(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5902404
(24)【登録日】2016年3月18日
(45)【発行日】2016年4月13日
(54)【発明の名称】扁平型ヒートパイプおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
F28D 15/04 20060101AFI20160331BHJP
F28D 15/02 20060101ALI20160331BHJP
【FI】
F28D15/04 G
F28D15/04 D
F28D15/04 H
F28D15/04 B
F28D15/02 L
【請求項の数】7
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2011-130554(P2011-130554)
(22)【出願日】2011年6月10日
(65)【公開番号】特開2013-2640(P2013-2640A)
(43)【公開日】2013年1月7日
【審査請求日】2013年12月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005186
【氏名又は名称】株式会社フジクラ
(74)【代理人】
【識別番号】100083998
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 丈夫
(72)【発明者】
【氏名】モハマド シャヘッド アハメド
(72)【発明者】
【氏名】川原 洋司
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 祐士
(72)【発明者】
【氏名】望月 正孝
(72)【発明者】
【氏名】田原 裕一朗
【審査官】
新井 浩士
(56)【参考文献】
【文献】
特開2011−002216(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2006/0243426(US,A1)
【文献】
特開2003−222481(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F28D 15/02
F28D 15/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱されて蒸発しかつ放熱して凝縮する作動流体によって熱を輸送する扁平型ヒートパイプにおいて、
扁平型に形成されかつ前記作動流体が封入されたコンテナと、
多数本の細線と粉体とが混合されて形成されたウイックとを備え、
前記ウイックが前記コンテナの全長に亘って前記コンテナの内部における一方の平坦面に固定され、
その一方の平坦面に固定された前記ウイックと前記コンテナの内部における他方の平坦面との間を前記蒸発した作動流体が流動するように構成され、
前記ウイックは、前記細線によって形成されるファイバーウイック層と、前記粉体によって形成されるパウダーウイック層とを備え、
前記ファイバーウイック層が前記一方の平坦面に固定され、そのファイバーウイック層上に前記パウダーウイック層が積層され、
前記コンテナの内壁面に毛細管力を生じかつ前記作動流体の流路となる細溝が形成され、
前記ファイバーウイックは、その少なくとも一本の細線を他の多数本の細線に対して交差するように束ねて形成される細線束を有しており、前記細線束はその中心軸線を中心にして撚られている
ことを特徴とする扁平型ヒートパイプ。
【請求項2】
前記コンテナの長手方向に直交する前記ウイックの断面の形状が、矩形状と扁平な半円形状とのいずれか一方を含むことを特徴とする請求項1に記載の扁平型ヒートパイプ。
【請求項3】
前記細線は、銅線と炭素繊維とのいずれか一方を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の扁平型ヒートパイプ。
【請求項4】
加熱されて蒸発しかつ放熱して凝縮する作動流体によって熱を輸送する扁平型ヒートパイプの製造方法において、
多数本の細線によって形成されるファイバーウイック層の上に、粉体によって形成されるパウダーウイック層が積層されたウイックを形成するウイック形成工程と、
前記ウイック形成工程で形成された前記ウイックをパイプの内部に挿入しかつ前記パイプの全長に亘ってその少なくとも一部の内壁面に接触させて配置させ、その状態で焼結することにより前記ファイバーウイック層を前記内壁面に固定する固定工程と、
その後に、前記内壁面が平坦面となるように前記パイプを押しつぶして前記パイプを扁平化させるとともに、前記ウイックとそのウイックが固定された平坦面に対向する他の平坦面との間に蒸気化した前記作動流体が流動する蒸気流路を形成する扁平化工程とを備え、
前記パイプの内壁面に毛細管力を生じかつ前記作動流体の流路となる細溝が予め形成され、
前記ファイバーウイックは、その少なくとも一本の細線を他の多数本の細線に対して交差させて形成する
ことを特徴とする扁平型ヒートパイプの製造方法。
【請求項5】
前記パイプの内周円と同じ曲率の半円状の溝が形成されたベースプレートと、前記溝の開口端部を覆うカバープレートとを備えた治具を有し、
