(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5902184
(24)【登録日】2016年3月18日
(45)【発行日】2016年4月13日
(54)【発明の名称】毛髪成長促進剤、睫毛と眉毛の成長促進剤、および脱毛防止剤
(51)【国際特許分類】
A61K 8/49 20060101AFI20160331BHJP
A61Q 7/00 20060101ALI20160331BHJP
A61K 31/52 20060101ALI20160331BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20160331BHJP
A61P 17/14 20060101ALI20160331BHJP
【FI】
A61K8/49
A61Q7/00
A61K31/52
A61P43/00 107
A61P17/14
【請求項の数】6
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2013-534147(P2013-534147)
(86)(22)【出願日】2010年11月22日
(65)【公表番号】特表2013-540135(P2013-540135A)
(43)【公表日】2013年10月31日
(86)【国際出願番号】CN2010078935
(87)【国際公開番号】WO2012068714
(87)【国際公開日】20120531
【審査請求日】2013年4月22日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】515220443
【氏名又は名称】華安醫學股分有限公司
【氏名又は名称原語表記】Energenesis Biomedical Co., Ltd.
(74)【代理人】
【識別番号】100082418
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 朔生
(72)【発明者】
【氏名】陳翰民
【審査官】
團野 克也
(56)【参考文献】
【文献】
特開2007−045712(JP,A)
【文献】
特開2006−290767(JP,A)
【文献】
特開2010−184916(JP,A)
【文献】
特開2006−076984(JP,A)
【文献】
特開平06−128125(JP,A)
【文献】
特開平03−133920(JP,A)
【文献】
国際公開第2008/028773(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC A61K8/00−8/99
A61Q1/00−90/00
DB Thomson Innovation
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
毛髪成長促進剤であって、活性物質としてのアデニンまたはアデニン塩類と、化粧品担体とのみからなり、前記活性物質が、当該毛髪成長促進剤の0.0001重量%〜0.1重量%を占めることを特徴とする毛髪成長促進剤。
【請求項2】
前記アデニンまたはアデニン塩類と前記化粧品担体とを混合して使用されることを特徴とする、請求項1に記載の毛髪成長促進剤。
【請求項3】
前記化粧品担体が、潤滑剤、溶剤、保湿剤、増粘剤、粉末またはその混合物であることを特徴とする、請求項1に記載の毛髪成長促進剤。
【請求項4】
前記化粧品担体が、育毛剤、シャンプー、ヘアリンス、ヘアケアジェル、ヘアセット液または洗髪液であることを特徴とする、請求項1に記載の毛髪成長促進剤。
【請求項5】
睫毛と眉毛の成長促進剤であって、
活性物質としてのアデニンまたはアデニン塩類と、化粧品担体とのみからなり、
前記化粧品担体が、育毛剤、シャンプー、ヘアリンス、ヘアケアジェル、ヘアセット液または洗髪液であり、
前記活性物質が、前記睫毛と眉毛の成長促進剤の0.0001重量%〜0.1重量%を占めることを特徴とする睫毛と眉毛の成長促進剤。
【請求項6】
脱毛防止剤であって、
活性物質としてのアデニンまたはアデニン塩類と、化粧品担体とのみからなり、
前記化粧品担体が、育毛剤、シャンプー、ヘアリンス、ヘアケアジェル、ヘアセット液または洗髪液であり、
前記活性物質が、前記脱毛防止剤の0.0001重量%〜0.1重量%を占めることを特徴とする脱毛防止剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は毛髪成長促進剤に関し、特に、毛髪の成長を維持し、その濃密度合いを増加することができる毛髪成長促進剤に関する。
