特許第5902746号(P5902746)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5902746
(24)【登録日】2016年3月18日
(45)【発行日】2016年4月13日
(54)【発明の名称】インドアスポーツシューズのソール構造
(51)【国際特許分類】
   A43B 5/00 20060101AFI20160331BHJP
   A43B 13/18 20060101ALI20160331BHJP
   A43B 13/42 20060101ALI20160331BHJP
   A43B 13/14 20060101ALI20160331BHJP
【FI】
   A43B5/00 310
   A43B13/18
   A43B13/42 101
   A43B13/14 B
【請求項の数】6
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2014-92161(P2014-92161)
(22)【出願日】2014年4月26日
(65)【公開番号】特開2015-208504(P2015-208504A)
(43)【公開日】2015年11月24日
【審査請求日】2014年6月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005935
【氏名又は名称】美津濃株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103241
【弁理士】
【氏名又は名称】高崎 健一
(72)【発明者】
【氏名】井内 一憲
(72)【発明者】
【氏名】倉山 圭司
(72)【発明者】
【氏名】黒田 清貴
【審査官】 山内 康明
(56)【参考文献】
【文献】 特開平02−114904(JP,A)
【文献】 特開2005−095388(JP,A)
【文献】 特許第4709085(JP,B2)
【文献】 特開2005−204902(JP,A)
【文献】 特許第4728103(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A43B 5/00
A43B 13/14
A43B 13/18
A43B 13/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インドアスポーツシューズのソール構造であって、
軟質弾性部材製のソール本体と、
前記ソール本体の足裏当接側の面において足指に対応する位置に埋設され、その上面が前記足裏当接側の面と面一であるプレート状部材とを備え
前記プレート状部材が、前記ソール本体よりも高硬度で45〜75Dの硬度を有する熱可塑性または熱硬化性の樹脂から構成されるとともに、
前記プレート状部材が、第1足指に対応する位置に配置された第1のプレート状部材と、第2ないし第4足指に対応する位置に配置された第2のプレート状部材とから構成されており、前記第1および第2のプレート状部材が一体に設けられている、
ことを特徴とするインドアスポーツシューズのソール構造。
【請求項2】
請求項1において、
前記第1および第2のプレート状部材が、第1足指ないし第4足指末節骨の直下に対応する位置に配置されている、
ことを特徴とするインドアスポーツシューズのソール構造。
【請求項3】
請求項1または2において、
前記第1および第2のプレート状部材が、足指に沿って実質的に足幅方向に延在するとともに、足長方向の長さが短い狭小部を介して連設されている、
ことを特徴とするインドアスポーツシューズのソール構造。
【請求項4】
請求項において、
前記第1および第2のプレート状部材が、間隙を隔てて配置され、それぞれ前記ソール本体の外周縁部まで延設されるとともに、当該外周縁部において上方に立ち上がる立壁部を介して連設されている、
ことを特徴とするインドアスポーツシューズのソール構造。
【請求項5】
請求項において、
前記立壁部がトウガードとして機能している、
ことを特徴とするインドアスポーツシューズのソール構造。
【請求項6】
請求項1ないしのいずれかにおいて、
前記ソール本体の中足部の剛性に関し、当該ソール本体の前足部内甲側〜踵部外甲側間における中足部剛性の方が、前足部外甲側〜踵部内甲側間における中足部剛性よりも低くなっている、
ことを特徴とするインドアスポーツシューズのソール構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スポーツシューズのソール構造に関し、詳細には、スポーツシューズとして運動時の加速力を増大でき、俊敏な動きを可能にするための構造の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
