特許第5902610号(P5902610)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5902610硫化レニウムからの過レニウム酸水溶液の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5902610
(24)【登録日】2016年3月18日
(45)【発行日】2016年4月13日
(54)【発明の名称】硫化レニウムからの過レニウム酸水溶液の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01G 47/00 20060101AFI20160331BHJP
   C22B 61/00 20060101ALI20160331BHJP
   C22B 1/02 20060101ALI20160331BHJP
   C22B 5/12 20060101ALI20160331BHJP
   C22B 3/20 20060101ALI20160331BHJP
【FI】
   C01G47/00
   C22B61/00
   C22B1/02
   C22B5/12
   C22B3/20
【請求項の数】7
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-288826(P2012-288826)
(22)【出願日】2012年12月28日
(65)【公開番号】特開2014-129201(P2014-129201A)
(43)【公開日】2014年7月10日
【審査請求日】2014年9月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】500483219
【氏名又は名称】パンパシフィック・カッパー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】隅田 育伸
(72)【発明者】
【氏名】河野 雄仁
(72)【発明者】
【氏名】▲浜▼本 真
【審査官】 延平 修一
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2011/115660(WO,A2)
【文献】 特公昭50−021998(JP,B1)
【文献】 特開昭47−021323(JP,A)
【文献】 特開2011−178573(JP,A)
【文献】 特開昭62−124240(JP,A)
【文献】 特開2011−117080(JP,A)
【文献】 B. Heshmatpour et al.,Recovery and refining of rhenium, tungsten and molybdenum from W-Re, Mo-Re and other alloy scraps,Journal of the Less Common Metals,1982年 7月,Volume 86,p.121-128
【文献】 入木田 猛,レニウム,新金属データブック,1985年12月12日,p.644-646
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 25/00 − 47/00
C01G 49/10 − 99/00
C22B 1/02
C22B 3/20
C22B 5/12
C22B 61/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
Science Direct
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1)硫化レニウムに対して酸素含有気体の存在下で焙焼を行い、ガス化した酸化レニウムを回収する工程と、
2)ガス化した酸化レニウムに随伴する硫黄酸化物をガス状態に保ちながら酸化レニウムをSO2の沸点以上の温度に冷却して固化し、次いで固気分離することにより酸化レニウムの純度を高める工程と、
3)固化した酸化レニウムを水中に溶解させるか、又は、固化した酸化レニウムを加熱してガス化した後に水中に溶解させることで、過レニウム酸水溶液を得る工程と、
を含む過レニウム酸水溶液の製造方法。
【請求項2】
1)亜鉛及びビスマスの少なくとも一方を含有する硫化レニウムに対して酸素含有気体の存在下で焙焼を行い、亜鉛及びビスマスの少なくとも一方を焙焼残渣として分離し、ガス化した酸化レニウムを回収する工程と、
2)ガス化した酸化レニウムに随伴する硫黄酸化物をガス状態に保ちながら酸化レニウムをSO2の沸点以上の温度に冷却して固化し、次いで固気分離することにより酸化レニウムの純度を高める工程と、
