特許第5902801号(P5902801)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5902801ステロイド骨格の24位を還元する酵素をコードする遺伝子および該遺伝子の発現が低下した植物体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5902801
(24)【登録日】2016年3月18日
(45)【発行日】2016年4月13日
(54)【発明の名称】ステロイド骨格の24位を還元する酵素をコードする遺伝子および該遺伝子の発現が低下した植物体
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/09 20060101AFI20160331BHJP
   A01H 5/00 20060101ALI20160331BHJP
   C12Q 1/68 20060101ALI20160331BHJP
   C12N 9/02 20060101ALN20160331BHJP
【FI】
   C12N15/00 AZNA
   A01H5/00 A
   A01H5/00 Z
   C12Q1/68 A
   !C12N9/02
【請求項の数】8
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2014-506305(P2014-506305)
(86)(22)【出願日】2013年3月22日
(86)【国際出願番号】JP2013058418
(87)【国際公開番号】WO2013141383
(87)【国際公開日】20130926
【審査請求日】2014年9月19日
(31)【優先権主張番号】特願2012-68039(P2012-68039)
(32)【優先日】2012年3月23日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000253503
【氏名又は名称】キリンホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091096
【弁理士】
【氏名又は名称】平木 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100118773
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 節
(74)【代理人】
【識別番号】100111741
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 夏夫
(72)【発明者】
【氏名】梅基 直行
(72)【発明者】
【氏名】大塚 雅子
【審査官】 渡邉 潤也
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2011/025011(WO,A1)
【文献】 GenBank,2010年 8月 2日,Accession No. FN995650, <http://www.ncbi.nlm.nih.gov/nuccore/FN995650>
【文献】 Nahar, N.,Regulation of sterol and glycoalkaloid biosynthesis in potato (Solanum tuberosum L.) : identification of key genes and enzymatic steps,Acta Universitatis agriculturae Sueciae,2011:15,URL,http://pub.epsilon.slu.se/2444/
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00−15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
PubMed
DWPI(Thomson Innovation)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(a)〜(e)のいずれかのDNAからなる、ナス科植物のステロイド骨格のC24とC25の間の2重結合を還元する酵素をコードする遺伝子の発現を抑制することを特徴とする、矮化の症状を示さず、かつ、グリコアルカロイドの蓄積リスクの低減したナス科植物植物体を作出する方法
(a) 配列番号2または配列番号22に示す塩基配列からなるDNA;
(b) 配列番号2または配列番号22に示す塩基配列と85%以上の配列同一性を有する塩基配列からなり、かつ、ナス科植物のステロイド骨格のC24とC25の間の2重結合を還元するタンパク質をコードするDNA;
(c) 配列番号2または配列番号22に示す塩基配列の縮重異性体からなるDNA;
(d) 配列番号1または配列番号21に示すアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA;および
(e) 配列番号1または配列番号21に示すアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、ナス科植物のステロイド骨格のC24とC25の間の2重結合を還元するタンパク質をコードするDNA
【請求項2】
ナス科植物植物体がジャガイモである請求項1記載の方法。
【請求項3】
記遺伝子の発現の抑制が、遺伝子の組換えによりもたらされるものである請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
記遺伝子の発現の抑制が、前記酵素をコードする遺伝子の欠失によりもたらされるものである請求項1又は2に記載の方法。
【請求項5】
記遺伝子に突然変異および/または多型を有する植物体を母本として、交配により得られた後代を選抜することを含むものである、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項6】
前記母本が、変異処理による前記遺伝子の人為的改変により得られたものである、請求項に記載の方法。
【請求項7】
前記母本の取得と後代の選抜において、
(a) (i) ゲノムDNAまたはRNAである核酸を植物から単離する工程、
(ii) (i)の核酸がRNAである場合に逆転写しcDNAを合成する工程、
(iii) (i)または(ii)の工程で得られたDNAから配列番号2、配列番号7または配列番号22に示す塩基配列の少なくとも一部を含有する遺伝子断片を増幅する工程、および
(iv) DNA中に突然変異および/または多型の存在を決定する工程、ならびに
(b) 前記植物におけるグリコアルカロイド含量を分析する工程によりグリコアルカロイド含量が低減された植物体を選抜する工程、
を含むものである、請求項5又は6に記載の方法。
【請求項8】
以下の(a)〜(e)のいずれかのDNAからなる、ナス科植物のステロイド骨格のC24とC25の間の2重結合を還元する酵素をコードする遺伝子の発現が抑制され、矮化の症状を示さず、かつ、グリコアルカロイドの蓄積リスクの低減したナス科植物植物体:
(a) 配列番号2または配列番号22に示す塩基配列からなるDNA;
(b) 配列番号2または配列番号22に示す塩基配列と85%以上の配列同一性を有する塩基配列からなり、かつ、ナス科植物のステロイド骨格のC24とC25の間の2重結合を還元するタンパク質をコードするDNA;
(c) 配列番号2または配列番号22に示す塩基配列の縮重異性体からなるDNA;
(d) 配列番号1または配列番号21に示すアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA;および
(e) 配列番号1または配列番号21に示すアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、ナス科植物のステロイド骨格のC24とC25の間の2重結合を還元するタンパク質をコードするDNA
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジャガイモ等ナス科植物におけるステロイド骨格の24位を還元する酵素、当該ステロイド骨格の24位を還元する酵素をコードするDNA、および当該DNAを用いた新たなジャガイモ等ナス科植物の育種、選抜方法、ならびに前記酵素をコードする遺伝子の発現が抑制されているか、または前記酵素の活性が変化し、グリコアルカロイドを蓄積しないジャガイモ等ナス科植物に関する。
【背景技術】
【0002】
グリコアルカロイドはステロイダルアルカロイドとも呼ばれる一群の植物由来の化合物である。構造的には炭素鎖が27のイソプレノイドに窒素原子が含まれるものであり、ナス属植物の422種がグリコアルカロイドを含むことが報告されている(非特許文献1の7.8章)。ナス属以外のナス科植物ではユリ科でもグリコアルカロイドを含むものが知られている。その中でも重要なものとしてナス科ナス属のジャガイモ(Solanum tuberosum)のチャコニンおよびソラニン、ならびにトマト(Solanum lycopersicum)のトマチンである。
【0003】
ジャガイモは、トウモロコシ、イネ、コムギに次いで世界第四番目の生産量を示す作物であるが、塊茎から出る芽や地上部植物は有毒なチャコニンおよびソラニンを含んでいることは周知の事実である。チャコニンやソラニンにより腹痛、めまい、軽い意識障害等の中毒症状を引き起こす。塊茎も、傷害を受けることや太陽光に曝されることでチャコニンおよびソラニンを容易に蓄積するため、塊茎の管理を誤ると中毒事故を起こす危険がある。
【0004】
これらの中毒事故はしばしば起きており、最近では2009年7月16日に日本国奈良市の小学校でグリコアルカロイドの中毒事件が発生している(Asahi.com報道)。ジャガイモの塊茎は暗所で保存すること等により20mg/100g以下のグリコアルカロイドになるように管理されているため通常は安全な食品である。しかしながら、上記のような中毒事故の危険性を考慮すると、バイレイショにおけるグリコアルカロイドを低減させることはジャガイモの育種、生産、貯蔵、輸送、販売、購買などあらゆるジャガイモを扱っている関係者の関心事である。しかし現在まで達成することはできてはいない。その理由としてはグリコアルカロイドのない野生種のジャガイモはないと言われていること、グリコアルカロイド生合成経路が未確定であり(非特許文献1の図7.24A,B、非特許文献2)、生合成経路に関与する遺伝子の同定が進まなかったことにある。
