(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の粘着シート、および、刺繍用シートの一実施形態について、添付の
図1〜3を参照しながら説明する。
なお、本明細書において説明する不透明度とは、JIS P 8149に準拠した方法で測定されるものであり、本明細書中においては、粘着シート(刺繍用シート)のシートの厚み方向全体での不透明度を示す指標としている。
【0013】
本実施形態においては、本発明に係る粘着シートを、
図1〜3に示すような刺繍用シート1に適用した場合を例に挙げて説明する。
【0014】
<刺繍用シート(粘着シート)の構成>
本実施形態の刺繍用シート(粘着シート)1は、
図2に示すように、剥離紙(セパレータ)4と、粘着剤層3と、表面基材2とがこの順で積層されてなる。上記の粘着剤層3は、水溶性あるいは水分散性を有する粘着剤から形成され、かつ、上記の表面基材2は、水溶性あるいは水分散性を有する透明または半透明フィルムから形成されてなる。そして、刺繍用シート1は、シート全体におけるJIS P 8149に準拠した不透明度が20%以下とされ、概略構成されている。
【0015】
図1に示すように、本実施形態の刺繍用シート1は、表面基材2の表面2Aに、例えば、インクジェットプリンタによる印刷や、使用者がペンで書き込むことにより、刺繍を行なう際の縫製作業の基準となる表示パターン(図示略)がインクによって描画される。また、表示パターンは、表面基材2の表面へのエンボス形成によって描画することもできる。
【0016】
表面基材2の裏面2Bには、刺繍を施す基布(
図3中の布材50を参照)へ貼着・固定するための粘着剤層3が、表面基材2の全面にわたって形成されている。
さらに、表面基材2の裏面2Bには、粘着剤層3を保護するとともに、刺繍用シート1を使用する際に剥離できる剥離紙4が貼付されている。
【0017】
また、図示例においては、表面基材2は、平面視長方形状に形成されるとともに、剥離紙4は、表面基材2よりも若干大きな長さ寸法および幅寸法とされており、表面基材2の端部近傍から剥離紙4の表面が露出する大きさとされている。これにより、刺繍用シート1の使用時に、使用者が表面基材2を剥離紙4から剥がすのが容易な構成とされている。
【0018】
[表面基材]
表面基材2は、上述したように、水溶性を有する透明または半透明フィルムから形成される。表面基材2をなす水溶性の透明または半透明フィルムの材料としては、ポリビニルアルコール系樹脂であることが、筆記性に優れる点で特に好ましい。
【0019】
上記の水溶性ポリビニルアルコール系樹脂は、通常、酢酸ビニルを重合したポリ酢酸ビニルをケン化して製造されるものであるが、本発明では必ずしもこれに限定されるものではなく、少量の不飽和カルボン酸類(塩、エステル、アミド、ニトリル等を含む)、オレフィン類、ビニルエーテル類、不飽和スルホン酸塩類、ポリオキシアルキレンアリルエーテル類等で変性されたものでもよい。
【0020】
また、水溶性ポリビニルアルコール系樹脂のなかでも、特に、ケン化度が70〜100モル%が好ましく、75モル%以上がより好ましく、75〜99モル%が最も好ましい。このケン化度が70モル%未満だと水溶性が低下する傾向があることから好ましくない。
【0021】
また、水溶性ポリビニルアルコール系樹脂の重合度(平均重合度)は300以上であることが好ましく、300〜4000がより好ましく、500〜3000がさらに好ましい。この平均重合度が300未満だと、フィルムの強度が低下するおそれがある。一方、平均重合度が4000を越えると、フィルムの成膜性が低下することから好ましくない。
【0022】
また、水溶性ポリビニルアルコール系樹脂は、さらに、ポリビニルアルコール100重量部に対して、水溶性可塑剤30部以下を含有することが好ましい。このような水溶性の可塑剤としては、特に限定されないが、例えば、グリセリン、ジグリセリン、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコールなどのグリコール類等が挙げられる。
