(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記稼働状況判定部は、前記所定の外部情報を予め定めた閾値と比較して、前記稼働状況が前記レーザ加工中であると判定する、請求項2又は4に記載のレーザ加工システム。
前記稼働状況判定部は、前記レーザ加工機がワークを加工するために必要な複数の異なる操作指令のグループのうち少なくとも1つが、前記所定の操作指令として前記制御装置から実時間で出力されているときに、前記稼働状況が前記レーザ加工中であると判定する、請求項1に記載のレーザ加工システム。
前記グループに含まれる前記操作指令は、アシストガス供給指令とシャッタ開指令とギャップ制御指令とのうち2つ以上の指令である、請求項6に記載のレーザ加工システム。
前記稼働状況判定部は、前記レーザ加工機がワークを加工するために必要な複数の異なる外部情報のグループのうち少なくとも1つが、前記所定の外部情報として前記制御装置に実時間で入力されているときに、前記稼働状況が前記レーザ加工中であると判定する、請求項1に記載のレーザ加工システム。
前記グループに含まれる前記外部情報は、アシストガス供給モニタ信号とシャッタ開モニタ信号とギャップ量モニタ信号とのうち2つ以上の信号である、請求項8に記載のレーザ加工システム。
前記所定の操作指令が前記制御装置から出力されておらず、かつ前記所定の外部情報が前記制御装置に入力されていないときは、前記稼働状況判定部は、前記制御装置からレーザ発振指令が出力されているとき、又は前記制御装置にレーザ出力モニタ信号若しくはレーザ加工命令が入力されているときに、前記稼働状況が前記レーザ加工中であると判定する、請求項2〜5、7及び9のいずれか1項に記載のレーザ加工システム。
前記再開準備装置は、前記レーザ加工プログラムの実行を中断した事由が解消したときに、前記準備処理を自動的に行って、前記再始動条件特定部が前記再始動条件を自動的に特定し、前記制御装置は、前記レーザ加工プログラムの実行を再開する再開命令が与えられるまでの間、前記レーザ加工機を前記再始動条件で再始動する位置に待機するように制御する、請求項1〜10のいずれか1項に記載のレーザ加工システム。
前記稼働状況判定部は、前記レーザ加工プログラムに記述されているレーザ加工の内容に応じて前記操作指令又は前記外部情報を選定し、選定した前記操作指令又は前記外部情報に基づき前記稼働状況を判定する、請求項1〜12のいずれか1項に記載のレーザ加工システム。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
図1は、本発明の一態様によるレーザ加工システム10の基本構成を機能ブロックで示す。レーザ加工システム10は、レーザ加工機12と、与えられたレーザ加工プログラムPに従いレーザ加工機12を制御する制御装置14と、制御装置14がレーザ加工プログラムPの実行の中断後に実行を再開するための、準備処理を行う再開準備装置16とを備える。再開準備装置16は、レーザ加工プログラムPの実行を中断したときのレーザ加工機12の稼働状況Rが、ワークWを現実に加工しているレーザ加工中であるか否かを判定する稼働状況判定部18と、稼働状況判定部18の判定結果に応じて、レーザ加工プログラムPの実行を再開するときのレーザ加工機12の再始動条件Cを、レーザ加工プログラムPにおける既定の条件の中で特定する再始動条件特定部20とを備える。
【0010】
上記基本構成を有するレーザ加工システム10の機能を、
図2に一実施形態として示すレーザ加工システム30の構成を参照してさらに説明する。
図2は、上記基本構成を有する一実施形態によるレーザ加工システム30を模式図的に示すものであって、
図1のレーザ加工システム10の構成要素と対応する構成要素には共通の参照符号を付す。
【0011】
図2のレーザ加工システム30において、レーザ加工機12は、レーザ発振器32、加工ヘッド34、及び加工ヘッド34とワークWとを相対移動させる駆動機構36を備える。レーザ加工機12が、例えば金属又は非金属の材料からなるワークWに対して切断・溶接・熱処理等のレーザ加工を施す構成を有する場合、レーザ発振器32は、例えば1kW〜8kWのような高出力のレーザ光を発振できるものであり、そのための電力が外部の電源38からレーザ発振器32に供給される。また、レーザ発振器32が炭酸ガスレーザ発振器である場合、二酸化炭素(CO
2)、窒素(N
2)、ヘリウム(He)等の混合気体からなるレーザ媒体が、外部のガス供給源40からレーザ発振器32に断続的又は連続的に供給される。レーザ発振器32には、レーザ光の出射を物理的に遮断する開閉可能なシャッタ42を付設することができる。
【0012】
レーザ発振器32から出射されたレーザ光は、光ファイバ、反射鏡等を含む導光手段44により加工ヘッド34に導かれる。加工ヘッド34は、レーザ光を集光するレンズ等の光学要素を備え、ヘッド先端に設けた加工ノズル46からワークWの表面の狭い領域にレーザ光を照射してレーザ加工を実施する。レーザ加工中、ワークWの加工点及びその周辺には、酸素、窒素、空気、アルゴン等を成分とするアシストガスが吹き付けられる。アシストガスは、外部のガス供給源48から加工ヘッド34に供給される。
【0013】
駆動機構36は、加工ヘッド34とワークWとを、互いに接近及び離反する方向へ択一的に移動させることができる。また駆動機構36は、加工ヘッド34とワークWとを、ワーク表面に沿った方向へ相対移動させることができる。例えば、駆動機構36は、直交3軸座標系における指令値に従い、3個の制御軸(X軸、Y軸、Z軸)がそれぞれに動作することで、加工ヘッド34とワークWとを3次元的に相対移動させることができる。この場合、駆動機構36は、各制御軸にサーボモータ及び動力伝達機構を備えることができる。個々の制御軸は、加工ヘッド34とワークWとのいずれか一方又は双方に設定できる。例えば、加工ヘッド34をZ軸で駆動してワークWに対し鉛直方向へ移動させ、ワークWを固定したワークテーブル(図示せず)をX軸及びY軸で駆動して加工ヘッド34に対し水平方向へ移動させる構成を採用できる。
【0014】
制御装置14は、例えば数値制御装置の構成を有する。制御装置14は、レーザ加工プログラムP(