3)固化した酸化レニウムを水中に溶解させるか、又は、固化した酸化レニウムを加熱してガス化した後に水中に溶解させることで、過レニウム酸水溶液を得る工程と、
を含む過レニウム酸水溶液の製造方法。
【請求項3】
焙焼が200〜600℃の炉内雰囲気温度で行われる請求項1又は2に記載の過レニウム酸水溶液の製造方法。
【請求項4】
酸素含有気体は100℃以上に予熱されている請求項1〜3の何れか一項に記載の過レニウム酸水溶液の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4の何れか一項に記載の過レニウム酸水溶液の製造方法によって得られた過レニウム酸水溶液を原料として、過レニウム酸カリウムを製造する方法。
【請求項6】
請求項1〜4の何れか一項に記載の過レニウム酸水溶液の製造方法によって得られた過レニウム酸水溶液を原料として、過レニウム酸アンモニウムを製造する方法。
【請求項7】
請求項1〜4の何れか一項に記載の過レニウム酸水溶液の製造方法によって得られた過レニウム酸水溶液を原料として、レニウムメタルを製造する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硫化レニウムからの過レニウム酸水溶液の製造方法に関する。とりわけ、本発明は硫化レニウムから過レニウム酸を経由して過レニウム酸アンモニウムを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
レニウムは、モリブデン原鉱の輝水鉛鉱や銅鉱石に僅かに随伴する希少金属であるが、触媒の添加元素、熱電対や超耐熱合金用添加元素、高真空電子管材料等に用いられる重要な金属である。
【0003】
レニウムを工業的に回収するための有望な原料の一つとして粗硫化レニウムがある。粗硫化レニウム中の不純物としては亜鉛、ビスマスなどが代表的である。
【0004】
従来、特開昭62−148327号公報(特許文献1)に記載されているように、粗硫化レニウムから過レニウム酸カリウムを製造する方法が知られている。当該文献では、粗硫化レニウムを過酸化水素等の酸化剤を使用して酸化浸出し、浸出後液中に硫化水素を添加することにより、後液中に純度の高い過レニウム酸を得た後、水酸化カリウムを添加することで過レニウム酸カリウムを製造している。過レニウム酸カリウムからは、特開平2−20575号公報(特許文献2)に記載のように、陽イオン交換樹脂と接触後にアンモニア水で中和して濾過する方法等によって、過レニウム酸アンモニウムを製造することができる。過レニウム酸アンモニウムは有価物として商取引可能であり、付加価値の高い形態である。
【0005】
また、特開昭47−21323号公報(特許文献3)には、レニウムを含有するモリブデン原鉱石を焙焼し、水で抽出し、この抽出液に塩化カリウムを加え、この際得られる沈澱を濃硫酸に解かし、硫酸濃度を1〜3モルに調節したのち、高分子量有機第三アミン濃度0.02モル以上で含む有機溶媒を用いて抽出し、次にこの抽出液をカセイカリ水溶液で逆抽出し、この抽出液を濃縮還元処理することを特徴とするレニウムの製造方法が記載されている。
【0006】
そして、特許文献3には、レニウムは硫化レニウムの形態で含有されており、焙焼によって硫化レニウムは酸化されて酸化レニウム(Re27)に変わり、150℃以上の温度で気化し、煙ジン中に蓄積されることが記載されている。煙ジンを水で抽出すると酸化レニウム(Re27)が水溶液中に吸収されること、及び、当該水溶液は多量の二酸化イオウや三酸化イオウを含むため強い酸性を示すことも記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭62−148327号公報
【特許文献2】特開平2−20575号公報
【特許文献3】特開昭47−21323号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1のように湿式プロセスにより粗硫化レニウムから過レニウム酸を製造する方法は知られているが、乾式プロセスにより粗硫化レニウムから過レニウム酸を製造する方法が提供されることも望ましい。この点、特許文献3には焙焼により硫化レニウムが酸化されて酸化レニウムに変わることや、酸化レニウムは150℃以上の温度で気化し、煙ジン中に蓄積されることが記載されているものの、不純物の除去に関しては改善の余地が残されている。
【0009】
