化方法及びロイコ型色原体を含有する液状試薬に関する。
【背景技術】
【0002】
ロイコ型色原体は、ペルオキシダーゼ等の過酸化活性物質の存在下、過酸化水素と反応し、色素を生成する色原体の1種であり、カップリング型色原体とは異なり、それ単独で色素を生成する色原体であり、フェノチアジン系のロイコ型色原体、トリフェニルメタン系のロイコ型色原体、ジフェニルアミン系のロイコ型色原体等が知られている(例えば、特許文献1〜3参照)。
【0003】
ロイコ型色原体は、カップリング型色原体と同様、血清等の試料中に存在するコレステロールや糖化ヘモグロビン等の定量すべき成分の定量にしばしば使用される。すなわち、試料中の定量すべき成分を過酸化水素に変換し、生成した過酸化水素を、ペルオキシダーゼ等の過酸化活性物質の存在下、ロイコ型色原体と反応させて色素に導き、生成した色素の吸光度から、試料中の定量すべき成分を定量することが、臨床検査において、しばしば行われている。特に、ロイコ型色原体は、高感度色原体として、試料中に微量しか存在しない定量すべき成分の定量に好適に用いられる(例えば、非特許文献1参照)。
【0004】
この様に、ロイコ型色原体は、高感度色原体として、試料中の微量の定量すべき成分の定量に使用されるが、一方で、その保存安定性が悪く、特に、溶液中では時間と共に、自然発色してしまうという欠点を有している。このロイコ型色原体の有する安定性不良という課題に対して、これまで、ロイコ型色原体の溶液中で安定化方法が検討され、報告されている(例えば、特許文献4、5参照)。しかしながら、これらのロイコ型色原体の安定化方法は厳しい条件下で行わなければならない等、必ずしも、満足の行く安定化方法とは言えない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭57−029297号公報
【特許文献2】特開平3−206896号公報
【特許文献3】特開昭62−093261号公報
【特許文献4】WO2005/088305パンフレット
【特許文献5】WO2007/083703パンフレット
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】臨床検査,1997年,Vol.41,No.9,p.1014-1019
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、ロイコ型色原体が水溶液中で安定に保存されるロイコ型色原体含有水溶液の保存方法、及び、ロイコ型色原体の安定化方法およびロイコ型色原体を安定に保持する試薬を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは本課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、ロイコ型色原体含有水溶液に、ニトロソ基及びアゾ基からなる群より選ばれる少なくとも一つの置換基を有し、かつ、金属イオン配位能を有する化合物又はその塩を添加することにより、ロイコ型色原体が安定に保持される、という知見を見出し、本発明を完成させた。すなわち、本発明は、以下の[1]〜[9]に関する。
【0009】
[1] ロイコ型色原体含有水溶液に、ニトロソ基及びアゾ基からなる群より選ばれる少なくとも一つの置換基を有し、かつ、金属イオン配位能を有する化合物又はその塩を添加することを特徴とする、ロイコ型色原体含有水溶液の保存方法。
[2] ロイコ型色原体を、ニトロソ基及びアゾ基からなる群より選ばれる少なくとも一つの置換基を有し、かつ、金属イオン配位能を有する化合物又はその塩を含む水溶液中で共存させることを特徴とする、ロイコ型色原体の安定化方法。
【0010】
[3] ニトロソ基及びアゾ基からなる群より選ばれる少なくとも一つの置換基を有し、かつ、金属イオン配位能を有する化合物又はその塩が、以下の一般式(I)
【0011】
【化1】
【0012】
(式中、RとRは同一又は異なって、それぞれ、水素原子、又は、置換若しくは非置換のアルキル基を表し、Rは、酸素原子、又は、R−Nで表わされる基を表し、Rは、置換若しくは非置換の2−ピリジルを表し、Xは、水酸基又はアミノ基を表す。)で表わされる化合物又はその塩である、[1]又は[2]記載の方法。