図1)を解釈して、レーザ加工機12を含む制御対象に操作指令を出力し、駆動機構36に加工ヘッド34やワークWを移動させたり、レーザ発振器32にレーザ光を発振、出射させたり、ガス供給源48にアシストガスを加工ヘッド34へ供給させたりすることができる。また制御装置14は、加工ノズル46の先端とワークWの加工点との間の最短距離(すなわちギャップ)Gを実時間で参照して、レーザ加工中のギャップGを目標値に維持するよう駆動機構36を制御するいわゆるギャップ制御を行うことができる。再開準備装置16は、制御装置14の一機能として構成できる。或いは再開準備装置16を、制御装置14とは別のCPUによって構成することもできる。
【0015】
図1及び
図2に示すレーザ加工システム10、30において、制御装置14がレーザ加工プログラムPを実行している最中に、レーザ発振のための電力供給や媒体(特にガス)供給の異常、加工点へのアシストガス供給の異常等に起因して、或いはオペレータによる意図的な停止命令、安全確保のための緊急停止信号等に従って、レーザ加工プログラムPの実行が中断される場合がある。
図2のレーザ加工システム30では、停電や電圧低下等の電源障害に起因する電力供給の異常は、停電検出器50により検出され、異常検出信号が停電検出器50から制御装置14に送られる。また、ガス供給源40、48の動作障害等に起因するガス供給の異常は、ガス圧センサ52により検出され、異常検出信号がガス圧センサ52から制御装置14に送られる。また、例えばレーザ加工中にワークWの被加工部位を目視確認する等のために、オペレータが意図的にレーザ加工システム30を停止させる際には、オペレータが停止スイッチ54を操作することで、停止スイッチ54から停止信号が制御装置14に送られる。また、予め設定した進入禁止区域に人や他の物体が侵入したとき等、安全確保を図るときには、安全スイッチ56が自動的に作動し、安全スイッチ56から緊急停止信号が制御装置14に送られる。
【0016】
制御装置14は、上記した異常検出信号や停止信号を受信すると、直ちにレーザ加工プログラムPの実行を中断し、稼働途中のレーザ加工機12を停止させる。なお、レーザ加工システム10、30は、レーザ加工プログラムPの実行を中断したときのレーザ加工機12の稼働状況Rを記憶する記憶部58(
図2)を備えることができる。記憶部58に記憶する稼働状況Rは、レーザ加工プログラムPの中の命令文であったり、制御装置14から制御対象に出力される操作指令であったり、制御対象から制御装置14に入力されるフィードバック情報であったりすることができる。
【0017】
図1及び
図2に示すレーザ加工システム10、30では、電力供給やガス供給の異常が解消されたとき、またオペレータによる停止命令や緊急停止信号が解除されたときに、制御装置14がレーザ加工プログラムPの実行を再開する。再開準備装置16は、制御装置14がレーザ加工プログラムPの実行を再開するための準備処理として、プログラム実行再開時のレーザ加工機12の再始動条件C(レーザ発振器32の作動条件、加工ヘッド34の位置等)を、プログラム実行中断時のレーザ加工機12の稼働状況Rに応じて適切に設定できるようにするための、下記の処理を行う。
【0018】
すなわち、稼働状況判定部18は、レーザ加工プログラムPの実行中断時に、レーザ加工機12がワークWを加工するために必要な所定の操作指令が制御装置14から出力されているとき、又はレーザ加工機12がワークWを加工するために必要な所定の外部情報が制御装置14に入力されているときに、プログラム実行中断時のレーザ加工機12の稼働状況Rが「レーザ加工中」であると判定する。また稼働状況判定部18は、レーザ加工プログラムPの実行中断時に、レーザ加工機12がワークWを加工するために必要な所定の操作指令が制御装置14から出力されておらず、かつ、レーザ加工機12がワークWを加工するために必要な所定の外部情報が制御装置14に入力されていないときに、プログラム実行中断時のレーザ加工機12の稼働状況Rが「レーザ加工中」ではないと判定する。ここで、プログラム実行中断時のレーザ加工機12の稼働状況Rは、記憶部58(
図2)から取得できる。
【0019】
上記構成において、所定の操作指令は、制御装置14がレーザ加工プログラムPを解読かつ演算して作成するものであり、制御装置14から種々の制御対象に出力される。また上記構成において、所定の外部情報は、制御装置14の種々の制御対象の制御量を検出する検出器が生成するものであり、それら検出器から制御装置14にフィードバック情報として入力される。なお後述するように、加工ヘッド34の移動に関する操作指令(例えば制御軸の移動指令)や外部情報(例えば制御軸の位置情報)は、それのみに基づいてレーザ加工機12の稼働状況Rを正確に判定することが困難であるため、上記した所定の操作指令及び所定の外部情報から除外することができる。
【0020】
例えば、所定の操作指令は、制御装置14がガス供給源48の供給制御部(図示せず)に指令するアシストガス供給指令であることができる。また例えば、所定の外部情報は、加工ヘッド34に付設されるアシストガス圧の測定器(図示せず)から制御装置14にフィードバックされるアシストガス圧モニタ信号であることができる。この場合、稼働状況判定部18は、アシストガス圧モニタ信号を予め定めた閾値と比較して、アシストガス圧が閾値を超えているときに、稼働状況Rがレーザ加工中であると判定することができる。
【0021】
或いは、所定の操作指令は、制御装置14がシャッタ42の開閉制御部(図示せず)に指令するシャッタ開指令であることができる。また所定の外部情報は、シャッタ42の開閉検出器(図示せず)から制御装置14にフィードバックされるシャッタ開モニタ信号であることができる。
【0022】
或いは、所定の操作指令は、制御装置14が駆動機構36に指令するギャップ制御指令であることができる。また所定の外部情報は、ギャップ測定器(図示せず)から制御装置14にフィードバックされるギャップ量モニタ信号であることができる。この場合、稼働状況判定部18は、ギャップ量モニタ信号を予め定めた閾値と比較して、ギャップ量が閾値以下のときに、稼働状況Rがレーザ加工中であると判定することができる。
【0023】
一般にレーザ加工は、アシストガス吹き付け、シャッタ開閉、ギャップ制御開始等の、レーザ光を発振する前や後にレーザ加工機12が行う種々の先行動作や後続動作を含んでいる。例えばレーザ溶接の場合、フィラー供給も先行動作の1つであり、レーザ切断の場合、切断品質改善のためのワーク表面への油分供給も先行動作の1つである。これらの先行動作や後続動作は、加工品質に影響を及ぼすものであるから、レーザ光をワークWに照射しているときだけでなくその先行動作や後続動作を含めて「レーザ加工中」と認識することが、プログラム実行中断後の再開準備処理を適切に実行するために有利である。
