(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
上記芯材と燃え代層との間に燃え止まり層を介在させるとともに、床スラブと燃え代層との間に、燃え止まり層から距離を存して化粧板の側端部を突入させ、この側端部の端面を止水材で覆ったことを特徴とする、請求項2記載の耐火構造物。
上記芯材の下面及び左右側面と燃え代層の対応する面との間に燃え止まり層を介在させるとともに、この燃え止まり層の上面と燃え代層の上面と防湿層の上面とをほぼ面一とするとともに化粧板の側端部を第1梁材又は第2梁材の側面に隣接させ、かつこの側面に付設した廻り縁の上面に上記化粧材の側端部を係止させたことを特徴とする、請求項2記載の耐火構造物。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
柱材などと同様に、耐火材の表面を木材で覆った複合床構造が出来れば耐火構造物の内装の木製化を進めることができて都合がよいが、出願人の調査では適当な先行技術が見出せなかった。
【0005】
木製以外の合成床構造として、平行な複数の受梁の上に、上面からスタッドを起立させたステンレス鋼製の板材を載置し、この板材同士の間にまたがるようにステンレス鋼製のデッキプレートを敷き詰め、その上にコンクリートを流し込んでその内部にスタッドを埋設させ、コンクリートの硬化後に受梁を取り除くものが知られている(特許文献2)。
【0006】
この特許文献2の構成のうち上記板材及びデッキプレートを木製に置き換えることで、木調の複合床構造が実現できれば問題ないのであるが、木材の場合には、ステンレス鋼などと異なる技術的な問題点がある。
【0007】
すなわち、木材は水分を吸って膨張したり、乾燥して収縮する素材であり、硬化後にほぼ一方向的に収縮するコンクリートとは変形のパターンが異なる。通常の木製型枠は、コンクリートの硬化後に解体してしまうので、木材の変形を殆ど問題としないが、型枠の一部を仕上げ材として残す場合には、例えばコンクリート打設時に吸水した木材がその後の乾燥により収縮し、割れたり、歪んでしまう可能性がある。
【0008】
故に出願人は、木製型枠の底板を内装材として残すためには、コンクリートの間に防水・絶縁技術を適用することが必要であると認識するに至った。防水技術としては建物の天井の上に防水層を介して屋上菜園を構築したものが(特許文献3)、また絶縁技術としては、改良した地盤の上にプラスチックシートやベニヤ板などの絶縁材を敷き、そのうえにコンクリートを打設する逆打工法が(特許文献4)知られている。しかしこれらは本発明とは用途が異なるものであり、木製型枠の底板を内装材とする場合に防水・絶縁を施すことを示唆しない。
【0009】
本発明の第1の目的は、耐火性能を確保しつつ木のぬくもりを感じられる合成床構造を提供することである。
本発明の第2の目的は、コンクリートと木材を主要部材として木材の歪を生じにくい合成床構造を提供することである。
本発明の第3の目的は、床スラブの打設に用いた木製の一部をそのまま床の仕上げ材として残すことでコストを抑制した合成床構造及びその構築方法を提供することである。
本発明の第4の目的は、上記合成床構造を含み、かつその梁材として多重型の複合木造部材を採用した耐火構造物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
第1の手段は、合成床構造であり、
少なくとも床スラブ打設用エリアの底面に沿って配置した梁材を含む支持手段と、
この支持手段に連結され、上記床スラブ打設用エリアの下面をなす木製の化粧板と、
この化粧板の上にコンクリートを打ち込んで形成した床スラブとを具備し、
床スラブと化粧板の対向面との間に防湿層を介在させて
なり、
上記支持手段は、上記梁材によって支持されかつ上記化粧板の下面全体に亘ってほぼ一定の間隔で並設された複数の根太を有しており、これら根太の上面を化粧板の下面に当接させており、
上記防湿層を貫通して上記根太の内部に下半部を打ち込むとともに上記床スラブ内に上半部を埋設した複数の固定棒を具備し、
かつ上記床スラブを鉄筋コンクリートスラブとし、
上記固定棒の外周面全体と化粧板の対向面との間にクリアランスを形成するとともに、上記防湿層を、床スラブに対する化粧板のずれを可能とする絶縁シートとしたことを特徴とする。
【0011】
本手段は、
図3の如く梁材に載置した木製の化粧板18の上に床スラブ24を形成した合成床構造を提案している。化粧板18を木製としたから木調の内観が得られかつ化粧板18は床スラブ打設エリアAの底面を形成するので(
