特許第5903358号(P5903358)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5903358
(24)【登録日】2016年3月18日
(45)【発行日】2016年4月13日
(54)【発明の名称】ポリオレフィンの組成分布分析方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 30/88 20060101AFI20160331BHJP
   G01N 30/34 20060101ALI20160331BHJP
   G01N 30/54 20060101ALI20160331BHJP
【FI】
   G01N30/88 P
   G01N30/34 E
   G01N30/54 D
   G01N30/88 101J
【請求項の数】3
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-202428(P2012-202428)
(22)【出願日】2012年9月14日
(65)【公開番号】特開2014-55924(P2014-55924A)
(43)【公開日】2014年3月27日
【審査請求日】2014年11月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】596133485
【氏名又は名称】日本ポリプロ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】303060664
【氏名又は名称】日本ポリエチレン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 達人
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 典輝
(72)【発明者】
【氏名】坂田 和也
【審査官】 黒田 浩一
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2011/084786(WO,A1)
【文献】 国際公開第2010/042389(WO,A2)
【文献】 A ROY,DEVELOPMENT OF COMPREHENSIVE TWO-DIMENSIONAL HIGH TEPERATURE LIQUID CHROMATOGRAPHY x GEL PERMEATION CHROMATOGRAPHY FOR CHARACTERIZATION OF POLYOLEFINS,MACROMOLECULES,2010年 3月29日,V43 N8,P3710-3713
【文献】 Tibor Macko, Robert Brull, Yutian Zhu, Yongmei Wang,A review on the development of liquid chromatography systems for polyolefins,Journal of Separation Science,ドイツ,WILEY-VCH Verlag GmbH & Co. KGaA,Weinheim,2010年,Vol.31, No.1,pp.3446-3454
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 30/00−30/96
JSTPlus(DreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホモポリプロピレン(HPP)とランダムポリプロピレン(プロピレン・エチレン・ランダム共重合体、RCP)との混合物又は種類の異なるRCPの混合物からなるポリオレフィン試料の組成分布を分析する方法であって、
前記ポリオレフィン試料を含む試料溶液をカラムに充填し、前記ポリオレフィン試料を固定相に吸着させる充填工程(A)と、前記カラムに通液する溶媒の組成を変化させる溶媒グラジエントにより、固定相に吸着された前記ポリオレフィン試料を脱離し、溶出させる溶出工程(B)を、含み、
前記溶出工程(B)における溶媒グラジエントは、貧溶媒から良溶媒へと徐々に変化させる溶媒グラジエントであり、かつポリオレフィン試料脱離時のグラジエント勾配が2%/分以上、6.25%/分以下となることを特徴とするポリオレフィンの組成分布分析方法。
【請求項2】
