特許第5902560号(P5902560)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5902560
(24)【登録日】2016年3月18日
(45)【発行日】2016年4月13日
(54)【発明の名称】緊急避難台用床版
(51)【国際特許分類】
   E04F 15/04 20060101AFI20160331BHJP
   E01D 19/12 20060101ALI20160331BHJP
   E01D 18/00 20060101ALI20160331BHJP
   E04H 9/14 20060101ALI20160331BHJP
   E04F 15/02 20060101ALI20160331BHJP
【FI】
   E04F15/04 C
   E01D19/12
   E01D18/00 Z
   E04H9/14 Z
   E04F15/02 101G
【請求項の数】3
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2012-128471(P2012-128471)
(22)【出願日】2012年6月6日
(65)【公開番号】特開2013-253391(P2013-253391A)
(43)【公開日】2013年12月19日
【審査請求日】2015年4月17日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成24年1月発行の刊行物「漁港の安全・安心は避難台・人工地盤の整備から」にて発表
(73)【特許権者】
【識別番号】390029012
【氏名又は名称】株式会社エスイー
(74)【代理人】
【識別番号】100124316
【弁理士】
【氏名又は名称】塩田 康弘
(72)【発明者】
【氏名】竹家 宏治
(72)【発明者】
【氏名】坂井 淳
【審査官】 西村 隆
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−179286(JP,A)
【文献】 国際公開第97/037084(WO,A1)
【文献】 特開2009−228361(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04F 15/04
E04F 15/02
E01D 18/00
E01D 19/12
E04H 9/14
E04C 2/50
E04B 1/00
E04B 1/10
B27M 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水平二方向に配列し、少なくともいずれか一方向に架設される桁部材で繋がれる複数本の柱に支持される緊急避難台用の床版であり、
幅方向に互いに密着しながら前記桁部材の架設方向である前記一方向に配列する角形の断面形状をした複数本の木材からなる床板と、この床板を前記木材の幅方向に同時に貫通し、全木材を一体化させる緊張材と、前記床板の幅方向両側に配置され、前記全木材の長さ方向の端部を上下方向に同時に挟み込みながら、前記床板をその幅方向に挟み込み、前記全木材を同時に拘束する側部材と、前記床板の長さ方向両側に配置され、前記床板の長さ方向両側に位置する木材の幅方向の側面に密着し、前記緊張材の緊張力による圧縮力を前記木材の長さ方向に分散させ、全長に均等に作用させる端部材とを備え、前記緊張材はこの両側の端部材間に挿通していることを特徴とする緊急避難台用床版。
【請求項2】
前記端部材の前記床板側の面は前記側部材の長さ方向の端面に係止し、前記側部材は前記緊張力の反力を負担する状態にあることを特徴とする請求項1に記載の緊急避難台用床版。
【請求項3】
前記床板の下面側に、前記桁部材上に載置される梁部材が配置され、この梁部材上に、前記床板の幅方向に間隔を置き、前記床板の長さ方向を向いて前記梁部材上に載置される根太が配置され、前記床板の底面に前記根太が納まる凹部が前記床板の長さ方向に連続して形成され、この凹部の内周面に前記根太が入り込み、前記凹部に前記床板の幅方向両側に係合していることを特徴とする請求項1、もしくは請求項2に記載の緊急避難台用床版。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は例えば津波や高波(高潮)の到来時等、陸上が海水に水没し得る状況下で、緊急避難場所として利用される緊急避難台用の床版に関するものである。
【背景技術】
【0002】
津波用の避難台等、緊急時の避難場所として使用される避難台は基本的に地上からの高さを確保する下部構造としての柱と、柱上に敷設される上部構造としての床版(床板)から構成される(特許文献1、2参照)。ここで、床版の軽量化と防錆の目的で、あるいは間伐材の有効利用等の目的で、床材に木材を使用する場合には、複数本の木材を1枚の床板として一体化させるための工夫が必要になる。床板の構成材料は避難台の主要構成部材の中で占める比率が高いため、床材に木材を使用することには、海水に対する防錆処理の量を低減できる意味がある。
【0003】