【0024】
例えば、加工ヘッド34(
図2)へのアシストガスの供給は、レーザ発振よりも先に開始される先行動作であり、アシストガスの圧力及び流量が目標値に達した後に現実の加工が開始される。また、レーザ光の照射を止めた後にワークWを冷却したり高温のワークWを空気中の酸素、窒素、水分等から遮断したりするために、レーザ発振停止後もアシストガスを供給(つまり後続動作)する場合がある。また、シャッタ32(
図2)の開閉動作は、レーザ発振の開始前に開く先行動作であるとともに、レーザ発振の終了後に閉じる後続動作である。またギャップ制御においては、レーザ発振を開始する前に、ギャップG(
図2)の寸法(すなわちギャップ量)を目標値に到達させる先行動作が行われる。ワークWを高速で切断する場合には、レーザ発振終了後もギャップ制御を継続(つまり後続動作)して、加工ヘッド34をレーザ発振中と同一の速度で移動させる場合がある。
【0025】
このような観点で、稼働状況判定部18は、前述した構成を有することにより、制御装置14がレーザ加工プログラムPの実行を中断したときのレーザ加工機12の稼働状況Rが「レーザ加工中」であったか否かを、正確に判定することができる。稼働状況判定部18がプログラム実行中断時の稼働状況Rを正確に判定すれば、再始動条件特定部20は、レーザ加工プログラムPの実行を再開するときのレーザ加工機12の再始動条件C(レーザ発振器32の作動条件、加工ヘッド34の位置等)を適切に設定できる。以下、制御装置14が数値制御(NC)装置の構成を有する場合の事例を説明する。
【0026】
例えば、レーザ加工機12が軟鋼厚板ワークWに対し酸素アシストガスを用いてレーザ穴明け加工を行う場合、レーザ光照射により未完成の穴を形成した後、レーザ光照射を止める一方で酸素アシストガスを継続して吹き付けることにより穴明け加工を進行させることがある。アシストガスのみで穴明けを行っている間、レーザ加工プログラムP(すなわちNCプログラム)には、レーザ光照射を止めるためのドウェル指令が記述されている。このような稼働状況Rにおいてレーザ加工プログラムPの実行が中断された場合、レーザ加工プログラムPの記述からレーザ加工中か否かを判定すると、ドウェル指令が記述されているために、穴明け加工が行われているにもかかわらずレーザ加工中ではないと判定することになる。これに対し、稼働状況判定部18は、制御装置14からアシストガス供給指令が出力されているか否か、又は制御装置14にアシストガス圧モニタ信号が入力されているか否かを判定材料として、稼働状況Rがレーザ加工中であるか否かを判定できるから、プログラム実行中断時にアシストガスのみで穴明けを行っていた状況であっても、稼働状況Rがレーザ加工中であったと正確に判定することができる。
【0027】
また、レーザ加工中にワークWの過熱を緩和するために、レーザ光照射を止める一方でアシストガスを継続して吹き付けることによりワークWを冷却する場合がある。アシストガスによるワーク冷却は、加工品質に影響を及ぼすものであるからレーザ加工の一部であり、したがってこの間のレーザ加工機12の稼働状況Rは、レーザ加工中であると認識すべきである。このような稼働状況Rにおいてレーザ加工プログラムPの実行が中断された場合も、上記したアシストガスのみによる穴明け加工の場合と同様に、レーザ加工プログラムPの記述に基づく判定ではレーザ加工中でなかったと誤判定される恐れがあるのに対し、稼働状況判定部18は、稼働状況Rがレーザ加工中であったと正確に判定することができる。
【0028】
また、レーザ加工中に加工ヘッド34が障害物を回避するために、レーザ光照射を止めた状態で、各軸位置決めではなく直線補間や円弧補間を用いた早送り指令により加工ヘッド34を退避動作させる場合がある。加工ヘッド34の退避動作は、加工品質に影響を及ぼさないからレーザ加工の一部ではなく、したがってこの間のレーザ加工機12の稼働状況Rは、レーザ加工中でないと認識すべきである。このような稼働状況Rにおいてレーザ加工プログラムPの実行が中断された場合、レーザ加工プログラムPの記述に基づく判定では、直線補間や円弧補間を用いた送り指令が通常はレーザ加工中の動作指令であるため、レーザ加工中でないにもかかわらずレーザ加工中であると誤判定される恐れがある。これに対し、稼働状況判定部18は、制御装置14からギャップ制御指令が実時間で出力されているか否か、又は制御装置14にギャップ量モニタ信号が実時間で入力されているか否かを判定材料として、稼働状況Rがレーザ加工中であるか否かを判定できるから、プログラム実行中断時にギャップ制御によらない早送り指令での退避動作を加工ヘッド34が行っていた稼働状況Rは、レーザ加工中でなかったと正確に判定することができる。
【0029】
図3は、レーザ加工システム10、30が実施可能なレーザ加工の一例を模式図的に示す。
図3を参照して、再開準備装置16の再始動条件特定部20(
図1)が行うレーザ加工機12の再始動条件C(
図1、
図2)の特定手法を説明する。
【0030】
一般にレーザ加工では、ワークの加工点の移動速度(つまり加工速度)を、加工点におけるレーザ光の入熱と溶融や熱伝導等による排熱とが釣り合う適切な速度に設定する。また、入熱と排熱との釣り合いを図りながら所定の加工速度まで加速するために、加工開始点の加工条件を定速加工中とは異なる特殊な条件に設定する場合がある。したがって、加工開始点や一定速度での加工中に、レーザ加工プログラムの中断により加工が停止すると、そのこと自体で加工不良が生ずる場合があり、また中断時の加工点で加工を再開することによりさらなる加工不良が生ずる場合がある。
【0031】
図3に示す加工例は、NCプログラムからなるレーザ加工プログラムP(
図1)に従い、板状のワークWをレーザ切断して複数の矩形板W´を作製するものである。加工ヘッド34は、矩形板W´の輪郭の内側の所定位置Q1でピアシングを行った後、得られた孔からレーザ切断を開始して、矩形板W´の輪郭に相当する加工経路に沿って加工点をQ2→Q3→Q4→Q5→……と移動させていく。
図3は、加工経路に沿ったレーザ加工中の位置Q5でレーザ加工プログラムPの実行が中断され、加工ヘッド34が退避した状態を示す。このような状況では、位置Q5で加工を再開することは前述した理由により困難であり、また未加工の加工経路内で加工を再開すると矩形板W´を作製できない。したがって通常、下記(1)〜(4)のいずれかの位置で加工を再開することを検討する。