【0013】
[4] ロイコ型色原体が、フェノチアジン系色原体である[1]〜[3]のいずれかに記載の方法。
[5] フェノチアジン系色原体が、10−(カルボキシメチルアミノカルボニル)−3,7−ビス(ジメチルアミノ)フェノチアジンである[4]記載の方法。
【0014】
[6] ロイコ型色原体と、ニトロソ基及びアゾ基からなる群より選ばれる少なくとも一つの置換基を有し、かつ、金属イオン配位能を有する化合物又はその塩とを含有する液状試薬。
[7] ニトロソ基及びアゾ基からなる群より選ばれる少なくとも一つの置換基を有し、かつ、金属イオン配位能を有する化合物又はその塩が、以下の一般式(I)
【0015】
【化2】
【0016】
(式中、RとRは同一又は異なって、それぞれ、水素原子、又は、置換若しくは非置換のアルキル基を表し、Rは、酸素原子、又は、R−Nで表わされる基を表し、Rは、置換若しくは非置換の2−ピリジルを表し、Xは、水酸基又はアミノ基を表す。)で表わされる化合物又はその塩である、[6]記載の試薬。
【0017】
[8] ロイコ型色原体が、フェノチアジン系色原体である[6]又は[7]記載の試薬。
[9] フェノチアジン系色原体が、10−(カルボキシメチルアミノカルボニル)−3,7−ビス(ジメチルアミノ)フェノチアジンである[8]記載の試薬。
【発明の効果】
【0018】
本発明により、ロイコ型色原体を水溶液中で安定に保存されるロイコ型色原体含有水溶液の保存方法、ロイコ型色原体の安定化方法、ロイコ型色原体を含有する液状試薬が提供される。本発明の方法及び試薬は、糖尿病の診断に用いられる糖化ヘモグロビンの測定等に有用である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(1)ロイコ型色原体含有水溶液の保存方法とロイコ型色原体の安定化方法
本発明は、ロイコ型色原体含有水溶液の保存方法に関する。本発明のロイコ型色原体含有水溶液の保存方法により、水溶液中でロイコ型色原体が安定に保存される。ロイコ型色原体が水溶液中で安定に保存されるとは、水溶液中でロイコ型色原体が熱に対して安定であることのみならず、光に対しても安定であることを意味する。
【0020】
本発明のロイコ型色原体含有水溶液の保存方法においては、ニトロソ基及びアゾ基からなる群より選ばれる少なくとも一つの置換基を有し、かつ、金属イオン配位能を有する化合物又はその塩が、ロイコ型色原体含有水溶液に添加される。
【0021】
本発明におけるニトロソ基及びアゾ基からなる群より選ばれる少なくとも一つの置換基を有し、かつ、金属イオン配位能を有する化合物又はその塩は、ニトロソ基及びアゾ基からなる群より選ばれる少なくとも一つの置換基を有し、金属イオン配位能を有し、かつ、ロイコ型色原体を安定に保持し得る化合物又はその塩であれば特に制限はなく、例えば以下の一般式(I)
【0022】
【化3】
【0023】
(式中、RとRは同一又は異なって、それぞれ、水素原子、又は、置換若しくは非置換のアルキル基を表し、Rは、酸素原子、又は、R−Nで表わされる基を表し、Rは、置換若しくは非置換の2−ピリジルを表し、Xは、水酸基又はアミノ基を表す。)で表わされる化合物又はその塩[以下、化合物(I)と記す]等が挙げられる。
【0024】
化合物(I)において、アルキル基としては、例えば炭素数1〜6のメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等が挙げられる。置換アルキル基における置換基としては、スルホ基、カルボキシル基、水酸基、アミド基、ハロゲン原子等が挙げられる。ハロゲン原子としては、例えば塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられる。置換2−ピリジルの置換基としては、電子供与性基、電子吸引性基等が挙げられ、電子吸引性基が好ましい。
【0025】
