特許第5902142号(P5902142)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5902142常温で延性を有するチタン−アルミニウム系合金インゴット
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5902142
(24)【登録日】2016年3月18日
(45)【発行日】2016年4月13日
(54)【発明の名称】常温で延性を有するチタン−アルミニウム系合金インゴット
(51)【国際特許分類】
   C22C 14/00 20060101AFI20160331BHJP
【FI】
   C22C14/00 Z
【請求項の数】3
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2013-247496(P2013-247496)
(22)【出願日】2013年11月29日
(65)【公開番号】特開2014-227601(P2014-227601A)
(43)【公開日】2014年12月8日
【審査請求日】2013年11月29日
(31)【優先権主張番号】10-2013-0056313
(32)【優先日】2013年5月20日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】513302363
【氏名又は名称】韓国機械材料技術院
【氏名又は名称原語表記】KOREA INSTITUTE OF MACHINERY & MATERIALS
(74)【代理人】
【識別番号】110001416
【氏名又は名称】特許業務法人 信栄特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】キム ソンウォン
(72)【発明者】
【氏名】キム スンオン
(72)【発明者】
【氏名】ナ ヨンサン
(72)【発明者】
【氏名】ヨム ジョンテク
【審査官】 静野 朋季
(56)【参考文献】
【文献】 特開平07−011369(JP,A)
【文献】 特開2007−056340(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 14/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
α相とγ相が規則的に順次配列されたラメラ構造を有し、α相とγ相の厚さ比γ/αが2以上であり、
44〜46at%のアルミニウム(Al)と、
6at%のニオブ(Nb)と、
クリープ性向上剤として、0.1at%の炭素(C)及び0.3at%のケイ素(Si)と、
耐軟化性向上剤として、0.5at%のタングステン(W)及び0.5at%のクロム(Cr)と、
残部のチタンとからなることを特徴とする、常温で延性を有するチタン−アルミニウム系合金インゴット。
【請求項2】
α相とγ相が規則的に順次配列されたラメラ構造を有し、γ相は100〜200nmの厚さを有し、α相は100nm以下の厚さを有し、
44〜46at%のアルミニウム(Al)と、
6at%のニオブ(Nb)と、
クリープ性向上剤として、0.1at%の炭素(C)及び0.3at%のケイ素(Si)と、
耐軟化性向上剤として、0.5at%のタングステン(W)及び0.5at%のクロム(Cr)と、
残部のチタンとからなることを特徴とする、常温で延性を有するチタン−アルミニウム系合金インゴット。
【請求項3】
前記チタン−アルミニウム系合金インゴットは、640MPa以上の引張強度を有することを特徴とする請求項1または2に記載の常温で延性を有するチタン−アルミニウム系合金インゴット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、常温で高い延性を有するチタン−アルミニウム系合金インゴットに関し、特にα相とγ相が規則的に順次配列されたラメラ構造を有し、α相の幅、γ相の幅、及びα/γの比を制御することにより、後続熱処理などを施さない鋳造状態で常温で延性を有するようにした、常温で高い延性を有するチタン−アルミニウム系合金インゴットに関する。
【背景技術】
【0002】
チタン−アルミニウム系合金は、次世代の軽量耐熱材料として注目されている金属間化合物(intermetallic compound)の一種であり、TiAlを約10%含む2相(two−phase)合金である。
【0003】
通常の溶解凝固法で製造すると、TiAl(γ)+TiAl(α)の2相からなる層状組織(lamellar structure)のインゴット(ingot)が得られる。
【0004】