前記ウイック形成工程は、前記パイプの内壁面に前記ファイバーウイックを固定するため前記溝に前記細線を敷き詰め、その敷き詰められた細線の上に前記粉体を積層し、その後に前記溝を前記カバープレートで覆った状態で焼成することにより前記ウイックを形成する
ことを特徴とする請求項4に記載の扁平型ヒートパイプの製造方法。
【請求項6】
前記扁平化されたコンテナの長手方向に直交する前記ウイックの断面の形状が、矩形状と扁平な半円形状とのいずれか一方を含むことを特徴とする請求項4または5に記載の扁平型ヒートパイプの製造方法。
【請求項7】
前記細線は、銅線と炭素繊維とのいずれか一方を含むことを特徴とする請求項4ないし6のいずれかに記載の扁平型ヒートパイプの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、コンテナの内部に封入した作動流体によって熱を輸送するように構成されたヒートパイプに関し、特に作動流体を蒸発部に還流させる毛細管力を発生させるためのウイックが細線と粉体とによって構成され、しかも全体として扁平形状に構成されたヒートパイプおよびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ヒートパイプは基本的には空気などの非凝縮性の気体を脱気したコンテナ(容器)の内部に、水やアルコールなどの目的とする温度範囲で蒸発および凝縮する流体を作動流体として封入し、さらに液相の作動流体を還流させるための毛細管力を発生するウイックをコンテナの内部に設けたものである。したがって、ヒートパイプにおいては、その作動流体が外部から熱を受けて蒸発し、その蒸気が圧力の低い箇所に向けて流れた後に放熱して凝縮する。その結果、作動流体はその潜熱によって熱を輸送する。凝縮した作動流体はウイックに浸透する。一方、蒸発の生じている箇所ではウイックによる毛細管力が生じているので、ウイックに浸透した作動流体がその毛細管力によって、蒸発の生じている箇所に還流させられる。
【0003】
このように、ヒートパイプでは、外部から熱が伝達される蒸発部と、作動流体が外部に放熱する放熱部との間で蒸気流が生じ、またこれとは反対方向に向けた液流が生じることにより、熱が輸送される。したがって、熱輸送能力を向上させ、あるいは熱抵抗を低減するためには、蒸気流と液流とを円滑に、また必要十分に生じさせることが好ましい。また、ヒートパイプの用途は多様であり、例えば電子機器での冷却のために使用されることもあり、そのような場合、その電子機器や回路の小型化に合わせてヒートパイプも小型軽量化することが望まれる。
【0004】
そこで従来、蒸気流のための流路の確保や作動流体の還流特性の向上、さらには小型化のための各種の技術が開発されており、その一例が特許文献1に記載されている。この特許文献1には、パイプの内部に切り欠き部を有する芯材を挿入し、パイプの内壁面と切り欠き部とによって形成される空間部分に金属粉末を充填し、これを加熱することにより金属粉末を焼結したウイックを形成するとともにこれをパイプの内壁面に固定し、その後に、芯材のみをパイプから引き抜き、更にその後に、前記ウイックがそのウイックを固定している内壁面に対向する他の内壁面に接触するようにパイプを押し潰すことにより扁平化した扁平型ヒートパイプが記載されている。したがって、この特許文献1に記載された扁平型ヒートパイプでは、ウイックと他の内壁面との間にも毛細管力が生じ、すなわちこれらの間に還流路が形成されて作動流体を還流できるので、熱輸送を強化できる、とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011−43320号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載されているように構成すると、扁平化したコンテナの内壁面の内、すなわち、上記の他の内壁面と金属粉末を焼結させたウイックとが接触した状態では蒸気空間は二分され、二つの狭い蒸気空間が生じることになる。そのため、その狭い蒸気空間において作動流体蒸気の流速が速くなるなど蒸気空間を有効に利用できず、熱輸送能力が低下する可能性がある。また、金属粉末を焼結させたウイックは連続的な作動流体の還流路が形成されないために作動流体の流動抵抗が大きくなり、その結果、扁平型ヒートパイプにおいて、作動流体の還流特性を向上させるためには不利になる可能性がある。さらにまた、特許文献1に記載された構成では、上記の他の内壁面とウイックとが接触するようにパイプを押し潰しているため、それらの接触部分においては作動流体を蒸気化させることができず、その分、ウイックにおける作動流体の蒸発面積が減少する可能性がある。
【0007】
この発明は上記の技術的課題に着目してなされたものであり、ウイックにおける作動流体の蒸発面積を減少させることなく、還流特性を向上させたウイックを備えた扁平型ヒートパイプおよびその製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために
、この発明は、加熱されて蒸発しかつ放熱して凝縮する作動流体によって熱を輸送する扁平型ヒートパイプにおいて、扁平型に形成されかつ前記作動流体が封入されたコンテナと、多数本の細線と粉体とが混合されて形成されたウイックとを備え、前記ウイックが前記コンテナの全長に亘って前記コンテナの内部における一方の平坦面に、盛り上がった状態で焼結により固定され、その一方の平坦面に固定された前記ウイックと前記コンテナの内部における他方の平坦面との間を前記蒸発した作動流体が流動するように構成さ
れ、前記ウイックは、前記細線によって形成されるファイバーウイック層と、前記粉体によって形成されるパウダーウイック層とを備え、前記ファイバーウイック層が前記一方の平坦面に固定され、そのファイバーウイック層上に前記パウダーウイック層が積層され、前記コンテナの内壁面に毛細管力を生じかつ前記作動流体の流路となる細溝が形成されていることを特徴とするものである。
【0010】
この発明に
おける前記ファイバーウイッ
クは、その少なくとも一本の細線を他の多数本の細線に対して交
差するように束ねて形成される細線束を有しており、前記細線束はその中心軸線を中心にして撚られて構成されていてよい。
【0011】
この発明に
おける前記コンテナの長手方向に直交する前記ウイックの断面の形状が、矩形状と扁平な半円形状とのいずれか一方を
含んでいてよい。
【0012】
この発明に
おける前記コンテナは、前記ウイックをパイプの内壁面に接触させかつ偏らせて配置させるとともにその状態で焼結することにより前記ウイックを固定させ、前記ウイックが固定された内壁面が平坦面となるように押しつぶされて形成さ
れていてよい。
【0013】
この発明に
おける前記細線は、銅線と炭素繊維とのいずれか一方を
含んでいてよい。
【0014】
また、この発明は、加熱されて蒸発しかつ放熱して凝縮する作動流体によって熱を輸送する扁平型ヒートパイプの製造方法において、多数本の細
線によって形成されるファイバーウイック層の上に、粉体によって形成されるパウダーウイック層が積層されたウイックを形成するウイック形成工程と、前記ウイック形成工程で形成され
た前記ウイックをパイプの内部に挿入しかつ前記パイプの全長に亘ってその少なくとも一部の内壁面に接触させて配置させ、その状態で焼結することにより前
記ファイバーウイック層を前記内壁面に固定する固定工程と、その後に、前記内壁面が平坦面となるように前記パイプを押しつぶして前記パイプを扁平化させるとともに、前記ウイックとそのウイックが固定された平坦面に対向する他の平坦面との間に蒸気化した前記作動流体が流動する蒸気流路を形成する扁平化工程とを備
え、前記パイプの内壁面に毛細管力を生じかつ前記作動流体の流路となる細溝が予め形成されていることを特徴とする製造方法である。
【0015】
また、この発明
に係る製造方法は、前記パイプの内周円と同じ曲率の半円状の溝が形成されたベースプレートと、前記溝の開口端部を覆うカバープレートとを備えた治具を有し、前記ウイック形成工程は
、前記パイプの内壁面に前記ファイバーウイックを固定するため前記溝に前記細線を敷き詰め、その敷き詰められた細線の上に前記粉体を積層し、その後に前記溝
を前記カバープレートで覆った状態で焼成することにより前記ウイックを形
成してよい。
【0016】
この発明
に係る製造方法の前
記ファイバーウイッ
クは、その少なくとも一本の細
線を他の多数本の細線に対して交差
させて形成してよい。
【0017】
この発明
に係る製造方法では、前記扁平化されたコンテナの長手方向に直交する前記ウイックの断面の形状が、矩形状と扁平な半円形状とのいずれか一方を
含んでいてよい。
【0018】
この発明
に係る製造方法の前記細線は、銅線と炭素繊維とのいずれか一方を
含んでいてよい。
【発明の効果】
【0019】
この発明によれば、ウイックが細線と粉体とを混合して形成されているため、粉体同士の間に大きな毛細管力を生じさせることができ、細線同士の間に滑らかに連続した作動流体の還流路を形成して作動流体の流動抵抗を小さくすることができる。その結果、ウイック全体としての還流特性を向上させることができる。上記のウイックは扁平型のコンテナにおける一方の平坦面に、盛り上がった状態で固定され、かつ、そのウイックと、これを固定している平坦面に対向する他の平坦面との間を蒸発した作動流体が流動できるように構成されているため、言い換えれば、ウイックと他方の平坦面とが接触していないため、その分、ウイックにおいて作動流体が蒸発する面積を確保することができる。言い換えれば、ウイックと他方の平坦面とが接触することにより作動流体蒸気が流動するための空間が分けられたり、減少したりすることがない。したがって、上記のように構成することにより、蒸発した作動流体の流動が阻害されることを未然に回避もしくは抑制することができる。これらの結果、ウイックにおける液相の作動流体の蒸発面積が拡大するとともに、蒸発した作動流体の流動が円滑化されることになり、ひいてはヒートパイプ全体としての熱輸送特性を向上させることができる。すなわち、コンテナを扁平に構成した場合であっても、優れた熱輸送特性を確保することができる。しかも、ウイックはその全長に亘ってコンテナの内壁面に固定してある。その固定のためには、ウイックをコンテナの内部に挿入した状態で焼結して固定すればよく、製造性が良好である。これに加えて、コンテナに曲げなどの変形を与えても、その内部に固定されているウイックがコンテナに追従して変形するので、ウイックの位置がずれてコンテナの内壁面と接触
