(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5902414
(24)【登録日】2016年3月18日
(45)【発行日】2016年4月13日
(54)【発明の名称】端子圧着電線の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01R 4/18 20060101AFI20160331BHJP
H01R 43/048 20060101ALI20160331BHJP
【FI】
H01R4/18 A
H01R43/048 Z
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2011-173014(P2011-173014)
(22)【出願日】2011年8月8日
(65)【公開番号】特開2013-37886(P2013-37886A)
(43)【公開日】2013年2月21日
【審査請求日】2014年7月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006895
【氏名又は名称】矢崎総業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100100712
【弁理士】
【氏名又は名称】岩▲崎▼ 幸邦
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【弁理士】
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】日野 文恵
【審査官】
出野 智之
(56)【参考文献】
【文献】
特表平11−515137(JP,A)
【文献】
特開2010−212023(JP,A)
【文献】
特開2002−198155(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01R 4/18
H01R 43/048
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1本の導体からなる芯線部と、この芯線部の外周を覆う被覆部とを備え、前記被覆部から露出する前記芯線部に端子の加締め部が加締められて導通される端子圧着電線の製造方法であって、
前記芯線部は、前記端子の加締め部に加締められる前の状態で、外周形状が前記加締め部を加締めた状態の内周形状と略同一形状に形成され、
前記加締め部は、互いの端部を当接して前記芯線部を挟み込む一対の狭持部を有し、前記芯線部には、前記一対の狭持部の端部を配置させる凹部が設けられることを特徴とする端子圧着電線の製造方法。
【請求項2】
請求項1記載の端子圧着電線の製造方法であって、
前記芯線部は、前記端子の加締め部に加締められる前の状態で、外周径が前記加締め部を加締めた状態の内周径より大きく設定されることを特徴とする端子圧着電線の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、端子圧着電線に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、端子圧着電線としては、複数本の導体からなる芯線部と、この芯線部の外周を覆う被覆部とを備え、被覆部から露出する芯線部に端子の加締め部としてのワイヤーバレルが加締められて導通されるものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
この端子圧着電線では、複数本の導体からなる芯線部を一対の治具で挟んで超音波振動を与え、表面が粗化された粗化領域を形成させている。そして、粗化領域にワイヤーバレルを加締めることによって、酸化膜などの被膜が剥がされ、芯線部の新生面同士が互いに接触し、電線と端子との間の電気抵抗を低下させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011−82127号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記のような端子圧着電線では、芯線部が複数本の導体からなり、この芯線部に端子の加締め部を加締めている。このように芯線部が複数本の導体からなる場合には、導体1本1本の間に隙間があるので、芯線部が加締め部によって加締められるときに加締め部に掛かる接触圧力が緩和される。
【0006】
しかしながら、芯線部が1本の導体からなる場合には、加締め部による芯線部の加締めの際に、加締め部に掛かる荷重が分散し難くなっている。このため、端子の加締め部において、接触圧力の高い部分と低い部分との差があり、高温や低温などの環境変化によって、特に接触圧力の高い部分でクリープが発生して接触圧力が低下するなど、加締め部で十分な接触圧力を確保することが困難であった。
【0007】
そこで、この発明は、1本の導体からなる芯線部におけるクリープの発生を抑制することができる端子圧着電線の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1記載の発明は、1本の導体からなる芯線部と、この芯線部の外周を覆う被覆部とを備え、前記被覆部から露出する前記芯線部に端子の加締め部が加締められて導通される端子圧着電線
