特許第5902368号(P5902368)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5902368
(24)【登録日】2016年3月18日
(45)【発行日】2016年4月13日
(54)【発明の名称】ごく微量の含水量のセボフルランの調製
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/08 20060101AFI20160331BHJP
   A61P 23/00 20060101ALI20160331BHJP
【FI】
   A61K31/08
   A61P23/00
【請求項の数】17
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2008-506812(P2008-506812)
(86)(22)【出願日】2006年4月18日
(65)【公表番号】特表2008-536872(P2008-536872A)
(43)【公表日】2008年9月11日
(86)【国際出願番号】US2006014427
(87)【国際公開番号】WO2006113636
(87)【国際公開日】20061026
【審査請求日】2009年4月17日
【審判番号】不服2013-9469(P2013-9469/J1)
【審判請求日】2013年5月23日
(31)【優先権主張番号】60/672,334
(32)【優先日】2005年4月18日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】504152052
【氏名又は名称】ピラマル クリティカル ケアー インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000475
【氏名又は名称】特許業務法人みのり特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】テレル,ロス,シー.
(72)【発明者】
【氏名】レヴィンソン,ジョシュア,エイ.
(72)【発明者】
【氏名】マックネイアニー,ジョン,シー.
【合議体】
【審判長】 蔵野 雅昭
【審判官】 渕野 留香
【審判官】 辰己 雅夫
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第05/23175(WO,A2)
【文献】 特表2000−510159(JP,A)
【文献】 化学大事典9縮刷版, 共立出版株式会社, 1987, p.304,305
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K31/00-47/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)空間を規定する内壁を有するガラス容器;および、
b)セボフルランと、前記セボフルランと水の合計重量に基づき5ppm以下の量の水から成る、ある体積の安定な組成物であって、前記内壁に接触するように前記空間内に含まれ、あらゆるタイプのルイス酸インヒビターの不在下であっても、水を含まないものを基準に算出された変性物含量が300ppm以下で、40℃の温度で60日間、前記容器中で実質上変性を被らないままであるもの;
を含むことを特徴とする麻酔薬製品。
【請求項2】
前記組成物が、前記セボフルランと水の合計重量に基づき1ppm未満の水含有量を有していることを特徴とする請求項1に記載の製品。
【請求項3】
前記ガラス容器がタイプIIIのアンバーガラス容器であることを特徴とする請求項1に記載の製品。
【請求項4】
前記ガラス容器が新品であることを特徴とする請求項1に記載の製品。
【請求項5】
前記ガラス容器が、セボフルランを貯蔵するために用いられたことのないものであることを特徴とする請求項1に記載の製品。
【請求項6】
前記水が、前記セボフルランと水の合計重量に基づき1〜5ppmの範囲の量で存在することを特徴とする請求項1に記載の製品。
【請求項7】
a)空間を規定する内壁を有するガラス容器;および、