図12参照)、建材を節約できる。そして化粧板18と床スラブ24との間には防湿層20を形成したので、吸湿による化粧板の変形を抑制し、割れなどを回避できる。なお、床スラブ打設エリアAとは一度にコンクリートの打設作業を行うエリアであり、型枠の内部に相当する空間である。床スラブとこれを支える支持手段(梁又は根太)とは後述の固定棒により面内方向に一体化することができる。
【0013】
また本手段は、床スラブ24と化粧板18との間の防湿層20を絶縁シートに形成している。木材は、含水率の変化により膨張したり収縮したりする素材であり、ほぼ一方向的に収縮するコンクリートとは挙動が異なるからである。すなわち防湿層20の作用で化粧板18の吸水を阻止したとしても、十分に乾燥した木材であれば室内の湿度変化によって膨張・収縮を繰り返し、コンクリートに対して絶縁しなければ歪みや割れを生じ得るからである。上記絶縁シートは弾性材料で形成することができる。
【0015】
また本手段では、
図3の如く化粧板18の下面に複数の根太16を当接させている。根太の機能の一つは、
図12に示す床スラブの打設作業における化粧板の補強手段である。流動状のコンクリートの重みで化粧板が変形するためである。その他の作用は後述する。第1梁材とはいわゆる大梁をいう。“根太の端部を間接的に第1梁材で支持する”とは第1梁材(大梁)が第2梁材(小梁)を支え、第2梁材が根太を支える構造を含むものとする。
【0017】
さらに本手段では、
図3に示すように上記根太16内に固定棒22の下半部22aを打ち込むとともに鉄筋コンクリート製の床スラブ24内に固定棒22の上半部22bを埋設することを提案している。この固定棒22により、床スラブ24と根太16とを床の面内方向の力(地震力など)に対して一体化させ、床スラブを構成する鉄筋コンクリートの剛性に、根太16の剛性を上乗せしている。これにより振動防止、長期撓みの防止を図っている。
【0019】
また本手段では、
図4に示すように固定棒22の外周面全体と化粧板18との間に一定のクリアランスCを形成することを提案している。木製である化粧板18が吸湿・乾燥により変形してもクリアランスCがあるため、その変形を妨げない。
【0020】
第
2の手段は、第
1の手段
に記載の合成床構造と、この合成床構造を支える耐火柱とを含む耐火構造物であって、
上記支持手段は、上記梁材として、床スラブ打設用エリアの周辺部に配置した第1梁材と、上記第1梁材によって支持されかつ床スラブ打設用エリアを横断するように架設した第2梁材とを有しており、
上記根太の両端部は、第1梁材又は第2梁材の何れかに連結されており、
上記床スラブは、第2梁材の上方を経由して床スラブ打設用エリア全体に延設しており、
これら梁材は、床スラブの荷重を支えるための芯材を有し、この芯材の周面のうち床スラブに接する面を床スラブで、また残りの周面部分を芯材よりも熱慣性が低い木製の燃え代層で被覆している。
【0021】
本手段では、耐火柱を含む耐火構造物であって、耐火性に優れた合成床構造を有するものを提案している。すなわち梁材は耐火性能の高い多重構造(芯材の表面の一部を燃え代層で覆う構造)としている(
図16参照)。また床スラブは、少なくとも床の固定荷重を(積載荷重を想定できるときには積載荷重を含む長期荷重を)支持できるようにすることが望ましい。火災時に根太などの木材部分が喪失しても支持力を確保するためである。
【0022】
第
3の手段は、第
2の手段を有し、かつ
上記芯材と燃え代層との間に燃え止まり層を介在させるとともに、床スラブと燃え代層との間に、燃え止まり層から距離を存して化粧板の側端部を突入させ、この側端部の端面を止水材で覆っている。
【0023】
本手段は、
図16に示すように、梁材の芯材40と燃え代層46との間に燃え止まり層44を介在させた構成を提案している。かつ燃え代層46と床スラブ24と間には化粧板18を突入させている。化粧板18が床スラブ24と燃え止まり層44との間に入っていると、そこから火が進入してしまうため、燃え止まり層から離している。
【0024】
第
4の手段は、第
2の手段を有し、かつ
上記芯材の下面及び左右側面と燃え代層の対応する面との間に燃え止まり層を介在させるとともに、この燃え止まり層の上面と燃え代層の上面と防湿層の上面とをほぼ面一とするとともに化粧板の側端部を第1梁材又は第2梁材の側面に隣接させ、かつこの側面に付設した廻り縁の上面に上記化粧材の側端部を係止させている。
【0025】
本手段は、
図18に示すように化粧板18の側端部を梁材の側面に隣接させ、この側面に付設した廻り縁28の上面に上記化粧板18の側端部を係止させている。
【0026】
第
5の手段は、建築物の垂直材と梁材とで囲まれた床スラブ打設用エリアに合成床構造を構築する方法であって、
