(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5902613
(24)【登録日】2016年3月18日
(45)【発行日】2016年4月13日
(54)【発明の名称】超硬合金工具
(51)【国際特許分類】
C22C 29/08 20060101AFI20160331BHJP
B22F 1/00 20060101ALI20160331BHJP
C22C 1/05 20060101ALI20160331BHJP
C22C 19/07 20060101ALI20160331BHJP
C22C 19/05 20060101ALI20160331BHJP
B23B 51/00 20060101ALI20160331BHJP
B23B 27/14 20060101ALI20160331BHJP
【FI】
C22C29/08
B22F1/00 M
C22C1/05 H
C22C19/07 J
C22C19/05 D
B23B51/00 M
B23B27/14 B
【請求項の数】9
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-508429(P2012-508429)
(86)(22)【出願日】2010年4月26日
(65)【公表番号】特表2012-525501(P2012-525501A)
(43)【公表日】2012年10月22日
(86)【国際出願番号】SE2010000109
(87)【国際公開番号】WO2010126424
(87)【国際公開日】20101104
【審査請求日】2013年2月26日
(31)【優先権主張番号】0900559-6
(32)【優先日】2009年4月27日
(33)【優先権主張国】SE
(73)【特許権者】
【識別番号】507226695
【氏名又は名称】サンドビック インテレクチュアル プロパティー アクティエボラーグ
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100077517
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100087413
【弁理士】
【氏名又は名称】古賀 哲次
(74)【代理人】
【識別番号】100128495
【弁理士】
【氏名又は名称】出野 知
(74)【代理人】
【識別番号】100093665
【弁理士】
【氏名又は名称】蛯谷 厚志
(74)【代理人】
【識別番号】100144417
【弁理士】
【氏名又は名称】堂垣 泰雄
(72)【発明者】
【氏名】ステファン エデリド
【審査官】
市川 篤
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許第05773735(US,A)
【文献】
特開昭60−138042(JP,A)
【文献】
特開2006−037160(JP,A)
【文献】
特表2001−524885(JP,A)
【文献】
特開2000−319735(JP,A)
【文献】
特開平11−256207(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 29/00−29/18
C22C 1/05
B22F 1/00
B23B 27/14
B23B 51/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
WCならびにコバルトおよび/またはニッケルベースのバインダー相を含む超硬合金を、粉末冶金法による粉末のミリング、プレス、および焼結によって作製する方法であって、前記バインダー相粉末の25質量%超は、BETによる比表面積が3から8m2/gでスポンジ形状であり、および前記スポンジ形状粒子のフィッシャー空気透過装置による粒子サイズが1から5μmであることを特徴とする、方法。
【請求項2】
前記超硬合金が、バインダー相の総含有量が<8質量%、TiC+NbC+TaCが<5質量%、および残量が粒子サイズ<1μmのWCである超硬合金であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
バインダー相の総含有量が、0.8〜6質量%であることを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
バインダー相の総含有量が、1.5〜4質量%であることを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記超硬合金のWC粒子サイズが、<0.8μmであることを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