【0032】
(1)レーザ加工プログラムPの実行を中断した位置Q5の直前の位置Q4。
(2)レーザ加工プログラムPの実行を中断した位置Q5を含むブロック(命令文:図では直線補間)の始点の位置Q3。
(3)レーザ加工プログラムPの実行を中断した位置Q5を含むブロックよりも前のブロック(命令文:図では直線補間)の始点の位置Q2。
(4)レーザ加工プログラムPの実行を中断した位置Q5を含む加工経路の次の加工経路の加工開始点の位置Q6。
【0033】
レーザ加工システム10、30において、再開準備装置16の再始動条件特定部20(
図1)は、ワークWの材質や厚み、レーザ加工の方法や求められる加工品質等に応じて、レーザ加工プログラムPの実行を再開するときのレーザ加工機12(
図1、
図2)の再始動条件C(加工ヘッド34の位置)を、レーザ加工プログラムPに記述されている既定の条件である上記(1)〜(4)の中で特定する。なお、再始動条件特定部20が特定する再始動条件Cを(1)〜(4)の何れとするかについては、例えば、レーザ加工システムの設計時に規則として策定したり、オペレータがプログラム中断時に適宜選択して再開準備装置16に命令したりすることができる。例えば、加工経路に沿ったワークWの重複加工がある程度許容される場合は、(1)〜(3)のいずれかを再始動条件Cとして策定又は選択できる。重複加工距離が最も短いのは(1)であるが、(1)でレーザ加工プログラムPを再開するには制御が比較的複雑になるので、(2)又は(3)を策定又は選択することも有り得る。ワークWの重複加工が許容されない場合は、(4)を策定又は選択する。
【0034】
再始動条件特定部20が、上記した規則又は命令に従い(1)〜(4)の何れかを再始動条件Cとして特定すると、制御装置14は、特定した(1)〜(4)の何れかの位置に加工ヘッド34を移動する制御を行う。(1)〜(4)の位置では、レーザ発振器32の作動条件等の加工再開に必要な他の再始動条件が、レーザ加工プログラムPにおける既定の条件として定められているので、制御装置14が(1)〜(4)の何れかの位置でレーザ加工機12を再始動させることで、レーザ加工プログラムPに従うレーザ加工が再開される。
【0035】
レーザ加工システム10、30において、レーザ加工機12の稼働状況Rがレーザ加工中ではないときにレーザ加工プログラムPの実行が中断された場合は、再始動条件特定部20は、プログラム実行中断時の条件(加工ヘッド34の位置)を再始動条件Cとして、レーザ加工プログラムPにおける既定の条件の中で特定する。この再始動条件Cに基づき、制御装置14は、プログラム実行中断時の位置と同じ位置に加工ヘッド34を配置して、レーザ加工機12を再始動させる。なお
図3の加工例において、レーザ加工機12の稼働状況Rがレーザ加工中でない状況は、例えば、加工ヘッド34を1つの矩形板W´の加工終了点から次の矩形板W´の加工開始点に移動させる早送り指令が制御装置14から出力されている間である。
【0036】
このように、レーザ加工システム10、30では、再開準備装置16の稼働状況判定部18が、レーザ加工プログラムPの実行を中断したときのレーザ加工機12の稼働状況Rがレーザ加工中であったか否かを正確に判定することができるから、再開準備装置16の再始動条件特定部20は、レーザ加工プログラムPの実行を再開するときのレーザ加工機12の再始動条件C(レーザ発振器32の作動条件、加工ヘッド34の位置等)を、プログラム実行中断時のレーザ加工機12の稼働状況Rに応じて適切に設定できる。その結果、レーザ加工システム10、30においては、プログラム中断及びプログラム再開がワークWの被加工部位の加工品質に及ぼす影響を低減できる。
【0037】
稼働状況判定部18が行う稼働状況Rの判定手法は、レーザ加工に必要な所定の操作指令の制御装置14からの出力、又はレーザ加工に必要な所定の外部情報の制御装置14への入力を監視して、この出力又は入力が実時間で行われているか否かに基づいて判定するものであるから、判定用の手段を既存のレーザ加工システムに追加する必要がない。よって、レーザ加工のための制御設計、プログラム作成及びシステム操作が容易になる。また、レーザ加工に関与するシステム構成要素の現実の状況を稼働状況判定部18が監視することになるから、再開準備装置16は、レーザ加工プログラムPを最初から再度実行してプログラム中断時の稼働状況Rを再現するといった煩雑な作業を行うことなく、プログラム中断時の稼働状況Rを容易かつ迅速に再現でき、プログラム再開のための準備を効率的に実施できる。さらに、プログラム中断時の稼働状況Rをレーザ加工プログラムPの記述に基づき判定する手法に比べて、プログラム解読や演算に起因するタイムラグを排除できるので、稼働状況Rがレーザ加工中か否かを一層正確に判定できる。
【0038】
レーザ加工システム10、30において、稼働状況判定部18は、予め定めた1種類の操作指令(例えばアシストガス供給指令、シャッタ開指令又はギャップ制御指令)の制御装置14からの出力、又は予め定めた1種類の外部情報(例えばアシストガス供給モニタ信号、シャッタ開モニタ信号又はギャップ量モニタ信号)の制御装置14への入力を監視して、この出力又は入力が実時間で行われているときに、稼働状況Rがレーザ加工中であると判定することができる。稼働状況判定部18が稼働状況Rの判定材料としてどの操作指令又はどの外部情報を用いるかについては、例えばレーザ加工システム10、30の設計者が、レーザ加工機12の装置構成や実施されるレーザ加工の種類に応じて、予め選定できる。
【0039】
或いは稼働状況判定部18は、レーザ加工機12がワークWを加工するために必要な複数種類の異なる操作指令の、制御装置14からの出力を監視して、これら操作指令のグループのうち少なくとも1つが所定の操作指令として制御装置14から実時間で出力されているときに、稼働状況Rがレーザ加工中であると判定することができる。この構成では、グループに含まれる複数種類の操作指令は、アシストガス供給指令とシャッタ開指令とギャップ制御指令とのうち2つ以上の指令であることができる。
【0040】
