特許第5902920号(P5902920)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5902920窒素ガス製造方法、ガス分離方法および窒素ガス製造装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5902920
(24)【登録日】2016年3月18日
(45)【発行日】2016年4月13日
(54)【発明の名称】窒素ガス製造方法、ガス分離方法および窒素ガス製造装置
(51)【国際特許分類】
   C01B 21/04 20060101AFI20160331BHJP
   B01D 53/04 20060101ALI20160331BHJP
【FI】
   C01B21/04 D
   B01D53/04
【請求項の数】10
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2011-246604(P2011-246604)
(22)【出願日】2011年11月10日
(65)【公開番号】特開2013-103841(P2013-103841A)
(43)【公開日】2013年5月30日
【審査請求日】2014年7月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000231235
【氏名又は名称】大陽日酸株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100094400
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 三義
(74)【代理人】
【識別番号】100107836
【弁理士】
【氏名又は名称】西 和哉
(74)【代理人】
【識別番号】100152146
【弁理士】
【氏名又は名称】伏見 俊介
(72)【発明者】
【氏名】国分 磨希也
(72)【発明者】
【氏名】坂本 英久
【審査官】 廣野 知子
(56)【参考文献】
【文献】 特開平06−154536(JP,A)
【文献】 特開平05−103937(JP,A)
【文献】 特開2011−156530(JP,A)
【文献】 特開昭53−077878(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 21/04
B01D 53/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
PSA方式によって原料ガスから窒素ガスを製造する方法であって、
第1吸着剤が充填された2つの主吸着槽を接続するラインに設けられた副吸着槽に充填された第2吸着剤により、減圧均圧工程にある主吸着槽から導出されたガス中の酸素濃度を低減して、前記ガスを加圧均圧工程にある主吸着槽へ導入し、
前記2つの主吸着槽を接続する前記ラインが、前記各主吸着槽の上流側同士または中間部と上流側を接続するラインである
ことを特徴とする窒素ガス製造方法。
【請求項2】
前記副吸着槽に充填された前記第2吸着剤の酸素吸着速度が、前記主吸着槽に充填された前記第1吸着剤の酸素吸着速度より速いことを特徴とする請求項1に記載の窒素ガス製造方法。
【請求項3】
前記主吸着槽に充填された前記第1吸着剤が分子篩活性炭であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の窒素ガス製造方法。
【請求項4】
前記副吸着槽に充填された前記第2吸着剤が分子篩活性炭であることを特徴とする請求項1ないし請求項のいずれか1項に記載の窒素ガス製造方法。
【請求項5】
PSA方式によって原料ガスから窒素ガスを製造する方法であって、
吸着剤が充填された2つの主吸着槽をラインで接続し、該ラインを用いて一方の前記主吸着槽から他方の前記主吸着槽にガスを導出することで均圧にする工程を有し、
該均圧工程において、一方の主吸着槽から導出した前記ガスが、他方の主吸着槽に導入されるまでの間に、酸素除去手段によって酸素濃度が低減され
前記2つの主吸着槽を接続する前記ラインが、前記各主吸着槽の上流側同士または中間部と上流側を接続するラインである
ことを特徴とする窒素ガス製造方法。
【請求項6】
第1吸着剤および第2吸着剤に対して易吸着性である易吸着成分と、前記吸着剤に対して難吸着性である難吸着成分を含む原料ガスを用いて、前記原料ガスから前記易吸着成分と前記難吸着成分とを回収するガス分離方法であって、
前記第1吸着剤が充填された2つの主吸着槽をラインで接続し、該ラインを用いて一方の前記主吸着槽から他方の前記主吸着槽にガスを導出することで均圧にする工程を有し、
該均圧工程において、一方の前記主吸着槽から導出したガスを、前記ラインに設けられた副吸着槽に充填された前記第2吸着剤によって前記易吸着成分を低減した後に、他方の前記主吸着槽へ導入し、
前記2つの主吸着槽を接続する前記ラインが、前記各主吸着槽の上流側同士または中間部と上流側を接続するラインである
ことを特徴とするガス分離方法。
【請求項7】
PSA方式によって原料ガスから窒素を製造するための窒素ガス製造装置であって、
原料ガスを加圧する圧縮機と、
第1吸着剤が充填された2つの主吸着槽と、
前記2つの主吸着槽間を接続するラインに設けられ、ガス中の酸素濃度を低減するための第2吸着剤が充填された副吸着槽と、を含み、
前記2つの主吸着槽を接続する前記ラインが、前記各主吸着槽の上流側同士または中間部と上流側を接続するラインである
ことを特徴とする窒素ガス製造装置。
【請求項8】
前記副吸着槽に充填された前記第2吸着剤の酸素吸着速度が、前記主吸着槽に充填された前記第1吸着剤の酸素吸着速度より速いことを特徴とする請求項7に記載の窒素ガス製造装置。