b)セボフルランと、前記セボフルランと水の合計重量に基づき5ppm以下の量の水から成る、ある体積の安定な組成物であって、前記内壁に接触するように前記空間内に含まれ、あらゆるタイプのルイス酸インヒビターの不在下であっても、水を含まないものを基準に算出された変性物含量が300ppm以下で、室温6ヶ月間、前記ガラス容器中で実質上変性を被らないままであるもの;
を含むことを特徴とする麻酔薬製品。
【請求項8】
前記組成物が1ppm未満の水含有量を有していることを特徴とする請求項7に記載の製品。
【請求項9】
前記ガラス容器がタイプIIIのアンバーガラス容器であることを特徴とする請求項7に記載の製品。
【請求項10】
前記ガラス容器が新品であることを特徴とする請求項7に記載の製品。
【請求項11】
前記ガラス容器がセボフルランを貯蔵するために用いられたことのないものであることを特徴とする請求項7に記載の製品。
【請求項12】
以下のステップ:
(i)モレキュラーシーブとの接触によって、セボフルランおよび130ppmを超える水を含む溶液を乾燥させ、前記セボフルランと水の合計重量に基づき5ppm以下まで含水量を低下させること、
(ii)セボフルランと水から成る、乾燥させた前記溶液を、空間を規定する内壁を有するガラス容器内に入れて、当該溶液を前記内壁と接触させること、および、
(iii)前記ガラス容器中で前記セボフルランと水の溶液を貯蔵し、当該貯蔵の間、あらゆるタイプのルイス酸インヒビターの不在下であっても、40℃の温度で30日より長期間、水を含まないものを基準に算出された変性物含量が300ppm以下であること
を含む、麻酔薬製品を製造し安定に貯蔵する方法。
【請求項13】
前記ガラス容器がタイプIIIのアンバーガラス容器であることを特徴とする請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記モレキュラーシーブが1種以上の酸化アルミニウムを含むことを特徴とする請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記モレキュラーシーブの含量が、前記溶液と前記シーブの合計重量に基づき1〜20重量%の範囲であることを特徴とする請求項12に記載の方法。
【請求項16】
前記モレキュラーシーブと溶液を0.5〜20日の範囲内の期間接触させることを特徴とする請求項12に記載の方法。
【請求項17】
前記ステップ(i)において、前記溶液の含水量が、前記セボフルランと水の合計重量に基づき1ppm未満となるように、前記溶液を乾燥させることを特徴とする請求項12に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願に対するクロスリファレンス
出願人は、2005年4月18日に出願された「ごく微量の含水量のセボフルランの調製」と題された仮出願第60/672,334号に対する優先権を主張し、この仮出願を出典明示により本明細書中に組み込む。
本発明は、吸入麻酔薬の分野に関するものであり、より詳細には、ごく微量の含水量のセボフルランの調製に関するものである。
【背景技術】
【0002】
化合物セボフルラン〔1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピルフルオロメチルエーテルまたは(CF3)2CHOCH2F〕は、広く使用される吸入麻酔薬であり、特に、外来手術のために適している。それ故、安定なセボフルランの調製のための経済的かつ有効な方法が非常に所望されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
セボフルランを調製するための多くの方法が記載されており、その多くは、商業上の実施の可能性が制限されている。米国特許第3,683,092号は、4つの調製法を記載し、そのうちの3つは、1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピルメチルエーテル(スルホラン中でフッ化カリウムと、または三フッ化臭素と反応するもの)で出発し、また、そのうちの1つは1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロパノール(ホルムアルデヒドおよびフッ化水素と反応するもの)で出発する。