前記カラムは、グラファイトを主成分とする固定相を含み、カラム温度が110〜170℃であることを特徴とする請求項1に記載のポリオレフィンの組成分布分析方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のポリオレフィンの組成分布分析方法を用いることを特徴とする樹脂の品質管理方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリオレフィンの組成分布分析方法に関し、さらに詳しくは、溶媒グラジエント液体クロマトグラフィー(以下、LCとも記載。)を用いて、極めて精密に組成分布を得ることができる、二種以上のポリオレフィンからなるポリオレフィン試料の組成分布分析方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、ポリオレフィンは、分子量、化学組成、立体規則性等の分子構造のいずれか又は全てについて不均一な混合物である。ポリオレフィンの品質は、特に組成分布に大きく影響される。従って、組成分布に関して正しい情報を得ることは、ポリオレフィンの品質改良には欠かせない。
【0003】
従来、ポリオレフィンの組成分布を分析する手段として、昇温溶出分別(Temperature Rising Elution Fractionation;TREF)が広く用いられている(例えば、特許文献1および非特許文献1参照)。昇温溶出分別は、結晶性の異なる複数のポリオレフィンを含む組成物について、その組成を測定する手段としても用いられている。
昇温溶出分別法において、結晶化工程は、通常10℃/時間〜5℃/分の冷却速度で行われるが、混合物は、共結晶化が起こってしまい、続く溶出工程において、上手く分離できない問題があった。すなわち、混合物の場合、期待される溶出曲線の形状は、個々の試料の溶出曲線を重ね合わせた形状であるのに、共晶化によってあたかも単一成分かのごとき形状になってしまう問題があった。これでは、未知のサンプルについて、その溶出曲線から配合割合などを測定できないこととなる。
【0004】
共結晶化を避けてポリオレフィンの溶出曲線を得るため、結晶化に伴う冷却速度は、たとえば2℃/時間で行うなど、極めて低速度で冷却する方法がある。しかしながら、これでは多大な時間を要する(例えば、非特許文献2参照。)。また、比較的融点の近いポリプロピレン(以下、PPとも記載する。)混合物、例えば、ホモポリプロピレン(HPP)とランダムポリプロピレン(プロピレン・エチレン・ランダム共重合体、RCP)との混合物や、種類の異なるRCPの混合物は、共結晶化の影響が著しく、1℃/時間と長時間にわたる測定を実施しても、各々を精密に分離できていない(例えば、非特許文献3参照。)。
【0005】
また、共結晶化を避ける別の方法として、結晶化工程において、カラムの冷却と加熱とからなる一連の操作を所定の条件で繰り返す温度制御手段がある。しかしながら、この方法では、精密な温度制御を要することから、特殊な装置が必要となる(特許文献2参照。)。
【0006】
一方、グラファイトを固定相としたカラムを用いた高温グラジエントLCによる組成分布分析があるが、アイソタクチックPP、アタクチックPP、シンジオタクチックPPのように、極端に融点の異なるPPの分離は、できるものの、比較的融点の近いPP混合物の分離ができるほどの分解能は得られていない(例えば、非特許文献4参照。)。
【0007】
したがって、結晶性の異なる複数のポリオレフィンを含む組成物を分析する際に、各成分を分離し、精密に組成分布を得ることができる分析方法が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平05−080038号公報
【特許文献2】特開2012−032385号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Polymer Preprint,Am.Chem.Soc.,Polym.Chem.Div.,1977年、18巻、p182.
【非特許文献2】J. Polym. Sci. Polym. Phys. Edn.,1982年、20巻,p441.
【非特許文献3】高分子討論会予稿集、1997年、46巻、p4149.