また稼働状況判定部18は、レーザ加工機12がワークWを加工するために必要な複数の異なる外部情報の、制御装置14への入力を監視して、これら外部情報のグループのうち少なくとも1つが所定の外部情報として制御装置14に実時間で入力されているときに、稼働状況Rがレーザ加工中であると判定することができる。この構成では、グループに含まれる複数種類の外部情報は、アシストガス供給モニタ信号とシャッタ開モニタ信号とギャップ量モニタ信号とのうち2つ以上の信号であることができる。
【0041】
このように複数種類の操作指令又は外部情報を稼働状況Rの判定材料とすることで、判定の信頼性が向上する。稼働状況判定部18が稼働状況Rの判定材料としてどのような操作指令のグループ又はどのような外部情報のグループを用いるかについては、例えばレーザ加工システム10、30の設計者が、レーザ加工機12の装置構成や実施されるレーザ加工の種類に応じて、予め選定できる。
【0042】
図4は、
図2のレーザ加工システム30に対応する構成を有する他の実施形態によるレーザ加工システム60の、主として制御構成を機能ブロックで示す。
図4において、
図1及び
図2のレーザ加工システム10、30の構成要素と対応する構成要素には共通の参照符号を付す。レーザ加工システム60では、制御装置14は数値制御(NC)装置として構成され、NCプログラムからなるレーザ加工プログラムPが制御装置14に与えられる。また、再開準備装置16(
図1、
図2)は、制御装置14の一機能として構成される。
図4には、制御装置14の一機能として稼働状況判定部18が示されている。
【0043】
制御装置14は、レーザ加工プログラムPを解読するNCプログラム解読部62と、解読されたレーザ加工プログラムPに基づき、種々の制御対象の操作量をそれぞれに演算する機器制御部64、レーザ制御部66、補間制御部68、X軸サーボ制御部70、Y軸サーボ制御部72、Z軸サーボ制御部74及びギャップ制御部76とを備える。機器制御部64は、レーザ加工プログラムPに基づき、ガス供給源48(
図2)の供給制御部であるアシストガスバルブ78の操作量を演算し、当該操作量をアシストガス供給指令としてアシストガスバルブ78に出力する。また機器制御部64には、加工ヘッド34(
図2)に付設されるアシストガス圧の測定器であるアシストガス圧モニタ80から、アシストガス圧モニタ信号が入力される。
【0044】
レーザ制御部66は、レーザ加工プログラムPに基づき、シャッタ42(
図2)の開閉制御部であるシャッタアクチュエータ82の操作量を演算し、当該操作量をシャッタ開指令としてシャッタアクチュエータ82に出力する。またレーザ制御部66には、シャッタ42(
図2)の開閉検出器であるシャッタ開閉モニタ84から、シャッタ開モニタ信号が入力される。レーザ制御部66はさらに、レーザ加工プログラムPに基づき、電源38の制御部であるレーザ電源ユニット86の操作量を演算し、当該操作量をレーザ出力指令としてレーザ電源ユニット86に出力する。またレーザ制御部66には、レーザ出力モニタ88からレーザ出力モニタ信号が入力される。
【0045】
補間制御部68は、レーザ加工プログラムPに基づき、駆動機構36(
図2)に設けられる3個の制御軸(X軸、Y軸、Z軸)に関する直線補間や円弧補間の操作量を演算し、当該補間操作量をX軸サーボ制御部70、Y軸サーボ制御部72及びZ軸サーボ制御部74に与える。X軸サーボ制御部70は、与えられた補間操作量から駆動機構36のX軸サーボモータ90の操作量を演算して、当該操作量を駆動機構36のX軸サーボアンプ92に出力する。またX軸サーボ制御部70には、X軸サーボモータ90に付設されるX軸パルスコーダ94からX軸位置モニタ信号が入力される。Y軸サーボ制御部72は、与えられた補間操作量から駆動機構36のY軸サーボモータ96の操作量を演算して、当該操作量を駆動機構36のY軸サーボアンプ98に出力する。またY軸サーボ制御部72には、Y軸サーボモータ96に付設されるY軸パルスコーダ100からY軸位置モニタ信号が入力される。Z軸サーボ制御部74は、与えられた補間操作量から駆動機構36のZ軸サーボモータ102の操作量を演算して、当該操作量を駆動機構36のZ軸サーボアンプ104に出力する。またZ軸サーボ制御部74には、Z軸サーボモータ102に付設されるZ軸パルスコーダ106からZ軸位置モニタ信号が入力される。
【0046】
ギャップ制御部76は、レーザ加工プログラムPに基づき、ギャップG(
図2)を目標値に維持するためのZ軸サーボモータ102の操作量を演算して、当該操作量をZ軸サーボ制御部74に与え、Z軸サーボ制御部74が当該操作量をギャップ制御指令としてZ軸サーボアンプ104に出力する。ギャップ制御部76には、ギャップ測定器108からギャップ量モニタ信号が入力される。
【0047】
レーザ加工システム60において、制御装置14の一機能である稼働状況判定部18は、レーザ加工機12(
図1、
図2)がワークW(
図1、
図2)を加工するために必要な所定の操作指令(アシストガス供給指令、シャッタ開指令若しくはギャップ制御指令、又はこれらの適当な組合せ)の、制御装置14からの出力を監視して、レーザ加工プログラムPの実行中断時に、当該操作指令が制御装置14から出力されている場合は、プログラム実行中断時のレーザ加工機12の稼働状況Rがレーザ加工中であると判定する。また稼働状況判定部18は、レーザ加工機12(
図1、
図2)がワークW(
図1、
図2)を加工するために必要な所定の外部情報(アシストガス供給モニタ信号、シャッタ開モニタ信号若しくはギャップ量モニタ信号、又はこれらの適当な組合せ)の、制御装置14への入力を監視して、レーザ加工プログラムPの実行中断時に、当該外部情報が制御装置14に入力されている場合は、プログラム実行中断時のレーザ加工機12の稼働状況Rがレーザ加工中であると判定する。さらに稼働状況判定部18は、レーザ加工プログラムPの実行中断時に、上記操作指令の制御装置14からの出力及び上記外部情報の制御装置14への入力がいずれも行われていない場合は、プログラム実行中断時のレーザ加工機12の稼働状況Rがレーザ加工中ではないと判定する。
【0048】
図5〜
図7は、レーザ加工システム10、30、60が実施可能なレーザ加工の他の幾つかの例を模式図的に示す。
図5〜
図7を参照して、再開準備装置16が行う準備処理の事例をさらに説明する。
【0049】
図5に示す加工例は、NCプログラムからなるレーザ加工プログラムP(
図4)に従い、板状のワークWをレーザ切断して図示実線の形状を有する板W´を作製するものである。加工ヘッド34(