水溶性可塑剤の含有量が、ポリビニルアルコール100重量部に対して30部を超えると、表面基材が柔らかくなり過ぎて寸法安定性が低下する。一方、水溶性可塑剤の含有量がポリビニルアルコール100重量部に対して1部未満だと、表面基材の柔軟性が不足するため、刺繍用シートを用いて刺繍作業を行う際の糸切れや、表面基材における針穴からの破断等が生じるおそれがある。
【0023】
また、水溶性ポリビニルアルコール系樹脂は、さらに、ポリビニルアルコール100重量部に対して、界面活性剤5部以下を含有することが好ましい。界面活性剤の含有量が、ポリビニルアルコール100重量部に対して5部を超えると、フィルム(シート)表面に溶出することから、ブロッキングの原因となる。
【0024】
なお、本実施形態においては、表面基材2に水溶性のフィルムを用いた場合について説明しているが、例えば、水分散性のフィルムを表面基材に用いることも可能であり、この場合にも、上記同様の物性を備える材料を採用することができる。
【0025】
また、本発明においては、表面基材2をなす水溶性ポリビニルアルコール系樹脂に、上記各組成部の他、必要に応じて、例えば、防錆剤、着色剤、フィラー等を配合することも可能である。
【0026】
さらに、本実施形態では、表面基材2のフィルム厚みは特に限定されないが、5〜120μmであることが好ましい。表面基材2のフィルム厚みが5μm未満だと、機械的強度が低下するため、刺繍用シートを用いた刺繍性も低下するおそれがある。一方、表面基材2のフィルム厚みが120μmを超えると、水溶性や成膜効率の低下を招くことから好ましくない。
【0027】
[粘着剤層]
粘着剤層3は、上述したように、水溶性あるいは水分散性を有する粘着剤から形成される。
本実施形態では、粘着剤層3をなす粘着剤として水溶性のものを用いる場合には、ポリ(メタ)アクリルアミドを主成分とし、さらに、該主成分の柔軟化剤として水溶性可塑剤を含有する粘着剤を採用することができる。
また、粘着剤層3をなす粘着剤として水分散性のものを用いる場合には、アクリル酸を主成分とし、さらに、該主成分の柔軟化剤として水溶性可塑剤を含有するとともに、凝集力向上のための架橋剤を含有する粘着剤を採用することができる。
【0028】
(水溶性の粘着剤)
本実施形態において、粘着剤層3に用いる水溶性の粘着剤について以下に詳述する。
水溶性の粘着剤としては、特に限定されないが、従来からこの分野で使用されている水溶性の粘着剤を何ら制限無く用いることができ、例えば、特開2000−109774号公報に記載されたものを用いることができる。
【0029】
例えば、ベースポリマーとして、イタコン酸、マレイン酸、アクリル酸、メタクリル酸、または、これらの誘導体等のカルボン酸、また、そのカルボン酸塩やエステルを含有するモノマーを重合して得られるポリマー、あるいは、アクリル系ポリマー等を用いることができる。特に、(メタ)アクリルアミド、スルホン酸、カルボン酸、スチレンスルホン酸、または、これらの塩を含有するモノマーを重合させて得られるポリ(メタ)アクリルアミドが好適に用いられる。これらの中でも、スルホン酸塩またはカルボン酸塩を含有するモノマーを重合させて得られるアクリル系ポリマーが、機械的特性や取扱い性、水溶性等に優れている点で好ましい。さらに、これらのポリマーには、ビニル炭酸やその高重合体、アミロース、デキストリン、ポリビニルアルコールまたはニカワ等がブレンドされていてもよい。
【0030】
また、これらのベースポリマーを柔軟化するために、ポリアルキレングリコール、ポリエーテルポリオール、多価アルコール等の水溶性可塑剤を混合してもよい。さらに、ベースポリマーと可塑剤の相溶性を向上させるため、脂肪酸エステルの完全あるいは部分ケン化物の中和物であるアニオン性界面活性剤や、ポリオキシエチレンアルキルエーテル等のノニオン性界面活性剤、第4級アンモニウム塩を含有するカチオン性界面活性剤等を添加してもよい。
【0031】
さらに、必要に応じて、粘着付与剤、酸化防止剤等を、予め粘着剤に含有させてもよい。また、水溶性の表面基材2の水に対する分散溶解性の点から、これらの添加剤は水溶性であることが望ましい。なお、粘着剤層2には、水溶性以外の添加物が若干含まれていても構わないが、刺繍用シート(粘着シート)としての水に対する分散溶解性を考慮する必要がある。
【0032】
水溶性の粘着剤の粘度は、100,000mPa・s以下、特に、10,000mPa・s以下1mPa・s以上であることが好ましい。