前記超硬合金のWC粒子サイズが、<0.5μmであることを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項7】
木材および木材系製造物の切断または切削加工のためのインサートとして、ならびにプリント基板ドリル加工用のドリルまたはバー(burrs)として、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法によって作製された超硬合金を使用する方法。
【請求項8】
線引加工用ダイスとして、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法によって作製された超硬合金を使用する方法。
【請求項9】
金属の切断または切削加工のためのインサートとして、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法によって作製された超硬合金を使用する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に、木材加工、プリント基板ドリル加工、および線引加工のための工具としての使用に対して、また金属切断作業のための工具としての使用に対しても非常に優れた特性を有する、WC‐Coベースの超硬合金に関する。
【背景技術】
【0002】
超硬合金体の製造は、一般に、WC、TiC、NbC、TaC、Ni、および/またはCoの粉末、ならびにプレス剤(pressing agent)(通常はワックスベース)を、ボールミル中にて湿式ミリングによって混合してスラリーとし、このスラリーをスプレー乾燥してすぐにプレスできる流動性粉末とし、これを圧縮して所望される形状および寸法の物体とし、続いてこれを焼結することによって行われる。
【0003】
一般に、CoまたはNiの粉末は、広い粒子サイズ分布を持ち、ウォーム様構造(worm like structure)の凝集粒子を有するものであり、
図1を参照されたい。この粉末の解凝集は、磨砕機ミリングによっても困難である。バインダー相の含有量が低い場合、これは、バインダー相の偏り(binder-phase lakes)および不均質なマイクロ構造を引き起こす可能性があり、結果として物理的および化学的特性の変動をもたらす。
【0004】
特許文献1に開示されるバインダー相粉末は、粒子凝集物を含む平均粒子サイズが0.5〜2μmであるほぼ球形状の粒子を主として有するものであり、
図2を参照されたい。この粉末は、比表面積(SSA)が小さく、このことも、低いバインダー相の含有量で均質な超硬合金構造を得る際の問題となる。
【0005】
別のバインダー相粉末は、特許文献2に開示されている。この粉末は、球形状で、粒子サイズがサブミクロンである粒子を有しており、
図3を参照されたい。超硬合金においてそのような粉末をバインダー相として用いることは、特許文献3に記載されている。そのような粉末を用いることで、バインダー相粒子の分散が良好となることにより、マイクロ構造がより均質となる。それによって、焼結後に存在するバインダー相の偏りの数が減少し、さらに、焼結温度を低下させ得る。
【0006】
小粒子サイズおよび/または低バインダー相含有量は、より高い硬度をもたらす。通常は、低焼結温度での低多孔度超硬合金を例とする最適な焼結性を得るためには、粒子サイズとバインダー相含有量との間で妥協に到達する必要がある。通常、非常に微細な粒子サイズの超硬合金の場合、WC粒子をバインダー相によって適切かつ均質に濡れた状態とするために、僅かにそれより粗い粒子サイズの超硬合金よりも高いバインダー相の含有量が必要となる。バインダー相のWC粒子上における濡れはまた、焼結前のバインダー相の分散および分布によっても影響を受けるものであり、大きな比面積を得るには、WC粒子は、非常に良好に解凝集および/または分離されている必要がある。超硬合金の作用を最適なものとするためには、マイクロ構造が可能な限り均質であることが重要である。
【0007】
非常に微細な粒子の超硬合金においてバインダー相の含有量が低い場合、微細過ぎて光学顕微鏡では観察できず、従ってISO4505が適用できない多孔度の観察が可能である。このナノサイズの多孔度は、走査電子顕微鏡(SEM)により、倍率5000倍の二次電子モードにて観察することができる。細孔サイズは、1μm未満である。ナノ多孔度を定量するためには、それぞれ1000μm
2の異なる5つの視野内にて、サイズが0.5から1μmの範囲の細孔の数をカウントする。
【0008】
