特許第5903194号(P5903194)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5903194
(24)【登録日】2016年3月18日
(45)【発行日】2016年4月13日
(54)【発明の名称】緊張材切断装置
(51)【国際特許分類】
   B23D 23/00 20060101AFI20160331BHJP
   E04G 21/12 20060101ALI20160331BHJP
【FI】
   B23D23/00 A
   E04G21/12 104F
【請求項の数】15
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2015-525798(P2015-525798)
(86)(22)【出願日】2013年7月8日
(65)【公表番号】特表2015-530267(P2015-530267A)
(43)【公表日】2015年10月15日
(86)【国際出願番号】EP2013064409
(87)【国際公開番号】WO2014023499
(87)【国際公開日】20140213
【審査請求日】2015年4月6日
(31)【優先権主張番号】102012214010.7
(32)【優先日】2012年8月7日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】512197272
【氏名又は名称】ヴォッベン プロパティーズ ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】WOBBEN PROPERTIES GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100080816
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 朝道
(74)【代理人】
【識別番号】100098648
【弁理士】
【氏名又は名称】内田 潔人
(74)【代理人】
【識別番号】100119415
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 充
(72)【発明者】
【氏名】ゲプフェルト、ハインリッヒ
(72)【発明者】
【氏名】グラフ、クリストフ
【審査官】 山本 忠博
(56)【参考文献】
【文献】 登録実用新案第3162042(JP,U)
【文献】 特開平2−224912(JP,A)
【文献】 英国特許出願公開第1331939(GB,A)
【文献】 実開昭50−64287(JP,U)
【文献】 特開平4−82614(JP,A)
【文献】 特開平10−180532(JP,A)
【文献】 米国特許第4464963(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23D 23/00−23/04,
29/00−29/02,
15/00−15/14,
E04G 21/12,
B21F 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スチール製の緊張材のための緊張材切断装置(1)であって、当該緊張材切断装置は、複数の緊張材から成る1つの束を1つの作動工程で切断するように構成されており、
・ケーシング(3)と、
・前記ケーシング内に配置された切断刃本体(29)と、
・前記ケーシングを通って延在する複数の緊張材の数に相当する複数の貫通開口部(13)と、を備え、
前記貫通開口部は、前記切断刃本体(29)を受け入れるように構成された1つのスリット(23)によってそれぞれ貫通されており、
前記切断刃本体は、1つまたは複数の切断エッジ(43)を有し、かつ前記貫通開口部に対して相対的に1つの切断方向に前記ケーシング内で、前記切断エッジ(単数または複数)が前記貫通開口部を完全に横断するように可動に駆動可能である、緊張材切断装置。
【請求項2】
複数の前記貫通開口部は、1つの所定の円周部(26)に沿って前記ケーシング内に均等に配置されている、請求項1に記載の緊張材切断装置(1)。
【請求項3】
前記切断刃本体は、複数の前記貫通開口部(13a,b,c)の各々に対して、1つの切断エッジ(43a,b,c)を備える別個のブレード(48)を有する、請求項1または2に記載の緊張材切断装置(1)。
【請求項4】
複数の前記切断エッジ(43a,b,c)は切断方向に互いに相対的に、前記切断刃本体(29)が運動する際に複数の貫通開口部(13a,b,c)が、当該複数の貫通開口部の総数よりも少ない数の切断エッジ(43a,b,c)によって同時に横断されるようにオフセットされている、請求項3に記載の緊張材切断装置(1)。
【請求項5】
複数の前記切断エッジは切断方向に互いに相対的に、前記切断刃本体が切断方向に運動する際に複数の第1の貫通開口部が前記切断エッジにより最初に横断され、前記第1の貫通開口部が直径の50%までまたはそれ以上に切断方向で横断されると直ちに、複数の第2の貫通開口部が切断エッジにより横断されるように、オフセットされている、請求項4に記載の緊張材切断装置(1)。
【請求項6】
複数の前記切断エッジは切断方向に互いに相対的に、前記切断刃本体の運動の際に、前記第2の貫通開口部が直径の50%まで、またはそれを越えて切断方向で横断されると直ちに、複数の第3の貫通開口部が前記切断エッジにより横断されるようにオフセットされている、請求項1から5のいずれか一項に記載の緊張材切断装置(1)。
【請求項7】
前記貫通開口部は、これらを貫くスリットの両側に、当該貫通開口部を通って貫通案内される緊張材を直線状に案内するための案内部分を有する、請求項1から6のいずれか一項に記載の緊張材切断装置(1)。
【請求項8】
