特許第5902967号(P5902967)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5902967
(24)【登録日】2016年3月18日
(45)【発行日】2016年4月13日
(54)【発明の名称】懸架装置
(51)【国際特許分類】
   F16F 9/32 20060101AFI20160331BHJP
【FI】
   F16F9/32 H
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-50104(P2012-50104)
(22)【出願日】2012年3月7日
(65)【公開番号】特開2013-185627(P2013-185627A)
(43)【公開日】2013年9月19日
【審査請求日】2014年10月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000929
【氏名又は名称】KYB株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100067367
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 泉
(74)【代理人】
【識別番号】100122323
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 憲
(72)【発明者】
【氏名】新藤 和人
(72)【発明者】
【氏名】小倉 秀昭
【審査官】 岩田 健一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−220494(JP,A)
【文献】 特開2002−274207(JP,A)
【文献】 特開2009−254921(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 9/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両における車体と車輪との間に介装されて、車体側に連結されるアウターチューブと、上記アウターチューブ内に出没可能に挿入されるインナーチューブと、上記インナーチューブを車輪側に連結する車輪側ブラケットとを備え、
上記車輪側ブラケットは、上記インナーチューブの車輪側端部が挿入される筒状の保持部を備えている懸架装置において、
上記保持部の上記アウターチューブ側に、環状のリングが備えられており、上記リングの内周面が上記インナーチューブの外周面に沿って起立するとともに、上記リングの外周面に、上記内周面のアウターチューブ側端部に連なり上記保持部側にかけて徐々に拡径される外周テーパ面が形成されており、
上記リングは上記保持部と分離した弾性体で形成されていることを特徴とする懸架装置。
【請求項2】
上記外周テーパ面に摩擦力低減加工をしたことを特徴とする請求項1記載の懸架装置。
【請求項3】
上記リングの断面が上記内周面の上記アウターチューブ側端部を頂点に持つ三角形状に形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の懸架装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、懸架装置の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、自動車や自動二輪車等の輸送機器においては、車体と車輪との間に懸架装置を介装している。そして、この懸架装置は、車体を弾性支持し路面凹凸による衝撃を吸収する懸架ばねと、衝撃吸収に伴う伸縮運動を抑制する緩衝器とを備えており、路面凹凸による衝撃が車体に伝達されることを抑制している。
【0003】
さらに、自動二輪車等の鞍乗型車両において、車体と前輪との間に介装される懸架装置は、フロントフォークと称されており、図4に示すように、アウターチューブ1と、このアウターチューブ1内に出没可能に挿入されるインナーチューブ2とからなる懸架装置本体Fを備え、図示しないが、この懸架装置本体F内に懸架ばねや緩衝器を収容している。
【0004】
また、上記懸架装置本体Fと緩衝器との間には、緩衝器の体積補償や温度補償をするための液体や気体を収容するリザーバが形成されている。そして、上記液体や気体を懸架装置本体F内に密閉するため、懸架装置本体Fの上下(車体側と車輪側)の開口が図示しないキャップ部材と車輪側ブラケット3で塞がれている。
【0005】
また、アウターチューブ1とインナーチューブ2の重複部の間に形成される筒状隙間Tは、アウターチューブ1の内周に保持される環状のシール部材5で塞がれており、このシール部材5は、懸架装置本体F内の液体や気体が外気側に流出することを防ぐオイルシール51と、懸架装置本体F内に異物が混入されることを防ぐダストシール50とを備えている。
【0006】
さらに、アウターチューブ1が車体側に連結され、インナーチューブ2が車輪側に連結される図4に示すような倒立型フロントフォークにおいては、インナーチューブ2が車輪側ブラケット3を介して前輪の車軸に連結されている。
【0007】
そして、上記車輪側ブラケット3は、車体側に開口する筒状の保持部30を備えており、この保持部30にインナーチューブ2の車輪側端部2aが挿入され、螺合されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】実開平4−84941号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記従来のフロントフォークたる懸架装置においては、上記保持部30のアウターチューブ側端部30bが水平に形成されて、インナーチューブ2の軸心線に対して垂直となっているため、以下の不具合を指摘される虞がある。