床材としての木材は角形の断面形状に加工され、規格(寸法)が統一された形の角材として使用されることになるが、複数本の角材から床板を構成する場合には、木材(角材)を幅方向に束ね、全木材を幅方向に貫通するボルト、PC鋼棒等の緊張材によって圧着させ、一体化させる方法が合理的であると考えられる(特許文献3、4参照)。その場合、複数本の木材からなる床板は下部構造とは独立して製作されるため、下部構造(柱)上には落とし込まれることにより載置され、各柱に接合されることになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−180055号公報(図2図11
【特許文献2】特開2011−122424号公報(図1図3
【特許文献3】特開2005−256538号公報(図3
【特許文献4】特開2009−228361号公報(図2図3
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、緊張材が貫通する挿通孔と緊張材表面との間にクリアランスがあれば、各木材がクリアランスの範囲内で緊張材に対して自由に変位し得る状態にあるため、クリアランスがモルタル等の充填材で埋められない限り、木材の本数が多くなれば、複数本の木材を1枚板として扱うことが困難になることが想定される。全木材は幅方向に圧縮力が与えられることによる摩擦力や接着剤の付着力によって平板としての一体性を保つことになるが、木材の長さ方向の両端部において梁や桁に支持される床板としての使用状態では上載荷重(活荷重)を受けるため、実質的にクリアランスがなくとも各木材が独立して面外方向に変位する可能性がある。
【0006】
また木材を幅方向に挿通する緊張材を用い、木材の幅方向に圧縮力を与えた状態で複数本の木材を一体化させる場合、木材の本数が増加すれば、1本の木材の圧縮変形量の差の累積が、木材の束からなる床板の寸法に無視し得ない影響を与える可能性がある。木材の幅方向の収縮量が長さ方向に一定でなければ、複数本の木材の一体性を確保し、床板を完成させたときの床板の平面形状が整形(長方形)でなくなる製作誤差が発生し得る。
【0007】
木材は幅方向に互いに密着(接触)した状態で配列することで、理論上、緊張材の緊張力による圧縮力は全面に均等に作用するが、各木材の幅方向の収縮量が長さ方向に一様でない限り、床板としての長さ方向の収縮量が幅方向に一定でなくなることが想定される。結果として、完成状態で床板が整形でなくなり、床板を下部構造としての柱等の上に載置したときに、柱等との接合部において製作誤差を吸収するための処理を必要とすることが起こり得る。
【0008】
本発明は上記背景より、緊急避難場所の床版の構成材として複数本の木材を使用し、全木材を束ねて床板を構成する場合に直面する床板の幅方向及び長さ方向の変形を抑制し得る形態の緊急避難台用床版を提案するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に記載の発明の緊急避難台用床版は、水平二方向に配列し、少なくともいずれか一方向に架設される桁部材で繋がれる複数本の柱に支持される緊急避難台用の床版であり、
幅方向に互いに密着しながら前記桁部材の架設方向である前記一方向に配列する角形の断面形状をした複数本の木材からなる床板と、この床板を前記木材の幅方向に同時に貫通し、全木材を一体化させる緊張材と、前記床板の幅方向両側に配置され、前記全木材の長さ方向の端部を上下方向に同時に挟み込みながら、前記床板をその幅方向に挟み込み、前記全木材を同時に拘束する側部材と、前記床板の長さ方向両側に配置され、前記床板の長さ方向両側に位置する木材の幅方向の側面に密着し、前記緊張材の緊張力による圧縮力を前記木材の長さ方向に分散させ、全長に均等に作用させる端部材とを備え、前記緊張材はこの両側の端部材間に挿通していることを構成要件とする。
【0010】
緊急避難台は水平二方向に配列する複数本の柱と、一方向に配列する柱を繋ぐ桁部材からなる下部構造と、下部構造上に載る上部構造としての床版から構成される。床版は少なくとも複数本の木材を束ねた形の床板と、床板を構成する全木材をその幅方向に貫通し、一体化させる緊張材と、床板の幅方向両側に配置される側部材と、床板の長さ方向両側に配置される端部材から構成される。
【0011】
床板は木材が幅方向に密着して配列することにより構成され、その配列方向が桁部材の架設方向であるため、木材の長さ方向(軸方向)は床板の幅方向であり、木材の幅方向が床板の長さ方向である。よって請求項1における「水平二方向」は床版(床板)の幅方向と長さ方向を指し、「桁部材の架設方向(一方向)」は床版(床板)の長さ方向を指している。床版(床板)の幅方向に対向する柱は桁部材間に架設され、床版を支持する梁部材によって繋がれる。梁部材は予め床板に一体化する場合と、複数本の柱(下部構造)に一体化する場合がある。
【0012】
梁部材は桁部材間に架設された状態で床板を含む床版を支持するため、予め床版に一体化するか、柱、あるいは桁部材に一体化しているかに応じ、床版の一部になる場合と下部構造の一部になる場合がある。図3図4に示すように梁部材が床板と側部材及び端部材からなる床版に一体化する場合には、梁部材とその上に載置される後述の根太は床版の一部として扱われ、予め桁部材間に架設されている場合には、下部構造の一部になる。
【0013】