スポーツシューズのソール構造として、例えば特許第3215664号公報に示すようなものが本願出願人により提案されている。同公報に示すものでは、軟質弾性部材製のミッドソールの内部に波形シートを介在させるとともに、波形シートをミッドソールの踵部から中足部をへて前足部の拇指球部近傍まで延設したことにより、着地後においてミッドソールの踵部から中足部にかけての領域での横振れを防止して、走行時の安定性が確保されるようになっている(同公報の段落[0091]ならびに図5ないし図7参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記公報に記載したスポーツシューズにおいては、ミッドソールの中足部から前足部の拇指球部近傍にかけての領域に波形シートを介在させたことで、運動時に前足部で着地した際に或る程度反発力をアップさせることは可能であるが、十分ではなかった。例えば、バレーボールやハンドボール等のインドアスポーツにおいて、運動時の加速力をより増大させ、より俊敏な動きを実現したいとする要請に十分に対応していなかった。
【0004】
本発明は、このような従来の実情に鑑みてなされたもので、本発明が解決しようとする課題は、運動時の加速力を増大でき、俊敏な動きを実現できるスポーツシューズのソール構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係るスポーツシューズのソール構造は、軟質弾性部材製のソール本体と、ソール本体の足裏当接側の面において足指に対応する位置に埋設され、その上面が足裏当接側の面と面一であるプレート状部材とを備えている。プレート状部材は、ソール本体よりも高硬度で45〜75Dの硬度を有する熱可塑性または熱硬化性の樹脂から構成されている。プレート状部材は、第1足指に対応する位置に配置された第1のプレート状部材と、第2ないし第4足指に対応する位置に配置された第2のプレート状部材とから構成されており、第1および第2のプレート状部材が一体に設けられている(請求項1参照)。
【0006】
本発明によれば、ソール本体の足裏当接側の面において足指に対応する位置に、ソール本体よりも高硬度のプレート状部材を設けたので、運動時において足指からソール本体に荷重が作用したとき、当該荷重は硬いプレート状部材を介して軟らかいソール本体に作用する。このとき、足指からの荷重が直接ソール本体に作用することにより軟らかいソール本体が局所的に変形して当該荷重がソール本体に吸収される場合に比べて、足指からの荷重が硬いプレート状部材を介してソール本体に作用することでソール本体の局所的な変形を抑制でき、足指からの荷重がソール本体に吸収されるのを防止できる。これにより、大きな反発力を得ることができるので、運動時の加速力を増大でき、その結果、俊敏な動きを実現できる(例えば爪先での蹴り出し動作を必要とするダッシュ、サイドステップひいてはジャンプ動作に素早く移行できる)ようになる。
【0007】
本発明では、第1および第2のプレート状部材が第1足指ないし第4足指末節骨の直下に対応する位置に配置されている(請求項2参照)。この場合には、蹴り出し時の荷重を効率よくプレート状部材に伝えることができる。
【0008】
本発明では、第1および第2のプレート状部材が足指に沿って実質的に足幅方向に延在するとともに、足長方向の長さが短い狭小部を介して連設されている(請求項3参照)。この場合には、狭小部を挟んで第1のプレート状部材および第2のプレート状部材が足幅方向に相互に屈曲しやすくなるので、第1足指側で蹴り出す場合および第4足指側で蹴り出す場合のいずれの場合にも、スムーズに荷重(厳密には足圧中心)を移動させることができる。これにより、運動時の加速力の増大による俊敏な動きを実現しつつ、第1足指側で蹴り出す場合および第4足指側で蹴り出す場合の双方の場合において、足圧中心の移動をスムーズに行えるようになる。
【0009】
本発明では、第1および第2のプレート状部材が、間隙を隔てて配置され、それぞれソール本体の外周縁部まで延設されるとともに、外周縁部において上方に立ち上がる立壁部を介して連設されている(請求項4参照)。この場合には、間隙を挟んで第1のプレート状部材および第2のプレート状部材が足幅方向に相互に一層屈曲しやすくなるので、第1足指側で蹴り出す場合および第4足指側で蹴り出す場合のいずれの場合にも、よりスムーズに荷重(厳密には足圧中心)を移動させることができる。これにより、運動時の加速力の増大による俊敏な動きを実現しつつ、第1足指側で蹴り出す場合および第4足指側で蹴り出す場合の双方の場合において、足圧中心の移動をスムーズに行えるようになる。また、蹴り出し時の足のぶれを立壁部により防止できる。