【0033】
水溶性の表面基材2の裏面2B側に、水溶性の粘着剤層3を設ける方法としては、例えば、押出ラミネート法、ナイフコーター法、ローラーコート法、スプレー法等、従来公知の方法が挙げられる。そして、これらの方法により、粘着剤層3を表面基材2に直接形成してもよく、あるいは、一旦、粘着剤を後述の剥離紙4に塗布した後、この剥離紙4の粘着剤層3側に表面基材2を張り合わせる方法を採用してもよい。
【0034】
この際、粘着効果、接着力および水分散性等の観点から、粘着剤層3の厚さを1〜200μmとすることが好ましく、10〜100μmとするのがより好ましい。
【0035】
(水分散性の粘着剤)
本実施形態において、粘着剤層3に用いる水分散性の粘着剤について以下に詳述する。
水分散性の粘着剤としては、特に限定されないが、例えば、特開平11−140407号公報に記載されたものを用いることが可能であり、カルボキシル基含有モノマーおよび特定のアクリル系モノマーを主成分として乳化共重合して得られた共重合体に、中和アルカリと塩基性リン酸塩および特定の界面活性剤を含有してなる水分散液を用いることができる。
【0036】
より具体的には、例えば、「炭素数が4〜12のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル50〜90質量%」と、「アルコキシアルキル(メタ)アクリレレート5〜45質量%」と、「カルボキシル基含有モノマー5〜20質量%」および「その他の共重合性モノマー0〜30質量%」とを乳化共重合して得られた共重合体中のカルボキシル基の一部または全部をアルカリで中和した水分散液に対して、上記共重合体100重量部当たり塩基性リン酸塩を1〜10重量部、およびHLB9〜18の非イオン性界面活性剤を5〜40重量部含有してなる水離解性粘着剤組成物を用いることができる。
【0037】
さらに、上記の粘着剤組成物に、この組成物の共重合体100重量部当たりで脂肪酸石鹸を0.2〜3重量部添加することもできる。
【0038】
上記の炭素数が4〜12のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸イソノニル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ドデシル等が挙げられる。この成分は、粘着力と内部凝集力を与える成分であり、少なくとも50質量%の含有量が必要である。
【0039】
上記のアルコキシアルキル(メタ)アクリレートとしては、例えば、(メタ)アクリル酸メトキシエチル、(メタ)アクリル酸メトキシプロピル、(メタ)アクリル酸エトキシエチル、(メタ)アクリル酸エトキシプロピルなどが挙げられるが、特に、アクリル酸メトキシエチルまたはアクリル酸メトキシプロピルを10〜30質量%共重合せしめることが粘着剤組成物の粘着性と水分散性の両方が向上するので好ましい。
【0040】
上記のカルボキシル基含有モノマーとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸ダイマー、(メタ)アクリル酸のカプロラクタン付加物、エチレンオキサイド付加コハク酸モノアクリレートおよびイタコン酸、フマル酸、マレイン酸、あるいはそれらのモノアルキルエステルなどから選ばれた一種または二種以上が挙げられる。これらのカルボキシル基含有モノマーは、アルカリによって中和して粘着剤に水再分散性を付与する作用を有し、少なくとも5質量%が必要である。また、共重合割合が多過ぎると粘着性が低下することから20質量%以下を使用が好ましい。
【0041】
上記のその他の共重合性モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、酢酸ビニル、スチレン、α−メチルスチレン、イタコン酸、フマル酸、マレイン酸のジアルキルエステル、(メタ)アクリル酸2ーヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸のエチレンオキサイド付加物、(メタ)アクリル酸のプロピレンオキサイド付加物、(メタ)アクリロニトリル、(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、(メタ)クリル酸グリシジル等が挙げられ、これらの中から選ばれた一種または二種以上のモノマーを0〜30質量%使用できる。これらの共重合性モノマーのうち、アミド基、水酸基あるいはエポキシ基などの官能基を有するビニルモノマーを用いる場合には、共重合体中のビニルモノマー単位の量は5質量%以下が好ましく、それ以上増えると粘着性が低下するおそれがある。
