【文献】
山田和豊,外5名,“タービン性能に及ぼす動静翼間距離の効果”,日本機械学会論文集B編,日本,一般社団法人日本機械学会,2006年 4月25日,72巻,716号,p.933-941
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
請求項1において、前記モデルにおける前記静翼として後縁端出口厚みを前記翼基本形状が決定された静翼に比べて25%以下になるように後縁部分を薄くした静翼を用いて前記粘性解析及び前記非粘性解析を行うことを特徴とするタービンの設計手法。
静翼と動翼から構成されるタービン段落を複数有し、上流側のタービン段落の動翼の後縁単部と下流側のタービン段落の静翼の前縁端部との軸方向距離である動静翼間距離を決定するタービンの設計方法であって、
翼基本形状が決定された動翼と静翼のモデルを用いて、粘性解析によって任意の前記動静翼間距離における前記静翼に作用する非定常力を求め、
前記モデルを用いて非粘性解析によって前記任意の動静翼間距離における前記静翼に作用するポテンシャル干渉による励振力を求め、
前記粘性解析の結果と前記非粘性解析の結果の差から前記任意の動静翼間距離における前記静翼に作用するウェイク干渉による励振力を求め、
前記求められたポテンシャル干渉による励振力及びウェイク干渉による励振力の位相差が同位相に近い値とならないように動静翼間距離を決定することを特徴とするタービンの設計手法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
NPF励振力はCFDの非定常計算によって直接求める場合が多いが、計算には時間がかかる。また、静動翼間距離とNPF励振力の定量的な関係を得ようとすると、CFDで数多く計算し、その点を結んでプロットする以外に方法はなかった。しかし、この手法では計算に時間がかかる。また、規則性が分からないため、計算回数を減らすと、静動翼間距離に対するNPF励振力の変化の傾向を知ることができる程度であり、任意の静動翼間距離におけるNPF励振力を定量的に予測することが難しい。そのため、非定常力を定められた閾値以下としながら、静動翼間距離や静翼の大きさ、翼本数を柔軟に変更することは設計上困難であった。
【0007】
一方、静動翼間距離を短くすると、側壁の摩擦損失が抑制されるため、性能向上が期待できる。また、蒸気タービンのような多段タービンでは、各段落における静動翼間距離はロータの長さに影響するため、静動翼間距離の短縮はロータ長の短縮に寄与し、ロータ剛性を高める効果が期待できる。
【0008】
しかしながら、設計上、NPF励振力によって翼が壊れないようにするには、NPFから十分離調した静翼を採用するのが簡便である。この手法は、採用可能な静翼本数に制限を設ける方法であるため、離調結果によっては、性能を劣化させる静翼や軸方向に長い静翼の採用を余儀なくされる場合がある。NPF励振力が過大にならないように、静動翼間距離や静翼の大きさをあらかじめ制限する設計手法もある。しかし、NPF励振力を定量的に評価できないことから、NPF励振力が過大に評価されやすい。このとき、必要以上に大きい静翼の採用や、必要以上に長い軸方向間距離の採用をせざるをえないことがある。
【0009】
そこで、本発明者等は、NPF励振力を定量的に予測する新たな手法を提案している(非特許文献1)。この新たな手法では、一つの翼列モデルについて粘性解析及び非粘性解析を行い、これらの解析によって動翼に作用する非定常力(NPF励振力)及びポテンシャル干渉による励振力を求め、粘性解析結果と非粘性解析結果の差から動翼に作用するウェイク干渉による励振力を求めている。そして、これらを複数の静動翼間距離について行うことにより、ポテンシャル干渉及びウェイク干渉による励振力をそれぞれ静動翼間距離の関数として数式化し、数式化したポテンシャル干渉及びウェイク干渉による励振力に基づき、静動翼間距離が任意の値のときの、動翼に作用する非定常力を算出するようにしている。この手法により、任意の静動翼間距離におけるNPF励振力を定量的に予測することができる。そして、本発明者等は、このNPF励振力を定量的に予測する新たな手法を利用して、動翼に作用する非定常力を低減し、かつ、性能の低下やロータ軸長の増大を防ぐことが可能なタービン段落構造を容易に構築することが可能なタービン設計方法を、特願2011-180246号として提案している。