【0010】
即ち、上記懸架装置が泥を被るような過酷な環境下で使用された場合には、上記保持部30のアウターチューブ側端部30bに泥が乗り易く落下し難い。そして、上記アウターチューブ側端部30bに泥が乗った状態で懸架装置が勢いよく圧縮されると、ダストシール50が泥を乗り越え、異物混入の原因となる虞がある。
【0011】
そこで、本発明の目的は、懸架装置が泥を被るような過酷な環境下で使用されたとしても、異物混入を抑制することが可能な懸架装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するための手段は、車両における車体と車輪との間に介装されて、車体側に連結されるアウターチューブと、上記アウターチューブ内に出没可能に挿入されるインナーチューブと、上記インナーチューブを車輪側に連結する車輪側ブラケットとを備え、上記車輪側ブラケットは、上記インナーチューブの車輪側端部が挿入される筒状の保持部を備えている懸架装置において、上記保持部の上記アウターチューブ側に、環状のリングが備えられており、上記リングの内周面が上記インナーチューブの外周面に沿って起立するとともに、上記リングの外周面に、上記内周面のアウターチューブ側端部に連なり上記保持部側にかけて徐々に拡径される外周テーパ面が形成されており、上記リングが上記保持部と分離した弾性体で形成されていることである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、上記リングを備えることにより、保持部上に泥が乗ることが抑制され、懸架装置が泥を被るような過酷な環境下で使用されたとしても、異物混入を抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の一実施の形態に係る懸架装置の主要部を部分的に切り欠いて示した正面図である。
図2図1の一部を拡大して示した図である。
図3】(a)本発明の一実施の形態に係る懸架装置の第一の変形例を示し、変更した部分を拡大して示した図である。(b)本発明の一実施の形態に係る懸架装置の第二の変形例を示し、変更した部分を拡大して示した図である。
図4】従来の懸架装置の主要部を部分的に切り欠いて示した正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に本発明の一実施の形態に係る懸架装置について、図面を参照しながら説明する。いくつかの図面を通して付された同じ符号は、同じ部品か対応する部品を示す。
【0016】
本実施の形態に係る懸架装置は、車両における車体と車輪との間に介装されて、図1に示すように、車体側に連結されるアウターチューブ1と、このアウターチューブ1内に出没可能に挿入されるインナーチューブ2と、このインナーチューブ2を車輪側に連結する車輪側ブラケット3とを備え、上記車輪側ブラケット3は、上記インナーチューブ2の車輪側端部2aが挿入される筒状の保持部30を備えている。
【0017】
さらに、上記懸架装置において、上記保持部30のアウターチューブ側に、環状のリング4が備えられており、このリング4の内周面40が上記インナーチューブ2の外周面に沿って起立するとともに、上記リング4の外周面に、上記内周面40のアウターチューブ側端部40aに連なり保持部側にかけて徐々に拡径される外周テーパ面41が形成されている。
【0018】
以下、詳細に説明すると、本実施の形態に係る懸架装置は、自動二輪車等の鞍乗型車両において、その前輪を懸架するフロントフォークであり、図示しないが、アウターチューブ1が車体側ブラケットを介して車体側のステアリングシャフトに連結されるとともに、インナーチューブ2が車輪側ブラケット3を介して前輪の車軸に連結される倒立型フロントフォークである。
【0019】
さらに、上記アウターチューブ1と上記インナーチューブ2とで懸架装置本体Fを構成し、この懸架装置本体Fの図1中上下の開口が、図示しないキャップ部材及び上記車輪側ブラケット3で塞がれている。また、懸架装置本体Fにおいて、アウターチューブ1とインナーチューブ2の重複部の間に形成される筒状隙間Tの外気側(図1中下側)開口がシール部材5で塞がれている。このため、懸架装置本体F内が外気側と区画され、懸架装置本体F内に液体や気体を密閉することができる。
【0020】
つづいて、上記シール部材5は、環状に形成されており、アウターチューブ1の開口端部内周に保持されてインナーチューブ2の外周面に摺接している。そして、本実施の形態において、上記シール部材5は、外気側(図1中下側)に配置されるダストシール50と、このダストシール50の反外気側(図1中上側)にダストシール50と直列に配置されるオイルシール51とを備えている。
【0021】
そして、上記ダストシール50は、内周外気側に延びるとともに、外周に取り付けられるガータスプリング52で先端部がインナーチューブ2の外周面に圧接されるダストシールリップ50aを備えている。また、上記オイルシール51は、内周反外気側に延びるとともに、外周に取り付けられるガータスプリング53で先端部がインナーチューブ2の外周面に圧接されるオイルシールリップ51aを備えている。
【0022】
上記構成を備えることにより、シール部材5は、ダストシールリップ50aでインナーチューブ2の外周面に付着した異物を掻き落とし、オイルシールリップ51aの内周面に異物が挟まれたりオイルシールリップ51aの内周面が異物で疵付いたりすることを抑制する。また、シール部材5は、上記オイルシールリップ51aでインナーチューブ2の外周面に付着した液体を掻き落とし、液体が外気側に流出することを抑制するとともに、液膜を介して上記オイルシールリップ51aをインナーチューブ2の外周面に摺接させることで懸架装置本体F内に液体や気体を密閉し、気密性を保つことができる。
