(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
光ファイバ母材を加熱溶融し、前記光ファイバ母材から光ファイバ裸線を引出し、次いで前記光ファイバ裸線をコーティング可能な温度になるまで冷却し、次いで前記光ファイバ裸線の表面にコーティング層を設け、その後、前記コーティング層を硬化させて光ファイバ素線とした後、前記光ファイバ素線を巻き取り装置にて巻き取る光ファイバ素線の製造方法であって、
前記巻き取り装置にて巻き取る前の前記光ファイバ素線にねじれを加え、このねじれを前記光ファイバ素線から前記光ファイバ裸線を経て前記光ファイバ母材の加熱溶融部まで伝達させることにより、前記光ファイバ裸線の長手方向の周りで第1の方向のねじれと、前記第1の方向とは反対である第2の方向のねじれとが交互に存在するように、永久的に固化したねじれであるスピンを前記光ファイバ裸線に印加する工程と、前記光ファイバ母材から前記光ファイバ裸線を引出す線引工程にて前記光ファイバ裸線に0.3%〜1%の範囲内のコア非円を生じさせる工程とを有し、
前記コア非円により生じた複屈折から換算されるビート長を基準として、前記スピンにおける一方向ねじれ長さを前記ビート長以下とし、さらに前記スピンにおける一方向ねじれ量を示すスピン振幅を30rad以上とすることを特徴とする光ファイバ素線の製造方法。
前記コア非円の大きさを0.3%〜1%の範囲内とするために前記光ファイバ裸線のクラッド非円を0.3%〜1%の範囲内とすることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の光ファイバ素線の製造方法。
前記光ファイバ母材を加熱溶融する際に、加熱炉における前記光ファイバ母材の水平面内の位置を前記加熱炉の中心からずらすことで、前記クラッド非円の大きさを調整し、かつ、前記光ファイバ裸線の外径を測定する外径測定器において、前記スピンによりねじれている前記光ファイバ裸線の外径を測定し、その外径測定値の変動幅が所望のクラッド非円に該当する変動幅となっていることを確認することを特徴とする請求項4に記載の光ファイバ素線の製造方法。
前記光ファイバ母材を加熱溶融する際に、加熱炉内のヒータ形状を水平面内において楕円にすることで、前記クラッド非円の大きさを調整し、かつ、前記光ファイバ裸線の外径を測定する外径測定器において、前記スピンによりねじれている前記光ファイバ裸線の外径を測定し、その外径測定値の変動幅が所望のクラッド非円に該当する変動幅となっていることを確認することを特徴とする請求項4に記載の光ファイバ素線の製造方法。
前記光ファイバ母材を加熱溶融する際に、加熱炉内の断熱材形状を水平面内において周方向に不均一となるようにすることで、前記クラッド非円の大きさを調整し、かつ、前記光ファイバ裸線の外径を測定する外径測定器において、前記スピンによりねじれている前記光ファイバ裸線の外径を測定し、その外径測定値の変動幅が所望のクラッド非円に該当する変動幅となっていることを確認することを特徴とする請求項4に記載の光ファイバ素線の製造方法。
前記光ファイバ母材を加熱溶融する際に、加熱炉における前記光ファイバ母材の水平面内の位置を前記加熱炉の中心からずらすこと、前記加熱炉内のヒータ形状を水平面内において楕円にすること、前記加熱炉内の断熱材形状を水平面内において周方向に不均一となるようにすることの中から選択される2以上の要因により前記クラッド非円の大きさを調整し、かつ、前記光ファイバ裸線の外径を測定する外径測定器において、前記スピンによりねじれている前記光ファイバ裸線の外径を測定し、その外径測定値の変動幅が所望のクラッド非円に該当する変動幅となっていることを確認することを特徴とする請求項4に記載の光ファイバ素線の製造方法。
さらに、前記外径測定値の変動幅が所望のクラッド非円に該当する変動幅となるように前記光ファイバ母材の位置を調整することを特徴とする請求項5〜8のいずれか1項に記載の光ファイバ素線の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
内部的要因に対してスピンを実施することは有効であるが、スピンをすることだけでは、外部的要因に対してPMDを低減できない問題がある。
一方、外部的要因に対してツイストを加えることは有効であるが、ツイストを加えた後の光ファイバ素線に着色、テープ化、ケーブル化などを行う際に、加えたねじれが解放されて戻ってしまう(特許文献3のFig.3参照)ため、安定した品質を保証することが難しいという問題がある。つまり、ねじれが残った状態で最終使用形態、例えばケーブル化などに利用できれば外部的要因に対してPMDは低く維持できるが、ねじれが解放されるとPMDの低減効果がなくなってしまう。
【0006】
また、ケーブルなどの最終形態で光ファイバ素線に残留しているツイストプロファイル(ツイスト方向が時計回りと反時計回りとの間で1回ずつ反転するツイスト周期および同一方向ねじれの累積ねじれであるツイスト振幅、