【請求項9】
前記主吸着槽に充填された前記第1吸着剤が、分子篩活性炭であることを特徴とする請求項7または請求項8に記載の窒素ガス製造装置。
【請求項10】
前記副吸着槽に充填された前記第2吸着剤が、分子篩活性炭であることを特徴とする請求項ないし請求項のいずれか1項に記載の窒素ガス製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒素ガス製造方法、ガス分離方法および窒素ガス製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、圧力変動吸着方式(Pressure Swing Adsorption :PSA方式)による窒素ガス製造装置(窒素PSA装置)は、簡便な窒素ガス供給手段として多くの用途で用いられている。このような窒素ガス製造装置に対しては、近年、ユーザーニーズとして、一層の省電力化、省スペース化が望まれている。
【0003】
従来、この種の窒素ガス製造装置として、以下に示す装置が知られている。図7は、従来の窒素ガス製造装置の一例を示す図である。
図7に示すように、窒素ガス製造装置101は、圧縮機102と、2つの吸着槽(第1吸着槽103及び第2吸着槽104)と、製品タンク105と、それぞれの吸着槽の入口及び出口に設けられた自動切替式の開閉弁111a,111b,112a,112b,113a,113b,114,115と流量調整弁116および製品ガス出口弁117を備えている。
【0004】
圧縮機102は、原料ガス(空気)を加圧するための装置である。また、2つの吸着槽103,104には、原料ガス中の酸素を優先的に吸着する吸着剤109がそれぞれ充填されている。各吸着槽103,104において原料ガス中の酸素を吸着除去し、窒素に富んだ製品ガスを得る。
【0005】
また、第1吸着槽103と第2吸着槽104とは、槽の下流側および上流側において、互いに配管を介して接続されている。
なお、ここで槽の上流側とは、槽の下部側(原料ガス入口側)のことであり、槽の下流側とは、槽の上部側(製品ガス出口側)のことであり原料ガスの流れからすると下流側にあたる位置のことを指している。
【0006】
製品タンク105は、2つの吸着槽103,104の下流側に設けられており、第1吸着槽103とは開閉弁113aを通じて、第2吸着槽104とは開閉弁113bを通じて接続されている。
【0007】
このようなPSA方式の窒素ガス製造装置101を用いて原料ガスから窒素ガスを分離する方法としては、加圧吸着工程と、減圧均圧工程と、減圧再生工程と、加圧均圧工程の各工程を繰り返す方法が知られている。
【0008】
PSA方式では、第1吸着槽103および第2吸着槽104のうち、一方が加圧吸着工程の際には他方は減圧再生工程となっており、一方が減圧均圧工程の際には他方が加圧均圧工程となる関係となっている。したがって、第1吸着槽103について、加圧吸着工程、減圧均圧工程、減圧再生工程、および加圧均圧工程がこの順で行われた際には、第2吸着槽104においては、減圧再生工程、加圧均圧工程、加圧吸着工程、減圧均圧工程がこの順で行われていることとなる。以下では、第1吸着槽103の工程を基準にして説明する。
【0009】
まず、加圧吸着工程では、圧縮機102により加圧した原料ガスを第1吸着槽103に導入して第1吸着槽103内を加圧し、原料ガス中の酸素を吸着剤109に優先的に吸着させて、窒素に富んだガスを得る。
次に、減圧均圧工程では、第1吸着槽103内に残留するガスを第2吸着槽104に送気する。
【0010】
次に、減圧再生工程では、第1吸着槽103を大気に解放して圧力を下げるとともに吸着剤109から酸素を脱着させて吸着剤109を再生する。
そして、加圧均圧工程では、第1吸着槽103は、第2吸着槽104からガスを導入する。
【0011】
図7に基づいて更に具体的に説明すると、第1吸着槽103が加圧吸着工程にあるときは、開閉弁111a,113aは開いており、他の開閉弁は閉じている。
したがって、圧縮機102によって圧縮された原料ガスは、開閉弁111aを通じて第1吸着槽103へ導入される。
そして、第1吸着槽103では吸着剤109により原料ガス中の酸素が吸着され、窒素分に富んだ製品ガスが開閉弁113aを通じて製品タンク105へ送られる。
【0012】
なお、第1吸着槽103から導出された製品ガスの一部は、流量調整弁116を通じて第2吸着槽104内に導入され、吸着剤109の再生に使用される。
工程時間の経過とともに酸素を吸着する吸着剤領域は製品出口端に近づくから、所定の時間で加圧吸着工程は打ち切られる。
【0013】
次に、第1吸着槽103が減圧均圧工程に、第2吸着槽104が加圧均圧工程に入ると、開閉弁114,115が開いた状態となり、他の開閉弁は閉じた状態となる。
この工程においては、第1吸着槽103から第2吸着槽104へ、開閉弁114,115を通じて第1吸着槽103内の相対的に高圧でかつ製品品位には満たないが、比較的窒素分に富んだガス(均圧ガス)が供給される。
【0014】
このように、第1吸着槽103の製品ガス出口側(上部側)から第2吸着槽104の製品ガス出口側(上部側)へ、第1吸着槽103の原料ガス入口側(下部側)から第2吸着槽104の原料ガス入口側(下部側)へガスを導入する方法を上・下部同時均圧法という。上・下部同時均圧法については、例えば非特許文献1、特許文献1などに開示されている。
【0015】
次に、第1吸着槽103の開閉弁112aを開とすることで、第1吸着槽103は減圧再生工程に入る。減圧再生工程で槽内に残留したガスが開閉弁112aから大気に放出され、槽内の圧力が下がるにつれ、吸着剤109に吸着していた酸素が脱着する。このとき、第2吸着槽104から導出された製品ガスの一部は、流量調整弁116を通じて第1吸着槽103内に導入されて槽内のパージが行われて、吸着剤109の再生に使用される。