そのような多孔度は、耐摩耗性にマイナスの影響を与える。この多孔度は、加圧下での焼結(焼結HIP)、または超硬合金のポストHIP処理(post-hipping)によって最小化することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許第6,346,137号
【特許文献2】米国特許第4,539,041号
【特許文献3】米国特許第5,441,693号
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】ウォーム様構造を有するCo粉末の走査顕微鏡イメージを示す図である。
【
図2】SSAの小さいほぼ球形状を有するCo粉末の走査顕微鏡イメージを示す図である。
【
図3】サブミクロンの粒子サイズおよび球形状を有するCo粉末の走査顕微鏡イメージを示す図である。
【
図4】本発明で用いられる、スポンジ形状の粒子であるCo粉末の走査顕微鏡イメージを示す図である。
【
図5】ナノ多孔度を示す超硬合金のマイクロ構造の走査顕微鏡イメージを示す図である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、特に微細WC粒子サイズおよび/または低バインダー相含有量にて、焼結性が向上された超硬合金を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の1つの局面では、粉末冶金法による粉末のミリング、プレス、および焼結によって、1もしくは2つ以上の硬質成分ならびにコバルトおよび/またはニッケルベースのバインダー相を含む焼結体を作製する方法を提供するものであり、ここで、バインダー相粉末の少なくとも一部は、3から8m
2/gの比表面積、および1から5μmのバインダー相粉末粒子の粒子サイズを有する。
【0013】
本発明の別の局面では、粉末冶金法による粉末のミリング、プレス、および焼結によって、1もしくは2つ以上の硬質成分ならびにコバルトおよび/またはニッケルベースのバインダー相を含む焼結体を作製する方法を提供するものであり、ここで、バインダー相粉末の少なくとも一部は、スポンジ形状であって3から8m
2/gの比表面積を有し、スポンジ形状粒子の粒子サイズは1から5μmである。
【0014】
本発明によると、炭化タングステン、ならびにNiおよび/またはCoベースのバインダー相を主体とする、焼結性が向上された超硬合金が提供され、これは、前記Niおよび/またはCo粉末が、適切に、その25%超まで、好ましくは50%、最も好ましくは75%までを1から5μmのフィッシャー粒子サイズ(Fisher grain size)および3から8m
2/gの比表面積/BETを有するスポンジ形状粒子で構成する場合に、硬質成分およびバインダー相を形成する粉末の粉末冶金法によるミリング、プレス、および焼結によって作製される。焼結性の向上は、焼結した超硬合金を、保護雰囲気下にて1370〜1410℃まで約1時間再加熱した後にナノ多孔度が実質的に変化しないことによって示される。
【0015】
本発明はまた、木材加工、プリント基板のドリル加工、および線引加工、またはさらには金属切断加工にも特に有用であり、ISO4505に従う多孔度がA00〜B00、上記で定めるナノ多孔度が<2.5細孔/1000μm
2である良好に分布したバインダー相を有する均質で稠密なマイクロ構造を持つ超硬合金にも関する。保護雰囲気下にて1370〜1410℃で約1時間の熱処理を行った後、ナノ多孔度は、3細孔/1000μm
2未満まで多少上昇する。
【0016】
好ましくは、バインダー相の総含有量は<8質量%であり、好ましくは0.8〜6質量%、より好ましくは1.5〜4質量%、より好ましくは1.5〜<3質量%、最も好ましくは1.5〜2.9質量%である。
【0017】
好ましくは、バインダー相の総含有量は<8質量%であり、好ましくは0.8〜6質量%、最も好ましくは1.5〜4質量%であり、5質量%までが、TiC+NbC+TaCであり、残りがWCである。焼結されたWCの平均粒子サイズは、好ましくは<1μmであり、より好ましくは<0.8μmである。
【0018】
第一の態様では、バインダー相の組成は、40から80質量%のCo、好ましくは50から70質量%のCo、最も好ましくは55から65質量%のCo、最大15質量%のCr、好ましくは6から12質量%のCr、最も好ましくは8〜11質量%のCr、残りがNi、好ましくは25から35質量%のNiである。
【0019】
第二の態様では、超硬合金は、1.5から2.0質量%のCo、0.4〜0.8質量%のNi、および0.2〜0.4質量%のCr、残量の平均焼結WC粒子サイズが<0.8μmである炭化タングステンから成る。
【0020】