【0010】
この設計手法では、粘性解析、非粘性解析ともに静動翼間距離の値を変えて数ケース実施してポテンシャル干渉による励振力とウェイク干渉による励振力を数式化する必要がある。
【0011】
以上をまとめると、CFDによりNPF励振力を直接算出してNPF励振力を定められた閾値以下となるように設計する方法では計算時間がかかり現実的ではなく、また、他の設計手法では、NPF励振力を定められた閾値以下とするとき、必要以上に大きいノズルや静動翼間距離を採用する場合があり、これらは性能低下やロータ軸長の増大を招く可能性がある。
【0012】
本発明者等が提案した新たな設計手法では、従来の課題を解決することができ、動翼に作用する非定常力を低減し、かつ、性能の低下やロータ軸長の増大を防ぐことが可能なタービン段落構造を容易に構築することが可能となるが、この新たな設計方法おいても、粘性解析、非粘性解析ともに静動翼間距離などの因子の値を変えて数ケース実施する必要がある。
【0013】
また、上述の課題は、下流側のタービン段落の静翼に作用する非定常力、BPF(Bucket Passing Frequency)励振力を定められた閾値以下となるように設計する方法についても同様である。
【0014】
本発明の目的は、動翼または静翼に作用する非定常力(NPF励振力またはBPF励振力)を低減し、かつ、性能の低下やロータ軸長の増大を防ぐことが可能なタービン段落構造を容易に構築することが可能な新たなタービン設計方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、上記課題を解決するため、翼基本形状が決定された静翼と動翼のモデルを用いて粘性解析及び非粘性解析によってそれぞれ動翼に作用する非定常力及びポテンシャル干渉による励振力を任意の静動翼間距離について求め、粘性解析結果と非粘性解析結果の差から動翼に作用するウェイク干渉による励振力を前記任意の静動翼間距離について求め、求められたポテンシャル干渉及びウェイク干渉による励振力に基づきポテンシャル干渉による励振力の位相とウェイク干渉による励振力の位相を静動翼間距離の関数として数式化し、数式化したポテンシャル干渉及びウェイク干渉による励振力の位相差が同位相とならない、もしくは同位相からある程度離れた位相となるように、静動翼間距離を決定することを特徴とする。
【0016】
また、同一タービン段落の静翼と動翼に替えて、上流側のタービン段落の動翼と下流側のタービン段落の静翼との間の関係として、動静翼間距離を決定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、タービン設計において、動翼又は静翼に作用する非定常力(NPF励振力又はBPF励振力)を低減し、かつ、性能の低下やロータ軸長の増大を防ぐことが可能なタービン段落構造を容易に構築することができる。
【0018】
例えば、タービン段落における静翼と動翼の軸方向距離である静動翼間距離について、不必要に翼性能を低下させたり、ロータ軸長を増加させることなく、動翼に作用するNPF励振力が過大とならない静動翼間距離を容易に決定することができる。
【0019】
そして、本発明では、励振力を求めるための粘性解析及び非粘性解析の計算ケースを、例えば、1回とすることができる。
【0020】
