特許第5902721号(P5902721)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許5902721-有機被覆物加熱方法 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5902721
(24)【登録日】2016年3月18日
(45)【発行日】2016年4月13日
(54)【発明の名称】有機被覆物加熱方法
(51)【国際特許分類】
   B05D 3/06 20060101AFI20160331BHJP
   C03C 17/32 20060101ALI20160331BHJP
【FI】
   B05D3/06 Z
   C03C17/32 C
【請求項の数】15
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2013-554928(P2013-554928)
(86)(22)【出願日】2012年2月21日
(65)【公表番号】特表2014-511268(P2014-511268A)
(43)【公表日】2014年5月15日
(86)【国際出願番号】FR2012050365
(87)【国際公開番号】WO2012114038
(87)【国際公開日】20120830
【審査請求日】2015年1月14日
(31)【優先権主張番号】1151576
(32)【優先日】2011年2月25日
(33)【優先権主張国】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】500374146
【氏名又は名称】サン−ゴバン グラス フランス
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100077517
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100087413
【弁理士】
【氏名又は名称】古賀 哲次
(74)【代理人】
【識別番号】100093665
【弁理士】
【氏名又は名称】蛯谷 厚志
(74)【代理人】
【識別番号】100128495
【弁理士】
【氏名又は名称】出野 知
(74)【代理人】
【識別番号】100111903
【弁理士】
【氏名又は名称】永坂 友康
(72)【発明者】
【氏名】マチュー ビレーヌ
(72)【発明者】
【氏名】バンサン ラシェ
【審査官】 平井 裕彰
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許第03743777(US,A)
【文献】 国際公開第2010/139908(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05D 1/00〜 7/26
C03C15/00〜23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の基材に適用された有機被覆物を加熱するための方法であって、有機被覆物にレーザー放射線を当てながら基材を停止することなく走行させること、前記基材の走行方向を実質的に横断して位置するラインでもって前記レーザー放射線を当てること、及び前記レーザー放射線を前記基材の幅全体に実質的に照射するラインを形成する少なくとも1つのレーザー光線から得ることを特徴とする有機被覆物加熱方法。
【請求項2】
前記ラインの太さが0.01mmと1mmの間であることを特徴とする、請求項記載の方法。
【請求項3】
前記基材と被覆物との界面から0.5mmの深さにおいて前記基材の温度が100℃より高くならないことを特徴とする、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
前記レーザー放射線の波長が266〜11000nm、特に530nmと1200nmの間であることを特徴とする、請求項1〜の1つに記載の方法。
【請求項5】
前記被覆物の前記レーザー放射線の波長における吸収率が20%以上であることを特徴とする、請求項1〜の1つに記載の方法。
