特許第5903068号(P5903068)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5903068心組織の保護および再生のための組成物および方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5903068
(24)【登録日】2016年3月18日
(45)【発行日】2016年4月13日
(54)【発明の名称】心組織の保護および再生のための組成物および方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/00 20060101AFI20160331BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20160331BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20160331BHJP
   A61K 47/02 20060101ALI20160331BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20160331BHJP
   C07K 7/08 20060101ALN20160331BHJP
【FI】
   A61K37/02
   A61P9/00
   A61K9/08
   A61K47/02
   A61K47/26
   !C07K7/08ZNA
【請求項の数】9
【外国語出願】
【全頁数】26
(21)【出願番号】特願2013-97308(P2013-97308)
(22)【出願日】2013年5月7日
(62)【分割の表示】特願2009-541336(P2009-541336)の分割
【原出願日】2007年12月11日
(65)【公開番号】特開2013-151560(P2013-151560A)
(43)【公開日】2013年8月8日
【審査請求日】2013年5月7日
(31)【優先権主張番号】60/869,437
(32)【優先日】2006年12月11日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】509163282
【氏名又は名称】スリー−ディー マトリックス, インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100107489
【弁理士】
【氏名又は名称】大塩 竹志
(72)【発明者】
【氏名】リサ スピリオ
(72)【発明者】
【氏名】チェン チュー
【審査官】 佐々木 大輔
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2006/073889(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 38/00−38/58
A61K 41/00−45/08
A61K 48/00
A61K 9/00− 9/72
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
RADARADARADARADA(配列番号1)の配列を含む両親媒性の自己集合ペプチドを1重量%より多く含む、心房細動、弁の疾患、心膜の疾患、先天性心疾患およびうっ血性心不全のうちの1以上を処置するための細胞を含まない組成物であって、該細胞を含まない組成物は、心房細動、弁の疾患、心膜の疾患、先天性心疾患およびうっ血性心不全のうちの1以上に起因して損傷を受けた心組織部位に投与されることを特徴とし、ただし、該組成物は、血小板由来増殖因子を含む組成物を除く、組成物。
【請求項2】
前記両親媒性の自己集合ペプチドが、1以上のさらなる配列で修飾されたRADARADARADARADA(配列番号1)の配列を含む、請求項1に記載の細胞を含まない組成物。
【請求項3】
前記細胞を含まない組成物が、前記自己集合ペプチドを、梗塞部の心室壁応力および心房細動のうちの1以上を減じるのに十分な量で含む、請求項1に記載の細胞を含まない組成物。
【請求項4】
前記投与が、心組織の損傷部位への局所的な一酸化窒素の送達を包含する、請求項1に記載の細胞を含まない組成物。
【請求項5】
前記一酸化窒素が、前記自己集合ペプチド中に存在するL−アルギニン(LA)ペプチド配列からの形成、および、該自己集合ペプチドにより提供される刺激に応答した形成のうちの1以上によって局所的に送達される、請求項4に記載の細胞を含まない組成物。
【請求項6】
前記両親媒性の自己集合ペプチドが心組織内に注射される、請求項1に記載の細胞を含まない組成物。
【請求項7】
前記細胞を含まない組成物が、RADARADARADARADA(配列番号1)の配列から構成される両親媒性の自己集合ペプチドを3重量%より多く含む、請求項1に記載の細胞を含まない組成物。
【請求項8】
前記細胞を含まない組成物が、生理学的に受容可能な濃度のスクロースを含む、請求項1に記載の細胞を含まない組成物。
【請求項9】
前記細胞を含まない組成物が、1以上の増殖因子および治療剤を含む、請求項1に記載の細胞を含まない組成物。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
序文
慢性心不全は、一般的で、有病率が増加しており(1)、そして、虚血性心疾患は、心不全の主な原因である。心臓発作として一般に知られる急性心筋梗塞(AMI)は、心臓への血液供給が絶たれたときに生じ、心組織の壊死または死をもたらす。AMIは、医学的に治療を急ぐ状態であり、そして、全世界の男性および女性の両方についての主な死因である。現在の医学的な経皮インターベンションおよび外科手術による心筋再灌流のストラテジーにも関わらず(2、10、11)、かなりの改善の余地が残されている。
【0002】
AMIを有する患者の臨床上の症状は、穏やかな胸痛から、心原性ショックまたは心臓性突然死までの範囲に及ぶ。処置は、薬物治療(血栓溶解)、血管形成術もしくはバイパス手術を用いてなされ得る。医学的処置は、アスピリン、血栓溶解剤(ストレプトキナーゼ、ウロキナーゼ、アルテプラーゼ(組換え組織プラスミノーゲンアクチベーター,rtPA)、およびレテプラーゼ)、ヘパリン、β遮断薬およびACE阻害薬が挙げられ得る。即時の処置の目的は、冠状動脈における通常の血流の回復と、改善された組織の灌流である。この目的はまた、静脈内血栓溶解治療または直接血管形成術によっても達成され得る。臨床治験は、直接経皮的冠状動脈血管形成術(PTCA)が、最も効率的に流れを回復させ、そして、熟練した臨床家によって行われる場合に一般に好まれる処置であることを示している。
【0003】
心臓における血液供給の欠乏または虚血は、AMIの中心的な問題であるが、血流が戻ると、再灌流傷害がまた生じ得る。再灌流傷害は、一定期間の虚血後に血液供給が組織に戻るときに生じる、組織への損傷をいう。再灌流傷害の損傷は、一部は、損傷を受けた組織における炎症性応答に起因するものである。血流が再開すると、虚血領域に運ばれる白血球が、インターロイキンのような炎症性因子のホストを放出し、同時に、フリーラジカルを生成させる。血流の回復はまた、酸素の再導入を介して細胞タンパク質、DNAおよび原形質膜への損傷を引き起こし、そして、細胞の原形質膜への損傷は、さらなるフリーラジカルの放出を引き起こす。フリーラジカルはまた、損傷を受けた組織におけるアポトーシス性の応答を間接的に刺激するように作用すると考えられている。
【0004】
さらに、心筋細胞の正味の喪失の結果、梗塞後心室リモデリングが生じ(19)、そして、細胞の生存性を改善するためおよび/または梗塞部領域への補充のための技術は、心臓の収縮性の回復において有益であり得る。
【0005】
しかし、心臓の修復および再生のための前駆細胞移植のずっと昔からの有望さは、左心室の収縮性の最低限の回復(対照群に対して、処置群で左室駆出率の3%改善)を示すか、短命の改善(18ヶ月で、群間に差なし)を示すか、または、全く差を示さない、多義的な臨床治験データによって抑えられている。さらに、研究は、冠状動脈内注入による送達の後、48時間までに、移植された細胞は心臓内にほとんど留まらないことを示している(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Chien KR.Lost and found:cardiac stem cell therapy revisited.J Clin Invest 116:1838−1840,2006
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
要旨