【0042】
上記のモノマー混合物は、少なくとも重合開始剤、乳化剤の存在下で通常の乳化重合法により共重合されるが、その際、必要に応じて連鎖移動剤、pH緩衝剤およびアルカリ等を添加してもよい。得られた共重合体は、この共重合体中のカルボキシル基の一部または全部がアルカリによって中和されるが、中和反応の時点は、重合反応前であっても重合反応後であってもよい。中和に使用するアルカリとしては、アンモニア、苛性アルカリ、アミン類を用いることができるが、アンモニアや揮発性の高いアミン類を使用すると、揮散によって粘着性や分散性が低下するので、苛性アルカリおよび低揮発性のアミン類から選ばれたアルカリを使用することが好ましい。
【0043】
上記において、特に好ましいアルカリとしては、沸点(760mmHg)が約220℃以上の第三級アミノアルコール類であり、例えば、トリエタノールアミン、トリプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン、N−メチルジエタノールアミン、N,N−ジブチルエタノールアミンなどのヒドロキシル基を1〜3個有する第三級アミンである。これらの第三級アミノアルコールから選ばれた一種または二種以上の化合物を、上記の共重合体の水分散液に、この共重合体中のカルボキシル基の50〜120モル%に相当する量で添加する。この量が50モル%以下では粘着性および水分散性が不足し、また、120モル%以上では、表面基材へのブリードが生じるおそれがある。また、第三級アミノアルコールの添加量は、60〜100モル%がより好ましい。共重合体の水分散液に、中和剤として上記のような沸点が約220℃以上の第三級アミノアルコールを使用すると、共重合体の可塑剤(水溶性)としての機能が発揮され、経時揮散による粘着性の劣化が少ない。
【0044】
さらに、水分散性の粘着剤の組成物には、塩基性リン酸塩を、上記の共重合体100重量部当たり1〜10重量部で使用する。塩基性リン酸塩は、上記のモノマー混合物の乳化重合の際に、その一部または全部を使用することもできる。この塩基性リン酸塩としては、トリポリリン酸ソーダ、ヘキサメタリン酸ソーダ、ピロリン酸カリ、ピロリン酸ソーダ、第二リン酸ソーダ、第三リン酸ソーダ、ピロリン酸ソーダ等が挙げられる。これらのリン酸塩を使用することにより、粘着剤層3は、湿熱環境下においても、粘着性と再分散性の経時変化を顕著に抑制できる。塩基性リン酸塩の含有量が1質量%以下では経時変化の改善効果が低く、また、10質量%以上の場合は粘着性が低下する。
【0045】
さらにまた、水分散性の粘着剤の組成物には、HLB9〜18の非イオン性界面活性剤を、上記共重合体100重量部当たり5〜40重量部で使用する。このような界面活性剤を使用することは、粘着剤皮膜の再分散化を容易にし、また分散粒子のサイズを微細にする効果がある。非イオン性界面活性剤としては、エチレンオキサイド鎖を有する常温で水溶性の界面活性剤を用いることができ、例えば、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル等のエーテル型、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル等のアルキルフェノール型、ポリオキシエチレンモノラウレート、ポリオキシエチレンモノオレート等のエステル型、および、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレート等のソルビタンエステルエーテル型の他、各種の非イオン性界面活性剤から選ばれた一種または二種以上を用いる。これらの非イオン界面活性剤は、乳化重合の際の乳化剤の一部または全部として使用することもできるし、また、上記の共重合体の水分散液に添加しても良い。非イオン性界面活性剤の使用量が5重量部以下では再分散性改良の効果が小さく、また、40重量部以上では粘着物性が低下し、さらに、表面基材にブリードを生じさせる場合がある。