側部材は束ねられた全木材からなる床板の幅方向(木材の長さ方向)の端部を上下方向に同時に挟み込むことで、全木材を1枚板の床板として一体化させ、各木材が独立して上下方向に挙動することを防止する。側部材が床板の幅方向両側において全木材の長さ方向の端部を高さ方向(床板の厚さ方向)に挟み込むことで、端部材から全木材への圧縮力導入による圧着効果と併せ、上載荷重による各木材の独立した挙動が拘束されるため、床板としての一体性が確保され、全木材からなる床板を1枚板として扱うことが可能になる。
【0014】
側部材はまた、床板の幅方向に向き合って対になることで、床版が下部構造に支持され、側部材が下部構造の柱、もしくは桁部材等に接合されたときに、全木材を床板の面内幅方向に挟み込み、幅方向中央部側へ拘束しながら、全木材を床板の面外方向に同時に拘束する状態にする。側部材は下部構造のいずれかの部分に直接、もしくは間接的に接合される。「直接」とは、側部材が下部構造の例えば柱、もしくは桁部材、あるいは下部構造の一部である場合の梁部材等に接合されることを言い、「間接的に」とは、側部材が上部構造の一部である場合の梁部材に接合され、梁部材が柱、もしくは桁部材等に接合されることを言う。
【0015】
柱は水平二方向に配列することで、桁部材の架設方向に直交する方向には対向するため、側部材が柱や桁部材等、柱が対向する方向に対になる下部構造のいずれかの部分に接合されたときに、例えば柱等、あるいは図5に示すように梁部材や下部構造への接合用の部材(接合部材10a)に楔形の形状を与えておけば、下部構造上への床版の落とし込みに伴い、側部材が柱等から床板の幅方向中央部側へ向かう力を受けることができる。結果として全木材をその長さ方向(床板の幅方向)に挟み込み、拘束する効果が生ずる。この場合の柱や接合部材等に与えられる楔形は上方から下方へかけて床板の幅方向外側から内側に向かう傾斜面を有する形状になり、各木材は長さ方向(軸方向)に適度の圧縮力を受けた状態になる。
【0016】
このように床板と側部材を含む床版を下部構造としての柱に支持させたときに、側部材が下部構造のいずれかの部分から床板の幅方向中央部側へ向かう力を受けることができれば、側部材による全木材(床板)の拘束効果が向上するため、各木材の高さ方向(床板の厚さ方向(面外方向))の変位に対する安定性が向上する。
【0017】
側部材は床板の長さ方向の全長に亘る場合と、端部材が配置される床板の長さ方向の端部を除いた区間に亘る場合がある。同様に端部材は床板の幅方向の全長(全幅)に亘る場合と、側部材が配置される床板の幅方向の端部を除いた区間に亘る場合がある。原則として側部材が床板の長さ方向の全長に亘る場合には、端部材が床板の長さ方向の両端部(両側)に位置する木材の長さ方向の端部を除いた区間に亘り、端部材が床板の長さ方向の両端部に位置する木材の全長に亘る場合には、側部材が床板の長さ方向の端部を除いた区間に亘る。但し、床板の隅角部位置では側部材と端部材が交わり、重複することもある。
【0018】
側部材と端部材が交差する床板の隅角部位置における側部材と端部材の関係は、主に側部材の長さ方向(軸方向)の端部を端部材の床板側(木材側)に配置するか否かの取り合いによって決まる。図1−(d)に示すように側部材8の長さ方向(軸方向)の端面を端部材9の床板側に配置すれば、端部材9の床板5側の面が側部材8の長さ方向の端面に係止する状態(請求項2)になり、端部材9から木材6(床板5)に作用する緊張力の反力としての圧縮力(プレストレス)の一部を側部材8が負担し得る状態になる。
【0019】
また例えば側部材の長さ方向の端部に、床板の長さ方向の両端部に位置する木材の幅方向の側面に重なる板(エンドプレート)を一体化させれば、側部材が床板の隅角部において床板の長さ方向の端部と幅方向の端部を同時に床板の厚さ方向に拘束し、床板の外周側から面内方向に拘束する状態になる。端部材の長さ方向の端部に、床板の長さ方向の両端部に位置する木材の長さ方向の端面に重なる板(エンドプレート)を一体化させても、同様の効果が得られる。
【0020】
端部材は束ねられた全木材からなる床板の長さ方向(木材の幅方向)の両側に位置する木材の実質的に全長に亘り、木材の幅方向の側面に密着し、床板の長さ方向に向き合って対になることで、床板の長さ方向両側に位置する木材を床板の長さ方向に挟み込み、全木材を床板の長さ方向に拘束する。端部材は床板の長さ方向の両側に位置する木材の側面に重なり、主に緊張材の緊張力を木材の長さ方向に分散させて木材に作用させる働きをし、側部材のように全木材の長さ方向の端部を揃える役目を持たないため、側部材のように必ずしも木材を上下方向に挟み込む必要はない。但し、端部材が木材の側面に重なった状態での上下方向のずれを防止し、接合状態での端部材の安全性を高める目的で、端部材は木材を上下方向に挟み込むこともあり、その場合、端部材は木材を床板の面外方向にも拘束する。
【0021】
「端部材が木材の実質的に全長に亘る」とは、前記のように床板の幅方向両側に配置される側部材が床板の長さ方向両側に位置する木材の長さ方向の両端部を上下から挟み込むことがあるため、その側部材の長さ方向端部を除き、木材の全長に亘ることの意味であり、端部材は完全に木材の全長に亘る場合と、側部材との交差部分を除いた区間に亘る場合がある。側部材の長さ方向の両端部が床板の長さ方向両側に位置する木材を挟み込まない場合に、端部材は木材の全長に亘ることがある。
【0022】