本発明は、種々の局面において、CardioMatrixと呼ばれる、実質的に細胞を含まない、生体適合性および生分解性の合成自己集合ペプチド(SAP)足場材料を用いて、心臓の状態を処置するための方法を提供する。本発明者らは、精製した自己集合ペプチドが、多数の心臓の用途で使用するために適した注入可能および移植可能なゲルに作り上げられ得ることを発見した。CardioMatrixの材料および方法は、広範囲の心組織に関連する状態(AMI、弁の疾患、心膜の疾患、先天性の心疾患およびうっ血性心不全が挙げられるがこれらに限定されない)の処置に使用され得る。例えば、種々の実施形態において、本発明は、CardioMatrix注射後に、MIおよび再灌流傷害の程度を低下させることによって治療上の利益を提供する。
【0008】
本明細書中で使用される場合、用語「CardioMatrix」は、RADARADARADARADAの配列(配列番号1)から構成されるSAPをいう。
【0009】
本明細書中で使用される場合、用語「心臓の状態」は、心臓の状態、疾患、損傷などを包含する。本明細書中で使用される場合、「心臓の状態」としては、AMI、弁の疾患、心膜の疾患、先天性の心疾患およびうっ血性心不全が挙げられるがこれらに限定されない。
【0010】
種々の実施形態において、本発明は、心組織を処置するための方法を提供し、この方法は、約1重量%より多いCardioMatrix、好ましくは約3重量%より多いCardioMatrixを含有する、実質的に細胞を含まない溶液を、処置されるべき組織内に注射する工程を包含する。種々の実施形態において、溶液は、生理学的に受容可能な濃度のスクロースを含有するスクロース溶液(例えば、10重量%のスクロース溶液)を含む。この溶液は、被験体にCardioMatrix溶液を導入する前に、この溶液を生理学的に受容可能なpH(例えば、約7〜約8.5のpH)にするために、1種以上の受容可能な緩衝液を含み得る。種々の実施形態において、これらの処置方法は、少なくとも部分的に、LAから形成されたNOの局所送達、ならびに、CardioMatrixによる生理学的および/または病理学的な刺激に応じた一酸化窒素(NO)の形成の促進のうちの1以上による処置を提供する。
【0011】
種々の実施形態において、本発明は、梗塞部を処置するための方法を提供し、この方法は、約1重量%より多いCardioMatrix、好ましくは、約3重量%より多いCardioMatrixを含有する、実質的に細胞を含まない溶液を、梗塞部に注射する工程を包含する。種々の実施形態において、溶液は、生理学的に受容可能な濃度のスクロースを含有するスクロース溶液(例えば、10重量%のスクロース溶液)を含む。溶液は、CardioMatrix溶液を被験体に導入する前に、この溶液を生理学的に受容可能なpH(例えば、約7〜約8.5のpH)にするために、1種以上の受容可能な緩衝液を含み得る。
【0012】
種々の実施形態において、本発明は、約1重量%より多いCardioMatrix(好ましくは、約3重量%より多いCardioMatrix)を含有する、実質的に細胞を含まない溶液を、処置されるべき組織に注射することによる、高血圧、敗血症性ショック、神経変性、関節炎および喘息のうちの1以上の処置のための方法を提供し、この方法は、少なくとも部分的に、LAから形成されたNOの局所送達、ならびに、CardioMatrixによる生理学的および/または病理学的な刺激に応じた一酸化窒素(NO)の形成の促進のうちの1以上による処置を提供する。したがって、種々の実施形態において、本発明は、LAを含むCardioMatrixの局所投与を用いた、高血圧、敗血症性ショック、神経変性、関節炎および喘息のうちの1以上の処置のための方法を提供する。
【0013】
種々の局面において、本発明の方法は、約1重量%より多いCardioMatrix、好ましくは約3重量%より多いCardioMatrixを含有する、実質的に細胞を含まない溶液の局所投与により、心保護作用および/または心再生作用を提供する工程を包含する。
【0014】
本発明の上記および他の局面、実施形態および特徴は、以下の説明および図面からより完全に理解され得る。
例えば、本願発明は以下の項目を提供する。
(項目1)
心臓の状態を処置するための方法であって、以下:
両親媒性の自己集合ペプチドの実質的に細胞を含まない溶液を提供する工程;および
心房細動、急性心筋梗塞;弁の疾患、心膜の疾患、先天性心疾患およびうっ血性心不全のうちの1以上に起因して損傷を受けた心組織部位に、該実質的に細胞を含まない溶液を治療上有効な量で投与する工程
を包含する、方法。
(項目2)
上記両親媒性の自己集合ペプチドが、RADARADARADARADA(配列番号1)の配列を含む、項目1に記載の方法。
(項目3)
上記両親媒性の自己集合ペプチドが、1以上のさらなる配列で修飾されたRADARADARADARADA(配列番号1)の配列を含む、項目2に記載の方法。
(項目4)
上記投与する工程が、梗塞部の大きさ、梗塞部の拡大、心室壁応力および心房細動のうちの1以上を減じるのに十分な量の自己集合ペプチドを投与する工程を包含する、項目1に記載の方法。
(項目5)
上記投与する工程が、心組織の損傷部位に局所的に一酸化窒素を送達する工程を包含する、項目1に記載の方法。
(項目6)
上記一酸化窒素が、上記自己集合ペプチド中に存在するL−アルギニン(LA)ペプチド配列からの形成、および、該自己集合ペプチドにより提供される刺激に応答した形成のうちの1以上によって局所的に送達される、項目5に記載の方法。
(項目7)
上記投与する工程が、上記両親媒性の自己集合ペプチドを心組織内に注射する工程を包含する、項目1に記載の方法。
(項目8)
上記実質的に細胞を含まない溶液が、RADARADARADARADA(配列番号1)の配列から構成される両親媒性の自己集合ペプチドを約1重量%より多く含む、項目1に記載の方法。
(項目9)
上記実質的に細胞を含まない溶液が、RADARADARADARADA(配列番号1)の配列から構成される両親媒性の自己集合ペプチドを約3重量%より多く含む、項目8に記載の方法。
(項目10)
上記実質的に細胞を含まない溶液が、生理学的に受容可能な濃度のスクロースを含む、項目1に記載の方法。
(項目11)
上記実質的に細胞を含まない溶液が、1以上の増殖因子および治療剤を含む、項目1に記載の方法。
(項目12)
高血圧、敗血症性ショック、神経変性、関節炎および喘息のうちの1以上によって損傷を受けた組織を処置するための方法であって、以下:
両親媒性の自己集合ペプチドの実質的に細胞を含まない溶液を提供する工程;および
処置されるべき組織に、該実質的に細胞を含まない溶液を治療上有効な量で投与する工程
を包含する、方法。
(項目13)
上記両親媒性の自己集合ペプチドが、RADARADARADARADA(配列番号1)の配列を含む、項目12に記載の方法。
(項目14)
上記両親媒性の自己集合ペプチドが、1以上のさらなる配列で修飾されたRADARADARADARADA(配列番号1)の配列を含む、項目13に記載の方法。
(項目15)
上記実質的に細胞を含まない溶液が、RADARADARADARADA(配列番号1)の配列から構成される両親媒性の自己集合ペプチドを約1重量%より多く含む、項目12に記載の方法。
(項目16)
上記実質的に細胞を含まない溶液が、RADARADARADARADA(配列番号1)の配列から構成される両親媒性の自己集合ペプチドを約3重量%より多く含む、項目15に記載の方法。
(項目17)
上記実質的に細胞を含まない溶液が、生理学的に受容可能な濃度のスクロースを含む、項目12に記載の方法。
(項目18)
上記実質的に細胞を含まない溶液が、1以上の増殖因子および治療剤を含む、項目12に記載の方法。
(項目19)
上記投与する工程が、処置されるべき組織に、上記実質的に細胞を含まない溶液を注射する工程を包含する、項目12に記載の方法。
(項目20)
上記投与する工程が、処置されるべき組織に局所的に一酸化窒素を送達する工程を包含する、項目12に記載の方法。
(項目21)
上記一酸化窒素が、上記自己集合ペプチド中に存在するL−アルギニン(LA)ペプチド配列からの形成、および、該自己集合ペプチドにより提供される刺激に応答した形成のうちの1以上によって局所的に送達される、項目16に記載の方法。
(項目22)
心保護作用を提供するための方法であって、以下:
RADARADARADARADA(配列番号1)の配列を約1重量%より多く含む、実質的に細胞を含まない溶液を提供する工程;および
心組織に、該実質的に細胞を含まない溶液を治療上有効な量で局所的に投与する工程
を包含する、方法。
(項目23)