そこで、本発明は硫化レニウムから乾式プロセスを用いて高純度の過レニウム酸を製造可能な方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、硫化レニウムを焙焼し、亜鉛やビスマス等の不揮発成分を残渣として分離しながら、レニウムをガス化した酸化レニウムとして抜き取る。その後、酸化レニウムを冷却して固化する。硫黄分はガス状の硫黄酸化物として随伴してくるが、沸点の違いを利用することで固気分離により除去可能である。これにより回収される酸化レニウムの純度が上昇する。得られた酸化レニウムを水中に溶解すると高純度の過レニウム酸水溶液が得られる。
【0011】
本発明は上記知見に基づいて完成したものであり、一側面において、
1)硫化レニウムに対して酸素含有気体の存在下で焙焼を行い、ガス化した酸化レニウムを回収する工程と、
2)ガス化した酸化レニウムに随伴する硫黄酸化物をガス状態に保ちながら酸化レニウムを冷却して固化し、次いで固気分離することにより酸化レニウムの純度を高める工程と、
3)固化した酸化レニウムを水中に溶解させるか、又は、固化した酸化レニウムを加熱してガス化した後に水中に溶解させることで、過レニウム酸水溶液を得る工程と、
を含む過レニウム酸水溶液の製造方法である。
【0012】
本発明は別の一側面において、
1)亜鉛及びビスマスの少なくとも一方を含有する硫化レニウムに対して酸素含有気体の存在下で焙焼を行い、亜鉛及びビスマスの少なくとも一方を焙焼残渣として分離し、ガス化した酸化レニウムを回収する工程と、
2)ガス化した酸化レニウムに随伴する硫黄酸化物をガス状態に保ちながら酸化レニウムを冷却して固化し、次いで固気分離することにより酸化レニウムの純度を高める工程と、
3)固化した酸化レニウムを水中に溶解させるか、又は、固化した酸化レニウムを加熱してガス化した後に水中に溶解させることで、過レニウム酸水溶液を得る工程と、
を含む過レニウム酸水溶液の製造方法である。
【0013】
本発明に係る過レニウム酸水溶液の製造方法の一実施形態においては、焙焼が200〜600℃の炉内雰囲気温度で行われる。
【0014】
本発明に係る過レニウム酸水溶液の製造方法の別の一実施形態においては、酸素含有気体は100℃以上に予熱されている。
【0015】
本発明に係る過レニウム酸水溶液の製造方法の更に別の一実施形態においては、ガス化した酸化レニウムを冷却して固化する工程では、固化した酸化レニウムはレニウム酸に不溶性の材料上に回収される。
【0016】
本発明は更に別の一側面において、本発明に係る過レニウム酸水溶液の製造方法によって得られた過レニウム酸水溶液を原料として、過レニウム酸カリウムを製造する方法である。
【0017】
本発明は更に別の一側面において、本発明に係る過レニウム酸水溶液の製造方法によって得られた過レニウム酸水溶液を原料として、過レニウム酸アンモニウムを製造する方法である。
【0018】
本発明は更に別の一側面において、本発明に係る過レニウム酸水溶液の製造方法によって得られた過レニウム酸水溶液を原料として、レニウムメタルを製造する方法である。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、硫化レニウムから高純度の過レニウム酸を製造可能な乾式プロセスが提供される。本発明は硫化レニウムから過レニウム酸アンモニウムを製造する方法に組み込むことができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】実施例における焙焼に使用した焙焼設備の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明に係る過レニウム酸水溶液の製造方法の一実施形態においては、
1)硫化レニウムに対して酸素含有気体の存在下で焙焼を行い、ガス化した酸化レニウムを回収する工程と、
2)ガス化した酸化レニウムに随伴する硫黄酸化物をガス状態に保ちながら酸化レニウムを冷却して固化し、次いで固気分離することにより酸化レニウムの純度を高める工程と、
3)固化した酸化レニウムを水中に溶解させるか、又は、固化した酸化レニウムを加熱してガス化した後に水中に溶解させることで、過レニウム酸水溶液を得る工程と、
を含む。
【0022】
本発明に係る過レニウム酸水溶液の製造方法の別の一実施形態においては、
1)亜鉛及びビスマスの少なくとも一方を含有する硫化レニウムに対して酸素含有気体の存在下で焙焼を行い、亜鉛及びビスマスの少なくとも一方を焙焼残渣として分離し、ガス化した酸化レニウムを回収する工程と、
2)ガス化した酸化レニウムに随伴する硫黄酸化物をガス状態に保ちながら酸化レニウムを冷却して固化し、次いで固気分離することにより酸化レニウムの純度を高める工程と、
3)固化した酸化レニウムを水中に溶解させるか、又は、固化した酸化レニウムを加熱してガス化した後に水中に溶解させることで、過レニウム酸水溶液を得る工程と、