図1参照)のわずかな変化によって、PMD低減の効果が大きく変化してしまう(特許文献3のFig.5参照)という問題がある。これに対し、特許文献4では、ツイスト周期やツイスト振幅を変調したりランダムにしたりという対策を実施しているが、これもツイストの解放という点については多かれ少なかれ同様に生じる。そのため、細かく変調したツイストプロファイルが、後工程において最悪の場合にはツイストが全て解放される問題や、一部解放されずにツイストが残留したとしても、短い周期や振幅での変調成分が解放され、結局は長い周期成分のツイストしか残っていないという場合が生じ、安定した品質を保証することが難しいという問題は残る。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、内部的要因によって生じるPMDと外部的要因によって生じるPMDの双方を低減することが可能な光ファイバ素線の製造方法および製造装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、上記課題を解決するべく種々実験と検討を重ねた結果、内部的要因と外部的要因の両者に対してPMDを低減するために、光ファイバ裸線のコア非円を大きくし、さらに光ファイバ裸線にスピンを印加することを見出した。そのため、光ファイバ母材を加熱溶融して線引し、光ファイバ裸線にコーティングした後の光ファイバ素線にねじれを加えて光ファイバ裸線にスピンを印加する光ファイバ紡糸技術を改良した。光ファイバ母材を加熱溶融して光ファイバ裸線を引き出す線引工程では、光ファイバ母材の加熱溶融部から光ファイバ裸線までの広い範囲で、ガラスは溶融あるいは軟化し、可塑性を有する。この可塑性を有するガラスにコア非円とスピンを印加するので、冷却によりコア非円とスピンが固定された光ファイバ素線を製造することができる。ガラスにコア非円を生じさせる際、同時にクラッド非円が生じてもよい。得られた光ファイバ素線は、テープ化、コード化、ケーブル化などの最終使用形態の製品とする過程や、そのあとの使用時において、仮に外力の印加や解放があっても、PMDの抑制効果が確実に保持される。
【0009】
線引後の光ファイバ裸線の外径を測定する外径測定器において、スピンによりねじれている光ファイバ裸線の外径を測定する場合、その外径測定値の変動幅(最大値と最小値の差)を光ファイバ裸線の外径(設定値または平均値)で除算することにより、簡易的にクラッド非円を求めることができる。このように、製造工程中にクラッド非円を簡易的に求めると、光ファイバ母材の位置の調整にフィードバックすることにより、所望の特性を有する光ファイバ素線を歩留りよく製造することができる。
【0010】
前記課題を解決するため、本発明は、光ファイバ母材を加熱溶融し、前記光ファイバ母材から光ファイバ裸線を引出し、次いで前記光ファイバ裸線をコーティング可能な温度になるまで冷却し、次いで前記光ファイバ裸線の表面にコーティング層を設け、その後、前記コーティング層を硬化させて光ファイバ素線とした後、前記光ファイバ素線を巻き取り装置にて巻き取る光ファイバ素線の製造方法であって、前記巻き取り装置にて巻き取る前の前記光ファイバ素線にねじれを加え、このねじれを前記光ファイバ素線から前記光ファイバ裸線を経て前記光ファイバ母材の加熱溶融部まで伝達させることにより、前記光ファイバ裸線の長手方向の周りで第1の方向のねじれと、前記第1の方向とは反対である第2の方向のねじれとが交互に存在するように、永久的に固化したねじれであるスピンを前記光ファイバ裸線に印加する工程と、前記光ファイバ母材から前記光ファイバ裸線を引出す線引工程にて前記光ファイバ裸線に0.3%〜1%の範囲内のコア非円を生じさせる工程とを有し、前記コア非円により生じた複屈折から換算されるビート長を基準として、前記スピンにおける一方向ねじれ長さを前記ビート長以下とし、さらに前記スピンにおける一方向ねじれ量を示すスピン振幅を30rad以上とすることを特徴とする光ファイバ素線の製造方法を提供する。
【0011】
前記コア非円により生じた複屈折を、10
−7〜10
−9の範囲内とすることが好ましい。
前記コア非円により生じた複屈折と、前記光ファイバ素線の使用用途において印加されることが想定される外部的要因による複屈折との比の値を、10
−2から10
+2の範囲内とすることが好ましい。
前記コア非円の大きさを0.3%〜1%の範囲内とするために前記光ファイバ裸線のクラッド非円を0.3%〜1%の範囲内とすることが好ましい。
【0012】
前記光ファイバ母材を加熱溶融する際に、加熱炉における前記光ファイバ母材の水平面内の位置を前記加熱炉の中心からずらすことで、前記クラッド非円の大きさを調整し、かつ、前記光ファイバ裸線の外径を測定する外径測定器において、前記スピンによりねじれている前記光ファイバ裸線の外径を測定し、その外径測定値の変動幅が所望のクラッド非円に該当する変動幅となっていることを確認することが好ましい。
【0013】
前記光ファイバ母材を加熱溶融する際に、加熱炉内のヒータ形状を水平面内において楕円にすることで、前記クラッド非円の大きさを調整し、かつ、前記光ファイバ裸線の外径を測定する外径測定器において、前記スピンによりねじれている前記光ファイバ裸線の外径を測定し、その外径測定値の変動幅が所望のクラッド非円に該当する変動幅となっていることを確認することが好ましい。
