(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
電流注入によって発光する発光層を有する半導体発光素子と、前記半導体発光素子の発光面上に設けられた蛍光体を含有する波長変換層と、を含み、前記半導体発光素子から発せられ前記波長変換層によって波長変換された光と、前記波長変換層を透過した光を混合した混合光を光取り出し面から出射する半導体発光装置であって、
前記半導体発光素子は、発光動作時における前記発光層内の電流密度が相対的に高い領域と相対的に低い領域の2つに区分され、
前記波長変換層は、前記半導体発光素子の発光動作時の電流密度が相対的に高い領域を覆う第1の部分と、前記半導体発光素子の発光動作時の電流密度が相対的に低い領域を覆う第2の部分を有し、
発光動作時における前記発光層内の電流密度の高低に対応した異なる発光波長に起因する前記光取り出し面内における前記混合光の色度差を減じるように、前記第1の部分に含有される蛍光体の発光時のドミナント波長は、前記第2の部分に含有される蛍光体の発光時のドミナント波長よりも短く設定されている
ことを特徴とする半導体発光装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
(発光素子の発光面内における輝度分布不均一に起因する色ムラ)
一般照明や液晶のバックライト等の機器においては、照明範囲または表示範囲の明るさおよび色を均一としたい場合が多い。このため、これらの機器に用いられる半導体発光装置の発光面内における輝度分布および発光色は均一であることが求められる。一方、自動車のヘッドライト等の車両用灯具に用いられる半導体発光装置においては、所望の配光パターンを効率的に得るために、発光面内における輝度分布を意図的に不均一とする場合がある。そのような半導体発光装置およびこれを光源とする車両用灯具の詳細な構成は、例えば本発明者らによって出願された特願2010−187585、特願2010−187586、特願2010−201296、特願2010−201297に記載されている。このような不均一な輝度分布を有する発光素子の発光面に厚さおよび濃度が一定の波長変換層を形成した場合、波長変換層によって波長変換される光と波長変換されることなく波長変換層を透過する光の混合比が低輝度領域と高輝度領域で異なるため混合光に色ムラが生じる結果となる。
【0007】
一方、発光面内における輝度分布が均一となるように電極等を配置した発光素子においても完全に輝度分布を均一とすることは困難であり、上記の色ムラの問題が生じる場合がある。すなわち、近年、発光素子の品質向上や用途の拡大に伴い高輝度化が進み、発光素子に注入される電流量が大きくなってきており、これにより、発光素子内部における電流密度分布および発光面内における輝度分布が不均一となりやすくなってきている。また、近年、発光素子のサイズは拡大傾向にあり、これに伴ってn電極およびp電極の間隔も拡大してきている。これにより、発光素子内における電流密度の高低差が助長され、発光面内における輝度分布の均一化は益々困難となってきており、上記した色ムラの問題への対処が重要となりつつある。
【0008】
(発光素子の発光面内における発光波長分布不均一に起因する色ムラ)
III族窒化物半導体からなる半導体発光素子において、発光動作時における電流密度の高い領域から発せられる光の波長が短波長化するいわゆるブルーシフトと呼ばれる現象が知られている。例えば、電流密度が10A/cm
2から100A/cm
2に変化すると、発光波長は20nm程度短くなる場合がある。すなわち、発光動作時における発光素子内部の電流密度分布が不均一である場合、発光面内における発光波長分布も不均一となる。
【0009】
発光素子から発せられる光の波長が基準波長(
図1における点B)から短波長側(
図1における点B
S)にずれた場合、蛍光体との組み合わせによって得られる混合光の色度は、
図1に示す色度座標上における点B
Sと点Yを結ぶ線分上の範囲となる。一方、発光素子から発せられる光の波長が基準波長から長波長側(
図1における点B
L)にずれた場合、蛍光体との組み合わせによって得られる混合光の色度は、点B
Lと点Yを結ぶ線分上の範囲となる。尚、蛍光体から発せられる光の波長(色度)は、励起波長(すなわち発光素子の発光波長)に殆ど影響されず、いずれの場合も点Yを維持する。線分B
S−Yおよび線B
L−Yは、いずれも目的とする混合光の色度に相当する点Wを通らないので、発光素子の発光波長がシフトすると、波長変換層の厚さを調整するなどしても目的の色度の混合光を得ることはできない。このように、発光素子の発光動作時における電流密度分布が不均一であると、発光面内における発光波長分布も不均一となり、蛍光体との組み合わせによって得られる混合光に色ムラが生じる結果となる。
【0010】
従来は発光素子に注入される電流量が多くなかったため発光素子内部における電流密度差も顕著ではなかった。また、発光素子の発光スペクトルの半値全幅は30nm程度であるのに対して、例えば、代表的な黄色蛍光体であるYAG系蛍光体の半値全幅は130nmと広い。このために発光素子からの光の波長が1〜2nm程度ずれたとしても、混合光の色度は大きく変化することはなかった。また、従来は、n電極またはp電極のパターニングや電流拡散促進のための透明電極の挿入などにより発光素子の電流密度分布を均一に保つことが可能であった。しかし、最近においては、発光素子の用途が一般照明や車両用灯具へと拡大し高出力化の要求が高まりつつあり、これに伴って発光素子に投入される電流量が増加し、素子サイズも大型化してきている。更に、発光装置の発光面内における発光色の均一性の基準は益々厳しくなってきており、電極構造を工夫する等しても発光色の均一性に関する要求水準を満たすことが難しくなってきている。
【0011】
本発明は、上記した点に鑑みてなされたものであり、発光素子と、蛍光体を含む波長変換層との組み合わせにより所望の発光色の混合光を得る半導体発光装置において、発光素子の発光面内における不均一な輝度分布または不均一な発光波長分布に起因する混合光における色ムラを抑制することができる半導体発光装置、およびこのような半導体発光装置を備えた車両用灯具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る半導体発光装置は、電流注入によって発光する発光層を有する半導体発光素子と、前記半導体発光素子の発光面上に設けられた蛍光体を含有する波長変換層と、を含み、前記半導体発光素子から発せられ前記波長変換層によって波長変換された光と、前記波長変換層を透過した光を混合した混合光を光取り出し面から出射する半導体発光装置であって、前記半導体発光素子は、発光動作時における前記発光層内の電流密度
が相対的に高い領域と相対的に低い領域の2つに区分され、前記波長変換層は、
前記半導体発光素子の発光動作時の電流密度が相対的に高い領域を覆う第1の部分と、