前記切断刃本体は、切断方向に並進的に、かつ遊びなしで前記スリット内を可動に案内される、請求項1から7のいずれか一項に記載の緊張材切断装置(1)。
【請求項9】
前記切断刃本体は、ネジ接続部によって駆動手段(35)と結合されている、請求項8に記載の緊張材切断装置(1)。
【請求項10】
前記ケーシングは、切断方向にある1つの側に1つの開口部を有し、該開口部を通って前記切断刃本体は切断運動の際に部分的に運動することができ、前記開口部を通して前記切断刃本体は、前記駆動手段から分離された状態で取り出すことができる、請求項9に記載の緊張材切断装置(1)。
【請求項11】
前記ネジ接続部はネジパターン(41)を規定し、前記ケーシング内には、前記ネジパターンに対応する通路孔部パターンが形成されており、該通路孔部パターンは、前記切断刃本体が前記ケーシング内で所定の位置に移動されることにより、前記ネジパターンに対して整列して配向することができる、請求項1から10のいずれか一項に記載の緊張材切断装置(1)。
【請求項12】
前記スリット(23)内に前記切断刃本体(29)に対して隣接して配置されており、前記切断刃本体を案内するように構成されたスライドレールを有する、請求項1から11のいずれか一項に記載の緊張材切断装置(1)。
【請求項13】
前記切断刃本体(29)は1つの切断プレート(47)を有し、該切断プレートは、1つの上側(53)と当該上側(53)に対して平行な下側(55)とを有し、前記切断エッジ(単数または複数)(43a,b,c)は、それぞれ1つの切欠部(49a,b,c)内に配置されており、当該切欠部は、それぞれ前記切断刃本体(29)を貫いて延在しており、前記切断エッジ(単数または複数)は前記上側に対して前記下側に対するよりも小さな間隔を有するか、または前記下側に対して前記上側に対するよりも小さな間隔を有する、請求項1から12のいずれか一項に記載の緊張材切断装置(1)。
【請求項14】
前記緊張材のための前記貫通開口部と前記切断刃本体を受け入れるためのスリットとは、前記ケーシング(3)の第1の部分(5)内に設けられており、該第1の部分は、連結部によって、前記ケーシング(3)の第2の部分(7)から取り外すことができ、かつ当該第2の部分に連結することができる、請求項1から13のいずれか一項に記載の緊張材切断装置(1)。
【請求項15】
複数の緊張材を1つの作動工程で切断するように構成された、スチール製の緊張材のための緊張材切断装置(1)用の切断刃本体(29)であって、前記切断刃本体は、請求項1から14のいずれか一項による緊張材切断装置(1)のケーシング内に格納されるよう構成されており、1つまたは複数の切断エッジ(43a,b,c)を有し、複数の貫通開口部(13)に対して相対的に前記ケーシング(3)内で1つの切断方向に、前記切断エッジ(単数または複数)が前記貫通開口部を完全に横断するように可動に駆動可能である、切断刃本体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スチール製の緊張材(Spannlitzen)、例えば風力発電装置のタワーのようなとりわけプレストレストコンクリート建造物の緊張材のための緊張材切断装置に関するものであり、この装置は、複数の緊張材からなる1つの束を1つの作動工程で切断するように構成されている。
【背景技術】
【0002】
とりわけプレストレストコンクリートタワーの領域において、プレストレストコンクリート建造物を補強するために緊張材が使用される。この緊張材は、引張力をもたらすことにより緊張(Verspannung)を生じさせ、建造物構造の全体的補強に作用する。風力発電装置の例では、この緊張材が、緊張された状態で構造物と固定的に接続される。風力発電装置においてこの固定的な接続は、例えば緊張材が1つの束にまとめられ、基礎部にアンカリングされる(verankert werden)ことによって達成される。このアンカリングは、好ましくは、緊張された緊張材が引張アンカによってタワー地下室の天井に固定されることによって行われる。この固定は、典型的には、タワー地下室での作業の際に緊張材が地下室天井にある対応の開口部を通して貫通案内され、液圧式押し込み装置により緊張され、そして特別のアンカによって天井に対して固定されることによって行われる。この緊張および固定工程の後には、通常は、地下室天井および固定アンカから地下室へ垂れ下がる緊張材の多少の長さの余剰部が存在する。相変わらず束として存在するこれらの緊張材は、作業の安全性の理由から、またタワー地下室へのより良いアクセスのために除去しなければならない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】GB 1 331 939 A
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
緊張材は、その機械的要求に基づき、高張力材料、とりわけスチールないし合金鋼から成るから、緊張材の切断は、技術的要求度が高い。これまでは、緊張材束を切断グラインダによって切断する必要があった。この場合、過度に大きな火花が形成され、騒音が発生する。これは従来技術において、欠点として受け取られる。
【0005】