【0014】
前記光ファイバ母材を加熱溶融する際に、加熱炉内の断熱材形状を水平面内において周方向に不均一となるようにすることで、前記クラッド非円の大きさを調整し、かつ、前記光ファイバ裸線の外径を測定する外径測定器において、前記スピンによりねじれている前記光ファイバ裸線の外径を測定し、その外径測定値の変動幅が所望のクラッド非円に該当する変動幅となっていることを確認することが好ましい。
【0015】
前記光ファイバ母材を加熱溶融する際に、加熱炉における前記光ファイバ母材の水平面内の位置を前記加熱炉の中心からずらすこと、前記加熱炉内のヒータ形状を水平面内において楕円にすること、前記加熱炉内の断熱材形状を水平面内において周方向に不均一となるようにすることの中から選択される2以上の要因により前記クラッド非円の大きさを調整し、かつ、前記光ファイバ裸線の外径を測定する外径測定器において、前記スピンによりねじれている前記光ファイバ裸線の外径を測定し、その外径測定値の変動幅が所望のクラッド非円に該当する変動幅となっていることを確認することが好ましい。
【0016】
さらに、前記外径測定値の変動幅が所望のクラッド非円に該当する変動幅となるように前記光ファイバ母材の位置を調整することが好ましい。
【0017】
また、前記課題を解決するため、本発明は、前記光ファイバ素線の製造方法を行う光ファイバ素線の製造装置であって、光ファイバ母材を加熱溶融する加熱炉と、前記光ファイバ母材から引き出された光ファイバ裸線をコーティング可能な温度になるまで冷却する冷却装置と、前記冷却装置を経た前記光ファイバ裸線の表面にコーティング層を設ける被覆装置と、前記コーティング層を硬化させる硬化装置と、前記硬化装置を経た光ファイバ素線にねじれを印加するねじれ印加装置と、前記ねじれ印加装置を経た前記光ファイバ素線を巻き取る巻き取り装置と、を備え、前記光ファイバ素線に加えたねじれを前記光ファイバ素線から前記光ファイバ裸線を経て前記光ファイバ母材の加熱溶融部まで伝達させることにより、前記光ファイバ裸線の長手方向の周りで第1の方向のねじれと、前記第1の方向とは反対である第2の方向のねじれとが交互に存在するように、永久的に固化したねじれであるスピンを前記光ファイバ裸線に印加する手段と、前記光ファイバ母材から前記光ファイバ裸線を引出す線引工程にて前記光ファイバ裸線にコア非円を生じさせる手段とを有し、前記スピンを前記光ファイバ裸線に印加する手段は、前記コア非円により生じた複屈折から換算されるビート長を基準として、前記スピンにおける一方向ねじれ長さを前記ビート長以下とし、さらに前記スピンにおける一方向ねじれ量を示すスピン振幅を30rad以上とすることを特徴とする光ファイバ素線の製造装置を提供する。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、光ファイバ裸線にコア非円を生じさせ、光ファイバ裸線にスピンを生じさせることにより、内部的要因によって生じるPMDを低減するとともに、外部的要因によって生じるPMDを低減することが可能になる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、好適な実施形態に基づき、図面を参照して本発明を説明する。
図1に、ねじれの周期と振幅を説明するためのグラフを示す。ここで周期と振幅が定義されるねじれは、上述したスピン(永久的ねじれ)とツイスト(弾性的ねじれ)のいずれにも適用できる。
【0021】
ねじれ角の符号は、光ファイバの長手方向の周りの2方向(時計回りまたは反時計回り)のいずれか一方を正とし、他方を負とする。グラフの横軸における「長手方向距離」は、具体的な数値を示さないものの、一般にメートルオーダー(1m以上1km未満)である。縦軸は、右側にねじれ角[deg]の累積量(累積ねじれ角)を示し、左側に単位長さ当たりの変化量(Δねじれ角)を示す。累積ねじれ角を長手方向距離で微分すると、Δねじれ角が得られる。「L」で示す線は、Δねじれ角の長手方向変動を示し、「累積」で示す線は、累積ねじれ角の長手方向変動を示す。この場合、ねじれの周期は、累積ねじれ角が最小値をとる長手方向位置の周期であるが、累積ねじれ角が最大値をとる長手方向位置の周期としてもよい。また、ねじれの振幅は、累積ねじれ角の最大値(正の値)であるが、累積ねじれ角の最小値(負の値)の絶対値としてもよい。仮に、ねじれ角の符号を時計回りが正となるように決めた場合、累積ねじれ角が最大値をとる位置ではねじれが時計回りから反時計回りに反転し、累積ねじれ角が最小値をとる位置ではねじれが反時計回りから時計回りに反転することを意味する。つまり、光ファイバに印加されるねじれは、時計回りと反時計回りを交互に反転する。その結果、累積ねじれ角がゼロ(0)となる位置が長手方向に周期的に出現する。
【0022】
時計方向のねじれと反時計方向のねじれは、製造時にどちらが最初でもよく、どちらが最後であってもよい。光ファイバ裸線の長手方向の周りで、時計方向と反時計方向のいずれか一方を第1の方向とし、その反対を第2の方向とする。