【0016】
その後、開閉弁114,115を開とし、他の開閉弁を閉とすることで、第1吸着槽103は加圧均圧工程に入り、第2吸着槽104は減圧均圧工程に入る。この工程において、第2吸着槽104から第1吸着槽103へ、第2吸着槽104内の、相対的に高圧でかつ製品品位には満たないが、比較的、窒素に富んだガス(均圧ガス)が供給される。
以上の工程を繰り返すことによって、原料ガスから窒素ガスを分離する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】特開昭51−50298号公報
【非特許文献】
【0018】
【非特許文献1】Separation Science and Technology, 23, 2379(1988)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
ところで、近年、このような従来のPSA方式による窒素ガスの製造方法に対しては、更なる装置の小型化や窒素ガスの収率を向上させ、省電力化することが求められるようになっているが、有効適切なものが提供されていないのが実情であった。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記課題を解決するため、本発明は以下の手段を提供している。
すなわち、請求項1に係る発明は、PSA方式によって原料ガス(空気)から窒素ガスを製造する方法であって、第1吸着剤が充填された2つの主吸着槽を接続するラインに設けられた副吸着槽に充填された第2吸着剤により、減圧均圧工程にある主吸着槽から導出されたガス中の酸素濃度を低減して、前記ガスを加圧均圧工程にある主吸着槽へ導入し、前記2つの主吸着槽を接続する前記ラインが、前記各主吸着槽の上流側同士または中間部と上流側を接続するラインであることを特徴とする窒素ガス製造方法である。
【0022】
また、請求項に係る発明は、前記副吸着槽に充填された前記第2吸着剤の酸素吸着速度が、前記主吸着槽に充填された前記第1吸着剤の酸素吸着速度より速いことを特徴とする請求項1に記載の窒素ガス製造方法である。
【0023】
また、請求項に係る発明は、前記主吸着槽に充填された前記第1吸着剤が分子篩活性炭であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の窒素ガス製造方法である。
【0024】
また、請求項に係る発明は、前記副吸着槽に充填された前記第2吸着剤が分子篩活性炭であることを特徴とする請求項1ないし請求項のいずれか1項に記載の窒素ガス製造方法である。
【0025】
また、請求項に係る発明は、PSA方式によって原料ガスから窒素ガスを製造する方法であって、吸着剤が充填された2つの主吸着槽をラインで接続し、該ラインを用いて一方の前記主吸着槽から他方の前記主吸着槽にガスを導出することで均圧にする工程を有し、該均圧工程において、一方の主吸着槽から導出した前記ガスが、他方の主吸着槽に導入されるまでの間に、酸素除去手段によって酸素濃度が低減され、前記2つの主吸着槽を接続する前記ラインが、前記各主吸着槽の上流側同士または中間部と上流側を接続するラインであることを特徴とする窒素ガス製造方法である。
【0026】
また、請求項に係る発明は、第1吸着剤および第2吸着剤に対して易吸着性である易吸着成分と、前記吸着剤に対して難吸着性である難吸着成分を含む原料ガスを用いて、前記原料ガスから前記易吸着成分と前記難吸着成分とを回収するガス分離方法であって、前記第1吸着剤が充填された2つの主吸着槽をラインで接続し、該ラインを用いて一方の前記主吸着槽から他方の前記主吸着槽にガスを導出することで均圧にする工程を有し、該均圧工程において、一方の前記主吸着槽から導出したガスを、前記ラインに設けられた副吸着槽に充填された前記第2吸着剤によって前記易吸着成分を低減した後に、他方の前記主吸着槽へ導入し、前記2つの主吸着槽を接続する前記ラインが、前記各主吸着槽の上流側同士または中間部と上流側を接続するラインであることを特徴とするガス分離方法である。
【0027】
また、請求項に係る発明は、PSA方式によって原料ガスから窒素を製造するための窒素ガス製造装置であって、原料ガスを加圧する圧縮機と、第1吸着剤が充填された2つの主吸着槽と、前記2つの主吸着槽間を接続するラインに設けられ、ガス中の酸素濃度を低減するための第2吸着剤が充填された副吸着槽と、を含み、前記2つの主吸着槽を接続する前記ラインが、前記各主吸着槽の上流側同士または中間部と上流側を接続するラインであることを特徴とする窒素ガス製造装置である。
【0029】
また、請求項に係る発明は、前記副吸着槽に充填された前記第2吸着剤の酸素吸着速度が、前記主吸着槽に充填された前記第1吸着剤の酸素吸着速度より速いことを特徴とする請求項7に記載の窒素ガス製造装置である。
【0030】
また、請求項に係る発明は、前記主吸着槽に充填された前記第1吸着剤が、分子篩活性炭であることを特徴とする請求項7または請求項8に記載の窒素ガス製造装置である。
【0031】
また、請求項10に係る発明は、前記副吸着槽に充填された前記第2吸着剤が、分子篩活性炭であることを特徴とする請求項ないし請求項のいずれか1項に記載の窒素ガス製造装置である。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、主吸着槽に充填する吸着剤を減量させることができ、窒素ガス製造装置の小型化が可能となる。また窒素ガスの回収率を向上させることができ、その結果、窒素ガス製造装置の省電力化が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1図1は、本発明の一実施形態である窒素ガス製造装置の概略を示す系統図である。