前記半導体発光素子の発光動作時の電流密度が相対的に低い領域を覆う第2の部分を有し、発光動作時における前記発光層内の電流密度の
高低に対応した異なる発光波長に起因する前記光取り出し面内における前記混合光の色度差を減じるように、
前記第1の部分に含有される蛍光体の発光時のドミナント波長は、前記第2の部分に含有される蛍光体の発光時のドミナント波長よりも短く設定されていることを特徴としている。
【0013】
また、本発明に係る車両用灯具は、上記の半導体発光装置を光源として備えた車両用灯具であって、前記半導体発光装置からの光を照射方向に向けて投影して照射面上に投影像を形成する光学系を有し、前記半導体発光装置は、前記半導体発光素子の発光動作時における電流密度分布に応じた輝度分布を有し、前記光学系は、前記半導体発光装置の輝度のピーク部分に対応する像部分がカットオフラインに沿って伸長するように前記投影像を形成することを特徴としている。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る半導体発光装置によれば、半導体発光素子の発光面を覆う波長変換層が、半導体発光素子の発光動作時における不均一な電流密度分布に起因して混合光に生ずる色度差を減じるように半導体発光素子の電流密度が相対的に高い領域を覆う部分と電流密度が相対的に低い領域を覆う部分で異なる波長変換特性を有するので、半導体発光素子の発光面内における輝度分布または発光波長分布が不均一であっても、混合光における色ムラの発生を抑制することができる。従って、本発明に係る半導体発光装置によれば、所望の輝度分布を形成しつつ均一な発光色を得ることが可能となり、例えば車両用灯具の好適な光源となり得る。
【0015】
また、本発明に係る車両用灯具によれば、半導体発光装置の輝度のピーク部分に対応する像部分がカットオフラインに沿って伸長するように投影像が形成されるので、シェード等の遮光部材を用いて遮断する光の量を最小限に抑えつつすれ違いビームに適した配光パターンを形成することができる。従って、光源となる半導体発光装置からの光の利用効率を向上させることが可能となる。また、本発明に係る半導体発光装置は、上記の如く色ムラのない混合光を発するので、これを光源として備えた車両用灯具においても色ムラのない投影像を生成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施例について図面を参照しつつ説明する。尚、以下に示す図において、実質的に同一又は等価な構成要素、部分には同一の参照符を付している。
【0018】
(実施例1)
図2(a)は、本発明の実施例に係る半導体発光素子1の構成を示す平面図、
図2(b)は、
図2(a)における2b−2b線に沿った断面図である。
図2(c)は、半導体発光素子1の
図2(a)におけるY方向に沿った輝度分布を示す図である。半導体発光素子1は、半導体膜30に支持基板10を接合して構成されるいわゆるthin-film構造の発光素子である。また、半導体発光素子1は、p電極20とn電極40が半導体膜30を挟んで対向配置されたいわゆる縦型構造の発光素子である。
【0019】
支持基板10は、例えば、半導体膜30の結晶成長に用いられる成長用基板(図示せず)よりも熱伝導率の高い材料(例えばシリコン、金属など)により構成される。支持基板10と半導体膜30との間には、光反射面を形成するp電極20が設けられている。半導体膜30は、p電極20側から順にp型半導体層、発光層、n型半導体層が積層されて構成される。半導体膜30は、例えば、III族窒化物系半導体結晶をサファイア基板などの成長用基板上に結晶成長させることにより形成される。半導体膜30(n型半導体層)の表面には、n電極40が設けられている。n電極40は、給電用ワイヤ(ボンディングワイヤ)を接続するためのパッド部40aと、パッド部40aに接続され且つ半導体膜30の表面上を伸長する配線部40bとにより構成されている。n電極40は、略長方形形状の外形を有する半導体膜30の表面の中心線Cよりも上方の領域に偏在している。このように、n電極40を半導体膜30の表面上の特定領域に偏在させた非対称パターンとすることにより、発光面上には、発光動作時において
図2(c)に示すような不均一な輝度分布が形成される。すなわち、半導体発光素子1は、n電極40が延在している側の端部近傍に電流密度および輝度のピークを有し、Y方向に沿って電流密度および輝度が徐々に低下するような電流密度分布および輝度分布を有する。支持基板10の裏面には、半導体発光素子1を実装基板に実装するためのはんだ層50が設けられている。
【0020】
図3は、上記した半導体発光素子1の表面(主発光面)に蛍光体を含む波長変換層を積層して構成される本発明の実施例1に係る半導体発光装置2aの構成を示す断面図である。波長変換層60は、例えば、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂等からなるバインダにYAG系黄色蛍光体を均一に分散させて構成される。尚、波長変換層60は、蛍光体のみで構成されていてもよい。蛍光体は、例えば、半導体発光素子1から発せられる青色光を吸収して黄色光を放出する。半導体発光装置2aの光取り出し面となる波長変換層60の表面からは、波長変換層60によって波長変換された黄色光と、波長変換されずに波長変換層60を透過した青色光が混合されて放出される。
【0021】
波長変換層60は、半導体発光素子1の不均一な輝度分布(電流密度分布)に対応した層厚分布を有している。すなわち、半導体発光素子1は、
図2(c)に示すように、Y方向に沿って輝度が徐々に低下するような輝度分布を有する。波長変換層60は、かかる輝度分布に対応してY方向に沿って層厚が徐々に小さくなるように形成されている。すなわち、波長変換層60は、半導体発光素子1の発光動作時における輝度(電流密度)が相対的に高い領域を覆う部分の層厚が大きく、輝度(電流密度)が相対的に低い領域を覆う部分の層厚が小さくなるような層厚分布を有する。本実施例において、波長変換層60は、層厚が連続的に変化するようにその表面が半導体発光素子1の表面(主発光面)に対して傾斜している。尚、波長変換層60の層厚変化は、段階的であってもよい。この場合、波長変換層60の表面は階段状の段差を有することとなる。このように、波長変換層60の層厚を半導体発光素子1の輝度分布に対応させることにより、波長変換層60は、半導体発光素子1の輝度(電流密度)の高い領域においてより多くの青色光を黄色光に変換し、輝度(電流密度)の低い領域においては、黄色光への変換量はより少なくなる。つまり、波長変換層60は、半導体発光素子1の輝度(電流密度)が高い領域を覆う部分と輝度(電流密度)が低い領域を覆う部分とで異なる波長変換特性を有する。これにより、波長変換されることなく波長変換層60を透過して外部に取り出される青色光と、波長変換層60によって波長変換されて外部に取り出される黄色光の割合(混合比)が、半導体発光装置2aの光取り出し面内において略一定となり、色ムラのない混合光を得ることができる。尚、波長変換層60は、蛍光体含有樹脂をスクリーン印刷法やインクジェット法などにより半導体発光素子1の表面に塗布した後、上記したような層厚分布を持つように成形することにより形成することができる。また、インサートモールド法等で所望の形状に成型された波長変換層を透明樹脂接着剤などを用いて半導体発光素子1の表面に接着することとしてもよい。
