特許第5902988号(P5902988)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5902988香味素材抽出物、その製造方法およびそれを用いた飲食物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5902988
(24)【登録日】2016年3月18日
(45)【発行日】2016年4月13日
(54)【発明の名称】香味素材抽出物、その製造方法およびそれを用いた飲食物
(51)【国際特許分類】
   A23L 27/10 20160101AFI20160331BHJP
【FI】
   A23L1/221 A
   A23L1/221 C
【請求項の数】4
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2012-88014(P2012-88014)
(22)【出願日】2012年4月9日
(65)【公開番号】特開2013-215129(P2013-215129A)
(43)【公開日】2013年10月24日
【審査請求日】2015年2月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000223090
【氏名又は名称】三菱商事フードテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080447
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 恵一
(74)【代理人】
【識別番号】100141575
【弁理士】
【氏名又は名称】慶田 晴彦
(72)【発明者】
【氏名】高橋 静乃
(72)【発明者】
【氏名】下田 芙雪
【審査官】 山本 匡子
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−253102(JP,A)
【文献】 特開平03−087160(JP,A)
【文献】 特開2004−290009(JP,A)
【文献】 特開2010−227046(JP,A)
【文献】 特開2006−067995(JP,A)
【文献】 特開2002−186449(JP,A)
【文献】 国際公開第2002/049454(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
WPIDS/FROSTI/FSTA(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
香味素材に糖アルコールを添加して40℃以上85℃以下で抽出を行う、香味素材抽出物の製造方法。
【請求項2】
香味素材1重量部に対し、糖アルコールを固形分換算で2〜50重量部添加することを特徴とする、請求項に記載の香味素材抽出物の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の製造方法により得られた、香味素材抽出物。
【請求項4】
請求項に記載の香味素材抽出物を含有する、飲食物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、香味素材の糖アルコール抽出物、その製造方法およびそれを用いて風味を良好にした飲食物に関する。

【背景技術】
【0002】
香味素材とは、食品に風味を添加する香辛料、薬味などを含む食品素材である。これら香味素材は通常固体を含んだ状態で食品に添加されるため、香味素材の衛生管理、添加した食品中の香味素材が偏在する危険性、澄明性を要求される飲料には添加できないなどの問題がある。そのため、工業的に香味素材を食品に添加する場合、香味素材の有効成分を抽出した抽出物を用いると衛生上、製造工程上有利である。
【0003】
このような抽出物としては、たとえば、ネギを油脂で抽出したネギ油が香味素材抽出物として挙げられるが、この抽出物は焦げたネギの風味を有しネギ本来の香りが失われている。また、水に溶解しないこと、油脂の味が添加されてしまうことから、添加できる食品が限定されていた。また、一般に、抽出物を得る方法として水抽出があるが、水のみで抽出した水溶液では抽出効率が悪いため風味が弱く、保存安定性、ハンドリングが悪い。
【0004】
抽出物を得るために、これまでにも製造法がいくつか提案されている。特許文献1(特開2010−227046号公報)には、原料に液状の多価アルコール、もしくは多価アルコールの水溶液を加え加熱抽出をした後、さらにエタノールを加えて抽出を行う香味抽出物の製造方法が記載されている。この方法は脂溶性の香気成分を効率よく抽出できるが、エタノール溶液であるため、揮発性が高く風味の保持が困難であり、これを添加した食品の加工において、風味を安定化させることは困難である。