提供された上記実質的に細胞を含まない溶液が、RADARADARADARADA(配列番号1)の配列を約3重量%より多く含む、項目22に記載の方法。
(項目24)
RADARADARADARADA(配列番号1)の配列が、1以上のさらなる配列で修飾される、項目22に記載の方法。
(項目25)
上記実質的に細胞を含まない溶液が、生理学的に受容可能な濃度のスクロースを含む、項目22に記載の方法。
(項目26)
上記実質的に細胞を含まない溶液が、1以上の増殖因子および治療剤を含む、項目22に記載の方法。
(項目27)
上記実質的に細胞を含まない溶液が、再灌流傷害を減じるのに十分な量で局所的に投与される、項目22に記載の方法。
(項目28)
血管に塞栓症を引き起こすための方法であって、以下:
両親媒性の自己集合ペプチドの実質的に細胞を含まない溶液を提供する工程;および
血管内に該実質的に細胞を含まない溶液を投与して、塞栓形成を引き起こし、該血管内の血流を少なくとも部分的に減じる工程
を包含する、方法。
(項目29)
上記両親媒性の自己集合ペプチドが、RADARADARADARADA(配列番号1)の配列を含む、項目28に記載の方法。
(項目30)
上記両親媒性の自己集合ペプチドが、1以上のさらなる配列で修飾されたRADARADARADARADA(配列番号1)の配列を含む、項目29に記載の方法。
(項目31)
上記投与する工程が、上記血管内もしくは該血管付近の腫瘍の周囲に上記実質的に細胞を含まない溶液を注射する工程を包含する、項目28に記載の方法。
(項目32)
上記投与する工程が、上記両親媒性の自己集合ペプチドを腫瘍内に注射する工程を包含する、項目28に記載の方法。
(項目33)
上記投与する工程が、出血している血管への塗布および該血管内への注射のうちの1以上によって、該血管からの出血を実質的に停止するのに十分な量で、上記両親媒性の自己集合ペプチドを投与する工程を包含する、項目28に記載の方法。
(項目34)
上記実質的に細胞を含まない溶液が、RADARADARADARADA(配列番号1)の配列から構成される両親媒性の自己集合ペプチドを約1重量%より多く含む、項目28に記載の方法。
(項目35)
上記実質的に細胞を含まない溶液が、RADARADARADARADA(配列番号1)の配列から構成される両親媒性の自己集合ペプチドを約3重量%より多く含む、項目34に記載の方法。
(項目36)
上記実質的に細胞を含まない溶液が、生理学的に受容可能な濃度のスクロースを含む、項目28に記載の方法。
(項目37)
上記実質的に細胞を含まない溶液が、1以上の増殖因子および治療剤を含む、項目28に記載の方法。
(項目38)
梗塞部を処置するための方法であって、以下:
両親媒性の自己集合ペプチドを約1重量%より多く含む、実質的に細胞を含まない溶液を提供する工程;および
該実質的に細胞を含まない溶液を該梗塞部内に注射する工程
を包含する、方法。
(項目39)
提供される上記実質的に細胞を含まない溶液が、RADARADARADARADA(配列番号1)の配列を約1重量%より多く含む、項目38に記載の方法。
(項目40)
提供される上記実質的に細胞を含まない溶液が、RADARADARADARADA(配列番号1)の配列を約3重量%より多く含む、項目38に記載の方法。
(項目41)
上記両親媒性の自己集合ペプチドが、1以上のさらなる配列で修飾されたRADARADARADARADA(配列番号1)の配列を含む、項目38に記載の方法。
(項目42)
上記実質的に細胞を含まない溶液が、生理学的に受容可能な濃度のスクロースを含む、項目38に記載の方法。
(項目43)
上記実質的に細胞を含まない溶液が、1以上の増殖因子および治療剤を含む、項目38に記載の方法。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、(a)群全体および(b)各群の動物毎の、虚血−再灌流後の3日目と28日目との間の左室駆出率%の変化に関する情報を示す。3% CardioMatrixの群は、28日目に対照を上回る統計的に有意な改善を示す。3日目および28日目の動物毎に図で示したLVEFは、3%の群および1%の群の改善における傾向を示す。
図2図2は、(a)ビヒクルのみおよび(b)3% CardioMatrixを用いた、ラット心臓の組織病理学スコアおよび写真による解析に関する情報を示す。梗塞部の大きさ、または、心臓の腹側領域のみの壁の菲薄化についてのスコアを、以下のようにしてスコア付けした:0 − 梗塞部または菲薄化について陽性のスコアの領域が0%、すなわち、なし;1 − 25%の領域が冒されている(軽度と称される);2 − 50%の領域が冒されている(中程度);3または4 − (75〜100%)の領域が冒されている(重度)。(a)ビヒクル対照の写真は、腹側壁の広い領域が梗塞を形成したことを示す(領域1〜3、すなわち、腹側領域の75%)。この同じスライスはまた、重度の菲薄化を示すが、3% CardioMatrixは、菲薄化をほとんど示さない。(b)3% CardioMatrixで処置した動物の写真は、腹側領域のちょうど25%が梗塞を示していることを示す。さらに、3% SAP処置動物についてのこの切片には、壁の菲薄化がほとんど存在しない。
図3図3は、壁の菲薄化領域および重篤度を減じるCardioMatrix処置に関する情報を示す。(A)3% CardioMatrix、1% CardioMatrixおよびビヒクル対照を与えた動物における、梗塞部および重篤な梗塞部を有するラット毎のスライスの比較。(B)3% CardioMatrix、1% CardioMatrixおよびビヒクル対照を与えた動物における、壁の菲薄化および重篤な壁の菲薄化を有するラット毎のスライス。
【発明を実施するための形態】
【0016】
詳細な説明
種々の局面において、本発明は、自己集合性のRADARADARADARADA配列から構成され、ナノファイバーの足場を形成し得る、注射可能なCardioMatrixを提供し、この足場は、心臓細胞の保護および心臓細胞の補充のうちの1以上の増加を促進する。種々の局面において、本発明は、CardioMatrix材料の局所的な心筋への注射を含む処置方法を提供する。種々の実施形態において、この方法は、心筋梗塞後の心室の収縮性の改善された回復を促進する。種々の実施形態において、CardioMatrix材料の局所的な心筋への注射により、AMI、弁の疾患、心膜の疾患、先天性の心疾患およびうっ血性心不全のうちの1以上を処置するための方法が提供される。種々の実施形態において、LAを含有するCardioMatrixの局所投与を用いる、高血圧、敗血症性ショック、神経変性、関節炎および喘息のうちの1以上を処置するための方法が提供される。
【0017】
CardioMatrix材料および溶液
以下の定義は、SAPおよびSAPの構造、ならびにCardioMatrix材料を理解する上で有用であり得る。
【0018】
「足場」とは、細胞を支え得る3次元構造を意味する。細胞は、足場によって被包されても、足場の表面上に層をなして配置されてもよい。足場のβシート二次構造は、標準的な円偏光二色性を用いて、約218nmの吸収極小と、約195nmの吸収極大を検出することが確認され得る。足場は、L−アミノ酸、D−アミノ酸、天然アミノ酸、非天然アミノ酸、またはこれらの組合せを含み得るペプチドの自己集合から形成される。L−アミノ酸が足場内に存在する場合、足場の分解は、アミノ酸を生み出し得、これらのアミノ酸は、ホスト組織によって再利用され得る。また、ペプチドは、化学誘引物質または治療上活性な化合物のような化合物に共有結合され得ることが企図される。ペプチドは、化学合成されても、天然もしくは組換えの供給源から精製されてもよく、ペプチドのアミノ末端およびカルボキシ末端は、保護されていても保護されていなくてもよい。ペプチド足場は、互いに相補的でありかつ構造的に適合性のあるペプチドの1以上の個別の分子種から形成され得る。ペプチド間の相互作用を安定化させることによって崩壊力が支配される場合、ミスマッチ対(例えば、隣接ペプチドからの2つの同様に帯電した残基の反発する対形成)を含むペプチドもまた足場を形成し得る。足場はまた、本明細書中で、ペプチド構造、ペプチドヒドロゲル構造、ペプチドゲル構造またはヒドロゲル構造として称される。
【0019】
「相補的な」とは、足場内の隣接ペプチドからの親水性残基間でイオン結合相互作用または水素結合相互作用を形成し得ることを意味し;例えば、ペプチド中の各親水性残基は、隣接ペプチド上の親水性残基と水素結合をするかもしくはイオンにより対形成するかのいずれかであるか、または、溶剤に対して露出される。
【0020】