上記合成床構造は、少なくとも床スラブ打設用エリアの底面に沿って配置した梁材を含む支持手段と、この支持手段に連結され、上記床スラブ打設用エリアの下面をなす木製の化粧板と、この化粧板の上にコンクリートを打ち込んで形成した床スラブとを具備し、床スラブと化粧板の対向面との間に防湿層を介在させてなるものであり、
上記垂直材の表面を上記床スラブ打設用エリアの側面として、この側面と連なる床スラブ打設用エリアの底面を形成する木製板を、上記梁材の上に配置する第1の工程と、
少なくとも上記木製板の上に防湿層を形成する第2の工程と、
この防湿層の上にコンクリートを打ち込む第3の工程とからなり、
コンクリートが硬化した後に木製板を除去することなく化粧板として利用するようにしている。
【0027】
本手段は、合成床構造の構築方法を提案している。前述の通り床スラブ打設用エリアの底面を形成する木製板を、化粧板として再利用することが本発明の主題である。本手段では、床スラブ打設用エリアの側面A
1として建物の垂直材の表面を用いている。ここで垂直材とは、例えば、柱材、壁材やパラペット側壁面をいうものとする。
【0028】
第
6の手段は、第
5の手段を有し、かつ
上記床スラブ打設用エリアを囲む垂直材の全部又は一部に代えて、上記第1の工程において、床スラブ打設用エリアの側面を形成する側板を仮設し、
コンクリートが硬化した後に上記側板を除去するものである。
【0029】
本手段では、
図13に示すように垂直材の全部又は一部に代えて側板(型枠用側板M)を用いている。この側板は合成床構造の一部ではない。
【0030】
第
7の手段は、第
5の手段または第
6の手段を有し、かつ上記第2の工程において、上記木製板の上面から上記床スラブ打設用エリアの側面に沿って防湿層を形成して、
上記コンクリートが硬化した後に防湿層が床スラブの周面に沿って立ち上がる延長部分を有するようにした。
【0031】
本手段は、
図12に示すように防湿層20が床スラブ打設用エリアの側面に沿って立ち上がる延長部分20aを有するように構成している。
【0032】
第
8の手段は、第
5の手段から第
7の手段のいずれかを有し、かつ上記第1の工程の前に上記梁材に複数の木製の根太を接合させ、
上記第1の工程において、上記梁材及び木製の根太の上に上記木製板を配置してなり、
コンクリートが硬化した後に木製の根太を除去せずに仕上げ材として残すことを特徴とする。
【0033】
本手段は、合成床スラブの構築方法であって根太16を梁材に組み付ける工程を含むものである。
【発明の効果】
【0034】
第1の手段、第
5の手段、第
6の手段に係る発明によれば、床スラブと化粧板の対向面との間に防湿層を介在させたから、化粧板の吸湿を抑制して、化粧板の歪みなどを軽減できる他、コンクリートからのノロに起因するシミの発生を防止できる。
また第
1の手段に係る発明によれば、上記防湿層が絶縁シートを兼ねるから、コンクリートと木材との変形の仕方の相違による化粧板の歪みや割れを防止できる。
また第
1の手段に係る発明によれば、支持手段は一定間隔で並設された複数の根太を含むから、コンクリートの重量を均等に支えることができる。
また第
1の手段に係る発明によれば、固定棒で根太と床スラブとを面内方向に一体化させたから、木造の根太の剛性をコンクリート製床スラブの剛性に加算することで、床全体の剛性を向上させ、床の振動防止や床の長期たわみの抑制に寄与する。
また第
1の手段に係る発明によれば、固定棒の外周面全体と化粧板の対向面との間にクリアランスをとったから、木製の化粧板の変形に対する自由度が大きくなる。
第
2の手段に係る発明によれば、梁材は、芯材の一面を床スラブで、残りの面を燃え代層で形成したから、燃え代の大きさに相当する時間だけ支持力を維持できる。
第
3の手段に係る発明によれば、床スラブと燃え代層との間に、燃え止まり層の機能を阻害することなく化粧板の側端部を収めることができ、かつ止水性も担保できる。
第
4の手段に係る発明によれば、燃え止まり層と燃え代層と防湿層との各上面をほぼ面一にしたから、化粧板の端部の止水を省略できる。
第
5の手段に係る発明によれば、コンクリート硬化後に型枠として使用した化粧板を解体せずに、その下面を仕上げ面とすることができ、また第12の手段に係る発明によれば、木製の根太を仕上げ材として残すことができる。なお、従来の床構造の構築方法と対比した効果を後述の発明の実施形態の欄(段落0069〜0070)で述べる。
第
6の手段に係る発明によれば、防湿層が床スラブの周面に沿って立ち上がる延長部分を有するから、化粧板の防湿がより確実になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
図1から
図15は、本発明の第1の実施形態に係る合成床構造を含む構造物2を示している。この構造物は、耐火構造物とすることが望ましいが、床スラブ以外の耐火構造に関しては、説明の都合上、後述の第2実施形態で述べる。