【0010】
本発明では、立壁部がトウガードとして機能している(請求項5参照)。
【0011】
本発明では、ソール本体の中足部の剛性に関し、ソール本体の前足部内甲側〜踵部外甲側間における中足部剛性の方が、前足部外甲側〜踵部内甲側間における中足部剛性よりも低くなっている(請求項6参照)。
【0012】
この場合には、ソール本体の中足部が回内を起こしやすい構造を有しているので、運動時の回内を助長して、運動時に荷重がソール本体の前足部の拇指球部側に集まりやすくなる。これにより、拇指球部側への荷重(厳密には足圧中心)移動をスムーズに行うことができ、その結果、足指側のプレート状部材にスムーズに足圧中心を移動させることができる。このようにして、運動時の加速力をより一層増大させることができるので、より俊敏な動きを実現できるようになる。
【発明の効果】
【0015】
以上のように、本発明によれば、ソール本体の足裏当接側の面において足指に対応する位置に、ソール本体よりも高硬度のプレート状部材を設けたことにより、運動時において足指からソール本体に荷重が作用したとき、当該荷重は硬いプレート状部材を介して軟らかいソール本体に作用する。このとき、足指からの荷重が直接ソール本体に作用して当該荷重が軟らかいソール本体で吸収分散される場合に比べて、足指からの荷重が硬いプレート状部材を介してソール本体に作用することで足指からの荷重がソール本体に吸収分散されるのを防止できる。これにより、大きな反発力を得ることができるので、運動時の加速力を増大でき、その結果、俊敏な動きを実現できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の第1の実施例によるスポーツシューズ用ソール構造の平面概略図である。
図2】前記ソール構造(図1)と足の骨格構造との位置関係を示す平面概略図である。
図3】前記ソール構造(図1)の縦断面図である。
図4】前記ソール構造(図1)の底面概略図である。
図5図4のV-V線断面図である。
図6図4のVI矢視図である。
図7】バレーボールにおいてスパイク時のジャンプに移行する際の足の動きを説明するための図である。
図8】前記ソール構造(図1)を採用したシューズを着用してジャンプに移行する際の足圧分布を示す図である。
図9】従来のシューズを着用してジャンプに移行する際の足圧分布を示す図である。
図10】本発明の作用効果をコンピュータシミュレーションにより検証するためのモデル図である。
図11】前記コンピュータシミュレーション(図10)による検証結果を示すグラフである。
図12】本発明の第2の実施例によるスポーツシューズ用ソール構造の平面概略図である。
図13】前記ソール構造(図12)と足の骨格構造との位置関係を示す平面概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施例を添付図面に基づいて説明する。
<第1の実施例>
図1ないし図6は、本発明の第1の実施例によるスポーツシューズ用ソール構造を説明するための図である。ここでは、スポーツシューズとして、バレーボールやハンドボール等のインドアスポーツに用いられるインドアシューズを例にとる。
【0018】
図1ないし図3に示すように、本実施例によるソール構造体1は、ソール本体2を有している。ソール本体2は、着用者の足の踵部領域、中足部領域および前足部領域にそれぞれ対応する踵部領域H、中足部領域Mおよび前足部領域Fを有しており、踵部領域Hから中足部領域Mをへて前足部領域Fまで前後方向に延設されている。ソール本体2は、着用者の足裏当接側に配置される足裏当接側面2Aを有している。
【0019】
ソール本体2の足裏当接側面2Aには、その外周縁部に沿って上方(図1図2紙面手前側および図3右方)に立ち上がる巻上げ部2Bがほぼ全周にわたって形成されている(図3では内甲側の巻上げ部のみ図示)。巻上げ部2Bの内側面および足裏当接側面2Aには、スポーツシューズのアッパーUの下部外側面が固着されるようになっている(図3図5参照)。
【0020】
ソール本体2は、軟質弾性部材から構成されており、具体的には、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)等の熱可塑性樹脂やその発泡体、ポリウレタン(PU)等の熱硬化性樹脂やその発泡体、またはブタジエンラバーやクロロプレンラバー等のラバー素材やその発泡体から構成されている。ソール本体2の硬度は、例えば45〜75C(アスカーCスケール)に設定されている。本実施例では、ソール本体2としてEVAの発泡体が用いられており、その硬度は55C(許容誤差±4C)に設定されている。