【0005】
グリコアルカロイドはコリンエステラーゼ阻害活性や膜破壊効果等の毒性を持つが、それ以外に、抗癌性活性、肝臓保護効果、鎮痙効果、免疫系促進効果、抗カビ性効果、抗原虫性効果、殺貝剤活性などの薬用作用が知られている(非特許文献1)。トマトではグリコアルカロイドの代謝産物であるesculeoside Aがさまざまな生理学的作用を示すことも報告されている(非特許文献3)。しかし生合成経路が不明であることから、代謝産物を抑制することや効率よく生産する研究・開発はほとんど進んでこなかった。
【0006】
アグリコン以降の糖転移過程を触媒する酵素遺伝子が幾つか報告されている(非特許文献4〜6)。しかし、非特許文献4ではアグリコンであるソラニジンからのγソラニンへの経路であるUDP-ガラクトシルトランスフェラーゼの遺伝子と、当該遺伝子の抑制株を報告しているが、チャコニンの生成は全く抑制できていない(非特許文献4の図2)。非特許文献4ではソラニジンからのγチャコニンへの経路であるUDP-グルコシルトランスフェラーゼの遺伝子と、当該遺伝子の抑制株を報告しているが、チャコニンおよびソラニンいずれの生成も殆ど抑制できていない(非特許文献5の図5)。非特許文献6ではβチャコニンからαチャコニン、βソラニンからαソラニンへの経路であるラムノシルトランスフェラーゼの遺伝子を報告しているが、当該遺伝子の抑制によりα体は減少しているがβ体やγ体は増加している。このように糖転移過程を抑制してもグリコアルカロイド分子種を変化させることはできるが、グリコアルカロイドの総量を調節することは極めて難しいことがわかる。最近、グリコアルカロイドの生合成経路に関わる酸化経路を触媒する酵素遺伝子が報告された(特許文献1)。しかし、具体的な酵素反応は依然不明である。
【0007】
植物ステロールや植物ホルモンの生合成遺伝子を過剰発現することでグリコアルカロイドの低下を試みた報告がある(非特許文献7)。しかしグリコアルカロイド量は多くても半分程度にしか減少できておらず、経路を改変することにおいては有効な手段を提供していない(非特許文献7の図5)。
【0008】
植物においては、主に24位にメチル基が導入される経路以降に生産される植物ステロールが生産される。この経路の生合成遺伝子としてシロイヌナズナのDWF1遺伝子(非特許文献8と9)が知られており、酵素反応はステロイドのΔ24(28)(C24とC28の間の2重結合)を還元する、つまり24位のメチレン等を還元する反応を触媒する。DWF1遺伝子とヒトのステロイド骨格の24位の2重結合(Δ24、C24とC25の間の2重結合)を還元する酵素(3β-ヒドロキシコレステロールΔ24-還元酵素)遺伝子であるDHCR24遺伝子の間には弱い相同性があることが知られている。一方、ナス科の植物では植物ステロールとは別にコレステロールの生産が認められる(非特許文献10)。しかし、その生合成経路は不明であり、コレステロールがグリコアルカロイド生合成経路の出発物質であることが予想されてきたが(非特許文献11、12)、いままでに確証は示されていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】WO 2011/025011
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Eich, Solanaceae and Convolvulaceae: Secondary Metabolite (2008), Springer
【非特許文献2】Ginzbergら、 Potato Research (2009) 52: 1-15
【非特許文献3】Noharaら、 J. Nat. Prod. (2010) 73: 1734-1741
【非特許文献4】McCueら、 Plant Sci.(2005) 168: 267-273
【非特許文献5】McCueら、Phytochemistry (2006) 67: 1590-1597
【非特許文献6】McCueら、Phytochemistry (1998) 68: 327-334
【非特許文献7】Arnqvistら、 Plant Physiol. (2003) 131: 1792-1799
【非特許文献8】Choeら, Plant Physiol., 1999, 119:897-907
【非特許文献9】Klahreら, Plant Cell, 1998, 10:1677-1690
【非特許文献10】Heftmann、 Phytochemistry (1983) 22: 1843-1860
【非特許文献11】Eckart Eich, ‘Solanaceae and ConVolvulaceae: Secondary Metabolite,’ 2008, Springer, Heidelberg, Germany, p.368-370
【非特許文献12】金子ら, Phytochemistry (1977) 16: 791-793
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、ステロイド骨格の24位を還元する酵素、当該ステロイド骨格の24位を還元する酵素をコードするDNA、および当該DNAを用いた新たなナス科植物の育種、選抜方法、ならびに前記酵素をコードする遺伝子の発現が抑制されているか、または前記酵素の活性が変化し、グリコアルカロイドを含むコレステロール類を産生しないナス科植物の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた。本発明者は、グリコアルカロイドの生合成の初発物質がコレステロールであるとされていることに着目した。この植物ステロールとコレステロールを分岐する遺伝子としてはステロールメチルトランスフェラーゼ1であると推定され研究されてきた(非特許文献7)。しかし、我々はコレステロール自体を合成する酵素(コレステロール合成酵素、ステロイド骨格の24位の2重結合(Δ24、C24とC25の間の2重結合)を還元する酵素(3β-ヒドロキシコレステロールΔ24-還元酵素、24位還元酵素)に着目し候補遺伝子をin silicoで探しだし、その一部分を用いてRNAiを起こす形で発現させることで内在性の候補遺伝子の発現を抑制させた。その結果、形質転換体の中で顕著にグリコアルカロイド含量が低下しているジャガイモを得ることに成功するとともにグリコアルカロイド生合成酵素遺伝子を同定することができた。また、本遺伝子の発現が抑制された植物を選抜することでグリコアルカロイドを蓄積しないジャガイモ等ナス科植物を得ることを示した。同遺伝子のゲノム配列を各種のナス科植物で比較することにより多型を解析することが可能となり新規に育種されたナス科植物を作出することが可能になることを示し、本発明を完成させるに至った。同様にしてトマトにおいても内在性の遺伝子を抑制することでグリコアルカロイド含量の低減されたトマトを作出することができた。
【0013】
即ち、本発明は以下の発明を包含する。
【0014】
[1] ナス科植物のステロイド骨格の24位を還元する酵素の活性を抑制すること、または該酵素をコードする遺伝子の発現を抑制することを特徴とする、グリコアルカロイドの蓄積リスクの低減した植物体を作出する方法。
【0015】
[2] 植物体が栽培品種である[1]の方法。
【0016】
[3] 前記酵素が、以下の(a)または(b)のタンパク質:
(a) 配列番号1または配列番号21に示すアミノ酸配列からなるタンパク質;および
(b) 配列番号1または配列番号21に示すアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、ナス科植物のステロイド骨格の24位を還元するタンパク質;
である、[1]または[2]の方法。
【0017】
[4] 前記酵素が、以下の(c)〜(f)のいずれかのDNAからなる遺伝子;
(c) 配列番号2または配列番号22に示す塩基配列からなるDNA;
(d) 配列番号2または配列番号22に示す塩基配列からなるDNAに相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、ナス科植物のステロイド骨格の24位を還元する活性を有するタンパク質をコードするDNA;
(e) 配列番号2または配列番号22に示す塩基配列と80%以上の配列同一性を有する塩基配列からなり、かつ、ナス科植物のステロイド骨格の24位を還元するタンパク質をコードするDNA;および
(f) 配列番号2または配列番号22に示す塩基配列の縮重異性体からなるDNA;
にコードされるものである、[1]または[2]の方法。
【0018】
[5] 前記酵素が、以下の(g)又は(h)のタンパク質:
(g) 配列番号3に示すアミノ酸配列からなるタンパク質;および
(h) 配列番号3に示すアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、ナス科植物のステロイド骨格の24位を還元するタンパク質;
である、[1]または[2]の方法。
【0019】
[6] 前記酵素が、以下の(i)〜(l)のいずれかのDNAからなる遺伝子:
(i) 配列番号4に示す塩基配列からなるDNA;
(j) 配列番号4に示す塩基配列からなるDNAに相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、ナス科植物のステロイド骨格の24位を還元するタンパク質をコードするDNA;
(k) 配列番号4に示す塩基配列と80%以上の相同性を有する塩基配列からなり、かつ、
ナス科植物のステロイド骨格の24位を還元するタンパク質をコードするDNA;および
(l) 配列番号4に示す塩基配列の縮重異性体からなるDNA;