【非特許文献4】J. Sep. Sci.,2010年、33巻,p3446.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、上記の従来技術の問題点に鑑み、従来技術では、分離できなかった結晶性のポリオレフィン試料について、極めて精密に組成分布を得ることができる、二種以上のポリオレフィンからなるポリオレフィン試料の組成分布分析方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、試料溶液をカラムに充填し、試料を固定相に吸着させる充填工程および試料を溶出させる溶出工程を含むポリオレフィンの組成分布分析方法において、前記溶出工程は、通液する溶媒を貧溶媒から良溶媒へと徐々に変化させる溶媒グラジエントにおいて、所定のグラジエント勾配で行う分析方法により、上記課題が解決できることを見出した。それらの知見に、さらに検討を重ね、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明の第1の発明によれば、ホモポリプロピレン(HPP)とランダムポリプロピレン(プロピレン・エチレン・ランダム共重合体、RCP)との混合物又は種類の異なるRCPの混合物からなるポリオレフィン試料の組成分布を分析する方法であって、
前記ポリオレフィン試料を含む試料溶液をカラムに充填し、前記ポリオレフィン試料を固定相に吸着させる充填工程(A)と、前記カラムに通液する溶媒の組成を変化させる溶媒グラジエントにより、固定相に吸着された前記ポリオレフィン試料を脱離し、溶出させる溶出工程(B)を、含み、
前記溶出工程(B)における溶媒グラジエントは、貧溶媒から良溶媒へと徐々に変化させる溶媒グラジエントであり、かつポリオレフィン試料脱離時のグラジエント勾配が2%/分以上、6.25%/分以下となることを特徴とするポリオレフィンの組成分布分析方法が提供される。
【0013】
また、本発明の第2の発明によれば、第1の発明において、前記カラムは、グラファイトを主成分とする固定相を含み、カラム温度が110〜170℃であることを特徴とするポリオレフィンの組成分布分析方法が提供される。
【0014】
また、本発明の第3の発明によれば、第1又は2の発明に係るポリオレフィンの組成分布分析方法を用いることを特徴とする樹脂の品質管理方法が提供される
【発明の効果】
【0015】
本発明のポリオレフィンの組成分布分析方法は、特定の溶媒組成制御手法を用いることにより、複数の成分を混合させた混合ポリオレフィン試料を、極めて精密に分離し、その組成分布を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、本発明の好ましい一実施態様における充填工程及び溶出工程の溶媒組成制御を示した概念図である。
図2図2は、本発明の好ましい一実施態様における分析装置を示した概念図である。
図3図3は、溶出工程における溶媒組成制御の例を示した概念図である。
図4図4は、実施例1における溶媒組成制御図である。
図5図5は、実施例1におけるクロマトグラムである。
図6図6は、実施例2におけるクロマトグラムである。
図7図7は、実施例3におけるクロマトグラムである。
図8図8は、比較例1におけるクロマトグラムである。
図9図9は、比較例2におけるクロマトグラムである。
図10図10は、比較例3におけるクロマトグラムである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明のポリオレフィンの組成分布分析方法は、二種以上のポリオレフィンからなるポリオレフィン試料の組成分布を分析する方法であって、
前記ポリオレフィン試料を含む試料溶液をカラムに充填し、前記試料を固定相に吸着させる充填工程(A)と、
前記カラムに通液する溶媒の組成を貧溶媒から良溶媒へと徐々に変化させる溶媒グラジエントにより、固定相に吸着された前記ポリオレフィン試料を脱離し溶出させる溶出工程(B)とを含み、該溶出工程(B)は、試料脱離時のグラジエント勾配が8%/分以下となる溶媒グラジエントを行うことを特徴とする。
以下、本発明のポリオレフィンの組成分布分析方法について、各項目毎に、詳細に説明する。
【0018】
1.分析方法
本発明のポリオレフィンの組成分布分析方法は、溶媒グラジエントLCを用いるものである。溶媒グラジエントLCによる分析方法は、一般的に、以下のような工程により、行なわれる。
(1)溶媒を用いてポリオレフィン試料を加熱溶解し、試料溶液を作製する(試料溶液作製工程)。
(2)(1)で作製したポリオレフィン試料を含む試料溶液を、カラムに充填し、試料を固定相に吸着させる(充填工程)。
(3)前記カラムに通液する溶媒の組成を貧溶媒から良溶媒へと徐々に変化させる溶媒グラジエントにより、固定相に吸着されたポリオレフィン試料を溶出させる(溶出工程)。