「構造的に適合性のある」とは、足場形成を可能にするために十分な一定のペプチド内距離を維持し得ることを意味する。本発明の特定の実施形態において、ペプチド内距離のバリエーションは、4Å未満、3Å未満、2Å未満または1Å未満である。また、十分な安定化力が存在する場合、より大きなペプチド内距離のバリエーションが、足場形成を妨げ得ないことも企図される。この距離は、分子モデリングに基づくか、または、以前に報告された簡略化された手順(米国特許第5,670,483号)に基づいて、計算され得る。この方法では、ペプチド内距離は、対内の各アミノ酸の側鎖上の直鎖原子の数の合計をとることにより計算される。例えば、リジン−グルタミン酸イオン対についてのペプチド内距離は、5+4=9原子であり、そして、グルタミン−グルタミン水素結合対についての距離は、4+4=8原子である。1原子につき3Åの変換係数を用いると、リジン−グルタミン酸対およびグルタミン−グルタミン対を持つペプチドのペプチド内距離のバリエーション(9原子 対 8原子)は、3Åである。
【0021】
用語「純粋」とは、当該のペプチドの欠失付加および多様な長さのペプチドを含む本明細書中に記載されるペプチドが他の化学種を含まない程度を示すために用いられる。
【0022】
用語「生物学的に活性な因子」は、生物学的もしくは生化学的な事象を変更するか、阻害するか、活性化するか、または他の方法で影響を及ぼす、因子、化合物または実体をいうために使用される。このような因子は、天然に由来しても、合成であってもよい。生物学的に活性な因子は、分子自体が天然に存在するものであれ(例えば、合成法もしくは組換え法によって)人工的に作製されたものであれ、細胞および組織において一般に見出される分子の種類(例えば、タンパク質、アミノ酸、ペプチド、ポリヌクレオチド、ヌクレオチド、炭水化物、糖、脂質、核タンパク質、糖タンパク質、リポタンパク質、ステロイド、増殖因子、化学誘引物質など)を含む。生物学的に活性な因子はまた、薬物(例えば、抗癌物質、鎮痛薬およびオピオイド)を含む。必須ではないが、好ましくは、薬物は、適正な政府機関または団体によって、既に使用が安全かつ有効であるとみなされているものである。例えば、21 C.F.R.§§330.5、331〜361および440〜460の下、FDAによりリストアップされたヒトの使用のための薬物;21 C.F.R.§§500〜589の下、DAによりリストアップされた獣医学的使用のための薬物(これらは、本明細書中に参考として援用される)は全て、本発明に従った使用に受容可能であると考えられる。さらなる例示的な生物学的に活性な因子としては、抗AIDS物質、抗癌物質、免疫抑制剤(例えば、シクロスポリン)、抗ウイルス剤、酵素阻害剤、神経毒、催眠薬、抗ヒスタミン薬、潤滑剤、トランキライザー、抗痙攣薬(anticonvulsant)、筋弛緩剤および抗パーキンソン病剤、鎮痙薬(anti−spasmodic)および筋収縮剤(チャネル遮断薬を含む)、縮瞳剤および抗コリン薬、抗緑内障化合物、抗寄生虫化合物、抗原虫化合物、および/または抗真菌化合物、細胞−細胞外マトリクス相互作用のモジュレーター(細胞増殖阻害因子および抗付着分子(anti−adhesion molecule)を含む)、血管拡張剤、DNA、RNAもしくはタンパク質の合成の阻害剤、抗高血圧薬、解熱薬、ステロイド性および非ステロイド性の抗炎症剤、抗脈管形成因子、抗分泌因子、抗凝固剤および/または抗血栓剤、局所麻酔薬、眼科用薬(ophthalmics)、プロスタグランジン類、標的化因子、神経伝達物質、タンパク質、細胞応答修飾物質、ならびにワクチンが挙げられるがこれらに限定されない。
【0023】
本明細書中で使用される場合、ペプチドヒドロゲルのようなヒドロゲルは、機械的な撹拌に供されたときに、物理的な撹拌の前のそのヒドロゲルを特徴付ける物理的特性(例えば、弾性、粘性など)を実質的に保つ場合に、「機械的もしくは物理的な撹拌について安定」である。ヒドロゲルは、その形状もしくは大きさを維持する必要はなく、機械的な撹拌に供されたときに、より小さな片へと断片化する一方で、なおも、機械的もしくは物理的な撹拌について安定と称され得る。用語「安定」は、この句と共に使用される場合を除いて、この意味を有さない。
【0024】
本明細書中で使用される場合、用語「ナノファイバー」は、ナノスケールの寸法の直径を持つ繊維をいう。代表的には、ナノスケールの繊維は、500nm以下の直径を有する。本発明の特定の実施形態によれば、ナノファイバーは、100nm未満の直径を有する。本発明の特定の他の実施形態によれば、ナノファイバーは、50nm未満の直径を有する。本発明の特定の他の実施形態によれば、ナノファイバーは、20nm未満の直径を有する。本発明の特定の他の実施形態によれば、ナノファイバーは、10nmと20nmの間の直径を有する。本発明の特定の他の実施形態によれば、ナノファイバーは、5nmと10nmの間の直径を有する。本発明の特定の他の実施形態によれば、ナノファイバーは、5nm未満の直径を有する。
【0025】
用語「ナノスケール環境の足場」とは、ナノファイバーを含有する足場をいう。本発明の特定の実施形態によれば、繊維を含有する足場の少なくとも50%がナノファイバーである。本発明の特定の実施形態によれば、繊維を含有する足場の少なくとも75%がナノファイバーである。本発明の特定の実施形態によれば、繊維を含有する足場の少なくとも90%がナノファイバーである。本発明の特定の実施形態によれば、繊維を含有する足場の少なくとも95%がナノファイバーである。本発明の特定の実施形態によれば、繊維を含有する足場の少なくとも99%がナノファイバーである。当然のことながら、足場はまた、非繊維性の構成成分(例えば、水、イオン、増殖および/または分化を誘導する因子(例えば、増殖因子)、治療剤、または他の化合物)を含有し得、これらは、足場内の溶液中に存在しても、足場に結合されてもよい。
【0026】
本明細書中で使用される場合、用語「有効量」は、所望の結果を達成するための、有効な量、投薬量および必要とされる期間を包含する。有効量は、被験体の疾患の状態、年齢および体重のような要因により変化し得る。投薬レジメンは、最適な治療応答を提供するように調節され得る。有効量はまた、治療上有益な作用が任意の毒性もしくは有害な作用(例えば、副作用)より勝っている量でもある。
【0027】
CardioMatrixは、配列RADARADARADARADAを含有する自己集合ペプチド(SAP)であり、そして、細胞培養、幹細胞生物学および組織工学の場面において開発された、ペプチド生体材料の一分類のメンバーである(24、25)。本発明において使用するためのCardioMatrixの配列はまた、種々の増殖因子(例えば、血小板由来増殖因子)および/または細胞外マトリクスタンパク質(例えば、コラーゲン、ラミニン)に由来する活性な配列を含むように修飾され得る(10、14)。SAPの調製および特徴付けの例は、米国特許出願公開第2004/0242469号および同第2006/0084607号に見出され得、これらの出願公開の全内容は本明細書中に参考として援用される。種々の実施形態において、CardioMatrix材料は、精製された両親媒性ペプチドを含有し、ここで、ペプチドは、少なくとも75%純粋であり、好ましくは、少なくとも85%純粋であり、より好ましくは、少なくとも95%純粋である。
【0028】
CardioMatrix材料は、本発明において、注射可能な水性溶液の形態で使用される。溶液中のペプチド鎖の濃度は、多様であり得る。種々の実施形態において、溶液中のペプチド鎖の濃度は、約1重量%と約10重量%の間;約3重量%と約7重量%の間;および約6重量%と約10重量%の間のうちの1以上である。種々の実施形態において、溶液中のペプチド鎖の濃度は、約2重量%より多い;約3重量%より多い;約4重量%より多い;約5重量%より多い;約6重量%より多い;約7重量%より多い;および約8重量%より多い、のうちの1以上である。CardioMatrix溶液は、投与の際に被験体への浸透圧性ショックを回避するように調合される。種々の実施形態において、CardioMatrix溶液は、約10%スクロース溶液を用いて調製される。CardioMatrix溶液は、追加の電解質を伴ってかまたは伴わずに、少なくとも1年の貯蔵寿命を有し得る。
【0029】
CardioMatrix溶液は、この溶液を被験体に導入する前に、この溶液を生理学的に受容可能なpH(例えば、約7〜約8.5のpH)にするために、1種以上の受容可能な緩衝液を含み得る。
【0030】
