【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、前述の課題を解決するため鋭意検討した結果、香味素材に糖アルコールを添加し、40℃以上95℃以下で抽出する方法を見出し、さらに、この方法で得られた香味素材由来の風味を伴う抽出物は、従来のフレーバーや抽出物と異なり、これらでは付与できない、香味素材の持つ風味を食品に与えることができることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は、
第一に、香味素材に糖アルコールを添加して抽出を行う、香味素材抽出物の製造方法である。
第二に、前記抽出を、40℃以上95℃以下で行うことを特徴とする、上記第一に記載の香味素材抽出物の製造方法である。
第三に、香味素材1重量部に対し、糖アルコールを固形分換算で2〜50重量部添加することを特徴とする、上記第一または第二に記載の香味素材抽出物の製造方法である。
第四に、糖アルコールの二糖類以上の高分子の含有量が50〜100%であることを特徴とする、上記第一から第三のいずれか一つに記載の香味素材抽出物の製造方法である。
第五に、糖アルコールの三糖類以上の高分子の含有量が2〜90%であることを特徴とする、上記第一から第四のいずれか一つに記載の香味素材抽出物の製造方法である。
第六に、香味素材がユリ科植物、クスノキ科植物、アブラナ科植物、ショウガ科植物、セリ科植物、バラ科植物、キク科植物、シソ科植物、イネ科植物、クワ科植物、ミカン科植物、ブドウ科植物、ヤシ科植物、ウルシ科植物から選ばれる1種以上であることを特徴とする、上記第一から第五のいずれか一つに記載の香味素材抽出物の製造方法である。
第七に、上記第一から第六のいずれか一つに記載の製造方法により得られた、香味素材抽出物である。
第八に、上記第七に記載の香味素材抽出物を含有する、飲食物である。
【0009】
本発明における香味素材とは、素材特有の風味を有する植物由来の素材であって、例えば、香味野菜、薬味、香辛料などとして加えることでその風味を食品に与えるものをいう。これらは食品に用いることが出来る植物の部位であれば特に制限なく使用でき、例えばニッケイ、シナニッケイ、セイロンニッケイ、ゲッケイジュ(ローリエ)、ネギ、タマネギ、ニラ、ニンニク、セイヨウアサツキ(チャイブ)、ラッキョウ、エシャロット、ワケギ、リーキ、ギョウジャニンニク、ニラ、ヒメニラ、アサツキ、ノビル、ウコン、ミョウガ、ショウガ、ショウズク(カルダモン)、サンショウ、カホクザンショウ、レモングラス、フキ、ゴボウ、カミツレ(カモミール)、ハクサイ、キャベツ、コマツナ、カラシナ、タカナ、ナバナ、ミズナ、タイサイ(チンゲンサイ)、ブロッコリー、カリフラワー、シロガラシ、オランダガラシ(クレソン)、ワサビ、サンショウ、セイヨウワサビ(ホースラディッシュ)、キバナスズシロ(ルッコラ)、ダイコン、シソ、ニホンハッカ(ミント)、ハナハッカ(オレガノ)、マンネンロウ(ローズマリー)、ヤクヨウサルビア(セージ)、イブキジャコウソウ、タチジャコウソウ(タイム)、ニンジン、セロリ、セリ、パセリ、メボウキ(バジル)、イノンド(ディル)、ウイキョウゼリ(チャービル)、ウイキョウ(フェンネル)、コリアンダー、ミツバ、アンズ、モモ、スモモ、ウメ、セイヨウミザクラ、スミミザクラ、イチゴ、リンゴ、メロン、イチジク、オレンジ、ユズ、カボス、スダチ、ヒラミレモン、レモン、ライム、ダイダイ、マンゴー、ブドウ、ヤマブドウ、トゲフウチョウボク(ケッパー)、イエギク、パプリカ、トウガラシ、キダチトウガラシ、チョウジ(クローブ)、ニクズク(ナツメグ)、ヤナギタデ、ソバ、コショウ、エンドウ、ラッカセイ、ダイズ、ゴマ、オニグルミ、チャノキ、コーヒーノキ、カカオ、オクラ、ヤシ、ナツメヤシ、ピスタチオ、カキノキ、ヌマスノキ、シナサルナシなどが挙げられ、本発明では特にユリ科植物(例えば、ネギ、タマネギ、ニラ、ニンニク、セイヨウアサツキ、ラッキョウ、エシャロット、ワケギ、リーキ、ギョウジャニンニク、ニラ、ヒメニラ、アサツキ、ノビル)、クスノキ科植物(例えば、ニッケイ、シナニッケイ、セイロンニッケイ、ゲッケイジュなど)、アブラナ科植物(例えばハクサイ、キャベツ、コマツナ、カラシナ、タカナ、ナバナ、ミズナ、タイサイ、ブロッコリー、カリフラワー、オランダガラシなど)、ショウガ属植物(例えばショウガ、ミョウガなど)、セリ科植物(例えばセロリなど)、バラ科植物(例えばアンズ、モモ、スモモ、ウメ、セイヨウミザクラ、スミミザクラなど)キク科植物(例えばフキ、カミツレなど)、シソ科植物(例えばシソ、ニホンハッカ、ハナハッカ、マンネンロウなど)、イネ科植物(レモングラスなど)、クワ科植物(例えばイチジクなど)、ミカン科植物(例えばサンショウ、オレンジなど)、ブドウ科植物(例えばブドウ、ヤマブドウなど)、ヤシ科植物(例えばヤシ、ナツメヤシなど)、ウルシ科植物(例えばマンゴー、ピスタチオなど)、カキノキ科植物(例えばカキノキなど)、ツツジ科植物(例えばヌマスノキなど)、マタタビ科植物(例えばシナサルナシなど)が好適に使用できる。
【0010】
本発明における香味素材はその植物の食用に出来る部分であれば特に制限無く使用でき、例えば、種子、種皮、芽、子葉、葉、茎、花、果実、樹皮、茎塊、根、地下茎などが使用できる。
【0011】
本発明における香味素材はうま味成分である、遊離アミノ酸の含有量が低いものが好ましい。そのため、例えば、香味素材に含有されるたんぱく質の分解を促す、加熱、水分除去などの操作は行わないことが好ましい。これら呈味成分が多量に含まれている場合は高温で抽出を行うと、焦げ臭が発生し好ましくない。また、本発明における抽出物は、所謂「だし」のような、食品へのうま味付与を目的とするものではないことから、遊離アミノ酸のような、うま味成分の含有量が少ないほうが好ましく、本発明における香味素材に含まれる遊離アミノ酸含有量は4000mg/100g未満である。
【0012】
本発明において、抽出を行う際、香味素材の前処理については特に制限はなく、抽出後、ろ過により容易に除去できるものであれば、切断、破砕、粉砕、すりつぶし、すりおろし、ペースト化などによって香味素材を細分化して抽出に供することも可能であり、また細分化することにより除去が難しくなるようなものであれば、そのままの形態で用いてもよい。すなわち、抽出に供する香味素材の大きさには制限がない。また抽出液中で細分化するなど、細分化と抽出を同時に行ってもよい。
【0013】
本発明で使用する糖アルコールは、その由来、種類、品質など特に制限されるものではなく、一般に市販されている品質のもので十分である。
【0014】
本発明において使用することができる糖アルコールとして、好ましくは、ソルビトール、マルチトール、マルトトリイトール、水素化マルトオリゴ糖、還元澱粉糖化物、水素化デキストリン、水素化分岐デキストリンなど澱粉由来の糖アルコールが挙げられる。
【0015】
本発明においては上記糖アルコールを単独または任意に組み合わせて使用することが出来、その組み合わせに特に制限なく使用できるが、好ましくは二糖類以上の分子量のものが50〜100%、より好ましくは55〜98%であり、好ましくは三糖類以上の分子量のものが2〜90%、より好ましくは9〜80%である。高分子を一定の範囲で含有している抽出液を用いることにより、香味素材の持つ風味をより強く感じることのできる抽出物を得ることができるため好ましい。
【0016】