上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を用いて、本発明の実施例を説明する。本発明は、蒸気タービンやガスタービン等におけるタービン段落(タービン静翼とタービン動翼の対)に適用可能なものであるが、以下の説明では蒸気タービンのタービン段落に適用した場合の実施例について説明する。また、後述のように、本発明は、タービン動翼が次のタービン段落のタービン静翼に作用する非定常力(BPF(Bucket Passing Frequency)励振力)を生じさせる場合(動翼後縁端部と静翼前縁端部の動静翼間距離の設計)にも適用可能である。さらには、静翼-動翼-静翼といった1.5段や、複数段を対象としても良い。
【0023】
図2に本発明が適用されるタービン段落の一例を示す。
図2は概略構成を示す断面図である。ステータ側である車室内壁(又は外輪)2と内輪Fとの間に固定された静翼Nの後流側に、ロータ3のディスクRbに植込まれた動翼Bが配置される。動翼の先端には動翼カバーCbが設けられている。タービンには、静翼Nと動翼Bから構成されるタービン段落が複数設置されている。静動翼間距離dは、静翼Nの翼部Bnの後縁端aと動翼Bの翼部Bbの前縁端bのロータ軸方向Xの距離である。静動翼間距離dは、従来、翼高さ方向Zに向かって、翼先端部tから翼根元部rまで同値となるように構成されているものや、翼高さ方向Zに向かって、翼根元部rから翼先端部tに向かって増大するように構成されているものなどがある。以下、タービン段落における静動翼間距離dの決定方法を中心に説明する。
【0024】
本発明の実施例の理解を容易にするために、先ず、本発明のもととなったタービン段落の設計方法の概要を説明し、その後、本発明の実施例を説明する。本発明のもととなったタービン段落の設計方法は、本発明者等が先に特願2011-180246号として提案したものである。
【0025】
図7は本発明のもととなるタービン段落の設計手法を説明するフロー図である。翼形状を決定する第一工程10と、NPF励振力を算出する第二工程20、静動翼間距離を決定する第三工程30で構成される。
【0026】
第一工程10は仕様の決定11と翼基本形状の決定12で構成される。仕様の決定11では設計対象のタービンの仕様、即ち環境条件を決める。次に、翼基本形状の決定12では定められた環境条件下において、性能を達成し、蒸気の曲げや遠心引張に耐えられる構造となるように、翼の基本形状を決定する。この第一工程10は、基本的には従来と同様であり、詳細な説明を省略する。
【0027】
第一工程10によって決定した静翼と動翼を用いて、第二工程20では静動翼間距離dとNPF励振力の関係を求め、任意の静動翼間距離dにおけるNPF励振力を算出する。NPF励振力は翼高さ方向において異なるので、第二工程20は、必要な翼高さの数だけ、1〜10ケース程度実施する。
【0028】
第一工程10においてモデル化した静翼と動翼を対象に、CFD(Computational Fluid Dynamics)の非定常計算によって任意の静動翼間距離における粘性解析21と非粘性解析22を実施する。これらの粘性解析21と非粘性解析22は、ポテンシャル干渉による励振力とウェイク干渉による励振力の数式化(静動翼間距離の関数で数式化)が可能となるように、静動翼間距離を変化させて数回を行う。各解析で得た力をフーリエ変換すると、各励振次数における励振力の振幅と位相が得られる。
【0029】
粘性解析21から得られた力はNPF励振力である。部分噴射や排気室近くの段落など、特殊な条件で稼動する段落を除けば、NPF励振力F
N(t)はポテンシャル干渉の力とウェイク干渉の力の和であり、式(1)で表せる。
【0030】
F
N(t)=A
Nsin(ωt+α
N)
=A
psin(ωt+α
p)+A
wsin(ωt+α
w) (1)
ここで、Aは振幅、ωは角速度、tは時間、αは位相を示し、また、振幅Aと位相αの添字は、pはポテンシャル干渉による成分、wはウェイク干渉による成分、NはNPF励振力の成分を示す。
【0031】
非粘性解析22から得られた力はポテンシャル干渉による励振力F
p(t)(=A
psin(ωt+α
p))であるとみなせるため、ウェイク干渉による励振力F
w(t)(=A