端部材も、床板が下部構造に支持され、桁部材の架設方向に対になる下部構造のいずれかの部分に接合されたときに、下部構造から床板の長さ方向中央部側へ向かう力を受けることができれば、全木材をその幅方向(床板の長さ方向)に挟み込む効果が付加されるため、全木材を床板の長さ方向に挟み込み、緊張材による全木材の一体性を補う効果が生ずる。下部構造から端部材に床板の長さ方向を向く力を与えることは、図5における接合部材10aと同様に、例えば床板の長さ方向両側に位置する柱等の床板側の面に、上方から下方へかけて床板の長さ方向外側から内側に向かう傾斜面を与えておくことにより可能になる。
【0023】
端部材はまた、床板の長さ方向両側に位置する木材の実質的に全長に亘り、木材の幅方向側面に重なって配置されることで、緊張材から木材の幅方向に導入される緊張力の反力として作用する圧縮力(プレストレス)を木材の長さ方向に分散させ、全長に均等に作用させる働きをする。端部材は圧縮力を木材の長さ方向に均等に作用させることで、緊張力が木材の一部に集中して作用することを防止し、基本的に圧縮力による床板の長さ方向の収縮量が全体的に床板の幅方向(木材の長さ方向)に一様になるように機能する。
【0024】
端部材の長さ方向両端部は側部材の長さ方向両端部に接合される場合と、接合されない場合がある。接合される場合には、緊張材への緊張力の導入後、すなわち全木材へのプレストレス導入後の全木材の収縮完了後に接合され、接合により側部材の端部と端部材の端部同士の連続性が確保され、両部材間での力の伝達が可能になるため、全木材の一体性が向上し、床板の安定性が高まる。
【0025】
緊張材は原則的に端部材の長さ方向の複数箇所に分散して配置され、端部材と全木材を貫通し、端部材に定着されることにより端部材を介して緊張力を床板の長さ方向(木材の幅方向)の圧縮力として作用させる。緊張材に与えられる緊張力の反力は端部材が受けるため、この緊張力の反力が端部材から木材に圧縮力として作用する。端部材と全木材には木材の幅方向に、緊張材が挿通する挿通孔が穿設されるが、端部材からの圧縮力を全木材に偏心することなく作用させる上で、挿通孔の中心は木材の材軸に直交する断面上の中心を通る。木材の長さが特に小さく、複数本の緊張材の使用を要しないような場合には、全木材を一体化させ、床板を構成する上で、1本の緊張材の使用で足りることもある。
【0026】
緊張材の緊張力は全木材にその幅方向に作用するが、全木材の一体性を上げるために緊張力を高めたときの緊張力が過剰になることによる圧縮変形を抑制(制御)する上では、前記のように端部材の床板側の面が側部材の長さ方向の端面に係止し、側部材が緊張力の反力を負担し、一定の大きさを超える緊張力の反力を負担する状態に置かれる(請求項2)。
【0027】
この場合、端部材は緊張材への緊張力の導入による木材の幅方向の収縮に伴って床板の長さ方向中央部側へ移動することにより側部材に係止した状態になる。端部材が側部材に係止した状態からは、端部材の、床板の長さ方向中央部側への移動が阻止されるため、端部材の移動が停止した状態からは緊張材への緊張力の増加があっても、木材に導入される圧縮力の大きさは制限される。
【0028】
「端部材が側部材の端面に係止した」状態は緊張材への緊張力の導入終了後の状態であり、緊張力の導入前の状態では端部材は側部材に係止した状態にはなく、両部材間にクリアランスが確保されている。緊張材への緊張力の導入に伴い、端部材の木材側の面が側部材の長さ方向の端部(端面)に係止することで、側部材は木材の幅方向に与えられる圧縮力が一定の大きさを超える事態を阻止し、圧縮力の大きさを制限する機能を発揮する。
【0029】
束ねられた全木材からなる床板とその幅方向両側の側部材と長さ方向両側の端部材からなる床版は複数本の柱からなる下部構造に支持されたときに使用状態になる。請求項2では、床版の使用状態で端部材が側部材の長さ方向の両端部に木材側へ係止した状態になり、側部材が緊張材の緊張力による圧縮力を木材(床板)と共に分担する状態になることで、一定の圧縮力は全木材に幅方向に導入されるが、その圧縮力を超える圧縮力は側部材が負担することになる。この結果、その一定の圧縮力を超える圧縮力が木材に作用する事態が回避される。
【0030】
木材への一定の圧縮力を超える圧縮力の作用が回避されることで、過剰な圧縮力の作用に起因し、木材の幅方向の収縮量が長さ方向に不均衡になることも回避されるため、側部材は木材の幅方向の収縮量が木材の長さ方向に一定になるように制御する働きをすることになる。
【0031】
側部材がなければ、複数本の緊張材からの緊張力の差、あるいは各木材が圧縮力を受けたときの収縮量の差(ポアソン比)等に起因し、床板が完全な長方形を維持できず、端部材が床板の幅方向に対して傾斜することが起こり得る。それに対し、側部材が床板の幅方向両側に対になって配置されることで、両側の側部材の長さが等しい限り、端部材の傾斜が阻止されるため、圧縮力が木材の長さ方向に不均衡に作用することが防止される。
【0032】
結果として、緊張材への緊張力の導入前から導入後にかけて床板は長さ方向に収縮しながらも、完全な長方形を維持することができるため、収縮に起因する床板の製作誤差を生じることがなくなり、柱等、下部構造との接合部において接合対象に確実に接合することが可能になる。
【0033】