し、それに伴って閉塞した空間がコンテナの内部に生じて蒸発した作動流体の流動が阻害されるなどの事態を未然に回避もしくは抑制し、ウイックに沿った蒸気流路を確実に確保することができる。
【0020】
また、この発明によれば
、ウイックはファイバーウイック層とパウダーウイック層とを備え、ファイバーウイック層がコンテナの内壁面に固定され、その上にパウダーウイック層が積層されている。そのため、パウダーウイック層において大きな毛細管力を生じさせることができ、ファイバーウイック層において滑らかに連続した作動流体の還流路を形成して作動流体の流動抵抗を小さくすることができる。これに加えて、ファイバーウイック層がコンテナの内壁面に接触して配置されているため、コンテナの内壁面に対する作動流体の濡れ性を向上することができる。更にこれに加えて、パウダーウイック層がコンテナの内部空間側に配置されているため、ファイバーウイック層がコンテナの内部空間側に配置される場合に比較して大きな作動流体の蒸発面積を確保することができる。
【0021】
さらに、この発明によれば
、ウイックにおける少なくとも一本の細線が他の細線に対して交差されているため、言い換えれば、少なくとも一本の細線と他の細線とが比較的緩やかに撚られているため、特にファイバーウイック層内での液相の作動流体の流動が阻害されにくくなる。これに加えて、少なくとも一本の細線を他の多数本の細線に対して交差させることにより、ウイックの長手方向における細線の密度差や細線間の空隙率を調整することができる。その結果、細線同士の間に滑らかに連続した作動流体の還流路が形成され、作動流体の流動抵抗を小さくすることができる。
【0022】
そして、この発明によれば
、コンテナの長手方向に、すなわちウイックの長手方向に直交するウイックの断面の形状が矩形もしくは扁平な半円形状に形成さ
れている。そのため、扁平型のコンテナに沿わせてウイックを配置させることができる。
【0023】
また、この発明によれば
、断面が円形のパイプの内部にウイックを焼結により固定した状態でパイプを押し潰して扁平にするため、製造性が良好である。
【0024】
さらに、この発明によれば
、ウイック
に、銅線と炭素繊維とのいずれをも使用することができる。
【0025】
この発明
に係る製造方法によれば、細線と粉体とを混合したウイックを予め形成し、その予め形成したウイックをパイプの内部に挿入するとともに、パイプの少なくとも一部の内壁面およびパイプの全長に亘って接触させて配置し、焼成することにより前記ウイックをパイプの内部に固定するように構成されている。そしてその後にウイックが固定されている内壁面が平坦面となるようにパイプを押し潰して扁平化するとともに、ウイックと、これを固定している平坦面に対向する他の平坦面との間を蒸気化した作動流体が流動できるように構成されている。上記のウイックは細線と粉体とを混合して形成されているため、粉体同士の間に大きな毛細管力を生じさせることができ、細線同士の間に滑らかに連続した作動流体の還流路を形成して作動流体の流動抵抗を小さくすることができる。その結果、ウイックにおける液相の作動流体の還流特性を向上させることができる。また、パイプの内部にウイックを固定した後にパイプを扁平化させるため、パイプの変形に伴ってウイックを変形させることができる。これに加えて、上記のような扁平化工程では、ウイックと、これを固定している平坦面に対向する他の平坦面との間を蒸気化した作動流体が流動できるようにパイプを扁平化するように構成されているため、その分、ウイックにおける作動流体の蒸発面積を拡大できるとともに、ウイックが他の平坦面に接触することにより作動流体蒸気が流動するための空間が分けられたり、減少したりすることを未然に防止することができる。これらの結果、液相の作動流体の蒸発面積が拡大するとともに、蒸発した作動流体の流動が円滑化されることになり、ひいてはヒートパイプ全体としての熱輸送特性を向上させることができる。すなわち、コンテナを扁平に構成した場合であっても、優れた熱輸送特性を確保することができる。しかも、ウイックはその全長に亘ってコンテナの内壁面に固定してある。その固定のためには、ウイックをコンテナの内部に挿入した状態で焼結して固定すればよく、製造性が良好である。これに加えて、コンテナに曲げなどの変形を与えても、その内部に固定されているウイックがコンテナに追従して変形するので、ウイックの位置がずれてコンテナの内壁面と接触
し、それに伴って閉塞した空間がコンテナの内部に生じて蒸発した作動流体の流動が阻害されるなどの事態を未然に回避もしくは抑制し、ウイックに沿った蒸気流路を確実に確保することができる。
【0026】
また、この発明
に係る製造方法によれば