【背景技術】
【0002】
現今の人口高齢化と生活のストレスが高まるにつれ、多くの人が脱毛や禿頭症の危機に直面するようになっている。医学研究によると、この危機は家庭の心理及び情緒的なストレスにもなっているため、たくさんの人が有効な禿頭症の治療方法を探している。
一般に、毛髪の脱落は男性ホルモンと毛包中のジヒドロテストステロンによって引き起こされ、ジヒドロテストステロンは毛包と毛髪真皮乳状突起の血流量を減少し、頭皮の養分不足や酸化反応の発生を生じるため、一般的な育毛剤の配合には上述の症状を排除または緩和する成分が含まれている。例えば、センブリエキス、ビタミンE及びその誘導体あるいはアセチルコリン塩化物誘導体を添加して頭皮の血液循環を増加したり、セリンまたはメチオニンなどのアミノ酸、B6などのビタミン等を添加して毛包に栄養を与え、脱毛を予防し、頭髪の成長を促進したりする。
【0003】
米国食品医薬品局(FDA)は、フィナステリド(finasteride、米国特許証番号2006/0099251 A1)及びミノキシジル(minoxidil、米国特許証番号4139619)の2種類の男性禿頭症を治療する成分を提示している。
フィナステリド(finasteride)は活性を抑制する5−α−還元酵素を利用してフリーテストステロンをジヒドロテストステロンに転化させ、毛包の微細化を引き起こす(Dallob、1994年)。これは本来良性前立腺肥大症(BPH)の治療に用いられていたが、後に男性禿頭症の治療にも有効なことが発見された。
ミノキシジル(minoxidil)は一種の血管拡張剤で、本来は高血圧を治療するための経口薬物(Loniten)であり、1980年代にその副作用が頭髪を成長させ、脱毛を抑制できることが発見された。ファイザー製薬社がFDAの承認を取得して2%のミノキシジル(minoxidil)を含む製品を発売し、禿頭症と脱毛症の治療に用いられている(RogaineおよびRegaine)。有効性の原因は、血管の拡張とカリウムの通路の開放を通して、より多くの酸素、血液、養分を毛包中に進入させることができるためである。
ミノキシジル(minoxidil)育毛剤はアデノシンと併用することが提案されており(Li、2001年)、かつA2bアデノシンを受容体とする(Iino、2007年)ため、アデノシンも禿頭症の治療機能があることが分かったが、副作用を生じる可能性があり、特にミノキシジル(minoxidil)とアデノシンを併用したとき、浮腫、心拍数増加、呼吸困難、疲労、吐き気、および癌の形成を発生する可能性がある。
【0004】
すでに上述の各種方法の使用が試みられているが、現在市販されている育毛剤は頭皮のあらゆる区域で脱毛を防止し、頭髪の成長を促進する能力を充分に備えているとは言えず、例えば、頭頂部または額にフィナステリド(finasteride)とミノキシジル(minoxidil)を使用した場合、頭頂部のみ効果的に発毛させることができる。
このほか、大部分の治療は例えば4〜6ヶ月といった非常に長い時間を経てやっと効果が現れる。禿頭症の治療は毛髪移植手術で問題を解決することもできるが、手術過程で痛みがあり、かつ必ず成功する保証もなく、数ヶ月からさらには数年後になってやっと頭髪が再生する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許証第2006/0099251 A1号明細書
【特許文献2】米国特許証第4139619号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
これに鑑み、本発明の目的は、毛髪成長促進剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願の第1発明は、活性物質と
してのアデニンまたはアデニン塩類
と、化粧品担体
とのみからなり、前記活性物質が
、当該毛髪成長促進剤
の0.0001
重量%以上を占め
る毛髪成長促進剤を提供する。
本願の第2発明は、前
記アデニンまたはアデニン塩類と
前記化粧品担体
とを混合して使用する、前記第1発明の毛髪成長促進剤を提供する。
本願の第3発明は、前記化粧品担体
が、潤滑剤、溶剤、保湿剤、増粘剤、粉末またはその混合物である、前記第1発明の毛髪成長促進剤を提供する。
本願の第4発明は、前記化粧品担体