超硬合金は、本技術分野で公知のコーティングを備えていてよい。
【0021】
本発明はまた、
‐ 木材および木材系製造物、特にチップボード、パーティクルボード、および中密度または高密度ファイバーボード(MDF/HDF)の切断および切削加工のための鋸チップまたはインサート、
‐ 冷間成形作業のための線引加工用ダイスまたは工具、
‐ プリント基板用ドリルおよびバー(burrs)、または、
‐ 金属の切り屑生成切削加工(chipforming machining)用のコーティング有りまたは無しのインサート、
としての、上記に従う超硬合金の使用にも関する。
【実施例】
【0022】
実施例1
ミリングカッター用のインサートを、以下の合金A〜Dより作製した。これらのインサートは、焼結工程の間、1410℃、圧力6MPaにて、従来の製造経路に従い、焼結HIP炉中で焼結した。
【0023】
本発明に従う第一の超硬合金(A)は、1.9質量%のCo、0.7質量%のNi、および0.3質量%のCr、残量のFSSSによる平均粒子サイズが0.5μmである炭化タングステン、から成る。市販のCoおよびNi粉末は、FSSS(フィッシャー空気透過装置(Fisher Subsieve Sizer))による粒子サイズが1.5μmおよびBETによる比表面積が4m
2/gであるスポンジ構造を有しており、
図4を参照されたい。
【0024】
第二の超硬合金(B)は、Aと同じ組成、同じWC粒子サイズを有する。この場合は、FSSS粒子サイズが0.7μm、BET比表面積が2m
2/gである球形状のポリオールCoおよびNi粉末を用いたものであり、
図3を参照されたい。
【0025】
第三の超硬合金(C)は、Aと同じ組成、同じWC粒子サイズを有する。この場合、用いたCoおよびNi粉末は、超硬合金作製における工業的標準であるヒドロキシドから作製した。FSSS粒子サイズは0.9μmであり、BET比表面積は2m
2/gであり、
図1を参照されたい。
【0026】
第四の超硬合金(D)は、Aと同じ組成、同じWC粒子サイズを有する。この場合、用いたCoおよびNi粉末は、カルボニル分解プロセスから作製した。FSSS粒子サイズは0.9μmであり、BET比表面積は1.8m
2/gであり、
図2を参照されたい。
【0027】
本発明に従う第五の超硬合金(E)は、1.9質量%のCo、0.7質量%のNi、および0.3質量%のCr、残量のFSSSによる平均粒子サイズが0.5μmである炭化タングステン、から成る。市販のNi粉末は、FSSS(フィッシャー空気透過装置)による粒子サイズが1.5μmおよびBETによる比表面積が4m
2/gであるスポンジ構造を有していた。Co粉末は、FSSSによる粒子サイズが0.7μmおよびBETによる比表面積が2m
2/gである球形状のポリオールCo粉末であった。スポンジ形状のバインダー相粉末の比率は、従って、約27質量%であった。
【0028】
インサートは、密度、硬度、多孔度、およびナノ多孔度に関して、冶金学的分析を行った。ナノ多孔度は、走査電子顕微鏡により、倍率5000倍の二次電子モードにて測定し、上記で定めるように、1000μm
2あたりの細孔数として報告する。平均焼結WC粒子サイズは、電界放出銃を備えた走査電子顕微鏡(FEG‐SEM)から得られた顕微鏡写真から測定した。評価は、半自動装置を用い、形状効果を考慮に入れて行った。
【0029】
【表1】
【0030】
合金A、B、およびDに対して、アルゴン雰囲気下、1400℃における1時間の熱処理を行った。冶金学的検査により、断面領域から異なるレベルのナノ多孔度が得られた。合金Aの表面および塊からの倍率5000倍でのFEG‐SEM写真より、2.5細孔/1000μm
2が得られた。合金Bは、20細孔/1000μm
2を示した。合金Dは、20細孔/1000μm
2超を示した。
【0031】
実施例2
実施例1からの3つの同一の刃先交換式インサート(indexable inserts)を有するサイドカッターφ125mmにより、HDFタイプのファイバーボードを切削加工することを含む試験。切断スピードは4500rpmまたは29m/秒とし、フィード速度は10m/分、切断深さは2mmとした。エッジラインの磨耗の尺度として、2000mおよび10000mの距離の後にエッジ部半径を測定し、以下の結果を得た:
【0032】
【表2】
【0033】
試験結果より、本発明に従って作製されたインサートAの磨耗は、最も良い結果の先行技術であるBと比較して、33%超減少していることが明らかである。
【0034】
実施例3