図2図2は、本発明の一実施形態である窒素ガス製造方法を示す工程図であり、図2(a)は操作1の工程を、図2(b)は操作2の工程を、図2(c)は操作3の工程を、図2(d)は操作4の工程を示している。
図3図3(a)および図3(b)は、副吸着槽の有無による収率および能力と製品ガス中の酸素濃度との関係について示したグラフである。
図4図4(a)および図4(b)は、副吸着槽に充填する吸着速度の異なる各吸着剤に対する収率および能力と製品ガス中の酸素濃度との関係について示したグラフである。
図5図5は、容積の異なる各副吸着槽に対する収率および能力の関係について示したグラフである。
図6図6は、吸着剤の吸着速度について測定した結果を示したグラフである。
図7図7は、従来の窒素ガス製造装置の概略を示す系統図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明を適用した窒素ガス製造装置および窒素ガス製造方法について、図面を用いて詳細に説明する。
<窒素ガス製造装置>
本発明の窒素ガス製造装置1は、PSA方式の製造装置であり、図1に示すように、圧縮機2と、第1主吸着槽4と、第2主吸着槽5と、副吸着槽6と、製品タンク3と、から概略構成されている。
【0035】
圧縮機2は、原料ガス(空気)を圧縮する装置であり、第1主吸着槽4とは入口弁41aを通じて配管21,22,23を介して、第2主吸着槽5とは入口弁41bを通じて配管21,22,24を介して接続されている。
【0036】
また、第1主吸着槽4および第2主吸着槽5には、原料ガス中の窒素よりも酸素を優先的に吸着する吸着剤9(第1吸着剤)が充填されている。この吸着剤9としては分子篩活性炭を用いることが好ましい。
【0037】
分子篩活性炭は、平衡吸着量として酸素、窒素ともにほぼ同じ量を吸着する性質を有しているが、窒素に比べて分子径の小さい酸素をより速い吸着速度で吸着するから、用いる分子篩活性炭に合った適切なサイクルタイムの選定により、窒素を選択的に濃縮分離することができる。
【0038】
一般に吸着速度の速い吸着剤は、短いサイクル操作が適当なことから窒素ガス生産性が高く、遅い吸着剤は酸素と窒素の吸着速度差が大きくなるから比較的大きい分離比(窒素回収率)を持ち、窒素回収率が高い操作が可能とされる。
すなわち、窒素生産性と分離比はトレードオフの関係にあり、PSA装置メーカーは市販されている分子篩活性炭からそれぞれの判断により選定している。
【0039】
製品タンク3は、第1主吸着槽4および第2主吸着槽5から導出される窒素ガスを貯蔵するタンクであり、第1主吸着槽4とは出口弁45aを通じて配管25,26,27を介して、第2主吸着槽5とは出口弁45bを通じて配管28,26,27を介して接続されている。
【0040】
製品タンク3内に貯蔵された製品ガスである窒素ガスは、製品ガス出口弁14が設けられた配管29を介して導出するように構成されている。
また、第1主吸着槽4の上流側および下流側は、それぞれ第2主吸着槽5の上流側および下流側と接続されている。
【0041】
第1主吸着槽4の上流側と第2主吸着槽5の上流側とは、配管23と配管24を介して接続されているが、配管23と配管24の間は4つの配管22,30,31,32で接続されている。
【0042】
配管22には、入口弁41a,41bが設けられており、この入口弁41aと入口弁41bとの間に配管21が接続されている。また、配管30には、排気弁42a,42bが設けられており、この排気弁42aと排気弁42bとの間には、外気へと通ずる配管35が接続されている。
【0043】
配管31には、副吸着槽入口弁43a,43bが設けられており、この副吸着槽入口弁43aと副吸着槽入口弁43bとの間には配管36が接続されている。また、配管32には、副吸着槽出口弁44a,44bが設けられており、この副吸着槽出口弁44aと副吸着槽出口弁44bとの間には配管37が接続されている。
そして、配管36は、副吸着槽6の上流側と接続されており、配管37は副吸着槽6の下流側と接続されている。そして、副吸着槽6には、窒素より酸素を吸着する吸着剤15(第2吸着剤)が充填されている。
【0044】
また、第1主吸着槽4の下流側と第2主吸着槽5の下流側とは、配管25と配管28を介して接続されており、配管25と配管28との間は2つの配管33,34で接続されている。配管34には均圧弁46が、配管33には再生ガスの流量を調整する流量調整弁47が設けられている。
【0045】
配管26には、出口弁45a,45bが設けられており、この出口弁45aと出口弁45bとの間に配管27が接続されている。
【0046】
<窒素ガス製造方法>
次に、本実施形態の窒素ガス製造方法について説明する。
まず、本実施形態の窒素ガス製造方法は、加圧吸着工程と、減圧均圧工程と、減圧再生工程と、加圧均圧工程の各工程を繰り返す方法となっている。
【0047】
なお、第1主吸着槽4および第2主吸着槽5のうち、一方が加圧吸着工程の際には他方は減圧再生工程となっており、一方が減圧均圧工程の際には他方が加圧均圧工程となる関係となっている。したがって、第1主吸着槽4について、加圧吸着工程、減圧均圧工程、減圧再生工程、および加圧均圧工程がこの順で行われた際には、第2主吸着槽5においては、減圧再生工程、加圧均圧工程、加圧吸着工程、減圧均圧工程がこの順で行われていることとなる。以下では、第1主吸着槽4における工程を中心に説明する。
【0048】