米国特許第3,897,502号は、1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピルメチルエーテルの、アルゴン中で元素状フッ素を用いる直接フッ素化を記載する。米国特許第4,874,901号は、超臨界条件(即ち、高温および高圧)下でフッ化ナトリウムを用いるハロゲン交換反応を開示する。三フッ化臭素を用いるフルオロカルボキシル化合成が、米国特許第4,996,371号に報告されている。三フッ化臭素は、米国特許第4,874,902号に記載されている別の合成にも使用されている。ヘキサフルオロイソプロパノール、ホルムアルデヒド、フッ化水素及び硫酸を用いる更なる合成法が米国特許第4,250,334号に説明されている。
【0004】
米国特許第5,969,193号は、商業上実施可能な別法によりセボフルランを調製する。これは、1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピルメチルエーテルを提供し、この物質を塩素で塩素化して、1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピルクロロメチルエーテルを得、次いでこの中間体を、フッ化水素と立体障害アミンとの混合物中でフッ素化し、セボフルランを得るものである。米国特許第5,886,239号は、別のアミンを用いてセボフルランを製造するための同様の合成法を記載する。
セボフルランの調製のための現在利用可能な方法は、概して、0.12〜0.14重量%または1200〜1400ppmまで−これは、ほぼセボフルランの水飽和限度である−溶存水を含む製品を生じる。
【0005】
米国特許第5,990,176号、第6,288,127号、第6,444,859号および第6,677,492号(「アボット(Abbott)特許」)は、セボフルランが、標準的な麻酔薬のパッケージング〔例えば、タイプIIIのアンバーガラスボトル(amber glass bottles)等〕中での貯蔵中に安定を保つためには、セボフルラン中の水の存在が必要であることを示す。(不飽和のセボフルランは吸湿性があり、貯蔵時に溶液は、徐々に含水量が増すことが多い。従って、水を含ませることは特に適切である。)
セボフルランは、貯蔵中にわずかな変性を被り得、他の分解生成物の中でも特に、周知のガラスエッチャント(glass etchant)であるフッ化水素酸を生じ得る。
【0006】
アボット特許は、セボフルランがガラスボトルに貯蔵される場合、そのように生成されたフッ化水素酸によりボトルの内部表面がエッチングされ、ルイス酸として作用する酸化アルミニウム等の部分が露出し、更なるセボフルランの変性が触媒されて、このプロセスにより更なるフッ化水素酸が形成されることを教示する。フッ化水素酸の生成が加速される結果として、ボトルの内部表面が露出したルイス酸部分で益々穴だらけになるように、変性の「カスケード」が起こる。
【0007】
セボフルランに関する、貯蔵中の分解の問題に対処するために、エッチングされたガラスにおけるルイス酸部分により、カスケード化する変性プロセスが触媒されるのを防ぐために、例えば水等のルイス酸インヒビターが、貯蔵されるセボフルラン溶液中に存在するべきであると考えられてきた。エッチングされたガラス等のルイス酸の存在下で、安定なセボフルラン溶液を得るために、ルイス酸インヒビターは、セボフルランの変性を妨げるのに十分な量で存在しなければならないと考えられる。しかし、規則は、セボフルラン製造業者が、市販のパッケージ(例えば、ガラス、プラスチック、または金属)中での貯蔵寿命の安定性を立証することを要求する。つまり、セボフルランの安定性を低レベルの溶存水含量で立証することができるのであれば、セボフルラン製品中に低量の水を残す方法は、セボフルランの製造の有用な方法となる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明の簡単な記載