【0005】
また、乾物から抽出物を得る方法として、特許文献2(特開2004−290009号公報)では、乾物に水分を添加して膨潤させ、糖及び/又は糖アルコールを添加しエキス成分を抽出する方法が記載されている。この方法は乾物から良好な抽出物を得ることが出来るものの、40℃以上の抽出温度では焦げ臭が付き始める恐れがあり、70℃より高くなると明らかに焦げ臭が付き始め、比較例における遊離アミノ酸の高い原料を80℃で抽出したものについては、焦げ臭が付くばかりでなく、素材の風味、旨み、味質も低下する。また40℃未満の抽出温度においては、良好な抽出物が得られるものの、一般に行われている、風味の保持よりも抽出効率を優先する高温での抽出法に比べると抽出効率が悪く、また微生物の発生が懸念されるという問題がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明においては、香味素材本来の風味・呈味が引き出され、損なわれず維持され、かつ食品への汎用性の高い抽出物を良好な抽出効率で提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、前述の課題を解決するため鋭意検討した結果、香味素材に糖アルコールを添加し、40℃以上95℃以下で抽出する方法を見出し、さらに、この方法で得られた香味素材由来の風味を伴う抽出物は、従来のフレーバーや抽出物と異なり、これらでは付与できない、香味素材の持つ風味を食品に与えることができることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は、
第一に、香味素材に糖アルコールを添加して抽出を行う、香味素材抽出物の製造方法である。
第二に、前記抽出を、40℃以上95℃以下で行うことを特徴とする、上記第一に記載の香味素材抽出物の製造方法である。
第三に、香味素材1重量部に対し、糖アルコールを固形分換算で2〜50重量部添加することを特徴とする、上記第一または第二に記載の香味素材抽出物の製造方法である。
第四に、糖アルコールの二糖類以上の高分子の含有量が50〜100%であることを特徴とする、上記第一から第三のいずれか一つに記載の香味素材抽出物の製造方法である。
第五に、糖アルコールの三糖類以上の高分子の含有量が2〜90%であることを特徴とする、上記第一から第四のいずれか一つに記載の香味素材抽出物の製造方法である。
第六に、香味素材がユリ科植物、クスノキ科植物、アブラナ科植物、ショウガ科植物、セリ科植物、バラ科植物、キク科植物、シソ科植物、イネ科植物、クワ科植物、ミカン科植物、ブドウ科植物、ヤシ科植物、ウルシ科植物から選ばれる1種以上であることを特徴とする、上記第一から第五のいずれか一つに記載の香味素材抽出物の製造方法である。
第七に、上記第一から第六のいずれか一つに記載の製造方法により得られた、香味素材抽出物である。
第八に、上記第七に記載の香味素材抽出物を含有する、飲食物である。
【0009】
本発明における香味素材とは、素材特有の風味を有する植物由来の素材であって、例えば、香味野菜、薬味、香辛料などとして加えることでその風味を食品に与えるものをいう。これらは食品に用いることが出来る植物の部位であれば特に制限なく使用でき、例えばニッケイ、シナニッケイ、セイロンニッケイ、ゲッケイジュ(ローリエ)、ネギ、タマネギ、ニラ、ニンニク、セイヨウアサツキ(チャイブ)、ラッキョウ、エシャロット、ワケギ、リーキ、ギョウジャニンニク、ニラ、ヒメニラ、アサツキ、ノビル、ウコン、ミョウガ、ショウガ、ショウズク(カルダモン)、サンショウ、カホクザンショウ、レモングラス、フキ、ゴボウ、カミツレ(カモミール)、ハクサイ、キャベツ、コマツナ、カラシナ、タカナ、ナバナ、ミズナ、タイサイ(チンゲンサイ)、ブロッコリー、カリフラワー、シロガラシ、オランダガラシ(クレソン)、ワサビ、サンショウ、セイヨウワサビ(ホースラディッシュ)、キバナスズシロ(ルッコラ)、ダイコン、シソ、ニホンハッカ(ミント)、ハナハッカ(オレガノ)、マンネンロウ(ローズマリー)、ヤクヨウサルビア(セージ)、イブキジャコウソウ、タチジャコウソウ(タイム)、ニンジン、セロリ、セリ、パセリ、メボウキ(バジル)、イノンド(ディル)、ウイキョウゼリ(チャービル)、ウイキョウ(フェンネル)、コリアンダー、ミツバ、アンズ、モモ、スモモ、ウメ、セイヨウミザクラ、スミミザクラ、イチゴ、リンゴ、メロン、イチジク、オレンジ、ユズ、カボス、スダチ、ヒラミレモン、レモン、ライム、ダイダイ、マンゴー、ブドウ、ヤマブドウ、トゲフウチョウボク(ケッパー)、イエギク、パプリカ、トウガラシ、キダチトウガラシ、チョウジ(クローブ)、ニクズク(ナツメグ)、ヤナギタデ、ソバ、コショウ、エンドウ、ラッカセイ、ダイズ、ゴマ、オニグルミ、チャノキ、コーヒーノキ、カカオ、オクラ、ヤシ、ナツメヤシ、ピスタチオ、カキノキ、ヌマスノキ、シナサルナシなどが挙げられ、本発明では特にユリ科植物(例えば、ネギ、タマネギ、ニラ、ニンニク、セイヨウアサツキ、ラッキョウ、エシャロット、ワケギ、リーキ、ギョウジャニンニク、ニラ、ヒメニラ、アサツキ、ノビル)、クスノキ科植物(例えば、ニッケイ、シナニッケイ、セイロンニッケイ、ゲッケイジュなど)、アブラナ科植物(例えばハクサイ、キャベツ、コマツナ、カラシナ、タカナ、ナバナ、ミズナ、タイサイ、ブロッコリー、カリフラワー、オランダガラシなど)、ショウガ属植物(例えばショウガ、ミョウガなど)、セリ科植物(例えばセロリなど)、バラ科植物(例えばアンズ、モモ、スモモ、ウメ、セイヨウミザクラ、スミミザクラなど)キク科植物(例えばフキ、カミツレなど)、シソ科植物(例えばシソ、ニホンハッカ、ハナハッカ、マンネンロウなど)、イネ科植物(レモングラスなど)、クワ科植物(例えばイチジクなど)、ミカン科植物(例えばサンショウ、オレンジなど)、ブドウ科植物(例えばブドウ、ヤマブドウなど)、ヤシ科植物(例えばヤシ、ナツメヤシなど)、ウルシ科植物(例えばマンゴー、ピスタチオなど)、カキノキ科植物(例えばカキノキなど)、ツツジ科植物(例えばヌマスノキなど)、マタタビ科植物(例えばシナサルナシなど)が好適に使用できる。
【0010】
本発明における香味素材はその植物の食用に出来る部分であれば特に制限無く使用でき、例えば、種子、種皮、芽、子葉、葉、茎、花、果実、樹皮、茎塊、根、地下茎などが使用できる。
【0011】
本発明における香味素材はうま味成分である、遊離アミノ酸の含有量が低いものが好ましい。そのため、例えば、香味素材に含有されるたんぱく質の分解を促す、加熱、水分除去などの操作は行わないことが好ましい。これら呈味成分が多量に含まれている場合は高温で抽出を行うと、焦げ臭が発生し好ましくない。また、本発明における抽出物は、所謂「だし」のような、食品へのうま味付与を目的とするものではないことから、遊離アミノ酸のような、うま味成分の含有量が少ないほうが好ましく、本発明における香味素材に含まれる遊離アミノ酸含有量は4000mg/100g未満である。
【0012】
本発明において、抽出を行う際、香味素材の前処理については特に制限はなく、抽出後、ろ過により容易に除去できるものであれば、切断、破砕、粉砕、すりつぶし、すりおろし、ペースト化などによって香味素材を細分化して抽出に供することも可能であり、また細分化することにより除去が難しくなるようなものであれば、そのままの形態で用いてもよい。すなわち、抽出に供する香味素材の大きさには制限がない。また抽出液中で細分化するなど、細分化と抽出を同時に行ってもよい。
【0013】
本発明で使用する糖アルコールは、その由来、種類、品質など特に制限されるものではなく、一般に市販されている品質のもので十分である。
【0014】
本発明において使用することができる糖アルコールとして、好ましくは、ソルビトール、マルチトール、マルトトリイトール、水素化マルトオリゴ糖、還元澱粉糖化物、水素化デキストリン、水素化分岐デキストリンなど澱粉由来の糖アルコールが挙げられる。
【0015】
本発明においては上記糖アルコールを単独または任意に組み合わせて使用することが出来、その組み合わせに特に制限なく使用できるが、好ましくは二糖類以上の分子量のものが50〜100%、より好ましくは55〜98%であり、好ましくは三糖類以上の分子量のものが2〜90%、より好ましくは9〜80%である。高分子を一定の範囲で含有している抽出液を用いることにより、香味素材の持つ風味をより強く感じることのできる抽出物を得ることができるため好ましい。
【0016】
本発明における糖アルコールの使用量は、香味素材1重量部に対し、糖アルコールを固形分換算で2〜50重量部、好ましくは3〜40重量部であればよい。添加量が2重量部未満の場合は抽出効率が低下する。使用量が50重量部を超える場合は、抽出成分に対する糖質量が多く飲食物への利用が難しい。また、抽出に際しては、糖アルコールの溶液を用いることも出来るが、香味素材の水分含有量が多い場合は、固体の糖アルコールをそのまま用いることも可能である。
【0017】