【請求項6】
前記基材の走行速度が1〜20m/分であることを特徴とする、請求項1〜の1つに記載の方法。
【請求項7】
前記レーザー放射線の焦点を合わせ、当該放射線の焦点平面を前記被覆物から1mm以下の距離に位置させることを特徴とする、請求項1〜の1つに記載の方法。
【請求項8】
前記被覆物の加熱前の厚さが1μmと200μmの間であることを特徴とする、請求項1〜の1つに記載の方法。
【請求項9】
前記レーザー放射線の出力が20kW/cm2以上であることを特徴とする、請求項1〜の1つに記載の方法。
【請求項10】
前記基材がガラス板を含むことを特徴とする、請求項1〜に記載の方法。
【請求項11】
前記基材が鏡であることを特徴とする、請求項1〜10の1つに記載の方法。
【請求項12】
前記基材が2〜8mmの厚さであることを特徴とする、請求項1〜11の1つに記載の方法。
【請求項13】
前記被覆物が塗料の被膜であることを特徴とする、請求項1〜12の1つに記載の方法。
【請求項14】
前記塗料がアルキド、アクリル又はポリウレタン塗料であることを特徴とする、請求項13記載の方法。
【請求項15】
前記基材が1m以上の寸法を少なくとも1つ有することを特徴とする、請求項1〜14の1つに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材上の塗料の分野に関し、有機又は水系溶媒を含む塗料又はインクに特に適したレーザー乾燥及び/又は焼付け方法を記載するものである。
【背景技術】
【0002】
現在は、平らな又は水平に対してわずかに傾いた(sin(角度/垂直)>0.95)基材に液体又は粉体の塗料又はインクを塗布するための様々な方法が利用可能であり、特にローラー塗装法、カーテン塗装法、及びスプレー又は静電スプレー塗装法が利用可能である。
【0003】
塗料はその後、オーブン又は炉で乾燥及び/又は焼付けされる。現在のところ、この乾燥及び/又は焼付け作業を行うための3つの主要な方法、すなわち空気乾燥、オーブン乾燥/焼付け、及びUV硬化が利用可能である。塗料で塗装を施した基材が乾燥又は焼付けオーブン又は炉を走行する速度は、例えばガラス基材の場合の数m/分から輪転機の場合の1km/分までの範囲に及ぶことがある。
【0004】
空気乾燥の方法は、非常にゆっくりであり(数時間の待機時間が必要とされる)、そして速乾性の(焼付けなしの)塗料を使用することに制限される。
【0005】
オーブン乾燥/焼付けの方法は、現在のところ工業的に最も広く使用されている。近/中赤外線を使用するオーブンによるならば、これらの設備は、基材の走行速度と求められる焼付け時間とに依存して長さが数十メートルのオーブンを必要とする。
【0006】
非常に少量の溶媒を使用する方法によるならば、紫外線硬化と呼ばれる焼付け技術は純粋に光化学的方法であり、この方法では塗料を硬化させるためにそれに紫外線を照射する。この方法は、オーブン加熱/焼付けで可能であるよりも大きな処理能力を可能にするが、特にそれは大量のオゾン、アクリレート類及びフリーラジカルを製造ゾーンで発生させるので、環境問題を引き起こす。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、レーザー放射線の強力な光線(それはもちろんこのタイプの光線がいくつかあることを除外しない)の出力をオーブン法を対象とする従来からの塗料又はインクと組み合わせることを提案する。本発明は特に、面積が大きな、とりわけ1〜25m2の範囲の面積を有する、塗装された基材の熱処理に適している。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、複数の基材に適用された有機被覆物を加熱するための方法に関するものであり、レーザー放射線を有機塗料に当てながら基材を停止させずに通過させるものである。
【0009】
被覆物は、本発明によるレーザーでの処理の前に少なくとも1種の有機化合物を含む限りは、有機である。例えば、鏡の裏面を保護するために広く使用される塗料の被膜は、有機溶媒又は有機樹脂を含有しているので、有機の被覆物である。被覆物は有機顔料を含んでいてもよい。本発明による方法での処理後に、被覆物は一般になおも有機化合物を含む。