の製造方法であって、前記芯線部は、前記端子の加締め部に加締められる前の状態で、外周形状が前記加締め部を加締めた状態の内周形状と略同一形状に形成され、前記加締め部は、互いの端部を当接して前記芯線部を挟み込む一対の狭持部を有し、前記芯線部には、前記一対の狭持部の端部を配置させる凹部が設けら
れることを特徴とする。
【0009】
この端子圧着電線では、端子の加締め部に加締められる前の状態で、芯線部の外周形状が加締め部を加締めた状態の内周形状と略同一形状に形成されているので、加締め部を芯線部に加締めるときに加締め部における接触圧力が均等化され、芯線部におけるクリープの発生を抑制して接触圧力が低下する部分を減少させることができる。
【0010】
従って、このような端子圧着電線では、1本の導体からなる芯線部におけるクリープの発生を抑制することができ、接触抵抗の増加を抑制することができる。
また、この端子圧着電線では、芯線部に一対の狭持部の端部を配置させる凹部が設けられているので、加締め部において一番接触圧力が高くなる一対の狭持部の端部が位置する部分の接触圧力の上昇を緩和することができ、加締め部における接触圧力をより均等化することができる。
【0011】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の端子圧着電線
の製造方法であって、前記芯線部は、前記端子の加締め部に加締められる前の状態で、外周径が前記加締め部を加締めた状態の内周径より大きく設定さ
れることを特徴とする。
【0012】
この端子圧着電線では、端子の加締め部に加締められる前の状態で、芯線部の外周径が加締め部を加締めた状態の内周径より大きく設定されているので、芯線部と加締め部との接触を加締め部の全域で確実に行うことができ、芯線部におけるクリープの発生を抑制して加締め部における接触抵抗の増加を抑制することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、1本の導体からなる芯線部におけるクリープの発生を抑制することができる端子圧着電線を提供することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の実施の形態に係る端子圧着電線の端子を加締める前の断面図である。
【
図2】本発明の実施の形態に係る端子圧着電線の端子を加締めたときの断面図である。
【
図3】(a)は本発明の実施の形態に係る端子圧着電線の端子を加締める前の斜視図である。(b)は本発明の実施の形態に係る端子圧着電線の端子を加締めたときの斜視図である
【
図4】本発明の実施の形態に係る端子圧着電線の加工前の斜視図である。
【
図5】本発明の実施の形態に係る端子圧着電線の加工時の斜視図である。
【
図6】(a),(b)は本発明の実施の形態に係る端子圧着電線の凹部の他例を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1〜
図6を用いて本発明の実施の形態に係る端子圧着電線について説明する。
【0018】
本実施の形態に係る端子圧着電線1は、1本の導体からなる芯線部3と、この芯線部3の外周を覆う被覆部5とを備え、被覆部5から露出する芯線部3に端子7の加締め部9が加締められて導通される。
【0019】
そして、芯線部3は、端子7の加締め部9に加締められる前の状態で、外周形状が加締め部9を加締めた状態の内周形状と略同一形状に形成されている。
【0020】
また、芯線部3は、端子7の加締め部9に加締められる前の状態で、外周径が加締め部9を加締めた状態の内周径より大きく設定されている。
【0021】
さらに、加締め部9は、互いの端部を当接して芯線部3を挟み込む一対の狭持部11,13を有し、芯線部3には、一対の狭持部11,13の端部を配置させる凹部15が設けられている。
【0022】
図3に示すように、端子圧着電線1に導通される端子7は、接触部17と加締め部9とを備えている。接触部17は、筒状に形成された雌型からなり、相手端子である雄型端子(不図示)のタブが挿入されて相手端子と端子7とが電気的に接続される。この接触部17には、加締め部9が一体に設けられている。
【0023】
加締め部9は、底壁19と一対の狭持部11,13とからなる。底壁19は、接触部17と連続する一部材で形成され、端子7の長手方向に延設されている。この底壁19は、端子圧着電線1の芯線部3の下面側に配置され、幅方向の両側には一対の狭持部11,13が設けられている。
【0024】
一対の狭持部11,13は、それぞれ底壁19の幅方向の両側に底壁19及び接触部17と連続する一部材で形成されている。この一対の狭持部11,13は、上型と下型とからなる治具(不図示)などによって被覆部5が剥ぎ取られて芯線部3が露出した端子圧着電線1の端末に加締められ、端子7と端子圧着電線1とが電気的に接続される。
【0025】
図1〜