CardioMatrix溶液は、好ましくは、被験体における使用の前に滅菌される。CardioMatrix粉末は、例えば、約35Kグレイまでのガンマ線照射への曝露により放射線滅菌され得る。放射線への曝露、および滅菌放射線への曝露の際の構造的な変化について安定なCardioMatrix溶液が作製され得る。
【0031】
CardioMatrix溶液中のペプチド鎖は、静電的相互作用により足場内で自発的に自己集合するように作製され得る。自己集合したCardioMatrixペプチド鎖は、可塑性で、かつ、適切な刺激を加えた際に容易に流動可能なままのヒドロゲルを形成し得る。一般に、SAPは、塩溶液、細胞培養培地の追加、または、インビボでの材料の注射のいずれかによって、ミリモル量の一価のカチオンを導入すると、直径約10nmのナノファイバーへと自己集合し得、このナノファイバーは、正確に整列された3次元の多孔性足場を形成する(13)。両親媒性ペプチドの電荷密度、大きさおよび水−体系化能(water−structuring ability)は、インビボの細胞外マトリクスのものを模倣し得る。ナノファイバーの密度および平均孔径(約5〜200nm)は、材料を生成するために使用されるペプチド溶液の濃度と相関する。
【0032】
CardioMatrix溶液は、一価の塩溶液への曝露により、安定な足場へと形成され得る。投与部位の組織と接触する際に、βシートの巨視的な構造へのペプチドの自己集合を開始させるために、十分な電解質が溶液に加えられる。種々の実施形態において、加えられる電解質の濃度は、少なくとも5mM、10mM、20mMまたは50mMである。より低い濃度(例えば、0.1〜1mM)またはより高い濃度もまた使用され得る。濃度の選択は、部分的に、所望されるペプチドゲルのイオン強度に依存し、そしてまた、ゲル化の速度に影響を及ぼす。適切な電解質としては、Li、Na、KおよびCsが挙げられるがこれらに限定されない。電解質は、ペプチド鎖を、機械的な撹拌について安定な足場へと自己集合させる。
【0033】
種々の実施形態において、本発明は、相補的な構成要素を有する両親媒性の自己集合性ペプチドを含有する、実質的に細胞を含まない溶液を提供し、この相補的な構成要素は、1)心臓細胞のタイプに適した微環境を生じる適切な生物学的足場、そして、2)内因性の心臓細胞および/または移植された細胞集団が必要とされる組織内へと急速に吸収し得るということ、を提供する(24、25)。
【0034】
本発明のCardioMatrix足場材料は、固体マトリクスではなく、介在性の空間を持つナノファイバーのネットワークを含み、このことが、細胞の浸潤および細胞間相互作用を促進して、治癒を促進し得る。本発明の方法では、CardioMatrix材料の導入は、「細胞を含まない状態(cell−free)」で行われ得、例えば、これらの方法は、心組織の処置のために、細胞の調製物が梗塞形成した領域内に導入されることを必要としない。
【0035】
理論に束縛されないが、インビボ様の微環境(ECM成分を含む)の生成は、首尾よい細胞移植を助長するものと考えられる(7、8、9)。本発明のCardioMatrix材料は、種々の実施形態において、適切な3次元構造を提供し、重大な細胞の機能(例えば、増殖、分化および移動、またはこれらの両方)に影響するシグナル伝達経路を促進する(7〜10、14、15)。さらに、CardioMatrix溶液は投与されるまでゲル化しないので、所望の領域内へ注射された細胞の逆流を防止し得る−この技術的利点は、本発明者らによって行われたいくつかの前臨床研究において、極めて有用であることが分かった。
【0036】
本発明のCardioMatrix溶液は注射可能であり、そして、種々の実施形態において、局所的な薬物送達に使用され得る。例えば、種々の実施形態によれば、CardioMatrix溶液は、短期間の治療、長期間の治療またはその両方のいずれかのために、心臓へと直接薬物を送達するために使用され得る。したがって、繰り返しの全身投与の代わりに、所望の因子を含有するCardioMatrixは、心臓の所望の領域へと定期的に直接送達され得る。あらゆる濃度のCardioMatrix溶液が、あらゆる大きさの針(たとえ非常に細いゲージの針(30ゲージ)でも)を用いて注射可能である。
【0037】
これらのCardioMatrix溶液は、種々の実施形態において、射出成形された材料として機能し得る。針を通過したヒドロゲルは、絡み合った糸を撚った塊ではなく、単一のまとまった丸い塊で、所望の空間を充たす。すなわち、材料は、個々のペプチド鎖のスケール、そして、巨視的なスケールの両方で、ゲルとして集合する。このように、種々の実施形態において、CardioMatrix溶液は、投与の容易さのための注射可能な材料と、細胞の内方成長および増殖を促進する連続的な繊維性のネットワークとの両方を提供し得る。広範な種々のデバイスが注射可能な溶液を送達するために使用され得、これらのデバイスとしては、シリンジ、デュアルチャンバシリンジ、注入カテーテルおよび送達カテーテルが挙げられるがこれらに限定されない。
【0038】
これらのCardioMatrix溶液は、種々の実施形態において、非ニュートン型流体として挙動し得る。例えば、溶液は、経時的により粘性となり得る。例えば、3%溶液は、混合から約1時間後に、20〜30Paの降伏応力と40cP未満の粘度とを示し得、降伏応力は、約5〜6時間後には50〜65Paまで増加し得、そして、約2週間後には、降伏応力は約100〜160Paまで増加し得、そして、粘度は、200cP未満まで増加した。
【0039】
1種以上の生物学的に活性な因子(血小板豊富な血漿)、例えば、治療上活性な化合物または化学誘引物質が、CardioMatrixに加えられ得る(10、14)。増殖因子は、単独で、または、サイトカイン(上皮増殖因子、神経増殖因子、トランスフォーミング増殖因子−αおよびβ、血小板由来増殖因子、インシュリン様増殖因子、血管内皮増殖因子など)のような他の生物学的に活性な因子との組合せで、CardioMatrix材料に加えられ得る(10、14)。薬物および増殖因子は各々、例えば以下のようにして、同じような様式でCardioMatrixに加えられ得る:2倍濃度の所望の薬物または増殖因子が、スクロースビヒクル溶液の容量と等しい容量で、スクロースビヒクル溶液に加えられ、その後、注射前にCardioMatrixと混合される。
【0040】
本発明のCardioMatrixについての生体適合性および毒性学的な試験は、これらの材料が、動物内に移植されたとき、または、インビトロで試験されたときに、安全かつ生体適合性であることを示している。本発明者らはまた、インビボで注射されたときに、CardioMatrixが28日以内に分解し、排泄されることを示した。最後に、血液および血漿と直接的に接したCardioMatrixが、インビボでの多くの用途に有害な凝固カスケードを開始させないことを血液適合性試験が示した。生体適合性および毒性学の試験結果は実施例2に示される。
【0041】
処置の方法
種々の局面において、本発明は、処置されるべき組織内への、実質的に細胞を含まないCardioMatrix材料の局所注射を包含する処置方法を提供する。種々の実施形態において、処置されるべき組織は、心組織(脈管組織、動脈組織、筋肉組織、動脈の内層組織などが挙げられるがこれらに限定されない)を含む。種々の実施形態において、実質的に細胞を含まない材料は、約1重量%よりも多いCardioMatrix、好ましくは約3重量%よりも多いCardioMatrixを含有する溶液として注射される。種々の実施形態において、本発明の方法は、約1重量%よりも多いCardioMatrix、好ましくは約3重量%よりも多いCardioMatrixを含有する、実質的に細胞を含まない溶液の局所投与により、心保護作用および/または心再生作用を提供する工程を包含する。
【0042】
AMI後の心室リモデリングにおける急性および慢性の変化は、心機能に影響を及ぼす重要なプロセスである(16)。AMI事象は心臓における浮腫および炎症につながり、梗塞形成領域を、最初に損傷を受けた領域を越えて拡大させる。梗塞部の拡大は、事象から2〜10日後に起こり、最初に梗塞形成した領域だけでなく、拡大した領域においても壊死を引き起こす(16)。さらに、心臓における「気絶(stunning)」は、虚血とその後の再灌流の直後に生じるが、「冬眠」は、心筋を慢性的な虚血に適合させるプロセスであり、これは、代表的には嫌気性解糖の形態の、代替的なタイプのエネルギー消費への代謝の切替を伴う(22)。梗塞が形成した心組織は、慢性的な「気絶」状態から「冬眠」状態に入り得、そして、この移行は、進化の間の構造タンパク質の発現における時間的および空間的なバリエーションと相関している(23)。したがって、種々の局面において、本発明は、約1重量%よりも多いCardioMatrix、好ましくは約3重量%よりも多いCardioMatrixを含有する、実質的に細胞を含まない溶液の局所投与により、心保護作用および/または心再生作用を提供するための方法を提供する。種々の実施形態において、処置方法は、梗塞部の大きさの制御、梗塞部の拡大の減少もしくは防止、および心室壁応力の減少のうちの1以上を提供する。