電子供与性基としては、アルキル基、アルコキシ基、水酸基、置換若しくは非置換のアミノ基、チオアルキル基等が挙げられる。アルキル基及びアルコキシ基におけるアルキルとしては、例えば炭素数1〜6のメチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル等が挙げられる。置換アミノ基としては、N−モノ置換アミノ基、N,N−ジ置換アミノ基等が挙げられる。置換アミノ基における置換基としては、例えば前述のアルキル基等が挙げられる。
【0026】
電子吸引性基としては、例えばニトロ基、シアノ基、ホルミル基、アシル基、ハロゲン原子、スルホ基、カルボキシル基等が挙げられる。置換2−ピリジルの具体例としては、例えば5−ニトロ−2−ピリジル、5−クロロ−2−ピリジル、5−ブロモ−2−ピリジル、5−ヨード−2−ピリジル、5−スルホ−2−ピリジル、5−カルボキシ−2−ピリジル等が挙げられる。塩としては、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩、カルシウム塩等が挙げられる。また、化合物(I)には、水和物も含まれる。
【0027】
化合物(I)の具体例(製品)としては、例えばNitroso-PSAP{2−ニトロソ−5−[N−プロピル−N−(3−スルホプロピル)アミノ]フェノール}、Nitro-PAPS{2−(5−ニトロ−2−ピリジルアゾ)−5−[N−プロピル−N−(スルホプロピル)アミノ]フェノール 二ナトリウム塩、二水和物}、5-Br-PSAA{2−(5−ブロモ−2−ピリジルアゾ)−5−[N−プロピル−N−(スルホプロピル)アミノ]アニリン ナトリウム塩}、5-Br-PAPS{2−(5−ブロモ−2−ピリジルアゾ)−5−[N−プロピル−N−(スルホプロピル)アミノ]フェノール 二ナトリウム塩、二水和物}(いずれも、同仁化学研究所社製)等が挙げられる。
【0028】
本発明のロイコ型色原体の保存方法において、ロイコ型色原体の保存安定性は、ロイコ型色原体含有水溶液の着色により評価することができ、着色が大きい程、すなわち、ロイコ型色原体含有水溶液の吸光度が大きい程、安定性が悪いと評価することができる。一方、ロイコ型色原体含有水溶液の着色が小さい程、すなわち、ロイコ型色原体含有水溶液の吸光度が小さい程、安定性が良いと評価することができる。
【0029】
本発明におけるロイコ型色原体含有水溶液とは、ロイコ型色原体が水性媒体中に溶解された水溶液であり、ロイコ型色原体を水性媒体に添加して溶解させることにより調製することができる。ロイコ型色原体が溶解される水性媒体は、ロイコ型色原体が溶解されれば特に制限はなく、例えば脱イオン水、蒸留水、緩衝液等が挙げられ、緩衝液が好ましい。また、ロイコ型色原体含有水溶液の調製に際して、ロイコ型色原体の水性媒体への溶解補助剤として、有機溶媒を用いることもできる。有機溶媒に溶解させたロイコ型色原体を水性媒体に添加し、ロイコ型色原体を水性媒体に溶解させ、ロイコ型色原体含有水溶液を調製することもできる。有機溶媒としては、ロイコ型色原体を溶解させるものであれば特に制限はなく、例えばジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジオキサン、アセトン、メタノール、エタノール等が挙げられる。
【0030】
水性媒体のpHは、ロイコ型色原体が溶解されるpHであれば特に制限はなく、例えばpH4〜10である。水性媒体として緩衝液を用いる場合には、設定するpHに応じた緩衝剤を用いることが望ましい。緩衝液に用いる緩衝剤としては、例えばトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン緩衝剤、リン酸緩衝剤、ホウ酸緩衝剤、グッドの緩衝剤等が挙げられる。
【0031】