撚材(ないしワイヤ、Litzen)を「挟み切る(Abkneifen)」、すなわち剪断して分離するように構成された従来の撚材切断機を使用することは、ここに存在する撚材束の場合、簡単には可能でない。なぜならこの撚材切断機は、個々の撚材をそれぞれ切断できるだけだからである。このような装置を使用するためには、撚材切断機を宛がうことができるようにするため、撚材束を解きほぐし、束の個々の撚材を互いに分離する必要がある。これには2つのさらなる欠点がある。1つには、撚材のフレキシビリティが制限されているため、個々の撚材を所要のように分離するためには、撚材束のアンカに対して比較的に大きな間隔が必要なことである。もう1つには、全ての撚材を同じ高さで、ないし実質的に同じ断面で切断することが事実上不可能なことである。そのため、エッジの尖った多数のバリがタワー地下室の種々の高さに発生する。分離された緊張材を腐食防止のためにシーリング(Versiegeln)することも、これによって同様に困難となる。シーリングが保護キャップの装着によって行われる場合、これも往々にして不可能である。
【0006】
このような作動工程には時間が掛かることが、さらなる欠点として受け取られる。
【0007】
ここから出発して本発明の基礎とする課題は、前に挙げた欠点を可及的に十分に緩和した緊張材切断装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、この基礎とする課題を冒頭に述べた形式の緊張材切断装置において、この緊張材切断装置が、ケーシングと、このケーシング内に配置された切断刃本体と、前記ケーシングを通って伸張する複数の緊張材の数に相当する複数の貫通開口部と、を有し、前記貫通開口部は、前記切断刃本体を受け入れるように構成された1つのスリットによってそれぞれ貫通されており、前記切断刃本体は、1つまたは複数の切断エッジを有し、かつ前記貫通開口部に対して相対的に1つの切断方向に前記ケーシング内で、前記切断エッジ(単数または複数)が前記貫通開口部を完全に横断するよう可動に駆動可能である、ことによって解決される。
本発明では以下の形態が可能である。
(形態1)スチール製の緊張材、とりわけ風力発電装置の例えばタワーのようなプレストレストコンクリート建造物の緊張材、のための緊張材切断装置であって、当該緊張材切断装置は、複数の緊張材から成る1つの束を1つの作動工程で切断するように構成されており、・ケーシングと、・前記ケーシング内に配置された切断刃本体と、・前記ケーシングを通って延在する複数の緊張材の数に相当する複数の貫通開口部と、を備え、前記貫通開口部は、前記切断刃本体を受け入れるように構成された1つのスリットによってそれぞれ貫通されており、前記切断刃本体は、1つまたは複数の切断エッジを有し、かつ前記貫通開口部に対して相対的に1つの切断方向に前記ケーシング内で、前記切断エッジ(単数または複数)が前記貫通開口部を完全に横断するように可動に駆動可能である、緊張材切断装置が提供される。
(形態2)複数の前記貫通開口部は、1つの所定の円周部に沿って前記ケーシング内に均等に配置されていることが好ましい。
(形態3)前記切断刃本体は、複数の前記貫通開口部の各々に対して、1つの切断エッジを備える別個のブレードを有することが好ましい。
(形態4)複数の前記切断エッジは切断方向に互いに相対的に、前記切断刃本体が運動する際に複数の貫通開口部が、当該複数の貫通開口部の総数よりも少ない数の切断エッジによって同時に横断されるようにオフセットされていることが好ましい。
(形態5)複数の前記切断エッジは切断方向に互いに相対的に、前記切断刃本体が切断方向に運動する際に複数の第1の貫通開口部が前記切断エッジにより最初に横断され、前記第1の貫通開口部が直径の50%までまたはそれ以上に切断方向で横断されると直ちに、複数の第2の貫通開口部が切断エッジにより横断されるように、オフセットされていることが好ましい。
(形態6)複数の前記切断エッジは切断方向に互いに相対的に、前記切断刃本体の運動の際に、前記第2の貫通開口部が直径の50%まで、またはそれを越えて切断方向で横断されると直ちに、複数の第3の貫通開口部が前記切断エッジにより横断されるようにオフセットされていることが好ましい。
(形態7)前記貫通開口部は、これらを貫くスリットの両側に、当該貫通開口部を通って貫通案内される緊張材を直線状に案内するための案内部分を有することが好ましい。
(形態8)前記切断刃本体は、切断方向に並進的に、かつ実質的に遊びなしで前記スリット内を可動に案内されることが好ましい。
(形態9)前記切断刃本体は、ネジ接続部によって駆動手段と結合されていることが好ましい。
(形態10)前記ケーシングは、切断方向にある1つの側に好ましくはスリット状の1つの開口部を有し、該開口部を通って前記切断刃本体は切断運動の際に部分的に運動することができ、前記開口部を通して前記切断刃本体は、前記駆動手段から分離された状態で取り出すことができることが好ましい。
(形態11)前記ネジ接続部はネジパターンを規定し、前記ケーシング内には、前記ネジパターンに対応する通路孔部パターンが形成されており、該通路孔部パターンは、前記切断刃本体が前記ケーシング内で所定の位置に移動されることにより、前記ネジパターンに対して整列して配向することができることが好ましい。
(形態12)前記スリット内に前記切断刃本体に対して隣接して配置されており、前記切断刃本体を案内するように構成されたスライドレールを有することが好ましい。
(形態13)前記切断刃本体は1つの切断プレートを有し、該切断プレートは、1つの上側と当該上側に対して実質的に平行な下側とを有し、前記切断エッジ(単数または複数)は、それぞれ1つの切欠部内に配置されており、当該切欠部は、それぞれ前記切断刃本体を貫いて延在しており、前記切断エッジ(単数または複数)は前記上側に対して前記下側に対するよりも小さな間隔を有するか、または前記下側に対して前記上側に対するよりも小さな間隔を有することが好ましい。
(形態14)前記緊張材のための前記貫通開口部と前記切断刃本体を受け入れるためのスリットとは、前記ケーシングの、好ましくは円筒形の、第1の部分内に設けられており、該第1の部分は、連結部、好ましくは継手ナットを含むネジ連結部、によって、前記ケーシングの第2の部分から取り外すことができ、かつ当該第2の部分に連結することができることが好ましい。