まず、加圧吸着工程では、圧縮機2により適当な圧力に加圧した原料ガスを第1主吸着槽4に導入して、第1主吸着槽4内を所定の圧力にし、原料ガス中の吸着しやすい酸素を吸着剤9に優先的に吸着させて、吸着しにくい窒素を製品タンク3に導出する。
次に、減圧均圧工程では、第1主吸着槽4内に残留するガスを第2主吸着槽5に送気する。
【0049】
次に、減圧再生工程では、第1主吸着槽4を大気に解放して圧力を下げ、吸着剤9に吸着していた酸素を脱着させて吸着剤9を再生する。
そして、加圧均圧工程では、第1主吸着槽4は、第2主吸着槽5からガスを受け入れる。
【0050】
その後、再び第1主吸着槽4は加圧吸着工程に移行し、以上の工程を繰り返すことで、原料ガスから窒素ガスを分離する。すなわち、第1主吸着槽4と第2主吸着槽5は、吸着と再生を交互に繰り返すことによって、連続的に原料ガスから窒素ガスを製造する。
【0051】
上記した窒素製造装置1を用いた窒素ガスの製造方法について、より詳細に図2および表1を参照して説明する。
なお、図2(a)、(b)、(c)および(d)は、それぞれ操作1、操作2、操作3および操作4の各工程を示す図であり、図中の矢印はガスの流れを示し、図中の太線は、ガスが流通している配管を示している。また、表1は、第1主吸着槽4、第2主吸着槽5、および副吸着槽6における各工程の関係を示している。
【0052】
【表1】
【0053】
図2(a)に示す操作1では、第1主吸着槽4では加圧吸着工程が行われており、第2主吸着槽5では減圧再生工程が行われ、副吸着槽6では減圧再生工程が行われている。
【0054】
操作1では、入口弁41aと、出口弁45aと、排気弁42bと、副吸着槽入口弁43bが開き、流量調整弁47では、第1主吸着槽4の下流側から第2主吸着槽5の下流側へ流出するガスの流量が適切に制御されており、他の開閉弁は閉じている。
【0055】
この操作1では、入口弁41aが開いていることから、圧縮機2によって圧縮された原料ガスが、配管21,22,23を介して第1主吸着槽4に導入され、第1主吸着槽4内が加圧される。
そして、第1主吸着槽4内において、原料ガス中の吸着しやすい酸素が吸着剤9に優先的に吸着され、吸着しにくい窒素が第1主吸着槽4から導出される。
そして、出口弁45aが開いていることから、第1主吸着槽4から導出された窒素ガスは、配管25,26,27を介して製品タンク3に導入される。
【0056】
一方、第2主吸着槽5においては、排気弁42bが開いていることから、第2主吸着槽5内のガスは、配管24,30,35を介して大気に放出されるので、第2主吸着槽5内の圧力は低下(減圧)する。
加えて、第1主吸着槽4から導出される窒素ガスの一部が、配管33を通って、流量調整弁47によって所望の流量となって第2主吸着槽5に導入され、この窒素ガスによって、第2主吸着槽5の吸着剤9から脱着した酸素が洗い流され、吸着剤9の再生が促進される(パージ再生)。
【0057】
この時、副吸着槽入口弁43bが開いていることから、副吸着槽6内のガスは、配管36,31,30,35を介して大気に放出されるので、副吸着槽内6の圧力が低下し(減圧し)、吸着剤15の再生が行われる。
【0058】
次に、図2(b)に示す操作2では、第1主吸着槽4では減圧均圧工程が行われており、第2主吸着槽5では加圧均圧工程が行われ、副吸着槽6では、加圧吸着工程が行われている。
この操作2では、加圧吸着工程が終了して槽内の圧力が相対的に高い第1主吸着槽4内のガスが、減圧再生工程が終了して槽内圧力が相対的に低い第2主吸着槽5に回収され、結果的に第1主吸着槽4は減圧され、第2主吸着槽5と副吸着槽6は加圧される。
【0059】
操作2では、副吸着槽入口弁43aと、副吸着槽出口弁44bと、均圧弁46が開いており、他の開閉弁は閉じている。
第1主吸着槽4内のガスは、第1主吸着槽4の下流側から配管25,34,28を介して第2主吸着槽の下流側に導入される。
なお、流量調整弁47では流量が調整されるので、第1主吸着槽4から導出したガスの多くは、配管33を通らず、配管34を通って第2主吸着槽5に導入されることとなる。
【0060】
また、副吸着槽入口弁43aと副吸着槽出口弁44bが開いていることから、第1主吸着槽4内のガスは、第1主吸着槽4の上流側から配管23,31,36、副吸着槽6、配管37,32,24を介して第2主吸着槽5の上流側に導入される。
【0061】
ここで、PSA法による窒素分離において、加圧吸着工程終了時には吸着槽の製品ガス出口付近に存在するガスは、製品品位として下限に近い値となっている。一方原料ガス入口付近に存在するガスは、ほぼ空気組成となっている。吸着槽内に分布する窒素の濃度は製品ガス出口から原料ガス入口に向かって濃度分布を形成している。
第1主吸着槽4の下流側から導出されるガスは、第1主吸着槽4内の吸着剤9によって酸素が吸着された後のガスなので、製品品位には満たないが比較的純度の高い窒素ガスとなっている。しかし、第1主吸着槽4の上流側から導出されるガスは、未だ十分に吸着剤9によって酸素が低減されていないガスなので、空気に近い窒素濃度のガスと考えることができる。
【0062】
そして、この第1主吸着槽4の上流側から導出される、相対的に低い窒素濃度のガスを、副吸着槽6の上流側に導入すると、副吸着槽6内は加圧され、副吸着槽6内に充填された吸着剤15(酸素除去手段)によって、低純度の窒素ガス中の酸素が吸着され、酸素濃度が低減される。
【0063】
この結果、副吸着槽6の下流側から導出され、第2主吸着槽5の上流側に導入されるガス(回収ガス)は、純度が高い窒素ガスとなり、第2主吸着槽5が、低純度の窒素ガスによって汚染されることを防ぐことができる。
なお、副吸着槽6に流すガス速度(流量)についてはオリフィス等による調整により最適調整が可能である。
【0064】