【0023】
つづいて、懸架装置本体Fの図1中下側開口を塞ぎ、インナーチューブ2を前輪の車軸に連結する車輪側ブラケット3は、筒状に形成されて上記インナーチューブ2の車輪側端部2aが挿入される保持部30を備えている。
【0024】
そして、この保持部30の反アウターチューブ側(図1中下側)の内周面には、螺子溝30aが形成されており、この螺子溝30aにインナーチューブ2が螺合されている。また、保持部30のアウターチューブ側端部30bは、水平に形成されて、インナーチューブ2の軸心線に対して垂直となっている。
【0025】
さらに、上記保持部30のアウターチューブ側端部30bには、ゴム等の弾性体からなる環状のリング4が乗せられている。つまり、本実施の形態のリング4は、上記保持部30と分離して形成されており、上記車輪側ブラケット3と別体である。
【0026】
そして、上記リング4の内周面40は、上記インナーチューブ2の外周面に沿って起立する。他方、上記リング4の外周面は、内周面40のアウターチューブ側端部40aに連なり保持部側にかけて徐々に拡径される外周テーパ面41からなっている。
【0027】
また、図2に示すように、外周テーパ面41は、本実施の形態において、上記内周面40のアウターチューブ側端部40aから外周保持部側に傾斜する傾斜面であり、上記リング4の断面が上記内周面40のアウターチューブ側端部40aを頂点に持つ三角形状に形成されている。
【0028】
次に、本実施の形態に係る懸架装置の作用効果について説明する。本実施の形態の懸架装置は、保持部30のアウターチューブ側に環状のリング4を備えており、このリング4の内周面40がインナーチューブ2の外周面に沿って起立するとともに、上記リング4の外周面に、内周面40のアウターチューブ側端部40aに連なり保持部側にかけて徐々に拡径される外周テーパ面41が形成されている。
【0029】
このため、懸架装置が過酷な環境下で使用され、車輪側ブラケット3が泥を被ったとしても、外周テーパ面41を泥が滑り落ち易く、保持部30上に泥が乗ることを抑制することができる。したがって、懸架装置が泥を被るような過酷な環境下で使用されたとしても、従来のように、ダストシール50が保持部30上に溜まった泥に乗り上げる虞がなく、懸架装置本体F内に異物が混入することを抑制することが可能となる。
【0030】
また、従来の形態において車輪側ブラケット3に対してインナーチューブ2が偏心している場合、保持部30とインナーチューブ2との間に隙間ができ、この隙間に泥等の異物が蓄積される虞があるが、本実施の形態においては、リング4が車輪側ブラケット3と別体であり、保持部30と分離して形成されている。
【0031】
このため、車輪側ブラケット3に対してインナーチューブ2が偏心していたとしても、リング4の内周面40をインナーチューブ2の外周面に容易に追従させることが可能となり、保持部30とインナーチューブ2との隙間に泥等の異物が蓄積されることを抑制することが可能となる。
【0032】
また、上記構成を備えることにより、リング4が劣化したり、外周テーパ面41が疵付いたりして外周テーパ面41を泥が滑り落ち難くなった場合には、リング4のみを交換することが可能となる。
【0033】
また、本実施の形態においては、リング4が弾性体からなり、弾性変形することができるため、車輪側ブラケット3をインナーチューブ2に取り付けたままの状態で、リング4を交換することが可能となる。
【0034】
また、本実施の形態において、リング4の断面が、内周面40のアウターチューブ側端部40aを頂点に持つ三角形状となっているため、外周テーパ面41がインナーチューブ2の外周面に対して滑らかに連なり、泥を落下させる効果が高く、特に泥が蓄積され難い。
【0035】
以上、本発明の好ましい実施の形態を詳細に説明したが、特許請求の範囲から逸脱することなく改造、変形及び変更を行うことができることは理解すべきである。
【0036】
例えば、上記実施の形態に係る懸架装置が、自動二輪車等の鞍乗型車両における前輪を懸架するフロントフォークであるとしたが、鞍乗型車両における後輪用のリアクッションユニットや、自動車等他の輸送機器用の懸架装置であるとしてもよい。
【0037】
また、上記一実施の形態において、リング4がゴム等の弾性体からなるとしたがこの限りではなく、リング4の材質は適宜選択することが可能である。
【0038】
また、リング4の外周テーパ面41に摩擦力低減加工をし、泥を滑りやすくして泥の付着を抑制することが好ましく、リング4を保持部30と分離して形成することにより、リング4の設計自由度が高く、外周テーパ面41の表面処理が容易である。
【0039】
尚、摩擦力低減加工として、適宜周知の方法を採用することが可能であるが、例えば、外周テーパ面41に摩擦力を低減するための塗料を塗布したり、リング4を硬質素材で形成する場合には、外周テーパ面41を鏡面仕上げとしたりする方法がある。
【0040】
また、リング4の形状も上記の限りではなく、図3(a)に示すように、リング4の外周面に形成されるテーパ面41Aが、傾斜角度の異なる複数の傾斜面42,43からなるとしてもよい。また、図3(b)に示すように、リング4の外周面に形成されるテーパ面41Bが、軸方向に連なる湾曲面44と傾斜面45からなるとしてもよい。
【0041】
また、上記実施の形態において、リング4は保持部30と分離して形成されているが、リング4が保持部30と一体形成されているとしてもよい。
【符号の説明】
【0042】
F 懸架装置本体
T 筒状隙間
1 アウターチューブ
2 インナーチューブ
3 車輪側ブラケット
4 リング
5 シール部材
30 保持部
40 内周面
41,41A,41B 外周テーパ面
50 オイルシール
51 ダストシール
図1
図2
図3
図4