を含む。
【0023】
(硫化レニウム)
本発明が処理対象とする硫化レニウムは不純物を含有しない硫化レニウムであってもよく、不純物を含有する粗硫化レニウムであってもよい。典型的には亜鉛及びビスマスの少なくとも一方を含有する粗硫化レニウムであり、より典型的には両方を含有する粗硫化レニウムである。本発明において、「硫化レニウム」とは不純物を含有する粗硫化レニウム及び不純物を実質的に含有しない硫化レニウムの両方を指すものとする。粗硫化レニウムの由来に制限はないが、以下に由来する粗硫化レニウムを典型例として挙げることができる。
【0024】
銅等の非鉄金属の製錬工程から発生する亜硫酸ガスを水洗浄することにより得られる廃酸には、原鉱石中に含まれていたレニウムが不純物と共に混入している。このような廃酸中には、一般に、レニウム、ビスマス、亜鉛、水銀、砒素、鉄、銅等が含まれている。廃酸中のレニウムはレニウム酸(HReO4)の形態で存在している。廃酸中のレニウムを硫化水素と反応させることで、硫化レニウムが生成するので、固液分離により粉体として回収することができる。このとき、亜鉛やビスマスは硫化水素と反応しないので、液側に分離することができる。
【0025】
不純物の少ない硫化レニウムとするために以下のような方法で不純物を除去することもできる。例えば、キレート樹脂や強塩基性陰イオン交換樹脂のような水銀に対する吸着力の強い樹脂に廃酸を通すことで脱水銀することができる。また、脱水銀後の廃酸を陰イオン交換樹脂に通液して、廃酸中のレニウム及びビスマスを該樹脂に選択的に吸着させることで、樹脂に吸着しない砒素、鉄及び銅を除去することができる。レニウム及びビスマスが吸着した陰イオン交換樹脂に塩酸等の溶離液を通液してレニウム及びビスマスを陰イオン交換樹脂から溶離させることができる。レニウムからのビスマスの分離はクロマトグラフィーで行うことが可能である。
【0026】
典型的な実施形態においては、粗硫化レニウム中には、化学分析によると(水銀以外はICP−OESにより分析し、水銀は還元気化吸光光度法により分析した。)、レニウム:30〜66質量%、硫黄:8〜38質量%、亜鉛:0.01〜1.0質量%、ビスマス:0.01〜1.0質量%、水銀:0.01〜1.0質量%が含まれ、より典型的な実施形態においては、粗硫化レニウム中には、レニウム:35〜50質量%、硫黄:25〜32質量%、亜鉛:0.01〜0.5質量%、ビスマス:0.01〜0.7質量%、水銀:0.01〜0.7質量%が含まれる。レニウムは、一部が酸化レニウムとして存在する場合もある。
【0027】
(工程1)
工程1では、硫化レニウムに対して酸素含有気体の存在下で焙焼を行う。焙焼により、硫化レニウムが以下の反応式に従って酸化レニウムに転換すると考えられる。
Re27(s)+21/2O2→Re27(s)+7SO2(g)・・・(式1)
SO2(g)+1/2O2(g)→SO3(g)
式1から分かるように、副産物として硫黄酸化物が生成する。酸化レニウム及び硫黄酸化物はガス化して焙焼炉から排出する。焙焼残渣中に亜鉛及びビスマスの少なくとも一方が含まれる場合、これらは焙焼残渣中に回収することが好ましい。
【0028】
焙焼を実施するための炉の種類としては、特に制限はなく、キルン炉、流動床炉、管状炉等が挙げられるが、残渣の飛散による回収時のコンタミ低減、費用の理由により管状炉が好ましい。
【0029】
また、雰囲気温度が急激に上昇した場合に反応を抑制するため、窒素、アルゴン等の不活性ガスを炉内に供給できるようにしておくことが望ましい。
【0030】
酸素含有気体としては、酸素、空気、酸素と不活性ガスの混合物等が挙げられるが、コストが高くなることから空気とするのが好ましい。ここでいう酸素含有気体には、当初から気体で存在する酸素含有気体の他、加熱時に酸素を発生するような固体や液体(例えば、塩素酸カリウム、過塩素酸アンモニウム)を使用することによって生じた酸素含有気体も含まれる。酸素含有気体は、反応効率の観点から、上記(式1)で必要とされる理論当量以上の酸素を供給することが好ましく、例えば1.2以上とすることができ、1.8以上とすることがより好ましい。
【0031】
酸化レニウムのガス化を促進するため、焙焼炉の炉内雰囲気温度を比較的高く設定して焙焼することが望まれる。ただし、過度に高い温度を設定すると亜鉛分やビスマス分もガス化するおそれがあるので、焙焼炉の雰囲気温度を200〜600℃として焙焼を行うことが好ましく、300〜550℃として焙焼を行うことがより好ましく、焙焼炉の雰囲気温度を350〜500℃として焙焼を行うことが更により好ましい。また、焙焼時間としては、焙焼炉の規模や構造にもよるが、長すぎるとエネルギーロスが大きくなる一方で短すぎると未揮発が多くなるので、例えば30〜240分とすることが好ましく、120〜180分とすることがより好ましい。