副吸着槽6が大きくなることは設備費の上昇を招くことや、副吸着槽6が保持するガス量が大きくなることによって、各主吸着槽4,5へ回収するガス量の低下などの悪影響もあるため、これらの兼ね合いを考えて副吸着槽6のサイズを選定すればよい。
【0065】
また、副吸着槽6中を流れるガスは、各主吸着槽4,5を流れる原料ガスより流速が速く、吸着剤15と接触する時間が短い。すなわち、副吸着槽6に充填された吸着剤15は、一般的な吸着操作と異なり、均圧時間内の短時間・高流速下の操作となる。
したがって、副吸着槽6に充填される吸着剤15は、各主吸着槽4,5に充填した吸着剤9より酸素の吸着速度が速いものであることが好ましい。
【0066】
このような吸着剤15には、例えば以下のような方法によって、酸素の吸着速度を調整したものを用いればよい。
一般に分子篩活性炭は、多孔性炭素材を400〜900℃に加熱しつつベンゼン・トルエンなどの炭化水素を含む不活性ガスと数分〜数十分間接触させて炭化水素の熱分解炭素を、多孔性炭素材の細孔入り口に沈着させて製造している。
【0067】
したがって、炭素沈着の程度を加減することで吸着速度の速い剤、遅い剤を作り分けることが可能である。そのような手段で調整された分子篩活性炭を入手し、その吸着速度測定を行うことで、主吸着槽に充填する吸着剤より速い吸着速度の吸着剤を選定することができる。
また、吸着剤の粒子径を小さくすることでも吸着速度を早くすることが可能である。
すなわち、酸素の吸着速度が速い吸着剤としては、ペレット径を小さく造粒した吸着剤や細孔径を大きめに調整したもの等を利用すれば良い。
【0068】
次に、図2(c)に示す操作3について説明する。操作3では、操作1の第1主吸着槽4と第2主吸着槽5の役割が入れ替わっており、第1主吸着槽4では減圧再生工程が行われており、第2主吸着槽5では加圧吸着工程が行われ、副吸着槽6では減圧再生工程が行われている。
操作3では、入口弁41bと、出口弁45bと、排気弁42aと、副吸着槽入口弁43aが開いており、他の開閉弁は閉じている。
【0069】
この操作3では、入口弁41bが開いていることから、圧縮機2によって圧縮された原料ガスが、配管21,22,24を介して第2主吸着槽5の上流側に導入され、第2主吸着槽内5が加圧される。そして、第2主吸着槽5内において、原料ガス中の吸着しやすい酸素が吸着剤10に優先的に吸着され、吸着しにくい窒素が第2主吸着槽5の下流側から導出される。
そして、出口弁45bが開いていることから、第2主吸着槽5から導出された窒素ガスは、配管28,26,27を介して製品タンク3に導入される。
【0070】
また、排気弁42aが開いていることから、第1主吸着槽4内のガスは、配管23,30,35を介して大気に放出されるので、第1主吸着槽4内の圧力は低下(減圧)する。
加えて、第2主吸着槽5の下流側から導出される窒素ガスの一部が、配管28,33,25を通って、流量調整弁47によって所望の流量となって第1主吸着槽4に導入される。そして、この窒素ガスによって、第1主吸着槽4の吸着剤9から脱着した酸素が洗い流され、吸着剤9の再生が促進される(パージ再生)。
【0071】
また、副吸着槽入口弁43aが開いていることから、副吸着槽6内のガスは、配管36,31,30,35を介して大気に放出されるので、副吸着槽6内の圧力が低下し(減圧し)、吸着剤15の再生が行われる。
【0072】
次に、図2(d)に示す操作4について説明する。操作4では、操作2の第1主吸着槽4と第2主吸着槽5の役割が入れ替わっており、第1主吸着槽4では加圧均圧工程が行われ、第2主吸着槽5では減圧均圧工程が行われ、副吸着槽6では、加圧吸着工程が行われている。
この操作4では、加圧吸着工程が終了して槽内圧力が相対的に高い第2主吸着槽5内のガスが、減圧再生工程が終了して槽内圧力が相対的に低い第1主吸着槽4に回収され、結果的に第2主吸着槽5は減圧され、第1主吸着槽4と副吸着槽6は加圧される。
【0073】
操作4では、副吸着槽入口弁43bと、副吸着槽出口弁44aと、均圧弁46が開いており、他の開閉弁は閉じている。
【0074】
均圧弁46が開いていることから、第2主吸着槽5内のガスは、第2主吸着槽5の下流側から配管28,34,25を介して第1主吸着槽4の下流側に導入される。
なお、流量調整弁47では流量が調整されるので、第1主吸着槽4に導入されるガスの多くは、配管33を通らず、配管34を通ることとなる。
【0075】
また、副吸着槽入口弁43bと副吸着槽出口弁44aが開いていることから、第2主吸着槽5内のガスは、第2主吸着槽5の上流側から配管24,31,36、副吸着槽6、配管37,32,23を介して第1主吸着槽4の上流側に導入される。
【0076】
そして操作2と同様に、第2主吸着槽5の上流側から導出される回収ガスは、副吸着槽6の上流側に導入されることで、副吸着槽6内は加圧され、副吸着槽6内に充填された吸着剤15によって、低純度の窒素ガス中の酸素が吸着され、低減される。
【0077】
この結果、副吸着槽6の下流側から導出され、第1主吸着槽4の上流側に導入される回収ガスは、純度が高い窒素ガスとなり、第1主吸着槽4が、低純度の窒素ガスによって汚染されることを防ぐことができる。
【0078】
以上のような操作1ないし操作4を繰り返すことで、各主吸着槽4,5については、加圧吸着工程、減圧均圧工程、減圧再生工程、加圧均圧工程の各工程を繰り返すこととなり、原料ガスから窒素ガスを分離し、効率よく製品窒素ガスを得ることができる。
【0079】
なお、上記実施形態では、出口弁45a,45bを開閉弁とする場合について説明したが、逆止弁としてもよく、副吸着槽出口弁44a,44bを逆止弁としてもよい。また、流量調整弁47に代えてオリフィスや、配管(チューブ)絞りによる流量調整法を用いても構わない。