TiAlの層状組織は破壊靱性、疲労強度、クリープ強度に優れるので、TiAlを軽量高温材料として実用化する上で有用な特性を提供することが知られているが、常温での延性不足が鋳造材として用いる上での最大の障害要因として知られている。
【0005】
このような延性不足の最も大きな原因は、層状境界面(lamellar boundary)の垂直方向に応力が作用すると境界面に剥離現象(delamination)が発生するからであることが知られている。
【0006】
よって、結晶粒サイズを小さくして層状組織に比べて相対的に延性に優れたβ相及びγ相を含ませることにより、高温特性だけでなく、強度及び延性を向上させようとする努力がなされている。
【0007】
β相及びγ相を含む層状組織TiAl合金を製造するための従来技術としては、Ti−(41〜45)Al−(3〜5)Nb−(Mo,V)−(B,C)合金系を用いることが報告されている(非特許文献1及び非特許文献2)。
【0008】
また、特許文献1ではγ−TiAlベースにバナジウム(V)を添加して延性を改善しようとしており、特許文献2ではボロン(B)を添加して強度と延性を増加させようとしている。
【0009】
特許文献3及び特許文献4は、それぞれクロム(Cr)を添加して延性改善を試みたものと、クロムとニオブを同時に添加して延性と耐酸化性の向上を図ったものである。
【0010】
しかし、前述した従来技術は、延性を向上させるために熱間鍛造、急冷凝固、熱間押出などの熱間加工処理を施しているので、その結果から単純な鋳造体の特性が向上するか否かを予測することは容易でない。
【0011】
また、機械的特性についても、高温測定や曲げ試験などを用いているので、常温における引張性質を把握することは容易でない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】米国特許第4294615号明細書
【特許文献2】米国特許第4842820号明細書
【特許文献3】米国特許第4842819号明細書
【特許文献4】米国特許第4879092号明細書
【特許文献5】特開平10−220236号公報
【特許文献6】特開平10−193087号公報
【特許文献7】韓国登録特許第10−1261885号公報
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】H. Z. Niu et al, Intermetallics 21 (2012) 97
【非特許文献2】T. Sawatzky, Y. W. Kim et al., Mat. Sci. Forum 654-656 (2010) 500
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、鋳造状態で常温で延性を有するチタン−アルミニウム系合金インゴットを提供することを目的とする。
【0015】
また、本発明は、α相とγ相が規則的に順次配列されたラメラ構造を有し、α相の幅、γ相の幅、及びα/γの比を制御することにより、後続熱処理などを施さない鋳造状態で常温で延性を有するようにした、常温で延性を有するチタン−アルミニウム系合金インゴットを提供することを目的とする。
【0016】
さらに、本発明は、常温特性だけでなく、高温特性をも向上させた、常温で延性を有するチタン−アルミニウム系合金インゴットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明による常温で延性を有するチタン−アルミニウム系合金インゴットは、α相とγ相が規則的に順次配列されたラメラ構造を有し、α相とγ相の厚さ比γ/αが2以上であることを特徴とする。
【0018】
本発明による常温で延性を有するチタン−アルミニウム系合金インゴットは、α相とγ相が規則的に順次配列されたラメラ構造を有し、γ相は100〜200nmの厚さを有し、α相は100nm以下の厚さを有することを特徴とする。
【0019】
前記チタン−アルミニウム系合金インゴットは、44〜46at%のアルミニウム(Al)と、6at%のニオブ(Nb)と、1.0at%のクリープ性向上剤と、1.0at%の耐軟化性向上剤と、残部のチタンとを含むことを特徴とする。
【0020】
前記クリープ性向上剤は、炭素(C)及びケイ素(Si)であることを特徴とする。
【0021】
前記耐軟化性向上剤は、タングステン(W)及びクロム(Cr)であることを特徴とする。
【0022】
前記チタン−アルミニウム系合金インゴットは、640MPa以上の引張強度を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明は、鋳造状態で常温で延性を有するチタン−アルミニウム系合金インゴットに関し、α相とγ相が規則的に順次配列されたラメラ構造を有するように構成される。