驚くべきことに、水を含まず、かつ、標準的なガラス製の麻酔容器中に貯蔵されるセボフルランが、変性を被らないことが見出された。飽和に近い含水量を有するセボフルラン溶液の場合と異なり、低量の(0.015重量%または150ppm未満の濃度の)水を含むセボフルラン組成物は、変性を被ることなく標準的なガラス製麻酔容器中に貯蔵され得る。約0.0〜0.003重量%(即ち、0〜約30ppm)の範囲内の低含水量のセボフルラン溶液が、ガラス容器中に貯蔵された場合、長期の安定性を有することが見出された。安定性は、室温を超える温度でさえ、認められる。安定性なる文言により、以下に明確に説明されるように、および、約58℃の温度で約15日間、実質的に変性されないことを意味する。「長期安定性」により、2週間より長期間の、24ヶ月までの、またはそれより長期間の安定性を一般に意味する。そのような安定性は、あらゆるタイプのルイス酸インヒビターの不在下でも認めることができる。
【0009】
つまり、一態様では、本発明により150ppm未満の含水量の安定なセボフルランが提供される。他の態様では、本発明は、低含水量の安定なセボフルラン溶液が提供される。約8〜30ppmの範囲の含水量を、以下、「低」含水量と呼ぶ。更に他の態様では、本発明により、ごく微量の含水量の、安定なセボフルラン溶液が提供される。約1〜8ppmの範囲の含水量を、以下、「ごく微量の」含水量と呼ぶ。さらに他の態様では、本発明により、本質的に水を含まない、即ち1ppm未満の含水量の、安定なセボフルラン溶液が提供される。
【0010】
セボフルランは、乾燥処理または剤(例えば、モレキュラーシーブ)によりその余分な水を除去することにより、標準的な水の検出法により決定されるごく微量の含水レベルまで乾燥される。セボフルランを低含水量、「ごく微量の含水量」または「水を含まない」レベルまで乾燥させる方法は、部分的に酸化アルミニウムから成るもの等のルイス酸部分を有するモレキュラーシーブの使用により、成し遂げることができる。セボフルランは、実際に、前記シーブと共に、長期間、変性を被ることなく、貯蔵され得る。こうして、これまでセボフルランの変性の原因と考えられていた酸化アルミニウム等の部分の存在下に、前記溶液の安定性が、水を添加せずとも、その後維持される。「水を含まない」により、カール・フィッシャー分析により決定されるように、セボフルランが0〜1ppmの範囲の水を含むことを意味する。
【0011】
つまり、一態様では、本発明により、低含水量、ごく微量の含水量、または水を含まない程度まで、セボフルランを乾燥させるための方法が提供される。一態様では、前記方法は、セボフルラン/水混合物の水のレベルを、これをモレキュラーシーブに接触させることにより低下させることを含む。さらなる態様では、当該接触は、水をごく微量レベルまたはそれ以下のレベルまで減らすのに十分長期間行う。さらに別の態様では、前記シーブは、30日より長期間、セボフルランと共に貯蔵される。
【0012】
発明の詳細な記載
本発明により、低含水量の、ごく微量の含水量の、または水を含まない、安定な長期貯蔵性のセボフルラン溶液が提供される。
セボフルランは、主として、吸入麻酔薬として使用され、よって、その溶液は概して、ヒトにより吸入されると有害な、フッ化水素酸や、1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロパノール等の他の分解生成物等の成分を比較的含まない。むしろ、本発明の安定なセボフルラン溶液は、水に加えて、例えば他のルイス酸等の他の成分を含むことができる。しかし、セボフルランは、99.0重量%より高い純度を有することが好ましい。99.90重量%より高い純度であることがより好ましく、99.97重量%より高い純度であることが最も好ましい。前記純度は、水を含まないものを基準に算出される。
【0013】
本発明の組成物および方法の利点は、セボフルラン溶液が非常に安定で、30、60、90、365日の長期間またはこれより長期間、およびしばしば効果的に、無期限に、実質的に変性を被らないままであり得ることである。前記溶液は、40℃もの高さの温度で、およびセボフルランの沸点(58℃)もの高さでも、またこれより高い温度でさえ、安定を示すことができる。「実質的に変性を被らない」により、溶液の変性物含量が10,000ppm以下であることを意味する。前記溶液の変性物含量が3,000ppm以下であることがより好ましく、および、前記変性物含量が300ppm以下であることが最も好ましい。前記「ppm」の測定は、水を含まないものを基準に算出される。
【0014】