【0023】
本発明において光ファイバ裸線にスピンを印加する場合のスピン周期およびスピン振幅は、それぞれ
図1に示す周期および振幅により説明される。ねじれ方向の時計回りと反時計回りのセットの長さをスピン周期と定義する。また、スピンにおける一方向ねじれ量を示すスピン振幅と定義する。
スピン周期は、スピンが第1の方向から第2の方向に反転した位置を起点として、次にスピンが第1の方向から第2の方向に反転する位置までの長さ(その間には、スピンが第2の方向から第1の方向に反転する位置が1回含まれる。)に相当する。
スピンにおける一方向ねじれ長さは、ねじれ方向が時計回りまたは反時計回りのいずれか一方向に連続する長さであって、スピン周期の1/2に相当する。
スピン(spin)が加えられた光ファイバは、一般にスパンファイバ(spun fiber)とも呼ばれる。
【0024】
図2に、コア非円とクラッド非円を説明するための光ファイバの断面図を示す。光ファイバ3の長手方向に垂直な断面において、コア1の周囲にクラッド2が設けられている。コア1とクラッド2とのみを有する光ファイバ3は光ファイバ裸線に分類されるが、光ファイバ裸線の周囲にコーティング層(図示せず)を有する光ファイバ素線においても、コア非円とクラッド非円は同様に定義される。
【0025】
コア1の断面形状が楕円である場合、コア非円(%)は、コア1の短径aと長径bを用いて、次の式により定義される。
【0026】
コア非円(%)=(b−a)/b×100
【0027】
また、クラッド2の断面形状が楕円である場合、クラッド非円(%)は、クラッド2の短径cと長径dを用いて、次の式により定義される。
【0028】
クラッド非円(%)=(d−c)/d×100
【0029】
断面形状が真円である場合、非円(コア非円・クラッド非円)は0%である。断面形状が真円でも楕円でもない場合、より一般化して、次のように定義することができる(JIS C 6820:光ファイバ通則にいう、コア非円率およびクラッド非円率と同様)。
【0030】
コア非円(%):コア領域の外周を最もよく近似する円の直径をコア径d
0とし、当該円の中心をコア中心とするとき、コア中心に中心をもち、コア領域に外接する円の直径d
1と、同じくコア中心に中心をもち、コア領域内に内含される最大の円の直径d
2との差を、コア径d
0に対する百分率で表した値。すなわち、(d
1−d
2)/d
0×100
【0031】
クラッド非円(%):クラッド表面を最もよく近似する円の直径をクラッド径D
0とし、当該円の中心をクラッド中心とするとき、クラッド中心に中心をもち、クラッド表面に外接する円の直径D
1と、同じくクラッド中心に中心をもち、クラッド表面に内含される最大の円の直径D
2との差を、クラッド径D
0に対する百分率で表した値。すなわち、(D
1−D
2)/D
0×100
【0032】
図3に、光ファイバ素線の製造装置の一例を模式的に示す。この光ファイバ製造装置10は、光ファイバ母材11を加熱溶融する加熱炉12と、光ファイバ母材11から引き出された光ファイバ裸線21をコーティング可能な温度になるまで冷却する冷却装置13と、冷却装置13を経た光ファイバ裸線22の表面にコーティング層(図示せず)を設ける被覆装置14と、被覆装置14を経た光ファイバ裸線23の表面のコーティング層を硬化させる硬化装置15と、硬化装置15を経た光ファイバ素線24にねじれを印加するねじれ印加装置16を備える。
【0033】
光ファイバ母材11は、石英系ガラスから構成され、光ファイバ3のコア1とクラッド2(
図2を参照)となる構造(屈折率分布)を有する。石英系ガラスとしては、ゲルマニウム、フッ素等のドーパントがドープされた石英ガラスや、ドーパントがドープされていない純石英ガラスが挙げられる。
【0034】
冷却装置13は、風冷などにより光ファイバ裸線21を強制冷却する装置である。冷却装置13に流す気体は、特に限定されないが、空気、窒素、アルゴン、ヘリウムなどが挙げられる。ただし、冷却装置13を省略して自然冷却によることもできる。
【0035】
コーティング層は、被覆装置14にて紫外線硬化性樹脂や熱硬化性樹脂など、液状の硬化性樹脂を光ファイバ裸線22の表面に塗布した後、硬化装置15にて紫外線や熱などにより硬化させることにより形成される。硬化装置15による硬化方法は、被覆装置14より塗布されたコーティング層の材料に応じて選択される。光ファイバ裸線22の表面に設けられるコーティング層の数は、2層以上であってもよい。2層以上のコーティング層を形成するため、被覆装置14を光ファイバ製造装置10の2箇所以上に設けてもよいし、2層以上の被覆を一度に塗布できる被覆装置14を採用してもよい。また、一次被覆用の被覆装置と硬化装置を上方に設けて、その下方に二次被覆用の被覆装置と硬化装置を設けてもよい。
図3では、被覆装置14を1箇所に設け、その下方に硬化装置15を3個連続して1箇所に設けている。
【0036】