【0037】
構造物2は、
図1に示す如く、基礎から起立する柱4と、柱4に支持される梁材12を含む合成床構造10と、梁材及び柱によって支持された外壁6を有する。
【0038】
ここで耐火建築物2の主要構造部である柱4、梁材12及び外壁6は、建築基準法に規定する耐火建築物の主要構造部としての所定の耐火性能を有する構造であれば、例えば、鉄筋コンクリート造、鉄骨造、鉄骨鉄筋コンクリート造、プレキャストコンクリート造又は木造等の任意の構造とすることができる。即ち、本発明の本実施形態に係る合成床構造10は、所定の耐火性能を有する構造であれば、任意の構造に適用できる。また、上記柱4は、木製柱、或いは非木製(金属製や鉄筋コンクリート製など)の芯材の周りを木製又は木材に見える素材で囲った合成柱とすることができる。さらに上記梁材12は、木製梁、或いは非木製(金属製や鉄筋コンクリート製など)の芯材の周りを木製又は木材に見える素材で囲った合成梁とすることが好適である。
【0039】
上記構造物2は、複数階の建物として構築され、その最下階以外の階の床構造として、本願発明の合成床構造10が採用されている。下の階から見上げたときの木造の仕上げを特徴とするからである。このため、地下階を有する建物であっても下の階から見上げる地下階(即ち、当該階の天井に相当する。)がある場合にも採用できる。
【0040】
合成床構造10は、支持手段11と、化粧板18と、防湿層20と、固定棒22と、床スラブ24とで構成されている。
【0041】
上記支持手段11は、本実施形態では梁材12と根太16とで構成している。好適な図示例では、
図2に示す如く、柱4の間に、大梁である第1梁材12aを架設する。第1梁材12aは、第1の方向(図面左右方向)又は第2の方向(図面上下方向)に延びており、第1の方向に平行な第1梁材12aの間に小梁である第2梁材12bを架設する。そして第2の方向に延びる第1梁材と第2梁材との間、または第2梁材同士の間に根太16を架設している。
【0042】
上記第2の方向に延びる第1梁材12a及び第2梁材12bは、根太受け材として
図9に示すように根太16嵌合用の切欠14を設ける。
【0043】
上記複数の根太16は、床スラブ打設用エリアAの全体に亘るように設ける。複数の根太16の上面は面一に形成され、その上面に後述の化粧板18を載置することができる。なお、第2梁材12b同士の間隔などに応じて根太16を省略することもできる。
【0044】
これらの根太16は、木製の横材であり、型枠として用いられるときに化粧板18を支える支持台としての機能と、床スラブ24を補強する手段とを兼ねており、床スラブ24のたわみを防止することが可能な強度を有することが望ましい。図示の根太16は、強度確保のために断面形状を縦長の矩形とし、さらに比較的軽くて硬いスギ材で形成している。これら形状・材質は適宜変更することができる。
【0045】
なお、本明細書において、「木製」とは、通常の無垢材の他、木の破片などを固めた木質ボード、木毛板などを含む。木調の内観を呈すればよいからである。また木材は、市場流通品の範囲内から選択すればよい。また特許文献1のように性質の異なる木材を多重構造に組み合わせたもの、その他耐火性能を有する木造材料を含む。これについては後述する。
【0046】
化粧板18は、根太16の上面に載置されている。化粧板18は木製であり、例えば合板とすることができる。この化粧板18は、コンクリートの型枠の底板を兼ねており、少なくとも型枠内に充填されたコンクリートを養生期間中に支えることが可能な強度を有する。
【0047】
防湿層20は、少なくとも化粧板18の上面全体を覆っており、さらに
図6に示すように床スラブ打設用エリアAの側面A
1に沿って立ち上がる延長部分20aを有することが望ましい。同図中30は面木である。主としてコンクリートの養生期間中に水分が化粧板18側に放出され、当該箇所が腐食したり、変形したりすることを防止するためである。さらに化粧板18が水を吸収する際に生ずるシミや、化粧型枠の目地の隙間から漏れ出るノロにより化粧板18としての美観が損なわれることも防止する。
【0048】
上記防湿層20の素材は、加硫ゴム系シート、非加硫ゴム系シート、塩化ビニル樹脂系シート、エチレン酢酸ビニル樹脂系シート、熱可塑性エラストマー系シートなどが好適である。なお、防湿層20は、作業の効率性から敷設が容易なシート材料であることが好適であるが、シートのみに限定される訳ではなく、例えば不定形の防湿剤であってもよい。
【0049】
防湿層20の形態は、床スラブ打設エリアAの内面全体を覆う一枚のシートとすることが好適であるが、複数のシートを相互に隙間なく敷き詰めるような態様も本願発明の技術的範囲として除外されない。