本発明により、また、本発明の、低い、またはごく微量の含水量のセボフルラン溶液を調製し、および維持するための方法が提供される。本発明の安定なセボフルラン組成物は、水を含むセボフルラン溶液を、例えば、蒸留、低温乾燥、フッ化カリウム(KF)およびモレキュラーシーブ等の乾燥処理に供することにより調製されることができる。セボフルランは市場入手可能であり、多くの合成法および調製法の一つにより調製することもでき、かかる合成法・調製法のいくつかが、いくつかの米国特許、例えば、1999年10月19日に発効された米国特許第5,969,193号−この開示内容を、出典明示によりここに組み込む−に記載されている。
【0015】
乾燥処理または剤を用いて、セボフルラン中、約0.013重量%(または130ppm)以下、好ましくは0.003重量%(または30ppm)以下、より好ましくは0.0008重量%(または8ppm)以下の、および最も好ましくは0.0001重量%(または1ppm)以下の含水量が達成される。そのような処理または剤には、限定するものではないが、モレキュラーシーブの使用、低温乾燥、フッ化カリウム(KF)、および蒸留の使用が含まれ得る。蒸留を用いる場合、本発明の低含水量の、ごく微量の含水量の、または水を含まないセボフルラン溶液を得るために、長期間蒸留を行うことが必要であり得る。
【0016】
低温乾燥は、-30℃もの低さの、またはそれより低い温度まで、水を含むセボフルラン溶液を冷やして、規則的な水分子構造物を形成させることを含む。前記乾燥処理として低温乾燥を用いる場合、セボフルランは、水の氷点(即ち、0℃)以下、好ましくは-30℃〜-20℃に冷却するべきである。この水構造物を次いで、ステンレススチールのフィルターエレメントを用いる濾過による等して、除去することができる。これは、概して、低い液体温度が達成され、および好ましくは一定期間(例えば、24時間)保持された後になされる。
【0017】
ごく微量の含水量の、安定なセボフルランを製造するための好ましい方法は、部分的にアルミナから成るモレキュラーシーブに前記溶液を曝すことである。アルミナ含有シーブの使用−これにより、その酸化アルミニウムの含有により、公知のルイス酸が導入される−により、驚くべきことに、前記溶液が、低含水量、ごく微量の含水量、または水を含まない程度まで乾燥された後でも、セボフルランの変性が起こらない。変性の欠如は、前記シーブにより前記溶液が本質的に無水にされ、次いで、長期間前記溶液と共に貯蔵されるような場合でも、起こる。
【0018】
前記方法は、飽和レベルの、またはそれ以下の水を含むセボフルラン溶液を、当該溶液中の水のレベルが120ppm以下にまで低下するように、モレキュラーシーブと混合することを含む。好ましくは、水のレベルは低レベル、即ち30ppm以下、およびより好ましくはごく微量レベル、即ち、8ppm以下のレベルまで低下される。
【0019】
概して、モレキュラーシーブは、標的分子を選択的に捕捉し得る所望の多孔性構造を生じる無機成分の混合物から成る。かかる成分には、概して、主としてアルミナ(酸化アルミニウム)およびアモルファスシリカと、種々の比率の酸化ナトリウム、酸化カリウム、酸化カルシウムおよびバインダー物質が含まれる。かかる物質種の比率および/または組合せにより、前記孔のサイズ−これは典型的には2Åまたはそれより大きく、一般に入手可能なシーブのサイズは3、4、5または10Å(オングストローム)である−が決定される。
【0020】
前記モレキュラーシーブのセボフルランとの直接接触は、環境条件、好ましくは10℃〜30℃の間で行うことができる。使用すべきモレキュラーシーブ物質の量は、溶存水を所望のレベルまで除去するのに十分な量であるべきであり、好ましくは、セボフルランの重量に対して1重量%〜20重量%のモレキュラーシーブを用いるべきである。本発明の方法に使用できるモレキュラーシーブの組成は、好ましくは、部分的にアルミナから成る。それらは、25〜50重量%の範囲内の量のアルミナから成ることがより好ましい。シーブは、概して、2〜12Åの範囲内の、より好ましくは2〜5Åの孔サイズを有する。タイプ3A等の約3オングストロームの孔サイズ(即ち、3Åの名目上の孔サイズ)を有するシーブがより好ましいが、除去の程度が異なるのに応じて、他の孔サイズを用いることができる。シーブおよびセボフルラン溶液は、好ましくは、セボフルランの含水量を30ppm未満にする量と時間で、接触される。これは、固定床フロー条件下では10分間以上の接触に対応し得る。これは、攪拌条件下では30分間以上の接触に対応し得る。これは、静止条件下では3時間以上の接触に対応し得る。