【0021】
ソール本体2の足裏当接側面2Aにおいて足指に対応する位置には、プレート状部材3が設けられている。プレート状部材3は、好ましくは、足裏当接側面2Aに埋設されており、その上面は足裏当接側面2Aと面一になっている。プレート状部材3は、図1および図2に示すように、足指に沿って実質的に足幅方向(図2左右方向)に延在しつつ孤状に延びる薄肉の部材であって、第1足指に対応する位置に配置された第1のプレート状部3Aと、第2ないし第4足指に対応する位置に配置された第2のプレート状部3Bと、これらの間(つまり第1足指と第2ないし第4足指との間の領域)において足長方向(図1図2上下方向)の長さが短くなっている狭小部3Cとから構成されている。
【0022】
より詳細には、図2に示すように、第1のプレート状部3Aは、第1足指末節骨DPの直下に対応する位置に配置され、第2のプレート状部3Bは、第2足指ないし第4足指末節骨DP〜DPの直下に対応する位置に配置されている。なお、図2中、MPは中足趾節関節を示しており、プレート状部材3は、中足趾節関節MPとはオーバラップしていない。
【0023】
プレート状部材3は、ソール本体2よりも高硬度の硬質弾性部材から構成されており、具体的には、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)等の熱可塑性樹脂、ポリウレタン(PU)等の熱硬化性樹脂、またはブタジエンラバーやクロロプレンラバー等のラバー素材から構成されている。プレート状部材3の硬度は、当該プレート状部材3が樹脂素材の場合には、45〜75D(アスカーDスケール)に設定され、ラバー素材の場合には、60〜80A(アスカーAスケール)に設定されている。本実施例では、プレート状部材3として硬質EVAシートが用いられ、その硬度は80A(許容誤差±3A)に設定されており、ソール本体2の硬度55Cよりも高くなっている。
【0024】
ソール本体2の下方には、図3および図4に示すように、アウトソール4、5が配設されている。アウトソール4は、ソール本体2の主に前足部領域Fに配置され、アウトソール5はソール本体2の主に踵部領域Hに配置されている。アウトソール4の下面4Aにおいて足の拇指球部に対応する部分には、クッションパッド40が設けられている。クッションパッド40は、拇指球部を衝撃から保護するクッション機能を有しかつ運動時のエネルギーロスを抑制する機能を有する部材である。クッションパッド40は、本実施例では、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)から構成されており、その硬度は48C(許容誤差±4C)に設定されている。また、ソール本体2の中足部領域Mには、当該ソール本体2を上下に貫通する通気孔20が形成されている。
【0025】
ソール本体2の下方において、当該ソール本体2の踵部領域Hから中足部領域Mにかけての領域には、図3ないし図5に示すように、前後方向に進む波形状を有する波形プレート6が配設されている。波形プレート6は、ソール本体2の踵部領域Hから中足部領域Mの後部にかけての領域においては、ソール本体2とアウトソール5との間で挟持されており、中足部領域Mの前部においては、ソール本体2とアウトソール4との間で挟持されている。
【0026】
波形プレート6は、好ましくは硬質弾性部材から構成されており、具体的には、熱可塑性ポリウレタン(TPU)やポリアミドエラストマー(PAE)、ABS樹脂等の熱可塑性樹脂、またはエポキシ樹脂等や不飽和ポリエステル樹脂等の熱硬化性樹脂から構成されている。なお、炭素繊維やアラミド繊維、ガラス繊維等を強化用繊維とし、熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂をマトリックス樹脂とした繊維強化プラスチック(FRP)から構成するようにしてもよい。
【0027】
波形プレート6は、図4および図5に示すように、ソール本体2の中足部領域Mにおいて、上方に逆V字状(または逆U字状)に屈曲するリブ60を有している。リブ60は、中足部領域Mにおいて、幅方向略中央の位置から前方にいくにしたがい外甲側に向かって斜め前方に延びている。
【0028】