が、育毛剤、シャンプーまたはヘアリンス、ヘアケアジェル、ヘアセット液、洗髪液である、前記第1発明の毛髪成長促進剤を提供する。
本願の第5発明は、活性物質と
してのアデニンまたはアデニン塩類
と、化粧品担体
とのみからなり、前記化粧品担体が、育毛剤、シャンプー、ヘアリンス、ヘアケアジェル、ヘアセット液または洗髪液であ
る睫毛及び眉毛成長促進剤を提供する。
本願の第6発明は、活性物質と
してのアデニンまたはアデニン塩類
と、化粧品担体
とのみからなり、前記化粧品担体が、育毛剤、シャンプー、ヘアリンス、ヘアケアジェル、ヘアセット液または洗髪液であ
る脱毛防止剤を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の毛髪成長促進剤は、活性物質であるアデニンまたはアデニン塩類と、化粧品担体を含み、人体の皮膚や頭皮にダメージを与えない育毛剤またはシャンプー、ヘアリンス、ヘアケアジェル、ヘアセット液、洗髪液を提供する。毛髪の成長を刺激し、脱毛を防止するとともに、睫毛及び眉毛の成長も促進する効果を備えている。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の毛真皮乳頭細胞再生試験の比較図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
上述の目的と効果を達するため、以下図面と実施例を組み合わせ、当業者が以下に基づいて本発明を実施できるように、本発明について詳細に説明する。
【0011】
まず、本発明が提供する毛髪成長促進剤は、主に、活性物質とするアデニンまたはアデニン塩類と、化粧品担体を含み、その活性物質の割合は配合の形態、製造方法によって異なるが、成分に占める重量%の最良の範囲は0.0001%以上であり、前記毛髪成長促進剤は育毛剤、シャンプー、ヘアリンス、ヘアケアジェル、ヘアセット液、洗髪液等の形式で存在し、かつ液体、ペースト状または乳濁液状で皮膚または頭皮に塗布することができる。
このほか、本発明は化粧品担体を含み、希釈剤、分散剤またはアデニンの担体とすることができ、毛髪成長促進剤の配合を平均的に皮膚表面に分布しやすくし、担体の形態は液体または固体の潤滑剤、溶剤、保湿剤、増粘剤または粉末とすることができる。
本発明の活性物質と化粧品担体のほか、毛髪成長促進剤は化粧品、薬物または皮膚科分野においてよく使用される、親水性または親油性ゲル剤、親水または親油活性剤、防腐剤、抗酸化剤、溶剤、香料、フィラー、殺菌剤、除臭剤、染料または着色剤などの添加剤及びアジュバントを含んでもよく、これらの添加剤及びアジュバントの使用範囲は総重量%の0.01%〜10%を占める。
【0012】
本発明中のアデニンまたはアデニン塩類の含量の毛髪成長能力に対する影響を証明するため、本発明の毛髪成長促進剤は異なる割合で4種類の試料の育毛剤溶液を調製した。その成分割合を表1に示す。試料の調製方法は次を含む。
(1)アデニン硫酸塩、メントール、ポリエチレングリコール−40、水添ヒマシ油、エタノール、部分イオン交換水を混合、撹拌し、溶液を得た。
(2)さらに残ったイオン交換水を上述の溶液中に添加し、育毛剤溶液を形成した。
【0014】
(a)マウス発毛試験の実施
上述の試料1〜4を毛の成長循環が静止したマウスの体に塗布して試験を実施した。これらのマウスははさみまたはかみそりで背中の毛を剃り落としてから、試料1〜4の育毛剤をその背部の毛を剃り落とした部位に塗布した。10匹のマウスを1群とし、各群に毎日1回の用量が0.2ミリリットルの試料を塗布した。14日後と28日後における毛の再生区域割合の平均数値を表2に示す。
【0016】
表2の結果から、アデニン硫酸塩を加えた試料2、3、4は試料1よりも顕著な効果があることが分かり、本発明の毛髪成長促進成分が毛髪成長に対して十分に優れた効果があることが推測できる。
【0017】
(b)人体の発毛試験の実施
本発明は脱毛防止及び頭髪成長促進の効果があり、上述の配合の試料3、試料4、対照群を60人の禿頭症を患う男性の頭皮上に1日2回、毎回1mlの用量で塗布し、4ヶ月間連続で塗布した後、アンケート方式で人体試験調査を実施した。そのアンケート試験結果を表3に示す。
【0019】
表3の結果から、本発明の毛髪成長促進剤に含まれるアデニンまたはアデニン塩類は、頭髪の成長に対して顕著な治療効果があることが分かる。
【0020】
(c)シャンプー配合の実施