【0046】
さらに、より好ましくは、水分散性の粘着剤の組成物に、脂肪酸石鹸を上記の共重合体100重量部当たり0.2〜3重量部で配合しても良い。このような脂肪酸石鹸の例としては、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸などのナトリウムまたはカリウム塩等を挙げることができる。
【0047】
また、水分散性の粘着剤の組成物には、その性能を高め、さらに性状を調整する目的で、公知の接着剤、粘着性付与剤、着色剤、増粘剤、消泡剤、レベリング剤等を適宜添加することができる。特に、エチレン−酢酸ビニル−アクリル系共重合体の水分散液を配合することにより、一層の粘着性、特に、ポリオレフィンなど被着体に対する接着力や凝集力などの物性を高める効果がある。上記のエチレン−酢酸ビニル−アクリル系共重合体としては、従来公知の市販品が使用できるが、例えば、特公平1−48953号公報に記載されているような、エチレン5〜30質量%、酢酸ビニル20〜90質量%およびアルキル基の炭素数が1〜12個である(メタ)アクリル酸アルキルエステル5〜50質量%を共重合させて得られる共重合体、あるいは、特開平2−212542号公報に記載されているような、エチレン5〜40質量%、酢酸ビニル5〜60質量%およびアルキル基の炭素数が4〜18個である(メタ)アクリル酸アルキルエステル15〜70質量%を共重合させて得られる共重合体等があり、それらのガラス転移温度は−30℃以下のものが好ましい。
【0048】
また、粘着剤に水分散性のものを用いる場合には、上記に加え、さらに、粘着剤の凝集力を向上させることを目的として架橋剤を含有させることができる。このような架橋剤としては、例えば、グリシジル化合物、アジリジン化合物、オキサゾリン化合物、ヒドラジン化合物または多価金属錯塩等を用いることができ、また、凝集力向上効果が得られる含有量として、粘着剤中に0.01〜10部の範囲で添加することが好ましい。
【0049】
上述のような水分散性の粘着剤組成物は、粘着性に優れているとともに、簡単に水に溶解でき、さらに、湿熱環境下において粘着物性と再分散性の経時変化が少ないという利点がある。
【0050】
なお、粘着剤層3に、上述のような水分散性の粘着剤を用いる場合にも、上述した水溶性の粘着剤における説明と同様の粘度や厚みとすることができる。また、表面基材2の裏面2B側に、水分散性の粘着剤からなる粘着剤層3を設ける方法としても、上記水溶性の粘着剤の場合と同様の方法を採用することができる。
【0051】
(表面基材と粘着剤層との水溶性あるいは水分散性の関係)
本発明においては、上述した表面基材2に水溶性ポリビニルアルコール(PVA)系樹脂を主成分とするフィルムを用い、さらに、粘着剤層3にも水溶性あるいは水分散性の粘着剤を用いる。この場合、例えば、表面基材2および粘着剤層3の両方を、水溶性あるいは水分散性で統一してもよいし、または、粘着剤層3が水分散性であっても良い。いずれの組み合わせであっても、本発明の刺繍用シート1を用いて使用者が刺繍を施した後、水あるいは温水に浸漬させた際に充分な溶解性が得られる。
【0052】
[剥離紙]
剥離紙(セパレータ)4は、本発明に係る刺繍用シート(粘着シート)1において、粘着剤層3を保護するとともに台紙として機能するセパレータである。このような剥離紙4は、後述するシート全体における不透明度の観点から、透明材料等で構成することが好ましい。
【0053】
剥離紙4に用いられる透明材料としては、従来公知のものが用いられる。例えば、ポリエステル系、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン系、ポリスチレン系、ポリカーボネート系、ポリアミド系、ポリイミド系、ポリビニルアルコール系、エチレンビニルアルコール系、ポリ塩化ビニル系、ポリ塩化ビニリデン系、アクリル系、アセテート系、ポリアクリロニトリル系、ポリエーテルスルホン系、ポリエーテルエーテルケトン系、ポリアリレート系、ポリフェニレンサルファイド系、ポリエーテルイミド系、ポリサルフォン系樹脂等からなるフィルムが挙げられる。中でも、透明性、コスト面と取扱い性の面から、ポリオレフィン系、ポリエステル系等からなるフィルムを用いることが好ましい。