(形態15)複数の緊張材を1つの作動工程で切断するように構成された、スチール製の緊張材のための緊張材切断装置用の切断刃本体であって、前記切断刃本体は、形態1から14のいずれか一つによる緊張材切断装置のケーシング内に格納されるよう構成されており、1つまたは複数の切断エッジを有し、複数の貫通開口部に対して相対的に前記ケーシング内で1つの切断方向に、前記切断エッジ(単数または複数)が前記貫通開口部を完全に横断するように可動に駆動可能である、切断刃本体が提供される。
なお、特許請求の範囲に付記した図面参照番号はもっぱら理解を助けるためであり、図示の態様に限定することを意図するものではない。
【発明を実施するための形態】
【0009】
ここで1つの作動工程とは、緊張材に対して緊張材切断装置を相対的に位置決めすることと、位置決めされた緊張材を完全に切断するために切断運動を実行することであり、その間に緊張材切断装置の置き換え、またはその間に緊張材の再位置決めが行われないことであると理解される。ここで横断するとは、前記貫通開口部によって規定された自由横断面が、切断刃本体により前記スリット内の当該切断刃本体の運動によってゼロまで低減されることであると理解され、このことは好ましくは、切断刃本体が切断エッジ(単数ないし複数)と共に先行して前記スリットを貫いて運動されることにより行われる。好ましくは貫通開口部(複数)は、それらの配置が緊張材束の中での緊張材の配置に対応するように互いに離間されている。
【0010】
本発明は、好ましくは空間的に密に隣り合って配置された、緊張材のための複数の貫通開口部を有する装置により、前記緊張材が、緊張材切断装置内で案内される切断刃本体による剪断によって切断可能であり、そのために緊張材束を緊張材に個別化するために折り曲げて開く(Aufbiegen)必要がないという知見を基礎とする。各貫通開口部は、それぞれ1つの緊張材を受け入れるように構成されており、前記緊張材はそれぞれの貫通開口部内で案内され、切断刃本体から逃げる(Ausweichen)ことがこの貫通開口部によって阻止される。さらに、緊張材をそれぞれ1つの貫通開口部内で位置決めすることによって、本発明の緊張材切断装置により、1つの好ましくは連続する切断過程で切断刃本体が全ての緊張材を通り過ぎることができることが保証され、その間に緊張材切断装置または緊張材自体を再位置決めする必要がない。これにより、全ての緊張材が1つの同じ高さで切断されるようにして1つの統一された切断面(Schnittbild)が形成される。好ましくは貫通開口部(複数)は、1つの所定の円周部に沿ってケーシング内に均等に配置されている。この円周部は、好ましくは、緊張材束も規定する部分円周部であって、建造物に固定のために設けられたアンカリング部を通って緊張材が貫通案内される部分円周部に相当する。
【0011】
さらなる好ましい一実施形態によれば、切断刃本体は、前記貫通開口部の各々に対して1つの切断エッジを備える1つの別個のブレードを有する。各貫通開口部に対して1つの別個のブレードが設けられている場合には、摩耗物体の摩耗が全体的に減少することが判明した。
【0012】
特に有利には、前記ブレードの切断エッジは切断方向で互いに相対的に、切断刃本体が運動する際に複数の貫通開口部が、当該貫通開口部の総数よりも少ない数の切断エッジによって同時に横断されるようにオフセットされている。これにより、切断方向での切断エッジの運動のためには、全ての緊張材が同時に切断刃本体と接触することになる場合よりも小さな駆動力で十分であるという利点が達成される。好ましい一実施形態では、切断エッジが切断方向に互いに相対的に相応にオフセットされていることにより、緊張材が先ず対ごとに切断刃本体によって切断される。好ましくは、全ての緊張材が切断刃本体と接触する時点は発生せず、常に若干の緊張材のみが接触する。
【0013】
好ましいさらなる一形態では、切断エッジが切断方向で互いに相対的に、切断刃本体が切断方向に運動する際に、複数の第1の貫通開口部が最初に横断され、第1の貫通開口部が直径の50%までまたはそれ以上に切断方向で横断されると直ちに、複数の第2の貫通開口部が横断されるようにオフセットされている。好ましくは、切断方向における切断エッジのオフセットは、50%から100%の範囲である。第1の貫通開口部による切断と第2の貫通開口部による切断が部分的に重なり合うことの利点は、切断刃本体の駆動の際に、いっそう安定した力経過が可能になることである。なぜなら切断刃本体が、第1の数の緊張材の切断と第2の数の緊張材の切断との間で急激に先走りすることがないからである。重なり合いが50%であることの利点は、切断エッジと貫通開口部内に配置すべき緊張材との接触面積が、切断過程の際に一定に留まることである。これにより均等な力経過が生じる。
【0014】
さらなる好ましい一実施形態により、切断エッジは切断方向に互いに相対的に、切断刃本体の運動の際に、第2の貫通開口部が切断方向で直径の50%までまたはそれより大、好ましくは50%から100%まで、特に好ましくは50%まで横断されると直ちに複数の第3の貫通開口部が横断されるようにオフセットされている。
【0015】
前記2つの実施形態では、2段階以上、ないし3段階以上の切断過程が、個々の工程の間で実質的に安定した切断力の経過により達成される。
【0016】
本発明のさらなる好ましい一実施形態によれば、貫通開口部は、これらを貫くスリットの両側に、当該貫通開口部を通って貫通案内される緊張材を直線状に案内するための案内部分を有する。緊張材の中に存在する固有応力に基づき、切断刃本体が切断運動の際に前記撚材を通り過ぎると、前記撚材は、個々のワイヤの切断直後に片側に偏る傾向がある。切断刃本体を受け入れるために設けられたスリットの両側に案内部分を設けることにより、この偏りが阻止される。このことにより、スリットと貫通開口部とが互いに垂直に配置されていれば、実質的に直線状で、好ましくは貫通開口部に対して垂直の切断面が形成される。