ねじれ印加装置16は、巻き取り装置にて巻き取る前の光ファイバ素線24にねじれを印加する装置である。光ファイバ母材11からねじれ印加装置16までを直線上に設置し、ねじれ印加装置16によるねじれを光ファイバ素線24から光ファイバ裸線23,22,21を経て光ファイバ母材11の加熱溶融部まで、
図1に示すねじれの伝達方向18に従って伝達させることにより、光ファイバ母材11から引き出されて溶融状態あるいは軟化状態にある光ファイバ裸線21にねじれを印加することができる。ねじれを印加された光ファイバ裸線21が冷却されると、ねじれがスピンとして永久的に固化される。
【0037】
ねじれ印加装置16は、スピンが、光ファイバ裸線の長手方向の周りで第1の方向のねじれと、前記第1の方向とは反対である第2の方向のねじれとが交互に存在するように、周期的にねじれの方向を反転させて、光ファイバ素線24にねじれを印加する。ねじれ印加装置16の構成は、特に限定されず、ローラなどを用いた公知のねじれ印加装置を採用することができる。
【0038】
加熱炉12の下方には、ねじれ印加装置16を経た光ファイバ素線25の進行方向を変えるガイドプーリ17が設けられている。ガイドプーリ17より光ファイバの走行方向20の先における光ファイバ素線25の経路上には、引き取り装置、ダンサープーリ、ガイドプーリなど(いずれも図示せず)を経て、最終的に光ファイバ素線25を巻き取るための巻き取り装置(図示せず)が設けられる。
【0039】
本発明では、光ファイバ母材11から光ファイバ裸線21を引出す線引工程にて光ファイバ裸線21にコア非円を生じさせ、このコア非円により生じた複屈折から換算されるビート長を基準として、一方向ねじれ長さ(スピン周期の1/2)がビート長以下となり、さらにスピン振幅が30rad以上となるように、スピンを印加する。これにより、内部的要因によって生じるPMDと外部的要因によって生じるPMDの双方を低減することができる。
【0040】
光ファイバ素線に対して側面からの圧力や曲げなどの外部的要因により生じる一方向の複屈折が生じた場合、PMDが大きくなる。一般的には、光ファイバ素線に対しツイストが印加されていると弾性応力により生じる偏波面の回転(旋光)を利用し、PMDを低減させることができる。しかしながら、ツイストでは上述したねじれが変化する(戻る)欠点があるため、ここではツイストではなくスピンを印加する。
【0041】
ただし、スピンが印加された光ファイバ素線は、光ファイバ素線の使用用途において外部的要因により生じることが想定される複屈折と同程度の、内部的要因により生じる複屈折をもつ必要がある。この内部的要因により生じる複屈折を大きくするために、光ファイバ素線のクラッド非円を大きくする。光ファイバ素線のクラッド非円を大きくすることで、同時に光ファイバ素線の内側にあるコアにおいてコア非円も大きくなる。このコア非円の生じた光ファイバ素線にスピンを印加することで、内部的要因により生じている複屈折軸がねじれる。この内部的要因により生じている複屈折軸のスピンによるねじれと外部的要因により生じている一方向の複屈折軸が合成され、結果として長手方向での複屈折の平均化や、偏波モード結合が増加することになり、PMDを小さく維持することができる。
【0042】
光ファイバ裸線のコア非円の大きさは、コーティングに使用している樹脂の硬化後のヤング率や、想定している外部的要因により生じている複屈折の大きさにより最適値が変化するが、鋭意検討した結果、およそコア非円を0.3%〜1%の範囲内とすることで、一般的なテープ(リボン)化やケーブル化により想定される外部的要因により生じる複屈折と同程度の大きさとなる。光ファイバ裸線のコア非円の大きさを0.3%〜1%の範囲内とするために、光ファイバ裸線のクラッド非円を0.3%〜1%の範囲内とすることが好ましい。一般的にコア非円による複屈折は10
−8オーダーとすると、その同程度の外部的要因による複屈折は、10
−7〜10
−9程度と定義する。例えば、コア非円により生じた複屈折を、10
−7〜10
−9の範囲内とすることが好ましい。コア非円により生じた複屈折B
inと外部的要因による複屈折B
exとの比(B
in/B
ex)が、10
−2から10
+2程度であることが好ましく、10
−1から10
+1程度であることがより好ましい。
【0043】
このように内部的要因と外部的要因による複屈折が同程度となることで、外部的要因により生じた複屈折軸と内部的要因により生じて、スピンによりねじれている複屈折軸が合成されることにより、光ファイバ長手方向で実質的に複屈折が平均化されたのと同じことになり、また複屈折軸が長手方向に変わることで偏波モード結合が増加することになり、PMDを小さく維持することができる。
【0044】
コア非円が0.3%未満の場合、内部的要因の複屈折が小さくなる。結果として、外部的要因の複屈折も、小さな内部的要因の複屈折と同程度の、小さい範囲でしか対応できず、一般的なテープ化やケーブル化によりPMDが増加してしまう。