【0010】
本発明は、ガラス基材に、例えば鏡の裏面などに、特に後者の場合は銀の膜を腐食から保護することを目的として、塗布された塗料の被膜を乾燥又は焼付けるのに特に好適である。
【0011】
本発明によるレーザー処理は更に、徐冷又は熱強化処理とは対照的に、基材を大幅に加熱しない点で注目に価する。従って、塗装された基材を切断及び保管する前にゆっくりと制御して冷却することを必要としない。この方法はまた、加熱装置を既存の連続生産ラインに、とりわけ、微量の水分を除去ずるために銀膜の予熱ゾーンを含むことがある鏡を製造するためのラインに、統合することも可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明による方法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
基材は特に、ガラス板、ガラス−セラミックシート、又は有機ポリマー製のシートであってもよく、あるいはそれらを含んでいてもよい。鏡の用途の場合には、それは透明であるのが好ましい。それは無色であってもよく(この場合それは透明ガラス又は超透明ガラスの板である)、あるいは着色されていてもよく、例えば青色、緑色、灰色又はブロンズ色に着色されていてもよい。ガラスはソーダ石灰シリカガラスであるのが好ましいが、ホウケイ酸ガラス又はアルミノホウケイ酸ガラスであってもよい。好ましい有機ポリマーはポリカーボネート又はポリメチルメタクリレート、あるいはポリエチレンテレフタレート(PET)である。基材は、1m、更には2m、そして更には3mに等しいかそれより大きい寸法を少なくとも1つ有することができる。基材は一般に厚さが0.5〜20mmであり、鏡用途の場合について言えば厚さが特に0.7〜9mm、とりわけ2〜8mm、更には4〜6mmである。基材は平らであってもあるいは湾曲していてもよい。それは硬質であっても軟質であってもよい。
【0014】
ガラス製である場合、基材は一般にフロートガラスで、すなわち溶融したスズの浴(「フロート」浴)上に溶融ガラスを流し込むものである方法により得られた可能性の高いガラスで製作される。この場合、処理する被覆物は基材の「スズ」側かあるいは「空気」側のいずれかに配置することができる。「空気」側、「スズ」側という表現は、それぞれ、基材のフロート浴上方の空気と接触していた側、溶融スズと接触していた側を意味するものと理解される。スズ側は、ガラスの構造中に拡散した表面のスズを少量含有している。ガラス基材はまた、2つのローラー間での圧延により得ることもでき、この方法は特にガラスの表面に模様を刻みつけるのを可能にする。
【0015】
本発明によれば、基材は特に、有機溶媒を含む、又は水で希釈した、又は水溶性の塗料又はインク(少なくとも1種の特にナノ粒子の形をした顔料を含む、又は少なくとも1種の有機染料を含む)で塗装したガラス基材であることができる。本発明は、アルキド、アクリル及びポリウレタンインクと塗料に特に好適であるが、それらに限られるものではない。本発明による方法を使用して到達することができる温度範囲は、尿素/ホルムアルデヒド、エポキシ又はイソシアネートの硬化機構を基にした技術に特に好適であるが、それらに限られるものではない。
【0016】
熱処理は、レーザー放射線の少なくとも1つの光線を使って行われる。被覆物の単位面積当たりのレーザー放射線出力は、好ましくは20kW/cm2以上、更には30kW/cm2以上である。この非常に高いエネルギー密度は、被覆物が所望の温度に非常に素早く(一般に1秒以下の時間で)達するのを可能にし、従って処理時間が相応して制限され、更に発生した熱が基材へ拡散する時間がないことを可能にする。
【0017】
本発明による方法に付随する非常に高い熱交換係数のために、被覆物から0.5mmのところに位置する(特にガラスの)基材の部分でさえ、一般に100℃より高い温度にはならない。従って、基材は一般に、基材/被覆物界面から0.5mmの深さにおいて100℃より高い温度にはならない。