wsin(ωt+α
w))は、粘性解析によって得た力(=A
psin(ωt+α
p)+A
wsin(ωt+α
w))から非粘性解析によって得た力(=A
psin(ωt+α
p))を引くことで得られる。これによって静動翼間距離を関数にした各干渉の励振力の振幅と位相の数式が得られる。静動翼間距離を変化させて解析を数回行い、
図8(a)及び
図8(b)のようにグラフ化する。尚、
図8(a)及び
図8(b)において、横軸(x)は静動翼間距離をノズルコード長で除して無次元化している。励振力の振幅について、
図8(a)からも分かるように、ポテンシャル干渉は指数近似することができ、ウェイク干渉は累乗近似することができる。また、
図8(b)からも分かるように、位相については、干渉の種類によらず線形近似することができる。このようにグラフ化することによって、ポテンシャル干渉の振幅A
pと位相α
p及びウェイク干渉の振幅A
wと位相α
wについて、静動翼間距離を因子とする関数で数式化する(
図8(a)及び
図8(b)における数式のh、j、m、n、k
p、l
p、k
w、l
wの数値を特定する)。以上の作業により、任意の翼高さにおけるポテンシャル干渉による励振力とウェイク干渉による励振力の数式化23bが可能となる(静動翼間距離の関数で数式化できる。)。
【0032】
次に、任意の静動翼間距離におけるNPF励振力の算出24bを行う。NPF励振力はポテンシャル干渉による励振力とウェイク干渉による励振力の和であることから、数式化23bで得た数式若しくは
図8(a)及び
図8(b)のグラフに基づき任意の静動翼間距離(CFDによる解析をしていない静動翼間距離を含む任意の静動翼間距離)におけるポテンシャル干渉による励振力F
p(t)とウェイク干渉による励振力F
w(t)を求め、求められたポテンシャル干渉による励振力F
p(t)とウェイク干渉による励振力F
w(t)を加算することにより任意の静動翼間距離におけるNPF励振力の算出24bを行う。
【0033】
また、任意の静動翼間距離におけるA
p、A
w、α
p、α
wを、
図8(a)及び
図8(b)のグラフ若しくは数式から求め、式(1)におけるA
Nとα
Nを下記式(2)及び(3)から求めて、式(1)に基づき任意の静動翼間距離におけるNPF励振力F
N(t)を算出することができる。
【0034】
A
N=√{(A
pcosα
p+A
wcosα
w)
2+(A
psinα
p+A
wsinα
w)
2} (2)
α
N=tan
−1{(A
psinα
p+A
wsinα
w)/(A
pcosα
p+A
wcosα
w)} (3)
以上の第二工程20を、翼高さを変えて実施する。そして、第三工程30において、NPF励振力が閾値以下となる静動翼間距離を選定する。上述の第二工程20と第三工程30は、静動翼間距離を決定する必要がある各段落に対して実施する。
【0035】
上述の
図7の手法を用いれば、従来のCFDの非定常計算によって直接NPF励振力を計算するよりも計算時間を短縮できる。即ち、NPF励振力はポテンシャル干渉による励振力とウェイク干渉による励振力と異なり、複雑に変化し、規則性が分からない(例えば、後述の
図5のように複雑に変化する。)。このため、
図5のような滑らかな曲線を得るためには、横軸に与えた因子の種類や範囲によるが、概ね10ケース以上計算しなくてはならず、計算に時間がかかる。なおかつ未計算の静動翼間距離におけるNPF励振力は定量的に予測できない可能性が高い。
【0036】
上述した
図7に示す手法では、ポテンシャル干渉による励振力とウェイク干渉による励振力を静動翼間距離の関数で数式化し、これらに基づき任意の静動翼間距離におけるNPF励振力を算出することができる。言い換えれば、従来では不可能であったNPF励振力を一般化することができる。
【0037】
しかし、上述した
図7に示す手法においてもポテンシャル干渉とウェイク干渉の振幅、位相を数式化するためには、静動翼間距離を3〜6ケース程度変更して粘性解析と非粘性解析の両方を実施しなくてはならない。このため、