【0022】
(実施例2)
図4は、上記した半導体発光素子1の表面(主発光面)に蛍光体を含む波長変換層を積層して構成された本発明の実施例2に係る半導体発光装置2bの構造を示す断面図である。半導体発光装置2bは、半導体発光素子1の表面に蛍光体の含有濃度が互いに異なる3つの波長変換層60a、60b、60cを有する。3つの波長変換層60a、60b、60cは、半導体発光素子1の発光動作時における不均一な輝度分布に対応して蛍光体の濃度が調整されている。すなわち、半導体発光素子1の輝度(電流密度)が最も高い領域を覆う波長変換層60aに含まれる蛍光体の濃度が最も高く、輝度(電流密度)が最も低い領域を覆う波長変換層60cに含まれる蛍光体の濃度が最も低く、輝度が最も高い領域と最も低い領域の間の領域を覆う波長変換層60bに含まれる蛍光体の濃度が他の2つの中間となるように調整されている。これにより、上記した実施例1の場合と同様、半導体発光素子1の輝度(電流密度)の高い領域においてより多くの青色光が黄色光に変換され、輝度(電流密度)の低い領域においては黄色光への変換量はより少なくなる。つまり、波長変換層は、半導体発光素子1の輝度(電流密度)が高い領域を覆う部分と輝度(電流密度)が低い領域を覆う部分とで異なる波長変換特性を有する。従って、波長変換されることなく波長変換層60a、60b、60cを透過して外部に取り出される青色光と、波長変換層60a、60b、60cによって波長変換されて外部に取り出される黄色光の割合(混合比)が、半導体発光装置2bの光取り出し面内において略一定となり、色ムラのない混合光を得ることができる。尚、本実施例では、蛍光体の含有濃度が異なる3つの波長変換層60a、60b、60cを設ける場合を例示したが、蛍光体の含有濃度が互いに異なる2つまたは4つ以上の波長変換層を設けることとしてもよい。
【0023】
(実施例3)
図5は、上記した半導体発光素子1の表面に蛍光体を含む波長変換層を積層して構成された本発明の実施例3に係る半導体発光装置2cの構造を示す断面図である。半導体発光装置2cにおいて、半導体発光素子1の表面にはそれぞれが互いに異なるドミナント波長を有する蛍光体を含む波長変換層60s、60lが設けられている。
【0024】
半導体発光素子1は、発光動作時において、n電極40が延在している領域の電流密度が高く、n電極40が延在していない領域の電流密度が低くなる。このため、n電極40が延在している領域の発光波長は、n電極40が延在していない領域の発光波長よりも短くなる(ブルーシフト)。すなわち、半導体発光素子1は、発光面内において電流密度分布に対応した不均一な発光波長分布を有する。
【0025】
より短波長の黄色光を生成する蛍光体を含む波長変換層60sは、半導体発光素子1のn電極40が延在している電流密度の高い領域(すなわち、短波長の青色光が生成される領域)を覆っている。一方、より長波長の黄色光を生成する蛍光体を含む波長変換層60lは、半導体発光素子1のn電極40が延在していない電流密度の低い領域(すなわち、長波長の青色光が生成される領域)を覆っている。
【0026】
半導体発光素子1の電流密度の高い領域から発せられる青色光の色度は、
図6に示す色度座標上の点B
Sに対応する。この領域を覆う波長変換層60sに含有される蛍光体の発光による色度は、目的とする色度(点W)の混合光が得られるように設定される。換言すれば、波長変換層60sに含有される蛍光体の発光による色度に対応する点Y
Sと点B
Sを結ぶ線分が点Wを通るように波長変換層60sに含有される蛍光体の発光による色度(点Y
S)が設定される。
【0027】
同様に、半導体発光素子1の電流密度の低い領域から発せられる青色光の色度は、
図6に示す色度座標上の点B
Lに対応する。この領域を覆う波長変換層60lに含有される蛍光体の発光による色度は、目的とする色度(点W)の混合光が得られるように設定される。換言すれば、波長変換層60lに含有される蛍光体の発光による色度に対応する点Y
Lと点B
Lを結ぶ線分が点Wを通るように波長変換層60lに含有される蛍光体の発光による色度が設定される。つまり、点Y
Sと点B
Sを結ぶ線分と点Y
Lと点B
Lを結ぶ線分が点Wにおいて交差するように、波長変換層60s、60lの各々に含有される蛍光体の発光による色度が設定される。このように、波長変換層は、半導体発光素子1の発光動作時における電流密度が相対的に高い領域を覆う部分と、電流密度が相対的に低い領域を覆う部分とで異なる波長変換特性を有する。本実施例においては、各領域において点Wに対応する色度の混合光が得られるように波長変換層60s、60lの各々において蛍光体の濃度調整がなされている。
【0028】
このように半導体発光素子1の電流密度分布(発光波長分布)に応じて波長変換層に含有される蛍光体の発光時のドミナント波長を設定することにより、半導体発光素子1において生じるブルーシフトの影響が補償され色ムラのない混合光を得ることができる。尚、蛍光体の発光時のドミナント波長の調整は、単純に蛍光体の選択により実現することができる。例えば、YAG系蛍光体であれば、母体結晶構造中に添加するGaおよび/またはLuの量を増やすことでドミナント波長を短波長化することができ、Gdの量を増やすことによりドミナント波長を長波長化することができる。波長変換層60sおよび60lに含有される蛍光体は、母体結晶構造が同一であることが好ましい。蛍光体の母体結晶構造を揃えることにより耐熱性、寿命、光応答性等の発光波長以外の特性が互いに近似することとなり、経時的な色度ずれを抑制することができる。
【0029】
(実施例4)
図7(a)は、上記した半導体発光素子1の表面に蛍光体を含む波長変換層を積層して構成された本発明の実施例4に係る半導体発光装置2dの構造を示す断面図である。半導体発光装置2dにおいて、半導体発光素子1の表面にはそれぞれが互いに異なるドミナント波長を有する蛍光体を含む波長変換層60s、60lが設けられている。上記した実施例3に係る半導体発光装置2cにおいては、波長変換層60sおよび6lにそれぞれ含有される蛍光体の濃度を調整することにより青色光と黄色光の混合比を調整し、所望の色度の混合光を得ることとしていた。これに対し、本実施例に係る半導体発光装置2dは、波長変換層60sおよび60lの層厚を調整することによって青色光と黄色光の混合比を調整し、所望の色度の混合光を得るようにしたものである。すなわち、半導体発光素子1の電流密度の高い領域(n電極40が延在している領域)を覆う波長変換層60sの層厚は、電流密度の低い領域(n電極40が延在していない領域)を覆う波長変換層60lの層厚よりも大きくなっている。本実施例に係る半導体発光装置2dによれば、上記した実施例3に係る半導体発光装置2cと同様の効果を得ることができる。尚、波長変換層60s、60lの層厚を半導体発光素子1の電流密度分布に応じて連続的に変化させることとしてもよい。