また、コア非円が1%より大きい場合、内部的要因の複屈折が大きすぎるために、内部的要因により生じるPMDを低減するために必要なスピンを得るためには、スピンプロファイルはスピン周期をより短く、スピン振幅をより大きくする必要がある。そうすると、製造工程において光ファイバを短い周期でたくさん捻じる必要が出てくるので、光ファイバ線引における生産性低下を招いたり、歩留り悪化を招いたりする。このため、過度に大きなコア非円を生じさせることは望ましくない。
【0045】
コア非円を生じさせる際、同時にクラッド非円が生じてもよいので、両者を総称して、単に「非円」という。非円を制御する方法は、光ファイバ母材の作製時にあらかじめ非円を生じさせる方法と、線引時に非円を生じさせながら線引する方法がある。その方法は、特に限定されるわけではないが、光ファイバの製造中の非円が最終的な光ファイバ素線の非円になること、および光ファイバの製造中に非円の制御が可能である点から、線引時に非円を生じさせる方法が好ましい。また、非円を生じさせた光ファイバ母材の線引時にさらに非円を生じさせること(調整すること)も可能である。
【0046】
光ファイバ母材の作製時に非円を生じさせる方法としては、次が挙げられる。
(A)CVD法で光ファイバ母材を作製する場合は、周方向で肉厚の異なる石英管を使用して、石英管内にコアの一部となるドーパントを添加したガラス層を形成してコラプスする(潰す)と石英管の肉厚の変動に応じて非円が生じる。また、内側にガラス層を形成した石英管の潰し方によっても、コラプス(潰れ)が周方向均一にはならないため、非円を生じさせることができる。
(B)OVD法で光ファイバ母材を作製する場合は、中心に使用するターゲットに非円を有するものを使用して、非円を有するターゲットの周囲にガラスを堆積(デポジション)し、その後ターゲットを引き抜いた後にデポジションした管状のガラスを潰すと、非円を生じさせることができる。また、CVD法と同様に、管状ガラスの潰し方によっても非円を生じさせることができる。
(C)VAD法では、その方法のみで非円を生じさせることが難しいため、光ファイバ母材の作製時の時々で行われる延伸などのプロセスにより非円を大きくすることができる。光ファイバ母材を延伸する時に非円を生じさせる方法は、下記に示す線引時に非円を生じさせるプロセスと同等であるため、詳細は後述する。
【0047】
光ファイバ裸線の線引時に非円を生じさせる方法としては、次が挙げられる。これらの2以上の方法を併用して、2以上の要因により、光ファイバ裸線の非円を生じさせることもできる。
【0048】
(a)
図4に示すように、加熱炉32に対して光ファイバ母材31の水平面内の位置を動かす(加熱炉32の中心32cからずらす)ことにより、光ファイバ母材31に印加される周方向の熱分布を偏らせることができる。それにより線引された光ファイバ裸線に非円を生じさせることができる。非円の大きさは、光ファイバ母材31の中心31cを加熱炉32の中心32cからずらす量(ずらし量)により調整することができる。
(b)
図5に示すように、水平面内において加熱炉内部のヒータ42の形状に非円を生じさせることにより、周方向の熱分布に偏りを作った状態で光ファイバ母材41を加熱する。それにより線引された光ファイバ裸線に非円を生じさせることができる。より具体的には、線引時に用いるヒータ42の断面形状が楕円になるように設計する。
(c)
図6に示すように、水平面内において加熱炉52の内部の断熱材53の形状を周方向に不均一とすることにより、周方向に熱分布に偏りを作った状態で光ファイバ母材51を加熱する。それにより線引された光ファイバ裸線に非円を生じさせることができる。より具体的には、光ファイバ母材の外周から断熱材までの距離を調整したり、周方向に断熱効率の異なる断熱材を使用するように設計する。
図6では、加熱炉52の内部2箇所に断熱材53を設けた例を示すが、この例に限らず、断熱材の個数や配置を種々に設計することができる。
【0049】
線引された光ファイバ裸線における非円の大きさは、スピン印加により回転しながらねじれている線引後の光ファイバ裸線の外径を外径測定器で測定し、長手方向に沿って光ファイバ裸線の外径の変動の大きさ(変動幅)を測定することにより、製造中に確認することができる。外径測定の対象は、コーティング層を設ける前の光ファイバ裸線であれば、冷却前の光ファイバ裸線でも、冷却後の光ファイバ裸線でもよい。光ファイバ裸線の線引時に非円を生じさせる方法を採用した場合、製造中に確認した非円の大きさが目標の範囲から外れる(あるいは外れようとしている)場合には、水平面内において加熱炉内の光ファイバ母材の位置を制御することで非円の大きさを調整することができる。
【0050】
印加するスピンプロファイルは、内部的要因により生じるPMDを確実に低減させる必要がある。そのため、コア非円により生じた複屈折から換算されるビート長を基準として、一方向ねじれ長さ(スピン周期の半分)がビート長以下となるようにし、また、スピン振幅を30rad(およそ5回転)以上とする。このようにすることで、内部的要因により生じるPMDを小さく維持しつつ、さらに外部的要因により生じたPMDも両者(内部的要因と外部的要因)の複屈折が合成された結果、複屈折の平均化と偏波モード結合が増加することによりPMDを小さく維持することができる。