【0018】
本発明による方法に付随するレーザーラインの出力の非常に高い均一性のために、当該出力のそのラインに沿っての変動はたかだか5%に過ぎず、更にはたかだか1%に過ぎず、被覆物は温度が均一であり、そしてこれは塗料又はインクを欠陥の発生なしに乾燥又は焼付けることを可能にする。
【0019】
本発明による方法は連続法であり、所望の領域、一般には全面を処理するのを可能にするために、塗装された基材とレーザー加熱手段とを相対的に移動させる。
【0020】
レーザー放射線は、波長が266nmと11000nmの間、特に530nmと1200nmの間にあるのが好ましい。これは、この波長範囲において被覆物(塗料又はインク)における吸収が最大になるからである。従って、放射線は特に被覆物によって吸収され、基材にはほとんど吸収されず、それにより基材を加熱することなしに被覆物を急速に加熱するのを可能にする。
【0021】
本発明によるレーザー熱処理以前の被覆物(塗料又はインク)のレーザー放射線の波長での吸収率は、垂線方向(塗装された基材に垂直)の透過の場合に10μmの特性被覆厚さについて20%以上が好ましく、特に30%が好ましい(吸収率=100%−透過率−反射率、ここで透過率と反射率は、例えばLambda 900スペクトロメータを使用して、被覆物/基材の集成体で測定される)。それとは対照的に、ガラスは、特にそれが透明又は超透明ガラスの場合に、この波長範囲での吸収がごくわずかであり、よって放射線は被覆物を主として加熱する。吸収率は、被覆物を通過する透過率と被覆物からの反射率とを100%から差し引いたものに等しいと定義される。
【0022】
レーザーダイオード、例えば約808nm、880nm、940nm、更には980nm又は1032nmで発光するもの、を使用するのが好ましい。ダイオードのシステムを用いて非常に高い出力を得ることができ、これらのシステムは20kW/cm2より高い、更には30kW/cm2より高い単位面積当たりの出力を、処理しようとする被覆物において得るのを可能にする。
【0023】
方法の実施をより簡単にするために、本発明に関連して使用するレーザーはファイバー化してもよく、すなわちレーザー放射線(任意の利得媒質、すなわち気体、液体、固体媒質、を使って生じさせる)を光ファイバー中へ投入し、その後処理しようとする表面の近くに集束レンズを通して供給する。とりわけ、増幅媒体(すなわち利得媒質)はそれ自体が光ファイバーであり、一般に希土類イオンをドープされたものであるという意味において、レーザーはファイバーレーザーであることができる。
【0024】
レーザー放射線は、処理しようとする被覆物で被覆された基材の幅全体を同時に照射するライン(以下において「レーザーライン」と称する)を形成する少なくとも1つのレーザー光線から得ることができる。この実施形態は、一般に大型であり保守管理しにくい高価な移動装置を使用する必要をなくす。ライン形のレーザー光線は、特に、収束用の光学素子を備えた高出力レーザーダイオードのシステムを使って得ることができる。ラインは太さが0.01mmと1mmの間であるのが好ましい。ラインの長さは、処理しようとする基材の幅に合わされ、一般には5mmと4mの間の長さである。ラインの(その幅における)強度は、特にガウス型又はシルクハット型のプロファイルを有することができる。
【0025】
一般に、レーザー放射線は基材の走行方向を実質的に横断するラインで適用される。
【0026】
基材の幅の全部又は一部を同時に照射するレーザーラインは、単一のラインで構成されてもよく(この場合基材の幅全体を照射する)、あるいは複数の、所望に応じ切り離されたラインで構成されてもよい。複数のラインを用いる場合は、加熱しようとする被覆物の領域全体を処理するようにそれらを配置するのが好ましい。レーザーラインは、基材の走行方向に斜めに配置してもよいが、基材の走行方向に垂直に配置するのが好ましい。複数のレーザーラインの場合は、レーザーラインは基材を同時に処理してもよく、あるいは時間的にずれたやり方で処理してもよい。実際のところは、基材を同時に処理するために種々のレーザー光線を同じ箇所に物理的に集中させるか、あるいは基材が走行中にその所定の幅を順々に処理するためそれらを空間的にずらせる。一番重要なことは、処理すべき領域全体を処理することである。