図7の手法でも最適な静動翼間距離を決定することは容易ではない。
【0038】
そこで、本発明の実施例では、静動翼間距離の決定をさらに容易にするものである。
【0039】
図7に示す方法では、NPF励振力を定量的に求めるためにポテンシャル干渉による励振力とウェイク干渉による励振力を静動翼間距離の関数で数式化している。この数式化のために静動翼間距離を数回変更して計算する必要がある。しかしながら、式(1)で示すように、NPF励振力はポテンシャル干渉とウェイク干渉、2つの干渉による励振力の和であり、両干渉による励振力が同位相のときNPF励振力は極大に近くなり、逆位相のとき極小に近くなる。即ち、NPF励振力そのものを求めなくても、NPF励振力が極大となる範囲を避けて静動翼間を設定することにより、動翼に作用するNPF励振力を低減し、かつ、性能の低下やロータ軸長の増大を防ぐことが可能なタービン段落構造を容易に構築することが可能となる。
【0040】
そこで、本発明の実施例では、ポテンシャル干渉による励振力の位相とウェイク干渉による励振力の位相を静動翼間距離の関数として数式化し、数式化したポテンシャル干渉及びウェイク干渉による励振力の位相差が同位相とならない、もしくは同位相からある程度離れた位相となるように、静動翼間距離を決定する。
【0041】
ポテンシャル干渉による励振力の位相α
pとウェイク干渉による励振力の位相α
wは、
図8(b)に示すように、干渉の種類によらず線形近似することができ、次式で表せる。静動翼間距離(横軸x)はノズルコード長C
nで無次元化したd/C
nで表している。
【0042】
α
p=k
p*(d/C
n)+l
p (4)
α
w=k
w*(d/C
n)+l
w (5)
そして、後で詳述するように、位相の近似式の傾きkは幾何学的に得られることが分かっている(非特許文献3)。従って、任意の静動翼間距離(1点)におけるポテンシャル干渉による励振力とウェイク干渉による励振力のそれぞれの位相α
p,α
wが分かれば、切片l
p,l
wを求めることができ、ポテンシャル干渉による励振力の位相とウェイク干渉による励振力の位相をそれぞれ静動翼間距離の関数として数式化することがでる。これらの数式化のためには、任意の静動翼間距離(1点)について、粘性解析と非粘性解析を行えば良いので、本発明者等が先に提案した設計手法よりも計算回数を低減することができる。
【0043】
次に、
図1を用いて本発明の一実施例であるタービン段落の設計手法を詳細に説明する。
【0044】
翼形状を決定する第一工程10と、NPF励振力を算出する第二工程20、静動翼間距離を決定する第三工程30で構成される。第一工程10は
図7の手法と同様であるので説明を省略する。
【0045】
第一工程10によって決定した静翼と動翼を用いて、第二工程20ではNPF励振力を構成するポテンシャル干渉による励振力とウェイク干渉による励振力の位相差を求める。NPF励振力は翼高さ方向において異なるので、第二工程20は、必要な翼高さの数だけ、1〜10ケース程度実施する。
図7の手法では、第二工程は、粘性解析21と非粘性解析22を必要な静動翼間距離だけ実施しているが、本実施例では任意の静動翼間距離(1点)について実施すれば良い。
【0046】
第一工程10においてモデル化した静翼と動翼を対象に、CFD(Computational Fluid Dynamics)の非定常計算によって任意の静動翼間距離における粘性解析21と非粘性解析22を実施する。各解析で得た力をフーリエ変換すると、各励振次数における励振力の振幅と位相が得られる。粘性解析21でNPF励振力F
N(t)(=A
Nsin(ωt+α
N))を得る点、非粘性解析22でポテンシャル干渉による励振力F
p(t)(=A
psin(ωt+α
p))を得る点は、粘性解析21によって得た力から非粘性解析22によって得た力を引くことでウェイク干渉による励振力F
w(t)(=A