、その少なくとも一部分に扁平化させる前のパイプの内壁面の曲率とほぼ同じ曲率を有する曲面が形成された溝に、細線を敷き詰めた後に粉体を敷き詰めてこれを蓋部材で覆って焼成するように構成されている。そのため、上記工程で形成されたウイックの少なくとも一部に、扁平化させる前のパイプの内壁面とほぼ同じ曲率の曲面を形成させることができる。そして、これをパイプの内部に挿入すると、パイプの少なくとも一部の内壁面に焼成により一体的にウイックを固定することができる。加えて、上記のウイックが固定された曲面が平坦面となるようにパイプを扁平化すると、その平坦面にはファイバーウイック層が形成され、その上にパウダーウイック層が形成された状態となる。その結果、ファイバーウイック層が扁平化したパイプの内壁面に接触しているため、パイプの内壁面に対する液相の作動流体の濡れ性を向上させることができるとともに、ファイバーウイック層において滑らかに連続した作動流体の還流路を形成して作動流体の流動抵抗を小さくすることができる。また、パウダーウイック層において大きな毛細管力を生じさせることができる。さらにまた、パウダーウイック層がコンテナの内部空間側に配置されるため、ファイバーウイック層に比較して大きな作動流体の蒸発面積を確保することができる。
【0027】
さらに、この発明
に係る製造方法によれば
、ウイックにおける少なくとも一本の細線が他の細線に対して交差されているため、言い換えれば、少なくとも一本の細線と他の細線とが比較的緩やかに撚られているため、特にファイバーウイック層内での液相の作動流体の流動が阻害されにくくなる。これに加えて、少なくとも一本の細線を他の多数本の細線に対して交差させることにより、ウイックの長手方向における細線の密度差や細線間の空隙率を調整することができる。その結果、細線同士の間に滑らかに連続した作動流体の還流路が形成され、作動流体の流動抵抗を小さくすることができる。
【0028】
そして、この発明
に係る製造方法によれば
、扁平化されたコンテナの長手方向に直交するウイックの断面の形状が矩形もしくは扁平な半円形状に形成さ
れている。そのため、扁平型のコンテナに沿わせてウイックを配置させることができる。
【0029】
また、この発明によれば
、ウイック
に、銅線と炭素繊維とのいずれをも使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】この発明に係る扁平型ヒートパイプの断面図を模式的に示す図である。
【
図2】この発明に係るウイックを形成するために使用される治具の構成の一例を模式的に示す図である。
【
図3】この発明に係るヒートパイプにおけるウイックを製造する過程を模式的に示す図である。
【
図4】この発明に係る扁平型ヒートパイプの製造過程における中間品である丸形ヒートパイプの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
つぎにこの発明を具体的に説明する。この発明はウイックの構造に特徴を有するヒートパイプである。この発明に係るヒートパイプのウイックは、結束具を使用することなく束ねられた多数の細線によって形成されるファイバーウイック層と、その上に積層された粉体によって形成されるパウダーウイック層とを備えている。それらの細線と粉体とは、銅やカーボンなど、コンテナの内部に封入される作動流体との濡れ性が優れているものであればよい。より具体的には、ファイバーウイック層は、束ねられた細線のうち、少なくとも一本あるいは多数本の細線が他の多数本の細線に対して交差されている。すなわち比較的緩やかに撚られている。これは、毛細管力を生じさせるための細線間の空隙やウイックの長手方向における細線の密度を調整したり、細線の束がばらけないようにするためである。したがって、細線としては交差された後の形状を維持するものが好ましく、例えば銅線などの金属細線が好ましい。
【0032】
この発明では、上記のようなウイックを予め形成しておき、その予め形成したウイックをコンテナの内部に挿入し、そのウイックのファイバーウイック層をコンテナの一部の内壁面に接触させて配置する。その後にこれらを焼結することによりコンテナ内にウイックを固定する。ここで、ウイックと、これが固定されている一方の内壁面に対向する他方の内壁面との間に空隙を確保することにより、その空隙を蒸気化した作動流体が流動できるように構成されている。そして、その後にコンテナの内部に作動流体が封入される。そのコンテナは、要は、気密性のある中空の容器であり、互いに離れた箇所の間で熱の輸送を行う用途に供されるヒートパイプにあっては中空管が使用される。このコンテナは、その内部と外部との間で熱を伝達する必要があるので、熱伝導率の高い素材で構成されていることが好ましく、例えば銅管を使用することが好ましい。また、コンテナの内壁面には、作動流体の流路となり、また毛細管現象を生じる幅の狭い溝を形成してもよい。すなわち、コンテナとしてグルーブ管を使用してもよい。
【0033】
上述したように、ウイックはコンテナの内壁面に固定される。具体的には、ウイックをコンテナの内部に配置した状態で所定の温度に加熱することにより、ファイバーウイック層とコンテナとの間に焼結を生じさせ、両者を接合する。コンテナの内部のウイックを除いた、いわゆる余剰の空間が作動流体蒸気が流動する蒸気流路とされる。ここで、上記の所定の温度とは、例えば、銅によって細線やコンテナを形成した場合には、銅の溶融点前後の温度であり、より具体的には、溶融点温度よりも若干低い温度であり、これらをその温度まで加熱すると、隣接する細線同士やコンテナとこれに接触する細線とが結合する。
【0034】