本発明において、抽出に糖アルコール溶液を用いる場合、抽出効率と作業効率を考慮し、溶液濃度は5〜80%、好ましくは10〜77%である。
【0018】
本発明においては、抽出液の浸透圧を上昇させ、抽出効率を上げるために、抽出液に無機塩類、有機酸塩類、有機酸類から選ばれる1種または2種以上を組み合わせて加えても良い。本発明で使用可能な、無機塩類としては、例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、などが挙げられ、有機酸類、有機酸塩としては、例えば、酢酸、アジピン酸、リンゴ酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸などの有機酸類やそれらの塩類が挙げられる。
【0019】
本発明における抽出温度は、抽出効率、抽出物の品質の観点から、40℃〜95℃、好ましくは50℃〜85℃で行うことが好ましい。95℃を超える温度で抽出を行うと、成分の変質に伴う異臭、焦げ臭などの「過加熱臭」が発生し香味素材の持つ風味が損なわれる。また、40℃未満で抽出を行う場合、抽出効率が低下する。
【0020】
本発明における抽出時間については、特に制限はないが、抽出効率、作業効率、衛生的な観点から、20分から24時間で行うことが望ましい。抽出時間が20分未満の場合は香味素材の成分の抽出液への抽出が十分に行われず、24時間を超える場合は作業効率の低下、微生物の発生などが懸念される。
【0021】
本発明において、香味素材を糖アルコールで抽出した後の混合液は、遠心分離、吸引ろ過、減圧ろ過、加圧ろ過、圧搾ろ過などの通常の固液分離法で処理することによって、抽出物を分離することが出来る。
【0022】
本発明によって得られた抽出物は、酵素処理、フィルターや膜によるろ過、殺菌、pH調整、湿式粉砕、おり下げ、濃縮などを行っても良い。
【0023】
本発明によって得られた抽出物に対し、微生物の発生を抑える目的で、塩化ナトリウム、エタノール、酒類を加えることも出来る。
【0024】
本発明によって得られた抽出物は、熱水抽出物とは異なり、成分の沈殿および、抽出物の経時的な褐変が抑制され、流通、保管における製品の安定性に優れている。
【0025】
本発明によって得られた抽出物は、溶液としてそのまま用いることも可能であるが、粉末に加工することも可能である。粉末に加工することで溶液の場合より取り扱いやすくなり、保存安定性が向上し、保管、流通において有利である。粉末化の方法としては、特に制限はないが、噴霧乾燥法、真空ドラムドライ法などが挙げられる。粉末化の際は、抽出物単体、もしくは賦形剤を加える事も可能である。賦形剤としては糖アルコール、デキストリンなどが好ましいが、一般的に賦形剤として使用される糖質やたんぱく質であれば特に制限はない。また、サイクロデキストリンや多孔性澱粉などを加えて、有効成分を包摂しながら粉末化することも出来る。
【0026】
本発明によって得られた抽出物は、各種調味料、各種飲食物に利用することが出来、これらの風味を向上させる。本発明によって得られた抽出物を利用できる飲食物には特に制限が無く、例えば、茶飲料、コーヒー、ココア、清涼飲料などの各種飲料、和洋中スープ、ルー、惣菜などの各種加工食品、各種菓子類などにおいて利用可能である。
【発明の効果】
【0027】
本発明によって得られた抽出物は、香味素材本来の風味・呈味が引き出され、かつ損なわれず維持されており、各種食品に利用した場合、優れた風味付与効果が認められる。また、本発明によると、糖アルコールを用いて高温で抽出できることから、抽出効率が良い。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下に、本発明に係る香味素材抽出物について、実施例を交えて詳細に説明するが、本発明の技術的範囲は以下の例に限定されるものではない。
【0029】
実施例、比較例においては以下の糖質を用いた。
ソルビトール:ソルビットT70 Lot. 10727、固形分70%(三菱商事フードテック株式会社製)
還元澱粉糖化物(1):アマミール Lot. 012244、固形分70%(三菱商事フードテック株式会社製)
還元澱粉糖化物(2):PO40 Lot. 103234、固形分70%(三菱商事フードテック株式会社製)
還元澱粉糖化物(3):PO20 Lot. 005269、固形分72%(三菱商事フードテック株式会社製)
グルコース:TDA(サンエイ糖化株式会社製)
フラクトース:ベタスイート(扶桑化学工業株式会社製)
スクロース:グラニュ糖(大日本明治製糖株式会社製)
【0030】