【0030】
(実施例5)
図7(b)は、上記した半導体発光素子1の表面に蛍光体を含む波長変換層を積層して構成された本発明の実施例5に係る半導体発光装置2eの構造を示す断面図である。半導体発光装置2eにおいて、半導体発光素子1の表面にはそれぞれが互いに異なるドミナント波長を有する蛍光体を含む波長変換層60s、60lが設けられている。より長波長のドミナント波長を有する蛍光体を含有する波長変換層60lは、半導体発光素子1の発光動作時における電流密度が相対的に高い領域および低い領域を含む発光面全体を覆っている。一方、より短波長のドミナント波長を有する蛍光体を含有する波長変換層60sは、半導体発光素子1の動作時における電流密度が相対的に高い領域(n電極40が延在している領域)のみを覆っている。すなわち、半導体発光素子1の発光動作時における電流密度が高い領域には、波長変換層60sおよび60lが積層されている。波長変換層60sおよび60lが積層されている部分におけるドミナント波長は、各波長変換層におけるドミナント波長の中間となる。本実施例に係る半導体発光装置2eによれば、上記した実施例3に係る半導体発光装置2cと同様の効果を得ることができる。更に、半導体発光素子1の発光動作時における電流密度が高い領域を覆う部分におけるドミナント波長を2つの波長変換層60sおよび60lの層厚比によって制御することができるので、混合光の色度の調整をより高精度に行うことが可能となる。
【0031】
(実施例6)
図7(c)は、上記した半導体発光素子1の表面に蛍光体を含む波長変換層を積層して構成された本発明の実施例6に係る半導体発光装置2fの構造を示す断面図である。半導体発光装置2fにおいて、半導体発光素子1の表面にはそれぞれが互いに異なるドミナント波長を有する蛍光体を含む波長変換層60s、60lが設けられている。より長波長のドミナント波長を有する蛍光体を含有する波長変換層60lは、半導体発光素子1の発光動作時における電流密度が相対的に高い領域および低い領域を含む発光面全体を覆っている。一方、より短波長のドミナント波長を有する蛍光体を含有する波長変換層60sは、半導体発光素子1の発光動作時における電流密度が相対的に高い領域(n電極40が延在している領域)のみを覆っている。すなわち、半導体発光素子1の発光動作時における電流密度が高い領域には、波長変換層60sおよび60lが積層されている。更に、波長変換層60sおよび60lの上面が単一の平面を形成するように傾斜しており、波長変換層60sおよび60lが積層されている部分においてこれら2つの波長変換層の層厚比が連続的に変化している。本実施例に係る半導体発光装置2fによれば、上記した実施例3に係る半導体発光装置2cと同様の効果を得ることができる。更に、半導体発光素子1の発光動作時における電流密度が高い領域から低い領域に向けて波長変換層におけるドミナント波長が短波長から長波長に連続的に変化するので、波長変換層の波長変換特性を半導体発光素子1の電流密度分布(発光波長分布)に厳密に対応させることができ、混合光の色度の均一性をより向上させることができる。
【0032】
尚、本明細書では波長変換層に分散する蛍光体としてYAG系黄色蛍光体を使用する場合を例に説明したが、所望の色、ドミナント波長で発光する蛍光体であれば他を用いても問題ない。例えば、実施例同様、半導体発光素子の青色光と波長変換層の黄色光を組み合わせて白色光を形成したい場合はYAG系黄色蛍光体の代わりにシリケート(ケイ酸塩)系黄色蛍光体を用いてもよい。また、波長変換層に分散させる蛍光体を黄色蛍光体の一色(一種類)ではなく、例えば、赤色蛍光体と緑色蛍光体を混合させ、黄色の発光色・ドミナント波長を有する波長変換層を構成してもよい。すなわち、複数の蛍光体を混合させることにより所望の発光色の波長変換層を構成することが可能である。上記のような緑、赤色蛍光体を混合させる場合と黄色蛍光体を主体とする場合を比べると、同じ色度でも前者はより広い範囲の発光色を含んだ白色となるため色再現性または演色性に優れた半導体発光装置を形成できる。一方で前者は蛍光体の微量な混合比のずれが色度の大きなずれを引き起こしやすい。安定且つ歩留まり良く所望の発光色を有する半導体発光装置を量産するには後者の黄色蛍光体を主体とした波長変換層を使用するのが好ましい。
【0033】
<車両用灯具1>
図8は、上記した本発明の実施例1〜6に係る半導体発光装置2a〜2fのいずれかを光源として備えた車両用灯具101(リフレクタ型)の構成を示す図である。尚、
図8および以下の説明において、半導体発光装置2aが代表として示されているが、これを半導体発光装置2b〜2fのいずれかに置換することが可能である。
【0034】
半導体発光装置2a(以下単に発光装置2aとも称する)は、実装基板200上に搭載され、光取り出し面が
図8において下方を向くように配置され且つn電極40が延在している高輝度側の端部E1が投影方向前方、n電極40が延在していない低輝度側の端部E2が投影方向後方となる向きで配置されている。
【0035】
光学系を形成するリフレクタ210は、回転放物面を形成する光反射面を有し、その焦点位置が発光装置2aの近傍に設定されている。リフレクタ210の反射面は、複数の単位反射面からなるいわゆるマルチリフレクタを構成している。リフレクタ210は、光反射面が投影方向後方側から投影方向前方側に亘る範囲において発光装置2aを囲むように発光装置2aの下方側に配置され、発光装置2aからの光を投影方向に向けて反射させる。
【0036】
図8に示すように、リフレクタ210を構成する単位反射面の各々は、車両用灯具101の投影方向前方に設置された仮想鉛直スクリーン上に、発光装置2aの高輝度側の端部E1に対応する像部分P1´が上方または斜め上方に向けられた単位投影像P1を形成する。すなわち、
図2(c)に示される半導体発光素子1の輝度分布が単位投影像P1に反映され、像部分P1´において照度ピークが形成される。
図9は、車両用灯具101によって仮想鉛直スクリーン上に形成される配光パターンPを示す図である。
図9に示すように、マルチリフレクタ構造の光反射面を有するリフレクタ210は、複数の単位投影像P1を生成し、これらを仮想鉛直スクリーン上に水平方向および斜め方向(例えば水平線に対して15°)に密に並べることにより配光パターンPを形成する。リフレクタ210は、発光装置2aの高輝度側の端部E1に対応する像部分P1´(すなわち照度ピーク部分)が水平カットオフラインCL1および斜めカットオフラインCL2に沿って並ぶ(伸長する)ように投影像を形成する。これにより、水平カットオフラインCL1および斜めカットオフラインCL2近傍が最も明るく、これらのカットオフラインから下方に向けて照度が徐々に低下する遠方視認性に優れたすれ違いビームに適した配光パターンを形成することが可能となる。