他方、作動流体は加熱されて蒸発し、かつ放熱して凝縮することにより、潜熱の形で熱を輸送する流体であり、ヒートパイプを使用する温度に応じて適宜に選択される。その一例を挙げると、水、メタノールやエタノールなどのアルコール類、アンモニア、代替フロンなどが作動流体として使用される。この作動流体は、コンテナの内部から空気などの非凝縮性ガスを脱気した状態で、コンテナの内部に封入される。
【0035】
したがって、この発明に係るヒートパイプでは、コンテナの一部に熱を加え、かつ他の一部を冷却すると、作動流体が加熱されて蒸発し、その蒸気が温度および圧力の低い箇所に向けて流動し、その後、放熱して凝縮する。その蒸気流路は、ウイックに沿った流路であり、この発明においては、パウダーウイック層と、ウイックを固定しているコンテナの一部の内壁面に対向する他の内壁面との間にも蒸気流路が確保される。また、ウイックは、焼結によりコンテナの内壁面に固定されているので、ヒートパイプに曲げなどの変形を加えたとしても蒸気流路が確保される。それらの結果、作動流体蒸気の流動が必要十分に行われてヒートパイプとしての熱輸送特性が良好になる。これに加えて、上述したように、パウダーウイック層と他の内壁面との間に蒸気流路が確保されるため、言い換えれば、パウダーウイック層と他の内壁面とが接触しないため、その分、作動流体の蒸発面積が確保される。
【0036】
一方、凝縮した作動流体はウイックに浸透し、ウイックを構成している細線同士や粉体同士の間の隙間を流路として蒸発の生じる箇所に向けて流動する。すなわち、作動流体が蒸発すると、ウイックを構成するファイバーウイック層やパウダーウイック層に形成されているメニスカスが低下するので、それに伴って毛細管力が生じ、その毛細管力をポンプ力として液相の作動流体が蒸発部側に還流する。より具体的には、パウダーウイック層では、粉体同士の間の隙間が小さいことにより大きな毛細管力が生じて大きなポンプ力が生じる。一方、ファイバーウイック層では、細線束がその全長に亘って連続しており、しかも細線束を結束のために締め付けている箇所がないのみならず、少なくとも一本の細線が他の多数本の細線に対して交差されていることにより細線間の空隙や密度をウイックの長手方向で一定もしくはほぼ一定になるように調整されている。そのため、それらの細線同士の間に形成されているいわゆる還流路も滑らかに連続したものとなり、したがって液相の作動流体の流動に対する抵抗が小さくなっている。これらの結果、この発明に係るウイックでは液相の作動流体の還流特性が良好になっている。加えて、ウイックの固定は焼結によって行うので、ウイックをパイプの内部に挿入して外部から加熱すればウイックをその全長に亘ってパイプに固定でき、その作業が容易であることにより製造性が良好になる。
【0037】
次にこの発明に係るヒートパイプの一例を製造方法と共に説明する。
図2に、この発明に係るウイックを形成するために使用される治具の構成の一例を模式的に示してある。治具1は、複数の溝2が形成されたベースプレート3と、各溝2の開口端部2aを覆うカバープレート4とを備えている。ここに示す例では、ベースプレート3は方形に形成されており、いずれかの平坦面であってかつその平坦面におけるいずれかの一片に対して平行に複数の溝2が形成されている。その溝2は予め定められた形状のウイックを形成するためのものであり、したがって溝2の少なくとも一部の形状がウイックが挿入されて固定されるコンテナの内壁面の少なくとも一部の形状と同じかほぼ同じになるように構成されている。一例として、コンテナとして中空の円筒形状のパイプを使用する場合には、ベースプレート3には、
図2に示すように、上記のパイプの内周円とほぼ同じ曲率を有する半円形状の溝2が形成される。カバープレート4は上述したように、各溝2の開口端部2aを覆うものであり、したがって、
図2に示す例では、ベースプレート3と同様に方形に形成されており、ベースプレート3の溝2とカバープレート4とによって形成される空間部分に沿った形状のウイックが形成されるようになっている。このように
図2に示す治具1は、予め定められた形状のウイックを形成するためのいわゆる型として機能するように構成されている。これらの各プレート3,4は例えばSUSあるいはカーボンなど、ウイックを構成する部材とは異なる素材によって構成することが好ましい。
【0038】
上記の治具1を使用したウイックの製造工程を説明すると、先ず、少なくとも一本あるいは多数本の細線を他の多数本の細線に対して交差するように束ねて細線束5を形成する。これは、各細線を比較的緩やかに結束させるとともに、細線間の空隙を確保
し、細線束5の長手方向で細線間の空隙率や密度などが一定あるいはほぼ一定になるように調整するためである。その細線は具体的には直結が0.05〜1.0mm程度の銅線であり、これを300本〜500本束ねる。そしてその細線束5を、
図3の(a)に示すように、ベースプレート3の各溝2に敷き詰める。なお、細線束5をその中心軸線を中心にして撚ることにより、上記の構成よりも各細線同士を互いに強く結束させることができるとともに、その状態を維持することができる。
【0039】
次いで、
図3の(b)に示すように、細線束5の上であって、かつ溝2の開口端部2aまで粉体6を充填する。その粉体6はここに示す例では粒径が80μmから250μmの範囲の銅粉末であり、これは焼結により上記の細線束5と粉体6とを一体化させるためである。なお、銅線と銅粉体との配合の割合は、ここに示す例では、ウイックの断面積で銅線と銅粉体との割合が1:1になるように配合してある。その後に、