【0019】
この後、溶出されたポリオレフィン成分を、蒸発光散乱検出器等の検出器を用いて、検出し、さらに、溶出時の時間とその時間で溶出したポリオレフィン量またはポリオレフィンの相対濃度をプロットすることにより、試料の組成分布と密接に相関するクロマトグラムが得られる。また、試料ポリオレフィン種の組成と試料が溶出する時間との相関を捉えれば、クロマトグラムを組成分布に変換することができる。
【0020】
本発明の分析方法の原理を、好ましい一実施態様である概念図(図1)を用いて、以下に説明する。
(1)試料溶液作製工程
結晶性ポリオレフィン試料を溶媒と混合し、加熱して、均一な試料溶液にする(試料溶液作製工程)。
溶液濃度は、低くすぎると、測定精度が低下し、高すぎると、溶液の粘度が高くなり、閉塞の原因となるので、0.01〜10mg/mlが好ましい。加熱温度は、分析対象となるポリマー(樹脂)により、適宜選択して決められるが、例えば、ポリプロピレンの場合は、140℃程度が好ましい。
使用できる溶媒としては、具体的には、ハロゲン置換されていても良い芳香族炭化水素、例えば、オルトジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン、トルエン、キシレン等;脂肪族直鎖または分岐炭化水素、例えばn−オクタン、n−デカン等を挙げることができ、これらいずれか1種類でも複数の混合物でも良く、また、アルコール類等を含んでいても良い。好ましくは、オルトジクロロベンゼンまたはトリクロロベンゼンから選択される。また、酸化防止剤、例えば、BHT(ジ−t−ブチル−p−クレゾール)、Irganox1010(テトラキス−[メチレン−(3,5−ジ−第3ブチル−4−ハイドロキシ−ハイドロシンナメート)ブタン])等を溶媒に添加することも、できる。
【0021】
調製した試料溶液を、試料注入口にて、装置系内に所定量を保持する。インジェクターの温度は、ポリマーが析出しない程度の高温に保っている必要があり、例えば、ポリプロピレンの場合は、140℃程度が好ましい。注入量は、最低でもサンプルループの容量分を必要とする。また、サンプルループの容量は、検出器の感度に依存する。例えば、検出器に、蒸発光散乱検出器を用い、ポリプロピレンを試料に用いた場合、サンプルループ容量は、5μL以上であることが好ましい。
【0022】
(2)充填工程(A)
装置系内に保持された試料溶液は、ポンプによって溶媒を送液することによって、カラムに保持する(充填工程)。
本発明において、充填工程は、特に限定はなく、通常行われる方法で行うことができる。
移動相溶媒は、アルコール類やケトン類等を主成分とする貧溶媒を用いる。好ましくは、2−n−ブトキシエタノール、2−エチルヘキサノール、1−デカノール、1−オクタノール又はシクロヘキサノンから、選択される。
【0023】
(3)溶出工程(B)
充填工程(A)が終了した後、カラムに通液する溶媒の組成を、貧溶媒から良溶媒へと徐々に変化させる溶媒グラジエントにより、固定相に吸着されたポリオレフィン試料を脱離し溶出させる(溶出工程)。
貧溶媒は、アルコール類やケトン類等を主成分とする溶媒を用いる。好ましくは、2−n−ブトキシエタノール、2−エチルヘキサノール、1−デカノール、1−オクタノール又はシクロヘキサノンから、選択される。
また、良溶媒は、具体的には、ハロゲン置換されていても良い芳香族炭化水素、例えばオルトジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン、トルエン、キシレン等;脂肪族直鎖または分岐炭化水素、例えば、n−オクタン、n−デカン等を挙げることができ、これらのいずれか1種類でも複数の混合物でも良く、また、アルコール類等を含んでいても良い。好ましくは、オルトジクロロベンゼンまたはトリクロロベンゼンから、選択される。
ここで、貧溶媒とは、ポリオレフィンに対し、溶解性の乏しい溶媒であり、溶解度パラメータが比較的高い数値を示す溶媒であり、一方、良溶媒とは、ポリオレフィンに対し、溶解性の高い溶媒であり、溶解度パラメータが比較的低い数値を示す溶媒である。
【0024】
溶媒グラジエントは、ポンプにて溶媒を送液しつつ、必ずしも一定の勾配で溶媒組成を変化させる必要は無く、例えば、図3のような種々のパターンやそれらの組み合わせを使用することができる。ただし、吸着したポリマーが脱離する溶媒組成が不明な場合や、広範囲の樹脂組成域に対して、分析を行う場合は、測定中に勾配を変えないほうが扱いやすく、好ましい。