【0037】
尚、カットオフラインとは光照射面上に投影された光の明暗境界線のことをいう。車両用前照灯においては、カットオフラインを挟んで明暗差が明瞭であることが求められている。このため、従来、シェード等の遮光部材を用いて光源からの光の多くの部分を遮断することにより明暗差を形成することが行われており、これにより光の利用効率が低下することとなっていた。一方、本発明の実施例に係る車両用灯具101によれば、光源である半導体発光装置2aは、光取り出し面の端部に輝度のピークを有し(
図2(c)参照)、光学系を構成するリフレクタ210がこのような光源の輝度分布を反映した複数の単位投影像P1をカットオフラインに沿って並べて配光パターンを形成するので、シェード等の遮光部材を用いることなくすれ違いビームに適した配光パターンを形成することが可能となる。すなわち、光源となる半導体発光装置2aからの光の利用効率を向上させることが可能となる。また、光源となる半導体発光素子2aは端部に輝度のピークを有する不均一な輝度分布を有するものの、上記の如く波長変換層が半導体発光素子の発光素子の高輝度領域覆う部分と低輝度領域を覆う部分で異なる波長変換特性を有し、混合光における色ムラの発生が抑制されているので、このような半導体発光装置を光源として備えた車両用灯具101においても色ムラのない光を得ることができる。
【0038】
<車両用灯具2>
図10は、上記した本発明の実施例1〜6に係る半導体発光装置2a〜2fのいずれかを光源として備えた車両用灯具102(プロジェクター型)の構成を示す図である。尚、
図10および以下の説明において、半導体発光装置2aが代表として示されているが、これを半導体発光装置2b〜2fのいずれかに置換することが可能である。
【0039】
半導体発光装置2a(以下単に発光装置2aとも称する)は、実装基板200上に搭載され、光取り出し面が
図10において上方を向くように配置され且つn電極40が延在している高輝度側の端部E1が投影方向前方、n電極40が延在していない低輝度側の端部E2が投影方向後方となる向きで配置されている。
【0040】
光学系を形成するリフレクタ210は、回転放物面を形成する光反射面を有し、その第1の焦点位置が発光装置2aの近傍に設定され、第2の焦点位置がシェード220の上端縁近傍に設定されている。リフレクタ210の光反射面は、複数の単位反射面からなるいわゆるマルチリフレクタを構成している。リフレクタ210は、光反射面が投影方向後方側から投影方向前方側に亘る範囲において発光装置2aを囲むように発光装置2aの上方側に配置され、発光装置2aからの光を投影方向に向けて反射させる。
【0041】
シェード220は、リフレクタ210からの反射光の一部を遮光してカットオフラインを形成する遮光部材である。シェード220は、発光装置2aおよびリフレクタ210と、投影レンズ230の間であって、その上端縁が投影レンズ230の焦点に位置するように配置されている。投影レンズ230は、リフレクタ210からの反射光を拡大投影する。
【0042】
リフレクタ210を構成する単位反射面の各々は、車両用灯具102の投影方向前方に設置された仮想鉛直スクリーン上に、発光装置2aの高輝度側の端部E1に対応する像部分が上方または斜め上方に向けられた単位投影像を形成する。すなわち、
図2(c)に示される半導体発光素子1の輝度分布が単位投影象に反映され、発光装置2aの高輝度側の端部E1に対応する像部分において照度ピークが形成される。
【0043】
図9に示すように、マルチリフレクタ構造の光反射面を有するリフレクタ210は、複数の単位投影像P1を生成し、これらを仮想スクリーン上に水平方向および斜め方向(例えば水平線に対して15°)に密に並べることにより配光パターンPを形成する。リフレクタ210は、発光装置2aの高輝度側の端部E1に対応する像部分P1´(すなわち照度ピーク部分)が水平カットオフラインCL1および斜めカットオフラインCL2に沿って並ぶ(伸長する)ように投影像を形成する。これにより、水平カットオフラインCL1および斜めカットオフラインCL2近傍が最も明るく、これらのカットオフラインから下方に向けて照度が徐々に低下する遠方視認性に優れたすれ違いビームに適した配光パターンを形成することが可能となる。
【0044】
本実施例に係る車両用灯具102によれば、光源である半導体発光装置2aは、光取り出し面の端部に輝度のピークを有する光を生成し(
図2(c)参照)、光学系を構成するリフレクタ210がこのような光源の輝度分布を反映した複数の単位投影像をカットオフラインに沿って並べて配光パターンを形成するので、シェード等の遮光部材を用いて遮断する光の量を最小限に抑えつつすれ違いビームに適した配光パターンを形成することができる。すなわち、光源となる半導体発光装置2aからの光の利用効率を向上させることが可能となる。また、光源となる半導体発光素子2aは端部に輝度のピークを有する不均一な輝度分布を有するものの、上記の如く波長変換層が半導体発光素子の発光素子の高輝度領域覆う部分と低輝度領域を覆う部分で異なる波長変換特性を有し、混合光における色ムラの発生が抑制されているので、このような半導体発光装置を光源として備えた車両用灯具102においても色ムラのない光を得ることができる。
【0045】
<車両用灯具3>
図11は、上記した本発明の実施例1〜6に係る半導体発光装置2a〜2fのいずれかを光源として備えた車両用灯具103(ダイレクトプロジェクション型)の構成を示す図である。尚、
図11および以下の説明において、半導体発光装置2aが代表として示されているが、これを半導体発光装置2b〜2fのいずれかに置換することが可能である。
【0046】
半導体発光装置2a(以下単に発光装置2aとも称する)は、実装基板200上に搭載され、光取り出し面が投影方向前方を向くように配置され且つn電極40が延在している高輝度側の端部E1が鉛直方向下方、n電極40が延在していない低輝度側の端部E2が鉛直方向上方となる向きで配置されている。発光装置2aの光は、光反射面を介することなく投影方向前方に配置された投影レンズ230に直接照射される。
【0047】
シェード220は、発光装置2aからの光の一部を遮光してカットオフラインを形成する遮光部材である、シェード220は、発光装置2aと投影レンズ230の間であって、その上端縁が投影レンズ230の焦点に位置するように配置されている。投影レンズ230は、発光装置2aからの光を鉛直方向において反転投影するとともに水平方向に引き延ばしたような投影像を形成する。
【0048】
このような構成によって車両用灯具103の投影方向前方に設置される仮想鉛直スクリーン上には、上記した車両用灯具101(リフレクタ型)および102(プロジェクター型)の場合と同様、