波形プレート6にリブ60を形成したことにより、ソール本体2の中足部領域Mの剛性に関し、ソール本体2の前足部内甲側〜踵部外甲側間における中足部剛性の方が、前足部外甲側〜踵部内甲側間における中足部剛性よりも低くなっており、ソール本体2の中足部領域Mが回内を起こしやすくなっている。さらに、ソール本体2の中足部領域Mの剛性に関し、ソール本体2の前足部内甲側〜踵部内甲側間における中足部剛性の方が、前足部外甲側〜踵部外甲側間における中足部剛性よりも低くなっている。これにより、ソール本体2の中足部領域Mが回内をさらに起こしやすくなっている。
【0029】
ソール本体2の足裏当接側面2Aにおいて、爪先部分には、トウガード7が設けられている。トウガード7は、上方に立ち上がりつつ、爪先部に沿って円弧状に延びている。トウガード7は、足裏当接側面2Aの上に接着するための接着しろを有する張出部7A、7Bを有している。張出部7A、7Bは、ソール本体2の内甲側、外甲側にそれぞれ配置されている。
【0030】
トウガード7は、例えば熱可塑性ポリウレタンやナイロンなどの熱可塑性樹脂を含む硬質素材から構成されている。図6に示すように、トウガード7の前側面において内甲側部分および外甲側部分には、それぞれ防滑部70、71が設けられている。これらの防滑部70、71は、例えばラバーや熱可塑性エラストマーなどのグリップ性を有する素材から構成されている。
【0031】
次に、本実施例の作用効果について検証するために、本実施例によるソール構造体1を備えたバレーボールシューズを用意し、これをプロのバレーボール選手に履いてもらって実際にスパイクをしてもらい、このときの足圧分布と荷重(足圧中心)移動経路を測定した。シューズには、予め足圧測定用のセンサが貼り付けられたソックライナー(インソール)を装着しておいた。また、比較のために、選手には従来のバレーボールシューズを履いてもらって同様にスパイクをしてもらい、そのときの足圧分布と荷重(足圧中心)移動経路についても測定した。
【0032】
図7は、スパイクを行うときの選手の右足(R)および左足(L)のそれぞれの足の動きを説明するための図であって、同図中、矢印a、bは各足の移動方向を示している。図7中のグレーで着色された位置の右足について足圧分布および荷重(足圧中心)移動経路を測定した。測定結果を図8および図9に示す。
【0033】
図8は、本実施例によるソール構造体1を備えたバレーボールシューズについての測定結果を示しており、図9は、従来のバレーボールシューズについての測定結果を示している。各図中、色の濃い個所ほど足圧が高いことを示しており、また、白抜きの小さな四角形が足圧中心を示している。
【0034】
図8および図9のいずれの場合においても、前足部領域における足圧が高くなっているが、両図を比較すると分かるように、本実施例によるシューズの場合には、足圧の高い個所が、足の拇指球部領域の全体にわたって広く分布するとともに、第1足指(とりわけ第1足指末節骨)の直下の領域のみならず第2足指(とりわけ第2足指末節骨)の直下の領域にまで広く分布している。また、本実施例によるシューズの場合には、前足部領域に至る荷重移動経路がより内方(図8左方)に向かって、つまり拇指球部側に向かって移動していることが分かる。
【0035】
以上のことから、本実施例によるソール構造体1においては、運動時の足圧が前足部領域にスムーズに集められており、前足部領域への足圧移動が迅速に行われている。これは、波形プレート6にリブ60を形成したことにより、ソール本体2の中足部領域Mが回内を起こしやすくなっていることに起因していると考えられる。また、足指(とりわけ第1および第2足指)に対する床反力が増大している。これは、高硬度のプレート状部材3をソール本体2の足裏当接側面2Aに設置したことによるものと考えられる。このように床反力が増大することで、運動時の加速力を増大でき、これにより、例えば、爪先での蹴り出し動作を必要とするダッシュ、サイドステップひいてはジャンプ動作などに素早く移行でき、俊敏な動きを実現できるようになる。
【0036】
次に、本実施例によるソール構造体1において、とくにプレート状部材単体の作用効果について検証するために、コンピュータシミュレーションによる実験を行った。図10はコンピュータシミュレーションのモデル図であり、図11は当該コンピュータシミュレーションによる検証結果を示すグラフである。
【0037】
図10に示すように、構造体Aは、上から順に、スポンジSP(インソールに相当)、プレートPL(プレート状部材に相当)、ソールMSおよびアウトソールOSを積層することにより構成されている。プレートPLの硬度(60D:アスカーDスケール)は、ソールMの硬度(55C:アスカーCスケール)よりも高く設定されている。構造体Aの60mm上方から重さ10kgの錘Wを落下させて構造体Aに衝突させ、衝突後に跳ね返る錘Wの上向きの速度を算出した。その算出結果を図11中の本発明品に示す。同図には、プレートPLがない構造体A(従来品に相当)について同様の実験を行った結果も併せて示されている。