グラジエント勾配は、ポリマーが脱離する際に、8%/分以下として行うことが好ましく、6%以下として行うことがより好ましい。前記勾配が8%/分を上回ると、複数成分の分離の分解能が悪化する。また、前記勾配が8%/分以下であるならば、分解能の点では、勾配に対し特に下限は無いが、勾配が小さいと、その分測定時間が長くなり、効率が悪化するため、1%/分以上で行うのが好ましく、2%/分以上で行うのがより好ましい。
【0025】
2.装置
本発明における装置は、上述のポリオレフィンの組成分布分析方法を行う装置であって、溶媒グラジエントを行うことを特徴とする。
本発明のポリオレフィンの組成分布分析手法を適用する、好ましい一実施態様の分析装置の概念図を、図2に示す。
図2において、組成分布分析装置は、貧溶媒を貯留する溶媒タンク11、良溶媒を貯留する溶媒タンク12、溶媒を連続的にカラムへ送入するためのポンプ13、試料を導入する試料注入口14、ポリオレフィンを分離するカラム15、カラムの温度を制御する恒温槽16、ポリオレフィンを検出する検出器17からなる。
尚、前記以外の機器や設備が付随していても良い。例えば、溶媒グラジエントカラムの前もしくは後に、SECカラムやフラクションコレクターが付随していても良い。また、通常は、試料を溶液とするための設備が別途必要である。各構成手段を以下に説明する。
【0026】
移動相を貯留する溶媒タンクとしては、形状及び大きさに限定は無いが、使用する溶媒による腐食が無い材質のものが用いられる。例えば、ガラス製やステンレススチール製が好ましい。
【0027】
溶媒を連続的にカラムへ送入するためのポンプは、形には特に制限はなく、回転式、往復式等の容量ポンプ、遠心式、軸流式、斜流式などのターボ型ポンプ等を用いることができ、複数のポンプを組み合わせて用いても良いが、特に、流量精度の高い液体クロマトグラフィー用のグラジエントポンプなどが好適に用いられる。
【0028】
試料溶液をカラムへ注入するための手段は、インジェクターであり、インジェクターとしては、耐熱性を持った4方バルブ、6方バルブ等を用いたものが良く、サンプルループは、1ml以上の容量を持っているものが好ましい。また、オートサンプラーを組み合わせたものでも良い。
【0029】
ポリオレフィンを分離するカラムは、耐熱性に問題が無ければ、特に形状および大きさに、制限はない。実効容積が0.01〜10mlとなるように、グラファイトを主成分とした担体を充填した小型のカラムが好ましい。
【0030】
カラムの温度を制御する恒温槽は、形状と大きさに限定は無く、空気恒温槽やアルミ等の金属からなるヒートブロックを使用することができる。
温度制御装置としては、例えば、プログラム温度調節器などが用いられる。
【0031】
カラムを通過した溶液のポリマー濃度変化を連続的に検出し、クロマトグラムを得るための手段としては、分析対象となるポリマーにより、適宜選択して決められるが、例えば、蒸発光散乱検出器、赤外分光光度計、ラマン分光光度計、示差屈折計、差圧粘度計、光散乱検出器などが用いられる。また、複数の検出器を組み合わせて用いることもできる。
【0032】
本発明のポリオレフィンの組成分布分析方法において、試料であるポリオレフィンとしては、ポリオレフィンであれば特に限定されないが、試料としては二種以上のポリオレフィンを含むポリオレフィン組成物であることが好ましい。例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリプロピレンとエチレン−プロピレン共重合体の混合物であるブロックポリプロピレン、並びにこれらの混合物などが挙げられる。
また、好ましくは、前記ポリオレフィン試料は、同種のポリオレフィンを二種以上含む結晶性ポリオレフィン組成物である。ここで、同種とは、構造や融点が比較的近いPPのことであり、例えば、HPPとRCPとの混合物や、種類の異なるRCPの混合物等が挙げられる。
本発明のポリオレフィンの組成分布分析方法においては、上記のような試料であっても、極めて精密に各成分を分離することができる。
【0033】
本発明のポリオレフィンの組成分布分析方法は、上記の特徴を有しているために、ポリプロピレンなどのポリオレフィンの品質管理の一方法として、好適に用いることができ、また、ポリプロピレンなどのポリオレフィンの製造方法における得られた樹脂製品の品質管理の一手段としても、好適に用いることができる。
【実施例】
【0034】