【0017】
好ましくは、さらなる好ましい一実施形態による本発明の緊張材切断装置では、切断刃本体が切断方向に専ら並進的に、かつスリット内で実質的に遊びなしで案内される。ここで実質的に遊びなしで案内されるとは、切断刃本体とこれを受け入れるスリットとの間の隙間が0.3mmまたはそれ未満に構成されていると理解される。
【0018】
緊張材切断装置のさらなる好ましい一実施形態では、切断刃本体がネジ接続部によって駆動手段と結合されている。前記駆動手段は、好ましくはケーシングのピストン室内に配置された1つのピストンを有し、ピストン室の圧力印加によって液圧式に作動可能である。とりわけ好ましくは、前記ネジ接続部は切断方向に対して垂直に配置されている。このことは言い替えると、使用されるネジの長手軸が切断方向に対して垂直に延在していることを意味する。
【0019】
本発明の好ましいさらなる一形態では、ケーシングが切断方向にある1つの(端面)側にスリット状の1つの開口部を有し、この開口部を通って切断刃本体が切断運動の際に運動することができ、この開口部を通して切断刃本体は、駆動手段から分離された状態で取り出し可能である。好ましくは切断刃本体は、分離された状態で手により取り出すことができる。
【0020】
さらなる好ましい一実施形態によれば、ネジ接続部がネジパターンを規定する。言い替えると孔部レイアウト(Bohrbild)を規定する。そしてケーシング内に前記ネジパターンに対応する通路孔部パターン(Durchgangsbohrungsmuster)が形成されており、この通路孔部パターンは、切断刃本体がケーシング内で所定の位置に移動されることにより、前記ネジパターンに対して整列して配向することができる。前記所定の位置は、好ましくは切断刃本体の1つまたは両方の終端位置である。すなわち、切断刃本体が最大に入り込んだ位置または最大に繰り出された位置である。前記通路孔部の直径は、好ましくは、切断刃本体と駆動部との結合のために設けられたネジのそれぞれのネジヘッドの直径に適合されている。通路孔部がネジ接続部のネジパターンに対して整列して配向可能であることにより、緊張材切断装置のケーシングを完全に開放する必要なしに、対応のネジを緩め、切断刃本体を駆動手段から分離することができる。そして、切断方向にある側に設けられた開口部を通して、切断刃本体を簡単に僅かな時間しか掛けずに交換することができる。前記開口部は、好ましくは、切断刃本体を受け入れるためのスリットの延長部である。
【0021】
さらなる好ましい一実施形態では、緊張材切断装置がスライドレールを有し、このスライドレールは、スリット内に前記切断刃本体に隣接して配置されており、当該切断刃本体を横方向に案内するように構成されている。ここで横方向とは、切断刃本体の切断方向に対して横の方向であると理解される。
【0022】
好ましくは本発明の緊張材切断装置では、前記切断刃本体が切断プレートとして構成されており、上側とこの上側に対して実質的に平行な下側を有する。ここで切断エッジ(単数または複数)は、それぞれ1つの切欠部内に配置されており、この切欠部はそれぞれ前記切断刃本体を貫いて延在している。切断エッジ(単数または複数)は、前記上側に対して前記下側に対するよりも小さな間隔を有するか、または前記下側に対して前記上側に対するよりも小さな間隔を有する。上側または下側に対する相対的な切断エッジのこの配置によって、切断プレートの上側と下側との間の中央ラインを基準にして、切断エッジの偏心的配置が規定される。切断エッジ(単数または複数)による剪断分離の際に不可避に形成される緊張材の圧潰は、切断エッジが中心に配置されていない場合には、驚くことには僅かしか生じないことが判明した。特に好ましくは、切断エッジ(単数または複数)は上側または下側に配置されている。この場合、上側または下側には配置されておらず、前記切欠部に向かって配向された切断エッジのそれぞれの側に対して、斜めに経過するブレードがそれぞれ他方の側の方向に形成されている。好ましくは、このようなブレードの上側ないし下側に対する相対的な角度は、5゜から30゜の範囲にあり、とりわけ好ましくは30゜である。
【0023】
前記の範囲内では、所要の切断力、形成される圧潰、および受け入れるべき切断エッジの摩耗との間で驚くほど良好な折り合いが達成されることが判明した。
【0024】
さらに好ましくは、切断エッジ(単数ないし複数)は、円弧状の経過を有する。この円弧状の経過は、好ましくは切断方向に対して平行な平面内に規定されている。切断エッジ(単数ないし複数)の経過が円弧状であることにより、緊張材も同様に実質的に円弧状の断面を有するという事実を考慮すると、切断の際に切断エッジの比較的に大きな面が緊張材と急速に接触するようになる。このことはさらに、切断エッジの摩耗に有利に作用する。特に好ましくは、切断方向に対して平行の平面での切断エッジの湾曲は、実質的に、貫通開口部の壁の湾曲、ないし緊張材表面の湾曲に実質的に対応する。
【0025】
好ましい別の一形態では、切断エッジ(単数ないし複数)は、楔状の経過を有する。
【0026】
緊張材切断装置のさらなる好ましい一実施形態では、緊張材のための貫通開口部と切断エッジを受け入れるためのスリットとが、ケーシングの好ましくは円筒形の第1の部分内に設けられている。この第1の部分は、連結部、好ましくは継手ナット(Ueberwurfmutte)を含むネジ連結部によってケーシングの第2の部分から取り出すことができ、そしてこの第2の部分に連結することができる。ここでケーシングの第2の部分は、好ましくはピストン室を有する。