【0032】
酸素含有気体は焙焼炉に供給する前に予熱しておくことが望ましい。酸素含有気体を予熱しておくことで、炉内反応の均一化のメリットが得られる。具体的には、酸素含有気体は炉内雰囲気温度と同温度に予熱しておくことが好ましい。ただし、必要以上に予熱するとエネルギーのロスとなる。
【0033】
ガス化した酸化レニウムの輸送は、ガス配管を使用すればよい。ガス配管は保温し、輸送途中で酸化レニウムが配管内壁に固着するのを防止することが好ましい。保温時の配管内温度は低すぎると酸化レニウムが固化するおそれがあるので300℃以上とするのが好ましく、エネルギー消費の観点から必要以上に温度を高くする必要もないので、典型的には500℃以下、より典型的には400℃以下である。
【0034】
(工程2)
その後、ガス化した酸化レニウムに随伴する硫黄酸化物をガス状態に保ちながら酸化レニウムを冷却して固化し、次いで固気分離することにより酸化レニウムの純度を高める。所定の冷却場所(配管内でも出入口のある容器内でもよい。)で冷却して固化させることが作業効率の向上の点で望ましい。このとき、随伴してくる硫黄酸化物は沸点の違いによりそのまま気体として冷却場所を通り抜けていくので、固気分離によって、酸化レニウムの純度が向上する。コンタミ防止の観点から、固化した酸化レニウムはレニウム酸に不溶性の材料、例えば、石英又はガラス上に回収するのが好ましく、内壁の材質にこれらの材料を用いた配管内や容器内に回収することができる。固気分離の際、レニウムの回収率を上げるためにフィルターを設置しても良い。冷却は、自然放冷、熱交換による方法等が挙げられるが、装置の簡略化の理由により自然放冷の方法を実施することが好ましい。
【0035】
100℃以下、好ましくは80℃以下に冷却することで酸化レニウムを完全に固化することができる。必要以上に低温にすると焙焼炉から酸化レニウムに一緒に流れてくる硫黄酸化物まで液化又は固化して回収されてしまうので、硫黄酸化物を完全に除外するためにはSO3の沸点以上である50℃以上の温度に冷却することが好ましいが、通常、発生する硫黄酸化物の形態はSO2となるのでSO2の沸点以上である常温(例:5〜30℃)まで冷却してもよい。
【0036】
なお、ガス化した酸化レニウムを湿式スクラバー等を用いて水冷しながら水中に溶解させることで過レニウム酸水溶液を直接得る方法も考えられるが、当該方法では酸化レニウムと一緒に硫黄酸化物までが水中に溶解するので、純度の観点では酸化レニウムを固化する方法よりも劣る。例示的には、酸化レニウムを水中へ溶解する方法だと、酸化レニウムを固化する方法に比べて、過レニウム酸水溶液中のS品位が5〜10倍程度増加する。
【0037】
(工程3)
工程3において、固化した酸化レニウムを水中に溶解させるか、又は、固化した酸化レニウムを加熱してガス化した後に水中に溶解させることで、過レニウム酸水溶液を得る。酸化レニウムは以下の反応式に従って過レニウム酸に転換すると考えられる。
Re27(s又はg)+H2O(l)→2HReO4(l)・・・(式2)
酸化レニウムは容易に水に解けるが、あまり水溶液中の濃度が高いと反応効率が落ちると考えられる。一方、濃度が低すぎると水使用量が増え、操業時のハンドリング性が悪化し、その後に濃縮工程が必要となる。そこで、酸化レニウムの水への投入量は50〜500g/Lが好ましく、150〜250g/Lがより好ましい。
【0038】
固化した酸化レニウムを固液接触させることで水中に溶解させる方法が簡便な方法であるが、固化した酸化レニウムを加熱して再度ガス化した後にスクラバー等で気液接触させて水中に溶解させる方法も可能である。但し、この方法だと未回収ロスが発生するので、前者の方法がより好ましい。
【0039】
過レニウム酸水溶液からは、公知の任意の方法により、過レニウム酸カリウムを製造することができ、更には過レニウム酸アンモニウムを製造することができる。例えば、過レニウム酸水溶液に水酸化カリウムを添加してpHを11〜13程度に調整することで、過レニウム酸カリウムを析出させ、固液分離によってこれを回収することができる。また、過レニウム酸カリウムは重く沈降しやすいので、浮上しやすい不純物を分離してから固液分離することが好ましい。また、水簸等によって純度を高めることもできる。過レニウム酸カリウムを水素等で還元することにより、レニウムメタルを製造することができる(例えば、特開昭62−124240号公報参照)。
【0040】