図2)は、板W´の輪郭に相当する加工経路に沿って、補間指令に従いS1→S2→S3→S4→S3→S5→S2→S6→……と移動する。この加工例を記述するレーザ加工プログラムPは、板W´の角部の熱集中による切断品質劣化を防ぐために、S1→S2をレーザ発振せずに加速してS2でレーザ発振し、S2→S3を一定速度で移動しながらレーザ切断した後、S3→S4→S3をレーザ発振せずに送り、S3→S5→S2を再び一定速度で移動しながらレーザ切断し、S2でレーザ発振を止めた後、S6で板W´の加工を終了するものである。S2が加工開始点及び加工終了点ではないから、加減速時の低速によるレーザ切断を回避できる。またS3で減速しないので、角部の周辺を低速でレーザ切断することがない。これにより、S2及びS3の周辺の加工品質は他の箇所と同等になる。なお、ワークWを厚さ1mmの冷間圧延鋼板とし、レーザ発振器32(
図2)から発信されるレーザ光の出力を1kWとし、加工ヘッド34(
図2)からワークWに吹き付けるアシストガスを酸素とすることができる。
【0050】
上記加工例では、S1→S2の工程及びS3→S4→S3の工程は、いずれもワークWにレーザ光を照射しないので、レーザ加工プログラムPにレーザ発振命令は記述されていない。しかし、S1→S2又はS3→S4→S3を移動している間にレーザ加工プログラムPの実行が中断した場合、S2又はS3(S4後)でレーザ加工機12(
図1、
図2)を再始動させると、S2又はS3の直後の切断速度は命令速度に達していないので、所望の切断品質を得ることが困難である。
【0051】
そこで、再開準備装置16の稼働状況判定部18(
図1、
図2)は、上記したプログラム実行中断時に、制御装置14(
図1、
図2)からアシストガス供給指令が出力されているとき、又は制御装置14にアシストガス圧モニタ信号が入力されているときに、プログラム実行中断時の稼働状況R(
図1)がレーザ加工中であると判定する。上記加工例では、S1→S2→S3→S4→S3→S5→S2の間、アシストガスバルブ78(
図4)にアシストガス供給指令が出力され、またアシストガス圧モニタ80(
図4)からアシストガス圧モニタ信号が入力される。したがって、S1→S2又はS3→S4→S3の間にレーザ加工プログラムPの実行が中断した場合、稼働状況判定部18は、プログラム実行中断時の稼働状況Rがレーザ加工中であったと判定する。
【0052】
そして再始動条件特定部20(
図1)は、プログラム実行中断時の稼働状況Rがレーザ加工中であった場合の再始動条件Cの前述した選択肢(1)〜(4)から、適当な再始動条件Cを特定する。例えば、(3)を再始動条件Cとして、S1に戻ってレーザ加工機12を再始動させたり、或いは、(4)を再始動条件Cとして、次に切断する板W´の加工開始点(S1相当)でレーザ加工機12を再始動させたりすることができる。
【0053】
或いは、稼働状況判定部18は、上記したプログラム実行中断時に、制御装置14からシャッタ開指令が出力されているとき、又は制御装置14にシャッタ開モニタ信号が入力されているときに、プログラム実行中断時の稼働状況Rがレーザ加工中であると判定する。上記加工例では、S1→S2→S3→S4→S3→S5→S2→S6の間、シャッタアクチュエータ82(
図4)にシャッタ開指令が出力され、またシャッタ開閉モニタ84(
図4)からシャッタ開モニタ信号が入力される。したがって、S1→S2又はS3→S4→S3の間にレーザ加工プログラムPの実行が中断した場合、稼働状況判定部18は、プログラム実行中断時の稼働状況Rがレーザ加工中であったと判定する。
【0054】
なお、シャッタ42(
図2)の開閉時期は、レーザ加工プログラムPで適宜設定できる。例えば、ワークWを交換する間や、1つの製品の加工終了点から次の製品の加工開始点までの移動の間等、レーザ発振器32が予め定めた時間を越えてレーザ発振を行わない場合に、シャッタ42を閉じることができる。上記加工例におけるS3→S4→S3のような、短時間だけレーザ発振を止める間は、シャッタ42を開いたままにしておくことができる。
【0055】
或いは、稼働状況判定部18は、上記したプログラム実行中断時に、制御装置14からギャップ制御指令が出力されているとき、又は制御装置14にギャップ量モニタ信号が入力されているときに、プログラム実行中断時の稼働状況Rがレーザ加工中であると判定する。上記加工例では、S1→S2→S3→S4→S3→S5→S2→S6の間、Z軸サーボアンプ104(
図4)にギャップ制御指令が出力され、またギャップ測定器108(
図4)からギャップ量モニタ信号が入力される。したがって、S1→S2又はS3→S4→S3の間にレーザ加工プログラムPの実行が中断した場合、稼働状況判定部18は、プログラム実行中断時の稼働状況Rがレーザ加工中であったと判定する。
【0056】
上記加工例では、S1→S2で加速した後はS2→S3→S4→S3→S5→S2→S6を一定速度で移動することにより、短時間で板W´を切断することを可能にしている。レーザ発振を止めるS3→S4→S3の間も、レーザ発振しているステップと同じギャップ制御を行うことにより、S2以降を一定速度で移動することが可能となる。レーザ発振を止めている間のこのような移動は、加工品質に影響を及ぼすものであるからレーザ加工の一部であり、この間のレーザ加工機12の稼働状況Rは、稼働状況判定部18によりレーザ加工中であると正確に判定される。
【0057】
他方、S3→S4→S3の間、ギャップ制御を行わずに、或いはギャップG(
図2)を拡大するギャップ制御を行って、加工ヘッド34を一時的に退避させる場合もある。この場合、加工品質を維持するために、S3→S4→S3で加工ヘッド34を減速及び加速する。この場合には、稼働状況判定部18は、制御装置14に入力されるギャップ量モニタ信号を予め定めた閾値と比較して、ギャップ量が閾値以下のとき(すなわちS3→S4→S3を除く工程)に、プログラム実行中断時の稼働状況Rがレーザ加工中であると判定する。
【0058】
図6に示す加工例は、NCプログラムからなるレーザ加工プログラムP(
図4)に従い、板状のワークWにピアシングを行うものである。図示加工例は、ワークWに比較的短時間で比較的大径の孔Hを加工するための以下のステップT1〜T5を有する。なお、ワークWを厚さ6mmの軟鋼板とし、加工ノズル46からワークWに吹き付けるアシストガスを酸素とすることができる。
【0059】
ステップT1:
