【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に記載の発明の緊急避難台用床版は、水平二方向に配列し、少なくともいずれか一方向に架設される桁部材で繋がれる複数本の柱に支持される緊急避難台用の床版であり、
幅方向に互いに密着しながら前記桁部材の架設方向である前記一方向に配列する角形の断面形状をした複数本の木材からなる床板と、この床板を前記木材の幅方向に同時に貫通し、全木材を一体化させる緊張材と、前記床板の幅方向両側に配置され、前記全木材の長さ方向の端部を上下方向に同時に挟み込みながら、前記床板をその幅方向に挟み込み、前記全木材を同時に拘束する側部材と、前記床板の長さ方向両側に配置され、前記床板の長さ方向両側に位置する木材の幅方向の側面に密着し、前記緊張材の緊張力による圧縮力を前記木材の長さ方向に分散させ、全長に均等に作用させる端部材とを備え、前記緊張材はこの両側の端部材間に挿通していることを構成要件とする。
【0010】
緊急避難台は水平二方向に配列する複数本の柱と、一方向に配列する柱を繋ぐ桁部材からなる下部構造と、下部構造上に載る上部構造としての床版から構成される。床版は少なくとも複数本の木材を束ねた形の床板と、床板を構成する全木材をその幅方向に貫通し、一体化させる緊張材と、床板の幅方向両側に配置される側部材と、床板の長さ方向両側に配置される端部材から構成される。
【0011】
床板は木材が幅方向に密着して配列することにより構成され、その配列方向が桁部材の架設方向であるため、木材の長さ方向(軸方向)は床板の幅方向であり、木材の幅方向が床板の長さ方向である。よって請求項1における「水平二方向」は床版(床板)の幅方向と長さ方向を指し、「桁部材の架設方向(一方向)」は床版(床板)の長さ方向を指している。床版(床板)の幅方向に対向する柱は桁部材間に架設され、床版を支持する梁部材によって繋がれる。梁部材は予め床板に一体化する場合と、複数本の柱(下部構造)に一体化する場合がある。
【0012】
梁部材は桁部材間に架設された状態で床板を含む床版を支持するため、予め床版に一体化するか、柱、あるいは桁部材に一体化しているかに応じ、床版の一部になる場合と下部構造の一部になる場合がある。
図3、
図4に示すように梁部材が床板と側部材及び端部材からなる床版に一体化する場合には、梁部材とその上に載置される後述の根太は床版の一部として扱われ、予め桁部材間に架設されている場合には、下部構造の一部になる。
【0013】
側部材は束ねられた全木材からなる床板の幅方向(木材の長さ方向)の端部を上下方向に同時に挟み込むことで、全木材を1枚板の床板として一体化させ、各木材が独立して上下方向に挙動することを防止する。側部材が床板の幅方向両側において全木材の長さ方向の端部を高さ方向(床板の厚さ方向)に挟み込むことで、端部材から全木材への圧縮力導入による圧着効果と併せ、上載荷重による各木材の独立した挙動が拘束されるため、床板としての一体性が確保され、全木材からなる床板を1枚板として扱うことが可能になる。
【0014】
側部材はまた、床板の幅方向に向き合って対になることで、床版が下部構造に支持され、側部材が下部構造の柱、もしくは桁部材等に接合されたときに、全木材を床板の面内幅方向に挟み込み、幅方向中央部側へ拘束しながら、全木材を床板の面外方向に同時に拘束する状態にする。側部材は下部構造のいずれかの部分に直接、もしくは間接的に接合される。「直接」とは、側部材が下部構造の例えば柱、もしくは桁部材、あるいは下部構造の一部である場合の梁部材等に接合されることを言い、「間接的に」とは、側部材が上部構造の一部である場合の梁部材に接合され、梁部材が柱、もしくは桁部材等に接合されることを言う。
【0015】
柱は水平二方向に配列することで、桁部材の架設方向に直交する方向には対向するため、側部材が柱や桁部材等、柱が対向する方向に対になる下部構造のいずれかの部分に接合されたときに、例えば柱等、あるいは
図5に示すように梁部材や下部構造への接合用の部材(接合部材10a)に楔形の形状を与えておけば、下部構造上への床版の落とし込みに伴い、側部材が柱等から床板の幅方向中央部側へ向かう力を受けることができる。結果として全木材をその長さ方向(床板の幅方向)に挟み込み、拘束する効果が生ずる。この場合の柱や接合部材等に与えられる楔形は上方から下方へかけて床板の幅方向外側から内側に向かう傾斜面を有する形状になり、各木材は長さ方向(軸方向)に適度の圧縮力を受けた状態になる。
【0016】
このように床板と側部材を含む床版を下部構造としての柱に支持させたときに、側部材が下部構造のいずれかの部分から床板の幅方向中央部側へ向かう力を受けることができれば、側部材による全木材(床板)の拘束効果が向上するため、各木材の高さ方向(床板の厚さ方向(面外方向))の変位に対する安定性が向上する。
【0017】