【0038】
図11から分かるように、従来品についての錘Wの反発速度を100とするとき、本発明品についての錘Wの反発速度は105となっており、従来比で5%増加している。このことから、本実施例によるソール構造体1において、プレート状部材3をソール本体2の上に配置したことで、荷重作用時の反発力を増大できることが検証できた。
【0039】
プレート状部材3は、ソール本体2の足裏当接側面2Aにおいて足指に対応する位置に配置されているので、運動時において足指からソール本体2に荷重が作用したとき、足指からの荷重がプレート状部材3を介さずにそのままソール本体2に作用する場合に比べて、大きな反発力を得ることができる。これにより、運動時の加速力を増大でき、その結果、例えば、爪先での蹴り出し動作を必要とするダッシュ、サイドステップひいてはジャンプ動作などに素早く移行でき、俊敏な動きを実現できるようになるのである。その一方、プレート状部材3は中足趾節関節MPとオーバラップしていないので(図2参照)、中足趾節関節MPおよびその周辺領域においては、着地時のクッション性が確保されている。
【0040】
さらに、本実施例によれば、プレート状部材3が第1足指ないし第4足指末節骨DP〜DPの直下に対応する位置に配置されているので、蹴り出し時の荷重を効率よくプレート状部材3に伝えることができる。
【0041】
本実施例によれば、プレート状部材3が、第1のプレート状部3Aと第2のプレート状部3Bとの間(つまり第1足指と第2ないし第4足指との間の領域)に狭小部3Cを有しているので、第1足指および第2足指の間に対応する領域を挟んで第1足指側の領域および第2足指側の領域が足幅方向に相互に屈曲しやすくなっている。これにより、第1足指側で蹴り出す場合および第4足指側で蹴り出す場合のいずれの場合にも、スムーズに荷重(足圧中心)を移動させることができる。これにより、運動時の加速力の増大による俊敏な動きを実現しつつ、第1足指側で蹴り出す場合および第4足指側で蹴り出す場合の双方の場合において、足圧中心の移動をスムーズに行えるようになる。
に行えるようになる。
【0042】
本実施例によれば、トウガード7が設けられていることにより、蹴り出し時の足のぶれをトウガード7により防止できる。
【0043】
<第2の実施例>
図12および図13は、本発明の第2の実施例によるスポーツシューズ用ソール構造を説明するための図である。これらの図において、前記第1の実施例と同一符号は同一または相当部分を示している。
【0044】
この第2の実施例では、トウガード7の各張出部7A’、7B’が前記第1の実施例における各張出部7A、7Bよりもさらに内側に大きく張り出しており、プレート状部材3が設けられていない点が前記第1の実施例と異なっている。この場合、張出部7A’が前記第1の実施例における第1のプレート状部3Aに相当し、張出部7B’が前記第1の実施例における第2のプレート状部3Bに相当している。また、前記第1の実施例における狭小部3Cに相当するものは設けられておらず、各張出部7A’、7B’の間には、間隙が形成されている。
【0045】
別の言い方をすれば、この第2の実施例においては、第1、第2のプレート状部7A’、7B’がソール本体2の外周縁部まで延設されるとともに、当該外周縁部において上方に立ち上がる立壁部7を有しており、当該立壁部7がトウガードとして機能している。
【0046】
第2の実施例によれば、各張出部7A’、7B’の間の間隙を挟んで、第1足指側の領域および第2ないし第4足指側の領域が足幅方向に相互に屈曲しやすくなっており、これにより、第1足指側で蹴り出す場合および第4足指側で蹴り出す場合のいずれの場合にも、スムーズに荷重(足圧中心)を移動させることができる。これにより、運動時の加速力の増大による俊敏な動きを実現しつつ、第1足指側で蹴り出す場合および第4足指側で蹴り出す場合の双方の場合において、足圧中心の移動をスムーズに行えるようになる。
【0047】
また、第2の実施例によれば、前記第1の実施例における第1、第2のプレート状部3A、3Bにそれぞれ対応する張出部7A’、7B’が、ソール本体2の足裏当接側面2Aにおいて足指に対応する位置に配置されているので、前記第1の実施例と同様に、運動時において足指からソール本体2に荷重が作用したとき、足指からの荷重がソール本体2に直接作用する場合に比べて、大きな反発力を得ることができる。これにより、運動時の加速力を増大でき、その結果、例えば、爪先での蹴り出し動作を必要とするダッシュ、サイドステップひいてはジャンプ動作などに素早く移行でき、俊敏な動きを実現できる。