レーザ発振に先立ち、加工ノズル46がワークWに近接し、レーザ発振器32(
図2)に付設したシャッタ42が開く。
【0060】
ステップT2:
アシストガスAを加工ノズル46からワークWに吹き付け、加工ノズル46の内圧が所定ガス圧になった時点でレーザ光Lを0.3秒間ワークWに照射する。レーザ光Lにより高温になったワークWの表面は、高濃度のアシストガスの雰囲気中で燃焼する。
【0061】
ステップT3:
レーザ光の照射を止める一方、アシストガスAを継続して約0.7秒間ワークWに吹き付ける。これにより燃焼が進み、孔Hが形成される。
【0062】
ステップT4:
アシストガスの供給を停止し、燃焼反応を終了させて孔Hの形成を完了する。この状態で約0.4秒放置してワークWを冷却すると、再度アシストガスを供給しても燃焼は生じない。
【0063】
ステップT5:
ワークWへのレーザ光Lの照射とアシストガスAの供給を再開し、加工ノズル46とワークWとを相対移動させて、孔Hを起点にレーザ加工を開始する。
【0064】
上記加工例において、レーザ光Lが出射されないステップT3又はステップT4では、レーザ加工プログラムPにレーザ発振命令は記述されていない。しかし、ステップT3又はステップT4の間にレーザ加工プログラムPの実行が中断した場合、孔Hの形成が不完全となり、ステップT5からレーザ加工機12(
図1、
図2)を再始動させると、不完全な孔Hを加工開始点とするためにその後のレーザ切断が加工不良となる場合がある。
【0065】
そこで、再開準備装置16の稼働状況判定部18は、上記したプログラム実行中断時に、制御装置14からシャッタ開指令が出力されているとき、又は制御装置14にシャッタ開モニタ信号が入力されているときに、プログラム実行中断時の稼働状況Rがレーザ加工中であると判定する。上記加工例では、ステップT3及びステップT4の間、シャッタアクチュエータ82(
図4)にシャッタ開指令が出力され、またシャッタ開閉モニタ84(
図4)からシャッタ開モニタ信号が入力される。したがって、ステップT3又はステップT4の間にレーザ加工プログラムPの実行が中断した場合、稼働状況判定部18は、プログラム実行中断時の稼働状況Rがレーザ加工中であったと判定する。
【0066】
そして再始動条件特定部20(
図1)は、プログラム実行中断時の稼働状況Rがレーザ加工中であった場合の再始動条件Cの前述した選択肢(1)〜(4)から、適当な再始動条件Cを特定する。例えば、(3)を再始動条件Cとして、ステップT1の初期位置に戻ってレーザ加工機12を再始動させることができる。
【0067】
或いは、稼働状況判定部18は、上記したプログラム実行中断時に、制御装置14からアシストガス供給指令が出力されているとき、又は制御装置14にアシストガス圧モニタ信号が入力されているときに、プログラム実行中断時の稼働状況Rがレーザ加工中であると判定する。上記加工例では、ステップT4でアシストガスの供給が止まると、加工ノズル46内に残留するアシストガスの圧力が徐々に減じ、それに伴い燃焼反応が停止する。したがって、ステップT3又はステップT4の間にレーザ加工プログラムPの実行が中断した場合、稼働状況判定部18は、アシストガス圧モニタ信号を予め定めた閾値と比較して、アシストガス圧が閾値を超えているときに、プログラム実行中断時の稼働状況Rがレーザ加工中であったと判定する。
【0068】
図7に示す加工例は、NCプログラムからなるレーザ加工プログラムP(
図4)に従い、板状のワークWにレーザ溶接や熱処理を行うものであり、以下のステップU1〜U4を有する。なお、ワークWを厚さ1mmの軟鋼板とすることができる。
【0069】
ステップU1:
レーザ発振に先立ち、加工ノズル46が所定位置からワークWに近接し、レーザ発振器32(
図2)に付設したシャッタ42が開く。所定位置からの加工ノズル46のワークWへの近接動作は、ギャップ制御により行われる。
【0070】
ステップU2:
ギャップGが目標値に達した後、レーザ光の照射を開始して、ギャップ制御を行いながら補間指令に従い加工ノズル46を移動し、ワークWにレーザ溶接や熱処理を行う。
【0071】
ステップU3:
1つの加工経路の加工が完了した後、レーザ発信を停止し、補間指令に従い次の加工経路の加工開始点に加工ノズル46を移動する。このとき、例えば障害物を避けるため、ギャップ制御を一端中止して、ギャップ目標値よりも大きなギャップ量が得られるまで加工ノズル46を上方へ退避させる制御を行い、障害物を通過した後にギャップ制御を再開してギャップ目標値まで加工ノズル46をワークWに近接させる。
【0072】
ステップU4:
ギャップGが目標値に達した後、レーザ光の照射を開始して、ギャップ制御を行いながら補間指令に従い加工ノズル46を移動し、次の加工経路に沿ってレーザ溶接や熱処理を行う。
【0073】
上記加工例において、レーザ光Lが出射されないステップU1又はステップU3では、レーザ加工プログラムPにレーザ発振命令は記述されていない。しかし、ステップU1の間にレーザ加工プログラムPの実行が中断した場合、ギャップGが目標値に達していないので、ステップU2からレーザ加工機12(
図1、
図2)を再始動させると、ギャップGが目標値に達するまでの間が加工不良となる場合がある。
【0074】
そこで、再開準備装置16の稼働状況判定部18は、上記したプログラム実行中断時に、制御装置14からギャップ制御指令が出力されているとき、又は制御装置14にギャップ量モニタ信号が入力されているときに、プログラム実行中断時の稼働状況Rがレーザ加工中であると判定する。上記加工例では、ステップU1及びステップU3(但しギャップ制御中)の間、Z軸サーボアンプ104(
図4)にギャップ制御指令が出力され、またギャップ測定器108(
図4)からギャップ量モニタ信号が入力される。したがって、ステップU1及びステップU3(但しギャップ制御中)の間にレーザ加工プログラムPの実行が中断した場合、稼働状況判定部18は、プログラム実行中断時の稼働状況Rがレーザ加工中であったと判定する。
【0075】
そして再始動条件特定部20(
図1)は、プログラム実行中断時の稼働状況Rがレーザ加工中であった場合の再始動条件Cの前述した選択肢(1)〜(4)から、適当な再始動条件Cを特定する。例えば、(3)を再始動条件Cとして、ステップU1の初期位置に戻ってレーザ加工機12を再始動させることができる。
【0076】