還元澱粉糖化物の糖組成は表1に示す。
【0031】
【表1】
【0032】
実施例、比較例における香味素材は、市販のもの、採集したものを使用した。
【0033】
実施例、比較例において、以下の器具を使用した。
ミル:ミル&ジュースミキサーTM807(株式会社テスコム製)
【0034】
官能評価において抽出物を添加する食品は以下のものを用いた。
ミルクティー:午後の紅茶ミルクティー(キリンビバレッジ株式会社製)
スープ:固形スープ(わかめスープ、理研ビタミン株式会社製)6.4gに沸騰水200gを投入後攪拌して調製
ハヤシライス用レトルトルー:銀座ハヤシ(株式会社明治製)沸騰水に袋のまま10分間投入し加熱
【0035】
比較品として以下の市販の水抽出物を用いた。
市販ネギエキス:ネギエキスIM (井村屋シーズニング株式会社製)
【0036】
(遊離アミノ酸の測定)
本発明における遊離アミノ酸の測定は以下の条件でおこなった。
HPLCシステム:Alliance AccQ・Tagアミノ酸分析システム(Waters社製)
分析カラム:AccQ・Tagアミノ酸分析カラム(3.9x150mm)(Waters社製)
カラム温度:35℃
注入量:5μL
溶離条件:グラジェント[Eluent A (Waters社製)、アセトニトリル(関東化学株式会社製)、水]、流量1.0mL/min
検出:励起波長 250nm、蛍光波長 395nm
各香味素材に3倍〜10倍量の水を加えホモジナイズし、ろ過を行い、最終的に0.45μmメンブランフィルター(アドバンテック東洋株式会社製)で濾過をして調製した試料20μL、プレカラム誘導体化試薬[Borate Buffer (Waters社製)60μL+AccQ・Fluor Reagent (Waters)20μL]を80μL加え100μLに調整し、撹拌後55℃の湯浴で10分間加温し反応させた。分析用カラムが接続されたHPLCシステムに注入し、蛍光で検出を行った。標品を用いて作成した検量線との蛍光強度の比較によって定量した。
【実施例1】
【0037】
(ニッケイ抽出物)
ニッケイ樹皮(遊離アミノ酸含有量:検出限界以下)を3〜4cm角に砕き、ミルにて30秒程度粉砕し、1〜5mmのチップ状にしたもの30gを原料とした。得られた原料30gをビーカーに入れ、水を90g加え混合し、混合液を得た。得られた混合液に表2に示す糖質300gを添加し、攪拌しながら表2に示す温度、時間で抽出を行った。抽出後、混合液を目開き250μmの篩を通過させ、固形分を分離し、抽出物(実施品)を得た。
【0038】
【表2】
【0039】
[比較例1]
実施例1に記載の方法を、表3に記載の条件で実施し、抽出物(比較品)を得た。この際、固形の糖質を添加する場合は固体210gに水90gを添加して実施した。
【0040】
【表3】
【実施例2】
【0041】
(ネギ抽出物)
圃場で収穫したネギ(遊離アミノ酸含有量:1099mg/100g)を洗浄後、根の部分を切り落とし、葉脈に対して垂直方向に切断し、5〜10mm幅としたもの30gを原料とした。得られた原料30gをビーカーに入れ、水を90g加え混合し、混合液を得た。得られた混合液に表4に示す糖質を表4に示す量添加し、攪拌しながら70℃で、1時間抽出を行った。抽出後、混合液を目開き250μmの篩を通過させ、固形分を分離し、抽出物(実施品)を得た。
【0042】
【表4】
【0043】
[比較例2−1]
(ネギ水抽出物1)
圃場で収穫したネギを洗浄後、根の部分を切り落とし、葉脈に対して垂直方向に切断し、5〜10mm幅としたもの30gを原料とした。得られた原料30gをビーカーに入れ、水を90g加え混合し、混合液を得た。得られた混合液を、攪拌しながら70℃で、1時間抽出を行った。抽出後、混合液を目開き250μmの篩を通過させ、固形分を分離し、水300gを加え混合し、抽出物(比較品2−1)を得た。
【0044】
[比較例2−2]
(ネギ水抽出物2)
圃場で収穫したネギを洗浄後、根の部分を切り落とし、葉脈に対して垂直方向に切断し、5〜10mm幅としたもの30gを原料とした。得られた原料30gをビーカーに入れ、水を90g加え混合し、混合液を得た。得られた混合液を、攪拌しながら70℃で、1時間抽出を行った。抽出後、混合液を目開き250μmの篩を通過させ、固形分を分離し、ソルビトール300gを加え混合し、抽出物(比較品2−2)を得た。
【0045】
[比較品2−3]
市販ネギエキスを比較品2−3とした。
【0046】
[比較品2−4]
市販ネギエキス90gにソルビトール300gを加え室温で混合し、比較品2−4とした。
【実施例3】
【0047】