【0054】
本実施形態において、剥離紙4は、その縦方向のガーレー剛度が0.1〜10(mN)であることが好ましい。ここで述べるガーレー剛度とは、『J.TAPPI 紙パルプ試験方法(No.40−83)「荷重曲げ法による紙及び板紙のこわさ試験方法(ガーレー法)」』に準拠した方法で測定されるものである。
剥離紙の縦方向のガーレー剛度が0.1(mN)未満だと、剥離紙としてのコシの強さが不足するため、粘着シートの取り扱いが難しくなるとともに、表面基材の収縮を剥離紙で抑えきることができず、表面基材側へのカール(反り、曲がり)が発生し易くなる。また、剥離紙の縦方向のガーレー剛度が10(mN)以下であれば、粘着シートとしての充分な取り扱い性、及び、カール抑制の効果が得られる一方、ガーレー剛度が10(mN)を超えると製造コスト等の点で不経済であることから、これを上限とすることが好ましい。
【0055】
剥離紙4の厚みは、上記ガーレー剛度を勘案しながら適宜設定することができるが、例えば、剥離紙4の材料としてPETフィルムを用い、ガーレー剛度を上記範囲に調節する場合には、おおよそ75μm程度とすることができる。すなわち、剥離紙4の厚みは、材料の特性や上記ガーレー剛度を勘案しながら決定することができる。
【0056】
一般に、刺繍用シート(粘着シート)は袋詰めされて販売されているが、表面基材が粘着剤層によってフィルム素材の台紙に貼着して製造されるので、表面基材と台紙との間で各々の延びの差異による反りが発生するため、製品梱包時の袋詰め作業時に刺繍用シートの端部が梱包袋に引っかかり、作業に支障をきたすという問題があった。
【0057】
本発明の刺繍用シート(粘着シート)1によれば、特に、剥離紙4のガーレー剛度を確保することで、生産過程で生じる反りを抑制できるので、製品梱包作業に支障をきたすこと無く、生産効率を向上させることが可能となる。
【0058】
[シート全体の不透明度]
本発明に係る刺繍用シート(粘着シート)1は、シート全体におけるJIS P 8149に準拠した不透明度が20%以下に規定される。
また、刺繍用シート1における表面基材2の表面に、格子パターン等を印刷した場合は、その印刷部以外の不透明度が20%以下であれば良い。すなわち、刺繍用シート1を図柄の上に重ね合わせた際に、表面基材2の表面側から図柄が明瞭に視認できる必要があり、これは、表面基材2の表面に、後述のエンボス等を設けた場合も同様である。
また、不透明度のより好ましい範囲は、0.1〜10%である。
【0059】
<刺繍用シートの使用方法>
本実施形態の刺繍用シート1を使用する場合には、まず、刺繍用シート1を所望の図柄が表示された印刷物等に重ね合わせ、表面基材2上に、印刷物等の図柄と同等の図柄52(
図3を参照)をトレースして書き込む。
【0060】
次に、
図1に示すように、刺繍用シート1を構成する表面基材2を剥離紙4から剥離して、裏面2B側の粘着剤層3を露出させる。
次いで、
図3に示すように、刺繍を施そうとする布材50の表面の所定箇所に、剥離紙4から剥離させた表面基材2及び粘着剤層3を貼着して固定する。その後、刺繍糸で、図柄52に沿った刺繍(図示略)を形成する。
【0061】
そして、刺繍が形成された後、布材50を水または温水に浸漬させることにより、表面基材2及び粘着剤層3を溶解させて刺繍のみを布材50上に残す。これにより、所望の図柄52に沿った刺繍を、容易に布材50上に作製することができる。
この際、上記の水または温水を用いた一般的な水洗方法以外に、例えば、超音波洗浄や、ウォータージェット法などを用いることも可能である。
【0062】
本実施形態の刺繍用シート1においては、上述の如く、刺繍後に、表面基材2及び粘着剤層3を水または温水に溶解させることができるので、刺繍を作製した後に、表面基材2を鋏等によって除去する手間が省け、刺繍作業が容易になる。
【0063】
なお、本実施形態では、表面基材2上に、例えば、格子状の表示パターンを設けても良い。また、例えば、等間隔で複数配置されたドット状の表示パターンを設けても良い。また、表示パターンを、不透明度や描画性を勘案しながら、エンボスで形成しても良い。
【0064】
<作用効果>
以上説明したように、本発明の刺繍用シート(粘着シート)1によれば、表面基材2および粘着剤層3の両方を水溶性あるいは水分散性を有する材料から構成し、さらに、シート全体の不透明度を適正範囲に規定することで、基布50に貼着する前の表面基材2への図柄の描画が容易となる。従って、使用性が顕著に向上し、美麗で図柄の自由度の高い刺繍を施すことが可能となる。
また、本発明の刺繍用シート(粘着シート)1によれば、剥離紙4のガーレー剛度を適正に規定することで、生産過程における反りを抑制でき、生産効率の向上が実現できる。
【実施例】
【0065】
以下に、本発明の更に詳しい説明を実施例によって行うが、本発明は、これら実施例に限定されるものでは無い。
【0066】
<粘着シートの作製>
[実施例1]
まず、市販のセパレータ;剥離紙(王子タック(株)製;透明PETセパレータ 38μm)の上に、水分散性アクリル系粘着剤(サイデン化学(株)製;商品名:AT−813)を塗工し、110℃の熱風乾燥機で90秒間乾燥させ、厚みが20μmの水溶性の粘着剤層を形成した。
さらに、上記水溶性の粘着剤層上に、水溶性PVAフィルム;表面基材(日本合成化学工業(株)製;ハイセロン(登録商標)/完溶温度2〜5℃、エンボス処理あり)を貼り合わせることにより、粘着シートを作製した。
【0067】
[実施例2]
セパレータとして、「王子特殊紙(株)製;透明OPPセパレータ 60μm」を用いた点以外は、実施例1と同様にして粘着シートを作製した。
【0068】
[実施例3]
表面基材として、水溶性PVAフィルム(日本合成化学工業(株)製;ハイセロン(登録商標)/完溶温度2〜5℃、エンボス処理なし)を用い、セパレータとして「王子特殊紙(株)製;透明OPPセパレータ 60μm」を用いた点以外は、全て実施例1と同様にして粘着シートを作製した。
【0069】
[実施例4]
粘着剤として、水溶性アクリル系粘着剤(ビックテクノス(株)製;商品名:AR2090)を用い、セパレータとして、「王子特殊紙(株)製;透明PETセパレータ 75μm」を用いた点以外は、全て実施例1と同様にして粘着シートを作製した。
【0070】
[比較例1]
セパレータ基材として、「王子特殊紙(株)製;グラシン紙30g/m
2」を用いた点以外は、実施例1と同様にして粘着シートを作製した。
【0071】
[比較例2]
セパレータ基材として、「王子タック(株)製;両ポリ上質紙110g/m
2」を用いた点以外は、実施例1と同様にして粘着シートを作製した。
【0072】
[比較例3]
表面基材として、水溶性PVAフィルム(日本合成化学工業(株)製;ハイセロン(登録商標)/完溶温度2〜5℃、エンボス処理なし)を用い、セパレータ基材として、「王子特殊紙(株)製;グラシン紙30g/m
2」を用いた点以外は、実施例1と同様にして粘着シートを作製した。
【0073】
[比較例4]
表面基材として、透明PETフィルム(東レ(株)製;商品名:ルミラーS10(登録商標)/50μm)を用いた点以外は、実施例1と同様にして粘着シートを作製した。
【0074】
<評価試験項目>
[水溶性または水分散性の評価試験]
上記実施例および比較例で作製した粘着シートから、50mm×50mm角のサンプルシートを切り取り、このサンプルシートを、刺繍布(商品名:コスモ綿刺繍布;オックスフォード#8000オフホワイト)に、2kgロールにて一往復することで圧着した。
上記条件による圧着の後、温度23℃、湿度50%の環境下にて7日間(168hr)放置し、試験片を得た。
【0075】
そして、500ccビーカーに水温23℃の水道水を500cc入れ、この水道水中に試験片を浸漬した。次いで、浸漬直後にスリーワンモーターで300rpmにて攪拌を開始し、20secの後、試験片が完全に溶解あるいは分散しているかどうかを確認し、結果を下記表1に示した。
【0076】
[不透明度]
上記実施例および比較例で作製した粘着シートについて、そのシート厚み方向全体における不透明度を、日本工業規格:JIS P 8149に準拠して測定し、結果を下記表1に示した。
【0077】
[描画性]
テスト画像(図柄)上に、上記実施例および比較例で作製した粘着シート(セパレータ付き)を重ね合わせ、水性ペンを用いて、フリーハンドで画像を書き写した。この際の書き易さ(描画の容易性)を、以下に示す5段階で評価し、結果を下記表1に示した。