【0043】
例えば、種々の実施形態において、両親媒性の自己集合ペプチドを含有する、実質的に細胞を含まない溶液は、塞栓形成を生じるために使用され得る。例えば、実質的に細胞を含まない溶液は、腫瘍周囲の血管または外科手術の間に血流を停止さるために切断された血管に投与(例えば、血管内に注射)され得る。
【0044】
種々の実施形態において、両親媒性の自己集合ペプチドを含有する、実質的に細胞を含まない溶液は、心筋内に注射され、菲薄化した心臓壁における筋肉の生成を刺激し得る。理論に束縛されないが、本発明者らは、特定の組織部位への注射が、細胞の内方成長および組織の発生のための許容性の腔を生じるものと考えている。細胞の内方成長および細胞外マトリクスの産生をさらに促進するために、溶液のpHが調節され得、そして/または、例えば特定の細胞の挙動を促進するために、増殖因子が加えられ得る。
【0045】
本明細書中で使用される場合、用語「処置する」、「処置」、「処置すること」および「治療」は、特定の疾患、障害、損傷および/もしくは状態の1以上の症状または特徴を部分的もしくは完全に軽減するか、改善するか、緩和するか、抑制するか、発症を遅らせるか、重篤度を軽減するか、そして/または、発生を軽減するために使用されるあらゆる方法をいうために、交換可能に使用される。例えば、処置は、疾患もしくは状態の徴候を示さない被験体および/または、疾患もしくは状態の早期の徴候のみを示す被験体に施され得る;処置は、(例えば、AMIの結果として)損傷を患う被験体に施され得る;などである。
【0046】
本発明の種々の実施形態において、方法は、損傷を受けた組織を浮腫および炎症が鎮まるまで気絶状態に維持することによって、損傷を受けた組織を処置するCardioMatrix溶液を提供する(19、22)。種々の実施形態において、CardioMatrix溶液は、心機能をさらに弱める壁応力から組織を保護し、例えば、梗塞形成した組織に対する生体力学的もしくは生物物理学的な保護作用を提供するバルキング剤として用いられ、さらなる損傷からの保護を促進する(19)。
【0047】
種々の局面において、本発明は、CardioMatrix材料の局所的な心筋注射を包含する処置の方法を提供する。種々の実施形態において、本発明は、約1重量%よりも多いCardioMatrix、好ましくは約3重量%よりも多いCardioMatrixを含有する、実質的に細胞を含まない溶液を、梗塞部内に注射する工程を包含する、梗塞部を処置するための方法を提供する。種々の実施形態において、溶液は、生理学的に受容可能な濃度のスクロースを含有するスクロース溶液(例えば、10重量%のスクロース溶液)を含む。溶液は、CardioMatrix溶液を被験体に導入する前に、溶液を生理学的に受容可能なpH(例えば、約7〜約8.5のpH)にするために、1種以上の受容可能な緩衝液を含み得る。
【0048】
種々の実施形態において、本発明は、LAを含有するCardioMatrixの局所投与を用いた、高血圧、敗血症性ショック、神経変性、関節炎および喘息のうちの1以上の処置のための方法を提供する。種々の実施形態において、高血圧、敗血症性ショック、神経変性、関節炎および喘息のうちの1以上の処置は、処置されるべき組織内への、約1重量%よりも多いCardioMatrix、好ましくは約3重量%よりも多いCardioMatrixを含有する、実質的に細胞を含まない溶液の注射によって提供される。種々の実施形態において、処置は、処置される組織へのNOの局所送達を増加させる。種々の実施形態において、処置は、CardioMatrix中のLAから形成されるNOの局所送達を提供する。種々の実施形態において、CardioMatrixは、処置される組織および/または処置される組織と生理学的に連絡した組織による一酸化窒素(NO)の形成を促進する。
【実施例】
【0049】
実施例1:CardioMatrixの研究:虚血−再灌流ラットモデル
この実施例では、虚血−再灌流ラットモデルを使用して、心室の収縮性ならびに梗塞部の大きさおよび重篤度の病理学的評価によって測定したときに、CardioMatrixの局所的な心筋注射の使用が、梗塞形成後の心室リモデリングを改善するかどうかを調べた。これらの実験において、CardioMatrix材料の導入は、「細胞を含まない状態」で行った。すなわち、梗塞形成した領域に導入されるべき細胞の調製物を使用もせず、必要ともしなかった。
【0050】
CardioMatrix材料
CardioMatrixを以下のように調製した:CardioMatrix粉末を、ビヒクル対照溶液(10%スクロース)中に溶解して、この実施例において使用する1重量%および3重量%の濃度の溶液を生成した。この溶液は、実質的に細胞を含まなかった。次いで、注射のために、この溶液をシリンジに移した。10%スクロース溶液を対照として用いた。
【0051】
外科手術、AMIおよびCardioMatrixの注射
雄性のSprague Dawleyラット(n=29、体重240〜300g)に、全身麻酔(ペントバルビタール 0.06〜0.10mg/g ip)下で経壁的に虚血を起こした。挿管および正中胸骨切開の後、左前下行枝の中間部分を7/0縫合糸で結紮し、そして、遠位の左前下行枝の領域における心筋の青白い変色によって虚血を確認した。45分後、縫合糸を切断し、取り除いた。動脈を結紮している間に、2匹のラットが死亡した。
【0052】
ラット(n=27)を無作為に、以下の3種の材料のうちの1つを与えるように選択した:3% CardioMatrix(3% CardioMatrix、3DM Inc.,Cambridge,MA,USA)、1% CardioMatrix(1% CardioMatrix、3DM Inc.,Cambridge,MA,USA)、または、ビヒクル対照(CardioMatrixビヒクル、3DM Inc.,Cambridge,MA,USA)。前室の心筋再灌流から3分後に、遠位の左前下行枝の領域への3箇所の注射により、合計50μlの材料を梗塞形成した心筋に送達した。その後、4/0縫合糸で胸骨切開を閉じ、そして、ラットを回復させた。
【0053】
心エコー検査
外科手術から3日後、軽度の鎮静(ケタミン、0.05〜0.10mg/g ip)の後に、13MHzの線形アレイ超音波プローブ(Vivid 7,GE Medical
Systems,Milwaukee,WI,USA)を用いて、経胸腔心エコー検査を行った。心室中央部の高さにおいて、胸骨傍の短軸Mモード追跡から左心室の寸法を測定し、そして、Teich法を用いて左室駆出率(LVEF)を算出した(5)。2回の連続した追跡から得た測定値の平均をとった。
【0054】
先に記載した方法を用いて、手術から28日後に、軽度の鎮静下で心エコー検査を繰り返した。その後、ラットに麻酔をかけ(ペントバルビタールナトリウム 0.10mg/g ip)、屠殺し、そして、病理学的評価のために心臓を外植した。
【0055】
病理学
各心臓を、心尖から基部までの5つの同心性の輪にスライスした。各輪を、梗塞形成の存在もしくは非存在、壁の菲薄化、線維症、および炎症について評価した。梗塞形成が生じていた心臓の腹側領域のみを、梗塞部の重篤度または壁の菲薄化についてスコア付けした。影響は、以下のようにしてスコア付けした:0 − 梗塞部または菲薄化について陽性のスコアの領域が0%、すなわち、なし;1 − 25%の領域が冒されている(軽度と称される);2 − 50%の領域が冒されている(中程度);3または4 − (75〜100%)の領域が冒されている(重度)。ラットの外科手術、心エコー検査および病理学的評価を行った研究者には、ラットにどの材料を与えたかを伏せた。
【0056】
全ての統計的解析は、SPSS for Windows(登録商標) 10.0(SPSS Inc,Chicago,USA)を用いて行った。データがパラメトリックであったので、平均±標準偏差として表し、両側の0.05のp値を有意とみなした。カテゴリー的変数をχ検定およびFisherの正確確率検定を用いて比較した。対応ありのt検定と対応なしのt検定を用いて、被験体内および被験体間の差を調べた。
【0057】
心エコー検査の結果