【0027】
本発明はさらに、スチール製の緊張材、例えば風力発電装置のタワーのような、とりわけプレストレストコンクリート建造物の緊張材のための緊張材切断装置用の切断刃本体に関するものであり、この切断装置は、複数の緊張材から成る1つの束を1つの作動工程で切断するように構成されている。前記切断刃本体は、上に記述した好ましい実施形態のいずれか一つによる緊張材切断装置のケーシング内に受け入れられるように構成されており、かつ1つまたは複数の切断エッジを有し、さらに前記緊張材切断装置のケーシング内にある複数の貫通開口部に対して相対的に、前記切断エッジ(単数または複数)が前記貫通開口部を完全に横断するように、切断方向に可動に駆動することができる。
【0028】
本発明の切断刃本体は、本発明の緊張材切断装置に関連して前に説明した特徴に好ましくは対応して構成されている。
【0029】
切断刃本体の本発明による構成の利点については、前記実施形態が参照される。
【0030】
本発明を以下、添付図面を参照し、好ましい一実施例に基づき詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】本発明の好ましい一実施例による緊張材切断装置の一全体構造図(斜視図)である。
図2図1の緊張材切断装置の一断面図である。
図3】ラインA−Aに沿った図1の側面投影を示す多段の一断面図である。
図4】ラインB−Bに沿った図2の側面投影を示す一断面図である。
図5】別の一動作状態における図2の一断面図である。
図6】さらなる別の一動作状態における図2図5の一断面図である。
図7】さらなる別の一動作位置における図2図5の一断面図である。
図8a】本発明の一切断刃本体を示す図である。
図8b】本発明の一切断刃本体を示す図である。
【実施例】
【0032】
同じ部材に関しては同じ参照符号が付してある。その点で、技術的詳細に関する限り、図面のそれぞれ1つに関連して他の図面の説明も参照される。
【0033】
図1では、本発明の緊張材切断装置1が装着された状態で立体的に示されている。この緊張材切断装置1はケーシング3を有する。ケーシング3は、第1の部分5と第2の部分7を有する。ケーシング3の第1の部分5は、継手ナット9(係合つば部材を備えたナット)によってケーシング3の第2の部分7と接続されている。この継手ナット9は、複数の取っ手(1つが図示されている)11を有する。
【0034】
ケーシング3の第1の部分5は、複数の貫通開口部13から成るパターン15を有する。貫通開口部13の各々(分かり易くするため1つにだけ参照符号が付してある)には、緊張材束100の1つの緊張材(Spannlitze、プレストレストワイヤ、緊張張力付与ワイヤ)101が導入され、この貫通開口部によって貫通案内されている。図1では分かり易くするため、いくつかの緊張材が、貫通案内されない状態で図示されている。通常、全ての緊張材が貫通案内され、切断される。
【0035】
切断方向にあるケーシング3の1つの(端面)側21には、1つのスリット23が取り付けられている。このスリット23を通って切断運動の経過中に切断刃本体29は、外側へ伸張することができる。これについては図2図5から7を参照のこと。
【0036】
図2は、図1の緊張材切断装置の一断面図を示す。図2から、スリット23は、切断方向を規定する軸Xの方向に、ケーシング3の第1の部分5を完全に通って延在していることが分かる。スリット23内には切断刃本体29が配置されている。切断刃本体29は、パターン41を規定するネジ留めによってアダプタ31と接続されている。アダプタ31は、自身の側で短いネジボルト(ネジ短軸、Gewindezapfen)33によってピストン35と接続されている。
【0037】
さらにケーシングの第1の部分5は、切断刃本体を横方向に案内するために差込部材25をスリット23内に有する。差込部材25は、複数のネジ接続部27によってケーシングと接続されている。
【0038】
ケーシングの第1の部分5内にある貫通開口部(複数)13は、1つの円26の周辺部に沿って均等に分布されている。円26の直径は、好ましくは、緊張材束の部分円直径に相当し、これにより緊張材束は、基礎部のための固定アンカを通して貫通案内される。例えばこの直径は、6本の撚材が使用される場合には57.5mmとすることができる。この直径は、例えば9本または12本の撚材から成る別の緊張材束に対しては、好ましくは別の直径である。好ましくはこの理由から、各設置状況ごとに、すなわち設置される各撚材束ごとに、そのために特別に作製された、ケーシングの第1の部分5が設けられている。この第1の部分は、継手ナット9の一時的な除去によって取り付け、交換することができる。
【0039】
切断刃本体29は、図8a,bにも詳細に図示されている。分かり易くするため、さらなる説明はそれまで後回しにする。
【0040】
ピストン35はケーシングの第2の部分7内に配置されており、ピストン室37内で可動に案内される。ピストン室37は圧力印加可能な2つのサブチャンバを有し、これらのサブチャンバはそれぞれ1つの流体接続部17,19と接続されている。したがってピストンの作動は、2つの運動方向への圧力印加によって行われる。あるいは任意選択として、ピストンにバネ復帰力または同等の復帰手段を装備することもでき、この場合、一運動方向での1つの圧力印加だけが必要である。ここに図示のようなダブルピストンがとりわけ好ましい。なぜならそのようにすると、駆動力が、場合による復帰要素の抵抗に付加的に打ち克つ必要がないからである。ピストン35は、ケーシングの第1の部分5に向いた側の領域内で、支持リング39の中を案内(スライド)される。支持リング39は、ケーシングの第2の部分7内でショルダに対して支承されており、必要に応じて交換することができる。