図9に示すような、発光装置2aの高輝度側の端部E1に対応する像部分P1´(すなわち照度ピーク部分)が水平カットオフラインCL1および斜めカットオフラインCL2に沿って並んだ(伸長した)投影像が形成される。これにより、水平カットオフラインCL1および斜めカットオフラインCL2近傍が最も明るく、これらのカットオフラインから下方に向けて照度が徐々に低下する遠方視認性に優れたすれ違いビームに適した配光パターンを形成することが可能となる。
【0049】
本実施例に係る車両用灯具103によれば、光源である半導体発光装置2aは、光取り出し面の端部に輝度のピークを有し(
図2(c)参照)、光学系を構成する投影レンズ230がこのような輝度分布を有する光源像を直接投影するので、シェード等の遮光部材を用いて遮断する光の量を最小限に抑えつつすれ違いビームに適した配光パターンを形成することができる。すなわち、光源となる半導体発光装置2aからの光の利用効率を向上させることが可能となる。また、光源となる半導体発光素子2aは端部に輝度のピークを有する不均一な輝度分布を有するものの、上記の如く波長変換層が半導体発光素子の発光素子の高輝度領域覆う部分と低輝度領域を覆う部分で異なる波長変換特性を有し、混合光における色ムラの発生が抑制されているので、このような半導体発光装置を光源として備えた車両用灯具102においても色ムラのない光を得ることができる。
【0050】
(実施例7)
図12(a)は本発明の実施例7に係る半導体発光素子1aの構造を示す平面図、
図12(b)は、
図12(a)における12b−12b線に沿った断面図である。半導体発光素子1aは、発光動作時における電流密度分布および輝度分布が均一となるように電極配置等が定められている点において、上記各実施例に係る半導体発光素子1と異なる。発光動作時における電流密度分布および輝度分布の均一化を図った半導体発光素子においてもあらゆる投入電流量に対して電流密度分布および輝度分布の均一性を維持することは困難である。従って、意図的に電流密度分布および輝度分布を不均一とした上記実施例1〜6に倣った対処が必要となる。
【0051】
半導体発光素子1aは、p電極20とn電極40が同一方向に向けられたいわゆる横型構造の発光素子である。成長用基板11は、例えば半導体膜30の結晶成長に用いられるサファイア基板である。半導体膜30は、例えばIII族窒化物系半導体結晶からなり、成長用基板11側から順にn型半導体層、発光層、p型半導体層が積層されて構成される。p型半導体層の表面から半導体膜30を部分的にエッチングすることにより表出したn型半導体層の表面にはn電極40が設けられている。n電極40は、例えば略長方形形状の外形を有する半導体膜30のコーナ部近傍に配置される。透明電極21は、ITOなどの導電性金属酸化物からなり、p型半導体層の表面の全体を覆うように形成されている。透明電極21は、半導体膜30内における電流拡散を促進させる役割を担う。p電極20は、透明電極21上のn電極40が形成されたコーナ部と対角をなすコーナ部近傍に配置される。n電極40およびp電極20を互いに対角をなすコーナ部近傍にそれぞれ配置することにより、半導体膜30内における電流拡散が促進される。絶縁膜70は、半導体膜30をエッチングすることによって形成された表出面を覆う保護膜であり、例えばSiO
2などの絶縁体からなる。
【0052】
ここで、
図12(a)においてハッチングで示された領域Aは、発光動作時において電流集中が生じやすい領域である。一般的に、半導体膜は電極材料に比べてシート抵抗が高く、電流を半導体膜の主面方向(横方向)に拡散させるのが難しい。特にp型半導体層は結晶成長方法の技術的な理由から層厚を大きくすることが困難であるために主面方向(横方向)への電流拡散距離は他の層に比べて小さい。そのため、電流供給が行われるp電極付近に電流が集中しやすい。特に、本実施例に係る半導体発光素子1aの如き横型素子においては、p電極20とn電極40との間の最短経路上の領域Aにおいて電流集中が生じやすく、電流密度および輝度が相対的に高くなりやすい。
【0053】
半導体発光素子1aは、領域A内に透明電極21の表面から突出した複数の凸状構造体80を有している。凸状構造体80は、光透過性を有する絶縁体により構成されていることが好ましく、例えば絶縁膜70と同一の材料(SiO
2など)で構成することができる。複数の凸状構造体80は、p電極20からn電極40に向かう方向において不連続な形態をなしている。
【0054】
図12(c)は、上記した半導体発光素子1aの表面に蛍光体を含む波長変換層を積層して構成された本発明の実施例7に係る半導体発光装置2gの構造を示す断面図であり、
図12(a)における12b−12b線に沿った断面に対応する。
【0055】
波長変換層60は、例えば、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂等のバインダにYAG系黄色蛍光体を均一に分散させて構成される。波長変換層60は、ディスペンス法やスピンコート法などによって凸状構造体80を覆うように蛍光体含有樹脂を半導体発光素子1aの表面に塗布した後、これを硬化させることにより形成される。波長変換層60は、複数の凸状構造体80が形成されたことによって生じる表面張力により領域A上を覆う部分の層厚が他の部分よりも厚くなる。これにより、青色光と黄色光の割合(混合比)が、半導体発光装置2gの光取り出し面内において略一定となり、色ムラのない混合光を得ることができる。
【0056】
このように、半導体発光素子1aの表面に複数の凸状構造体80を形成することにより、波長変換層60の部分的な層厚調整を極めて容易且つ高精度に行うことが可能となる。波長変換層60の部分的な層厚調整は、本実施例の如き凸状構造体を設けずともスクリーン印刷法やインクジェット法など印刷手法によって実現することは可能であるが、凸状構造体80を用いた層厚調整によればサブミクロン乃至数ミクロンオーダでの層厚調整が可能である。波長変換層60の領域Aを覆う部分の層厚をより大きくしたい場合、凸状構造体80の高さを高くする、凸状構造体80の形成間隔を小さくする、若しくは、これらを組み合わせればよい。本実施例に係る半導体発光素子1aにおいては、p電極20からn電極40に向かう方向に沿って凸状構造体80の高さは徐々に低くなっており且つ互いに隣接する凸状構造体の間隔が徐々に大きくなっている。これにより、波長変換層60の領域Aを覆う部分の層厚をp電極20からn電極40に向かう方向に沿って連続的に小さくすることができ、波長変換層60の層厚分布を半導体発光素子1aの電流密度分布または輝度分布に厳密に対応させることができる。
【0057】
<製造方法>
上記した構成を有する半導体発光装置2gの製造方法について
図13(a)〜(e)を参照しつつ以下に説明する。
【0058】