【0050】
上記防湿層20は、床スラブ24に対する化粧板18のずれ変形を可能とする絶縁シートを兼ねることが好適である。前述の特許文献4の絶縁シートは、コンクリート床板から型枠相当部分(改良地盤)を分離するために用いられていたが、本願の絶縁シートは、逆に型枠の一部を床スラブに沿って残すという用途を前提として、コンクリート硬化後の木材との変形差を逃がして、割れの発生を防止する機能を発揮するものである。
【0051】
ここでこうした機能が必要とされる理由を説明する。コンクリートの長期の乾燥収縮率は一般的に0.08%前後である。他方、木材の含水率変化1%当りの膨張・収縮率は、化粧板に使用するような厚さ6mm・構成比0.57のラワン合板の場合で0.02%程度であり、気乾状態のスギ材で軸方向に0.01%程度(半径方向で0.1%程度、接線方向で0.3%程度)であり、そして木材の気乾状態での含水率は15%程度と言われている。
【0052】
前述のようにコンクリート打設作業中に木材が吸水してその後の乾燥により収縮する場合はもちろん、上記作業中に木材の気乾状態が保たれたときでも、冬季の乾燥と雨季の膨張を繰り返すだけでも、コンクリートと異なった変形を生ずることが予想される。そこでコンクリート製床スラブと木製の化粧板18とを絶縁するのである。
【0053】
固定棒22は、
図3に示す如く、その下半部22aを、化粧板18及び防湿層20を貫通して根太16内に打ち込ませている。固定棒22の上半部22bを床スラブ打設エリアA内に残してあり、床スラブ打設エリアA内にコンクリートを打設することで、床スラブ24内に固定棒22の上半部22bが埋め込まれるようにしている。固定棒22の上端は大径部に形成している。
【0054】
上記固定棒22は、床スラブ24と根太16及び化粧板18とを接合し、地震力などの水平方向の外力に対し一体性が損なわれないようにするとともに、床スラブ24と根太16とを一体化することで床スラブ24を構成する鉄筋コンクリートの鉛直方向の剛性に根太の鉛直方向の剛性を、より効果的に加算し、床振動や長期たわみの防止を図っている。なお、固定棒22が無い場合は、床スラブの鉄筋コンクリートと根太との接合面において、固定棒22のダボ効果によるせん断抵抗が無く、両者の鉛直剛性の加算効果がやや低下する。しかし、固定棒が無い場合でも鉛直剛性の加算効果は失われないため、固定棒を省略することも可能とする。
【0055】
好適な図示例において、上記固定棒22は、下半部22aにネジ部を有し、かつ上端側の大径部をナット形状とした金物(いわゆるラグスクリューボルト)としている。そして、その固定棒22の下半部22aを木材である根太16内に捻じ込むように形成している。なお、固定棒22は、ラグスクリューボルトに限らず、頭部が床スラブ24に埋設され、頭部から延びる首部が防湿層20及び化粧板18を貫通し根太16と結合できる形状であれば、任意の部材で形成できる。
【0056】
さらに本実施形態では、
図4に示すように固定棒22の外周面と化粧板18との間に一定のクリアランスCをとるように構成している。このようにするためには、化粧板18に一定間隔で固定棒22の外径よりも大径の挿通孔19を設けて、この挿通孔19内に固定棒22を打ち込むようにすればよい。クリアランスCは、化粧板の変形代であり、[固定棒同士の間の距離]×[含水率1%当りの木材の変形率]×[年間の木材の含水率の変化]で設定することができるが、一般的には2mm程度とすれば十分である。なお、クリアランスCをとらずに固定棒22が化粧板18を貫通するようにすると、その貫通孔が長年の化粧板18の変形により大きくなる可能性があるが、本実施形態の場合にはそうした不都合を生じにくい。
【0057】
上記クリアランスCの上方は防湿層20で覆われているので、水分がクリアランスC内に流入することはない。好適な一例として、
図5に示すように防湿層20の上方の固定棒22に止水用の筒状のパッキング23を嵌着させてもよい。また、固定棒22が防湿層20を貫通する箇所に防湿剤を適用してもよい。この際、防湿層20は弾性を有する軟質塩化ビニル樹脂系シート等の簡易なもので形成することもできる。
【0058】
床スラブ24は、上記床スラブ打設エリア内にコンクリートを打ち込むことで形成される。床スラブ24内には上記固定棒22の上半部22bが埋設されている。床スラブ24内には、鉄筋26a,26bが配筋されている。床スラブ24は長期荷重を支持する程度の強度を有することが望ましい。
【0059】
図示例の床スラブ24の厚さDは、根太16の上下長さHよりも小である。根太16の剛性を大きくすることでコンクリートの使用量を少なくするためである。コンクリートの使用量を減らしかつ木質材料を増やすことで、コンクリートの製造行程でのCO