前記のように床板(床版)の長さ方向と幅方向の二方向に配列する柱の内、幅方向に対向する柱は桁部材間に架設される梁部材によって繋がれるが、床版にはこの梁部材が一体化する等により付属し、梁部材上には、床板の幅方向に間隔を置き、床板の長さ方向を向いて梁部材上に載置される根太が付属している場合もある(請求項3)。
【0034】
この場合、床板の底面(各木材の底面)に根太が納まる凹部が床板の長さ方向に連続して形成され、この凹部の内周面に根太が入り込み、凹部に床板の幅方向両側に係合した状態にあれば(請求項3)、床板の梁部材に対する、あるいは下部構造に対する幅方向の移動(変位)に対する安定性が向上する。
【0035】
前記のように床板はその隅角部等において下部構造の柱等、いずれかの部位に接合されることにより床板の長さ方向と共に、幅方向の移動に対して安定した状態で下部構造に支持されるが、請求項3では隅角部に加え、床板の幅方向中間部に位置する根太において梁部材に床板の幅方向のいずれの向きにも係合することで、下部構造に対する幅方向の移動に対する安定性が一層向上する。
【0036】
請求項3ではまた、床板が床板の幅方向に架設される梁部材と、梁部材上に敷設される根太の、二方向の部材に支持されることで、あるいは二方向の部材が床板(床版)に一体構造化することで、床版の面外方向の剛性が増すため、床版の使用状態での面外方向の変形に対する安定性も確保される。
【発明の効果】
【0037】
複数本の木材からなる床板の幅方向両側に配置される側部材が床板の幅方向両側において全木材の長さ方向の端部を高さ方向(床板の厚さ方向)に挟み込むため、端部材から全木材への圧縮力導入による圧着効果と併せ、上載荷重による各木材の独立した挙動を拘束することができ、床板としての一体性を確保し、全木材からなる床板を1枚板として扱うことが可能になる。
【0038】
また床板の長さ方向両側に配置される端部材が床板の長さ方向両側に位置する木材の実質的に全長に亘り、側面に重なって配置されることで、木材の幅方向に作用する緊張材の緊張力による圧縮力(プレストレス)を木材の長さ方向に分散させ、全長に均等に作用させることができるため、緊張力が木材の一部に集中して作用することを防止し、圧縮力による床板の長さ方向の収縮量を全体的に木材の長さ方向に一様にすることが可能である。
【0039】
特に端部材の床板側の面が側部材の長さ方向の端面に係止する状態にあれば、全木材に幅方向に導入される一定の圧縮力を超える圧縮力を側部材が負担するため、その一定の圧縮力を超える圧縮力が木材に作用する事態が回避され、木材の幅方向の収縮量が長さ方向に不均衡になることも回避される。
【図面の簡単な説明】
【0040】
図1】(a)は複数本の木材からなる床板の長さ方向片側に端部材を配置し、端部材と全木材を貫通する緊張材を挿通させると共に、床板の幅方向片側に側部材を配置するときの様子を示した斜視図、(b)は(a)に示すH形鋼の側部材に代わる溝形鋼の側部材を示した斜視図、(c)は(a)に示す床板の幅方向両側に側部材を配置し、端部材と組み合わせたときの様子を示した斜視図、(d)は端部材を側部材に床板側へ係止させた状態で端部材と側部材を組み合わせた場合の両者の取り合いを示した斜視図である。
図2】(a)は床板を構成する一部の複数本の木材を幅方向に束ねた様子を示した斜視図、(b)は(a)の木材幅方向の側面図、(c)は(a)の木材長さ方向の端面図である。
図3】(a)は図1に示す床板を支持し、床版を構成する梁部材と、その上に敷設される根太の配置状態を示した斜視図、(b)は(a)に示す梁部材と根太上に床板を敷設した様子を示した斜視図、(c)は(b)に示す床板の周囲に手摺りとそれを支持する支柱を配置した様子を示した斜視図である。
図4図3に示す床版を支持する下部構造の構成例を示した斜視図である。
図5図4に示す下部構造上に図3に示す上部構造としての床版を載置し、階段を除く緊急避難台の完成状態を示した斜視図である。
図6図5に示す緊急避難台の床版を示した平面図である。
図7図5に示す緊急避難台を床板の長さ方向に見たときの立面図である。
図8図5に示す緊急避難台を床板の幅方向に見たときの立面図である。
図9図5に示す緊急避難台の床版の背面を示した底面図である。
図10図5に示す緊急避難台を図8とは反対側から見たときの立面図である。
図11図5における床板の幅方向片側の拡大図である。
図12図11における床板の隅角部の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
以下、図面を用いて本発明を実施するための最良の形態を説明する。
【0042】
図1−(a)、(c)は水平二方向に配列し、少なくともいずれか一方向に架設される桁部材3で繋がれる複数本の柱2、2を基本の構成要素とする図4に示す下部構造に支持され、緊急避難台1を構成する床版4の内、複数本の木材6の束からなる床板5の構成例を示す。下部構造と緊急避難台1を示す図4以下の図面では柱2に鋼材のH形鋼を使用し、桁部材3に溝形鋼を使用した場合の例を示しているが、柱2等にはコンクリート部材の他、木材も使用される。図示するように緊急避難台1の構成材料として鋼材(形鋼)を使用する場合、鋼材には防錆塗料の塗布、めっき等の防錆処理が施される。
【0043】