にコードされるものである、[1]または[2]の方法。
【0020】
[7] 前記酵素の活性の抑制、または前記遺伝子の発現の抑制が、遺伝子の組換えによりもたらされるものである[1]または[2]の方法。
【0021】
[8] 前記酵素の活性の抑制、または前記遺伝子の発現の抑制が、前記酵素をコードする遺伝子の欠失によりもたらされるものである[1]または[2]の方法。
【0022】
[9] 前記酵素の活性が抑制されているか、前記遺伝子の発現が抑制されている植物体を母本として、交配により得られた後代を選抜することを含むものである、[1]または[2]の方法。
【0023】
[10] 前記母本が、変異処理による前記酵素遺伝子の人為的改変により得られたものである、[9]の方法。
【0024】
[11] 前記母本が、野生株のスクリーニングにより得られたものである、[9]の方法。
【0025】
[12] 前記母本の取得と後代の選抜において、前記酵素遺伝子の突然変異または多型の存在を検出するものである、[9]の方法。
【0026】
[13] 前記突然変異または多型の存在の検出が、
(i) ゲノムDNAまたはRNAである核酸を植物から単離する工程、
(ii) (i)の核酸がRNAである場合に逆転写しcDNAを合成する工程、
(iii) (i)または(ii)の工程で得られたDNAから配列番号2、配列番号4、配列番号7または配列番号22に示す塩基配列の少なくとも一部を含有する遺伝子断片を増幅する工程、ならびに
(iv) DNA中に突然変異または多型の存在を決定する工程、
を含むものである、[12]の方法。
【0027】
[14] [1]〜[13]のいずれかの方法で作出された栽培品種。
【0028】
[15] ジャガイモである、[14]の栽培品種。
【0029】
[16] [13]の方法において使用する、遺伝子マーカー配列。
【0030】
[17] [13]の方法において使用する、遺伝子増幅のためのプライマー配列。
【0031】
[18] ナス科植物のステロイド骨格の24位を還元する酵素をコードする遺伝子に変異を有し、かつグリコアルカロイドの蓄積リスクの低減した栽培品種。
【0032】
[19] グリコアルカロイドを蓄積しないものである、[18]の栽培品種。
【0033】
本明細書は本願の優先権の基礎である日本国特許出願2012-068039号の明細書および/または図面に記載される内容を包含する。
【発明の効果】
【0034】
本発明によれば、ナス科植物におけるステロイド骨格の24位を還元する活性を有するタンパク質とそれをコードする遺伝子の活性発現の調整を行うことができ、即ち当該遺伝子の活性が調整された植物を作成する方法、グリコアルカロイドを含むコレステロール類を蓄積しないナス科植物が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1】StDWF1HとStDWF1のアミノ酸配列について相同性をGENETYX(ゼネティックス社)で解析を行った結果を示す図である。562アミノ酸に渡って80.0%の同一性がある。
図2】DWF1に相同なアミノ酸配列を持つ遺伝子の分子進化系統樹解析の結果を示す図である。数値はブーストラップ検定1000に対する数値である。
図3】DWF1H遺伝子抑制用ベクターの構造を示す。図3には、導入する遺伝子部分のT-DNAのライトボーダー(RB)、レフトボーダー(LB)の内部の構造、制限酵素部位を示す。
図4】ジャガイモ形質転換体のin vitro茎のグリコアルカロイド含量を示す。エラーバーは標準偏差を示す。
図5】ジャガイモ形質転換体のin vitro茎から抽出したRNAに対するRT-PCRの結果を示す。
図6】ジャガイモ形質転換体の塊茎の表皮のグリコアルカロイド含量を示す。エラーバーは標準偏差を示す。
図7】トマト形質転換体の若い葉のグリコアルカロイド含量を示す。エラーバーは標準偏差を示す。
図8】獲得したジャガイモStDWF1H遺伝子変異体M1のTilling法を用いたMultiNAで解析結果。得られた2つのピークは変異箇所をCEL1ヌクレアーゼで切断して得られた2つの断片と長さを示す。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0037】
1.ステロイド骨格の24位を還元する酵素タンパク質(24位還元酵素)
本発明のグリコアルカロイド生合成酵素は、ステロイド骨格の24位の2重結合(Δ24、C24とC25の間の2重結合)を還元する酵素活性を有するタンパク質であり、コレステロールを合成するために必須の酵素である。従って本発明の酵素をコレステロール合成酵素、3β-ヒドロキシコレステロールΔ24-還元酵素、あるいは24位還元酵素と表記することもできる。本発明の酵素は、デスモステロール(コレスタ-5,24-ジエノール)、7−デヒドロデスモステロール(コレスタ-5,7,24-トリエノール)、ラノステロール(ラノスタ-8,24-ジエノール)、シクロアルテノール(シクロアルタ‐24‐エノール)などのコレスタン誘導体のステロイド骨格の24位に2重結合をもった化合物の24位を還元する能力を有する。本明細書では、上述の酵素活性を「24位還元酵素活性」、該酵素活性を有する酵素を「24位還元酵素」と言う。また、本発明の酵素タンパク質は、膜貫通領域を持ちFAD結合型配列を持つ還元酵素に属する。
【0038】
上記酵素を含む植物には、コレステロールを生成する植物、例えばナス科のジャガイモ(Solanum tuberosum)、トマト(Solanum lycopersicum)、ルリヤナギ(Solanum glaucophyllum)、ゴマノハグサ科のジギタリス(Digitalis purpurea)、ヤマノイモ科のヤムイモ(Dioscorea sp.)やシソ科のセイヨウキランソウ(Ajuga reptans)等の植物種が含まれる。
【0039】
本発明の酵素により得られる24位が還元された化合物には、植物によって合成されるコレステロールまたはその置換誘導体が含まれ、例えばコレステロール(コレスタ-5-エノール)、7−デヒドロコレステロール(コレスタ-5,7-ジエノール)、それらの塩、それらの置換誘導体などが挙げられる。
【0040】
塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩、アンモニアや、脂肪族アミン、芳香族アミン、飽和アミン、不飽和アミンなどの有機アミンとのアンモニウム塩、カルボン酸塩などが含まれる。これらの塩は、本発明方法による目的トリテルペン化合物の生成の間に形成されてもよいし、あるいは、該化合物の生成後に中和処理により塩形成を行ってもよい。
【0041】
置換誘導体は、ステロイド化合物の、例えば1位、2位、4位、6位、7位、11位、12位、14位、16位、17位、18位、19位、21位、22位、23位、26位、27位などの、24位還元酵素活性に影響の少ないと思われる位置の水素原子が、別の置換基、例えば低級アルキル基(メチル、エチル、プロピル、ブチルなど)、ハロゲン(フッ素、塩素、臭素、ヨウ素)、水酸基、エステル基(アセトキシ、プロパノイルオキシなど)、アシル基(ホルミル、アセチル、プロピオニルなど)、アルコキシ基(メトキシ、エトキシ、プロポキシなど)、アミノ基、モノ-もしくはジ-低級アルキルアミノ基(メチルアミノ、ジメチルアミノ、エチルアミノなど)、アミド基、低級アルキルアミド基(アセタミドなど)、オキソ基、シアノ基、ニトロ基、低級アルキルチオ基(メチルチオ、エチルチオなど)、スルフォニル基(メシル、エチルスルホニルなど)などの官能基で置換された化合物を含む。本発明において、コレステロールおよびコレステロールの誘導体を含めて、コレステロール類と呼ぶ。
【0042】
本発明の24位還元酵素の基質となる好ましいステロイド化合物としては、デスモステロール、7−デヒドロデスモステロール、これらの置換誘導体などのステロイド化合物が挙げられる。置換誘導体の置換位置および置換基は、上記例示と同様である。本発明の方法により、24位還元酵素の作用によって基質となる化合物から24位の二重結合が還元されたステロイド化合物が得られる。一例として、図5上にデスモステロールの24位の二重結合を還元する反応を示す。コレステロールは、デスモステロールのステロイド骨格の24位の二重結合を還元することにより生成し、7−デヒドロコレステロールは、7−デヒドロデスモステロールのステロイド骨格の24位の二重結合を還元することにより生成する。さらに、7−デヒドロコレステロールに紫外線等の光を当てることによりビタミンD3が生成する。本発明において、ビタミンD3およびビタミンD3誘導体を含めてビタミンD3類と呼ぶ。ビタミンD3の誘導体は、上記のステロイド化合物の誘導体と同様の置換基を有する誘導体をいう。
【0043】
24位還元酵素の二重結合を持つ基質は2,3-オキシドスクアレンから、ラノステロール合成酵素やシクロアルテノール合成酵素の作用によってラノステロールやシクロアルテノールが合成され、ステロイドの基本骨格が合成されることにより合成される(P.M.Dewick, Medicinal Natural Product, 3rd ed., John Wiley & Sons, 2009)。これらの合成酵素に関する配列情報およびクローニングについては、種々の動物、植物、菌類のcDNAライブラリーからクローニングされて配列決定されており、すでに公知である。ラノステロール合成酵素についてはBakerら (1995) Biochem. Biophys. Res. Commun. 213: 154-160、Sungら (1995) Bio. Pharm. Bull. 18: 1459-1461、Coreyら (1994) Proc. Natl Acad. Sci. USA 91: 2211-2215、Shiら(1994) Proc. Natl Acad. Sci. USA 91: 7370-7374.などに記載されている。シクロアルテノール合成酵素については、Coreyら(1993) Proc. Natl Acad. Sci. USA 90: 11628-11632などに記載されている。これらの合成酵素は、例えばヒト、マウス、ラット、酵母、麹菌、シロイヌナズナ、イネ、ポプラ、ブドウ、オオムギ、トマト、ダイズ、などの動物、植物、菌類に存在することが知られているので、必要に応じて、これらの生物から上記文献記載のクローニング手法を用いて上記のラノステロール合成酵素やシクロアルテノール合成酵素をコードするDNAを取得し、周知のDNA組換え技術、PCR法などを使用して該DNAを微生物細胞、菌類細胞または植物細胞に導入して該合成酵素を発現するようにすることも可能である。このようにして得られたラノステロール合成酵素やシクロアルテノール合成酵素を発現し得る形質転換菌類細胞または植物細胞から再生されたトランスジェニック菌類や植物に、さらに24位還元酵素をコードするDNAを発現可能に組み込むことによって、これらの細胞、菌類、植物を用いてコレステロールや7−デヒドロコレステロールなどの、24位が還元されたステロイド化合物を生成することが可能になる。