wsin(ωt+α
w))を得る点は、
図7の手法と同じであり、説明を省略する。従って、これらにより、任意の静動翼間距離における(粘性解析21と非粘性解析22を実施した点における)各干渉の励振力の振幅と位相が得られる。
【0047】
上述したように、位相は静動翼間距離dに対して線形近似できることが分かっている(
図8(b)や非特許文献3参照)。また、位相の近似式の傾きkは幾何学的に得られることも分かっている(非特許文献3参照)。例えば静動翼間距離dをノズルコード長C
nで無次元化したd/C
nで位相を線形近似する場合、上述の式(4)(5)式における位相の傾きkは次式で得られる。
【0048】
k
p=(tanγ
n+tanβ
b)*360*C
n/t
b*(N
n/N
b) (6)
k
w=-(tanγ
n-tanβ
b)*360*C
n/t
b*(N
n/N
b) (7)
ここで、βは入口角、γは出口角、Cはコード長、tはピッチ、Nは翼本数、添字のbは動翼、nはノズル(静翼)に関する値である(
図3参照)。このように、位相の近似式の傾きは幾何学的に得ることができる。尚、幾何学的条件は、上述の第一工程10で定まる。
【0049】
一方、切片に関しては幾何学的に得るのは困難であることが分かっており、定量的に切片を得たい場合、CFDが最も有効な手段である。
【0050】
粘性解析21と非粘性解析22で得たポテンシャル干渉による励振力とウェイク干渉による励振力の位相αを用いると、次式で切片lが求まる。
【0051】
l=α-k*(d/C
n) (8)
位相の近似式の傾きk、切片lが求まると、任意の静動翼間距離における各干渉の位相α
p,α
wの数式化23aが実行される(上述の式(4)(5)が得られる。)。
【0052】
次に、ポテンシャル干渉による励振力とウェイク干渉による励振力の位相式(式(4)(5))を用いて、任意の静動翼間距離に関する位相差の算出24aを実行する。位相差が360degの整数倍、つまり同位相となるとき、2つの干渉の和であるNPF励振力はほぼ極大となる。なお、NPF励振力の位相は、上述の式(3)のとおりポテンシャル干渉とウェイク干渉の振幅、位相で決まるため、2つの干渉の位相差のみではNPF励振力が極大値となる静動翼間距離を正確には予測できないことを注記する。
【0053】
ただし、
図4のとおり、ポテンシャル干渉による励振力とウェイク干渉による励振力の位相差が極値となるときの静動翼間距離は、NPF励振力が極値となる静動翼間距離に概ね近いことも分かっている。
【0054】
同様に、ポテンシャル干渉による励振力とウェイク干渉による励振力の位相差が360degの整数倍に180degを加えた値、つまり逆位相となるとき、NPF励振力は極小値に近くなる。
【0055】
以上の第二工程20を、翼高さを変えて実施する。
【0056】
第三工程30において静動翼間距離を決定する。NPF励振力が過大にならないように、ポテンシャル干渉による励振力とウェイク干渉による励振力の位相差が同位相にならない、もしくは同位相からある程度離れた位相となるように静動翼間距離を採用する。
【0057】
上述の第二工程20と第三工程30は、静動翼間距離を決定する必要がある各段落に対して実施する。
【0058】
本発明の実施例の手法によれば、粘性解析と非粘性解析は各1回実施すればよく、ポテンシャル干渉による励振力とウェイク干渉による励振力の位相差から、NPF励振力が過大となりにくい静動翼間距離を採用できる。尚、静動翼間距離の決定において、NPF励振力の極大値または極小値は得られないため、事前にポテンシャル干渉による励振力とウェイク干渉による励振力の振幅が推測できる場合に本手法を用いるのが望ましい。例えば翼形状や熱条件が類似の翼において、ポテンシャル干渉による励振力とウェイク干渉による励振力は同程度となることが予測できる場合などに有効である。また、本手法によって採用した静動翼間距離におけるNPF励振力をCFDによって直接求め、それが所定の閾値以下となるかどうかを確認しながら行うようにしても良い。