(各種香味素材抽出物)
表5に記載の香味素材を表5に記載の方法で調製したもの30gを原料とした。得られた原料30gをビーカーに入れ、水を90g加え混合し、混合液を得た。得られた混合液に還元澱粉糖化物(1)300gを添加し、攪拌しながら70℃で、1時間抽出を行った。抽出後、懸濁液を目開き250μmの篩を通過させ、固形分を分離し、抽出物(実施品)を得た。
【0048】
【表5】
【0049】
[比較例3]
マコンブ(遊離アミノ酸含有量:5022mg/100g)の葉を1cm角に切断したもの30gを原料とした。得られた原料30gをビーカーに入れ、水を90g加え混合し、混合液を得た。得られた混合液に還元澱粉糖化物(1)300gを添加し、攪拌しながら70℃で、1時間抽出を行った。抽出後、懸濁液を目開き250μmの篩を通過させ、固形分を分離し、抽出物(比較品3)を得た。
【0050】
抽出物の評価は、抽出物および、抽出物を含有させた食品に対して、12名のパネルを用いた官能評価によって評価実施した。
【0051】
(抽出物の評価)
抽出物に対しては、過加熱臭がないこと、素材に特徴的な良好な風味を有すること、素材に特徴的な強い風味を有することについて評価した。評価は過加熱臭を感じない側、素材に特徴的な良好な風味を有する側、素材に特徴的な風味が強い側を7点、過加熱臭を感じる側、悪い風味を有する側、素材に特徴的な風味が弱い側を1点とした、1点刻みの1〜7点の7段階尺度を用いた採点法で評価し、その平均値で表6に示すように評価した。
【0052】
【表6】
【0053】
(抽出物を含有させた食品の評価)
食品に含有させた場合については、食品の風味が向上することについて評価した。抽出物を含有しない食品を基準とした効果を、基準品を4点、風味の向上がなされている側を7点、風味が悪化している側を1点とした、1点刻みの1〜7点の7段階尺度を用いた採点法で評価し、その平均値で表7に示すように評価した。
【0054】
【表7】
【0055】
食品へ抽出物を添加した場合の評価においては、ニッケイ抽出物(実施品1、比較品1)については、ミルクティーに0.05%添加したものを、ネギ抽出物(実施品2、比較品2)についてはスープに0.25%添加したものを、実施品3−1〜3−6、比較品3についてはスープに表15に記載の量を添加したものを、実施品3−7〜3−12、比較品3については、ハヤシライス用レトルトルーに表16に記載の量を添加したものを用いた。
結果については、表8〜表16に示す。
【0056】
【表8】
【0057】
【表9】
【0058】
還元澱粉糖化物の糖組成が異なる場合においても、40℃、70℃、90℃の各温度で抽出することによって良好な抽出物が得られた。121℃での抽出物は抽出物自体の風味が低下し、食品に添加した場合においても食品の風味向上が認められなかった。
【0059】
【表10】
【0060】
抽出時間が0.5時間以上の抽出物については、良好な抽出物が得られ、食品に添加した場合も良好な結果が得られた。抽出時間が0.08時間のものについては、良好な抽出物を得ることができなかった。
【0061】
【表11】
【0062】
【表12】
【0063】
還元澱粉糖化物、ソルビトールで抽出を行った場合は良好な抽出物を得ることができたが、水素化されていない糖質であるフラクトース、グルコース、スクロースで抽出した場合は、良好な抽出物を得ることができなかった。
【0064】
【表13】
【0065】
【表14】
【0066】
香味素材1重量部に対し、糖質3.5〜35重量部添加して抽出を行ったものについては良好な抽出液が得られた。水のみで抽出を行ったものについては、良好な抽出物を得ることができなかった。また、水抽出物に糖アルコールを添加したものについても、糖アルコールで抽出を行った抽出物とは異なり、良好なものではなく、糖アルコールを抽出時に使用することが重要であることが明らかとなった。
【0067】
【表15】
【0068】
【表16】
【0069】
各種香味素材に対して糖アルコールで抽出を行ったところ、良好な抽出物が得られ、食品に添加した場合も良好な結果が得られた。遊離アミノ酸含有量の高いマコンブでは良好な抽出物を得ることができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明により、食品に対する良好な風味向上剤の提供が可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0071】
【特許文献1】特開2010−227046号公報
【特許文献2】特開2004−290009号公報