レーザ加工システム10、30、60において、例えば、高出力のレーザ発振器32(
図2)を備えている場合、レーザ発振器32の熱的状態が安定するまではレーザ光の出力が不安定になることがある。この対処策として、例えば
図3、
図5〜
図7に示すような一連のレーザ加工工程に先立ち、シャッタ42(
図2)を閉じたままでレーザ発振を開始し、レーザ光をレーザ発振器32に内蔵したレーザ吸収器に吸収させることでレーザ発振器32を適当に暖機した後に、シャッタ42を開いてレーザ光を加工ヘッド34(
図2)から出射する制御を行う場合がある。この場合には、シャッタ42を閉じた状態でのレーザ発振もレーザ加工の一部と見なすべきである。
【0077】
そこで、レーザ加工システム10、30、60は、所定の操作指令(アシストガス供給指令、シャッタ開指令又はギャップ制御指令)が制御装置14(
図1、
図2)から出力されておらず、かつ所定の外部情報(アシストガス供給モニタ信号、シャッタ開モニタ信号又はギャップ量モニタ信号)が制御装置14に入力されていないときは、稼働状況判定部18(
図1)が、制御装置14からレーザ発振指令がレーザ電源ユニット86(
図4)に出力されているとき、又は制御装置14にレーザ出力モニタ信号がレーザ出力モニタ88から入力されているか若しくはレーザ加工プログラムPによってレーザ加工命令が入力されているときに、稼働状況Rがレーザ加工中であると判定するように、構成することができる。この構成によれば、稼働状況判定部18は、例えば、シャッタ42が開いている稼働状況Rだけでなく、シャッタ42が閉じている一方でレーザ発振している稼働状況Rも、レーザ加工中と判定することができる。
【0078】
さらに、レーザ加工システム10、30、60は、再開準備装置16(
図1)が、レーザ加工プログラムP(
図1)の実行を中断した事由が解消したときに、前述した準備処理を自動的に行って、再始動条件特定部20(
図1)が再始動条件C(
図1)を自動的に特定し、制御装置14(
図1)が、レーザ加工プログラムPの実行を再開する再開命令が与えられるまでの間、レーザ加工機12(
図1)を再始動条件Cで再始動する位置に待機するように制御する構成を、有することができる。
【0079】
この構成によれば、例えば
図3、
図5〜
図7に示すような一連のレーザ加工工程において、レーザ加工プログラムPの実行中断後にその事由(停電等)が解消されると、レーザ加工機12は再始動条件Cで再始動する位置に自動的に配置される。そして、例えばオペレータは、レーザ加工機12に機能上の問題が無いこと、レーザ加工機12の作業領域の安全が確保されていること等、レーザ加工プログラムPの実行再開に支障の無いことを確認した後に、制御装置14に再開命令を与える。この再開命令により、レーザ加工機12が再始動するので、プログラム実行再開後の安全を保証できる。
【0080】
さらに、レーザ加工システム10、30、60は、稼働状況判定部18が、レーザ加工プログラムPに記述されているレーザ加工の内容に応じて、前述した所定の操作指令又は所定の外部情報を選定し、選定した操作指令又は外部情報に基づき稼働状況Rを判定するように、構成することができる。この構成によれば、例えばレーザ加工機12(
図1)が、異なる素材や寸法を有する複数種類のワークWに対して順次、内容の異なるレーザ加工を実施する場合、何れかのレーザ加工プログラムPの実行が中断されたときに、当該レーザ加工プログラムPの加工内容に適した操作指令や外部情報を稼働状況Rの判定材料として選定することで、プログラム実行中断時の稼働状況Rを正確に判定することができる。
【0081】
前述した所定の操作指令又は所定の外部情報と、レーザ加工の内容との相関性は、例えば以下のように解釈できる。
(i)アシストガス供給指令又はアシストガス供給モニタ信号
圧力の高いアシストガスや、純度の高いアシストガスが要求されるレーザ加工において、プログラム実行中断時の稼働状況Rの判定材料として好適である。例えば、ステンレス厚板は高圧の窒素ガスを必要とし、軟鋼厚板は高純度の酸素ガスを必要とする。高圧の窒素ガスの場合、レーザ発振の前に加工ヘッド内のアシストガスの圧力を目標値まで上昇させるのに時間を要する。また高純度の酸素ガスの場合、レーザ発振の前にアシストガス配管や加工ヘッド内の空気を排除してアシストガスの純度を上げるのに時間を要する。これらの先行動作を「レーザ加工中」と判定することで、適切な再開準備処理を行うことができる。
【0082】
(ii)シャッタ開指令又はシャッタ開モニタ信号
レーザ加工全般において、プログラム実行中断時の稼働状況Rの判定材料として好適である。但し、レーザ加工機12(
図1)の機械構成に依存してレーザ加工のサイクル時間を意図的に短縮したい場合等、前述した先行動作や後続動作ではない状況(例えば加工終了点から次の加工開始点への移動)でもシャッタ42(
図2)を開放する場合がある。このような場合は、シャッタ開指令又はシャッタ開モニタ信号を稼働状況Rの判定材料とはしないことが望ましい。
【0083】
(iii)ギャップ制御指令又はギャップ量モニタ信号
レーザ加工全般において、プログラム実行中断時の稼働状況Rの判定材料として好適である。但し、軟鋼厚板のピアシングに際し、ノズル退避時と同程度のギャップ量の位置でレーザ発振を開始する場合がある。また、塗装鋼板の切断に際し、切断に先立って塗装を剥がすためにノズル退避時よりも大きなギャップ量を維持しながら切断経路に沿ってレーザ光を照射する場合がある。これらのような場合は、ギャップ制御指令又はギャップ量モニタ信号を稼働状況Rの判定材料とはしないことが望ましい。
【0084】
(iv)レーザ出力指令又はレーザ出力モニタ信号若しくはレーザ加工命令
レーザ発振に関わる命令、指令やフィードバック信号は、前述したように、単独では稼働状況Rの誤判定の要因となり得るので、(i)〜(iii)のいずれかと組み合わせて用いることが好適である。但し、ワークWの素材が木材、紙、布等の場合は、(i)〜(iii)の操作指令や外部情報の状況に関わらずレーザ光を照射しさえすれば良好な切断が期待できるので、レーザ出力指令又はレーザ出力モニタ信号若しくはレーザ加工命令だけを稼働状況Rの判定材料とすることもできる。
【0085】
以上、図面を参照して本発明の実施形態を説明したが、本発明は上記実施形態に限定されない。例えば、プログラム実行中断時の稼働状況Rの判定材料となる所定の操作指令又は所定の外部情報は、上記(i)〜(iv)に限定されない。