2排出量を抑制することもできる。
【0060】
好適な一実施例として、床スラブ24の厚さD及び鉄筋量は、所定時間(通常は1時間)の耐火性能を確保な範囲でできる限り小さくし、たわみや環境振動の面で合成床構造の性能が不足する分を、根太16や化粧板18などの木質材料で補うとよい。このようにすることで合成床スラブ構造全体の重量も低減できる。出願人の試算では、床スラブの厚さを120mm程度とすることで、建築基準法上の耐火基準を十分に満たすことができる。さらに床スラブの厚さDを120mm・根太の上下高さHを300mm・根太の巾Wを100mmとして計算すると、床スラブ及び鋼板デッキを含めて厚さ150mmのデッキスラブに対して約10%の重量低減が可能である。
【0061】
以下、
図6から
図10を用いて、根太16及び化粧板18などと梁材との関係を説明する。
【0062】
図6は、化粧板18の端部と外壁6とが隣接する個所を示す。外壁6に沿って配置された第1梁材12aの側面に連続させて廻り縁28を付設し、その廻り縁28の上に化粧板18の端部が載っている。図示例では、外壁6が型枠の側板を兼ねており、防湿層20であるシートの外周部は、化粧板18と外壁6との間の隅部で屈曲して上方へ延びる延長部分20aに形成している。しかしこの構成は適宜変更することができる。
【0063】
図7は、根太16と第2梁材12bとの接合個所を、この接合個所を通る断面として示しており、また
図8は、上記接合個所を少し離れた場所から見た断面を示している。その第2梁材12bは、根太受け材として、両側面の上部に前述の切欠14を有しており、この切欠14に根太16の端部16eを嵌合させている。なお、図示例と異なり、化粧板18を防湿層20と梁の上面との間に介在させ、化粧板18及び防湿層20を介して固定棒22の下半部を梁材(第2梁材・第1梁材のいずれでもよい)内に打ち込むようにしてもよい。
【0064】
図示例では、
図8に示すように、上記第2梁材12bの上面両側部に浅い切込み15を形成してこの切込み15内に化粧板18の端部を埋め込むようにしている。また防湿層20は、第2梁材12bの上面を経て隣接する2つの第2梁材12bの各上面に連続的に延びている。こうすることでコンクリート打設作業において化粧板18と第2梁材12bとの隙間から生コンクリートが流れ落ちないようにするためである。図示の化粧板18及び第2梁材12bの上面は面一に形成されている。これらの構造は第1梁材12aにも適用できる。
【0065】
また床スラブ24は
図7に示すように第2梁材12bの上面を経てその両側に連続している。
【0066】
図10は、
図7〜6の変形例を示す。この構成では第2梁材12bの側面上部に廻り縁28を取り付け、この廻り縁28の上に化粧板18を係止させている。
【0067】
図11は、
図7〜8のさらに他の変形例を示す。この構成では、第2梁材12bを、プレキャストコンクリート製とし、その第2梁材12bの側面上部に根太を端部下部より支持するための根太受け材34を、アンカーボルト35などにより第2梁材12bに付設し、廻り縁28及び前記第2梁材12bの両側面と下面に木製又は木材に見える素材(例えば化粧用木材36)で囲った化粧梁としている。同図中、37は胴縁である。また上記廻り縁28の上に化粧板18を係止させており、また前記第2梁材12bの上面は、床スラブ24に接している。第2梁材12bは、図示例では床スラブ24と別体であるプレキャストコンクリートとしているが、床スラブ24と一体の鉄筋コンクリート製として現場で打設してもよい。これらの構造は第1梁材12aにも適用できる。なお、根太受け材34は、木製又は金属製としている。
【0068】
次に
図12を用いて本願発明の合成床構造の製造手順を説明する。
(1)
図12(A)に示すように複数の根太16を一定の間隔で梁材12の間に架設する。従来の型枠施工法に比べて、同図に想像線で示す、型枠の底板を支える支保工を構築する手順を省くことができるため、作業が容易となる。そしてこれら根太16の上に化粧板18を載置する。化粧板18の周端は、床スラブ打設エリアAの側面A
1に突きあわせる。この側面A
1は耐火構造物2の一部(例えば外壁6の内面や建物内部の壁の表面)とすればよい。
(2)次に
図12(B)に示すように化粧板18の上面から床スラブ打設エリアAの側面A
1に亘って防湿層20を敷設する。そして防湿層20及び化粧板18を貫通させて、固定棒22の下半部を根太16内に打ち込む。これによりコンクリートの型枠が完成する。
(3)次に床スラブ打設エリアA内に鉄筋26a,26bを配筋し、コンクリートを流し込む。そしてコンクリートを養生させ、養生期間が終了したら、化粧板18及び根太16はそのまま残して仕上げる。
【0069】