【0041】
パターン(Muster)15にある貫通開口部は、本実施例では、第1の数の貫通開口部13aと、第2の数の貫通開口部13bと、第3の数の貫通開口部13cに分割されている。この分割の意味は、切断過程に関連して図5から7で詳細に説明する。
【0042】
図3と4は、図2の図示を補充するために追加の視野から見た図である。すでに図2で述べたことに加えて、図3ではとりわけ、切断刃本体29が、ケーシングの第1の部分5にあるスリット23内にどのように格納されているかが明確である。横方向の案内差込部材25によって保証される。この差込部材は、切断刃本体29に直接隣接してスリット23内に配置されており、複数のネジ27によって固定されている。図2のラインA−Aに沿って段付けられた断面は、2つの第1の貫通開口部13aと2つの第2の貫通開口部13bの1つを通っている。
【0043】
図4は、アダプタ31における切断刃本体29の格納を図示する。アダプタ31は1つのスリット32を有し、このスリットは前記スリット23と面一に整列してケーシングの第1の部分5内に設けられている。切断刃本体29はスリット32の中に格納されており、パターン41内に設けられたネジ接続部によって固定されている。アダプタ31によって、ピストン35(図2)からの力が切断刃本体29に伝達される。
【0044】
以下、本発明の緊張材切断装置1による切断過程の経過に立ち入る前に(図2図5から7)、図8a,bを参照して本発明の切断刃本体の構造を説明する。
【0045】
好ましい一実施例によれば、切断刃本体29は、ケーシングの第1の部分5内に設けられた各貫通開口部13(13a,b,c)に対してそれぞれ1つの切欠部49(49a,b,c)を有する。図示の実施例では6つの貫通開口部がケーシング内に設けられているから、切断刃本体29は同じように、2つの第1の切欠部49a、2つの第2の切欠部49bおよび2つの第3の切欠部49cを有する。切欠部49a,b,cは、切断プレート47を貫いて延在している。各切欠部内には切断エッジ43a,b,cが形成されている。切断刃本体29の切断運動の軸Xに対して垂直の視野方向から見て各切断エッジは円弧状に湾曲しており、この円弧の直径は、切欠部49a,b,cの直径ないし貫通開口部13a,b,cの直径に相当する。ここではもちろん製造公差が予想される。しかしながら製造公差は、以下の考察では考慮されないままである。切断エッジ43a,b,cに対向する切欠部49a,b,cの(軸Xの方向での)それぞれの端部は、緊張材切断装置1のケーシング内にある貫通開口部13のパターン15に対応する。好ましくは切欠部のこの部分は、ケーシング3内にある切断刃本体29の1つの第1の終端位置において、貫通開口部13に対して面一に配向されている。この位置では切断エッジ43aが貫通開口部13aに対して面一(すなわち端面が一致した状態)に配向されており、したがって、切断刃本体29が運動を開始すると直ちに、切断エッジ43aと貫通開口部13aに導入された緊張材との接触が形成される。
【0046】
これと比較して第2の切欠部49b内の切断エッジ43bは、切断方向(図8aでは軸Xの方向で左に向かっていると理解される)とは反対方向にオフセットされている。したがって切欠部49bは、切欠部49aと比較して軸Xの方向に比較的長く構成されている。これと比較して第3の切欠部49cは軸Xの方向にさらに長く構成されており、これにより第3の切欠部49cの切断エッジ43cは切断方向とは反対方向にさらに大きくオフセットされている。
【0047】
第1の切断エッジ43aに対する第2の切断エッジ43bと第3の切断エッジ43cのそれぞれのオフセットの長さが、それぞれ貫通開口部13のパターン15と(軸Xの方向での)切断方向を基準にして、どの時点でどの切断エッジが、それぞれの貫通開口部に導入された緊張材と接触し、貫通開口部を横断するかを決定する。図示の構成でオフセットはそれぞれ、第2の切断エッジ43bがそれぞれ第2の貫通開口部13bを横断する前に、第1の切断エッジ43aがそれぞれ第1の貫通開口部13aを完全に横断するように選択されている。同じように第3の切断エッジ43cはそれぞれ、第3の切断エッジ43cがそれらに割り当てられた第3の貫通開口部13cを横断する前に、第2の切断エッジが第2の貫通開口部をそれぞれ完全に横断するような大きさでオフセットされている。とりわけ好ましくはオフセットはそれぞれ、第(n)の切断エッジが第(n)の貫通開口部を軸(X)の方向に、50%から100%の範囲にある割合で横断すると直ちに、第(n+1)の切断エッジによる第(n+1)の貫通開口部の横断が開始されるように構成されている。
【0048】
図8bは、切断刃本体29のプレート状の構造を図示する。切断刃本体29は1つの切断プレート47を有する。切断プレート47は、上側53と、この上側53に対して実質的に平行な下側55を有する。切欠部49a,b,cの切断エッジ43a,b,cはそれぞれ下側55に配置されている。したがって切断エッジ43a,b,cは、切断プレート47の中心に対して偏心して構成されている。ここで「切断プレートの中心」とは、切断プレート47の上側面53と下側面57との間の対称線であると理解される。
【0049】
切欠部49a,b,cはそれぞれ切断プレート47を完全に貫いて延在している。切欠部内には、それぞれの切断エッジ43a,b,cから出発して斜めに経過するブレード48a,b,cが形成されている。第1のブレード48aは、切断エッジ43aに対して角度αで延在して下側55を画定する。第2のブレード面48bは、切断エッジ43bに対して角度βで延在して下側55を画定する。同じように第3のブレード面48cは、切断エッジ43cに対して角度γで延在して下側55を画定する。好ましくは角度α、βおよびγは、それぞれ同じに構成されている。ブレード面48a,b,cの角度α、β、γは、それぞれ10゜から40°の範囲にあり、とりわけ好ましくは30゜である。