実施例1からの超硬合金A、B、およびCの線引加工用ダイスによる線引加工試験を行った。ダイスは、研削および研磨を同時に行った。試験の実施は、スチールワイヤ:AISI1005の線引加工について、生産用線引機にて行った。ダイスは、同一の動作条件下にて次々に線引加工を行った。各異組成物から3つずつのダイスを線引加工試験に用いた。
動作条件:
線引速度: 25m/秒
ダイスの入口径: 0.26mm
ダイスの内部プロファイル: 2アルファ=10°、ベアリング0.15×d1(0.23×0.15mm)
【0035】
ダイスの同心度を、40および80km後に測定した。線引チャネル断面の磨耗プロファイルを、Wyko光学プロフィルメーターで測定した。
【0036】
同心度の結果
すべてのダイスについて、ワイヤの挿入径から、超硬合金の接触領域にて磨耗リングが観察された。
【0037】
【表3】
【0038】
異組成物Bは、80km後、3つのダイス間で不均一な楕円化を示した。ダイスの1つは、0.120mmの楕円化であった。
【0039】
Wykoプロフィルメーターからの磨耗結果
線引チャネルの光学スキャンを、ダイスのチャネルに沿う方向およびチャネルを横切る方向で行った。
【0040】
【表4】
【0041】
磨耗(Ra値)の相違は、特に異組成物Cにおいて、磨耗平面におけるWC粒子の顕著なピット形成によって説明される。本発明に従って作製されたダイスは、平滑性が高く変化のない磨耗表面を有し、同心度および磨耗挙動に関して最良の性能結果を示した。
【0042】
実施例4
鋸引き加工への適用
アルミニウム合金JIS AC2Bの棒および管の鋸引き加工では、構成刃先(BUE)の問題およびカットエッジラインにおける超硬合金粒子のピット形成の問題が生ずる。合金JIS AC2Bは、SiおよびCuの高い含有量を特徴とする。本適用で用いる超硬合金のグレードは、従って、バインダー相の含有量が低く、耐摩耗性の高いものを選択する。
【0043】
乾式鋸引き加工試験を、実施例1に従うグレード組成により実施した。この鋸引き加工への適用において、グレードDは、市販品グレードであり、本発明に従うグレードA、およびグレードBを、200×20mmのサイズの長方形断面を有する中実アルミニウム棒(JIS AC2B)の鋸引き加工試験に用いた。この試験では、300mmのOD、およびSW167タイプの鋸チップ48個を有する丸鋸(サンドビック(Sandvik))を選択した。
【0044】
鋸チップのカットエッジを高い鋭利度に研磨し、切断加工試験前にダイヤモンドのヤスリで軽いエッジ処理を行った。
切断条件:
切断速度: 80m/秒
フィード速度: 40mm/秒
レーキ角: 15°
逃げ角: 6°
【0045】
切断工程を、切断力を測定することで評価した。切断長がそれぞれ10mおよび100mのところでエッジの磨耗を測定した。
【0046】
切断は、潤滑剤(合成エステル)を噴霧し、乾式切断で行った。
【0047】
【表5】
【0048】
注: 鋸BおよびDによる切断工程の場合、100mの後、アルミニウム棒の切断表面は、その表面粗さがRy>6μmと鈍く、認められるものではなかった。本発明によると、表面粗さはRy=2μmであった。
【0049】
100mにおける切断力は、鋸Aと比較して、鋸BおよびDでは、ほぼ2倍高かった。
【0050】
鋸チップの磨耗は、WCの断片化、および断片/屑の炭化物骨格からの除去に起因する、マイクロおよびマクロ摩滅を特徴とするものであった。本発明に従う鋸は、先行技術と比較して、良好なエッジの保持および高い耐磨耗性を特徴とするものであった。
【0051】
実施例5
プリント回路基板(PCB)のマイクロドリル加工のシミュレーションである旋削試験(turning test)を考案した。
【0052】
20〜30枚のディスクの積重物をPCBパネルから切り出し、旋盤のチャック中でこの後に回転させるアーバに搭載した。マイクロドリルのそれと密接に一致するレーキ角および逃げ角を持つ特別に研磨された非常に鋭利な刃を持つ工具ビットを用い、二枚刃マイクロドリル(twin edged microdrills)で通常用いられる送り量の50%にて積重物の外径を旋削する。積重物の径および厚さは、通常の深さ、0.3mmの径である5000のドリル加工穴におよそ対応するヘリカルドリル加工距離(helical drilled distance)を表すように選択する。
【0053】
本旋削試験で見られた磨耗の度合いは、実際のPCBマイクロドリル加工試験で見られるものと良好に一致することが示された。
【0054】
実施例1の本発明に従う超硬合金(A)は、上述の旋削試験において、確立されたPCB切削加工グレードと比較して、良好な耐摩耗性を有することが見出された。研削速度100m/分、送り量0.010mm/回転、および研削深さ0.25mmにて、超硬合金(A)は、1260mのヘリカル研削距離にわたる逃げ面磨耗幅が36μmであることが分かった。