【0051】
コア非円により生じた複屈折から換算されるビート長は、コア非円を有するが、スピンが印加されていない光ファイバの複屈折から、次の式によって求められる。波長[m]は、光ファイバで使用される光の真空中の波長である。
【0053】
スピンが印加されていない光ファイバの複屈折は、スピンを印加しないこと以外は同様の製造条件により製造した光ファイバ素線の複屈折を測定することで求めることができる。コア非円率から複屈折への関係式が有限要素法などにより得られる場合は、製造した光ファイバ素線のコア非円を測定して、これを複屈折に換算する方法によることもできる。
光ファイバの伝送波長が広い場合、どの波長でも一方向ねじれ長さ(スピン周期の1/2)がビート長以下となる条件を満足するように、スピン周期を設定することが望ましい。
【0054】
以上、本発明を好適な実施形態に基づいて説明してきたが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。
光ファイバの伝送波長は特に限定されないが、Oバンド(1260〜1360nm)、Eバンド(1360〜1460nm)、Cバンド(1530〜1565nm)、Lバンド(1565〜1625nm)などの波長帯が挙げられる。
【実施例】
【0055】
以下、実施例をもって本発明を具体的に説明する。
【0056】
実施例1〜3および比較例1,2において共通する光ファイバ素線の製造方法は、次のとおりである。
図3に示した光ファイバ製造装置10にて、シングルモード光ファイバ用の光ファイバ母材11を加熱炉12にて加熱溶融してφ125μmの光ファイバ裸線21を引出し、外径測定器(図示せず)にて光ファイバ外径を測定した。次いで、冷却装置13にてコーティングに適切な温度まで光ファイバ裸線を冷却した後、被覆装置14を使用して光ファイバ裸線に紫外線硬化樹脂をコーティングし、UV照射装置を有する硬化装置15にてコーティング層を硬化した。次いで、ねじれ印加装置16により光ファイバ素線24に捻じりトルクを加えた後、光ファイバ素線を引き取り、巻き取り装置(図示せず)にて光ファイバ素線を巻き取った。
ねじれ印加装置16により光ファイバ素線24に加えられたねじりトルクは、光ファイバ母材11側(一般的には光ファイバ製造装置10の上方)へ伝搬し、加熱炉12の内部における光ファイバ母材11の加熱溶融部がねじられ、光ファイバ裸線21にスピンが印加された。
【0057】
定常時の線引条件は、線速2500m/min、紡糸張力3Nである。スピンが印加されていない時の光ファイバ外径の変動幅は、およそφ125μm±0.1μmであった。
ここで、実施例1〜3および比較例1,2における「光ファイバ外径」とは、線引後で冷却装置13を通る前の光ファイバ裸線21の外径を意味する。
【0058】
別途有限要素法にて解析したコア非円率から複屈折への関係式と、複屈折からビート長への換算式は、次のとおりである。コア非円率から複屈折への関係式に含まれる係数は、製造装置などの製造条件が共通する場合には同じ値を使用できるが、そうでない場合は、個別に求める必要がある。波長は、1.55×10
−6[m]とした。
【0059】
複屈折=7.369×10
−8×コア非円率[%]
ビート長[m]=波長[m]÷複屈折
【0060】
実施例1(ルースチューブケーブルでの使用を想定した光ファイバ素線の製造)
実施例1では、加熱炉に対する光ファイバ母材の位置を調整することで、スピン印加時の光ファイバ外径の変動幅がおよそφ125μm±0.2μmになるように調整した。このときの光ファイバ母材の中心と、加熱炉の中心との間の位置のずれは約10mmであった。この光ファイバ外径の変動幅からおよそクラッド非円(≒コア非円)は0.3%程度に相当する。簡易的に光ファイバ外径の変動幅/光ファイバ外径で非円を算出すると、0.4μm/125μm=0.32%である。上述の有限要素法にて解析した関係式と複屈折からビート長への換算式を使用すると、コア非円0.3%のビート長は、約70mと推定できるため、スピン条件は、スピン周期を30m、スピン振幅を30rad(つまり約3mで1回転)とした。この場合、一方向ねじれ長さ(スピン周期の1/2)は、ビート長以下である。また、コア非円により生じた複屈折は、2.2×10
−8程度と推定できる。
製造した光ファイバ素線のクラッド非円およびコア非円を測定したところ、両方とも0.3%であった。また、この光ファイバ素線を使用してルースチューブケーブルを試作し、PMDを測定したところ、0.04ps/√kmであり、十分に小さかった。
【0061】
実施例2(テープスロットケーブルでの使用を想定した光ファイバ素線の製造)