【0050】
図2および図5から7に基づいて、6つの緊張材から成る1つの緊張材束の、1つの作動工程における切断を説明する。図2に示された状態では、ピストン35およびこれと共に切断刃本体29が第1の終端位置にある。この第1の終端位置は、最大に引き込んだ状態に相当する。この状態では、全ての貫通開口部13a,b,cの断面が完全に開放されている。しかしながら切断刃本体29の切断エッジ43a(図8a参照)は、すでに貫通開口部13aの壁に向けて配向されている。
【0051】
緊張材切断装置1が上手く位置決めされ、緊張材が貫通開口部13を通して貫通案内されると、ピストン35に圧力媒体接続部を介して圧力が印加され、ピストン35は切断刃本体29と共に図2の状態から図5の状態へ運動される。ここでピストン35は、区間45aだけ移動する。図5に示した状態では、切断エッジ43aが貫通開口部13aを完全に横断しており、その中に存在する緊張材は切断されている。第2の切断エッジ43bが第2の貫通開口部13bの壁に直接配向され、一方、第3の切断エッジ43cは貫通開口部13cからまだ十分に離れている。切断刃本体29の運動が軸Xの切断方向に継続されると、第2の切断エッジ43bと第2の貫通開口部13bの中にある緊張材との間の直接的接触が形成される。図6にはこの作動工程の第2の状態が示されている。この状態では、第2の切断エッジ43bも、それぞれ第2の貫通孔部13bを完全に横断しており、その中に存在する緊張材は切断されている。ここでピストン35は、切断刃本体29と共に軸Xの方向に、図2の第1の終端位置に対して相対的に区間45bだけ繰り出されている。切断刃本体は、図5と6の状態では、すでに部分的にケーシングの第1の部分5の外に伸張(突出)している。
【0052】
図6の状態では、第3の切断エッジ43cが第3の貫通開口部13cに直接向けられており、切断刃本体29が切断方向に(図6で見ると左へ)さらに運動されると、第3の貫通開口部の中に存在する緊張材と直接接触される。
【0053】
切断刃本体29がピストン35の圧力印加により、図6に示した状態から図7に示した状態へ、この方向でさらに移動されると、第3の切断エッジ43cも第3の貫通開口部の中の緊張材と直接接触される。図7には、第3の切断エッジ43cも第3の貫通開口部13cを完全に横断している状態が示されている。緊張材束の6つ全ての緊張材が、図7の状態では完全に切断されている。
【0054】
好ましくは図7に示した状態は繰り返し可能なように設定される。この状態では、ケーシング3に対する、とりわけケーシングの第1の部分5に対する切断刃本体29の相対的な位置が第2の終端位置に固定される。このことは好ましくは、支持リング39がピストン35に対して相対的なストッパを規定し、撚材の完全な切断が行われた切断刃本体29の位置でピストン35が第2の終端位置を取ることにより行われる。ピストン35は、図7の位置では、区間45cだけその第1の終端位置から外に繰り出されている。
【0055】
図1から8の実施例は、分かり易くするために6つの緊張材に対する緊張材切断装置だけに向けられているが、異なる構成も本発明の範囲に含まれることは明白である。これにはとりわけ6超または6未満、例えば9本または12本の緊張材から成る緊張材束を切断するように準備された緊張材切断装置の構成が含まれる。そのために緊張材切断装置1のケーシング、とりわけケーシングの第1の部分5は、6つの貫通開口部ではなく相応の数の貫通開口部がケーシング内に設けられるように変更される。切断刃本体の適合も、切断すべき撚材の数に対応して行われる。好ましくはそれぞれ(所定数の)複数の撚材は、切断刃本体により同時に切断され、一方、他の(所定数の)撚材はまだ切断されないか、またはすでに切断されている。切断刃本体のストロークがどれくらいであり、および/またはどれだけの駆動出力が得られるかに応じて、それぞれ撚材を2組み、3組みまたは4組みにまとめるのが好ましい。
【0056】
貫通開口部13のパターン15を緊張材束の形状およびとりわけ部分円直径に適合することにより、この緊張材切断装置により、建造物中の緊張材束のアンカリング箇所に非常に近く接近することができる。なぜなら緊張材束の拡開が、言うに値する程度には必要ないからである。それにもかかわらず、緊張材切断装置の稼働時に、アンカリング装置を通して貫通案内される緊張材エレメントに、ある程度の余剰の長さを残しておくのが望ましいこともあり、これによりこれらを、場合により後で引張することができる。
【0057】
本発明の緊張材切断装置は、とりわけ1つの緊張材束内の複数の緊張材を、実質的に同じ長さないし1つの切断面で切断することを保証する。種々の切断面が望まれる場合には、このことは、切断刃本体の切断プレート内で切断エッジの位置を相応に構成することにより得られる。切断刃本体は、本発明によれば交換可能であり、摩耗後には安価に、僅かな作業によって交換することができる。
【符号の説明】
【0058】
1 緊張材切断装置
3 ケーシング
5 第1の部分
7 第2の部分
9 継手ナット(係合つば部を備えたナット)
11 取っ手
13 貫通開口部
15 貫通開口部のパターン
23 スリット
25 差込部材
26 円周部
27 ネジ接続部
29 切断刃本体
31 アダプタ
32 スリット
33 スタッドボルト
35 ピストン
39 支持リング
41 ネジパターン
43 切断エッジ
47 切断プレート
48 ブレード(面)
49 切欠部
100 緊張材束
101 緊張材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8a
図8b