【0055】
比較として、通常の6%コバルト、0.4μm炭化タングステンのPCB繰り抜き用グレード(PCB routing grade)の逃げ面磨耗幅は46μmであった。
【0056】
研削速度200m/分にて、送り量および研削深さは同一のものを用いたが、ヘリカル加工距離が1250mの場合、逃げ面磨耗幅は、従来の6%コバルトグレードの37μmと比較して、超硬合金(A)は32μmであった。
【0057】
高い研削速度400m/分にて、やはり同一の送り量および研削深さを用い、ヘリカル加工距離が1230mの場合、逃げ面磨耗幅は、従来の6%コバルトグレードの36μmと比較して、超硬合金(A)は28μmであった。上記の試験すべてにおいて、エッジのチッピングは発生しなかった。
【0058】
また、超硬合金(A)と、3%コバルトおよび0.8μm粒子サイズの先行技術に従うWC‐Coグレードとの比較も行った。
【0059】
研削速度100m/分、送り量0.010mm/回転、および研削深さ0.25mmにおいて、3%コバルトグレードは、1260mのヘリカル加工距離の研削後、不規則な逃げ面磨耗を示し、最大幅は73μmであった。このグレードでは、硬度が不十分であることに起因するエッジのマイクロチッピングが見られた。
【0060】
グレード(A)は、バインダー相含有量が低いにも関わらず、本試験においてエッジのマイクロチッピングがなく、上述のように36μmの均一な逃げ面磨耗幅を示した。
本発明の実施態様の一部を以下の項目[1]−[16]に記載する。
[1]
1もしくは2つ以上の硬質成分ならびにコバルトおよび/またはニッケルベースのバインダー相を含む焼結体を、粉末冶金法による粉末のミリング、プレス、および焼結によって作製する方法であって、前記バインダー相粉末の少なくとも一部は、比表面積が3から8m2/g、および粒子の粒子サイズが1から5μmであることを特徴とする、方法。
[2]
前記バインダー相粉末の少なくとも一部が、スポンジ形状であって3から8m2/gの比表面積を有し、前記スポンジ形状粒子の粒子サイズは1から5μmであることを特徴とする、項目1に記載の方法。
[3]
前記焼結体が、バインダー相の総含有量が<8質量%、TiC+NbC+TaCが<5質量%、および残量が粒子サイズ<1μmのWCである超硬合金であることを特徴とする、項目1または2に記載の方法。
[4]
バインダー相の総含有量が、0.8〜6質量%であることを特徴とする、項目3に記載の方法。
[5]
バインダー相の総含有量が、1.5〜4質量%であることを特徴とする、項目3に記載の方法。
[6]
前記焼結体のWC粒子サイズが、<0.8μmであることを特徴とする、項目3に記載の方法。
[7]
前記焼結体のWC粒子サイズが、<0.5μmであることを特徴とする、項目3に記載の方法。
[8]
ISO4505に従う多孔度がA00〜B00であるCoおよび/またはNiベースの良好に分布したバインダー相中に、硬質成分の均質で稠密なマイクロ構造を有する超硬合金であって、ナノ多孔度が2.5細孔/1000μm2未満であることを特徴とする、超硬合金。
[9]
保護雰囲気下、1370〜1410℃における約1時間の熱処理後のナノ多孔度が、3細孔/1000μm2未満であることを特徴とする、項目8に記載の超硬合金。
[10]
バインダー相の含有量が、<3質量%であることを特徴とする、項目8または9に記載の超硬合金。
[11]
バインダー相の含有量が、<8質量%であり、残量が、平均粒子サイズ<1μmのWCであることを特徴とする、項目8または9に記載の超硬合金。
[12]
前記バインダー相の組成が、40から80質量%のCo、最大15質量%のCr、残量Niであることを特徴とする、項目8または9に記載の超硬合金。
[13]
前記超硬合金が、約1.9質量%のCo、約0.7質量%のNi、および約0.3質量%のCr、残量の平均WC粒子サイズが<0.8μmである炭化タングステン、から成ることを特徴とする、項目8または9に記載の超硬合金。
[14]
木材および木材系製造物、特にチップボード、パーティクルボード、および中密度または高密度ファイバーボードの切断または切削加工のためのインサートとして、ならびにプリント基板ドリル加工用のドリルまたはバー(burrs)として、項目8〜13のいずれか一項に記載の超硬合金を使用する方法。
[15]
線引加工用ダイスとして、項目8〜13のいずれか一項に記載の超硬合金を使用する方法。
[16]
金属の切断または切削加工のためのインサートとして、項目8〜13のいずれか一項に記載の超硬合金を使用する