【0080】
本実施形態の窒素ガス製造装置1および窒素ガス製造方法によれば、第1主吸着槽4および第2主吸着槽5に充填する吸着剤を減量することができ、装置の小型化が可能となる。また、窒素ガスの回収率を向上させることができ、その結果、窒素ガス製造装置の省電力化も可能となる。
【0081】
すなわち、従来の窒素ガス製造装置は、加圧均圧工程において、一方の吸着槽の上流側に、他方の吸着槽の上流側から導出された回収ガスがそのまま導入されていた。
しかしながら、加圧吸着工程から減圧均圧工程に切り替えられた時点の、吸着槽の上流側から導出する窒素ガスには、不純物である酸素が多く含まれることを本願発明者らは見出した。
【0082】
そこで、本実施形態では、加圧均圧工程において、一方の主吸着槽の上流側から導出される酸素が比較的多く含まれる窒素ガスを、副吸着槽6に導入し、副吸着槽6に充填された吸着剤により酸素を吸着して低減した後に、他方の主吸着槽の上流側に導入するようにした。
これにより、加圧均圧工程において、他方の主吸着槽が汚染されることを防ぐことができ、その結果、窒素回収率が向上するとともに、窒素発生能力が向上して、各主吸着槽に充填する吸着剤量を減らすことが可能となった。
【0083】
一般に、窒素ガス生産性(発生する窒素量をPSA装置に用いられる吸着剤の量で割った値=能力)および窒素回収率がPSA装置の性能を評価するための基準となる。
したがって、本実施形態によれば、主吸着槽に充填する吸着剤の量を減らすことができるので、窒素ガス生産性に優れているといえ、また、窒素回収率も向上しているので、窒素ガス製造装置として優れた装置だといえる。
【0084】
また、窒素回収率が高いということは、同じ原料ガス量でもより多くの窒素を分離して製品とすることができる。反対に同じ製品ガス量とした場合は、原料ガスを減らすことができ、空気圧縮機動力の省電力を達成できる。
【0085】
本実施形態の副吸着槽6に充填する吸着剤15は、各主吸着槽4,5に充填した吸着剤9より酸素の吸着速度が速いものであることが好ましい。このような吸着剤15を用いることで、副吸着槽6を設けて回収ガスから酸素を除去する効果が最も良く発揮される。
もっとも、各主吸着槽4,5に充填した吸着剤9と同一特性の吸着剤を用いても、副吸着槽6を設けない場合と比較すれば十分に効果はある。
【0086】
以上、本発明を実施形態に基づき説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることは言うまでもない。
例えば、上記実施形態では、第1主吸着槽4と第2主吸着槽5は、上流側と下流側において接続されることで、加圧均圧工程が行われる場合について説明したが、このような場合に限定されない。第1主吸着槽4の中間部(上流側と下流側の間の中間的な位置)と第2主吸着槽5の上流部を配管で接続することで、第1主吸着槽4と第2主吸着槽を接続するラインを形成し、加圧均圧工程を行うような場合においても、副吸着槽を設ける効果は発揮される。
【0087】
また、第1主吸着槽4の下流側と第2主吸着槽5の下流側を接続するラインに副吸着槽6を設けてもよく、第1主吸着槽4の中間部と第2主吸着槽5の上流部を接続ラインに副吸着槽6を設けていても構わない。
【0088】
もっとも、各主吸着槽4,5の下流側から導出される窒素ガスは比較的高純度なので、このガスを副吸着槽6に導入して酸素を吸着させたとしても、あまり効果は得られない。
副吸着槽の再生についても、ここで述べたラインを用いることに限定されない。主吸着槽の再生ガスが副吸着槽を流れるライン構成も可能であり、この場合においても副吸着槽の効果を損なうものではない。
【0089】
また、上記実施形態では、主吸着槽の数が2個の場合について説明したが、吸着槽の数を限定するものではない。1槽式であっても均圧槽を設ける場合には、吸着槽と均圧槽との接続ラインに副吸着槽を設けることができる。
また、原料ガス(空気)から窒素ガスを製造する場合について説明したが、必ずしも原料ガスおよび製造ガスの組合せはこれに限定されるものではなく、広く吸着剤を用いて原料ガスから易吸着成分と難吸着成分を回収するガス分離方法に適用させることができる。
【0090】
本発明を実施例により説明する。ただし、本発明は以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【0091】
(実施例1)
実施例1では、副吸着槽の有無による性能差について調べた。具体的には、図1に示した本発明の窒素ガス製造装置を用いた場合と、図7に示した一般的な窒素ガス製造装置を用いた場合の、収率(窒素ガス回収率)および能力(窒素ガス生産性)について調べた。
本実施例における副吸着槽は、主吸着槽の1/10の容積のものを用い、吸着剤は後述の実験例で示した吸着剤Aを充填した。
各工程の操作条件は、吸着工程での最高圧力を約0.7MPaG、加圧吸着工程時間(減圧再生工程時間)を56秒、均圧工程時間を4秒とした。
【0092】
一般的な窒素ガス製造装置では、均圧工程において減圧側と加圧側がほぼ同圧になった。
副吸着槽を設けた本発明の窒素ガス製造装置では、副吸着槽の圧力は均圧工程開始とともに速やかに約0.5MPaGまで上昇した後、減圧均圧工程にある吸着槽の圧力とほぼ等しい値を示しながら低下して均圧工程を終えた。均圧工程終了時には、両槽で0.02から0.04MPa程度の圧力差がみられた。
また一方の主吸着槽が減圧再生工程に入ると、副吸着槽の圧力は主吸着槽の圧力とともに速やかに大気圧まで低下した。
【0093】
収率は、製品窒素ガス流量/原料空気流量で求め、能力は、製品窒素ガス流量/主吸着槽充填吸着剤総量(2つの主吸着槽に充填される吸着剤の総量で、副吸着槽に充填される吸着剤を含めない)で求めた。結果を図3(a)および図3(b)に示す。