以下の実施例により、本発明をさらに詳しく説明するが、本発明は、これらに限定されない。
[測定方法]
(1)分析装置
装置概略図は、図2に示したとおりである。その仕様は、以下のとおりである。
溶媒タンク:DURAN製ガラスボトル、5L
ポンプ:DIONEX社 UltiMate3000(2液グラジエント可能)
インジェクター:バルコ社製、6ポート(サンプルループ:50μl)
カラム:Thermo Scientific社 HYPERCARB 4.6mmφ×100mm
バルブ、カラム恒温槽:サイニックス社特注恒温槽
検出器:Polymer Laboratories社(Agilent社)、PL−ELS1000
【0035】
(2)分析条件
分析条件は、以下のとおり。
恒温槽:
・バルブ恒温槽:140℃
・カラム恒温槽:140℃
溶媒:
・極性溶媒(貧溶媒):2−n−ブトキシエタノール
・無極性溶媒(良溶媒):オルトジクロロベンゼン
流速:1ml/分
注入量:0.05ml(サンプルループ同容量)
試料濃度:0.05mg/ml
ELSD検出器:
・エバポレータ温度:210℃
・ネブライザー温度:170℃
・窒素ガス流量:1.2SML
【0036】
(3)試料
(i)日本ポリプロピレン株式会社製ホモポリプロピレン:MA25(MFR=14)
(ii)日本ポリプロピレン株式会社製ランダムポリプロピレン:FX3A(MFR=9)
(iii)上記MA25:FX3Aの1:1混合物
【0037】
[実施例1]
上記装置、条件、試料により、グラジエントLCを用いた組成分布分析を行った。
溶媒組成制御条件は、以下のとおりである。溶媒組成制御の概略図は、図1に、また、溶媒組成制御図は、図4に示した。
【0038】
時間(min) 良溶媒%
0 0
1 0
21 100
26 100
27 0
30 0
・グラジエント勾配:5%/分
測定結果として、クロマトグラムを図5に示す。
【0039】
[実施例2]
溶媒制御条件以外は、実施例1と同様にして、組成分布分析を行った。
溶媒制御条件は、以下のとおりである。
【0040】
時間(min) 良溶媒%
0 0
1 0
41 100
46 100
47 0
50 0
・グラジエント勾配:2.5%/分
測定結果として、クロマトグラムを図6に示す。
【0041】
[実施例3]
溶媒制御条件以外は、実施例1と同様にして、組成分布分析を行った。
溶媒制御条件は、以下のとおりである。
【0042】
時間(min) 良溶媒%
0 0
1 0
17 100
22 100
23 0
26 0
・グラジエント勾配:6.25%/分
測定結果として、クロマトグラムを図7に示す。
【0043】
[比較例1]
溶媒制御条件以外は、実施例1と同様にして、組成分布分析を行った。
溶媒制御条件は、以下のとおりである。
【0044】
時間(min) 良溶媒%
0 0
1 0
6 100
11 100
12 0
15 0
・グラジエント勾配:20%/分
測定結果として、クロマトグラムを図8に示す。
【0045】
[比較例2]
カラムを2本連結した以外は、比較例1と同様にして、組成分布分析を行った。
測定結果として、クロマトグラムを図9に示す。
【0046】
[比較例3]
溶媒制御条件以外は、実施例1と同様にして、組成分布分析を行った。
溶媒制御条件は、以下のとおりである。
【0047】
時間(min) 良溶媒%
0 0
1 0
11 100
16 100
17 0
20 0
・グラジエント勾配:10%/分
測定結果として、クロマトグラムを図10に示す。
【0048】
[評価]
図5図10のクロマトグラムから、明らかなように、本発明の特定事項である「試料脱離時のグラジエント勾配が8%/分以下となる溶媒グラジエントを行うこと」との要件を満たさない方法による比較例1〜3は、2つの結晶成分を分離する結果が得られなかったのに対して、本発明による実施例1〜3は、2つの結晶成分を分離する結果が得られ、本発明の有用性が確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明によれば、本発明の溶媒組成制御方法により、従来では成し得なかった結晶成分の分離を行うことができ、産業上、非常に有用である。
【符号の説明】
【0050】
11 溶媒タンク(貧溶媒)
12 溶媒タンク(良溶媒)
13 グラジエントポンプ
14 試料注入口
15 カラム
16 恒温槽
17 検出器
18 廃液
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10