【0044】
本発明で使用可能な24位還元酵素は、以下のものに限定されないが、例えばジャガイモやトマト由来のものであり、それぞれ、例えば配列番号1、配列番号21、配列番号3に示されるアミノ酸配列を含む酵素を包含する。さらに、本発明で使用可能な該酵素は、配列番号1、配列番号21、配列番号3に示されるアミノ酸配列に部分的に変異を有するアミノ酸配列を含み、かつ、24位還元酵素活性を有するタンパク質を包含する。ジャガイモ由来の上記24位還元酵素をStDWF1H、トマト由来の上記24位還元酵素をSlDWF1Hと呼ぶ。
【0045】
ここで、「部分的に変異を有するアミノ酸配列」としては、配列番号1、配列番号21、配列番号3に示されるアミノ酸配列において1もしくは複数、好ましくは1もしくは数個、例えば、1〜10個、好ましくは1〜7個、さらに好ましくは1〜5個、さらに好ましくは1〜3個、さらに好ましくは1個もしくは2個、のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列、または該アミノ酸配列と、BLAST、FASTAなどの相同性検索のための公知のアルゴリズム(例えば、デフォルトすなわち初期設定のパラメータを使用する。)を用いて計算したときに、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも85%、好ましくは少なくとも90%、さらに好ましくは少なくとも95%、特に好ましくは少なくとも97%、98%もしくは99%の配列同一性を有しているアミノ酸配列が挙げられる。因みに、上記配列番号1、配列番号21、配列番号3に示されるアミノ酸配列を含む酵素タンパク質間の配列同一性は約70〜約80%である。
【0046】
本明細書で使用する「配列同一性」は、例えば2つのアミノ酸配列または塩基(ヌクレオチド)配列をアラインメントしたとき(ただしギャップを導入してもよいしギャップを導入しなくてもよいが、好ましくはギャップを導入する。)、ギャップを含むアミノ酸または塩基の総数に対する同一アミノ酸または塩基の数の割合(%)を指す。
【0047】
本発明の24位還元酵素は、植物体から単離された天然の24位還元酵素および遺伝子工学的手法により製造された組換え24位還元酵素を含む。
【0048】
2.24位還元酵素をコードするDNA
本明細書中で使用する「DNA」という用語は、ゲノムDNA、遺伝子、cDNAおよび化学修飾DNAを包含するものとする。
【0049】
本発明で使用する24位還元酵素をコードするDNAは、ステロイド骨格の24位を還元する活性を有する酵素をコードするDNAである。
【0050】
上記の24位還元酵素をコードするDNAは、例えば上記配列番号1、配列番号21、配列番号3に示されるアミノ酸配列をそれぞれコードする塩基配列を含むものであり、具体的には配列番号2、配列番号4、配列番号22に示される塩基配列を含むものである。
【0051】
本発明で使用可能な24位還元酵素をコードするDNAは、また、配列番号2、配列番号4、配列番号22に示される各塩基配列に相補的な塩基配列を有するDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA、あるいは、配列番号2、配列番号4、配列番号22に示される塩基配列と、BLAST、FASTAなどの相同性検索のための公知のアルゴリズム(例えば、デフォルトすなわち初期設定のパラメータを使用する。)を用いて計算したときに、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも85%、好ましくは少なくとも90%、さらに好ましくは少なくとも95%、特に好ましくは少なくとも97%、98%もしくは99%の配列同一性を有するDNA、あるいは、これらのDNAによりコードされるタンパク質のアミノ酸配列に対して1もしくは複数、好ましくは1もしくは数個、例えば、1〜10個、好ましくは1〜7個、さらに好ましくは1〜5個、さらに好ましくは1〜3個、さらに好ましくは1個もしくは2個、のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするDNAである。該DNAは24位還元酵素活性を有するタンパク質をコードするDNAを包含する。
【0052】
これらのDNAは、配列番号2、配列番号4、配列番号22に示される塩基配列を含むDNAのホモログ(相同体)、アナログ(類似体)または変異体である。このようなDNAは、コレステロールを生成する植物、例えばナス科のジャガイモ(Solanum tuberosum)、トマト(Solanum lycopersicum)、ルリヤナギ(Solanum glaucophyllum)、ゴマノハグサ科のジギタリス(Digitalis purpurea)やシソ科のセイヨウキランソウ(Ajuga reptans)等の植物の葉、根、種子などからハイブリダイゼーション、PCR増幅などによって得ることが可能である。
【0053】
本明細書中で使用する「ストリンジェントな条件」は、配列同一性の高いDNAがハイブリダイズする条件であり、そのような条件は当業者ならば適宜決定することができるが、例えば、「1×SSC、0.1% SDS、37℃」程度の条件であり、より厳しい(中ストリンジェントな)条件としては「0.5×SSC、0.1% SDS、42℃」程度の条件であり、さらに厳しい(高ストリンジェントな)条件としては「0.1〜0.2×SSC、0.1% SDS、65℃」程度の条件である。ハイブリダイゼーションの後でさらに、例えば0.1×SSC、0.1% SDS、55〜68℃で洗浄を行う操作を含んでもよく、この操作によってストリンジェンシーを高めることができる。ここで、1×SSCバッファーは、150 mM塩化ナトリウム、15 mMクエン酸ナトリウム、pH7.0である。
【0054】
ハイブリダイゼーション条件やPCR反応の手順については、例えばF.M. Ausbel et al., Short Protocols in Molecular Biology, 3rd ed., John Wiley & Sons, 1995などに記載されている。
【0055】
さらに、本発明で使用可能な24位還元酵素をコードするDNAは、配列番号2、配列番号4、配列番号22に示す塩基配列において遺伝暗号の縮重に基づく配列(縮重配列)を含むDNAも包含する。
【0056】
本発明のDNAは、上記のとおり、24位還元酵素活性を有するタンパク質、すなわち以下の(a)〜(c):
(a) 配列番号1、配列番号3または配列番号21に示すアミノ酸配列を含むタンパク質;
(b) 配列番号1、配列番号3または配列番号21に示すに示すアミノ酸配列において1または数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入又は付加されたアミノ酸配列を含み、かつ、24位還元酵素活性を有するタンパク質;
(c) 配列番号1、配列番号3または配列番号21に示すアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、かつ、24位還元酵素活性を有するタンパク質;
のいずれかからなる群から選択されるタンパク質をコードする。
【0057】
さらに具体的には、上記DNAは、以下の(d)〜(g):
(d) 配列番号2、配列番号4または配列番号22に示す塩基配列を含むDNA;
(e) 配列番号2、配列番号4または配列番号22に示す塩基配列を含むDNAに相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、24位還元酵素活性を有するタンパク質をコードするDNA;
(f) 配列番号2、配列番号4または配列番号22に示す塩基配列と90%以上の配列同一性を有する塩基配列を含み、かつ、24位還元酵素活性を有するタンパク質をコードするDNA;
(g) 配列番号2、配列番号4または配列番号22に示す塩基配列において縮重配列を含むDNA;
のいずれかからなる群から選択される。
【0058】
3.組換えベクター
本発明のDNAは、それを発現可能にするために、制御配列を含む適切なベクターに挿入される。このようにして得られた組換え体DNAが組換えベクターである。
【0059】
ベクターとしては、原核または真核生物の細胞で使用可能なあらゆるベクターを意図し、例えば細菌(エシェリシア属、シュードモナス属、バチルス属、ロドコッカス属など)、糸状菌(アスペルギルス属、ニューロスポラ属、フザリウム属、トリコデルマ属、ペニシリウム属など)、担子菌(白色腐朽菌など)、酵母(サッカロマイセス属、ピチア属、カンジダ属など)等の微生物用ベクター、植物細胞用ベクター、昆虫細胞用ベクターなどを使用できる。
【0060】
例えば、細菌用ベクターとしては、pBR、pUC、pET、pBluescriptシリーズのベクター類などが挙げられ、酵母用ベクターとしては、非限定的にpDR196、pYES-DEST 52、YIp5、YRp17、YEp24などが挙げられ、植物細胞用ベクターとしては、非限定的にpGWB vector、pBiEl2-GUS、pIG121-Hm、pBI121、pBiHyg-HSE、pB119、pBI101、pGV3850、pABH-Hm1などが挙げられ、昆虫細胞用ベクターとしては、非限定的にpBM030、pBM034、pBK283などが挙げられる。