いずれも縦軸は、副吸着槽が無い場合における製品ガス中酸素濃度100ppmVでの収率もしくは能力を1としたときの相対値で表した。
【0094】
図3(a)および図3(b)に示すように、例えば製品ガス中酸素濃度が100ppm(volume)時では、副吸着槽が有る場合は、無い場合に比べ収率が約9.0%改善している。また、副吸着槽が有る場合は、無い場合に比べ能力が約8.0%改善している。
【0095】
(実施例2)
実施例2では、副吸着槽に充填する吸着剤について、吸着速度の異なる分子篩活性炭を用いた場合について調べた。具体的には、主吸着槽に用いた吸着剤と比較して、同一特性の吸着剤を用いた場合と、吸着速度の速いものを用いた場合と、吸着速度の遅いものを用いた場合について、主吸着槽の1/10の容積の副吸着槽を用い、収率および能力を調べた。結果を図4(a)および図4(b)に示す。
なお、図4(a)および図4(b)においては、比較のため、副吸着槽を用いない場合についても記してある。
【0096】
図4(a)および図4(b)に示すように、収率および能力を比較したグラフにおいて、例えば製品ガス中の酸素濃度100ppm時で比較すると、主吸着槽よりも吸着速度の遅い吸着剤を用いた場合でも、副吸着槽を設けない場合と比較して、実験値は上方向にある。この傾向は吸着速度が速くなるにつれて、より明確になる。
【0097】
(実施例3)
実施例3では、副吸着槽の容積に対する性能について調べた。具体的には、副吸着槽の容積を、主吸着槽の容積の1/5,1/7,1/10,1/20,1/40とした場合について、収率および能力を調べた。副吸着槽に充填した吸着剤は、後述の実験例で示した吸着剤Aである。結果を図5に示す。
【0098】
図5に示すように、いずれの容積の副吸着槽であっても、副吸着槽が無い場合と比較して性能が高くなることがわかった。
少なくとも、副吸着槽の容積が主吸着槽の容積の40分の1以上5分の1以下である場合には、副吸着槽が無い場合より性能が高くなる。また、図5は、製品ガス中の窒素濃度が99.99%の場合での性能を示したものだが、窒素濃度が99%〜99.999%の範囲において、副吸着槽を設ければ同様に性能が高くなる結果が得られた。
なお、副吸着槽が大きくなると、設備費の上昇を招き、また、副吸着槽が保持するガス量が大きくなることによって、主吸着槽へ回収するガス量の低下など悪影響もあるため、これらの兼ね合いを考えて副吸着槽のサイズを選定すればよい。
【0099】
(実験例)
実験例では、吸着剤の吸着速度について、定容式吸着速度測定装置(日本ベル社製ベルソープ)を用いて調べた。具体的には、酸素ガス、窒素ガスの各々を吸着剤に接触させ、時間の経過に対する圧力の低下を測定した。
結果を図6に示す。なお、図6において、横軸は吸着時間を表し、縦軸は初期圧(P)と平衡圧(P)の差に対する任意の時間の圧力(P)と平衡圧(P)との差を相対化した(P−P)/(P−P)を表す。
【0100】
(P−P)/(P−P)=1と曲線との差が各吸着剤の吸着量に対応する。すなわち、吸着剤がガスと接触した時点(t=0)では、圧力(P)は初期圧(P)と等しく、(P−P)/(P−P)=1となる。時間の経過とともに吸着量が増えて、各吸着剤の(P−P)/(P−P)の値は徐々に下がり、圧力(P)が平衡圧(P)と等しくなった時点が吸着飽和の状態であって、(P−P)/(P−P)=0となる。
【0101】
図6において、左側にある曲線ほど短い時間で圧力が下がることから、吸着する速度が速いことを示す。一般に、酸素の吸着速度と窒素の吸着速度は対になった吸着特性を示す。すなわち、酸素の吸着速度が速い吸着剤は、相対的に窒素の吸着速度も速い。したがって、図6によれば、吸着剤Aがもっとも吸着速度の速い剤であり、次いで吸着剤B,吸着剤Cの順序になる。
【0102】
吸着剤Aについて、実施例1に記載した加圧工程終了(吸着工程開始から4秒後)時点での吸着量を図6でみると、酸素の吸着量は平衡吸着量の80%強に達しているが、窒素の吸着量は10%強にとどまっている。
一方、最も吸着速度が遅い吸着剤Cについて図6をみると、t=4秒における酸素の吸着量は平衡吸着量の20%強であるが、窒素の吸着量はほとんど0である。
【0103】
なお、実施例2における、主吸着槽に充填された吸着剤よりも吸着速度の速い吸着剤、同一特性の吸着剤、および吸着速度の遅い吸着剤とは、それぞれ本実験例における吸着剤A、吸着剤B、および吸着剤Cのことである。
【0104】
実施例2では、副吸着槽を設けた方が窒素製造装置としての性能は高くなり、また、吸着速度の速い吸着剤を副吸着槽に充填した方が本発明の効果が高いことを示した。
よって、実施例2と本実験例の結果から、次のように推定される。すなわち、副吸着槽には吸着速度の速い吸着剤を充填した方が、副吸着槽を設ける効果が高くなることから、より吸着速度が速く、酸素/窒素の吸着速度差がある程度大きい吸着剤が入手し得るのであれば、更に本発明の副吸着槽の効果を高めることが可能になる。
【符号の説明】
【0105】
1・・・窒素ガス製造装置、2・・・圧縮機、3・・・製品タンク、4・・・第1主吸着槽、5・・・第2主吸着槽、6・・・副吸着槽、9,15・・・吸着剤、21,22,23,24,25,26,27,28,29,30,31,32,33,34・・・配管、41a,41b・・・入口弁、42a,42b・・・排出弁、43a,43b・・・副吸着槽入口弁、44a,44b・・・副吸着槽出口弁、45a,45b・・・出口弁、46・・・均圧弁、47・・・流量調整弁
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7