その調製方法と組成は以下及び表4に示す。
(c−1)第一段階と第二段階の成分をそれぞれ別に混合し、溶液を調製する。
(c−2)上述の溶液を混合してシャンプーを調製する。
【0022】
(d)シャンプー配合の実施
その調製方法と組成は以下及び表5に示す。
(d−1)撹拌器でヒドロキシセルロース(hydroxycellulose)を平均的にイオン交換水中に分布させる。
(d−2)上述の溶液を70℃まで加熱した後、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウムとクエン酸ナトリウムを添加して完全に溶解させる。
(d−3)上述の溶液をポリクオタニウム7に添加して完全に溶解させる。
(d−4)上述の溶液を40℃まで冷却してからN−ラウロイルサルコシン酸ナトリウム(Sodium laurosyl)、ラウリン酸アミドプロピルベタイン(lauric acid amido propylbetaine)、ココアミドプロピルアミンオキシド(Cocamidopropylamine oxide)とラウラミドMEA(Lauramide MEA)を添加して混合する。
(d−5)尿素、ニパゾール、アデニン硫酸塩、メントール、香料を添加してシャンプーを調製する。
【0024】
(e)ヘアリンス配合の実施
その調製方法と組成は表6に示すとおりである。イオン交換水とポリクオタニウム7を完全に混合した後、グアーヒドロキシプロピルトリモニウムクロリド、ジメチルcopolyol、アデニン硫酸塩、香料を添加してヘアリンスを産生する。
【0026】
(f)眉毛と睫毛用クレンジング乳液の配合実施
その調製方法と組成は以下と表7に示すとおりである。
(f−1)第一段階と第二段階の成分をそれぞれ混合して溶液を調製する。
(f−2)上述の溶液を混合して眉毛と睫毛用クレンジング乳液を調製する。
【0028】
(g)睫毛用クレンジング乳液人体試験の実施
本発明の睫毛用クレンジング乳液について、以下アンケート方式で人体試験調査を実施した。試験対象は上述の配合の試料8、試料9、対照群2を綿棒で48人の女性の睫毛上に1日1回、毎回0.5mlの分量を塗布し、3ヶ月連続塗布した後に行ったアンケートの試験結果を表8に示す。
【0030】
表8の結果から、本発明の睫毛用クレンジング乳液の成分に含まれるアデニンまたはアデニン塩類は睫毛の成長に対して顕著な効果があることが分かる。
【0031】
(h)眉毛用クレンジング乳液人体試験の実施
本発明の眉毛用クレンジング乳液について、以下アンケート方式で人体試験調査を実施した。試験対象は上述の配合の試料8、試料9、対照群2を綿棒で60人の女性の睫毛上に1日1回、毎回0.5mlの分量を塗布し、2ヶ月連続塗布した後に行ったアンケートの試験結果を表9に示す。
【0033】
表9の結果から、本発明の眉毛用クレンジング乳液の成分に含まれるアデニンまたはアデニン塩類は睫毛の成長に対して顕著な効果があることが分かる。
【0034】
(i)人毛真皮乳頭細胞再生試験
アデニンにより向上された細胞再生効果は、人毛真皮乳頭細胞の数量を通して量ることができる。次の条件下で、アデニンヌクレオシドとminoxidil(ミノキシジル)の作用を比較し、その結果は
図1に示すとおりである。人毛真皮乳頭細胞の細胞培養液中に含有されるアデニン、アデニンヌクレオシドとminoxidil(ミノキシジル)を測定し、組成中には0.002%のアデニン、アデニンヌクレオシド、minoxidil(ミノキシジル)が含まれ、その試験方法は次のとおりである。
(i−1)0.002%のアデニン、アデニンヌクレオシド、ミノキシジル(minoxidil)を調製し、試験する人毛真皮乳頭細胞の媒質をコントロールする。
(i−2)人毛真皮乳頭細胞を96ウェル培養プレートにそれぞれ植え付ける。その密度は1ウェル当たり細胞5000個とし、かつ0.1mlの培養液を各ウェルプレートに添加する。
(i−3)細胞の植え付けから12、24、36、48、60時間後、カウンターを使用してすべての細胞数を計算する。
(i−4)
図1の結果から、アデニンは人毛真皮乳頭細胞の再生能力を顕著に高めることが分かるため、本発明の毛髪成長促進剤は顕著な毛髪保護効果を備えており、人類または哺乳類の毛髪成長能力を向上し、毛髪の脱落を防止することができる。
【0035】
以上は本発明の最良の実施例を挙げたまでであり、これにより本発明の特許範囲が制限されることはなく、本発明の特許範囲は、特許請求の範囲の内容に準じる。