グッドの緩衝剤としては、例えば2−モルホリノエタンスルホン酸(MES)、ビス(2−ヒドロキシエチル)イミノトリス(ヒドロキシメチル)メタン(Bis−Tris)、N−(2−アセトアミド)イミノ二酢酸(ADA)、ピペラジン−N,N’−ビス(2−エタンスルホン酸)(PIPES)、N−(2−アセトアミド)−2−アミノエタンスルホン酸(ACES)、3−モルホリノ−2−ヒドロキシプロパンスルホン酸(MOPSO)、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−2−アミノエタンスルホン酸(BES)、3−モルホリノプロパンスルホン酸(MOPS)、N−〔トリス(ヒドロキシメチル)メチル〕−2−アミノエタンスルホン酸(TES)、2−〔4−(2−ヒドロキシエチル)−1−ピペラジニル〕エタンスルホン酸(HEPES)、3−〔N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)アミノ〕−2−ヒドロキシプロパンスルホン酸(DIPSO)、N−〔トリス(ヒドロキシメチル)メチル〕−2−ヒドロキシ−3−アミノプロパンスルホン酸(TAPSO)、ピペラジン−N,N’−ビス(2−ヒドロキシプロパンスルホン酸)(POPSO)、3−〔4−(2−ヒドロキシエチル)−1−ピペラジニル〕−2−ヒドロキシプロパンスルホン酸(HEPPSO)、3−〔4−(2−ヒドロキシエチル)−1−ピペラジニル〕プロパンスルホン酸〔(H)EPPS〕、N−〔トリス(ヒドロキシメチル)メチル〕グリシン(Tricine)、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)グリシン(Bicine)、N−トリス(ヒドロキシメチル)メチル−3−アミノプロパンスルホン酸(TAPS)、N−シクロヘキシル−2−アミノエタンスルホン酸(CHES)、N−シクロヘキシル−3−アミノ−2−ヒドロキシプロパンスルホン酸(CAPSO)、N−シクロヘキシル−3−アミノプロパンスルホン酸(CAPS)等が挙げられる。
【0032】
緩衝液の濃度は、ロイコ型色原体が溶解される濃度であれば特に制限はされないが、通常0.001〜2.0mol/Lであり、0.005〜1.0mol/Lが好ましい。
【0033】
本発明におけるロイコ型色原体としては、例えばフェノチアジン系色原体、トリフェニルメタン系色原体、ジフェニルアミン系色原体、o−フェニレンジアミン、ヒドロキシプロピオン酸、ジアミノベンジジン、テトラメチルベンジジン等が挙げられ、フェノチアジン系色原体が好ましい。フェノチアジン系色原体としては、例えば10−N−カルボキシメチルカルバモイル−3,7−ビス(ジメチルアミノ)−10H−フェノチアジン(CCAP)、10−N−メチルカルバモイル−3,7−ビス(ジメチルアミノ)−10H−フェノチアジン(MCDP)、10−N−(カルボキシメチルアミノカルボニル)−3,7−ビス(ジメチルアミノ)−10H−フェノチアジン ナトリウム塩(DA−67)等が挙げられる。フェノチアジン系色原体の中でも、10−N−(カルボキシメチルアミノカルボニル)−3,7−ビス(ジメチルアミノ)−10H−フェノチアジン ナトリウム塩(DA−67)が特に好ましい。トリフェニルメタン系色原体としては、例えばN,N,N’,N’,N’’,N’’−ヘキサ(3−スルホプロピル)−4,4’,4’’−トリアミノトリフェニルメタン(TPM−PS)等が挙げられる。ジフェニルアミン系色原体としては、例えばN−(カルボキシメチルアミノカルボニル)−4,4’−ビス(ジメチルアミノ)ジフェニルアミン ナトリウム塩(DA−64)、4,4’−ビス(ジメチルアミノ)ジフェニルアミン、ビス〔3−ビス(4−クロロフェニル)メチル−4−ジメチルアミノフェニル〕アミン(BCMA)等が挙げられる。
【0034】
さらに、本発明は、ロイコ型色原体の安定化方法に関する。本発明におけるロイコ型色原体の安定化とは、ロイコ型色原体含有水溶液中のロイコ型色原体の熱に対する安定化のみならず、ロイコ型色原体の光に対する安定化をも意味する。ここで、ロイコ型色原体の安定化は、ロイコ型色原体含有水溶液の着色により評価することができ、着色が大きい程、すなわち、ロイコ型色原体含有水溶液の吸光度が大きい程、安定性が悪いと評価する。一方、ロイコ型色原体含有水溶液の着色が小さい程、すなわち、ロイコ型色原体含有水溶液の吸光度が小さい程、安定性が良いと評価する。
【0035】