【0027】
被覆物の領域全体を連続して処理するためには、一方では被覆物で被覆された基材と、そして他方ではレーザーラインとを、相対的に移動させる。例えば、レーザー処理しようとする被覆物で被覆された基材を移動させることができ、特に、静止したレーザーラインの一般には下を、とは言え所望に応じ上を、平行に向き合わせて、走行させることができる。基材の速度とレーザーの速度との差は、処理速度を大きくするために、1m/分、又は4m/分、更には6、8、10又は20m/分以上であることが好ましい。一般に、基材の走行速度は1〜20m/分である。
【0028】
基材は、任意の機械的輸送手段を使用して、例えばコンベヤーベルト、ローラー、又はトレイを使って、平行に移動させることができる。この輸送システムは移動速度を制御及び調整するのを可能にする。基材が軟質の有機材料製、一般的に言えばPVC又はPTFEなどのポリマー製である場合は、一連のローラーを含むフィルム輸送装置を使って移動させることができる。
【0029】
レーザーを、基材からの距離を調整するように移動させてもよく、これは基材が湾曲している場合に特に有効であるが、そのような場合だけに有効なわけではない。実際、レーザー光線を処理しようとする被覆物に集中させるのが好ましく、そのために被覆物は焦点面から1mm以下の距離に位置させるようにする。理想的には、被覆物は焦点面と同一空間を占める。基材を移動させるため又はレーザーを移動させるための装置が基材と焦点面との距離に関して十分に精密でない場合には、レーザーと基材との距離を調整できることが好ましい。この調整は自動式でよく、特に処理の上流側で測定した距離を使って制御することができる。
【0030】
基材の表面を適切に照射できることを条件に、基材とレーザーとの全ての相対的な配置が可能である。より一般的には、基材は水平に配置されるが、垂直に配置してもよく、あるいは任意の可能な傾斜角で配置してもよい。基材を水平に配置する場合は、レーザーは一般に基材の上面を照射するように配置される。
【0031】
ライン形のレーザーを、ラッカー塗料を塗布したガラス又は鏡、特にソーラーミラーを製造するためのラインに組み込んでもよい。
【0032】
鏡用途の場合には、ライン形レーザーは銀めっき工程後の製造工程に設置し、それは例えば、塗料の被覆物の被着前に又はこの被覆物の被着直後にガラスを予熱するための構成機器として働く。こうして、被覆された基材を、処理しようとする被覆物(インク又は塗料)を被着した後のラインにおいて、被着設備の出口において光学モニター装置より前で、あるいは光学モニター装置の後且つ基材を積み重ねるための装置の前で、処理することができる。
【0033】
レーザーライン、例えば図1に示したようなレーザーラインは、厚さが一般に1μmと200μmの間の被覆物(インク又は塗料)を本発明によるレーザー処理(すなわち加熱作業)の前に極めて速やかに加熱するのを可能にする。オーブンでの焼付けに用いられるインク及び塗料は本来的に赤外線を非常によく吸収し、従って一般に266nmから11000nmに及ぶ波長範囲で発光するレーザーが放射源と塗料の被覆物との間のエネルギーの最適な移動を可能にする。
【0034】
本発明によるレーザー加熱方法は特に、4つの主要作業様式で、すなわち乾燥、急速の昇温、焼付け、又は粉末塗料使用の様式で、使用することができる。
・乾燥様式:この場合はレーザー照射が、蒸発させるべき溶媒の気化潜熱(L)に相当する量のエネルギーを非常に素早く移動させるのを可能にし、この場合大きな流量の空気が溶媒蒸気の抜き出しを確保する。
・急速の昇温:乾燥後、被覆物(塗料又はラッカー又はインク)はその赤外線吸収特性を保持しており、従ってレーザー処理が、乾燥した被覆物の温度をその後の焼付けオーブンでの焼付けを目的として急速に上昇させるのを可能にし、乾燥自体は炉で行い、あるいは本発明による処理を利用して行うことができ、乾燥後に本発明によるレーザー熱処理を行う。