側部材は床板の長さ方向の全長に亘る場合と、端部材が配置される床板の長さ方向の端部を除いた区間に亘る場合がある。同様に端部材は床板の幅方向の全長(全幅)に亘る場合と、側部材が配置される床板の幅方向の端部を除いた区間に亘る場合がある。原則として側部材が床板の長さ方向の全長に亘る場合には、端部材が床板の長さ方向の両端部(両側)に位置する木材の長さ方向の端部を除いた区間に亘り、端部材が床板の長さ方向の両端部に位置する木材の全長に亘る場合には、側部材が床板の長さ方向の端部を除いた区間に亘る。但し、床板の隅角部位置では側部材と端部材が交わり、重複することもある。
【0018】
側部材と端部材が交差する床板の隅角部位置における側部材と端部材の関係は、主に側部材の長さ方向(軸方向)の端部を端部材の床板側(木材側)に配置するか否かの取り合いによって決まる。
図1−(d)に示すように側部材8の長さ方向(軸方向)の端面を端部材9の床板側に配置すれば、端部材9の床板5側の面が側部材8の長さ方向の端面に係止する状態(請求項2)になり、端部材9から木材6(床板5)に作用する緊張力の反力としての圧縮力(プレストレス)の一部を側部材8が負担し得る状態になる。
【0019】
また例えば側部材の長さ方向の端部に、床板の長さ方向の両端部に位置する木材の幅方向の側面に重なる板(エンドプレート)を一体化させれば、側部材が床板の隅角部において床板の長さ方向の端部と幅方向の端部を同時に床板の厚さ方向に拘束し、床板の外周側から面内方向に拘束する状態になる。端部材の長さ方向の端部に、床板の長さ方向の両端部に位置する木材の長さ方向の端面に重なる板(エンドプレート)を一体化させても、同様の効果が得られる。
【0020】
端部材は束ねられた全木材からなる床板の長さ方向(木材の幅方向)の両側に位置する木材の実質的に全長に亘り、木材の幅方向の側面に密着し、床板の長さ方向に向き合って対になることで、床板の長さ方向両側に位置する木材を床板の長さ方向に挟み込み、全木材を床板の長さ方向に拘束する。端部材は床板の長さ方向の両側に位置する木材の側面に重なり、主に緊張材の緊張力を木材の長さ方向に分散させて木材に作用させる働きをし、側部材のように全木材の長さ方向の端部を揃える役目を持たないため、側部材のように必ずしも木材を上下方向に挟み込む必要はない。但し、端部材が木材の側面に重なった状態での上下方向のずれを防止し、接合状態での端部材の安全性を高める目的で、端部材は木材を上下方向に挟み込むこともあり、その場合、端部材は木材を床板の面外方向にも拘束する。
【0021】
「端部材が木材の実質的に全長に亘る」とは、前記のように床板の幅方向両側に配置される側部材が床板の長さ方向両側に位置する木材の長さ方向の両端部を上下から挟み込むことがあるため、その側部材の長さ方向端部を除き、木材の全長に亘ることの意味であり、端部材は完全に木材の全長に亘る場合と、側部材との交差部分を除いた区間に亘る場合がある。側部材の長さ方向の両端部が床板の長さ方向両側に位置する木材を挟み込まない場合に、端部材は木材の全長に亘ることがある。
【0022】
端部材も、床板が下部構造に支持され、桁部材の架設方向に対になる下部構造のいずれかの部分に接合されたときに、下部構造から床板の長さ方向中央部側へ向かう力を受けることができれば、全木材をその幅方向(床板の長さ方向)に挟み込む効果が付加されるため、全木材を床板の長さ方向に挟み込み、緊張材による全木材の一体性を補う効果が生ずる。下部構造から端部材に床板の長さ方向を向く力を与えることは、
図5における接合部材10aと同様に、例えば床板の長さ方向両側に位置する柱等の床板側の面に、上方から下方へかけて床板の長さ方向外側から内側に向かう傾斜面を与えておくことにより可能になる。
【0023】
端部材はまた、床板の長さ方向両側に位置する木材の実質的に全長に亘り、木材の幅方向側面に重なって配置されることで、緊張材から木材の幅方向に導入される緊張力の反力として作用する圧縮力(プレストレス)を木材の長さ方向に分散させ、全長に均等に作用させる働きをする。端部材は圧縮力を木材の長さ方向に均等に作用させることで、緊張力が木材の一部に集中して作用することを防止し、基本的に圧縮力による床板の長さ方向の収縮量が全体的に床板の幅方向(木材の長さ方向)に一様になるように機能する。
【0024】
端部材の長さ方向両端部は側部材の長さ方向両端部に接合される場合と、接合されない場合がある。接合される場合には、緊張材への緊張力の導入後、すなわち全木材へのプレストレス導入後の全木材の収縮完了後に接合され、接合により側部材の端部と端部材の端部同士の連続性が確保され、両部材間での力の伝達が可能になるため、全木材の一体性が向上し、床板の安定性が高まる。
【0025】