【0021】
セボフルランを低含水量、ごく微量の含水量、または水を含まない水レベルまで乾燥するのに、他の乾燥法を用いることができる。フッ化カリウム(KF)を乾燥剤として使用する場合、KFのセボフルランとの直接接触は、環境条件下で、好ましくは10℃〜30℃で行い得る。使用すべきKFの量は、溶存水を所望のレベルまで除去するのに十分な量であるべきであり、好ましくは、セボフルランの重量に対して2重量%〜20重量%のKFを使用するべきである。固体の物質は、所望の水の濃度を達成後、濾過(例えば、ステンレススチールフィルターまたはポリマーファイバーフィルター)により除去することができる。
【0022】
セボフルラン間の接触時間および使用されるあらゆる乾燥処理または乾燥剤は、溶存水を所望のレベルまで除去するのに十分なものであるべきである。攪拌および当業者の知識の範囲内の攪拌の他の形式を、水の除去を促進するために用いてよい。セボフルランおよび用いられる乾燥処理または剤は、所望の場合、乾燥完遂時に切り離されてよい。例えば機械的分離等の切り離しの方法は、当業者の知識範囲内にある。
【0023】
本発明の範囲内で含まれる場合、低い、ごく微量の、または水を含まない水レベルのセボフルラン溶液は、当該溶液が乾燥処理に供されようと供されまいと、または当該溶液がどのように乾燥に供されようと、安定である。本発明の、低量の含水量の、ごく微量の含水量の、または水を含まない溶液は概して、それが乾燥ステップに供されたか否か、またはどのようにそれらが乾燥されたかに関わらず、概して、変性を被らない。
本発明のセボフルラン溶液は、広範な種々の容器にて、変性を被ることなく輸送され、および/または貯蔵され得る。適当な容器には、ガラス、ポリエチレン、ステンレススチール製のもの、ならびにセボフルランに対して不活性なライニング(linings)、例えば、エポキシ-フェノールライニングを有する容器が含まれる。ガラス容器、特に、タイプIIIのアンバーガラスから作成された容器が、特に便利で好ましい。
【0024】
本発明により、本明細書中に記載される低含水量のセボフルラン溶液を、同定されているルイス酸(例えばアルミナ)を含むガラス容器中で貯蔵できる。驚くべきことに、本発明の低含水量のセボフルラン溶液は、酸化アルミニウム部分(ルイス酸部分)の存在下でも安定であり、即ち、この溶液は、そのような部分を有するガラスの存在下で概して安定である。
本発明の安定なセボフルラン組成物は、130ppm未満の含水量を有する。他の態様では、含水量は80ppm未満である。他の態様では、含水量は30ppm未満である。好ましい態様では、含水量は0〜8ppmの範囲内である。前記含水量は、セボフルランと水の合計重量に基づく。含水量は、標準的な検出法−例えば、カールフィッシャー法−により測定できる。含水量は、0.015重量%(または150ppm)以下、好ましくは0.003重量%(または30ppm)以下、およびより好ましくは0.0008重量%(または8ppm)以下であるべきである。
【0025】
本発明の溶液は、概して、標準的な麻酔薬容器にて輸送および貯蔵される場合、変性を被らないと期待される。特に、ガラスの容器中での前記溶液の輸送および貯蔵は、セボフルランの変性を生じないであろう。実際、30、60、90または365日もの長期間、ガラスボトル中に貯蔵されたセボフルランは、99重量%より高程度に純粋であり得、99.99重量%もの高さで、又はそれ以上純粋ですらあり得る。
以下に、および前記記載に関して示す実施例は、調製された本発明の態様の実施を十分に説明するのに役立つ。かかる実施例は、説明の目的のためのものであることが意図され、本発明の範囲を限定することを意図するものではない。
【0026】
[実施例1]