床板5は桁部材3の架設方向である一方向に互いに密着しながら配列する角形の断面形状をした複数本の木材6から構成される。全木材6の幅寸法と高さ寸法は原則として揃えられるが、少なくとも高さが統一されていれば、幅方向に束ねることで一定厚さの床板5を構成することができるため、幅寸法は必ずしも統一されている必要はない。床版4は図1−(c)に示すように木材6からなる床板5と、床板5を木材6の幅方向に同時に貫通し、全木材6を一体化させる緊張材7と、床板5の幅方向両側に配置され、対になる側部材8、8と、床板5の長さ方向両側に配置され、対になる端部材9、9から構成され、緊張材7は両側の端部材9、9間に挿通する。
【0044】
側部材8は全木材6の長さ方向の端部を上下方向に同時に挟み込みながら、床板5をその幅方向に挟み込み、全木材6を同時に拘束する。側部材8は束ねられた全木材6からなる1枚板としての床板5の幅方向の両端部を上下方向に挟み込むため、床板5の幅方向の側面に突き当たるウェブと、床板5の幅方向両端部の上下面を挟持する上下のフランジを有する断面形状をし、図1−(a)に示すようなH形鋼、または(b)に示すような溝形鋼の使用が適する。床板5の幅方向両端部の上下面は実質的に全木材6の長さ方向両端部の上下面である。「実質的」とは、床板5の長さ方向両端部に配置される端部材9、9が床板5の長さ方向両側に位置する木材6の長さ方向の両端部の上下面を挟み込むことがあるから、その床板5長さ方向両側の木材6、6が含まれないこともある意味である。
【0045】
床板5の幅方向両側部分は側部材8には単純に上下のフランジ間に挟持されることにより側部材8に保持されるが、床板5の、側部材8に接触する部分に接着剤を塗布することにより、または側部材8の上下のフランジ間にボルトを貫通させることにより床板5と側部材8との接合が補われることもある。
【0046】
端部材9は床板5の長さ方向両側に位置する木材6、6の幅方向の側面に密着することにより緊張材7の反力である圧縮力を木材6の長さ方向に均等に作用させる働きをするが、木材6の側面に密着した状態での高さ方向(床板5の厚さ方向)へのずれに対する安全性を確保するために、図1−(a)、(c)、(d)に示すように木材6を上下方向に挟み込んで保持することもある。その場合、端部材9は側部材8と同じく、床板5の長さ方向の端部に位置する木材6の側面に突き当たるウェブと、その木材6の上下面を挟持する上下のフランジを有する断面形状をし、図1−(a)に示すようなH形鋼、または溝形鋼の使用が適する。端部材9が木材6の上下面を挟持する必要がなければ、端部材9にはT形鋼も使用される。側部材8と端部材9に形鋼等の鋼材を使用するにも、これらには防錆処理が施される。
【0047】
側部材8と端部材9にH形鋼を使用することには、H形鋼の下部フランジを側部材8、または端部材9の下に配置される梁部材10に重ねることができるため、側部材8、または端部材9を直接、梁部材10に接合できる意味がある。端部材9に山形鋼やT形鋼を使用する場合にも同様のことが言える。
【0048】
図1−(c)は床板5の長さ方向の全長に亘る長さを持つ側部材8の長さ方向端部のフランジの幅方向側面が端部材9の長さ方向の端面に接触した状態で、端部材9の端部と側部材8の端部が組み合わせられた場合の取り合い例を示している。この例では側部材8の端部のフランジが床板5の長さ方向両側に位置する木材6の長さ方向(軸方向)端部の上下面に重なっているため、端部材9が側部材8と重ならない(干渉しない)よう、床板5の幅方向両側の側部材8、8の各フランジ間に納まる程度の長さになっているが、(d)に示すように端部材9が木材6の全長に亘り、端部材9のフランジが木材6の端部の上下面に重なることもある。図1−(c)の例では床板5の長さ方向両側に位置する木材6の長さ方向端部の側面が側部材8の端面側に露出している。
【0049】
図1−(d)は端部材9の長さ方向端部のフランジの幅方向側面(木材6側の側面)が側部材8の長さ方向の端面に接触した状態で、両部材8、9が組み合わせられた場合の取り合い例を示している。(d)では端部材9が木材6の全長に亘り、フランジが木材6の端部の上下面に重なっており、床板5の長さ方向両側に位置する木材6の長さ方向端部の端面が端部材9の端面側に露出している。
【0050】
図1−(c)、(d)のいずれも、緊張材7への緊張力の導入が終了し、床板5と側部材8、8、及び端部材9、9からなる床版4の完成状態を示している。(d)では特に端部材9のフランジの木材6側の側面が側部材8の端面に密着した状態にあることで、端部材9が側部材8に木材6側へ係止した状態にあり、端部材9が受ける緊張材7の反力の圧縮力の一部を側部材8が負担し、床板5の長さ方向の圧縮変形を抑制し得る状態にある。
【0051】
図1−(a)、(c)、(d)では端部材9にH形鋼を使用しているが、端部材9は必ずしも木材6を上下から(高さ方向に)挟み込む必要がないため、木材6の幅方向側面のほぼ全面に重なるだけの断面形状、あるいは図5等に示すようにL形の断面形状の場合もある。その他、端部材9は木材6を上下から挟み込んでいる側部材8の上下のフランジを挟み込むように、ウェブにおいて側部材8の端面の全面に係止することもある。
【0052】
図1−(d)では側部材8に溝形鋼を使用しているが、側部材8に対応して端部材9にも溝形鋼を使用することがある。側部材8の端部と端部材9の端部同士はボルト等によって互いに接合されることもある。端部材9は緊張材7の緊張力による接触圧力によって床板5の長さ方向両端に位置する木材6の側面に密着し、一体化した状態を維持するが、端部材9と木材6との接合状態も、側部材8と床板5との接合状態と同様に接着剤やボルト等の併用によって補われることがある。