実施例2では、加熱炉に使用したヒータ形状を楕円形状とすることで、スピン印加時の光ファイバ外径の変動幅がおよそφ125μm±0.6μmになるようにヒータ形状を調整した。結果としてヒータの楕円形状の扁平率、すなわち、(長半径−短半径)/長半径は、5%であった。この光ファイバ外径の変動幅からおよそクラッド非円(≒コア非円)は1%程度に相当する。簡易的に光ファイバ外径の変動幅/光ファイバ外径で非円を算出すると、1.2μm/125μm=0.96%である。上述の有限要素法にて解析した関係式と複屈折からビート長への換算式を使用すると、コア非円1%のビート長は、約21mと推定できるため、スピン条件は、スピン周期を40m、スピン振幅を60rad(つまり約2mで1回転)とした。この場合、一方向ねじれ長さ(スピン周期の1/2)は、ビート長以下である。また、コア非円により生じた複屈折は、7.4×10
−8程度と推定できる。
製造した光ファイバ素線のクラッド非円およびコア非円を測定したところ、両方とも1%であった。また、この光ファイバ素線を使用してテープスロットケーブルを試作し、PMDを測定したところ、0.05ps/√kmであり、十分に小さかった。
【0062】
実施例3(外部的要因なし:光ファイバ素線単体)
実施例3では、加熱炉に使用した断熱材形状を周方向不均一とすることで、スピン印加時の光ファイバ外径の変動幅がおよそφ125μm±0.3μmになるように断熱材形状を調整した。この光ファイバ外径の変動幅からおよそクラッド非円(≒コア非円)は0.5%程度に相当する。簡易的に光ファイバ外径の変動幅/光ファイバ外径で非円を算出すると、0.6μm/125μm=0.48%である。上述の有限要素法にて解析した関係式と複屈折からビート長への換算式を使用すると、コア非円0.5%のビート長は、約42mと推定できるため、スピン条件は、スピン周期を20m、スピン振幅を30rad(つまり約2mで1回転)とした。この場合、一方向ねじれ長さ(スピン周期の1/2)は、ビート長以下である。また、コア非円により生じた複屈折は、3.7×10
−8程度と推定できる。
製造した光ファイバ素線のクラッド非円およびコア非円を測定したところ、両方とも0.5%であった。また、この光ファイバ素線のリール巻き状態でのPMDを測定したところ、0.03ps/√kmであり、十分に小さかった。
【0063】
比較例1(実施例1に対する比較例)
比較例1では、加熱炉に対する光ファイバ母材の位置を調整することで、スピン印加時の光ファイバ外径の変動幅がおよそφ125μm±0.1μmになるように調整した。このときの光ファイバ母材の中心と、加熱炉の中心との間で、位置のずれはほぼなかった。この光ファイバ外径の変動幅からおよそクラッド非円(≒コア非円)は0.15%程度に相当する。簡易的に光ファイバ外径の変動幅/光ファイバ外径で非円を算出すると、0.2μm/125μm=0.16%である。上述の有限要素法にて解析した関係式と複屈折からビート長への換算式を使用すると、コア非円0.15%のビート長は、約140mと推定できるため、スピン条件は、スピン周期を30m、スピン振幅を30rad(つまり約3mで1回転)とした。この場合、一方向ねじれ長さ(スピン周期の1/2)は、ビート長以下である。また、コア非円により生じた複屈折は、1.1×10
−8程度と推定できる。
【0064】
製造した光ファイバ素線のクラッド非円およびコア非円を測定したところ、両方とも0.15%であった。また、この光ファイバ素線を使用してルースチューブケーブルを試作し、PMDを測定したところ、0.10ps/√kmであり、実施例1より大きかった。
これは、内部的要因による複屈折よりルースチューブにより生じる外部的要因による複屈折の方が10倍より大きかったために、外部的要因による複屈折の影響が大きく、内部的要因による複屈折軸のねじれの影響が生かされなかったことにより、PMD低減効果が少なかったことが原因であると考えられる。
【0065】
比較例2(実施例2に対する比較例)
比較例2では、加熱炉に使用したヒータ形状を楕円形状とすることで、スピン印加時の光ファイバ外径の変動幅がおよそφ125μm±1μmになるようにヒータ形状を調整した。結果としてヒータの楕円形状の扁平率、すなわち、(長半径−短半径)/長半径は、10%であった。この光ファイバ外径の変動幅からおよそクラッド非円(≒コア非円)は1.6%程度に相当する。簡易的に光ファイバ外径の変動幅/光ファイバ外径で非円を算出すると、2μm/125μm=1.6%である。上述の有限要素法にて解析した関係式と複屈折からビート長への換算式を使用すると、コア非円1.6%のビート長は、約13mと推定できるため、スピン条件は、スピン周期を40m、スピン振幅を60rad(つまり約2mで1回転)とした。この場合、一方向ねじれ長さ(スピン周期の1/2)は、ビート長より大きい。また、コア非円により生じた複屈折は、1.2×10
−7程度と推定できる。
【0066】
製造した光ファイバ素線のクラッド非円およびコア非円を測定したところ、両方とも1.6%であった。また、この光ファイバ素線を使用してテープスロットケーブルを試作し、PMDを測定したところ、0.15ps/√kmであり、実施例2より大きかった。
これは、内部的要因による複屈折よりテープスロットケーブルにより生じる外部的要因による複屈折の方が10倍未満であり、内部的要因による複屈折の影響が大きく、さらに、スピン周期が長いためにPMD低減効果が少なかったことが原因であると考えられる。