【0061】
本発明において使用されるベクターには、プロモーター、ターミネーター、エンハンサー、シャインダルガルノ配列、リボソーム結合配列、シグナル配列等の遺伝子の発現、調節、分泌に関する構成要素が組込まれ、必要に応じて、選択マーカー(例えば、薬剤耐性遺伝子、レポーター遺伝子)を含有する。
【0062】
プロモーターには、lacプロモーター、trpプロモーター、recAプロモーター、tacプロモーター、λPLプロモーター、T7プロモーター、CaMV35Sプロモーター、ADH1プロモーター、GALプロモーター、PHO5プロモーター、PGKプロモーター、GAPDHプロモーターなどが非限定的に含まれる。
【0063】
薬剤耐性遺伝子には、カナマイシン耐性遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子、ハイグロマイシン耐性遺伝子などが含まれる。レポーター遺伝子には、lacZ遺伝子、GFP遺伝子、GUS遺伝子、ルシフェラーゼ遺伝子などが含まれる。その他の選択マーカーには、例えばNPTII遺伝子、ジヒドロ葉酸レダクターゼ遺伝子などが含まれる。
【0064】
遺伝子の発現、調節、分泌に関する構成要素は、その性質に応じて、それぞれが機能し得る形で組換えベクターに組み込まれることが好ましい。そのような操作は、当業者であれば適切に行うことができる。
【0065】
4.遺伝子抑制方法
本発明は、植物におけるステロイド骨格の24位を還元する酵素をコードする遺伝子の発現を抑制する方法を提供する。抑制する方法は、遺伝子組換えによるRNAi法、アンチセンス法、ウイルスベクターを利用したPTGS法、small RNA等を直接導入する方法などの方法を用いることができる。また、ZFN(zinc finger nuclease)法、TALEN(Tale nuclease)法 [Science,333,307(2011)]、Cre-loxP部位特異的組換え法などのゲノム自体を改変する方法も用いることができる。これらの方法には、本発明で提供される配列を直接変異の導入部位として利用するものが含まれる。あるいは本発明で提供される配列とゲノム情報等から近接領域の配列を特定し、当該近接領域の配列を利用することにより、ステロイド骨格の24位を還元する酵素をコードする遺伝子の全領域を欠失させることもできる。本明細書において、「遺伝子の発現を抑制する」とは、遺伝子(DNA)の転写産物としてのRNA、翻訳産物としてのタンパク質、あるいはタンパク質の機能としての酵素活性のいずれかの量を低下させるか、消失させることを言う。ステロイド骨格の24位を還元する酵素をコードする遺伝子の発現を抑制することにより、植物体におけるステロイド骨格の24位を還元する酵素の活性が低下または消失する。
【0066】
5.遺伝子変異、多型個体、遺伝子発現変異の選抜
本発明は、植物におけるステロイド骨格の24位を還元する酵素をコードする遺伝子突然変異、一塩基多型(SNP)等の多型、遺伝子発現変異の存在を検出するための方法を提供する。変異個体は放射線によるもの、化学処理によるもの、UV照射によるもの、自然突然変異によるものであっても構わない。
【0067】
この方法には、ゲノムDNAやRNAを変異個体や様々な品種や育成個体の植物から単離し、後者は逆転写しcDNAを合成する工程と、DNA増幅技術の使用によりDNAからステロイド骨格の24位を還元する酵素をコードする遺伝子を含有する遺伝子断片を増幅する工程と、このDNA中に突然変異の存在を決定する工程が含まれる。DNAやRNAを抽出する方法には市販のキット(例えばDNeasyやRNeasy(キアゲン社)など)が使用できる。cDNAを合成する方法も市販キット(例えばスーパースクリプト ファーストストランド システム(インビトロジェン社)など)を使うことができる。DNA増幅技術の使用により遺伝子断片を増幅する方法としては、いわゆるPCR法やLAMP法などの技術を用いることができる。これらは継続的なポリメラーゼ反応により特異的なDNA配列の増幅(つまり、コピー数を増やすこと)を達成するためにポリメラーゼを使用することを基にした、一群の技術を意味する。この反応は、クローニングの代わりに使用することができるが、必要であるのは、核酸配列に関する情報のみである。DNAの増幅を行うために、増幅しようとするDNAの配列に相補的なプライマーを設計する。次にそのプライマーを自動DNA合成により作製する。DNA増幅方法は、当技術分野で周知であり、本明細書中で与えられる教示および指示に基づき、当業者であれば容易に行うことができる。いくつかのPCR法(ならびに関連技術)は、例えば、米国特許第4,683,195号、同第4,683,202号、同第4,800,159号、同第4,965,188号、およびInnisら編、PCR Protocols:A guide to method and applicationsで述べられている。
【0068】
DNA中に突然変異や多型の存在を決定する工程では塩基配列の決定(アプライドバイオシステムズ社)やミスマッチペアの片側を切断する酵素を用いて突然変異体を検出するTILLING法(Tillら, 2003, Genome Res 13:524-530)など変異遺伝子と正常遺伝子の相同性を利用し検出する方法を用いればよい。これらは該技術から得られた配列データを遺伝子部分に関する配列番号2、配列番号4、配列番号7または配列番号22に表される塩基配列と比較することで行うことができる。
【0069】
mRNA量の違いを決定する工程では上記cDNAに対し、配列番号2、配列番号4または配列番号22に表される塩基配列に基づいて作製したプライマーを利用してRT-PCR法やリアルタイムPCR法等の定量的PCRを採用すればよい。その後、例えば、品種「サッシー」から得られたcDNAの量と比較することでmRNA量の違いを決定することができる。
【0070】
特に好ましい実施形態において、上記で定義したステロイド骨格の24位を還元する酵素をコードする遺伝子の変異の存在の決定方法を、ナス科植物(Solanaceae)のジャガイモ(Solanum tuberosum)あるいはその近縁種から得られた材料に適用する(実施例9)。
【0071】
ジャガイモあるいはその近縁種に属する野生種については、ステロイド骨格の24位を還元する酵素をコードする遺伝子に関する遺伝子型および表現型が未知のものが数多く存在する。これらの野生種をスクリーニングすることにより、生合成遺伝子に変異を有し、グリコアルカロイドの蓄積が検出されないか栽培種に比べて低下している野生株、または交配によって低下をもたらす可能性のある株を選抜することができる。
【0072】
上記の突然変異および/または多型を決定する方法により、ステロイド骨格の24位を還元する酵素をコードする遺伝子の突然変異や多型を塩基レベルで同定することができ、さらにステロイド骨格の24位を還元する酵素をコードする遺伝子に突然変異および/または多型を有する植物体を選抜することができる。本発明はこのようにして得られたステロイド骨格の24位を還元する酵素をコードする遺伝子に突然変異や多型を有する植物体を包含する。
【0073】
また、突然変異や多型の決定、mRNA量の違いの決定、ステロイド骨格の24位を還元する酵素をコードする遺伝子の発現能またはステロイド骨格の24位を還元する酵素の活性が変化している植物を選抜することが可能になる。
【0074】
ここで、ステロイド骨格の24位を還元する酵素をコードする遺伝子の発現能またはステロイド骨格の24位を還元する酵素の活性の抑制は、人為的突然変異または野生種などに保存されている自然突然変異または遺伝的多型によりもたらされるものを含む。本明細書において、「酵素の活性を抑制する」とは、当該酵素の活性を低下させるか、消失させることを言う。ステロイド骨格の24位を還元する酵素の活性の抑制は、ステロイド骨格の24位を還元する酵素が本来有する正常な機能が低下した若しくは正常な機能を喪失していることを含む。
【0075】
このような遺伝子の変異としては、例えば、ステロイド骨格の24位を還元する酵素をコードする遺伝子における遺伝子の総てまたは一部欠失、一部塩基の他の塩基への置換、塩基の挿入等を含む。塩基の挿入の例として、ステロイド骨格の24位を還元する酵素をコードする遺伝子のエクソンにおける数十〜数百個の連続して塩基の挿入が挙げられ、一部塩基の他の塩基への置換の例として、イントロンにおける5'スプライシング保存配列の置換並びにイントロンにおける新たなエクソンを生じる配列の挿入が挙げられ、該置換により正常なスプライシングが生じなくなる。本発明はこのような遺伝子変異を有する植物も包含する。本発明はこのような遺伝子変異を有する植物を選抜して母本とすることも含む。し、さらに、該植物を母本として、交配により得られた後代を選抜することにより、グリコアルカロイドの蓄積リスクの低減した栽培品種を作出することができる。ここで、本明細書において「栽培品種」とは、植物の品種であって作物生産を目的とした栽培に供することのできるものを言う。
【0076】