・焼付け:被覆物を焼付け温度より高い温度に十分な時間、すなわち一般に数秒から数分間保持することがここでの問題であり、この場合特に2つの有力な処理、すなわち、
・複数のレーザーラインを相次いで使用して被覆物の温度を焼付けの限界値より高く十分な時間保持すること、
・処理すべき表面をレーザー(単数又は複数)でスウィープすること、
が可能である。
・粉末塗料:粉末塗料の塗布はレーザーバンクによる単一の処理を利用して粉末を溶融させその後それを固化させることを可能にする。
【0035】
本発明によるレーザー処理は、主に被覆物を加熱しながら基材の加熱を最小限にするのを可能にする。これは、被覆物を処理するのに必要とされる総エネルギーを減少させ及び/又は処理能力を増大させるのを可能にする。
【0036】
特に、本発明による方法は、内装ミラー又はソーラーミラーのための塗料を乾燥又は焼付けるのに使用することができ、そしてまたラッカーを塗布したガラス板の塗料の仕上げをするのにも使用することができる。本発明による方法は、乾燥又は焼付けオーブンの長さを短縮するのに有利に使用してもよい。
【0037】
本発明によるレーザー処理を利用して被覆物から可燃性の有機物質(例えば溶媒)を除去する場合には、被覆された基材の上方で空気などのガスを使って十分な希釈と対流を確実に行わせて燃焼又は爆発の危険を制限することができる。
【0038】
本発明による方法を実施するためには、次に掲げるパラメーター、すなわち、
P[W/m2]:レーザー放射線の出力密度、
l[m]:レーザー光線の幅(すなわちレーザーラインの太さ)、
L[m]:レーザー光線又は一組のレーザー光線の長さ、
e:レーザー処理前の被覆物の厚さ、
ρ:被覆物を乾燥させる(溶媒の蒸発)か焼付ける(溶媒の蒸発なし)かに応じてそれぞれ湿潤又は乾燥被覆物の密度、
τ:レーザー処理前の被覆物の溶媒含有量、
α:レーザー処理前の被覆物の吸収係数、
Cp[J/kg/K]:レーザー処理前の被覆物の熱容量、
Lv:レーザー処理中に除去する有機物質(溶媒)の気化潜熱、及び
V:基材の走行速度、
が一般に考慮される。
【0039】
境界値を含めてこれらのパラメーターが一般にとり得る値を、表1に列挙した。
【0040】
【表1】
【0041】
単位面積当たりの供給熱量はおよそ:
Q[J/m2]=P・l/V
であり、到達温度はおよそ:
ΔT=(P・l)/(Cp・V・e・ρ)
であって、ΔTは到達温度と室温との差を表す。
【0042】
図1は本発明による方法を示している。乾燥又は焼付けるべき被覆物で被覆された基材1が、矢印で示した方向に次々と走行しており、これらの基材はローラーベルト(図示せず)により輸送されている。基材は、走行している基材の表面に集中されてそれらの幅全体を横切るレーザーライン3を供給するレーザー源2の下を通過する。レーザーラインは被覆物を加熱し、それを乾燥させ又は焼付けるのを可能にする。
【実施例】
【0043】
〔例1〕
5m/分の速度で走行する鏡を製造するためのラインで、保護コーティングの目的で鏡の裏面に被着させた塗料の被覆物を本発明による乾燥方法を使用して乾燥させる。乾燥前に、被覆物は厚さが50μm、密度が2T/m3、熱容量が0.7kJ/kg/K、そして吸収係数αが1である。溶媒含有量(キシレン:Lv=300kJ/kg)τは30wt%(すなわち上記の式において0.3)である。330kW/m2の出力で十分である。塗料が乾燥すると、被覆物の密度は1.3T/m3であり、各kW/m2ごとに塗料の温度は4ケルビン上昇することになる。レーザー放射線は本質的に被覆物を加熱し、ガラスは非常に短時間(<1秒)被覆物からの伝導によって加熱されるだけであり、ガラスの平均温度の上昇はその厚さ全体にわたり1K未満に制限される。
【0044】
〔例2〕
非ブロック化させて被覆物を硬化させるのに180℃の温度を必要とするブロック化イソシアネートを含む工業用のポリウレタン塗料の被覆物を焼付ける。本発明による方法を使用すると、40kW/m2の出力で十分である。
図1