以下の実施例は、低含水量のセボフルランの調製およびその結果としての安定性を立証するものである。2000年8月に開始された一実験では、セボフルラン(アボット・ラボラトリーズ(Abbott Laboratories)、ロット#61-339-DK、使用期限8/1/2001)をタイプ3Aのモレキュラーシーブを用いて0ppmの含水量まで乾燥した。乾燥は、セボフルランをモレキュラーシーブと混合し、次いで、かかる物質を共に数時間置くことにより行われた。含水量は、カール・フィッシャー分析により決定した。乾燥されたセボフルランのサンプルを、新品のアンバータイプIIIガラスボトルに入れ、これを100℃にて2時間乾燥させた。ボトルを黒色のフェノール/尿素樹脂キャップとポリエチレン樹脂製ポリシールライナーで封じ、テフロン(登録商標)テープで収縮包装または包装し、次いで収縮包装した。サンプルを次いで室温(25-27℃)および環境相対湿度で維持した。4週間の安定過程の終わりに、サンプルを水(カール・フィッシャー分析)の%およびセボフルラン純度に関してガスクロマトグラフィーにより分析し、68ppmの水を有すること、99.998%のセボフルランであることが見出され、分解はなかった。
【0027】
[実施例2]
アボット・ラボラトリーズからのセボフルランの一未乾燥ロット(ロット#033570K、使用期限4/01/97、タイプIIIボトル中で貯蔵されたもの)を、2000年の5月と10月に分析した。このセボフルランは97ppmH2Oおよびガスクロマトグラフィーにより99.9916%セボフルランであった。このサンプルの使用期限日は、2年の貯蔵期間を有して1997年であり、これがおそらく1995年に包装され、それゆえ、この分析の時点で、環境温度で約5年間、分解を伴うことなく貯蔵されたことを示す。
【0028】
[実施例3]
セボフルランの安定性に関する追加的データを、米国政府から受領した。このデータは、1997年1月27日より前にアボット・ラボラトリーズにより製造されたセボフルランの71ロットの水の%をリストアップしたものである。これらロットの含水量は、0.0008〜0.0131重量%(即ち、8ppm〜131ppm)の範囲であった。このリストから、一群のロットを、不安定さのために回収した。この情報は、FDAから、ザ・フリーダム・オブ・インフォメーション・アクト(the Freedom of Information Act)を経由して入手した。実際、71ロットのうちの19を、不安定さおよび/または分解のために回収した。19の回収されたロットの含水量(平均0.0036%または36ppm)は、回収されなかった52ロットの含水量(平均0.0036%または36ppm)と同様であった。回収されたロットは、年代順に列挙されたこれらロットの間で、一様には分布していない。不安定なロットの大半は、かかるシリーズの後方の部分に群をなしている。アボットは、関連する記録文書で、変性の根本的な原因が、大量の容器において、錆びたバルブからセボフルランへ導入されたさび(即ち、酸化鉄、ルイス酸)であり得ると纏めた。
【0029】
[実施例4]
本実施例は、酸化鉄(ルイス酸)の存在下で低レベルの溶存水にて変性が生じ得ること、および、この変性がより高い水レベルで軽減され得ることを立証するものである。
30ppmの水と0.05gのFe2O3(酸化鉄)を含むセボフルランのサンプルを、新品のタイプIIIのアンバーガラスボトルに、2000年7月に入れ、既に記載されるように封じた。40℃にて4週間後、ガスクロマトグラフィー分析は、90.7%のセボフルラン、6.33%の(CF3)2CHOCH2OCH(CF3)2および0.49%の(CF3)2CHOH並びに3つの他の未同定の分解生成物を示した。
水(1235ppm)で飽和されたセボフルラン(28g)の第二のサンプルに、0.07gのFe2O3を添加した。このサンプルを2000年9月に、新品のタイプIIIのアンバーガラスボトルに、既に記載されているように封じ、40℃にて4週間貯蔵した。セボフルランの分解は認められず、これはガスクロマトグラフィーにより99.97%純粋であると決定された。
この実施例に照らして、ガラス容器中に貯蔵され、および/または、部分的にアルミナから成るモレキュラーシーブと接触および/または貯蔵された低含水量のセボフルランに関して、変性が認められないことは、より一層驚くべきことである。
【0030】
[実施例5]