成長用基板11としてのサファイア基板を用意する。サファイア基板上に有機金属気相成長法(MOCVD: Metal Organic Chemical Vapor Deposition)によりIII族窒化物系半導体からなる半導体膜30を形成する。半導体膜30は成長用基板11側からn型半導体層、発光層およびp型半導体層を積層することにより形成される(
図13(a))。
【0059】
次に、半導体膜30をp型半導体層の表面側からエッチングしてn電極40を形成するための凹部30aを形成し、凹部30aの底面においてn型半導体層を表出させる(
図13(b))。
【0060】
次に、半導体膜30のp型半導体層の表面および凹部30aの底面において露出しているn型半導体層の表面にそれぞれ透明電極21、p電極20およびn電極20を形成する。n電極40は、例えば電子ビーム蒸着法などにより凹部30aの底面において露出しているn型半導体層上にTi、Al、Ti、Auを順次堆積し、リフトオフ法などを用いてパターンニングすることにより形成される。透明電極21は、スパッタ法などによってITOなどの導電性金属酸化物をp型半導体層の表面に堆積させた後、エッチング法などによりこれをパターニングすることにより形成される。透明電極21は、p型半導体層の略全面を覆うように形成される。p電極20は、電子ビーム蒸着法などによって透明電極21上にPt、Ag、Ti、Auを順次堆積し、リフトオフ法などを用いてパターニングすることにより形成される。次に凹部30aを形成することにより表出した半導体膜30の端面をスパッタ法などを用いて形成されたSiO
2等の絶縁体からなる絶縁膜70で覆う(
図13(c))。
【0061】
次に、発光動作時において電流密度(輝度)がより高くなる
図12(a)に示す領域A内に複数の凸状構造体80を形成する。凸状構造体80は、光透過性を有する絶縁体により構成されていることが好ましく、例えば絶縁膜70と同一の材料(SiO
2など)で構成することができる。この場合、絶縁膜70と凸状構造体80を同時に形成することができるので工程を簡略化することができる。凸状構造体80は、透明電極21上に例えばCVD法、電子ビーム蒸着法、スパッタ法などを用いてSiO
2などからなる絶縁膜を形成した後、フォトリソグラフィ技術を用いて不要部分をエッチングまたはリフトオフすることによって形成される。凸状構造体80の形状、大きさ、高さ、形成間隔を適宜設定することにより波長変換層60の部分的な層厚調整を行うことが可能となる。以上の各工程を経ることにより半導体発光素子1aが完成する(
図13(d))。
【0062】
次に、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂等のバインダにYAG系黄色蛍光体を均一に分散させた蛍光体含有樹脂を用意する。次に、ディスペンス法やスピンコート法などによって凸状構造体80を埋設するように蛍光体含有樹脂を半導体発光素子1aの表面に塗布する。その後、蛍光体含有樹脂を熱硬化することにより半導体発光素子1aの表面に波長変換層60が形成される。波長変換層60の凸状構造体80の周辺が凸状構造体80の高さに応じて、凸状構造体80のない部分よりも層厚が大きくなる。そして、複数の凸状構造体80が形成された領域における波長変換層60の層厚は、複数の凸状構造体80が形成されていない領域よりも層厚が大きくなり、半導体発光素子1aの電流密度分布(輝度分布)に対応した層厚分布が形成される。以上の各工程を経ることにより半導体発光装置2gが完成する(
図13(e))。
【0063】
(実施例8)
図14(a)は本発明の実施例8に係る半導体発光素子1bの構造を示す平面図である。半導体発光素子1bは、上記した実施例7に係る半導体発光素子1aと同様、発光動作時における電流密度分布および輝度分布が均一となるように電極配置等が定められた横型構造の発光素子である。
【0064】
半導体発光素子1bは、n電極およびp電極の構成が上記した実施例7に係る半導体発光素子1aと異なる。すなわち、n電極は、略長方形形状の外形を有する半導体膜30のコーナ部近傍に配置されたパッド部40aと、パッド部40aから半導体発光素子1bの長辺に沿って伸長する配線部40bとを有している。p電極は、透明電極21上においてn電極のパッド部40aが形成されたコーナ部と対角をなすコーナ部に配置されたパッド部20aと、パッド部20aから半導体発光素子1bの長辺に沿って伸長する配線部20bとを有している。すなわち、p電極の配線部20bとn電極の配線部40bは、互いに対向する長辺に沿って平行に伸長している。このように、n電極およびp電極にそれぞれ配線部20bおよび40bを設けることにより半導体膜30内における電流拡散の促進を図ることができる。
【0065】
ここで、
図14(a)においてハッチングで示された領域A1およびA2は、発光動作時において電流集中が生じやすい(電流密度および輝度が高くなりやすい)領域である。n電極およびp電極が上記したような配線部20bおよび40bを有する場合、半導体膜30内における電流拡散が促進されることから、電流集中は上記した実施例7に係る半導体発光素子1aと比較して生じにくい。しかしながら、投入電流を増大すると、p電極のパッド部20a周辺の領域A1)や、n電極のパッド部40aまでの距離が最短となるp電極の配線部20bの先端部近傍の領域A2において電流集中が生じやすい。すなわち、領域A1およびA2において電流密度および輝度が相対的に高くなりやすい。半導体発光素子1bは、領域A1およびA2内にそれぞれ透明電極21の表面から突出した複数の凸状構造体80aおよび80bを有している。本実施例において、領域A1内に設けられた複数の凸状構造体80aの各々は、p電極のパッド部20aから放射状に伸びている。また、領域A2内に設けられた複数の凸状構造体80bの各々は、p電極の配線部20bと平行な方向に伸長している。凸状構造体80aおよび80bの形状、大きさ、高さ、形成間隔は適宜変更することが可能である。
【0066】
図14(b)および
図14(c)は、上記した半導体発光素子1bの表面に蛍光体を含む波長変換層を積層して構成された本発明の実施例8に係る半導体発光装置2hの構造を示す断面図であり、それぞれ、
図14(a)における14b−14b線および14c−14c線に沿った断面に対応する。波長変換層60は、例えば、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂等のバインダにYAG系黄色蛍光体を均一に分散させたものである。波長変換層60は、ディスペンス法やスピンコート法などによって蛍光体含有樹脂を半導体発光素子1bの表面に塗布した後、これを硬化させることにより形成される。波長変換層60は、複数の凸状構造体80aおよび80bが形成されたことによって生じる表面張力により領域A1およびA2上を覆う部分の層厚が他の部分よりも大きくなる。これにより、青色光と黄色光の割合(混合比)が、半導体発光装置2hの光取り出し面内において略一定となり、色ムラのない混合光を得ることができる。凸状構造体80aおよび80bの形状、大きさ、高さ、形成間隔を変えることにより、波長変換層60の領域A1およびA2を覆う部分の層厚制御が可能である。