本発明のロイコ型色原体の安定化方法においては、ロイコ型色原体を、ニトロソ基及びアゾ基からなる群より選ばれる少なくとも一つの置換基を有し、かつ、金属イオン配位能を有する化合物又はその塩を含む水溶液中で共存させる。本発明のロイコ型色原体の安定化方法に用いられるニトロソ基及びアゾ基からなる群より選ばれる少なくとも一つの置換基を有し、かつ、金属イオン配位能を有する化合物又はその塩としては、前述の、ニトロソ基及びアゾ基からなる群より選ばれる少なくとも一つの置換基を有し、かつ、金属イオン配位能を有する化合物又はその塩等が挙げられ、化合物(I)等が例示される。
【0036】
本発明の安定化方法において用いられるロイコ型色原体及びロイコ型色原体含有水溶液としては、前述のロイコ型色原体の保存方法におけるロイコ型色原体及びロイコ型色原体含有水溶液が挙げられる。本発明においてロイコ型色原体含有水溶液中のロイコ型色原体の濃度は、ロイコ型色原体が水性媒体に溶解される濃度であれば特に制限はされないが、通常0.0001〜2.0mmol/Lであり、0.0005〜1.0mmol/Lが好ましい。
【0037】
本発明において水溶液中にロイコ型色原体と共存させるニトロソ基及びアゾ基からなる群より選ばれる少なくとも一つの置換基を有し、かつ、金属イオン配位能を有する化合物又はその塩の濃度としては、通常0.0001〜200μmol/Lであり、0.005〜100μmol/Lが好ましい。
【0038】
本発明におけるロイコ型色原体の熱に対する安定性を測定する方法は、熱に対するロイコ型色原体の安定性を測定することができれば特に制限はないが、例えば、ロイコ型色原体を含有する水溶液を、5℃または30℃で保存した後の水溶液の着色を吸光度計により測定する方法等が挙げられる。
【0039】
また、本発明におけるロイコ型色原体の光による安定性を測定する方法は、光に対するロイコ型色原体の安定性を測定することができれば特に制限はないが、例えば、ロイコ型色原体を含有する水溶液に15時間光を照射し、照射後の水溶液の着色を吸光度計により測定する方法等が挙げられる。
【0040】
(2)液状試薬
本発明の液状試薬は、ロイコ型色原体と、ニトロソ基及びアゾ基からなる群より選ばれる少なくとも一つの置換基を有し、かつ、金属イオン配位能を有する化合物又はその塩とを含有する液状試薬である。
【0041】
本発明の液状試薬においては、ロイコ型色原体は、水性媒体中で、ニトロソ基及びアゾ基からなる群より選ばれる少なくとも一つの置換基を有し、かつ、金属イオン配位能を有する化合物又はその塩と共存する。本発明の液状試薬におけるロイコ型色原体としては、前述のロイコ型色原体が挙げられる。本発明の液状試薬における水性媒体としては、前述の水性媒体が挙げられる。本発明の液状試薬におけるニトロソ基及びアゾ基からなる群より選ばれる少なくとも一つの置換基を有し、かつ、金属イオン配位能を有する化合物又はその塩としては、前述の、ニトロソ基及びアゾ基からなる群より選ばれる少なくとも一つの置換基を有し、かつ、金属イオン配位能を有する化合物又はその塩等が挙げられ、化合物(I)等が例示される。
【0042】
本発明の液状試薬におけるニトロソ基及びアゾ基からなる群より選ばれる少なくとも一つの置換基を有し、かつ、金属イオン配位能を有する化合物又はその塩の濃度としては、通常0.0001〜10%であり、0.0005〜5%が好ましい。本発明の液状試薬におけるロイコ型色原体の濃度としては、ロイコ型色原体が水性媒体に溶解される濃度であれば特に制限はなく、通常0.0001〜2.0mmol/Lであり、0.0005〜1.0mmol/Lが好ましい。ロイコ型色原体の水性媒体への溶解に際しては、前述の有機溶媒を溶解補助剤として用いることもできる。
【0043】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、これらは本発明の範囲を何ら限定するものではない。
【0044】
尚、本実施例、比較例及び試験例においては、下記メーカーの試薬及び酵素を使用した。
【0045】
MES(同仁化学研究所社製)、ペルオキシダーゼ(東洋紡績社製)、BSA(プロメライン社製)、Nitroso-PSAP[化合物(I);同仁化学研究所社製]、5-Br-PSAA[化合物(I);同仁化学研究所社製]。