本発明における糖アルコールの使用量は、香味素材1重量部に対し、糖アルコールを固形分換算で2〜50重量部、好ましくは3〜40重量部であればよい。添加量が2重量部未満の場合は抽出効率が低下する。使用量が50重量部を超える場合は、抽出成分に対する糖質量が多く飲食物への利用が難しい。また、抽出に際しては、糖アルコールの溶液を用いることも出来るが、香味素材の水分含有量が多い場合は、固体の糖アルコールをそのまま用いることも可能である。
【0017】
本発明において、抽出に糖アルコール溶液を用いる場合、抽出効率と作業効率を考慮し、溶液濃度は5〜80%、好ましくは10〜77%である。
【0018】
本発明においては、抽出液の浸透圧を上昇させ、抽出効率を上げるために、抽出液に無機塩類、有機酸塩類、有機酸類から選ばれる1種または2種以上を組み合わせて加えても良い。本発明で使用可能な、無機塩類としては、例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、などが挙げられ、有機酸類、有機酸塩としては、例えば、酢酸、アジピン酸、リンゴ酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸などの有機酸類やそれらの塩類が挙げられる。
【0019】
本発明における抽出温度は、抽出効率、抽出物の品質の観点から、40℃〜95℃、好ましくは50℃〜85℃で行うことが好ましい。95℃を超える温度で抽出を行うと、成分の変質に伴う異臭、焦げ臭などの「過加熱臭」が発生し香味素材の持つ風味が損なわれる。また、40℃未満で抽出を行う場合、抽出効率が低下する。
【0020】
本発明における抽出時間については、特に制限はないが、抽出効率、作業効率、衛生的な観点から、20分から24時間で行うことが望ましい。抽出時間が20分未満の場合は香味素材の成分の抽出液への抽出が十分に行われず、24時間を超える場合は作業効率の低下、微生物の発生などが懸念される。
【0021】
本発明において、香味素材を糖アルコールで抽出した後の混合液は、遠心分離、吸引ろ過、減圧ろ過、加圧ろ過、圧搾ろ過などの通常の固液分離法で処理することによって、抽出物を分離することが出来る。
【0022】
本発明によって得られた抽出物は、酵素処理、フィルターや膜によるろ過、殺菌、pH調整、湿式粉砕、おり下げ、濃縮などを行っても良い。
【0023】
本発明によって得られた抽出物に対し、微生物の発生を抑える目的で、塩化ナトリウム、エタノール、酒類を加えることも出来る。
【0024】
本発明によって得られた抽出物は、熱水抽出物とは異なり、成分の沈殿および、抽出物の経時的な褐変が抑制され、流通、保管における製品の安定性に優れている。
【0025】
本発明によって得られた抽出物は、溶液としてそのまま用いることも可能であるが、粉末に加工することも可能である。粉末に加工することで溶液の場合より取り扱いやすくなり、保存安定性が向上し、保管、流通において有利である。粉末化の方法としては、特に制限はないが、噴霧乾燥法、真空ドラムドライ法などが挙げられる。粉末化の際は、抽出物単体、もしくは賦形剤を加える事も可能である。賦形剤としては糖アルコール、デキストリンなどが好ましいが、一般的に賦形剤として使用される糖質やたんぱく質であれば特に制限はない。また、サイクロデキストリンや多孔性澱粉などを加えて、有効成分を包摂しながら粉末化することも出来る。
【0026】
本発明によって得られた抽出物は、各種調味料、各種飲食物に利用することが出来、これらの風味を向上させる。本発明によって得られた抽出物を利用できる飲食物には特に制限が無く、例えば、茶飲料、コーヒー、ココア、清涼飲料などの各種飲料、和洋中スープ、ルー、惣菜などの各種加工食品、各種菓子類などにおいて利用可能である。