緊張材は原則的に端部材の長さ方向の複数箇所に分散して配置され、端部材と全木材を貫通し、端部材に定着されることにより端部材を介して緊張力を床板の長さ方向(木材の幅方向)の圧縮力として作用させる。緊張材に与えられる緊張力の反力は端部材が受けるため、この緊張力の反力が端部材から木材に圧縮力として作用する。端部材と全木材には木材の幅方向に、緊張材が挿通する挿通孔が穿設されるが、端部材からの圧縮力を全木材に偏心することなく作用させる上で、挿通孔の中心は木材の材軸に直交する断面上の中心を通る。木材の長さが特に小さく、複数本の緊張材の使用を要しないような場合には、全木材を一体化させ、床板を構成する上で、1本の緊張材の使用で足りることもある。
【0026】
緊張材の緊張力は全木材にその幅方向に作用するが、全木材の一体性を上げるために緊張力を高めたときの緊張力が過剰になることによる圧縮変形を抑制(制御)する上では、前記のように端部材の床板側の面が側部材の長さ方向の端面に係止し、側部材が緊張力の反力を負担し、一定の大きさを超える緊張力の反力を負担する状態に置かれる(請求項2)。
【0027】
この場合、端部材は緊張材への緊張力の導入による木材の幅方向の収縮に伴って床板の長さ方向中央部側へ移動することにより側部材に係止した状態になる。端部材が側部材に係止した状態からは、端部材の、床板の長さ方向中央部側への移動が阻止されるため、端部材の移動が停止した状態からは緊張材への緊張力の増加があっても、木材に導入される圧縮力の大きさは制限される。
【0028】
「端部材が側部材の端面に係止した」状態は緊張材への緊張力の導入終了後の状態であり、緊張力の導入前の状態では端部材は側部材に係止した状態にはなく、両部材間にクリアランスが確保されている。緊張材への緊張力の導入に伴い、端部材の木材側の面が側部材の長さ方向の端部(端面)に係止することで、側部材は木材の幅方向に与えられる圧縮力が一定の大きさを超える事態を阻止し、圧縮力の大きさを制限する機能を発揮する。
【0029】
束ねられた全木材からなる床板とその幅方向両側の側部材と長さ方向両側の端部材からなる床版は複数本の柱からなる下部構造に支持されたときに使用状態になる。請求項2では、床版の使用状態で端部材が側部材の長さ方向の両端部に木材側へ係止した状態になり、側部材が緊張材の緊張力による圧縮力を木材(床板)と共に分担する状態になることで、一定の圧縮力は全木材に幅方向に導入されるが、その圧縮力を超える圧縮力は側部材が負担することになる。この結果、その一定の圧縮力を超える圧縮力が木材に作用する事態が回避される。
【0030】
木材への一定の圧縮力を超える圧縮力の作用が回避されることで、過剰な圧縮力の作用に起因し、木材の幅方向の収縮量が長さ方向に不均衡になることも回避されるため、側部材は木材の幅方向の収縮量が木材の長さ方向に一定になるように制御する働きをすることになる。
【0031】
側部材がなければ、複数本の緊張材からの緊張力の差、あるいは各木材が圧縮力を受けたときの収縮量の差(ポアソン比)等に起因し、床板が完全な長方形を維持できず、端部材が床板の幅方向に対して傾斜することが起こり得る。それに対し、側部材が床板の幅方向両側に対になって配置されることで、両側の側部材の長さが等しい限り、端部材の傾斜が阻止されるため、圧縮力が木材の長さ方向に不均衡に作用することが防止される。
【0032】
結果として、緊張材への緊張力の導入前から導入後にかけて床板は長さ方向に収縮しながらも、完全な長方形を維持することができるため、収縮に起因する床板の製作誤差を生じることがなくなり、柱等、下部構造との接合部において接合対象に確実に接合することが可能になる。
【0033】
前記のように床板(床版)の長さ方向と幅方向の二方向に配列する柱の内、幅方向に対向する柱は桁部材間に架設される梁部材によって繋がれるが、床版にはこの梁部材が一体化する等により付属し、梁部材上には、床板の幅方向に間隔を置き、床板の長さ方向を向いて梁部材上に載置される根太が付属している場合もある(請求項3)。
【0034】
この場合、床板の底面(各木材の底面)に根太が納まる凹部が床板の長さ方向に連続して形成され、この凹部の内周面に根太が入り込み、凹部に床板の幅方向両側に係合した状態にあれば(請求項3)、床板の梁部材に対する、あるいは下部構造に対する幅方向の移動(変位)に対する安定性が向上する。
【0035】
前記のように床板はその隅角部等において下部構造の柱等、いずれかの部位に接合されることにより床板の長さ方向と共に、幅方向の移動に対して安定した状態で下部構造に支持されるが、請求項3では隅角部に加え、床板の幅方向中間部に位置する根太において梁部材に床板の幅方向のいずれの向きにも係合することで、下部構造に対する幅方向の移動に対する安定性が一層向上する。
【0036】
請求項3ではまた、床板が床板の幅方向に架設される梁部材と、梁部材上に敷設される根太の、二方向の部材に支持されることで、あるいは二方向の部材が床板(床版)に一体構造化することで、床版の面外方向の剛性が増すため、床版の使用状態での面外方向の変形に対する安定性も確保される。