図3の(c)に示すように、カバープレート4を使用して各溝2を覆い、これをほぼ水平に維持したまま加熱炉(図示せず)に送って加熱する。その加熱温度は、上述したように、細線および粉体が銅製の場合、800℃〜1000℃程度であり、こうすることにより細線および粉体が溝2とカバープレート4とによって形成される空間の形状に沿った形で焼結されてウイック7が形成される。また同時に、隣接する銅線同士や粉体同士が互いに焼結されて接合される。その結果、このウイック7はファイバーウイック層7aとパウダーウイック層7bとが積層された構成となっている。そして、ウイック7が形成された治具1を加熱炉から取り出して冷却した後に、ベースプレート3とカバープレート4とを取り外すと、
図3の(d)に示すように、半円形状に成形されたウイック7が残される。
【0040】
他方、脱脂などの洗浄を行った肉厚0.2〜0.3mm、外径3.0〜6.0mm(内径2.4〜5.6mm)のパイプを用意し、これを所定の長さに切断し、これをコンテナ8とする。ウイック7として銅線や銅粉を使用した場合には、コンテナ8として銅パイプを使用する。そして、コンテナ8の内部に上記のように予め形成したウイック7を挿入する。詳細は図示しないが、一例として、ウイック7は他の治具を使用してコンテナ8の内部に挿入される。この他の治具は、ウイック7をコンテナ8の内部に挿入し、かつウイック7をコンテナ8の内壁面に接触させて配置するためのものであり、したがって、他の治具はウイック7とともにコンテナ8の内部に挿入され、ウイック7をコンテナ8内の予め定めた箇所に配置した後にコンテナ8内から取り出される。そのため、ウイック7と他の治具とを合わせた外形は、コンテナ8の内径よりも小さくなるように構成されている。そして、ウイック7をコンテナ8の内部に配置させた後にウイック7を予め定められた長さに切断する。
【0041】
図4に、コンテナの内部にウイックを配置させた状態におけるコンテナの断面図を模式的に示してある。
図4に示す例では、コンテナ8としてその内壁面に作動流体の流路となり、また毛細管現象を生じる幅の狭い溝が形成されたいわゆるグルーブ管を使用した例を示してあるが、これに替えて、上記の溝が形成されていない、いわゆるベアパイプをコンテナ8として使用してもよい。ここで、コンテナ8の内部において、上記のウイック7を配置させる場合には、
図4に示すように、ウイック7のファイバーウイック層7aがコンテナ8の内壁面に接触するように配置し、パウダーウイック層7bがコンテナ8の内部空間側に露出するように配置する。
【0042】
次いで、ウイック7を挿入したコンテナ8をほぼ水平に維持したまま加熱炉(図示せず)に送って加熱する。その加熱温度は、ウイック7およびコンテナ8が銅製の場合、800℃〜1000℃程度であり、こうすることによりウイック7がその全長に亘ってコンテナ8の一部の内壁面に偏った状態で焼結されて固定される。
【0043】
ウイック7が固定されたコンテナ8を加熱炉から取り出して冷却した後に、コンテナ8の一方の端部にスェージング加工を施すとともに、その端部を溶接して密閉する。すなわち、いわゆるボトムスェージング加工およびボトム溶接を行う。またこれらの加工と併せて、他方の端部のスェージング加工、すなわちトップスェージング加工を行う。こうすることにより実質的なコンテナ8が作製される。
【0044】
トップスェージング加工を行うことによりコンテナ8の一方の端部にノズル状部分が形成されるので、これを利用して注液を行う。すなわち、作動流体をコンテナ8の内部に注入する。その場合、コンテナ8から空気などの非凝縮性ガスを脱気する必要があり、したがって、注液は真空脱気の後に作動流体を注入する方法、余分な量の作動流体を注入した後、これを沸騰させて非凝縮性ガスを追い出す方法など、従来知られている方法で行えばよい。そして、注液のために開口していた部分を圧潰した後、溶接して密閉する。いわゆるトップ溶接を行う。
【0045】
コンテナ8の素材として上述したような軸線方向に直交する断面の形状が円形のパイプを使用した場合には、上記のようにして製造された丸パイプ型のヒートパイプをその半径方向に押し潰して厚さ2.0mmの扁平型ヒートパイプ9とする。
図1に、この発明に係る扁平型ヒートパイプの断面図を模式的に示してある。
図4に示すような丸パイプ型のヒートパイプにおいて、ウイック7が固定されている内壁面が平坦面となるようにパイプを押し潰すと、その変形に伴ってウイック7の円弧状の部分が引き延ばされて平坦になる。すなわち、コンテナ8が扁平になることに伴ってファイバーウイック層7aが平坦になる。これとは反対に、
図4に示したように、コンテナ8の内部空間側に露出していてかつパウダーウイック層7bにおける平坦もしくはほぼ平坦になっていた部分がコンテナ8の変形に伴って変形して円弧状になる。これらの結果、ウイック7は、
図1に示すように、コンテナ8の内部の平坦面に山なりに盛り上がった状態となるともに、その平坦面の幅方向に亘ってウイック7が固定された状態となる。またここで、パウダーウイック層7bにおけるコンテナ8の内壁面と接触していた部分が、扁平加工後において、