【0053】
また側部材8、または端部材9に溝形鋼やH形鋼等のウェブとフランジを持つ断面形状の鋼材(形鋼)を使用する場合に、例えば側部材8の軸方向の端面にエンドプレートを一体化させることで、エンドプレートを床板5の長さ方向の端部に位置する木材6の端部材9側の側面に密着させることができる。また端部材9の軸方向の端面にエンドプレートを接合することで、そのエンドプレートを床板5の長さ方向両側に位置する木材の軸方向の端面に密着させることができるため、側部材8と端部材9の少なくともいずれかによって床板5を周囲から周回して包囲する状態にし、床板5の面内の二方向から中心側へむけて圧力を付与することができる。
【0054】
緊張材7は束ねられた全木材6からなる床板5の長さ以上の長さを持ち、全木材6の同一位置に、幅方向に貫通して形成された挿通孔6aと端部材9の挿通孔を挿通し、端部材9から突出する長さ方向の端部から緊張力が与えられた状態で端部材9に定着される。緊張材7に与えられる緊張力はその反力を負担する端部材9から全木材6に圧縮力(プレストレス)として作用するが、圧縮力がいずれの木材6にも偏心せずに幅方向に作用するよう、木材6の挿通孔6aは、図2−(a)、(b)に示すようにその中心が木材6の軸方向(長さ方向)に見たときの断面上の中心を通る位置に穿設される。
【0055】
緊張材7の緊張力は端部材9の全長から木材6の長さ方向に均等に作用することから、木材6を幅方向に挿通する緊張材7が1本であっても緊張力の反力としての圧縮力が軸方向(長さ方向)の一部に集中するようなことは緩和されるが、圧縮力が木材6の長さ方向により均等に分散するよう、木材6の挿通孔6aは木材の軸方向には複数箇所、形成され、複数本の緊張材7が使用されることが適切である。
【0056】
緊張材7は例えばPC鋼棒、PC鋼より線等のPC鋼材とPC鋼材を被覆するシースを持ち、シースが木材6の挿通孔6a内で実質的にクリアランスがない状態で挿通孔6aを挿通することにより緊張材7に対して各木材6が床板5の厚さ方向に変位する事態が回避されている。シースが挿通孔6a内を挿通した状態でクリアランスが存在する場合には、そのクリアランスはモルタル、接着剤等の充填材で塞がれる。緊張材7にはPC鋼材の他、繊維強化プラスチック等も使用される。
【0057】
緊張材7の端部は端部材9の挿通孔から露出し、床板5として全木材6の一体性を確保できる程度の緊張力が与えられ、緊張力の反力を負担する端部材9から全木材6に幅方向の圧縮力が与えられた状態で、端部材9の挿通孔の周囲に配置される定着材71に定着される。定着は図11に示すようにナット72等による。端部材9の挿通孔は図1−(a)、(c)に示すようにウェブに形成される。
【0058】
図2−(a)は床板5を構成する一部の複数本の木材6を幅方向に束ねた様子を示すが、全木材6には幅方向側面間を貫通する挿通孔6aが形成される他、底面に1箇所、もしくは複数箇所、後述の梁部材10上に載置される根太11が納まる凹部6bが形成される。凹部6bに根太11が納まり、根太11が床板5の幅方向に係合することで、床板5の根太11に対する幅方向の移動に対する安定性が確保される。また床板5がその幅方向に架設される梁部材10と、梁部材10上に直交して敷設される根太11に支持されることで、床板5を含む床版4の使用状態での面外方向の変形、すなわち撓みと振動に対する安定性も確保される。
【0059】
図3−(a)は床板5を支持し、床版4を構成する梁部材10の上に根太11を敷設した様子を、(b)は根太11上に床板5を敷設した様子を示している。(c)は床板5の周囲に落下防止用の手摺り(柵)12と支柱13を固定した様子を示している。支柱13は側部材8と端部材9、または梁部材10等に溶接やボルト等により固定され、手摺り12は支柱13、13間に架設されて支柱13に固定される。床版4が下部構造に載置される前の状態では梁部材10と根太11が床版4に一体化している場合と、床版4に一体化せず、桁部材3に一体化している場合がある。
【0060】
いずれの場合にも、例えば図5図7に示すように梁部材10の、床板5の周囲に位置する区間の床板5側に、上方から下方へかけて床板5の幅方向外側から内側(中心側)へ向かう傾斜面が形成された接合部材10aを溶接等により固定しておくことで、床板5の梁部材10上への載置状態で、床板5に梁部材10から床板5の中心側へ向かう力を与えることができる。接合部材10aは梁部材10の上面(上部フランジの上面)等に固定される。
【0061】
接合部材10aは梁部材10上の、床板5の幅方向両側位置に固定され、床板5とその幅方向両側の側部材8、8、及び長さ方向両側の端部材9、9からなる床版4を並列する梁部材10の上に載置したときに、傾斜面が楔効果により床版4の降下に伴い、床板5の幅方向中心側へ押す力を床版4(床板5)の幅方向側面に与える。床板5はその幅方向両側に位置する側部材8、8から全木材6をその長さ方向(床板5の幅方向)に拘束する力が与えられた状態になる。
【0062】
図示しないが、同様に、床板5の長さ方向外側から内側(中心側)へ向かう傾斜面を有する接合部材を梁部材10上の床板5の長さ方向両側位置に固定しておけば、床板5に木材6の幅方向(床板5の長さ方向)に圧縮力を付与する力を床版4(床板5)に作用させ、緊張材7による全木材6の一体性を補う効果を得ることができる。