さらに、ステロイド骨格の24位を還元する酵素の活性が抑制された植物は、ステロイド骨格の24位を還元する酵素をコードする遺伝子を人為的な変異処理により改変することによっても得ることができる。本発明は、ステロイド骨格の24位を還元する酵素をコードする遺伝子を人為的な変異処理により改変することによっても得ることができる植物体を作出する方法及びそのような植物体も包含する。ある植物のステロイド骨格の24位を還元する酵素の活性の突然変異による改変は、その植物の種に含まれる既存品種に対する改変をいい、既存品種には野生型も含まれるが、自然状態で出現した野生種であっても、すでに産業上利用されている品種でなければ既存品種には含めない。このようなステロイド骨格の24位を還元する酵素の活性の突然変異による改変体として、例えば、配列番号22で表されるDWF1H遺伝子のDNA配列の第427番目のAがTに変異したものが挙げられる。この変異により、該遺伝子にコードされるタンパク質のアミノ酸配列(配列番号23)において、第143番目のR(アルギニン)がW(トリプトファン)に変異する。また、上記のステロイド骨格の24位を還元する酵素の活性の突然変異による改変体として、配列番号2で表されるSアリル全体が欠失したものが挙げられる。既存の品種は、ステロイド骨格の24位を還元する酵素の活性が改変された植物が得られたときに存在するすべての品種をいい、交配、遺伝子操作等の人為的操作により作出された品種を含む。本発明において「ステロイド骨格の24位を還元する酵素の活性が抑制された植物」とは、必ずしもすべての既存品種と比較して当該酵素活性が低値を示す必要はなく、特定の既存品種に対して活性が抑制されていれば、「ステロイド骨格の24位を還元する酵素の活性が抑制された植物」に含まれる。「ステロイド骨格の24位を還元する酵素の活性が抑制された植物」は、人為的操作を受けず自然状態で突然変異により活性が抑制された植物も含み、本発明の方法により、自然状態で活性が抑制された植物を選抜することができ、新たな品種として確立することもできる。また、ある既存品種に変異誘発処理を行い、ステロイド骨格の24位を還元する酵素の活性が抑制された植物を作出した場合、比較対象は変異誘発処理を行った品種と同じ既存品種でもよいし、それ以外の他の既存品種でもよい。また、自然界からの選抜あるいは変異誘発処理により作出された、ステロイド骨格の24位を還元する酵素をコードする遺伝子に突然変異や多型を有する植物を交配することにより、ステロイド骨格の24位を還元する酵素をコードする遺伝子の変異が固定されステロイド骨格の24位を還元する酵素をコードする遺伝子の発現能またはステロイド骨格の24位を還元する酵素の活性が抑制された植物新品種として得ることもできる。
【0077】
例えば、植物がジャガイモ(Solanum tuberosum)の場合、既存品種として、「シンシア」、「サッシー」(ジャパンアグリバイオ社販売)、「シェリー」、「男爵」、「メークイーン」、「さやか(農林登録番号:農林36号)」等がある。ここで、ステロイド骨格の24位を還元する酵素をコードする遺伝子の発現能またはステロイド骨格の24位を還元する酵素の活性が既存品種に対して抑制された植物とは、既存品種に対してステロイド骨格の24位を還元する酵素をコードする遺伝子の発現能が低下した植物を含み、さらに、ステロイド骨格の24位を還元する酵素の活性が既存品種に対して低下した植物を含む。本発明は、このようなステロイド骨格の24位を還元する酵素をコードする遺伝子の発現能またはステロイド骨格の24位を還元する酵素の活性が既存品種に対して抑制された植物体も包含する。
【0078】
ステロイド骨格の24位を還元する酵素の活性が抑制された植物体は、ステロイド骨格の24位を還元する酵素の合成量が低いか、または合成できず、植物体中のステロイド骨格の24位を還元する酵素の含量が低いか、またはステロイド骨格の24位を還元する酵素が存在せず、あるいはステロイド骨格の24位を還元する酵素の活性が低いかまたは消失している。その結果、植物体内のグリコアルカロイド含量も低いか、あるいはグリコアルカロイドが存在しない。例えば、ジャガイモの場合はチャコニンおよびソラニン等のグリコアルカロイドが合成されず、ジャガイモの塊茎内においてチャコニンおよびソラニン等のグリコアルカロイドの合成量および存在量が低い。また、トマトの場合は、トマチン等のグリコアルカロイドが合成されず、トマトの実内においてトマチン等のグリコアルカロイドの合成量および存在量が低い。
【0079】
ジャガイモの場合、ステロイド骨格の24位を還元する酵素の活性が低いか、喪失した植物体は、塊茎内でチャコニンおよびソラニン等のグリコアルカロイドが合成されないか、または上記の既存品種に比べて塊茎内で合成されるチャコニンおよびソラニン等のグリコアルカロイドが少なく、塊茎内に存在するチャコニンおよびソラニン等のグリコアルカロイドの量も低い。
【0080】
ステロイド骨格の24位を還元する酵素をコードする遺伝子に変異を有する植物(変異処理によるステロイド骨格の24位を還元する酵素をコードする遺伝子の人為的な改変により作られた変異株またはスクリーニングにより選抜された野生株)を母本として、グリコアルカロイドの蓄積が低減または消失し、かつ食味や栽培特性の優れた栽培品種を作出することができる。本発明において、「グリコアルカロイドの蓄積が低減した」とは、当該栽培品種の作出に用いられた母本のいずれかと比較して、栽培品種におけるグリコアルカロイドの蓄積の量あるいは蓄積の速度が低下していることを言う。本発明において「グリコアルカロイドの蓄積が消失した」とは、従来品種においてはグリコアルカロイドが蓄積される条件において、グリコアルカロイドの量が検出限界以下となることを言う。本発明において、「グリコアルカロイドの蓄積リスクの低減した栽培品種」とは、グリコアルカロイドの蓄積が低減または消失した栽培品種をいう。
【0081】
6.交配による、グリコアルカロイドの蓄積が低減または消失した栽培品種の作出
上記により得られた変異株または選抜された野生株を母本として、グリコアルカロイドの蓄積が低減または消失した栽培品種を作出することができる。栽培品種から得られた変異株を母本とする場合は、当該変異株同士を交配するか、目的とする同じ遺伝子の異なる部位に変異を有する変異株同士を交配することが変異を早期に固定する上で有利と考えられる。ジャガイモやジャガイモ近縁種との交配については、古典的な自家不和合性や胚乳均衡数(EBN: Endosperm Balance Number)説による不和合などの障害が知られているが、これらは胚珠への直接受粉、胚珠培養、正逆の交雑の実施、体細胞融合等の処理を行うことで交配または交配と同等の処理を実施することが可能である。これらについては「ジャガイモ辞典」(2012)財団法人いも類振興会編集、全国農村教育協会や「Handbook of potato production, inprovement, and postharvest management」(2006) GopalとPaul Khurana編集 p.77-108 Haworth Press Inc.を参考にすることができる。野生株を、変異を有する遺伝子を持つ導入元とする場合は、導入先の親を栽培種とし導入先の親との戻し交配を行うことで、栽培種の持つ食味や栽培上の優れた特性を維持したまま変異を有する遺伝子を導入することができる。また、当該遺伝子の変異した部位を塩基配列レベルで解析することにより、変異に関する遺伝子マーカーを取得することができる。さらに、昨年、報告されたジャガイモゲノムシークエンス(Nature. 2011;475:189-95)等のゲノム情報を参照することにより、当該遺伝子の近傍に位置する遺伝子マーカーを複数取得し、所望の変異部位のみが導入された後代の選抜を効率的に実施することもできる。当該遺伝子の近傍だけでなく、ゲノム全体をカバーする領域に詳細なマーカーを得ていれば、必要な部分(遺伝子領域)だけを導入元から導入先に入れることができる。この場合、マーカーが導入したい遺伝子(形質)と遺伝距離がある場合は、ある程度の確率でマーカーと形質の分離が起こる可能性があり、形質の検定が必須となる。しかし、本発明で見出した遺伝子変異は形質と一致しているため、形質の検定が必須ではなく、交配した種子は発芽しDNAが得られた時点で確実な検定が実施できる。これらのDNAマーカーによる検定技術については鵜飼 保雄「ゲノムレベルの遺伝解析―MAPとQTL」(2001)東京大学出版会等を参考にすれば実施できる。例えば、前記DNAマーカーはプライマー等のポリヌクレオチドを用いて存在を決定することができる。DNAマーカーによる遺伝的変異の検定とグリコアルカロイドの分析による形質の検定を併用することもできる。特に栽培品種を確定する段階においては、植物体の生育からジャガイモ塊茎の貯蔵の各段階において、グリコアルカロイドの蓄積が低減または消失していることを分析により確認することが望ましい。
【実施例】
【0082】
以下、本発明を、実施例を示してより詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0083】
(実施例1)ジャガイモの萌芽cDNAシークエンスから24位還元酵素遺伝子の抽出
ジャガイモの萌芽は極めて大量のグリコアルカロイドを蓄積することが知られている。グリコアルカロイドの生合成経路は不明な点が多いが、コレステロールを初発物質としていると考えられている。このことからジャガイモの萌芽は植物でコレステロールを合成できる器官であり、コレステロール生合成の遺伝子源として優れていると考えた。
【0084】
収穫後3ヶ月以上貯蔵し休眠の開けたジャガイモを20℃暗所におき、約2週間、萌芽をさせた。この萌芽を液体窒素にて破砕し、RNeasy(キアゲン社)で行い全RNAを抽出した。2μgのRNAからT7プロモーター配列を付加したプライマーを用いて逆転写反応でcDNAを合成した。DNA polymeraseとT7 RNA polymeraseを用いて全体をRNAとして増幅後、再度、逆転写反応でcDNAを合成した。これにGS FLX解析用のアダプターを用いてcDNA2本鎖を合成した。物理的に数百bpに切断後、別のGS FLX解析用のアダプターを連結し1本鎖DNAを回収した。これを鋳型としてGenome Sequencer FLX System(タカラバイオ社委託)にて約15万の発現している遺伝子配列を解析した。その結果、シロイヌナズナのコレステロールの24メチレンを還元する酵素DWF1の遺伝子と相同性の高い遺伝子断片(StDWF1、実施例2で取得した全長配列に対しアミノ酸配列の同一性が564 アミノ酸に渡って78.0% )が54個、それよりも相同性の低い遺伝子断片(StDWF1ホモローグ=StDWF1H、実施例2で取得した全長配列に対しアミノ酸配列の同一性が556 アミノ酸に渡って75.5% )が80個、存在することを見出した。
【0085】
(実施例2)StDWF1H遺伝子の同定