図1に示すように平坦面の両端部になる。すなわち、扁平加工後を施すと、ファイバーウイック層7aがコンテナ8の平坦面とパウダーウイック層7bとによって包み込まれた状態になる。また、コンテナ8を扁平にする場合に、上記の凸状のウイック7の頂部がこれに対向するコンテナ8の内壁面に接触しないようにする。これは、コンテナ8の内部における蒸気化した作動流体の流路を確保するためであり、加えて、ウイック7とコンテナ8の内壁面とを接触させないことにより、その分、ウイック7における作動流体の蒸発面積を確保するためである。これらの間の距離は、一例として蒸発した作動流体が流動できる程度の距離であり、もしくは、これらの間で毛細管力を生じない距離である。したがって、このようにして形成されるコンテナ8の内壁面とウイック7との間の空間部分が蒸気化した作動流体の蒸気流路10となっている。
【0046】
なお、湾曲した矩形状のウイックをコンテナ8の内部に配置させて上記のように扁平加工を行うと、
図1に示す例と同様に、コンテナ8の変形に伴ってウイックの形状が変化し、その結果、ウイックの形状を矩形状にすることができる。
【0047】
他方、湾曲もしくは屈曲した扁平型ヒートパイプを形成する場合には、丸パイプ型のヒートパイプを所定の形状に湾曲もしくは屈曲させた後に、すなわち曲げ加工を行った後に、ウイック7を固定している内壁面が平坦面となるようにコンテナ8をその半径方向に押し潰して扁平化する。また、このように湾曲もしくは屈曲させた扁平型ヒートパイプを形成する場合であっても、扁平加工後において、凸状のウイック7の頂部がこれに対向するコンテナ8の内壁面に接触しないようにする。したがって、コンテナ8の内壁面とウイック7とによって形成される空間部分が蒸気化した作動流体の蒸気流路10となる。なお、上記のウイック7は、コンテナ8の内壁面に焼結により固定されているので、コンテナ8の湾曲もしくは屈曲に合わせて変形し、その結果、ウイック7に沿う蒸気流路10が確保される。
【0048】
このように
図1に示すこの発明に係る扁平型ヒートパイプ9においては、ウイック7はファイバーウイック層7aとパウダーウイック層7bとを備えていることにより、ファイバーウイック層7aがそれらの細線同士の間に滑らかに連続した作動流体の還流路を確保し、パウダーウイック層7bが大きな毛細管力を生じるため、液相の作動流体の還流特性を向上させることができる。これに加えて、ファイバーウイック層7aが中空扁平状のコンテナ8の一方の平坦面の幅方向に亘って扁平状に固定されていることにより、換言すれば、ウイック7とコンテナ8の内壁面との接触面積が拡大されていることにより、コンテナ8における幅方向に液相の作動流体を行き渡らせることができる。その結果、コンテナ8の幅方向において、この発明に係る扁平型ヒートパイプが熱源に対して熱的に接続できる面積を拡大することができる。また、パウダーウイック層7bがファイバーウイック層7aに積層されかつ扁平型ヒートパイプ9の内部で蒸気流路10側に配置されるため、その多孔構造によって大きな蒸発面積を確保することができる。さらにまた、この発明に係る扁平型ヒートパイプ8のウイック7は、上述したように、ファイバーウイック層7aを包み込むようにパウダーウイック層7bが配置されているため、作動流体が滑らかに流動しているファイバーウイック層7aからパウダーウイック層7bに対して効果的に作動流体を供給することができる。これらに加えて、コンテナ8に曲げなどの変形を加えた場合であってもウイック7はコンテナ8の変形に合わせて変形するため、蒸気流路10を確実に確保できる。更にこれらに加えて、ウイック7と、ウイック7が固定されている平坦面に対向する他方の平坦面との間を作動流体蒸気が流動できるようにされているため、ウイック7と内壁面とが接触することによる蒸発面積の減少を抑制できる。また、蒸気流路10がウイック7とコンテナ8とが接触して二分割にされないことにより、蒸気流路10における作動流体蒸気の流速の増大を抑制することができ、その結果、いわゆる飛散限界による熱輸送能力の低下を抑制することができる。これらの結果、この発明に係る扁平型ヒートパイプ9においては、その熱輸送能力を従来になく高くすることができる。そして、コンテナ8として、
図4に示したようなグルーブ管を使用することにより、作動流体とコンテナ8との接触面積を拡大させることができるとともに、その溝において滑らかに連続した作動流体の還流路を確保できることにより、より熱輸送能力を向上させることができる。またこの発明では、予め形成されたウイック7をコンテナ8の内部に挿入し、これを固定した後に扁平加工を施すように構成されているため、コンテナ8としてグルーブ管を使用した場合に、その溝がウイックを構成する細線や粉体によって塞がれることを防止することができる。
【0049】
このように、この発明に係るウイック7を使用した扁平型ヒートパイプ9は厚さが2.0mm程度に薄く、加えて、熱輸送特性を従来になく高くすることができるため、小型の電子機器に対する搭載性が優れている。
【符号の説明】
【0050】
7…ウイック、 7a…ファイバーウイック層、 7b…パウダーウイック層、 8…コンテナ、 9…扁平型ヒートパイプ。