【実施例1】
【0046】
以下の組成からなるDA−67含有水溶液を調製した。
MES(pH6.3) 10mmol/L
DA−67 20μmol/L
Nitroso-PSAP 1μmol/L
【実施例2】
【0047】
以下の組成からなるDA−67含有水溶液を調製した。
MES(pH6.3) 10mmol/L
DA−67 20μmol/L
5-Br-PSAA 5μmol/L
【0048】
[比較例1]
以下の組成からなるDA−67含有水溶液を調製した。
MES(pH6.3) 10mmol/L
DA−67 20μmol/L
【実施例3】
【0049】
(1)DA−67安定性評価用試料の調製
実施例1のDA−67含有水溶液を5℃で7日間保存したもの、及び、30℃で7日間保存したものをDA−67安定性評価用試料として用いた。
【0050】
(2)安定性測定用試薬の調製
以下の組成からなる安定性測定用試薬を調製した。
<DA−67安定性測定用試薬>
MES(pH6.3) 10mmol/L
BSA 0.005%
【0051】
(3)DA−67含有水溶液中のDA−67の安定性の評価
調製直後の実施例1のDA−67含有水溶液30μLに(2)で調製したDA−67安定性測定用試薬120μLを添加し、37℃で5分間加温した後の溶液の吸光度(E直後)を、主波長660nm、副波長800nmで日立7170Sにて測定した。調製直後のDA−67含有水溶液の代わりに、(2)のDA−67安定性測定用試薬を用いて同様の測定を行い、吸光度(Eブランク)を測定した。E直後からEブランクを差し引き、調製直後のDA−67含有水溶液に対する吸光度(△E直後)とした。
【0052】
同様に、5℃で7日間保存したDA−67含有水溶液、及び、30℃で7日間保存したDA−67含有水溶液を試料として用いて測定を行い、5℃で7日間保存したDA−67含有水溶液に対する吸光度(△E5℃)、及び、30℃で7日間保存したDA−67含有水溶液に対する吸光度(△E30℃)をそれぞれ測定した。
【0053】
測定した△E5℃、△E30℃それぞれから△E直後を差し引いた値を、それぞれ△E、△Eとし、DA−67の安定性の指標とした。その結果を第1表に示す。△E、△Eのいずれにおいても、値が0に近い程、水溶液中での着色が抑制され、DA−67が水溶液中で安定に保存されること、すなわち、水溶液中でDA−67が安定化されることを示している。
【実施例4】
【0054】
実施例1のDA−67含有水溶液の代わりに、実施例2のDA−67含有水溶液を用いる以外は、実施例3と同様の方法により、△E、及び、△Eを測定した。その結果を第1表に示す。
【0055】
[比較例2]
実施例1のDA−67含有水溶液の代わりに、比較例1のDA−67含有水溶液を用いる以外は、実施例3と同様の方法により、△E、及び、△Eを測定した。その結果を第1表に示す。
【0056】
【表1】
【0057】
第1表に示される通り、実施例3〜4と比較例2との比較から、化合物(I)であるNitroso-PSAP又は5-Br-PSAAを含む水溶液中では、化合物(I)を含有しない場合と比較して、5℃でも30℃においても着色が顕著に抑制されていた。化合物(I)は、ニトロソ基及びアゾ基からなる群より選ばれる少なくとも一つの置換基を有し、かつ、金属イオン配位能を有する化合物又はその塩であることから、ニトロソ基及びアゾ基からなる群より選ばれる少なくとも一つの置換基を有し、かつ、金属イオン配位能を有する化合物又はその塩を含む水溶液中のDA−67が熱に対して安定であり、DA−67含有水溶液がニトロソ基及びアゾ基からなる群より選ばれる少なくとも一つの置換基を有し、かつ、金属イオン配位能を有する化合物又はその塩により安定に保存され、DA−67がニトロソ基及びアゾ基からなる群より選ばれる少なくとも一つの置換基を有し、かつ、金属イオン配位能を有する化合物又はその塩により水溶液中で安定化されることが明らかとなった。
【実施例5】
【0058】
以下の組成からなるDA−67含有水溶液を調製した。
MES(pH6.3) 10mmol/L
DA−67 20μmol/L
Nitroso-PSAP 5μmol/L