【0063】
図4は二方向に配列する柱2、2と、一方向の柱2、2間に架設され、柱2、2を繋ぐ桁部材3からなる下部構造の構成例を示す。一方向は床板5の長さ方向であり、それに直交する方向は床板5の幅方向になる。図4では床板5の幅方向に対向する柱2、2間に桁部材3に直交する繋ぎ材14が架設されている様子が示されているが、床板5の幅方向に対向する柱2、2は図3に示す梁部材10によって繋がれるため、図4に示す梁部材14は図5に示すように不在にすることもある。
【0064】
下部構造は柱2と桁部材3の他、桁部材3と平行に床板5の長さ方向に架設される繋ぎ材14と、桁部材3と直交する方向の柱2、2間に架設される繋ぎ材14から、更には上下に並列する桁部材3と繋ぎ材14間、及び繋ぎ材14、14間に架設されるブレース15、方杖等の耐震要素から構成される。
【0065】
図5図3に示す、梁部材10と根太11が付属した床版4を図4に示す下部構造上に落とし込み、柱2、2に床版5を支持させた、階段等を除く緊急避難台1の完成状態を示している。図6図10図5に示す緊急避難台1の一部を示している。図5図10では床版4の幅方向片側に付属すべき昇降用の階段、もしくは梯子が省略してあるが、階段等の上部側は手摺り12が不在の区間において床版4(床板5)に接合され、下部側は地上、もしくは堤防(防波堤)等の港湾構造物に接合される。図7中、床板5の上面(天端面)上の矢印は水勾配を示す。
【0066】
このように上部構造としての床版4の床板5の上面は必ずしも水平面をなして配置されるとは限らず、床板5の底面も完全な水平面をなしているとは限らない。床板5の全面の厚さが一定で、上面に水勾配が付く場合には、床板5の底面が水勾配分の傾斜が付いた面上に載置され、底面が水平面上に載置される場合に、上面に水勾配が付く場合は、床板5の厚さが僅かながら、幅方向一方側から他方側へかけて次第に小さくなるように床板5が形成される。
【0067】
図7では床板5の上面上に水勾配を付けたことに伴い、勾配の下流側になる床板5の幅方向片側に樋16を敷設し、図5の一部拡大図である図11図12に示すように前記した接合部材10aに樋16を支持させている。床板5の幅方向両側には全木材6を上下から挟み込む側部材8が配置され、図1−(c)、(d)に示すように側部材8の上部フランジが床板5の上面に重なっているが、樋16を設置する場合には、図7に示すように全木材6の長さ方向両端部(床板5の幅方向両側部分)の少なくとも上面を切り欠き、その床板5の端部を側部材8に差し込み、床板5の上面と側部材8の上部フランジの上面を面一にしておくことで、床板5の上面を流下する水が樋16に流れ落ちるようにすることができる。図7では床板5の下面も切り欠き、床板5の下面と側部材8の下部フランジの下面も面一にしている。
【0068】
床板5と側部材8、8、及び端部材9、9と緊張材7からなる床版5は図3−(b)に示すように根太11が敷設された梁部材10上に載置されることにより各木材6の凹部6bにおいて根太11に床板5の幅方向に係合し、その状態で、床板5の周囲の側部材8、8と端部材9、9においてそれぞれの下に位置する梁部材10にボルト、溶接等により接合される。
【0069】
梁部材10と根太11が付属した床版4は下部構造(柱2、2)上に落とし込まれた後、床版4の周囲のいずれかの部分において柱2、桁部材3、繋ぎ材14等にボルト、溶接等により接合される。床版4に梁部材10が一体化している場合には、梁部材10が柱2、もしくは桁部材3に接合され、床版4に梁部材10が一体化せず、予め柱2等に一体化している場合には、側部材8と端部材9が梁部材10等に接合される。
【0070】
前記のように床板5の長さ方向両側に位置する木材6、6の幅方向側面に密着する端部材9は必ずしも木材6を上下から挟み込む必要がないため、図5以下では端部材9にL形断面の山形鋼を使用し、そのウェブを木材6の側面に密着させている。
【0071】
図5以下の例では端部材9としての山形鋼のフランジを床板5の長さ方向外側に向けた状態で、ウェブを木材6に密着させているが、フランジを木材6の底面側に向けることもある。フランジを床板5の長さ方向外側に向けることには、床板5の外側で端部材9とその下に配置される梁部材10との接合が行える意味がある。山形鋼のフランジを木材6の底面側に向けることには、フランジの厚さ分、床板5の底面を梁部材10の上面から浮かせることになるため、フィラープレート等の併用により床板5の勾配の調整が可能になる意味がある。
【符号の説明】
【0072】
1……緊急避難台、
2……柱、3……桁部材、
4……床版、5……床板、
6……木材、6a……挿通孔、6b……凹部、
7……緊張材、71……定着材、72……ナット、
8……側部材、9……端部材、
10……梁部材、10a……接合部材、11……根太、
12……手摺り(柵)、13……支柱、
14……繋ぎ材、15……ブレース、16……樋。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
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図10
図11
図12