27匹のラットのうち、2回目の心エコー検査の前に3匹(各群から1匹ずつ)が死亡し、24匹が解析のために残された。表1は、3つの実験群の各々についての、3日目および28日目のLVID測定値(cm)、3日目および28日目のLVEF(%)、ならびに、3日目および28日目からのLVEFの変化を示す。虚血−再灌流後3日目では、3% CardioMatrix群と1% CardioMatrix群とビヒクル対照群との間でLVEFに差は見られず(それぞれ、69.4±5.3%、68.3±2.7%および70.5±8.9%、p>0.50、表1)、この研究において、全てのラットに対して一様な様式で梗塞部に投与されたことが実証された。
【0058】
【表1】
【0059】
AMIのこのラットモデルにおける心室機能に対するCardioMatrix処置の効果を決定するために、処置を互いに比較するp値(すなわち、3% CardioMatrix 対 1% CardioMatrixもしくは対照、および1% CardioMatrix 対 対照)、そして、単一の群内で処置を比較するp値(すなわち、3日目 対 28日目における3% CardioMatrix、1% CardioMatrixまたは対照)を算出した(図1)。3% CardioMatrix 対 1%
v(p=0.25)と、3% CardioMatrix 対 対照(p=0.04)と、1% CardioMatrix 対 対照(p=0.49)との間の比較のために、対応するp値を算出し(表1、7行目、太字)、そして、図1(a)に示す。3% CardioMatrix 対 対照の0.04というp値は、ビヒクル対照を与えた動物と比較して、3% CardioMatrixを与えた動物における統計的に有意な改善を実証する。群の各々を個々に検討すると、3% CardioMatrix群について3日目から28日目へのLVEF(69.4±5.3% 対 76.4±10.7%、7.0+7.1%の平均変化、p=0.028、表1、図1b)にも、1% CardioMatrix群における正の傾向(68.3±2.7% 対 70.5±10.1%、2.2±8.9%の平均変化、p=0.52、表1、図1b)にも統計的に有意な改善が見られたが、ビヒクル対照群については統計的に有意な改善が見られなかった(70.5±8.9% 対 69.9±11.5%、−0.6+6.3%の平均変化、p=0.79、表1、図1b)。図1(b)はまた、各動物が3日目および28日目の測定値によって結ばれた一本の線によって表された、別々にプロットされた群の各々の図表を含む。各群の8匹の動物のうち、3% CardioMatrix群では6匹のラットにおいて、1%
CardioMatrix群では3匹のラットにおいて、そして、ビヒクル対照群では2匹のラットにおいて、LVEFの改善が見られた(図1(b)を参照のこと)。総合すると、これらの計算は、3% CardioMatrixを用いた処置が、ビヒクル対照と比較して、以前にAMI事象を経験したラットにおいて、LVEFの統計的に有意な向上を示すことが実証された。
【0060】
病理学
28日目に屠殺した24匹のラットの各々について、心臓を5つの部分に切断し、そして、梗塞形成の大きさ、壁の菲薄化、線維症および炎症について、0〜4のスケール(0−影響なし、4−重度)で個別に評価した。梗塞部についてのスコアの例を図2に示す。図2のaのパートでは、ビヒクル対照が、広い領域の梗塞形成(心臓の腹側領域の75%)を有するように示されているのに対し、bのパートでは、3% CardioMatrixが、かなり小さな領域の梗塞形成(心臓の腹側領域の25%)を示している。梗塞形成、線維症および炎症を有するラット毎のスライスの数は、3% CardioMatrix群、1% CardioMatrix群およびビヒクル対照群で全て同じであった(表1)。結果はまた、合計の症例および各徴候についての重篤度として別々に表にまとめた。本発明者らは、群を他の群と比較したとき、または、単一の群内(3日目 対 28日目の比較)に存在する、線維症または炎症の量には差がないことを確認した(表2、5行目および6行目)。しかし、重度の梗塞形成(0.9±0.8および0.8±1.1 対 1.4±1.5)、および壁の菲薄化〜両方の壁の全体的な菲薄化(1.5±1.2および1.4±1.1 対 2.3±1.7)、および重度の壁の菲薄化(0.50±0.8および0.4±0.7 対 0.9±1.1)については、ビヒクル対照と比較して、3%および1% CardioMatrixにおいて、ラット毎により少ない数のスライスで正の傾向が見られた(表2、1〜4行目、図3)。まとめると、このラットAMIモデルにおけるCardioMatrixでの処置は、心室機能を改善するだけでなく、重篤度、したがって、28日後に存在する梗塞部の大きさ、ならびに、壁の菲薄化の量をも低減する。
【0061】
【表2】
【0062】
結果の考察
この実施例では、心エコー検査により測定された心機能の改善が、AMIのラット動物モデルにおける本発明のCardioMatrix材料の効果を実証した。さらに、ビヒクル対照と比較したCardioMatrix材料の効果の組織学的特徴付けがさらに、処置した動物におけるより小さな梗塞部の大きさおよびより少ない壁の菲薄化に関する、CardioMatrix材料の治療上の利益を支持している。特に、実験的な梗塞形成後の左心室の収縮性の改善された回復が、ビヒクル対照群と比較して、高用量の3% CardioMatrix群で見られ(+7.0% 対 −0.6%、p=0.04)、低用量の1% CardioMatrix群では中間の反応が見られた(+2.2%)。3日目のLVEFが同様であり、そして28日目の線維症、炎症および梗塞形成を有するラット毎の心臓スライスの数が同じであることによって示される、3群におけるリスクのある心筋層の領域が同様であるにも関わらず、対照群と比較して、CardioMatrix群において、梗塞部の大きさおよび壁の菲薄化の減少が存在した。
【0063】
内皮−心筋細胞の相互作用が、心臓の調節において重要な役割を担うことが報告されている(6、17)。理論に束縛されないが、CardioMatrix材料により形成される足場は、細胞の移植、長期の細胞の生存および脈管構造の形成(例えば、毛細管様ネットワークの形成)を促進する脈管形成環境(例えば、心筋の微環境)を提供するものと考えられる。
【0064】
そのラットAMIモデルにおけるSAPのみの注射では、心室内径短縮率も統計的に改善せず、梗塞部の大きさも減じなかったことが報告されている(14)。しかし、本願の実施例の結果は、3% CardiMatrixを使用した結果を、ビヒクル対照と比較したとき、統計的に有意な心室の回復が見られる(p=0.04)ことを実証している。
【0065】
理論に束縛されないが、細胞レベルでは、本発明の種々の実施形態にしたがうCardioMatrixの注射による、ナノファイバー足場の微環境の生成は、虚血障害後の心筋細胞および内皮細胞の生存および組織化を促進し得(5)、そして、心室の収縮性の回復における改善をもたらすものと考えられる。さらに、これらの結果は、種々の実施形態において、本発明が、再灌流傷害に対する保護または心保護作用を促進し得ることを実証している。理論に束縛されないが、本実施例のCardioMatrix中に存在するL−アルギニン(LA)ペプチド配列は、心保護作用を促進または提供し得るものと考えられる。例えば、一酸化窒素(NO)は、LAから形成され得、そして、酸素およびNOは、生理学的および病理学的な刺激に応じて合成される;心臓の再灌流傷害は、LAの不足から生じるNO活性の低下に原因があるとされるので(3)、本発明の種々の実施形態は、NOの局所送達による処置を提供し得る。心疾患に加え、高血圧、敗血症性ショック、神経変性、関節炎および喘息を含むいくつかの他の疾患が、一酸化窒素の不適切な放出と関連付けられている。したがって、種々の実施形態において、本発明は、LAを含有するCardioMatrixの局所投与を用いた、高血圧、敗血症性ショック、神経変性、関節炎および喘息のうちの1以上の処置のための方法を提供する。
【0066】
理論に束縛されないが、心停止の解決のためのCardioMatrix材料を介したLAの投与、または、心臓の再灌流の間の使用は、一酸化窒素放出の増加および内皮細胞機能の維持により、低体温の虚血後の左心室機能の回復を促進し得るものと考えられる(18)。したがって、種々の実施形態において、本発明は、約1重量%より多いCardioMatrix、好ましくは約3重量%より多いCardioMatrixを含有する、実質的に細胞を含まない溶液の局所投与による、心室機能の回復を促進するための方法を包含する。
【0067】