上記遺伝子断片を使って、StDWF1Hについては、ナス科ゲノムネットワーク(http://solgenomics.net/index.pl)の配列データSGN-U268686を基に全長配列を取得するためのプライマーU931(caccATGTCGGATGCTAAGGCCC(配列番号8): caccはベクターにクローニングするための付加配列)とU932(TCAATTCGCAGGTTCATCAG)(配列番号9)を合成した。StDWF1についてはDFCI Potato Gene Index (http://compbio.dfci.harvard.edu/tgi/plant.html) の配列データTC214162を基に全長配列を取得するためのプライマーU957(caccATGACAGATGTTCAGGCTCC(配列番号10): caccはベクターにクローニングするための付加配列)とU958(TCAATCTTCAGGCTCATCAACT)(配列番号11)を合成した。実施例1の全RNAから全cDNAの合成をスーパースクリプト ファーストストランド システム(インビトロジェン社)を用いて行った。このcDNAを鋳型に用い、アニール温度55℃でPCR(30サイクル、タカラバイオ社 PrimeSTAR HS DNA Polymeraseを使用)によって遺伝子を増幅した。これをpENTR(商標)/D-TOPOエントリーベクター(インビトロジェン社)へクローニングした。得られた8個の独立クローンについてポリヌクレオチド配列を決定した。これにより得られた配列は、配列番号2と配列番号6であり、それから推定されるポリペプチド配列は配列番号1と配列番号5である。これらベクターをpTOPO-PSStDWF1HとpTOPO-PSStDWF1とした。図1はStDWF1HとStDWF1の相同性解析を解析した結果のアラインメントを示す図であり、アミノ酸配列の同一性が562アミノ酸に渡って80.0%と極めて高かった。24位還元酵素として既知であるヒトの遺伝子(DHCR24, Am J Hum Genet. 2001, 69, 685-94)との相同性は、StDWF1Hはアミノ酸配列の同一性が533アミノ酸に渡って40.3%、StDWF1は533アミノ酸に渡って39.0%であった。なおDHCR24とDWF1は522アミノ酸に渡って39.8%であった。いずれも40%程度を示す弱い相同性であり、この時点の遺伝子相同性の結果だけで機能を推定することは極めて困難であった。
【0086】
さらに、それぞれに相当するトマトの全長遺伝子配列をナス科ゲノムネットワーク(http://solgenomics.net/index.pl)の配列データからSGN-U578468であることを突き止め取得した。配列番号4であり、それから推定されるポリペプチド配列は配列番号3である。
【0087】
これら配列と、特表2007-535960号公報「コレステロール産生酵母株およびその利用」でヒト由来24位還元酵素遺伝子と相同的であると記載されているワタ(Genbank accession AAM47602.1)、イネ(同AAP53615)、エンドウLKB遺伝子(同AAK15493)さらにシロイヌナズナの24メチレンを還元する酵素(DWF1)のアミノ酸配列を比較しCLUSTALX 2.0(Larkinら (2007) Clustal W and Clustal X version 2.0. Bioinformatics, 23:2947-2948)のブーストラップ法を用いて分子系統樹を作成した(図2)。その結果、StDWF1HとSlDWF1Hは、コレステロールの24メチレンを還元する酵素(DWF1)とは、異なるクラスターに分類され、かつヒトの24位還元酵素遺伝子DHCR24とも進化の面からも類縁関係は遠いことがわかった。
【0088】
(実施例3)StDWF1H遺伝子のゲノム遺伝子の同定
ゲノムDNAをDNeasy(キアゲン社)で「サッシー」から抽出した。実施例1と同じプライマーU957(caccATGACAGATGTTCAGGCTCC(配列番号10)とU958(TCAATCTTCAGGCTCATCAACT)(配列番号11)を用いて、PCRを行い、全長ゲノムDNAの塩基配列を決定した(配列番号7)。イントロンは1箇所あることが明らかになった。
【0089】
ジャガイモ遺伝子のゲノム配列は最近報告された(Xuら Nature (2011) 475: 189-197)。ゲノム配列はPotato Genome Sequencing Consortium Data ReleaseのHP(http://potatogenomics.plantbiology.msu.edu/index.html)で公開されている。この配列を元にStDWF1H遺伝子のゲノム遺伝子を決定することが可能である。トマト遺伝子のゲノム配列は同じくナス科ゲノムネットワーク(http://solgenomics.net/index.pl)に掲載され1のイントロンを含むことが報告されている。しかし、これらホームページには、なんら機能に関する報告はない。
【0090】
(実施例4)StDWF1H遺伝子の抑制形質転換体を作成するためのベクター構築
遺伝子を形質転換によって抑制する方法としては、強力なプロモーターで駆動する構成を持つ逆方向の相補鎖遺伝子断片の発現(植物で一般的にRNAi法と呼ばれる)で行った[Chuangと Meyerowitz Proc Natl Acad Sci U S A., 97, 4985-90 (2000)、WesleyらPlant J., 27, 581-90 (2001)]。実施例1で取得した全長cDNAに対し、プライマー[U952: GAGCTCTAGACCCTAGGAGGAAGATCCAG (配列番号12)、U953: GGATCCATATGCGTTTCTCATTCCAACAACA (配列番号13)]を用いてアニール温度55℃でPCR(30サイクル、タカラバイオ社 ExTaq DNA Polymeraseを使用)によって遺伝子を増幅した。これをpCR4-TOPOベクター(インビトロジェン社)へクローニングし、遺伝子断片を取得した。バイナリーベクターpKT11(特開2001-161373号公報)を基本として、カルフラワーモザイクウイルスの35S RNAプロモーター、当該遺伝子断片を順方向、シロイヌナズナのフィトエンデサチュラーゼ遺伝子(AT4g14210)の第3イントロン、当該遺伝子断片を逆方向、カルフラワーモザイクウイルスの35S RNAターミネーターの順に連結を行い、植物形質転換用ベクターpKT251を作成した(図3)。
【0091】
(実施例5)ジャガイモ形質転換植物体の作出
実施例4で作製したベクターをエレクトロポレーション法(GelvinとSchilperoor編, Plant Molecular Biology Manual, C2, 1-32 (1994), Kluwer Academic Publishers)により、アグロバクテリウム・ツメファシエンスGV3110株に導入した。ベクターを含むアグロバクテリウム・ツメファシエンスGV3110株を、50ppmのカナマイシンを含むYEB液体培地[5g/lビ−フエキス、1g/l酵母エキス、5g/lペプトン、5g/lスクロ−ス、2mM硫酸マグネシウム(pH7.2)]にて28℃、12時間振とう培養した。培養液1.5 mlを10,000rpm、3分間遠心して集菌後、カナマイシンを除くために1mlのLB培地で洗浄した。更に10,000rpm、3分間遠心して集菌後、1.5 mlの3%蔗糖を含むMS培地[Murashige & Skoog, Physiol. Plant., 15, 473-497 (1962)]に再懸濁し、感染用菌液とした。
【0092】
ジャガイモの形質転換は[門馬(1990)植物組織培養7:57-63]に従い実施した。ジャガイモ品種「サッシー」(ジャパンアグリバイオ社)から得られたマイクロチューバーを2〜3mmにスライスし、アグロバクテリウム感染用の材料とした。これを上記のアグロバクテリウムの菌液に浸した後、滅菌済みの濾紙上に置いて過剰のアグロバクテリウムを除いた。シャーレ内のMS培地(Zeatin 1ppm, IAA 0.1ppm, アセトシリンゴン100μM、及び寒天0.8%を含む)上に置き、培養は3日間25℃、16時間照明(光量子束密度32μE/m2s)/8時間無照明の条件下で行った。ついで、アセトシリンゴンの代わりにカルベニシリン250ppmを含んだ培地で1週間培養した。その後、さらにカナマイシン50 ppmを含む培地上に移し、2週間ごとに継代した。この間に不定芽が形成し、シュートを生じた。伸張したシュートをカルベニシン250 ppm及びカナマイシン100 ppmを含み、植物生長調節物質を含まないMS培地に置床した。発根したシュートをカナマイシン耐性の生長した植物体の中から外来遺伝子としてカナマイシン耐性遺伝子を含有する個体を、PCR(条件:95℃5分、(95℃30秒、55℃30秒、72℃1分)を30回、72℃10分)を行うことで検出し、該再分化植物体が形質転換植物体であることを確認した。ここで、カナマイシン耐性遺伝子の配列を特異的に増幅するプライマーとして、TAAAGCACGAGGAAGCGGT(配列番号14)、及びGCACAACAGACAATCGGCT(配列番号15)を用いた。以上から、ベクターpKT251が導入されたジャガイモの形質転換植物体39系統を取得した。
【0093】
(実施例6)形質転換植物体のグリコアルカロイド含量とDWF1H遺伝子の発現解析
実施例5で得られた39個体のin vitro茎を継代後一ヶ月伸張させ、その部分2〜4本をまとめて約100mgにしアルカリ耐性の逆相クロマトグラフィー用カラムを用いた液体クロマトグラフィーを用いた以下の方法(特開2011-27429号公報)によりグリコアルカロイド含量を測定した。サンプルに0.1%ギ酸 in 80%MeOH aq. 990μLおよび内部標準としてブラシノライド(ブラシノ社)10μg/10μLを添加し、ミキサーミルで破砕した(1/25 sec, 10 min, 4℃)。得られた破砕物を遠心分離(10,000 rpm, 5 min, 4℃)に供しアルコール沈殿を行った。上清25μLを分取し、0.1%ギ酸水で475μLを加え、マルチスクリーンソルビナート(ミリポア社)でフィルターろ過しLC-MS(島津製作社、LCMS-2010EV、またはウォーターズ社、Alliance e2795 Q-micro)を用い解析した。LCの条件はカラム(XBridge(商標) Shield RP18-5(φ2.1×150 mm, ウォーターズ社))で移動相(A:10 mM炭酸水素アンモニウム水(pH 10):B:アセトニトリル=40:60)アイソクラティック(カラムオーブン:40℃)で分離し解析した。標準品(チャコニン、ソラニン(いずれもシグマ・アルドリッチ社))を用いて定量した。