【0024】
また、α相の幅、γ相の幅、及びα/γの比を制御することにより、後続熱処理などを施さない鋳造状態で常温で延性を有するという利点がある。
【0025】
さらに、常温特性だけでなく、高温特性も向上するという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明による常温で延性を有するチタン−アルミニウム系合金インゴットの外観を示す実物写真である。
図2】本発明による常温で延性を有するチタン−アルミニウム系合金インゴット及び比較例の組成を示す表である。
図3】本発明による常温で延性を有するチタン−アルミニウム系合金インゴット及び比較例2の光学顕微鏡写真である。
図4】本発明による常温で延性を有するチタン−アルミニウム系合金インゴット及び比較例2の透過型電子顕微鏡写真の暗視野像(dark field image)である。
図5】本発明による常温で延性を有するチタン−アルミニウム系合金インゴット及び比較例2の透過型電子顕微鏡写真の明視野像(bright field image)である。
図6】本発明による常温で延性を有するチタン−アルミニウム系合金インゴット及び比較例2の高倍率透過型電子顕微鏡写真の明視野像(bright field image)である。
図7】比較例1の光学顕微鏡写真及び透過型電子顕微鏡写真である。
図8】比較例1及び比較例2の応力−ひずみ線図である。
図9】本発明による常温で延性を有するチタン−アルミニウム系合金インゴットの試料写真及び応力−ひずみ線図である。
図10】本発明による常温で延性を有するチタン−アルミニウム系合金インゴットの試料写真及び応力−ひずみ線図である。
図11】本発明による常温で延性を有するチタン−アルミニウム系合金インゴットの実施例と比較例の等温酸化試験の結果を示すグラフ及び表である。
図12】本発明による常温で延性を有するチタン−アルミニウム系合金インゴットの実施例と比較例の微細組織の主要因子を比較した表である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、図1及び図2を参照して本発明による常温で延性を有するチタン−アルミニウム系合金インゴットについて説明する。
【0028】
これに先立ち、本明細書及び特許請求の範囲に用いる用語や単語は、通常の辞書的な意味で解釈してはならず、発明者は自らの発明を最善の方法で説明するために用語の概念を適宜定義できるという原則に基づき、本発明の技術思想に合致する意味や概念で解釈すべきである。
【0029】
よって、本明細書に示す実施例と図面に示す構成は本発明の好ましい一実施例にすぎず、本発明の技術思想の全てを代弁するものではないので、本出願時点でこれらを代替する様々な均等物や変形例があり得ることを理解すべきである。
【0030】
図1は本発明による常温で延性を有するチタン−アルミニウム系合金インゴットの外観を示す実物写真であり、図2は本発明による常温で延性を有するチタン−アルミニウム系合金インゴット及び比較例の組成を示す表である。
【0031】
同図に示すように、本発明による常温で延性を有するチタン−アルミニウム系合金インゴット(以下、チタン−アルミニウム合金10という)は、図2に実施例1及び実施例2として示す成分をその原子比で含む組成を凝固鋳造法で製造して形成したものであり、熱処理、熱間静水圧、ローリング、鍛造などの後工程を全く施していない状態である。
【0032】
より具体的に説明すると、チタン−アルミニウム合金10に熱処理などの後工程を施すと、硬度、耐軟化性、クリープ性などの機械的特性が向上することは自明であるが、本発明の実施例においては、凝固鋳造法で製造された直径60mmの大きさのボタン(Botton)状の実施例を対象に硬度及び引張試験を行って比較例と比較した。
【0033】
ここで、比較例1は日本国の大同特殊鋼株式会社により出願された特許文献5と特許文献6に開示されたTiAl耐熱合金組成に基づいて製造したものであり、比較例2は特許文献7に開示されたTiAl合金組成に基づいて製造したものである。
【0034】
本発明の実施例は、アルミニウム(Al)の含有量に多少の差がある実施例1及び実施例2に分類することができる。
【0035】
すなわち、実施例は、6at%のニオブ(Nb)と、1.0at%の耐軟化性向上剤と、1.0at%のクリープ性向上剤と、残部のチタン(Ti)とを含むが、アルミニウム(Al)の含有量が44at%又は46at%と多少の差がある。
【0036】
ここで、前記クリープ性向上剤は炭素(C)及びケイ素(Si)から構成され、前記耐軟化性向上剤はタングステン(W)及びクロム(Cr)から構成され、熱処理などの後工程を全く施していない状態で640MPa以上の引張強度を有する。