【0067】
このように、半導体発光素子1bの表面に複数の凸状構造体80aおよび80bを形成することにより、波長変換層60の部分的な層厚調整を極めて容易且つ高精度に行うことが可能となる。
図15は、凸状構造体の形態が上記した半導体発光素子1bとは異なる変形例に係る半導体発光素子1cの平面図である。領域A1およびA2にそれぞれ設けられた凸状構造体80aおよび80bは、複数のドット状をなす構造物により構成されていてもよい。
【0068】
(実施例9)
図16(a)は本発明の実施例9に係る半導体発光素子1dの構造を示す平面図である。半導体発光素子1dは、上記した実施例8に係る半導体発光素子1bと同様の電極構成を有する。従って、p電極のパッド部20a周辺の領域A1や、p電極の配線部20bの先端部近傍の領域A2において電流集中が生じやすい。
【0069】
本実施例に係る半導体発光素子1dは、その主発光面である上面の略全体を覆うSiO
2等の絶縁体からなる絶縁膜71を有する。絶縁膜71は、半導体発光素子1dの表面を保護する光透過性の保護膜として機能する。p電極のパッド部20aは、絶縁膜71の開口部71aにおいて露出している。絶縁膜71は、領域A1および領域A2内にもそれぞれ開口部70bおよび70cを有しており、これらの開口部70b、70cにおいて透明電極21が露出している。
【0070】
図16(b)は、半導体発光素子1dの表面に蛍光体を含む波長変換層を積層して構成された本発明の実施例9に係る半導体発光装置2iの構造を示す断面図であり、
図16(a)における16b−16b線に沿った断面図に対応する。波長変換層60は、例えば、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂等のバインダにYAG系黄色蛍光体を均一に分散させて構成される。波長変換層60は、ディスペンス法やスピンコート法などによって蛍光体含有樹脂を半導体発光素子1dの表面に塗布した後、これを硬化させることにより形成される。波長変換層60は、領域A1およびA2内に設けられた絶縁膜71の開口部71bおよび71cにそれぞれ充填される。すなわち、波長変換層60は開口部71bおよび71cを充填する部分の層厚が他の部分よりも大きくなる。これにより、青色光と黄色光の割合(混合比)が、半導体発光装置2iの光取り出し面内において略一定となり、色ムラのない混合光を得ることができる。
【0071】
このように、半導体発光素子1dの表面を覆う絶縁膜71に開口部71aおよび71bを設け、開口部71aおよび71bを充填するように絶縁膜71上に波長変換層60を形成することにより、波長変換層60の部分的な層厚調整を極めて容易且つ高精度に行うことが可能となる。かかる構造によれば、半導体発光装置2iの最表面となる波長変換層60の上面を平坦面とすることができ、半導体発光装置2iをピックアップしやすくなるなど実装時における取り扱いが容易となる。また、半導体発光装置2iの最表面が平坦となることにより、局所的な光取り出し効率の変動を防止することができるので光学設計が容易となる。尚、上記した実施例のいくつかに示されるように、波長変換層60に分散させる蛍光体の濃度や種類を領域毎に異ならせることとしてもよい。例えば、絶縁膜71の開口部71bおよび71cに充填される部分における蛍光体の濃度は他の部分よりも高くてもよく、また、その部分の蛍光体の発光時のドミナント波長は他の部分よりも短くなっていてもよい。
【0072】
<製造方法>
上記した構成を有する半導体発光装置2hの製造方法について
図17(a)および(b)を参照しつつ以下に説明する。尚、n電極およびp電極を形成する工程までは、上記した半導体発光装置2gの製造方法(
図13参照)と同様であるので説明は省略する。
【0073】
半導体膜30上にn電極およびp電極を形成した後、スパッタ法などにより半導体膜30の表面全体および側面を覆うようにSiO
2等の絶縁体からなる絶縁膜71を形成する。次に、透明電極21上に延在する絶縁膜71にp電極のパッド部20aを露出させるための開口部71aを形成する。更に、発光動作時において電流密度(輝度)がより高くなる上記した領域A1およびA2内にそれぞれ開口部71bおよび71cを形成する。これらの開口部は例えばエッチング法やリフトオフ法を用いて形成することができる。開口部71b、71cは任意の形状および大きさで形成することができる(
図17(a))。
【0074】
次に、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂等のバインダにYAG系黄色蛍光体を均一に分散させた蛍光体含有樹脂を用意する。次に、ディスペンス法やスピンコート法などによって絶縁膜71を覆うように蛍光体含有樹脂を半導体発光素子1dの表面に塗布する。蛍光体含有樹脂は、絶縁膜71に形成された開口部71bおよび71c内に充填される。その後、蛍光体含有樹脂を熱硬化して半導体発光素子1dの表面に波長変換層60を形成する。波長変換層60の開口部71aおよび71bを充填する部分の層厚は、他の部分よりも厚くなり、半導体発光素子1dの電流密度分布(輝度分布)に対応した層厚分布が形成される。尚、絶縁膜71の膜厚を厚くすることにより、波長変換層60の開口部71aおよび71bを充填する部分とそれ以外の部分の層厚差を大きくすることができ、半導体発光素子における輝度の高低差に対応させることができる。以上の各工程を経ることにより半導体発光装置2iが完成する(
図17(b))。
【0075】
以上の説明から明らかなように、本発明の各実施例に係る半導体発光装置によれば、半導体発光素子の発光面を覆う波長変換層が、半導体発光素子の発光動作時における不均一な電流密度分布に起因して混合光に生ずる色度差を減じるように半導体発光素子の電流密度が相対的に高い領域を覆う部分と電流密度が相対的に低い領域を覆う部分で異なる波長変換特性を有するので、半導体発光素子の発光面内における輝度分布または発光波長分布が不均一であっても、混合光における色ムラの発生を抑制することができる。従って、所望の輝度分布を形成しつつ均一な発光色を得ることが可能となり、例えば車両用灯具の好適な光源となり得る。
【0076】
また、本発明の実施例に係る車両用灯具によれば、半導体発光装置の輝度のピーク部分に対応する像部分がカットオフラインに沿って伸長するように投影像が形成されるので、シェード等の遮光部材を用いて遮断する光の量を最小限に抑えつつすれ違いビームに適した配光パターンを形成することができる。従って、光源となる半導体発光装置からの光の利用効率を向上させることが可能となる。また、本発明に係る半導体発光装置は、上記の如く色ムラのない混合光を発するので、これを光源として備えた車両用灯具においても色ムラのない投影像を生成することができる。