このように本発明の方法によれば、コンクリート硬化後に型枠として使用した化粧板を解体せずに、その下面を仕上げ面とすることができる。ここで、従来の木製型枠を用いた床構造の構築方法では、コンクリート硬化後に型枠とした木製型枠を解体する行程を含む。この行程では、例えば、2階の床構造(即ち、1階の天井に相当する。)を構築した場合、1階から天井に貼り付いている木製型枠を剥ぎ落とす。このため、2階の床構造を構築した場合、木製型枠を解体するまで、1階の仕上げ工事に入ることができない。即ち、従来の木製型枠を用いた床構造の構築方法では、コンクリート硬化には通常4週間程度かかるため、ある階の床のコンクリートを打設した後、4週間はある階の1つ下の階の仕上げ工事に入ることできなかった。しかしながら、第9の手段に係る発明によれば、化粧板を解体しないので、解体を待つことなく、仕上げ工事に入ることができるので、工期を短縮できる。
【0070】
さらに本発明の方法は木製の根太も解体せずに仕上げ材として残すものである。従来の床構造の構築方法において、コンクリートの型枠である木製型枠を支持する根太は、コンクリート硬化後に解体されるのが前提であるため、建築物の支持手段に結合されることはない。このため、例えば、2階の床構造を構築する場合、1階の床に支保工を設置し、この支保工の上に大引きを設置し、この大引きの上に根太が設置される。そして、コンクリート硬化後に、これら支保工、大引き及び根太は解体され建築物外へ搬出される。即ち、従来の木製型枠を用いた床構造の構築方法では、最終的には解体され搬出されることを前提とした支保工、大引き及び根太を設置し搬出していた。しかしながら、根太を仕上げ材として残す本願発明によれば、根太を建築物の支持手段に接合してコンクリートを打設し、そのまま仕上げ材としたので、最終的には解体され搬出されることを前提とした資材を設置し搬出することがないので、労力を大幅に軽減できる。
【0071】
図13は、本願発明の合成床構造の製造手順の変形例を示す。この例では、耐火構造物の一部の代わりに耐火構造物に対して保持材Nを介して支持された型枠用側板Mを用いて、この内面を型枠の一部とする。
【0072】
すなわち同図(A)に示すように上記側板Mを型枠の一部として、型枠内にコンクリートを打設する。コンクリートが硬化した後に同図(B)に示すように上記側板M及び保持材Nを取り除く。この側板Mは、合成床構造の一部ではない。側板Mとしては、木製、または金属製が好適である。
【0073】
図14は、
図13の手順のさらに他の変形例である。この例では廻り縁28の上面から上記側板Mが起立するように図示しない保持手段で固定している。
【0074】
上記構成によれば、コンクリートの打設作業中においては、化粧板18の上に防湿層20が設けられているので、化粧板18が液状のコンクリートから水分を吸って変形することが防止される。またコンクリートの硬化後には、例えば室内の空気の乾燥により木製の化粧板18・根太16・第2梁材12bも乾燥して例えば
図15のように収縮変形する。同図は、根太16と第2梁材12bとがそれぞれ矢印の方向に収縮変形している形態を示しており、かつ作図の便宜上から変形量を強調して描いている。しかし防湿層20が絶縁シートとして作用するため、化粧板18がひび割れなどを生ずることを大幅に低減することができる。
【0075】
次に
図16〜
図18を用いて本発明の第2実施形態を説明する。この実施形態では、上記構造物を耐火構造物としている。
図16〜
図18は、床スラブと第2梁材12bとの接合個所のみを示しているが、それ以外の構成については第1実施形態の図面及び文章を援用する。
【0076】
本実施形態では、柱4は耐火柱とする。耐火柱は、鉄筋コンクリート製でもよいが、特許文献1に記載の通り、荷重を支える芯材の周りを燃え止まり層及び燃え代層で囲った多重構造の複合木造部材としてもよい。芯材・燃え止まり層・燃え代層の説明は、梁材の説明として合わせて行う。なお、燃え代層を十分厚くするときには、燃え止まり層は省略してもよい。
【0077】
梁材12も芯材40と燃え止まり層44と燃え代層46とで構成しているが、芯材40の上側は燃え止まり層44及び燃え代層46を省略して、床スラブ24で被覆している。
【0078】
図示の芯材40は四角形状であるが、その構造は適宜変更することができる。芯材40の下面及び両側面側には、断面凹字形の木製の燃え代層46が配置されており、芯材40と燃え代層46との間には木製の燃え止まり層44が配置されている。
【0079】
まず従来公知の事柄として、芯材40、燃え止まり層44、燃え代層46の性質を説明する。
【0080】
上記芯材40は、少なくとも床の固定荷重を(好ましくは長期荷重を)支える部材である。芯材40は、単一の部材又は多数の単材を接着剤で接合した部材として構成することができる。芯材は木材で形成してもよいが、その他の部材で形成してもよい。