【0037】
以下、図3図7を参照して本発明の実施例1と比較例1、2の微細組織を比較する。
【0038】
図3は本発明による常温で延性を有するチタン−アルミニウム系合金インゴット及び比較例2の光学顕微鏡写真であり、図4図6は実施例1及び比較例2の透過型電子顕微鏡写真の暗視野像(dark field image)及び明視野像(bright field image)であり、図7は比較例1の光学顕微鏡写真及び透過型電子顕微鏡写真である。
【0039】
まず、図3に示すように、本願発明の実施例は比較例2より粗大な結晶粒を有することが確認され、比較例1と比較例2は実施例に比べて緻密な結晶粒を有することが確認される。
【0040】
また、図4図6に示すように、実施例1はα相とγ相が規則的に順次配列されたラメラ構造を有するのに対して、比較例はラメラ構造の境界が不明確なことが確認される。
【0041】
また、実施例1においては、ラメラ構造を有すると共に、α相とγ相の厚さ比γ/αが2以上を示し、α相の厚さがγ相の厚さより薄いことが確認される。
【0042】
すなわち、α相は100nm以下の厚さを有するのに対して、γ相は100〜200nmの厚さを有し、α相がγ相より相対的に薄く、α相とγ相が交互に層状構造を示すことが確認される。
【0043】
それに対して、図7に示すように、比較例1は比較例2と同様に200nm以上の厚さを有するγ相が存在し、α相は120nmの厚さを示す。
【0044】
また、図7の下の写真に示すように、比較例1においては層状組織でないβ結晶粒とγ結晶粒も多数観察された。
【0045】
図8は比較例1及び比較例2の応力−ひずみ線を示す図であり、300〜500MPaの引張強度と0.5%未満のひずみを示す図である。
【0046】
図9及び図10図8と比較して実施例と比較例の特性を対比すると、本発明の実施例1は640MPa以上の最大引張強度を示し、590MPa以上の降伏点と0.384%以上の塑性ひずみ(最大引っ張り応力を負荷し、除荷した後に得られる塑性ひずみ)を示す。
【0047】
よって、本発明の実施例1は、比較例と比較して引張強度の面ではるかに向上したことが確認される。また、本発明の実施例1は、比較例と比較して延性の面でもはるかに向上したことが確認される。
【0048】
前述した実験結果は、図2に示す組成を含むチタン−アルミニウム合金を凝固鋳造法で製造した実施例1についてのものであり、熱処理、塑性加工などの後工程を全く施していない状態で測定されたものである。
【0049】
よって、前述した特性は後工程を追加して施すとさらに向上させ得るものと期待されるので、図11に示すように900℃で等温酸化試験を行って確認した。
【0050】
図11は本発明による常温で延性を有するチタン−アルミニウム系合金インゴットの実施例と比較例の等温酸化試験の結果を示すグラフ及び表である。
【0051】
図11に示すように、実施例1及び実施例2は、900℃で168時間の等温酸化試験を行った結果、比較例1及び比較例2に比べて著しく低い酸化量を示した。
【0052】
よって、実施例は、比較例と比較して高い耐酸化性を有し、高温特性が向上したことが確認される。
【0053】
前述した実験結果から、実施例は比較例より常温特性だけでなく、高温特性もはるかに高いことが分かり、図12に示すように、実施例と比較例を対象に微細組織の主要因子について測定して比較した。
【0054】
図12に示すように、実施例は、比較例より著しく大きなグレインサイズを示すにもかかわらず前述した特性を示すが、より詳細には、本願発明の実施例の合金はα相とγ相の厚さ比γ/αが2以上を示すのに対して、比較例は1.79以下を示し、明確な差がある。
【0055】
また、本発明の合金は、α相とγ相が規則的に順次配列されたラメラ構造を有すると共に、γ相は100〜200nmの厚さを有し、α相は100nm以下の厚さを有する。
【0056】
それに対して、比較例は、α相とγ相が不規則的なだけでなく、γ相は215nm又は70.6nmの厚さを有し、本願発明の好ましいγ相の厚さである100〜200nmの厚さ範囲を外れることが確認される。
【0057】
また、α相とγ相の厚さ比γ/αも比較例は1.79以下を示し、本願発明のα相とγ相の厚さ比γ/αより小さい数値であるが、前述した特性を発現する条件としては2以上が好ましい。
【0058】
本発明の範囲は前述した実施例に限定されるものではなく、当該技術分野における通常の技術者であれば本発明に基づいて様々な変形が可能であろう。
【符号の説明】
【0059】
10 チタン−アルミニウム合金
図2
図8
図11
図12
図1
図3
図4
図5
図6
図7
図9
図10