セボフルランの他のサンプル(40g)を2gのタイプ3Aのモレキュラーシーブ(‘176特許にてルイス酸として同定されたAl2O3を含むアルミノシリケート)と共に、2000年7月に貯蔵した。このサンプルを、新品のタイプIIIのガラス容器中に6ヶ月間環境温度に置いた。ガスクロマトグラフィーにより決定されるように、セボフルランの分解は認められず、99.99%より多くのセボフルランを示した。
【0031】
[実施例6]
2000年7月から開始して、40gのセボフルラン(アボット・ラボラトリーズ ロット#35-621-DK-03)を、2gのタイプ3Aのモレキュラーシーブの存在下で20ヶ月間、乾燥済の新品のタイプIIIのアンバーガラスボトル中で室温で貯蔵した。初期の含水量は218ppmであり、モレキュラーシーブとの接触の16時間後には(約1ppmまたはそれ未満の検出リミットを有する、当業者に公知の方法であるカール・フィッシャーにより決定されるように)本質的にゼロであった。20ヶ月の試験の終わりに、ガスクロマトグラフィーにより示されるように、99.997%セボフルランにて、分解の証拠は全くなかった。
【0032】
[実施例7]
(実施例1に記載されるロットからの)セボフルランのサンプルを、室温(25-27℃)にて、タイプ3Aのモレキュラーシーブ上に、2000年7月に開始して2ヶ月半の間、乾燥済の新品のタイプIIIのアンバーガラスボトル中に保持した。この期間の終わりに、セボフルランの%は(ガスクロマトグラフィーにより決定されるように)99.99%より高かった。分解はなかった。
【0033】
[実施例8]
セボフルラン(99.99%、2005年1月に製造されたもの)を、タイプ3Aのモレキュラーシーブ上で、連続流動床装置を用いて、カール・フィッシャーにより測定されるように、0.0重量%(または0ppm)の水組成まで、乾燥させた。100mlのセボフルランをタイプIIIのアンバーガラスボトル中に詰め、30日間の安定性試験のために、40℃および75%の相対湿度で封じた。この期間の終わりに、セボフルランは、ガスクロマトグラフィーにより決定されるように99.99%であった。分解はなかった。
【0034】
[実施例9]
セボフルラン(99.99%、2005年1月に製造されたもの)をタイプ3Aのモレキュラーシーブ上で、連続流動床装置を用いて、カール・フィッシャーにより測定されるように、0.0重量%(または0ppm)の水組成まで、乾燥させた。250mlのセボフルランをタイプIIIのアンバーガラスボトルに詰め、30日間の安定性試験のために、40℃および75%の相対湿度で封じた。この時間の終わりに、セボフルランは、ガスクロマトグラフィーにより測定されるように、99.99%であった。分解はなかった。
【0035】
[実施例10]
セボフルラン(99.99%、2005年1月に製造されたもの)をタイプ3Aのモレキュラーシーブ上で、連続流動床装置を用いて、カール・フィッシャーにより測定されるように、0.0重量%(または0ppm)の水組成まで乾燥させた。28.1kgのセボフルランを5ガロンのエポキシ樹脂でライニングされたドラム中に詰め、30日間の安定性試験のために40℃および75%の相対湿度で封じた。この期間の終わりに、セボフルランの%は、ガスクロマトグラフィーにより測定されるように99.99%であった。分解はなかった。
【0036】
[実施例11]
セボフルランの長期安定性を立証する追加的データを以下の表に示す。精製されたセボフルランをタイプ3Aのモレキュラーシーブ上で、連続流動床装置を用いて、カール・フィッシャーにより測定されるように、ごく微量の、またはごく微量に近い程度の水組成まで、乾燥した。乾燥された物質を100mLまたは250mLのタイプIIIのアンバーガラスボトルまたは5ガロンのエポキシ樹脂でライニングされたドラム中に詰め、次いで、安定性試験の一部として、制御条件下または環境条件下で貯蔵した。全ての場合に、ガスクロマトグラフィーにより決定されるように、セボフルランの%は全く分解を示さなかった。
【0037】
【表1】
【0038】
実施例8〜11に用いられたセボフルランは、2005年11月17日に出願された係属中の米国特許出願第11/281,293号に記載される方法により製造したものであり、この出願の開示内容を本明細書中に出典明示により組み込む。
本発明の態様を詳細に記載したが、これは説明の目的のためになされるものであり、限定するものではない。