【0059】
なお、上述の実施例における静動翼間距離のサーベイ数は必要最小限のものであり、予測精度向上のために、より多くの静動翼間距離で検討してもよい。
【0060】
次に、
図5及び
図6を用いて本発明の実施例における第三工程の一例を説明する。
【0061】
図5において、横軸は静動翼間距離をノズルコード長で除して無次元化している。縦軸は閾値Vで無次元化している。閾値Vは動翼破損限界値(許容値)に相当する。任意の翼断面において、ポテンシャル干渉による励振力とウェイク干渉による励振力の位相差の採用範囲を、例えば、逆位相に対して70degのマージンとして設定すると、採用できる静動翼間距離の範囲は
図5のとおりとなる。このマージンの範囲は評価対象段落、翼高さによって自由に変更できる。なお、
図5において実線は、本発明の実施例を確認するために、
図7の手法で定量的に求めたNPF励振力を示すものである。
【0062】
図6は第三工程の他の一例である。横軸は動翼転向角であり、動翼入口角と動翼出口角を足した値である。一般的に翼根元部は動翼転向角が大きく、翼先端部は動翼転向角が小さい。縦軸は静動翼間距離をノズルコード長で除して無次元化している。任意の段落について、ポテンシャル干渉による励振力とウェイク干渉による励振力の位相差を、周方向力FT、軸方向力FAに対して翼長方向に求め、位相差の採用範囲を、例えば、逆位相に対して90degのマージンとして一律に設定すると、採用できる静動翼間距離の範囲は
図6の斜線部の領域となる。なお、このマージンの範囲は評価対象段落、翼高さによって自由に変更できる。なお、周方向力と軸方向力と分けて図示しているが、解析によって得られた翼面上の圧力(励振力)は、翼面法線方向にかかる力として周方向力(=FT)と軸方向力(=FA)に分解でき、これらを積分すると翼に作用する合力としての周方向力と軸方向力が求まる。
【0064】
図9は本発明の他の実施例を示すフロー図である。
図9に示す手法は、
図1と
図7に示す手法の欠点を補うものである。即ち、本実施例では、
図7の手法よりも計算数が少なくてすみ、また、
図1の手法と異なりNPF励振力を定量的に予測できる利点がある。ただし、
図7の手法に比べればNPF励振力の予測精度が悪い。
【0065】
本実施例において、第一工程10は、
図1、
図7と同様であり、説明を省略する。
【0066】
第二工程20において、任意の静動翼間距離1点において、粘性解析21と非粘性解析22を実施する。これにより、
図1と同様に、ポテンシャル干渉による励振力とウェイク干渉による励振力の位相の数式化23a、位相差の算出24aが実施される。次に、位相差から、検討したい静動翼間距離の範囲において、NPF励振力が極値付近となる静動翼間距離の算出25をする。静動翼間距離の算出25で得た静動翼間距離n個に評価したい静動翼間距離の最小値、最大値を加えた計n+2個だけ粘性解析(NPF励振力を得る解析)を実施し、各点を結ぶと、
図10の点線のようになる。実線は、
図7の手法で定量的に求めたNPF励振力を示すものである。
図10から分かるように、NPF励振力を概ね定量的に予測できる。
【0067】
第三工程30において、
図10を用いてNPF励振力が閾値以下となる静動翼間距離を決定する。
【0068】
上述の第二工程20と第三工程30は、静動翼間距離を決定する必要がある各段落に対して実施する。
【0069】
本実施例によれば、
図7の手法よりも計算数が少なくすることができ、
図1の手法と異なりNPF励振力をある程度定量的に予測できる。
【0070】
なお、
図1の実施例と同様に、
図9の実施例における静動翼間距離のサーベイ数は必要最小限のものであり、予測精度向上のために、より多くの静動翼間距離で検討してもよい。
【0071】
図11は本発明が適用されるタービン静翼の一例である翼断面を示す。通常、静翼Nの後縁端部aは丸い円弧形状である。ウェイク干渉の効果を無視できないタービン段落を設計対象とするとき、静翼の後縁端部が丸いと、
図1、
図7、
図9の非粘性解析22においてウェイクが生成されるため、ポテンシャル干渉による励振力をCFDによって得ることができない場合がある。そのため、本実施例では、ポテンシャル干渉による励振力をCFD(非粘性解析22)によって得られるように、CFD非定常計算に用いられるタービン静翼を工夫している。
【0072】
図12は、本実施例においてCFD非定常計算に用いられるタービン静翼の翼断面を示す。本実施例では、
図11に示す静翼の後縁端形状(厚み等)を変更せずに翼腹側面及び翼背側面を延長して後縁端部aが鋭く尖った形状となるようにしている。静翼Nの後縁端部aが鋭く尖っているとき、ウェイク干渉の効果を無視できないタービン段落が設計対象となる場合でも、
図1、
図7、
図9の非粘性解析22においてウェイクの生成が抑制されるため、ポテンシャル干渉による励振力をCFDによって得ることができる。尚、この場合、
図1、
図7、
図9の粘性解析21も同様の翼モデルで計算を行い、粘性解析21の結果から非粘性解析22の結果を差し引くことでウェイク干渉の励振力を求める。
【0073】
図13はCFD非定常計算に用いられるタービン静翼の他の例の翼断面を示す。本実施例では、静翼Nのノズルコード長は変えずに、後縁端厚みを
図11に比べて小さくしている。ウェイク干渉の効果を無視できないタービン段落が設計対象となる場合でも、静翼Nの後縁端厚みを薄くすることで、
図12の実施例と同様に、
図1、
図7、
図9の非粘性解析22においてウェイクが生成されないため、ポテンシャル干渉による励振力をCFDによって得ることができる。計算対象の静翼の後縁端部の厚みを、元の静翼に比べて25%以下に小さくするとウェイクの生成を抑制できる。後縁端部の厚みを小さくするためには、例えば静翼の腹側において、中央部から後縁端部にかけての翼厚みを小さくし、当該部分の流れが基のノズルと同様のものとなるようにするなどの工夫を行っている。
【0074】
上述の実施例では、ポテンシャル干渉による励振力の位相とウェイク干渉による励振力の位相を静動翼間距離の関数として数式化し、数式化したポテンシャル干渉及びウェイク干渉による励振力の位相差が同位相とならない、もしくは同位相からある程度離れた位相となるように、静動翼間距離を決定しているが、他の因子の関数で数式化して、その因子における最適化を行うことも可能である。例えば、動翼・静翼の本数比や、動翼・静翼のコード長比を因子として、上述の実施例を適用することにより、動翼・静翼の本数比や、動翼・静翼のコード長比の最適化を行うことができる。
【0075】
また、上述の実施例では、動翼に作用する非定常力、NPF励振力を対象とした設計方法を説明したが、下流側のタービン段落の静翼に作用する非定常力、BPF(Bucket Passing Frequency)励振力についても同様の方法で予測でき、上流側のタービン段落の動翼後縁端部と下流側のタービン段落の静翼前縁端部の軸方向距離、動静翼間距離の設計に適用することも可能である。
【0076】
また、本発明を適用する解析モデルは、静翼と動翼が一対のもの(1段落)を考えているが、静翼-動翼-静翼といった1.5段や、複数段でも同様に検討可能である。
【0077】
以上の本発明に基づき、タービン段落における静動翼間距離や動静翼間距離などを設計することにより、不必要に翼性能を低下させたり、ロータ軸長を増加させることなく、動翼に作用するNPF励振力や静翼に作用するBPF励振力を素早く効果的に定められた閾値以下とすることができる。そして、本発明の設計方法により設計したタービン段落に基づきタービンを製造することにより、NPF励振力又はBPF励振力が過大とならず、また、翼性能を向上し、ロータ軸長を短くしたタービンを実現することができる。
【0078】
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加,削除,置換をすることが可能である。