図6に示すように、端子圧着電線1は、芯線部3と被覆部5とを備えている。芯線部3は、アルミニウムやアルミニウム合金などの導電性材料の1本の導体からなる。この芯線部3の外周には、被覆部5が一体に設けられている。
【0026】
被覆部5は、合成樹脂などの絶縁材料からなり、芯線部3の外周を覆うように芯線部3と一体に設けられている。この被覆部5を剥がすことにより、芯線部3が露出し、この露出した芯線部3に端子7の加締め部9が加締められる。
【0027】
このような加締め部9に加締められる芯線部3は、加締め部9に加締められる前の状態で、
図5に示すように、一対のフォーミング用金型21,23によって挟み込まれて外周形状が形成される。
【0028】
このように形成された
図1に示す芯線部3の外周形状は、
図2に示すように、芯線部3に加締め部9を加締めたときの加締め部9の内周形状と略同一形状となっている。また、
図1の芯線部3の点線は、芯線部3に加締め部9を加締めたときの加締め部9の内周径となっており、芯線部3の外周径は、加締め部9の内周径より大きく設定されている。この大きく設定された芯線部3の外周径は、加締め部9を加締めたときの加工代となっている。さらに、芯線部3の加締め部9を加締めたときの一対の狭持部11,13の端部が位置する部分は、凹部15となっている。
【0029】
ここで、通常の何も加工が施されていない芯線部3に加締め部9を加締める際には、
図2に示すように、一対の狭持部11,13の端部が当接する部分A、底壁19の部分Aと対向する部分B、一対の狭持部11,13のそれぞれの側部である部分Cの順で接触圧力が低くなる。このような接触圧力の差により、芯線部3を加締める加締め部9にクリープが起こると、特に接触圧力の高い部分Aや部分Bで接触圧力が低下し、加締め部9で十分な接触圧力を確保することができず、端子7と端子圧着電線1の接触抵抗が増加していた。
【0030】
そこで、芯線部3の外周形状を加締め部9を加締めたときの加締め部9の内周形状と略同一形状とすることにより、芯線部3に加締め部9を加締める際の荷重が芯線部3の中心に掛かるようになって、加締め部9における接触圧力が均等化される。また、芯線部3に凹部15を設けることにより、接触圧力が最も高くなる部分Aの接触圧力の上昇を緩和することができる。従って、加締め部9における接触圧力が均等化されるので、芯線部3を加締める加締め部9におけるクリープの発生を抑制して接触圧力が低下する部分が減少され、接触抵抗の増加を抑制することができる。
【0031】
なお、凹部15の形状は、
図1などに示す形状に限らず、例えば、
図6に示すような凹部15aや凹部15bなどの形状であってもよく、一対の狭持部11,13の端部を配置させ、接触圧力の上昇を緩和できる形状であればどのような形状であってもよい。
【0032】
このように構成された端子圧着電線1は、まず、所定位置の被覆部5を剥がして芯線部3を露出させる。次に、露出させた芯線部3に対して、一対のフォーミング用金型21,23で挟んで、芯線部3の外周形状を加締め部9で加締めたときの外周形状と略同一形状に形成すると共に、芯線部3の外周径を加締め部9で加締めたときの外周径より大きく形成させる。そして、この加工された芯線部3に対して、治具などによって芯線部3を外周側から中心側に向けて圧縮するように一対の狭持部11,13を加締め、端子7と端子圧着電線1とを導通させる。
【0033】
このような端子圧着電線1では、端子7の加締め部9に加締められる前の状態で、芯線部3の外周形状が加締め部9を加締めた状態の内周形状と略同一形状に形成されているので、加締め部9を芯線部3に加締めるときに加締め部9における接触圧力が均等化され、芯線部3におけるクリープの発生を抑制して接触圧力が低下する部分を減少させることができる。
【0034】
従って、このような端子圧着電線1では、1本の導体からなる芯線部3におけるクリープの発生を抑制することができ、接触抵抗の増加を抑制することができる。
【0035】
また、芯線部3の外周径は、端子7の加締め部9に加締められる前の状態で、加締め部9を加締めた状態の内周径より大きく設定されているので、芯線部3と加締め部9との接触を加締め部9の全域で確実に行うことができ、芯線部3におけるクリープの発生を抑制して加締め部9における接触抵抗の増加を抑制することができる。
【0036】
さらに、芯線部3には、一対の狭持部11,13の端部を配置させる凹部15が設けられているので、加締め部9において一番接触圧力が高くなる一対の狭持部11,13の端部が位置する部分の接触圧力の上昇を緩和することができ、加締め部9における接触圧力をより均等化することができる。
【0037】
なお、本発明の実施の形態に係る端子圧着電線では、圧着される端子が、接触部が筒状に形成された雌型端子となっているが、接触部をタブなどに形成した雄型端子であってもよい。
【0038】
また、端子には、芯線部に加締められる加締め部のみが設けられているが、これに限らず、加締め部に加えて、被覆部を加締めて端子と端子圧着電線との固定を安定化させる被覆加締め部を設けてもよい。
【符号の説明】
【0039】
1…端子圧着電線
3…芯線部
5…被覆部
7…端子
9…加締め部
11,13…一対の狭持部
15,15a,15b…凹部