【0048】
第2の実施例によれば、前記第1の実施例におけるプレート状部材3として機能する張出部7A’、7B’が第1足指ないし第4足指末節骨DP〜DPの直下に対応する位置に配置されているので、蹴り出し時の荷重を効率よく各張出部7A’、7B’に伝えることができる。
【0049】
第2の実施例によれば、前記第1の実施例と同様に、トウガード7が設けられていることで、蹴り出し時の足のぶれをトウガード7により防止できる。
【0050】
以上、本発明に好適な実施例について説明したが、本発明の適用はこれに限定されるものではなく、本発明には種々の変形例が含まれる。以下に変形例のいくつかの例を挙げておく。
【0051】
<第1の変形例>
前記第1の実施例では、プレート状部材3として平面形状が異形のM字状のものを例にとって示したが(図1参照)、プレート状部材3の平面形状としては、これに限定されない。プレート状部材3として、第1足指(好ましくは第1足指末節骨)と少なくとも一部オーバラップする第1のプレート状部3Aと、第2〜第4足指(好ましくは第2〜第4足指末節骨)と少なくとも一部オーバラップする第2のプレート状部3Bと、これらの間に配置される狭小部3Cとを有していれば、その他の任意の形状であってもよい。
【0052】
<第2の変形例>
前記第1の実施例では、プレート状部材3が狭小部3Cを有している例を示したが、プレート状部材3としては、狭小部3Cがないものにも同様に適用可能である。この場合、プレート状部材3は、第1〜第4足指(好ましくは第1〜第4足指末節骨)と少なくとも一部オーバラップしつつ実質的に足幅方向に延設された孤状または帯状の部材から構成される。あるいは、プレート状部材3は、第1のプレート状部3Aと、第1のプレート状部3との間に間隙を隔てて第1のプレート状部3から分離して配置されるとともに、第2〜第4足指(好ましくは第2〜第4足指末節骨)と少なくとも一部オーバラップする第2のプレート状部3Bとから構成される。
【0053】
<第3の変形例>
前記第1の実施例では、ソール本体2の前端部にトウガード7が設けられた例を示したが、トウガード7は省略することも可能である。
【0054】
<第4の変形例>
前記第1の実施例では、波形プレート6を設けるとともに当該波形プレート6の中足部領域にリブ60を形成することで、ソール本体2の中足部領域Mの剛性に関し、当該ソール本体2の前足部内甲側〜踵部外甲側間における中足部剛性の方が、前足部外甲側〜踵部内甲側間における中足部剛性よりも低くなるようにし、さらに、ソール本体2の前足部内甲側〜踵部内甲側間における中足部剛性の方が、前足部外甲側〜踵部外甲側間における中足部剛性よりも低くなるようにした例を示したが、波形プレート6のかわりに平坦状プレートを用い、当該平坦状プレートにリブを形成するようにしてもよい。あるいは、ソール本体2の中足部領域Mにおいて、前記実施例のリブ60に対応する領域にシャンク状部材を配置するようにしてもよい。
【0055】
<第5の変形例>
前記第2の実施例では、各張出部7A’、7B’の間に間隙が形成された例を示したが、これらの張出部7A’、7B’は、間隙を介さずに一体に連設されていてもよい。この場合、各張出部7A’、7B’の間には、狭小部が形成されていてもよく、また狭小部がなく、各張出部7A’、7B’が孤状または帯状に連設されていてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0056】
以上のように、本発明は、スポーツシューズのソール構造に有用であり、とくに、インドアスポーツ(とりわけボールゲーム系のスポーツ)に好適のスポーツシューズであって、運動時の加速力および俊敏な動きを要求されるスポーツシューズに適している。
【符号の説明】
【0057】
1: ソール構造体

2: ソール本体
2A: 足裏当接側面

3: プレート状部材
3A: 第1のプレート状部
3B: 第2のプレート状部
3C: 狭小部

60: リブ

7: トウガード
7A、7B: 張出部
7A’: 張出部(第1のプレート状部)
7B’: 張出部(第2のプレート状部)

DP〜DP: 第1〜第4足指末節骨

F: 前足部領域
M: 中足部領域
H: 踵部領域
【先行技術文献】
【特許文献】
【0058】
【特許文献1】特許第3215664号公報(同公報の段落[0091]ならびに図5ないし図7参照)
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