また、理論に束縛されないが、本発明が作用する別の機構は、内皮細胞および筋細胞様前駆体細胞の成長の増強により、成熟した微小血管環境をもたらすことであるとも考えられる。このような増強は、治癒を促進し得ると報告されている(5)。理論に束縛されないが、梗塞形成および壁の菲薄化の領域が同様であるにも関わらず、ナノファイバー足場の微環境を形成する細胞のタイプまたは時間経過の差は、1% CardioMatrix群と比較して、高用量の3% CardioMatrix群でのより大きな収縮性の改善が見られる傾向を説明するために使用され得る作用機構であると考えられる。
【0068】
また、理論に束縛されないが、本願の実施例において、CardioMatrix材料は、損傷を受けた組織を浮腫および炎症が鎮まるまで気絶状態に維持することによって、損傷を受けた組織を「救出し」得るものと考えられる(19、22)。CardioMatrixはまた、心機能をさらに弱める壁応力から組織を保護するバルキング剤として作用し得る(19)。壁応力は、うっ血性心不全についての重要な代用マーカーであるので、本発明は、梗塞形成した組織に対して、生体力学的または生物物理学的な保護作用を提供するものと考えられる(19)。
【0069】
実施例2:研究:生体適合性および毒性学
細胞傷害性および血液適合性についてのEN/ISO試験を含む、標準的なインビトロでの毒性学研究を完了した。以下の試験は、CardioMatrix材料についての判定の確立された標準規格品を用いて、FDA公認の毒性学試験会社(Toxikon Corp,Bedford,MA)にて完了した(表3および4)。本実施例で試験したCardioMatrix溶液は、実質的にスクロースを含まない水溶液中の、種々の濃度のCardioMatrix粉末から構成された。
【0070】
【表3】
【0071】
【表4】
【0072】
細胞傷害性
寒天拡散試験(ISO 10993−5)は、細胞培養に対する物質の影響を判定するもので、微量の浸出性の化学物質に対して極めて感度が高く、潜在的に有害な浸出物の存在下での毒性の特徴的な徴候を容易に呈する。哺乳動物の単層L929マウス線維芽細胞培養物の、試験物品に対する生物学的反応を、試験において「反応性なし」と決定した。
【0073】
溶血
溶血試験(直接接触法、ISO−10993−4)は、物質が赤血球を破裂させる能力を判定する。この試験は、十分に確立されたNIHのプロトコールから派生するもので、三連で行う。この試験は、試験物質と直接接触したウサギの血液を用い、そして、分光測光法により溶血の程度を判定する。CardioMatrixは、独立したFDA公認の試験機関によって行われた試験において、「溶血性なし」との評価を得た。
【0074】
凝固プロトロンビン時間
プロトロンビン時間(ヒト血漿、ISO 10993−4)は、ヒト血液凝固時間に対する試験物品抽出物の影響を判定する。このアッセイは、凝固のプロセスにおけるプロトロンビンの存在および機能を果たす能力を決定する、適切な臨床上の手段となっている。CardioMatrixは、独立したFDA公認の試験機関により行われた試験において、ヒト血漿のプロトロンビン凝固時間に対して有害な影響を有さなかった。
【0075】
ADMEおよび生分解性
動物の局所的および全身の分布を判定するために、14C炭素で放射標識したバージョンのCardioMatirxを生成した。インビボでのCardioMatrix材料の吸収、分解、代謝および排泄(ADME)をより良く特徴付けるために、切断され得る標識されたアセチル基とは対照的に、放射標識したバージョンは、3番目のアラニン部位において内部に標識した(アセチル−(RADA)−(R−[14C(U)−Ala]−D−A)−(RADA)−CONH)。その後、放射標識した物質をSprague
Dawleyラットの大腿に欠陥を持つモデルに移植した。尿および糞便のサンプルを回収し、放射活性をカウントした。
【0076】
ウサギの筋肉移植(2週間)
この試験は、生体組織と接触したときの物質の局所的な影響を評価するものである。試験物品を、3匹のニュージーランド白ウサギの脊柱傍に移植し、各動物の対側の筋肉にネガティブ対照(GelFoam)を移植した。2週間にわたり治癒させた。動物を屠殺し、移植物を切除した。切除した移植物を、拡大レンズを用いて顕微鏡により検討し、ホルマリン固定した。ヘマトキシリン・エオシン(H&E)およびMasonのトリクローム染色した切片の組織学的スライドを調製し、委員会公認の獣医病理学者により顕微鏡下で検討し、そして、0〜3のスケールで評価した。CardioMatrix移植物は、最初の移植容積、コラーゲン線維および注射部位の血管新生を保った。独立したFDA公認の試験機関によって行われた試験において、毒性なし(<1)から、わずかに毒性あり(1〜<2)、軽度の毒性(2〜<3)、中程度の毒性(3〜>4)、重度の毒性(<4)までの範囲のスケールについて、毒性なし(0.13)と評価された。
【0077】
皮内の反応性
刺激反応性試験は、裂け目を作った組織および血液との接触を含む、デバイスの材料もしくは抽出物に対する組織の局所的な反応を評価する。0.5%w/vのCardioMatrixペプチド溶液を、70±2℃にて24時間、1.0mLにつき0.2グラムの割合で、NaClおよびCSO中で抽出した。対照の抽出物を、試験物品と同様の様式で調製した。動物の片側を試験物品抽出物のために、そして、もう片側を対照抽出物のために用いて、各部位につき0.2mLで、3匹のウサギに皮内注射した。接種から24時間後、48時間後および72時間後に、紅斑、浮腫および壊死のような組織反応の大まかな徴候について、注射部位を調べた。0.5以下の一次皮膚刺激性を、無視してよい刺激原とみなし、0.5〜<2を軽度の刺激原、2〜<5を中程度の刺激原、そして、>5を重度の刺激原とした。CardioMatrixを注射した試験部位は、72時間の観察点まで、紅斑または浮腫の徴候を示さなかった。独立したFDA公認の試験機関によって行われた試験において、物質についての一次皮膚刺激性は0.0である。
【0078】
ウサギの発熱物質
この試験の目的は、試験物品抽出物の投与の結果として、発熱反応に対する患者のリスクを検出することであった。9mLの試験物品を9mLの注射用0.9% USP塩化ナトリウム(NaCl)と混合して試験物品を調製し、得られたゲルを1.0mLにつき0.2グラムの割合で抽出した。試験物品抽出物を、10mL/kgで静脈内注射により投与した。注射したウサギの直腸温度を、同様にして注射用0.9% USP塩化ナトリウム(NaCl)を注射した対照のウサギの温度と比較した。試験物品抽出物の注射より前30分以内に決定した、ウサギの基線温度を用いて、その体温が互いに1℃を超えて変化するウサギ、および、その温度が39.8℃よりも高いウサギを除外した。注射から1時間後〜3時間後の間に、30分間隔で体温を記録した。その基線温度について0.5℃以上の体温上昇を示したウサギがいない場合、その製品は、発熱物質がないことの要件を満たしたことになる。試験物品抽出物を注射した動物はどれも、独立したFDA公認の試験機関によって行われた試験において、発熱反応の徴候を示さなかった。
【0079】
本明細書中で用いた節の見出しは、系統化の目的だけのためのものであり、いかなる方法でも、記載される主題を制限するものとしてみなされるべきでない。
【0080】
本発明は、種々の実施形態および実施例と関連して記載されてきたが、本発明は、このような実施形態または実施例に制限されることは意図されない。逆に、当業者に理解されるように、本発明は、種々の代案、修正および等価物を包含する。
【0081】
本発明は、特定の例示的な実施形態を参照して具体的に示され、記載されてきたが、本発明の趣旨および範囲から逸脱することなく、形状および細部において種々の変更がなされ得ることが理解されるべきである。したがって、本発明の範囲および趣旨に入るあらゆる実施形態およびその等価物が権利主張される。
【0082】
参考文献
本願において引用される全ての文献および同様の資料(特許、特許公開、論文、書物、専門書およびウェブページが挙げられるがこれらに限定されない)は、このような文献および同様の資料の形式に関わらず、その全体が明示的に参考として援用される。1以上の引用される文献および同様の資料が本願と相違または矛盾する場合(定義される用語、用語の使用法、記載される技術などが挙げられるがこれらに限定されない)には、本願が支配する。
【0083】
【表5-1】
【0084】
【表5-2】
【0085】
【表5-3】
図1
図2
図3
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]