【0094】
得られた39個体のin vitro茎から2回の分析を繰り返すことで、4系統(#2, #10, #11, #12)においてはグリコアルカロイドの蓄積が再現性よく低いことを確認した。これら低グリコアルカロイド4系統、低くなかった1系統(#9)、遺伝子を導入していない対照の個体2つのin vitro茎を約200mg採取し、液体窒素で粉砕し、半分をグリコアルカロイド含量の測定、半分をmRNAの測定を行った。低グリコアルカロイド4系統はグリコアルカロイドの蓄積が非形質転換体(2個体)や低くはならなかった1系統と比較して極めて低いことが再確認できた(図4)。各系統から、全RNAの抽出はRNeasy(キアゲン社)で、全cDNAの合成はスーパースクリプト ファーストストランド システム(インビトロジェン社)を用いて行った。プライマー [U1005: CTCTGCTCAAAGCCACACAA (配列番号16)、U932: TCAATTCGCAGGTTCATCAG (配列番号17)]を用いたRT-PCR(条件:95℃5分、(95℃30秒、55℃30秒、72℃3分)を20回)の結果、DWF1H遺伝子のmRNAの発現は低グリコアルカロイド5系統では、極めて少ないか観察できなかった(図5)。このことから、DWF1H遺伝子の発現を抑制することによってグリコアルカロイドの蓄積が極端に減少することが明らかとなり、DWF1H遺伝子は、ステロイド骨格の24位を還元する酵素をコードするグリコアルカロイド生合成酵素をコードする遺伝子であることが明らかとなった。
【0095】
(実施例7)低グリコアルカロイド系統の形質転換植物体から塊茎の作成
非形質転換体とともに、これら低グリコアルカロイド4系統のin vitro植物を増殖し、各3個体を市販されている野菜用の培養土に馴化しバイオハザード温室で定法に従い栽培し塊茎を収穫した。この4系統の各個体(#2, #10, #11, #12)は非形質転換体と同等の生育を示し、同等の塊茎を収穫することができた(表1)。
【0096】
【表1】
【0097】
さらに収穫した塊茎各3つの中央部表皮を約1mmで剥離し同様にグリコアルカロイド含量を解析した。その結果、驚くべきことに、塊茎でのグリコアルカロイドは極めて低いことが確認できた(図6)。これら4系統の形質転換体の生育は正常であり、シロイヌナズナのDWF1遺伝子変異体で見られる矮性等の形質は見られなかった。このことは、DWF1H遺伝子は、矮性の症状と関連の高い植物ホルモンであるブラシノステロイド生合成経路への関与は少なく、グリコアルカロイド生合成経路に大きく関与するステロイド骨格の24位を還元する酵素をコードする遺伝子であることを示している。
【0098】
(実施例8)トマト形質転換植物体の作出
トマトの形質転換は[Sunら (2006) Plant Cell Physiol. 47:426-431.]に従い実施した。(実施例4)で作製したベクターpKT251を含むアグロバクテリウム・ツメファシエンスAGL0株を培養し感染用菌液とした。トマト(Solanum lycopersicum)実験系統「マイクロトム」の無菌播種植物体の子葉を5mm以下の切片を、上記のアグロバクテリウム懸濁液に浸し、10分間感染した後、滅菌済みの濾紙上に葉を置いて過剰のアグロバクテリウムを除いた。シャーレ内の共存MS培地(ゼアチン1.5mg/l、アセトシリンゴン40μM及びゲルライト0.3%を含む)[Murashige & Skoog, Physiol. Plant., 15, 473-497 (1962)]上に葉を置き、シャーレを暗所で3日間25℃で培養した。切片は選択MS培地1(ゼアチン1.5mg/l、カナマイシン100mg/l、オーグメンチン375mg/l及びゲルライト0.3%を含む)で25℃、16時間照明(光量子束密度32μE/m2s)/8時間無照明の条件下で2週間ごとに継代した。この間に不定芽が形成し、シュートを生じた。さらにシュートを伸張させるため、選択MS培地2(ゼアチン1.0mg/l、カナマイシン100mg/l、オーグメンチン375mg/l及びゲルライト0.3%を含む)に移植し、伸張したシュートは選択1/2濃度MS培地(カナマイシン100mg/l、オーグメンチン375mg/l及びゲルライト0.3%を含む)で発根させた。シュートをカナマイシン耐性の生長した植物体の中から外来遺伝子としてカナマイシン耐性遺伝子を含有する個体を、上述のカナマイシン耐性遺伝子の配列を特異的に増幅するプライマーによるPCRを行うことで検出し、該再分化植物体が形質転換植物体であることを確認した。ベクターpKT251が導入されたトマトの形質転換植物体24系統を取得した。得られた24系統を温室に馴化し約1ヶ月栽培し、新しく展開した若い葉の3枚から各約100mg秤量し、ジャガイモと同様に実施例6の方法によりグリコアルカロイド含量(αトマチン量、標品のαトマチンはシグマ・アルドリッチ社)を測定した。ただし、分析条件は移動相A:移動相B=60:40の割合を用いた。24系統のうち12系統は対照の平均である新鮮重100mgあたり174μgの1/5以下(< 34μg)と顕著にトマチン含量が低かった(図7)。これらの系統の生育は正常であった。
【0099】
(実施例9)ジャガイモStDWF1H遺伝子変異体の獲得
ジャガイモ品種「ホッカイコガネ」の自殖種子に量子ビーム照射(NIRS-HIMAC照射装置(RADIATION RESEARCH 154, 485-496 (2000))、ネオンイオンビーム30 kev/μmを90〜470 Gy、鉄イオンビーム185 kev/μmを20〜80 Gy)で変異処理を行った。その種子をジベレリン(協和発酵キリン社)2,000ppmの溶液中で2日間浸漬し、市販の培養土に播種した。日長14時間、温度23℃で栽培し、およそ20日目に長さ約3cm、本葉が4枚以上展開した段階で、茎頂を最下段の本葉の上まで切り戻した。およそ2週間後、切り戻した節から脇芽が伸張し、そこから展開した葉のDNAを抽出した。4個体の葉を合わせて1サンプルとし、450μLの抽出液(0.1M Tris-HCl, pH 8.5、40 mM EDTA、0.6 M NaCl)を添加し、ジルコニアビーズとミキサーミル(レッチェ社)で破砕した(振幅1/25 秒、 5分間)。プロテアーゼK(10mg/ml)を10μl加え55℃で20分間処理を行った。その後、5M酢酸カリウム160μlを加え15000 rpm 5分間遠心した。上清100μlを等量イソプロパノール沈殿して、100μlのTE液(10 mM Tris-HCl, pH 8.0, 1 mM EDTA)で溶解しDNAプールサンプルとした。変異の検出はTilling法(Nature Protocol 1, 2465-2477)を用いて行った。ホッカイコガネのStDWF1H遺伝子は配列番号2の塩基配列(Sアリル)と23ベース異なる塩基配列からなる配列番号22(Kアリル)に示す配列を有していた。該塩基配列から推定されるアミノ酸配列を配列番号21に示す。そのため変異を検出するためには配列番号2と配列番号22を別々に増幅する必要がある。配列番号2の1番エクソンを増幅させるプライマーとしてU1015:CTCTGCTCAAAGCCACACAA(配列番号18)とU1016: CCGTTAAGAGTTGCCAAAAACC(配列番号19)を、配列番号22の1番エクソンを増幅させるプライマーとしてU1015とU1010:CAAATTTTGAATGGAGGGGTAT(配列番号20)を用いて、それぞれDWF1H遺伝子の第一エクソンだけを増幅した。DNAをPCR
(条件:95℃5分、(95℃30秒、55℃30秒、72℃1分)を30回、72℃5分))で増幅し、98℃2分で変成後、再会合させた後、CEL1ヌクレアーゼの入った溶液(Nature Protocol 1, 2465-2477)を加え45℃15分処理した。このDNA産物を8%のアクリルアミドゲル電気泳動、または、MultiNA(島津製作所)とDNA-1000キット(島津製作所)で電気泳動することで、新たに出現したバンドとして変異を持つ個体を検出した。変異を検出したDNAプールサンプルは、個体ごとにDNAを再抽出し、Tillingを行うことで変異個体を特定した。点変異である1個体については、プライマーU1015とU1010でPCRを行い、増幅産物をTOPOTAクローニングキットシークエンシング用(インビトロジェン社)にてクローニングした。さらにABI310(アプライドバイオシステムズ社)を用いて塩基配列を決定し、変異箇所を特定した。12,495粒の種子を播種し、生育した3,617個体をスクリーニングして11個の変異体が得られた。各個体の変異箇所については、表1に示すとおりである。この変異個体のうちM1についてはTilling法での電気泳動の解析結果を図8に示す。遺伝子変異のため、正常アリルとのミスマッチが生じCEL1ヌクレアーゼで切断が起こるため、2つの断片(456, 909 bp)を生じた。
【0100】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0101】
本発明により、グリコアルカロイドを植物体内に蓄積しないジャガイモ等ナス科植物を得ることができる。
【配列表フリーテキスト】
【0102】
配列番号8〜20 プライマー
本明細書で引用した全ての刊行物、特許および特許出願をそのまま参考として本明細書にとり入れるものとする。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]