【0081】
上記燃え止まり層44は、燃え代層46に比べて熱慣性の高い材料で形成されている。素材の熱伝導率をk、密度をρ、比熱をcとすると、熱慣性は、熱伝導率と密度と比熱の積の平方根(kρc)
1/2で表される。熱慣性の調整は、熱伝導率・密度・比熱の何れを変更することで行っても構わない。熱伝導率の調整は繊維の方向を変えることで、密度の調整は樹種の選択・圧縮加工・密度調整剤の注入により行う。密度で調整を行う場合には、密度の比が1.3以上であることが望ましい。低密度の木材としては、バルサ(200)、キリ(300)、ベイスギ(310)が知られており、高密度の木材としては、ベイヒバ(510)、ベイマツ(550)、カツラ(550)などが知られている。かっこ内の数値は密度(kg/m
3)である。
【0082】
上記燃え代層46は、燃焼により炭化層となり、燃え止まり層44を覆う機能を有する。炭化層と未燃焼の木材部分との間には熱分解層ができるが、炭化層が厚いほど熱の流入が遅くなり、燃焼に時間がかかる。燃え代層46の厚さは、火災時の炭化速度と、要求耐火時間とから決定することができる。
【0083】
燃え止まり層44及び燃え代層46は、複数の単材を接着剤で接着することで芯材40の周りに沿った形状に形成することができる。また芯材40と燃え止まり層44との間、燃え止まり層44及び燃え代層46との間は接着剤などで適宜連結するとよい。
【0084】
本発明においては、芯材40の表面に、鉄筋コンクリート製の床スラブ24を、燃え止まり層44及び燃え代層46を介在させずに載置している。芯材40の上面をコンクリートで被覆することで耐火性は確保できるからである。また仮に芯材40と床スラブ24との間に燃え代層46を介在させた場合には、燃え代層46の樹種の選択が難しいなどの問題を生ずる。前述の通り燃え代層46は低密度であることが望ましいが、そうすると低密度材は一般に強度も低いので床スラブの荷重を支えることができない可能性がある。なお、図示の梁材は小梁(第2梁材12b)であるが、大梁にも同様の構造を適用できる。
【0085】
上記芯材40の上面には凹凸部42を設けて床スラブ24と係合させる。これにより床スラブが水平方向へ相対移動することを抑制することができる。また燃え代層46と床スラブ24との間には化粧板18及び防湿層20の各側端部を挟むようにしている。化粧板18の側端面と燃え止まり層44との間には
図16に示すように距離dをとるものとする。耐火性能を十分に発揮できるようにするためである。
【0086】
また上記化粧板18の端面には止水材32を適用する。この止水材32は、床スラブへのコンクリート打設後、硬化までの間、コンクリートからの水分やノロ等の化粧板18への浸み出しを防止できる素材であれば、粘着テープ(基材がクラフト、ポリプロピレン、または布)や塗布型の防湿剤の簡易な手段でも良く、不定形シールも好適である。むしろ、防湿層20には、絶縁シートとしての機能が求められるからである。
【0087】
図18は、本実施形態の変形例を示している。本実施形態では、梁材の側面に廻り縁28を付設して、廻り縁28の上に化粧板18及び防湿層20の各端部を係止させている。本変形例では、燃え止まり層44と燃え代層46と防湿層20との各上面は面一に(換言すれば等高に)なっている。この構成によれば、燃え代層46の材長方向の側面に沿って加工し化粧板18を載置することができるので、当該作業を簡素化できる。
【0088】
また図示例の防湿層20は化粧板18とともに燃え代層46の手前で終端しているが、化粧板18の端部よりも内方へ延長して燃え止まり層44と燃え代層46との境界で終端するようにしてもよい。
【0089】
なお、以上の実施形態は本発明の好適な一例であり、本発明の性質に反しない限り、その具体的構成を変更することを妨げるものではない。特に素材の種類、形状などに関する説明は、作用・機能から本発明に必須のものでない限り、発明の理解を助けるための具体例として挙げられたものである。
【0090】
例えば、本実施形態では、化粧板18の下面に根太16を配置し、床スラブ24と根太16とを固定棒22で結合したが、これに限らず、根太16及び固定棒22を設けないこともできる。また、本実施形態では、合成床構造10を地上階の床構造に適用した場合について説明したが、これに限らず、合成床構造10は地下階の合成床構造としても適用できる。さらにまた、本実施形態における合成床構造10の床スラブ24の厚さ、化粧板18の厚さ、根太16の断面寸法は、これに限らず、各スパン(支持点間距離)の合成床構造10の面積に応じて、構造計算により求められる適正な寸法とすることができる。