また、過レニウム酸水溶液にアンモニア水を添加してpHを7〜12程度に調整することで過レニウム酸アンモニウムを析出させ、固液分離することにより過レニウム酸アンモニウムを製造することができる。精製を繰り返すことにより、純度は更に高めることが可能である。精製方法としては例えば、純水への再溶解及び晶析を行う方法が挙げられる。中和後、固液分離する前に90〜105℃に加熱して濃縮することが好ましい。過レニウム酸アンモニウムを水素等で還元することにより、レニウムメタルを製造することができる(例えば、特開昭62−146227号公報参照)。
【実施例】
【0041】
以下、本発明の実施例を説明するが、実施例は例示目的であって発明が限定されることを意図しない。
【0042】
(焙焼条件が各成分のガス化率に与える影響の検討)
表1に記載の分析値を有する粗硫化レニウムを用意した。各成分の含有率は化学分析(ICP−OESにより分析した。)により測定した。
【表1】
【0043】
当該粗硫化レニウム500gに対して、種々のキルン炉雰囲気温度条件で120〜140分間焙焼を行い、その後、室温まで炉冷した。焙焼炉としてはキルン炉を使用し、酸素含有気体としては空気を使用した。何れの例も酸素当量は1.9〜2.2の範囲とした。また、所定温度(ここでは140℃とした。)まで空気を予熱してからキルン炉に供給する方が炉内雰囲気温度が安定し硫黄の揮発率が上昇する傾向にあることが分かった。試験後の残渣の重量を測定し、また、該残渣の化学分析を実施した。残渣の重量と各元素分析結果から各元素の含有量(g)を求め、試験前後の含有量(g)の差からガス化率を求めた。
焙焼時間はキルン炉内の雰囲気温度が所定の温度に到達してから冷却を開始するまでの時間である。酸素当量は、粗硫化レニウムに含まれるレニウム及び硫黄がRe27であるか、又は酸化物以外の形態で存在すると仮定し、全てのレニウムがRe27まで、及び全ての硫黄がSO3まで反応するまでの理論酸素当量を1として算出した。
その結果、キルン炉雰囲気温度が100℃以上200℃未満のときはReのガス化率は10%以上20%未満程度であり、キルン炉雰囲気温度が200℃以上のときは20%以上となり、キルン炉雰囲気温度が350℃以上のときは40%以上となった。Sのガス化率は、キルン炉雰囲気温度が100℃以上で10%以上であり、300℃以上で80%以上であった。そのため、Sの後工程における分離が重要であることが確認された。
なお、Zn及びBiのガス化率については、キルン炉雰囲気温度が600℃未満においては実質的に0%であった。
【0044】
(固気分離による効果の検証)
表2に記載の分析値を有する粗硫化レニウムを用意した。各成分の含有率は化学分析(ICP−OESにより分析した。)により測定した。
【表2】
【0045】
当該粗硫化レニウム531gに対して、表3−1に記載の条件で図1に記載の焙焼設備を用いて焙焼を行った。その後、室温まで炉冷した。焙焼炉としては管状炉10を使用し、酸素含有気体としては空気16を1.5L/minの流量で供給した。上記の例と同様に、Sガス化率、焙焼残渣中のS品位、Reガス化率、Znガス化率、Biガス化率を求めた。結果を表3−2に示す。
【0046】
【表3-1】
【0047】
【表3-2】
【0048】
次いで、ガス化した酸化レニウムを含む成分は300℃に保温した管状炉外部反応管保温部14においてガス化した状態で一定距離輸送した後、内壁が石英製の反応管13の保温されていない部分において冷却され固体状の酸化レニウム18として析出させた。なお、ガス温度は保温部からスクラバーに至る途中で室温(約30℃)まで冷却された状態であった。反応管を出たガスはスクラバー15にて硫黄酸化物を吸収しガスを無害化して排出した。酸化レニウム18が析出した反応管13を取り外し、常温の水を反応管13内に通液して酸化レニウムを溶解し、過レニウム酸水溶液を得た。得られた過レニウム酸水溶液中の各成分濃度を化学分析により(ICP−OESにより分析した。)測定し、粗硫化レニウム中の濃度を基準(100%)としたときの各成分の回収率を求めた。結果を表4−1及び表4−2に示す。
【0049】
【表4-1】
【0050】
【表4-2】
【0051】
得られた過レニウム酸水溶液に対して、アンモニウム水をpHが9になるまで添加して中和し、その後、固液分離することにより過レニウム酸アンモニウム(APR)の粉末を得た。過レニウム酸アンモニウムの分析結果を表5に示す。分析はGDMSにより行った。
【0052】
【表5】
【符号の説明】
【0053】
10 管状炉
11 試料
12 試料置場
13 反応管
14 反応管保温部
15 スクラバー
16 空気
17 排気
18 酸化レニウム
図1