【実施例6】
【0059】
以下の組成からなるDA−67含有水溶液を調製した。
MES(pH6.3) 10mmol/L
DA−67 20μmol/L
Nitroso-PSAP 10μmol/L
【実施例7】
【0060】
以下の組成からなるDA−67含有水溶液を調製した。
MES(pH6.3) 10mmol/L
DA−67 20μmol/L
5-Br-PSAA 10μmol/L
【実施例8】
【0061】
(1)DA−67安定性評価用試料の調製
実施例5のDA−67含有水溶液に対して、1100ルクスの光を24時間照射したものをDA−67安定性評価用試料として用いた。
【0062】
(2)安定性測定用試薬の調製
以下の組成からなる安定性測定用試薬を調製した。
<DA−67安定性測定用試薬>
MES(pH6.3) 10mmol/L
BSA 0.005%
【0063】
(3)DA−67の光に対する安定性の評価
調製直後の実施例5のDA−67含有水溶液30μLに(2)で調製したDA−67安定性測定用試薬120μLを添加し、37℃で5分間加温した後の溶液の吸光度(E直後)を、主波長660nm、副波長800nmで日立7170Sにて測定した。調製直後のDA−67含有水溶液の代わりに、(2)のDA−67安定性測定用試薬を用いて同様の測定を行い、吸光度(Eブランク)を測定した。E直後からEブランクを差し引き、調製直後のDA−67含有水溶液に対する吸光度(△E直後)とした。
【0064】
同様に、(1)で調製した光照射後のDA−67含有水溶液を試料として用いて測定を行い、光照射後のDA−67含有水溶液に対する吸光度(△E)を測定した。
【0065】
測定した△Eから△E直後を差し引いた値を△Eとし、DA−67の光に対する安定性の指標とした。その結果を第2表に示す。△Eの値が0に近い程、光照射によるDA−67の着色が抑制されることを示している。
【実施例9】
【0066】
実施例5のDA−67含有水溶液の代わりに、実施例6のDA−67含有水溶液を用いる以外は、実施例8と同様の方法により、△Eを測定した。その結果を第2表に示す。
【実施例10】
【0067】
実施例5のDA−67含有水溶液の代わりに、実施例2のDA−67含有水溶液を用いる以外は、実施例8と同様の方法により、△Eを測定した。その結果を第2表に示す。
【実施例11】
【0068】
実施例5のDA−67含有水溶液の代わりに、実施例7のDA−67含有水溶液を用いる以外は、実施例8と同様の方法により、△Eを測定した。その結果を第2表に示す。
【0069】
[比較例3]
実施例5のDA−67含有水溶液の代わりに、比較例1のDA−67含有水溶液を用いる以外は、実施例8と同様の方法により、△Eを測定した。その結果を第2表に示す。
【0070】
【表2】
【0071】
第2表に示される通り、実施例8〜11と比較例3との比較から、化合物(I)であるNitroso-PSAP、5-Br-PSAAを含む水溶液においては、化合物(I)を含有しない場合と比較して、光照射による着色が顕著に抑制されていた。化合物(I)は、ニトロソ基及びアゾ基からなる群より選ばれる少なくとも一つの置換基を有し、かつ、金属イオン配位能を有する化合物又はその塩であることから、ニトロソ基及びアゾ基からなる群より選ばれる少なくとも一つの置換基を有し、かつ、金属イオン配位能を有する化合物又はその塩を含む水溶液中のDA−67が光に対して安定であり、DA−67含有水溶液がニトロソ基及びアゾ基からなる群より選ばれる少なくとも一つの置換基を有し、かつ、金属イオン配位能を有する化合物又はその塩により安定に保存され、DA−67がニトロソ基及びアゾ基からなる群より選ばれる少なくとも一つの置換基を有し、かつ、金属イオン配位能を有する化合物又はその塩により安定化されることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明により、ロイコ型色原体含有水溶液の保存方法、ロイコ型色原体の安定化方法及びロイコ型色原体を含有する液状試薬が提供される。本発明の方法及び試薬は、糖尿病の診断に用いられる糖化ヘモグロビンの測定等に有用である。