(5点):細部まではっきり書き写すことができ、非常に良好。
(4点):実用上問題なく書き写すことができ、良好。
(3点):細部がぼやけ、正確に書き写すことが難しい。
(2点):輪郭がぼやけ、形状が分かり難い。
(1点):画像がほとんど見えない。
【0078】
[ガーレー剛度]
上記実施例および比較例で用いたセパレータについて、その縦方向のガーレー剛度(mN)を、『J.TAPPI 紙パルプ試験方法(No.40−83)「荷重曲げ法による紙及び板紙のこわさ試験方法(ガーレー法)」』に準拠した方法で測定し、結果を下記表1に示した。
【0079】
[カール状態の確認(取り扱い易さ)]
上記実施例および比較例で作製した粘着シートについて、この粘着シートを10cm角にカットし、23℃・50%RH環境下に10分間放置した後、粘着シートを平板状に載置して、カールした状態での形状を確認するとともに、四隅の平均値を測定し、取り扱い易さの評価指標とした。
【0080】
各実施例および比較例の作製(形成)条件、ならびに、評価結果の一覧を下記表1に示す。
【0081】
【表1】
【0082】
<評価結果>
表1に示すように、本発明の請求項1で規定した構成を有する実施例1〜4の粘着シート(刺繍用シート)は、上記条件で試験片が完全溶解するか分散するまでの時間が、全て20秒以下となっており、また、JIS P 8149に準拠する不透明度が、全て6.5%以下となっている。
また、実施例1〜4の粘着シートは、上記条件による描画性の評価が、全て4点以上となっている。
また、実施例1〜4の粘着シートは、そのガーレー剛度(縦方向)が、0.18から0.96(mN)であり、実用上、充分な剛度を有していることが確認できた。
また、実施例1〜4の粘着シートは、上記のガーレー剛度を有することにより、カールが20mm以内に抑えられており、実用上問題ないことが確認できた。
【0083】
これに対し、比較例1で作製した粘着シートは、水溶性の評価は「20秒以下/試験片の完全溶解時間」であり、問題が無かったものの、セパレータにグラシン紙を用いていることから、不透明度が30.4%と劣っているとともに、セパレータの剛度が0.09(mN)と、本発明で規定する範囲の下限を下回っている。比較例1では、セパレータの剛度が低いことから、粘着シートのカール状態が筒状となり、取扱いが困難なものとなった。また、比較例1では、セパレータの不透明度が上記数値であることから、描画性の評価試験において、表面基材側から見た元の画像の輪郭がぼやけており、形状が分かり難く、描画性の評価が2点であった。
【0084】
また、比較例2で作製した粘着シートは、比較例1と同様、水溶性の評価は「20秒以下/試験片の完全溶解時間」であり、問題が無かったものの、セパレータに上質紙を用いていることから、不透明度が89.5%と著しく劣っている。このため、描画性の評価試験において、表面基材側から元の画像がほとんど見えず、描画性の評価が1点であった。
【0085】
また、比較例3で作製した粘着シートは、水溶性の評価は「20秒以下/試験片の完全溶解時間」であり、問題が無かったものの、セパレータにグラシン紙を用いていることから、不透明度が25.6%と劣っているとともに、セパレータの剛度が0.09(mN)と、本発明で規定する範囲の下限を下回っている。比較例3では、セパレータの剛度が低いことから、粘着シートのカール状態が筒状となり、取扱いが困難なものとなった。また、比較例3では、セパレータの不透明度が上記数値であることから、描画性の評価試験において、表面基材側から見た元の画像の細部がぼやけ、正確に書き写すことが難しく、描画性の評価が3点であった。
【0086】
また、比較例4で作製した粘着シートは、表面基材として透明PETフィルムを用いていることから、不透明度は0.9%と良好であったが、表面基材が水溶性や水分散性のフィルムではないことから、刺繍後、水に浸漬させても溶解しなかった例である。
【0087】
上記結果により、本発明の粘着シート(刺繍用シート)は、表面基材への画像の描画が容易であり、使用性が顕著に向上し、美麗で図柄の自由度の高い刺繍を施すことが可能であることが明らかである。